景表法

2026年7月 7日 (火)

高光製薬ステマ措置命令の疑問

高光(たかみつ)製薬が「ノビルン」という子供向けサプリでステマをしたということで、2026年6月29日、消費者庁から措置命令を受けました

いわゆるSNS引用型のステマですが、通販新聞の7月1日の記事によると、

「SNS投稿からの「画像」のみの転載をステマと判断した」

ということで、コメントなしで画像のみ転載したのが特徴なのだそうです。

画像だけであることが意味があるかというと、あまりないような気もしますが(でも、景表法実務ではそういったことに鼻が利くとも大事だとは思います)、この措置命令にはいろいろ問題があると思います。

1つめは、高光製薬が表示内容の決定に関与した事実が措置命令の記載からは明確でないことです。

ステマガイドラインでは、事業者が表示内容の決定に関与したかどうかが、「事業者の表示」かどうかの究極的な基準になっています。

なので、たとえば高光製薬が投稿者に「こういうアングルで撮って」などと指示していれば、表示内容の決定に関与していたことになります。

実例として、たとえばロート製薬の2025年3月25日措置命令では、

「ロート製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、モニター募集サイトを通じて、第三者に対し、本件商品を無償提供した上、本件商品に関してInstagramにロート製薬が指示する方針に沿った投稿をすることなどを依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して・・・」

と認定されており、ロート製薬が投稿の方針を伝えていたことがわかります。

でも、高光製薬の措置命令では、

「高光製薬は、本件2商品を一般消費者に販売するに当たり、高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して、例えば、本件商品①について、令和7年4月27日から同年10月25日までの間、「ノビルン【公式】-成長期においしく栄養バランス-」と称する自社ウェブサイトにおいて、「SNSでも大人気!」、本件商品①を顔の右側に掲げる人物の画像等を表示するなど、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり表示していたことから、高光製薬は、本件2商品に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示であると認められる。」

とされているだけで、「SNSに投稿を依頼した」ことはわかりますが、投稿内容の指示があったとは認定されていません。

ただ、ステマガイドラインでは、表示内容の決定に直接関与していなくてもステマになる場合というのがあります。

私がいつも講演などで話している内容をざっくりまとめると、ステマガイドラインでは、

①広告主が表示内容の決定に関与したか=表示内容が第三者(表示者)の自主的な意思によるものか

が実は究極的な基準で、この①を判断するために、

②広告主が表示者にある内容の表示を行うよう依頼・指示したか

が考慮される、という構造になっています。

というより、ガイドラインでは、自主的な意思というのと「ある内容の表示を行うよう依頼・指示 」というのとを、ほぼ等置しています(そのようなことが論理的に言えるのかはさておき、ともかくそうなっています。)

さらに、そのような依頼・指示がなくても、①の自主的な意思かどうかを判断するために、

③広告主と表示者との間に、広告主が表示者の表示内容を決定できる関係性があったか

が考慮されるとされ、③の関係性を判断するために、

④⑴広告主と表示者との間のやりとり(メール等)、⑵対価の有無・内容、⑶過去の関係性等を総合的に考慮する

こととされています。

なので、投稿方針の伝達がなくても、究極的には④の総合考量で判断されるわけですが、そのような観点から高光製薬の措置命令をもう一度みると、

「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した」

といったあたりから、④の総合考量をしているように見えます。

④⑴の「広告主と表示者との間のやりとり(メール等)」と⑵の「対価の有無・内容」ということですが、この部分のガイドラインを引用すると、第2の1⑵イの、

「客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある」かどうかの判断に当たっては、

事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容

(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、

事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、

その主な提供理由

(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)、

事業者と第三者の関係性の状況

(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)

等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する。」

とされている部分です。

これでは具体性に欠けて意味がないとおそらく消費者庁が思ったのだと思いますが、消費者庁ウェブサイトではステマQ&Aを出しており、その4番では、

Q4 当社では、街頭において試供品として自社の商品を無償で配布することを検討しています。

試供品を配布する際には、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください。」と声掛けし、SNSへの投稿を依頼することを検討しています。この場合、当該投稿が、告示に違反することはありますか。

という質問に、

「A「事業者の表示」に当たるのは、事業者が表示内容の決定に関与している場合です(これは、客観的な状況に基づき、投稿者の自主的な意思による表示内容とは認められない場合、と言い換えることができます。)。

事業者が、第三者に対して表示の内容を明示的に依頼・指示していなくても、第三者との関係性(例えば、具体的なやり取りの内容、表示に対する対価の内容、当該対価の提供理由、過去の取引関係の有無等)を踏まえ、表示内容の決定に関与していると判断される場合があります(運用基準第2・1・(2)・イ)。

本件において、事業者は、SNSに投稿することを依頼していますが、投稿内容についての指示は行っていません

また、事業者は、往来する不特定多数の人に対して、SNSに投稿して貰えるかどうかを問わずに試供品として商品を無償配布しているにすぎず、通常、それ以上の関係性はないと考えられるので、表示内容の決定に関与しているとはいえません。

したがって、SNSへの投稿がされたとしても、当該投稿は、通常、「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないと考えられます。」

と回答されていて、さらに関連するQ5では、

Q5 当社では、インフルエンサーに自社の商品を無償で提供することを検討しています。商品を提供する際には、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください。」と声掛けし、SNSへの投稿を依頼することを検討しています。この場合、当該投稿が、告示に違反することはありますか。」

という質問に対して、

「A 街頭サンプリングの場合(Q4)と異なり、特定のインフルエンサーを選定して商品を無償で提供することから、当該インフルエンサーとの間で、何らかのやり取りが行われているなど、その時点で一定の関係性が認められる場合があり得ます。

したがって、インフルエンサーとの間のやり取りの内容、無償提供の内容、無償提供の目的、取引関係の有無(例えば、過去の取引関係や、将来の取引可能性の有無)等の個別具体的な事情によっては、インフルエンサーの自主的な意思による表示内容とは認められず、「事業者の表示」に当たると判断される場合があります。

インフルエンサーの投稿が「事業者の表示」に当たる場合には、当該投稿が「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ、告示に違反します。」

と回答されています。

ここまで読むと、投稿を条件としない(「よろしければ」)商品の無償提供は、道行く不特定の人に提供するならステマではないけれど、特定の人に提供するならステマになりうる、という区別が読み取れます。

でも本件は、

「高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼した」

ということなので、投稿することには同意していた(投稿が無償提供の条件になっていた)といえます。

では、投稿が商品無償提供の条件になっている場合はどうなるのかというと、続くQ6では、無償提供ではなく割引の事例ですが、

Q6 当社では、一般消費者に対し当社のサービスを利用した後に、予約サイトの口コミ投稿を行うことを条件として、サービスを割引価格で提供することを検討しています。この場合、当該口コミ投稿が、告示に違反することはありますか。

口コミ投稿について、サービスに対する評価として「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることを条件としている場合はどうですか。」

という質問に対して、

「A 前段の場合、口コミ投稿の内容についての指示は含まれていません。また、一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係の下であって、割引程度の対価であることも踏まえれば、表示内容の決定に関与しているとはいえません。

したがって、当該口コミ投稿は、通常、「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないと考えられます。

一方で、後段の場合、口コミ投稿に当たって、「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることが条件とされており、事業者は表示(投稿)の内容を決定しているといえるため、「事業者の表示」に当たると考えられます。

したがって、「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ、告示に違反します。なお、口コミ投稿に当たって、「星5」ではなく、サービスの品質や内容、価格等の取引条件について推奨するコメントをすることが条件とされている場合も同様です。」

という回答がされています。

このQ6からは、商品無償提供ではなく割引の場合(←この違いがどの程度意味があるかはさておき)には、一般消費者に投稿を条件として割引してもステマにはならないが、一般消費者に「星5」など一定の内容を条件とするとステマになる、という基準が読み取れます。

そこでひるがえって本件をみてみると、

「高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼した」

ということなので、内容を指示してはいません。

なので、Q6と本件とのちがいを想像すると、「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者」というのは、一般消費者を相手にしたものではないのだ、という発想が、おそらく消費者庁にはあるのではないか、とうかがわれます。

また、上記でペンディングにした、商品無償提供と割引とでどのくらい違うのか、という点については、実は決定的に違うと消費者庁は考えているのではないかという気がします。

少なくとも、販促活動に応募した一般人と、一般消費者とのちがいよりは、ずっと重視されているように思います。

そして、それは必ずしも理由がないことではないと思います。

というのは、やはり割引とは言え何らかの支出をするということは消費者にとっても痛みがあるわけで、割引を受けたというくらいのことで投稿内容の自由な決定が妨げられるのかというと、そうでもないように思うのです。

つまり、

「こっちも金払ってるんだ。割引したくらいで、投稿内容までガタガタ言うな」

というのが、普通の感覚だと思うのです。

でも、無償提供だと、さすがに、

「ただでもらったものを悪く言うのは申し訳ないな」

というのが、ふつうの日本人の感覚ではないかと思います。

なので、商品が気に入らなかった人は、投稿が条件でなければ投稿しないでしょうし(結果として、高評価の投稿ばかりになる)、投稿が条件であっても、あからさまに低い評価は書かないと思います。

というわけで、実はQ6では

「一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係」

であることが決定的で、逆に、販促目的で応募した投稿者に無償提供するような関係だとステマだ、ということになりそうです。

ですが、そういったことがわかるのもこの高光製薬の措置命令が出たからわかることであって、この措置命令がなかったら高光製薬のような事案でもQ6で内容は指示してないからOKじゃないか、と考える人がいても、私はおかしくなかったと思います。

それに輪をかけるのがステマガイドラインの商品無償提供についての記述の分かりにくさです。

つまり、ガイドライン運用基準第2の1⑵イ(ア)では、

「(ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合」

というのが

「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合」

の例(つまりステマの例)としてあげられていて、逆に第2の2⑴イでは、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

が、

「「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」、つまり、事業者の表示とならない場合」

の例(つまり、ステマにあたらない例)としてあげられているのです。

私は、何回読んでもこのガイドラインの部分の意味がわかりません。

さらに、上記第2の1⑵イ(ア)では「当該表示内容が」といっていて、第2の2⑴イでは「自主的な意思に基づく内容」といっていて、いずれも場合も投稿の「内容」が自主的かどうかを問題にしており、投稿するかどうかが自主的かどうかは問題視していないことも、指摘できます。

つまり、ガイドラインはあくまで、ステマに当たる場合も当たらない場合も投稿の「内容」が自主的かどうかを問題にしているのであって、投稿するかどうかが自主的かどうかは問題にしていないのです。

これに対して、高光製薬では投稿の内容についての指示はありません(措置命令では認定されていません)。

なので、ガイドラインをまじめに(論理的に)読めば読むほど、今回のケースを想定するのは困難です。

むしろ、上述のガイドラインの第2の2⑴イの、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

がステマではないという記載からすると、本件はまさに、

「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼」

したただけの事案なのではないか、それなのになぜ、

「当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行」

ったのではないことになるのか、措置命令をみてもまったくわかりません。

というか、本件は、ガイドラインのガイドラインの第2の2⑴イのまんまのように、私には見えます。

措置命令の、「本件2商品の販売促進活動のために募集を行い」というのが、なんとなく意味があるのかなと勘繰ったりもしますが、それは、ガイドラインの第2の2⑴イの、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼する」

というのが、当然想定していることでしょう。

募集しないと無償提供のしようもないからです。

この記載だけから、募集しないで無償提供するのが前述のQ&Aの4番の街頭での(=募集しない?)無償配布(だけ?)を想定しているのだと読むことは不可能でしょう。

というより、街頭での無償配布だって、ある意味での「募集」でしょう。

昔、「募ってはいるが募集はしていない」と国会で珍答弁をした首相がいましたが、まさかこれもそういうことなのでしょうか?

というわけで、ガイドラインはまったくあてになりません。

(ガイドラインがあてにならないこと自体は実務家の間では周知の事実だと思うので、驚くに値しないというか、驚いたふりをする気にすらなりません。)

それに比べればまだQ&Aのほうがわかりやすいですが、それでも、Q6の、

一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係の下であって、割引程度の対価であることも踏まえれば、表示内容の決定に関与しているとはいえません。」

という部分から、反対に、

販売を促進する目的で、商品を無償提供するという関係であれば、表示内容の決定に関与しているといえる

という反対解釈を読み取るのは、なかなか難しいのではないかと思います。

なので、身もふたもない言い方をすれば、ステマについてはQ&Aをまじめに読むことに意味はなく(ガイドラインは論外)、「なんとなくやばそうだなぁ」という”鼻が利く”ことが、大事なのでしょう。

あるいは、Q&Aはぜんぶ反対解釈する(OKといわれているもの以外は、ぜんぶだめ)と読むべきなのでしょう。

次に、この措置命令が問題だと思うのは、「SNSでも大人気!」という表示をしているのに、この部分について優良誤認が何ら問題にされていないことです。

もしSNSの画像の引用がなくて、「SNSでも大人気!」という表示を根拠なくやれば、あきらかに優良誤認でしょう。

なのに、同じ表示にSNSのヤラセ画像が付いたらむしろステマだけ(=課徴金なし)で優良誤認には問われない、という、なんともちぐはぐなことになります。

そもそもステマの何が問題なのかと言えば、中立な第三者の評価であるように装いながら、実は広告主の広告だった、ということでしょう。

これに対して本件で引用された画像をみて、「中立な第三者の評価」を読み取る人がいるでしょうか?

