知財と独禁法

2015年7月 2日 (木)

小田切委員の論文

かつて小田切宏之委員が公正取引委員会の委員になられる前、

「特許法と競争法の微妙な関係に関する若干の考察」

という論文を日本経済法学会年報32号(2011年)に発表されています(76頁)。

コンパクトながら非常に内容の濃い論文で、いろいろと得るところが大きいのですが、その中で小田切委員は、

競争市場で1つの企業が発明に成功した場合には、当該企業には、

① ライセンスを拒絶し、自ら発明前の競争数量を発明前の競争価格(をやや下回る価格)で生産・販売しする(発明企業は市場を独占する)、

② すべての希望企業に、発明前の限界費用(c1)と発明後の限界費用(c2)の差額(=c1-c2。つまり発明によるコスト削減分)に等しいロイヤルティ額でライセンスをする(自らは生産してもしなくてもいい)、

③ すべての希望企業にc1-c2に等しいか、それよりも低いロイヤルティ(r)でライセンスすると同時に、ライセンシーにc1〔=発明前の限界費用=発明前の競争価格〕の価格での販売を義務付ける、

という選択肢があるところ、①も②も③も、発明前の競争数量が発明前の競争価格(=限界費用)で販売される(なので、消費者余剰も社会的余剰も同じ)という点で経済的効果としては同じなのに(①②では発明による利潤増は発明者が独り占めし、③では発明者とライセンシーが利潤を分け合う)、どうして③の販売価格の制限だけ違法とされるのか、という疑問を呈されています(p84)。

経済学的にはまことにごもっともです。

よくある疑問に、

「ライセンスを拒絶するのが自由なのに(拒絶してライセンシーにまったく売らせないのも自由なのに)、どうして販売価格を拘束するのは自由でないの?(大は小を兼ねないのか)」

という、これも非常にもっともな疑問がありますが、根っこは同じだと思います。

さらに小田切委員は、③の場合は、

「ライセンシーが複数企業であれば、事業を実施しているのが発明企業1社のみという①より長期的には望ましい可能性すらある。」

と述べられています。(p85)

(ちなみに、「ライセンシーが複数企業であれば」と限定されていますが、ライセンシーは1社でも技術は移転するので、発明企業自身が実施していればなおのこと、実施していなくても、ライセンシーが複数であることは本質的ではないと思います。)

つまり、技術移転による技術の伝搬というメリットを、独禁法の規制が封殺しているのではないか、という疑問です。

これも、まことにごもっともです。

つまり、公正取引委員会の委員までされる経済学者の方ですら、独禁法の規制は理屈で割り切るのは難しい、ということなんだろうと思います。

なので、私も、

「どうしてライセンス拒否の自由があるのに、販売価格の制限はできないのか。」

と正面切って聞かれると、質問者の理解のレベルを見極めながら、

「価格は重要な競争手段だから」

とか、

「ガイドラインにそう書いてあるから」

とかいって、それぞれのレベルで納得してもらえそうな答えを選んでいます。

でも本音のところでは、私も小田切委員と同じで、心底納得しているわけではないので、しつこく質問されるとうまく説明できなかったりします。

でも、それはそんなものなので、ご勘弁ください。

あえて説明をひねり出せば、

経済学ではそうだが、現実には販売価格を指値で指定するのとロイヤリティをc1-c2に設定するのは効果は違うのだ(そもそもc1-c2の計算すら容易でない)、

とか、似たようなことですが、

c1-c2を推定してライセンスして、そのうえで商品価格を市場にゆだねた方が(=市場で揉まれた方が)、商品価格を指定するより価格は不安定になるんだ、

とか、

特定の発明がライセンスされなくても競合品がまったくなくなるわけではないので、ライセンスの拒絶が市場の独占を意味するという想定自体がおかしい、

つまり、

ライセンシーの立場からすると、価格拘束が許されると、

①ライセンスを受けずに自由価格で(ただし劣った品質で)競争するか、

それとも、

②ライセンスを受けて協調価格で販売するか、

という選択になり、①の厚生は正なので、ライセンス拒絶+①の厚生の方が②の厚生よりも大きいこともありうるのではないか、

とか、いろいろ思いつきます。

ただ、いずれも抽象論なので、本当にそうかといわれると確信はありません。

ともあれ、それくらいライセンスと独禁法の関係はむずかしいんだ、ということをご理解いただければと思います。

(しかも本質的には、これは知財のライセンスに限った話ではなく、知財と同じ程度の不可欠性を有するインプットの場合には、常に成り立つ話です。)

むしろ経済学に暗い独禁法弁護士の中には、このような理論的な難しさがあることすら知らないまま、「価格の制限だから違法なのは当たり前」という発想でアドバイスしている人すらいるのではないか、と勘繰っています。

2015年2月 4日 (水)

共同研究開発ガイドライン目次(と若干の要約)

はじめに

1 基本的視点

2 指針の適用範囲及び判断時点

第一 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

2 判断に当たっての考慮事項

(1) 研究開発の共同化については、競争が実質的に制限されるか否かによって判断される

(2)  事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占等)。

第二 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、不公正な取引方法の問題となる。

競争関係にある事業者間で行われる共同研究開発において、当該製品の価格、数量等について相互に事業活動の制限がなされる場合には、主として不当な取引制限の観点から検討される。

共同研究開発参加者間の取決めについては、基本的に本指針の考え方によって判断され、知財ガイドラインは適用されない。

ただし、共同研究開発の成果の第三者へのライセンス契約については、知財ガイドラインの考え方によって判断される。

 

2 不公正な取引方法に関する判断

(1) 共同研究開発の実施に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項(白条項)

①研究開発の目的、期間、分担等(業務分担、費用負担等)を取り決めること

②共同研究開発のために必要な技術等の情報を参加者間で開示する義務を課すこと

③ ②で他の参加者から開示された技術等の情報に関する秘密を保持する義務を課すこと

④ ②の技術等の情報以外に共同研究開発に関して他の参加者から得た情報のうち特に秘密とされているものの秘密を保持する義務を課すこと

⑤分担した研究の進捗状況を参加者間で報告する義務を課すこと

⑥ ②で他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること((1)イ①の場合〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕を除く。)

⑦共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること

⑧共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕参照)

⑨共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕及び②〔共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること〕参照) 

○ ただし、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限することは、背信行為の防止又は権利の帰属の確定のために必要と認められる場合には、原則として公正競争阻害性がない。

⑩参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)イ①〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕の場合を除く。)

⑪共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること

○ 共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、他の事業者の参加を制限する行為が、例外的に、不公正な取引方法(独占禁止法第二条第九項第一号又は一般指定第一項(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2(2)参照)。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)

