景表法

2017年7月12日 (水)

東京ガスへの措置命令について

昨日(2017年7月11日)東京ガスとその販売会社2社に対して、不当な二重価格表示(有利誤認表示)で措置命令がでました

ガスコンロなどを販売するにあたり、メーカー(リンナイ、パロマ、ノーリツ)がメーカー希望小売価格を設定していないのに、東京ガスにおいて勝手に「メーカー希望小売価格」を設定し、そこから比べて安くなっているという、不当な二重価格表示をおこなったものです。

この事件、一見するとよくありがちな二重価格表示の事件ですが、課徴金を視野にいれると、なかなか興味深いものがあります。

まず、不当表示の記載がされた媒体が、「東京ガスのガス展2016」というイベントにおける販売のためのチラシだ、ということです。

イベントのチラシだと、CMや新聞広告よりもチェックが甘くなってしまうこともあるかもしれません。こういう表示にも課徴金がかかってくるので、要注意です。

次に、本件では、チラシは直接的には前記イベント(開催期間は平成28年11月3日から6日までの4日間)での販売のためのチラシですが、課徴金の対象になるのはそのイベントで売上に限られるのか、という問題があります。

この問題については、

「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」

の第4の2(10頁)では、

「課徴金対象行為は優良・有利誤認表示をする行為であるから、

「課徴金対象行為に係る商品又は役務」は、優良・有利誤認表示をする行為の対象となった商品又は役務である。

その「商品又は役務」は、課徴金対象行為に係る表示内容や当該行為態様等に応じて個別事案ごとに異なるものであるから、全ての場合を想定して論じることはできないが、

以下、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」に関する考え方の例を記載することとする。」

としたうえで、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

との基準をあきらかにし、<想定例>として、

「① 事業者Aが、自ら全国において運営する複数の店舗においてうなぎ加工食品a を一般消費者に販売しているところ、

平成30 年4月1日から同年11 月30 日までの間、

北海道内で配布した「北海道版」と明記したチラシにおいて、

当該うなぎ加工食品について「国産うなぎ」等と記載することにより、

あたかも、当該うなぎ加工食品に国産うなぎを使用しているかのように示す表示をしていたものの、

実際には、同期間を通じ、外国産のうなぎを使用していた事案」

「事業者Aの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Aが北海道内の店舗において販売する当該うなぎ加工食品となる。」

という例があげられています。

ここではあきらかに、チラシに「北海道版」と明記されていたことが重視されています。

上の(1)の一般論で、「具体的な表示の内容」を具体化したものです。

次の具体例では、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、

東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について「○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、

事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

という例があげられています。

ここでは、

○○店、××店、△△店限定セール実施!」

と限定されていたことが重視されています。

これは、20万円で買えるという取引条件が適用されるのがこの3店舗だけだったので、課徴金対象売上もその3店舗での売り上げとなるのは、わかりやすいですね。

そこで、本件での東京ガスのチラシをみると、

「ガス展特価」

と明記されているので、ガス展で販売された売上にだけ、課徴金がかかる、ということになりそうです。

もし「ガス展特価」と書いていなかったら、全国での売上に課徴金がかかった可能性もあるので、結果オーライというか、わずかな違いで大きな差になった可能性があります。

(ただ、報道によれば、本件では、対象商品は東京ガスのプライベートブランドで、ふだんはメーカー名も出していなかった、ということのようなので、そのような場合に、メーカー名を出して売っている商品(ナショナルブランド的な売り方をしている商品)と、プライベートブランドで売っている商品が、物理的には同じ商品だけれど景表法法上は同じ商品なのかどうか、という論点も出てきそうです。(本件では前述のように課徴金の対象はガス展での売上に限られそうなので、この論点は顕在化しませんが。))

二重価格表示の問題については、当該チラシで、

「ノーリツ プログレ メーカー希望小売価格320,220円(税込)のところ、195,800円(税込・工事費別)」

と書いてあれば、当該イベントで195,800円で買えるということもさりながら、メーカー希望小売価格は32万円以上もするんだ、という誤認も生じうるので、別の機会に25万円で販売している場合ですら、7万円も得した、という誤認を生じる可能性があるわけですが、このような点をガイドラインが事前に明らかにしていたことは、卓見というほかありません。

というわけで、本件では仮に課徴金がかかるといても当該イベントでの売り上げに限られるということになりそうですが、それでもあえて指摘すれば、比較的短期間の不当表示でも課徴金がかかりうるという点には注意が必要です。

つまり本件では、チラシの配布期間(不当表示行為期間)が、新聞折り込みで1日だけとか、手配りでも約20日間くらいとか、比較的短期間です。

しかしながら、課徴金の対象となる売上の期間は、不当表示の期間だけではなく、原則として(誤認解消措置をとらないかぎり)その後6か月間継続するので、たとえば1日だけの広告でも、最大6か月の売上には課徴金がかかることを覚悟しないといけません。

というわけで、課徴金が導入されると、いかに細かい表示にまで気を配らなければならないか、ということを実感させてくれる事件だったと思います。

2017年7月11日 (火)

三菱と日産の軽自動車への課徴金について

三菱自動車の燃費偽装事件については、今年(2017年)の1月27日に、

普通車・軽自動車を対象に、三菱に措置命令

軽自動車を対象に、日産に措置命令

普通車を対象に、三菱に課徴金納付命令

がなされましたが、残っていた、軽自動車についての両社への課徴金納付命令が6月14日に出ました

そこで、同命令について気が付いたことを書き留めておきます。

■誤認解消措置について

命令では、両社とも、平成28(2016)年7月1日に誤認解消措置をとったと認定されています。

ただ両社とも、課徴金対象行為をやめたあと誤認解消措置までの間に違反対象商品を販売していないので、結果的に、誤認解消措置は課徴金額には影響していません。

■自主申告について

今回は、両社とも、違反を消費者庁に自主申告し、それが調査開始の通知前であったことから、課徴金の額が半額になっています。

ただ今回の命令では、三菱について、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

日産について、

「日産自動車は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、景品表示法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告したところ、当該報告は当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものではない。」

とだけ認定されているだけで、具体的な申告日や調査開始の通知日は明らかにされていません。

前回の三菱の普通車についての課徴金納付命令(平成29(2017)年1月27日)では、

「三菱自動車工業は、景品表示法第9条の規定により、前記1の課徴金対象行為に該当する事実を、不当景品類及び不当表示防止法施行規則第9条に定めるところにより消費者庁長官に報告した。

三菱自動車工業が当該報告をしたのは、消費者庁が三菱自動車工業に対して前記1の課徴金対象行為についての調査の開始を通知したときである平成28年5月27日又は同年8月31日午前より後である同日午後であった

よって、当該報告は、当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものである。」

と、調査開始の通知日と自主申告の日を具体的にあきらかにしていたのとは対照的です。

これはきっと、前回は自主申告による減額を認めないという不利益をあたえるので具体的な日付まで明らかにいていたところ、今回は減額をみとめるという利益をあたえるのだから細かい日付までは書かなくてよい、という判断なのでしょう。

■日産の過失について

日産の過失について、命令では、

「日産自動車は、三菱自動車工業株式会社と共同して実施した燃料消費率に係る検証において本件6商品の各商品の燃費性能の根拠となる情報を十分に確認することなく前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

