知財と独禁法

2024年4月26日 (金)

共同研究開発終了後の同一テーマの研究禁止について

共同研究開発ガイドライン(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」)の

「第2 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について」

の、

「2 不公正な取引方法に関する判断」

の、

「⑴ 共同研究開発の実施に関する事項」

の、

「ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項」(白条項)

の⑨では、

「⑨ 共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため

又は

参加者を共同研究開発に専念させるため

に必要と認められる場合に、

共同研究開発終了後の合理的期間に限って、

共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること(⑴ウ〔黒〕①及び②参照)」

とされています。

そして、第2の2⑴の、

「ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」(黒条項)

の①では、

「① 共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア⑧及びの場合を除く。)」

が黒条項とされており、

(なお、「⑴ア」(白条項)の⑧というのは、

「⑧ 共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため

又は

参加者を共同研究開発に専念させるため

に必要と認められる場合に、

共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を

共同研究開発実施期間中について制限すること(⑴ウ〔黒〕①参照)」

というものであり、「⑴ウ」(黒条項)の①というのは、

「① 共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア〔白〕⑧及び⑨の場合を除く。)」

というものです。)

第2の2⑴ウ〔黒〕の②では、

「② 共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を

共同研究開発終了後について制限すること

((1)ア〔白〕⑨〔終了後合理的期間第三者との研究禁止〕の場合を除く。)」

というのが黒条項とされています。

また、ガイドラインでは第2の2⑴ウ〔黒〕の②に続けて

 「○ 上記①〔テーマ以外の禁止〕及び②〔終了後の禁止〕のような事項は、

参加者の研究開発活動を不当に拘束するものであって、

公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。」

とされています。

加えて、ア〔白〕⑦では、

「⑦ 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること」

が白条項とされています。

黒と白の例外がぐるぐると循環して少々わかりにくいですが、まとめると、

原則:

A. 期間中、

同一テーマの制限は、例外なく白(ア⑦)、

テーマ
以外の
制限は、原則黒(ウ①)、

B. 終了後、

同一テーマの制限は、原則黒(ウ②)、

テーマ以外の制限は、原則黒(ウ①)

例外:

(紛争防止または専念に必要な前提で)

C. 期間中、

極密接テーマ〔※同一テーマは例外なく白。ア⑦〕で、⑵第三者との共同研究開発の制限は、白(ア⑧)、

D. 終了後、

同一テーマ制限は、⑴同一または極密接テーマで、⑵第三者との共同研究開発の制限は、白(ア⑨)、

ということになります。

ここで、共同研究開発期間終了後同一または極密接テーマの部分だけ抜き出すと、「紛争防止または専念に必要」という前提なら、

原則黒(ウ②、①)、

例外として、第三者との共同研究開発の制限は、白(ア⑨)

となります。

つまり、期間終了後同一または極密接のテーマの、相手方自身による研究開発を制限することは、原則どおり黒(同一につき、ウ②。極密接につき、ウ①かつア⑨の不適用)となります。

しかし、私は、期間終了後の同一または極密接テーマの相手方自身による研究開発を制限することを「不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」というのは、少々厳しすぎると思います。

「不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」といわれると、ほとんどの企業は自動的にあきらめてしまうと思いますが、それほど悪いものではないと思います。

それに、そもそも同じ期間後の制限なのに、第三者との同一・極密接共同研究開発なら白になる(ア⑨)のに、相手方単独開発だと黒(同一につき、ウ②。極密接につき、ウ①かつア⑨の不適用)になるのか、合理的な説明は難しいように思われます。

この点について、平林英勝編著『共同研究開発に関する独占禁止法ガイドライン』(1993(平成5)年)p82では、

「(2) 同一テーマの終了後の制限

共同研究開発のテーマと同ーのテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限することは,基本的には,参加者の事業活動を不当に拘束し公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定13項(拘束条件付取引))。

ただし,例外的に共同研究開発終了後の同一テーマの第三者との研究開発の制限については,

共同研究開発の成果に関する紛争防止(工業所有権等の帰属の問題)または共同研究開発に専念させること(共同研究開発終了後直ちに他と研究開発を行って成果を得るといった背信行為の問題)を目的として,

合理的期間に限りそのような制限を設けたとしても,独占禁止法上許容される場合があると考えられる。

なお,この場合の「合理的期間」は,あくまで背信行為の防止または権利の帰属の確定のために必要不可欠な範囲に限られる。

「第三者との」研究開発の制限については,合理的な期間許容される場合があり得るが,

「独自の」研究開発の制限については,紛争防止や背信行為の防止の問題は,成果等に関する両者間の取決めによって解決できると考えられ,

このような制限を終了後についてすることは共同研究開発の実施のために必要とされる合理的な範囲を超えた制限であり,不公正な取
引方法に該当するおそれが強いと考えられる。」

と説明されています。

しかし私には、独自研究の場合に、「紛争防止や背信行為の防止の問題」が、どうやったら「成果等に関する両者間の取決めによって解決できる」のか、理解できません。

まず「紛争防止」(「共同研究開発の成果に関する紛争防止(工業所有権等の帰属の問題) 」については、たとえばA社とB社の共同研究開発で、共同研究開発の成果を、A社に帰属させるのか、B社に帰属させるのか、両方の共有にするのか、という取決めをするのでしょう。

そこで、A社に帰属させるという取決めをして、成果が出たので共同研究が終了し、その後、B社が同じテーマの独自研究をしたとしましょう。

この場合に、A社が当該取決めによって「紛争防止」できるとすれば、たとえば、「B社の研究はA社に帰属する成果を用いているので契約違反だ」と主張してB社の独自研究を差止める、ということが考えられるかもしれません。

あるいは、そういう差止めを受けることをおそれてはじめからB社が当該成果を用いた独自研究をするのを控える、ということで「紛争防止」になる、ということがあるかもしれません。

でもそれは、B社が共同研究の成果を用いていることが明らかならそうですが、B社が成果を用いていることを争ったら(独自のアイディアで研究しているのだと言われたら)、やはり紛争防止にはならないのではないでしょうか。

しかもこれだと、独自研究と第三者との共同研究の場合で差を付ける理由が、やっぱりわかりません。

もう1つの「背信行為の問題」のほうについては、上記引用部分では、

「共同研究開発に専念させること(共同研究開発終了後直ちに他と研究開発を行って成果を得るといった背信行為の問題)」

という性格付けがなされていますが、そもそも「共同研究開発終了後直ちに他と研究開発を行って成果を得る」ことが、「背信行為」だと断定するのは疑問です。

こういうのはお互い様ですから、お互いに「共同研究開発終了後直ちに他と研究開発を行って成果を得ることはやめておこう」と思うのであればそのような合意をすればいいのであって、その結果お互いに他と研究開発をしないのは、合意をしたからしない(やってはいけない)のであって、「背信行為」だからしない(やってはいけない)のではないと思います。

それに、やっぱり、

「共同研究開発終了後直ちに他と研究開発を行って成果を得る」

ことが「背信行為」なのに、

「共同研究開発終了後直ちに独自研究開発を行って成果を得る」

ことは「背信行為」にならない、という区別の理由もよくわかりません。

私がこのガイドラインの部分を読んだときに頭に浮かんだ理由は、たとえば、

消極的販売の禁止は競争への影響が大きいので違法だが、積極的販売は禁止できないと取引のインセンティブが失われるので禁止してもいい、

とか、

ワイドなMFN(あらゆる販売チャネルを利用して販売する価格を,価格Aより安くしてはならない)は競争への影響が大きいので違法だが、ナローなMFN(供給者が消費者に直接販売する価格を,価格Aより安くしてはならない)はそれほどでもないので適法だ、

といった、競争への影響を考慮した理由付けでした。

つまり、

B社に第三者との共同研究までやられてしまうとA社は一気に競争劣位になってダメージが大きいので、これを禁止できないと共同研究のインセンティブが失われてしまうので第三者との共同研究の禁止は認めるのに対して、

