下請法

2025年12月11日 (木)

下請法Q&A46番(金型無償保管が違法になる場合)の読み方

下請法Q&Aの46番(型等の保管)では、

「当社は,部品の製造を委託している下請事業者に,その製造に用いる金型を保管してもらっているが,不当な経済上の利益の提供要請に該当するか。」

という質問に対して、

「部品等の製造を委託し,その製造に用いる型等(金型,木型,治具,検具,製造設備等をいう。)(※1)を下請事業者に保管させている場合において,

親事業者が部品等の発注を長期間行わない等の事情(※2)があるにもかかわらず,

保管費用(自社倉庫の使用料相当額,外部倉庫の使用料,倉庫等への運送費,メンテナンス費用等の型等を保管させたことによる費用をいう。)を支払うことなく下請事業者に型等を保管させたときは,不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある。

下請事業者に部品等の発注を長期間行わない等の事情がある型等を保管させる場合には,

親事業者は,下請事業者と協議の上,

保管期間

型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)

中に発生した保管費用を支払わなければならない(※3)。

また,型等を廃棄・回収するか,保管を継続するかについても,下請事業者と協議をする必要がある。

(※1)親事業者が所有する型等のほか,親事業者以外が所有する型等であって親事業者が事実上管理している型等を含む。

後者の例として,下請事業者が自社所有の型等を保管しているものの,その廃棄等には親事業者の承認を要する場合がある。

(※2)「親事業者が部品等の発注を長期間行わない等の事情」は,

個別事案ごとに異なるものであるが,

これまでの主な違反事例において認められたものは,次のとおりである。

1 部品等の発注を長期間行わない場合

金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例

2 下請事業者が型等の廃棄や引取り等を希望している場合

下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例

3 親事業者が次回以降の具体的な発注時期を示せない場合

金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例

4 型等の再使用が想定されていない場合

型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例

(※3)保管費用の支払に関する留意点の例は,次のとおりである。

・ 親事業者の中には,「下請事業者からの請求がなければ保管費用を支払う必要はないと思っていた。」,「型等の最終稼働後1年間は無償で保管させてよいと思っていた。」などの認識を示す者がみられるが,

保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。

・ 型等の稼働状況を常に把握することが親事業者及び下請事業者にとって過度な負担となる場合には,双方協議の上,年度ごとに保管させている型等を用いる部品等の発注状況を確認し,当該年度における保管期間に応じた保管費用をまとめて支払うことも許容される。」

と回答されています。

まず問題になるのが、(※2)の「1 部品等の発注を長期間行わない場合」の、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた場合」

というのが、どの時点を基準に言っているのか、具体的には、保管開始時(≒最後の製造が終わった時点)なのか、現時点(≒公取委調査時点)なのか、ということです。

この点については、現時点(≒公取委調査時点)からみて過去1年間発注がなければ無償保管が違法になる、という意味だと解されます。

つまり、現時点(≒公取委調査時点)からみて、保管開始時点(≒最後の製造が終わった時点)から1年間以上無償保管させていたら違法、ということです。

実際、「1」の場合の勧告例、たとえば、電気興業の勧告(2024年12月5日)のような、調査時点で長期間保管させていたために違反となった例でも、担当官解説(公正取引894号79頁)では、

「そのため、本件においては、電気興業が下請事業者に対して、金型等を用いて製造する部品を発注してから1年以上もの長期間にわたって次の発注がなく、

また、その聞に金型等の回収等や保管費用の支払といった対応を何ら行っていない場合には、

電気興業が下請事業者に当該金型等を長期間無償で保管させて不当な不利益を与えたものと認定している。」

とされており、当該勧告では、保管開始時点にその後1年間の発注予定があったかどうかを問題にするのではなく、現時点(調査時点)において「1年以上もの長期間にわたって次の発注がな」かったこと(最後の発注時点で次の発注が予定されていなかったことではなく、調査時点からみて実際に最後の発注から1年以上発注がなかったこと)で、違反と認定していることがわかります。

それに、「1」の場合をもし、最後の発注時点でその後1年間の発注が予定されていない場合と読むと、「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

ともろにかぶってしまいます。

そこであらためて「2」から「3」の場合を見てみると、いずれにも、「引き続き」という文言が入っていることがわかります。

たとえば、「2」では、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

が違反となるとされていますが、そうすると、「金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられ」た時点以降は直ちに「保管期間」がはじまり、「保管期間」に入っても「引き続き」保管をさせると「保管費用」を支払わないといけない(あるいは、この場合は、希望を容れて、廃棄や引取をしないといけない)ということになると考えられます。

次の「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのも、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になったら直ちに「保管期間」がはじまり、それ以降「引き続き」無償で保管をさせると違反になる、という意味だと考えられます。

次の「4」の、

「型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例」

というのも、発注の「予定がない」ことが確定したら直ちに「保管期間」がはじまり、それ以降「引き続き」無償で保管をさせると違反になる、という意味だと考えられます。

ここで、

「保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。」

とされていることから、「保管期間」というのは、「保管費用」を支払わないといけない期間だということになるのですが、この「保管期間」というのが、

「型等を用いる部品等の発注が行われていない期間

と定義されていることには注意が必要です。

つまり、金型が物理的に下請事業者の占有下に置かれている期間すべてが「保管期間」となるのではなく、発注がない期間が「保管期間」となる、逆に言うと、発注がある期間は「保管期間」とはいわない(発注がある期間の下請事業者の占有は、受託製造行為の当然の内容である)、ということであると理解できます。

しかし、この「発注が行なわれていない期間」というのは、いかにも曖昧です。

たとえば、毎月1日にコンスタントに発注が行なわれている場合には、毎月2日~月末までを、「発注が行われていない期間」ということは、さすがにないでしょう。

では、最後の発注から次の発注までに、半年空いた場合はどうでしょう? 1年空いた場合は? 2年空いた場合は?・・・と、際限なく疑問が広がっていくのです。

そもそも、「発注」と「発注」の間の期間の長さだけをとらまえて無償保管だというのは、理屈としておかしいと思います。

というのは、発注のあと、その金型が実際に製造行為に用いられる期間があるはずだからです。

そうすると、常識的に考えて、発注から、その発注に基づく納品までは、保管費用を支払う必要はさすがにないと思います。

思考の単純化のために(あるいは、この製造行為期間の論点に気づかなかった公取委の頭に合わせて)、この製造行為期間のことはいったん措くとしても、発注から発注までにどれだけの期間が空くと「発注が行なわれていない 」ことになるのか、という問題は残ります。

そして、この点については、「1」で、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例」

が挙げられており、「発注を1年間以上行わない」ことが明示的に違法の要件とされているので、1年間以上発注がなければ、「発注が行われていない」とみなしてよいのでしょう。

そこでよくわからなくなるのが、果たして「2」から「4」の場合も同様に、「保管費用」を支払うべき「発注が行なわれていない期間」を、発注が1年以上行われていない期間とみていいのか、という点です。

この点、例えば、「2」の、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのを素直に読むと、「金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられ」た時点で「保管期間」がはじまり、かかる「保管期間」開始後(=希望伝達後)に「下請事業者に当該金型を無償で保管させて」はならない、と読むのが自然なように一瞬思えます。

でも、ちょっと考えてみると、これはおかしいです。

例えば、直近の発注があって、その製造行為が終わって、納品もされて、その翌日に下請事業者が「金型を引き取ってください」との希望を伝えてきたときに、親事業者が金型を引き取るとか保管費用を支払わないといけないかというと、そんな非常識なことはないでしょう。

(「そんな非常識なことを言う下請事業者はいない」という反論はありえますが、ここで問題にしているのはQ&Aの文章の論理的な読み方なので、そのような事実論は措きます。)