画像から読み取れるとしたら、「SNSでもたくさん投稿があったんだな」ということでしょうが、たくさん投稿があったという事実は、表示の内容ではありません。

ここでふと思い出すのが、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」第2の2⑶で「問題となる事例」とされている、

「○ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

という例です。

ここで、優良誤認にあたるためには、評価自体を変動させるくらいの多数の高評価が投稿される必要がある、という考え方が示されています。

優良誤認にあたるためには、1つの高評価があるのでは足りなくて、たくさんあることが大事だ、ということです。

なので、本件で問題なのは、ステマが問題視する、中立な第三者の評価かどうかということではなくて、まさに、たくさんの人がSNSで投稿している(=多数から高評価を受けている)と表示したことではないかと思うのです。

そして、実際の表示物は、下のとおりであり、

20260707-155646

転載されている写真は15枚です。(引用元は措置命令)

これだけで「大人気」というのは、ちょっと物足りません。

つまり、この15枚の写真は、投稿が15件あったことを示すために使われているのではなくて、あくまで「大人気!」であることを印象付けるための、いわばデザインとして用いられているに過ぎないのです。

こういったことからも、この画像の引用をステマというのは、ちょっと疑問です。

というより、この15枚の画像をステマというなら、「SNSでも大人気!」という文字のほうが、はるかに問題だと思います。

かつての消費者庁なら、「SNSでも大人気であることの合理的根拠資料を出せ」といったでしょう(葛の花イソフラボン事件。それが法運用としてよいかどうかはさておき。)

それなのに、この表示でステマを認定しておきながら優良誤認は問題視しないというのは、バランスが悪いと思うのです。

ちなみに、現在の高光製薬のサイトでは、下のとおり、「SNSで大人気!」が、「みんなでノビ活!」に変わっています。(高光製薬ウェブサイトより引用)

20260707-161610

これをみても、要は、「SNSで」という文言がいけなかったのだ、ということがよくわかります。

でも、こんないかにもインスタっぽい画像で(実際、インスタに投稿されたものなわけですが)、それでも問題なしというなら(消費者庁の承認の上てやっていることはあきらかです)、「SNSで大人気!」と明記したのが消費者庁的には決定的にまずかった、ということなのでしょうね。

ふつうの人がみたら修正後の表示だって、インスタの投稿に見えるのですが、それは問題視されてないわけですから。

事業者さんは、いろいろと考えられますね。感心します。

でも、個人的には、ほんとうにこのような修正で大丈夫なのか、ちょっと疑問に思っています(消費者庁がいいというから、目くじら立てる必要はないのかもしれませんが)。

というのは、修正前の文言は「SNSで大人気!」です。

このうち、「大人気!」かどうかは優良誤認には関係するかもしれませんが、ステマには関係しません。

ステマは商品役務の性能などには関係せず、あくまで表示主体をいつわるものに過ぎないからです。

「大人気!」かどうかは、表示主体には関係ありません。

そうすると、ステマで関係するのは、「SNSで」という部分ということになります。

ですが、修正後のものも、画像を見ればいかにもインスタに投稿されているように見えるわけで(実際のインスタの投稿なのだから当たり前です)、そういう意味では、画像をもってして「SNSで投稿がありました」と語らしめている、ともいえます。

そうすると、修正前のものと、何も変わっていないともいえます。

消費者の目からみた印象も、「大人気!」かどうかはステマには関係ないので無視すると、修正前のものは「SNSで(投稿されました)」という、文字の部分です。

これが、SNSの本物の画像によって、SNSに投稿があった(実際にあったのですが)と語らしめているわけであり、消費者目線で見ても、文字で「SNSで」と書くのとどっこいどっこいなんじゃないかと思います。

私が以前受けた相談で、実際にはテレビで紹介されたことがない商品のウェブ広告で、あたかもテレビで紹介されたかのような演出をした画像(レポーターとおぼしき若い女の子が、マイクを持って、その商品を紹介しているふうの画像で、画面の左上にはめざましテレビの時報を模したようなぶっとい「7:32」みたいな数字まで表示されていました😃)を載せても大丈夫か、という相談がありました。

担当者は、実際にはテレビで紹介されてないのにテレビで紹介されたかのように見えるので優良誤認になるのではないかと懸念していましたが、私は、

「これはよくある、『ニュースです!』みたいな、ニュースを模したたんなる演出ですから、優良誤認にはならないのではないですかね。」

と答えた記憶があります。

これがもし、「NHKで紹介されました」とか文字で書いていたらアウトだったでしょうけれど、画像をみれば本物のテレビ番組でないことはわかりそうな画像だったので、問題ないと考えました。

ところが、本件は、本物のインスタの画像を使っているのですから、事情が違います。

本物の画像を使っている以上、これをみて、「インスタで投稿されたんだな」と思う消費者はいるでしょう(実際に投稿されているのですし)。

そうすると、文字で何も書いていなくても、ふつうはそのインスタは、「事業者の表示」(広告)ではなく、第三者によるたんなる投稿だと思うのではないでしょうか。

インスタの投稿画像をみただけで、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う人は、たぶんいないと思います。

そして、インスタの投稿画像をみただけで「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思わない人(=表示主体を誤認した人)は、「SNSで大人気!」と書いてあってもやっぱり、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思わない(=表示主体を誤認しない)のではないでしょうか?

逆に、インスタの投稿画像をみただけで「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う人(=表示主体を誤認しない人)は、「SNSで大人気!」と書いてあってもやっぱり、「高光製薬のウェブサイトなんだから、高光製薬が依頼して投稿させたに違いない」と思う(=表示主体を誤認する)と思います。

つまり、本件がステマにあたって、修正後のがステマに当たらないためには、

「SNSで大人気!」という文字をみたら「この投稿は高光製薬のウェブサイトだけれど、この投稿は中立な投稿なんだろうな」と思う人(主体を誤認した人)が、

インスタの投稿画像だけ(+「みんなでノビ活!」という表示)を見たら、「この投稿は高光製薬のウェブサイトなのだから、当然、この投稿は高光製薬が投稿させたんだろうな」と思うようになる(主体を誤認しなくなる)

ということが必要なはずだけれど、そんな人いるのか?というのが素朴な疑問です。

どうも消費者庁は、「SNSで大人気!」という、ほんとうは優良誤認で処断すべき不当性を、ステマの不当性に紛れ込ませている(そして、そのことに気づいていない)ように思えてなりません。

まあ、消費者庁にしてみたら、

「文字で『SNS』と書くほうが、SNSへの投稿であることがあえて強調されていて、主体を誤認させる効果が強いのだ」

「インスタの投稿動画は仮に本物でも、あえてSNSであることを強調しているわけではないので、第三者の投稿だと誤認させる効果は小さいのだ」

ということかもしれませんが、ほんとうにそうか?という気がします。

というより、こんな論点があるなんて、そもそも気づいてすらいないのではないでしょうか。

ちなみにこの点については、上で引用した通販新聞の記事では、

「SNS投稿は、画像のみの転載だが、「大人気という表示、画像を併せて見た時に、企業の表示と認識しづらい」(表示対策課)としてステマと判断した。

「画像」のみを転載した場合の判断は「全体印象から判断するため何とも言えない」(同)。」

と報じられています。

通販新聞さんは、いつも他紙よりも一歩も二歩も踏み込んだ取材で、参考になります。

念のためステマガイドラインの関係個所を検討しておくと、同ガイドラインの第3の2⑵オ(ア)では、

「(ア) ただし、事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合

(例えば、媒体上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合や、そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合)

には、第三者の表示は、当該事業者の表示であることを明瞭に表示しなければならない。」

とされています。

ですが本件では、修正前でも修正後でも、たんなる画像だけですからそもそも「客観的な意見として表示をしているように見える」とはいえなさそうですし、内容の指示はしていませんから「特定の内容の表示をさせた場合」ともいえません。

そうすると一般論としての「当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合」という基準でいくしかありませんが、この基準で、修正前の「SNSで大人気!」はだめで修正後の「みんなでノビ活!」ならOKだと判定しろというのは不可能でしょう。

というわけで、ここでもやっぱりガイドラインは役に立ちませんでした(笑)。

なお本件では、商品の効果効能は何ら問題視されていませんが、それは、そもそも表示のどこを見ても「背が伸びる」とは書いていないので当然です。

背が伸びることを印象付ける表示として目につくのは、もちろん、「ノビルン」(伸びるん?)という商品名と(笑)、下のような、上向き矢印の表示(引用元は措置命令)と、

20260707-160638

あとは、下のような成長期に必要な栄養素が凝縮されていることを示す表示くらいです(引用元は措置命令)。

20260707-160932

あとは、管理栄養士さんのおすすめくらいでしょうか。

まあ、この手の健康食品の効き目といえば栄養補給くらいのものだというのは常識的にわかるわけですから(もし薬効があったり遺伝子に働きかけるとしたら、親は怖くて買わない)、少なくとも景表法の観点からは、背が伸びる(少なくとも、背が伸びるのを助ける)くらいは表示してもよいように思いますが、そうすると薬機法や食品表示法にひっかかるから、表示できないのでしょう。

この種の表示を考える方々のご苦労がしのばれます。

あと、細かいことですが、措置命令の、

「高光製薬は、本件2商品を一般消費者に販売するに当たり、高光製薬が本件2商品の販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した上、本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、画像部分を抜粋して、例えば・・・」

という認定は、SNSへの投稿が無償提供の条件だったのかどうか、少々あいまいですね。

常識的に言えば、SNSへの投稿を条件に無償提供することを応募条件として募集したのだろうと推測できますが、理屈のうえでは、SNSの投稿はとくに条件にしないで希望者に商品を無償提供するという販促方法もありうるわけで(あるいは、まったく無条件ではないにせよ、アンケートに回答するとかは条件で、SNS投稿は任意、というハイブリッド型もあるかもしれません。)、この認定ではSNS投稿が無償提供の条件だったのか、よくわかりません。

むしろ、「販売促進活動のために募集を行い、当該募集に応じた第三者に対し、本件2商品を無償提供した」という文言を論理的に読むなら、「募集」は(無条件の)募集としてあって、応じた人に「無償提供した」のであって、そのあとの、「本件2商品に関してSNSに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した」というのとは応募とは関係がない、あるいは、無償提供した「」で(≒あとで)、投稿依頼したのであり、募集時には投稿は条件でなかった、とも読めます。

もしこの読み方が正しくて、消費者庁が意図的にこのような命令文にしたとしたら、これは国民に対する大きな欺まんでしょう。

担当官解説でしっかり説明してほしいところです。

ちなみに大正製薬事件では、

「大正製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、第三者に対し、本件商品の無償提供及び対価の提供を条件に、本件商品に関してInstagramに投稿を依頼したことなどによって当該第三者が投稿した表示について・・・」

というふうに、対価支払を条件に投稿依頼したことが明示的に認定されていますし、ロート製薬事件でも、

「ロート製薬は、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、モニター募集サイト(注・事業者が宣伝したい商品等についてのモニターを募集し、当該モニターに対し、当該商品等を無償提供するなどして、口コミ投稿や、アンケートへの回答を求めるなどのいわゆる「モニターサービス」を提供するウェブサイト)を通じて、第三者に対し、本件商品を無償提供した上、本件商品に関してInstagramにロート製薬が指示する方針に沿った投稿をすることなどを依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について・・・」

というふうに、無償提供の条件として口コミ投稿を求めるモニター募集サイトへの応募であることが、はっきり認定されています。

こういうのと比べると、高光製薬の措置命令には、いかにも意図的にあいまいに書いてあるように思えてきます。

こういうことを考えるにつけ、やっぱり措置命令を出すことは大事ですね。

確約だったら、こんなこまかいあらは見えなかったと思います。

(ステマは確約ができないので、基本措置命令になります。)

こういうところから、確約の弊害(不透明な法運用のリスク)がみえてくるように思います。

2026年6月 8日 (月)

「同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合」(定義告示運用基準6⑷ア)の意味について

定義告示運用基準6⑷では、

「(4) 次のような場合は、「値引と認められる経済上の利益」に当たらない。

ア 対価の減額・・・であっても、・・・同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合)」

とされています。

ここで、具体例は、

「取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合」

というように、対価の減額(「金銭」)と景品類(「招待旅行」)を選択的に(「又は」)で適用される場合があげられています。

では、対価の減額と景品類の両方を重畳的に提供する場合にも、「対価の減額」は「値引」にはならなくなる(景品類になる)のでしょうか。

この問題について、高居他編著『景品表示法〔第7版〕』234頁では、

「③同一の企画において景品類の提供と〔対価の減額〕を併せて行う場合(取引の相手方に金銭と招待旅行の両方を提供する場合と、これらのうちいずれかを選択させる場合の両方が〔対価の減額が〕景品類の提供にあたる)」

とされており、選択させる場合だけでなく両方を提供する場合も対価の減額は値引にあたらない、としています。

まあ確かに、定義告示運用基準の「併せて行う」という文言からすると、むしろ両方提供する場合を指しているとすら読めます(むしろ選択させる場合が「併せて」といえるのかのほうに疑問が沸いてくる)。

また、緑本にこう書いてある以上は実務的にはこれにしたがわざるをえないとは思います。

でも、これには異説もあり、古川昌平『実務担当者のための景表法ガイドマップ』226頁では、

「(c)同一の企画において景品類の提供を併せて行う場合の例は、値引・キャッシュバックか景品類のいずれかを選択させる、というものである

1つの取引に付随して、値引と景品類提供を両方行う場合には、上記(c)〔注・定義告示運用基準6⑷アの、対価の減額と景品類の提供を併せて行う場合〕には当たらない)。」

とされています。

実際、少なくとも同一の取引に付随して(「同一の企画において」ではないことにご注意ください。同一の企画の対象となる取引は通常複数あるからです。)対価の減額と景品類の提供をする場合には、その取引の、対価減額後の取引価額を基準にして景品類が法定の限度内であれば、過度な景品類が提供されるおそれもなさそうで、対価の減額自体を景品類だといわなくてもいいような気がします。

それに、過去の公取委職員の論考をみると、どうもこの「併せて行う」というのは、対価の減額と景品類の提供が選択的な場合だけを想定していたように思えてならないのです。

たとえば、鈴木満他「『事業者に対する景品類の提供に関する景品表示法上の考え方』について」公正取引456号(1988年)9頁)では、当時あった事業者景品ガイドラインの、

「③同一の企画において金銭の提供とを併せて行う場合

(例えば、相手方事業者に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合、

1位のものには金銭を、2位以下のものには景品類をそれぞれ提供する場合)」

という文言についての説明の中で、

「減額若しくは割り戻すか、又は、その分例えば商品券を提供するかを相手方事業者に選択させる場合

(この場合、景品類を提供したのと変わらない。)

は、取引通念上妥当と認められる基準に従い、対価の減額又は代金の割戻しをしたものとは認められないので、『値引と認められる経済上の利益』に当たらない。」

とされていて、選択させる場合であることを明言しています。

ただここで、「選択させる場合」だと、なぜ減額が「景品類を提供したのと変わらない」ことになるのかという理屈は、今一つよくわかりません。

当選者に減額と景品の選択肢を与えたうえで当選者が減額を選んだ場合には、当選者は景品の資格を放棄して減額を選んだのだから、景品を提供したのとかわない、ということなのでしょうか・・・?