B社独自の研究まで禁止してしまうとイノベーションへの悪影響が大きい上にB社の自由を縛りすぎるので、独自研究の禁止は認めない、

といったことかな、と思いました。(それが説得力があるとは思いませんが。)

でも、前掲書にはそのような競争への影響の発想はまったく見られません。

むしろ、「背信行為」という、民法の不法行為のような、道徳のような理由が述べられています。

まあ、平成初期の公取委はこんな感じだった、ということなのでしょう。

これに対して、共同研究に入るインセンティブの確保というのは、共同研究開発にともなう制限を認めるべきかどうかという議論全体におよぶべきものだと思います。

共同研究開発ガイドラインでも、たとえば、第2の2⑶ア①で、

「① 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ③参照)」

が白条項とされているのなどは、共同研究開発に入るインセンティブ確保の趣旨でしょう。

そういう一般的な理屈が、共同研究開発終了後の独自開発の制限の場合にだけあてはまらないということはありえないでしょう。

実際、A社が、

「自分(A社)のほうがノウハウをたくさん提供しているのに、終わった途端B社に独自研究されたらたまらない。

だけど、成果を自分(A社)に全部帰属させるという条件だと、B社が共同研究に応じてくれないだろう。

でも、成果共有で、期間終了後は独自研究をしない、という条件なら共同研究してくれそうだ。

だって、共同研究で成果が上がらないのにB社の独自研究で成果が上がる保証もないんだから。」

といったような具合で、共同研究開発期間終了後の独自開発を制限することが最適解であるということは、世の中にそれなりにあるのではないでしょうか。

そいういった、当事者のインセンティブとイノベーションへの影響というものを、考えないといけません。

2023年1月13日 (金)

クロスライセンスを利用した市場の棲み分けについて

競争者2社が、お互いにブロックしあう関係(補完関係)にある特許権を有しているために自由な商品開発ができないときに、クロスライセンスをすることで解決することが考えられます。

たとえば、ある商品について、A社がa特許を持ち、B社がb特許を持っているものの、対象商品を作るためにはa特許もb特許も必要、というケースです。

(単純化のために、市場には、A社とB社の2社しかいないとします。)

ただクロスライセンスをするだけでそのあとはお互い自由に競争するのであれば何の問題もないのですが、クロスライセンスに付随して、たとえば商品分野や地理的分野を分けることで、市場の棲み分けをしたいということがありえます。

このような市場の棲み分けは独禁法上許されるのでしょうか?

結論としては許されると考えます。

まず、知財ガイドラインで該当する記述を探すと、競争者間のクロスライセンスについて、知的財産ガイドライン第3の2(「不当な取引制限の観点からの検討」)の(3)(「クロスライセンス」)のイでは、

「イ 〔クロスライセンスに〕関与する事業者が少数であっても、

それらの事業者が一定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、

当該製品の対価、数量、供給先等について共同で取り決める行為や他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は、

・・・当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。」

とされており、競争者間のクロスライセンスは不当な取引制限に該当し得るとされています。

ガイドラインでは、「対価、数量、供給先等」を共同で取り決めることが対象ですが、商品分野を棲み分けることも同じに考えて良いでしょう。

問題は、どのような場合に「競争を実質的に制限する」ことになるのか、です。

ここで、「競争を実質的に制限する」かどうかは、a特許とb特許があることを前提に、クロスライセンスをしなかった場合に比べて、より競争を実質的に制限することになるかどうかで判断すべきでしょう。

a特許もb特許もない場合を基準にしたら、市場の棲み分けが、そのような棲み分けがない場合に比べて競争を制限するのは当たり前で、それは妥当とは思われません。

つまり、a特許とb特許がお互いにブロックしあっているということは、A社とB社がお互いに自己の特許権を行使すれば、いずれも商品を販売することはできないことになるわけで、それと比べれば、商品分野を棲み分けしつつもまだ商品が世に出た方がよっぽど競争促進的である、という理屈です。

この理屈は、現状ではA社とB社が、事実上市場に商品を出していても(つまり、お互いに特許を行使せず黙認していても)同じです。

このような、黙認して自由に競争しているように見えても、そのような現状を基準にして市場の棲み分けがより競争を制限すると判断するのは、誤りだと思います。

というのは、事実上の黙認は事実上の黙認に過ぎないわけであって、ほんらいは特許を行使できるわけですから、事実上の黙認に基づく競争は本来あるべき競争ではない(競争法上保護されるべき競争ではない)と考えられるからです。

この問題に関して、旧特許ライセンスガイドラインの解説書である山木編『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』のクロスライセンスに関する解説に説明があり、そのp127では、

「・・・相互に補完する関係にある特許等について実施されるライセンスであって,

もともと競争関係がみられないような事業者間で行われる場合には,

競争制限的に利用されることは少ないと思われる」

と解説されています。

まず、この「もともと競争関係がみられない」という意味は、上述のように、事実上競争していても実際には(お互いに特許を行使すれば)競争できない場合(保護に値する競争がない場合)も含まれると考えるべきでしょう。

つまり、A社とB社が、お互いに黙認しあって、A社がα商品を作り、B社がβ商品を作って市場で競合していても、A社とB社との間には、「元々競争関係がみられない」と考えるべきです。

実は、旧ガイドラインでは、クロスライセンスに附随する制限が違法になる具体例(現行ガイドラインでは削除)がありました。

その具体例では、

「<例> 事業者が,次のように,特許製品の販売地域等を分割する行為を行い,これにより市場における競争を実質的に制限すること。

○A製品の製法()の特許を有し, A製品の製造販売を行っているa社

A製品の別の製法()の特許を有し, A製品の製造販売を行っているb社が,

当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し,

今後は,当該A製品の販売地域について,

新規ユーザーについては,a社は東日本,b社は西日本のユーザーにのみ販売すること

を取り決めるような場合

○B製品の製法()の特許を有し,B製品の製造販売を行っているc社

B製品の別の製法()の特許を有し,B製品の製造販売を行っているd社が,

当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し,

今後は,一般品はc社が,特殊品はd社が製造販売を行うことを取り決めるような場合」

という例が、独禁法上問題がある例として挙げられていました。

ところが、これら2つの例を見てみると、いずれの例も、どちらの当事者の製法特許でも製造できる例です。

つまり、1つめの例では、a社が製法甲の特許を、b社が製法乙の特許を持っているわけですが、商品は製法甲でも乙でも作れる例です。

なので、a社が製法甲で製造することは何の問題もないし、b社が製法乙で製造することも何の問題もないのです。

よって、a社とb社は、「もともと競争関係がみられないような事業者」ではない、ということになり、このような制限が違法になるのは当たり前です。

2つめの例も同じです。

つまり、旧ガイドラインの、独禁法違反の具体例は、(ガイドラインに明記こそされていないものの中身を読めば)お互いにブロックする関係にある特許権を持っている例ではない、ということです。

それを裏から説明する形で、上記山木は、もともと競争関係にない場合(相手の特許を侵害しなければ競争できない場合を含む)には、クロスライセンスに伴う制限が反競争的に使われることは少ないと解説していることがわかります。

さらに注目すべきは、旧ガイドラインの2つの具体例は、各社が自己の特許権だけで製品を製造できている事例であることがわかります。

それにもかかわらず地理的範囲や製品分野を制限するということは、これら2つの具体例は、単にライセンスを受けた特許を使用した製造販売だけでなく、割り当てを受けた市場以外でのおよそ一切の製造を相互に禁止することを当然の前提にしている具体例であると考えられます。

