フリーランス適正化法

2025年6月21日 (土)

フリーランス法初の勧告の衝撃(小学館・光文社)

小学館と光文社とが2025年6月17日にフリーランス法で勧告を受けました。

同法初の勧告です。

この勧告は、下請法の感覚からすると、かなり衝撃です。

まず、勧告が出てあらためて実感したのが、下請法と異なりフリーランス法では、発注書の交付義務違反(3条)で勧告が出る、ということです。

つまり、下請法で勧告が出るのは4条の禁止行為に違反したときだけで、3条書面交付義務違反は指導だけです。

そもそもフリーランス法と下請法でこのような違いが出る理由は、両法の体系的な位置づけの違いにあります。

下請法は、基本的に独禁法の特別法です。

なので勧告の効果は、勧告に従うかぎり独禁法の優越的地位の濫用で排除措置命令を受けることがない、というものです。

つまり、下請法8条(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)では、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条及び第二十条の六の規定は、公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、親事業者がその勧告に従つたときに限り、親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。

と規定されています。

これに対して下請法の3条書面交付義務は、独禁法とは直接関係がありません。

発注書を交付しないことが優越的地位の濫用にあたるというのは、さすがに無理です。

なので、3条書面の交付義務違反は、勧告の対象になっていないのです(勧告に従わず3条書面を出さないからという理由だけで独禁法の調査に移行するわけがないので)。

これに対してフリーランス法は、それ自体が独自の法律です。

フリーランス法の勧告は、それに従えば独禁法で命令を受けないという形で独禁法とつながっているわけではないのです。

なので、フリーランス法では、発注書の不交付が優越的地位の濫用に該当するかどうかなど気にする必要もなく、勧告の対象にすることができたのです。

勧告の効果も、勧告に正当な理由なく従わないと命令に移行するというだけで(フリーランス法9条)、独禁法とはつながっていません。

こういう、勧告→命令、という流れは他の多くの行政法規にもあり、きわめてオーソドックスなものです。

下請法が異端なのです。

というわけで、フリーランス法では発注書の交付義務違反だけで勧告が出ます。

フリーランス法8条1項にも、

「公正取引委員会は、業務委託事業者が第三条の規定〔特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等〕に違反したと認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに同条第一項の規定による明示又は同条第二項の規定による書面の交付をすべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」

と、はっきり書いてあります。

でも、発注書の交付義務なんて世の中にはいくらでもあるでしょうから、それだけで勧告が出てしかも公表までされるというのは、事業者にとっては脅威です。

下請法では指導(非公開)ですむのと比べると、天と地ほどの差があります。

なので、フリーランスに対する発注書の交付については、下請法の場合よりもはるかに徹底しないといけない、ということになります。

・・・というのが理屈のうえでのアドバイスですし、そんなに間違ってはいないと思うのですが、もう少し現実的になると、書面の交付義務違反だけでフリーランス法の勧告が出るのかというと、きっと出ないのではないか、という気もします。

書面の交付義務って、要は形式的な違反であって、それだけで勧告まで出すのはいかにも厳しすぎるからです。

下請法とのバランスを考えると、なおさらです。

実際、今回の小学館と光文社も、発注書交付義務違反という手続規定違反だけでなく、支払遅延(フリーランス法4条5項)という実体規定違反をしています。

・・・と、以上のように考えると、「まあ実体規定違反もしたのだから、勧告も仕方がないか。」という思いが一瞬頭をよぎります。

ですが、そのように考えるのは甘いと思います。

というのは、両社とも、発注書を交付していないために、フリーランス法4条2項の、

「2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。」

という規定に基づき、成果受領日が支払期日とみなされ、その結果当然のように支払遅延が認定されているからです。

つまり、発注書の不交付、即支払遅延、即勧告、というように一直線につながっています。

そもそも下請法では、支払遅延の勧告というのはほとんど例がありません。

令和元年以降をみると、令和2年2月14日のレリアンに対する勧告しかありません。

(「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」28頁以下に、「直近5年分」の勧告一覧があります。)

これにはわけがあって、下請法では勧告時点で支払い遅延の状態にないと勧告ができず、支払ってしまえば勧告ができないからです。

それは、下請法7条〔勧告〕1項で、

「公正取引委員会は,親事業者が第4条第1項・・・第2号〔支払遅延〕・・・に掲げる行為をしていると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の給付を受領し,その下請代金若しくはその下請代金及び第4条の2の規定による遅延利息を支払い,又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」

と規定されていて、支払遅延を「している」ときにしか勧告できない(支払ってしまったら勧告できない)と規定されているからです。

なので、レリアンが支払遅延で勧告を受けたのは、最後までレリアンが違反事実を争っていたという特殊な事情によります。

ふつうは、公取委が調査に入った時点で支払遅延を指摘されたら、さっさと払ってしまうのです。

ところが、フリーランス法8条(勧告)2項では、

「2 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第四条第五項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに報酬を支払うべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」

とされ、「違反した」と過去形になっているので、弁済して遅延が解消したとしても、勧告が出ることになります。

まとめると、フリーランス法では発注書を交付しないとほぼ自動的に支払遅延になり勧告が出る可能性がある(さすがに全件ではないでしょうけれど)、ということです。

したがって、勧告が出る潜在的リスクは、フリーランス法のほうが下請法よりもはるかに高く、あとは公取のさじかげん次第、というところです。

少なくとも、たかが発注書の不交付だと、甘く見てはいけません。

1号案件をどれにするかは当局もいろいろと考えるでしょうから、下請法のような代金減額の事案ではなく、あえてたんなる支払遅延で勧告を出したということは、「今後もやるぞ」というメッセージだと受け取っていいと思います。

それに、発注書不交付による自動的な支払遅延なら、掘ればいくらでも出てくるでしょうから、選ぶに困らない、という事情もあったかもしれません。

しかも、下請法なら、勧告は代金減額が大半で、その減額が1000万円というのが勧告が出る一つの目安なのですが、小学館と光文社のフリーランス法の勧告では、遅延額が認定されていません。

ということは、遅延額が1000万円以下なら(それでも、減額幅ではなく遅延額なら、極めて低いバーですが)勧告にはならない、というようなこともない、といえます。

(かたや、遅延額や遅延期間が大きかったからこの2社が選ばれたのかもしれませんし、出版業界で問題が多いからこの2社が選ばれたのかもしれず、そのあたりはよくわかりません。)

フリーランス法の公取委パートの多くは下請法のコピペですが、支払遅延を解消しても勧告を出せるとか、細かいバグ取りのような修正がいくつかなされています。

今回、それがモロに利いてきた形です。

それから、冷静に考えてみると、個人相手のフリーランスに協賛金の支払いを求めるとかは、下請法に比べればあんまりなさそうだし、買いたたきは(少なくとも代金減額よりははるかに)たくさんありそうでも摘発が難しいですから、結果的に、フリーランス法では支払遅延の勧告が大半、ということになるかもしれません。

あともう1つ、2つの勧告に共通な内容として、小学館のほうを例にとると、

「イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者191名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、

フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項及び第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、

問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること」

という、調査とその是正が命じられています。

これは、下請法にはなかったことで、注目されます。

2025年3月30日 (日)

戻入(れいにゅう)による報酬の事後調整に関するフリーランス法パブコメと下請法ティーガイア勧告との矛盾

フリーランス法のパブコメ2-3-34に、

「・一般的に、長期の継続的契約の締結を目的とする業務の委託を行う場合においては、〔携帯電話の獲得業務みたいなものですかね〕

受託者に対して、長期の契約継続が見込める顧客との契約の締結を促す観点から、

契約から一定の期間内に当該契約が解除された場合には、委託契約において、既払いの報酬を戻入れすることを定める場合がございます。

・この場合、契約当初からその契約の中で、報酬の戻入れが定められていることから、当該報酬の戻入れは「報酬の額を減ずること」(本法5 条1 項2 号)、すなわち、「一旦、決定された報酬の額を事後的に減ずること」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)P30(ア))には該当しないという理解でよろしいでしょうか。」

という質問と、2-3-35に、

「特定受託事業者が顧客に販売した商品・サービスの提供期間の途中で、当該商品・サービス(の提供に関する契約)が解約された場合に、商品・サービスの代金の一部を顧客に返還することがあります。

これに伴い、特定業務委託事業者から特定受託事業者に当初支払った報酬について、

その一部を戻し入れること、およびその戻し入れ金額の算定方法を委託契約書等であらかじめ定めている場合、

あらかじめ定められた報酬支払条件に則り、報酬額が調整されるものであり、

「一旦、決定された報酬の額を事後的に減ずること」とされている報酬の減額には該当せず、

特定業務委託事業者の禁止事項である「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」(本法第5 条1 項2 号)には該当しないと解釈することで宜しいでしょうか。」

という似たような質問があり、これらに対して、

「御指摘のような場合が本法上問題となるかについては、

取引の実態も踏まえて個別の事例ごとに判断されますが、

業務委託時に、特定受託事業者に対し、定められた報酬が戻入の対象であることが明確にされており、

その具体的な金額又は算定方法が明示されているときは、

戻入をした後の金額が、業務委託時に定めた報酬の額であると考えられるため、

特定受託事業者の責めに帰すべき事由の有無を問わず、戻入を行ったとしても、報酬の減額(本法第5条第1項第2号)に該当しないと考えられます。

ただし、戻入した後の金額が、「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い」といえる場合には、買いたたき(本法第5条第1項第4号)として本法上問題となるおそれがあります。」

と回答されています。

(立案担当者本107頁にも上記パブコメへの言及があります。)

他方で、下請法では、ティーガイアに対する2021(令和3)年6月23日勧告で、戻入金が違法な減額であるとされています。

この事件は、携帯電話の一次代理店であるティーガイアが、業務委託先である二次代理店に支払う報酬について、3か月ごとの評価で一定の水準に満たない場合に一定の算出方式で計算していた金額を事後的に減額していた、というものです。

でも、このフリーランスパブコメとティーガイアへの勧告って、矛盾するのではないでしょうか?

