メーカーと商社が、商社の受け取る口銭額を、顧客への販売価格の3%と合意していたとして、消費税が5%から8%に引き上げられた際には、この3%の口銭率も、3%相当分、引き上げないといけないのでしょうか。
(厳密には、増税前の口銭率3%の内訳は、
本体価格: 3%×100÷105=2.85714286%、
消費税分: 3%×5÷105=0.14285714285%、
なので、増税後の口銭率を、
本体価格×1.08=3.08571428571%
に引き上げないといけないのか、というのがここでの問題です。)
そんなことはないと思います。
理由を一言でいえば、顧客への販売価格が増税分値上げされていれば、口銭率据置きでも、口銭額は3%分増額することになるはずだからです。
計算の基礎になる金額(=顧客への販売価格)が値上がりすることで口銭も増額されることが予定されている以上、算定率のほうを上げる必要はない(上げなくても転嫁できるし、そういうかたちで転嫁されるべき)、というようにいってもよいでしょう。
念のため条文を確認しましょう。
転嫁法3条1号後段(買いたたき)では、
「・・・商品若しくは役務の対価の額を
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価
に比し
低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」
が、禁止されています。
ここで、
「通常支払われる対価」
の意味について、公取のガイドラインでは、
「『同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価』とは,
通常は,
特定事業者〔=買手〕と特定供給事業者〔=売手〕との間で取引している商品又は役務の
消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額
をいう。」
と説明されています。
いずれにせよ、問題にされているのは、「対価」の額そのものであり、算定率は関係ありません。
なので、算定率が据置きであっても、結果的に、「対価」の額が3%分上がっていれば、問題ない、ということであろうと考えます。
ただ、以上の議論は、顧客への販売価格が3%上がっていることを前提にしているので、顧客への販売価格が据え置かれた場合には口銭も据え置かれることになり、それでも大丈夫か?というのはやや問題です。
この問題については、以下のように考えられるでしょう。
商社が顧客と価格を交渉して結果的に据置きになった場合には、商社のいわば自己責任なので、それをメーカーの転嫁拒否行為というのは、ちょっとメーカーに酷だと思います。
条文の解釈としては、メーカー(特定事業者)が「低く定め」たわけではない(商社が自分でやったことだ、あるいは、商社がうまくやってれば転嫁できたはずなのでメーカーが「定め」たわけではない)、ということで説明できそうです。
いずれにせよ、口銭率を上げろというのは、商社がうまく値上げ交渉に成功したら二重取りになってしまいますし、値上げ交渉がうまくいったら口銭率は上げなくてもいいけれどうまくいかなかったら口銭率は上げないといけない、というようなややこしいことを言い出すと、実務は回っていかない(管理不能)と思います。
ちょっと悩ましいのは、メーカーが指値で販売している場合です。
この場合には、メーカー自身が価格を決めている以上、必然的に、具体的な口銭額もメーカーが決めており、「低く定め」ていないとはいいにくいような気がします。
しかし、私はこの場合も、口銭率は上げる必要はないのではないかと考えます。
というのは、メーカーが指値を指示している場合(あるいはメーカーが価格を決定している場合)と、商社が価格交渉をしている場合というのは、実は区別はあいまいで、実際には商社がメーカーと相談しつつ、事実上の承認を得ながら決めていることが多いと思われるからです。
また、前述の理屈の言い換えですが、当事者の期待としても、消費税が上がったからといって口銭率まで上がることは通常期待していないのではないか(口銭額を販売価格を基準に定めている以上、販売価格が上がらなかったら口銭額が上がらなくても仕方ないと当事者は考えているのではないか)と思います。
また、たとえば顧客に高く売った(うまく交渉した)という役務と、安く売った役務が、果たして「当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務」であるといえるのか、とという切り口もあると思います。
つまり、少なくとも商社が価格交渉をするケースでは、「高く売る」ということも、役務の「品質」の1つなのではないでしょうか。
1万円で売れても10万円で売れても、物理的な作業内容は同じだ、というので「当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務」であるというのは、さすがに無理でしょう。
ただこの議論は、メーカーが指値を指示している場合には使えない(価格交渉をうまくやることは商社の役務の内容ではない)、というのが、ちょっと悩ましいところです。
もっと使い勝手のよい理屈としては、ガイドラインも、
「通常は」
と、断っているので、価格の定め方など諸々の事情で、厳密に3%上がってなくてもよい場合があるはずで、商社の口銭はまさにそのような場合だ、ということも可能かもしれません。
なお以上の例では、顧客への販売価格に一定率を乗じるという口銭額の定め方を想定しましたが、口銭額が商社の売値と買値の差額で決まる、というのでも、考え方は基本的に同じだと思います。
ただ、売値と買値の差額で決まる場合には、そもそも、口銭「率」を上げるべきか?という視点が見えにくいので、問題が顕在化しないだけでしょう。
そして、そう考えると、たまたま「率」で定めていたからといって、「率」を上げないと転嫁拒否だと言い出すのは、かなり筋の悪い議論であると、一層思われてきます。
なお今回は商社の口銭の例で説明しましたが、同じ理屈は、不動産仲介業者の手数料とか、いろいろなケースに応用が利くのではないかと思います。