下請法

2026年8月16日 (日)

買いたたきに関する2024年下請法運用基準改正の問題点

2024年に下請法運用基準の買いたたきに関する第4の5⑴が、

「(1) 法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額

と改正されました。

私は、この改正は立法(ではないですが)技術的に大きな問題だと思っています。

というのは、下請法の条文上は、

①「通常支払われる対価」

と比べて、

②「下請代金の額」が「著しく低い」こと、

という2つの要素の認定が必要になっているのに、改正後の(つまり現行の)運用基準では「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」をひとまとめにしてしまっているからです。

別の言い方をすれば、

①「通常支払われる対価」

の認定を不要にしてしまっています。

これが改正前は、

「⑴法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」

という内容だったので、条文の要件に従って、「通常の対価」とは何なのかということを示す内容になっていました。

私は、こういう、複数の要件をあたかも別の1つの要件であるかのようにまとめてしまうのは、解釈の限界を超えていると思います。

このような解釈がまかりとおると、立法で緻密に定めた要件が骨抜きになって、"ガラガラポン"(総合考量)になってしまいます。

あきらかにこの改正は、イをねじ込むためになされたものです。

そのあおりを受けて、

「ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

のほうまで、必要もないのにこれをぜんぶまとめて、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

として取り扱わざるをえなくなってしまいました。

改正前は、

「従前の給付に係る単価で計算された対価」

通常の対価」

として取り扱っていたのに比べて、不明確さが増したといわざるをえません。

まだ、アのほうは、アの中に、

に比し著しく低い下請代金の額

が手つかずで残っているので、実害がないと言えばそのとおりです。

問題はイで、イを無理矢理ねじ込んだために、イにおいては何が「通常の対価」なのかが、わからなくなってしまいました。

でも、「通常の対価」(条文上は「通常支払われる対価」)がわからないのに違反認定できるということは、条文に明記された要件を認定できなくても違反認定できるということです。

これは、条文の要件を解釈で勝手に書き換えたにひとしく、大きな問題だと思います。

実際、イでは、何が「通常の対価」かとまじめに問うと、直ちに行き詰まることになります。

あえて論理的な解釈をすれば、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」

=「イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

です。

短くすると、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」=「据え置かれた下請代金の額」

です。

ここから条文上の要件である「通常支払われる対価」を導出するには、両辺から「に比し著しく低い下請代金の額 」を引いて、

「通常支払われる対価」

=「据え置かれた下請代金の額」ー「に比し著しく低い対価」

=「据え置かれた下請代金の額」+「に比し著しく高い対価」

=据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

となります。

ひらたくいえば、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

ということです。

でも、仮に、

「当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合」

であったとしても、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

なんてことは、まったくいえないと思います。

もし改正前の、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・従前の給付に係る単価で計算された対価通常の対価として取り扱う。」

という、下請法の条文に忠実な枠組みの中にイを加えたとしたら、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・

①従前の給付に係る単価で計算された対価

または、

②(コスト上昇時において)据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

を通常の対価として取り扱う。」

などと書かざるをえなかったでしょう。

そのようにすれば、イが、下請法の条文に合わないことが、一目瞭然だったはずです。

そういう難点を隠蔽するために、こういう小細工をしているわけです。

まことにけしからんことだと思います。

また、「通常支払われる対価」と「著しく低い」を、条文どおりきちんと分けて認定する方法であれば、たんに「通常支払われる対価」(たとえば、従前の対価)より低い対価を定めても、「著しく低くはない」という反論が可能でした。

ところが、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

とみなしてしまうと、据え置いた額は通常の対価よりも低いけれども、「著しく」低くはない、という反論ができなくなってしまいます。

なぜなら、イの定め方は、

「『通常の対価』がいくらかとか、『著しく』がどれくらいかはさておき、ともかく据え置いたら違法だ」

という論理であり、理由(=条文上の根拠)はさておき(=条文上の要件を認定することなく)結論は違法だ、という理屈だからです。

これではまるで、優越的地位の濫用においては条文上「優越的地位」と「濫用」をそれぞれ認定しなければならないことになっているのに、公取委のガイドラインで、「優越的地位の濫用」とひとくくりにして両者を区別せずに違反認定しているようなものです。

それで結論が妥当かどうか(妥当な場合があるかどうか、とか、多くの場合妥当か、とか)が問題なのではありません。

仮に結論としては妥当であったとしても、法文上の要件を無視していることが、問題なのです。

実にけしからんことです。

アメリカでは、司法省とFTCが合併ガイドラインで「合併規制には市場画定は不要だ」という立場を打ち出しましたが、裁判所は条文どおり、市場画定が必要だという立場を維持しています。

日本の公取委も、アメリカの裁判所をみならうべきでしょう。

また改正運用基準では、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

〔ア省略〕

イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

というのにおける、1つめの「著しく」と2つめの「著しい」が異なる意味である(と解さざるをえない)ことも問題です。

同じ言葉は同じ意味に使うのが、法律の世界では常識です。

でも、このガイドラインにおいて、2つの「著しい」を同じ意味で使っていると解釈するのは無理です。

その1つめの理由は、上昇したコスト(人件費とか、エネルギーコストとか)が、コスト全体に占める割合はさまざまだからです。

たとえば、人件費が10%上がったとしても、人件費がコストに占める割合が3割だとしたら、価格はせいぜい3%上げればすむことになります。

そうすると、仮にコストの「著しい」上昇については10%で線を引いたとして、下請代金のほうは通常より3%低いだけで「著しく」低い下請代金と認定されることになってしまいます。

これが「著しい」を二重の意味で使っているという意味です。

公取委は「『著しい』というのは定性的な意味を持つにとどまり、定量的な意味を持つものではない」と反論するかもしれませんが、それがまさに「著しく」を多義的に解しているということなのであり、けしからんポイントであるわけです。

2つめの理由は、そもそもコストが上昇したらそれに比例して価格を上げないといけないというルール自体が現実を無視しています。

上記の例を使えば、人件費がコストに占める割合が3割のときに人件費が10%上がったからといって価格を3%上げなければならないというのは、現実を無視した議論だ、ということです。

なぜなら、企業はさまざまなコスト削減努力をしているからです。

たとえば、上記の人件費のコストに占める割合が3割であるという例において、人件費について、いままで人間の作業時間(価格で測るのではなく、物理量で測るのがポイントです。)が製造1単位あたり1時間必要だったのを、製造方法の合理化によって、40分ですむようにできたとします。

そうすると、人件費が10%上がったとしても、その商品に占める人件費の絶対額は、従来の約73%(≒1.1×40÷60)ですむことになります。

つまり、人件費は27%減っていることになります。

それなのに、運用基準の、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合」

という表現をすなおに読めば、最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げなければならないように読めます(法令解釈の常識に従い、「著しい」を一義的に解した場合)。

仮に法令解釈の常識を無視して、「著しく」を多義的に(=公取委に都合よく)解したとしても、少なくともイでは、上のような数値例(絶対額では人件費が27%減っている場合)においてすら、下請代金は上げないといけないことになります(据え置くと違法になるので)。

また、人件費以外のコスト(上の例では、7割を占めるコスト)についても、コスト削減されているかもしれません。

なので、少なくとも運用基準は文字どおりに読む必要はなく、価格交渉をするなかで上記のようなコスト削減の程度などを確認したうえで、コスト削減がみとめられるのであれば、仮にイに文面上は該当する場合であったとしても、下請代金を据え置くことは買いたたきにはならない余地があると解すべきでしょう。

2026年8月 6日 (木)

どのくらい値下げ要求をすると中小受託法の買いたたきになるのか(それとKADOKAWA担当官解説について)

最近、値下げを求めたら中小受託法(または旧下請法)の買いたたきで勧告が出るケースが増えています。

では、どれくらい値下げをさせたら買いたたきになるのでしょうか。

(なお、量産品前提の価格で補修部品を発注したパターンは全く前提が異なりますので、今回は値下げ前後で同じ取引である場合を前提にします。)

KADOKAWAに対する2024年11月12日勧告では、

「KADOKAWAは、令和5年1月、レタスクラブ事業における販売収入や広告収入が減少傾向にある中、資材費、輸送費等のコストも上昇しているとして、自社の収益改善を図るため、本件業務を下請事業者に委託する際の発注単価を改定する旨を記載した「原稿料改定のお知らせ」と題する文書を下請事業者に通知した上で、下請事業者と十分な協議を行うことなく、

当該発注単価を従前の単価から約6.3パーセントないし約39.4パーセント引き下げることを一方的に決定し、令和5年4月発売号以降のレタスクラブに係る本件業務を下請事業者(26名)に委託する際に、当該引下げ後の単価を適用した。」

という事実が買いたたきになっています。

というわけで、従前から6.3%くらいの値下げ要求で買いたたきになっています。

ではほかの事例はどうなのかというと、ホーチキメンテナンスセンターに対する2007年12月6日勧告の公取委プレスリリースでは、

「ア ホーチキメンテナンスセンターは,⾃社の経費削減を図るため,下請事業者に対して,「出精値引」と称して,下請代⾦の額に⼀定率(10.5パーセントから17.5パーセントの間の率をいう。以下同じ。)を乗じて得た額を負担するよう要請し,平成18年1⽉から同19年4⽉までの間,下請代⾦の額に⼀定率を乗じて得た額を当該下請事業者に⽀払うべき下請代⾦の額から差し引くことにより,下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,当該下請事業者に⽀払うべき下請代⾦の額を減じていた」