そう考えると、「2」の場合には、「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていた」というのが、「廃棄の希望をするのももっともだ」といえるような事情があることが、暗黙の前提になっていることがわかります。

実際、この「2」にあたる事例の1つであるサンケンの勧告(2023年11月30日)では、

「一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた」

と認定されており、「廃棄等の希望を伝えられていた」前提として、「長期間発注が無いこと等を理由として」という理由がちゃんと認定されているからです。

なので、「2」の、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というのは、文字通りに読むのではなくて、

長期間発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というように、補って読むべきなのです。

そして、ここでの「長期間」というのは、「1」で「1年間」という基準が示されていることからすると、こちらの「2」の「長期間」についても、1年間と読んでおいて大きな間違いはないでしょう。

このようにして、「2」を、

1年間発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

と読み替えるとして、ではいつから保管費用を払うのか(保管期間が始まるのか)、というのが次の問題です。

そして、「2」の場合には、「希望を伝えられ」たときからの保管について保管費用を支払えばすむ、という話では、どうやらなさそうです。

というのは、(※3)に、

「保管費用は下請事業者からの請求の有無にかかわらず,保管期間に応じて支払う必要がある。」

と記載されているからです。

請求の有無にかかわらず」保管費用を払わないといけないのに、「希望を伝えられ」たときからの保管費用を払えばすむというのは、矛盾でしょう。

ですので、「2」の場合には、

「下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

というように、「伝えられ」たときから「引き続き」保管させるのが下請法違反になるかのように見えますが、保管費用については「保管期間中に」発生した費用を払わないといけないので、保管費用については(希望を伝えられたときからではなく)最後の発注から支払わないといけない、と考えるべきでしょう。

つまり、「2」の例は、そういう場合には不当な経済上の利益の提供要請が認定できるといっているだけで、保管費用の支払はあくあで「2」も「1」と共通で、「保管期間中に」発生した費用について払わないといけない、と考えるべきでしょう。

次の「3」の、

「金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

には、「1年間」という数字はありますが、これは、保管費用をいつから払うべきか(=「保管期間」はいつからはじまるか)とは無関係です。

というのは、たとえば、最後の発注があって、その直後に示せる次の発注が13か月後だとすると、それは、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になっており、それ「にもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させ」ると、違法だというのが「3」の意味だと読むしかないからです。

つまり、次の発注が13か月後になるなら、金型はいったん引き取れ、さもなくば、最後の発注後からの(厳密には、当該最後の発注による製造行為が終わった時点以降の)保管費用を払え、ということです。

そしてここでも、保管費用は「保管期間中に」発生したものについて支払うべき、というのは「1」と共通とされています。

ただ、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」の意味が「3」は「1」とも「2」とも違うと考えられます。

というのは、「3」のような、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」場合には、少なくともそのような状態になった時点では「型等を用いる部品等の発注行われていない」状態になっている(=「保管期間」が始まっている)と考えるのが自然だからです。

逆にもし、「3」の場合には、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」(そういうことがはっきりしていた)時点からさらに1年間は無償で保管させることができるとすると、長期間発注の見通しもないのに無償保管させられることになり、下請事業者にきわめて不利益でしょう。

つまり、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」は、「1」の場合には、

あとから(=公取委調査時点から)振り返って1年間以上発注がない場合に、その保管期間が全部「型等を用いる部品等の発注が行われていない期間」になる

のに対して、「3」の場合には、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっ」た時点から開始する

と考えるべきでしょう。

たとえば、「3」のパターンで、

A発注の時点で、次のB発注は1か月後だという見通しだった

B発注の時点で、次のC発注は2か月後だという見通しだった

C発注の時点で、次のD発注は6か月後だという見通しだった

D発注の時点で、次のE発注は10か月後だという見通しだった

E発注の時点で、次のF発注は13か月後だという見通しだった

というケースにおいては、「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっ」たE発注(の製造が終わった時点)以降が「保管期間」となり、その期間の保管費用を払うべき、ということになります。

ちなみに、「3」の例とみられるサンケン勧告(2023年11月30日)では、

「①一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた、又は② サンケン電気自身も次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていた

と認定されており(②)、サンデン勧告(2024年2月28日)では、

「①一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた、又は②サンケン電気自身も次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていた

と認定されており(②)、住友重機ハイマテックス勧告(2024年11月21日)では、

次回以降の発注の有無又は次回以降の具体的な発注時期の見通しを示すことができない」

と認定されており、どのくらい先の発注の見通しが示せなかったのかという時期的な制限はありませんが、「3」に照らすと、おそらくこれらの事案では、少なくとも、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」(ひょっとしたら永久に見通しを示せなかったのかもしれないけれど)

ということなのでしょう。

つまり、上記「3」の「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていた」という文言からすると、仮に「13か月後に発注があることは示せる」と抗弁する発注者がいても、そのような抗弁は公取委はみとめない、と運用している、ということなのでしょう。

次の「4」の、

「型等を用いて製品が製造された後,当該木型等を改めて使用する予定がないにもかかわらず,引き続き,下請事業者に当該木型等を無償で保管させていた事例」

の、「使用する予定がない」という場合も、「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)」は、少なくともそのような「予定がない」ことがはっきりした場合には、その時点から即時に開始する、と考えるべきでしょう。

(ちなみに、この「4」だけ、「型等を用いて製品が製造された後」と明言されていて、最後の製造行為期間中は(最後の発注後であっても)保管期間は開始しないことが明示されているのはいかにもちぐはぐな感じはしますが、それも措きます。)

なお、このQ&A46番には、なぜか、下請法運用基準第4の7の、

「7-5 型・治具の無償保管要請

(1) 親事業者は,機械部品の製造を委託している下請事業者に対し,量産終了から一定期間が経過した後も金型,木型等の型を保管させているところ,当該下請事業者からの破棄申請に対して,「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず,保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず,無償で金型,木型等の型を保管させた。

(2) 親事業者は,自動車用部品の製造を委託している下請事業者に対し,自社が所有する金型,木型等の型・治具を貸与しているところ,当該自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後,当該部品の発注を長期間行わないにもかかわらず,無償で金型,木型等の型・治具を保管させた。」

という、量産期間経過後の無償保管の例がありません。

その理由は不明ですが、ともかく実例として、

「当該金型等を用いて製造する自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計415個の金型等を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定された愛知機械勧告(2025年2月18日)や、

「令和5年4月1日から令和6年10月25日まで、当該金型を用いて製造する自動車用ばね等の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計608型の金型を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定された中央発條勧告(2025年2月18日)や、

「令和5年10月1日から令和7年4月30日までの間、当該金型等を用いて製造する自動車用部品の製造を大量に発注する時期を終えた後、合計1,570個の金型等を自己のために無償で保管させ〔た〕」

という事実だけで違反認定されたいずみ工業勧告(2025年7月16日)がありますので、大量発注終了も独立の違反要件とみるべきでしょう。

といいますか、「違反要件」というのはちょっと不正確で、Q46番にも、「親事業者が部品等の発注を長期間行わないの事情(※2)」と、オープンエンドな形になっていて、いくらでも追加できます。

また、そもそも論として「親事業者が部品等の発注を長期間行わないの事情(※2)」は条文のどの要件にかかわるのかというと、下請法4条2項柱書の「下請事業者の利益を不当に害し」に関する認定です。

それは担当官解説をみてもわかりますし、担当官解説をよむと、これらの「下請事業者の利益を不当に害し」の要件の認定のために、当該案件ではこういう事実があったから「下請事業者の利益を不当に害し」の要件を認定したのだ、という感じで、ともかく不利益性を根拠づける事実を拾い集めて認定しているだけで、かなり行き当たりばったりな感じがします。

