チョコザップに対する措置命令について
チョコザップを運営するライザップに対して、2024年8月8日に、消費者庁から措置命令が出ました。
気がついた点をいくつかコメントしておきます。
まず、命令書は有利誤認とステマの2通あります。
ふつう、優良誤認と有利誤認とかであれば1通の命令書にするのに、ステマだと2通にするのはなぜなのか、よくわかりません。
もし事情をご存じの方がいたら教えて下さい。
(まさか命令の件数を稼ぐためではないと思いますが。。。ひょっとしたら対象役務が微妙に違うためか?)
次に、有利誤認のほうをみると、
「あたかも、本件役務のうち同表「サービスの種類」欄記載の各サーピスについて、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるかのように示す表示をしていた。」
のに、
「イ 実際には、本件役務のうち別表2「サービスの種類」欄記載の各サービスについて、利用できる最大の合計時間数は同表「利用できる合計時間数」欄記載の時間数であって、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるものではなかった。」
と認定され、別表2「「利用できる合計時間数」欄記載の時間数」をみると、たとえば一番短いセルフホワイトニングでは24時間中5時間しか使えなかったと書かれています。
これだけみると、たとえば朝の10時から午後の3時までしか使えない、みたいなイメージがわいてきて、そりゃけしからん、と思いますが、実はそうではなくて、1時間1枠20分しか予約できなくて、それが1日15枠計5時間だった、ということみたいです。
ということが、RIZAPの報道発表をみるとわかります。
たしかに24時間使えるとうたいながら5時間だといえばそうなのですが、消費者庁はもうちょっとていねいに命令書に書くべきではないでしょうか。
報道をみてわたしのような誤解(24時間中たった5時間しか使えないのはけしからん!という誤解)をした人は少なくないと思います。
ちなみにRIZAPの上記報道発表は、違反がおきた経緯をていねいに説明していて、とても好感が持てます。
ありきたりの「お詫び」の社告を出すだけ(その多くは、「これからも一層コンプライアンスに努めてまいります」という、これまでも努めていたけどもっと努めます、みたいな往生際の悪いもの)の多くの企業とは大違いです。
そういうていねいなRIZAPの報道発表に比べると、消費者庁の措置命令のほうこそ印象操作ではないか、という気すらします。
ただ、もう少しまじめに考えると、「24時間いつでも」と表示するかぎりは、ほんとうに24時間いつでも、でないと違反になる、ということですね。
今回の命令でも、一番長時間使えた「ゴルフ」と「ワークスペース」では、1日16時間使えても違反だと認定されています。
そして上記報道発表をみると、この2つのサービスは、1日中どの時間帯(0時台から23時台)のどこでも、1時間あたり2枠(1日48枠)まで予約できるものであったことがわかり、1枠20分(=16×60÷48)であったのだろうと推測できます。
深夜をふくめ1日中使えるんだし、厳密に「24時間」でなくても、それくらい使えてればいいんじゃないかという気もしますが、消費者庁の判断では、それではだめなのだということなのでしょう。
きっとこの考え方(1日中まんべんなく使えるかではなく、合計利用可能時間のみをみる考え方)だと、24時間中20時間使えるのでも、違反になるのでしょう。
「24時間」をうたうサービスの場合には、気をつけましょう。
次に、有利誤認については、SNSへのインフルエンサーの投稿が違反表示と認定されています。
これはステマ告示が施行されたときにもいろいろなところで話しましたが、実はステマ規制の有無にかかわらず、企業は自社が依頼したインフルエンサーの投稿内容についても全面的に責任を負わされます。
今回の命令では、
「Instagram内の〔インフルエンサーの〕表示内容を自ら決定している」
と認定されているので、表示内容にまちがいがあったときに表示内容を自ら決定したRIZAPが責任を負うのは当然ですが、内容を自ら決定している場合だけでなく、内容の決定をインフルエンサーに委ねている場合も広告主の表示になるので、同様に広告主が全責任を負います。
このことが今回実際にほぼ明らかになったといえ、これはインフルエンサーを使っている企業にとってはおそろしいことだと思います。
というのは、商品を提供して「好きなように書いて下さい」というのが仮にステマと判断されてもステマ告示違反だけですので、最悪「広告」と書いておけばすみますが、もしインフルエンサーの投稿内容に間違いがあったら優良誤認や有利誤認が成立する、ということです。
「広告」と書いてあったら、広告でないと反論するのはむしろ難しくなります。
ということは、企業は「好きなように書いて」というわけにはいかず、投稿内容の正確性をチェックしないと危ない、ということになります。
別の角度からいえば、インフルエンサーに「広告」と表記してね、とお願いする場合は、それだけではだめで、投稿の内容もチェックしないといけない、ということになります。
何でもかんでも「広告」と書いておけばいいだろう、というわけではないのです。
次にステマの命令ですが、命令書では、
「RIZAP は、本件役務を一般消費者に提供するに当たり、
第三者に対し、対価を提供することを条件に、本件役務についてInstagramに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を
RIZAPが依頼した投稿であることを明らかにせずに抜粋するなどして、・・・等と表示するなど、