「イ ホーチキメンテナンスセンターは,本件について,当委員会が下請法の規定に基づき調査を開始したことから,前記アの⾏為を取りやめることとした上で,下請事業者に対して,それぞれの事業者と⼗分な協議を⾏うことなく⼀⽅的に,平成19年4⽉末⽇⽀払分まで下請代⾦の額から⼀定率を乗じて得た額を差し引いて⽀払っていた額を,⼀律に,そのまま同年5⽉末⽇以降に⽀払う下請代⾦の額とすることを定めた。

 当該下請代⾦の額は,下請事業者の給付の内容と同種⼜は類似の内容の給付に対し通常⽀払われる対価に⽐し著しく低いものであった。」

という事案で、10.5%の実質的な値下げ要求で買いたたきに認定されていますが、これは、代金減額の脱法的な行為についていわば公取委が見せしめ的に買いたたきを認定したものであり、あまり参考にはならないと思います(この事例の当時10.5%の値下げで買いたたきになるとは、誰も思っていなかったと思います。)

次に、大創産業に対する2014年7月15日勧告では、

「(2) 商品の売行きが悪いことを理由として,発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59パーセントから約67パーセント引き下げた単価を定めて発注した。」

とされており、59%の値引き要求で買いたたきになっています。

(「商品の売行きが悪いことを理由として」という記載からすると、取引実績はあって、それがあまり売れないので、値下げ要求に至った、ということでしょう。)

次に、工機ホールディングスに対する2023年3月27日勧告では、

「⑴ 工機ホールディングスは、子会社又は卸売業者に販売する電動工具向けホースカバーセット(以下「ホースカバーセット」という。)の製造を個人たる事業者(以下「本件下請事業者」という。)に委託していた。

⑵ア 本件下請事業者は、ホースカバーセットの原材料価格の上昇等を背景として、製造原価割れが生じることが明らかであると認識したことから、令和2年12月から令和3年1月までの間に、工機ホールディングスに対して、ホースカバーセットの単価の引上げを求める見積書を提出した。

 イ 工機ホールディングスは、本件下請事業者が提示した見積単価では自社の利益に与える影響が大きく、また、本件下請事業者から単価引上げが必要な理由が十分示されていないと考えていたが、価格交渉が長期化すると自社の生産活動に影響が生じかねないことを踏まえ、令和3年1月12日頃、本件下請事業者に対して、自社の利益を優先し、本件下請事業者の製造原価等を考慮することなく、単に区切りがよいとして設定した金額を提示した上、実際には具体的な単価引上げの計画などなかったにもかかわらず、今後、段階的に単価を引き上げる旨を伝えた。

   なお、このとき工機ホールディングスが提示した金額は、本件下請事業者によるホースカバーセットの見積単価よりも約46パーセント少ない金額であった。

 ウ 本件下請事業者は、前記イで工機ホールディングスから提示された金額では製造原価割れが継続すると認識していたものの、工機ホールディングスから伝えられた、段階的に単価を引き上げる旨の言動を信頼し、令和3年1月22日頃、前記イで工機ホールディングスから提示された金額を記載した見積書を再提出した。

 エ 工機ホールディングスは、前記ウで再提出された見積書を用いて単価改定の社内稟議を行い、令和3年1月29日から新単価を適用した。これにより、ホースカバーセットの単価は、従来と比較して約17パーセント上昇したが、当該新単価でも本件下請事業者の製造原価を下回っていた

⑶ 工機ホールディングスは、前記⑵イの言動に反して、令和3年1月29日以降、本件下請事業者に対するホースカバーセットの単価を引き上げることはなかった。

⑷ ホースカバーセットの製造は、本件下請事業者に生じた事由により、一定数量納品したところで、他の事業者に引き継がれることになった。工機ホールディングスが、令和4年5月18日に、当該他の事業者と価格協議を行って定めたホースカバーセットの単価は、前記⑵エの新単価の3倍を超える額であった。」

という、ちょっと変わった事例で買いたたきが認定されていて、従来よりも17%上昇したのに、それでも原価割れであったことから、買いたたきと認定されています。

元の価格が原価割れで、上げた後の価格も原価割れ、ということなら、従来から値上げした場合でも買いたたきになってしまうのはやむをえないところでしょうか。

次に、ビッグモーターに対する2024年3月15日勧告では、

「ア ビッグモーターは、創業者である前代表取締役社長が中心となって策定した「経営計画書」において、「借入金利、陸送費など事業活動に必要なあらゆる経費は、しつこいぐらい値切る」と定めていた。

また、ビッグモーターは、営業本部の一部の者と関西・北陸エリアの販売店の店長が業務上のやりとりを行うメッセージアプリのグループにおいて、令和3年3月10日、当時の営業本部次長から各店長に対し、コーティング加工の施工料金について「各店、施工料金がバラバラなので、形状ごとの最安値の金額に価格交渉して合わせてもらいましょう」と指示しているところ、

翌日には複数の店長から従来の施工料金よりも11.1パーセントから33.3パーセント引き下がった旨の報告が行われていた。このような状況の下、本件では次のイの事実が確認されている。

イ 単価の一方的な引下げ

   ビッグモーターは、令和3年12月頃、前記アにおいて営業本部次長であった当時の店長から、下請事業者に対し、営業本部等の意向を踏まえたコーティング加工の発注単価の引下げを要請し、従来単価から27.7パーセント引き下げた単価を設定した(下請事業者1名)。」

という事実で、買いたたきが認定されています。

なお、11.1%のほうは、そういう社内報告があったという認定にすぎないので、買いたたきが認定されたのは27.7%のほうだけです。

というわけで、工機ホールディングスの原価割れという特殊な場合をのぞけば、従来からの引き下げ幅が最も少なくて買いたたきになったのはKADOKAWAの6.3%引きということになります。

でも、ここで一言いいたいのが、KADOKAWAの担当官解説(公正取引892号69頁)です。

この担当官解説のp72では、

「本件の下落率は過去の買いたたき勧告事例(冒頭の要旨部分で紹介した4件〔注・ホーチキメンテナンスセンター、大創産業、工機ホールディングス、ビッグモーター〕)の引下率とほぼ同等の水準となっている。」

とされています。

どこがほぼ同等の水準なんですか?!

違法と認定したことを正当化するために過去の事例を持ってくるなら、違法認定された中で最も軽い(値段の高い)ものを比べるのが当然でしょう。

そうすると、ホーチキメンテナンスセンターは10.5%減、大創は予定価格の59%現、工機ホールディングスは見積単価の46%減、ビッグモーターは従来単価の27.7%減、です。

最も低いホーチキですらKADOKAWAの6.3%引きに比べたら67%(=10.5÷6.3ー1)も多く減額しています。

いわんや他の事例においておや、です。

サバを読むにもほどがあると思います。

というわけで、KADOKAWAの勧告は、これまでの先例を大きく踏み越えた事件と評価すべきでしょう。

2026年8月 5日 (水)

役務提供委託の限界

役務提供委託と自己使用役務の境界についてはさまざまな議論がされていて、中小受託法テキストの具体例をみても「どうして?」と思うことが少なくなく、ご相談も多いところです。

でも私は、錯綜した論点ほど条文に帰ってシンプルに解釈すべきだと考えています。

そこで、役務提供委託の定義規定である中小受託法2条4項をみると、

「この法律で「役務提供委託」とは、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

(建設業

(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。

以下この項において同じ。)

を営む者が業として請け負う建設工事

(同条第一項に規定する建設工事をいう。)

の全部又は一部を

他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)

をいう。」

と規定されています。

役務提供委託の限界を、ここでいう「役務の提供の行為」の解釈として考えよう、ということです。

(なので、このブログのいつものスタンスですが、公取委の解釈が常に正しいことを前提にはしません。)

これに対して、中小受託法テキストでは、役務提供委託の限界の問題は「自己使用役務なら役務提供委託にあたらない」という理屈で説明されています。

いわば、「他者提供役務・自己使用役務二分論」です。

つまり、テキストp15では、

「「(業として行う)提供の目的たる役務」とは、

事業者が他者に提供する役務のことであり、

事業者が自ら用いる役務は含まれない

(自ら用いる役務について他の事業者に委託することは、本法上の「役務提供委託」には該当しない。)。

他の事業者に役務の提供を委託する場合に、

その役務が他者に提供する役務の全部又は一部であるか、又は自ら用いる役務であるかは、

取引当事者間の契約や取引慣行に基づき判断する。」

とされています。

でも私は、この「他者提供役務・自己使用役務二分論」には条文上の根拠もないし、論理的でもないし、さらにいえば、中小受託法テキスト自体の具体例すら統一的に説明できていないと思います。

まず公取委の少なくとも伝統的な考え方の前提には、役務提供委託で受託者(C)から役務の提供を受けるのは発注者(B)であって発注者の顧客(A)ではない、という考え方がありました。

このことについては、公取委と厚労省のフリーランス法解説本(『フリーランス・事業者間取引適正化等法』)44頁でも、

「下請法における役務提供委託の場合には、下請負という取引の性質上、役務の提供を受けるのは親事業者と契約した元の発注者〔=顧客A〕であり、親事業者〔=B〕ではな(い)」

というように説明されていました。

この伝統的な考え方を裏付けるように、令和6年版の下請法テキストp14の役務提供委託の図は、下のようになっていました。

20260805-093941

この図を見るとわかるように、下請事業者が顧客Aに提供する役務の矢印は、下請事業者から、親事業者を通り越して、顧客に直接提供されるものである、というように考えられていました。

ところが、取適法テキストp15では、以下のような図になりました。

20260805-094316

この図をみると、中小受託者(C)の矢印は、委託事業者(B)にも届いていますし、顧客Aにも届いています。

しかも地味なことですが、下請法テキストでは下請事業者Cから顧客Aへの矢印は親事業者Bを素通りしていたのが、中小受託法テキストでは中小受託者Cから顧客Aに直接届く一番右の矢印も委託事業者Bを通るようにかき改められました。

