景表法

2020年1月28日 (火)

ステマの動かぬ証拠?

アマゾンのマーケットプレイス(出品者名:「Ncoobi-XC」)で車用のスマホホルダー(商品名:JunDa スマホ車載ホルダー クリップ式 カーマウント)を買ったら、このようなカードが同梱されていました。

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やや不自然な日本語ですが、要するに、★5つのレビューをしてくれたら1000円分のアマゾンギフト券を100人に1人差し上げます、ということのようです。

ちなみに本日(2020年1月29日)現在、アマゾンでは「ベストセラー1位」(カテゴリ 車&バイク)の表示がなされており、レビューの投稿数は1,112個とこの種の商品としては異様に多く、全体の81%が星5つの高評価でした。

これって、典型的なステマじゃないですかね?

ちなみに2019年8月18日付でレビューされた方(星1つ)は、

「商品と一緒に5つ星のレビューをすると1000円分のAmazonギフト券をプレゼントするというカードが同封されます。よって5つ星のレビューはほとんど信用できるものではないでしょう。私はこのレビューをする事で1000円分のAmazonギフト券を逃す事になりますが、私はレビューに嘘をつきたくないので正直な意見をここに残しておきます。」

と書かれています。

米国のFTC法などと異なり、日本の景表法では、事業者が他者にお金を払っていいレビューを書いてもらうような、いわゆるステマを一般的に規制することはできないといわれています。

というのは、景表法5条1項で優良誤認は、

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、

一般消費者に対し、

実際のものよりも著しく優良である・・・と示す表示であつて、

不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」

と定義されていて、「実際のものよりも著しく優良」でないと不当表示にならないからです。

でもたとえば本件で、「使い勝手抜群です!」とレビューをしたとしても、必ずしも「実際のものよりも著しく優良」だとはいえません。

本当に使い勝手抜群かもしれないし、レビューというのは個人の評価なので、「そのレビューを書いた人はそう思った」といわれてしまうと、事実と異なるということも非常にいいにくいです。

星の数にしても、あくまで当該レビュー者の評価ですから、その人が星5つといえば、星5つであることは「実際のものよりも著しく優良」とはいいにくいです。

もちろん、ブラジル産鶏肉を使っているのに、事業者が他人であるレビュー者に頼んで「あの店は国産鶏肉を使っているとか」なんてレビューを書かせると、不当表示になります。

明らかに客観的事実と異なりますし、表示の内容も具体的に事業者が指示しているからです。

インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」では、優良誤認の例として、

「○ グルメサイトの口コミ情報コーナーにおいて、飲食店を経営する事業者が、自らの飲食店で提供している料理について、実際には地鶏を使用していないにもかかわらず、「このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!」と、自らの飲食店についての「口コミ」情報として、料理にあたかも地鶏を使用しているかのように表示すること。」

というのがあげられています。

でも今回のケースでは、

「星5つのレビューを書いていただけないでしょうか。」

といっているだけなので、表示内容を具体的に指示しているわけではありませんし(指示しているのは星の数だけ)、レビュー者本人が星5つだと思えば、事実と異なるともいいにくいわけです。

ただ前記ガイドラインであげられているもう一つの例(食べログの事件で追加されたもの)では、

「 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

が不当表示だとされています。

この例では「口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼」ですが、業者に依頼するというのは食べログ事件があくまでそうだっただけで、べつに今回のように購入者に依頼しても同じように思います。

最近特に偽レビューがマスコミ関係でも騒がれていますし、わたしもネットのレビューはあまり信用しない(具体的な内容なら参考にするけれど、星の数は信用しない)ようにしていますが、消費者保護法的観点からも競争法的観点からも非常に重要な問題だと思いますので、消費者庁なり公正取引委員会が動くべきではないでしょうか。

2020年1月27日 (月)

何割の消費者が誤認すれば不当表示なのか?

