下請法

2016年12月28日 (水)

改正下請法運用基準の疑問点

改正下請法運用基準のなかで、5-2の、量産終了後の補給品に関する買いたたきの事例がおかしいんじゃないかということは11月22日の記事で書きましたが、もうひとつ気になる記述があります。

改正運用基準5-3(4)では、

「(4) 親事業者は,原材料費が高騰している状況において,

集中購買に参加できない下請事業者が従来の製品単価のままでは対応できないとして下請事業者の調達した材料費の増加分を製品単価へ反映するよう親事業者に求めたにもかかわらず,

下請事業者と十分な協議をすることなく,

材料費の価格変動は大手メーカーの支給材価格(集中購買価格)の変動と同じ動きにするという条件を一方的に押し付け,

単価を据え置くことにより,通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。」

という例が買いたたきとされています。

しかし、これは競争というものを無視した、非常に問題のある設例だと思います。

このような行為が買いたたきになるなら、集中購買に参加できない中小企業に対してだけ、発注者は高い価格を設定してあげなければならなくなります。

しかし、集中購買に参加できる大企業も参加できない中小企業も同じ市場で競争しているはずであり、両者で区別しなければならない(中小企業に下駄をはかせなければならない)理由は見当たりません。

もし設問での発注者が、たまたま中小企業だけに発注していたとしても、潜在的にはいつでも大企業への発注に切り替えることはできるのですから、同じことです。

この設例が許されるとしたら、当該発注者にとっては、大企業に発注することが何らかの理由で不可能である、という場合だけでしょう。

価格競争力のない企業はたとえ中小企業であっても市場から消えていくのが競争というものであり、この設例は競争の基本を無視しています。

この設例でも、他の買いたたきの設例と同様に、最後のところで、

「通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた」

というしばりがかかっていますが、この設例に限って言えば、そもそも「通常の対価」として何をイメージしているのか、さっぱりわかりません。

(ところで、買いたたきの設例ですべて「通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた」という一節をこっそり入れて、形式的には法律違反の運用基準でないという体裁を繕いつつ、実は多くの企業がその部分は読み飛ばして「対価を据え置くだけで下請法違反になるんだ」と誤解するように仕向ける、というのは、実に小役人的で、たいへん姑息なやり方だと思います。)

もし「通常の対価」が、

集中購買に参加できない企業が供給できる通常の対価

のようなものをイメージしているとしたら、

集中購買に参加できない企業のみを供給者とする市場

を観念しているということであり、競争の実態を完全に無視しているといわざるをえません。

もしそうではなくて、「通常の価格」が、集中購買に参加できる企業もできない企業も含めた市場を観念しているなら、価格は安い方に収れんしていくでしょうから、集中購買に参加できる企業の水準まで下げることを要求したとしても買いたたきになるはずがありません。

このように、この設例はいったいどのような競争状況をイメージしているのか、まったく見えてきません。

きわめて特殊な前提(例えば前述のように何らかの事情でこの発注者は集中購買に参加している企業からは調達できない、など)を置けば、この設例が正しい場合もあるのかもしれませんが、そのような特殊な場合にしか成り立たない(つまり、実際には適用される場面のない)設例を運用基準に載せるというのは、誤解を招くことはなはだしいと思います。

いったい、この改正を担当した公取委の担当者は、競争というものが分かっているのでしょうか?

ところで、運用基準をこのように批判的に検討しておくことは、とても重要だと思います。

なぜなら、理論的に根拠が薄弱な運用基準は実際には発動されないからです。

そういう観点からみると、同じように羅列されている設例のなかで、どれが本当にやばそうで、どれがリップサービスなのか、濃淡がつけられます。

こんな運用基準が出てしまうのでは、企業の側にも、運用基準を見る目が必要になるでしょう。(運用基準というのは、誰が見ても正しく理解できるものでないといけないと思うのですが・・・)

公取委には、競争政策の担い手としての誇りを持った運用を期待したいと思います。

2016年11月22日 (火)

平成28年下請法講習テキストの変更点

平成28年の下請法講習テキストに、買いたたきの例として、

「自動車部品の製造を下請事業者に委託しているB社は、当該部品の量産が終了し、補修用としてわずかに発注するだけで発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価により下請代金の額を定めていた。」

というのが追加されました(p57)。

しかし私は、これは行き過ぎというか、少なくとも買いたたきの典型例としてテキストに載せるのはいかがなものかと思います。

(なお似たような例が、現在パブコメ中の運用基準改正案にもあります。)

テキストのその前の従前からある例で、

「産業用機械の部品の製造を下請事業者に委託しているA社は、下請事業者に2,000個発注することを前提として下請代金の単価について交渉し合意したところ、実際には300個しか発注しなかったのに2000個発注することを前提とした単価を適用した。」

というのがありますが、これならわかります。

というのは、部品を作るには金型の作成やら何やら固定費がかかるわけで、2000個で固定費を回収するつもりだったのに300個しか発注しないとなったら、それは下請が怒るのは当然です。

でも今回追加された設例では、そのようなことが一般的にいえるのでしょうか?

「量産が終了」しているわけですから、いちおう固定費は回収されているはずです。

もし最低生産ロット数にも大幅に満たないような個数を発注する(たとえば一度工場のラインを動かしたら最低でも1000個できてしまうのに10個しか発注しない)、というような場合ならわかりますが、世の中、そのような場合ばかりではないのではないでしょうか。

少なくとも、上記の「2000個発注の予定が300個発注」の例に比べれば、新たに加えられた例は非常に限界があいまいというか、そもそもどのような場合が買いたたきになるのかがきわめてわかりにくくなってしまったといわざるをえません。

それは結局、新たな設例に確固とした理論的裏付けがないためです。

少なくとも新しい設例は、前述のような、最低生産ロット数にもみたない発注の場合を想定していることを明記するなりすべきでしょう。

設例では、たんに従来から「大幅に」発注数量が減っているだけで違法になる、としか読み取れません。

でも大量生産が終わってるならふつうは金型など生産設備の減価償却も終わっているはずで、最低生産ロットの問題さえなければむしろ原価は安くなっている可能性すらあります。