例えば、2つめの具体例(c社特許、d社特許を有し、c社がB製品の一般品d社がB製品の特殊品を製造する場合)について説明すれば、この具体例における合意は、

c社は、d社の丁特許を使用するかどうかにかかわらず(丙特許によっても)、特殊品は一切製造せず、

d社は、c社の丙特許を使用するかどうかにかかわらず(丁特許によっても)、一般品は一切製造しない

という合意であると考えられます。

つまり、この2つめの事例は、厳密に言えば、

ライセンスを受ける特許(c社にとっての丁特許、およびd社にとっての丙特許)の使用方法に関する制限(例えば、「c社は、d社からライセンスを受けた丁特許を用いてB製品の特殊品を製造してはならない。」)

でもなければ、

ライセンスをする特許(c社にとっての丙特許、およびd社にとっての丁特許)の区分許諾(例えば、「d社は、B製品の一般品製造のために、丁特許をc社に許諾する。」)

でもなく、特許使用の有無にかかわらず指定された製品以外は一切製造販売しないという内容のクロスライセンス

(例えば、「c社は、B製品の特殊品を製造してはならず、d社は、B製品の一般品を製造してはならない。」)

であることを当然の前提にしているように思われます。

そして、このように、ライセンス対象特許とは無関係の製造まで一切禁止することは、特許権の行使とは認められず、独禁法違反になりうるのは当然であるように思われます。

契約書をドラフトしたり読んだりしたりするときに注意ですが、制限(例えば、西日本の顧客には売らない)の対象になっているのがどの商品なのか、ということで競争制限効果に決定的な違いが出ます。

案外、そういう基本的なことを見落としている(問題意識に上がっていない)例が見られます。

というわけで、旧ガイドラインの具体例は、そもそも、ライセンス対象特許の利用制限ではなく、特許とは無関係の製造販売をも禁じる例なのです。

これを逆に言えば、ライセンス対象特許の利用制限(区分許諾)は、そもそも特許権者はライセンスしない自由があることからすれば、区分的にでも特許されるだけまだ何も許諾されないよりまし(競争促進的)、ということができます。

それにしても、現行ガイドラインで旧ガイドラインの具体例を消してしまったのは、とても不親切だったと思います。

そして、山木編は、あいかわらず、かゆいところに手が届く解説がされていて、いまだに実務で大変重宝します。

新旧の流通取引ガイドラインの解説書を比べてもわかりますが、むかしのほうが公取委の職員の方は、思ったことを自由に、そして理論的にも深く、学術的に、書いていたように思います。

ガイドラインからとても大事な具体例がなくなってしまったり、30年くらい前と比べると、公取委はほんとうに木で鼻をくくったようなことしか言わなくなって、本当に残念だと思います。

公取委の職員の方々には、もうちょっと、先輩を見習って欲しいです。

2022年6月 3日 (金)

最高生産数量の制限に関する知財ガイドラインの規定の疑問

前にも少し書いたことがあるのですが、知的財産ガイドライン第4の3⑵では、

「イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限

ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。

他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

と規定されていますが、この後半部分の製造数量の上限の規制に関する記述には、疑問があります。

というのは、この部分は「3 技術の利用範囲を制限する行為」の一部なのですが、そもそも利用範囲の制限が基本的に白条項とされているのは、特許権者は特許製品を他人にまったく作らせない権利もあるのだから、一部だけ作らせるのも、自由に作らせるのも、自由であるべきだからと考えられるからです。

大は小を兼ねると言うことです。

もちろん、特許製品以外の製品を買うことを義務付けるとか、競合他社からは購入しないことを義務付けると、大は小を兼ねるの範囲を超えているので、白だとは言えないのですが、最高数量制限はまさに「大は小を兼ねる」だと思います。

しかもこのガイドラインの、

「市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず」

という理屈も、意味がわかりません。

もし、市場シェアの高い商品(たとえば独占)であればその最高数量制限が必然的に市場全体の供給量を制限するのだという意味であるとすると、そのような場合に「権利の行使とは認められず」というのは、特許権の否定にほかなりません。

特許権は技術を独占させるもので市場を独占させるものではない、というのはよく言われることですが、もし特許権が市場を独占できるくらい強力なら、特許権の行使の結果市場を独占できるのは特許権の権利の行使そのものであり、それを否定することはできません。

とすると、最高数量制限が「市場全体の供給量を制限する効果がある場合」というのが、どういう場合を意味しているのか、まったくわからないことになります。

しかも、知財ガイドラインのあとにできた平成28年改正流通取引慣行ガイドラインでは、公正競争阻害性は価格維持効果と市場閉鎖効果の2つであることがはっきり述べられています。

そのうち、最高数量制限は、市場閉鎖効果でないことは明らかでしょう。

そうすると価格維持効果が問題になりますが、価格維持効果というのは、

「非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる」効果

ですから、確かに各ライセンシーに割り当てられる最高数量が制限されればライセンシー間の競争は(自由に好きなだけ作れる場合に比べれば)制限される、とはいえそうです。

しかし、やはりそのような効果は、特許権の(一部)行使に必然的に伴う効果に過ぎないというべきでしょう。

なにより、特許権者が自分の特許権を利用した商品の数量を制限することが、いきなり「市場全体の供給量を制限する効果」を生じさせるという事態は、流通取引慣行ガイドラインの価格維持効果では説明できません。

知財ガイドラインでは、権利の部分的ライセンスは白という立場に基本的に立っているのに、どうして最高数量だけ白ではないのかと想像すると、きっと知財ガイドラインを作った人は経済学を少しかじっていて、数量制限を一部許諾と割り切ることに心理的な抵抗があったのではないかと想像されます。

というのは、経済学では価格と数量は一対一対応で決まるので、最高数量制限は最低価格制限と同じ効果を持つことになり、これを白とすることには、他の制限と比べて大きな心理的抵抗があったのであろう、ということです。

つまり、理屈ではなく気分の問題です。

でも、少し考えてみればわかりますが、一対一対応になるのは価格と数量だけではありません。

少なくとも理論的には、コストも、差別化の程度も、テリトリー制も、顧客分割も、すべて、これらが変化すれば一対一対応で価格も変化するはずです。

つまり、最高数量だけを特別に扱う理由はありません。

ところが、価格と数量が一対一対応であることは経済学で叩き込まれますから、そこに心理的葛藤が生まれ、どっちにでも取れる灰条項にした、というわけです。

所詮この程度のものですから、知財ガイドラインの最高数量制限に関する規定は無視して差し支えないと思います。(つまり白)

唯一の事例として日之出水道事件知財高裁平成18年7月20日判決がありますが、数量制限をした日之出水道が勝ってますし、白石先生の独禁法事例集p248でも、

「最高数量制限という行為は、制限された最高数量を超える部分はライセンス拒絶をするというのと同等なのであって「権利の行使とみられる行為」に該当する、というのは縷々論ずるまでもない通常の感覚であろうと思われる。」

と明解に述べられています。

2021年8月23日 (月)

平成16年度相談事例集事例5(共同研究開発に伴う排他的購入義務)の問題点

掲題の相談事例では、

建築資材メーカー(シェア約10%)とその製品のユーザーである建設業者(業界12位の総合建設業者)の2社が,

建築工法について共同で開発し,

建設業者が当該工法において使用する資材については,当該建築資材メーカーのみが供給するよう取り決めることは,

制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない

とされました。

ですが、この相談事例の論理にはいろいろと問題があります。

具体的に相談対象になっている条項は、

「ア 本件工法で使用される建築資材Xについては,B社〔資材メーカー〕が全量を生産し,A社〔建設会社)に供給するものとする。

イ B社は,両社からライセンスを受けて当該工法を実施しようとする建設業者に対し,建築資材Xを販売することができるが,その際の販売価格は,A社への供給価格を下回らないものとする。

ウ 本件契約期間は5年とするが,当該工法に係る特許が取得された場合には,当該特許が有効な期間(出願日から20年間)は,原則として自動更新する。」

の3つです。

まず回答は、

「(1) 共同研究開発の成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限することは,不公正な取引方法に該当するおそれがある。[共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]]」