ティーガイア事件の担当官解説(公正取引851号86頁)では、

「当該戻入金は、発注時の条件表に明確に定められた本件業務の種類及び量当たりの単価に基づいて具体的に定められる手数料等の額を、その支払後、事後的に「減額」するものである。

これにより、例えば、平成30年9月に提供した本件業務の手数料等であれば、条件表に基づいて具体的に定められた額が同年10月末に支払われた後、その4か月後の平成31年2月末日に「減額」が行われ、いわば遡及適用された。

戻入金が差し引かれる可能性がある旨はティーガイアが下請事業者に対し発注時に交付した条件表に記載されていたものの、

当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者が運営する販売店の業務実績のみで決まるのではなく、

向こう3か月の間における他の二次代理店及び一次代理店が運営する販売店の業務実績も踏まえて電気通信事業者が判定する評価結果が一定未満であったか否かという基準によって事後的に決定されていた。

このため、発注時点において、当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者及びティーガイアの双方にとって予測不可能であった。

したがって、下請代金の額は戻入金を差し引く前の額であると認定された。」

「ティーガイアは、戻入金の条件については、あらかじめ自社と二次代理店との間で合意の上、定めたものであるとして、公正取引委員会による本件の公表に併せて同社のウェブサイトにおいて、

「代理店様との合意に従った手数料を期間中お支払することに加え、当該期間における代理店様の評価が一定の水準に満たないことが後刻判明した場合に、算式に従って戻入金の支払いをお受けすることをあらかじめ東海地区の代理店様との契約で合意していたことがあったものです。」

とプレスリリースしている。

しかし、仮にティーガイアと下請事業者との間に当該合意があったとしても、下請事業者の責めに帰すべき理由なく下請代金の額を減ずることは下請法に違反するものである。」

と解説されています。

下請法テキスト(令和6年11月版)p62にも、違法な減額の例として、

「㉕ 業務実績の評価結果を理由とした減額

親事業者L社は、電気通信事業者から受託する携帯電話の移動体通信サービス等に係る契約内容の説明、申込みの勧誘等の業務を下請事業者に委託しているところ、

下請事業者の業務実績に対する評価結果が一定の水準に満たなかった場合、

「戻入金」とする金額を下請代金の額から差し引くことにより、評価期間中の下請代金の額を減じていた。」

というのが挙げられています。

この例は、令和3年版から加わったものなので、ティーガイア事件を念頭に置いているものと思われます。

ティーガイア担当官解説は、

「これにより、例えば、平成30年9月に提供した本件業務の手数料等であれば、条件表に基づいて具体的に定められた額が同年10月末に支払われた後、その4か月後の平成31年2月末日に「減額」が行われ、いわば遡及適用された。」

といいますが、フリーランスパブコメのケースも、

契約から一定の期間内に当該契約が解除された場合には、委託契約において、既払いの報酬を戻入れすることを定める場合がございます。」

ということなので、遡及適用である点は同じでしょう。

次に、ティーガイア担当官解説は、

当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者が運営する販売店の業務実績のみで決まるのではなく、

ともいいますが、フリーランスパブコメの事例も、契約を途中解除するのは顧客のほうですから、戻入の有無はフリーランスの「業務実績」のみで決まるのではないといえ、この点も両者同じでしょう。

次に、ティーガイア担当官解説は、

「発注時点において、当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者及びティーガイアの双方にとって予測不可能であった。」

ともいいますが、顧客が途中解約するかどうかが「予測不可能」であることは、フリーランスパブコメの場合でも同じでしょう。

唯一違う点としては、ティーガイアでは、

「向こう3か月の間における他の二次代理店及び一次代理店が運営する販売店の業務実績も踏まえて電気通信事業者が判定する評価結果が一定未満であったか否かという基準によって事後的に決定されていた。」

というのがあり、ティーガイアでも二次代理店(下請事業者)でもない電気通信事業者(キャリア)の評価で戻入の有無が決まっていた、という点がありますが、担当官解説も、この事実は戻入が当事者双方にとって予測不可能であったこと(←この点はフリーランスパブコメも同じ)の理由として述べているだけであり、かかる電気通信事業者の判定が恣意的だとか、裁量があるとか、そいういったことを問題にしているのではなさそうです。

つまり、担当官解説に出ている理由付けをみるかぎり、ティーガイア勧告とフリーランスパブコメは、矛盾しているといわざるをえないと思います。

ちなみに、フリーランス法5条(遵守事項)は下請法のコピペですから、両法律で公取委が異なる解釈をとることは、お役所的発想からはまず考えられません。

では、もう少し冷静になって(冷静ですが。笑)、ティーガイア担当官解説を離れて、客観的に両者を区別する理由がないかを想像してみると、たとえば、

フリーランスパブコメの事例のほうは、個々の報酬債権ごとに減額の有無が短期解約の有無という客観的かつ一対一対応の理由で判定されるものであった、

のに対して、

ティーガイアのほうは、個々の債権の減額ではなくて、3か月まとめての報酬額の減額であり、しかも、減額理由が成績一般なので、減額理由と減額が一対一対応ではなかった、

ということがあるのかなぁ、と想像されます。

このように想像される理由の1つは、フリーランスパブコメ回答が、

「戻入をした後の金額が、業務委託時に定めた報酬の額である」

という解釈論を採用しているようにみえることです。

このようにいえるのは、3条書面(3条通知)に記載された個々の下請代金(業務委託料)が、戻入金の合意により書き換えられているからだ、と考えるのが素直なような気がします(われながらあまり説得力はないように思いますが、あくまで公取委の心中を忖度すると、ということです)。

あるいは、もっと根源的で野性的な(アニマルスピリット的で直感的な)価値判断として、

ティーガーアのように、成績全般を理由に、実際やった仕事の分まで減額されるのは、時代遅れのノルマ至上主義のようで、下請事業者がかわいそうだ、

というのに対して、

フリーランスパブコメのように、「受託者に対して、長期の契約継続が見込める顧客との契約の締結を促す」とい理由は納得できる、

というのがあるかもしれません。

長期契約を獲得するインセンティブを与えるのはOKだけど、成績を上げる(お尻をたたく)インセンティブを押し付けるのはだめだ(?)というところでしょうか。

私が弁護士1年目のとき、事務所のクライアントであった保険会社の担当者から、

「今、キャンペーンをやっているので、保険に入ってくれませんか。すぐに解約してもらってもいいので。」

という勧誘を受けたことがあります。

きっと担当者ごとにノルマのようなものがあって、ぺーぺーの弁護士である私にまで(ぺーぺーだからこそ?)勧誘してたのでしょうけれど、すぐに解約してもノルマにはカウントされる仕組みだったのでしょう。

「すぐ解約してもらってもいいから」という勧誘は、クレジットカードでも受けたことがあります(クライアントではありませんが)。

まだおぼこかった私は、世の中の裏側を見せられたようで、ある意味新鮮でしたが、もちろんこういう勧誘がされると、委託者としては困るわけです。

でも、仮にティーガイア事件における公取委の心中が上記の想像のとおりであったとしても、やはり、私はそのような理屈は筋が通らないと思います。

というわけで、やはりティーガイア事件は間違いであったと考えます。(フリーランスパブコメの考えが正しい。)

少なくとも、ティーガイアの事件が優越的地位の濫用になることは、絶対にないと思われます。

(もちろん、戻入の結果、買いたたきレベルになったら別ですが。)

さはさりながら、下請法で現にティーガイアのような事件があるわけですから、下請法で今後同じような戻入金に対する勧告事件があるかもしれないことは十分予想できますし、フリーランス法でも同様の事件がないとはかぎらないと思います。

フリーランス法では、詳細なパブコメやQ&Aが出ているので、これからも下請法に響いてくる見解が公取委からいろいろと出てくるのではないかと期待しています。

最後に、これはティーガイア事件担当官解説を書いた上瀧さんと、同解説を承認した上司の方の名誉のために言っておきたいのですが、この担当官解説はとても詳細で、公取委の考えていることがよくわかります。

だからこそ、私もこれだけ詳細に批判できるわけで、詳細な説明をしてもらえることの社会的意義というのは大きいと思います。

もしこれが、下請法テキストをなぞっただけの、とおりいっぺんの解説だったら、私も批判のしようがなかったでしょう。

実際、担当官解説とフリーランスパブコメを読み比べて、お尻を叩くノルマ至上主義は下請がかわいそうだけれど、短期解約をそそのかして手数料をかせぐ下請はけしからん、という価値判断は、わからないではありません。

でもそれは、2つの事案を比べて初めてわかることであり、私だってティーガイアの事件だけをみたら、こんなもんだろうと思ったかもしれません。

というわけで、法的な議論が発展していくためには、公取委の側からの積極的な情報発信が不可欠だと思います。

ティーガイア事件のような詳細な解説を書かれたことに、敬意を表したいと思います。

2025年3月29日 (土)

フリーランス厚労大臣指針の時点表記要件と元ネタ(職業安定法5条の4)との比較

先日、募集情報の時点の表記を要求するフリーランス法厚労大臣指針が問題であることについて書きました

その時にも、時点を書けとかいう奇妙な規制がいきなりフリーランス法で出てくるわけはなくって(役人の発想としてありえない)、きっとなにか元ネタがあるんだろうなぁと思ったら、ありました。

まず、政府の法令データベースで「正確かつ最新の内容」で検索すると、職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)の5条の4(令和四年十月一日 施行)に、

「(求人等に関する情報の的確な表示)

第五条の四 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、

この法律に基づく業務に関して新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法

(以下この条において「広告等」という。)

により求人若しくは労働者の募集に関する情報又は求職者若しくは労働者になろうとする者に関する情報その他厚生労働省令で定める情報

(第三項において「求人等に関する情報」という。)

を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。

②労働者の募集を行う者及び募集受託者は、

この法律に基づく業務に関して広告等により労働者の募集に関する情報その他厚生労働省令で定める情報を提供するときは、

正確かつ最新の内容に保たなければならない。

③公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、

この法律に基づく業務に関して広告等により求人等に関する情報を提供するときは、

厚生労働省令で定めるところにより正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならない。」

とありました。

(ちなみに、『フリーランス・事業者間取引適正化等法』(立案担当者解説本)141頁にも職業安定法5条の4への言及があります。)

この5条の4第3項での厚労省令への委任(「厚生労働省令で定めるところにより」)を受けて、職業安定法施行規則4条の3(令和6年4月1日 施行)では、

「(法第五条の四に関する事項)