親事業者は下請テキストの場当たり的な修正に振り回されることなく、実質的な違法性がどこにあるのかをよく考えて、最終的には、

「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い」

かどうかが買いたたきの要件であることを心にとどめて、事案に応じた適切な判断をしてくことが必要だと思います。

運用基準改正案をみても買いたたきの例が大幅に追加されていますし、どうも、安倍政権のデフレ対策を下請法を通じておこなうというにおいがプンプンします。

下請法はほんらい独禁法の優越的地位の濫用を簡易迅速に処理するための法律で、だからこそ適用対象も資本金額などで割り切っているわけですが、買いたたきにこのような極めて実質的な(ケースバイケースの)判断を要する行為類型にこのような設例が加えられると、同じことを下請事業者以外に対してやったら優越的地位の濫用にもなるのではないかということが当然に問題になるわけです。

もともと買いたたき規制は市場競争への露骨な介入であるわけですから、謙抑的に運用されるべきで、実際、これまではそのようにされていました。

最近の公取の動きを見ていると、ほんとうに、そのようなタガが外れてしまった感じがします。(しかも正式な勧告ではなく注意ですますところが、たちが悪いです。)

競争当局としての誇りはどこにいってしまったのでしょうか。

2016年10月 5日 (水)

テレビ局と検索エンジンと「業として」の有償性

平成27年11月版の下請法講習テキストp19に、

「Q16: 放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成は情報成果物作成委託に該当するとのことだが,これらについては,プロダクションの担当者が放送局に来て,ディレクターの指示のままに作業をする場合には,情報成果物作成委託には該当しないと考えてよいか。」

「A: 放送局がプロダクションに委託する業務の内容が,放送局においてディレクターの指示のままに作業をすることというものであれば,それは情報成果物作成委託でなく,放送局が専ら自ら用いる役務の委託であることから,本法の対象とはならない(情報成果物作成委託にも役務提供委託にも該当しない。)。

なお,それが労働者派遣法の対象となるような場合には,本法の対象とはならない。」

というQ&Aがあります。

この考え方自体、そんなこと言いきって大丈夫かという疑問がないではないのですが(指示のまま作業するといっても、プロダクションの担当者のスキルや専門性が反映されることがあるのではないか?)、今回それはひとまず措いて、設問の本筋とは違うところでちょっと疑問があります。

それは何かといえば、情報成果物作成委託の類型1は、

「情報成果物を業として提供している事業者が,その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合」

という場合ですが、下請法運用基準の役務提供委託に関する説明(第2-4(2))では、

「『業として行う提供の目的たる役務』のうち『業として行う提供』とは、

反復継続的に社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行っている提供のことをいい、純粋に無償の提供であればこれに当たらない。」

と、有償でなければならないことが明記されています。

そうすると、放送局の放送は、地上波なら無償なのですから、タイトルCGを番組で使って視聴者に提供しても無償の提供なので、「業として」にあたらないのではないか?という疑問がわきます。

考えられる理屈としては、地上波放送でもテレビ局は広告主から収益を得ているのだから「純粋に無償」とはいえない、というのが考えられますが、心情的には理解できるものの、運用基準の説明では、

「業として行う提供の目的たる役務」

の説明として、

「純粋に無償の提供であればこれに当たらない」

といっているのですから、「提供」(←当然、視聴者への提供のことでしょう)が無償かどうかを問題にしているのであって、つまりは、提供の相手方からお金を採るかどうかを問題にしているのであって、提供の相手方からお金は取らないけれどほかの第三者からお金を取る場合を、

「有償の提供」

と解釈するのは、相当無理があるように思われます。

つまり「有償の提供」というのは、提供の相手方からお金を取らない提供のことではないのか、ということです。

無償の提供は業としての提供に当たらないことが表れているテキストのQ&Aとして、p18に、

「Q11: 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。」

「A: いわゆる景品は,商品に添付されて提供される場合,有償で提供している商品の一部として提供がなされているため製造委託(類型1)に該当する。また,純粋に無償で提供している景品であっても,自家使用物品として当該景品を自社で業として製造している場合には,製造委託(類型4)に該当する。」

というのもあります。

でもこのQ11をみても、やはり景品提供の相手方から実質的にお金を取っている(本体商品の代金として取っている)から有償なのだ、とは読めても、まったく異なる第三者からお金を取っても有償と解釈するのだとは読めないと思います。

さらに言えば、

テレビ番組制作の取引に関する実態調査報告書

でも、

放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン

でも、テレビ局と番組制作会社との間の取引に下請法が適用されることは、当然の前提にされています。

(実態調査報告書のときに何か議論があったのか、ぜひ公取委の人に聞いてみたいところです。)

ですが、もし第三者からお金を取るのも有償の提供だとすると、たとえば、ある商店街が、町内のお祭りのときに、自己の店舗にお客さんを呼びこむために団扇(うちわ)を通行人にただで配ることを企画して下請に製造委託したときに、その団扇の費用の一部に充てるために、ある都市銀行の広告を団扇に載せて、その広告代をその都市銀行から徴収したら、その団扇の提供も「有償」の提供になってしまいそうな気がします。

それはいくらなんでも非常識でしょう。

(「非常識」といいましたが、もっと考えてみると、団扇代の一部に充てるくらいなら可愛らしいものですが、団扇代を超える広告料を都市銀行から取って商店街に利益が出たりすると、テレビ局とどこが違うのか、という気もしてきます。)

ですが他方で、民放の地上波放送が無料だからといって、「純粋に無償」だというのは、かなり引っかかるのも事実です。

(NHKなら問題なく有償なのでしょうけれど。)

民放の地上波放送を「純粋に無償の提供」というのは心情的に抵抗があるとしたら、では、インターネットの検索エンジンは「純粋に無償の提供」なのでしょうか?