と述べます。

ここで引用されている共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]は、

「[4] 成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア[2]の場合を除く。)」

を、不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)としており、その中で除かれている「(3)ア[2]の場合」というのは、

「[2] 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ[4]参照)」

を、原則として不公正な取引方法に該当しない事項(白条項)としています。

その上で回答は、まず、

「ア 当事者であるA社〔建設会社〕及びB社〔資材メーカー〕は,原材料メーカーとそのユーザーという関係であり直接の競争関係にはないところ,競争関係にない事業者間の共同研究開発については,通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい。

また,このような事業者間の共同研究開発であれば,その成果を実施する場合の原材料等の供給者は当該参加事業者とすることが当然の前提とも考えられる。」

と述べます。

しかし、直接の競争関係にないことから直ちに「通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい」というのは問題です(まあ、公取がそれでいいというなら、弁護士としては、目くじら立てることはないのですが)。

そんなこと言い出すと、購入先制限が灰条項であるとするガイドラインと正面から矛盾してしまいます。(まあ、公取がそれでいいというのなら、いいのですけれど。)

購入先制限(建設会社A社が資材メーカーB社からしか購入できないこと)の競争制限の機序は、B社と競合する資材メーカーがA社に売れなくなる(排除される)ことであるはずです。

流通取引慣行ガイドラインでも、その旨明記されています。(市場閉鎖効果)

さらに、この手の共同開発では、排他的購入が「当然の前提」というのも、(たしかにそのとおりなのですが)市場閉鎖効果には目もくれず公取が正面切って認めるとは驚きです。(まあ公取が良いというなら良いのですけれど。)

続いて回答は、

「イ B社〔資材メーカー〕が建築資材Xを全量生産し,A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給することを義務付けることは,

共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合においては,

制限が合理的な期間にとどまる限り不当性を有するものではない。」

と述べます。

しかし、ここでいう、「共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合」というのは、たいへん不明確で、基準になっていません。

それに、建設会社A社が専ら資材メーカーB社から購入する、というのはまだ、資材メーカーB社に成果を分配するものと説明できそうですが、どうして「A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給すること」が、「成果を両者の間で配分する手段」となるために必要なのか、不明です。

利益を分配するためなら、購入総額が大事なはずで、競合他社より有利か不利かは基本的には関係ないはずです。

これも、細かいことを言えば、資材購入市場で建設会社A社が競合より有利に調達できることにより川下の建設市場で建設会社A社が競合建設会社よりも競争上優位な地位に立ち、ひいては、そこから生じた独占利潤を有利な購入価格として資材メーカーB社に分配する、というメカニズムも考えられなくはないですが、それって、川下市場での排除を前提にしているので、あまり胸を張って競争的だというにははばかられる内容だと思います(まあ、公取がそれでいいっていうなら、いいのですけれど。)

あるいは、すごく深読みをすれば、「他社より有利な条件で供給することが成果の分配に必要だといえるのは川下での排除を前提にするほかないので、実は他社より有利に供給することを義務づけることが『成果の分配に必要』な場合というのは論理的にあり得ないのだ(なので空振りだ)」という読み方も可能かも知れませんが、そんなだまし討ちみたいなのはさすがにあり得ないでしょう。

さらに続けて回答は、

「ウ A社〔建設会社〕は,当該工法以外の工法においてはB社〔資材メーカー〕以外の事業者から建築資材Xを購入することが制限されるものではなく,

B社も,当該工法のライセンス先事業者に対して建築資材Xを販売することは認められ,

また当該工法向けの販売以外には何ら制約を課されていないことから,

これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない。」

と述べます。

しかし、契約対象以外の資材購入・販売が制限されていないからといって、排他条件付取引が違法にならないわけではない(市場閉鎖効果があれば違法になる)のは、前述のとおりです。

回答は、契約対象以外の取引を制限しないことから、「これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない」と言っていますが、そんなことはありません(まあ、公取が良いというなら良いのですが。)

そして回答は、結論部分において、

「(3) したがって,本件共同研究開発に伴う制限ついては,制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない。」

と、突如として、制限期間が合理的な範囲を超えれば問題になるかのようなことを言い出します。

しかし、これは、前の部分で、さんざん、「直接の競争関係にない」から問題ないとか、排他的購入は「当然の前提」であると言っていたことと、明らかに矛盾します。

もともと競争制限がない(「直接の競争関係にない」ため)のに、どうして、成果分配に必要な期間を超えると突如として競争が制限されることになるのでしょうか?

まったく、支離滅裂というほかありません。

やっぱり、「資材市場で市場閉鎖効果が生じないならOK。以上」、と回答すべきでした。

さらに回答は続けて、

「この点,当該工法に係る特許の存続期間にわたり自動的に更新されるとの取決めは,当該合理的に必要な範囲を逸脱するおそれもあることから,契約更新時には制限の内容を再検討する必要がある。」

と述べますが、これも、前の理由の部分に矛盾し、支離滅裂です。

こういう余計なことを言われると、事前相談なんてやるもんじゃない、と思ってしまいます。

この回答をみていると、公取委も、平成15年頃までは、あまり反競争性発生機序の理屈がよく分かっていない人が、なんとなく気分でそれらしく(合理的な期間を超えられない、など)回答していたんだなぁ、ということがわかります。

(今はさすがに、ここまでひどいものはあまり見かけません。)

でも、共同研究開発における成果物の排他的購入義務については、相談事例もこれくらいしか事例がなく、困ったものです。

結果的に非常にユルユルになっているのは朗報ですが(ほんとうは、他社に不利な価格でしか供給しない、というのは、MFNとの関係で問題になりうるところです)、それでも、定期的に見直せ、みたいな余計なことが言われています。

こういう、論理的に破綻した回答は、ほんとうに、やめていただきたいものです。

2021年8月12日 (木)

ライセンス商品の価格拘束は当然に違法か?

知財ガイドライン第4の3(3)(販売価格・再販売価格の制限)では、

「ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術を用いた製品に関し、販売価格・・・を制限する行為は、ライセンシー・・・の事業活動の最も基本となる競争手段に制約を加えるものであり、競争を減殺することが明らかであるから、原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

と定められています。

「競争を減殺することが明らか」とまで言われてしまうと、ライセンス商品の価格拘束は例外なく違法になってしまうような印象を受けますが、実際にはそんなことはありません。

(なお、「競争を減殺することが明らか」であれば、論理的には、例外なく違法、となりそうなものなので、「原則として不公正な取引方法に該当する」というのは、いかにも中途半端な気がしますが(正当化事由を意図しているのでしょうか?)、その点は今回措きます。)

というのは、旧ガイドライン(特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針)に関する公正取引委員会職員による解説書である山木編著『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』259頁では、ライセンサーによるライセンシーの特許製品販売価格の制限について、

「実施料を確保するという理由で本制限〔注・製品価格の制限〕が直ちに正当化されるものでないことは明らかであり、

特に、マルティプル・ライセンス契約〔注・複数のライセンシーに対するライセンス契約〕の場合において、

複数のライセンシーに対して本制限が課される場合には、ライセンシー間の価格競争が減殺される効果が大きい。」

とした上で、

「非独占のライセンス契約であって、当該ライセンス地域内でライセンサーがライセンシーと並行して特許製品を製造、販売しているような場合には、

ライセンサーがライセンシーの最低販売価格を制限しておかないと、そもそもライセンスをするインセンティブが減殺される場合もあり得ると考えられる。」

「このような場合に、独占禁止法上問題ないものとできるかどうかは、競争秩序に及ぼす影響をみて、個別具体的に検討されなければならない。

本制限が許容し得る場合として考えられるのは、上記のような一対一のライセンスであってライセンサー自身による同一地域内での実施を理由とする場合であり、かかる制限がなければライセンスをするインセンティブが減殺されるような場合に限られるものと思われる。