よく聞かれる質問に、「消費者の何割くらいが誤認したら優良・有利誤認になるのか」というのがあります。

この点について、公正取引830号(2019年12月号)の座談会で、白石忠志先生の、

「だまされたと思う人が少数であった場合に、少数であっても、だまされる人がいたら措置命令や課徴金納付命令をするに足りるのか」

という質問に対して、小林渉消費者庁審議官が、

「一般論で申し上げると、必ずしも過半数の人が誤認しなければ不当表示にならないというわけではなく、中には2~3割の人が誤認すれば違反認定してよいというような説もあるようです。」

と回答されています(18頁)。

「説もあるようです。」という控えめな言い方ではありますが、具体的な数字をあげていただけたのは実務家としてはありがたいです。

実務では、

お役所の人が賀詞交換会の講演でしゃべったことが業界の都市伝説的ルールになっていたり、

政府の審議会で委員の先生がぼそっと「5割くらいじゃないですかねぇ」とつぶやいたのが実務のルールになっていたり、

ということがあります。

それくらい、企業は具体的なルールを求めているわけです。

余談ですが、たとえば優越的地位の濫用について、ある実務家が非常に緻密にかつ説得力をもって、取引依存度は10%を基準にすべきだと主張しているのに対して、「総合的に判断すべきで10%にみたなくても濫用に当たる可能性はある」みたいなことをいう学者の方が時折いらっしゃいますが、では「総合的」ってどういうふうに判断するの?ときいても、そういう学者の方から具体的な基準が聞かれることはまずありません。

はっきりいって、そういう「学説」は、実務的には無価値です。

なんでもかんでも「可能性がある」といっておけばまちがいにはならないわけですからね。

なので、具体的な分析をしている論者に対して「そうでない可能性もある」とだけ反論する論者をみていると、もうちょっと頭を使いなさいといいたくなります。

話を戻すと、実務ではそれくらい、具体的なルールというものが重視されるわけです。

ただ今回のケースについては、わたしは「2~3割」というのに依拠するのは危ないと思っています。

というのは、以前もこのブログで書きましたが、だいにち堂の取消訴訟で、消費者庁は、何割が誤認したかは問題ではなく、誤認した絶対数が多ければ不当表示だ、という趣旨の主張をしているからです。

景表法5条では誤認するのが「一般消費者」となっているので、消費者が一般的に誤認しないといけないのだ(だから少なくとも過半数なのだ)という説もあるかもしれませんが、形式論としては、一人だけでもその人が「一般消費者」であれば条文の要件を満たすので、文言解釈でどうなるものでもありません。

そして実質論としても、9割は誤認したときに1割の被害者を「だまされたおまえが悪い」と片付けて良いのかというと、なかなかそう割り切れないこともままあるのではないか、と思います。

また競争政策的な観点からいえば、不当表示をするためのコストは商品の品質を上げるコストよりもはるかに安いのが一般的なので、ふつうはだまされないような表示にもだまされる需要者(いわば表示上の限界的需要者)を保護しないと、悪徳業者の思うつぼ、ということになりかねません。

そういう意味で、10万人が見る広告で1%でも誤認して1000人が買ってくれたら、品質改善にコストをかけていない企業は十分にもうかる(その反面、品質改善のインセンティブがなくなる)わけで、そういうのを抑止しないでいいかというと、そんなことはないと思うのです。

なので、「2~3割」というのは一応の目安くらいにとらえておくのが、法解釈論としても、実質論としても妥当だと思います。

また、あまり「2~3割」というのが一人歩きすると、公取委や消費者庁の人が座談会で率直にお話ししてくれなくなるかもしれないので、そうなったらいやだなぁ、というのもあります😃

2020年1月11日 (土)