また、利部修二「実務家のための景品表示法基礎講座6」公正取引471号〔1990年〕54頁では、

「購入額10万円の人には1万円の値引、5万円の人には5千円の商品券を提供する場合」

を定義告示運用基準6⑷アの例として例示しています。

この例などをみると、消費者に「選択」させることが本質なのではなくて(消費者は5万円の商品ではなく10万円の商品を購入することにより、5千円の商品券ではなくⅠ万円の値引を「選択」しているといえなくもないですが、ちょっと技巧的でしょう)、ともかく1つの企画の中で値引と景品類の両方が提供されていることが重要である(1つの取引で両方もらえるのか片方しかもらえないのかはどうでもいい)、という発想がうかがえます。

このように、対価の減額と景品類を、1つの取引に対して選択的に(どちらかだけ)提供するのか重畳的に(両方とも)提供するのかはどうでもいいのだとすると、にわかに注目すべきなのが、「同一の企画」という縛りです。

つまり、この「同一の企画」という文言や、上記のような公取委関係者の解説などを踏まえると、同一の取引が2つの企画の対象になっていて、一方の企画では対価の減額を提供し、他方の企画では景品類を提供する、という場合には、この定義告示運用基準6⑷アの規定は適用される余地がない、ということです。

(この点、同一取引に複数の景品類が提供される場合の懸賞運用基準5⑵は、

「同一の取引に付随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合」

と規定しているので、2以上行なわれるのは「景品類提供」であって、企画が2以上行なわれるかどうかは関係がないのと混同しないようにする必要があります。)

たとえば、値引きのキャンペーンが行なわれている期間中に、その値引対象商品を対象にする景品企画を別途行なったとしても、2つの企画は「同一の企画」ではないので、値引きキャンペーンの値引を景品類とみる必要はない、ということです。

こういう、1つの企画か2つの企画かという基準を導入すると、1つの企画をあえて2つに分割して行なうという脱法的な行為が行なわれるのではないかとか、企画の同一性みたいなあらたな論点が出てくるのではないかとか、厳密に考えてみるといろいろと問題はあるのですが、定義告示運用基準が現に「同一の企画」という文言を使っている以上、同運用基準は企画の同一性なるものを概念していると考えるほかないように思います。

そして、上記の鈴木解説および利部解説はまさに、そういう、ゆる~い観点から「企画の同一性」を考えているように思えてなりません。

つまり、同一の企画にみえる企画の中で(同一取引か別の取引かにかかわらず)景品類と対価の減額を提供していたら、消費者はどっちが景品でどっちが値引かなんて気にしない(ぜんぶひっくるめて景品であるかのように誘引される)のではないか、ということです。

そういう、ゆる~い観点から定義告示運用基準6⑷アをながめてみると、同一取引に対して対価の減額と景品類を選択的に提供する場合でも重畳的に提供する場合でも、定義告示運用基準6⑷アは適用される(対価減額は値引ではない)、という緑本の解説も、納得できます。

逆に言うと、値引きキャンペーンAをやっていて、あとから景品提供キャンペーンBを同時期にやる、というように、あきらかに別々の企画である場合には、同一の取引にAの値引とBの景品の両方が提供されたとしても、Aの値引きを景品類とみなす必要はなく、Aで値引かれた対価を基準にBの景品類が法定の限度を超えないようにすればいい、ということだと思います。

1つの企画をあえてAとBに分けたと認定されるとこういうわけにはいかないかもしれませんが、そういう脱法の意図もなくほんとうにAとBを別々にやっていたのなら、「同一の企画」(定義告示運用基準6⑷ア)にはあたらないというほかないと思います。

2026年5月 3日 (日)

千葉ロッテマリーンズに対する景表法の確約認定(2025年12月23日)を読んで

千葉ロッテマリーンズが去年の12月23日に景表法上の確約認定を受けました

一言でいうと、かなりびっくりな、ものすごく厳しい確約認定だと思います。

違反被疑行為の概要は、

「千葉ロッテマリーンズは、「千葉ロッテマリーンズ公式ファンクラブ TEAM26」と称する有料会員制ファンクラブ(以下「本件ファンクラブ」という。)の令和7年度会員向けサービスを一般消費者に提供するに当たり、

令和7年1月17日付けで郵送したダイレクトメール(以下「本件ダイレクトメール」という。)において、

例えば、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース いずれか1点の特典をお渡しします」、

選手のサイン入りのボールの画像と共に、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」、

選手はお選びいただけません」、

「受け取り方法本ハガキを球場外周 TEAM26 ブースで提示」

等と表示することにより、

あたかも、本件ファンクラブに入会し、球場外周に設置されたファンクラブブース(以下「ファンクラブブース」という。)において本件ダイレクトメールを提示すれば、いずれかの選手の直筆サイン入りのボール(以下「直筆サインボール」という。)が必ず提供されるかのように表示していたが、

実際には、直筆サインボールが提供されるのは、本件ファンクラブに入会し、ファンクラブブースにおいて本件ダイレクトメールを提示した者の一部に限られるものであった。」

ということです。

こちらが確約認定に添付されているハガキです。

20260503-192318

ポイントは、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

という表現です。

私などは「ランダムで」というと、景品規制が頭に浮かぶせいか、当然、(総付ではなく)懸賞のことだろう、というように感じます。

ところが消費者庁はこれを、直筆サインボールが「必ず提供されるかのよう」な表示だった、と認定したわけです。

その認定のよすがになっていると思われるのが、

選手はお選びいただけません」

という注意書きです。

「ランダム」というのを、もらえるのがランダム(懸賞)ではなく、「選手を選べない」という意味でのランダムだ、というふうに認定したわけですね。

この点、確約認定の書き方だと、

選手はお選びいただけません」

という部分の「」は、同じ「※」ということで、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース

の注釈なのかなぁ、と一瞬思いますが、添付の写真をみるとそうではなくて、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース

の注釈は、シートクッションとマルチパスケースの絵の直下に、「※」付きで書かれている、

「※2024年ファンクラブデー来場特典と同一です。」

「※アイテムはランダムでのお渡しとなります。」

のほうだとわかります。

これに対して、確約認定の、

選手はお選びいただけません」

という注記は直筆サイン入りボールの写真の直下にあるので、やはり確約認定のとおり、直筆サインボールへの注記だ、ということがわかります。

でもそれでもなお私には、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

というのに、

選手はお選びいただけません」

という注記があると、サインボール自体が懸賞(「ランダム」)であるうえに、さらに輪をかけて、懸賞に当たっても選手が選べるわけではない、というように読んでしまいそうな気がします。

つまり、

ともかくサインボールが当たるかどうか ・・・①

というレベルと、

当たったとして選手を選べるか ・・・②

というレベルの2段階を観念して、①は「ランダム」、②は「選手はお選びいただけません」が表している、という理解です。

これに対して消費者庁の認定は、

「ランダムで」

というのは、

「選手は選べない」

ということの言いかえに過ぎないので、どの選手のボールかは選べないけれど少なくとも誰かのボールは必ずもらえる、ということです。

別の言い方をすると、消費者庁は、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

というのを、

「さらに選手の直筆サイン入りボールを、どの選手か選べないけれどお渡しします」

と読んだ、ということです。

まあ、そういうふうに誤解する消費者もいるかもしれませんが、だからといって、これを有利誤認表示だというのは、大いに疑問です。

だいたい、直筆サイン入りボールがもれなくもらえるなんて、ちょっと虫が良すぎないでしょうか?

(あるいは、千葉ロッテマリーンズはふだんからそんなに気前がいいのでしょうか?)

こんなんで全員サインボールがもらえるはずがないし、もらえると消費者が思うわけがないという先入観があればあるほど、告知文のチェックは甘くなりがちです。

気を付けましょう。

実務では、キャンペーンの条件を一部の消費者が誤解してクレームを言ってくるということは、さほど珍しいことではありません。

しかも、多くの場合それは、「ふつうはそんなふうには読まないよね」というレベルのものです。

(大半の人が誤解するような告知文なら、不当表示だといわれても仕方ないでしょう。)

本件も、そんなレベル(「ふつうはそんなふうには読まないよね」というレベル)ではないかと思います。

むしろ実務では、第三者がみると一体何を言いたいのかよくわからない、ということも、ままあります。

それは、意図的に消費者を誤解させようというよりは、たんに、企画担当者の日本語のレベルの問題なのだと思います。

そういう肌感覚が私にあるためか、このマリーンズのケースなんて、まずまずちゃんと書けているほうなんじゃないか、と思ってしまいます。

少なくとも裁判所は消費者庁より消費者に厳しいですから(裁判所は、「ふつうの消費者はこれくらいは正しく理解できてあたりまえ」というレベルが消費者庁よりずっと高い)、本件が措置命令になって取消訴訟で争われたら、まずまちがいなく消費者庁は負けると思います。

とはいえ本件は確約で、そのことは消費者庁もわかってやっているわけですから、とやかく言うべきことではないかもしれません。

でも実務的な感覚でいえば、こんな事件は、確約導入前だったら、せいぜい注意で終わっていたのではないかと思います。

確約が導入されると消費者庁がギリギリ攻めた運用をしてくるのではないか(∵措置命令が難しければ確約に落とせばいいし、確約なら当事者も争わないので)、ということはよく言われていたことだと思いますが(私だけでしょうか?)、まさに、本件はギリギリ攻めてきた案件のように思います。

さらにいえば、実務では、これよりひどい案件が注意やおとがめなしで終わっているケースも、ふつうにあるという感覚です。

ということは、本件でも、マリーンズが本気でがんばれば(=争う姿勢を見せれば)、注意で終わって、非公表ですんだのではないか、という気がします。

そういうことが頭にあると、どうも確約というのは、「正直者がバカを見る」制度に思えて仕方がありません。

逆に企業や弁護士としては、確約を選ぶのか、あくまで注意を目指すのか、という見極めが大事になってくるでしょう。

あともう一つ、実務への教訓としては、こんなケースまで確約になるとしたら、広告審査はかなり日本語の感覚の鋭い人にやらせる必要があるでしょう。

正直、このケースなら、私ですら見落としていたかもしれません。

いや、きっと見落としていたでしょう。

でも、これを「見落とし」というのは不正確でで、要は、消費者庁のほうがまちがっている、というのが正しいと思います。

というわけで、いろいろと考えさせられる事件でした。

2026年4月11日 (土)

景品類提供主体性に関する緑本236頁の解説の解説

景品提供の主体について、緑本236頁では、

「⑴ 景品提供の主体の問題

景品提供企画において、経済上の利益を供与している者が誰であれ、いかなる商品の取引に付随し、いかなる商品の顧客誘引手段となっているかを考えれば、景品提供の主体(規制の対象者)が誰であるかを判定するのは困難ではない。

例えば、メーカーが小売業者を通じて販売している商品について、

①メーカーが出荷段階において商品の包装箱に景品類を封入しておく場合や、

②メーカーが小売業者にスピードくじを渡しておき、当該商品の購入者に対し小売業者の店舗で抽選して、当選者に小売業者の供給するその他の商品を景品類として提供する場合

はどうか。

①については、小売業者がメーカーの企画に全く参加せず、単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している場合には、小売業者は、景品提供の主体であるとはいえないが、

②については、メーカーだけでなく、小売業者の取引にも付随して提供する経済上の利益となり、景品類に該当して、両社が景品提供の主体として規制対象になる可能性があるであろう。

上記①と②で結論が異なるのは、景品を提供する行為について小売業者の関与の度合いが異なるからである。

景品提供の主体を考えるに当たっては、いかなる商品の取引に付随し、いかなる商品の顧客の誘引手段となっているかということに加え、

その企画の立案

主商品の選定、

景品類の種類〔の決定〕、

〔景品類の〕額〔の決定〕、

〔企画の〕実施期間〔の決定〕、

〔企画の〕実施地域〔の決定〕、

売上予定の算定、

その企画の宣伝方法〔の決定〕

など)