①技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること((1)ア⑥〔他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること〕参照)

○ 開示された技術等をそのまま流用するのではなく、それから着想を得て全く別の技術を開発することまで制限するような場合には、当該研究開発活動の制限は、技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて参加者の事業活動を不当に拘束するものであり、公正な競争を阻害するおそれがあるものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

②共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)ア⑩〔参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること〕参照)

ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項(黒条項)

①共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア⑧〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること〕及び⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

②共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること((1)ア⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

③既有の技術の自らの使用、第三者への実施許諾等を制限すること

④共同研究開発の成果に基づく製品以外の競合する製品等について、参加者の生産又は販売活動を制限すること

(2) 共同研究開発の成果である技術に関する事項

ア 白条項

①成果の定義又は帰属を取り決めること

②成果の第三者への実施許諾を制限すること

③成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること

④成果に係る秘密を保持する義務を課すこと

⑤成果の改良発明等を他の参加者へ開示する義務を課すこと又は他の参加者へ非独占的に実施許諾する義務を課すこと

イ 黒条項

①成果を利用した研究開発を制限すること

②成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すこと又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すこと

(3) 共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項

ア 白条項

①成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ③〔成果に基づく製品の販売先を制限すること〕参照)

②成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ④〔成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること〕参照)

○ ①②の「合理的な期間」は、リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間、同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間等により判断される。

 

③成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと((3)イ⑤〔成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること〕参照)

イ 灰条項

①成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限すること

②成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限すること

③成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア①〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

④成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア②〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

⑤成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること((3)ア③〔成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと〕の場合を除く。)

ウ 黒条項

①成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限すること

2014年9月 6日 (土)

特許の有効性を争わない義務(不争義務)についての知財ガイドラインの規定についての疑問

知財ガイドラインでは、ライセンシーがライセンサーの特許権の有効性を争わない義務(いわゆる不争義務)について、

「ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(注14)を課す行為は、

円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、

かつ、

直接的には競争を減殺するおそれは小さい。

しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、

公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項〔拘束条件付取引〕)。

なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、

原則として不公正な取引方法に該当しない。」

と定めています。

この、最後の、

「ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。」

という部分が、「争うのを禁止するのは白なのに、争ったら解除するのは灰とは如何」ということで、分かったような分からないような感じを受けている方は多いのではないでしょうか。

この疑問は確かにその通りで、日々契約書のドラフトをしている身としては、「○○してはならない」という定め(義務)を置く場合には、では、その義務に違反したらどうなるのか、という効果の部分も考えないといけないわけです。

つまり、「特許の有効性を争ってはならない」という義務を課すときには、では争ったらどうなるのか、という効果がいくつかあり得て(主なものは解除による原状回復義務の発生と損害賠償(違約罰含む))、義務違反が解除につながるというのは、ドラフティング上あり得る選択肢(効果)の一つに過ぎない、という発想があるわけです。

なので、原因である「争ってはならない」という定めは灰なのに、争った効果(のうちの1つ)としての解除が白だ、というのは、要件と効果をセットで考える法律家の発想からすると、どうもしっくりこないわけです。

この問題を解くヒントは、旧ガイドライン(特許ノウハウライセンスガイドライン)にあります。

旧ガイドラインでは、解除しうる旨の規定については、

「ただし、特許ライセンス契約において、ライセンシーがライセンスされた特許権の有効性について争った場合、ライセンサーが当該ライセンス契約を解除し得る旨規定することは、

ライセンシーが当該特許権の有効性について争うことができるときには、

原則として不公正な取引方法に該当しない。」

とされていました。

つまり、旧ガイドラインでは、

「解除されるけれども争うことはできる」

というのは、「争うことができる」に含まれる(つまり、「争うことができない」と定めているわけではない)と整理されていたことがはっきりします。

つまり、ライセンシーの不利益の観点からみれば、

争うことができない > 争ったら解除される

ということです。

しかし、ドラフティングの観点からは、「争ってはならない」と書いてあっても、では争ったら何が起こるのか、というのが大事なわけで、具体的な効果が大事なのは競争法上の判断でも同様だと思います(ただ、競争法の判断をする場合には、当事者が自己の利益だけを考えて特許権を争うことと社会全体の利益が一致する保証はない、という点が違うという点には注意が必要ですが)。

ガイドラインの、

争うことができない > 争ったら解除される

という発想の背後には、

「争うことができない」と契約書に書いたときには、基本的には一切争わないだろう(それは競争へのインパクトが大きい)、

というのに対して、

「争ったら解除される」と契約書に書いたときには、場合によって争うことがあるかもしれない(なのでそれほど競争へのインパクトは大きくない)、

という区別があるような気がしますが、これは勘違いです。

つまり、「争うことができない」と、義務の形で(?)書いたから争うインセンティブが下がるわけではなく、要は、争った場合にどうなるのかという効果が決め手であるはずです。

前記山木編著p188では、続けて、

「なお、特許権の有効性等が争われた場合、ライセンサーが契約を解除し得る胸規定することが白条項とされていることについて、不争義務と実質的に大差がないのではないかという指摘もなされている。

しかし、不争義務は契約終了後も存続し得るように規定し、終了後もライセンシーを拘束することができるが、契約解除規定は、解除後はライセンシーを拘束することができないので、制限の及ぶ期間が異なる。

と書かれていますが、これも誤解ですね。

不争義務を契約終了後も存続するように規定できるのは契約自由の原則から当然ですが、全く同じ理由で、解除規定も解除後ライセンシーを拘束するように定めることはできるはずです。

もし、拘束期間の違いが不争義務と解除条項の取り扱いの差異の理由なら、ガイドラインに書くべきでしょう(この拘束期間云々の部分は、たんなるガイドラインに対する批判への反論にすぎないので、公取委が独禁法のルールとして述べているものではない、と考えるべきでしょう)。

ちなみに、それにつつけて山木編著p188では、

「また、そもそもライセンシー側からは有効性を争えないようにし、例えば、契約違反としての制裁を受ける不争義務と比較すれば、契約解除という危険はあっても、有効性を争おうと思えば争えるようにしておくことが競争政策上も望ましいと考えられることなどの点を考慮して、白条項として規定されているものと考えられる。」

とはっきり書いてあり、

争うことができない(不争義務) > 争おうと思えば争える(=争ったら解除される(解除条項))

である、ということがよくわかります(それが勘違いであることは前述のとおりです)。

さて、現行ガイドラインでは、

「ライセンシーが当該特許権の有効性について争うことができるときには」

という部分が削除されているので、現行ガイドラインが旧ガイドラインの説明を引き継いでいると考える必要は必ずしもなく、現行ガイドラインは現行ガイドラインとして合理的に説明すべきでしょう。