第四条の三 法第五条の四第一項の厚生労働省令で定める方法は、書面の交付の方法、ファクシミリを利用してする送信の方法若しくは電子メール等の送信の方法又は著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第八号に規定する放送、同項第九号の二に規定する有線放送若しくは同項第九号の五イに規定する自動公衆送信装置その他電子計算機と電気通信回線を接続してする方法その他これらに類する方法とする。

2 法第五条の四第一項の厚生労働省令で定める情報は、次のとおりとする。

一 自ら又は求人者、労働者の募集を行う者若しくは労働者供給を受けようとする者に関する情報

二 法に基づく業務の実績に関する情報

3 法第五条の四第二項の厚生労働省令で定める情報は、次のとおりとする。

一 自ら又は労働者の募集を行う者に関する情報

二 法に基づく業務の実績に関する情報

4 法第五条の四第三項の規定により、求人等に関する情報を提供するに当たつては、に掲げる措置を講じなければならない。

一 当該情報の提供を依頼した者又は当該情報に自らに関する情報が含まれる者から、当該情報の提供の中止又は内容の訂正の求めがあつたときは、遅滞なく、当該情報の提供の中止又は内容の訂正をすること。

二 当該情報が正確でない、又は最新でないことを確認したときは、遅滞なく、当該情報の提供を依頼した者にその内容の訂正の有無を確認し、又は当該情報の提供を中止すること。

三 次のイからヘまでに掲げる区分に応じ、当該イからヘまでに定める措置

イ 公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者 

次に掲げるいずれかの措置

(1)求人者又は求職者に対し、定期的に求人又は求職者に関する情報が最新かどうかを確認すること。

(2)求人又は求職者に関する情報の時点を明らかにすること

ロ 法第四条第六項第一号に掲げる行為に該当する募集情報等提供の事業を行う者

次に掲げるいずれか措置

(1)労働者の募集に関する情報の提供を依頼した者に対し、当該労働者の募集が終了したとき又は当該労働者の募集の内容が変更されたときは、速やかにその旨を当該募集情報等提供事業を行う者に通知するよう依頼すること。

(2)労働者の募集に関する情報の時点を明らかにすること

ハ 法第四条第六項第二号に掲げる行為に該当する募集情報等提供の事業を行う者

次に掲げるいずれか措置

(1)労働者の募集に関する情報を定期的に収集し、及び更新し、並びに当該収集及び更新の頻度を明らかにすること。

(2)労働者の募集に関する情報を収集した時点を明らかにすること

ニ 法第四条第六項第三号に掲げる行為に該当する募集情報等提供の事業を行う者

次に掲げるいずれか措置

(1)労働者になろうとする者に関する情報の提供を依頼した者に対し、当該情報を正確かつ最新の内容に保つよう依頼すること。

(2)労働者になろうとする者に関する情報の時点を明らかにすること

ホ 法第四条第六項第四号に掲げる行為に該当する募集情報等提供の事業を行う者

次に掲げるいずれか措置

(1)労働者になろうとする者に関する情報を定期的に収集し、及び更新し、並びに当該収集及び更新の頻度を明らかにすること。

(2)労働者になろうとする者に関する情報を収集した時点を明らかにすること

ヘ 労働者供給事業者

次に掲げるいずれか措置

(1)労働者供給を受けようとする者又は供給される労働者に対し、定期的に労働者供給又は供給される労働者に関する情報が最新かどうかを確認すること。

(2)労働者供給又は供給される労働者に関する情報の時点を明らかにすること。」

と規定されています。

これをみると、情報の時点をあきらかにすべきとする職業安定法施行規則4条の3第4項中の各規定は、職業安定法5条の4第3項の規定によりもとめられている(「厚生労働省令で定めるところにより正確かつ最新の内容に保つための措置講じなければならない。」)措置と位置付けられていることがわかります。

これに対して、フリーランス厚労大臣指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」令和6年5月31日厚生労働省告示第二百十二号)は、その冒頭で、

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)第十五条の規定に基づき、

特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針を次のように定め、同法の施行の日(令和六年十一月一日)から適用する。」

とされていることからわかるように、フリーランス厚労省指針はフリーランス法15条を根拠にしています。

そして、フリーランス法15条は、

「(指針)

第十五条 厚生労働大臣は、

前三条

〔12条(募集情報の的確な表示)、

13条(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)、

14条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)〕

に定める事項に関し、

特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

と規定しています。

つまり、職安法施行規則4条の3の時点表示義務は、職安法5条の4の委任にもとづく法的義務であるのに対して、フリーランス法厚労大臣指針は、その出自からして、法的拘束力のない「指針」にすぎない、という違いがあります。

それからもう1つの違いとして、職安法の時点表示義務は、あくまで選択的な措置であるとされていることです。

たとえば職安法施行規則4条の3第4項3号イでは、

「三 次のイからヘまでに掲げる区分に応じ、当該イからヘまでに定める措置

イ 公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者 

次に掲げるいずれかの措置

(1)求人者又は求職者に対し、定期的に求人又は求職者に関する情報が最新かどうかを確認すること。

(2)求人又は求職者に関する情報の時点を明らかにすること。」

とされていて、時点表記は求人者または求職者への定期的確認と代替関係にあります。

最新の情報とするためには、(1)の、定期的に最新かどうかを確認するのがいいにきまってますから、(2)の時点表記はあくまで次善の策というべきでしょう。

時点表記を、「正確かつ最新の内容に保つための措置」(職安法5条の4第3項)といっていいのかは、考えてみればちょっと微妙です。

理屈のうえでは、時点を表記したって、「正確かつ最新の内容に保つ」ことにはならないのでは?という疑問がわくからです。

それでも、「正確かつ最新の内容に保つための措置」を厚労省令に委任することは法律に明記されているわけですから、委任の範囲を超えているというのもむずかしいように思います。

それに、時点表記をしておけば、あんまり古い情報を載せていると信用にかかわりますから、おのずとアップデートしようという誘因がはたらくので、「正確かつ最新の内容に保つ」のに役立つのだ、という理屈も成り立ちそうです。

さらに文言上は、「正確かつ最新の内容に保つための措置」であって、「正確かつ最新の内容に保つために必要な措置」というのでないことも、措置の内容をゆるやかに規定していいという根拠になりそうです。

これに対して、フリーランス法厚労大臣指針第2の4のほうは、

「4 募集情報に係る正確かつ最新の表示の義務特定業務委託事業者は、特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つに当たっては、次に掲げる措置を講ずる等適切に対応しなければならない。

・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。

・ 広告等により募集することを他の事業者に委託した場合には、当該事業者に対して当該情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼するとともに、他の事業者が当該情報の提供を終了し、又は当該情報の内容を変更したかどうか確認を行わなければならない。なお、情報の変更等を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が変更等をしなかった場合、特定業務委託事業者は法第12条違反となるものではない。

・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」

という書き方であり、時点表記が他の2つの措置と代替関係にある、というわけでもありません。

(厚労省の見解によれば、3つの措置はいずれも例示ですが。)

というわけで、時点表記に関するフリーランス法厚労大臣指針と元ネタの職安法施行規則4条の3を比べると、

・フリーランス法厚労大臣指針のほうは、法的拘束力のない指針であるのに対して、職安法施行規則4条の3の時点表記は法的義務である。

・ただし、職安法施行規則の時点表記義務は、定期的な確認と代替的な義務である。

というちがいがあることがわかりました。

ですが、職安法施行規則の文言だけをまねて、結果的に、全然違うものにしてしまう(代替的ではない)のは、いかがなものかという気がします。

2025年3月21日 (金)

フリーランス厚労大臣指針の法的拘束力

フリーランス厚労大臣指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第二百十二号))の法的拘束力の有無について整理しておきます。

結論からいうと、フリーランス厚労大臣指針には法的拘束力はないと考えられます。

(いうまでもないことですが、指針がカバーしている、フリーランス法12条~14条は、法的拘束力があります。法的拘束力があるのは法律であって指針ではない、ということです。)

フリーランス厚労大臣指針は、冒頭に、

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)第十五条の規定に基づき、

特定業務委託事業者が

募集情報の的確な表示、

育児介護等に対する配慮

及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題

に関して講ずべき措置等

に関して適切に対処するための指針を次のように定め、

同法の施行の日(令和六年十一月一日)から適用する。」

とあるとおり、フリーランス法15条を根拠にしています。

そして、フリーランス法15条は、

「(指針)

第十五条

厚生労働大臣は、前三条

〔注・12条(募集情報の的確な表示 ) 、

13条(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮 )、

14条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等 )〕

に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

と定めています。

つまり、フリーランス法15条で厚労大臣に指針の公表が義務付けられており(「ものとする」)、その義務を履行するために指針を公表したのだということが、指針の冒頭で述べられているわけです。

けっして、指針の法的拘束力(あるとすれば。ありませんが)の根拠がフリーランス法15条にある、ということではありません。

なお、指針の発出主体は厚労省ではなく、厚労大臣です。

フリーランス厚労大臣指針の形式は、「告示」です。

そこで、告示の法的拘束力が問題になりますが、国家行政組織法14条1項では、告示について、

「各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。」

と定めています。

告示の中には、

法源としての命令(行政機関が定立する法)に該当するもの(法規としての性質を持つもの)と、

そうでないもの

があります(宇賀『行政法概説Ⅰ』8頁)。

たとえば、固定資産税評価基準(昭和38年自治省告示第百五十八号。根拠は地方税法388条1項)は、法的拘束力がみとめられています(千葉地判昭和57年6月4日、東京地判平成2年12月20日、最判平成25年7月12日)。

根拠の地方税法388条1項では、

「(固定資産税に係る総務大臣の任務)

第三百八十八条 総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。この場合において、固定資産評価基準には、その細目に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めることができる。」

と規定されており、「固定資産税評価基準」が「固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続」であることがあきらかにされています。

いろいろと理由付けはありうるのでしょうけれど、「固定資産の評価の基準」である以上は、拘束力がないと意味がない(基準たりえない)、というのが法的拘束力がみとめられる根本的な理由なのでしょう。