を行ったのは誰か、

経費の負担は誰か

といって事情を総合的に見て判断する必要がある。」

とされています。

まず、この設例ではメーカーとその商品を販売する小売業者なので、商品提供主体性は当然に満たされることが前提とされていることに注意をする必要があります。

つまり、この緑本の解説を一般的に参考にするときには、別途商品提供主体性について考えないといけない、ということです。

次に、上記緑本解説の細かい内容を検討する前に、総論的な細かいことを1つ申し上げておくと、上記解説で、

「上記①と②で結論が異なるのは、景品を提供する行為について小売業者の関与の度合いが異なるからである。」

といっているのは大きな問題だと思います。

というのは、景品類について禁止または制限される行為は、「提供」(景表法4条)しかありません。

これは4条をみればあきらかです。

もし内閣総理大臣が景品類の「提供」に「関与」する行為まで禁止するとしたら、それは、4条の授権の範囲を超えた、違法な指定ということになります。

それは、正犯の処罰しか条文には規定されていないのに、幇助犯まで処罰するようなものでしょう。

それなのに、

「景品を提供する行為について小売業者の関与の度合い

なんて言い方をすると、「提供する行為」そのものを行っていなくても、「提供する行為」について「関与の度合い」が大きければ規制の対象となる、といっているように読めてしまいます。

でもそれはあきらかに4条の範囲を超えていて、規制の対象になるのは「提供する行為」そのもののはずです。

このように、緑本の解説は根本的なところで言葉の使い方を間違っている(控えめに言って、「ゆるい」)ので、ちゃんと「4条における『提供』とは」という問題の立て方をした場合に比べて、なんともゆるゆるの解釈になっています。

実際、上記緑本の解説は、通常の日本語の意味での「提供」よりも、かなり「提供」を広く解しているようにみえます。

それもこれも、「提供」自体はしていなくても、「提供」への「関与の度合い」が強ければ景品規制の対象となる、という考え方が根底にあるからだと思われます。

以上のような論理的難点を頭に入れておかないと、消費者庁の発想にはおそらくついていけないと思います(笑)。

そこで、「提供」自体はしていなくても提供への「関与の度合い」が強ければ提供主体になる、という発想に頭を染めながら中身の検討に入ると、まず、

「①については、小売業者がメーカーの企画に全く参加せず、単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している場合には、小売業者は、景品提供の主体であるとはいえない」

というときの企画への「参加」というのが、どのような事実があれば「参加」になるのかよくわかりません。

(ここでも、条文上は、企画に「参加」しただけで景品類を「提供」したことになるというのは広すぎるのですが、ここでも提供への「関与の度合い」が強ければ「提供」になる、という発想で読めば、まあそういうことかとは理解できます。以下も、その理解で読んでいきましょう。)

①の包装箱封入のケースですら、小売業者が景品類提供主体とならないためには小売業者が「企画に全く参加(しない)」ことが要求されている(「場合には」)ことからすれば、包装箱封入のケースですら小売業者による企画への「参加」がありうる、というような、そういう意味での「参加」であると考えるほかないでしょう。

なので、この「参加」というのは、②のようなスピードくじを引かせる義務を負うとか、企画の実施のために必要な作業の役割分担をすることは必要ではなくて、協賛する(協賛者として名前を出す)とかでも、「参加」にあたりうる、というべきでしょう。

でも、何らかの関与があればそれだけで「参加」になるのかというと、そういうことでもないのでしょう。

「関与の度合い」しだい、というわけです。

たとえば、①の包装箱封入のケースで、メーカーが小売業者に、その企画を告知したPOPを店舗の目立つ場所に置いてもうらうよう依頼して、小売業者がただで置かせてあげたとしましょう。

それだけでは、私は「参加」にはあたらないと思います。(「関与の度合い」が、「参加」というには弱い。)

仮にPOP設置の場所代をメーカーが小売業者に支払っていたとしても、小売業者が「参加」したことにはならないでしょう。

むしろそのような場所代の支払は、メーカーが自己の負担で企画を行なっている根拠になり、小売業者の企画への「参加」を否定する事情というべきでしょう。

これに対して、小売業者がメーカーから企画について何も連絡を受けていなかった場合(両者に意思の連絡がない場合)には、小売業者は企画に「参加」したことにはならないのはあきらかでしょう。

むしろ、①の包装箱封入のケースでおそらく典型的に想定されているのは、メーカーと小売業者との間に企画について何ら意思の連絡がない場合ではないかと思われます。

そういう暗黙の前提を濃厚にイメージさせることができるからこそ、緑本が自信をもって、小売業者が提供者ではないと言っているのでしょう。

なお、「参加」するための契約書が不要であることは当然でしょう。

ここで、「参加」の言葉の意味を確認しておくと、広辞苑では、

「①なかまになること。行事・会合・団体などに加わること。『ふるって御ー下さい』『ー申込み』」

と、要は何かに「加わること」という、相変わらず当たり障りのない説明されているのに対して、新明解国語辞典では、

「団地・組織など、目的を持った集まりの一員と成り、行動を共にすること。『ボランティア活動にーする/ーを呼びかける/大衆ー・自由ー・ー者』」

というように、「一員と成り、行動を共にする」という、もう少し実質的な(それだけに、やや狭い)説明がなされています。

このように、「参加」という言葉の辞書的な意味だけでは答えは出ないのですが、それでも、「参加」(参じて加わる)という言葉には、共通の目的に向けて行動を共にするというニュアンスがあることは、確認しておくべきだと思います。

その一例として、小売業者がメーカーにPOPをただで置かせてあげたくらいでは「行動を共に」しているとはいえない、ということです。

と、ここまで書いてきて気が付いたのですが、結局「参加」というのは、そのあとの

「その企画の立案(主商品の選定、景品類の種類〔の決定〕、〔景品類の〕額〔の決定〕、〔企画の〕実施期間〔の決定〕、〔企画の〕実施地域〔の決定〕、売上予定の算定、その企画の宣伝方法〔の決定〕など)を行ったのは誰か、経費の負担は誰か」

というのを、最も一般的抽象的に言いかえているものだといっていいように思います。

こういう一般的、抽象的な言いかえというのは法律論では大事です。

役所の文書には往々にして考慮要素をいくつも上げて最後に「等」をつけてオープンエンドにする、というやり口が見られますが、抽象的であれ一般論を述べることはオープンエンドに枠がはまるので、とても大事なのです。

また、上記解説では、「小売業者がメーカーの企画に全く参加せず」だと小売業者は景品類の提供主体にならないとされていますが、逆に、何らかの意味で(少しでも)「参加」していれば景品類の提供主体になるということではない(上記解説は、そういった意味で「参加」という言葉を使っている)と読み取れます。

そういう意味で、企画への(ここでいう)「参加」は景品類提供主体性の要件ではなく、「全く参加せず」であることがセーフハーバーになるのだ、と解するべきでしょう(緑本の解説もそう読めます)。

ですので、企画に「全く参加せず」なら、当然に、「単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している」ということになるはずなので、「単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している」は、「全く参加せず」のコロラリーであり、独自の意味はないというべきでしょう。

つまり、「全く参加せず」だけで、セーフハーバーとしては十分で、さらに加えて「そのまま販売している」ことが必要だというわけではない、ということです。

たとえば小売業者が、キャンペーンの効果を増進しようとして、キャンペーンを告知するPOPを自作してお店に置いたとしても、「そのまま販売」でなくなるのかというと、そういうことはない(景品類提供主体にはならない)と思われます。

同様に、小売業者がキャンペーンの効果を増進しようとして、商品に「キャンペーン実施中!」みたいなシールを貼って販売しても、(厳密には、シールを貼っているので「そのまま販売」ではないともいえそうですが)景品類提供主体にはならないでしょう。

次に、

「②メーカーが小売業者にスピードくじを渡しておき、当該商品の購入者に対し小売業者の店舗で抽選して、当選者に小売業者の供給するその他の商品を景品類として提供する場合」

については、「スピードくじ」を実施するには小売業者が商品購入者に対してくじの箱を提示してくじを引かせるという積極的な作業が必要になる点が、たとえばメーカーにPOPの設置を許すという消極的なかかわりとは異なる、ということがポイントなのかなと思われます。

「店舗で抽選」というのも、小売業者がくじの実行をみずからの手で行なうから企画に「参加」しているとみられる要素になる、ということなのでしょう。

ただ、この②のスピードくじの例は、店頭でのスピードくじであるだけで小売業者が景品類提供主体になるといっているわけではなく、それに加えて「小売業者の供給するその他の商品」が景品類であることを要求しているように読めます。

ですが、この、景品が「小売業者の供給するその他の商品」であるというのは、さらにいろいろなパターンがありえるので、一概にこうだとはいいにくいところがあります。

たぶんこの部分の著者が想定しているのは、コンビニなんかでよくあるスピードくじなのかな、と一瞬思いましたが、コンビニのスピードくじはその店で700円以上買ったら引けるというものが多いので、メーカーが依頼者というより、コンビニ本部が依頼者なので、そもそもちょっと違うような気がしてきました。

そうすると、仮にメーカーが小売業者に依頼するスピードくじというものがあるとすると(よくよく考えると、あまり見たことがないような気がしてきました。。。)、問題になるのは、その景品類の原資は誰が負担するのか(メーカーか、小売業者か)ということと、景品類の選択は誰がするのか(顧客か、小売業者か、メーカーか)、の2点で、それによって場合分けがなされうるのでしょう。

最も典型的にありそうなのは、景品類の原資はメーカーが負担して、商品の選択は消費者が行なう(ただし金額の上限はメーカーが行なう)、というものでしょうか。

でも実は、ある意味で典型例と思われるこういうパターンだと、小売業者の関与はかなり薄いといわざるをえないように思われます。

そうすると、この典型例のパターンで、なぜ小売業者が景品類提供主体になるのかといえば、くじを引かせるという作業をしているからというだけ、ということになりそうです。

景品類が小売業者の他の商品であるということも、多少は関係するのかもしれませんが、原資も負担しないし選択もしないという前提では、景品類供給主体性を肯定する寄与度としては限定的、ということです。

なので、少なくとも緑本の解説は、スピードくじを引かせるという作業をすること自体が積極的な関与なのだ(消極的にメーカーにPOPを置かせてあげるというのとはちがうのだ)、と考えているのだろうと推測されます。

以上が、①の包装箱と②のスピードくじの事例の検討ですが、これを、そのあとの一般論の、

「その企画の立案(主商品の選定、景品類の種類〔の決定〕、〔景品類の〕額〔の決定〕、〔企画の〕実施期間〔の決定〕、〔企画の〕実施地域〔の決定〕、売上予定の算定、その企画の宣伝方法〔の決定〕など)を行ったのは誰か、経費の負担は誰か」

に照らして念のため検討すると、

「①〔メーカーが出荷段階において商品の包装箱に景品類を封入しておく場合〕については、小売業者がメーカーの企画に全く参加せず、単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している場合には、小売業者は、景品提供の主体であるとはいえない」

ということではありますが、

「その企画の立案(主商品の選定、景品類の種類〔の決定〕、〔景品類の〕額〔の決定〕、〔企画の〕実施期間〔の決定〕、〔企画の〕実施地域〔の決定〕、売上予定の算定、その企画の宣伝方法〔の決定〕など)を行った」

のはメーカーであり、

「経費の負担」

もメーカーであることがすなわち、「小売業者がメーカーの企画に全く参加せず」ということなのだ、という整理なのでしょう。

次に、

「②メーカーが小売業者にスピードくじを渡しておき、当該商品の購入者に対し小売業者の店舗で抽選して、当選者に小売業者の供給するその他の商品を景品類として提供する場合」

については、絶対に小売業者が(も)景品類提供者になるのではなく、あくまでその「可能性がある」ということなので、まさに上記一般論に照らして検討することになると思われます。

まず、「主商品の選定」は、スピードくじの事例では、メーカーがするのがふつうでしょう。

こういう企画を小売業者がメーカーに提案するというのはちょっと考えにくいからです。

とはいえ、もし小売業者が主商品を選定してメーカーに提案した企画なら、それだけで小売業者が景品類提供者となる可能性がかなり高そうです。

次に、そもそも、

「景品類の種類〔の決定〕、〔景品類の〕額〔の決定〕、〔企画の〕実施期間〔の決定〕、〔企画の〕実施地域〔の決定〕、売上予定の算定、その企画の宣伝方法〔の決定〕など)」

は、異なる主体が決めるということはあまりないように思います。

つまり、これらの要素は、メーカーが単独で決めるならメーカーが全部決めるし、メーカーと小売業者が共同で決めるなら全部共同で決めるように思います。

ともあれ、これらの条件を小売業者が決めていれば、小売業者が景品類提供者となる可能性がかなり高いでしょう。

最後に、「経費の負担」についてですが、実は、企画の立案者が誰かというのは実務ではだいたいはっきりしていることが多いので、問題になるのはほぼこの経費の負担者についてです。

しかも、どちらかが全額負担するというのではなく、折半するとか、一部負担するとか、の場合が問題となります。

私は、少なくとも緑本の考え方を前提にするかぎり、景品類の調達コストを明示的に直接負担するような場合だと、たとえわずかな一部の負担でも、景品類提供者になることは避けられないのではないかと考えています。