この地味な図の変更をどう解釈するかは、図であるだけに、なかなかの難問ですが、少なくとも現在の公取委は、役務提供委託における受託者の役務が下請事業者Cから顧客Aに直接提供されるのだという考え方をあらため、下請事業者Cから顧客Aに提供される場合もあくまで発注者Bをとおして提供されているのだという考えを採っていると思われます(一番右の矢印)。

さらにいえば、現在の公取委は、役務提供委託における受託者Cの役務は、委託事業者Bに対して提供されるものであってもかまわない、と解釈しているであろうことが読み取れます(右から二番目の矢印)。

この解釈(というか、考え方)の変更は、妥当なものだと思います。

というのは、前記フリーランス本のように、「役務の提供を受けるのは親事業者と契約した元の発注者〔=顧客A〕であり、親事業者〔=B〕ではな(い)」というように、役務の提供を受けるのが誰かなんて、一義的には決まらないからです。

受託者Cが荷物を顧客Aの自宅に届けたからといって、役務の提供を受けたのが顧客Aだといえるとはかぎりません。

発注者Bが荷物の配達を顧客Aから受託していたら、受託者Cから役務の提供を受けたのは(自分Bの荷物を運んでもらった)発注者Bである、といってもぜんぜんおかしくありません。

まさか、受託者Cが内心で顧客Aのために荷物を運んでいると思っていれば役務の提供を受けたのは顧客Aで、内心で発注者Bのために荷物を運んでいると思っていれば役務の提供を受けたのは発注者Bだ、なんてことはないでしょうが、役務の提供を受けたのは誰かと問うと、役務を提供した受託者Cが(内心で)誰のために役務を提供したのかということにまで立ち入らないと答えが決まらないことも少なくないように思われます。

さらにいえば、役務提供委託の限界を決めるという本稿の目的のためには、「役務の提供を受ける」のが誰かなんて、詮索する必要はありません。

というのは、条文上はあくまで、「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為」が受託者Cに委託されているかどうで役務提供委託該当性の有無が決まるのであって、誰が「役務の提供を受ける」かは、条文の要件には出てこないからです。

つまり、誰が「役務の提供を受ける」かは、役務提供委託の成否には無関係です。

この解釈変更により、他者提供役務・自己使用役務二分論も、ゆらいでいるといえると思います。

左から2本目の矢印で、発注者にとどく役務(発注者に提供される役務)も役務提供委託の対象になることが示されていると言えるからです。

ここで、

「役務の提供受ける」

における目的語は

「役務の提供」

であるのに対して、

「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部他の事業者に委託する」

における目的語は、

「役務の提供の行為」(「の全部又は一部」は、おまけ)

である、という違いを見落としてはいけません。

(条文を読むときは常に、主語を表わす助詞の「は」や、目的語を表す助詞の「を」の直前の言葉に、細心の注意を払いましょう。)

法律の議論の混乱は多くの場合、主語や目的語に、似てはいるけれど異なるレベルの概念(「役務の提供」と「役務の提供の行為」)を、あたかも同レベルの概念であるかのように無造作に並べて比較することから生じますが、これもその例です。

つまり、「役務の提供」が誰に対して(誰のために)行なわれているのかを詮索しても、役務提供委託該当性は判断できず、あくまで「提供の行為」が委託されているのかどうかを判定しなければならないのです。

条文にはない、「役務の提供を受ける」という概念を持ち出したところが、つまづきの始まりであったように思います。

というわけで、上記の中小受託法テキストの新しい図では、「役務の提供を受ける」のは誰かということは役務提供委託該当性の判断に無関係であるという公取委の考え方が示されているといえ、評価できる変更だと思います。

(最近このブログでも触れることが多いですが、最近の公取委の中小受託法の運用はむちゃくちゃなので、こういうポジティブな動きがあると、ほっとします。)

もう少し掘り下げると、役務提供委託該当性の判断にあたっては、誰が受益者であるか(「役務の提供を受ける」)を詮索する必要はなく、受託者Cに「役務の提供の行為」が委託されているかどうかだけを見ればいい、ということです。

そこで最初の問題点に戻って、「役務の提供の行為」とは何かを検討するのですが、その前提として、「役務」とは何かを検討します。

この点について、中小受託法テキスト15頁では、

「役務とは、運送、ビルメンテナンス、情報処理等、いわゆるサービス全般である」

とされています。

これではよくわからないので、有斐閣の『法律用語辞典』を見ると、「役務」とは、

「英語のserviceに当たる語で、他人のために行う種々の労務又は便益の提供をいう。」

と定義され、役務とはサービス(service)であるという点で同じです。

これだけでは解決の糸口がないので、役務の「提供の行為」のほうに注目したほうがいいと思います。

つまり、「役務」は労務や便益の提供という、やや抽象的な概念ですが、「役務の提供の行為」のほうは、行為という、もう少し具体的な概念だといえそうです。

ここで再び有斐閣『法律用語辞典』をみると、「行為」とは、

「人間の意思に基づく身体の動又は静をいう。」

と定義されています。

「静」まで入れると議論が抽象的になるので、さしあたり、具体的にイメージしやすい「身体の動」を考えておけばよいでしょう。

ここまで来て、あらためて役務提供委託の定義(中小受託法2条4項)を見てみると、「役務提供委託」とは、

「事業者〔=発注者B〕が業として行う〔顧客Aへの〕提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者〔=受託者C〕に委託すること」

と定義されています。

ここで、「行為」は何の行為か(行為の内容)と問うと、「事業者〔=発注者B〕が業として行う〔顧客Aへの〕提供の目的たる役務の提供の行為」だ、というのが答えになります。

そして、そのような意味での「行為」(の全部または一部)を、受託者Cに委託するのが、役務提供委託だ、ということになります。

なので、受託者Cが発注者Bから受託して行なう「行為」は、当該「行為」(=受託者Cの身体の動静)自体が顧客Aに提供される役務の提供になっていると評価できるものである必要があると考えられます。

逆に言えば、受託者Cの「行為」(=受託者Cの身体の動静)が、何らかの意味で顧客Aに便益をあたえているというだけでは足りませんし、発注者Bの顧客Aに対する義務の履行に役立っているというだけでも足りません。

あくまで、受託者Cの「行為」(身体の動静)そのものが、顧客Aに対する役務の提供の行為(の全部または一部)である必要があります。

そういう観点から中小受託法テキストp15以下の例をみてみると、まず「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ 貨物利用運送事業者が、請け負った貨物運送のうちの一部を他の運送事業者に委託すること。」

については、他の運送事業者Cが受託する行為は、貨物を運ぶという他の運送業者Cの「身体の動」であり、かつ、そのCの身体の動はBがAに業として提供する役務の「提供の行為」の一部を構成するので、たしかに役務提供委託にあたります。

 次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンスの一部たるビルの清掃を清掃業者に委託すること。」

は、 清掃業者Cがビルメンテナンス業者から受託する行為は、清掃というCの「身体の動」です。

そして、この例では、「メンテナンス」のなかに、ビルの掃除も含まれているのでしょう。

そうであれば、このCの身体の動(清掃行為)は、ビルメンテナンス業者Bが顧客(ビルのオーナー?)Aに業として提供する役務の「提供の行為」の一部を構成するので、確かに役務提供委託にあたるといってよさそうです。

次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ 広告会社が、広告主から請け負った商品の総合的な販売促進業務の一部の行為である商品の店頭配布をイベント会社に委託すること。」

は、イベント会社Cが広告会社Bから受託する行為は、商品の店頭配布というイベント会社Cの「身体の動」であるといえます。

ここで気になるのは、「商品の総合的な販売促進業務」という部分です。

広告業界に知見のある方ならわかると思いますが、広告主が広告会社に総合的なプロモーションを一定の予算の範囲内で委託し、広告会社がテレビやネットや雑誌などさまざまな媒体を効率的に組み合わせえて最大限の広告効果を得ようとすることがあります。

「商品の総合的な販売促進業務」というのは、そういうものを想起させます。

そうすると、この設例での広告会社Bにも、そのような意味でのかなりの裁量があるような気がします。

そうすると、そもそも広告主Aは広告会社Bに対して具体的に商品店頭配布を委託していない可能性があります。

少なくとも広告主Aと広告会社Bとの間の契約書には、商品店頭配布について何の定めもない可能性があります。

でも、そういう裁量が広告会社Bにあるからといって、役務委託該当性は否定されないというのが、中小受託法テキストの考え方なのでしょう。

つまり、イベント会社Cの商品の店頭配布という「身体の動」が、広告会社Bが広告主Aに対して業として提供する「役務の提供の行為」であれば、役務提供委託にあたる、ということでしょう。

そしてこの設例では、まさに、イベント会社Cの商品の店頭配布という「身体の動」は、広告会社Bが広告主Aに対して業として提供する「役務の提供の行為」そのものである(広告主が具体的に「商品の総合的な販売促進業務」の中身を指定していたかどうかにかかわらず)、という判断なのだと思います。

次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託すること。」

では、サポート業者Cが受託する行為は、ソフトウェアのサポートサービスという、Cの「身体の動」です。

そして、このCの「身体の動」は、ソフトウェア販売業者Bがその顧客Bに対して提供している顧客サポートサービスの「提供の行為」そのものです。

よって、この例も、Cが受託したCの行為(身体の動)が、BがAに業として提供する役務の提供の行為の一部であるという基準で説明できます。

次に、中小受託法テキスト16頁に「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」としてあげている1つめの、