次に、中学校学習指導要領(平成20年文部科学省告示第28号。根拠は学校教育法48条および学校教育法施行規則74条)も、法的拘束力がみとめられています(最大判昭和51年5月21日〔旭川学力テスト事件〕、福岡高判昭和58年12月24日〔伝習館高校事件〕とその上告審の最判平成2年1月18日)。

中学校学習指導要領の根拠規定である学校教育法48条では、

「第四十八条

中学校の教育課程に関する事項は、第四十五条及び第四十六条の規定並びに次条において読み替えて準用する第三十条第二項の規定に従い、文部科学大臣が定める。」

と規定されており、学校教育法施行規則74条では、

「第七十四条

中学校の教育課程については、この章に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する中学校学習指導要領によるものとする。」

と規定されており、中学校学習指導要領が、中学校の「教育課程の基準として」さだめられていることがわかります。

これも、「教育課程の基準」である以上は、拘束力がって当然だ、というのが根本的な理由なのでしょう。

われわれになじみのある「不公正な取引方法」(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)。いわゆる一般指定。法的根拠は独禁法2条9項6号および72条)は、もちろん法的拘束力があります。

これらに対して、「二酸化窒素に係る環境基準について」(昭和53.7.11環境省告示38号。根拠法は環境基本法16条1項)は、法的拘束力はないと解されています(東京高判昭和62年12月24日)。

この基準の根拠法である環境基本法16条1項では、

「第十六条 政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」

とされており、あくまで「望ましい基準」なので、法的拘束力はないのも当然といえます。

また、前掲宇賀『行政法概説Ⅰ』10頁では、

「町または字の区域の変更の告示(地方自治法260条2項)のように、法規でも行政行為でもなく事実を周知するためのものもある。」

とされています。

たしかに、根拠法である地方自治法260条2項をみると、

「第二百六十条 

市町村長は、政令で特別の定めをする場合を除くほか、市町村の区域内の町若しくは字の区域

新たに画し若しくはこれを廃止し

又は町若しくは字の区域若しくはその名称を変更しようとするときは、

当該市町村の議会の議決を経て定めなければならない。

② 前項の規定による処分をしたときは、市町村長は、これを告示しなければならない。」

と規定されており、町・字の区域の変更は、市町村議会決議を経て市町村長がおこなうものであり、市町村長の告示はあくまでそのような処分を周知するに過ぎないものだ、と理解できます。

そのほか、市町村の選挙管理委員会による投票所の告示は、その根拠規定である公職選挙法41条1項をみると、

「(投票所の告示)

第四十一条 市町村の選挙管理委員会は、選挙の期日から少くとも五日前に、投票所を告示しなければならない。」

と規定されており、もちろんこれは法規ではなく、事実を広く知らせるためのものであることがわかります。

そのほかの告示の例として、貨物自動車運送事業法7条(緊急調整地域の指定)では、

「(緊急調整措置)

第七条 国土交通大臣

特定の地域において

一般貨物自動車運送事業の供給輸送力

(以下この条において単に「供給輸送力」という。)

が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、

当該供給輸送力が更に増加することにより、

第三条の許可を受けた者

(以下「一般貨物自動車運送事業者」という。)

であって

その行う貨物の運送の全部又は大部分が当該特定の地域を発地又は着地とするものの相当部分について事業の継続が困難となると認めるときは、

当該特定の地域を、

期間を定めて

緊急調整地域として指定することができる。

2 国土交通大臣は、

特定の地域間において供給輸送力

(特別積合せ貨物運送に係るものに限る。)

が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、

当該供給輸送力が更に増加することにより、

専ら当該特定の地域間において特別積合せ貨物運送を行っている一般貨物自動車運送事業者の相当部分について

事業の継続が困難となり、

かつ、

当該特定の地域間における適正な特別積合せ貨物運送の実施が著しく困難となると認めるときは、

当該特定の地域間を、

期間を定めて

緊急調整区間として指定することができる。

3 前二項の規定による指定は、告示によって行う。」

と規定されていますが、これなんかも、告示は法規ではなく(法的拘束力があるのは1項と2項の「指定」のほう)、あくまで「指定」という行政処分があった事実を広く一般に知らせるものであるといえます。

このように「告示」といってもさまざまである点について、有斐閣の『法律学小辞典』では、「告示」の説明として、

「公の機関が、必要な事項を公示する行為又はその行為の形式。〔中略〕

行為の意味での告示は、

法規命令〔注・国民の権利義務に関する法規範を内容とする、行政機関が制定する法規範命令〕、

行政規則〔注・行政機関の定立する一般的定めのうち法規たる性質を有しないもの〕、

一般処分〔注・不特定多数の人を対象とする行政行為〕、

事実行為

など様々の性質のものを含んでおり、その法的性質は個別的に判定されねばならない」

とされています。

「個別的に判定」というだけではいかにも心もとないですが、要は、個々の告示(行為の意味での告示)の根拠規定を読めばそれが法的拘束力のあるものなのかどうかがだいたいわかる、といえます。

別の言い方をすれば、告示が法的拘束力を持つのは、根拠法が法的拘束力を持つ告示を発出する権限を告示の発出権者にあたえている場合であるといえます。

裏から言えば、告示に「~しなければならない。」とか、「~するものとする。」とか書いてあっても、それだけではその告示に法的拘束力があるのかどうかはわからない、ということです。

場合によっては、告示のタイトルに「指針」とあるから、拘束力のないたんなる指針なのだろう、とかいったことも考慮されるでしょう。

民法的な表現でいえば、発出者の意思表示の解釈の問題だといえます。

もちろん、告示発出権限がないのに発出すれば、権限踰越が問題になります。

少し実質的な言い方をすると、憲法41条では、

「第四十一条

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」

とされているので、国民の権利義務を制限するには国会の法律によらなければならないわけですから、法律の根拠なく国民を拘束できる告示を出すことができるはずがありません。

だいぶ前置きが長くなりましたが、ではフリーランス厚労大臣告示はどうなのかといえば、前述のとおり、その根拠規定であるフリーランス法15条は、

「(指針)

第十五条 厚生労働大臣は、前三条

〔注・12条(募集情報の的確な表示 ) 、

13条(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮 )、

14条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等 )〕

に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

と定めています。

これを読むと、フリーランス厚労大臣指針は、あくまでフリーランス法12~14条に「適切に対処するため」の「指針」だ、ということなので、法的拘束力はない、ということになるのだと思われます。

ちなみに、「適切に対処するために必要な指針」で政府法令データベースをキーワード検索すると、職業安定法48条の、

「(指針)

第四十八条 厚生労働大臣は、第三条、第五条の三から第五条の五まで、第三十三条の五、第四十二条、第四十三条の八及び第四十五条の二に定める事項に関し、職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

とか、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」10条の、

「(指針)

第十条 厚生労働大臣は、第五条から第七条まで及び前条第一項から第三項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」

とかがヒットしたりしますので、このあたりが元ネタでしょう。

われわれにもなじみの深い景表法上の管理措置指針(「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示第276号))については、その根拠規定である景表法22条で、

「(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置)

第二十二条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、景品類の提供又は表示により不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害することのないよう、景品類の価額の最高額、総額その他の景品類の提供に関する事項及び商品又は役務の品質、規格その他の内容に係る表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。

2 内閣総理大臣は、前項の規定に基づき事業者が講ずべき措置に関して、適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。

3 内閣総理大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、事業者の事業を所管する大臣及び公正取引委員会に協議するとともに、消費者委員会の意見を聴かなければならない。

4 内閣総理大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

5 前二項の規定は、指針の変更について準用する。」

と規定されています。

この「適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」という書きぶりからすると、管理措置指針もあくまで、それを守れば22条1項の措置の適切かつ有効な実施を図れるという指針に過ぎず、それ自体に法的拘束力はない、といえそうです。

余談ですが、この手の指針の例をさがすために再び政府法令データベースで、「『指針』」(かぎかっこつき)でキーワード検索すると、古いところでは大規模小売店舗立地法4条に、

「(指針)

第四条 経済産業大臣は、

関係行政機関の長に協議して、

大規模小売店舗の立地に関し、

その周辺の地域の生活環境の保持を通じた小売業の健全な発達を図る観点から、

大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針(以下「指針」という。)を定め、

これを公表するものとする。

2 指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。

一 大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき基本的な事項

二 大規模小売店舗の施設

(店舗及びこれに附属する施設で経済産業省令で定めるものをいう。次条第一項において同じ。)

の配置及び運営方法に関する事項であって、

次に掲げるもの

イ 駐車需要の充足その他による大規模小売店舗の周辺の地域の住民の利便及び商業その他の業務の利便の確保のために配慮すべき事項

ロ 騒音の発生その他による大規模小売店舗の周辺の地域の生活環境の悪化の防止のために配慮すべき事項

という規定があったりして、これを根拠に、「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針(平成19年2月1日経済産業省告示16号)」がさだめられています。

この大店法4条の指針は、「配慮すべき事項に関する指針」という表現からすると、それ自体に法的拘束力はなさそうにもみえますが、この指針が大店法でどのように扱われているかというと、同法9条1項で、

「(都道府県の勧告等)

第九条 都道府県は、前条第七項の規定による届出〔=大規模小売店舗新設の届出〕又は通知の内容が、同条第四項の規定により都道府県が述べた意見を適正に反映しておらず、当該届出又は通知に係る大規模小売店舗の周辺の地域の生活環境に著しい悪影響を及ぼす事態の発生を回避することが困難であると認めるときは、市町村の意見を聴き、及び指針を勘案しつつ、当該届出又は通知がなされた日から二月以内に限り、理由を付して、第五条第一項又は第六条第二項の規定による届出をした者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」

とされていることからもわかるように、都道府県が勧告をする際に「勘案」されるだけです。

たしかに、大店法9条4項では、

「4 都道府県から第一項の規定による勧告を受けた者は、当該勧告を踏まえ、都道府県に、必要な変更に係る届出を行うものとする。」

とされているので、勧告にしたがわないと一定の届出義務が生じますが、これはあくまで勧告の効果であって指針の効果ではないというべきでしょうし、9条7項では、

「7 都道府県は、第一項の規定による勧告をした場合において、当該勧告に係る届出をした者が、正当な理由がなく、当該勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。」