そこで現行ガイドラインを合理的に説明すると、ガイドラインが言いたいことは以下のようになるでしょう。

つまり、現行ガイドラインの、

「ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない」

という解除条項について述べた部分は、不争義務は灰条項だけれども、不争義務違反に基づく解除に伴って、例えば、

ライセンサーがライセンシーに引き渡した資料の返還を求めたり、

技術指導を中止したりというような、

解除に伴う通常の原状回復を行わせることは、それ自体としては、灰色の判断の要素としてライセンサーに不利益には斟酌しない、ということをいっているものと考えるべきでしょう。

なので、「争うことはできない」という義務の形でさえ書かなければ白だ、ということはいえず、例えば、

「争うことはできるけれど、争ったら解除されて違約金1兆円ねheart01

というような規定だと、やっぱり灰だ(解除条項だから白だ、とはいえない)というべきでしょう。

2014年9月 4日 (木)

知財ガイドライン目次(と簡単なコメント)

知財ガイドラインの目次が必要なことが多いので、簡単なコメントと共に載せておきます。

第1 はじめに

1 競争政策と知的財産制度

2 本指針の適用対象

3 本指針の構成等

第2 独占禁止法の適用に関する基本的な考え方

1 独占禁止法と知的財産法

2 市場についての考え方

3 競争減殺効果の分析方法

4 競争に及ぼす影響が大きい場合の例

(1) 競争者間の行為

(2) 有力な技術

5 競争減殺効果が軽微な場合の例・・・シェア20%以下または代替技術4以上

第3 私的独占及び不当な取引制限の観点からの考え方

1 私的独占の観点からの検討

(1) 技術を利用させないようにする行為

(2) 技術の利用範囲を制限する行為

(3) 技術の利用に条件を付す行為

2 不当な取引制限の観点からの検討

(1) パテントプール

(2) マルティプルライセンス

(3) クロスライセンス

第4 不公正な取引方法の観点からの考え方

1 基本的な考え方

2 技術を利用させないようにする行為

3 技術の利用範囲を制限する行為

(1) 権利の一部の許諾

ア 区分許諾・・・白

イ 技術の利用期間の制限・・・白

ウ 技術の利用分野の制限・・・白

(2) 製造に係る制限

ア 製造できる地域の制限・・・白

イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限・・・最低は白、最高は?

(3) 輸出に係る制限

ア 輸出の禁止は、白

イ 輸出地域の制限は、白

ウ 輸出数量の制限は、還流防止効果あれば、4(2)ア(販売地域数量制限、白。消尽後黒)

エ 事業者指定は、4(2)イ(相手方制限、灰)

オ 輸出価格制限は、国内に影響あれば4(3)(価格制限、黒)

(4) サブライセンス・・・白

4 技術の利用に関し制限を課す行為

(1) 原材料・部品に係る制限・・・白

(2) 販売に係る制限

ア 販売地域・数量は、白(消尽後は黒)

イ 販売先は、灰

ウ 商標使用義務は、白。併用禁止は?

(3) 販売価格・再販売価格の制限・・・黒

(4) 競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限・・・灰

(5) 最善実施努力義務・・・白

(6) ノウハウの秘密保持義務・・・白

(7) 不争義務・・・白(灰)

5 その他の制限を課す行為

(1) 一方的解約条件・・・違法行為の実効性確保なら黒

(2) 技術の利用と無関係なライセンス料の設定・・・灰

(3) 権利消滅後の制限・・・灰

(4) 一括ライセンス・・・効用保証なら4(1)(原材料・部品、白)、その他灰

(5) 技術への機能追加・・・灰

(6) 非係争義務・・・灰

(7) 研究開発活動の制限・・・黒、ただし共同研究のノウハウ防止は白

(8) 改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務・・・黒

(9) 改良技術の非独占的ライセンス義務・・・白

(10) 取得知識、経験の報告義務・・・白

以上

2014年8月19日 (火)

共同研究開発ガイドラインの適用範囲

「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」では、その適用範囲について、

「この『指針』が適用される『共同研究開発』は、

『複数の事業者が参加して研究開発を共同で行うこと』である。

すなわち、この『指針』は、共同研究開発の参加者に着目すれば、『複数の事業者』」が参加するものに適用される。」

と定めています。

そしてさらに具体的に、

「研究開発の共同化の方法としては、

(1)参加者間で研究開発活動を分担するもの、

(2)研究開発活動を実施する組織を参加者が共同で設立するもの、

(3)研究開発活動を事業者団体で行うもの、

(4)主として、一方の参加者が資金を提供し、他方の参加者が研究開発活動を行うもの(一方のみが研究開発活動を行い、他方はその成果を一定の対価ですべて取得する場合のように、単に技術開発を目的とする請負契約類似の関係と考えられ、事業者間の共同行為という性質を持たないものは除かれる。)

が考えられるが、この『指針』はそのすべてに適用される。」

と述べられています。

ここで問題になるのは、

「一方のみが研究開発活動を行い、

他方はその成果を一定の対価ですべて取得する場合のように、

単に技術開発を目的とする請負契約類似の関係と考えられ、

事業者間の共同行為という性質を持たないものは除かれる。」

という部分です。

というのは、世の中には「共同研究開発」という名前で呼ばれるものの中に、実質的には単なる開発委託に過ぎないものがけっこうあるからです。

(純粋に行為の効果から独禁法違反の有無を判断できるのであれば、この共同研究開発ガイドラインは無視しても実は差し支えないですし、私などは結論の当たりをつけてからガイドラインに乗っけて説明することが多いのですが、ガイドラインがある以上、実務上無視することもできないので、このガイドラインの適用範囲の問題というのは、説明の仕方やアドバイスの一貫性という、どちらかというと形式的な問題に過ぎないとはいえ、それなりに重要な問題です。)

一言でいえば、発注者(とあえて呼びます)がどの程度研究開発に関与していれば、「共同研究開発」と呼べるのか、ということです。

まず、上に引用した「一方のみが・・・除かれる。」の部分を律儀に文言解釈しても、正しい答えは出ないように思われます。

理由はいろいろありますが、まず、

「一方のみが研究開発活動を行い」

という要件は、「研究開発活動」の定義を示さないと意味をなさないでしょう。(課題の提示だけでも「研究開発活動」か、研究施設を使わせるだけでも「研究開発活動」か、など。)

さらに、

「一定の対価で」

というのも、では一定でなければどうなのか、とか、

「すべて取得する場合」

というのも、では発注者がすべて取得するのではなく一部取得にとどまる(残りは開発者)の場合や、共有の場合はどうなのか、とか、

さらには、

「事業者間の共同行為」

とは何なのか、等々です。

それに、

「(4)主として、一方の参加者が資金を提供し、他方の参加者が研究開発活動を行うもの」

は、上記カッコ内のものでない限り共同研究開発に該当するとされていることも、判断を難しくしています。((4)の本文に該当するのにカッコ内に該当しないものって、あるのでしょうか?)

