下請法

2019年8月 7日 (水)

下請代金の「減額」の意味

下請法4条1項3号では、下請代金の減額(下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること)が禁じられています。
この点については下請法テキスト(平成30年11月版)52頁では、
 
「親事業者が,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,発注時に定めた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり,「歩引き」や「リベート」等の減額の名目,方法,金額の多少を問わず,発注後いつの時点で減じても本法違反となる。」
 
と説明されています。
 
ここでは、減額の「名目、方法、金額の多少」は問わないとされていますが、これだけでは何が減額になるのか実ははっきりしません。
 
「下請代金の額を減ずること」ということの意味が、簡単そうで実は複雑だからです。
 
たとえば、親事業者と下請事業者との間に下請取引とは別のまっとうな取引があって、その取引の代金を支払うべき親事業者が当該代金額をたまたま同時期にあった下請代金債務と相殺することは、何の問題もありません。
 
たとえば、有償支給原材料等の早期決済の禁止では、早期決済に該当しないかぎり、有償支給原材料代金を下請代金額から「控除」することが、4条2項1号の規定上明文で認められています。
 
これを条文に照らして説明すると、有償支給原材料の対価を下請代金から「控除」しても、それは別の取引の代金を支払わせているだけで下請代金はいっさいいじっておらず、よって、「下請代金の額を減ずる」ことにはあたらない、ということなのでしょう。
 
ほかの取引の代金を支払わせただけで、下請代金は全額耳を揃えて払っている、という理屈です。
 
でも、別取引の代金を下請代金から控除して支払わせるというのがすべて「減額」にあたらないと言い切ってしまうのも(少なくとも公取委の運用を前提にすると)問題です。
 
というのは、そういう説明をすると、テキストに載っている減額の典型例である「協賛金」(p52)名目の減額の場合ですら、きちんと「協賛金提供契約書」があれば、減額にあたらなくなってしまうからです。
 
「物流及び情報システム使用料」(p52)なんて、きちんと「物流及び情報システム使用契約」があって、下請事業者による親事業者のシステム利用の実態があれば、下請代金の減額というのは無理だと思います。
 
おそらくポイントは、下請契約とは別の、「まっとうな」契約があるかどうか、でしょう。
 
「まっとうな」というのは、下請事業者が利益を得ている実態がある、という意味です。
 
おそらくこれまで減額とされたもので、たとえば「手数料」(p52)名目のものは、親事業者から下請事業者に対するサービス(「手数」)の提供の実態がなかった、ということなのだと思われます。
 
その観点からみると、テキストにあげられている名目のうち、
 
「歩引き」「リベート」「一括値引き」「基本割戻金」「協賛店値引」「協力値引き」「決算」「原価低減」「コストダウン協力金」「仕入歩引」「特別価格協力金」「不良品歩引き」「分引き」「値引き」
 
などは、その名前からして下請代金自体を減らす趣旨であることがあきらかなので、おそらくその名目どおりの契約書があっても、減額になるでしょう。
 
これに対して、
 
「本部手数料」「管理料」「手数料」「物流及び情報システム使用料」「物流手数料」「品質管理指導料」
 
は、もしこれらの名目が示唆するような、本部のサービス、管理サービス、何らかのサービス(「手数」)、物流及び情報システム提供サービス、物流サービス、品質管理指導サービスが親事業者から下請事業者に提供されている場合には、減らした分はこれらサービス提供の対価であって、下請代金の額を減じたわけではない、といえそうです。
 
ただおそらく実際には、これらの名目できちんと(まっとうに)サービスが提供されていることが少ない、ということなのでしょう。
 
あるいは、なんらかの「サービス」が提供されていても、
 
「そんなものはほんらい発注者が自分の負担でやるべきものであって、下請事業者に提供した「サービス」とはいえない」
 
と公取委に一蹴されてしまうかもしれません(たとえば、請求書処理手数料とか)。
 
以上に対して、あきらかな下請代金減額の趣旨でもなく、まっとうなサービスが提供されているわけでもない、という中間的なもの(あるいは、よく意味がわからないもの)として、
 
「一時金」「オープン新店」「協賛金」「協定販売促進費」「協力金」「協力費」「販売奨励金」「販売協力金」「年間」「割引料」
 
があります。
 
しかしこれらは、仮にきちんと契約があっても、下請事業者が一方的に金銭的負担を負うものであり、(形式的には下請代金自体を減らすというにはやや難があるものの)不合理な内容であるとして、あるいは、実質的には下請代金を減らしているものとして、減額にあたるとされるのだと思います。
 
あと、「支払手数料」というのがありますが、これは、親事業者が支払処理をしたことの手数料という意味でしょうが、支払処理をするのは支払者(親事業者)の当然の義務であってそれについて対価を請求できるようなものではない、ということで、やはり、契約書や支払処理業務の実態があっても、代金減額とされそうです。
 
実はこのように、減額か否かをわけるのは、控除相当額の発生根拠なのだと思います。
 
その意味で、テキストp52で、
 
「減額の名目,方法,金額の多少を問わず」
といっているのは、 実はあたりまえで、あまり意味がありません。
 
まとめると、
 
①実質が下請代金自体を減らす趣旨のもの→違法
 
②下請契約とは別のまっとうな商品役務の提供の対価分を控除するもの→適法
 
(ただし実務では「まっとう」でないことが多い。たとえば下請代金の一定のパーセンテージを控除するような場合、「まっとうな商品役務の提供の対価」がそのように計算されるわけがないので、通常は「まっとう」でないと認定されるか、①と認定される)
 
下請契約とは別に、対価関係にある商品役務を提供することなく一方的に金銭負担を求めるもの→あきらかに違法
 
ということなんだろうと思います。
 
つまり、減額は合意があっても違法で形式的に判断されるといいながら、実際には、けっこう実質的な判断が欠かせない(まっとうな合意ならむしろ減額にあたらないのが当然)、ということです。
 
ところが公取委の事件解説などを見ると、少なくともその字面からは、まっとうな商品役務の対価(②)でも控除できないかに読める解説がよくされています。
 
たとえば公正取引823号60頁(柿本に対する勧告の解説)では、
 
「・・・下請法第4条第1項第3号は、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減ずることを禁止しており、
 
名目、方法、金額の多少を問わず、また、
 
本件のように親事業者と下請事業者との間であらかじめ文書又は口頭による合意があったとしても
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り、下請代金の額を減ずる場合は下請法違反となる。」
 
と解説されています。
 
しかしこれを文字どおりに読むなら、まっとうな契約(たとえば原材料有償支給契約)があっても下請代金と相殺したら違反になると読めてしまいます。
 
もちろんそれはおかしいわけで、実際には、まっとうな契約かどうかが当然に(暗黙の内に)判断されていて、まっとうでないから違法だ、としているのです。
 
そして柿本の事件は、「販売協力金」として下請代金の一定率(1~5%)を引いていた、というものだったので、まっとうな(=下請事業者が対価を支払うべき商品役務の提供が親事業者によってなされている)契約でないことがあきらかでした。
 