とされているので、勧告に違反すると公表という不利益を受けるのですが、これも、指針違反の効果ではなく勧告違反の効果というべきでしょう。

なお、大店法4条の「配慮」という言葉だけから指針の法的拘束力を否定するのは妥当ではないと思われます。

たとえば、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」8条では、

「(事業者における障害を理由とする差別の禁止)

第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」

と規定されていて、合理的配慮が義務として規定されています。

(ちなみに障害者差別解消法の合理的配慮というのは、障害者権利条約2条で定義されるreasonable accomodation (necessary and appropriate modification and adjustments not imposing a disproportionate or undue burden, where needed in a particular case, to ensure to persons with disabilities the enjoyment or exercise on an equal basis with others of all human rights and fundamental freedoms)の訳語なので、日本語の「配慮」のような、”察し気配り”のようなニュアンスはありません。)

要は、「配慮」という文言だけで義務か義務でないかを判断することはできない、ということです。

また話がそれてきたのでフリーランス厚労大臣指針に話を戻して話をまとめると、同指針は、

①根拠法であるフリーランス法があくまで「指針」であることを示していること、

②同指針のタイトルに「指針」とあること、

③形式が告示であること、

④内容も事業者への義務付けとみられるものがないこと、

などの理由から、法的拘束力がないたんなる指針であるとみてよいでしょう。

④の内容面については、たとえば、「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」(フリーランスパブコメ回答)3-1-23(133頁)では、

「募集情報を正確かつ最新の内容に保つために講ずべき措置として挙げているものは、あくまで例示

であるとされていることは、同指針があくまで指針であることを示しているといえそうです。

(ちなみに、指針第2の4(募集情報の的確な表示)の冒頭には、

「特定業務委託事業者は、特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つに当たっては、次に掲げる措置を講ずる適切に対応しなければならない。」

と記載されていて、この「等」という部分に例示であるという趣旨を読み込むことも可能だと思います。)

また同じパブコメの個所で続けて、

「指針において例示されている措置以外の方法で、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。」

とされているのは、フリーランス法12条2項の、

「2 特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」

という部分にあくまで法的拘束力があるのだ、ということを言い表しているものと理解できます。

というわけで、法的拘束力があるのはあくまで法律であって、指針ではない(指針の文言をぎりぎり詰めても意味がないこともある)、という点には留意が必要だと思います。

2025年3月18日 (火)

フリーランスへの再委託における支払期日の例外(4条3項)の対価関連性要件について

フリーランス法4条3項では、

「3 前二項の規定〔注・フリーランスへの報酬支払は給付受領日から60日以内とする規定〕にかかわらず、

他の事業者

(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)

から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、

当該業務委託に係る業務

(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)

の全部又は一部について

特定受託事業者に再委託をした場合

(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日

(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)

その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)

には、

当該再委託に係る報酬の支払期日は、

元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」

と規定しています。

この、「再委託をした場合」の意味について、フリーランスFAQ問49に、

「「再委託をした場合」に該当するかはどのように判断されるのでしょうか。」

という設問があり、

「答 特定業務委託事業者が元委託者から受託した元委託業務と、特定受託事業者に委託した業務との間に業務の関連性及び対価の関連性が認められる場合には「再委託をした場合」に該当します。

業務の関連性については、特定業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が元委託業務に含まれる場合に認められます。

対価の関連性については、特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合に認められます。

なお、特定業務委託事業者が同一の特定受託事業者に委託している業務が複数ある場合には、それぞれの業務について業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。

また、特定業務委託事業者が一つの元委託業務を切り分けて、複数の特定受託事業者に委託する場合は、それぞれの特定受託事業者に委託されている業務について、業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。」

と回答されています。

では、ここでいう、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのは、具体的にはどういう場合なのでしょうか。

まず、このFAQはあくまでFAQであって、法律でもなければガイドラインでもありません。

ですので、このFAQにより、フリーランス法4条3項にあらたに「対価の関連性」(対価関連性要件)という要件を付け加えられたものと解釈することができないことは、いうまでもありません。

つまり、基本はあくまで「元委託業務・・・の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合」にあたるかどうかです。

そして、「再委託」という言葉にフリーランス法上の定義はありませんので(だからFAQがあるわけですが)、「再委託」という用語の常識的な意味で解釈すればよい、というのが基本でしょう。

とはいえ、「再委託」と広辞苑で引いても出てきませんから、もう少し近いところで下請法をあたってみると、下請法2条9項(トンネル会社規制)では、

「9 資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者〔=実質親事業者〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=トンネル会社〕が、

その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合

(第七項第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ前項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第七項第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ前項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)

において、

再委託を受ける事業者〔=トンネル会社〕が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、

かつ、

製造委託等をする当該事業者〔=実質親事業者〕から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、

この法律の適用については、再委託をする事業者〔=トンネル会社〕は親事業者と、再委託を受ける事業者〔=下請事業者〕は下請事業者とみなす。」

と規定されています。

ここでは、業務の関連性(業務関連性要件)は当然必要だと解されますが、対価関連性要件については要求されていないようにみえます。

実際、対価関連性がトンネル会社規制で要求されないのは当然です。

というのは、トンネル会社規制では、トンネル会社が受注する注文と、トンネル会社が発注する(下請事業者が受注する)注文との間には、1対1の対応関係がなくてもいいからです。

これに対して、フリーランス法における再委託は、元委託業務と再委託業務が1対1の関係にあるか、少なくとも、特定の再委託業務をさかのぼって特定の1つの元委託業務にたどりつけることが必要です。

このことは、上記FAQの49番に、

「なお、特定業務委託事業者が同一の特定受託事業者に委託している業務が複数ある場合には、それぞれの業務について業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。

また、特定業務委託事業者が一つの元委託業務を切り分けて、複数の特定受託事業者に委託する場合は、それぞれの特定受託事業者に委託されている業務について、業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。」

とされていることからあきらかです。

このように、元委託業務と再委託業務との間の関連性を要求することは、フリーランス法4条3項の再委託の支払期日の例外が、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮する趣旨であることからも妥当な解釈といえます。

またフリーランス法4条3項の文言も、

「元委託者・・・から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る・・・元委託業務・・・の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合」

としていて、元委託業務が、フリーランスへの再委託者が元委託者から受託した、まさにその「当該業務委託に係る」ものであるという規定ぶりであることからも、すなおな解釈であるといえます。

これに対して下請法2条9項のトンネル会社規制は、

「〔実質親事業者〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、〔実質親事業者〕から製造委託等を受ける〔トンネル会社〕が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合」

という規定ぶりであり、この「相当部分」は、トンネル会社が実質親事業者から受託する業務全体について(たとえば過半数とか)判断されることになっているので、トンネル会社の個々の受託業務とトンネル会社から下請事業者への個々の委託業務との対応関係はあまり問題にする必要がありません。

というわけで、同じ「再委託」という文言を使う下請法のトンネル会社規制での解釈を手がかりにフリーランス法の「再委託」の意味を探る(対価関連性要件の意義ないし是非を問う)道はあきらめるほかなさそうです。

そのほか、政府の法令検索データベースで「再委託」で検索すると、たくさん例が出てきますが、対価関連性要件が必要になりそうな文脈で「再委託」という文言が使われているのは、ざっとみたかぎり、ありませんでした。

ちなみに建設業法24条の3第1項には、

「(下請代金の支払)
第二十四条の三 

元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けときは、

当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、

当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、

当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。」

という、フリーランス法4条3項と似たような規定があります(支払いを早める方向の規定なので、フリーランス法4条3項とは逆ですが)。

このように、他の法令にはなかなか手がかりがないので、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮するというフリーランス法4条3項の趣旨に立ち返って実質論一本で考えてみると、「再委託」に対価関連性要件を要求するのは、あながち不合理なことではないように思います。

というのは、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮する必要があるのは、特定業務委託者(発注者)が、特定業務受託者(フリーランス)への支払を、元委託事業者からの報酬の中から支払おうとしている場合であると考えられるからです。

ひらたくいえば、「受け取ったものから支払う」という関係です。

でもそうすると、FAQ49番の、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのを、あまり厳格に解釈するのは疑問です。

たとえば、特定業務委託者(発注者)が、元委託者から受注した業務をフリーランスに丸投げする場合に、フリーランスへの報酬を元委託者から受け取る報酬の8割と定めるような場合は、あきらかに「元委託業務に係る報酬に関連して定められている」に該当するといってよいでしょう。

(なお説明の便宜上、あるいは社会的実態にかんがみて、フリーランスへの発注額は特定業務委託者が決めると考えておきます。)

つまり、発注者が、受領報酬額の何%と明確に意識して、フリーランスに再委託する場合です。

ですが、発注者が、明確に受領報酬の何%と意識して再委託の報酬を算定していなくても、自分の手元にのこる利益を意識しながらフリーランスには世間相場で発注する、ということもありうると思います。

そして、このように結果的に世間相場で発注していても、発注者が、自分が持ち出しにならないように意識しながらフリーランスへの発注額を決めている場合もまた、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

に該当すると考えてよいように思います。

というのは、フリーランスへの発注者の資金繰りへの配慮という趣旨からすれば、受領報酬額を代入すれば自動的にフリーランスへの報酬が決まるような明確な算定式にもとづくものでなくても、赤字にならないように配慮しながらフリーランスへの発注額を決めているという場合であれば、発注者は保護されるべきと考えられるからです。

逆に、フリーランスへの発注者にフリーランスへの発注料金の「料金表」みたいなものがあって、その料金表にしたがって再委託されていて、個々の受託業務についてはフリーランスへの発注者は赤字になることもある、というような場合だと、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

には該当しないように思われます。

逆に言えば、それくらい対価関連性が薄い場合をのぞけば、対価関連性要件は原則として認められると解するのが妥当だと思います。

なお、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのを素直に読むと、まず、

「元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬」

というのが決まっていて、それに

関連して」、

あとから

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬」

が「定められている場合」、というのが思い浮かびますが、この順番は逆でもよくて、まずフリーランスへの発注者がフリーランスから見積もりをとって、その見積額に自分の利益を上乗せして元委託者に見積もりを出す、というのでも、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

に該当すると考えてよいと思います。

少なくとも、そのような場合もフリーランス法4条3項が想定している再委託の典型例の1つであることはあきらかでしょう。

しょせん、FAQはFAQなのです。

2025年2月21日 (金)

フリーランス法の域外適用?

