不正競争防止法

2021年9月22日 (水)

聖護院八ッ橋の判決を読んで

先日日経新聞に、京都の聖護院が、「元禄2年創業」という表示には根拠がないと不正競争防止法違反で訴えられた事件が最高裁で聖護院勝訴(違反なし)で確定したという記事があり、気になって京都地裁の判決を読んでみました。

(ちなみに判決にも書いてあるのですが、この事件で元禄2年から作っているかどうかが争われたのは、生八ッ橋でないほうの、堅い八ッ橋のほうです。)

大事な部分は、次のとおりです。

「(エ) 本件各表示の需要者への影響

確かに,被告自身,味は伝統という表示も用いているほか,被告各表示,とりわけ被告表示(4)は,八ッ橋が元禄2年から作られていると明言しているから,300年以上にわたる長い伝統を有することが商品の優位性を推認させる事情であるようにもみえる。

しかし,そもそも,江戸時代におけることがらが,特段の資料なしに,正確にはわからないことは,全国の一般消費者である需要者にとっても,経験則上,推測できるといえる。

前記(ウ)a,b,d,eのとおり,八ッ橋の起源につき,江戸時代にさかのぼるという説があるが,三河説の中にも複数の説があり,原告検校説もあるほか,昭和五十年代の調査では,明治時代以前の創業とされるのは,2社であるが,現在,江戸時代に創業したという八ッ橋の製造販売業者は,少なくとも4社(原告,被告,甲Aの子が興した会社2社)あることになる。

そもそも,これまで認めた事実(前提事実を含む。)によれば,八ッ橋が,明治時代中期に博覧会等で受賞するなどして社会的に認知され,昭和11年ころには,京都府下の菓子生産額の10%を占めるに至ったが,明治初期以前の生産量は少なく,江戸時代における八ッ橋の製造販売状況を客観的に明らかにする的確な証拠はない

このように,創業時期や来歴に関する説も様々で,創業元禄2年3月と特定する業者もあるが,八ッ橋の来歴や創業時期に関し,需要者から虚偽の表示として苦情が述べられたことがあるという証拠はない

そして,これまで認めた事実からは,需要者は,複数の事業者の店舗が並ぶのを見て,あるいはインターネットのホームページを見て,八ッ橋の発祥年や来歴につき,複数の業者により異なった説明がされていること,どれが正しいかの決め手もないことを簡単に知ることができると推認できる。

前記のとおり,京都において,生八ッ橋など,八ッ橋よりも歴史が新しい菓子もまた,よく売れている。このことも,京都の老舗であるからといって,長い伝統が,需要者にとって当然に大きな意味を持つわけではないことを,推認させるといえる。

そうすると,被告各表示も,需要者にとっては,被告が江戸時代に創業し,被告菓子の製造販売を始めたようであるとの認識をもたらす程度のものにすぎないと推認できる。」

一般的な観点からみれば、とても常識的な判断だと思います。

ですが、気になるのは消費者庁が運用する景表法とのあまりにも大きな違いです。

もし消費者庁が本件を取り上げて不実証広告規制が使われたら、聖護院は、元禄2年創業であることの合理的根拠を示す証拠を出せないと、措置命令を受けてしまうことになります。

これに対して京都地裁の判決では、

江戸時代における八ッ橋の製造販売状況を客観的に明らかにする的確な証拠はない。」

と明確に認定されているのに、品質等誤認表示にはあたらないと判断されています。

これは、消費者庁実務ではあり得ないことです。

むしろ、不実証広告規制で、聖護院のほうが証拠を出せないと、それだけで負けてしまいます。

さらに判決は、

京都の老舗であるからといって,長い伝統が,需要者にとって当然に大きな意味を持つわけではない

とも述べていますが、これも、消費者庁なら(少なくともタテマエとしては)あり得ない判断でしょう。

特に最近、消費者庁の運用では、「広告には多少のお化粧はつきものだから許される」というような解釈がますます通じなくなってきています。

さらに判決の、

需要者は,複数の事業者の店舗が並ぶのを見て,あるいはインターネットのホームページを見て,八ッ橋の発祥年や来歴につき,複数の業者により異なった説明がされていること,どれが正しいかの決め手もないことを簡単に知ることができる