少なくとも、経費の負担率が半分未満であれば景品類の提供主体でない、とかいうのはかなりはばかられます。

ですが、これも一般化がしにくいところがあり、たとえばスーパーが福引(あの、手で回してガラガラポンするやつですね)をする場合に、納入業者に納入商品を景品として現物支給(無償支給)してもらう、というケースでは、感覚的に、福引の主催者はスーパーであって納品業者ではないような気がします。

景品の経費は現物支給という形で納入業者が負担しているにもかかわらず、です。

ほかには、スーパーが福引をするときに納入業者に協賛金の支払を求めることがあるかもしれません。

優越的地位の濫用でよく問題になるパターンですね。

でも優越は忘れて景品規制だけを考えると、このような協賛金を出しているというだけで納入業者が景品類の提供主体だということは、あんまりないのではないかと思います。

協賛金を出しているだけの納入業者は、通常、このような景品類の提供をコントロールできる立場にないと思われるからです。

ここまで考えて、緑本の解説に不満があるのは、どうも消費者庁には、景品類の提供義務者は誰か、という民法的な発想がまったく見られないことです。

景品企画も民法上は立派な契約ですから、消費者には景品類引渡請求権があり、景品類提供者には景品類提供義務があります。

なので、誰が景品類提供者かを判断する場合には、誰が消費者に対して景品類提供義務を負うのかという点の考慮が不可欠であるように思うのです。

不当表示規制ではこういう権利義務関係というのは想定しにくいので、商品供給主体性とか、表示主体性といった、景表法の世界に閉じた議論しかできませんが、景品規制ではせっかく民法的な切り口が使えるのですから、これを使わない理由はないと思います。

この点に関連して、古川昌平『実務担当者のための景表法ガイドマップ』229頁が、上記緑本の考慮要素に加えて、

「(d)一般消費者からして誰が景品企画を実施していると見えるか、という観点も勘案されていると考えられる。」

と適切に指摘されていますが、外観上どう見えるかも実務的にはたしかに大事だと思います。

摘発リスクという点では、決定的だとすらいえるでしょう。

また、外観を重視するということは消費者の期待を保護するということであり、消費者保護法である景表法になじみやすいともいえます。

でも、外観で提供者が決まるというのはダイレクトにはつながらないはずで、根本的には、誰が景品類提供義務を負っているのか(消費者は誰に景品を請求できるのか)が考慮されるべきなのではないかと思います。

少なくとも、景品類引渡義務を負っていることが認定できたら、ほかのすべての事情はさておいて、ともかくそのような義務を負っている人は景品類の提供主体だといってよいように思います。(ほかにも提供者が併存することはあるにせよ。)

逆に、景品類提供義務を負っていないのに提供者だというのは、それなりに慎重に認定すべきではないかという気がします。

しかも、それで実務上問題が生じるようなケースは、あんがい少ないように思います。

消費者に提供義務を負っている人が、当然、景品類の内容や条件(主商品など)を決めているだろうからです。

自分の負う義務の内容を他人に決めさせるなんて、ふつうは怖くてできないでしょう。

そしてこのように民法的な発想で考えると、原資の負担はあんまり決定的でなくてもいいような気もしてきます。

というわけで、景表法だけの頭で考えているから企画の立案とか原資とか、そちらの方面ばかりが緑本では考慮されていますが、もっと民法的な発想があってよいのではないでしょうか。

2026年3月 4日 (水)

クーポン再発行と有利誤認表示(ソシエ・ワールド確約)

2026年3月3日、エステサロンを運営するソシエ・ワールドが、ウェブ上でのクーポンを再発行したことで有利誤認で確約認定を受けました。

消費者庁のプレスリリースの被疑事実によると、

「自社が運営する「エステティックサロン ソシエ」と称する店舗で供給する施術サービス(以下「本件役務」という。)を一般消費者に提供するに当たり、

令和3年9月23日から令和7年5月28日までの間、

「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、

例えば、「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」等

と表示することにより、

あたかも、当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるかのように表示していたが、

実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

ということのようです。

確約なので実際の表示物が公開されていない(それ自体問題だと思いますが、それはさておき)のでなんとも言いがたいところではあるのですが、私はこの確約認定はいろいろと問題があると思います。

少なくとも、この確約認定自体で、クーポンの連続発行自体が許されないことになるわけではないと思います。

まず、消費者庁のリリースでは、上記のとおり、

「実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

というだけで、無条件に「期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった」のかどうかが今一つよくわかりません。

しかし、この点については案の定といいますか、今朝(3月4日)の日経新聞朝刊で、

「消費者庁によると、同社は2021年9⽉〜25年5⽉、⼤⼿予約サイト「ホットペッパービューティー」に掲載したクーポンに有効期限を設定していた。実際には新たに別のクーポンを発⾏することで、期限が過ぎた後でも同等かそれ以上の割引でサービスを受けることができた。」

ということなのだそうです。

つまり、クーポンの連続発行の事案であり、値引を受けるためには後続のクーポンを使用することが条件であったことがわかります。

こんな大事な事実をリリースで書かないなんて、消費者庁はひどいと思います。(その理由はのちほど。)

実際の表示物がわからないので、たぶんこうだったんだろうという想像をするために、現在の同社のホットペッパービューティのクーポンページに表示されているクーポンを示すと、下のようなクーポンだったと想像されます。

20260304-094414

これの文字の部分が、消費者庁プレスリリースのような、

「「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」」

というものだったと想像しておきましょう。

ところで以前私はこのブログで、

同じクーポンを連続して配布するのは有利誤認表示か?」(2025年4月28日)

という記事を書いたことがあり、クーポンの連続配布は基本的には有利誤認にあたらないと説明していました。

この意見は、今も変わりません。

ではソシエの件はどうなのかといわれると、なかなか微妙です。

というのは、上記のようなクーポンの表示だったとすると、「クーポン」とはいいながら、ただの期間限定キャンペーンと異ならないようにもみえるからです。

もう少しかみ砕いていうと、不当表示とは、表示と実際の不一致です。

つまり、表示の意味が実際の取引条件と一致していない、ということです。

なので、まずは、表示の意味の確定をする必要があります。

では、本件で消費者庁は、表示の意味をどのように確定したのかというと、

「当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができる」

という意味だと確定したわけです。

実は、クーポンの場合、この「限り」といえるのかどうかが大問題です。

「限り」(英語でいえば、if and only if, 論理学の記号だとiff)だと、たった2文字なので読み流してしまいそうですが、きちんと文字で書き起こせば、

当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができ、

かつ、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

ということです。

スーパーのチラシに印刷されているクーポンの場合、クーポンに有効期限が記載されていても、それだけで有効期限後に同じクーポンが発行されないとまで読み取る人はいないでしょう。

たとえば、3月7日(土)の朝刊の折り込みチラシでスーパーが「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンを配った場合に、それを見た消費者が、

「3月14日(土)の朝刊に「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンが配られることはないんだ。」

と認識するのか、という問題です。

そんな認識は、ふつうしないでしょう。

というのは、消費者は、チラシのクーポンの有効期限は、その有効期限が過ぎたらそのチラシに印刷されているまさにそのクーポンが使えなくなるという意味であって、それ以上の意味はない(再度クーポンが発行されることはないという意味まではない)、と認識すると思われるからです。

つまり、紙のクーポンでは、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

という認識はしない、消費者庁のリリースの言葉で言えば、

限り

という認識はしない、ということです。

では、紙のクーポンではなくて、ソシエのケースみたいに、ウェブ上のクーポンなら、どうでしょうか。

まず、上で画像を示したところに行く一つ前のページの画像を示すと、こんな感じです。

20260304-100200

このように、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン」

という欄の下に、いくつかの「クーポン」が並んでおり、この1つをクリックすると、2つ上の画像のページに行くわけです。

これだとたしかに、「クーポン」とはいいながら、特定のコースを値引しているだけの、期間限定キャンペーンと何ら異ならないように見えます。

たとえば、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン

というタイトルを、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のキャンペーン

と書いてあったとしても、何の違和感もありません。

といいますか、むしろそのほうが言葉の意味として自然だと思います。

そもそもクーポンとは、広辞苑によると、

「①切取り式の券。回数券や債券の利札の類

②旅行者の便宜のために発行する、各種乗り物の通し切符や指定旅館の宿泊券などを一綴りにしたもの。

③一般に、割引券・優待券」

と説明されています。

本件では③が近いですが、いずれも、何らかの券であることが想定されています。

仮に電子的なクーポンであっても、リアルのクーポン券を模したようなものである必要があるでしょう。

なのにソシエの件は、表示を見てもそのような雰囲気がまったくありません。

なので、このような表示を「クーポン」と呼ぶのは、事実認定として誤りだと思います。

なので、消費者庁リリースの認定の、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、」

というのは、重要な点において事実認定を誤っており、ほんらいは、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで告知するキャンペーンにおいて、」

などと認定すべきだったと思います。

そうであれば、通常の期間限定キャンペーンのくりかえしと何ら異ならない、ありふれた事件だったということになります。

なぜこの点が重要かというと、ほんとうのクーポンであれば、そこ(=券)に書かれている有効期限は当該クーポン券の有効期限の意味だとしか解しようがないからです。

ここで、確約だと表示物が公開されないという問題が出てきます。

上記の画像はホットペッパービューティからスクショしたもので(なのでそれ自体は景表法違反でも何でもなく、たんなるサンプルです。)、たぶんこうだろうという想像でここまで考えてきましたが、こういう重要な点について想像を交えないと論評できないということ自体が、大問題だと思うのです。

現に日経記事では、本件はクーポンの連続発行が違反とされたというように報道されているわけです。

でもこれは日経新聞が悪いわけではなくって、消費者庁が記者会見でそういう説明をしたのでしょう。

実際、プレスリリースでも、クーポンでないものをクーポンだと認定しているわけですから、そういう説明になっているはずです。

私が上に述べたような問題意識には、気づくはずもないでしょう。

確約なら課徴金を免れるわけで、事業者としては消費者庁が確約にすると言えば喜んで応じるはずであり、争うインセンティブなんてまったくありません。

(まあ本件は、「クーポン」といいながら、実際には「キャンペーン」のくりかえしの事件なので、争っても勝てないとは思いますが。)

おそらく私一人がこのようなことを言っても、「クーポンの連続発行は不当表示」という誤解がどんどん拡散されていくことでしょう。

ほんとうに悲しむべきことだと思います。

2026年3月 3日 (火)

異なる販路間の二重価格表示

同じ事業者が、ある販路で売っている商品の価格を比較対照価格として、別の販路で売っている同じ商品について二重価格表示をすることは、その旨の何らの断り書き(打消し表示)もなしにすることは認められないのだろうと思います。

直感的にそう思う理由は、景表法では店舗ごとに考える発想が強いから(たとえばおとり販売告示)ですが、もう少し実質的な理由を考えると、消費者は二重価格表示をみれば比較対照価格はまさにその販路(例えばそのウェブサイト)での価格だと認識するだろうから、です。

逆に言うと、異なる販路(例えば、自社サイトとECサイト)であれば、価格が違うこともふつうにありうると消費者は思っているはずだ、ということです。

販路が違えば価格も違うのというのは、(商品によるかもしれませんが)実際にいくらでもありうることです。

以前仕事で、とあるLCCをECサイトで予約してオーストラリアに行ったことがありました。

当然、そのECサイトでは他のフルサービスキャリアより安かったからそうしたのですが、あとでそのFSCの自社サイトをみたら、なんとLCCよりも安かったのです。

当然、同じFSCでみたら、ECサイトより自社サイトのほうが、ずっと安かったわけです。

(ちなみにそのLCCでは荷物の重量オーバーで超過料金が取られるわ、サービスはLCCなので押して知るべしだわで、散々な目に遭いました。。。閑話休題。)

なぜ販路ごとに価格が異なるのかというのは場合によりけりでしょうが、単純に利益を最大化しているだけだという場合でも、ある販路(ECサイト)に集まる需要者は価格に敏感で、別の販路(自社サイト)に集まる需要者はそれほどでもなく、なので利益最大化価格が異なる、ということもあるでしょう。

あるいは、特にリアルの店舗の場合には、販路によって販売コストがちがう、ということもあるかもしれません。

あるいは、プロパー店舗とアウトレットみたいに、あえて顧客をセグメント化して価格差別をする、ということもあるかもしれません。

というわけで、販路が違えば価格も違って当たり前なわけで、それを前提にすると、二重価格表示がされると消費者は「同じ販路でこの比較対照価格なんだな」と思うわけで、何も断らず別の販路の価格を比較対照価格にしてはいけないわけです。

この点については、古川昌平『実務対当者のための景表法ガイドマップ』96頁(「アウトレット商品の二重価格表示」)で紹介されている、第54回規制改革会議資料3-2(平成27年12月4日)7~9頁というのがあります。

そこでは、消費者庁の回答として、

「 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)おいては(ママ)、提案主体が提案理由の中で述べるような「二重価格による表示を行う場合、『当該店舗』での『最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績』が必要となる」という考え方は示されていない。

 すなわち、同考え方においては、「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。このため、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていたとはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」との考え方が示されている。

 そして、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かについては、「当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることになるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる八週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が八週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して二週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から二週間以上経過している場合においては、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とはいえないものと考えられる。」との考え方が示されているところである。

 一方で、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品の二重価格表示については、一般的なアウトレット等における販売形態を踏まえると、アウトレット等において比較対照価格での販売実績のない商品であっても、プロパー店舗において最近相当期間にわたって販売した実績のある商品について、「プロパー店舗での販売価格○○円のところ××円」といったように、比較対照価格を事実に基づいて適正に表示する場合には、景品表示法上問題とならず、二重価格表示を行うことが可能であると考えられる。