アルトルイズムの打消し表示について

2019年3月29日、アルトルイズムという会社が、髪が黒くなるとうたうサプリで措置命令を受けました

命令の2頁をみていただくとわかるのですが、本件では、

「1.艶のある深い黒さに※1」

及び

「2.フサフサボリュームも※2」

という表示について、

「※1:サプリメントの粒の色のことです。」

「※2:ボリュームのある内容量のことです。」

との打消し表示をしていました。

ほんとうに人をばかにしたような、悪徳業者ここに極まれりというかんじの広告ですが😠、これに対する措置命令の認定は、

「当該記載は、文字と背景との区別がつきにくく、

「1.艶のある深い黒さに※1」及び「2.フサフサボリュームも※2」との記載に比べて小さな文字で記載されたものであることから、

一般消費者が前記アの表示から受ける効果に関する認識を打ち消すものではない。」

というように記載されています。

しかし、わたしはこの認定はちょっと無理があるというか、事案の本質をつかみきれていないと思います。

というのは、プレスリリースの15頁にその実物があるのでご覧いただきたいのですが、たしかに強調表示と比べて小さいものの、そこそこの文字の大きさで書かれており、このサイズでだめだといわれるとちょっときついかな、と思います。

本件打消し表示は「※」印で視線を誘導しているので、なおさらです。

命令の、「文字と背景の区別がつきにくく」という認定も、「※2」の打消し表示の文字(白色)は背景の白衣の白色と重なってとてもみにくいですが、「※1」のほうは、少なくとも「※1:サプリメントの粒の色」の部分までは背景(青色)と文字(白色)の区別がつきにくいとまではいいにくいように思います。

(強調表示に付けられた「※」マークがあって、同一視野に打消し表示があることから、離れた場所にある(ので無効だ)という認定はされていませんが、これは妥当でしょう。)

つまり、この打消し表示の本質は、打消しの内容が、強調表示の意味からはおよそ理解できないような、ほとんど詐欺的な内容であることなのではないかと思うのです。

白髪に効くサプリだと広告全体でこれだけ謳っておきながら、「艶のある深い黒さに」というのを、一体誰がサプリメントの粒の色のことだと理解するのでしょう???

こんな詐欺的な打消し表示は、端的に、「意味をなさない」というべきだと思います。

つまり、どれだけ打消し表示が大きく目立つように書いてあっても(たとえば、強調表示と同じ文字の大きさと目立ちやすさで書いてあったとしても)、意味をなさない、という認定をすべきです。

消費者庁も、本音のところでは、これだけ詐欺的な内容の打消し表示ならこの程度の文字の大きさと目立ちやすさでは足りない、といいたかったのではないか、と思います。

たとえば携帯電話のプランとか、複雑な商品役務をまじめに説明しないといけない場合に、「※」印もつけて、これだけの近さで、この大きさで書いてもだめだ、といわれると、やっぱり実務的な支障は大きいと思います。

平成20年の打消し表示の実態調査報告書では、打消し表示の留意点として、

①見やすいこと(文字の大きさなど)

②内容が明瞭であること

③強調表示と同一視野にあること

④強調表示と併せると無意味となるものでないこと

があげられていますが、本件は、あえていえば、④(無意味)か、②(不明瞭)にひっかかる、というのが本質ではないか、と思うのです。

あるいは、このような詐欺的な打消し表示は通常人には理解不能、といいきっても良かったかもしれません。

なので、本件は、理屈の上ではやや疑問があると思いますが、それでも、消費者庁が、このような詐欺的な表示を取り上げて命令を出したということは、高く評価すべきだと思います。

また、最近の一般的な傾向に添っただけともいえるとはいえ、打消し表示についての評価を明記したことも、高く評価すべきだと思います。

というのは、こういう命令が出れば、「艶のある黒はサプリの色のことなんだという言いわけは通じないんだ」という部分だけが、業界で広まる可能性が高いからです。

(もしこの命令をみて、「そうか、もっと大きく書けばよかったのか」という人は、少なくとも業界にはあまりいないと思います。)