という判断も、消費者庁では、あり得ません。

というのは、消費者庁は基本的に、表示だけを見て不当表示かどうかを判断するという立場で、ほかの情報に当たればすぐに事実と異なることがわかるといってもまず認められないからです。

私も以前、ある依頼者を代理して消費者庁とだいぶ争ったのですが、その時も、同じような表示で民事事件で不当表示に当たらないと判断された判決があったので(それはとても常識的な判決でした)、それを証拠に出して消費者庁に再考を求めたのですが、まったく考慮されませんでした。

しかし、この京都地裁の判決を読むと、そういう消費者庁の解釈がいかに偏ったものであるのかが、あらためてよく分かります。

というか、京都地裁の判断を読むと、不当表示で措置命令を受けた当事者がしそうな反論そのもので、笑えます。

不競法の品質等誤認表示と景表法の優良誤認表示は、実体法的にはほとんど同じなのに、判断主体がちがうとこうも正反対の結論になるのかと、驚かずにはいられません。

この違いは、片方が(広い意味での)競争法で、片方が消費者保護法だ、というのでは説明がつかないと思います。

むしろ、ライバルのほうが影響を受けている可能性が高く(だから本件も競争相手の井筒八ッ橋本舗が訴えていたわけです)、消費者が現実的な被害を受けているとはとうてい言いがたいので、逆に、不正競争防止法ならアウトだけど景表法ならセーフ、となるのが道理だと思います。

もちろん、この事件を消費者庁に申告しても、調査されることはまずないだろうとは想像します。

それはきっと、本音のところでは、消費者庁も、「元禄2年創業」なんて確かめようもないし、消費者も分かっているから害がない、と思っているからだろうと想像します。

ですが、そうやって「取り上げない」という判断をするケースと、命令を出すケースで、判断があまりに違うというのはよくないと思います。

表に出るものはきわめて厳しい口ぶりで書いておいて、実際にはその厳しい基準だとどうみても不当表示なのに事件としては取り上げない(注意もしない)、というのでは、法執行に対する信頼が失われます。

消費者庁の職員の方々は、この判決を読んで、司法や世間の常識がどのあたりにあるのかをよく理解して欲しいと思います。

2019年8月29日 (木)

営業秘密の定義の英訳

政府の法令英訳データベースでは、不正競争防止法の営業秘密の定義(2条6項)は、

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」

「The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that are kept secret and that are not publicly known.

と翻訳されています。

でも、information は単数なので、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is kept secret and that is not publicly known.

なんじゃないでしょうか。

それと、「秘密として管理されている」を「that is kept secret」と翻訳していますが、これだと、「not publicly know」とのちがいがわかりにくいですね。

そもそも営業秘密の保護は1990(平成2)年の不競法改正で入ったものですが、そのもとになったTRIPS協定の39条では、

Article 39

1. In the course of ensuring effective protection against unfair competition as provided in Article 10bis of the Paris Convention (1967), Members shall protect undisclosed information in accordance with paragraph 2 and data submitted to governments or governmental agencies in accordance with paragraph 3.

2. Natural and legal persons shall have the possibility of preventing information lawfully within their control from being disclosed to, acquired by, or used by others without their consent in a manner contrary to honest commercial practices so long as such information:

(a) is secret in the sense that it is not, as a body or in the precise configuration and assembly of its components, generally known among or readily accessible to persons within the circles that normally deal with the kind of information in question;
 
(b) has commercial value because it is secret; and
 
(c) has been subject to reasonable steps under the circumstances, by the person lawfully in control of the information, to keep it secret.」

とされています。

2項(a)の「not ... generally known」が非公知性(不競法の英訳では、that are not publicly known)ですね。

とすると、秘密管理性はTRIPS協定では2項(c)がもとになっていることがわかります。

でもそれ(「秘密として管理されている」)を、that are kept secretと訳すと、意図がよくわからなくなってしまいます。

TRIPS協定に忠実に秘密管理性を表現するなら、英訳は、subject to steps taken to keep it secret くらいが適当でしょうか。

あるいは、「管理」というのは、たとえば、出入国管理及び難民認定法が、Immigration Control and Refugee Recognition Act と翻訳されていることからすると、 control が無難そうです。

そすうると正しくは、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is subject to steps taken to keep it secret and that is not publicly known.

とか、

The term "Trade Secret" as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is controlled as secret and that is not publicly known.