もっといえば、下請代金自体を減額する趣旨だった(①)ということなのでしょう。
 
上の担当官解説は下請法テキストのままで、下請法の執行では下請法テキストが金科玉条ですので、こういう解説になるのはしょうがないんだろうなあと思いますが、きちんと論理的に説明すると、この解説はあやまりです。
 
でも、「まっとう」かどうかをいちいち判断しないといけないとはっきり書くと事業者が「まっとうな契約だ」と反論しだしてたいへんなので、そこは理由では書かないことにして、解説ではあたかも、まっとうな合意があってもだめであるかのような書きぶりになっているわけです。
 
でも中には、まっとうな契約かどうかにかかわらず、あらかじめ合意があってもぜったいにだめなのだと本気で信じている公取担当者もいるかもしれません。
 
これは、下請テキストが金科玉条であるだけにやっかいですが、そういうひとには「ちゃんと自分の頭で理屈を考えてね」というしかありません。
 
このような「まっとうな」契約かどうかでひょっとしたら微妙だったかもしれないのが、2012(平成24)年9月25日の日本生活協同組合連合会に対する勧告です。
 
この事件では生協連合会がいろいろな名目で減額しており、そのうち多くは下請代金の一定割合を差し引くあきらかな減額(上記①)だったり、一方的な金銭負担をもとめるもの(上記③)だったのですが、なかには、微妙なものもありました。
 
たとえば、勧告の、
 
個々の会員からの発注数量を事前に下請事業者に連絡する場合があるところ,
 
下請事業者に対し,
 
生産支援情報」として,
 
会員に対する納入数量を記載した書面のファクシミリによる送信枚数に一定額を乗じて得た額を負担するよう要請し,
 
この要請に応じた下請事業者について,平成22年9月から平成24年4月までの間,当該金額を,下請代金の額から差し引き又は別途支払わせていた。」
 
というのは、「生活支援情報」がまっとうな情報提供だったら、代金としてもファックス1枚あたりというサービスの従量制であったことからすると、まっとうな契約だったかもしれません。
 
何が微妙かというと、
 
「個々の会員〔=単位生協〕からの発注数量を事前に下請事業者に連絡する場合があるところ」
 
という部分だと思います。 
 
もしこの情報提供が、下請事業者が取引をするうえで絶対に必要なものだったら、発注数量を知らせるなんて発注者としてあたりまえのことなので、それを「サービス」と称して下請事業者に負担させるのは「まっとうな」サービスとはいえないと思います。
 
でも勧告では、「連絡する場合がある」なんですね。
 
つまり、受発注に必ず必要な情報は別途提供されていることがうかがわれ、ここでの「生活支援情報」は、あくまでオプション的なものであることがわかります。
 
そのようなオプション的なものであって、下請事業者の同意もあり、しかも内容がきちんと有益なものであったりしたら、これは「まっとうな」サービスだと言えたんではないかと思います。
 
ほかには、
 
「自らが作成する販促物の作成費用を確保するため,
 
下請事業者に対し,
 
「販促ツール作成費用」として,
 
一定額を負担するよう要請し,この要請に応じた下請事業者について,平成22年9月から平成24年4月までの間,当該金額を,下請代金の額から差し引き又は別途支払わせていた。 」
 
というのがあります。
 
この「販促ツール作成費用」がもし、当該下請事業者の商品の販促ツールを作成する費用だったら、むしろ「まっとうな」契約であることがあきらかだと思います。
 
でもその額の定め方が「一定額」ということなので、たぶん、そういう、自己(下請事業者)の商品の販促ツール作成費用だったのではなくて、生協の販促ツール費用の全額または一部の額を適当に下請事業者にわりふっていたんではないかと思います。
 
このように、ほんらいはいろいろと実質的な判断がなされていたはずなのですが、ざんねんなことに、担当官解説(公正取引750号73頁)では、
 
「日本生協連は、これらの名目による減額を行うに当たり、いずれにおいても、事前に下請事業者から合意を得ていたが、
 
下請法においては、
 
仮に親事業者と下請事業者との間で事前に合意があったとしても
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減ずる行為は、
 
下請法第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する減額として問題となる。」
 
と、合意の内実はとわないかのような紋切り型の説明がなされています。
 
事案の解決としてはこれでよかったのかもしれませんが、これではまっとうなサービスの対価ももらえないと誤解され、下請代金と相殺すると減額になるので別途支払わせる必要がある、なんていう、とんでもないアドバイスをする弁護士さんが出てくるかもしれません。
 
(まあそれでも、「まっとう」かどうか微妙な場合には、わたしも「相殺よりは別途支払のほうがリスクは低いんじゃないですかねぇ」くらいのアドバイスはするかもしれません💦)
 
比較的最近の事件でこの点をかなり詳細に解説した担当官解説のある事件として、2018(平成30)年3月26日のサトープリンティングに対する勧告があります。
 
この事件では、「生産システム利用料」「通信回線利用料」「パソコン利用料」等さまざまな名目で減額がなされているのですが、同事件の担当官解説(公正取引812号71頁)では、
 
「生産システム利用料」(発注数量等のデータを送信する発注者の発注システムの開発費・保守改修費等について一定額を毎月下請代金枯らさし引いていたもの)
 
については、
 
「発注業務・・・は、本来、親事業者の責任において行うべきもの」
 
という理由で減額にあたるとされ、
 
「通信回線利用料」(発注システム利用にあたり自社と下請とを専用で結ぶネットワークの接続に必要な費用)
 
については、
 
「・・・一般的なインターネット回線ではなく、加入した者のみが交信できる特定のネットワーク利用に係る費用であり、サトープリンティングが下請事業者に対し、発注する行為にのみ使用されるものであった。」
 
「このため、『通信回線利用料』は、下請法第3条第1項で発注書面の交付義務を負う親事業者であるサトープリンティングが負担すべきものである。」
 
という理由で減額にあたるとされ、
 
「パソコン利用料」(発注データを下請事業者が受信するためのパソコンについて自社が指定した機器を下請事業者に貸与し、当該利用料を下請代金から指しい引いていたもの)
 
については、
 
「これらのパソコン・・・は、発注システムを稼働させるためだけに利用されているもので、サトープリンティングが下請事業者に対して発注する委託業務の実施にのみ必要となる機器類であることから、当該機器類の利用に係る費用は、親事業者であるサトープリンティングが負担すべきものである。」
 
という理由で減額にあたるとされました。
 
このように、親事業者がほんらい負担すべきものだという理由を詳細に認定していることからもわかるように、反対に、下請事業者が当然負担すべきものなら減額にあたらないことになるはずです。
 
ところが同担当官解説では、代金減額がみとめられるのは、給付の瑕疵や納期遅れなど「下請事業者の責めに帰すべき理由」がある場合にかぎられ、上記各利用料はこれにあたらないので違法だ、と説明されています。
 