先日、とある方から、公取委に、「海外のフリーランスに海外で仕事をしてもらう場合にもフリーランス法が適用されるのか。」と質問したところ、適用されると回答された、ということを聞きました。

私はこれは間違っていると思うので、今日はこの点について書いてみたいと思います。

まず、パブコメ(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)1-1-12(5頁)では、

「業務委託の相手方が海外に居住しており、委託する業務が主に海外で行われる場合、本法の適用はないと考えてよいか。」

という質問に対して、

「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」

と回答されています。

ぱっとみると、この回答は、わざわざ「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」といっているので、発注者は日本にいても、純粋に海外で(おそらく外国人の)フリーランスに仕事をしてもらう場合にはフリーランス法の適用がないといっているようにみえますが、これには注意が必要です。

問題になるのはまず、ここでいう「業務委託」とは何を意味するのか、です。

わざわざ法文と同じ文言を使って回答しているわけですから、これは、フリーランス法2条3項の「業務委託」の定義、つまり、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

を指していると読むのが自然ですが、そうするとおかしなことになります。

というのは、2条3項では、「業務委託」というのは、「・・・委託すること」なので、委託するという発注者の行為のほうを指していて、受託業務をおこなうフリーランスの行為ではない、というように読むしかないからです。

実際、あたりまえですが、フリーランス法では、「業務委託」という用語は、発注者の行為として使われています。

たとえば3条1項本文では、

「第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。」

とされていて、「業務委託」は業務委託授業者(発注者)の行為(発注行為)であって、フリーランスの行為でないことがあきらかです。

ですがそうすると、上記パブコメ回答の、

「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」

というのは、日本企業が発注者であるかぎりは必然的に発注行為の全部が国内でおこなわれていることになるわけで、そうすると、発注者が日本から発注するかぎり常にフリーランス法が適用される、ということになってしまいます。

しかし、それはどう考えてもおかしいと思います。

(半面、冒頭でふれた公取委の回答は、パブコメに沿っているとはいえます。)

フリーランス法も、少なくとも公取委パートについては競争法のはしくれです。

そして、競争法の世界では、競争制限効果がおよぶ国の競争法が適用されるという、効果理論が一般的です。

これは、フリーランス法(の公取パート)の一般法である優越的地位の濫用であれば、被害を受ける取引相手方の所在地をさす、というのが一般的な考え方だと思います。

発注行為が日本でおこなわれただけで競争法やそのはしくれであるフリーランス法(の公取委パート)が適用されるというのは、競争法の常識に反します。

もしこんな解釈がされると、

「海外のフリーランスに発注するときには、従業員が海外(※フリーランスのいる国にかぎらない)に出張したときとかのついでに、海外からメールや電話で発注するようにしてくださいね。」

という、わけのわからないアドバイスをしないといけないことになってしまいます。

また、フリーランス法の目的規定からしても、海外のフリーランスに海外での業務を依頼するときにはフリーランス法は適用されないと考えるべきです。

つまり、フリーランス法1条の目的規定では、

「この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

と規定されています。

このことからすると、フリーランス法はわが国のフリーランスを保護することが目的であることがあきらかです。

とすれば、同法がおよぶのはフリーランスが日本国内で商品役務の提供をおこなう場合であると解するのが当然です。

また、パブコメの別の個所(p203、3-5-1)にも引用されている政府国会答弁(第211 回国会参議院本会議第17 号2023 年4 月21日会議録15 番)では、「国務大臣(後藤茂之君)」の答弁として、

「越境取引への本法案の適用関係についてお尋ねがありました。

国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法案が適用されると考えています。

具体的には、日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合や、

海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合や、

業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合

には、本法案を適用されると考えています。」

と答弁されています。

このうち一般論の、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」というのは、公取委のパブコメ回答1-1-12と同じなのですが、その具体例としている、

①「日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合」

②「海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合」

③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」

というのは、およそ冒頭で述べた公取委の現在の考え方(発注行為が国内であればフリーランス法が適用される)とは異なるものです。

まず、この国会答弁で、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」の「業務委託」というのは、かならずしもフリーランス法(当時は法案)の2条3項の意味で使っていると読む必要はありません。

あくまで口頭での答弁なので、常識的な意味で、委託された業務の遂行もふくめ、「業務委託」という言葉を使っていても、何もおかしくはありません。

というわけで、重要なのは具体例のほうですが、今問題にしている海外フリーランスに海外で仕事をしてもらうケースについて参照すべきは、

③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」

でしょう。

つまり、フリーランスの「事業活動」が国内でおこなわれているかどうかを基準にする、ということです。

これによれば、国外でフリーランスの事業活動がおこなわれる場合には、フリーランス法は及ばないというのが政府答弁の立場だということはあきらかでしょう。

(もちろん、「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」というのは例示ですから、①~③以外にも適用される場合はありえますが、挙げられている具体例の正反対の場合に適用されるということはさすがにありえないでしょう。)

そうすると、公取委の立場は政府答弁にも違反することになります。

さらに問題は、パブコメ回答1-1-12では、

「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」

と回答されていて、公取委パート(2章)か厚労省パート(3章)かを区別していません。

いうまでもなくこのパブコメは公取委と厚労省の連名で出されています。

(ちなみに、一般論としては、同じ法律でも、異なる法条では域外適用の範囲が異なることは、当然ありえます。)

そうすると、海外のフリーランスに対しても妊娠や育児介護についての配慮が必要だ、という、わけのわからない解釈になってしまいかねません。

ちなみに、労働基準法(のうちの行政取締法規)については、厚生労働省労働基準局編『労働基準法(下)』1018頁で、

「行政法規として、日本国内にある事業にのみ適用がある(属地主義)ので、(国外にある)商社、銀行等の支店、出張所等であって事業としての実態を備えるものについては、本法の適用はない。」

としており、たとえば日本企業(またはその子会社)が海外で現地採用する従業員については労働基準法の適用はないと解されています。

フリーランスは労働者とちがって使用者に従属しているわけではありませんし(つながりが弱い)、また、より弱い立場にいて保護の必要性の高い労働者ですら海外には保護がおよばないのですから、まがりなりにも独立の事業者であるフリーランスについて海外で保護がおよばないのは当然というべきでしょう。

というわけで、公取委の解釈は間違いであり、海外のフリーランスに発注をして海外で業務をさせる場合には、フリーランス法は適用されないと考えます。

2025年2月20日 (木)

募集情報の時点の表示に関する厚労省フリーランス指針の記載について

フリーランス法12条2項では、

「特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」

と規定されており、これについて、厚労省フリーランス指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」)第2の4(p8)では、

「4 募集情報に係る正確かつ最新の表示の義務

特定業務委託事業者は、特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つに当たっては、次に掲げる措置を講ずる適切に対応しなければならない。

〔中略】

・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」

とされています。

この点について、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-23(133頁)では、

「募集情報を正確かつ最新の内容に保つために講ずべき措置として、「特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」とされているが、情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく、時点の表示を必須義務化することは不適切(不要)ではないか。

また、短時間のCM などのように、時点の表示をわざわざ挿入することが困難である場合も有りうるが、時点の表示をしていなければ正確かつ最新の内容に保つべき義務の違反となるのか。」

との意見に対して、

「募集情報を正確かつ最新の内容に保つために講ずべき措置として挙げているものは、あくまで例示であり、これらの方法によらない措置を講じていただくことも可能です。

例えば、御指摘の短時間のCM のように時点の表示が困難である場合には、時点の表示がなかったことをもって的確表示義務違反となるわけではありませんが、募集情報が更新された場合にはCM の内容を更新する等、指針において例示されている措置以外の方法で、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。」

と回答されています。

どうして「例示」といえるのかというと、上記指針引用部分で「等」とされているから、のようです。

私は、こういう、具体例をあげたうえで「等」を使う場合には、具体例の場合は少なくとも必須であって、でもそれ以外にもあるんだよ、というように読むのだ(論理的にはさておき、少なくとも実務的にはそのように読んでおくべき)と思っていましたが、厚労省はそうではない(具体例も全部、必須ではなく単なる例示だ)というのですね。

しかしながら、そう割り切ってしまうと、上記指針引用部分で省略した、

「・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。

・ 広告等により募集することを他の事業者に委託した場合には、当該事業者に対して当該情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼するとともに、他の事業者が当該情報の提供を終了し、又は当該情報の内容を変更したかどうか確認を行わなければならない。なお、情報の変更等を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が変更等をしなかった場合、特定業務委託事業者は法第12条違反となるものではない。」

というのも全部たんなる例示ということになってしまい、問題ではないでしょうか?

とくに、

「・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。」

というのをやらないと、さすがに、12条2項の「正確かつ最新の内容に保たなければならない」という義務にもろに違反していると思います。

理屈の上ではやはり、パブコメの意見のほうで、

「情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく、時点の表示を必須義務化することは不適切(不要)ではないか。」

というのがまさに正しい、というべきでしょう。

もっと踏み込んでいうならば、「情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく」というのは生ぬるくて、

「情報の時点〔の表記の有無〕と、最新であるかどうかは無関係である。」

というのが正確でしょう。

12条2項で義務付けられているのは、あくまで、「正確かつ最新の内容に保たなければならない」という義務だけであって、これをどう読んでも、情報の時点を表示しなければならないというようには読めません。

文言的には、「最新の」というのが時点を想起させますが、「最新の内容」であれば、時点の表記は関係がありません。

そもそも厚労省フリーランス指針の根拠はフリーランス法15条にあり、同条では、

「(指針)

第十五条 厚生労働大臣は、前三条に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

と規定されています。

ですので、厚労省フリーランス指針は12条「に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要」な内容でなければならないわけです。

ですから、12条に定める事項に「適切に対処するために必要」とはいえない(「適切に対処するため」とは無関係な)情報の時点の明示は、15条の委任の範囲を超えて無効であるというべきでしょう。