なので、Q46の「1」~「4」も理論的に整理されておらず、といいますか、そもそもそのような行き当たりばったりの認定を羅列しただけで理論的に統一して説明しようというつもりしかなく、所詮そのようなものに過ぎない(それ以上理論的に詮索しても詮無いことである)とわりきるほかないように思われます。

最後に、(※3)の、

「型等の最終稼働後1年間は無償で保管させてよいと思っていた。」

というのが誤解だというのには、確かにそういう誤解を招きそうなQ46の記載なので、注意が必要です。

保管費用を支払うべき「保管期間(型等を用いる部品等の発注が行われていない期間をいう。)は、「1」の場合には、前述のとおり、

調査時点からさかのぼって1年間発注がなければ、最後の発注(に基づく製造完了)時点からあとの保管させていた期間がまるまる「保管期間」になる(最終発注(に基づく製造完了)直後から保管費用を払わないといけない)

のであり、「2」の場合には、

1年間(以上)発注が無いこと等を理由として下請事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられていたにもかかわらず,

引き続き,下請事業者に当該金型を無償で保管させていた事例」

と読み替えたうえで、

その1年間(以上)発注がなかった期間の始期(つまり、最後の発注(に基づく製造完了))から「保管期間」がはじまるのであり

(引取希望はあくまで不利益性の補強事情にすぎない)

のであり、「3」の場合は、

「今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態」になった時点で保管期間が開始する

のであり、「4」の場合は、

「当該木型等を改めて使用する予定がない」状態になったら即座に保管期間が開始する

のですから、いずれの場合も最終発注から1年間は無償保管させられることになりません。

でも確かに、「1」の、

「金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないにもかかわらず,下請事業者に当該金型等を無償で保管させていた事例」

というのをぼーっと読むと、逆に1年間は無償保管させられそうな気にもなりますが、実際の勧告例では前述のとおり調査時点からさかのぼって1年間発注がなければ無償保管と認定しているのであって、最終発注から1年間の無償保管を認めているわけではありません。

気を付けましょう。

ざっくりとまとめるなら、

①今後発注が見込まれないなら直ちに保管料を支払う(Q46(※2)「2」「3」「4」)、

②「発注するかも」と思いながら1年間過ぎてしまったときには、さかのぼって1年分支払う(同「1」)、

③量産期間が過ぎたら保管料を支払う(下請法運用基準)、

といったところかと思います。

2025年12月 7日 (日)

中小受託法テキストQ64(運送以外の役務の負担)とQ65(知的財産権の譲渡)との矛盾?

中小受託法テキストQ64では、

「Q64: 運送に係る役務提供委託又は特定運送委託において、中小受託事業者に対して運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることを含んで発注する場合に、「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を4条明示することは問題ないか。

A: 運送に係る役務提供委託又は特定運送委託をした委託事業者が、

中小受託事業者に対し、

運送の役務を提供させることに加えて、

運送の役務以外の役務

(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)

を提供させることを含んで発注する場合、

委託事業者は、

「中小受託事業者の給付の内容」及び「製造委託等代金の額」を4条明示するに当たって、

運送の役務の内容及びその対価を、運送の役務以外の役務の内容及びその対価と区別して明示しなければならないため、

「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を明示することは認められない。

なお、運送の役務以外の役務を提供させることが不当な経済上の利益の提供要請として本法上問題となることがあるため、

委託事業者は、

本法違反を未然に防止するため、

運送の役務以外の役務の内容及びその対価等の条件についてあらかじめ明確にして、

中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、

その具体的な内容についても発注時点で明示しておくことが必要である。」

という設問が新設されました。

これはこれで大事なことをいっているのですが、問題は次のQ65との矛盾です。

すなわち、Q65(実質的には令和6年下請法テキストQ46と同じ)では、

「Q65: 情報成果物作成委託において、

知的財産権が

委託事業者又は中小受託事業者に発生する場合、

いずれの場合においても、

契約において

知的財産権は委託事業者に帰属することとしている。

この場合も4条明示する際にその旨明示する必要があるか。

A: 中小受託事業者に知的財産権が発生する場合、

「給付の内容」に含めて当該知的財産権を委託事業者に譲渡・許諾させるのであれば、

「給付の内容」の一部として、

当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を4条明示する必要がある。

また、その場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を代金に加える必要がある。」

とされています。

つまり、Q65では、知的財産権の対価は「代金に加える必要がある」とされているだけで、Q64のように、情報成果物作成の対価と「区別して明示しなければならない」とはされていません。

まず言えることは、情報成果物作成委託の場合に知的財産権の額を別に分けて書く必要がないことはQ64から明らかというべきでしょう。

人によっては、

「Q65では『代金に加える必要がある』と言っているだけで、『区別して明示しなければならない』と言っていないわけではないのでは?」

という人がいるかもしれませんが、そんな厳密な読み方をしていたら、基本的におおらかな発想で書かれている下請法テキストは論理矛盾だらけで崩壊してしまいます。

というわけで、Q64ができたからといってそれにQ65を引き寄せて、知的財産権の対価を分けて書かないといけないと考える必要はないと思います。

実際問題としても、情報成果物に含まれる知的財産権なんて、財産的価値はほとんどないか、算定困難なことがほとんどですから、あえて書こうとすると、なかなか大変です。

これに対して、運送に関連する運送以外の役務は、ふつうの役務ですから、対価を分けて書くことに支障はないはずです。

というわけで、Q64とQ65では、対価を分けて書く容易性と必要性のうえで顕著な差があるので、このような差が設けられたことにも、実質的な理由があるとは一応いえそうです。

ですが、下請法は形式的に解釈することが基本ですし、明示規則(今の3条規則)に何も書いていないことをはたして解釈で回していってしまっていいものか、もう少し論理的な説明をすべきでないか、という点も問題となります。

1つの可能性は、別途対価を請求する対象それ自体が下請法の対象かどうかで区別する、という考え方です。(下に述べるとおり、私は否定的です。)

この考え方からすると、Q64の、運送以外の役務は、それ自体は(役務の再委託でないかぎり)下請法の対象にはならないため、 下請法の対象とは別に分けて記載することになります。

これに対して、Q65は、情報成果物が含む知的財産権の譲渡はそれ自体下請法の対象なので、あえて分けて書く必要はなく合算してよい、というように整理します。

ですが、この説明は、「情報成果物が含む知的財産権の譲渡はそれ自体下請法の対象」だという説明自体に難があります。

というのは、知的財産権の譲渡自体は下請法の対象ではないといわざるをえないからです。

知的財産権が何らかの有体物(製品でも、報告書でも)と一体化(化体)していれば、情報成果「物」といえますが、そのような有体物と一体化していないたんなる情報(知的財産権)は、情報成果物にはあたりようがありません。

というわけで、この考え方は取りえません。

そのように考えると、Q64とQ65は、論理的には矛盾すると言わざるを得ず、実務上の別途記載の容易性と必要性の差にかんがみて、差が設けられている、ということにすぎないのだと思われます。

あるいは、公取委は、Q65はあとで付け加えたので、Q64との矛盾点なんて気にもしていない(気づいていない)だけなのかもしれません。

2025年12月 6日 (土)

着荷主の指示による委託外作業に関する中小受託法テキストQ42の物足りなさ

中小受託法テキストQ42では、

「Q42: 当社が特定運送委託した中小受託事業者が、到達地において、当社の取引先(着荷主)の要請により、委託内容にない荷下ろし作業や長時間の荷待ちを無償で行う場合があるが、発注者である当社が本法を遵守するために留意すべき点はなにか。」