 このようにアウトレット等においても二重価格表示を行うことは可能であるので、現時点で上記ガイドラインの見直しの必要はないと考えている。」

というように、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方が示されています。

これだけだとちょっと文脈がわかりにくいので、こちらの資料から経団連の意見も引用しておくと、

「消費者庁は、景品表示法のガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、プロパー店舗からアウトレット店・アウトレットサイトに移管した商品については、当該店舗での販売実績がないことから二重価格が不可能となっている。【アウトレット店・アウトレットサイト等におい
て、限定した要件の下、】二重価格を容易にする規制緩和を要望する。

【提案理由】消費者による消費行動の多様化により、近年はアウトレット店舗およびオンライン上でのアウトレットサイトが増加している。その結果、プロパー店からアウトレット店舗・サイト(以下、アウトレット等)への移管在庫は従来に増して頻繁になっている状況で
ある。

 消費者庁は、そのガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。この点、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品については、それぞれの要件を満たせず、二重価格表記が不可能となっている。また、過去の販売価格を比較対象価格に用いる場合の要件については、値札のスペース上の制約から、小売の現場で活用することが難しい。

 現状、アウトレット価格が記されたシールを従来価格の上に貼る以外にガイドラインに沿う方法がなく、その場合、プロパー価格からどの程度安くなった商品かがわかりにくい表示となる。アウトレットでお値打ち品を求める消費者にとっては、不便な状況となっており、改善が必要な状況と考えている。また、とりわけアウトレットにおける主力製品であるファッション小売品については、季節ごとに商品が変わるため、6カ月~1年前に正規店舗で販売した商品を販売することが多い。しかし、上記の規制が、このような流通実態と整合的ではないため、実際に二重価格表記を活用することができなくなっている。

 消費者にとってアウトレットは割安感を求めるチャネルであることを踏まえれば、アウトレットにおいては、より消費者がプロパー販売価格からの割引額が把握しやすい二重価格表記を可能とする要件を緩和することが、消費者の利益に適うと考える。販売業者の立場からは、規制緩和により公平な競争環境が整備される。

 よって、現行のガイドラインについて、①「当該店舗」、「最近相当期間」の定義を見直す、②「過去の販売価格」の表示の要件を緩和する、③アウトレットの類型について、流通実態に即し、新たに二重価格の表示を可能とする要件を設定する、など所要の見直しを検討すべきと考える。」

というのが、経団連の意見の内容です。

ちなみに、経団連の意見では、

「このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。」

とはっきり言っていて、「当該店舗」なんてはっきり価格表示ガイドラインで言ってたかなあと思いガイドラインを確認すると、ガイドライン第4の2⑴ア(ウ)には、

「(ウ) 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準 

比較対照価格「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、

当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態を考慮しつつ、

個々の事案 ごとに検討されることとなるが、

一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるも のとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期 間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期 間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当 期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。」

というところで「当該店舗」という表現が用いられていますが、そのすぐあとに「を考慮しつつ」とあることからもあきらかなように、あくまでこれは例示(最近相当価格該当性認定の考慮要素の1つに過ぎない)ということなので、これだけをもって当該店舗の価格しか比較対照価格にすることができないと読むのは、論理的にはちょっと厳しいんじゃないかなという気がします。

(反面、比較対照価格の最近相当価格該当性の考慮要素として「当該店舗における販売形態」というのをあげていることからすると、これは、そのお店でどれくらい頻繁に価格が変更されるのかということを意味しているようにも読め、そうすると、「当該店舗」という記載は、当該店舗での販売価格しかガイドラインは比較対照価格として想定していないのだ、というようにも見えてきて、正直よくわからないです。)

ともあれ、このような、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方を裏返すと、何も断らずに異なる販路の価格を比較対照価格としてはいけない、という考え方が読み取れます。

ただ、これに対しては、

原一弘(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課長補佐・前消費者取引課長補佐。執筆当時)「『不当な価格表示についての景品表示法上の考え方』について」(公正取引59912頁・2000年)

では、

「新規 開店の店舗については、販売実績が全くないので過去の販売 価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うことはできない。ただし、チェーンストア等が既存の店舗に加えて新たな店舗を開く場合については、各店舗で統一的な価格設定が行われていることを前提に、「当社通常価格 (この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。)」等、その比較対照価格の内容を明確にすることで、自社の他の店舗の過去の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは可能である」

とされています。

これは、前記規制改革会議の消費者庁回答と似ているようで、重要な点で異なります。

というのは、異なる店舗での価格であることを注意書きすることに加えて、「各店舗で統一的な価格設定が行われていること」まで要求しているからです。

この考え方に従えば、プロパー店舗とアウトレットでは統一的な価格設定はしていないでしょうから、断り書きをしてもダメだ、ということになると思われます。

しかし、それはいくらなんでも厳しすぎるというべきでしょう。

不当表示は表示と実際の不一致なのですから、実際に合うように表示すれば不当表示にはならないはずであり、「統一的な価格設定」みたいな、客観的事実を不当表示該当性(あるいは非該当性)の要件にするのは、理論的に誤りだと思います。

別の言い方をすると、景表法は表示と実際の不一致を問題にする純粋な表示規制(表示のみの規制)なのであり、一定のビジネスモデル(例、統一的価格設定)をとるかとらないかでそもそも一定の表示ができるとかできなくなるとかいうことはありえない、ということです。

また、原論文の考え方は、前記規制改革会議の消費者庁回答にも反します。

というわけで、原論文はあきらかに厳しすぎ、規制改革会議の消費者庁回答の考え方(販路の違いを明示すれば問題ない)が基本的な方向性としては正しいというべきでしょう。

では、異なる販路であることさえ断れば、どんな場合でも二重価格表示をしていいかというと、それもちょっと微妙です。

チェーンストアであれば、何も言われなくてもどの店もだいたい同じような販売条件で、同じような価格設定でしょうから、厳密に「統一的な価格設定」でなくても、他店舗の価格を比較対照価格としてもいいでしょう。

アウトレットの場合は逆に、アウトレットはプロパー店舗よりも安いものだという認識が消費者にあるでしょうから、そういうものだというかぎりでは、プロパー店舗の価格は消費者の参考になるといえるでしょう。

でも中には、果たして参考にしていいのかどうか消費者にもわからない(消費者は参考にできると思っているけれど、ふたを開けてよく見てみたら、全然参考にならない)販路というのも、ありうるのではないかと思います。

そういう場合には、こういう販路の価格ですと断るだけでも足りず、その販路とこの販路にはこういう販売条件や市場環境などの諸々の差があります、ということまで言わないと、変に有利だと誤解を招く、ということもあるような気がします。

というか、そんなことを断らないといけない二重価格表示なんて、そもそもどれだけ断り書きをしても誤解を招きかねないので、やるべきではないのではないか、という気もしてきます。

では具体的に比較対照価格にしては絶対いけないような販路としてどのようなものがあるのかというと、例が思いつかないのですが、やはり、消費者が参考にして誤解を招くような別販路の価格は用いてはいけない、ということだと思います。

むしろ実務的に気になるのは、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合にも、「この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。」なんていう断り書き(打消し表示)をしないといけないのか?ということでしょう。

「他店」であることを明示しなくて、例えば、「通常価格〇〇円」だけだと、絶対にだめなのでしょうか?

私は、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合であれば、特に「他店」であることを明記せず、「通常価格〇〇円」というのでもいいような気がします。

これをサポートしてくれる文献に、

笠原宏「初めての景品表示法(第6回)ー不当表示規制(有利誤認表示)-」公正取引863号(2022年)59頁

があり、そこでは、

「Q:この基準〔8週間ルール〕によると、スーパーなどが新店舗を開店した場合、その店舗での回転売り出しに二重価格表示を行うことはできませんか。

A:チェーンストア等で、各店舗が統一的な価格設定をしているような場合には、既存店が扱っているのと同一の商品については、他の要件を満たす限り、既存店の最近相当期間価格を比較対照価格として、新規店舗の安い実売価格との間で二重価格表示を行うことは可能だとされています。」

と解説されており、文字どおりに読めば、他店の価格であることは断る必要はない、と読めます。

というか、そうとしか読めません。

というわけで、元消費者庁表示対策課長の笠原氏もそうおっしゃるわけですから、ここは「他店であることの明示は不要」と解しておきましょう。

規制改革会議での消費者庁回答は、アウトレットという、あきらかにプロパー店舗と価格設定が異なる販路だから明示を要するのだ、と解すれば説明はつきます。

少なくとも、「新規開店の場合には過去の販売実績がないので、『通常価格』という表記は当然に違反だ」というのは、言い過ぎだと思います。

2026年1月23日 (金)

景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じか?

景表法上の景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は、同じものでしょうか。

この問題は、無償の取引が「取引」に含まれるのか、という論点において最も問題となります。

まず、景品規制の「取引」は、景表法2条3項の、

「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「景品類」の定義の中に出てきます。

これに対して、表示規制の「取引」は、景表法2条4項の、

「この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「表示」の定義の中に出てきます。

この点、通常は、同じ法律に出てくる同じ言葉は同じ意味に解するという暗黙の了解のようなものがあり、実際、緑本第7版p51でも、表示規制の解説の中で、

「事業者と一般消費者との間にどのような関係があれば「取引」が存在するといえるのかについては、後記第3章2の景品類の定義に関する説明の中で主として記載する」

と、あたかも表示規制における「取引」は景品規制における「取引」と同じ意味であることを前提にするかのような記述がなされています。

しかしながら、景表法の「取引」がそう単純に割り切れないのは、上に条文を引用したとおり、同じ「取引」という言葉が、片や「景品類」の定義、片や「表示」の定義の中で用いられており、これら「景品類」と「表示」が別々に内閣総理大臣によって指定されることになっていることです。

結果的にいずれも同じ定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」)で定義されていますが、これはほんとうにたまたまそうしただけであって、

”不当景品類及び不当表示防止法第二条三項の規定により景品類を指定する件”

”不当景品類及び不当表示防止法第二条四項の規定により表示を指定する件”

という2つの告示で指定したとしても、景表法の規定上はぜんぜんおかしくありません。

こういう景表法2条の建付けと、その中での「取引」の位置づけという形式面だけからしても、景表法においては同じ「取引」を景品規制と表示規制で異なる意味に解する余地は十分にあるといえます。

というより、異なる告示で指定しうる建付けである以上、景品規制と表示規制で「取引」が同じ意味になったときには、たまたまそうなっただけなんだ、というべきでしょう。

たしかに、運用基準レベルでは、景品規制と表示規制を区別せずに、定義告示運用基準3項が、「「自己の供給する商品又は役務の取引」について」の解釈を示していて、この「自己の供給する商品又は役務の取引」というのは、定義告示1項(景品類)の、

「不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第二条第三項に規定する景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」と、定義告示2項(表示)の、

「2 法第二条第四項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」の両方をひとまとめにして説明したものだと解されます。

というわけで、運用基準上は景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じ意味であるとされているというほかありません。

でも、運用基準はあくまで運用基準であって、景表法自体に根拠があるものではありません。

なので、論理的には、景品規制の「取引」と表示規制の「取引」が違ってもかまわないことになると思います。

とはいえ、運用基準の権威は実務では絶大ですし、これまでは緑本で上記のとおり両者が同じである前提での解説もあったので、あまり両者を区別して論ずべきという議論もなかったように思います。

これが、そういうわけにもいかないんじゃないかという話になってきたのが、無償の取引も「取引」なのかという論点が着目されてきたためです。

緑本p53のコラムでも紹介されていますが、この点を正面から取り上げたのが、「DYM就職」に関する措置命令(2022年4月27日)です。

この事件は、利用者(求職者)が利用するのは無料のサービスについての不当表示が、景表法の表示規制の対象となったものです。

この事件の担当官解説(公正取引869号66頁)では、無償取引も取引かの論点について、

「(2) 「無料Jの就職支援サービスに対する法適用の可否(「事業者」該当性)

景品表示法の対象となる表示は「事業者」が「自己の供給する商品又は役務の取引について」行う「表示」である (5条柱書き。) 商品又は役務を供給する主体が相手方から、金銭を受け取っていない場合に、かかる要件を満たすかが論点となる。

この点、サービス提供主体から、相手方である消費者が「無料」で、すなわち金銭的負担なくサービスの供給「(なんらかの経済的利益の供給」)を受けられる場合であっても、消費者が経済的価値を有する個人情報などを反対給付としてサービス提供主体に提供している (「反対給付を反覆継続して受ける」)場合には、サービス提供主体の行為は、「事業」に当たり、 「事業者」性が肯定されると解される。

この点、特に、本件のような就職支援サーピスは、求人側の企業と求職者の両サイドをマッチングするサービスであるという特性上(いわゆる二面市場に該当する)、どちらか一方のみでは、サービスとして成り立たず、両者が一体となって初めて成り立つものである。

このため、サービス提供主体が一般消費者から金銭を受け取っていない場合でも、一般消費者が経済的価値を有する個人情報など何らかの反対給付をサービス提供主体に提供しており、両サイドのマッチングを含めたサービスが一体として初めて成り立つものといえる場合には、サービス提供主体の行為は 「事業」に当たり、景品表示法が適用される 「事業者」 に該当することとなるものと解される。