われながら理屈ではうまく説明できませんが、インターネットの検索エンジンのほうがまだ、「純粋に無償の提供」というのに抵抗感はないような気がします。

いずれにせよ、テレビ局(NHKを除く)の放送をすべて「純粋に無償の提供」として、番組の一部を構成する映像や音声の下請がすべて下請法の対象外というのはさすがに受けいれがたい結論だと思いますので、結論としては、下請法の対象と解するのでしょう。

実際には、テレビ局は自分でもタイトルCGは作っているでしょうから、情報成果物作成委託の類型3(自家使用の情報成果物)に該当することが多いので、実際には問題ないのかもしれませんが、では自社で作っていないときにはテレビ局と制作会社の取引は下請法の対象外と割り切ってもいいのかというと、なかなかそういうわけにもいかないでしょう。

しかしそもそも、「業として」が有償のものに限るとは下請法には書いていないのですから、運用基準のほうを改正すべきではないでしょうか。

運用基準制定時は商品役務の提供の相手方以外からお金を取る(相手方からはお金を取らない)ビジネスはテレビやラジオくらいだったかもしれませんが、インターネット時代にはいろいろなビジネスが出てくるでしょうから、時代に合わない運用基準はこまめに改正すべきだと思います。

2016年8月29日 (月)

本日日経朝刊の下請法の記事について

8月29日日経朝刊法務面に、

「下請法違反監視強まる 公取委、指導最多『買いたたき』に的」

という記事があります。

その中で、

「発注企業が調達先を分散し、この部品メーカーの納入量は年々減ったのに、単価は据え置かれたままだった。

こうしたケースについて、下請法に詳しい村田恭介弁護士は、『大量発注を前提とした単価に据え置くことは、同法違反の買いたたきに該当しうる』と話す。」

という記述があります。

この村田弁護士のコメント自体は下請法テキストにも同じことが書いてあるので、それ自体は問題ないのですが、そのような考え方が、

「発注企業が調達先を分散し、この部品メーカーの納入量は年々減ったのに、単価は据え置かれたままだった」

という、世の中で普通にいくらでもありそうなケースに適用があるというのは、いくらなんでも厳しすぎると思います。

本当に村田弁護士は、このようなケースに該当するルールとしてこのようなコメントをされたのでしょうか?

(まあ、文末が「うる」なので、たんに可能性を言っているだけだととらえれば、間違いではないのですが、それを言い出すと、

「植村幸也は2020年東京オリンピックで金メダルを取りうる」

というのも間違いではないわけで、この記事をさらっと読んだ読者は大いに誤解するのではないかという気がします。)

この、大量発注を前提にした見積額をそのまま少量発注に適用するというのは、今まで想定されていたのは、たとえば1万個発注する前提で見積もりを出したのに1000個しか発注されなくて、でも同じ金額が適用された、というような極端な場合だったと思います。

(1万個→1000個、というのが、例として適切な割合かは議論のありうるところでしょうが、要するに、固定費が到底回収できないような少量発注だから買いたたきになる、ということです。)

それが、納入量が、「年々減った」、たとえば毎年10%ずつ減ったとして、5年目(1年目の1×0.9^4≒66%(もし毎年20%ずつ減ったら5年目で1年目の41%)になったくらいで買いたたきになるものでしょうか?

この設例では、「価格は据え置かれたままだった」ということになっていますが、同じような例で価格も毎年5%ずつくらい下げさせているものも、とくにこのデフレのご時世ですから、世の中ではいくらでもあるのではないでしょうか。

さらに設例では、「発注企業が調達先を分散」したのが納入量が減った原因ということになっていますが、もっと世の中で普通にありそうな、たんに発注企業の完成品の需要が年々減ったので下請への部品発注量も年々減った、という場合でも買いたたきになるのでしょうか?

親事業者側の事情(調達先を分散したか、完成品の売れ行きが悪いか、など)は、買いたたきの判断には影響しないはずなので(買いたたきの要件は、「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」ですが、この「不当に」に親事業者の完成品の売れ行きが悪いことを含めて読むのは、下請法のこれまでの解釈からして相当無理があります)、親事業者の完成品の需要が年々減った場合にも、買いたたきになると解さざるをえないのではないでしょうか?

というわけで、わたしはこの記事の設例はかなり問題だと思っています(ちょっと煽りすぎです)。

この記事によれば、

「平成14年度以降、『買いたたき』(で公取委が指導した件数)が急増。

15年度の指導は631件と2年前の7倍強となり、違反件数全体を押し上げている。」

ということなので、ここ最近で指導のレベルでは買いたたきの執行が強化されたのかもしれませんが、もし、「納入量が年々減った」というくらいで指導しているとしたら、市場経済への露骨な介入です。

もしそんなことを本気でやっているとしたら、当事務所の長澤弁護士が同記事で、

「特に製造業は調達のグローバル化が進んでいる。下請法の厳格な運用を嫌って外資系企業が発注を減らしたり、国内の大企業が海外調達を加速したりすれば元も子もない」

とコメントしているとおりの懸念が生じるでしょう。

これは予想ですが、納入量が「年々減った」場合に勧告までいくのは、ちょっと考えられなくて、今後もせいぜい指導どまりだと思います。

過去の事例でも買いたたきで勧告になったのは、かなり特殊な事例です。納入量(納入金額ではありません)が「年々減った」くらいで据え置きが買いたたきで勧告になるとはとうてい思えません。

そもそも買いたたきの指導の中には、明らかに違法となるようなものはほとんどないと想像されますが、そのような、明らかに違法とはいえないような指導に対してどのような対応をとるかは、それぞれの親事業者の考え方次第だと思います。

ただ、親事業者の側も、そういう指導もありうることを想定して、発注量が減っても据え置くことの正当性を裏付ける資料を準備しておいたほうがよいかもしれません。

それと、公取委も、独立行政委員会なのですから、あまり政府の意向で運用方針を大きく変えるのはいかがなものかと思います。

公取委が独立行政委員会であるのは、政府からの独立性を保つためなのではなかったのでしょうか。

べつに今の日本で競争政策が政府から独立していなければならないとは思いませんが、委員会方式は、

意思決定が遅くなるとか、

大臣庁の大臣にくらべて委員長がリーダーシップを取りにくいとか、

委員のポストが財務省の天下り先になるとか、

いろいろデメリットもあるわけで、政府べったりの組織なら独立行政委員会である必要はないのではないかという気がします。

2016年4月 6日 (水)

下請法5条書類規則の脱字!