この点について平林勝英編著『共同研究開発に関する独占禁止法ガイドライン』p24では、

「『主として、一方の参加者が資金を提供し、他方の参加者が研究開発活動を行うもの』とは、

例えば、研究施設を持たない非製造業者が主として資金を提供し、

製造業者が研究開発活動を行い、

成果である技術は両者が共有して、それぞれライセンスや生産、販売等を行う場合である。」

と説明されています。

しかしこれもツボを突いた例とはいいがたく、たとえば資金提供者が研究施設を持つ製造業者なら(4)の本文には該当しないのか、などの疑問がわいてきます。

ただし興味深いのは、「成果である技術は両者が共有して」という部分は、成果の帰属を問題にしているという点で興味深いものがあります。

共同開発という以上成果は共有だろう、という常識には適った指針だとはいえそうですが、では、共有か単独所有かで独禁法上の評価が変わるのか、というと今一つよくわかりません。

(私は基本的には変わらないと思います。技術の伝播という意味では共有にする方が社会のためになるのでしょうが、共同研究開発の効率性は単独ではできないことを可能にする点にあり、成果の帰属は関係ないと思われるからです。共有にしても他者(特に発注者の競争者)へのライセンスを禁止するなど、技術の伝播を妨げる定めを置くことはかのうであり、それを一律に悪いことだともいえないので、やはり「共同研究開発」に該当するか否かという入り口論で処理するのは妥当ではありません。)

前記平林ではさらに続けて、(4)のカッコ書きの部分について、

「例えば、A社は、研究開発の資金のすべてを拠出し、

B社に研究開発活動を請け負わせ

〔注:ところで、「請負」というのは民法上は結果を保証するものなので、「研究開発活動を請け負わせ」というのは表現としてちょっとどうかと思います。研究開発で結果の保証はできないでしょう。〕

成果である技術はA社がすべて取得するといった場合である。

このような場合は、B社はA社の単なる手足として利用されているに過ぎず、

〔注:請負人を「単なる手足」というのは言い過ぎでしょうね。独立した地位にある請負人はいくらでもいます。そもそも、「請け負わせ」とか、「単なる手足」とか、それ自体にニュアンスのこもった表現を用いること自体、厳格な法律論としてはいかがなものかと思います。〕

A社とB社の共同行為という性質を持たないため、本指針が対象とする『複数の事業者が参加して研究開発を共同で行う』ものには該当しない。」

と説明されています。(この説明の問題点は上に注記で書き込んだとおりです。)

ここまでは、厳密性にはやや難があるとしてもまあ許せるとして、さらに続けて、

「ただし、上記のようなケースでも

B社が研究設備を提供し、

B社自身も何らかのノウハウを蓄積する場合など、

請負契約の形態をとりつつも、実質的には「複数の事業者が共同して研究開発を共同で行う」ものについては、やはり、本指針が適用されることとなる。」

とされています。

しかし、B社が何らかのノウハウを蓄積すれば共同開発だというのは、「共同」という言葉にもそぐわないし、独禁法の観点(競争制限効果の判断の観点)からみてもおかしいでしょう。

「上記のようなケース」では、A社が資金を提供し、B社が研究開発を担当する、というものですが、B社が研究開発を担当する以上、何らかのノウハウ(たとえば失敗事例の蓄積など)は、ほぼ常にB社に蓄積されるでしょう。

研究設備の提供も、ノウハウの蓄積とは直接関係が無いように思います。

ともあれ、立案担当者の解説で何らかのノウハウが請負人側に蓄積されれば共同研究開発に該当するとされている以上、事実上、共同研究開発に該当しない場合はほとんど考えられない、といえそうで、それはそれで喜ばしいことです(余計なことを考えなくてすむという意味で)。

同ガイドラインの内容は基本的にまっとうなものであり、その適用範囲が広がっても具体的事案の処理として困ることもあまりないでしょう。

ただし、ガイドラインの解釈を離れて共同研究開発の独禁法上の評価という観点からは、やはり1社ではできないことが2社以上で行えばできる、という効率性の観点は非常に重要で、その場合の効率性はお互いに技術やノウハウを出し合う場合に顕著であるもののそれに限られず、お金を出してコストを負担することでもよい、ということは指摘しておきたいと思います。

ガイドラインでも、「共同化の必要性」として、

「研究にかかるリスク又はコストが膨大であり単独で負担することが困難な場合、自己の技術的蓄積、技術開発能力等からみて他の事業者と共同で研究開発を行う必要性が大きい場合等には、研究開発の共同化は研究開発の目的を達成するために必要なものと認められ、独占禁止法上問題となる可能性は低い。」

とされています。

2014年8月 2日 (土)

FRAND宣言違反と独禁法違反についてのある試論

池田毅「標準必須特許のロイヤルティ料率の設定と独占禁止法の役割」(公正取引760号31頁)に、FRAND宣言違反の独禁法違反の判断基準に関する試論として、以下のような考え方が示されています。(p39)

「・・・Innovatio事件のトップダウン・アプローチ〔注:侵害製品の利益率と被侵害特許の重要性から演繹的にロイヤリティ額を算定する方法〕での計算方法を参照すれば、一例として、以下のような場合には単独の取引拒絶に該当する可能性があると考えられる。

たとえば、問題となる標準規格における標準必須特許全体のうち20%の重要性を占める標準必須特許を保有する特許権者Xが3%のロイヤルティを請求したと仮定する。

このとき、当該標準技術の実施に必要な他の全ての標準必須特許権者がXと同等のロイヤルティを請求する場合には、当該標準技術を実施するための累積ロイヤルティは15%(3%×5)になるが、仮に標準を採用した製品の利益率が10%しかないとすれば、ライセンシーは当該製品を製造販売して利益をえることができなくなる(注15)。

このような場合にはXによるライセンスの提供は、FRAND宣言に沿う合理的なものではなく、実質的には取引を拒絶していると評価することができると思われる。」

しかし、私はこの考え方はおかしいと思います。

まず、わざわざハードルの高い単独の取引拒絶のルートに乗せる必要はないように思います(違法な目的達成のための取引拒絶、という抜け道ではなく、まっとうな取引拒絶のことです)。

池田先生自身同論文で、FRAND宣言違反の高額ライセンス料の請求に対して適用可能な我が国の独禁法の規定として私的独占、単独の取引拒絶、差別対価、優越的地位の濫用、取引妨害を挙げていますが、高額ライセンスを単独の取引拒絶で処理するのは「拒絶」という客観面のハードルが高いので、なかなか難しいと思います。