という質問に対して、

「A: 運送の役務を提供する中小受託事業者が、着荷主側の要請により委託内容にはない荷役又は荷待ちを余儀なくされた場合であっても、例えば、着荷主側から荷役等の要請を受けた当該中小受託事業者が委託事業者に対してその対応の要否を確認し、委託事業者の要請に基づいて荷役又は荷待ちを行った場合など、取引の実態に照らして、委託事業者が中小受託事業者に対し経済上の利益を「提供させ」、又は給付の内容を「変更させ」たといえる場合には、不当な経済上の利益の提供要請又は不当な給付内容の変更として本法上問題となることがある。

本法違反を未然に防止するためには、委託事業者は、中小受託事業者との間で、着荷主が当該中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合に当該中小受託事者が提供するべき役務があるときは、その内容及び対価等の条件についてあらかじめ明確にして、中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、その具体的な内容及び対価等の条件について発注時点で明示しておくことが必要である(※対価については算定方法による明示も可能)。」

と回答されています。

この前半の部分が言っていることはわかるのですが、論理的に後半とつながっていないと思います。

前半で、

「例えば、着荷主側から荷役等の要請を受けた当該中小受託事業者が委託事業者に対してその対応の要否を確認し、委託事業者の要請に基づいて荷役又は荷待ちを行った場合など、取引の実態に照らして、委託事業者が中小受託事業者に対し経済上の利益を「提供させ」、又は給付の内容を「変更させ」たといえる場合」

に問題となるといえば、違反を避けるための最も確実な回答は、中小受託事業者からの対応の要否については回答しない(「うちは知らん」という)、ということになるのではないでしょうか。

前半のようにいうのであれば、後半はこのようにはっきりと言ってあげないと伝わりません。

さらにいえば、どれだけ、

「委託事業者〔が〕、中小受託事業者との間で、着荷主が当該中小受託事業者に対して荷役等の要請をした場合に当該中小受託事者が提供するべき役務があるときは、その内容及び対価等の条件についてあらかじめ明確にして、中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、その具体的な内容及び対価等の条件について発注時点で明示

したとしても、着荷主が「委託内容にない荷下ろし作業や長時間の荷待ち 」を中小受託事業者にさせようとすることは防止できないと思います。

着荷主にしてみれば、委託事業者と中小受託事業者との間にそのような「明示」があったかとか、「委託内容」の詳細なんて、知りようもないからです。

なので、必要なのは中小受託事業者に対する取引条件の「明示」ではなく、中小受託事業者に「もし着荷主から委託内容にない荷下ろし作業を依頼されても、やらなくていいよ」とはっきり言ってあげることではないかと思います。

あるいは、こちらのほうをお勧めしますが、発荷主から着荷主に対して、運送業者への委託内容を伝えて、どこまで運送業者にやってもらえるのか、どこからはやってもらえないのかを、あらかじめきちんと伝えておくことだと思います。

そうでなく、上記回答の後半のような対応(発荷主から運送業者への取引条件の明示を求める対応)だと、結局、諾否の判断を全部運送業者に丸投げ、ということになってしまいます。

ひょっとしたら公取委は、「着荷主と運送業者との間には取引はないのだから取引上の優劣関係もなく、運送業者は委託の範囲外だと思えば容易に断れるはずだ(断れないのは初荷主が取引条件を明示しないからだ)」という発想なのかもしれません。

そうでないと、「発荷主から運送業者に取引条件を明示していれば問題は起こらないはずだ」といった上記回答後半部分のような発想にはならないと思います。

というわけで、発荷主としては、もしこのような事態が起こったら、着荷主に対してはっきりと、「委託の範囲外なのでやらせないでください」と伝えるのが、リスク回避としては最も適当だと思います。

少なくとも、上記回答後半部分のような対応では、運送業者から問い合わせがあったときの対応にはなっていません。

別の角度から言うと、前半部分から論理的に、運送業者からの問い合わせに「うちは知らん」といった回答をすることは、リスクがあると思います。

というのは、「うちは知らん」という回答は、少なくとも言外に、

「お前(運送業者)が着荷主と話し合って決めろ」

という意味を含んでおり、これだけで不当な経済上の利益の提供要請があったと認定される可能性があるからです。

スーパーが納入業者に協賛金の提供を依頼する場合、依頼する側としては、「あくまで任意であり、協力してくれる人だけ協力してくれればいい」と思って依頼書を送ることがありますが、それでも十分濫用になります。

ということは、

「うちは知らん」

≒「お前(運送業者)が着荷主と話し合って決めろ」

≒お前がやりたいならやれ

=利益提供の依頼あり

というように認定される可能性が高い、ということです。

というわけで、もし運送業者からこのような問い合わせを受けたら、発荷主は、着荷主に電話を変わってもらって、「それは委託の内容に入っていないのでやらせないでください。」と伝えるべきでしょう。

このようなことをいろいろ考えてみて感じるのは、特定運送委託は発荷主と運送業者との力関係だけを考えていて、着荷主と運送業者との力関係や、発荷主と着荷主との力関係を考慮していないな、ということです。

中小受託法は、資本金と従業員数で適用関係を決めていることもあって、取引関係を(優越的地位の濫用などと比べて)形式的に認定する傾向がありますが、実態に即した柔軟な解釈(とQ&A)も、もっとあっていいのではないかという気がします。

2025年12月 5日 (金)

運送品の所有権と役務提供委託との関係に関する下請法テキスト旧Q22の削除について

令和6年版の下請法テキストQ22では、

「Q22: 鉄鋼メーカーが顧客への製品の運送を運送業者に委託した場合には、本法の対象となるか。

A: 鉄鋼メーカーが顧客渡しの契約で製品を販売している場合など、

運送中の製品の所有権が鉄鋼メーカーにあるときは、

鉄鋼メーカーは自己の所有物の運送を他の事業者に委託しているに過ぎず、

当該役務は自ら用いる役務であるので、役務提供委託には該当せず、本法の対象とはならない。

一方、運送中の製品の所有権が既に顧客に移っている場合で、顧客から有償で運送を請け負う場合には、

他者に提供する役務を他の事業者に委託することになるので、役務提供委託に該当する。」

という設問があったのですが、最新の令和7年版からは削除されています。

私は以前から、運送中の所有権の帰属で下請法の適用の有無が決まるなんておかしいと言い続けていたので、まちがったQ&Aが削除されたのは喜ばしい限りです。

とはいえ、これは公取委が間違いを認めて削除したというよりは、特定運送委託が中小受託法の対象になったからなのでしょう。

改正後の中小受託法で、

「鉄鋼メーカーが顧客への製品の運送を運送業者に委託した場合には、本法の対象となるか。」

なんて質問したら、対象になるに決まっています。

特定運送委託の定義(2条5項)をみても、

「事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品

当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方

(当該相手方が指定する者を含む。)

に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

であり、販売の目的物であれ製造の目的物であれ、運送中の目的物の所有権の帰属を問題にしていないことはあきらかでしょう。

運送中の目的物の所有権が運送委託者にあったとしても、その目的物の所有権が最終的に(たとえば割賦代金完済時に)顧客に帰属するのであれば、それを「販売・・・の目的物」といって何の支障もないでしょう。

(これに対して、一貫して所有権が運送委託者にあるのであれば、「販売」とはいえず、特定運送委託にはあたらないのでしょう。)

製造の目的物の場合も同じでしょう。

さらに、修理の目的物の運送も特定運送委託にあたることからすれば(修理の目的物の所有権は一貫して着荷主にある)、なおさら、販売の目的物の運送中の所有権を云々するのはナンセンスでしょう。

情報成果物を化体した物品についても、物品自体の所有権は問わないのは明らかでしょう。

(さらにいえば、情報成果物の場合には、情報成果物にかかる知的財産権の帰属も中小受託法の適用の有無には関係ありません。)