本件において、 D Y Mが提供している役務は、①電話や面談による就職カウンセリング、 ②就職カウンセラーによる就職・転職活動支援、 ③求人情報の提供、 ④応募手続の代行等であった。同社の就職支援サービスを利用した求職者(消費者) は、これらの役務を利用するに当たり D Y Mに対して金銭を支払っていなかった。つまり、D Y Mは、求職者に対して就職支援サービスを提供しているものの、反対給付としての金銭は受けておらず、就職をあっせんした求人企業から成功報酬としての手数料を収受することにより、収益を上げていた。D Y Mは、求職者から、住所、学歴・職歴、免許・資格、アピールポイント、希望業種、勤務地、雇用形態等の詳細な個人情報の提供を受けていた。D Y Mは、求職者から得たこれらの個人情報を元に求人先企業をマッチングして、当該企業に個人情報を提供して採用面接をセッティングし、求職者が当該企業に採用されると、成功報酬としての手数料を得ていた。

これらのことから、 D Y Mが、本件役務①及び本件役務②において、求人先企業から手数料を得るためには、求職者の上記のような個人情報が不可欠なものであるといえる。このため、求人先企業から手数料を得ることと求職者から個人情報の提供を受けることは、本件役務①及び本件役務②が成り立つために不可欠な関係にあるといえることから、求職者が提供する個人情報は、 D Y Mにとって経済的な価値を有する反対給付といえ、 D Y Mが本件役務①及び本件役務②を供給する行為は「事業」に当たり、 D Y Mは、景品表示法上の「事業者」に該当すると考えられる。」

と解説されています。

(この解説では、「事業」の解釈と位置付けていますが、それは公取委の時代からそうだったからそうなっているだけで、「取引」の解釈と位置付けても結論は同じでしょう。ただ、条文上は「事業者」という用語はあっても「事業」という用語はないので、論理的にはちょと難があります。)

この事件の処理自体は、まあこういう就職率の水増し(同社主催のイベントに参加した者の就職率が95.8%以上と表示したが、実際にはそれは一時点における最も高い数値に過ぎなかった)が野放しになるのはいかにも消費者(求職者)の保護に欠けるので、妥当だったとは思います。

(でも、その理由付けとして、サービスに不可欠な「経済的価値のある個人情報」をサービスの反対給付として消費者が提供していることを挙げるのは、だったらそういう個人情報の提供がなくて消費者をだますような不当表示が将来出てきたときに対応できないように思われ、また、いかにも「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」から無理矢理引っ張ってきた感があり、いろいろ言いたいことはありますが、それはまた後日にしたいと思います。)

では、もしDYMがサービス利用に付随して求職者(消費者)に経済上の利益(景品)を提供していた場合、個人情報が不可欠な二面市場であることを理由に景品規制がおよぶと考えてよいものでしょうか、というのがここでの問題です。

この事件独自の問題点として、就職率の虚偽表示があった場合にはさすがに求職者の合理的なサービス選択を阻害しているので放置はできないのに対して、景品が法定の上限を超えていたくらいで合理的な選択を阻害していたといえるのか、という素朴な疑問があります。

まして二面市場の場合には、両サイドの需給関係やネットワーク効果の大小・方向しだいで、一方の利用料が無料(DYMのケース)とか、極端な場合になるとマイナス価格になることすらありえます。

医師の男性限定の婚活パーティの場合、女性のほうが参加料が高いのもその類です(通常は男性のほうが高い)。

それなのに、本来的に無料のDYMのようなサービスで求職者にDYMが何らかのインセンティブを提供していたら、本来無料なので値引ともいいにくく、そうすると即座に景品類だということになりかねません。

そうすると、合理的な商品選択の阻害がなく経済的には完全に合理的な経済上の利益の提供を、景品規制が禁止してしまう、ということになりかねません。

さらに、DYMを超えてより一般的な問題は、仮に無料の取引も「取引」にあたるとして、では景品規制上の「取引の価額」をどう算定するのか、ということです。

たとえばDYMのような無料の取引の場合に関係しそうなのが総付運用基準1⑷ですが、そこでは、

「(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、製造業者又は卸売業者である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格を基準とする。」

とされています。

この「実際の取引価額」を、個人情報の価値と読むのは、文言解釈として無理でしょう。

実は似たような問題がデジタル優越ガイドラインにもあって、ガイドライン案のパブコメの221番で、

「○デジタル・プラットフォーム事業者への課徴金適用の可否を明確にしてほしい。無料でサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者の場合にはどのように考えるのか。(団体,弁護士)

○本考え方案(例えば2)における「対価」は,独占禁止法施行令第30条の「対価」と同義と理解してよいか。ひいては,個人情報等が対価として提供されている取引においてはかかる個人情報等の価値を金銭評価して課徴金が算定されると理解してよいか。(弁護士)

○課徴金を課す場合,個々の消費者ごとに「対価」を算定する,という立場であると理解してよいか。(弁護士)」

という質問が出たのに対して、公取委の回答は、

「優越的地位の濫用行為に係る課徴金については,個別具体的な事案に応じて,独占禁止法第20条の6の規定に基づき,算定します。」

という、事実上の回答拒否でした。

このように、景品の運用基準では無償の取引は想定されていないとうかがわれることからすると、どうも「取引」を表示規制と景品規制で別異に解釈する余地もあるのではないか、景品規制では無料の取引は「取引」にあたらないと解する余地もあるのではないか、と思われてならないのです。

ちなみに、私は取引の対価は金銭に限るべきと言っているわけではありません。

金銭に限ると言ってしまうと、物々交換が景表法の対象外になってしまいます。

そうではなくて、そもそも個人情報はサービスの反対給付とはいえない、ということです。

ほんとうの物々交換なら、サービスの反対給付としての物を金銭評価して「取引の価額」を算定するのが理論的には妥当ですし、それで何の問題もないと思います。

でも、同じように個人情報の価値を金銭評価して「取引の価額」だとするのは、そもそも理屈として間違っている(個人情報はサービスを受けるのに必要だから提供するけれど、サービスの対価ではないから)、ということです。

もし、個人情報がサービスの対価だとすると(※ちなみに上記DYMの担当官解説も、個人情報がサービスの対価だとは言っていません。「事業」性認定の一要素にしているだけです。)、たとえば個人情報をDYM自身は見れないようにして、求人企業だけが見れるようにすれば、取引当事者間での対価(個人情報)の提供はないので「取引」ではない、とか、よけいな反論(ないしはそのような(屁)理屈を盾にした脱法行為)が出てきそうな気もします。

2025年10月14日 (火)

牡蛎販売イベントでの二重価格表示に対する措置命令について

2025年10月10日に、消費者庁は、LH株式会社に対して、二重価格表示で措置命令を出しました

消費者庁リリースによると、違反事実は、

「例えば、令和7年2月22日から同年5月13日までの間、「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の「出張カキ小屋『牡蠣奉行』inメガセンタートライアル店2025年3月7日~30日開催」と称するページに掲載したチラシにおいて、「旬の東北のカキを特別価格でご提供!!」、「復興支援価格!!」及び「宮城県産 カキ一盛り(約1kg) ※焼きガキ用 通常価格1,320円(税込)→880円(税込)」と表示するなど、別表2「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、

あたかも、「通常価格」と称する価額は、「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいて本件料理について通常提供している価格であり、実際の提供価格が当該通常提供している価格に比して安いかのように表示していた。」

のに、実際には、

「遅くとも令和6年9月13日以降に開催した「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいては

本件料理を880円又は660円で提供しており、「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。

ということです。

この事件では、「「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。」ということなので、二重価格表示の事例でよくみられる、「最近相当期間にわたって提供された実績のないものであった」(例、2024年12月17日デザインワードに対する措置命令)という認定にはなっていません。

それ自体は当然といえば当然なのですが、そこで気になるのが、この種の短期イベントで8週間ルールが適用されるのか、ということです。

この事件で問題になったイベントは、「2025年3月7日~30日開催」という、短期間のイベントであったことからすると、さすがに8週間ルールはその適用の前提を欠くように思われます。

かといって、命令に「「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。」と書いてあるからと言って、その反対に、実績が(少しでも)あれば不当な二重価格表示にならないのかというと、そんなこともないでしょう。(当該事案において、実績がなかったので実績がないと認定しているだけであって、実績が少しでもあればOKとい意味ではないでしょう。)

でもそうすると、どれくらいの実績があればOKだったのかが、よくわかりません。

命令では、「令和6年9月13日以降に開催した「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいて」実績がなかった認定されているので、同種の過去のイベントでの実績が問題になるような書きぶりに見えますが、イベントという売り方の性質上、消費者は、個々のイベントを別々のものと認識するように思われます。

そうだとすると、「通常価格」と言ったからといって、過去の同名称のイベントでの実績があった価格であるとは認識しないようにも思われ、そうすると、消費者庁の認定はおかしい気もします。

さらに言えば、「通常価格」が過去の同名称イベントの実績だと認識されないのであれば、はたして本件が有利誤認表示といえるものだったのか、根本的な疑問が生じます。

本件ではたまたま同名称イベントで実績がまったくなかったので、こういう粗い認定でも文面上あきらかにおかしいと見えるような命令にはなっていませんが、若干なりとも実績があったら、8週間ルールがない前提では、どのように判断するのか、興味深いものがあります。

仮に消費者庁が、8週間ルールの適用を念頭に本件を摘発していたとしたら(それもありえそうな話ですが)、それはおかしいと思います。

というのは、「2025年3月7日~30日開催」という表示だけで、2025年3月6日以前には価格云々以前の問題として、そもそも販売されていないことがほぼ明らかだからです。

もう1つ気になるのは、本件が確約になっていないことです。

日経新聞の10月11日の記事によれば、

「同社の担当者は取材に「市場の相場などと比較して表示していたが、不勉強だった。指摘を真摯に受け止め、再発防止を図る」とコメントした。」

とのことです。

もし「通常価格」が市場の相場だったとしたら、実質的には、ぜんぜん実害はないように思います。

そもそも消費者は、この種の短期イベントで、過去の同名称イベントでの価格での実績を気にしているとは考えにくいからです。

市場の相場よりも安ければ、それで十分でしょう。

少なくとも、確約1号案件のcaname(2025年2月26日確約認定)の、期間限定で入会金を値引きするかのように表示していたほうが、ずっと悪質だと思います。

措置命令になると課徴金も出るわけですし、その差は大きいと思います。

確約は建前からすると消費者庁の側から当事者に打診するものなので、仮に当事者が言ってこなくても、「確約がありますよ」くらいは、行ってあげても良かったのではないでしょうか。

代理人が付いていなかったらなおさら教えてあげるべきでしょうし、代理人が確約というものを知らなかったとしても、やっぱり、教えてあげるのが親切というものでしょう。

この事件で確約にならないというのが、どうも納得がいきません。

(ひよっとしたら、確約を申請するのが手間だとか、弁護士費用がよけいに掛かるとかいう理由で、かつ、課徴金も大したことないという判断で、あえてなりゆきにまかせたのかもしれません。それくらいしか、確約にならない理由が思い当たりません。)

あと、この種の短期イベントのような、典型的な小売店での販売でなく、8週間ルールの適用があるのか(ないとしたらどのようなルールが適用されるのか)よくわからない事例において、どう対応したらいいのかというと、要は、比較対照価格がどういう価格なのかを注記しておけばよいのです。

価格表示ガイドラインp6では、

「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、

当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り

一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある」

とされており、逆に言えば、比較対照価格が「当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示」していれば、有利誤認表示にはならない、ということです。

ですので、本件でも、「通常価格」のところに、「市場の相場を当社で調べた価格」などと表示しておけばよかったのです。

必ずしも、同名称のイベントでの実績が要求されるわけではありません。

というか、むしろ原則は、比較対照価格の「内容を正確に表示」することであり、8週間ルールはそのような表示がない場合にはじめて問題になるものであることを忘れてはいけません。

2025年10月 5日 (日)

SNSコメント引用に関するステマガイドライン第2・2⑴キの注の解決?

前回、ステマガイドライン第2・2⑴キの、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

という注の意味について考えてみて、結局結論が出ませんでした(汗)。

その後さらに考えてみて、きっとこういうことではないか、という仮説を思いつくに至りました。

ポイントは、注の文言は無視して、パブコメだけを頼りに解釈する、ということです。

おさらいすると、パブコメのコメント(質問)のほうでは、第三者のコメント欄が広告に当たらないとすると、コメントに虚偽の表示があっても優良誤認表示にならないことになって問題ではないか、という至極全うな指摘がされました。

これに対する消費者庁回答は何を言っているか意味不明で、注も意味不明なのですが、ともかく、このコメント(質問)で指摘された原案の問題点を糊塗するために、この注が挿入された、と読むのです。

そうすると、この注は何を言っているのかというと、優良・有利誤認表示を念頭に、

「客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」

であっても、優良・有利誤認表示との関係では

「当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。」

ということを言っているのだ、と解釈すると、いちおう、パブコメの質問には答えていることになります。

「当然に」とあえて強調しているのは、

「このガイドラインはステマのガイドラインなので、優良誤認表示のことを考えているわけないじゃないか。そんな場合に優良誤認表示になるのは当然でしょ。」

という、立案担当者の心の叫びだとみるべきでしょう。

ここで、

「当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって、」

の部分が完全にすっ飛ばされていますが、この部分が何をしたかったのかというと、キを原案から維持したにもかかわらず、第三者のコメント欄(「事業者のウェブサイトの一部」)が優良誤認表示にならないことは矛盾しないのだ(矛盾すると思いますが・・・)というように無理矢理つなげたかったのだ、ということであろうと推測されます。

この、無理矢理つなげる感は、

「・・・の場合は、・・・ことを示すものであって、・・・が・・・とされることは当然にあり得る。」

という、接続語(?)だけをつなげて、「流れ」(?)を重視して読み直すと、雰囲気は伝わります。

繰り返しますが、この注は文字どおり読んでも理解できません。

その「心」を読み取るべきなのです。(なんというガイドラインでしょう!)

