下請法

2019年2月15日 (金)

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

2019年1月24日 (木)

手形払いを現金払いに変更した場合の中間利息の控除に関する中企庁Q&Aについて

2016年12月14日に中小企業庁と公取委が下請代金の支払いの現金化を要請する通達を出しましたが、それにともない、中小企業庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されました
 
「Q9: 今までの取引では手形払いであり、この額には手形等の割引料等を加味していません。今回の通達によって手形払いから現金払いに変更した場合、以下のケースは下請代金の「買いたたき」に当たるのでしょうか。
 
(1) 割引料相当分を差し引いて下請代金の額を定めること。
 
(2) 親事業者として資金調達が必要となるので、その資金調達に必要な短期調達金利相当額を下請代金の額から差し引いて下請代金の額を定めること。」
 
以下がその回答です。
 
「手形等の割引料等のコストは、ほとんどの場合に下請事業者が負担しており、結果として額面どおりの現金を受領できない状況にあります。
 
そのため、今般、下請代金はできる限り現金払いとすること等を要請したものであり、
 
(1)や(2)のような変更は、今般の通達発出を含む政府の下請取引の条件改善に向けた取組の趣旨にそぐわないものであって、政府としては、割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請するものです。
 
そのため,手形払いから現金払いに変更した場合、今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません。
 
一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
これは、あまりにもひどい内容です。
 
はっきりいって、下請法の解釈を誤っていることがあきらかです。
 
というのは、下請法の買いたたきは、
 
「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
 
が要件です(下請法4条1項5号)。
 
つまり、通常の対価より「著しく」低いことが、要件なのです。
 
ところが、上記Q&Aでは、たんに「低い」だけで違反になりうるとされていて、「著しく低い」ことが要件になっていません。
 
しかもその理由として、前記通達が、
 
「割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請する」
 
を理由にしていることからすると、「著しく」を省いたのが、うっかりミスや誤記ではなく、意図的なものであったことがわかります。
 
さらに、
 
「今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません」
 
と対比する形で
 
「一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
という部分が述べられていることからすると、今までの手形の金額から1円でも安くすれば買いたたきである、というのがQ&Aの趣旨である、と解釈するのが自然です。
 
この「1円でも安くしたら違反」というのは、厳しい読み方でもなんでもなくって、消費税転嫁法の買いたたきで前例があります。
 
つまり、消費税転嫁法の買いたたきの条文を下請法の買いたたきを参考に作ったときに、消費税転嫁法の買いたたきは、
 
「商品若しくは役務の対価の額を
 
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、
 
特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
 
と定義されることになりました(消費税転嫁法3条1号)。
 
ここで、下請法は「著しく低く」なのに、転嫁法は「低く」なのは、転嫁法の場合には消費税増税分満額上乗せして支払わないといけないのだ(1円でも安くしたら違反)、と説明されました。
 
そのことは消費税転嫁法ガイドラインに、
 
「「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,
 
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
という形で明記されています。
 
消費税転嫁法のような「通常支払われる対価に比し低く定める」という条文でなぜ、増税分満額上乗せしないと違反になるのか、はなはだ理解に苦しむところところです。
 
このような条文なら、まず、増税前の対価が「通常支払われる対価」であったことの立証が必要になる、と考えるのが当然だと思います。
 
公取委の説明会でも、ある弁護士さんが、どうしてこの条文でこんな風に解釈されるのか、文言に照らしておかしいじゃないか、というたいへんごもっともな質問をされていました。
 
転嫁法の買いたたきの条文は、とてもへんな条文で、なぜこうなったのかというと、立案担当者が自分の頭で考えることができない人だったために、下請法の条文を下敷きに作ることしかできなかったからです。
 
それ以外の理由はありえません。
 
ちょっと脱線しましたが、要するに、「著しく」という文言があるかないかで、これくらい解釈が変わってしまうという先例が、転嫁法のときにすでにあるわけです。
 
そういう目で見ると、上記Q&Aも、明らかに意図的に「著しく」を省略し、1円でも安くしたら違反に問うという明確な意図をもって公表されたものであることが明らかに思われるのです。
 
しかし、いうまでもなく日本は法治国家ですから、通達で条文を書き換えるなんて、とんでもないことです。
 
この通達と同じころ、下請法の買いたたきの執行を強化する目的で下請法の運用基準と下請法テキストの改定がなされ、買いたたきの事例が大幅に増えました。
 
しかしそれでも、どの事例をみても必ず「著しく低く」と入っていました。
 
ところがこんなQ&Aのような目立たないところで「著しく」を、勝手に削除してしまっているわけです。
 
安倍内閣主導であれば何でもあり、という現政権の態度が非常によく表れていると思います。
 
こういう欺瞞をみると、下町ロケットを使った日経全面広告も、とても嘘くさくみえてしまいます。
 
また理屈で考えても、一般的に、大企業である親事業者の社内調達金利は中小企業である下請事業者の社内調達金利よりも低いので、親事業者の社内調達金利相当額を引かれても、その分早く現金が受け取れる中小企業にはお釣りがくる、とすらいえるのであり、1円でも差しい引いたら「通常」の対価より「低い」というのも、無理があります。
 
というわけで、このQ&Aは下請法の解釈を誤ったものですから、無視するほかないと考えます。
 
いまの行政はこういうことを平気でやるので、常に厳しい目で監視していかなければなりません。

2018年5月11日 (金)

不当な給付内容の変更に関する講習テキスト違反行為事例の疑問

下請法4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)では、
「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
下請事業者の給付の内容を変更させ、
 
又は
 
下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)
 
給付をやり直させること」
が禁止されています。
 
この前段の給付内容の変更について、平成29年11月版の下請法講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,
 
給付の受領前に,
 
3条書面に記載されている委託内容を変更し,
 
当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」
と説明されています。
 
そしてその趣旨としてさらに続けて、
「こうした給付内容の変更ややり直しによって,
 
下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり
 
あるいは下請事業者にとって当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に,
 
親事業者がその費用を負担しないことは,下請事業者の利益を不当に害することとなるものである。」
と説明されています。
 
ですがその違反事例としてp79にあげられている、
「親事業者S社は,貨物の運送を下請事業者に委託しているところ,
 
下請事業者が指定された時刻にS社の物流センターに到着したものの,
 
S社が貨物の積込み準備を終えていなかったために下請事業者が長時間の待機を余儀なくされたにもかかわらず,
 
その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。」
というのは、わたしはおかしいと思います。
 
というのは、給付内容の変更というのは、前記引用のとおり、
「それまでに行った作業が無駄になった」
とか、
「追加的な作業が必要となった」
場合に成立すべきものだからです。
 
でも、「長時間の待機」をさせた、というのは、
「作業が無駄になった」
わけでも
「追加的な作業が必要になった」
わけでもありません。
 
たんに、段取りが悪くて待たせていただけです。
 
待たせたことを「追加的な作業」というのは、いくらなんでも広げすぎでしょう。
 
テキストのほかの事例は、すべて発注の取消しか、追加作業をさせたものばかりです。
 
追加作業の事例をならべると、
②「当初の発注から設計・仕様を変更した」
 
③「金型について・・・無償でやりなおしを求めた」
 
④a「追加作業を行わせ・・・た」
 
④c「やり直しをさせ・・・た」
 
④d「仕様を変更した」(以上p77)
 