とかですかね。

あるいは、政府の法令英訳データベースの辞書検索で「管理」を調べると、administrationとか、managementがでてきます。

いちおうOALDで英語の意味を調べると、administerは、

「to manage and organize the affairs of a company, an organization, a country, etc.」

と説明されており、manageは、

「to keep sb/sth under control; to be able to deal with sb/sth」

と説明されています。

ただmanageはほかにもたくさん意味があるので(上記引用の意味は7番目で一番最後)、administerのほうが意味ははっきりするかもしれません。

というわけで、

“The term “Trade Secret” as used in this Act means technical or business information useful for business activities, such as manufacturing or marketing methods, that is administered as secret and that is not publicly known.”

にしておきます。

まあ秘密管理性の訳しかたは趣味の問題ですが(それでも、「kept secret」だと、秘密になっている状態というイメージしかわかず、管理者の管理行為が必要だというニュアンスが伝わらないので、やっぱり改善の余地はあります)、be動詞は単純な文法上のミスですから、直しておかれたほうがよいと思います。(この定義はわりと使いますし。)

ともあれ、言うは易しで、この英訳プロジェクトって、たくさんの国際弁護士さんなどが、ほとんど手弁当でやった業績なので、ほんとうに頭が下がります(わたしもとある友人から、このプロジェクトに加わらないかと非公式に打診されたことがありましたが、途中からはいるのはやっぱりむずかしいだろうということで、その話はなくなりました。)

わたしが弁護士になった20年ほど前には、法律の英訳はほとんど一から訳すか、民法系については京大の北川善太郎先生が監修されていた加除式の英文法令集を使うかしていたので、このプロジェクトはほんとうに貴重だと思います。

2015年11月12日 (木)

【お知らせ】不正競争防止法の講習会をします

このたび、公益財団法人公正取引協会様(http://www.koutori-kyokai.or.jp/index.cgi)主催の、

「不正競争防止法関係法令講座」

で、講師を務めさせていただくことになりました。

【公正取引協会の申し込み用紙は、こちら。】

2回シリーズ(11月30日・12月14日)で、受講料21,600円(税込み)です。

不正競争防止法は、最近営業秘密に関する重要な法改正と、営業秘密ガイドラインの改正があり、また、外国公務員に対する贈賄罪についても大きく注目されているところです。

これらの点に加え、今回の講座では、商品等主体の混同惹起行為など、不正競争防止法の重要ポイントについて解説する予定です。

また、外国公務員贈賄については、日本の法律にとどまらず、米国FCPAや英国Bribery Actについても触れ、企業にとっての留意点を解説します。

ご関心のある方は、ぜひこの機会にお申込みいただければと思います。

2015年7月27日 (月)

【お知らせ】『会社法務A2Z』に寄稿しました

今月25日発行の、第一法規の『会社法務A2Z』(2015年8月号)に、

「不正競争防止法改正・営業秘密管理指針全面改訂と実務への影響」

という論文を寄稿させていただきました。

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ちょうどゲラが上がってきたあとに国会で改正法が成立して直前に手直ししたりと、慌しい作業でしたが、結果的にとてもタイムリーな論文になりました。

今回の不競法改正と管理指針は、すべての企業が押さえておくべきポイントだと思いますので、ご一読いただけますと幸いです。

2015年6月15日 (月)

平成27年不競法改正案2条1項10号

平成27年不競法改正案2条1項10号であらたな「不正競争」に追加されることになった、技術上の秘密を不正に使用して生成した物の悪意重過失による譲渡等に関する条文を整理しておきます。

不競法改正案2条1項

この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 

十 【技術上秘密不正使用物の悪意重過失譲渡等】

第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為

(技術上の秘密

(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)

使用する行為に限る

以下この号において「不正使用行為」という。)

により生じた物を

譲渡し、

引き渡し、

譲渡若しくは引渡しのために展示し、

輸出し、

輸入し、

又は

電気通信回線を通じて提供する行為

(当該物を譲り受けた者

(その譲り受けたに当該物が不正使用行為により生じた物であることを知ら、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)

当該物を

譲渡し、

引き渡し、

譲渡若しくは引渡しのために展示し、

輸出し、

輸入し、

又は

電気通信回線を通じて提供する行為

除く。)

従来、不競法では、営業秘密という情報の一定の「取得」、「使用」、「開示」が不正競争になるとされていましたが、改正案の2条1項10号は、情報そのものではなくて、その情報を使用して作られた物(侵害品)に対する差止等を認めるものです。特許法に一歩近づいたといえます。