あるいは、業界の人というのはいろいろと勘ぐるものなので、むしろ、「こんな詐欺的な表示をしてたから消費者庁を怒らせて、たいした被害もないのに注意ではすまずに措置命令までいったのではないか」なんて思ってくれるかもしれません。

というわけで、こういう詐欺的な業者はどんどん摘発してもらいたいと思います。

2019年11月29日 (金)

総付規制の及ぶ特定商品金額証の「特定」性について

自社との取引にのみ用いることができる金額証(自社使用金額証)は原則として総付の金額規制の適用外ですが、例外として、「特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないも」には総付規制が適用されます(総付告示運用基準4(2))。

では、ここでの「特定の商品又は役務」というのは、どの程度特定されていれば(どの程度狭ければ)、「特定の商品又は役務」にあたるのでしょうか。

この点については、片桐一幸「景品規制に関する告示等の改正について」公正取引546号(1996年)40頁、46頁では、

「金額証については、金額が示されているもので特定の商品と引き換えられるものでないものとされているので、

例えば、金額が明記された百貨店の商品券はこれに該当すると考えられるが、ビール券やテレホン・カードは金額証には該当しないと考えられる。」

と解説されています。

百貨店の商品券は百貨店で売っているものを何でも買えるので「特定」されていないけれど、ビール券はビールという特定の商品(群)にしか使えないので「特定」にあたる、ということなのでしょう。

(なおここでは自社使用金額証であることが前提ですので、百貨店の商品券は百貨店が提供する場合ですし、ビール券は酒屋さんが提供する場合です。また景品類として他の本体商品の取引に付随して提供する場面が問題ですので、百貨店の商品券やビール券自体を商品として販売する場合には、どう転んでも景品類にはなりません。)

でもこの区別って、合理的なのでしょうか?

正直、どうしてこういう区別になるのか、わたしには理解できません。

上記解説でもこの論点について解説しているのは上記引用部分だけで、あまり深く考えているようには思えません。

(ということは、運用基準の立案担当者もあまり深く考えていなかった、ということです。)

テレホン・カードは、NTTの公衆電話にしか使えないので、「特定」というのは、少なくとも運用基準の文言解釈としては、理解できます。

だたそれでも、今でこそNTTは固定電話だけでなくブロードバンドや携帯サービスも提供していますが、かつての固定電話しかない時代のNTTのように、1商品で成り立っているような会社はたとえ自社商品すべて(=当該1商品)に利用できる自社使用金額証であっても、「金額証」に該当せず、総付規制がかかってきてしまうので、この「特定」かどうかで区別するガイドラインの規定は、あまり合理的なものではないと思います。

きっと、特定の商品とのみ引き換えられる金額証は当該特定の商品を景品類として提供するのと変わらないじゃないか、という発想なのだと思うのですが、こういう一本足打法の会社を考えると、基準を立てるならもっと別の基準にすべきだったのでしょう。

ともあれ運用基準があるのでこれを前提に考えざるを得ないのですが、それでも、「特定」か「不特定」かで区別するというのは、とてもあいまいです。

ビール券は実際に世の中にあるので、「ビールしか買えない券」(ワインは買えない)というイメージが頭に浮かぶので、上記解説はそのイメージだけで「特定」といっているような気がします。

ですがもし将来「お酒券」(ソフトドリンクは買えない)というのが出てきたら、「特定」の商品と考えるのでしょうか?

「飲み物券」(食べ物は買えない)ならどうでしょう?

「食べ物&飲み物券」ならどうでしょう?

さらに商品をがらっと変えて、「洋服券」というのを仮に発行したら、どうでしょう?

レストランの「お食事券」はどうでしょう?

そのレストランの料理には何でも使えるので不特定なのでしょうか? (←これが正しいような気がします。)

それとも、「料理」という特定の商品にしか使えないので、特定なのでしょうか?

ラーメン屋の「お食事券」なら、ラーメンにしか使えないので「特定」なのでしょうか?