⑤「やり直しを求めた」
 
⑥a「途中で仕様を変更し・・・た」
 
⑥b「修正を行わせ・・・た」
 
⑦a「委託内容が変更されて追加の作業が発生した」
 
⑦b「撮り直しをさせた」
 
⑦c「動画の品質を上げるための作業を行わせ・・・た」
 
⑦d「発注内容の変更を行った」
 
⑧「作業のやり直しをさせた」
 
⑨a「作業のやり直しをさせた」
 
⑩a「発注内容を変更した」
といった具合です。
 
このように、いずれの場合も何らかの意味での追加作業があるのです。
 
もっと端的に別の切り口でいうと、これらの例では、いずれも成果物が変更されています。
 
講習テキストp74では、
「「給付内容の変更」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている委託内容を変更し,当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである」 
とされています。
 
これに忠実に、以上の例ではいずれも、3条書面に記載されていたであろう成果物とちがうもの(超えるもの)の納品が命じられているわけです。
 
これは条文上、「給付内容の変更」と書いてあるので、当然のことです。
 
(実はそうすると、発注の取消しは追加作業があったわけではないので、果たして「給付内容の変更」といえるのか疑問がわいてくるのですが、これは長年の運用でそうなっているので、ひとまず措きます。)
 
それに対して、前記引用した「長時間の待機」というのは、まったく異質です。
 
つまり、「長時間の待機」というのは、下請取引で独立の取引対象となるような「追加作業」では、断じてありえません。
 
別の言い方をすれば、待たせただけで、発注内容は何ら変更していないわけです。
 
もちろん、
「3条書面に記載されている委託内容を変更」
ということも、あるはずがありません。
 
というわけで、長時間待たせたことで損害賠償義務が発生することはあるかもしれませんが、下請法違反というのはおかしいと思います。
 
もし「長時間の待機」なんていう、ただ待っているだけのことが、追加の作業だ、というなら、
 
「下請事業者に『損害を負うという作業(?)』を行わせた」
 
といってもいいはずで、そうすると、追加作業だろうがなんだろうが、ぜんぶ下請法違反になってしまいかねません。
 
そうすると、契約上の損害賠償の話がすべて下請法の話になってしまいます。
 
あるいは、納期に受領せず後日の再納入を求めるのは受領拒否と整理されるのが普通ですが、これを、もう1回納入させるという追加作業を行わせたといえば、不当な給付内容の変更にもなってしまいます。
 
(まあ受領拒否は当然違法型の4条1項なので、2項の不当に不利益を負わせる型である不当な給付内容の変更と構成する必要はないのでしょうけれど。ともあれ、2項4号は気を付けないと際限なく広がる可能性があるわけです。)
 
実は前記引用例は平成29年版に追加されたものです。
 
つまり、平成29年版で大きく運用を変えてきた、ということです。
 
(というのはたぶん公取委を買いかぶりすぎで、きっと、あんまり深く考えずに実際にあった指導事例を付け加えただけというのが実態で、意図的な運用変更ではない可能性は大いにありますが。)
 
こういうことが何の事前警告も議論もなしに行われるところが、下請法のおそろしいところです。
 
(ほかにも、少し前から代金減額に別途支払わせるものまで含まれるという大きな運用変更がなされていて、これも大問題なのですが、長くなるのでまた後日論じます。)
 
下請法は勧告という、法的には行政指導でしかない軽い処分であるうえに当事者に争う道がない(たんなる指導なので)、というのが根本的な問題なのですが、そんな中で、こんな大事な運用変更がこっそりなされるというのは、本当にとんでもないことだと思います。
 
ほかにも、ほんとうにひどい運用だなあという事例を見聞きすることはありますが、見聞きするだけでそれだけあるわけですから、きっと誰も知らないところで、従来の運用を外れた運用がなされているのではないかと想像します。
 
(下請法は担当官によってけっこういうことが違っていたりしますし。)
 
というわけで、公取委や中企庁の指導に納得いかないという人は、きちんと専門家に相談した方がいいと思います。
 
そうしないと、やりたい放題にされてしまうでしょう。
 
恣意的な行政の運用に目を光らせるのは、われわれ在野法曹の重要な使命だと考えています。

2018年1月18日 (木)

下請法パラドックス

下請法では、当事者双方ともハッピーな取引条件なのに、下請法に違反すると公取委から指摘されて、やめないといけなくなる、ということがときどき起こります。
 
最近聞いた話では、販促費名目で代金から差し引いていたのが減額にあたると公取委の検査で指摘を受けたのでやめた、という例がありました。
 
当事者は、ほんとうに販促に役立っているんだと説明したそうですが、公取委には認められず、販促費を支払わせることはやめることにしました。
 
それで何が起こったかというと、下請事業者の売上が落ちてしまい、下請事業者の側が困ってしまったそうです。
 
でも、指摘を受けた親事業者の側は、販促費の徴収をやめてもたいして困っていないそうです。
 
さらに、販促費が必要なのは、全国的なブランドイメージの強くない中小メーカーだったりするので、販促費を支払わせるのをやめたことで困ったのは中小メーカーだった、というきそわめて皮肉な結果となりました。
 
もともと下請事業者は資本金が最大でも3億円なので中小企業が多いわけですが、その中でもとくに小さいところが割を食ったわけです。
 
さらに根本的には、下請法の適用のない事業者との関係では販促費を差し引いても何の問題もないわけですから、下請法の適用のある事業者がそうでない競合事業者よりも競争上不利に立つ、ということにもなります。
 
これって、大きな問題ではないでしょうか。
 
中小企業を守るべき下請法が、中小企業の首を絞めているわけです。
 
下請法は競争法の一部という建前ですが、中小企業の保護を目的とするものなので、中小企業保護のために経済効率性が害されることは予定されていることといえます。
 
ところが、下請法があるために下請の首を絞めるのはまさに下請法の自殺であり、「下請法パラドックス」といえるでしょう。
 
(これはRobert Borkの"Antitrust Paradox"のもじりです。)
 
こういうことが一度でもあると、たとえ注意であっても、親事業者としては、下請事業者のほうから、「販促費を受け取ってほしい」といってきても断らざるを得なくなり、ほんとうに不幸なことです。
 
(これは、下請法では下請事業者の同意があっても違反は違反だという、一般論から出てくる問題です。)
 
代金から差し引くから問題なので別途支払わせればいいじゃないかという人がいるかもしれませんが、別途支払わせても不当な経済上の利益の提供要請にあたる可能性はあります。
 
また最近は、別途支払わせても代金減額だというふうに公取委の運用が変わってきたので、別途支払わせればリスクが低い(勧告になりにくい)とも言い切れません。
 
それに、似たようなタイミングで販促費を支払わせるのに代金から差し引くか別途支払わせるかという小手先の違いで結論が変わるのも法律としておかしいです。
 
もし実質的に違いが出るくらいに、負担のタイミングを変えなきゃいけないとすると、それこそキャッシュフロー的に問題だったりします。
 
企業にとって資金繰りというのは大事な問題なのです。
 
資金繰りの観点からは、代金から差し引くのが下請事業者にとって最も合理的なこともあります。
 
それに対して、一時的であっても、親事業者にキャッシュアウトを要求するというのは、非常に実務上のハードルが高かったりします。
 
そういうところにまで気を配って、勧告や注意をするかどうか決めないといけません。
 
双方ハッピーな取引条件を下請法を理由にやめないといけなくなった場合に困るのは、多くの場合、下請事業者の側です。
 
一番極端な例は取引がなくなることですが、多くの場合、親事業者には代わりの下請はたくさんいるけれど、下請事業者には代わりの(取引がなくなったときにその穴を埋める)発注者というのはすぐには見つかりません。
 