と認定されています。

報じられているところによると、

2015年11月には日産が届出値と実測値に大きな差があることに気づき、

2016年2月から両社で調査を開始した、

ということのようなので、ここでの「共同して実施した」検証というのは、おそらく2016年2月以降に共同で実施した調査のことではないかとうかがわれます。

今回の件は、基本的には三菱の開発や試験に問題があり、日産はだまされたというのが大方の見立てだと思いますが、 日経電子版6月14日の記事では、

「不正をもっと早く知り得たのではないかという消費者庁の見解は不当。必要な対抗措置を講じる」

という日産のコメントが出ています。

課徴金納付命令によれば対象商品は2016年4月20日まで販売されているので、消費者庁は、「日産はもっと早くわかっていて、もっと早く課徴金対象行為をやめられただろう」、という認定であることがわかります。

これに対して日産のコメントは、「わかってから速やかにやめて4月20日になったんだ」ということなのでしょう。

ちなみに三菱の過失についは、

「三菱自動車工業は、本件8商品の各商品の燃費性能について改ざん等の行為を行い、また、当該行為の防止等を図るための管理監督を十分に行っていない。

三菱自動車工業は、かかる状況の下、前記1の課徴金対象行為をしていたことから、それぞれ、当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が景品表示法第8条第1項第1号に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないとは認められない。」

というように、自らが改ざん等を行った、という、よりストレートな認定になっています。

2017年7月10日 (月)

プライベートブランドの「製造元」は不当表示の主体になるか?

最近よくコンビニのプライベートブランドというのを見かけます。

各コンビニの名前を冠した、

「〇〇コレクション」

「〇〇セレクト」

「〇〇プレミアム」

といったお菓子やパンのシリーズの、あれです。

そういうプライベートブランド商品のラベルをみると、だいたい「製造元」として、世の中でいわゆるメーカーとして名前の通っている有名企業が表示されていたりします。

こういう、「製造元」が不当表示について景表法上の責任を負うことがあるのか、というのは、なかなか難しい問題です。

条文上は、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)

とは何か、という解釈論であり、少し形を変えてやわらかくいうと、

自己の商品役務として供給していたのは誰か、

という問題であり(たとえば、白石忠志「景品表示法の構造と要点」NBL1059号(2015年10月1日)58頁)、思いっきりやわらかくいうと、

誰のフンドシで相撲を取っていたのか、

という問題だ、と整理できます。(以下、便宜的に、「フンドシ問題」といいます。)

この問題について、参考になりそうな文献として、大元編著『景品表示法(第5版)』(緑本)p63では、

「イ メーカー、製造元、卸売業者の表示主体性」

というタイトルのもとに、

「小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

と説明されています。

一瞬、主語がはしょられているようでわかりにくいかもしれませんが、重複をいとわず主語を補うと、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

ということです。

そして同書ではさらに続けて、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していた輸入卸売業者〔八木通商〕も

表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

とされています。

これも、主語の重複をいとわず主語を頭にもってくると、

「例えば、〔ベイクルーズ事件〕では、

八木通商は、小売業者〔ベイクルーズ〕に対して、製造元からの情報に基づいて当該ズボンの原産国がイタリアであると説明し、小売業者の指示に従って、イタリア製であることを示すタッグを作成して商品に付して納品していたが、

八木通商も、表示主体として、小売業者と連名で排除命令の名あて人となっている」

ということになります。

この具体例からわかるように、上記で引用した、

「〔メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、〕小売業者が一般消費者に示した表示の内容に関与している場合は、メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者も表示主体となる。」

という記述が念頭においているのは、通常の、

メーカー→卸→小売

というルートでの不当表示の話なんだなあ、ということが理解できます。

つまり、今回のテーマである、「誰のフンドシで相撲を取っているのか」という問題意識は、どうも、緑本のこの部分では希薄なようです。

とすると、同書でそのあとに続く、

「このほか、製造元と販売元がともに表示主体とされて措置命令・・・の名あて人となっている事例は多数存在する。」

という記述も、「製造元」も、「販売元」も、それぞれ自分のフンドシで相撲を取っていることは当然の前提になっていて、ラベルの欄に「製造元」とか「販売元」と記載されている(場合によっては、記載されているだけの)事業者については、あまり想定していないように思われます。

少なくとも、他人のフンドシで相撲は取っていたけど表示の作成には関与していた、というような事業者が名あて人となった事例が「多数存在する」ということはありませんし、わたしの知るかぎり1つもありません。

実はこの「フンドシ問題」については、緑本p65に、

「エ その他の留意点」

というタイトルで、もう少し関係する記述があって、その中では、

「表示上、製造元、輸入元、発売元として名称が記載されているかどうか・・・は、

各事業者の関係を判断する材料を提供するものではあり得ても、

記載の有無・・・に従って表示者が誰であるかが判断されるわけではない。」

と説明されています。

(ところでこの部分、主語と述語がかみ合ってませんね・・・。)

ここから、

「製造元」と記載されているからといって、(表示に関与していても)違反者となるわけではないし、

「製造元」と記載されていなくても、(表示に関与していれば)違反者となることがある、

ということまでは読み取れます。

ですがこの部分もやはり、

「自己の供給する商品又は役務の取引」(景表法5条柱書)にあたるのか、

=自己の商品役務として供給していたのは誰か、

=自分のフンドシで相撲を取っていたのは誰か、

という問題に対する答えは出てきません。

なので、どのような場合に、「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取っていた)ことになるのかは、「自己の供給する」という文言の解釈をつうじてあきらかにするほかなさそうです。

ここで、先に引用した白石先生の論文では、

A→B→C

という商流を念頭に、

「一般化すれば、BがC〔消費者〕に供給する商品役務(5条各号で一般消費者による誤認が問題となる商品役務)と、AがBに供給する商品役務とが、同じものであることが必要となる。」

と論じられています。

(そのあとに、経済的にはまったく同じということはありえないけれど景表法ではあまり厳格には考えられていない、という説明が続きますが、ここでの議論には直接関係ないので割愛します。)

でもこれを杓子定規にコンビニのプライベートブランドにあてはめて、

メーカー(「製造元」)→コンビニ→消費者

(厳密には、間に卸が入るとか、消費者に売るのはフランチャイジーであって本部ではないとか、いろいろありますが、割愛します。)

と考えると、プライベートブランドは物理的にはメーカーが作った商品そのものなので、同じものということになってしまい、プライベートブランドのメーカー(製造元)も表示に関与していたら責任を負うことになるのではないか?という疑問が沸きそうです。

しかし私は、たんに商流に乗っている、あるいは、消費者に供給するのと物理的に同じ商品を供給している、というだけで「自己の商品役務として供給していた」(=自分のフンドシで相撲を取った)というのは広すぎて、もっと絞るべきなんじゃかいかと思います。

たとえばプライベートブランドの場合、誰のフンドシかといえばコンビニのフンドシなので、メーカー(製造元)は、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらない、と考えます。