でも、瑕疵や納期遅れにあたらないなら減額だというなら、手数料の性質をほんらい親事業者が負担すべきものだという必要もないはずで、この説明はまったく支離滅裂だといわざるをえません。
 
長年続いている説明とはいえ、いいかげん、きちんと事実をありのままに伝えるべきだと思います。
 
また、このブログが一部の誤解を解く助けになればと思います。

2019年7月 3日 (水)

下請法の「業として」の講習テキストの変遷

だいぶ以前に、下請法講習テキストの「業として」の説明が変わったことについて書いたのですが、昨年の平成30年版でまた変わったので、これまでの経緯をまとめておきます。

平成25年版p9では、修理委託の類型2の説明で、「業として行う場合」という意味について、

「・・・自家使用する物品の修理を反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている場合に、その物品の修理の一部を他の事業者に委託する場合をいう」

と説明されていました。

他の法律での「業として」の解釈とも整合する、オーソドックスな解釈だと思います。

これが平成26年版p8では、

①「・・・社内に修理部門を設けるなど業務の遂行とみることができる程度に行っている場合・・・をいう。」

②「他方、修理に必要な技術を持った作業員が必要に応じ修理に当たるような場合・・・は該当しない。」

というように、「部門」などがないと「業として」にはあたらず、そのため、「必要に応じて」やるのでは「業として」にはあたらない、と大きく解釈が変更されました。

これが平成27年版p8、28年版p8、29年版p8でも、ほぼ維持されました。

ところが平成30年版p8では少し変わって、①が、

「事業者が,「その使用する物品の修理を業として行う場合」,つまり,他の事業者から請け負うのではなく,自家使用する物品の修理を反復継続的に行っており,社会通念上,事業の遂行とみることができる場合に,その物品の修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。

例えば,自社の工場で使用している機械類,設備機械に付属する配線・配管等の修理を社内に部門を設けて行っている場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当する。」

というように、少していねいになったのはいいのですが、②が、

「一方,修理を行うことができる設備があったり,修理に必要な技術を持った作業員がいたとしても,他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない。」

と、再度大きく変更されました。

つまり、平成29年版までは、「必要に応じて」やるだけなら「業として」にはあたらないと明記されていたのですが、平成30年版では、

「他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない

と、同種事業を行っていない場合には「業として行う場合」にあたらない、という、いわばあたりまえのことしかいわなくなりました。

でもこれって考えてみると、「同種の修理を行っていない」なら、「業として」かどうか問うまでもなく、そもそも「行う」に該当しないわけですから、ほんとうに無意味な記載になってしまったといわざるをえません。

この変更をどうみるかはなやましいですが、基本的には、解釈の変更はないとみていいでしょう。

「社内に部門を設けて」という部分は生きているからです。

なので、「必要に応じて」やるだけなら、やはり社内に部門は設けていないので、「業として」にあたらないと考えていいと思います。

というわけで、平成30年版のこの部分の改正は、意味不明です。なんでこんな修正をしたのでしょう???

 

2019年3月 8日 (金)

有償支給材の早期決済と資材代金調達利息の支払

NBLの連載を書籍化した
 
鎌田明編著『はじめて学ぶ下請法』
 
という本があります。
 
『下請法の実務』や下請法講習テキストが、古い考え方に接ぎ木をしながら改訂を続けているために根本的に叙述の仕方が古い(説明が理論的でない)のですが、それに対してこの本は、さすがに新しいだけあって、説明が現代的で頭にすっと入ってきます。
 
ですが、ちょっと気になる記述があります。
 
同書p135の有償支給材の早期決済の説明において、A〔発注者〕がB〔下請事業者〕に原材料を有償支給して加工を委託する事例をあげながら、
 
「B〔下請事業者〕が金融機関から融資を受けて先払いをしなければならない資材の対価を支払っていたような場合には、Bが負担していた利子相当額の支払い等も認められることになろう。」
 
と解説されています。
 
しかし、これは行き過ぎだと思います。
 
いったいどんな根拠があって、そのような利子相当額の支払いが認められるのでしょうか?
 
民法をみても、商法をみても、そのような利息相当額の支払いを根拠づける条文はありません。
 
当事者間に合意がなくても認められる利息についての規定としては民事商事の法定利率の規定がありますが、たとえば民法404条では、
 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」
 
としているだけであって、5%の利息が認められるのは「利息を生ずべき債権」であることが前提です。
 
利息を生ずべき債権かどうかは特約や法律の規定(民法575条2項の売買代金の利息)によって決まり、金銭消費貸借ですら、当然には利息は発生しません(民法587条、590条参照)。
 
ただし商人間の消費貸借では年6%の利息を支払う必要があります(商法513条、514条)。
 
でも、「下請事業者が有償支給材を早期決済するために融資を受けたときには融資の利息相当額を支払う」みたいな規定は、どこにもありません。
 
もちろん当事者間に合意もないわけですから、そんな利息相当額の請求権なんて、私法上認められるはずがないのです。
 
下請法違反は公序良俗(民法90条)違反だから請求が認められる、というのも無理です。
 
まず、下請法違反のすべてが当然に公序良俗違反になるわけではないですし、仮に公序良俗違反になっても、公序良俗違反の法律行為の効果は無効になるだけなので、積極的な請求権が発生するわけではありません。
 
たとえば、早期決済の合意が無効だとしたら、弁済期の合意の部分が無効になって、弁済期が下請代金の支払時期まで当然に延ばされる、ということはあるかもしれません。
 
ですがだからといって、下請代金の支払時期よりも前に現に有償支給材の代金を支払ったからといって、その早く支払った分の利息を下請事業者が請求できる(積極的な請求権が生じる)わけではないでしょう(公序良俗は「無効」にすぎないので)。
 
まして、有償支給材代金支払いのための銀行融資の利息なんて、認められるわけがありません。
 
ほかに考えられるとしたら、民法709条の不法行為や703条の不当利得でしょうが、下請法違反が当然に不法行為や不当利得になるわけでもないでしょう。
 
ここのハードルを越えるのは非常に高い(たぶん無理)わけです。
 
それなのに、何の説明もなく当然に、「利子相当額の支払も認められる」といってしまうなんて驚きです。
 
こんなこと、法学部生でもわかります。
 
ということで、公取委の下請法の運用をしている人が、いかに民法を知らないか、これをみるとよくわかります。
 
最近、有償支給材の早期決済をした会社が、早期決済期間について、有償支給材代金の利息相当額を商事法定利率6%で下請事業者に払い戻すよう指導を受けていた事例を目にしました。
 