また、製品差別化が容易な製品であれば、販売価格を制限する正当化事由があるとは考えがたいところである。」

と解説されているのです。

これは理論に裏付けられた、すごくまともな解説だと思います。

まず、そもそも再販売価格拘束が違法である根拠(≒ライセンサーによるライセンシーの商品の販売価格の拘束がいほうである根拠)は、小売店間のブランド内競争が制限されるからです。

なので、小売店が1社の場合にはそのようなブランド内競争制限がもともとありえないので、再販売価格拘束は実質的な違法性を欠きます。

ですが公取委の「公式見解」(タテマエ)は、小売店が1社でも再販売価格拘束は原則違法だ、ということになっています。

それは理屈としておかしいんじゃないか、ということを、だいぶ以前に、上記解説書を引用しながら、このブログでも書いたところです(「相手方が1社の再販売価格拘束」)。

というわけで、ホンネのところでは、相手方1社の再販なんて公取委は取り締まるつもりはさらさらないし、ライセンシー1社の価格拘束についてはなおさらです。

ライセンス商品の価格を拘束しないとライセンサー自身の商品と価格競争になってしまい、そもそもライセンスのインセンティブが失われてしまう、というのがポイントです。

ライセンサーが商品を販売していない場合には、そういうことは起きませんし、そもそも商品価格を拘束するインセンティブがありません。

あるとすれば、ロイヤルティを売上の一定率と定めている場合には、価格が下がりすぎるとロイヤルティも減ってしまう、というのがありそうですが、実はこれはたいしたことはありません。

というのは、極端な場合として、特許が技術市場で独占的地位にあり、ライセンシーも商品市場で独占的地位なる場合を考えると、ライセンシーには独占価格よりも価格を下げるインセンティブはないからです。

あるいは、売上の一定率ではなく、定額でライセンス料を受け取ればいいだけの話です。

そうすれば二重限界化の問題も避けられて、社会的にも効率的だといえます。

ただ、これは、需要に不確実性がある場合などはうまくいかない(確実な売上が見込めないのに定額のライセンス料を支払うことをライセンシーが嫌うために、リスク中立的であれば成立する効率的なライセンスが成立しない)こともあるので、場合によっては難しい問題です。

ところで、1つの見方としては、「ライセンサーも商品を供給できるならライセンスがなくてもライセンサー自身が販売すればいいのだから、価格の制限を認めてまでライセンスのインセンティブを確保する必要はないのではないか?」というのが考えられます。

しかし、世の中そんなに単純ではありません。

仮にライセンサー自身に供給能力があっても、さまざまな制約(生産能力、販売網、ブランドイメージ、商品差別化、他の補完技術等)のために、他社にライセンス(も)したい、という場合は、実際にあります。

制約の代表例は、地理的差別化でしょう。

コンビニやピザ屋のフランチャイズをイメージすればわかるように、全国的な店舗網をライセンサーが自力で開発するのは大変です。

(なお知財ガイドラインは特許やノウハウのライセンスに関するものですが、商標のライセンスでも理屈は同じです。)

それが、ライセンシー候補者が広く全国に散らばっていると(地理的に差別化されていると)、ライセンスにより効率的に販売網を拡大できます。

そういうインセンティブを確保する必要があるかどうかの1つの物差しが、ライセンスをすることで市場への商品供給数量(売上ではありません)が増えるのかどうか、です。

もしライセンスで商品供給数量が増えるなら、そのライセンスは効率的である可能性が高く、そのインセンティブを確保する必要性も高いといえます。

次に、「一対一」という点も重要です。

というのは、ライセンシーが複数だと、ライセンシー間の競争確保にも配慮する必要があるからです。

ですがそれでも、ではライセンシーが複数なら絶対に価格拘束できないのかというと微妙なところで、たとえばもともとライセンシーが地理的に差別化されているような市場なら、ライセンシーは実質的には競争していない(それぞれ別市場)ともいえ、程度問題です。

複数ライセンシーにライセンスしたほうがライセンサーの収入(ロイヤルティ収入)が上がるのかどうかはそれこそケースバイケースで、1社で十分な販路を持つライセンサーならほかにライセンスをする必要はないでしょうし、ライセンシー同士を競わせた方がよい(それによりブランド間競争を活発化させたほうがよい)と考えれば、複数ライセンシーにライセンスすることになるでしょう。

といったような判断を、「一対一」の場合にはする必要がないわけです。

ライセンサー自身が商品も販売している場合には、ライセンシーにより売上を奪われてしまうことも考慮するでしょう(まあ、ロイヤルティ率を上げれば、商品売上げの目減りは相殺されるので、そのあたりを考慮してロイヤルティ率を決めるのでしょう)。

このようにいろいろ考えて、身内の間での喰い合いは避けつつ、新規需要の開拓(必ずしも競合他社から需要を奪うことに限られない)をするにはどうするのが最適かを考えながら、ロイヤルティ率や、販売価格や、販売地域、販売先を合意するのでしょう。

そして、商品市場(川下市場)での競争がある程度活発である限り、これらの制限が競争を制限することはあまり考えられません。

なので、価格の制限だけを悪者にする必要もないのですが、公取委実務では「価格は最も重要な競争手段」ということで、別格の扱いを受けています。

それ自体は理論的根拠もあるので必ずしも間違いではないのですが、一切例外を認めないというのは硬直的であり、そもそも価格拘束の何が問題なのかを理解していないからこそ平気で言える意見なのだと思います。

というわけで、昔の公取委の職員の方々は、こういうふうに、本当に知りたい大事なことをわりとストレートに書いてくれていたので助かります。

最近の解説書や解説記事は、どうも、タテマエが多くて、実務上は判断がブラックボックス化している印象があります。

なので、いつまでたっても古い文献が手放せない、という、笑えない状態になっています。

とある研究者の方にお聞きしたところ、昔は、公取委の職員の方々も学者が主催する勉強会などに積極的に参加されていたそうで、それが、最近の若い職員の方々はそういうのがすっかりなくなった、ということです。

個々人が勉強していないことが原因なのか、組織の締め付けが原因なのかはわかりませんが、どうも、書く人の個性が最近は失われているようにも思われます。

ただ、これも公取委の職員の方の名誉のために申し上げると、人によってかなり違いがあって、担当官解説一つ取っても、「さすがだなぁ」と思える人と、「これ、ほとんど前の記事のコピペじゃん」という人がいます。

いち読者の立場から申し上げると、やっぱり、説得力のある踏み込んだ文章を書かれる方は尊敬しますし、実際の事件で当たっても問題の本質が見えていてやっぱりさすがだと畏敬の念を持って接するのに対して、タテマエだけの人だと、「この人はタテマエしか言わない人だ」という目で見てしまいますし、ものの見方も表面的であるように思います。

というわけで、みなさんお立場はおありかと思いますが(担当官解説を踏み込んで書けるか書けないかは、チェックする上司の個性により大きく異なる、という話を聞いたことがあります)、自分のためにも社会のためにも、やっぱりよく考えて書いた方がいいと思います。

2021年8月 5日 (木)