そういうわけなので、自分はあまり困らないので、親事業者の側には、公取委が違反だというなら強く争うインセンティブがなかったりします。
 
こういう、注意なり勧告なりの影響が第三者に強く及ぶ(いわば外部性がある)場合には、公取委と違反者の二当事者対立構造の中で処理することに、そもそもあまり合理性がありません。
 
もし違反者に十分争うインセンティブがあるなら、下請事業者の嘆願書を取りまとめて公取委に提出したりもするのでしょうが、インセンティブがないなら、そこまで手間をかけるきにもならない、ということになってしまいます。
 
だいぶ昔の企業結合の文脈ですが、ある当事会社が、取引先の「この結合を歓迎する」という意見書をたくさんまとめて企業結合課に出したら、担当者に、
 
「こんな意見書を出させることができるなんて、おたくはずいぶんと取引先に対して強い立場にあるんですねぇ」
 
と嫌味を言われた、というケースがありました。
 
下請法なら、なおさらそんな事態になりかねません。
 
なので、当事者が争おうが争うまいが、公取委のほうが、公益の代表者として、市場の隅々までおよぶ影響を考慮して処分をするかどうかをきめないといけないと思います。
 
販促費を負担させるというケースについては、中小企業庁の調査なら問題なしとされたのに公取委ではダメと言われることもあるとも聞きます。
 
下請法は形式的な法律といわれますが、形式的には減額にならざるをえなくても、実質的に問題ない場合には、ぐっととどまることが大事で、それこそ、処分官庁の裁量が発揮されるべきところでしょう。
 
心当たりのある公取委の方は、大いに反省していただきたいと思います。

2017年9月28日 (木)

電磁的方法で交付された3条書面の交付時期

下請法の3条書面(発注書)は電磁的方法でも交付できますが、その場合、いつ交付されたことになるのでしょうか。

常識的な感覚からすると、書面で交付するときには物理的に下請事業者に到達した時点(見た時点ではなく)が交付の時点なので、メールで送付した場合には下請事業者がメールを受信した時点(開いた時点ではなく)が交付の時点となりそうですが、実はそれほど単純ではありません。

というのは、

①どこまでやったら3条書面交付義務を果たしたことになるのか、

という問題と、

②いつの時点で交付したことになるのか、

という問題が、密接に関連しながらも微妙にずれているからです。

しかもこの2つの問題のどちらを議論しているのかを意識しないと、ますます議論が混乱します。

(この点についてのポイントを先に言うと、下請法では①だけが問題なのであり、②は問題にする必要がありません。②が一義的に決まるはずという前提のもとで①を論じるから、混乱が生じるのです。)

条文を確認していきましょう。

まず、下請法3条2項では、

「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令〔下請法施行令2条〕で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項

電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるもの

により提供することができる。

この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。 」

とされています。

そして、下請法施行令2条(情報通信の技術を利用する方法) では、

「1   親事業者は、法第三条第二項 の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則〔3条規則2条〕で定めるところにより、

あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

2   前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。

ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

とされており、3条規則2条では、

「法第三条第二項 の公正取引委員会規則で定める方法は、に掲げる方法とする。

一   電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し

当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

(法第三条第二項 前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

二   磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2   前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3   第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。」

とされています。

電子メールによる交付は3条規則2条1項1号イの、

「イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、

受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法」

であることがわかります。

また、同条2項により、その電子メールは、

「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるもの」

でなければならないことが分かります。

同様に、ウェブサイトを閲覧させる方法による提供は3条規則2条1項1号ロにさだめられており、おなじく、出力して書面を作成できなければなりません。

以上を前提に、

「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」

では、第1の2「 電子メールによる電磁的記録の提供に係る留意事項」で、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。

また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。

(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,

下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

とされています。((2)は親事業者のウェブサイトを閲覧させる方法です。)

このように、「留意事項」で、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

と明言されているため、下請事業者が自分のパソコン(あるいはサーバー)に保存しなければ交付したことにならないのではないか、それらの記録行為がなされれた時点が3条書面の交付の時点となるのではないか、という疑問が生まれてくるのです。

しかしこの問題は、そもそも3条書面の電磁的方法による交付をみとめることになった大元である、IT書面一括法(「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」。2001年4月1日施行)の解釈のほうをみないと、解決できません。

電磁的方法による文書の交付時点の問題については、立案担当者解説である、

久米孝「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)の概要」NBL711号16頁(2001年4月)

に、「書面の交付に代えて行われた書面に記載すべき事項の到達時点のみなし」という節で、

「書面の交付に代えて行なわれた書面に記載すべき事項等の提供については、

書面の交付時点が当該法律上の他の規定において、何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(たとえば割賦販売法四条の三第一項は、書面受領の日から八日以内にいわゆるクーリングオフができる旨を定める)や、

当該書面の提出後、一定の期間内に何らかの措置をとることが義務づけられている場合(たとえば中小企業等協同組合法四七条二項は、書面による請求があった日から二〇日以内に臨時総会を招集しなければならない旨を定める)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合を除いて、

明文の規定をおいていない。

これは「書面の交付」において、書面の交付がどの時点でなされたかについて実定法上明示的に規定されていないのと同様で、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる。

と説明されています。

到達時点のみなし規定がない場合には、どの時点で提供義務が尽くされたかはケースバイケースできめる、ということですね。

ちなみに、個別信用購入あっせんについて到達時点のみなし規定である割賦販売法35条の3の22は、

(情報通信の技術を利用する方法)

第三十五条の三の二十二  個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は個別信用購入あつせん業者は、

第三十五条の三の八又は第三十五条の三の九第一項若しくは第三項の規定による書面の交付に代えて、

政令で定めるところにより、

当該購入者又は当該役務の提供を受ける者の承諾を得て、

当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。

この場合において、当該個別信用購入あつせん関係販売業者若しくは当該個別信用購入あつせん関係役務提供事業者又は当該個別信用購入あつせん業者は、当該書面を交付したものとみなす。

 前項前段に規定する方法(経済産業省令・内閣府令で定める方法を除く。)により第三十五条の三の九第一項又は第三項の規定による書面の交付に代えて行われた当該書面に記載すべき事項の提供は、

購入者又は役務の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該購入者又は当該役務の提供を受ける者に到達したものとみなす。」

と、購入者のファイルへの記録の時点を到達時点とみなすと規定しており、この規定について、

経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版 割賦販売法の解説』

では、

「書面一括法においては、本規定〔35条の3の22第2項〕を設ける必要がある場合を、

・ 書面の交付時点が当該法律上の他の規定において何らかの後の法的行為の起算点となっている場合(書面受領の日から8日以内にクーリング・オフができる規定等)

・ 当該書面の提出後、一定の期間以内に何らかの措置をとることが義務付けられている場合(書面の提出の日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない規定等)