そして、最後の、

「なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

というのは、何を言いたいのかというと、

「この注で問題にしているのは優良誤認表示のことなので、ステマのPR表記の有無(=「当該事業者の表示であることが明らかである」かどうか)なんて、当たり前すぎて問題になりませんよ。」

ということなんだろう、と推測されます。

ここで、

「この場合」

というのが、どの場合なのかが問題となります。

(こそあど言葉って、とくに法律の文書を読むときは大事です。というより、そこに疑義を生まないように書くことが大事です。)

ふつうに読むと、一番ありそうなのは、

「当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされる〔場合〕」

ということでしょう。

でもそう読むと、

「当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされる場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

となりますが、これでは、その表示が「事業者の表示」(広告)である場合には通常「事業者の表示」(広告)であることが明らか、という意味になってしまい、そんなことを言ってしまうとそもそもステマ規制がなりたたなくなります。

表示該当性(表示主体性)と、判別困難性は、別の話です。

でも、これほど理屈の通らないガイドラインを読んでいると、もうそんな理屈をこねる気にもなりません。

そこでさらに、文言を無視して、とにかく立案担当者の心中を慮ると、「この場合」というのは、「優良・有利誤認表示を問題にする場合」という意味だと読むと、すっきりします(論理的にも解釈論的にも無茶苦茶なので、あくまで気分だけの、しかもちょびっとだけの、すっきり感ですが)。

表示主体性が認められて、かつ、広告判別困難性も認められて始めて成立するのがステマであり、表示主体性はほとんど問題にならず内容だけが問題になるのが優良・有利誤認表示であるとはいえ、論理的には、表示主体性はいずれでも問題になるものです。

それが、注の立案担当者の頭の中では、表示主体性が両者の共通要件だという発想が欠けていて、ステマと優良・有利誤認表示は別だ、と考えられているのだと推測されます。

ほんとうに、おそろしいことです。。。

というわけで、注を書き直すと、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部はステマには該当しないのであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が優良・有利誤認表示とされることは当然にあり得る。

なお、優良・有利誤認表示を適用する場合、当該ウェブサイト全体が当該事業者の表示であることはあたりまえなので論点にもならないといえる。」

といったところでしょうか。

ステマだけが見える「ステマメガネ」と、優良・有利誤認表示だけが見える「優良・有利誤認表示メガネ」をかけ替えるイメージでしょうか。

そのバージョンで修正すると、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

ステマメガネで見ると、当該ウェブサイトの一部当該事業者の表示とされないことを示すものであって、

優良・有利誤認表示メガネで見ると、当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、優良・有利誤認表示メガネで見る場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

といったところでしょうか。

半分茶化しているようですが、こういうメガネのかけかえを無意識にしている(あるいは、無意識に色眼鏡で見ている)ことは、おうおうにしてありがちなので、注意しないといけません。

今回は、分かりにくい比喩で恐縮ですが、ユークリッド幾何学の前提で話を聞いていたら珍紛漢紛だったのが、ロバチェフスキー幾何学の前提での話だったことがわかった、というのに似た知的スリルを感じずにはおられません(松田克進『スピノザ学基礎論』p35参照)。もちろん、皮肉です。

(最後に余談ですが、この松田克進『スピノザ学基礎論』は、スピノザの『エチカ』がちょっとわかった気になる、というか、なぜわからないのかがわかる、秀逸な書籍です。ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』のようなガチガチに論理的な読み方をしていて上記(注)が理解できなかったのが、今回なんとかこういうことだろうと推測できたのは、同書のおかげです)。

2025年10月 2日 (木)

SNS自社サイト引用に関するステマガイドラインの記述について

ステマガイドライン第2・2⑴キ(p6)では、

「キ 事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく、

また、当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSNSの投稿には

事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載しであるにもかかわらず、

その一方のみの意見を取り上げ、

もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する場合。」

が、

「事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば、事業者の表示には当たらない。」

ことの例としてあげられています。

そして、キの(注)では、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

とされていますが、この注は何回読んでも意味がわかりません(苦笑)。

そこで、その謎を解こうというのが、今回のお題です。

まず、直感的にわかりやすくするために、上記(注)において、

「当該事業者の表示」→「当該事業者の広告」、

「当該ウェブサイトの一部」→「『SNSで話題』欄」、

と置き換えると、上記注は、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

『SNSで話題』欄について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄のみをもって当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

となります。

まず、上記(注)がわかりにくい理由は、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって・・・」

という部分に主語がないからでしょう。

「表示とされ」という受動態を用いていることからすると、その前に主語があってもよさそうなものですが、それが(明示的には)ないのです。

日本語の文章の主語は、ふつう、助詞「は」または「が」(ときどき「も」)の前にあります。

お役所の公文書なら、なおさらです。

でも、上記引用部分の「表示され」より前の部分には、「は」も「が」も「も」もありません。

そこで、「のみをもって」が助詞「は」「が」「も」の代わりを担っているのではないかと疑われます。

そして、ガイドラインパブコメ104番(p67)回答では、

「御指摘については、事業者が第三者の表示をそのまま加工することなく利用する場合に限って、

当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを記載したものです。

そのため、当該箇所以外の事業者のウェフサイトの表示について、当該事業者の表示主体性が否定されるものではありません。

ただし、御指摘について、文意を明確化するために修正いたします。」

とされており、「当該第三者の表示の箇所についてのみ(≒が)」「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」であるとの説明がされていて、「当該第三者の表示の箇所」が、「・・・認められる」の主語であろうことがわかります。

「について」を助詞「は」「が」の代わりに用いて主語を作ることは、インフォーマルな日本語としては許されるレベルかと思いますが、いずれにせよこれも、ゆるい日本語の書き方だと思います。

そして、ガイドラインの起草者が、このようなゆるい日本語を使う人であることを想定すると、「のみをもって」を「が」の代わりに使うかもしれない、ということも、十分想定されるように思われます。

これを踏まえて上記注(言いかえ版)を書き換えると、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

『SNSで話題』欄第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

となります。

これでだいぶすっきりしたように思いますが、それでも何がいいたいのか、(これだけでは、ある意味当たり前すぎて)よくわかりません。

そこでやはりパブコメに戻ってみると、コメント104番は、

「第2の2(1)ア(力)〔注・原案では、「第2・2⑴キ」は、「第2・2⑴ア(カ)」でした。〕

「事業者が自社のウェブサイトにおいて、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該表示を恣意的に抽出(略)せず、

また、第ー者の表示内容に変更を加えること(略)なく、

そのまま引用する(略)場合」

には、当該事業者が「表示の肉容の決定に関与した」とは言えないとのことです。

その場合に、当該ウェブサイト上で、当該事業者の供給する商品について、第三者が、一般消費者に著しく優良であると誤認される表示や著しく有利であると誤認される表示をした場合にも、当該事業者は「表示の内容の決定に関与した」とは言えず、優良誤認表示や有利誤認表示をしているとは判断されないのでしょうか。

仮に優良誤認表示や有利誤認表示に該当する可能性がある場合は、追記してはいかがでしょうか。おとり広告運用基準でも、おとり広告該当性のみならず有利誤認表示該当性について触れられていますし、形式的には可能と考えますがいかがでしょうか。」

というコメントでした。

要は、「第三者のコメントをありのまま自社サイトに引用するのが広告にあたらないとすると、そのコメントに優良誤認の内容が含まれていても事業者は責任を負わないことになり、不当ではないか。」というコメントです。

あきらかにプロの手によると思われる、きわめて鋭い指摘です。

そこで、上記(注)がこのようなコメント(第三者のコメントの引用であっても内容が虚偽であれば優良誤認になるべきというコメント)に対する対応であるとすると、上記(注)は、第三者のコメントの引用の内容が虚偽であれば優良誤認表示になる、という趣旨だ、と読むのが自然でしょう。

(ただし、パブコメ回答者が104番のコメントを正しく理解できていて、かつ、コメントに正面から答えようとしたことを前提とします。)

そういう目線でもう一度104番の、

「御指摘については、事業者が第三者の表示をそのまま加工することなく利用する場合に限って、

当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを配載したものです。

そのため、当該箇所以外の事業者のウェフサイトの表示について、当該事業者の表示主体性が否定されるものではありません。

ただし、御指摘について、文意を明確化するために修正いたします。」

という回答を読みでみたのですが、やっぱり、この回答自体が104番のコメントの疑問に答えていません。

というか、104番のコメントを理解していません。

というのは104番のコメントは、前述のとおり、「第三者のコメントをありのまま自社サイトに引用するのが広告にあたらないとすると、そのコメントに優良誤認の内容が含まれていても事業者は責任を負わないことになり、不当ではないか。」というものです。

これに対して、

「当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを配載したものです。」

と答えてしまったのでは、

「当該第三者の表示の箇所についてのみ、非広告となることを配載したものです。」

ということになってしまい、「当該第三者の表示の箇所」(=「SNSで話題」欄)は広告ではない、つまり、優良誤認表示にならない、ということを正面から認めてしまったことになるからです。

さすがに消費者庁も、そんなばかな解釈は採らないと思いますが、それでも、パブコメ104番回答は、そのようにしか読めません。

では、104番回答はパブコメ質問をどのように理解してキの修正と(注)の追加をしたのでしょうか。

そのカギは、キの修正箇所を見るとわかります。

キの原案は、

(カ) 事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なくせず

また、当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSN Sの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載しであるにもかかわらず、

その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する

(例えば、第三者の表示であることが判別できる方法で表示する。)

場合。」

というものでした。

ちょっとわかりにくいですが、太線が原案オリジナル部分(つまり成案では消された部分)、見え消しが成案追加部分(原案にはなかった部分)です。

そうすると、原案から成案への実質的な変更は、冒頭の「事業者が自社のウェブサイトの一部」のところの、「の一部」を追加しただけだ、ということがわかります。

(「(例えば、第三者の表示であることが判別できる方法で表示する。)」は、あくまで例示なので、論理的にはあってもなくてもいいので、本質的な変更ではありません。)

そこから逆算すると、消費者庁回答は、104番コメントを、キが、「事業者のウェブサイトの全部」について表示主体性を否定しているように読めるのではないかというコメントだと理解(誤解)して、そのような疑義(以下「一部・全部問題」といいます。)を解消するために、「自社のウェブサイトの一部」という文言を追加したもだろうと推測できます。

そのような理解に立てば、(注)(改変版)の、

「(注) ただし、上記キについては、・・・

『SNSで話題』欄が第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄は当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

というのも、たんにこの「一部・全部問題」に対応しただけ(104番のコメントには対応していない)だということがわかります。

しかも、そもそも、

「『SNSで話題』欄は当該事業者の広告とされない」・・・①

というのと、

「『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。」・・・②

というのと、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

との関係も、よくわかりません。

一見すると、①と②は広告該当性、③は認識困難性のことを言っているように見えます。

でも、そうすると、①(「SNSで話題欄」は広告非該当)と②(ウェブサイト全体は広告該当の可能性あり)というのが、矛盾しているようにみえます。

これを矛盾なく説明するとすれば、「ウェブサイト全体」というのを、

「広義のウェブサイト全体(『SNSで話題』欄を含む。)」

「狭義のウェブサイト全体(『SNSで話題』欄を含まない。)」

の2とおりに理解して、

①(「SNSで話題欄」は広告非該当)では狭義のウェブサイトを想定し、

②(ウェブサイト全体は広告該当の可能性あり)では広義のウェブサイトを想定している、

という解釈が思い浮かびますが、結局、「SNSで話題」欄が広告に該当しない(①)と言い切っているわけですから、②とは両立しないように思われます。

しかも、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

というのが、これを文字どおりに読むと、「SNSで話題」欄には、「PR」表記は不要、ということになってしまいかねません。

なぜなら、「当該事業者の広告であることが明らか」である場合は、「PR」表記がなくても認識困難性の要件をみたさず、ステマにならないからです。

ただし、104番のコメントの質問の問題意識に③が答えているものだとすると、③が言いたいのは、「SNSで話題」欄に虚偽の内容があれば優良誤認表示が成立するのはあきらか(なぜなら、当該ウェブサイト全体が「当該事業者の広告であることが明らか」なので)、ということなのかな、という気もします。

でもそのような読み方は、控えめに言って③とまったく合致していません。

というわけで、キの(注)は、どのように考えてみても理解不能です。

以上のとおり、本日のミッションは失敗に終わりました(苦笑)。

こんな失敗記事をブログに載せてどうするんだという気もしますが、ほかの人が同じ轍を踏まないようにする、という意義はあるように思われます。

実務的な意義としては、キの注にはこういうわけのわからんことが書いてあるだけだということを踏まえて、無視するほかないと割り切るべき、ということでしょう。

少なくとも、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

というのを真に受けて、インフルエンサーにお金を払って書いてもらった記事を自社サイトに転載しない(転載するときは「PR」と表記する)、という対応が必要と思われます。

(真に受けない、というのは要するに、無視する、ということです。)

あるいは、キを文字どおりに受け取って、第三者のコメントを自社サイトにそのまま転載した場合には「事業者の表示には当たらない」のだから優良誤認表示にはあたらないのだ(だから内容のチェックは不要なのだ)などと、間違っても考えてはならない、ということだと思います。

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