5条書類規則(「下請代金支払遅延等防止法第五条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則(平成十五年十二月十一日公正取引委員会規則第八号)」)の1条1項2号は、政府法令データによると、

「製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、役務の提供。以下同じ。)の内容及びその給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をする期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間)、並びに受領した給付の内容及びその給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者からその役務が提供された日(期間を定めて提供されたものにあっては、当該期間))」

となっています。

でもこれ、よ~くみると、括弧閉じ(「 )」)が、一つ抜けているみたいです。わかりますか?

正しくは、

「製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、役務の提供。以下同じ。)の内容及びその給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をする期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間)、並びに受領した給付の内容及びその給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者からその役務が提供された日(期間を定めて提供されたものにあっては、当該期間))」

ですね。

見やすく改行をいれると、

「製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、

下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、役務の提供。以下同じ。)の内容

及び

その給付を受領する期日

(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をする期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間)

並びに

受領した給付の内容

及び

その給付を受領した日

(役務提供委託の場合は、下請事業者からその役務が提供された日(期間を定めて提供されたものにあっては、当該期間))」

です。

下請テキストも、黄色い六法も、全部同じでした。

だいぶ以前に企業結合届出規則の誤字を指摘したこともあるのですが、こちらは、一応論理的には成り立つものでした。

でも今回の5条書類規則のは、明らかに脱字です。

こういうことって、あるのですね。

2015年7月26日 (日)

村上他編著『条解独占禁止法』の連続して提供する役務の支払期日の起算点に関する説明

下請法運用基準では、

「・ 下請代金の額の支払は、下請事業者と協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が三条書面に明記されていること。

・ 3条書面において当該期間の下請代金の額が明記されていること、又は下請代金の具体的な金額を定めることとなる算定方式(役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)が明記されていること。

・ 下請事業者が連続して提供する役務が同種のものであること。」

という3つの要件が満たされている場合には、月単位で設定した締切対象期間の末日に連続した役務が提供されたと扱ってよい(それを支払期日の起算点にしてよい)と書いてあります。

これに対して、村上他編著『条解独占禁止法』p918では、2つめの要件について、

「②3条書面に当該機関の下請代金の額(算定方法も可)が明記されていること」

と説明されています。

しかし、これは端折りすぎではないでしょうか。

下請法運用指針によれば、下請法上認められている下請代金の額の算定方法は、

「下請代金の額の算定の根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定することとなるものでなければなら(ない)」

ものの、単価が定められている必要は必ずしもなく、たとえば、

「原材料費等が外的な要因により変動し、これに連動して下請代金の額が変動する場合」

でも、算定方法の記載が認められるわけです。

その他の例は、

「プログラム作成委託において、プログラム作成に従事した技術者の技術水準によってあらかじめ定められている時間単価及び実績作業時間に応じて下請代金の総額が支払われる場合」

で、最後がまさに、

「一定期間を定めた役務提供であって、当該期間における提供する役務の種類及び量に応じて下請代金の額が支払われる場合(ただし、提供する役務の種類及び量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)」

です。

しかも、2つめの例では単価は「時間単価」であるのに対して、3つめの例では単価は「種類及び量当たりの単価」で、わざわざ書き分けられています。

それなのに、たんに「算定方法も可」と書いたのでは、誤解が生じかねません。

とくに、下請法講習テキストには、労賃単価(役務の単位量当たりの単価ではありません)、原材料単価、為替相場、など様々なパラメーターが例示されており、許される算定方法の記載例がたくさん書いてあるのですから(平成26年11月版ではp25)、下請法を知っている人ほど、これらの多様な算定方法が認められるのだという誤解をしかねないと思います。

たしかに運用指針の例はあくまで例に過ぎないわけで、これ以外はだめだといっているわけではありませんし、そもそも指針に過ぎず法律ではないわけですから、これが絶対的な下請法解釈というわけでもないのですが、実務的には、一定の配慮をしなければならないのが現実です。

実務家向けのコンメンタールが、それを無視するのはいかがなものでしょうか。

もしたんに端折っているだけなら、せめて脚注なりで運用指針の該当箇所に言及するのが親切というものではないかと思います。

反対にもし万が一執筆者が、

「役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限らず、あらゆる算定方法が認められるべきだ」

と考えて書いているなら、なおのこと、運用指針に言及したうえで、きちんと自説の根拠を示すべきだと思います。

2015年7月25日 (土)

役務の提供完了報告書と情報成果物作成委託

調査レポートのような報告書は情報成果物の典型で、下請法の適用がありえます。

親事業者が他者から作成を請け負ったレポートを再委託する場合には類型2ですし、親事業者が自己使用するためのレポートの作成を委託する場合には、親事業者自身が同種のレポートを作成しているときに限り、類型3で下請法の適用があります。

ここまでは基本中の基本ですね。

では、役務提供委託に際して、役務の完了報告書を提出させた場合、それ自体独立した情報成果物作成委託になるのでしょうか。

たとえば、分かりやすい自己使用役務の例でいうと、ビルのオーナーがトイレの清掃を清掃業者に委託しているとして、清掃業者が清掃を完了して完了報告書を清掃業者から受け取った場合、常識的に考えて、清掃の委託の部分はオーナーが自己のためにした役務の委託ですから下請法の対象外ですが(自己のためにする役務は下請法の対象外です。これも基本です)、作業の完了報告書の部分だけを取り出して、情報成果物作成委託に該当する、といわれることはないのか(オーナー自身が同種の報告書を業として作成していることが前提ですが)、というのが、ここでの問題です。