「○ ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。」

は、 リネンサプライ業者Cが受託した行為は、ベッドメイキングというCの「身体の動」です。

では、かかるCの身体の動は、ホテルBが宿泊客Aに対して業として提供する役務の提供の行為の一部だといえるでしょうか。

いえない、というのが公取委の考え方だということになります。

なぜいえないのか、というと、ホテルBが宿泊客Aに対して業として提供する役務は、ホテルの一室に宿泊客Aを宿泊させるという役務です。

これに対して、CがBから受託したベッドメイキングというCの「身体の動」(行為)は、BがAに提供する宿泊サービスの提供の行為の一部とは言えない、ということです。

別の言い方をすれば、宿泊サービスを提供する行為の提供を宿泊客Aに対して行なうことができるのはホテルBだけであって、リネンサプライ業者Cはどうがんばっても宿泊サービスを提供する行為の一部ですら提供することはできない、ということです。

短く言えば、ベッドメイキングは宿泊サービス提供行為の一部ではない、ということですが、ここまで短くすると「宿泊をさせるサービスを提供する行為は、部屋を空けることから、部屋の掃除、ベッドメイク、タオルの交換とか、もろもろの行為の束でできているのではないか」という反論が起きそうなので、上述のとおり、「リネンサプライ業者Cはどうがんばっても宿泊サービスを提供する行為の一部ですら提供することはできないから」と整理しておくのが、条文に忠実でよいと思います。

次の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」の、

「○ 工作機械メーカーが、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。」

では、清掃業者Cが工作機械メーカーBから受託したのは、清掃作業というCの「身体の動」(行為)であるといえます。

では工作機械メーカーBが顧客Aに対して業として提供している役務は何なのかといえば、そんな役務はない、ということでしょう。

BがAにしているのは工作機械の販売ないしその一歩手前の製造だ、というのが設例の前提でしょう。

というわけで、この例ではそもそもBが業としてAに提供する役務がないので、役務提供委託にあたるはずがありません。

次の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」の例は、

「○ カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である講師に委託すること。

です。

ここでは、講師CがカルチャーセンターBから受託したのは、教養講座の講義をすることという、Cの身体の動(行為)です。

ではBが業として受講生Aに提供する役務は何かといえば、教養講座を開いて来てもらう、というサービスです。

そうすると、「教養講座の講義をするというCの身体の動(行為)」はBがAに業として提供する教養講座開設役務の一部だと言ってもよさそうに思いますが、そうではないというのが中小受託法テキストの考え方ということになります。

その理屈を考えると、教養講座の開設というのは、教養講座のテーマを決めたり、会場を決めて借りたり、その会場への受講生の入室および滞在を許したり、会場にモニターやマイクや座席や演台を準備したり(会場設営)、オンラインの教養講座であればZOOMの設定をしたり、受講生用の講義資料を印刷したり、という一切のサービスからなります。

これに対して講師Cの講演するという身体の(口の?)動(行為)は、教養講座を企画運営するBの行為の一部ではない、ということなのでしょう。

ホテルの宿泊に対するベッドメイキングのようなものだ、ということでしょうか。

こういう細かい事を言い出すときりがないのですが、教養講座では部屋代や機材代のほうが講師への謝礼よりもはるかに高額だということはいくらでもあると思います。

そう考えると、講師の役割はベッドメイキング程度だといっても、大きな間違いはないように思います。

あるいは、公取委が持っている教養講座のイメージが、たぶん講座主催者のほうに重みがあって(たとえば朝日カルチャーセンターとか、有名どころで)、講師は著名人ではない(ベンゴシウエムラコウヤとか)、というような感じだったのかもしれません。

これが、登壇者が五木寛之とか堺正章とかのイメージだったら、ひょっとしたら違う結論になっていたかもしれません(でもそんな教養講座(?)はごく一部ですから、著名人でないイメージのほうが正しいと思います)。

逆に言うと、教養講座の開設者Bが、別の会社Cに、会場の設営から当日の運営から講師の手配から一切合切を委託すれば、役務提供委託にあたります。

以前受けた質問で、自治体(A)から自社(B)が、地域おこしイベントの運営を受託したが、そのイベントのトークショーへの登壇を芸能人(C)に委託するのは役務提供委託か、というのがありました。

これは自治体Aが主催するイベントなので、その一切合切をイベント会社Bに委託すれば、役務提供委託っぽいですが、自治体は資本金要件をみたさないので親事業者にはなれません。

なので、自治体Aからイベント会社Bへの発注が(自治体Aの上にさらにイベント参加者がいるにせよ)役務提供委託にあたらないことはあきらかなのですが、ではトークショーへの登壇依頼はどうなのか、という問題です。

結論としては、役務提供委託にはあたりません。

理由は、教養講座の講師が役務提供委託に当たらないのと同じです。

最後の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」は、

「○ プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。」

では、歌手CがプロダクションBから受託する「身体の動」(行為)は、歌唱(歌うこと)です。

ではこのようなCの身体の動が、Bが業としてファンAに提供する役務の提供の行為の一部なのかというと、違う、というのが中小受託法テキストの考え方だということになります。

その理由は教養講座と同じで、コンサートを主催するためには、会場を借りたり、照明機材や音響機材を持ち込んだり、当日ファンを会場に誘導したり、歌手を呼んだり、とさまざまな行為からなるので、歌唱とコンサート開催・運営・提供は別物であり、Cの歌唱という身体の動(行為)は、Bが業としてファンAに提供する役務(コンサートの開催行為)の提供の行為の一部とはいえない、ということなのでしょう。

これらの微妙な判断の背景には、役務提供委託を広げると際限がなくなるので謙抑的に解釈している、ということがあるかもしれません。

たとえば、コンサートでの歌唱が役務提供委託にあたるとすると、プロ野球の球団が選手にプレーさせるのも役務提供委託なのか?という疑問が沸いてきますが、そのような問題が際限なく生じるのを防ぐため、役務提供委託はせまめに解釈するので良いと思います。

以上の、

CがBから受託するCの行為が、Bが業としてAに提供する役務の提供の行為の一部か、

という基準を、少し別の角度から敷衍すると、

CがBから受託するCの行為

が、

Bが業としてAに提供する役務の提供の行為

の「一部」といえるためには、前者と後者が同レベルの概念である必要がある、ということです。

異なるレベルの概念について、全部だとか、一部だとかいうことは、なりたたないからです。

クジラが魚類であるというのは「偽」ですが、ナンセンスではありません。

これに対して、(数字の)2が魚類である、というのは、真偽以前の問題として、ナンセンスです。

「Bが業としてAに提供する役務の提供の行為」と「CがBから受託するCの行為」が全体と一部の関係にあるといえるためにも、両者が同レベルの概念(たとえば生物であること)が必要であると思います。

あるいは、「同じ視点から記述して有意味である」という意味における共通点が必要だ、といってもいいかもしれません。

世の中には、AとBのどちらが主体的に役務の内容を決めているかが関係するのではないか(Aが決めているほうが役務の再委託、つまり役務提供委託になりやすい)、とか、Aが役務の内容を具体的に指定できる必要があるとか、さまざまな見解があります。

公取委が内心そのように考えている可能性は大いにありますし、それで中小受託法テキストと整合的な説明ができることが多いのも確かなのですが、私は、条文にない要件があるのではと公取委の内心を忖度するよりも、できるだけ条文の文言にもとづいて分析するほうが、議論の共通の土台があってよいと考えています。

ここまで考えてみてあらためてテキストの図を見直して気づいたのですが、令和6年下請法テキストではAからBへの「委託」という下向きの矢印があったのが、中小受託法テキストではなくなっています!

これが何を意味するのかというと、公取委は、役務提供委託が成立するためにはAからBへの「委託」は必要ではない、というように見解をあらためた、ということです。

これは条文に忠実な解釈で、中小受託法2条4項では、

「この法律で「役務提供委託」とは、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

とされていて、AからBへの「委託」など、どこにもありません。

あるのは、BがAに対して役務の「提供」が必要だ、というだけです。

これが、中小受託法テキストの図では、右から2番目のBからAへの上向きの矢印で「提供」とされている部分です。

さらに、下請法テキストの図では、AからBへの矢印が「委託」、BからCへの矢印が「再委託」とされていたのに、中小受託法ではBからCへの矢印は「委託」になっています。

従前は、この下請法テキストの図のせいもあり、また、役務提供委託は役務の委託だ、というスローガン(?)のもと、

「BからCへの委託が委託というからには、AからBへの発注も「委託」だろう。」

という暗黙の了解があったように思います。

でも、条文には、AからBへの発注が仕様や内容等の指定をともなう「委託」でなければならないという根拠はどこにもないのです。

前述の、AとBのどちらが主体的に役務の内容を決めているかを重視する見解も、Aに対するBへの発注は「委託」のはずだ、という前提というか、先入観のもとに、出てきたのではないかと想像されます。

ですが今や、本家本元の中小受託法テキストが見解を変えてしまいました。

というわけで、誰が主体的に役務の内容を決めたかを重視する見解は、前提を失ったともいえそうです。

こんな地味なところに気が付いて図を修正するなんて、先例にとらわれずちゃんと条文を読む人が公取委にもいたのかと、うれしくなります。

公取委、ナイスです!