とくに同論文のように、「必須特許権者みんなが同じ料率で請求したら利益がでなくなる料率」を超えると「拒絶」というのは、「拒絶」の文言解釈としても、経済的な実態としても、ちょっと無理だと思います。

文言解釈についてはまだ「言った者勝ち」的なところがあるので深入りしませんが、経済実態に合わないというのはいかんともしがたいです。

つまり、簡単に言うと、利益が10%しか出ない商品について、必須特許権者みんなが合計で10%に相当するロイヤリティを請求したら、商品の値段が上がるだけのことです。

そうすると、上がった値段では利益は出てしまうので(といいますか、メーカーは費用を所与として利益最大化価格を付けますので)、それにもかかわらず即独禁法違反に問うというのは、私的独占でもなかなか難しいと思います。

同論文でもその点には配慮はしていて、注15で、

「もちろん、標準必須特許のライセンス料が、対象製品の販売によって利益が得られないような高い水準となった場合には、対象製品の販売価格自体の引上げが試みられることになると思われる。もっとも、需要者側からの価格引上げ圧力等のため、価格の引上げが容易でないことも多いと思われるから、標準必須特許のライセンスが行われる以前の時点における利益率を一つの基準として用いることには一定の合理性が認められると考える。」

と述べられています。

しかし、これはつまり、価格が1円でも上がると需要者は一切買わなくなる、つまり需要が価格に対して完全に弾力的である((dQ/dP)・(P/Q)=-∞)、あるいは需要曲線が水平、ということを想定しているに等しく、実際にはむしろ極めて例外的なことです。

なので、こういうめったにない事態を想定しないと説明がつかないような基準で取引拒絶というのは、さすがに無理だと思います。

例えばプライススクイーズのような、被害者の残余需要曲線を水平にした張本人が違反者であるような場合にはまだしも、仮にも(10%のライセンス料を払った後で)市場での需要と供給の関係に従って決まる価格で利益が出るという事実は重く受け止めるべきと思います。

むしろ私的独占の方がまだ芽があると思いますが、需要が完全に弾力的である事態をベンチマークにしないといけないという点では同じなので、(私的独占は行為類型はゆるやかで、取引拒絶のような「拒絶」といったかっちりしたものではないとはいえ)やっぱり厳しい気がします。

もう1つの難点は、同論文の考え方では、例えば利益率90%の商品については、最大90%までのロイヤルティを請求しても「拒絶」に該当しないのに対して、利益率1%の商品については1%しかロイヤルティを請求できないことです。

業界により、また特許の重要性によりロイヤルティ率はさまざまですが、おおざっぱに2~5%くらいが相場だとして、利益が出ないからという理由だけでそれよりも低い1%というロイヤルティでも拒絶になる、というのは、やはり理屈として難があります。

同論文の考え方では、ロイヤルティを支払わなくても利益率が1%しか出ないような効率性の悪い商品を格安のロイヤルティで支援することを特許権者は義務付けられることになります。

さらに、ハイテク分野の商品は知的財産権の塊なので固定費(研究開発費など)が大きく限界費用が小さい傾向があります。そうすると、90%の利益率というのがむしろあり得そうな想定であり、そうすると、同論文の考え方では違法になる基準が厳しすぎる(めったに違法にならない)と思われます。

(ただ、こちらの点は、利益率90%の内でFRAND対象特許が貢献した割合をロイヤルティ率の上限にする、ということで結果的に妥当な額に落ち着かせることができるのかもしれませんし、そういう、結論をにらみながら鉛筆なめなめ判決を書く裁判官には使い勝手が良い理屈なのかもしれません。私は反対ですが。)

また理論的には、特許が存在しない場合の利益率をロイヤルティ率の上限とする同論文の考え方だと、特許の本来的な価値がロイヤルティにまったく反映されない、という問題もあります。

なおこれらの誤謬を端的に示すものとして、J. Gregory Sidak, "The Meaning of Frand, PART I: Royalties"のp938に引用されている裁判例(Ericson Inc. v. D-Link Sys., Inc., (E.D. Tex. June 12, 2013)の陪審への説示では、

「An infringer’s net profit margin is not the ceiling by which a reasonable royalty is capped. The infringer’s selling price can be raised, if necessary, to accommodate a higher royalty rate. Requiring the infringer to do so, may be the only way to adequately compensate the patentee for the use of its technology.」

和訳すると、

侵害者の純利益幅は合理的なロイヤルティの上限ではない。侵害者の販売価格は、もし必要であれば、より高額のロイヤルティ額に対応するために引き上げることが可能である。侵害者にそうすることを要求することが、当該技術の使用について特許権者を十分に補償する唯一の方法かもしれない。

とされています。

侵害者のマージンはロイヤルティの上限にすらすべきでない(もっと高いロイヤルティが適切なロイヤルティかもしれない)のに、侵害者のマージンを超えたら取引拒絶だというのは、相当無理があります。

ましてや、池田説では侵害者のマージンを超えたら取引拒絶だというのですから、FRANDロイヤルティはそれよりも低いところを想定しているはずで、ますます合理的なロイヤルティ額から外れていいくことになりそうです。

(そうやって考えると、FRANDを独禁法の文脈で論じるために取引拒絶の土俵に乗せること自体が、話をややこしくしている原因なのかもしれません。やっぱり、私的独占で対応する方が、柔軟だし、実態に合う場合が多いのではないでしょうか。)

残る有望株は公取委の伝家の宝刀、優越的地位の濫用ですが、実務的には、公取委がFRAND宣言違反に優越的地位の濫用を適用することは、絶対にないでしょう。

なぜなら、公取委は優越的地位の濫用は中小企業保護のためにしか使う気がないし、FRAND宣言違反に優越的地位の濫用を適用したら、世界の笑いものになること間違いなしだからです。

ロイヤルティ額の高い低いの部分だけを取り出して取引拒絶を論じるから同論文のような無理な解釈をしないといけなくなるので、私は端的に、標準特許の競争というのは標準に採用されるための競争と採用されたあとの競争の2段階があるので、第一段階でFRANDのコミットをした以上、第二段階の競争はそれを前提にすべきと競争法上も評価する、という理屈でいくのが最もしっくりくるように思います。

そもそもFRANDでコミットするは具体的に何なのか、をきちんと考える必要があります。同論文の考え方は、FRANDでコミットするのはあらゆるライセンシーにゼロ以上の利益が出るロイヤルティ額を保証することである、ということにならざるを得ないと思います。

そうではなくて、FRANDでコミットするのは、基本的には、その特許権の次善の技術に対する競争上の優位性に見合った利益以上はもらわない、ということでしょう。(上述の2段階の競争を考える考え方も、同じ発想から出てきます。)