といった、当事者同士に委ねておいては起算点や期限が確定しない場合のみに限定しており、

したがって、

単に書面不交付について罰則や行政処分の規定があるという場合や、

単に契約締結時までに書面を交付しなければ罰則が適用されるという場合

においては、本規定は措置しないという整理となっている

(よって、クーリングオフが規定されていない割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせんにおいては、本項と同内容の規定は存在しない)。」

と説明されています(p250)。

下請法の3条書面交付は、たんに刑罰が科されるだけなので、みなし規定はない、ということですね。

下請法3条も、当然、このような解釈を前提に解釈されていると考えられます。

公取委側の担当者解説である、

向井他「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項について」公正取引607号53頁(2001年)

では、電子メールにより送信する場合について、

「下請事業者自身がメールサーバーを有している場合もあり得るが、通常の下請事業者の場合は、インターネットプロバイダ等と契約をしたり、親事業者のシステムを利用するなど、当該プロバイダー等のメールサーバーを利用することになるから、電子メールを送信しても、当該メールサーバーに記録されるだけで、下請事業者のファイルに記録されたことにはならない。

したがって、下請事業者が当該メールを受信することにより自らのファイルに記録していなければ、書面の交付に代えて提供したことにはならない。」

と説明されています。

さらに同論文p54では、発注者のウェブサイトを閲覧させる方法について、

「通常、ブラウザソフトによりウェッブのホームページを閲覧させることになるが、この方法は、一時的に情報を〔下請事業者のパソコンの〕メモリーに保存することによりウェッブのホームページを表示させるものである。

他方、ファイルに記録するということは、情報をファイルに固定させ、いつでも当該情報を取り出せるようになっていることが必要であることから、

下請事業者が〔親事業者の〕ホームページを閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録することにはならないので、

別途電子メールで〔通知事項を〕送信するか、ホームページにダウンロード機能を付けるなどの措置が必要となる。」

と解説されています。

専用のウェブサイトを開設しているのにわざわざ別のメールを送る親事業者はあまりいないでしょうから、現実的には、ホームページにダウンロード機能を持たせることが多いと思われます。

そして、IT書面一括法が、到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合(←下請法はこちら)とを分けていることをふまえれば、前述の「留意事項」の、

「(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は・・・

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

としている部分も、受信した時点を交付時点(到達時点)とみなす趣旨ではない、と解さざるをえないと思います。

というのは、IT書面一括法が到達時点のみなし規定を置く場合と置かない場合とをあえて分けているにもかかわらず、みなし規定がないのに一律に特定の時点で到達したとみなされると解釈すことは、IT書面一括法の解釈としてありえないからです。

ところでファイルへの保存が要求されている理由について、向井他p53では、

「下請法は50本の法律を一括して改正する法律により改正されたが、

当該法律において書面の交付によ代えることができる電磁的記録の提供方法として、書面が交付されたと実質的に同視し得るよう、

受信者のファイルに記録することを要件とする統一的な取り扱いが行われたが、

下請法は、下請取引の適正化と下請事業者の保護を目的としており、下請法の目的からも必要な要件であろう。」

と述べられています。

つまり、できるだけ書面と同視できるようにしようという趣旨なのです。

ということは、電磁的方法だからといって書面の場合以上に過重な負担を負わせるものではない、ということが言えると思います。

では、最も典型的な、電子メール(本文でも添付ファイルでも)で3条書面を送るときに、親事業者はどこまでしなければならないのでしょうか。

この点について、

清水規廣「横浜弁護士会独占禁止法研究会編 一問一答 下請法・下請取引<14> - 下請取引基本契約書の締結と電子メールによる受注のチェックポイント」NBL936号(2010年)p98

では、

「・・・下請事業者の電子メールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者が自身のパソコンのファイルに記録して、いつでも出力することにより書面を作成できる状態、つまりいつでもプリントアウトできる状態にしなければならない。

そこで、親事業者としては、電子メールを送信するに当たり「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

受信・開封・保管しなければ下請法3条の書面を交付したことにならないから、

親事業者としては「メールで送ったから開封・ファイルへ保管されたい」旨電話等で連絡し開封確認メッセージをも保存しておく必要があることになる。」

と説明されています。

しかし、わたしはこれは行き過ぎだと思います。

いちばんわかりやすい理由をあげると、3条書面不交付には50万円以下の罰金が科されますが(下請法10条)、開封の確認までしないと刑事罰の対象になるというのは、自己責任の原則からして問題があります。

また、到達時のみなし規定がない場合には、

どの時点で当該事項の提供義務が尽くされたかは、個別のケースごとに、

送り手側の努力としてどこまで行ったか、

それに対して受け手がどういう態度をとったか、

法律の目的は何か、

といった要素を総合的に考慮して判断されることとなる

というのがIT書面一括法の立場です。

そして、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する

ということまでしないと「送り手側の努力」として不十分だ、というようなことはとうていいえない、と思います。

もしそんなことを言い出すと、書面で送る場合にも、普通郵便ではだめで、常に配達証明付き書留郵便で送らないといけない、ということになりかねません。

ファックスでも、送信確認(モニターレポート)機能がある機種しか使えないことになります。

もちろん、義務を履行したことの証拠を残すことは実務上望ましいわけで、その意味で、開封確認を要求することは望ましい方法だとは思いますが、証拠を残すのはあくまで立証の問題なのでいくらでも手段はありえます。

しかし開封確認を求めることが実体法上の義務の一部だといわれると、話は変わってきます。

他のやり方では代替できないからです。

しかも上記論文ではIT一括書面法の立法趣旨や到達時のみなし規定のことにはふれず、ただ、3条規則の文言だけを頼りに上記の結論を導いているので、その意味でも説得力に欠けます。

このような解釈上の疑義が生じるのは、IT書面一括法で、到達時のみなし規定を置かない法律についてはどこまでやれば書面交付義務を果たしたことになるのかをあえてあいまいにしているためなのです。

あえてあいまいにしている趣旨を汲まずに、法律や規則の文言だけから杓子定規に結論を導くと、こういう結論になってしまうのだと思います。

たしかに、「留意事項」では、

「書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。

例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。」

といっているのですが、これとても、受信していることが必要といっているだけで、反対にいえば、受信さえしていればそれでいいということです。

受信が必要だということから、論理必然に、

「開封確認メッセージの要求」をして下請事業者が電子メールを受信・開封・ファイルへ保管したことを確認する必要があることになる。

ということはいえないですし、そのようなことを刑罰の威嚇をもちいて強制する正当性もないと思います。

以上は電子メールの場合ですが、ウェブサイトを閲覧させる方法の場合には「留意事項」ももっと割り切っていて、

「下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,

ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして

下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」

といっているだけです。

つまりこちらの方では、ダウンロード機能を持たせれば足りるということがはっきりしていて、ファイルへ保管したことの確認までは不要であることがあきらかです。

それにもかかわらず電子メールの場合だけ、ファイルへ保管したことの確認まで要するというのは、バランスが悪いと思います。

「留意事項」の、

下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。」

というのは、文字どおり、下請事業者が自身のパソコンにデータが記録されていればたりるという意味であって、実際に記録さえされていれば、極端にいえば、親事業者はその証拠すらなくても刑罰を科されることはない、ということでしょう。