久しぶりにほめることができて、なんだか清々しい気分です。

(私も公取委をけなしたくてけなしているわけではありませんので。)

 

 

2026年8月 3日 (月)

「取適法」という略称について

「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和三十一年法律第百二十号)の略称として、「取適法」というのが定着してきている感があります。

政府の法令検索でも、「取適法」でヒットします。

でも、上述のとおり、法律の正式名の中には、「取引」とか、「適正」とかいう言葉は、一言も出てきません。

どうしてこの正式名が「取適法」になるのかというと、まず正式名を、「中小受託取引適正化法」と略して、それをさらに「取適法」と略したのだそうです。

でも、「中小受託取引適正化法」のうち、「中小受託」は正式名に出てきますが、やはり、「取引」も「適正化」も出てきません。

というわけで、間に「中小受託取引適正化法」をはさむことによって、正式名には全く出てこない「取適法」になったということです。

ですが、私は、略称に正式名の漢字が一文字も出てこないというのは異常だと思います。

似た例としてはたしかに、官製談合防止法(現在の正式名は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」)というのがありますが、あれは世の中で先に広まったのであって、政府が進めたのではありません。

しかも、「官製談合」というのがまさにイメージにぴったりで、名が体を表しています。

でも、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(長いので、「中小受託法」といいます。)を「取適法」(取引適正化のための法律)というのは、大ぶろしきを広げすぎだと思います。

中小受託法の対象は、主体や対象取引で、かなり限定的に規定されています。

改正前の「下請法」というのは、それなりに実態に合っていました。

というか、世の中にある下請取引というのをどうやって法律に落とし込むかを考えて作られたのが、下請法でした。

これに対して、「中小」でもなんでもなく、たんに「取適」(取引適正)では、実態に合っているとはとうていいえません。

これでは、スマホアプリ競争促進法(正式名は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」)を「デジタルプラットフォーム法」と呼ぶようなものです。

これがたんなる名前の問題ならまだいいのですが、どうも最近の公取を見ていると、不当な経済上の利益の提供要請や買いたたきの適用の拡大など、中小受託法の適用範囲をどんどん広げていきたがっているように見えます。

なので、「取適法」というのも、あらゆる取引のあらゆる適正化をめざす法律なのだという誤解を国民に広げたい、という目論見があるように思えるのです。

つまり、プロパガンダです。

私もお客さんがメールや資料で「取適法」と呼んでいるときは、「取適法」を使います。

でもそれは、相手と同じ言葉を使ったほうがコミュニケーションがスムーズになるからです。

でも、このブログをはじめ、自分のイニシアティブで書く時には、「中小受託法」に統一しています。

というわけで、みなさん、略称としては「中小受託法」を使いましょう。

2026年8月 2日 (日)

買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問

YKKが2026年6月23日、買いたたきで下請法違反の勧告を受けました

ただ、その勧告書で、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

といっている部分には疑問があります。

その本題に入る前に、そもそもこの勧告書は定義語の使い方が論理的でなかったり循環していたりと、非常に出来が悪いのですが(下調、大丈夫か?)、まずはこれをこのなお書で示しておきましょう。

まず、「実際の発注単価」というのは、

本来の発注単価を下回る発注単価

と定義されていて(これがそもそもおかしいのですが、ひとまず措きます。)、「本来の発注単価」というのは、

YKK工賃を実態に即した作業可能回数で除して求めた発注単価

と定義されています。そして、「YKK工賃」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃」

と定義されており、「作業可能回数」というのは、

「1時間に行うことができる本件作業の回数」

と定義されており、「発注単価」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃(以下「YKK工賃」という。)を

1時間に行うことができる本件作業の回数(以下「作業可能回数」という。)で

除して得た額」

と定義されていています。

(つまり、発注単価〔円/個〕=1時間当たり工賃〔円/h〕÷1時間当たり作業可能回数〔個/h〕)

ということは、「実際の発注単価」(=「本来の発注単価を下回る発注単価」)というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

を下回る発注単価」

という意味になります。

以上より、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのは、

「なお、

YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

下回る発注単価

の中には、

委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

という意味になります。

要は、あるべき1時間当たり工賃(単価×1時間当たり個数)を下回る工賃が、最低賃金を下回った、ということです。

まったくもって、意味不明です。

そもそものボタンの掛け違えは、最初のほうにもちらっと触れましたが、「実際の発注単価」を「本来の発注単価を下回る発注単価」と定義してしまったことでしょう。

公取委が措置命令や勧告書でやたらとアドホックな定義語(その措置命令でしか通じない定義語)を使うようになってもうだいぶたちます。

かつては、そういう傾向に対して、読みにくいという論評もなされたものですが、最近はそういう声すら聞かなくなりました。

でも、そういうアドホックな定義語を使って書く前提として、きちんと論理的に定義語が定義されていないといけません。

はっきりいって、この勧告書は1年目のアソシエイトレベルです。

正しい論理操作ができないなら、かっこつけて定義語を使うよりも、ふつうの分かりやすい日本語で書くようにすべきだと思います。

というわけで、

「本来の発注単価を下回る発注単価(以下「実際の発注単価」という。)に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

なんていうふうに「実際の発注単価」 という定義語を導入するのではなくて、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

と書けばよく、ほかの場所で使うのでどうしても「実際の発注単価」という用語を定義したいなら、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた(以下、かかる代金の額の算定に用いられた発注単価を「実際の発注単価」という。)。」

とでもすればよかったでしょう。

そういう前提であれば、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのも、意味自体は理解可能です。

単純化のために、若干のアレンジをして式に書き直すと、

pを発注単価(円/個)、

nを実際の1時間あたり作業回数(個/h)、

wを最低賃金(円/h)

とすると、上記なお書は、

(∃p)(p<w/n)

あるいは、

(∃p)(np<w)

となります。

でも、ここで2つ疑問がわいてきます。

1つめは、上の式は、

(∃p)(p<w/n)

であって、

(∀p)(p<w/n)

ではない、ということです。

「下回るものがあった」というのと、「すべて下回っていた」というのとでは、ぜんぜん意味が違います。

もちろん、最低賃金への言及に法的基準としての意味があるとすれば、「すべて下回っていた」場合です。

ですので、これは公取委お得意の、たんなる印象操作です。

「最低賃金を下回るなんて、YKKはけしからん」と、公取委は印象付けたいわけです。

でも、一部下回っていただけでぜんぶ違反になるわけでもありませんので、「だからどうした」といいたくなります。

2つめの疑問は、工賃と最低賃金と比べることに何の意味があるのか、ということです。

たしかに、作業員1人が人力で(手作業で)作業をしていたのなら、

np<w

だと、安すぎるといえるでしょう。

でも、機械で自動的に作業ができて、その機械のコストc(電気代とか、減価償却費とか、もろもろ)が0.1w(円/h)だったら、

c=0.1w<np<w

でも、何の問題もありません。

逆に、この作業が作業員10人がかりで人手だけでやるものだったら、

np=10w

でも足りないかもしれません。

公取委は、「最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げろ」みたいな単純な発想でいるような気がしてならないのですが、下請事業者のコストは人件費だけではありません。

人件費がコストの半分だったら、上げるべき下請代金は5%でいいはずです。

この勧告のように、最低賃金と発注代金を同列にならべて比較する公取委の発想の根底には、どうも、こういう、「最低賃金が1割上がったら下請代金も1割上げるべき」という発想というか、誤解があるように思えてなりません。

2026年7月31日 (金)

下請法のやり直しの限界について(大阪シーリング印刷勧告)

大阪シーリング印刷が、2024年6月19日、やり直しで下請法の勧告を受けました

公取委のリリースによると、違反事実の概要は、

「⑴ 大阪シーリング印刷は、個人又は資本金の額が5000万円以下の法人たる事業者に対し、食品製造業者等から製造を請け負う食品容器に貼付するラベル、パッケージ等(以下「ラベル等」という。)のデザインの作成を委託している(これらの事業者を以下「下請事業者」という。)。

⑵ 大阪シーリング印刷は、下請事業者が作成したデザインについて、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず、

その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として、

令和4年4月から令和5年10月までの間、下請事業者に対し、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、合計24,600回のデザインのやり直しを無償でさせることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者36名)。

⑶ 大阪シーリング印刷は、令和6年5月20日、下請事業者に対し、デザインのやり直しをさせたことによる費用に相当する額として総額984万円を支払っている。」

とされています。

ただ、私はこの勧告はいろいろ問題があると思っています。

まず、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとした

という部分については、やり直しの成否とは関係がありません。

返品については、発注者が検査を省略すると一切返品ができない(いわゆる"裏金"世耕プランによる運用基準の変更)などと、細かいルールがありますが、やり直しには「受入検査して問題がないとしたらやり直しはさせられない」というルールはありません。

担当官解説(公正取引888号72頁)によると、

「大阪シーリング印刷は、下請事業者の給付の受領後直ちに受入検査を行い、下請事業者の作成したデザインに誤字や脱字等のミスがあった場合、下請事業者に修正を指示し再度納品させているが、これについては下請事業者の責めに帰すべき理由があるやり直しであり、親事業者が費用を負担せずにやり直しをさせることが認められる。

他方、本件で勧告対象となったやり直しは、大阪シーリング印刷が下請事業者の給付を受領した後、受入検査において問題がないとしたデザインについて、顧客からのやり直しの依頼を受けた場合、下請事業者にやり直しを指示していたものであり、下請事業者の責めに帰すべき理由のないやり直しである。」

とのことですが、もしそうなら、下請法テキストの記載どおり、瑕疵があるかどうかが問題なのであって、受入検査をして問題がないとしたかどうかを問題にすべきではありません。

これでは、受入検査で瑕疵が見つけられなかったらあとで瑕疵が見つかってもやり直しをさせられないかのような誤解をあたえます。

でも、そんなルールは下請法テキストにはなく、あくまで、下請事業者の責めに帰すべき理由があるかどうかは、瑕疵の有無で決まることになっています。

(これも、隠れた瑕疵かどうかで細かく要件が分かれている返品の場合と異なります。)