それを「例示」といってみても、何の反論にもなっていません。

12条に定める事項に「適切に対処するために必要」とはいえない事項を例示する権限は、15条では厚生労働大臣に与えられていないからです。

さらに細かいことをいうならば、厚労省フリーランス指針の、

「・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」

の「当該情報の時点」というのが、何を意味するのか、いまひとつあきらかではありません。

まず、常識的に(ぼやーっと)考えると、これは、たとえばインターネットに募集広告を出すのであれば、広告開始日を書け、ということのように見えます。

そすると、募集日から1か月過ぎたら、「当該情報の時点」として表記される「時点」は、すでに1か月前の日付になっていることになりますが、それでもいい、ということだ、と読むほかないように思われます。

でも、1か月も前の日付を表記することと、「最新の内容」であることの間には、何も関係がないように思います。

そこで、別の読み方として、「当該情報の時点」というのを、文字どおり、当該情報がいつの時点の事実を記述する情報なのか、という「時点」である、という読み方が考えられます。

つまり、広告を2月12日に開始したとして、そこに含まれる情報が1月31日時点の事実について述べたものである場合には、「当該情報の時点」は、1月31日ということになります。

しかしながら、そのような「時点」を記載しても、応募者にとっては何の役にも立たず、無意味でしょう。

まとめると、

①募集情報が正確かつ最新の内容に保たれていれば、情報の時点の表示をしなくても適法、

②募集情報が正確かつ最新の内容に保たれていないのであれば、情報の時点の表示をしていても、違法、

③情報の時点の表示が、「募集情報を正確かつ最新の内容に保つため」に役立つこともない(同じ内容の情報が、情報の時点を記載していれば「正確かつ最新の内容」になるが、規定していないと「正確かつ最新の内容」にならない、ということはありえない)、

④よって、情報の時点の表示は無意味で不要(フリーランス法15条の委任の範囲外)、

⑤パブコメ回答も、例示にすぎないという形ではあるが、時点の表示はしなくていいとみとめている、

ということになろうかと思われます。

パブコメで指摘を受けてすなおに誤りを認めればよかったものを、意地を張って原案を維持したのはいかがなものかと思います。

それでもあえて厚労省の立場を弁護すると、情報の時点の表示をさせることで、古い情報であることが一目瞭然となって違反を摘発しやすくなる、ということはあるかもしれません。

あるいは、一目見て古い情報だとわかるので、応募者がだまされなくなる(応募しなくなるか、仮に応募するにしても古い情報であるので条件が変わっているかもしれないと覚悟したうえで応募できる)、ということも、実際問題としてあるのかもしれません。

それで、応募者に無駄な手間をわずらわせることが減らせるのかもしれません。

あるいは、日付が書いてあって古い情報であることが一目でわかると当局が摘発しやすい(?)ということもあるかもしれません。

ですので、情報の時点を記載させること自体は悪いことではないと思うのですが、やはりフリーランス法12条2項には、その根拠はないといわざるをえないと思います。

2025年2月12日 (水)

合意による契約条件変更は虚偽の表示にあたらないとする厚労省フリーランス法指針の疑問

フリーランス法12条1項では、

「(募集情報の的確な表示)

第十二条 特定業務委託事業者は、

新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法

(次項において「広告等」という。)

により、

その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

を提供するときは、

当該情報について

虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。」

と規定されています。

これについて、厚労省フリーランス法指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」)第2の2⑵では、

「⑵ 当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない。」

と規定されています。

しかし、私はこの指針における厚労省の考え方は、おかしいと思います。

これではまるで、事後的に当事者間で合意があったのであれば、さかのぼって虚偽の表示ではなかったことになるといっているようなものです。

表示規制の基本的な考え方からすれば、虚偽の表示に該当するかどうかは表示行為の時点で確定していなければならないはずです。

指針の原文をできるだけ生かしても、せいぜいいえるのは、

「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなったとしても、それだけで常に虚偽の表示に該当することになるわけではない。」

くらいまででしょう。

そもそも、虚偽の表示(不当表示)というのは、事実と表示の不一致です。

この事実と表示の不一致は、表示行為の時点で一義的に定まっているはずです。

(この「表示行為の時点」というのは、表示行為が新聞チラシの配布のような1回きりの行為ならその配布の時点ですし、ウェブサイトへの掲載のような継続的な行為ならその行為の間中です。)

表示行為のあとで起こったことは、この事実と表示の不一致の有無を判断する間接事実に過ぎません。

たとえば、消費者庁の将来価格ガイドラインでは、

「事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、このような消費者の認識と 齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされており、表示の時点で「将来の販売価格で販売する確実な予定」を有していることが、「事実」であると整理されているといえます。

そこで、12条で問題にしている、「業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報」についての「事実」と「表示」が何なのかを考えると、まず、「表示」は、かかる情報の表示であって、一義的にあきらかです。

では、「事実」とは何なのかというと、募集者が募集条件について当該情報記載の内容で募集をすること、ないし募集をする意思があること、でしょう。

将来価格ガイドラインの表現にならえば、「募集者が募集条件について当該情報記載の内容で募集をする確実な予定があること」でしょうか。

いずれにせよ、フリーランスの募集の場合には、広告された条件で採用する意図が募集者にないといけません。

もしそのような募集意図がないのであれば、仮に両者で「合意」があったとしても、虚偽の表示であることはまぬがれないというべきでしょう。

表示規制をあつかう消費者庁や、消費者庁に職員を出向させて消費者庁の実務を間接的に取り仕切る公取委なら、厚労省ガイドラインのような解釈はありえないでしょう。

いかにも表示規制に疎い厚労省が作ったガイドラインという感じで、理論的裏付けがなく場当たり的であり、平成1ケタくらいまでの公取を彷彿とさせます(笑)。

この点、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-8(130頁)では、指針の考え方がやや後退させられていて、

「指針第2 の2⑵は、「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない」と記載する。契約自由の原則からすれば、この規制を正面から否定することはできない。

しかし、当職らのフリーランス・トラブル110 番におけるフリーランスの無料相談の実務経験からすると、募集情報と実際の契約内容が異
なるものであったというケースが散見されるところ、その場合、相談者から「他の特定受託事業者も同じ状況にある」と報告を受けること
がほとんどであり、このような契約が常態化している特定業務委託事業者が存すると考えられる。そうすると、当事者の合意のみを根拠に
「虚偽の表示」から除外することは、不的確な募集情報を防止することにつながらない可能性があると考えられる。

そこで、指針第2 の2⑵に、「ただし、当該特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化していると
認められる場合には、この限りではない。」といった記載を追加すべきである。」

とのコメントに対して、

「「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない」とは、

両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合までも本法第12 条違反とするものではないという趣旨です。

御指摘の

「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」

場合は、募集情報が的確に表示されていない可能性が高いと考えられます。」

と回答されていますが、これでも不十分だと思います。

まず、一般規範部分の「通常の契約交渉過程」というのが、何を指すのかよくわかりません。

きっと、とくに大きな意味はないのでしょう。

なので、「両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合までも本法第12 条違反とするものではないという趣旨」だといってみても、中身は空虚です。

それでも、具体例の1つとして、

「「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」場合は、募集情報が的確に表示されていない可能性が高い

といっているところから逆算して厚労省の言わんとするところを忖度すると、たとえば、募集者が望むようなスキルを応募者が持っていないけれど、若干安めの代金なら発注してもいいかな、ということで「契約交渉」をするのであれば、「通常の契約交渉過程」だといっていい、と考えられているのではないかと想像します。

(しかしそれでも、そもそも発注価格を募集情報に記載しなければならないわけではなく、「応談」などの表示も許されるわけですから、価格を表示していながらそれより安くするのは問題があるかもしれません。厚労省フリーランス指針でも「報酬額を表示しながら実際にはその金額よりも低額の報酬を予定している場合」(6頁)というのが、虚偽の表示の例とされています。)

あるいは、発注の募集をかけて、複数の応募があり、その双方を競わせるような交渉をした結果、募集情報と異なる条件になった、というのも、「通常の交渉」にあたるのかもしれません。

たしかに、労働者の募集と違ってフリーランスには個別性が大きい(ものもある)ように思われ、それにもかかわらず募集情報からの変更を一切認めないとすると、たしかに募集者に酷であるようにも思われます。

ですが、募集情報と異なる条件で発注する合理的な理由もないのに条件を変えて変更するのは、はじめから募集情報の条件で発注する意図はなかったのだといわざるをえず、たとえ応募者の「合意」があったとしても、「虚偽の表示」にあたるというべきでしょう。

その意味で、「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」場合というのは、募集情報で発注する意図が募集者になかったことを裏付ける強力な間接事実だと整理すべきでしょう。

しかしそうすると、どうしても、「両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合」という一般規範の部分には、何の意味もないといわざるをえないように思われます。

というわけで、募集者の方は、厚労省指針を読んで、「『合意』さえあれば募集情報と異なる条件で発注してもいいんだ」などと誤解しないようにしてください。

2025年2月 7日 (金)

フリーランス法Q&A89番の的確表示義務違反(12条)についての改訂の疑問

令和6年12月18日時点での「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」の89番では、「(12月18日改訂)」としたうえで、

「問89 特定受託事業者を募集するに当たって、募集情報の中で特定の事項を明示しなければ、本法第12条の的確表示義務違反となるのでしょうか。」

との質問に対して、

「答 本法第12条の的確表示義務は、広告等により特定受託事業者の募集を行うに当たって、的確表示の対象となる募集情報の事項を提供する場合に虚偽の表示や誤解を生じさせる表示の禁止等を求めるものです。

今般、インターネット等で犯罪実行者の募集(いわゆる「闇バイト」の募集)が行われる事案が見られ、

その中には、通常の募集情報と誤解を生じさせるような広告等も見受けられる状況が発生しています。

これを踏まえ、募集情報の中でも、①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。〔以下省略〕」

と回答されています。

しかし、私には、12条の条文からどうしてこういう解釈が出てくるのか、何回読んでもわかりません。

まず、フリーランス適正化法12条1項では、

「第十二条 特定業務委託事業者は、

新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法

(次項において「広告等」という。)

により、

その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

提供するときは

当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。」

と規定されており、「政令で定める事項」については特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令2条で、

「第二条 法第十二条第一項の政令で定める事項は、次のとおりとする。

一 業務の内容

二 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項

三 報酬に関する事項

四 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項

五 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」

と規定されています。

ということは、上記政令指定事項に係る情報を提供するときは、虚偽や誤解を招く表示をしてはいけないというだけであり、そもそも政令指定事項に係る情報を提供しないときは、12条に違反するはずがありません。