検察や公取は下請事業者のパソコンを調べることもできるのですから、親事業者が証拠を持っていなても、交付の事実が「証明」できてしまう、ということは大いにあり得ることだと思います。

2017年5月31日 (水)

景品と下請法

景品の製造を委託した場合、下請法の適用はあるでしょうか。

この問題について公取委のホームページでは、

「Q9 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。

A. いわゆる景品は,商品に添付されて提供される場合,有償で提供している商品の一部として提供がなされているため製造委託(類型1)に該当する。

また,純粋に無償で提供している景品であっても,自家使用物品として当該景品を自社で業として製造している場合には,製造委託(類型4)に該当する。」

と回答されています。

ただ、この回答はやや明確性に欠けるように思われます。

というのは、前段では商品に「添付」されているかが基準であるように読めるのに対して、後段では有償かどうかが基準であるようによめるからです。

前段でも「有償で提供している商品・・・」と、有償性が強調されていることからすれば、このQ&Aをぼーっと読んだ多くの人は、実質的に有償か無償かが適用の基準であると解釈するのではないでしょうか。

(もし添付されているかどうかを明確に意識してこのQ&Aができているなら、後段には、無償の例ではなく添付されていない例がくるはずです。)

よって、おそらく公取は、(商品に添付されているかどうかではなく)実質的に有償といえるかどうかを基準に判断しているのではないかと想像されます。

しかしこのQ&Aをひとまず措いて、下請法の正しい解釈としては、私は添付されているかどうかを基準にすべきと考えます。

つまり、商品に添付される景品は下請法の対象になり、添付されていない景品は対象にならない、と考えます。

条文をみてみましょう。

製造委託は下請法2条1項で、

「事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる

物品若しくは

その〔=「物品」の〕半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型

・・・の製造を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること」

と定義されています。

この条文の構造からいえることは、下請法の対象になるのは(販売目的の)「物品」の製造の委託と、「物品」と物理的に一体化してユーザーに提供されるもの(半製品、部品、附属品、原材料)に限られる、ということです。

金型はその唯一の例外です。

金型はあくまで「物品」を製造するものであって、金型自体が「物品」と物理的に一体化するわけではありません。

このように、「物品」と物理的に一体化しないのに下請法の対象になるのは、金型だけなのです(「物品」を製造するための特殊な工具は、「金型」ではないし、まして、「半製品、部品、附属品若しくは原材料」でもないので、下請法の対象にはなりません。)

そして、①親事業者がユーザーに販売する物品、②かかる物品と一体化するもの、③かかる物品を製造するための金型、以外で製造委託になるのが、類型4の自己使用物品になるわけです。

このように、物理的に一体になるかどうかで下請法は明確にその適用範囲が画定されています。

もし物品と物理的に一体化しない景品が、実質的に有償だというだけの理由で下請法の対象になるとすれば、条文上は、景品が「物品」にあたると読むのだと思われます。

しかし、そういうことをやりだすと、こんどは「物品」たる景品の附属品というものまで考えなくてはならなくなって、下請法の適用対象が際限なく広がることになり、せっかく物理的に一体化するかどうかで適用範囲を明確にした下請法を台なしにしてしまいます。

それよりも、「物品」と一体化した(商品に添付された)景品は、「附属品」にあたる、とかんがえるのが、よほどすっきりした解釈で、条文の構造にもぴったりくると思います。

(ちなみに「附属品」の典型例として考えられるのは、医薬品の取扱説明書や容器のようなものです。)

添付されているかどうかを基準にすることが納得いかない人は、たとえば、商品に景品をくくり付けたら「附属品」として下請法の対象になるのに、景品を別に提供すると(たとえば、シールを5枚集めて応募すると景品が送られてくる場合)下請法の対象にならない、というのが腑に落ちない(バランスがわるい)と考えられているのだと思われます。

しかし、そういう人は下請法の条文の構造を理解していません。

条文上はあきらかに、「物品」と物理的に一体になっているかどうかが基準になっています。

そのようにあえて割り切ったのは、下請法の適用対象を明確にするためです。

にもかかわらず、実質的に有償か無償かで判断するとなると、限界がきわめて不明確です。

極端にいえば、町で配っているティッシュだって、企業は宣伝広告費を負担しており、宣伝広告費は商品代金に乗っている、ともいえるのであって、純粋に「無償」とはいえないかもしれません。

あるいは、懸賞による景品は、実質的には無償なのでしょうか、有償なのでしょうか。

仮に実質的には有償(商品の価格に上乗せされている)であるとしても、

「食パン10斤買った人から抽選で1名様に豪華リラックマの抱きまくらプレゼント」

というような企画の場合、リラックマの抱きまくらを「物品若しくはその〔=「物品」の〕半製品、部品、附属品若しくは原材料」のどれかに読み込む(実際には、一番近そうな「附属品」に読み込む)のは、言葉の問題として無理なのではないでしょうか。

やはり、懸賞による景品は、下請法の対象外と読むのが条文解釈として正しいと思いますし、その理由はといえば、唯一当たりそうな「附属品」にあたらないから(物理的に商品と一体化していないので)、ということなのだと思います。

この点について明確に述べた文献は探した限り見当たりませんが、

薮内俊輔「下請法の適用範囲①」公正取引787号

に、試作品の製造委託の説明のところで、

「・・・明確に有償とされていないが量産の完成品の供給に伴って提供する場合(商品添付の景品と類似する。講習会テキスト18頁参照。)は、製造委託の類型1として下請法の適用がある。」(54頁)

というように、「添付」が景品への下請法の適用の条件であることを示唆する記述があります。

また、きっかわ法律事務所のホームページの「下請法Q&A」では、

「懸賞で使用されている景品の製造を委託した場合も下請法の対象になりますか。」

という設問で、

「いわゆる景品は、商品に添付されて提供される場合を除き製造委託には当たりません。」

と明言されています。

とういわけで、添付されているかどうかで区別するのが正しいと思います。

2017年5月23日 (火)

下請法の質問に対する中小企業庁のある課長補佐の対応について

最近、事情があって(通常は公取に聞くのですが)、とある依頼者のために、中小企業庁に下請法の質問をすることがありました。

依頼者は匿名ではあるものの、わたしの名前と連絡先は明らかにし、具体的な事情(大して複雑なはなしでもありません)も包み隠さず説明したうえでの質問だったのですが、某H.S.下請代金法担当課長補佐(中小企業庁事業環境部取引課)から、回答を拒否されてしまいました。

とくに、2回電話したうちの最初の電話での回答は、

「立入検査で具体的な問題が発生したなどというのでない限り、個別の案件についてはいちいち回答しない」

という、信じられないような回答でした。

そんなことはないだろう、公取でも中企庁でも、いくらでも回答してもらっている、といっても、

「(具体的な案件にいちいち答えないのは)当たり前でしょう」

「そっちのほうがおかしい」

と、まったく取り付く島もない感じでした。

最後には、

「これ以上は業務妨害ですよ!」

といって、一方的に電話を切られてしまいましたcoldsweats01

(実は、この課長補佐との「最初」の電話の前に、わたしから中企庁に電話をして質問したところ、もっと若い方が出られて、「検討して折り返します」といって、折り返されてきたのがこの「最初」の電話です。つまり、いちおう検討する時間もあって、わざわざ課長補佐からかけなおしてこられたものです。)