そのラーメン屋でチャーハンも出してたら、「お食事券」は不特定なのでしょうか?

それとも、ラーメンとチャーハンにしか使えないので「特定」なのでしょうか?

対象商品を事業者の側がある程度自由に出し入れできるような金額証ならどうでしょうか? (とくにオンラインなら対象商品の変更は、やろうと思えばいくらでもできるように思います。)

反対に、「ビール券」は、銘柄を問わずどのビールにも使えると考えると、「ビール券」は不特定の商品に使用できる、といっても良さそうな気がします。

もし世の中に「一番搾り券」とか、「キリンビール券」とかが普通にあって、ビール券なるものが存在しなかったら、上記解説では「ビール券」は不特定の商品と交換できる、といったのではないか、という気がします。

つまり上記解説、ひいては、運用基準の当該部分は、現に世の中にあるもののイメージに引きずられすぎていて(一種の現状維持バイアス)、一般的な規範としてはうまく機能しないような気がします。

上記解説でビール券とテレホンカードは「特定」だと明記されているのでしかたないですが、景品規制は実際に措置命令が出ることはまず考えられませんから、そのほかの金額証は、「いちおう説明がつけばいい」くらいに、実務上はある程度柔軟に考えていいように思います。

消費者庁にはぜひ、このへんを明確にしていただきたいと思います。

2019年11月18日 (月)

【お知らせ】景表法のセミナーを開きます。

ビジネスロージャーナルに景表法の記事を寄稿させていただいたご縁で、レクシスネクシス主催の景表法セミナーでお話させていただくことになりました。

こちらのURLから申込みできます。

http://www.lexis-seminar.jp/20191209-2-2/

開催日  2019年12月09日(月)

開催時間  09:30~12:00 (受付開始 09:15~)

会場名  トスラブ山王健保会館 (2階会議室)

会場所在地 〒 107-0052 東京都港区赤坂2丁目5−6 トスラブ山王健保会館

参加費  2万2000円(税込み)

ここ数年景表法は興味深い執行例が多く、話題には事欠きません。

景表法のセミナーは今年も何度もご依頼いただいていますが、そのたびに、取り上げるべき新しい事件が発生している印象です。

おそらく本年最後のセミナーになるので、一年の総決算のつもりで気合いを入れて行きたいと思います。

ご興味のある方はぜひお申し込み下さい。

 

 

2019年11月12日 (火)

エネルギアに対する課徴金について

エネルギアに対する課徴金納付命令(平成30年3月23日)は、期間限定キャンペーンを繰り返した場合における課徴金算定について、いろいろと興味深いことを教えてくれます。

私は同命令に賛成ですが、中身を見てみましょう。

まず、この事件では期間限定キャンペーンの表示が2つの期間にわたって認定されていますが、ややこしいので、最初の1つ(表示期間平成28年4月1日~5月20日)の分だけ、見ることにします。

次に、課徴金の対象役務ですが、命令では、これを「本件役務」と呼んでいます。

そして、「本件役務」は、

「平成28年4月1日から同年5月20日までの間 ・・・に新規に申込みが行われたことにより、「今カラ割」と称する割引が適用されるもの又は「今カラ割」と称する割引及び「今カラ割プラス」と称する割引 の両方が適用されるもの」

と定義されています。

つまり、平成28年4月1日~5月20日に新規申込されたインターネット接続サービスが課徴金対象役務、ということです。

この定義によれば、たとえば、平成28年4月30日に新規申込された接続サービスは、「本件役務」となります。

表示期間(平成28年4月1日~5月20日)を過ぎていようが、表示期間中に新規申込をした契約は、ず~っと、「本件役務」です。

このように、期間限定キャンペーンの繰り返しの事件では、対象商品役務が(役務の内容だけでなく)時間的に区切られることになるのが特徴といえます。

これは別に目新しいことでも何でもなくって、たとえば、「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」p10では、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」の説明として、