ただ、仮にQ22が削除された理由が特定運送委託が中小受託法の対象になったからであり、運送中の目的物の所有権が顧客(着荷主)に帰属する場合には役務提供委託に該当するという立場を公取が変えていないとすると、特定運送委託と役務提供委託の重畳適用という、理屈としては興味深い論点が出てきます。

これについてはまた後日考えたいと思います。

2025年12月 4日 (木)

レンタル業者がレンタル品を顧客に送る運送の委託と特定運送委託(中小受託法)

来年1月から施行される中小受託法では、特定運送委託が中小受託法の対象に追加されましたが、レンタル業者がお客さんにレンタル品を送るのを運送業者に委託しても特定運送委託には該当しません。

というのは、特定運送委託は、中小受託法2条5項で、

「事業者が業として行う販売

業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品

又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品

の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

と定義されていて、運ばれる物は、委託者が、

販売する物品か、

製造を請け負った物品か、

修理を請け負った物品か、

作成を請け負った情報成果物の化体された物品

に限られており、委託者(レンタル業者)が賃貸した物品は対象になっていないからです。

そもそも特定運送委託の対象がどうしてこの4つに限られいているのかは、よくわかりません。

想像するに、役務提供委託には役務の再委託だけが含まれ、自己使用の役務は含まれないこととの整合性をとるために、発荷主(委託者)は実質的には着荷主(顧客)から運送の委託を受けたもので実質的には再委託なのだ、という理屈に引きずられて、再委託なんだから発荷主と着荷主の間の取引も下請法対象取引のほうが据わりががいいかな、と漠然と考えてしまったのではないかと思います。

あるいは、製造委託とか情報成果物作成委託とかで馴染みのある用語をなんとなく使いたかっただけなのかもしれません。

でも、特定運送委託の対象の物品が下請法対象取引の成果物でなければならない必然性は、まったくないように思います。

レンタル業者が市場でレンタルしようとする商品を買うのはたんなる売買で「委託」ではないですし、特注のレンタル品を業者に作らせるのは販売目的の物品ではないので、同じ物を自ら業として製造しているのでないかぎり、やはり製造委託にはあたらないので、その意味では特定運送委託と一貫している(というとほめすぎで、「相似形である」というべきでしょうか。)とはいえます。

ただ、レンタル業者が商品を購入したり特注したりする場合には、商品の売手をどの範囲で保護すべきかどうかが問題なので、対象を販売目的と請負製造目的の商品の売手に限るというのも1つの割り切りとして合理性がありますが、運送委託の場合には、運送業者を保護すべきかどうかの問題なので、目的物が売買の対象なのかレンタルの対象なのかは関係がないように思います。

というわけで、特定運送委託の定義は不必要に複雑なだけで、たんに、

「事業者が業として有償で物品を供給又は提供する取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する当該物品の運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

くらいでよかったんではないかと思います。

少なくとも、特定運送委託について類型1とか類型2とか切り分けて説明するのは、たんに複雑になるだけで、まったく必要ないように思います。

2025年11月18日 (火)

勧告と同時に支払遅延等の既往の行為への指導が公表された事例(佐藤商事ほか)

最近、下請法の勧告とともに指導が公表されるケースが出てきています。

たとえば、2025年4月21日の佐藤商事への勧告では、返品とともに、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア 佐藤商事は、下請事業者に対し、令和5年3月から令和6年2月までの間、最長で納品締切から5か月後に下請代金を支払う支払制度を採っていたため、下請事業者から商品を受領した後60日以内に下請代金を支払っていなかった。

この支払遅延による遅延利息の額は、総額3277万3102円である(下請事業者81名)。

イ 佐藤商事は、令和7年1月31日、下請事業者に対し、当該遅延利息の額を支払っている。

⑵ 指導の概要

今後、前記⑴と同様の行為を行わないこと。

⑶ 佐藤商事は、前記⑵に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。」

という支払遅延への指導が公表されています。

この点について公正取引899号103頁の担当官解説では、

「本件の支払遅延を勧告ではなく指導の措置としたことは、下請法7条の勧告に係る規定から生じたものである。

支払遅延は、下請法第7条第1項の規定上、下請代金の支払を行っておらず遅延が継続している場合に勧告ができきるものであるところ、佐藤商事は遅延した下請代金の支払を行っており、遅延が継続している場合には該当しなかったことから、指導となったものである。

なお、通常は指導事案の公表をしていないが、今回は、下請事業者が受ける不利益の程度などを勘案するとともに、本件指導事案の内容を公表することにより、事業者の予見可能性を高め違反の未然防止に資すると考え、公表したものである。」

と解説されています。

支払遅延が下請法違反であることは明確なので、「事業者の予見可能性を高め違反の未然防止に資する」というのは建前だと思います。

このような指導が公表されたのは、きっと、改正下請法の施行を見据えてのものではないかと思います。

さらにいえば、既往の行為への勧告を出せる点で改正下請法を先取りしていたフリーランス法では、支払遅延で勧告が出ていますので、それに寄せたものともいえます。

ということは、改正下請法(中小受託法)施行後は、支払遅延も勧告がなされる可能性が高いと予想されます。

法律でできるようになったのだから、執行するのがあたりまえ、ということなのでしょう。

ちょっと調べたかぎりでは、過去に2024年3月15日のビッグモーターへの勧告で指導が勧告に合わせて公表されたことがありましたが、あれは、会社自体のコンプライアンスが無茶苦茶で山ほど違反行為があったからであり、かなり例外的だったと思います。

上記担当官解説でも、「通常は指導事案の公表をしていない」とされているとおりです。

ですが、今回の佐藤商事の指導の公表は今後原則化し、来年1月1日の中小受託法施行後は支払遅延も勧告が原則になると予想すべきでしょう。

実際、2025年10月31日のトヨタ自動車東日本への勧告では、金型の無償保管の勧告とともに、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア トヨタ自動車東日本は、下請事業者に対し、納期を定めずに一括生産部品の製造を委託していたところ、下請事業者から一括生産部品の製造が完了した旨の報告を受けた後、速やかに当該一括生産部品を受領すべきであったにもかかわらず、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、遅くとも令和5年8月1日から令和7年3月31日までの間、合計777個の一括生産部品について、それぞれ納品指示を行い下請事業者から納品されるまで受領していなかった(下請事業者7名)。

イ トヨタ自動車東日本は、前記アの一括生産部品を全て受領し、下請事業者に対し、遅くとも令和7年5月30日までに、一括生産部品777個の下請代金相当額として93万1032円を支払っている。

⑵ 指導の概要

所要の改善措置を採るとともに、今後、下請法の規定に違反する行為を行わないこと。

⑶ トヨタ自動車東日本は、前記⑵に基づいて採った改善措置について、速やかに、文書をもって公正取引委員会に報告すること。」

という、受領拒否(下請法4条1項)への指導が公表されています。

受領拒否も、現行法では7条1項で、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号・・・に掲げる行為をしていると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の給付を受領・・・〔す〕べきことを勧告するものとする。」

と、既往の行為には勧告は出せない内容になっていますので、指導は支払遅延にかぎらないということでしょう。

ちなみに、納期を定めずに受領しないことについては、下請法運用基準第4の1⑵で、

「(2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請事業者の給付の受領を拒むことが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合又は下請事業者の給付に瑕疵等がある場合

〔中略)

イ 下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合

なお、次のような場合には、納期遅れを理由として受領を拒むことは認められない。

(ア) 3条書面に納期が明確に記載されていない等のため、納期遅れであることが明らかでない場合」

とされており、納期を定めずにいつまでも受領しない(好きな時に納品させる)のも、受領拒否というべきでしょう(同旨・長澤『解説と分析』339頁)。

さらに、2025年11月13日の三菱ふそうトラック・バスへの勧告でも、金型の無償保管に加えて、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア 三菱ふそうトラック・バスは、下請事業者に対し、令和6年1月から同年12月までの間、下請事業者の給付を受領した日から起算して60日以内に下請代金を支払っていなかった。