きっと、下請代金の支払いが遅れたら6%の利息を払うんだから、有償支給材代金を早くもらいすぎたなら利息相当額を払い戻す義務があるんだ、という単純な発想でしょう。
 
でも民法をみても商法をみても、弁済期より早く代金を受け取ったら利息相当額を代金から引かなきゃいけないなんていいう規定はありません。
 
というわけで、上記書籍の記述は誤りですし、公取委はこの運用を直ちにやめるべきです。
 
民法の分かっていない人には、こんな大学生にするような説明からしないといけないので困ります。

公取委に出向中の弁護士のみなさん、下請取引調査室の人たちに、民法を教えてあげてください。
 
あるいは公取委職員のみなさんは、出向してきている弁護士さんに聞いてみてください。

2019年2月15日 (金)

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

2019年1月24日 (木)

手形払いを現金払いに変更した場合の中間利息の控除に関する中企庁Q&Aについて

2016年12月14日に中小企業庁と公取委が下請代金の支払いの現金化を要請する通達を出しましたが、それにともない、中小企業庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されました
 
「Q9: 今までの取引では手形払いであり、この額には手形等の割引料等を加味していません。今回の通達によって手形払いから現金払いに変更した場合、以下のケースは下請代金の「買いたたき」に当たるのでしょうか。
 
(1) 割引料相当分を差し引いて下請代金の額を定めること。
 
(2) 親事業者として資金調達が必要となるので、その資金調達に必要な短期調達金利相当額を下請代金の額から差し引いて下請代金の額を定めること。」
 
以下がその回答です。
 
「手形等の割引料等のコストは、ほとんどの場合に下請事業者が負担しており、結果として額面どおりの現金を受領できない状況にあります。
 
そのため、今般、下請代金はできる限り現金払いとすること等を要請したものであり、
 
(1)や(2)のような変更は、今般の通達発出を含む政府の下請取引の条件改善に向けた取組の趣旨にそぐわないものであって、政府としては、割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請するものです。
 
そのため,手形払いから現金払いに変更した場合、今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません。
 
一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
これは、あまりにもひどい内容です。
 
はっきりいって、下請法の解釈を誤っていることがあきらかです。
 
というのは、下請法の買いたたきは、
 
「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
 
が要件です(下請法4条1項5号)。
 
つまり、通常の対価より「著しく」低いことが、要件なのです。
 
ところが、上記Q&Aでは、たんに「低い」だけで違反になりうるとされていて、「著しく低い」ことが要件になっていません。
 
しかもその理由として、前記通達が、
 
「割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請する」
 
を理由にしていることからすると、「著しく」を省いたのが、うっかりミスや誤記ではなく、意図的なものであったことがわかります。
 
さらに、
 
「今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません」
 
と対比する形で
 
「一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
という部分が述べられていることからすると、今までの手形の金額から1円でも安くすれば買いたたきである、というのがQ&Aの趣旨である、と解釈するのが自然です。
 
この「1円でも安くしたら違反」というのは、厳しい読み方でもなんでもなくって、消費税転嫁法の買いたたきで前例があります。
 
つまり、消費税転嫁法の買いたたきの条文を下請法の買いたたきを参考に作ったときに、消費税転嫁法の買いたたきは、
 
「商品若しくは役務の対価の額を
 
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、
 
特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
 
と定義されることになりました(消費税転嫁法3条1号)。
 
ここで、下請法は「著しく低く」なのに、転嫁法は「低く」なのは、転嫁法の場合には消費税増税分満額上乗せして支払わないといけないのだ(1円でも安くしたら違反)、と説明されました。
 
そのことは消費税転嫁法ガイドラインに、
 
「「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,
 
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
という形で明記されています。
 
消費税転嫁法のような「通常支払われる対価に比し低く定める」という条文でなぜ、増税分満額上乗せしないと違反になるのか、はなはだ理解に苦しむところところです。
 
このような条文なら、まず、増税前の対価が「通常支払われる対価」であったことの立証が必要になる、と考えるのが当然だと思います。
 
公取委の説明会でも、ある弁護士さんが、どうしてこの条文でこんな風に解釈されるのか、文言に照らしておかしいじゃないか、というたいへんごもっともな質問をされていました。
 
転嫁法の買いたたきの条文は、とてもへんな条文で、なぜこうなったのかというと、立案担当者が自分の頭で考えることができない人だったために、下請法の条文を下敷きに作ることしかできなかったからです。
 
それ以外の理由はありえません。
 
ちょっと脱線しましたが、要するに、「著しく」という文言があるかないかで、これくらい解釈が変わってしまうという先例が、転嫁法のときにすでにあるわけです。
 
そういう目で見ると、上記Q&Aも、明らかに意図的に「著しく」を省略し、1円でも安くしたら違反に問うという明確な意図をもって公表されたものであることが明らかに思われるのです。
 
しかし、いうまでもなく日本は法治国家ですから、通達で条文を書き換えるなんて、とんでもないことです。
 
この通達と同じころ、下請法の買いたたきの執行を強化する目的で下請法の運用基準と下請法テキストの改定がなされ、買いたたきの事例が大幅に増えました。
 
しかしそれでも、どの事例をみても必ず「著しく低く」と入っていました。
 
ところがこんなQ&Aのような目立たないところで「著しく」を、勝手に削除してしまっているわけです。
 
安倍内閣主導であれば何でもあり、という現政権の態度が非常によく表れていると思います。
 
こういう欺瞞をみると、下町ロケットを使った日経全面広告も、とても嘘くさくみえてしまいます。
 
また理屈で考えても、一般的に、大企業である親事業者の社内調達金利は中小企業である下請事業者の社内調達金利よりも低いので、親事業者の社内調達金利相当額を引かれても、その分早く現金が受け取れる中小企業にはお釣りがくる、とすらいえるのであり、1円でも差しい引いたら「通常」の対価より「低い」というのも、無理があります。
 
というわけで、このQ&Aは下請法の解釈を誤ったものですから、無視するほかないと考えます。
 
いまの行政はこういうことを平気でやるので、常に厳しい目で監視していかなければなりません。

2018年5月11日 (金)

不当な給付内容の変更に関する講習テキスト違反行為事例の疑問

下請法4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)では、
「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
下請事業者の給付の内容を変更させ、
 
又は
 
下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)
 
給付をやり直させること」
が禁止されています。
 
この前段の給付内容の変更について、平成29年11月版の下請法講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,
 
給付の受領前に,
 
3条書面に記載されている委託内容を変更し,
 
当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」
と説明されています。
 
そしてその趣旨としてさらに続けて、
「こうした給付内容の変更ややり直しによって,
 
下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり
 
あるいは下請事業者にとって当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に,
 
親事業者がその費用を負担しないことは,下請事業者の利益を不当に害することとなるものである。」
と説明されています。
 
ですがその違反事例としてp79にあげられている、
「親事業者S社は,貨物の運送を下請事業者に委託しているところ,
 
下請事業者が指定された時刻にS社の物流センターに到着したものの,
 
S社が貨物の積込み準備を終えていなかったために下請事業者が長時間の待機を余儀なくされたにもかかわらず,
 
その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」
というのは、わたしはおかしいと思います。
 
というのは、給付内容の変更というのは、前記引用のとおり、
「それまでに行った作業が無駄になった」
とか、
「追加的な作業が必要となった」
場合に成立すべきものだからです。
 