やはり、そのような役務提供に付随した報告書は、情報成果物作成委託には該当しないと考えるのが常識的でしょう。

では条文をチェックしてみましょう。

まず、清掃の完了報告書も、「文字・・・により構成されるもの」(下請法2条6項3号)に該当するので、それ自体は情報成果物であるといわざるをえないでしょう。

次に、下請法2条3項では、情報成果物作成委託の類型3を、

「〔親〕事業者が

その使用する情報成果物の作成を業として行う場合に

その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること」

と定義しています。

1つには、清掃の完了報告書のようなものは、親事業者が「使用する」とはいえない、という解釈が思い浮かびます。

つまり、清掃の完了報告書は、清掃業者が自己の債務の履行を立証するために提出するものであって、親事業者がこれを使用するために受け取るものではない、という解釈です。

しかし、たとえば内閣法制局法令用語研究会編『法律用語辞典』(有斐閣)では、「使用」は、

「普通には、その物の有する機能性質によって定まる用方、すなわち、本来の用方に従って消費し、又はそのまま使うこと」

と説明されており、清掃の完了報告書は清掃が完了したことの記録として用いるのが本来の用法そのものですから、これを「使用」に該当しないというのは無理があるでしょう。

(ちなみに、同書の「用方」というのは、一瞬、「用法」の誤記かと思いましたが、同書では『用方(ようほう)』も、

「物の自然的性格に即した本来の経済的目的に合する使用方法。・・・なお、物の用い方、使用の方法という意味では『用法』が用いられる。」

と、きちんと定義されて載っています。さすが法制局、誤記などするはずがありません!)

なので、たとえば親事業者が自社オフィスの清掃を完了したら社内報告書を作成することを業としていた場合には、その社内報告書は、「その使用する」情報成果物であるといわざるをえないと思います。

次に考えられるのは、「委託」していない、という解釈です。

下請法には、「製造委託」や「役務提供委託」といった用語の定義はあるのですが、「委託」という言葉の定義はありません。

一応、下請法運用基準では、

「なお、この法律で『委託』とは、事業者が、他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)若しくは修理、情報成果物の作成又は役務の提供を依頼することをいう。」

という説明がありますが、「仕様、内容等を指定」しているか否かが「委託」か否か(たとえばたんなる売買か)にかかわってくるのは製造委託くらいで、その他の役務提供委託や情報成果物作成委託は基本的にみな「一品もの」なので、この定義の「仕様、内容等を指定」で清掃の完了報告書の範囲を絞るのはちょっと無理でしょう(清掃の完了報告書とはいえ、内容は「一品もの」なわけですし)。

では、「依頼」していない、という解釈は可能でしょうか。

つまり、清掃の完了報告書は清掃業者が自己の債務の弁済を立証するために作成しているのであって、発注者からは「依頼」していない、という理屈です。

この理屈が成り立つ場合も確かにあるでしょう。

でもそういう、清掃業者が自発的に報告書を提出してくる場合には、完了報告書の発注もないわけですから、下請法の適用がないのは当然で、むしろ問題になるのは、契約書で報告書の提出を義務付けているような場合です。

では、契約書で清掃の完了報告書の提出を義務付けている場合にも、「依頼」に該当しないと解することは可能でしょうか。

そこで再度、前出の『法律用語辞典』を見てみると、「委託」は、

「一般に、法律行為又は事実行為を他人又は他の機関に依頼すること」

と説明されています。

私には、この「委託」の定義は、本来、本人がやるべき、あるいはやってもよいような法律行為や事実行為を、あえて他人にやらせる、というニュアンスを含んでいるようにみえます。

実際、「委託」は、「委ねる」、「託す」ということですから、本来本人がやることが予定されているはずです。

とすると、清掃の完了報告書のようなものは、どう転んでも発注者が作成することは不可能、といいますか、発注者がまったく同じ内容の報告書を作っても意味がないわけで、作業を行った本人である清掃業者が作成してこそ意味がある、と思うのです。

とすると、日本語本来の「委託」の意味を尊重して、また、運用指針の「依頼」にそのような意味も込めることとして、仮に契約書で完了報告書の提出を義務付けていても、それは本来下請事業者がやるべきことであって、本来発注者がやるべきことを「依頼」しているものではない、と考えることにしたいと思います。

ちなみに下請法講習テキストにも作業の完了報告書を単独の役務提供委託とみないことをうかがわせる記載がいくつかあります。

たとえば、p42のQ67では、(情報成果物作成委託関係)というくくりの中で、

「プログラムの作成委託において,給付の内容を確認するため,プログラムの納品に併せて下請事業者に最低限の証拠資料(単体テスト結果報告書等)を提出させることとし,プログラムの納品時に証拠資料の提出がない場合には,証拠資料の提出後にプログラムを受領したこととしたいがよいか。」

という設問に対して、

「あらかじめ親事業者と下請事業者との間で,親事業者が支配下においたプログラムが一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したこととすることを合意しており,プログラムの納品に併せて当該確認を行うための証拠資料の提出を求めている場合において,証拠資料の提出が遅れた場合に,証拠資料の提出後にプログラムを受領したこととしても問題はない(ただし,3条書面に記載した納期日にプログラムが親事業者の支配下にある場合には,内容の確認が終了していなくても3条書面上の納期日が支払期日の起算日となる。)。

なお,この場合には,委託した給付の内容に証拠資料の提出を含むこととし3条書面にその旨記載して発注するとともに,証拠資料の作成の対価を含んだ下請代金の額を下請事業者との十分な協議の上で設定して発注する必要がある。」

と回答されています。

(なお、内容は同じなので上記引用は平成18年11月版のテキストからコピペしました。コピペできない設定のPDF版が多いので、後日の便宜のため、18年版を貼り付けておきます。)

「1811koushuu_text.pdf」をダウンロード

この設問からは、証拠資料としての報告書自体を情報成果物とみていることはうかがわれず、あくまでプログラムの作成が情報成果物作成委託だととらえられているようにみえます。

そうでなければ、報告書自体の納期(?)とか、報告書自体の対価(?)とかが必要になるはずです。

「委託した給付の内容に証拠資料の提出を含むこととし」、とか「証拠資料の作成の対価を含んだ下請代金」を定めろとか、報告書自体、委託の対象といっているようにも読めるのが気持ち悪いですが、そこは、「きっとそこまで深く考えてはいないだろう」ということで、目をつむりましょう。