こういうのは細かいことにみえるかもしれませんが、こういう解釈、認定が大雑把なところから実務がぶれていくのであり、厳密にやらないといけないと思います。

さらに、

「その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として」

という認定からすると、発注者も受託者も、受入検査のあとに食品製造業者から変更の依頼があることは、当然想定されていたのではないかと思われます。

ということは、この受入検査は、そのあとにやり直しがないことを表明したものではなく、たんに瑕疵がないかとか、そういう趣旨の受入検査だったのではないかと思われます。

(上記担当官解説からも、この検査は誤字脱字のチェックの趣旨であったことがうかがわれます。)

また、やり直しの総数が非常に多いことも、やり直しがあることは双方合意の上であったことをうかがわせます。

これを裏付けるのが担当官解説で、公正取引888号73頁では、

「大阪シーリング印刷は・・・取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていた、とされています。

ということは、やり直しがあることは双方合意の上であったといえます。

つまり、この

「給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず」

という部分は、さも悪いように書いてありますが、公取委お得意の印象操作にすぎません。

次に、担当官解説によると、

「デザイン1点当たりのやり直しの回数は1回から3回が多かったが、10回以上やり直しをさせている例もあった。」(p71)

ということなので、実は、1回から3回の修正が多かったということで、たいしたことはないともいえます。

実際、担当官解説も、

「デザイン等の情報成果物は、何度か手直しを重ねていく中で最終的に完成する性質のものであるため、数回のやり直しがあることは一般的であると考えられる。」(p72)

と述べています。

ちなみに、ここでも、

「10回以上やり直しをさせている例もあった」

と、さも悪質な事業者であるかのように述べる、公取委お得意の印象操作が出てきますが、法的に問題なのは、10回以上やり直しをさせたものがあったかどうかではなく、1回でもやり直しをさせれば違反だという、極めて厳しい考え方を担当官解説が採っていることです。

次に、取適法テキストとの不整合です。

(便宜上、現在の取適法テキストを使います。)

取適法テキストQ129では、

「Q129: 委託事業者は、放送番組の制作を委託するに当たり、給付を充足する条件を4条明示することが不可能なため、

中小受託事業者と十分な協議をした上で、当初から何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している。

この場合においても、4条明示していない事項を充足させるためのやり直しについて、別途、その費用を負担せずにやり直しさせることは問題ないか。」

という質問に対して、

「A: 当初から中小受託事業者と十分な協議の上で何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している場合に、

当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ないが、

それを理由に4条明示されていない事項について無制限にやり直しをさせることができるものではないため、

代金の額の設定時に想定していないような費用が発生するやり直しの場合には、

中小受託事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担する必要がある。」

と回答されています。

つまり、十分な協議の上何度もやり直しをすることを見込んだ価格を設定している場合に想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ない、ということです。

そこで問題になるのは、担当官解説との整合性です。

つまり、担当官解説では、

「大阪シーリング印刷は・・・取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていた、ということなので、裏を返せば、大阪シーリング印刷の価格はやり直し込みの価格だった、ということです。

でもこれって、「やり直しすることを見込んだ価格」というのと、同じことなのではないでしょうか?

「やり直しは無料」というのと、「やり直し込みの価格」というのと、何が違うのか、ということです。

でも公取委の立場は、

「『やり直しは無料だ』、というのはだめだけれど、『やり直しは込みの価格だ』というのは問題ない。」

ということなのでしょう。

まったくもって支離滅裂です。

以前、公取委が、楽天の送料無料化を優越的地位の濫用だとして緊急停止命令を申し立てたことがありましたが、これなんかも私に言わせれば、

「8000円(送料無料)」

というか、

「7500円(+送料500)」

というか、という表現だけの問題だと思います。

なので、そういう頭があると、大阪シーリング印刷の勧告も、「ああ、またやってるな」という感じで、驚きはありません。

というわけで、発注者のみなさん、取引条件の交渉時に、

「やり直しは無料です。」

というのはNGです。ぜひ、

「やり直しは代金に込みです。」

といいましょう。

冗談ではありません。本気です。

担当官解説によると、

「上記Q&A〔当時のQ104、現在のQ129〕のように、当初から下請事業者と十分な協議の上で数回のやり直しを見込んだ価格を設定している場合において、当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ない」(p73)

が、

「大阪シーリング印刷は、デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず

また、取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し、実際にやり直しの費用を負担していなかったことから、

当該行為は下請事業者の利益を不当に害すると認められた。」

ということのようです。

しかし、

デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず

というのは、デザイン制作料の高い安いを認定して、十分高いからやり直し代もコミなんだとか、安いからやり直し代を見込んだ設定をしていないのだとかいう判断しているとは、とうてい思えません。

金額だけ見て、そんな判断を公取委ができるはずがないからです。

ということは、結局、交渉経緯だけから、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず」

と判断した、ということでしょう。

ということは、要は、交渉経緯として、

「取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていたから、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定して(いなかった)」

と認定した、というだけのことでしょう。

ということは、

「当初から下請事業者と十分な協議の上で数回のやり直しを見込んだ価格を設定している」

かどうかも、協議でデザイン料とやり直し料をわけて交渉したかどうかを問題にしているわけではなく(そんなことできるわけないし、テキストQ129もそんなことはもとめていません)、やり直しは無料という説明をしていたのか、やり直しはデザイン料に込みという説明をしていたのか、というだけの問題だ、ということになりそうです。

というわけで、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定」

したかどうかは、金額の多寡の問題ではないことがわかり、結局、

「やり直しは無料です。」

と伝えていたか、

「やり直しは代金に込みです。」

と伝えていたかに尽きる、ということになります。

合理的な頭からは信じられないことですが、これが、取適法の運用の実態です。

2026年7月27日 (月)

中小受託法4条の発注書に「委託代金は見積書記載のとおり」と書いてよいか?

中小受託法適用対象取引の発注書(4条明示)に具体的な代金額を書かず、「見積書記載のとおり」と書くことは許されるでしょうか。

許されないと考えます。

理由は簡単で、見積書は受託者が発注者に示したものであって、発注者が受託者に示した(明示した)ものではないからです。

4条明示は、取引関係を明確にするためのものですから、それを見れば取引内容がわかる必要があります。

もし見積書を4条明示で引用することをみとめると、受託者が見積書の写しを(最長2年間)手元に取っておかないといけないことになりかねません。

でも中小受託法上受託者にはそのような義務はないのですから、そういう余計な義務を負わせることになる解釈もみとめられないと考えられます。

この点、中小受託法4条では、

「(中小受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

第四条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない

ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により中小受託事業者に対し明示しなければならない。

2 委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。

ただし、中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。」

と規定されて、これを受けて、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」(4条明示規則)1条では、

「第一条

〔1項省略〕

2 前項第四号の製造委託等代金の額について、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、製造委託等代金の具体的な金額を定めることとなる算定方法の明示をすることをもって足りる。

3 第一項各号に掲げる事項が一定期間における製造委託等について共通であるものとして、あらかじめその旨を書面の交付又は電磁的方法による提供により明示したときは、その期間内における製造委託等に係る当該事項の明示は、あらかじめ明示したところによる旨を明示することをもって足りる。

4 法第四条第一項ただし書の規定に基づき未定事項を明示するときは、未定事項以外の事項の明示との関連性を確認することができるようにしなければならない。」

と規定されていて、規則1条3項で共通事項の明示がみとめられていますが、共通事項自体も発注者があらかじめ共通事項を「明示した」ことが必要とされています。

つまり、共通事項も、発注者から受託者に宛てた書面または電磁的記録に記載する必要があるわけです。(もちろん、両者が署名した契約書でもかまいません。)

よって、代金額も、別の書面の記載を引用するにせよ、その書面は発注者から受託者に宛てた書面であることを要すると考えられます。

もし、発注者から受託者に宛てた書面でなくてもいいとすると、それこそ「代金はあのとき口頭で伝えたとおり」と4条明示に書くのでもOKになってしまいます。

あるいは、もう少し現実的な例としては、「支払期日・方法等は、当社〔発注者〕のウェブサイト掲載の『支払方法等について』によります。」というのはどうか、というのが問題になりそうですが、これもダメでしょう。

このようなウェブサイトの掲示は、発注者から受託者に宛てたものとはいえないからです。

この電磁的方法の作成者と宛先については、4条明示規則2条でも、

「第二条 法第四条第一項の公正取引委員会規則で定める電磁的方法は、次に掲げる方法とする。

一 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)を送信する方法

二 電磁的記録を記録した記録媒体を交付する方法」

とされていて、「受信をする者を特定」してするものでなければならないとされています。

このことからも、「ウェブサイトを見といてね」というのはダメだということがわかります。

なので、4条明示の代金額は、「見積書記載のとおり」と書くのではなく、具体的な金額で書きましょう。

どうしても見積書を引用する形にしたいなら、見積書(コピーも可)を4条明示に別紙として貼り付けて、「別紙見積書記載のとおり」とすればよいでしょう。

これなら、発注者から受託者に宛てて明示していることになりますし、物理的に一体なので一覧性もあり、問題ありません。

4条明示をメールでするなら、メールに見積書のPDFを添付して、「代金は添付の見積書のとおり。」と書けばよいでしょう。

4条明示をメールでする場合に、同じチェーンメールのなかに見積条件を記載した受託者のメールがある場合に、「代金は下記メール記載の見積条件記載のとおり。」と書くのも、ちょっと微妙ですが、やめておいたほうがいいと思います。

やっぱり、そのメールだけで1つの明示とみるべきで、チェーンメールの部分は別文書と考えられるからです。

まあこの点については、

「チェーンメールが当然に一体となって最後のメールの作成者の作成文書になるわけではないにしても、明示的に引用しているかぎりはコピーとして(チェーンメールとして)相手にもわたっているのだから、4条明示として有効とみていいのではないか。」