この支払遅延による遅延利息の額は、総額3579万1671円である(下請事業者6社)。

イ 三菱ふそうトラック・バスは、下請事業者に対し、当該遅延利息の額を支払っている。

⑵ 指導の概要

ア 前記⑴アの行為について、所要の改善措置を採ること。

イ 今後、下請法の規定に違反する行為を行わないこと。

⑶ 三菱ふそうトラック・バスは、前記⑵の指導に基づいて採った措置について、速やかに、文書をもって公正取引委員会に報告すること。」

と、支払遅延への指導が公表されています。

というわけで、今年いっぱいは既往の受領拒否や支払遅延への指導の公表がスタンダードになるとみるべきでしょう。

また改正下請法(中小受託法)の経過措置については、改正法附則2条で、

「(下請代金支払遅延等防止法の一部改正に伴う経過措置)

第二条 第一条の規定による改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

(以下この条において「新支払遅延等防止法」という。)

の規定は、

この法律の施行前にした行為であって

新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者

(同項第一号から第四号まで〔注・資本金基準〕に該当する者に限る。)

による

同条第一項に規定する製造委託

(同項に規定する型

(金型を除く。)

又は

同項に規定する工具の製造に係るものに限る。)

及び同条第五項に規定する特定運送委託

並びに同条第八項に規定する委託事業者

(同項第五号及び第六号〔注・従業員基準)に該当する者に限る。)

による同条第六項に規定する製造委託等に該当するものについては、

適用しない

2 支払遅延等防止法第四条〔4条書面〕、第五条〔禁止行為〕、第六条第二項〔減額の遅延利息〕及び第十条〔勧告〕の規定は、

この法律の施行後にした新支払遅延等防止法第二条第六項に規定する製造委託等について適用し、

この法律の施行前にした第一条の規定による改正前の下請代金支払遅延等防止法

(次項において「旧支払遅延等防止法」という。)

第二条第五項に規定する製造委託等については、なお従前の例による。

3 この法律の施行前に旧支払遅延等防止法第七条の規定によりされた勧告

(この法律の施行後に前項の規定によりなお従前の例によりされた勧告を含む。)

は、新支払遅延等防止法第十条の規定によりされた勧告とみなす。」

とされていて、附則2条2項で勧告については施行前にした行為については従前の例による(旧法が適用される)とされているので、改正下請法(中小受託法)施行後もしばらくは現行の指導+公表の実務が続くものと思われます。

では、違反行為が改正法施行前後をまたいで行われた時はどうなるのかという問題が浮かびますが、おそらく、改正法施行前の行為については指導+公表がなされ、改正後の行為については既往の行為に対する勧告がなされるのではないか、と予想されます。

あと気になるのは、上記各事例は他の違反事実に対する勧告と合わせて指導が公表されていますが、新法下で既往の支払遅延単体、既往の受領拒否単体で勧告がなされるのかどうかです。

(現行法下では、さすがに、勧告もないのに既往の支払遅延単体への指導や既往の受領拒否単体への指導が公表されることはないのではないかと思います。実際にもありません。

ちなみに、公取委のプレスリリースの表題が「~勧告について」で終わるのは勧告だけで、「~勧告について」で終わるのは、勧告に指導とか申入れとかがくっついています。)

この点は、どっちもありえそうな気もしますが、実務的には、フリーランス法と同様、既往の支払遅延単体に対する勧告もありうると考えておくべきでしょう。

2025年11月17日 (月)

中小受託法運用基準パブコメ254番(割引を要する決済手段の適否)を出したのは私です。

中小受託法運用基準パブコメ254番で、

「運用基準改正案第4の2⑸で、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5条1項2号)

の例として、

「①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、・・・割引を受け・・・る必要があるもの」

が挙げられ、さらに、

「他方、満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、

委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、

『当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの』

として取り扱う。」

としているのは、改正法5 条1項2号の明文に反すると考える。

すなわち、改正法5 条1 項2 号において、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」による支払が禁じられているのは、「金銭と引き換える」(=割引をする)ことを要する支払手段であること自体は許容しつつ、その引き換え(=割引)が「困難であるもの」に限りこれを禁じるという意味にしか読めない。

例えば、金銭と引き換えることが容易なものが「金銭と引き換えることが困難であるもの」に該当しないことは、文言上明らかである。

それにもかかわらず、改正運用基準案のように、「割引を受け・・・る必要がある〔支払手段〕」が当然に「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」に該当すると解してしまうと、そもそも「割引を受け・・・る必要がある」(=金銭と引き換える必要がある)だけで当然に「金銭と引き換えることが困難である」ということになってしまい、明らかに文言解釈の範囲を超えている。

同様に、改正運用基準案が採用する、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5 条1 項2 号)

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

であるとする解釈は、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」を「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」と読み替えており、文言解釈の範囲を超えている。

そもそも、第217 回国会参議院経済産業委員会令和7 年5 月13 日において、貴委員会向井康二参考人は、

「今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、〔①〕支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によっては〔②〕その手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」

という答弁をしており、①下請代金の支払期日に満額が得られる支払手段(=決済日が下請代金の支払期日以前の支払手段)が認められることに加えて、さらに、②下請代金の支払期日に満額が得られるような決済日を設定しない支払手段であっても、割引手数料を発注者が負担するものであれば認められる、という趣旨の答弁をしている。運用基準案はかかる国会答弁に反する。

よって、運用基準案第4の2⑸は全部削除されるべきと考える。」

というコメントを出しました。

これに対する公取の回答は、

「No.253 の御意見に対する考え方を御参照ください。」

とあり、253番への回答は、

「本規定の趣旨は、国会でも御審議いただいたとおり

中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにするものであり、

本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。

運用基準の内容は、本規定の趣旨に従い、当委員会で運用していく上での考え方を検討し、お示ししたものであるため、原案どおりとします。」

というものです。

でも、

国会でも御審議いただいたとおり

とおっしゃいますが、国会答弁では運用基準と正反対の答弁をしていたのですから、国会で審議したことは運用基準を正当化する理由にはならず、むしろ運用基準を否定する理由になるというべきでしょう。

それから、「本規定の趣旨」が「中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにする」ものであるということから、

「本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。」

という解釈を導くのも、まったく論理的ではありません。

支払期日に・・・現金を確実に受領」できることが5条1項2号の趣旨なら、むしろ割引という行為を要したって(「割引」という行為のためにその支払手段が金銭と「同等の経済的効果」を有すると評価できなくなったって)、支払期日に現金を確実に受領できるならOKだ、という結論になるべきでしょう。

ちなみに、パブコメで引用した部分の少し前で向井参考人は、

「まず、この法律では、支払期日というものが定める義務があります。支払期日につきましては、例えば部品を納めまして相手方が受領いたしますと、それから六十日以内の期間におきまして代金の支払期日が定められるということでございます。この支払期日におきまして、例えば百万円の取引をしたといたしますと、百万円を支払わないと、この法律上は違反になるということでございます。

一方で、割引困難な手形ということで、手形で払う場合によりますと、その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということでございまして、これは受注者にとりましては不利益になるのではないかというふうに考えておるところでございます。

今回の改正法におきましては、約束手形を禁止をするということとともに、例えば電子記録債権とかファクタリング、そういうものについては禁止をしないわけでございますが、これで払う場合には、その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めないというようなルールにするということでございます。」