実際、2024年12月18日改訂前の89番では、

「答 本法第12条の的確表示義務は、広告等により特定受託事業者の募集を行うに当たって、的確表示の対象となる募集情報の事項(※)を提供する場合に虚偽の表示の禁止等を求めるものであり、これらの事項を明示することを求めるものではありません

そのため、対象となる募集情報の事項を明示しないことによって本法違反となるものではありませんが、取引上のトラブル防止の観点から、これらの事項を可能な限り含めて提供することが望まれます。」

と回答されており、これを変更したわけです。

さらに加えるならば、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-11でも、

「本法第12 条は、広告等により広く特定受託事業者の募集に関する情報を提供する場合に、虚偽の表示を禁止する等の的確表示を求めるものであり、対象となる募集情報のうち特定の事項を表示「しない」ことが、的確表示義務違反となるものではありません。」

と明記されています。

改訂後のQ&A89番回答の理由は上記で引用したとおり、

「今般、インターネット等で犯罪実行者の募集(いわゆる「闇バイト」の募集)が行われる事案が見られ、

その中には、通常の募集情報と誤解を生じさせるような広告等も見受けられる状況が発生しています。

これを踏まえ、募集情報の中でも、①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。〔以下省略〕」

というのも、理屈が理解できません。

「「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。」

の「誤解を生じさせる表示」というのは、12条の「誤解を生じさせる表示」のことですが、仮に、

「①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くもの」

が、12条の「誤解を生じさせる表示」にあたるとしても、12条では違反になる前提として、

「その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

提供するとき

であることが前提であることは、動かしようがありません。

また、

「①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当する」

といっても、何について誤解を生じさせるのかが大事で、12条では明確に、「当該情報について」誤解を生じさせるものが対象だ、といっています。

そして、ここでの「当該情報」というのは、

「業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)」

であることもあきらかです。

つまり、何について「誤解を生じさせる表示」がいけないのかというと、政令指定事項、つまり、

「一 業務の内容

二 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項

三 報酬に関する事項

四 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項

五 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」

について誤解を生じさせる表示はいけない、ということです。

ところが、改訂後の89番回答では、

通常の募集情報と誤解を生じさせる」

ことを問題にしているようです。

このように、「何について」の部分が、完全にくいちがっています。

闇バイトの広告は、政令指定事項のうちでは、

「業務の内容」(虚偽の表示の例、「物を運ぶバイトです」)

「業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項」(虚偽の表示の例、東京での仕事だと思ったら群馬にいかされた)

「報酬に関する事項」(虚偽の表示の例、「高額バイト」との広告だったのに報酬を払ってもらえなかった)

「特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」(闇バイトの首謀者は、通常、素性を偽っていそう。)

について虚偽の表示をしている可能性が濃厚ですので、それらの虚偽の表示を根拠に12条違反に問うのが筋でしょう。

(闇バイトの首謀者がフリーランス法を気にするかはさておき。)

それでもやっぱり、「業務の内容」を何も表示しなければそれだけで12条違反になるという解釈は、12条の文言からは出てこないと思います。

このように、問題とすべきは(条文どおり)政令指定事項について虚偽または誤解を招く表示があったかどうかであって、「通常の募集情報と誤解を生じさせる」かどうかではありません。

そして、条文どおり、「業務の内容」を誤解させるものであったとしても(つまり、たとえば「物を運ぶ仕事です」という表示があったとしても)、かかる「誤解」を避けるためにすべきことは、業務の内容をきちんと(?)、「仕事の内容は闇バイトの受け子です」書くべきということでしょう。

フリーランス法12条で闇バイトが減るとは思いませんが、もし12条で闇バイトを取り締まりたいなら、12条1項各号について虚偽又は誤解を招く表示があったことを根拠にするので十分だと思います。

闇バイトとは何の関係もない発注者に、法律の根拠もなく、よけいな負担を負わせるべきではありません。

さらにいえば、「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(厚労省的確表示等指針)第2の5では、積極的に表示をしなければならないのかという点については、

「5 特定業務委託事業者が、広告等により、募集情報を提供するときに望ましい措置

特定業務委託事業者が広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当事者間の募集情報に関する認識の齟齬ごを可能な限りなくすことで、当該募集情報に適する特定受託事業者が応募しやすくなり、業務委託後の取引上のトラブルを未然に防ぐことができることから、1⑷の「的確表示の対象となる募集情報」に掲げている事項を可能な限り含めて提供することが望ましいこと。あわせて、募集に応じた者に対しても1⑷に掲げている事項を明示するとともに、当該事項を変更する場合には変更内容を明示することが望ましいこと。」

というように、あくまで情報提供が「望ましい」というにとどまるという整理です。

同指針は正式な告示なのに、その内容をホームページのQ&Aで書き換えてしまうなんて、いったいどういう了見なのでしょうか?

この89番は厚労省パートですが、厚労省ではこんな条文無視の解釈がまかりとおっているのですね。

実に恐ろしいことです。

わたしがふだんお仕事でかかわることが多い公取委や消費者庁が、かわいく見えてきます(笑)。

このように、89番回答の(厚労省の)解釈は間違いなので、無視してかまわないと私は思いますが、どうしても厚労省の言うことを聞きたい、厚労省には逆らいたくない、という人は、フリーランスを広告で募集するときには、必ず、

①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、

②特定受託事業者の募集を行う者の住所(所在地)、

③特定受託事業者の募集を行う者の連絡先、

④委託する業務の内容、

⑤委託業務に従事する場所、

⑥業務の報酬

を書くようにすればよろしいかと思います。

なお、上記では筆が滑って、というか、わかりやすさ重視で

「フリーランスを広告で募集するときには」

と書きましたが、

(実際、Q&Aの88番でも「問88 フリーランスの募集を行うに当たって、労働者の募集であるかのような誤解を生じさせる表示をした場合は、本法第12条の的確表示義務の違反となりますか。」というように、12条はフリーランスを募集する場合にだけ適用があるかのように誤解を与えかねない記載もあるのですが)、

厳密には、12条の的確表示義務はフリーランスを狙い撃ちして募集する場合だけではなくて、フリーランスが応募してくることが想定される場合には広く適用されるので、注意してください。

つまり、厚労省的確表示等指針第2の1⑵では、

「⑵ 「業務委託に係る特定受託事業者の募集」とは、特定受託事業者に業務委託をしようとする者が自ら又は他の事業者に委託して、特定受託事業者になろうとする者に対して広告等により広く勧誘することをいうものである。

結果として募集に応じて業務委託をした相手方が特定受託事業者であったか否かにかかわらず、募集情報の提供時点において特定受託事業者に業務委託をすることが想定される募集をいう。」

とされているのです。

なので、およそフリーランスが応募しそうにない募集なら12条の適用はありませんが、ひょっとしたらフリーランスも応募してくるかも、というときには、べつにこちらはフリーラスを積極的に望んでいなくても、12条が適用される、ということです。

ご注意ください。

それを避けたければ、「フリーランス適正化法のフリーランスに該当する個人または法人は応募できません。」とか、注意書きをしておくべきでしょう。

2024年7月 3日 (水)

フリーランス適正化法の適用範囲の広さについて

今年11月に施行されるフリーランス適正化法は、個人事業者とのほぼすべての取引に適用され、その適用範囲が同法が下敷きにしている下請法よりもずっと広いので、注意が必要です。

すなわち、同法で保護の対象となっている「特定業務受託者」(2条1項)は、

「この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの

二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる
者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの」

ということで、要するに、従業員のいない個人事業主と、従業員のいない法人事業者です。

そして、保護される取引である「業務委託」(2条3項)は、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

と定義されていて、こちらもたいへん広いです。

2条3項2号(役務提供委託)の定義で、あえて、

「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」

とあえて明記しているのは、下請法で役務提供委託に自己使用役務は(たとえ「業として」行うものであっても)含まないのとは違うのだよ、ということを明確にするためです。

すなわち、下請法で役務提供委託は、

「事業者〔=親事業者〕が

業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること・・・」(下請法2条4項)

と定義されており、対象が「業として行う提供の目的たる役務」の委託、つまり役務の再委託に限られており、親事業者が自分のためにする(=他に提供するのではない)役務の委託は、役務提供委託の定義に入らないわけです。

(ですが、立法技術的、ないしは論理的には、フリーランス適正化2条3号2号の「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」という部分は、まったく余分だと思います。)

なので、例えば個人でやっている会議通訳者に会議通訳を頼むと、フリーランス適正化法の保護の対象になります。

(下請法では、自己使用役務なので、仮に社内に通訳者がいても、対象になりません。)

そのほか、たとえばオフィスのトイレの掃除の委託とかも役務提供委託になるので、ともかく個人事業者が相手方のときはフリーランス適正化法の適用を疑うべきです。

なので、フリーランス適正化法(正式名は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」ですが)、あるいはフリーランス保護法といいますが、「フリーランス」という色の着いた表現を使うより、「個人事業者保護法」とか、「個人事業者等保護法」とするほうが、実態に合っていると思います。

(私の感覚では、ウーバーの配達員は「フリーランス」という名に値しません。)

新たな法律ができたときには思わぬところに適用されることがあるもので、消費税転嫁法ができたときには、駐車場料金とか、自動販売機設置料とか、予想もしなかった事件が相次いで摘発されました。

なので、フリーランス適正化法も、思わぬ事件が出てくるかも知れません。

個人への業務委託で注意しないといけないのが、会社のOBに業務委託する場合です。

私もクライアントから相談を受けていて、会社を辞めて独立開業した人が社内で同じような仕事をしている、というような状況に出くわしたことがあります。

会社のほうも、OBで顔見知りだし、いろいろ気安く頼んだりする、ということもありえます。

もちろん、情報成果物作成委託にあたるようなものはこれまでも下請法の対象でしたから、新たに対応が必要ということはあまりありません(ただし、厚労省パートの、妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(13条)などは別です)。

ですが、これまでたんなる役務の依頼をしていただけの場合には、これまでなかった対応が必要、ということになります(新たな法律ができたのですから、あたりまえですが)。

そのほか、事業者の皆さんは社内で個人事業者に依頼していることがないか、いちどチェックされるのがよいと思います。

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