3条書面に書けというのもとても気持ち悪いですが、これも、報告書自体を発注対象とするなら、報告書自体の納期を書かないといけないはずで、そこまでのことはこの回答からはやはり読み取れないと思います。

他の例としては、p43のQ70では、(役務提供委託関係)のくくりの中で、

「Q69: 運送委託において,下請事業者からの配達報告が届いた時点を『役務を提供した日』としてよいか。

A: 『役務を提供した日』とは,当該役務が完了した日であり,報告書の届いた日ではない。」

というのがあり、ここでも、役務の完了報告書それ自体が情報成果物であるという観点からの分析はありません。

と、いうわけで、役務のたんなる完了報告書を作成させることは、独立した情報成果物作成委託とはみない、ということでかまわないと思います。

2015年5月28日 (木)

村上他編著『条解独占禁止法』の代金減額に関する気になる記述

村上他編著『条解独占禁止法』p920の、下請代金の減額が許される「下請事業者の責に帰すべき理由」の説明で、

「『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして、下請代金の額を減じることができるのは、具体的には、次の場合〔注・瑕疵がある場合など〕に限定される。」

としています。

ここまでは、「次の場合」の①~③も含め、下請法講習テキストの記述と同じなので問題ないのですが、問題なのは、それに続けて、村上『条解』では、

したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは許されない。

と解説されているところです。(この部分は下請講習テキストにはありません。

(なお、以下、当初合意が3条書面に記載されていても減額は認められないという趣旨と思われるので、以下でもその前提です。)

しかし、実際にはそんなことはありません。

昨日このブログでも書いたように、公取委や中小企業庁の数多くの文献で、当初合意があるのに減額が認められない場合として、「下請事業者に責任がない」という要件が、必ず入っています。

そして、そこでの当初合意の存在を前提に「責任」があるとして減額できる場合というのは、けっして、上記①~③の場合に限定する趣旨ではありません。

といか、①から③は、当初合意の存在を前提としたものではありません。

というのは、①から③は、

① 下請事業者の責めに帰すべき理由(瑕疵の存在、納期遅れ等)があるとして、受領拒否、返品した場合に、その給付に係る下請代金の額を減じるとき

② 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして、受領拒否、返品できるのに、そうしないで、親事業者自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用を減じるとき

③ 瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認めらる額を減じるとき

ですが、これらの理由はその内容に対応する当初合意があろうがなかろうが減額できることがあきらかであり、ということは、①~③は同じ内容の当初合意の存在を想定したものではないことがあきらかだからです。

というわけで、講習テキストの(ア)~(ウ)(村上『条解』では①~③に相当)の記述は、あくまで、当初合意がなくても(当初合意の有無にかかわらず)「下請事業者の責に帰すべき理由」として認められるのは、この3つに限られる、といっているだけなのです。

「あらかじめ〔つまり、発注時点で〕約束ができている」ということは、「責に帰すべき理由」とは異質なものだと思います。

(ただ、「あらかじめ」であっても減額は認められない、というのを条文のどの文言にひっかけるかというのは、難しい問題です。というのは、下請講習テキストでは、代金減額というのは、発注後、事後的に減額することだと説明されているからです。

このように、下請法は文言がおろそかにされている法律なのですが、しかしだからこそ、われわれ弁護士は、わずかな論理的矛盾もゆるさない厳密な解釈を心がける必要があると思います。)

そういう異質なもの(当初合意)に関する解釈論を、①~③に限定されることを理由に認められないと説明してしまうと、たとえば同書のその次の、「ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金」が認められる理由の説明に窮してしまいます。

百歩譲って、もし当初合意の話をここに入れるなら、せめて、

「したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして代金減額することは認められない

と書くと、論理的整合性は保たれるでしょう。

しかし、そうすると、当初合意と帰責理由という異質なものが一緒くたになっていることがますます目立ってしまい、読者の混乱を招きそうです。

つまり、このような修正を読んだ読者は、

「ほかの理由による減額は認められるのか?」

という疑問を持つか(ボリュームディスカウント等、認められます)、あるいは、

「当初合意と帰責理由は別問題から、あたりまえじゃん(何か深い意味でもあるのかな?)」

と思うでしょう。

これに対して、現状の『条解』の該当部分を読んだ読者、とくに、弁護士のようなプロでない読者は、

「そうか。下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは(①~③の場合を除いて)許されないんだな。」

と素直に誤解するでしょう。(はっきりそう書いてあるのですから、そうとしか読みようがありません。)

村上『条解』の下請法の部分は基本的に下請法講習テキストに依拠しているのですが(p893に明記されています)、最初に上記「したがって・・・」以下をみたとき私は、

「んんん???(そんなことないだろう。講習テキストにそんなこと書いてあったっけ?)」

と思ってしまいました。

やはり、講習テキストそのままの部分とそれ以外の著者独自の見解の部分は、きちんと分けた方がよいのではないでしょうか。

著作権法32条の引用の要件の問題はさておき、コンメンタールとしての使い勝手や信頼性の面からも、その方が良かったと思います。

それから、やはり他人が書いた文章に加筆するときは、こういう思わぬところでミスが起こりがちなので、怖いですね。私も(こういう「加筆」はやったことはありませんが、将来「補訂」とかはするかもしれないので)気を付けたいと思います。

2015年5月27日 (水)

当初合意のある手数料と代金減額

下請法上、発注時に合意した下請代金(=3条書面記載の下請代金)を事後的に減額すると、代金減額として違法になります。

では、発注時点で何らかの名目で減額することを合意(以下「当初合意」とよびます)し、かつ、かかる当初合意も3条書面に記載していた、という場合でも、代金減額として違法となるのでしょうか。

これは実は、けっこう微妙な問題です。

たとえば、「広告業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(広告業ガイドライン)p27では、

「『下請代金の減額の禁止』とは、親事業者(広告会社)が、下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多少を問いません。