最後の括弧書きで、「除く」とされている、

「当該物を譲り受けた者」

というのが、その直後の括弧書きで善意無重過失者(シロ)に限定されているので、結局、「除」かれない(=違反になる)のは、悪意重過失者(クロ)に限られる、ということです。

注意すべきなのは、

「(その譲り受けた時

当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、

かつ、

知らないことにつき重大な過失がない

者に限る。)」

ということなので、善意無重過失の判定時は、行為者が当該物を譲り受けた時点である、ということが分かります。

つまり、譲り受けた後に悪意になっても改正案10号は適用されません。

逆に、自分の前主が善意であっても抗弁権が切断されたりということはなく、行為者が譲受の時点で悪意または重過失である限り、被害者である営業秘密の保有者は、当該行為者に対して損害賠償や、譲渡等の差止をすることができると考えられます。

ちなみに、

「第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為(技術上の秘密・・・・を使用する行為に限る。」

の部分を書き下すと、

4号は、

「・・・不正取得行為により取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

5号は、

「その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

6号は、

「その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

7号は、

「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

8号は、

「その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為 」

の部分が該当し、

9号は、

「その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当します。

2015年6月14日 (日)

営業秘密に関する「不正競争」

不競法2条1項4号から9号の規定を以下に整理しておきます。

(定義)

第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

四 【不正取得、不正取得後使用・開示】

窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)

又は

不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)

五 【不正取得重過失取得、不正取得重過失取得後使用・開示】

その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで〔=不正取得重過失〕

営業秘密を取得し、

又は

その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する

行為

六 【善意取得後不正取得重過失使用・開示】

その取得した後

+〔不正取得重過失〕

その取得した営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

七 【被開示後不正使用・開示】

営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、

不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、〔=図利加害目的〕

その営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

八 【不正開示重過失取得、不正開示重過失取得後使用・開示】

その営業秘密について不正開示行為

(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為

又は

秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)

であること

若しくは

その営業秘密について不正開示行為が介在したこと

を知って、若しくは重大な過失により知らないで〔=不正開示重過失取得〕

営業秘密を取得し、

又は

その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

九 【善意取得後不正開示重過失使用・開示】

その取得した後に

その営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで

その取得した営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

なお、やや強引に刑法の窃盗等と比べると、

四 【不正取得、不正取得後使用・開示】≒窃盗・詐欺・恐喝・強盗、不可罰的事後行為

五 【不正取得重過失取得、不正取得重過失取得後使用・開示】≒重過失による盗品等譲受け、重過失による盗品等譲受け等の不可罰的事後行為

六 【善意取得後不正取得重過失使用・開示】≒事後重過失盗品等譲受け等の不可罰的事後行為

七 【被開示後不正使用・開示】≒横領 or 横領後の不可罰的事後行為

八 【不正開示重過失取得、不正開示重過失取得後使用・開示】≒重過失による盗品等譲受け、重過失による盗品等譲受け後の不可罰的事後行為

九 【善意取得後不正開示重過失使用・開示】≒事後重過失の不可罰的事後行為

といったかんじでしょうか。

2015年6月13日 (土)

営業秘密に関する刑罰規定(不競法21条1項)

不競法21条1項の規定を以下に整理しておきます。

なお、刑罰規定全般について、図利加害目的は共通の要件です。

また刑法の一般論として、故意が必要です(刑法38条1項)。

第二十一条  

次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一  【不正取得罪】

不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、〔=図利加害目的〕

詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)

又は

管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)

により、

営業秘密を取得した者

二 【不正取得後使用・開示罪】

詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、

+〔図利加害目的〕

使用し、又は開示した者

三 【正当被開示後領得罪】

営業秘密を保有者から示された者であって、

+〔図利加害目的〕

その営業秘密の管理に係る任務に背き〔=任務違背〕、

次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者

イ 営業秘密記録媒体等・・・又は営業秘密が化体された物件を横領すること。

ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。

ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。

四 【正当被開示・不法領得後使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示された者であって、

+〔任務違背〕

前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、

+〔図利加害目的〕

+〔任務違背〕

使用し、又は開示した者

五 【正当被開示従業員使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示されたその役員・・・又は従業者であって、