でも、「長時間の待機」をさせた、というのは、
「作業が無駄になった」
わけでも
「追加的な作業が必要になった」
わけでもありません。
 
たんに、段取りが悪くて待たせていただけです。
 
待たせたことを「追加的な作業」というのは、いくらなんでも広げすぎでしょう。
 
テキストのほかの事例は、すべて発注の取消しか、追加作業をさせたものばかりです。
 
追加作業の事例をならべると、
②「当初の発注から設計・仕様を変更した」
 
③「金型について・・・無償でやりなおしを求めた」
 
④a「追加作業を行わせ・・・た」
 
④c「やり直しをさせ・・・た」
 
④d「仕様を変更した」(以上p77)
 
⑤「やり直しを求めた」
 
⑥a「途中で仕様を変更し・・・た」
 
⑥b「修正を行わせ・・・た」
 
⑦a「委託内容が変更されて追加の作業が発生した」
 
⑦b「撮り直しをさせた」
 
⑦c「動画の品質を上げるための作業を行わせ・・・た」
 
⑦d「発注内容の変更を行った」
 
⑧「作業のやり直しをさせた」
 
⑨a「作業のやり直しをさせた」
 
⑩a「発注内容を変更した」
といった具合です。
 
このように、いずれの場合も何らかの意味での追加作業があるのです。
 
もっと端的に別の切り口でいうと、これらの例では、いずれも成果物が変更されています。
 
講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている委託内容を変更し,当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」 
とされています。
 
これに忠実に、以上の例ではいずれも、3条書面に記載されていたであろう成果物とちがうもの(超えるもの)の納品が命じられているわけです。
 
これは条文上、「給付内容の変更」と書いてあるので、当然のことです。
 
(実はそうすると、発注の取消しは追加作業があったわけではないので、果たして「給付内容の変更」といえるのか疑問がわいてくるのですが、これは長年の運用でそうなっているので、ひとまず措きます。)
 
それに対して、前記引用した「長時間の待機」というのは、まったく異質です。
 
つまり、「長時間の待機」というのは、下請取引で独立の取引対象となるような「追加作業」では、断じてありえません。
 
別の言い方をすれば、待たせただけで、発注内容は何ら変更していないわけです。
 
もちろん、
「3条書面に記載されている委託内容を変更」
ということも、あるはずがありません。
 
というわけで、長時間待たせたことで損害賠償義務が発生することはあるかもしれませんが、下請法違反というのはおかしいと思います。
 
もし「長時間の待機」なんていう、ただ待っているだけのことが、追加の作業だ、というなら、
 
「下請事業者に『損害を負うという作業(?)』を行わせた」
 
といってもいいはずで、そうすると、追加作業だろうがなんだろうが、ぜんぶ下請法違反になってしまいかねません。
 
そうすると、契約上の損害賠償の話がすべて下請法の話になってしまいます。
 
あるいは、納期に受領せず後日の再納入を求めるのは受領拒否と整理されるのが普通ですが、これを、もう1回納入させるという追加作業を行わせたといえば、不当な給付内容の変更にもなってしまいます。
 
(まあ受領拒否は当然違法型の4条1項なので、2項の不当に不利益を負わせる型である不当な給付内容の変更と構成する必要はないのでしょうけれど。ともあれ、2項4号は気を付けないと際限なく広がる可能性があるわけです。)
 
実は前記引用例は平成29年版に追加されたものです。
 
つまり、平成29年版で大きく運用を変えてきた、ということです。
 
(というのはたぶん公取委を買いかぶりすぎで、きっと、あんまり深く考えずに実際にあった指導事例を付け加えただけというのが実態で、意図的な運用変更ではない可能性は大いにありますが。)
 
こういうことが何の事前警告も議論もなしに行われるところが、下請法のおそろしいところです。
 
(ほかにも、少し前から代金減額に別途支払わせるものまで含まれるという大きな運用変更がなされていて、これも大問題なのですが、長くなるのでまた後日論じます。)
 
下請法は勧告という、法的には行政指導でしかない軽い処分であるうえに当事者に争う道がない(たんなる指導なので)、というのが根本的な問題なのですが、そんな中で、こんな大事な運用変更がこっそりなされるというのは、本当にとんでもないことだと思います。
 
ほかにも、ほんとうにひどい運用だなあという事例を見聞きすることはありますが、見聞きするだけでそれだけあるわけですから、きっと誰も知らないところで、従来の運用を外れた運用がなされているのではないかと想像します。
 
(下請法は担当官によってけっこういうことが違っていたりしますし。)
 
というわけで、公取委や中企庁の指導に納得いかないという人は、きちんと専門家に相談した方がいいと思います。
 
そうしないと、やりたい放題にされてしまうでしょう。
 
恣意的な行政の運用に目を光らせるのは、われわれ在野法曹の重要な使命だと考えています。

2018年1月18日 (木)

下請法パラドックス

下請法では、当事者双方ともハッピーな取引条件なのに、下請法に違反すると公取委から指摘されて、やめないといけなくなる、ということがときどき起こります。
 
最近聞いた話では、販促費名目で代金から差し引いていたのが減額にあたると公取委の検査で指摘を受けたのでやめた、という例がありました。
 
当事者は、ほんとうに販促に役立っているんだと説明したそうですが、公取委には認められず、販促費を支払わせることはやめることにしました。
 
それで何が起こったかというと、下請事業者の売上が落ちてしまい、下請事業者の側が困ってしまったそうです。
 
でも、指摘を受けた親事業者の側は、販促費の徴収をやめてもたいして困っていないそうです。
 
さらに、販促費が必要なのは、全国的なブランドイメージの強くない中小メーカーだったりするので、販促費を支払わせるのをやめたことで困ったのは中小メーカーだった、というきそわめて皮肉な結果となりました。
 
もともと下請事業者は資本金が最大でも3億円なので中小企業が多いわけですが、その中でもとくに小さいところが割を食ったわけです。
 
さらに根本的には、下請法の適用のない事業者との関係では販促費を差し引いても何の問題もないわけですから、下請法の適用のある事業者がそうでない競合事業者よりも競争上不利に立つ、ということにもなります。
 
これって、大きな問題ではないでしょうか。
 
中小企業を守るべき下請法が、中小企業の首を絞めているわけです。
 
下請法は競争法の一部という建前ですが、中小企業の保護を目的とするものなので、中小企業保護のために経済効率性が害されることは予定されていることといえます。
 
ところが、下請法があるために下請の首を絞めるのはまさに下請法の自殺であり、「下請法パラドックス」といえるでしょう。
 
(これはRobert Borkの"Antitrust Paradox"のもじりです。)
 
こういうことが一度でもあると、たとえ注意であっても、親事業者としては、下請事業者のほうから、「販促費を受け取ってほしい」といってきても断らざるを得なくなり、ほんとうに不幸なことです。
 