別表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、
同表「表示内容」欄記載のとおり表示をしていたことから、
RIZAPは、本件役務に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示と認められる。
イ 前記アの表示は、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった。」
と認定されています。
そして、「同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所」というのは、別表をみると、すべてRIZAPの自社ウェブサイトであったことがわかります。
つまり、インフルエンサーにインスタに投稿させた内容を抜粋して自社ウェブサイトに載せたのが、「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない」と認定された、ということです。
これについては同社のプレスリリースで、
「これまで多くのインフルエンサーへSNSへの投稿依頼を行なっておりますが、全ての投稿に対して、一般消費者にとって広告であることが明確にわかるように適切な表示を行っております。(Instagramの投稿における、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」という表記等)
今回、それらの投稿内容の一部を抜粋し、自社媒体であるウェブサイトに表示をしました。弊社としては自社媒体であるウェブサイト上の表示であることから、一般消費者にとって当該表示内容が弊社の広告であることは判別できるものと考えていたため、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」等、自社広告であることを改めて明確に示す表記は抜粋せずに表示をしておりました。」
と、正直に書かれています。
でも、自社サイトとはいえ、あたかも第三者の口コミであるかのような体(てい)で表示したらやっぱりステマになるでしょう。
ちなみに、実際、ステマガイドラインp6には、「事業者の表示とならない場合」の例として、
「キ 事業者が自社のウェブサイトの一部において、
第三者が行う表示〔例、インスタ投稿〕を利用する場合であっても、
当該第三者の表示を恣意的に抽出すること
(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、
そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)
なく、また、
当該第三者の表示内容に変更を加えること
(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)
なく、そのまま引用する場合。」
という例があげられていて、その注の中で、
「(注) ただし、上記キについては、客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、
当該ウェブサイトの一部〔注・「当該」は「ウェブサイト」ではなく、「ウェブサイトの一部」にかかるようです〕のみをもって当該事業者の表示とされない〔当該ウェブサイトの当該一部が当該事業者の表示でないとされる、の意か?〕ことを示すものであって、
当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。
なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」
と説明されていますが、この部分は第三者の投稿が「第三者の自主的な意思による」場合の例なので、そもそも対価を払っている本件の場合には関係ありません。
なおついでに、ですが、上記引用部分で、
「当該第三者の表示を恣意的に抽出すること
(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、
そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)
なく」
とあえて断り書きをしていることからすると、逆に言えば、純粋に第三者の(=報酬の支払等のない)投稿の場合であっても、
「第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出」
した場合には、
「そのこと〔=恣意的に抽出していること〕が一般消費者に判別困難な方法で表示する」
とステマになることには注意が必要です。
というか、これはちょっと厳しすぎるのではないかと思います。
というのは、第三者の投稿を自社サイトで引用する場合には、自社に好意的なコメントだけを事業者が選んで掲載していることくらい、言われなくても消費者にはわかるはずだからです。
それなのに、
「これは当社に好意的な投稿だけを恣意的に選んだものです」
とか表示しないとステマになる、というのは常識的な感覚に反していると思います。
そこで私の意見をまとめると、
(チョコザップのように)報酬を支払った第三者の投稿を利害関係のない第三者の投稿のように自社サイトに転載するのはステマになるといわれても仕方ないけれど、
(ステマガイドラインのように)利害関係のない第三者の投稿から好意的な投稿だけを選んで自社サイトに転載するのをステマだというのは行き過ぎだ、
ということです。
こうやって両者ならべると、両者のちがいは案外微妙かもしれず、「自社サイトなんだから当然広告(≒好意的なものだけ選んでいる)とわかるでしょう」というライザップの認識も、あながち的外れではなかった(それだけに要注意)、ということなのかもしれません。