そこで2度目の電話で、下請法テキストの最後の頁に、

「~ご相談やご質問は、全国の相談窓口までお気軽にどうぞ。~」

と書いたうえで中企庁の窓口の連絡先も載ってるじゃないかといって、再度食い下がったのですが、やっぱり同じような回答でした。

当該課長補佐の論理では、「明確なルールがないというのが回答」だということらしいのですが、同じことだと思います。

あと、

「紙に書いたようなルールがないので、明確な回答はできない」

←(心の声)紙に書いたものがあったらこっちもきかないよcoldsweats01

「ルールが明確でない以上、下請法の適用があるという前提で対応するのが望ましい」

←(同)法律論を聞いているんだよangry

という、お役人様らしい迷言も多々ありました。

さらには、

「どうしても下請法の条件を守れない事情でもあるんですか?」

「支払いが60日超えて90日とかなんて、長すぎますよね?」

「守れない事情がないなら、守ったらいいんじゃないんですか?」

といった具合で、まったく理屈の話になりませんでした。

下請法が適用されると取引記録(5条書類)を2年間保存しないといけないとか、下請事業者の名簿を準備しなくちゃいけないとか、いろいろ面倒なことがあることをご存じないのでしょうか。

当該担当課長補佐が、

「具体的な事実関係がわからないと回答できない」

とおっしゃるので、(それまでかなり詳細に事実関係を説明していましたので)では今まで説明した以上にどんな事情が必要なんですかと尋ねたら、

実際に下請事業者にどのような被害が及んでいるのか、といったような事情です

とおっしゃいました。

そんなのは下請法適用の有無とは何の関係もないのは明らかなのですが、万事こんな具合ですから、「この人、何にもわかってないんだなぁ」と思って、回答をもらうことはあきらめました。

こんなわけのわからないことをいう人が所轄官庁の実質的な責任者をやっているというのが、日本の下請法実務の現状です。

ただ中企庁の名誉のために一言いうと、いろいろ聞くところによれば、どれくらいていねいに回答してくれるのかは担当者によるそうです。

わたしも別の中企庁の担当者に聞いたときは、普通に答えてくれました。

そういう意味で、今の担当課長補佐は、たんに「はずれ」なのかもしれません。

もしどうしても、正式な回答でなくてもいいから、(公取ではなく)中企庁の見解が知りたいんだということがあったら、下請法テキストの最後の頁に載っている最寄りの経済産業局に問い合わせたほうがいいと思います。

そちらのほうが、はるかに下請法のことが分かっている担当者が出てくれるので、少なくとも議論がかみ合います。

ちなみに、私は基本的に、当局に問い合わせるのには消極的で、お客さんにもあまり勧めません。

いろいろ理由はありますが、担当者によって、けっこう言うことが変わるからです。

なので、「聞いてもいいけど、あてにしない」というのが正解かもしれません。

役所によっては配属直後の新米が電話質問の回答をやらされるそうなので、信頼性にも疑問がつくことが少なくありません。

だいぶ昔に、特許庁に質問した時に、質問にいたる前段階のところで、

「ライセンス契約は登録しないと効力がないでしょう?」

といわれ、ひっくり返りそうになったことがあります。

たぶん、通常実施権の登録制度と混同されていたのでしょう(平成23年改正による通常実施権の当然対抗制度の導入前の話でした)。

その点、消費者庁では任期付弁護士の方が回答してくれたりすることがあったのですが(消費税転嫁法関係)、あれはよかったですね。

ほんとうに、法律論として、話がかみ合いました。

もっともっと、弁護士資格者が役所にも増えたらいいのになと思います。

あと、当局に質問する場合は、質問する側も、相当勉強していないと、まちがった回答を引き出してしまいがちなので、自信がない場合は弁護士に頼むべきです。

とくに当局の担当者もよくわかっていない場合、わけのわからないことになります。

今まで公取に下請法の質問をしたときは、きちんと答えてくれていたし、議論してもかみあっていました。

融通が利かない結論には納得いかないことはありましたが、それは下請法がそういう法律なので、ある程度仕方がないです。

今回、中企庁と公取でこうも対応が違うのかと思い知らされ、公取がとても立派で誠実な役所に思えました。

私はこれまで、中小企業保護法である下請法は、競争法当局である公取委から切り離して、中企庁の専管にすべきだと考えていましたが、考えを改めました。

中企庁だけに下請法をまかせきったのでは、えらいことになりそうです。

(ちなみに当該課長補佐にも、「公取には問い合わせたのですか?」と聞かれましたので、あまり中企庁が主体的に下請法を解釈運用していこうという姿勢は今でもあまりないのだなと感じました。)

役所とのクローズなやり取りをオープンにするのは多分これがはじめてですし、あまり好きではないのですが、それでも、これは公益にかかわることだ(納税者たる国民が知っておくべきことだ)と考え、率直に書かせていただきました。

今回のことは、あくまで担当者個人の個性の問題であって(それも困るのですが・・・)、中企庁の組織の問題ではないことを祈りたいと思います。

もし、今回のような対応が中企庁のスタンダードなら、下請法テキストに、

「~ご相談やご質問は、全国の相談窓口までお気軽にどうぞ。~」

なんて書かなればいいし、もし書くなら、中企庁の直通番号は載せなければいいのにと思います。

これでは、明らかに看板倒れです。改善を望みます。

【5月25日追記】

本日、中小企業庁のかたから、上記の不適切な対応へのお詫びと、質問への明確な回答をいただきました。ありがとうございました。

2017年4月 4日 (火)

トンネル会社規制の「相当部分」は何の相当部分か

トンネル会社規制に関する下請法2条9項では、

A社(本来の親事業者)→B社(トンネル会社)→C社(下請事業者)

という想定で補足しながら引用すると、

「〔①〕事業者〔=A社〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、

かつ、

〔②〕その事業者〔=A社〕から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=B社〕が、

〔③〕その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合・・・において、

再委託を受ける事業者〔=C社〕が、・・・当該事業者〔=A社〕から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号〔=下請事業者の定義規定〕のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、

この法律の適用については、再委託をする事業者〔=B社〕は親事業者と、再委託を受ける事業者〔=C社〕は下請事業者とみなす。」

と規定されています。

さて、ここで問題は、③の

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分

というのが、何の「全部又は相当部分」なのか、つまり、

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為」

とは何なのか、さらに突きつめて言えば、「その製造委託等」の

「そ」

とは何を指すのか、という問題です。

考え方としては、

①A社がB社に委託する製造委託等を、全部まとめて考える

②A社がB社に委託する製造委託等を、商品ごとにまとめて考える

③A社がB社に委託する製造委託等を、個別の発注ごとに考える

というものが考えられそうです。

(①と②は何を基準に「まとめ」るのかが問題となりますが、あとで説明します。)

この問題については下請法講習テキストをみても、

「(イ) 親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合(例えば,親会社から受けた委託の額又は量の50%以上を再委託」