例えば、歩引き、リベートなどの合理的な理由に基づかない減額など、その内容が下請事業者の責任のない理由によるものであれば、当初に下請事業者と協議して合意した額であったとしても、下請代金の減額として問題となり得ることに注意する必要があります。」

と、下請事業者に責任のない理由による減額は、仮に当初合意があっても(そしてもちろん、3条書面に明記されていても)問題となると説明されています。

ただ、どういう場合に「責任のない」といえるのかについては、説明はありません。

次に、中小企業庁のホームページのQ&Aでは、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

というように、当初合意があっても、下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と説明されています。

次に、下請事業者に対する調査の質問票では、

「★下請代金法のポイント(その4) 下請代金の減額について

親事業者は、下請事業者に責任がない場合には、たとえ下請事業者と事前に合意していたとしても、発注書面に記載した下請代金の額を減じることは禁止されています。

また、減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注書面に記載した下請代金の額を、発注後いつの時点で減じることも禁止されています。

したがって、例えば、「協力金」、「出精値引き」、「歩引き」等と称して下請代金を減額する場合は下請代金法違反になります。」

と、下請事業者に責任がない場合には、当初合意があっても減額は禁止される、と説明されています。

次に、中小企業庁の「中小企業向けQ&A」でも、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

と、同じく、当初合意があっても下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と書かれています。

最後に、「産業機械・航空機等における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」p11でも、

「☆下請代金の減額の禁止(法第4条第1頄第3号)について

下請法の適用対象となる取引を行う場合には、親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となる。

<ポイント>

下請代金の減額の禁止とは、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多尐を問わず、また発注後いつの時点で減額しても本法違反となる。つまり、歩引き、リベート、システム利用料など当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるのであれば減額として問題となり得ることに注意する必要がある。」

と、当初合意があっても減額は問題であると記載されています。

以上を踏まえると、当初合意があっても下請事業者に責任のない代金減額は認められない、というのが当局の見解であると理解できます。

それで世の中に存在する減額のほとんどはカバーできるのですが、いくつか疑問もわいてきます。

まず、「責任のない」ってどういう意味なのか?ということです。

当初合意の話なので、目的物に瑕疵があるとか、そういうことではなさそうです。

そうすると、たとえば、あまり根拠がない「事務手数料」とか、「伝票作成料」みたいなものの減額は、認められそうにありません。

では、実質的に根拠がある手数料的なものも絶対に認められないのか?というと、絶対に認められないということはないんだろうという気がします。

しかし、そんな理屈のことを詰めて考えるより、下請事業者が負担すべき実質的な理由のある減額なら、最初からそのような事情も織り込んで代金額に反映させておけばいいだけの話です。

それをわざわざ、請負代金額とは別建てで、目立つ形で「○○手数料」みたいに書くのは、少なくとも実務的には避けることが強く推奨されます。

また実際の違反事例では、公正取引661号50頁堤・香城「竹田印刷株式会社に対する勧告について」があります。

この事件は、

「竹田印刷は、自社が全額出資する株式会社光風企画・・・を竹田印刷の下請取引に係る発注業務に関与させることの対価として、事務手数料の名目で、竹田印刷と下請事業者との間で取り決めた下請代金の額からその5%を徴収する旨を下請事業者に周知し、下請代金の額からその5%を事務手数料として減じていた。」

という行為が、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じていた。」

と評価されて、違法とされたものです。(p49)

この事件がちょっと変わっているのは、竹田印刷は3条書面に下請事業者と合意した下請代金の額(「合意金額」)を記載せず、合意金額から5%差し引いた額を記載していた、なので、外形上3条書面記載の金額は支払ったことになっていた、という点です。(p50)

この点について解説は、「(1)下請代金の減額と『下請代金』の認定」という見出しのもと、

「発注書面に記載することが義務付けられている下請代金の額は、親事業者と下請事業者との間で発注前に交渉し、発注内容の対価として双方で合意された金額であることが前提となっている。

したがって、合意金額と発注書面上の金額が異なっているとしても、本来、下請事業者の給付に対して支払うべき下請代金は、竹田印刷と下請事業者との間で発注内容の対価として取り決めた合意金額であるため、本件では合意金額を下請代金と認め、下請代金を減額したという認定をしたものである。」

と説明しています(p50)。

これをどう読むかはちょっと微妙で、たとえば1万円で合意した製造委託について3条書面に9500円と書いた場合には、9500円とする合意がなかった(あくまで合意は1万円だった)、という認定になっている、と読むのが表面的には正しいのだろうと思います。(見出しも「下請代金の減額と『下請代金』の認定」なので。)

つまり、5%分減額するという合意はなかった、という認定です。

もしこのような表面的な読み方が正しいとすると、下請事業者の「責任のない理由」による減額であるかどうかという、減額の合理性の有無にかかわらず、違法となる、というのが理屈に合いそうです(当初合意がそもそも存在しないわけですから)。

ところが解説では、「下請代金から事務手数料を徴収することの合理性」という見出しのもと、

「本件では光風企画が竹田印刷の社内手続に一部関与していたものの、下請事業者の選定、合意金額の決定から発注、支払にいたるまでの委託業務はすべて竹田印刷が自ら行っており、光風企画の事務手数料として下請代金から減額する合理的理由は見当たらない。」

と説明されています(p50)。

そしてこの点について、大江橋の同僚の長澤弁護士の『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』p144の脚注では、

「公正取引委員会は、発注前の合意に基づく代金減額の事案では、減額することに合理的な理由があるか否かについて吟味しているようである。」

として、前記竹田印刷の解説を引用されています。

(ちなみに、前記長澤『解説と分析』のp144~145には、代金減額について下請法のプロが知っておくべきことがわずか2ページの中にすべて書いてあるといっても過言ではないので、一読をおすすめいたします。)

前述のように、本件が減額の「当初合意」があったといえるのかどうかは微妙なところだと思いますが、当初合意がなかったのなら減額の合理性を云々するまでもなく違法なのは明らかなので、わざわざ合理性の検討がなされていること自体、当初合意がなかったとはいいきれない(むしろ当初合意があった可能性が高い)と公取委は考えていたことを裏付けるのではないかと思います。