ほかには、電化製品のOEMやODMの製造受託者も、「自己の商品役務として供給していた」にはあたらないと思います。

少なくとも、白石先生の前記論文で整理されている公取や消費者庁の過去の事例をみるかぎり、プライベートブランドの製造元が責任を負いそうな気配を感じるものはないように、私の目にはみえます。

OEMなら、委託者(ブランド保有者)が仕様を指示して受託者に作らせるので、優良誤認表示があっても、(受託者が表示に関与していても)委託者だけに責任を負わせるのが筋がよいように思います。

プライベートブランドも、基本的には、コンビニ側が表示と商品に責任を持って売るべきなんであって、そうでなければナショナルブランドとかわらなくなってしまいます。

それなのに、プライベートブランドで製造元も企画会議で表示について意見を述べたとか、表示について最終了承したというだけで、製造元にも責任がおよぶとしたら、ちょっと広すぎると思います。

やや微妙なのは、製造受託者側が設計もするODMの場合ですね。

それでもやはり、ODMの場合も消費者に責任を負っているのは、不当表示の文脈では、販売者(製造委託者)ではないでしょうか。

最終的には個別の判断になるのでしょうけれど、「自己の商品」という文言は、重くとらえるべきだと思います。

・・・と、書いたところであるコンビニに入ったら、プライベートブランドでもメーカー名がかなり大きく堂々と書いてあって、ナショナルブランドなのかプライベートブランドなのかよくわからない、その中間くらいのがありました。

こういうのだと、プライベートブランドの「製造元」だから責任を負わないとも言い切れないような気がします。

結局、この手の問題はケースバイケースで考えるほかないように思います。

2017年6月30日 (金)

実際と異なるけれど景表法違反にならない表示

景表法は、実際と異なる表示をした場合に違反になる(事実をありのままに表示しているかぎり違反にはならない)のですが、実際と異なるすべての表示が景表法違反になるわけではありません。

不当表示は、表示と実際が異なるだけでなく、

「実際のものよりも著しく優良」(優良誤認表示の場合。景表法5条1号)

である場合に初めて成立するからです。

なので、顧客の誘引とはまったく関係ないような、いわば誤記のたぐいは、景表法違反にはなりません。

たとえば、あるシリーズのお菓子について、「アルミ包装」と表示していたところ、同じシリーズの特別企画の商品についても同じ「アルミ包装」という表示していたのに、生産の都合で紙包装になった、というような場合、アルミ包装か紙包装かで消費者の選択にちがいが生じるとはいえないような場合(より正確には、アルミ包装のほうを紙包装よりも著しく優良だと消費者がとらえないような場合)であれば、それはたんなる誤記であって、景表法違反にはなりません。

ほかには、たとえば、ほんとうはMサイズの服なのに、まちがって「Lサイズ」というシールを貼ってしまったというのも、不当表示にはならないでしょう。

そういう誤記をすると、Lサイズがほしい人は誘引されてしまう(誤記がなければ買わないのに誤記のために買ってしまう)のかもしれませんが、消費者一般が誘引されるわけではない(Mサイズのひとは、誤記のためにむしろ買わなくなってしまう)からです。

ほかには、たとえばほんとうは6月30日が賞味期限の牛乳に、まちがって賞味期限を短めに「6月29日」と表示してしまうのも、不当表示にはならないでしょう。

賞味期限が短いとむしろ消費者はその商品を敬遠するので、「優良」と誤認させていることにはならない(むしろ劣悪と誤認させている?)からです。

もちろん、どんなささいな誤記でも放置しておくのは商売として望ましくないので、すみやかに訂正すべきですが、それと景表法違反とはまた別の話です。

顧客の誘引とは関係のない誤記というのも、世の中には案外多いのかもしれません。

そのような場合に、

「消費者庁から措置命令を受けて新聞沙汰になるかも」

とか、

「課徴金を命じられるかも」

といった心配をする必要はない、ということです。

2017年5月26日 (金)

返品による課徴金の減額

景表法の課徴金では(じつは独禁法でも同じなのですが)、返品により課徴金を減らすことができる可能性があります。

というのは、景表法施行令1条では、

「課徴金対象期間において商品が返品された場合」

には

「返品された商品の対価の額」

を課徴金対象の売上額から控除するとされているからです(2号)。

悩ましいのが、その返品が、

「課徴金対象期間において」

なされたものでなければならないとされていることです。

ここでいう、

「課徴金対象期間」

とは、景表法8条2項で、

「課徴金対象行為〔≒不当表示行為〕をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置〔誤認解消措置〕として内閣府令で定める措置をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、

当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義されています。

要するに、課徴金対象期間は、

①原則(不当表示をやめると同時に販売もやめたとき):不当表示行為をした期間

②例外その1(不当表示行為後も販売を継続したとき):不当表示行為をした期間+最後に販売した日(ただし不当表示終了後の追加期間は最長6か月)

③例外その2(不当表示行為後も販売を継続し、かつ、②の6か月の日よりも前に誤認解消措置をとったとき):不当表示行為をした期間+誤認解消措置の日まで

ということです(最長3年は、はしょりました)。

要約してもややこしいですね。

さて上で、返品を受け付けると課徴金が減る、と書きましたが、ここでジレンマが生じます。

典型的な場合として、メーカーが小売店を使って販売していた場合で、不当表示に気付いたと同時に販売もやめる場合を例に考えてみましょう。

この場合、不当表示をやめるのと同時に販売もやめているので、課徴金対象期間の最終日は不当表示行為をやめた日となります。(①)

(なお当然のことですが、この例でメーカーが不当表示行為をした場合、課徴金がかかるのはメーカーから小売店への売上であり、小売店から消費者への売上ではありません。

したがって、メーカーが不当表示行為をやめたあとでも小売店の棚に商品が残っていて消費者が1000円で買ってしまったとしても、その分に30円の課徴金がかかるわけではありません。

というより、正確には、当該商品がメーカーから当該小売店に課徴金対象期間中に売られたときの売上に課徴金がすでにかかっている、ということです。)

ということは、不当表示行為をやめた日のあとに返品を受け付けても、それは課徴金対象期間中の返品ではないので、課徴金の控除はされないことになります。

そうすると、返品により課徴金からの控除を受けようとすると、(さすがに不当表示を続けるわけにはいきませんので)不当表示をやめたあとに

「取引」(景表法8条2項)

をする必要があります(②)。

そうすると、返品による課徴金額の控除を認めてもらうために(課徴金対象期間を意図的に延長するために)、たとえばその商品を1個だけ(通常の販売を継続していたら課徴金が積みあがってしまうので、それはできません)、不当表示をやめたあとに小売店に販売する必要がある、という、おかしなことになります。

そうすれば、その1個には課徴金がかかっても、小売店から100個返品を受ければ、99個分については課徴金から控除されることになります。

でも、返品による控除をうけるために、1個だけ販売して課徴金対象期間を延ばさなければならないというのも、なんだか変な感じがします。

(ちなみに、「取引」は、あきらかに販売のことであり、返品は含まれないと思われます。)