(「では競争上の優位に見合った対価というのは何か?」と問われると答えは一義的に出てこないのですが、だからこそみんないろいろ苦労しているわけです。)

ともあれ、いろいろな意見が出て議論が活発化するのは大変喜ばしいことです。私も、信念を持って、いろいろ考えたことを述べてゆきたいと思います。

2014年6月27日 (金)

共同研究開発ガイドラインの販売先制限に関する規定の疑問

共同研究開発ガイドラインでは、

成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア①の場合を除く。)」

というのが、「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」であるとされています(第2-2(3)③)。

(ちなみに、上記で除かれている「(3)ア①の場合」というのは、ノウハウの秘密性保持のために必要な場合です。)

「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」というのは、いわゆる灰色条項といわれており、同ガイドラインでは、

「『不公正な取引方法に該当するおそれがある事項』は、各事項について、個々に公正な競争を阻害するおそれがあるか否かが検討されるものであるが、この場合、当該事項が公正な競争を阻害するおそれがあるか否かは、

参加者の市場における地位、

参加者間の関係、

市場の状況、

制限が課される期間の長短等

が総合的に勘案されることとなる。

この場合、参加者の市場における地位が有力であるほど、市場における競争が少ないほど、また、制限が課される期間が長いほど、公正な競争が阻害されるおそれが強い。なお、上記で述べた独占禁止法第二条第九項第五号又は一般指定第五項の問題〔優越的地位の濫用〕については、ここでも同様に一定の場合には問題となる。」

と説明されています。

さらに同ガイドラインでは、

「なお、上記③〔上記で引用した販売先制限のこと〕・・・に関し、例えば、取引関係にある事業者間で行う製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発については、

市場における有力な事業者によってこのような制限が課されることにより、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、

公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成三年七月一一日公表)第一部の第四(取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限)参照)。」

ということで、流通取引慣行ガイドラインが引用されています。

しかし私は、実際には、成果に基づく製品の販売先制限が独禁法違反になるのはかなり稀な場合であると思います。

この点、公取委の担当者による解説である、平林英勝編著『共同研究開発に関する独占禁止法ガイドライン』p100では、

「例えば、取引関係にある完成品メーカーと部品メーカーとの部品の共同研究開発において、市場における有力な完成品メーカーが、部品メーカーに対して自己の競争者である完成品メーカーに当該部品(成果に基づく製品)を販売しないようにすることが挙げられる。この際、完成品メーカーの競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合(市場閉鎖効果)には、公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる。」

と説明されています。

(ちなみにこの本の定価は2,800円でしたが、今アマゾンで古本をみたら、12,800円もしてびっくりしました。。。)

しかし、私はこの解説にも疑問を感じます。(ガイドラインを言い換えているだけですから当然ですが。)

理由の一つめは、

①流通取引慣行ガイドラインで問題になっているのは排他条件付取引であって、被拘束者が拘束者の競争者と取引することをおよそ制限している場合である

のに対して、

②共同研究開発ガイドラインで問題になっているのは、被拘束者(上記の例では部品メーカー)が、共同研究開発の成果に基づく製品を拘束者(完成品メーカー)の競争者に販売することを制限しているに過ぎない、

つまり、被拘束者は成果とは関係ない製品を拘束者の競争者に販売することは何ら禁止されていない、

ということです。

つまり、流通取引慣行ガイドラインの場面と共同研究開発ガイドラインの場面では、制限の範囲が全然違っており、共同研究開発ガイドラインの場合は制限の範囲が極めて狭いのです。

適用範囲が全然違うのに、何の説明もなく流通取引慣行ガイドラインの排他条件付取引の説明を共同研究開発ガイドラインに持ってくるのは、極めて不適切です。

流通慣行取引ガイドラインの排他条件付取引の説明とパラレルに考えるべきは、共同研究開発の成果に基づく商品の販売先を制限した場合ではなく、成果に基づかない商品の販売先をも制限した場合でしょう。

それなら、もうちょっと灰色っぽい(少なくとも流通慣行ガイドラインとは同じ程度に灰色っぽい)かもしれません。

また、もし共同研究開発の成果物へのアクセスを、共同研究開発とは関係のない商品へのアクセスと同じように、競争者に認めないといけないとしたら、共同研究開発のインセンティブが削がれること甚だしいことは明らかでしょう。

ガイドラインの定めが疑問である2つめの理由は、同ガイドラインでは成果の第三者へのライセンス制限が白条項とされていることとのバランスです。

つまり同ガイドラインでは、

「成果の第三者への実施許諾を制限すること」

は、

「原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項」

であるとされています(第2-2(2)②)。

なぜ成果の実施許諾の制限は白条項なのに、成果に基づく製品の販売制限は灰条項なのでしょう?

私にはそのような差を設ける理由が思い浮かびません。

ちなみに前述の平林解説p90では、

「共同研究開発の成果については、各参加者はそれぞれ貢献しているので、その実施について各参加者の意思を尊重することとしても、一概のこれを不合理ということはできないと思われる。

したがって、例えば、成果について権利を有する参加者が第三者への実施許諾をする場合に、共同研究の参加者全員の合意を要するとする制限が、共同研究を行うために必要と考えられるときには、原則として公正競争阻害がないものと考えられる。」

と解説されています。

「共同研究を行うために必要と考えられるときには」というガイドラインにすらない限定が入っているのは無視するほかないでしょう。

さらに同書では続けて、

「共同研究開発の成果である特許が参加者の共有に属することとされている場合には、わが国特許法上は、第三者への実施許諾には共有者全員の合意が必要となる(特許法73条3項)。

この特許法上の原則に従えば、参加者全員の共有に属している特許を実施許諾する場合に全員の合意が必要であるとしても原則として問題となることはない・・・。」

と解説しています。

この解説は、「特許法の明文で許されていることを独禁法違反とするのは据わりが悪い。」という素朴な感情で書かれているのでしょうが、私は、この特許法の条文をガイドラインのこの部分の説明に使うのは論理的に誤りだと思います。

まず、共同研究開発ガイドラインでは成果の帰属を決めることは白条項とされているので(第2-2(2)ア)、どちらかの単独帰属にしてもいいわけですが(ただし優越的地位濫用の問題は残ります)、上記の説明では、

①共有の場合には第三者への実施許諾の制限は許されるが、

②単独所有の場合には第三者への実施許諾の制限は許されない、

かのように読め、単独所有か共有かで結論が異なることになり、ガイドラインの明文に反します(よってガイドラインの解説としては不適切)。

さらに、単独所有か共有かで、競争上の評価も違わないはずです(だからこそ帰属の決定が白条項なのでしょう)。

つまり、一律に第三者への許諾制限は白だといっているガイドラインの説明として、共有の場合の特許法の条文を持ってきても片手落ち(というか、ほとんど意味がない)と言わざるを得ないのです。