「競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限」に関する知財ガイドラインの規定について

知財ガイドライン第4の4⑷では、「〔ライセンサーの〕競争品の製造・販売又は〔ライセンサーの〕競争者との取引の制限」に関して、

「ライセンサーがライセンシーに対し、

ライセンサーの競争品を製造・販売すること

又はライセンサーの競争者から競争技術のライセンスを受けること

を制限する行為は、

ライセンシーによる技術の効率的な利用や円滑な技術取引を妨げ、

競争者の取引の機会を排除する効果を持つ。

したがって、これらの行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第11項、第12項)。」

「なお、当該技術がノウハウに係るものであるため、

当該制限以外に当該技術の漏洩又は流用を防止するための手段がない場合には、

秘密性を保持するために必要な範囲でこのような制限を課すことは

公正競争阻害性を有さないと認められることが多いと考えられる。

このことは、契約終了後の制限であっても短期間であれば同様である。」

とされています。

この記述をみたときには、つい、後半の「なお」以下の部分に目が行ってしまいがちで、

「そうか。ノウハウ漏洩防止のためでも、排他条件が唯一の手段でないと、排他条件は違法になるんだ。」

とか、

「契約終了後の競争者との取引禁止は、短期間しか許されないんだ。」

と思ってしまいがちです。

しかし、そのような読み方は、知財ガイドラインの読み方としても、独禁法の解釈としても、正しくありません。

まず、ガイドラインは、上記引用の前半部分で、ライセンサーがライセンシーに対してライセンサーの競争者と取引することを禁止することは、

公正競争阻害性を有する場合には

違法となる、とされています。

そして、この、「公正競争阻害性を有する」かどうかは、ケースバイケースで判断され、実際には、非常に有力な技術であり、かつ、当該ライセンシーほどに効率的に競合技術のライセンスを受けて製品を製造できるようなライセンシー候補者がほかにいないなど、かなり例外的な場合でない限り、この公正競争阻害性は認められません。

と、言い切ると、ちょっと限界事例がこぼれ落ちてしまう可能性はあるのですが、実務的に正しいイメージを持つためには、まあ、そのように考えておくほうが概ね正しい結論にたどり着けます。

知財ガイドライン一般的にそうですが、この「公正競争阻害性を有する場合には違法となる」というのは、いわゆる灰条項といわれ、「灰」というと「グレー」ということで、なにかかなり怪しげな印象を受けます。

しかし、「公正競争阻害性を有する場合には違法となる」というのは、まさに文字どおり、公正競争阻害性を有する場合には違法で、有しない場合には適用、といっているだけで、ケースバイケースだ、というに過ぎず、決して、「灰色だから怪しい」というニュアンスはありません。

なので、上記引用の前半部分ですでに、実務上みられる排他条件がほとんどOKであることが明らかにされているのです。

取締りに関心のある当局は、そもそも怪しいものにしか関心がないという認知バイアスがあるので、当局に聞くと厳しいことを言われがちなのですが、通常のビジネスでは排他条件で競争者を排除しようと考えることなんて、よっぽどの独占企業か、市場を独占できるほどの有力技術でなければありえないと思われます。

それよりも、競争者との取引を禁止したい理由として圧倒的に多いのが、「自社のノウハウが流出してしまう」というものです。

そして、ノウハウの流出を防止したい場合には、多くの場合、ライセンシーは1社ないしきわめて少数でしょう。

というのは、多数のライセンシーにライセンスなどしてしまえば、どんなに拘束したってノウハウは漏れてしまうからです。

そして、このようなライセンシー1社の場合に公正競争阻害性が認められるのは、ライセンサーの技術が極めて有力であっても、あまり多くは起こらないように思われます。

(ただ、そもそも特殊な技術でニッチな市場だったりすると、ライセンスを実施できる技術を持つライセンシー候補者が世界に1社しかいない、ということは確かにあり得ますので、相手方1社なら常にOKとも言えないのですが、大まかなイメージとしては、ほかにライセンシー候補者がいるならまず違法にならない、という理解でよいと思います。)

ところが、「自社のノウハウ流出を防ぐために競争者との取引を制限できるのかな?」と思ってガイドラインを読むと、どうしても上記引用部分の後半にだけ目が行ってしまって、上述のような誤解を生むのです。

それに、そもそも「なお」以下の後半も、言っていることがちょっと厳しすぎると思います。

つまり、「なお」以下を文字どおり読めば、

「当該制限以外に当該技術の漏洩又は流用を防止するための手段」

がある場合には、公正競争阻害性があることになってしまいます。

でも、他の手段がないことの立証というのはなかなか大変に思えるので、このハードルはすごく高くみえてしまいます。

ですが、守秘義務や目的外使用禁止では、破られてしまえばおしまいだし、ノウハウによっては、破られたことをライセンサーが証明するのが極めて困難、ということも、いくらでもありえます。

なので、このハードルは「そんなに高くない」と理解しておいてよいと思います。

また、

「秘密性を保持するために必要な範囲で」

というのも、なんだか必要な範囲をライセンサーが特定した上で必要性をライセンサーが立証しなければならないような圧迫感を感じる嫌なフレーズですが、これも、そんなに深く考える必要はなく、たとえば通常は競合技術のライセンスを一切受けないというのでも、十分「必要な範囲」といえるでしょう。

次の、

「公正競争阻害性を有さないと認められることが多いと考えられる。」

というのも、非常に高いハードルを越えても、公正競争阻害性を有しない場合が「多い」だけであって、常に有しないように読めるので、げんなりしますが、そこで、そもそも上で説明したとおり、引用前半部分で公正競争阻害性がある場合が稀である、ということを思い出さないといけません。

ところが、そういう読み方を知らないと、他の手段があって、必要な範囲を超えていれば、一足飛びに「公正競争阻害性あり」なのだ、と誤解してしまいかねません。

最後の、

「このことは、契約終了後の制限であっても短期間であれば同様である。」

というのも、永久に守りたいノウハウであれば短期間に限らず制限をかけていいのは、論理的に当然です。

すべてのノウハウは短期間で陳腐化する、というのは、明らかに誤りです。

ガイドラインも、

「短期間であれば同様(公正競争阻害性を有さないと認められることが多い)」

といっているだけであり、

「長期間であれば公正競争阻害性を有することが多い。」

とは言っていません。

ちなみに、山木編『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』p239によると、「短期間」は「2年程度」と考えられているようです。

もし、2年を超えたら違法だなんて言われたら、短すぎる(場合がある)ことは、明らかだと思います。

以上で述べたことは、独禁法の理屈が分かっている弁護士の間では常識ですし、公取委の現実の運用にも合致していますが、独禁法をよく知らない弁護士さんが初めて知財ガイドラインを見たりすると、「契約終了後短期間を超えて競合技術のライセンスを受けることは独禁法違反のおそれが大きい」などと言ったりするので、注意が必要です。

2018年11月11日 (日)

共同研究の成果の特許等の実施料の取り決め

共同研究開発ガイドライン第2-2(2)③では、
 
「成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること」
 
が、原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項とされているます。
 
たとえば、A社とB社が共同研究をして開発した特許をライセンスする場合、そのライセンス料を50%ずつで分け合うことを合意することは、問題ない、ということです。
 
ではその前提として、そもそもライセンス料を両社共同で決めることについては問題ないのでしょうか。
 
このことについてはガイドラインには明記されていないのですが、ガイドラインの立案担当者による、平林英勝編著『共同研究に関する独占禁止法ガイドライン』p91に、
 
「成果の貢献に応じた実施料の分配の前提として、必要な範囲で成果の第三者への実施に係る実施料を取り決めることは問題ないと考えられよう。」
 
と、問題ないことが明記されています。
 
分配のやり方の合意が問題ないのだから、そもそものライセンス料を決めることも問題ないことが当然の前提になっているのでしょうし、1つの権利(商品)であるからには1つの価格をどうやったって決めざるをえず決める以上は共同で決めるしかない(ここだけカルテルを気にして価格決定をA社に委ねるなんていうのはナンセンス)のですから、当然の結論だと思います。
 
こういうあたりまえのことでもきちんと書いておいてもらえると、とても助かります。
 
ただ欲を言えば、こんな大事なことはガイドライン本文に書いて欲しいものです。
 
価格を共同で決めることを白条項とすることに抵抗があったのかもしれませんし、うっかり入れ忘れたのかもしれませんが、ともかく、成果の権利自体の許諾価格(販売価格)を共同開発者間で合意することは問題ありません。
 
もしそれが許されないとしたら、元々の共同研究開発参加者の市場シェアが高くて、そもそも共同研究開発自体が独禁法違反だ、という場合くらいでしょう。
 
注意すべき点は、権利自体の許諾価格は共同で決めて良いけれど、権利を用いた商品の価格を共同で決めることは黒条項とされていることです(ガイドライン第2-2(3)ウ)。
 