とのご意見もあるかとは思いますが、そういう細かいことを弁護士さんに検討させてタイムチャージを払うくらいなら、さっさと金額を4条明示にコピペするほうが賢明だと思います。

2026年7月11日 (土)

下請法は、法律ではありません。

私の考えるところでは、下請法(現・中小受託法)は、法律ではありません。

なぜなら、法律の改正もないのに、公取委の解釈がどんどん変わるからです。

思いつくかぎりであげると、以下のとおりです。

・かつては、下請代金から控除(相殺)するのだけが代金減額で、別途下請事業者に金員を支払わせるのは不当な経済上の利益の提供要請と解釈されていたのに、今では、別途支払わせるのも減額にあたりうるとされている。

・平成28年下請法運用基準改正("裏金"世耕プランにもとづく)により、親事業者が検査を省略すると返品できなくなった。

・割引困難な手形の期日がどんどん短くなった。

・以前は事前の書面合意があれば銀行振込手数料を下請事業者に負担させることができたのに、運用基準の改正でできなくなった。

条文が変わらないのに解釈が突然変わるなんて、法律ではありえないことです。

ほかの法律でも、解釈が変わるということはありうると思います。

でもそれは、今まで明確でなかったところが解釈で明確にされたという意味での変更でしょう。

かつて厚底ブーツを履いて自動車を運転するのが道交法違反とされたのも、それまで厚底ブーツなんてなかったので解釈を明確化したということでしょう。

下請法の解釈を示すのでも、あいまいな概念(たとえば割引困難な手形)をどこかで線を引かないといけないというので解釈で線を引く、というのならわかります。

これに対して、上であげた下請法の解釈変更は、いままで適法だったものが、条文の変更もないのに違法になる、というものであり、明確化のための解釈変更とはまったく異なります。

それに比べたら、矢崎部品の勧告(データの無償保管が金型の無償保管のアナロジーで不当な経済上の利益の提供要請とされた)なんて、いままで事例がなかったところに事例が1つ加わっただけなので、かわいいものです。

原材料の遡及値上げが代金減額の遡及適用のアナロジーで不当な経済上の利益の提供要請とされた松尾製作所の勧告も、同様でしょう。

ですが、上に挙げたいくつかの例は、いままで白だったものが突然黒になるというものであり、まったく異なります。

こういうことが、国会で成立した条文の文言の変更もないのに平然と行われるのは、私は法律とは言えないと思います。

ふつうの法律でも、判例が変更されて解釈が変わるということはあるかもしれません。

でも、それは法令解釈権限が裁判所にある以上、当然のことです。

これに対して下請法(現・中小受託法)は、勧告に司法審査が及ばないという致命的欠陥があり、行政が一方的にルール変更できる仕組みを裏から支えてしまっています。

「独禁法だって法律です。」というこのブログのサブタイトルになぞらえていえば、「下請法は法律ではありません。」といったところでしょうか。

どうも公取委の下請法(現・中小受託法)の運用は、法令解釈の正統性に対する配慮が欠けているのではないでしょうか。

公取委は行政機関なのですから、法律の委任もないのに勝手にルールメイキングしちゃいかんでしょう。

また、こういうことを誰も言わないのも、不思議でなりません。

2026年7月10日 (金)

電磁的記録を保管させることが不当な経済上の利益の提供要請とされた事例(矢崎部品)

矢崎部品に対する2026年3月30日勧告では、

「イ 矢崎部品は、本件下請事業者のうち119名との間で取引基本契約書、品質管理基準書等を取り交わし

当該119名に対し、

委託に係る本件製品又は本件部品の製造における作業に関する記録、検査に関する記録、品質不具合に関する記録その他の品質記録に関する帳票類

(以下「品質記録帳票類」という。)

書面又は電磁的記録に係る記録媒体

(以下「電磁的記録媒体」という。)

に記録された電磁的記録の形式で

20年間等の所定の期間保管するよう求めていたところ、

遅くとも令和5年9月1日以降、当該119名に対し、

自己のために無償で品質記録帳票類を保管させ

及び

品質記録帳票類に係る書面を電磁的記録に変換して電磁的記録媒体に記録させ

ることにより、

当該119名の利益を不当に害していた。」

と認定されています。

つまり、品質記録の電子データを無償で保存させたら不当な経済上の利益の提供要請だ、というのです。

でも、これはあんまりにもひどいのではないでしょうか。

まず、「20年間」といっているので、20年間保存させたものだけが違法と認定されたわけではありません。

ひょっとしたら、3年とか5年とか、もっと短期間でも違法と認定された可能性があります。

というか、勧告文を読むと期間の長短は問わない、としか読めません。

「等」とは、行政ではオープンエンドの意味で使われるからです。

つまり、「20年」(というのも変な日本語ですが、それはさておき)といったら、「18年とか21年くらいとか、20年の近辺なんだろうな」というような常識的な読み方をするのではなく、要は何年でもいい(オープンエンド)と読むのが行政です。

もし長期間であることを違法認定の要件とするなら、「20年以上」などと認定するはずです。

現に金型の無償保管では、

「当該金型等を用いて製造する本件製品の部品の発注を長期間行わないにもかかわらず」(ダイヘン勧告

とか、明示的に何年といわないまでも、長期間発注がないのに保管させたことがいけないのだ、というふうにされています。

ところが、矢崎部品の「20年等」だと、期間の縛りがまったくなくなっているわけです。

むしろ、これは最長が「20年」だった、とみるのが自然でしょう。

これがもし違うというなら、担当官解説でしっかり釈明してほしいものです。

(こんな大事なことを、担当官解説で書けばすむというものではありませんが、ないよりましでしょう。)

つまり、「20年も保管させやがって、なんて悪いやつなんだ。」という、公取委による印象操作です。

というわけで、矢崎部品の勧告では、突如、期間の縛りがなくなっています。

次に問題なのは、保管を求めているのが「品質記録に関する帳票類」だ、ということです。

これって、ビジネス上必要なこともあるのではないでしょうか?

こういうのが、期間も問わず一切無償保管が認められないとすると、たいへん窮屈なことになるように思います。

そういうのが不当な経済上の利益の提供要請だというなら、不当性をきちんと認定すべきでしょう。

金型の無法保管の場合はまさに、「長期間発注がないにもかかわらず」というところが、不当性の認定だったわけです。

しかも金型の場合には、必要になるかどうかもわからないけれど捨てられない、というあいまいな存在で、その負担が一方的に下請にしわよせされていたのが問題だったのだと思います。

でも品質記録なんて、「いるかいらないかわからない」とはとうてい言えないでしょう。

結果的に保証期間や対応年数を不具合もなく終えたということがあったとしても、それは結果的に品質記録をチェックする必要がなかっただけのことで、金型みたいに、そもそも発注があるかどうかわからない(必要性がわからない)というのとは、わけが違います。

次に問題なのが、「所定の期間」という部分です。

「所定の期間」ということは、文字どおりの意味は、「定めたところの期間」ということです。

広辞苑では「定まっていること。定めてあること。『ーの席につく』」と定義されています。

ということは品質記録に関する帳票類の保管は、事前に契約で定めていたのではないでしょうか?

少なくとも勧告文の「所定の期間」という文言からは、そうとしか読めません。

ひょっとしたら、勧告に「品質管理基準書等を取り交わし」と認定されている、品質管理基準書等で合意されていたのではないでしょうか。

でも、そういうふうにあらかじめ品質記録の保管を求めることが、不当なことでしょうか?

大いに疑問です。

金型の無償保管の場合には、少なくともこれまでは、長年の慣行でなんとなくずるずると無償で保管していたのが、下請事業者の負担になっていけなかったわけです。

でも、あらかじめ品質記録の保管について合意することが、そんなに不当なことでしょうか?

次に問題なのが、記録を求めるのが電子データだということです。

こんなもの、たいして費用もかからないのではないでしょうか?

なんでこんなものまで下請法で規制しないといけないのでしょうか?

大いに疑問です。

というわけで、この勧告は、ここ数年の「金型の無償保管」というところからの、たんなる”連想ゲーム”で、違反にしたとしか思えません。

たいへんずさんな、また、まじめな企業にとっては非常に頭の痛い勧告だと思います。

最近、中小受託法(旧下請法)については、こういう無茶な解釈がどんどん平気で行なわれているという印象を受けます。

企業の人も、公取委からそういわれたら、そういうもんなのか、と思うでしょう。

あるいは、矢崎部品のケースもそうですが、たくさん違反行為が認定されて、そのなかに1つ、こういうわけのわからない違反認定がされていても、いちいち注意深く見ることもないのではないでしょうか。

でも、こういうのが、実務では大問題なわけです。

中小受託法は、勧告が裁判で争われることが制度上ないため、判例評釈の対象にもならず、そのため、研究者の方の関心の対象にもなりません。

ときどき研究者の方が中小受託法に言及することがありますが、実務で知りたいこととはぜんぜん視点がちがいます。

なので、こういう細かいことは、私のような実務家が批判するしかないのが実情です。

私も本音のところでは、こんな「あほらしい」勧告にいちいちコメントするのは、それこそ「あほらし」と思っています。

そもそも中小受託法は、独禁法に比べれば、低級な法律です。

そのことが、こんな勧告が出てしまうことにも表れています。

でも、在野法曹としては、こういう横暴は見過ごすことができません。

というわけで、これからもしつこく公取委の問題点を指摘していきたいと思います。

また、発注者のみなさん、中小受託法はぜひ、(できれば専門の)弁護士に相談してください。

そうしないと、いいようにやられます。

悲しいかな、それが中小受託法の運用の実態です。

2026年7月 3日 (金)