ほんらいであれば、不当表示であることが分かったあとに受けた返品は控除対象にしない、としておくべきだったのでしょう。

この、課徴金対象売上額の算定方法に関する施行令1条の規定は、独禁法を参考にしたもので、独禁法施行令5条では、

「実行期間において商品が返品された場合」

には、

「返品された商品の対価の額」

を課徴金額の基礎となる売上額から控除するとされています(2号)。

ちなみに、ここでの「実行期間」とは、独禁法7条の2第1項で、

「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間

(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。」

と定義されています。

つまり独禁法も景表法も、基本的な発想は、返品されているのに課徴金の対象になるのはおかしい、という、素朴な会計的な発想でできているわけです。

両者が違うのは、独禁法(典型的にはカルテル)の場合は、対象商品の販売が継続されても課徴金対象期間が延長されることはないので、違反行為の終了後の返品額が課徴金対象売上から控除されるということが、法文上ありえない、という点です。

これに対して不当表示の場合には、不当表示行為をやめても通常その影響がすぐになくなることはないために、課徴金対象期間を最長6か月延長しました。

逆にいえば、カルテルの場合には、カルテルが終わったら価格への影響はなくなる、という前提で制度ができているのです。

というより、価格への影響が残っていたら、それはカルテルの実行期間が続いているのだと解釈するということが、当然あるいは暗黙の前提になっているのでしょう。

このように、不当表示の場合にはカルテルと違って違反行為のあとにも課徴金対象期間を延ばす必要があるという立法判断は正しかったと思うのですが、控除対象の返品まで(あまり深く考えずに?)独禁法に引きずられて課徴金対象期間(≒実行行為期間)内としてしまったために、おかしなジレンマが生じることになってしまいました。

以上のような問題点を、

松田知丈「景品表示法違反を指摘された場合の企業の争い方(上)」NBL1097号

では、

「不当表示をやめると同時に販売も終了した場合、その後の期間が『課徴金対象期間』に含まれるかがポイントとなる。

この要件との関係で、売上額(課徴金額)の減額が難しい場合も考えられる」

というふうな言い方で指摘されています(9頁)。

では「課徴金対象期間」という返品の要件をなくせばいいかといえば、そうもいきません。

そういうことをすると、いつまでも返品による控除を認めることになり、いつまでたっても課徴金額か確定しないということにもなりかねないからです。

そういう意味では、控除が認められるための返品は「課徴金対象期間」内ではなくて、「不当表示行為期間」でなければならない、としたほうが、おかしなジレンマも生じずすっきりしたのではないか、という気もします。

違反者には不利になりますが、独禁法と同様、景表法の場合も、この控除の規定は、前述のような、素朴な会計的発想でできているだけで、たぶんそれ以上の深い意味はないので、この返品に関する規定を使って違反行為終了後の控除までは認める必要はない気がします。

立法というのは、細かく見ていくといろいろ難しいものですね。

実務的には、どうせ不当表示のあった商品は小売店から回収しないといけないのであれば、不当表示行為終了日から6か月以内にできるだけたくさん回収して、6か月目の日に名目的に1個だけその商品を小売店に販売する、というのが課徴金額を減らすポイントになりそうです。

そして、6か月目の日の販売は有償でないと、やっぱり

「取引」(景表法8条2項)

とは認められない認められないのでしょう。

不当表示の判明したいわばキズモノを通常価格で買ってくれる小売業者もいないでしょうから、1円で売る、ということも考えられます。

でも、日用雑貨とか、単価の小さい商品なら細かいことはいわず、事情を説明して頭を下げて買い取ってもらうのでしょうか。

マンションとか不動産とか、単価の大きな商品の場合には、なかなかシビアな問題になりそうです。

あるいは、あとで買い戻す約束付きで売るということも考えられますが、それでは真正の、

「取引」(景表法8条2項)

とは認められないかもしれません。

あるいは、グループ会社に買わせる、ということが可能なら、それでもいいのでしょう。

いろいろと細かいことを考えると悩みは尽きません。

2017年4月17日 (月)

合理的根拠と統計学の利用についてのある書籍の記述

「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成25 年12 月24 日 消費者庁、一部改定 平成27 年1月13 日)の中に、

「体験者、体験談は存在するものの、一部の都合の良い体験談のみや体験者の都合の良いコメントのみを引用するなどして、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのような表示がされている」

という記述がありますが、この点に関連して、

林田学『景品表示法の新制度で課徴金を受けない3つの最新広告戦略』

という本のp56以下ではこの部分を評して、

「つまり、体験談が事実として存在するとしても、都合のよい体験談やコメントばかり引用しているような場合は違反とされる。

従来、『体験談は捏造さえしなければよい」というような考え方もあったが、それだけではなく、『それが例外ではない』ことの証明も必要というわけだ。」

「たとえば、ダイエットサプリで『Aさん、2ヵ月で-10キロ』というような広告をする場合、『Aさんが本当に2ヵ月で10キロ痩せた』ことの証明だけではなく、『それが例外でない』ということの証明も必要になるのである。」

と説明されています。

しかし、ちょっと考えてみるとわかりますが、「留意事項」の、

「誰でも容易に同様の効果が期待できる」(≒誰でも2か月で10キロやせられる)

というのと、同書の、

「2か月で10キロやせられるのが例外でない」

というのとでは、まったく意味が違います。

「留意事項」の、

誰でも容易に同様の効果が期待できる」(誰でも2か月で10キロやせられる)

という基準は、文字どおりに読めば一切の例外を認めないかのようでちょっと厳しすぎますので、そこは、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人がいてもよい)

と読むことにしましょう。

そして、これが事実なら、景表法上もまずは問題ないのでしょう。

しかしそれでも、同書の、

「2か月で10キロやせられるのが例外でない」

というのでOKだ、というのとはまったく違うと思います。

さらに同書の説明で問題なのは、同書は「例外ではない」というのを非常に緩やかに解している(100人中3人が10キロやせれば、10キロやせるのは「例外ではない」といえる)、と考えていることです。

つまり、同書では続けて、

「後者の『例外ではない』ことの証明は、統計学のロジックを用いることで説得力を増す。」

「たとえば、臨床試験を行い、その結果を統計的に処理したところ、図表3-3・・・のような正規分布図・・・が描け、

『-10キロはその中の95%ゾーンに入る』

という説明が可能なら、-10キロは例外とは言えないわけだ。

正規分布を前提とすると、値の95%は平均値±標準偏差×2のゾーンに入るからだ」

と説明されていることです。

ここで、「図表3-3」では、95%信頼区間の上限に-10キロが来ている、以下のような図が示されています。

Img_0939

しかし、このように-10キロが95%信頼区間の上限に来ているということは、(信頼区間から外れる5%は信頼区間の両側に2.5%ずつ存在しますから)、母集団(たとえば日本人の成人全員)のうち、このダイエット食品を食べて10キロやせる人は上位2.5%しかいない、ということです。

逆にいえば、97.5%の人は、10キロもやせない、ということです。

これでは、とうてい、「留意事項」(改)の、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人もいる)

という基準はみたさないでしょう。

同書の議論は正式な医療統計学に基づくものではありませんが、そこはダイエット食品なので大目に見るとしても、ここで統計学の考えを適用するなら、むしろ、-10キロが95%信頼区間の上限に位置するのではなくて、下限に位置する必要があると思います。