という答弁をしており、改正で問題視したのは、

その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということ」

であり、それへの対応として改正法では、

「その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めない」

ルールとした、ということであり、満期までの金利だけを問題視していることがあきらかです。

そんな国会答弁をしておきながら、突如として運用基準で満期までの金利ではなくて、割引という行為を要することが問題なんだと言い出すなんて、国会軽視も甚だしいと思います。

国民としては、公正取引委員会がこのような国会無視の役所であることは、十分記憶にとどめておくべきでしょう。

2025年10月 7日 (火)

中小受託法5条2項4号の協議拒否に対する勧告についての予想

来年1月1日に施行される中小受託法5条2項4号では、

「中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議
を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の
提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。」

により中小受託事業者の利益を不当に害してはいけないとされています。

ちょっと気になるのが、実際、この条項違反として勧告を出すしたら、ちょっと面倒なことにならないか、ということです。

というのは、勧告を出すときは、通常、違反行為の相手方である下請事業者が特定されます。

ということは、協議拒否についても、相手方を特定することが予想されます。

そうすると、「中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めた」ことの立証も、公取委がしないといけないことになります(条文に書いてあるのだから、当たり前です)。

でも、この、「協議を求めた」ことの立証って、けっこう大変ではないでしょうか。

というのは、代金減額とかだと、「ナントカ協力金」みたいな形で下請代金からの減額がされていたら、それだけで公取委は違反を認定できます。

でも、この「協議を求めた」という事実は、下請事業者の側から積極的に言ってもらわないと、公取委にもわからないのではないでしょうか。

書面調査や立入検査で「協議を求めた」ことが判明することもあるのかもしれませんが、他の違反行為と異なり、3条書面や5条書類からは、協議を求められた事実が出てくるとは思えません。

しかも、公取委が勧告を打とうとして、下請事業者に「あなたは値上げの協議を求めましたか?」と尋ねても、親事業者に気兼ねして、なかなか協議の申し出の証拠を出してくれないのではないか、ということも懸念されます。

さらに、最初から勧告を狙って協議を申し入れる下請事業者はいないでしょうから、協議の申し入れの証拠がちゃんと残っているのかも、微妙だと思います。

この点、中小受託法運用基準案第4・9⑶では、

「なお、「協議を求めた」とは、書面か口頭かを問わず、明示的に協議を求める場合のほか、協議を希望する意図が客観的に認められる場合をいう。」

とされていますが、「明示的に協議を求め」た証拠が残っていればいいですが、「協議を希望する意図が客観的に認められる」というのは、どうやって認定するのでしょう?

しかも、この「協議を希望する意図が客観的に認められる」というので勧告を出すとしたら、親事業者によっては、事実認定を争うのではいでしょうか。

ここで、ふと気が付きましたが、「協議を希望する意図が客観的に認められる」というだけで「協議を求めた」と認定するのは、さすがに無理ではないでしょうか。

「協議を希望する意図」なんて、あくまで意図なのですから、下請事業者の内心のことです。

「協議を求めた」というためには、その意図が親事業者に対して表出される必要があることはあきらかでしょう。

(パブコメしとけばよかったと後悔。だれかしていることを望みます。)

まあ所詮、勧告は裁判で争えませんから、公取委がどんな無茶な事実認定をしても親事業者は争いようがないので、公取委はやろうと思えば何でもできるのですが、公取委にも良心があるでしょうから、さすがにそこまでえげつないことはしないのではないかとも思われます。

というわけで、「協議を求めた」ことの立証はそれなりに大変かもしれず、被害者がせいぜい1社とか、2,3社にとどまる、ということになるのではないかと予想されます。

ただ、この協議拒否は、減額分の返金とか金銭的な実害の回復ではなく、もともと牽制的な効果を期待しているだけですから(そもそも協議拒否しただけで金銭的な実害があるともいえません)、被害者1社でも、公取委にとってはぜんぜんかまわないのかもしれません。

次に気になるのは、勧告の主文はどうなるのか、ということです。

この点、勧告に関する中小受託法10条では、

「(勧告)

第十条 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為があると認めるときは、

当該行為をした委託事業者(委託事業者が合併により消滅した場合にあつては合併後存続し、又は合併により設立された法人、委託事業者の分割により当該行為に係る事業の全部又は一部の承継があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を承継した法人、委託事業者の当該行為に係る事業の全部又は一部の譲渡があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を譲り受けた事業者。次項及び次条において「違反委託事業者」という。)に対し、

速やかにその中小受託事業者の給付を受領し、その製造委託等代金若しくはその減じた額若しくは第六条の規定による遅延利息を支払い、その給付に係る物を再び引き取り、その製造委託等代金の額を引き上げ、若しくはその購入させた物を引き取るべきこと若しくはその不利益な取扱いをやめるべきこと又はその中小受託事業者の利益を保護するための措置をとるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。

2 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、違反委託事
業者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」

と規定されていますが、ご覧のとおり、協議拒否を念頭においた勧告内容になっていません。

しいて言えば、「その中小受託事業者の利益を保護するための措置をとるべきこと」の部分が該当しそうですが、何も具体的なことは書いてありません。

そこでおそらく、「親事業者は、中小受託事業者から求めのあった製造委託等代金の額に関する協議に応じること。」みたいな主文になるのかな、と予想されます。

そこでまた違反事実の立証の話に戻ってしまいますが、もし親事業者が「ちゃんと協議には応じた」と反論したら、どうするのでしょう?

この点については、ガイドライン案の第4・9⑶では、

「(3) 「中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず」とは、

中小受託事業者からの協議の求めを明示的に拒む場合のほか、

例えば、協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合を含む。」

とされていますが、これを素直に読む限り、「無視」も「先延ばし」もせず、ともかく協議の席についたり、協議のメールのやり取りを繰り返していれば、「協議に応じず」とは認定されないことになります。

(まあそれで下請事業者の保護として十分なのかは疑問もありますが、条文には忠実な解釈なので、しかたないでしょう。)

2025年4月18日の衆議院経済産業委員会の議事録を見ると、向井参事官が、

「この協議に応じない一方的な代金決定というものは、実質的な協議を行わずに価格を決定することをいいまして、協議の求めを拒む、無視する、又は繰り返し先延ばしにしたりして協議に応じずに価格を決定をするということや、形式的な協議のみで必要な説明などを行わずに価格を決定する、そういうものが考えられるわけでございます。」

という答弁をされているので、「形式的な協議のみで必要な説明などを行わず」というのも加わっていますが、何をもって「形式的」な協議というのか、どれだけ説明していれば「必要な説明」といえるのか(たとえば、親事業者が、「その値段ではうちの利益が出ない」という説明は「必要な説明」なのか)、といったことが、延々と問題になると思われます。

そうすると、明らかに形だけの、アリバイ作りのための協議であれば、「形式的な協議のみで必要な説明などを行わず」で拾えそうですが、それでもなお、「協議の実施を困難にさせる」と認定するのは、なかなか難しいように思います。

そもそも取引の実態を知らない公取委が、当事者の協議の経過を見て、これは実質的な協議だ、これはアリバイ作りの「形式的」な協議だ、「必要な説明」をしていない、なんて、判断できるのでしょうか?