瑕疵による損害賠償請求を代金減額とした伊藤軒事件勧告の問題点

2023年12月22日、伊藤軒が下請代金から「クレーム処理代」を差し引いたことで、公取委が下請法違反で勧告を出しました

(なおこの勧告は、長澤先生の取適本p533でも紹介されています。)

勧告の問題の箇所は、

「⑵ 伊藤軒は、令和4年6月から令和5年5月までの間、次のアからオまでの額を下請代金の額から差し引くことにより、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。減額した金額は、総額837万460円である(下請事業者66名)。

〔ア~エ省略〕

オ 「クレーム処理代」の額」

という部分です。

これだけ見ると何が問題かわからないので、担当官解説(小菅敦=樋口高文=藤原達矢「株式会社伊藤軒に対する勧告について」公正取引881号64頁)をみると、

「⑵ クレーム処理代の減額

伊藤軒は、下請事業者が製造した菓子等が不良品であり、消費者等へのクレーム対応が生じた際、下請事業者に対し、クレーム処理代と称して、クレーム1件当たり1,080円等を下請代金の額から差し引いていた。

伊藤軒は、クレーム処理代を差し引く理由について、不良品が発生した際の消費者等へのクレーム対応に要する費用の一部について、当該不良品を製造した下請事業者に負担してもらうためと説明していた。

そのため、クレーム処理代は、伊藤軒が下請事業者に代わって行った不良品が発生した際の対応の対価とみることもできる。

しかしながら、減額については、下請法運用基準第4の3⑵アにおいて、瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には下請代金の額を減ずることが認められるとされているが、

前記⑴の返品で述べたように、受入検査を省略する場合には、瑕疵があっても返品することが認められないところであり、

同じく瑕疵の存在を理由としてクレームの処理にかかった費用を下請事業者に負担させることについても、下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。

したがって、伊藤軒がクレーム処理代の額を下請代金の額から差し引くことは、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じており、当該行為は下請法で禁止している減額に該当すると認めたものである。

なお、本件は、受領した商品に「瑕疵の存在」が認められることを理由にクレーム処理代を下請代金の額から差し引いた行為について、商品に瑕疵があった場合であっても、受入検査を行っていないことを理由に下請事業者の責に帰すべき理由が認められないとして減額を認定した初の勧告事例である。」

と書いてあります。

要は、受入検査をしないと瑕疵(契約不適合)があっても、損害賠償を代金から減額してはいけない、ということです(「受入検査を行っていないことを理由に下請事業者の責に帰すべき理由が認められないとして減額を認定した」)。

「減額を認定」しただけなので、減額せずに別途損害賠償請求をすることは妨げられないと考えられます。

ただ、下請法(現在は中小受託法)の解釈はコロコロ変わるので、この先どうなるかはわかりません。

以下、担当官解説の内容を検討してみます。

まず、

「クレーム処理代は、伊藤軒が下請事業者に代わって行った不良品が発生した際の対応の対価とみることもできる。」

という部分ですが、民法的な観点からは不自然な認定です。

まず、伊藤軒が行なったクレーム対応は、取引先から伊藤軒自身に対してなされたクレームへの対応でしょうから、「下請事業者に代わって」行なった対応ではありません。

つまり、伊藤軒が取引先に対して不良品納入という債務不履行または契約不適合責任違反をしたので、その完全履行や追完(の一環)として、あくまで自己の取引先との義務の履行として伊藤軒自身が行なった、とみるしかないでしょう。

また、「対応の対価」というのも不自然です。

「対価」というのは、

「個々の契約による財産の移転又はサービスの提供に対する反対給付の価額」(『法令用語辞典』学陽書房)

です。

本件で伊藤軒と下請との間に、「伊藤軒が下請にクレーム対応サービスを提供する契約」があったかというと、あるはずがありません。

これはたんに、債務不履行または契約不適合責任違反による損害賠償請求だというべきでしょう。

どうしてこういうことにこだわるのかというと、本件のような民事法と下請法が抵触する場面では、民法理論の正確な理解が不可欠だからです。

下請法が民法の領域に踏み込む以上、「民法の世界ではどのように理論構成されるか」をきちんと踏まえたうえで議論すべきでしょう。

それなのに担当官解説は、そもそも民法の理解がかなり怪しいといわざるをえません。

そこであえて公取委の気持ちになって(民法は知らないふりをして)、どうしてこういう分析になったのかを想像してみると、減額がみとめられる場合として、中小受託法テキスト74頁(当時の下請法テキストも同じ)に、

「● 代金の額を減ずることに当たらない場合

以下の場合は、代金の額を「減ずること」には当たらない。

・ 中小受託事業者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を代金から差し引くこと。」

という記載があるため、

「減額にあたらない理由としては「商品等の対価」にあたる必要があるのだから、伊藤軒が減額にあたらない理由としては「不良品が発生した際の対応の対価」というのくらいしか考えられないよなぁ」

という発想だったのではないか、と想像されます。

いずれにせよ、この段階ですでに「クレーム処理代」の法的性質が(「商品等の対価」ではなくて)損害賠償請求だ(あるいは、損害賠償請求かもしれない)ということに、思いが至っていません。

別に「商品等の対価」であろうが、「損害賠償請求権」であろうが、適法な債権であることには変わりはないわけで、両者は本質的には何も違いがないと思います。

(ただし後述のとおり、下請法テキストには瑕疵で減額が認められる場合についてこまごまとした規定があります。)

次に、担当官解説の、

「減額については、下請法運用基準第4の3⑵において、

瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には

下請代金の額を減ずることが認められるとされている」

という部分を念のため確認しておくと、「下請法運用基準第4の3⑵ア」(当時)は、

「⑵ 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由

〔注・1⑵はアが瑕疵、イが納期違反。4⑵は瑕疵、ただし検査省略だと返品不可

があるとして、下請事業者の給付の受領を拒んだ場合又は下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

〔イ省略〕」

というものです。

なので、担当官解説の「瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由があるとして返品する場合には下請代金の額を減ずることが認められる」という部分は、下請法運用基準のとおりなので、まあよいとしましょう。

次の、

受入検査を省略する場合には、瑕疵があっても返品することが認められない」

という部分も、運用基準第4の4⑵オ(当時)どおりで、とくに問題ありません。

(ちなみに、運用基準第4の4⑵オ(当時)の「給付に係る検査を省略する場合」に返品が認められないという規定は、"裏金"世耕プランによる平成28年改正で導入されたものです。)

次の、

「同じく瑕疵の存在を理由としてクレームの処理にかかった費用を下請事業者に負担させることについても、下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。」

という部分は、一瞬、「下請事業者に負担させること」自体がいけないかのように読まれかねないですが、そうではなくて、あくまで「下請事業者の責に帰すべき理由があると認めることは相当ではない。」と言っているので、あくまで減額のことを言っているだけです。

つまり、上記引用部分の「下請事業者の責に帰すべき理由」というのは、下請法(当時)4条1項3号の「下請事業者の責めに帰すべき理由」のことです。

そうすると、別途損害賠償請求をすることが不当な経済上の利益の提供要請にあたるのではないかといった論点は出てきません。

不当な経済上の利益の提供要請(中小受託法5条2項2号)には「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」という文言は出てこないからです。

というわけで、この担当官解説はもっぱら減額の可否について述べている、というべきでしょう。

しかし、油断は禁物です。

というのは、昔は別途支払わせるのは減額にはなりませんでしたが、最近の公取委の解釈変更で、別途支払わせるのも減額になることがあることになったからです。

(このあたりの公取委の解釈変更については、以前書きました。)

変更後の解釈でも、さすがに瑕疵の損害賠償を別途請求したときまで減額になるとは思えませんが、下請法の解釈はしょっちゅう変わるので、油断はできません。

次に、これは伊藤軒事件の勧告が悪いわけではなくて下請法運用基準のほうが悪いのですが、検査しないと減額できないというのは、受領拒否の減額の場合と比べると、いかにもアンバランスです。

当時の下請法運用基準第4の3⑵では、

「(2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして、下請事業者の給付の受領を拒んだ場合又は下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

イ 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由

〔注・受領拒否の1⑵につき瑕疵や納期遅れ。

返品の4⑵につき瑕疵と速やかな引き取り、ただし検査省略は返品不可〕

があるとして受領を拒むこと又は給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせることができるのに、下請事業者の給付を受領し、又はこれを引き取らせなかった場合において、委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)」

とされていました。

つまり、 受領拒否のルートに乗せると、

「1 受領拒否」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由〔注・瑕疵や納期遅れ〕があるとして受領拒否できるのに、

下請事業者の給付を受領し場合において、

委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合

には、検査の有無にかかわらず減額できました。

これが、返品のルートに乗せたとたん、検査を省略すると(返品ができないため)減額はできない、となったわけです。

これはアンバランスだったといわざるをえません。

ちなみに、中小受託法運用基準では、受領拒否ルートでの減額の場合には、第4の3⑵ア(イ)で「(イ) 当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合」とされ、受け取る前に瑕疵があることを伝えないと減額できないという不可能を強いる規定になったので、受領拒否ルートがふさがれたことによって返品ルートとのアンバランスは、皮肉にも解消されました。

また、中小受託法運用基準第4の3⑵イでは、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔アは、受領拒否の場合なので省略〕

イ 「4 返品(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔注・瑕疵。なお4オで検査省略は返品不可〕

がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせ場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付に係るものを引き取らせなかった場合に、

委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。」

となり、検査省略すると返品できないという規定は、第4の4⑵から分離されて、4⑶オに分離されたので、検査を省略すると減額できないという事態は、少なくとも中小受託法運用基準の文言上は解消されました。

とはいえ、公取委が(運用基準を改正しようとしまいと)また解釈を変更する可能性があるので、こちらも目が離せません。

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