そうすれば、10キロ減量できない人は母集団全体の2.5%というきわめて例外的な人として無視することが許され(統計的誤差)、

「たいていの人は容易に2か月で10キロやせられる」(=まれに、2か月で10キロやせられない人もいる)

という「留意事項」(改)の基準も満たし、統計学により説得力を増すことができるといえます。

同書の著者は、

「統計学の書物を読み漁ったり、ハーバード大学メディカルスクールのオンラインコースを受講したりして、統計学や医療統計の知識を得た」(p59)

のだそうですが、ちょっと頼りないですね。

事業者のみなさんは、このようなアドバイスを真に受けないよう、気をつけましょう。

ただ現実には、このようなアドバイスでも、ことダイエット食品に関しては、結論は正しい、ということはあるかもしれません。

というのは、ダイエット食品で10キロもやせることはそもそもありえないので、とてもゆるい同書の基準(-10キロが信頼区間の上限に来る基準)であっても満たさないため、

「統計学のロジックを用いることで説得力を増す」

ことに成功することはまずありえないからです。

でもだからといって、同書の理屈が正しいことになるわけではないことも、明らかでしょう。

2017年3月31日 (金)

先着順が総付景品である理由

景品を先着順であげるのは、消費者庁の運用基準では、総付景品であるとされています。

このことは懸賞運用基準3項で、

「来店又は申込みの先着順によって定めることは、「懸賞」に該当しない(「一般消費
者に対する景品類の提供に関する事項の制限」その他の告示の規制を受けることがある。)。」

というように明記されています。

明記されてしまっているので結論は動かしようがないのですが、その理由については消費者庁のQ&Aで、

「Q46

商品の購入者や来店者に対し、先着で景品類を提供することは、懸賞に当たるのでしょうか。それとも総付景品の提供に当たるのでしょうか。」

という質問に対して、

「A

来店又は申し込みの先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらないことから、懸賞には該当しません。したがって、原則として、商品の購入者や来店者に対し、先着で景品類を提供することは、総付景品の提供に該当します。」

というように説明されています。

しかし、先着順は偶然性や優劣ではないというこの説明はおかしいと思います。

(なおここでの「偶然性や優劣」というのは、懸賞告示の1項の、

「一 くじその他偶然性を利用して定める方法

二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法」

を受けています。)

なぜなら、

「先着10名様に賞品を差し上げます」

というのと、

「100m走のタイムで上位10名に賞品を差し上げます」(→明らかに「優劣」)

というのと、本質的には何の違いもないからです。

まるで消費者庁は、

「かけっこが速いのは身体的能力の問題なので『優劣』だが、お店に来るのが早いかどうかは能力の問題ではないので『優劣』ではない」

あるいは、

「かけっこが速いかどうかは個人の能力に左右されるが、来店順位は客観的な条件なので『優劣』ではない」

と考えているみたいですが、お店に来るのが早いかどうかだって、立派な「優劣」だと思います。

「優劣」というのは、何か社会通念上の積極または消極的な価値評価を受けるものであることを前提にしているような響きもありますが、そんなところで「優劣」と、価値評価を伴わないたんなる序列(?)を区別できるはずがありません。

もし、価値評価を伴わないたんなる序列を「優劣」に含まないとすると、逆に懸賞に該当すべきものまで大幅に総付になってしまいます。

もともと懸賞告示1項2号の「優劣又は正誤」というのは、以前は偶然性だけだったのが、それだと、「作文を送って優秀なものに賞品を差し上げます」というようないわゆる優等懸賞が脱法的に行われるようになったので、それを規制するために追加されたものです。

なのでもともと「優劣」なんて、社会的に優れているかどうかなんてどうでもよくて、たんなる偶然性にひと手間加えただけのものでよかったわけです。

さらにQ&Aでは続けて、

「しかしながら、例えば、ウェブサイト、電話、ファクシミリ、郵便等による商品等の購入の申込順に商品を提供する場合等に、商品等の購入者が、申込時点において景品類の提供を受けることができるかどうかを知ることができないのであれば、偶然性によって景品類の提供の相手方が決定されることに等しいと考えられますので、この提供の方法は懸賞とみなされることがあります。」

と回答していますが、これも前段の回答と矛盾します。

というのは、前段では、

「来店又は申し込みの先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらない」

と、先着順が定義上、偶然性や優劣には該当しないといっているのですから、それが購入申し込み時点で順位がわからないというだけで「偶然性や優劣」に該当することになるというのは論理が破たんしています。

まあここは善意に解釈して、前段と後段は併せて読むんだと、つまり、

「先着順は、

購入申し込み時に順位がわかる場合(通常はこちらでしょう)には『偶然性や優劣』ではないので総付

だけれど、

購入申し込み時に順位がわからない場合には『偶然性』によるので懸賞だ」

と読むのかもしれません。

しかしこれも問題です。

なぜなら、これだと来店者に景品をあげる場合など、取引を条件としない景品提供の場合をうまく説明できないからです。

(ちなみにQ&Aの設問では、「来店者」に対して先着順(つまり来店順)で景品をあげる場合も想定しています。)

もし「購入申し込み時に順位がわかっているなら総付」というのを、来店者に対して景品をあげる場合にまで適用すると、明らかに不都合です。

なぜなら、来店者に景品をあげる場合は、お店に来てもらえばお店としては目的達成なわけですから、もし購入申し込み時(正確には申込前)に順位がわかっているかどうかを基準にすると、景品の目的を達成した時点(来店時)では順位がわかっていなくても、来店後、(未来永劫到来しない)申し込み時(正確には、申込前)に順位がわかっていれば、総付だということになってしまうからです。

(なお来店者に提供する経済的利益に取引付随性が認められるのは基本的には小売店が提供する場合に限られますので、小売店を想定してください)

ひょっとしたらQ&Aの「(購入の)申込時点」で順位がわかるかどうかを基準にするというのは、来店者に景品を提供する場合には、「来店時」(正確には、来店前)に順位がわかるかどうかを基準にすると読み替えるのかもしれません。

でもそうすると、来店時(正確には、来店前)に順位がわかることなんて普通ないでしょうから(事前に電話で順位を問い合わせてから来店する人がいるかもしれませんが、それでも、来店時には順位が変わってしまっているかもしれません)、来店者に景品をあげる場合には途端にほぼ100%懸賞となり、前段の、

「来店・・・の先着順によって景品提供の相手方を定めることは、偶然性や優劣で選ぶことには当たらない」

という原則論が適用される場合がほぼない、ということになってしまいます。

ちなみに真渕編著『景品表示法〔第4版〕』(緑本)p191では、

「購入者の一部に先着順で景品類を提供する場合において、購入者が自己の順位をあらかじめ(注・購入前に)知ることができないようなものについては、購入者にとっては『偶然性を利用して定める方法』となるのであり、懸賞に該当することになる。」

と説明されています。

つまり、消費者にわかるかわからないかだけを基準に懸賞か総付かを区別する、ということです。

これはこれで一つの割り切りで、私もこの結論は(理屈はさておき)正しいと思いますが、でもそうすると、Q&Aの、先着順は(定義上)偶然性や優劣にはあたらないという説明とは異なることになります。