これは、いわば再販売価格拘束のようなものなので、黒条項なのも当然です。
 
ところで、日本には競争者間の協力に関する一般的なガイドラインがないので、この共同研究ガイドラインがいろいろなところで役に立ちます。
 
そういう観点からこのガイドラインをながめてみるといろいろと気づくことが多いです。

2017年9月12日 (火)

標準化パテントプールガイドラインの目次(と簡単な要約)

標準化パテントプールガイドラインの目次と簡単な要約をメモしておきます。

第1 はじめに

第2 標準化活動

1 標準化活動の態様

2 標準化活動自体に関する独占禁止法の適用

標準化活動に当たって以下のような制限が課されることにより、市場における競争が実質的に制限される、あるいは公正な競争が阻害されるおそれがある場合には独占禁止法上問題となる。

(1) 販売価格等の取決め

(2) 競合規格の排除

相互に競合規格開発を制限又は競合規格製品の開発・生産を禁止(注4)〔少数が非公開で行う実質的な共同研究の場合は認められる場合あり〕

(3) 規格の範囲の不当な拡張

(4) 技術提案等の不当な排除

(5) 標準化活動への参加制限

標準化活動に参加しなければ、策定された規格を採用した製品を開発・生産することが困難となり、製品市場から排除されるおそれがある場合に、合理的な理由なく特定の事業者の参加を制限する(私的独占等)。

3 規格技術に関する特許権の行使と独占禁止法の適用

ライセンス拒絶は基本的に問題ない。

FRAND宣言違反は問題ある可能性。

第3 規格に係る特許についてのパテントプールに関する独占禁止法上の問題点の検討

1 基本的な考え方

(1) 

(2)

複数の競争事業者が、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの事業活動に対して一定の制限を課しても、規格を採用した製品の販売価格販売数量を制限するなど明らかに競争を制限すると認められる場合などを除き、

(1)当該プールの規格に関連する市場に占めるシェアが20%(注9)〔製品市場の売上シェア〕以下の場合、

(2)シェアでは競争に及ぼす影響を適切に判断できない場合は、競争関係にあると認められる規格が他に4以上存在する場合

には、通常は独占禁止法上の問題を生じるものではない(注10)。

(3) (2)の条件が満たされない場合でも直ちに問題となるわけではなく、個別判断。

2 パテントプールの形成に関する独占禁止法上の考え方

(1) パテントプールに含まれる特許の性質

ア 規格で規定される機能及び効用の実現に必須な特許に限られる場合

ライセンス条件が一定に定められても問題なし。

イ 必須特許とはいえない特許が含まれる場合

[1] 代替特許が含まれる場合、パテントプールに含められライセンス条件が一定とされることにより、これらの代替特許間の競争が制限される。(事例1)

 

[2] プール外の代替特許が排除される。(事例2)

 

当該規格の普及の程度、代替的なパテントプールや規格技術の有無などの市場の状況の外、以下の点を勘案。

[1] パテントプールに必須特許以外の特許が含められることに、合理的な必要性又は競争促進効果が認められるか。

[2] 直接ライセンス、選択的ライセンスが可能か

(2) パテントプールへの参加に係る制限

ア パテントプールへの参加の制限

参加に一定の合理的な条件を課すのは問題ない。

パテントプールを通じてライセンスすることを事前に取り決めることは、①対象が必須特許に限られ、かつ、②ほかに当該特許の自由な利用が妨げられない、などの場合は問題ない。

イ パテントプールへの参加者に対する制限

参加者への制限は合理的で、かつ、特定の事業者にのみ不当に差別的な条件を課すものでない限り、問題ない。

ライセンス料の分配方法特許の重要度など様々な要因に基づいて決定しても問題ない。

パテントプール以外でのライセンスを禁止することは、独占禁止法上問題となる「おそれ」あり(私的独占、不当な取引制限等)。(事例3)

(3) パテントプールの運営

パテントプールの運営者に集中するライセンシーの事業活動に関する情報について、参加者やライセンシーがアクセスできないようにすることが望ましい。(事例4)

3 パテントプールを通じたライセンスに関する独占禁止法上の考え方

(1) 異なるライセンス条件の設定

異なるライセンス条件の設定は直ちに独占禁止法上問題となるものではなく、個別に判断される。

合理的な理由なく、特定の事業者にのみ

(1)ライセンスすることを拒絶する

(2)他のライセンシーと比べてライセンス料を著しく高くする

(3)規格の利用範囲を制限するなどの差を設ける

ことは、差別を受ける事業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼす場合には独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、共同の取引拒絶等)。

(2) 研究開発の制限

ア ライセンシーに対して、規格技術又は競合する規格についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、競争が制限されるおそれがある(私的独占、不当な取引制限等)。

イ 少数の者が非公開で規格に係る技術を新たに開発するなど、規格の策定の態様が実質的に共同研究開発と認められる場合には、当該活動に参加する者が相互に規格技術や当該規格と競争関係に立つ規格を開発することを制限したり又は第三者と共同で開発することを制限したりすることが、当該活動を円滑に進める上で合理的に必要な範囲の制限と認められる場合もある(注14)。

しかしながら、このような場合であっても、規格が策定された後に、パテントプールを通じてライセンスする際に、ライセンシーの研究開発を制限することには何ら合理的な必要性があるとは認められず、独占禁止法上問題となるおそれがある(事例6)

(注14) 共同研究開発ガイドラインでは、以下は問題なし。

[1] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[2] 共同研究開発のテーマときわめて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること。

[3]共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること。

(3) 規格の改良・応用成果のライセンス義務(グラントバック)

ア グラントバックは、技術市場における競争を制限するおそれ

イ ライセンシーによる改良・応用の成果が必須特許となる場合にライセンシーに対してグラントバックの義務を課すことは、

①必須特許に限り、

②非独占的であり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他の当該プール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例7)

(4) 特許の無効審判請求等への対抗措置(不争義務)

ア ライセンシーに対して不争義務〔特許の有効性を争わない義務〕を課し、違反した場合にはライセンス契約を解除することは、ライセンシーの事業活動に及ぼす影響が大きい。

イ したがって、不争義務を課し違反の場合ライセンス契約を解除する旨を取り決めることは、独占禁止法上問題となるおそれがある(共同の取引拒絶)。

他方、規格に係る特許の有効性について争われた場合に、パテントプールへの参加者のうち無効審判請求を起こされた特許権者のみが、当該特許をパテントプールから外すことなどにより、争いを起こしたライセンシーとの契約を解除することは、ライセンシーがライセンスされた特許の有効性について争う機会を失うとは認めにくいことから、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例8)

(5) 他のライセンシー等への特許権の不行使(非係争義務)

ア ライセンシーに非係争義務〔ライセンシーが有し又は取得することとなる全部又は一部の特許等について他のライセンシーに対して権利行使しない義務〕をを課すことは、技術市場における競争が実質的に制限されるおそれがある。(私的独占、不当な取引制限)

イ 制限の態様が、

①必須特許(注17)に限り

②当該プールに非独占的にライセンスすることを義務付けるものであり、

③ほかに自由な利用を制限するものではなく、

④ライセンス料の分配方法等で他のプール参加者に比べて不当に差別的な取扱いを課すものでないと評価される場合

は、通常は独占禁止法上問題となるものではない。(事例9)

2015年7月 2日 (木)