(これは、下請法では下請事業者の同意があっても違反は違反だという、一般論から出てくる問題です。)
 
代金から差し引くから問題なので別途支払わせればいいじゃないかという人がいるかもしれませんが、別途支払わせても不当な経済上の利益の提供要請にあたる可能性はあります。
 
また最近は、別途支払わせても代金減額だというふうに公取委の運用が変わってきたので、別途支払わせればリスクが低い(勧告になりにくい)とも言い切れません。
 
それに、似たようなタイミングで販促費を支払わせるのに代金から差し引くか別途支払わせるかという小手先の違いで結論が変わるのも法律としておかしいです。
 
もし実質的に違いが出るくらいに、負担のタイミングを変えなきゃいけないとすると、それこそキャッシュフロー的に問題だったりします。
 
企業にとって資金繰りというのは大事な問題なのです。
 
資金繰りの観点からは、代金から差し引くのが下請事業者にとって最も合理的なこともあります。
 
それに対して、一時的であっても、親事業者にキャッシュアウトを要求するというのは、非常に実務上のハードルが高かったりします。
 
そういうところにまで気を配って、勧告や注意をするかどうか決めないといけません。
 
双方ハッピーな取引条件を下請法を理由にやめないといけなくなった場合に困るのは、多くの場合、下請事業者の側です。
 
一番極端な例は取引がなくなることですが、多くの場合、親事業者には代わりの下請はたくさんいるけれど、下請事業者には代わりの(取引がなくなったときにその穴を埋める)発注者というのはすぐには見つかりません。
 
そういうわけなので、自分はあまり困らないので、親事業者の側には、公取委が違反だというなら強く争うインセンティブがなかったりします。
 
こういう、注意なり勧告なりの影響が第三者に強く及ぶ(いわば外部性がある)場合には、公取委と違反者の二当事者対立構造の中で処理することに、そもそもあまり合理性がありません。
 
もし違反者に十分争うインセンティブがあるなら、下請事業者の嘆願書を取りまとめて公取委に提出したりもするのでしょうが、インセンティブがないなら、そこまで手間をかけるきにもならない、ということになってしまいます。
 
だいぶ昔の企業結合の文脈ですが、ある当事会社が、取引先の「この結合を歓迎する」という意見書をたくさんまとめて企業結合課に出したら、担当者に、
 
「こんな意見書を出させることができるなんて、おたくはずいぶんと取引先に対して強い立場にあるんですねぇ」
 
と嫌味を言われた、というケースがありました。
 
下請法なら、なおさらそんな事態になりかねません。
 
なので、当事者が争おうが争うまいが、公取委のほうが、公益の代表者として、市場の隅々までおよぶ影響を考慮して処分をするかどうかをきめないといけないと思います。
 
販促費を負担させるというケースについては、中小企業庁の調査なら問題なしとされたのに公取委ではダメと言われることもあるとも聞きます。
 
下請法は形式的な法律といわれますが、形式的には減額にならざるをえなくても、実質的に問題ない場合には、ぐっととどまることが大事で、それこそ、処分官庁の裁量が発揮されるべきところでしょう。
 
心当たりのある公取委の方は、大いに反省していただきたいと思います。

2017年9月28日 (木)

電磁的方法で交付された3条書面の交付時期

下請法の3条書面(発注書)は電磁的方法でも交付できますが、その場合、いつ交付されたことになるのでしょうか。

常識的な感覚からすると、書面で交付するときには物理的に下請事業者に到達した時点(見た時点ではなく)が交付の時点なので、メールで送付した場合には下請事業者がメールを受信した時点(開いた時点ではなく)が交付の時点となりそうですが、実はそれほど単純ではありません。

というのは、

①どこまでやったら3条書面交付義務を果たしたことになるのか、

という問題と、

②いつの時点で交付したことになるのか、

という問題が、密接に関連しながらも微妙にずれているからです。

しかもこの2つの問題のどちらを議論しているのかを意識しないと、ますます議論が混乱します。

(この点についてのポイントを先に言うと、下請法では①だけが問題なのであり、②は問題にする必要がありません。②が一義的に決まるはずという前提のもとで①を論じるから、混乱が生じるのです。)

条文を確認していきましょう。

まず、下請法3条2項では、

「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令〔下請法施行令2条〕で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項

電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるもの

により提供することができる。

この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。 」

とされています。

そして、下請法施行令2条(情報通信の技術を利用する方法) では、

「1   親事業者は、法第三条第二項 の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるところにより、

あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

2   前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。

ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

とされており、3条規則2条では、

「法第三条第二項 の公正取引委員会規則で定める方法は、に掲げる方法とする。

一   電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し

当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

(法第三条第二項 前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

二   磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2   前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3   第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。」

とされています。

電子メールによる交付は3条規則2条1項1号イの、

「イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法」

であることがわかります。

また、同条2項により、その電子メールは、

「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるもの」

でなければならないことが分かります。

同様に、ウェブサイトを閲覧させる方法による提供は3条規則2条1項1号ロにさだめられており、おなじく、出力して書面を作成できなければなりません。

以上を前提に、

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」

では、第1の2「 電子メールによる電磁的記録の提供に係る留意事項」で、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。

また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。

(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,

下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

とされています。((2)は親事業者のウェブサイトを閲覧させる方法です。)

このように、「留意事項」で、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

と明言されているため、下請事業者が自分のパソコン(あるいはサーバー)に保存しなければ交付したことにならないのではないか、それらの記録行為がなされれた時点が3条書面の交付の時点となるのではないか、という疑問が生まれてくるのです。

しかしこの問題は、そもそも3条書面の電磁的方法による交付をみとめることになった大元である、IT書面一括法(「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。2001年4月1日施行)の解釈のほうをみないと、解決できません。

電磁的方法による文書の交付時点の問題については、立案担当者解説である、

久米孝「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)の概要」NBL711号16頁(2001年4月)

に、「書面の交付に代えて行われた書面に記載すべき事項の到達時点のみなし」という節で、

「書面の交付に代えて行なわれた書面に記載すべき事項等の提供については、

書面の交付時点が当該法律上の他の規定において、何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(たとえば割賦販売法四条の三第一項は、書面受領の日から八日以内にいわゆるクーリングオフができる旨を定める)や、

当該書面の提出後、一定の期間内に何らかの措置をとることが義務づけられている場合(たとえば中小企業等協同組合法四七条二項は、書面による請求があった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならない旨を定める)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合を除いて、

明文の規定をおいていない。

これは「書面の交付」において、書面の交付がどの時点でなされたかについて実定法上明示的に規定されていないのと同様で、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる。

と説明されています。

到達時点のみなし規定がない場合には、どの時点で提供義務が尽くされたかはケースバイケースできめる、ということですね。

ちなみに、個別信用購入あっせんについて到達時点のみなし規定である割賦販売法35条の3の22は、

(情報通信の技術を利用する方法)