+〔図利加害目的〕

+〔任務違背〕

その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)

六 【正当被開示元従業員使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、

+〔図利加害目的〕

その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、

その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号に掲げる者を除く。)

七 【違法被開示後使用・開示罪】

+〔図利加害目的〕

第二号又は前三号の罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、

その営業秘密を使用し、又は開示した者

なお、財物の窃盗等と比べると、

1号(取得罪)≒窃盗罪

2号(不法取得後使用・開示罪)≒窃盗後の不可罰的事後行為

3号(被開示後領得罪)≒横領罪

4号(被開示・不法領得後使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任

5号(被開示従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為

6号(元従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任

7号(不法被開示後使用・開示罪)≒(窃盗犯からの直接の)盗品等譲受け後不可罰的事後行為

といったイメージでしょうか。

窃盗等の場合は財物領得後の行為は新たな法益侵害を発生させないので不可罰的事後行為になっているのに対して、営業秘密の場合には使用・開示が独立の違法行為となっています。

これは、営業秘密の場合には取得されたら法益侵害が終了するわけではななくて(むしろ営業秘密自体は財物と違って保有者の手元に残るので、取得されただけでは現実的な法益侵害はないとすらいえるかもしれません)、むしろ、そのあとの使用・開示行為で法益が現に侵害されるから、というのが理由でしょう。

また、ベネッセの名簿流出事件などをイメージすると分かりやすいですが、同じ営業秘密を何度でも開示することで何度でも法益(この場合の法益は保有者であるベネッセのそれというより、個人情報の主体の法益、というのが実態に近いのでしょうけれど)が侵害される、というのも情報窃盗の特徴といえるでしょう。

2010年9月28日 (火)

【日経法務インサイド9月27日】「営業秘密 守りやすく」

昨日(9月27日)の日経朝刊の「法務インサイド」欄で、私のコメントを引用していただきました。

(昨日はなぜか朝刊が届くのが遅れ、自分が読む前に何人かの方にメールで教えて頂きました(汗)。教えて頂いた方、ありがとうございました。)

記事は今年7月に施行された改正不正競争防止法の要点がコンパクトにまとめられており分かりやすいので、ご興味のある方はご一読下さい。

一般の人には、そもそもなぜ営業秘密侵害罪の成立範囲を細かく定めているのか、少々わかりにくいのも事実ではないかと思います。

素朴な感情からすれば、不正競争の目的(A社の秘密を競合のB社が不正に入手して利用するような場合)であろうと、図利加害目的(A社の顧客名簿を名簿業者に売りつけるような場合)であろうと、悪いものは悪いのだから両方処罰すべき、ということでしょう(だからこそ今回の改正が成立したわけですが)。

ただ、営業秘密に関する罪を不正競争防止法の中に置いている関係上、同法は文字通り不正な競争を防止するための法律なので、改正前は、侵害の目的を不正競争の目的に限っていたわけです。

体系的な整理としては、改正前の方がすっきりしていたとも言えます。

しかし、やはりそれでは実務的に不都合だろうということで、今回の改正となったわけです。

図利加害目的というと、法律家としては、刑法の背任罪を思い浮かべます。

つまり、今回の改正で、営業秘密侵害罪の性質が、不正な競争の防止から、背任罪のような財産犯に性格が近づいたといえます。

(この際、営業秘密侵害罪は、外国公務員贈賄罪とともに、刑法に移してはどうかと思います。でもそうすると、管轄が経産省から法務省に移ってしまうという問題点(?)があるかもしれません。)

また、改正前は、営業秘密を使用・開示して初めて犯罪となったのが、それだと秘密裏になされた使用・開示することが立証できない場合があるので、取得の時点で犯罪となることとされました。

これも、実際上の必要に迫られての改正といえます。

営業秘密というのは目に見えないだけに、その対象についても、侵害行為の態様についても、法律の文言で綿密に規定されています。

法律に馴染みのない人からみると、処罰されるべきものが処罰されないというのは法律の欠陥ではないかという印象を持たれるかもしれません。

しかし、こと今回の改正については、改正前の法律も処罰範囲が広がりすぎないように意図的にそのような内容になっていて、やはり実務の運用でそれでは良くないということで、さらに綿密に文言を練って改正に至った、という印象です。

改正法の文言をじっくり読むと、実務における条文の大切さが改めて身に染みます。

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