そのような判断をできるためには、下請事業者がかなり積極的に協力しないと難しいように思われますが、それはまた、下請事業者にとってハードルが高いかもしれません。

というわけで、「協議に応じず」の認定も、なかなかハードルが高いのではないかと思われます。

と、このように考えていくと、いちおう中小受託法の内容を知って対応を考えている親事業者の場合は、この協議拒否についてはいかようにでも対応できそうであり、現実的には、そもそも下請法が改正されれて協議義務が入ったことを知らなかった、という場合が、まずはターゲットになりそうな気もします。

逆に言えば、法改正をきちんと社内で周知しておくことが重要、ということでしょう。

おそらく協議拒否の勧告が出るのは今から1年後くらいではないかと思われますが、今から首を長くして待っておきたいと思います。

2025年10月 6日 (月)

NBL2025年9月号(1297号)の中小受託法上の一括決済方式に関する向井審議官のインタビューQ9について

掲題のインタビューのQ9において、一括決済方式等で下請事業者が割引を受ける必要があるものは金銭による支払と同等の経済上の効果を生じさせるとはいえないと改正下請法ガイドラインで規定されていることに関して、インタビュアーの長澤先生が、

「改正法の国会審議においては、『手数料分を発注者が負担をする』 ことによって、違反とはならない余地があるように答弁がなされておりました。このご答弁と先ほどの解釈〔注・割引を要する一括決済方式はそれだけで違法であるとの解釈〕との関係は、どのように理解すればよろしいでしょうか?」

と質問されたのに対して、 向井審議官が、

「本規定の趣旨は、国会でもご審議いただいたとおり、支払期日に、受注者の負担なく、代金の満額を現金で受領できるようにするものであり、本規定の趣旨に従い、当委員会で運用していく上での考え方を改めて検討した結果、今回の運用法準(案)をお示しするに至りました。」

と回答されています。

意訳すると、

「国会ではああいう答弁をしたけれど、あとでよく考えたらまずかったので、国会答弁とは違う解釈に変えた。」

ということのようです。

長澤先生は上品なのでそういう言い方はされていませんが、私に言わせれば、これはあんまりにもひどいんじゃないでしょうか?

(まあ、素直に開き直っているという意味では、見苦しい言い訳をするよりは潔くてよいとは思いますが。)

この論点については以前もこのブログで書きましたので、向井審議官の国会答弁等の背景についてはそちらをご覧いただければと思いますが、向井審議官の問題の答弁の個所は、

「今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」

という部分です。

これだけはっきり答弁していながら、運用基準では真逆のことを書いて、いったいどう(言い訳)するんだろうと思っていたら、こういうことなんだそうです。

向井審議官は、「国会でもご審議いただいたとおり」とおっしゃいますが、その審議は審議官ご自身の答弁を前提になされていたわけです。

なので、「国会でもご審議いただいたとおり」というのは、何の言い訳にもなりません。

国会答弁と正反対のことを役所がやるなんて、私は聞いたことがありません。

国会での政府答弁解釈を裁判所が覆した例としては、映画の著作物に関する著作権の延長の有無が問題となったシェーン事件判決(最高裁平成19年12月18日判決)が有名ですが、法令解釈は裁判所の専権ですから(憲法76条1項)、これはあたりまえのことです。

これに対して、法律を誠実に執行すべき内閣(憲法73条1号)のもとで行政をおこなう行政機関が、国会答弁と異なる運用基準を定めるなんて、国権の最高機関(憲法41条)である国会を、あまりに軽視しすぎではないでしょうか?

この問題は、日本国家のガバナンスの根幹にかかわる重大な問題だと思います。決して看過してはなりません。

公取委は、中小受託法ガイドライン成案では、一括決済方式に関する上記解釈を撤回すべきです。

最後になりますが、このQ9を質問していただいた長澤先生には感謝の意を表しますとともに、それに回答して雑誌に掲載することに同意いただいた向井審議官にも、その半分くらいは、感謝しております。

2025年7月21日 (月)

中小受託法(現行下請法)運用基準案の一括決済方式または電子記録債権による支払に関する記述の疑問

2025年7月16日に、中小受託法(現行下請法)運用基準案が公表され、パブコメに付されました。

そのp12で、中小受託法5条1項2号(支払遅延)の、

「二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと

(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること

並びに

金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること

を含む。)。」

の、

当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの

の部分について、

「「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段をいう。」

と定義しなおしたあと、その具体例として、

「例えば、

①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、

中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、・・・

割引を受け・・・る必要があるもの

②一括決済方式又は電子記録債権を使用する場合に、

中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等

を負担する必要があるもの

がこれに該当する。」

と説明されています。

さらにそのあとにダメ押しのように、

「満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、

委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

として取り扱う。」

と述べています。

しかし、そもそも同法5条1項2号の、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

を、

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

と解釈するのは、明らかに文言上無理だと思います。

ここで、5条1項2号の、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

というのは、いかにも長いので、

「当該製造委託等代金の支払期日」=X (例、2025年7月31日)

「当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」=Y (例、100万円)

と置くと、

「XまでにYと引き換えることが困難であるもの」

と書けます。

もっと短く書くと、

引換困難(X, Y)

でしょうか。

要は、違法かどうかは引換困難かどうかだけで決まります(引換困難性)。

これはどう読んでも、引換を要すること自体は認めたうえで、引換が困難なら違法で、困難でないなら適法、ということでしょう。

これに対して、

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

というのは、ちょっと言葉足らずなので、言葉を足すと、

当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭による支払を受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

ということでしょう。

次にこれも簡単に書くと、

XまでにYを受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

となるでしょう(非同等性)。

これもさらに短く書くと、

非同等(X, Y)

と書けます。

ここで、「同等の経済的効果」というのがいまいち不明確なので、運用基準案の具体例を見てみると、

「満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、・・・

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない」

認められない、とされています。

つまり、Xまでに割引(≒引換)を要する支払手段は、それだけで(=引換が容易かどうかにかかわらず)違法だ、と言っています。

このような運用基準案の解釈(=「XまでにYを受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」)が、5条1項2号の、

「XまでにYと引き換えることが困難であるもの」

という文言に反することは、あきらかです。

つまり、

非同等(X, Y)≠引換困難(X, Y)

であることは、あきらかです。

しかも、長澤先生が指摘されているように、公取委は国会答弁(第217回国会 参議院 経済産業委員会 第7号 令和7年5月13日)で、

「今回の改正法におきましては、約束手形を禁止をするということとともに、例えば電子記録債権とかファクタリング、そういうものについては禁止をしないわけでございますが、これで払う場合には、その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めないというようなルールにするということでございます。

ということで、今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」

という答弁をしており、運用基準案はこれと真っ向から反します。

(この「手数料分」というのは、やや不明確ですが、

「支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になる」

と言っていることからすると、

「支払期日に満額が得られるような満期を設定するか、

支払期日よりも後に満期を設定するのであれば、支払期日に満額が得られない分の割引手数料分を発注者が負担をするというような取引になる」

という意味だと解されますし、質問者の藤巻議員がこの答弁の前後でもっぱら金利(割引料)の話をしていることからしても、ここでの「手数料」は割引料のこととしか解せません。)

こんなふうに、条文の文言にも明らかに反し、国会答弁にも明らかに反するような解釈を運用基準で出すなんて、公取委は国会を何だと思っているのでしょうか?

もしこんな解釈を取りたかったなら、法案段階から、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること」

というような、現行法の割引困難手形に引きずられたようなわけのわからない文言ではなく、端的に、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに満期が到来しないものを使用すること」

あるいは、もう少し正確に、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該支払手段の支払期日が到来しないものを使用すること」

とでもすべきだったのです。

当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」の支払を受けられるものであることは、一部現金、一部電子記録債権等で支払う場合もありうることからすると、むしろ入れる必要はありません。

(ここで、改正法の文言では、「当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」という文言があるために、一部現金、一部電子記録債権等の支払が、仮に電子記録債権等の支払期日が下請代金の支払期日より前であっても、一切認められなくなってしまうのではないか、という問題があることに気づきました。これくらいは解釈で何とかなりそうですが、面白いのでちょっと考えてみます。)

このままでは、国会軽視も甚だしいと思います。

運用基準案は、何としても修正されるべきでしょう。

より以前の記事一覧

フォト
無料ブログはココログ