第三十五条の三の二十二  個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は個別信用購入あつせん業者は、

第三十五条の三の八又は第三十五条の三の九第一項若しくは第三項の規定による書面の交付に代えて、

政令で定めるところにより、

当該購入者又は当該役務の提供を受ける者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。

この場合において、当該個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は当該個別信用購入あつせん業者は、当該書面を交付したものとみなす。

 前項前段に規定する方法(経済産業省令・内閣府令で定める方法を除く。)により第三十五条の三の九第一項又は第三項の規定による書面の交付に代えて行われた当該書面に記載すべき事項の提供は、

購入者又は役務の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該購入者又は当該役務の提供を受ける者に到達したものとみなす。」

と、購入者のファイルへの記録の時点を到達時点とみなすと規定しており、この規定について、

経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版 割賦販売法の解説』

では、

「書面一括法においては、本規定〔35条の3の22第2項〕を設ける必要がある場合を、

・ 書面の交付時点が当該法律上の他の規定において何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(書面受領の日から8日以内にクーリング・オフができる規定等)

・ 当該書面の提出後、一定の期間以内に何らかの措置をとることが義務付けられている場合(書面の提出の日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない規定等)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合のみに限定しており、

したがって、

単に書面不交付について罰則や行政処分の規定があるという場合や、

単に契約締結時までに書面を交付しなければ罰則が適用されるという場合

においては、本規定は措置しないという整理となっている

(よって、クーリングオフが規定されていない割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせんにおいては、本項と同内容の規定は存在しない)。」

と説明されています(p250)。

下請法の3条書面交付は、たんに刑罰が科されるだけなので、みなし規定はない、ということですね。

下請法3条も、当然、このような解釈を前提に解釈されていると考えられます。

公取委側の担当者解説である、

向井他「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項について」公正取引607号53頁(2001年)

では、電子メールにより送信する場合について、

「下請事業者自身がメールサーバーを有している場合もあり得るが、通常の下請事業者の場合は、インターネットプロバイダ等と契約をしたり、親事業者のシステムを利用するなど、当該プロバイダー等のメールサーバーを利用することになるから、電子メールを送信しても、当該メールサーバーに記録されるだけで、下請事業者のファイルに記録されたことにはならない。

したがって、下請事業者が当該メールを受信することにより自らのファイルに記録していなければ、書面の交付に代えて提供したことにはならない。」

と説明されています。

さらに同論文p54では、発注者のウェブサイトを閲覧させる方法について、

「通常、ブラウザソフトによりウェッブのホームページを閲覧させることになるが、この方法は、一時的に情報を〔下請事業者のパソコンの〕メモリーに保存することによりウェッブのホームページを表示させるものである。

他方、ファイルに記録するということは、情報をファイルに固定させ、いつでも当該情報を取り出せるようになっていることが必要であることから、

下請事業者が〔親事業者の〕ホームページを閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録することにはならないので、

別途電子メールで〔通知事項を〕送信するか、ホームページにダウンロード機能を付けるなどの措置が必要となる。」

と解説されています。

専用のウェブサイトを開設しているのにわざわざ別のメールを送る親事業者はあまりいないでしょうから、現実的には、ホームページにダウンロード機能を持たせることが多いと思われます。

そして、IT書面一括法が、到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合(←下請法はこちら)とを分けていることをふまえれば、前述の「留意事項」の、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は・・・

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

としている部分も、受信した時点を交付時点(到達時点)とみなす趣旨ではない、と解さざるをえないと思います。

というのは、IT書面一括法が到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合とをあえて分けているにもかかわらず、みなし規定がないのに一律に特定の時点で到達したとみなされると解釈すことは、IT書面一括法の解釈としてありえないからです。

ところでファイルへの保存が要求されている理由について、向井他p53では、

「下請法は50本の法律を一括して改正する法律により改正されたが、

当該法律において書面の交付によ代えることができる電磁的記録の提供方法として、書面が交付されたと実質的に同視し得るよう、

受信者のファイルに記録することを要件とする統一的な取り扱いが行われたが、

下請法は、下請取引の適正化と下請事業者の保護を目的としており、下請法の目的からも必要な要件であろう。」

と述べられています。

つまり、できるだけ書面と同視できるようにしようという趣旨なのです。

ということは、電磁的方法だからといって書面の場合以上に過重な負担を負わせるものではない、ということが言えると思います。

では、最も典型的な、電子メール(本文でも添付ファイルでも)で3条書面を送るときに、親事業者はどこまでしなければならないのでしょうか。

この点について、

清水規廣「横浜弁護士会独占禁止法研究会編 一問一答 下請法・下請取引<14> - 下請取引基本契約書の締結と電子メールによる受注のチェックポイント」NBL936号(2010年)p98

では、

「・・・下請事業者の電子メールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者が自身のパソコンのファイルに記録して、いつでも出力することにより書面を作成できる状態、つまりいつでもプリントアウトできる状態にしなければならない。

そこで、親事業者としては、電子メールを送信するに当たり「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

受信・開封・保管しなければ下請法3条の書面を交付したことにならないから、

親事業者としては「メールで送ったから開封・ファイルへ保管されたい」旨電話等で連絡し開封確認メッセージをも保存しておく必要があることになる。」

と説明されています。

しかし、わたしはこれは行き過ぎだと思います。

いちばんわかりやすい理由をあげると、3条書面不交付には50万円以下の罰金が科されますが(下請法10条)、開封の確認までしないと刑事罰の対象になるというのは、自己責任の原則からして問題があります。

また、到達時のみなし規定がない場合には、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる

というのがIT書面一括法の立場です。

そして、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する

ということまでしないと「送り手側の努力」として不十分だ、というようなことはとうていいえない、と思います。

もしそんなことを言い出すと、書面で送る場合にも、普通郵便ではだめで、常に配達証明付き書留郵便で送らないといけない、ということになりかねません。

ファックスでも、送信確認(モニターレポート)機能がある機種しか使えないことになります。

もちろん、義務を履行したことの証拠を残すことは実務上望ましいわけで、その意味で、開封確認を要求することは望ましい方法だとは思いますが、証拠を残すのはあくまで立証の問題なのでいくらでも手段はありえます。

しかし開封確認を求めることが実体法上の義務の一部だといわれると、話は変わってきます。

他のやり方では代替できないからです。

しかも上記論文ではIT一括書面法の立法趣旨や到達時のみなし規定のことにはふれず、ただ、3条規則の文言だけを頼りに上記の結論を導いているので、その意味でも説得力に欠けます。

このような解釈上の疑義が生じるのは、IT書面一括法で、到達時のみなし規定を置かない法律についてはどこまでやれば書面交付義務を果たしたことになるのかをあえてあいまいにしているためなのです。