話を元に戻して結論をまとめると、成果に基づく製品の販売先を制限することは実際に違法になるのは極めて限られた場合に限られる、ということです。

その、極めて限られた場合というのは、当該成果を用いた製品が競争上必須なものとなるような場合、ということなのでしょう。

しかし、そうだとすると、ガイドライン上は白条項である成果の実施許諾の制限も、そのような極めて限られた場合には違法と考えざるを得ないように思われます。

というのは、そのような必須な特許なら、他社も使いたいはずですが、にもかかわらず、

①他社は使用許諾を受けて自分で作ることはできないのに(使用許諾の制限が白条項のため)、

②成果に基づく製品は購入することができる(販売先制限は灰条項で、必須特許の場合には違法)

ということになり、きわめてバランスが悪いことが明らかです。(他社からは購入できるのに自分では作れない、という状態を独禁法が要求するのはナンセンスです。)

一昨日くらいの日経朝刊に流通取引慣行ガイドラインが改正される見通しとの記事が出ていましたが、それを引用している共同研究開発ガイドラインもついでに改正してはどうでしょうか。

2014年3月 6日 (木)

ライセンシーの販売地域の制限

知財ガイドラインのライセンシーによる販売地域制限をまとめておきます。

同ガイドライン第4-4(2)ア(「販売に係る制限」)の第一文では、

「ライセンス技術を用いた製品を販売できる地域・・・を制限する行為については、基本的に前記3の柱書及び同(2)の考え方が当てはまる。」

とされています。

そして「前記3の柱書」とうのは、

「ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対して、全面的な利用ではなく、当該技術を利用する範囲を限定してライセンスをする行為は、・・・外形上、権利の行使とみられるが、実質的に権利の行使と評価できない場合がある。

したがって、これらの行為については、・・・権利の行使と認められるか否かについて検討し、権利の行使と認められない場合には、不公正な取引方法の観点から問題となる。」

といっていて、

同(2)」(「製造に係る制限」)では、

「ア 製造できる地域の制限

ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造を行うことができる地域を限定する行為は、・・・原則として不公正な取引方法に該当しない。」

とされています。

(ちなみに、販売地域制限とは関係ありませんが、「同(2)」続けて、

「イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限

ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。

他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

とされています。)

したがって、要するに、上記第4-4(2)アの第一文は、

「ライセンス技術を用いた製品を販売できる地域・・・を制限する行為については、

基本的に、≪権利の行使と認められるか否かについて検討し、権利の行使と認められない場合には、不公正な取引方法の観点から問題となる≫が、

原則として不公正な取引方法に該当しない。」、

ということであり、もっと短く言うと、

「ライセンス技術を用いた製品を販売できる地域を制限する行為については、原則として不公正な取引方法に該当しない。」

といっていることになります。

しかしさらに続けて、同ガイドライン第4-4(2)ア(「販売に係る制限」)の第二文では、

「しかし、

①当該権利が国内において消尽していると認められる場合

又は

②ノウハウのライセンスの場合であって、

公正競争阻害性を有するときは、

不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

といっているので、結局一言でいえば、

「ライセンス技術を用いた製品を販売できる地域を制限する行為は原則として白条項であるが、例外的に、

①当該権利が国内において消尽していると認められる場合

又は

②ノウハウのライセンスの場合

には、灰条項である(ケースバイケースで判断する)。」

という意味になります。

もっと扱いやすく書き下すと、

「特許ライセンスで製品販売地域を制限する行為は、原則として白条項であるが、例外的に、当該特許が国内において消尽している場合には灰条項であり、

ノウハウライセンスで製品販売地域を制限する行為は、常に灰条項である。」

ということになります。

どうしてノウハウライセンスでの販売地域制限がいきなり灰条項になるのかは理解に苦しむところですが(ノウハウは消尽した特許と扱いが同じ?)、またの機会に考えてみたいと思います。

ちなみに、知財ガイドラインの前身である特許ノウハウガイドライン(第4-4(4)イ)の時代でも、

「ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、地域を区分してライセンスをすることは、ライセンシーのノウハウの使用地域を限定する内容のものであれば、原則として不公正な取引方法に該当しない。

ただし、ライセンサーがライセンシーのノウハウ製品の販売地域を制限することについては、基本的に流通・取引慣行ガイドライン第2部-第二-3「流通業者の販売地域に関する制限」に示された考え方により、その市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。」

ということで、販売地域の制限は灰条項になっていた(使用地域の制限は白条項)のに対し、特許ライセンスでの販売地域制限(第4-4(4)ア)は、

「特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許権が有効である我が国において地域を区分してライセンスをすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。

ただし、ライセンサーの特許が国内において消尽していると認められる場合において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品の販売地域を制限させることについては、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えられ、基本的に流通・取引慣行ガイドライン第2部-第二-3「流通業者の販売地域に関する制限」に示された考え方により、その市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。」

ということで、原則白条項、例外的に、消尽している場合は灰条項、というふうに整理されていたので、知財ガイドラインもこれを引き継いだものといえます。

2014年2月28日 (金)

特許の国際消尽に関する中山信弘『特許法(第2版)』の気になる記述

中山先生の『特許法(第2版)』のp406に、

「しかし少なくとも言えることは、並行輸入を禁止できるということは、とりもなおさず当該商品に関する特許権を用いた国際的市場分割を認めるということであり、それは国際カルテルによる市場分割に類似した経済効果があり、権利者側に対して内外価格差による超過利潤(市場を分割することによって得られる利潤)の獲得を是認するということを意味している。」

という記述があります。

中山先生は、「少なくとも言えることは」とおっしゃっていますが、しかし、独禁法の立場からいうと、そのようなことは少しも言えないと思います。

並行輸入の禁止は(特許によって禁止する場合に限りません)、同一メーカーによる地理的分割の話であって、純粋なブランド内競争の制限の話です。

これに対して、国際カルテルによる市場分割は、複数のメーカーが地理的に市場を分割する(住み分ける)ということなので、ブランド間競争の制限の話です。

この2つは競争法的にも経済的にもまったく別のものであり、およそ「類似した経済効果」とはいえません。

別の言い方をすれば、国際カルテルの場合に問題になるのは、「内外価格差による超過利潤」ではなくて、競争者間で競争が制限されることによる超過利潤です。国内でも海外でも(競争が制限されるために)価格が高くて、結果的に内外価格差がなくっても、国際カルテルは問題です。