つまり、この事例でも、本当に合理性のある減額で、当初合意もあり、3条書面にもきちんと書いてあるのであれば、認められる可能性はないわけではない、ということなのだろうと思います。

そして、この事例の解説で「合理性」とか「合理的な理由」とか言っているのは、上に引用した多くの文献が「下請事業者の責任のない理由」といっているのと、表と裏で反対ですが、ほぼ重なるのでしょう。

でも言葉の問題として、たとえば手数料を下請事業者に負担させることが「合理的」とはいえても、下請事業者に「責任がある」というのは、ちょっと通常の日本語としてはおかしい気がするのが、難点といえば難点です。

こういう妙な混乱が生じるのも、条文のどの文言の解釈をしているのか(あるいは、条文にない要件の議論をしているのか)を意識せずに上記解説が議論しているからでしょうね。

もうひとつ、この事件の解説や上記各文献の難点は、「下請代金」と別建てで差し引くと問題になりうるけれど、下請代金に溶け込ませるとOKだ、ということになりかねないことです。

しかも、別建てで差し引いても「合理的な理由」があればOKであるかのように竹田印刷の解説は読めなくもないですし、溶け込ませていても「合理的な理由」がなければ問題だ、といっているようにも見えます。

でも、「減額」というのは、事後的に引くことだと講習テキストなどでも説明されているので、事前に引いているケース(「下請代金」は控除後の額)は、そもそも「減額」には該当しないとするのが論理的なはずです。

このあたりの、いったいどの要件の議論をしているのかわけがわからなくなることが、下請法をやっていると、時々あります。

弁護士としては、条文のどの文言解釈をしているのかを、常に意識したいと思います。

2015年5月20日 (水)

納期の前倒しと給付内容の変更

下請法4条2項4号前段では、

「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ・・・ること。」

が禁じられています。

ここでいう「給付の内容の変更」には、納期の前倒しは含まれるのでしょうか。つまり、納期の前倒しをすると4条2項4号に違反するのか、という問題です。

ここで、給付の「内容」というのをものすごく広く読めば、納期の合意も給付内容の合意の一部である、といえなくもありません。

しかし下請法では、3条書面の記載事項として、

「給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項」

という言い方をして、「給付の内容」と「その他の事項」を明確に区別している上に、3条書面規則1条1項2号では、

「給付・・・の内容並びにその給付を受領する期日」

というように、「給付の内容」と「給付を受領する日」を明確に分けて使っています。

このような文言解釈からすると、給付の「内容」には、納期は含まない、と考えるべきでしょう。

下請法講習テキスト(平成26年11月版)p67でも、

「『給付内容の変更』とは、給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである。」

と、「給付内容の変更」にいう「給付内容」とは3条書面規則1条1項2号の「給付・・・の内容」のことであることをうかがわせる記載があります。

また、鈴木満著『新下請法マニュアル(改訂版)』p207によると、

「親事業者が、下請事業者の給付についてその責任がないのに、受領前に給付の内容を変更したり、受領後にやり直しをさせる行為は、従来、下請代金の減額や受領拒否に該当するものとして取り扱われてきた。

このため、平成15年法改正〔注・情報成果物などの追加〕の政府原案では、かかる行為を規制するために新たな規定は必要ないとの判断から本号は規定されていなかった。

しかし、国会の審議の過程で、かかる行為は下請取引特有の悪質な行為であり、これを独立の禁止行為として明確に規定しておくべきだとの意見が出され、国会修正により、新たな禁止行為として追加規定されたものである。」

と説明されています。

つまり、給付内容の変更の規定は、減額や受領拒否に含まれる(少なくとも従来はそれで対応できていた)行為を想定していることが分かります。

とすると、納期の前倒しは減額や受領拒否とは関係ありませんから、やはり給付の「内容」の変更には含まれない、と考えるのが立法経緯にもかなうように思われます。

あと、納期の延期については受領拒否で処理する解釈・運用が確立している(給付内容の変更とはしない)ことも、納期の前倒しが給付内容の変更ではない理由となるかもしれません。

ところが、実はちょっと微妙な文献もあるのです。(実はここからが本題だったりする。)

つまり、公取委事務総局の『広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容』(平成16年2月)p60では、

「◆不当な発注内容の変更,不当な発注取消しに関連するQ&A◆

Q1: 下請事業者が納期を守らないことがよくあるのだが,このような場合には,むしろ発注内容を変更(納期を延ばす)しなければ下請事業者が不利益を与えることになるので,下請事業者との合意の上で納期を変更することは違反とはならないと考えてよいか。

A1: 下請事業者の要請により給付内容を変更することは問題とはならない。」

という記載があって、納期を延ばすことが発注内容の変更に該当するかのように説明されています。

同文書は、まさに平成15年改正(給付内容の変更が違反行為に追加さるとともに情報成果物作成委託が下請法の対象になった)を踏まえて広告業界に向けられたものであるために、給付内容の変更における「内容」に納期が含まれると公取委が考えていたのではないか?とみえなくもないわけです。

しかしやはり、給付の「内容」には、納期は含まれないと考えるべきでしょう。

前述の文言解釈に加えて理由をいえば、下請法の運用基準でも、「給付内容の変更」というのは、まさに給付の中身そのもののことを指すという前提で書かれていることがあげられます。

また、給付内容の変更(4号前段)とやり直し(同号後段)はセットになっていて、給付内容の変更は給付の受領前に行うものであるのに対して、やり直しは給付の受領後に行うものであるという説明がよくなされますが、納期の変更は、そういう分け方になじまない、つまり、納期の延期を受領後に行っても(返品プラス再納期の指定、でしょうか)それを「『やり』直し」とはいわない、なので、「給付内容の変更」ともいわない、というのももう一つの理由になるかもしれません。

つまり、「やり直し」という言葉は、「やる」ことの中身の変更なので、給付内容の変更も当然、中身の変更であろう、という理屈です。

というわけで、「広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容」の記載は、ちょっと公取委担当者の筆が滑ったものである、ととらえるべきでしょう。

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