小田切委員の論文

かつて小田切宏之委員が公正取引委員会の委員になられる前、

「特許法と競争法の微妙な関係に関する若干の考察」

という論文を日本経済法学会年報32号(2011年)に発表されています(76頁)。

コンパクトながら非常に内容の濃い論文で、いろいろと得るところが大きいのですが、その中で小田切委員は、

競争市場で1つの企業が発明に成功した場合には、当該企業には、

① ライセンスを拒絶し、自ら発明前の競争数量を発明前の競争価格(をやや下回る価格)で生産・販売しする(発明企業は市場を独占する)、

② すべての希望企業に、発明前の限界費用(c1)と発明後の限界費用(c2)の差額(=c1-c2。つまり発明によるコスト削減分)に等しいロイヤルティ額でライセンスをする(自らは生産してもしなくてもいい)、

③ すべての希望企業にc1-c2に等しいか、それよりも低いロイヤルティ(r)でライセンスすると同時に、ライセンシーにc1〔=発明前の限界費用=発明前の競争価格〕の価格での販売を義務付ける、

という選択肢があるところ、①も②も③も、発明前の競争数量が発明前の競争価格(=限界費用)で販売される(なので、消費者余剰も社会的余剰も同じ)という点で経済的効果としては同じなのに(①②では発明による利潤増は発明者が独り占めし、③では発明者とライセンシーが利潤を分け合う)、どうして③の販売価格の制限だけ違法とされるのか、という疑問を呈されています(p84)。

経済学的にはまことにごもっともです。

よくある疑問に、

「ライセンスを拒絶するのが自由なのに(拒絶してライセンシーにまったく売らせないのも自由なのに)、どうして販売価格を拘束するのは自由でないの?(大は小を兼ねないのか)」

という、これも非常にもっともな疑問がありますが、根っこは同じだと思います。

さらに小田切委員は、③の場合は、

「ライセンシーが複数企業であれば、事業を実施しているのが発明企業1社のみという①より長期的には望ましい可能性すらある。」

と述べられています。(p85)

(ちなみに、「ライセンシーが複数企業であれば」と限定されていますが、ライセンシーは1社でも技術は移転するので、発明企業自身が実施していればなおのこと、実施していなくても、ライセンシーが複数であることは本質的ではないと思います。)

つまり、技術移転による技術の伝搬というメリットを、独禁法の規制が封殺しているのではないか、という疑問です。

これも、まことにごもっともです。

つまり、公正取引委員会の委員までされる経済学者の方ですら、独禁法の規制は理屈で割り切るのは難しい、ということなんだろうと思います。

なので、私も、

「どうしてライセンス拒否の自由があるのに、販売価格の制限はできないのか。」

と正面切って聞かれると、質問者の理解のレベルを見極めながら、

「価格は重要な競争手段だから」

とか、

「ガイドラインにそう書いてあるから」

とかいって、それぞれのレベルで納得してもらえそうな答えを選んでいます。

でも本音のところでは、私も小田切委員と同じで、心底納得しているわけではないので、しつこく質問されるとうまく説明できなかったりします。

でも、それはそんなものなので、ご勘弁ください。

あえて説明をひねり出せば、

経済学ではそうだが、現実には販売価格を指値で指定するのとロイヤリティをc1-c2に設定するのは効果は違うのだ(そもそもc1-c2の計算すら容易でない)、

とか、似たようなことですが、

c1-c2を推定してライセンスして、そのうえで商品価格を市場にゆだねた方が(=市場で揉まれた方が)、商品価格を指定するより価格は不安定になるんだ、

とか、

特定の発明がライセンスされなくても競合品がまったくなくなるわけではないので、ライセンスの拒絶が市場の独占を意味するという想定自体がおかしい、

つまり、

ライセンシーの立場からすると、価格拘束が許されると、

①ライセンスを受けずに自由価格で(ただし劣った品質で)競争するか、

それとも、

②ライセンスを受けて協調価格で販売するか、

という選択になり、①の厚生は正なので、ライセンス拒絶+①の厚生の方が②の厚生よりも大きいこともありうるのではないか、

とか、いろいろ思いつきます。

ただ、いずれも抽象論なので、本当にそうかといわれると確信はありません。

ともあれ、それくらいライセンスと独禁法の関係はむずかしいんだ、ということをご理解いただければと思います。

(しかも本質的には、これは知財のライセンスに限った話ではなく、知財と同じ程度の不可欠性を有するインプットの場合には、常に成り立つ話です。)

むしろ経済学に暗い独禁法弁護士の中には、このような理論的な難しさがあることすら知らないまま、「価格の制限だから違法なのは当たり前」という発想でアドバイスしている人すらいるのではないか、と勘繰っています。

2015年2月 4日 (水)

共同研究開発ガイドライン目次(と若干の要約)

はじめに

1 基本的視点

2 指針の適用範囲及び判断時点

第一 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

2 判断に当たっての考慮事項

(1) 研究開発の共同化については、競争が実質的に制限されるか否かによって判断される

(2)  事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占等)。

第二 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、不公正な取引方法の問題となる。

競争関係にある事業者間で行われる共同研究開発において、当該製品の価格、数量等について相互に事業活動の制限がなされる場合には、主として不当な取引制限の観点から検討される。

共同研究開発参加者間の取決めについては、基本的に本指針の考え方によって判断され、知財ガイドラインは適用されない。

ただし、共同研究開発の成果の第三者へのライセンス契約については、知財ガイドラインの考え方によって判断される。

 

2 不公正な取引方法に関する判断

(1) 共同研究開発の実施に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項(白条項)

①研究開発の目的、期間、分担等(業務分担、費用負担等)を取り決めること

②共同研究開発のために必要な技術等の情報を参加者間で開示する義務を課すこと

③ ②で他の参加者から開示された技術等の情報に関する秘密を保持する義務を課すこと

④ ②の技術等の情報以外に共同研究開発に関して他の参加者から得た情報のうち特に秘密とされているものの秘密を保持する義務を課すこと

⑤分担した研究の進捗状況を参加者間で報告する義務を課すこと

⑥ ②で他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること((1)イ①の場合〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕を除く。)

⑦共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること

⑧共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕参照)

⑨共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕及び②〔共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること〕参照) 

○ ただし、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限することは、背信行為の防止又は権利の帰属の確定のために必要と認められる場合には、原則として公正競争阻害性がない。

⑩参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)イ①〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕の場合を除く。)

⑪共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること

○ 共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、他の事業者の参加を制限する行為が、例外的に、不公正な取引方法(独占禁止法第二条第九項第一号又は一般指定第一項(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2(2)参照)。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)

①技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること((1)ア⑥〔他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること〕参照)

○ 開示された技術等をそのまま流用するのではなく、それから着想を得て全く別の技術を開発することまで制限するような場合には、当該研究開発活動の制限は、技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて参加者の事業活動を不当に拘束するものであり、公正な競争を阻害するおそれがあるものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

②共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)ア⑩〔参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること〕参照)

ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項(黒条項)

①共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア⑧〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること〕及び⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

②共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること((1)ア⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

③既有の技術の自らの使用、第三者への実施許諾等を制限すること

④共同研究開発の成果に基づく製品以外の競合する製品等について、参加者の生産又は販売活動を制限すること

(2) 共同研究開発の成果である技術に関する事項

ア 白条項

①成果の定義又は帰属を取り決めること

②成果の第三者への実施許諾を制限すること

③成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること

④成果に係る秘密を保持する義務を課すこと

⑤成果の改良発明等を他の参加者へ開示する義務を課すこと又は他の参加者へ非独占的に実施許諾する義務を課すこと

イ 黒条項

①成果を利用した研究開発を制限すること

②成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すこと又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すこと

(3) 共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項

ア 白条項

①成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ③〔成果に基づく製品の販売先を制限すること〕参照)

②成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ④〔成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること〕参照)

○ ①②の「合理的な期間」は、リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間、同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間等により判断される。

 

③成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと((3)イ⑤〔成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること〕参照)

イ 灰条項

①成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限すること

②成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限すること

③成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア①〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

④成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア②〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

⑤成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること((3)ア③〔成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと〕の場合を除く。)

ウ 黒条項

①成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限すること

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