それに、緑本の説明でもやはり、(購入者ではなく)来店者に先着順で景品をあげる場合には、どう考えるのかはっきりしません。

話を元に戻してQ&Aについてですが、もし後段のように、

消費者が購入申し込み時(前)に順位がわからないなら懸賞(わかると総付)だ

というルールを一般的に適用すると、たとえば、懸賞運用基準2(3)で懸賞(優劣又は正誤)の例としてあげられている、

「パズル、クイズ等の解答を募集し、その正誤によって定める方法」

の企画を商品パッケージに告知する場合、商品購入は景品提供の条件ではない(場合もある)ので、購入申し込み時が永久に到来しないことになり、永久の未来の先の時点までのどこかの時点では正解はわかるでしょうから、ほとんど常に総付だ、ということになりかねません。

けっきょく、「購入申し込み時に景品がもらえることがわかっていれば総付だ(わからなければ懸賞だ)」というルールは、

先着順を総付と説明するために無理やりひねり出されたルールに過ぎない

と割り切るか、もう少し広く、

購入を条件とする景品提供の場合に限って適用されるルールだ(購入を条件とせずに取引付随性が認められる、来店者に提供する場合やパッケージに告知される場合には適用されない)、

ととらえるほかないのではないか、という気がします。

実は先着順が総付である理由については、青林書院の法律相談シリーズの、

加藤他編『景品表示法の法律相談』

の29頁(内田清人執筆部分)で、(ちょっと長いですが引用すると)

「『先着順』が懸賞にならないのは、例えば、景品の数に限りがあり、商品を購入してくれた方に提供したいが全員には行き渡らない例をイメージすると分かりやすいと思います。

この例は、景品が100個なら100名までは順次提供可能、50個しかなければ50個で終わりになるというように、『景品のある限り購入者全員に提供する』方法、つまり景品数は少ないけれども、提供する方法は『懸賞によらない』ものであるとみることができます。

これらは結果において「先着100名様」「先着50名様」に景品提供するパターンと同じことです。

他方、景品の数が500個、1000個、さらには10億個と増えても、景品数に応じて枠が増えるだけで、『景品のある限り購入者全員に提供する』方法であることには変わりはありません。

つまり、どれだけ大量に景品を用意しても、なくなり次第終了となるのは等しく当てはまりますから、総付景品は、提供数の違いはあっても全てが『先着〇名様』に景品を提供する方法ということができるのです。

少し違和感はありますが、先着順を『懸賞』に当たると考えると、総付景品として規制する対象が存在しないことになってしまうという整理なのでしょう。」

と説明されています。

私は、これは非常に説得力のある説明だと思います。

とくに景品規制でわからなくなったときには、極端に振ってみる(先着10億人とか、1兆円相当の景品とか)、というのは私もよくやる手ですが、そうすると問題の本質がみえてくることが多いです。

たしかに、「先着3名様」と、「先着10億名様」が消費者の目からみて同じなのか(先着3名なら急ぐけれど10億名なら急ぐ必要はない、と感じるのではないか。そこにはやはり差があるのではないか)、という疑問はあるのですが、運用基準が先着順を総付だと言い切ってしまっているのをうまく説明するには、このように説明するのが最も説得力があると思います。

(ちなみにこの本については以前雑誌「公正取引」で書評を書かせていただいたののですが、とても論理的に書かれており、景表法がよく理解できます。)

それを、「先着順は優劣や偶然ではない」とか、「先着順は客観的な条件だ」とか説明しようとするから、いろいろなところで矛盾が出てくるわけです。

客観的な条件か優劣かで区別するのは無理です。区別できない場合がいくらでもあるからです。

たとえば、

①「100m走で上位10名にプレゼント」→懸賞

②「100m走で12秒切った人にもれなくプレゼント」→たぶん懸賞(?)

③「ダイエットで半年以内にマイナス5キロ達成した人にプレゼント」→たぶん懸賞(?)

④「女性に限って、プレゼント」→総付

⑤「浴衣を着てきた人にプレゼント」→たぶん総付

⑥「ピコ太郎の『ペンパイナッポーアッポーペン』の物まねをしてくれた人にプレゼント」→たぶん総付(ちょっと練習したら私でもできそうなので?)

⑦「自動車購入者にカーナビプレゼント」→総付(消費者庁Q&AのQ60。お金さえ出せばクルマは買えるので?)

⑧「ポケモンGOでラプラスをゲットした人にプレゼント」→たぶん懸賞

⑨「入場時にキスしてくれたカップルにプレゼント」→たぶん総付(?)

⑩「バク転してくれた人にプレゼント」→たぶん懸賞(私には一生できそうもないので)

などは、不確実かどうかで決めると上のように(微妙なケースはあるものの)決められますが、客観的な条件かどうかでは決まらないか、全部客観的な条件だと言おうと思えばいえてしまうのではないでしょうか。

たとえば、100mで12秒切るのは客観的な条件のようにみえます。だけど自分が12秒切れるかどうかは必ずしもわからないので、客観的条件ではない、とでも考えるのでしょうか。でもそれって、消費者の目から見て不確実かどうか、という基準そのものです。

あくまで、「消費者一般の目からみて不確実かどうか」で決めるべきでしょう。

そういう基準でいくと、来店順に景品をあげる場合には、来店前に順位がわかることは通常ないでしょうから、基本的には懸賞と考えるのが、ほんらいは正しいのでしょう。

それを運用基準が総付だと言ってしまったものですから、これを総付だと説明するのに苦慮するわけです。

そのなかで、前記書籍の説明は、無理な結論を何とか理屈で説明しようとする試みとして、たいへん優れていると思います。

なお、消費者にとって不確実かどうかできめるとして、次に、いつの時点で不確実性の有無を判断するのかという問題があります。

私は基本的に、消費者が企画を知ったときを基準にすべきだと考えているのですが、すでにとても長くなってきたので、またの機会に考えてみたいと思います。

2017年3月 7日 (火)

不実証広告規制ガイドラインの10・15モードの記載についての疑問

不実証広告ガイドライン第3-2では、提出資料が

「客観的に実証された内容のもの」

に該当するのは

① 試験・調査によって得られた結果

② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

のいずれかの場合であるとされ、さらに、(1)アでは、①について、

「試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。」

としたうえで、その例として、

「自動車の燃費効率試験の実施方法について、10・15モード法によって実施したもの。」

というものが挙げられています。

しかしこの例は、ガイドラインに載せるのはあまりふさわしくないと私は思います。

というのは、10・15(じゅう・じゅうご)モードと実際の燃費にはけっこうなかい離があるからです。

とくにハイブリッド車については、10・15モードでは電池をフル充電して試験してよいことになっているため、実際の燃費と10・15モードとの間に大きなかい離があるものもあるようです。

つまり電池容量を大きくすれば理論的にはいくらでも10・15モードはよくできるわけです。

なので、むしろ10・15モードで計測した燃費については、10・15モード燃費であることを明記しないと優良誤認表示になる可能性さえある、といえると思います。

少なくとも実際の表示では、10・15モードであることを明記したうえで、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

という断り書きまであるのが常ですので、実際に事件になることは今後もないでしょう。

また細かい解釈論を述べれば、

10・15モードが実燃費と違うことはドライバーにとっては常識なので誤認はない

とか、

10・15モードで表示することが社会的な慣習になっている、

とか、いろいろ反論もありえます。

ですが、ではそれがガイドラインに典型例として載せる例として適切か、といえばそうではないでしょう。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