と説明してあるくらいで(平成28年11月版15頁)、「なんとなく①(全部まとめる)かなあ」と思えるくらいで、決定打に欠けます。

しかも、条文を文字通りに読むと、③(個別の発注ごとに見る)も、ありえなくはないようにもみえます。

ですが、わたしは①(全部まとめる)が正しいと考えています。

というのは、それが、トンネル会社規制の趣旨(脱法行為の禁止)からすれば、いちばん素直だからです。

(というか、当たり前すぎて論点となりうることすら、誰も気づいていないかもしれない、というレベルの問題かもしれません。)

条文の文言上も、そんなに無理はないと思われます。

なのでこの説(①.全部まとめて考える)では、

「そ」=A社がB社に委託したすべて(の製造委託等)

とよむわけです。

たとえば粕渕他編著『下請法の実務(第3版)』p73でも、

「例えば、介在する事業者が、一定期間に部品100個の製造委託を10件受け、そのうち6件について再委託するような場合や、

同一部品1000個の製造委託を受け、そのうち600個を再委託するような場合は、

介在する事業者が受けた製造委託等の6割を再委託しているのであるから、

『相当部分』を再委託したものと評価されることとなる」

というように、「一定期間」でまとめることを想定した説明がなされているので、少なくとも③(個別発注ごとに考える)はありえないことになりそうです。

ちょっと悩ましいのは、それに続けて、

「また、介在する事業者が単価の異なる複数の種類の部品1000個の製造委託を一の発注で受けたような場合は、個数で判断することは困難であるから、金額に見積もって50%に達するか否かを判断することになろう。」

と、「一の発注」ごと、つまり個別の発注ごとに過半数かどうかをみるような説明がされている点です。

しかしこれは、A社とB社の間にその1件の発注しかなかったような場合を想定して説明しているとみるべきで、複数の発注をまとめるべきかどうかというここでの問題とは無関係である、と読むべきでしょう。

なお当たり前ですが、粕渕編ではB社が1000個を受注してそのうち600個を再委託する、というような例で説明されていますが、もちろん、B社が受注した製造委託の工程の一部を再委託するような場合も、トンネル会社規制が及びます。

たとえば、A社がB社に完成品1000個の製造を発注し、B社がC社に、その完成品のためユニット1000個を発注し(完成品1個に1ユニットを使う)、そのユニットの下請代金が完成品の下請代金の過半数であれば、トンネル会社規制にひっかかります。

というのは、条文上、

「その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分」

とされていて、「行為」の相当部分かどうかが問題だからです。

さて、①(全部まとめる)と、②(商品ごとにまとめる)では、どちらを取るべきでしょうか。

この問題については、

池田毅「連載講座 下請法の実務に明るい弁護士による「ケーススタディ下請法」 第3回 下請法の適用範囲②」公正取引788号54頁

という論文が、論点を、

「(ⅰ)A〔=トンネル会社〕は複数の商品を発注しているところ、

その全体に対する再委託の割合をみるべきか、それとも

個別の商品ごとに再委託の割合が50%以上となるかをみるべきか」(55頁)

という問題と位置づけたうえで、

「たとえばメーカーブランド品(NB品)とプライベートブランド品(PB品)を同一の事業者から購入している場合に、これらが同一発注で注文されることもあるが、

前者については下請法は適用されないが、後者については下請法が適用される。

このように下請法の適否が商品ごとに判断されることからすれば、・・・

商品ごとに〔50%以上の再委託の〕基準の該当性を評価すべきように思われる。」

と論じられています。

しかし、この理屈はおかしいと思います。

NB品に下請法が適用されず、PB品に適用されない理由は、たんに、NB品は製造委託に該当せず(と言っていいかどうかも疑問ですが、それは措きます)、PB品は製造委託に該当するからでしょう。

それはいいのですが、このような、

「下請法の適否が商品ごとに判断される」(→あたりまえ)

ということから、

商品ごとに〔50%以上の再委託の〕基準の該当性を評価すべき」

という結論には、論理的にはつながらないと思います。

つまり、

「下請法の適否が商品ごとに判断される」(→あたりまえ)

ということからは、

「下請法の適用される取引であっても、個別に考える」

という結論も、

「下請法の適用される取引は、まとめて考える」

という結論も、まったく同様に導くことが可能です。

別の切り口からいうと、NB商品とPB商品を1つの発注書で発注してもPB商品にだけ下請法が適用されるのは、「下請法の適否が商品ごとに判断される」からであるというよりも、製造委託に該当するところのPB商品に下請法が適用されるから、に過ぎません(あたりまえすぎて、自分でも何を言っているのかわからなくなりそうですが)。

つまり、「下請法の適否が商品ごとに判断される」というルールからは、下請法対象取引はまとめるか、個別に考えるかという問題の答えは出ない(論理的な関係がない)わけです。

下請法上あたりまえ(当然の前提)のことから、特定の結論を導くのは無理があります。

(ちなみに、2条9項の条文も、

「・・・その事業者〔=A社〕から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=B社〕が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合」

とされているので、A社からB社への発注も、B社からC社への発注も、どちらも下請法の対象である製造委託等である必要があります。)

それに、たとえば10種類の商品を再委託しているうちの1種類でも過半数にいくとトンネル会社になるとすれば、1種類でも丸投げすると、(その種類についてだけではありますが)トンネル会社となってしまい、厳しすぎるでしょう。

公取の先例である東陶メンテナンスに対する勧告の担当者解説をみると、

「東陶メンテナンスは、東陶機器から委託を受けた東陶製品に係る無償修理を自社で行うほか、当該修理の約8割を全国各都道府県に所在するサービス代行店・・・に委託している。」(公正取引670号58頁)

ということで、「無償修理」は一種類だったから全体で8割だと判断したともいえますが(ぜんぶまとめて8割であればいいと当然のように考えていた可能性も高いですが)、仮に、修理の内容にいろいろあったとしても、きっとぜんぶまとめて1つと見たのだろうと思います。

というのは、ここでの「東陶機器」には、「温泉洗浄便座、水栓、衛生陶器等」(p57)と、いろいろなものがあったようであり、そうすると、それぞれ別の修理だと評価できた可能性もあったわけで(便座と水栓の修理は別物っぽい)、それを何の断りもなくひとまとめにしている以上、やはり、商品や役務の内容ごとに区々に区切っている考え方はとられていないと思われるのです。

もう一つ例をあげると、

辻吉彦『詳解下請代金支払遅延等防止法(改訂版)』

では、公取委発表資料(平成3年6月6日発表「平成2年度における下請法の運用状況及び下請代金の支払状況」)のなかに、「トンネル会社の支払遅延」として、

「・・・当該子会社〔トンネル会社〕は、・・・E社〔ほんらいの親事業者〕から受けた製造委託の約60パーセントを他の事業者に再委託していることから下請法2条5項〔現行9項〕の規定により親事業者とみなされる、いわゆるトンネル会社に該当する・・・」(p34)

という記述があることが紹介されており、ここでも、委託を受けたすべての製造委託を基準にみている様子がうかがえます。

ところが、さらに悩ましいことをいっているのが、

小倉正夫(公取委事務局取引部下請課長)「わかりやすい下請法(2)-下請法の適用範囲-」公正取引393号15頁

で、そこでは、トンネル会社の判断基準は、

「イ 相当部分を他の事業者に再委託するについての相当部分とは、特定の製造委託又は修理委託の額又は量の50%以上であること」

と解説されていることです。

この、「特定の」というのがまさに商品ごとという意味ではないか?というようにも(見ようと思えば)みえてくるわけですが、この「特定の」には、深い意味はないと割り切るほかないでしょう。

この論文でも「特定の」の意味については何ら深掘りされておらず、言いっぱなしです。

きっと深い考えもなく、筆が滑ったのでしょう。

国会議事録も見てみましたが、あいにく条文の解釈のような細かい話はありませんでした。

トンネル会社規制は昭和40年改正で社会党の提案で入ったものなのですが、そこでの議論は、

昭和40年2月16日の中小企業政策審議会の下請小委員会の中間答申でトンネル会社の問題については、『今後、さらに実態把握につとめ、法改正の必要があるか否かについて検討すべき」とされているが、それでは生ぬるい!