もう一つ気になるのは、その直前の

「並行輸入を認めた場合と認めない場合の効果、特に経済効果については、必ずしも明らかにされていない。」

という記述で、そこでは、(今やアベノミクスのブレインとして超有名人となられた)浜田宏一イェール大学教授の

「特許権による並行輸入差止めのぜひについて-経済学的考察」ジュリスト1094号(1996)73頁

が引用されています。

ただ、同論文で浜田先生は、並行輸入の効果を短期的効果(静的な資源の効率的分配)と長期的効果(動的な発明のインセンティブ)に分けて、そのうち短期的効果については、

「短期的な世界各国民の経済厚生は、多くの場合に、並行輸入によって上昇する蓋然性が強いことがわかる。例外的に、並行輸入を許すことによりかえって製造業者の世界全体に対する供給量が減少してしまう場合には、反対のことが起こるが、その様なケースはほとんど現実的でない。」

とおっしゃっています。

経済学では、短期的効果のほうは比較的単純なモデルで並行輸入が厚生を増すことが示せますが、長期的効果については並行輸入が絡まない文脈ですら議論百出(同論文でも、薬品科学等以外では特許保護の長期的効果ははっきりしないというのが一般的とする先行研究を引用しています。)であり、まして並行輸入の長期的効果などは、まず永久に経済学では答えはでないのではないか、という気がします。

なので、経済学の素人である私の目から見ると、浜田先生の論文は、かなりはっきりと、並行輸入は厚生を増大させるといっているようにみえます。

感覚的にも、並行輸入が許される場合と許されない場合で、企業の研究開発のインセンティブがどれほど違うのかというと、それほど違わないのではないか、という気がします。

中山先生の本の国際消尽の議論をながめると、この国際消尽の論点については、知財の分野で取り上げられることが多いものの、競争法がもっと貢献できるのではないか、という気がします。

もっともっと、競争法の世界で国際消尽の議論が盛り上がってほしいと思います(ただ、国際消尽は否定する方向で世界的にはほぼ決着がついているので、いまさら議論は盛り上がらないのかもしれません)。

最後に、ついでに浜田先生の論文のポイントをメモしておくと、以下の通りです。

①差別価格があるために生産量が増える(=厚生が増す)ためには、差別価格が設定されない場合には一方の市場では製品が販売されないとか、需要曲線が甚だしく凸だとかいった、かなり強い仮定が必要である。

②統一価格で生産量が減りやすいケースとして、規模の経済性が強い場合(医薬品など)がある、

③並行輸入品からの競争のないときは、当該産業全体が明示的ないし暗黙にカルテル的な価格を結んでいる可能背がある。

④並行輸入が持つ競争財の価格へのスピル・オーバー効果(ノルディカが安くなればロシニョールも安くなる)がもたらす便益は、一財の市場の分析よりもはるかに大きい。

2013年8月 1日 (木)

特許権消滅後のライセンス料の「分割払い」、「延べ払い」の意味

知財ガイドラインでは、

「ライセンサーがライセンシーに対して、技術に係る権利が消滅した後においても、当該技術を利用することを制限する行為、又はライセンス料の支払義務を課す行為は、一般に技術の自由な利用を阻害するものであり、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

ただし、ライセンス料の支払義務については、ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内であれば、ライセンシーの事業活動を不当に拘束するものではないと考えられる。」

という規定があります。

この但し書きの、特許権消滅後のライセンス料支払いが認められる、「ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内」という意味が、ちょっと分かりにくいみたいですね。

端的にいえば、この但し書きは、権利消滅後の当該技術の利用から対価を取ってはいけない、ということです。

裏から言えば、ライセンサーが対価を徴収できるのは、権利存続中の利用からだけである、ということです。

「分割払い」とか、「延べ払い」というのは、あくまで、ライセンス料が権利存続中の技術の利用の対価であることが前提になっているのであって、その大事な前提が但し書きからは抜け落ちているので、ちょっと分かりにくいのですね。

ですので、この但し書きは、

「ただし、権利存続中の技術の利用の対価として発生したライセンス料の支払時期が、分割払いや延べ払いのため権利消滅後にずれ込むことは問題ない。」

というふうにでもした方がよいと思います。

分かりやすいのは、製品1個当たり売上の3%をライセンス料とする、というようなランニングロイヤリティの場合です。

この場合、権利消滅後に製造した分からも3%のライセンス料を徴収すると、違反になります。

この発想の背景にあるのは、ライセンス料がライセンシーにとって変動費である場合には、ライセンシーの製造数量にダイレクトに響いてくる(直接のコストアップの要因となる)ということがあります。

逆に、契約時に定額(ランプサム)でライセンス料を定めている場合は、たとえ分割払いのために支払時期が権利消滅後になっても、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収しているとは言い難く、まず、問題ないと考えてよいでしょう。

あまり例は無いかもしれませんが、もし権利消滅後の製造数も見込んで固定額で一括ライセンス料を取り決めた場合はどうでしょうか。

たとえば1個100円の商品を1年で1万個製造すると見込まれる場合に、特許権が3年後に消滅するとして、3%の料率で、5年分のランセンス料を、

100円/個 × 10,000個 × 5年 × 3% = 150,000円

と定めて、これを契約時に一括で支払わせる、というものです。

私はこれも、独禁法には反しないのではないかと思います。

(もし独禁法違反になるリスクがあると考えるなら、料率を5%、期間を3年とかにして交渉、ないし契約書に書けばいいだけのことですが、それは置いておきます。)

というのは、見込みで決めた額というのはあくまでライセンシーにとっては固定費であって、いったん決めてしまった以上は何個作ろうが定額を払わないといけないので、ライセンシーの生産量(および変動費)にダイレクトに響かないからです。

また、製造量に比例しなくても、1年ごとに、契約を更新するごとに、1年分のライセンス料を定額で支払う、という取り決めの場合も、権利消滅後の期間についてライセンス料を徴収すると、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収することになり、違反になるでしょうね。

また、ライセンシーの技術の「利用」というのは、自分が物を製造するなどといった積極的な利用だけを指すので、他者に使わせない(例えば、独占的ライセンシーでライセンサーも行使できない)というような、いわば消極的利用は含まないと考えるべきだと思います。

なぜなら、そのような消極的利用に関してライセンシーからランセンス料を徴収しても、ライセンシーの変動費は変わらず、生産数量にもダイレクトに影響しないからです。

まとめると、問題の本質は、ライセンシーによる権利消滅後の技術の利用を、ライセンス料の支払というコストを負担させることによって制約してはならない、ということなので、「分割」とか「延べ払い」という文字に目を奪われてはいけません。

そういう意味で、知財ガイドラインの記述は(読み手に頭を使わせるという点で)、ちょっと不親切というか、誤解を招くものだと思います。