あえてあいまいにしている趣旨を汲まずに、法律や規則の文言だけから杓子定規に結論を導くと、こういう結論になってしまうのだと思います。

たしかに、「留意事項」では、

「書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

といっているのですが、これとても、受信していることが必要といっているだけで、反対にいえば、受信さえしていればそれでいいということです。

受信が必要だということから、論理必然に、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

ということはいえないですし、そのようなことを刑罰の威嚇をもちいて強制する正当性もないと思います。

以上は電子メールの場合ですが、ウェブサイトを閲覧させる方法の場合には「留意事項」ももっと割り切っていて、

「下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

といっているだけです。

つまりこちらの方では、ダウンロード機能を持たせれば足りるということがはっきりしていて、ファイルへ保管したことの確認までは不要であることがあきらかです。

それにもかかわらず電子メールの場合だけ、ファイルへ保管したことの確認まで要するというのは、バランスが悪いと思います。

「留意事項」の、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

というのは、文字どおり、下請事業者が自身のパソコンにデータが記録されていればたりるという意味であって、実際に記録さえされていれば、極端にいえば、親事業者はその証拠すらなくても刑罰を科されることはない、ということでしょう。

検察や公取は下請事業者のパソコンを調べることもできるのですから、親事業者が証拠を持っていなても、交付の事実が「証明」できてしまう、ということは大いにあり得ることだと思います。

2017年5月31日 (水)

景品と下請法

景品の製造を委託した場合、下請法の適用はあるでしょうか。

この問題について公取委のホームページでは、

「Q9 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。

A. いわゆる景品は,商品に添付されて提供される場合,有償で提供している商品の一部として提供がなされているため製造委託(類型1)に該当する。

また,純粋に無償で提供している景品であっても,自家使用物品として当該景品を自社で業として製造している場合には,製造委託(類型4)に該当する。」

と回答されています。

ただ、この回答はやや明確性に欠けるように思われます。

というのは、前段では商品に「添付」されているかが基準であるように読めるのに対して、後段では有償かどうかが基準であるようによめるからです。

前段でも「有償で提供している商品・・・」と、有償性が強調されていることからすれば、このQ&Aをぼーっと読んだ多くの人は、実質的に有償か無償かが適用の基準であると解釈するのではないでしょうか。

(もし添付されているかどうかを明確に意識してこのQ&Aができているなら、後段には、無償の例ではなく添付されていない例がくるはずです。)

よって、おそらく公取は、(商品に添付されているかどうかではなく)実質的に有償といえるかどうかを基準に判断しているのではないかと想像されます。

しかしこのQ&Aをひとまず措いて、下請法の正しい解釈としては、私は添付されているかどうかを基準にすべきと考えます。

つまり、商品に添付される景品は下請法の対象になり、添付されていない景品は対象にならない、と考えます。

条文をみてみましょう。

製造委託は下請法2条1項で、

「事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる

物品若しくは

その〔=「物品」の〕半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型

・・・の製造を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること」

と定義されています。

この条文の構造からいえることは、下請法の対象になるのは(販売目的の)「物品」の製造の委託と、「物品」と物理的に一体化してユーザーに提供されるもの(半製品、部品、附属品、原材料)に限られる、ということです。

金型はその唯一の例外です。

金型はあくまで「物品」を製造するものであって、金型自体が「物品」と物理的に一体化するわけではありません。

このように、「物品」と物理的に一体化しないのに下請法の対象になるのは、金型だけなのです(「物品」を製造するための特殊な工具は、「金型」ではないし、まして、「半製品、部品、附属品若しくは原材料」でもないので、下請法の対象にはなりません。)

そして、①親事業者がユーザーに販売する物品、②かかる物品と一体化するもの、③かかる物品を製造するための金型、以外で製造委託になるのが、類型4の自己使用物品になるわけです。

このように、物理的に一体になるかどうかで下請法は明確にその適用範囲が画定されています。

もし物品と物理的に一体化しない景品が、実質的に有償だというだけの理由で下請法の対象になるとすれば、条文上は、景品が「物品」にあたると読むのだと思われます。

しかし、そういうことをやりだすと、こんどは「物品」たる景品の附属品というものまで考えなくてはならなくなって、下請法の適用対象が際限なく広がることになり、せっかく物理的に一体化するかどうかで適用範囲を明確にした下請法を台なしにしてしまいます。

それよりも、「物品」と一体化した(商品に添付された)景品は、「附属品」にあたる、とかんがえるのが、よほどすっきりした解釈で、条文の構造にもぴったりくると思います。

(ちなみに「附属品」の典型例として考えられるのは、医薬品の取扱説明書や容器のようなものです。)

添付されているかどうかを基準にすることが納得いかない人は、たとえば、商品に景品をくくり付けたら「附属品」として下請法の対象になるのに、景品を別に提供すると(たとえば、シールを5枚集めて応募すると景品が送られてくる場合)下請法の対象にならない、というのが腑に落ちない(バランスがわるい)と考えられているのだと思われます。

しかし、そういう人は下請法の条文の構造を理解していません。

条文上はあきらかに、「物品」と物理的に一体になっているかどうかが基準になっています。

そのようにあえて割り切ったのは、下請法の適用対象を明確にするためです。

にもかかわらず、実質的に有償か無償かで判断するとなると、限界がきわめて不明確です。

極端にいえば、町で配っているティッシュだって、企業は宣伝広告費を負担しており、宣伝広告費は商品代金に乗っている、ともいえるのであって、純粋に「無償」とはいえないかもしれません。

あるいは、懸賞による景品は、実質的には無償なのでしょうか、有償なのでしょうか。

仮に実質的には有償(商品の価格に上乗せされている)であるとしても、

「食パン10斤買った人から抽選で1名様に豪華リラックマの抱きまくらプレゼント」

というような企画の場合、リラックマの抱きまくらを「物品若しくはその〔=「物品」の〕半製品、部品、附属品若しくは原材料」のどれかに読み込む(実際には、一番近そうな「附属品」に読み込む)のは、言葉の問題として無理なのではないでしょうか。

やはり、懸賞による景品は、下請法の対象外と読むのが条文解釈として正しいと思いますし、その理由はといえば、唯一当たりそうな「附属品」にあたらないから(物理的に商品と一体化していないので)、ということなのだと思います。

この点について明確に述べた文献は探した限り見当たりませんが、

薮内俊輔「下請法の適用範囲①」公正取引787号

に、試作品の製造委託の説明のところで、

「・・・明確に有償とされていないが量産の完成品の供給に伴って提供する場合(商品添付の景品と類似する。講習会テキスト18頁参照。)は、製造委託の類型1として下請法の適用がある。」(54頁)

というように、「添付」が景品への下請法の適用の条件であることを示唆する記述があります。

また、きっかわ法律事務所のホームページの「下請法Q&A」では、

「懸賞で使用されている景品の製造を委託した場合も下請法の対象になりますか。」

という設問で、

「いわゆる景品は、商品に添付されて提供される場合を除き製造委託には当たりません。」

と明言されています。

とういわけで、添付されているかどうかで区別するのが正しいと思います。

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