といったものばかりが目立ちます。

唯一、条文の解釈論の参考になりそうなのは、昭和40年5月12日参議院商工委員会(議事録35号)の影山衛司中小企業庁次長の答弁です。

大半は社会党からの「生ぬるい」「実態解明してからとかいうのは勉強不足だ」という突き上げに対する釈明ですが、その中で、

「・・・また〔トンネル会社の〕規定のしかたがやはり非常にむずかしいわけでございます。

社会党のほうの改正案にございますような「資本的又は人的関係において支配を受けており、」というような規定をいたしても、それでは資本的に何%持っておればこれが支配関係にあるかというようなことになりますと、かりに五〇%ときめますと、これは四九%だということになりまして、なかなか脱法を防ぐこともむずかしいというようなことでございます。」

という発言があります。

まあこのくらいしか議論されていないわけですし、全体の議論のトーンとしては、脱法(下請法の資本金要件をかいくぐる)を防ぐという発想は国会の議論でも色濃く出ています。

そうすると、商品ごとにとらえて1個でも過半ならトンネル会社だというのは、やっぱり厳しすぎると思います。

当局もそこまで厳しいことは言っていないようですし、私はそれでいい(①の全部まとめる説が妥当)と思います。

では全部まとめるとして、どの範囲でまとめるか(具体的にはどの期間でまとめるか)という問題があります。

さすがに、トンネル会社ができてからの全部の取引をまとめるというのは、(それでも運用は回っていくのかもしれませんが)法解釈としてかなりためらわれます。

この点について前記池田論文では、

「ある一定の期間(たとえば毎月末締め)には、その当該支払対象期間についての再委託の割合によりトンネル会社規制の適否を判断するのが妥当」(p55)

という考え方が示され、なので、繁忙期だけ5割以上になる場合でも、その繁忙期についてはトンネル会社規制がおよぶ、とされています。

これはこれで一つの考え方ですが、私はこの点についても、そこまで厳しく言わなくてもいいんじゃないかと思います。

あえていえば、過去1年くらいさかのぼって50%以上でなければいいんじゃないでしょうか。

もしそれよりも近い時期に再委託が急に増えたりとか言った事情があるなら、ケースバイケースで柔軟に考えるというのでいいのでしょう。

いずれにせよ、はっきりした基準はありませんし、トンネル会社規制というのはそれくらいおおらかな解釈で回っていくんだと思います。

ともあれ、こういう細かい議論をあえて論文に書いてもらうのは、議論の蓄積のためにはとても貴重なことであり、その意味で池田論文は貴重だと思います。

当たり障りのないことだけ書いてたのでは、本当に知りたいことは何も書かれていない、ということになりかねません。

2016年12月28日 (水)

改正下請法運用基準の疑問点

改正下請法運用基準のなかで、5-2の、量産終了後の補給品に関する買いたたきの事例がおかしいんじゃないかということは11月22日の記事で書きましたが、もうひとつ気になる記述があります。

改正運用基準5-3(4)では、

「(4) 親事業者は,原材料費が高騰している状況において,

集中購買に参加できない下請事業者が従来の製品単価のままでは対応できないとして下請事業者の調達した材料費の増加分を製品単価へ反映するよう親事業者に求めたにもかかわらず,

下請事業者と十分な協議をすることなく,

材料費の価格変動は大手メーカーの支給材価格(集中購買価格)の変動と同じ動きにするという条件を一方的に押し付け,

単価を据え置くことにより,通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。」

という例が買いたたきとされています。

しかし、これは競争というものを無視した、非常に問題のある設例だと思います。

このような行為が買いたたきになるなら、集中購買に参加できない中小企業に対してだけ、発注者は高い価格を設定してあげなければならなくなります。

しかし、集中購買に参加できる大企業も参加できない中小企業も同じ市場で競争しているはずであり、両者で区別しなければならない(中小企業に下駄をはかせなければならない)理由は見当たりません。

もし設問での発注者が、たまたま中小企業だけに発注していたとしても、潜在的にはいつでも大企業への発注に切り替えることはできるのですから、同じことです。

この設例が許されるとしたら、当該発注者にとっては、大企業に発注することが何らかの理由で不可能である、という場合だけでしょう。

価格競争力のない企業はたとえ中小企業であっても市場から消えていくのが競争というものであり、この設例は競争の基本を無視しています。

この設例でも、他の買いたたきの設例と同様に、最後のところで、

「通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた」

というしばりがかかっていますが、この設例に限って言えば、そもそも「通常の対価」として何をイメージしているのか、さっぱりわかりません。

(ところで、買いたたきの設例ですべて「通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた」という一節をこっそり入れて、形式的には法律違反の運用基準でないという体裁を繕いつつ、実は多くの企業がその部分は読み飛ばして「対価を据え置くだけで下請法違反になるんだ」と誤解するように仕向ける、というのは、実に小役人的で、たいへん姑息なやり方だと思います。)

もし「通常の対価」が、

集中購買に参加できない企業が供給できる通常の対価

のようなものをイメージしているとしたら、

集中購買に参加できない企業のみを供給者とする市場

を観念しているということであり、競争の実態を完全に無視しているといわざるをえません。

もしそうではなくて、「通常の価格」が、集中購買に参加できる企業もできない企業も含めた市場を観念しているなら、価格は安い方に収れんしていくでしょうから、集中購買に参加できる企業の水準まで下げることを要求したとしても買いたたきになるはずがありません。

このように、この設例はいったいどのような競争状況をイメージしているのか、まったく見えてきません。

きわめて特殊な前提(例えば前述のように何らかの事情でこの発注者は集中購買に参加している企業からは調達できない、など)を置けば、この設例が正しい場合もあるのかもしれませんが、そのような特殊な場合にしか成り立たない(つまり、実際には適用される場面のない)設例を運用基準に載せるというのは、誤解を招くことはなはだしいと思います。

いったい、この改正を担当した公取委の担当者は、競争というものが分かっているのでしょうか?

ところで、運用基準をこのように批判的に検討しておくことは、とても重要だと思います。

なぜなら、理論的に根拠が薄弱な運用基準は実際には発動されないからです。

そういう観点からみると、同じように羅列されている設例のなかで、どれが本当にやばそうで、どれがリップサービスなのか、濃淡がつけられます。

こんな運用基準が出てしまうのでは、企業の側にも、運用基準を見る目が必要になるでしょう。(運用基準というのは、誰が見ても正しく理解できるものでないといけないと思うのですが・・・)

公取委には、競争政策の担い手としての誇りを持った運用を期待したいと思います。

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