というような表示はまったくナンセンスな記載、ということになるでしょうが(だってガイドラインが典型的にOKな場合と言っているのですから)、そんなふうに考えている関係者はまずいないでしょう。

実際、先日の三菱自動車の燃費偽装事件の消費者庁の命令をみると、実燃費より良い燃費を表示していたことが問題とされたのではなく、10・15モードで計測したように表示しながら10・15モードで定められた方法で計測していなかったことが問題とされています。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、そのような認定は本質を外している(本質は表示通りの「性能」があるかどうかであって、政府の定めた方法によるかどうかは関係ないはず)だからです。

(ただ、命令の考え方としては、

「実燃費とのかい離を問題にするとそのかい離が『著しく優良』であるほど大きいことを認定しないといけなくて大変なので、手堅く『10・15モードと表示しながら10・15モードではなかった』というところで違反を認定した」

という実務的な配慮があったのかもしれません。)

ともかく以上のような理由で、10・15モードはこのガイドラインにのせる典型例としては、ふさわしくないと思います。

ほかの例でも、JISを基準にすればいいとか、ちょっとお上の基準を重視しすぎに思われます。

「JIS基準で測れば良好な性能は出ないけれど、実際に近い使用状況で測れば良好な性能がでる」ということも、場合によってはあるのではないでしょうか。

政府のガイドラインなので政府の基準を重視するというのは役人のメンタリティとしてはやむを得ないのかもしれませんが、景表法の誤認は一般消費者を基準とすべきことからすると、お上の基準が絶対であるかのようなガイドラインは好ましくないと思います。

2017年2月16日 (木)

日産自動車の燃費不正問題の補償内容について

今朝の日経朝刊に日産の燃費不正問題の補償についての社告が出ていましたが、改正景表法のもとでの返金措置の観点からみると、何かと興味深い内容になっています。

参考までに同社のウェブサイトから補償内容を以下に引用します。

■対象となるお客さま

「デイズ」または「デイズ ルークス」を2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

(自動車検査証に記載の使用者さま)

■補償の内容

<お支払い金額(1台あたり)>

① 以下②③④以外のお客さま:10万円

② 残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

③ リースにてご利用のお客さま(2016年4月21日までにリース契約をご締結されたお客さま):契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約満了時に車両買取権を行使される場合は、現契約満了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

④ 過去(2016年4月20日以前)にご使用いただいていたお客さま:使用年数に1万円を乗じた額。

■お支払い金額の考え方

•新届出燃費値と旧届出燃費値との差による燃料代の差額

•今後の車検時等に想定される自動車関連諸税の増額分

■補償お支払い手続き期限

2017年3月31日(当日消印有効)

■その他

新届出燃費値と旧届出燃費値との差異により、ご購入時の減税ランクに差が生じ、追加納税義務が発生した場合は、三菱自動車工業株式会社が対応いたします。

まず、補償対象者が

2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

に限られている点が、返金措置の要件を満たすのかは、検討を要します。

2016年4月21日は、三菱自動車と日産自動車が軽自動車(今回のデイズ、デイズルークスも含まれます)の燃費偽装について公表・記者会見をした日でしたが、そのあとに購入した人は分かって購入しているんだから補償の対象にしない、ということなのでしょう。

さて、これは景表法の返金計画の要件に照らしてどうでしょうか。

景表法上の返金措置は、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

でなければならず(景表法10条1項)、

「課徴金対象期間」

は、少々長いですが、

「課徴金対象行為をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置〔注・誤認解消措置〕をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義されています(景表法8条2項)。

なので、

「課徴金対象行為」(具体的には、テレビCMとか、チラシの配布とか、ウェブサイトの表示)

を4月21日にやめており、かつ、同日以降、日産自動車が対象車種をディーラーに販売(直営店の場合は一般消費者に販売)することをやめていれば、括弧書の

「取引をしたとき」

にも該当しないということで、「課徴金対象期間」は4月21日までということになり、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

の要件は満たされることになります。

日産本体が「取引」をやめていれば足りるので、ディーラーが販売してしまったかどうかは関係ない(そんなことはなかったと思いますが)、というのがポイントです。

ともあれ、記者会見までしながら販売を続けることは考えがたいので、本件ではこの要件は満たされているのでしょう。

では次の「補償の内容」はどうでしょうか。

原則が①の10万円であるというのは景表法10条5項2号の、

「当該実施予定返金措置計画に係る実施予定返金措置の対象となる者

(当該実施予定返金措置計画に第三項に規定する事項が記載されている場合又は前項の規定による報告がされている場合にあつては、当該記載又は報告に係る返金措置が実施された者を含む。)

のうち特定の者について不当に差別的でないものであること。」

における、

「不当に差別的」

には該当しないのでOKでしょう。

②のうち、

「残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。」

の部分は、使用年数に応じた返金ということで「不当に差別的」とはみられないのでしょうけれど、問題はただし書の、

「ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。」

の部分です。

というのは、景表法10条5項3号で、

「当該実施予定返金措置計画に記載されている第二項第一号に規定する実施期間が、当該課徴金対象行為による一般消費者の被害の回復を促進するため相当と認められる期間として内閣府令で定める期間内に終了するものであること」

とされており、これを受けた景表法施行規則13条では、

「法第十条第五項第三号に規定する内閣府令で定める期間は、

法第十五条第一項 の規定による通知〔注・課徴金納付命令の弁明の機会付与通知〕を受けた者が、

第十条第一項の申請書〔注・返金計画認定の申請書〕を消費者庁長官に提出した日から四月を経過する日・・・までの期間とする。」

とされているのです。

つまり、返金措置による返金は、返金計画認定申請書の提出日から4か月以内に終わらないといけないのです。

そして、残価設定型クレジットの契約終了後に返金するということは、少なくとも一部の顧客については、4か月は過ぎた後でしょうから、②はこの要件を満たさないことになります。

③も同様です。

怖いのは、ほんの一部でも法定の要件を満たさない返金対象者がいると、計画全部が認定拒絶になるとうことです(要件を満たさない顧客の部分だけが認定拒絶になるのではない)。

なお返金額は最低でも購入額の3%以上でなければなりませんが(景表法10条1項)、デイズのメーカー希望小売価格は高くても180万円くらいのようなので、最低返金額の要件は満たしそうです。

(3%から逆算すると、10万円の返金で最低返金額の要件を満たす取引額は333万3333円以下でないといけない、ということになります。)

さらに気になるのは、リースと購入の顧客がいる場合に、購入の顧客は認定の要件を満たすけれど、リースの顧客は満たさない、という場合に、返金計画が全部無効になるのか、それとも、リースについてだけ無効になるのか、という問題です。

リースと購入とでは取引態様が違いますし、どちらかというと少数派と思われるリースのせいで全部の返金計画が不認定になるというのもいかにも据わりが悪いですから、リースと購入に分けて返金計画を提出することもでき、そのうちリースが認定拒絶でも購入の顧客については認定され得る、と考えるべきでしょう。

ともあれ、以上のように、自動車のような耐久消費財の場合には、今の景表法の返金計画の要件は、いかにも杓子定規だなあという気がします。

企業としては、べつに法定の返金措置の要件を必ず満たさないといけないわけではなく(課徴金からの減額が認められないだけ)、日産もわかってやっていることでしょうし、それ自体は何の問題もないのですが、将来的には、法改正するなり、もう少し柔軟な制度にしていただけたらと思います。

2017年1月30日 (月)

三菱自動車の課徴金納付命令について

1月27日、三菱自動車の燃費偽装に対する措置命令と課徴金納付命令が出ました

課徴金納付命令(と報道)を読んで気が付いたことを書き留めておきます。

■対象車種について

課徴金の対象になっているのはいわゆる普通車だけであり、軽自動車は対象になっていません。

同日日経記事によると、

「返金計画が未提出、または不十分と判断した三菱自の普通車など5車種の売上高の3%相当額とした。

軽自動車については両社の返金計画を認め、その実施状況を踏まえて判断する。」

ということです。

■表示媒体について

違反が認定されたのは、カタログとウェブサイトだけになっています。(これは三菱と日産の排除措置命令でも同様です。)

広告としてはほかにも、テレビCMや新聞広告、新聞チラシ、雑誌広告、などが考えられ、広い意味での表示には、自動車本体に貼られる

「平成30年燃費基準20%達成車」

などのステッカー(?)なども思いつきますが、これらは対象になっていません。

これらの媒体では燃費について表示していなかった、ということは考えにくいので、なぜカタログとウェブサイトだけが対象になったのかはわかりません。

■返金計画について

前記日経記事によれば、軽自動車については三菱と日産が消費者庁に返金計画を提出していることがわかります。

また、「未提出」なのは、各社それぞれの判断なのでよいのですが、「不十分」というのは、どのような点が不十分と判断されたのか、気になるところです。

■日産への課徴金について

日産も返金計画を提出しているということは、おそらく過失の有無は争わない立場なのであろう、とうかがえます。

不当表示であることを知らずに不当表示をしていた場合には、知ってから速やかに不当表示をやめれば課徴金はかからない、というのが消費者庁の見解です。

OEM先にだまされたという気の毒な場合にはまさに「速やかに」やめたかどうかが問われるわけですが、本件の日産のような場合でも課徴金がかかりうるということは、消費者庁に、「速やかに」やめたと認めてもらうのは、実際にはかなり大変なのだろうと想像されます。

とくに本件の場合には、日産も自動車メーカーなので、自社で検査をしたら表示どおりの燃費が出なかったと分かった時点で、「知った」ということになるのではないかと考えられます。

報道によれば2015年11月に日産は実測値と届出値との間に明らかな差があることに気づいたとされていますが、その時点で「知った」ことになるわけです。

その後三菱に原因を問い合わせたとか、その原因が三菱の偽装であることがわかったとかいう事実は、日産がいつ「知った」かとは関係のないことです。

というのは、不当表示は表示と実際が異なれば成立するのであり、その原因が納入業者の偽装であるか計測ミスであるかといったことは関係がないからです。

・・・と、理屈は以上のとおりなのですが、知ってから「速やかに」やめるのが本件では事実上きわめて困難であったであろうことは、容易に想像できます。

不当表示の原因がまだ分からないのに、ともかく公表して販売も中止する、というのは、かなり勇気がいるからです。

日産としては、記者会見なり、プレスリリースなりをするとしても、できれば、「わが社には責任はないんですよ(悪いのは三菱ですよ)」といった内容にしたいところでしょう。

それは人情としては非常によく理解できます。

このあたりは消費者庁による実態に即した柔軟な解釈を期待したいところです。

■課徴金対象行為について

課徴金対象期間については、カタログ上の不当表示について、始期はカタログをディーラーに最初に出荷した日、終期は最後に出荷した日、とされています。

カタログがディーラーに届いた日でもなければ、カタログが消費者の目に触れた日でもありません。

つまり、課徴金対象行為は「カタログの出荷」ということです。

課徴金ガイドラインでも同様のことが述べられていますので、それを確認した形になっています。

■誤認解消措置について

命令では、三菱自動車が平成28年9月11日に誤認解消措置をとったことが認定されています。

誤認解消措置をとったあとの売上には課徴金はかかりませんが、本件では、取引をした最後の日が8月12日と認定されているので、結果的には、誤認解消措置が課徴金の減額には結び付いていません。

■自主申告について

命令では、三菱自動車が平成28年8月31日午後に消費者庁に自主申告したことが認定されています。

ただ、それは調査開始の通知を受けた時(平成28年5月27日又は同年8月31日午前)よりもあとなので、課徴金納付命令があるべきことを予知してなされたものとして、課徴金の半額減額は認められていません。

「午前」「午後」とわざわざ明記していることからもわかるように、日付ではなく、時間的な前後で「予知」していたかどうかが認定されます。

当たり前にみえるかもしれませんが、類似の制度の独禁法上のリニエンシーでは、条文上、「調査開始日」の前には1位全額免除で同日以後は3割減額、というふうに、日を単位にしています。

それと比べると、景表法の条文に忠実な運用をしているといえます。

またそのような時間的前後関係が問題となりうることから、消費者庁では調査の開始の通知をして「予知」の有無を明確にしていることがうかがえます。

■調査開始の通知について

それと関連して、命令では、

「前記1の課徴金対象行為についての調査の開始」

を通知した、と記載されていますが、おそらく、「前記1の課徴金対象行為」とはいっても、命令の対象26車種を具体的に特定して通知したのではないのでしょう。

どの車種で不当表示がなされたかは調査をしてみてわかるのであり、調査開始時に通知することは不可能または困難だからです。

もし具体的に対象車種まで特定して通知していたら、後から分かった車種についてはさらに通知をされるまでは自主申告して半額免除されてしまい、不都合でしょう(でも場合によっては、そのような減額を認めることが「不都合」でない、という事案も、今後はあるかもしれません。)

それから、本件では調査開始の通知が平成28年5月27日と同年8月31日午前の2回なされているようですが、なぜ2回になったのかは不明です。

ちなみに、日経新聞電子版2016年5月25日では、

「三菱自動車の燃費データ不正問題で、消費者庁が不当表示を禁じた景品表示法に違反していないか調査を始めたことが25日、関係者への取材で分かった。」

と報じられているので、新聞報道があってすぐに消費者庁に駈け込めば、間に合う(調査開始前に消費者庁からリークされる?)可能性もありそうです。

なお、自主申告の減額の有無を判断するためだけであれば最初の調査開始通知よりも後に自主申告がなされたことさえ認定できればいいはずですが、なぜ5月27日の通知に加えて8月31日の通知にまで言及されているのかは定かではありません。

■不当表示期間について

全26商品(※普通の意味での車種ではなく、1グレードで1商品と数えています)のうち、「デリカD:5」の「CHAMONIX」についてだけは、不当表示期間が8月12日までと認定されています(他の25商品は8月30日)。

理由はわかりません。たぶん、事実がそのとおりだった、ということなのでしょう。

このように、課徴金が導入されたためにいままでにはない細かいところが気になってきます。今後、「公正取引」に載るであろう担当官解説に期待しましょう。

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