「全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から、一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

と説明され、具体例として、店舗を限定した表示の例があげられています。

店舗を限定するのも、契約時期を限定するのも、理屈の上では同じことでしょう。

なお概念的には、

表示(広告)をしていた期間(平成28年4月1日~5月20日)と、

キャンペーン期間(申込期間)

とが異なることもありえますが(たとえばキャンペーン期間を「4月1日~5月30日」と記載した広告を、4月1日から5月20日まで出す)、本件ではいずれも4月1日~5月20日であり、両者は一致しています(広告期間=キャンペーン期間)。

さて、ここで条文の整理をしておくと、景表法8条1項では、課徴金額を、

「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした

当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の

政令で定める方法により算定した売上額に

百分の三を乗じて得た額に相当する額」

と規定しています。

命令での「本件役務」は、8条1項でいうと、「当該課徴金対象行為に係る・・・役務」にあたります。

つまり、「当該課徴金対象行為に係る・・・役務」は、平成28年4月1日~5月20日に新規申込された接続サービスです。

次に、命令では、エネルギアが課徴金対象行為をした期間(=不当表示をした期間)は、同じく、平成28年4月1日~5月20日と認定されています。

この部分は「課徴金対象期間」につながります。

つまり、景表法8条2項では、「課徴金対象期間」を、

「課徴金対象行為をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義しています。

本件ではエネルギアは誤認解消措置(「当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置」)をとっていません。

しかも、キャンペーン期間中(4月1日~5月20日)に申し込まれた新規契約は基本的にず~っと続いているので(キャンペーン期間中の新規契約がぜんぶ途中解約されることなんてほぼありえないので、当然ですね。)、8条2項の、

「課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日・・・までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間」

は、6か月経過日と同日で、11月20日と認定されています。

というわけで、「課徴金対象期間」は、平成28年4月1日~11月20日となります。

まとめると、

課徴金対象役務(「本件役務」)は、平成28年4月1日~5月20日に新規申込みされた接続サービス

であり、

「課徴金対象期間」は、平成28年4月1日~11月20日、

となります。

つまり、課徴金対象売上は、「平成28年4月1日~5月20日に新規申込みされた接続サービス」の、「平成28年4月1日~11月20日」までの売上(月額料金など)、となります。

なので、命令では、5月21日(キャンペーン期間後)に新規契約された接続サービスからの売上は、課徴金の対象になっていません(「本件役務」にあたらないので)。

つまり、5月21日に新規契約した接続サービスの6月分、7月分、・・・11月分の月額料金には、課徴金はかかりません。

反対に、5月20日(キャンペーン期間中)に新規契約された接続サービスについては、11月20日までの料金について、課徴金がかかります。(命令でははっきりしませんが、きっと日割りなのでしょう。)

本件の表示で誤認して契約したのは5月20日までに契約した人たちでしょうから、この処理でよいと思います。(5月21日に契約した人は誤認していない。)

もしエネルギアが5月21日に誤認解消措置を講じていたら、課徴金対象期間は5月21日までになったのでしょう。

4月1日に契約した人がこの誤認解消措置を見て、「なんだ、お得じゃなかったのか」とわかって、契約を解約することはありうるので、誤認解消措置をとることに意味がないことはないと思います。

別の切り口で言うと、

①課徴金でカバーされるのは、4月1日~5月20日に新規契約申込みした契約者

②ただし、①の契約者が提供を受ける役務は、毎月(あるいは毎日?)別々の役務

とイメージすると、わかりやすいかもしれません。(②の想定は、いつでも解約できる限りは、実態にも合っていると思います。)

また、このように整理すると、継続的役務か1回きりの役務かを区別する必要がない(継続的契約は、毎月、取引の意思決定をしている、1回きりの契約の連続したものと整理すればいい)ので、あまり余計なことを考えずにシンプルに処理できると思います。

また、キャンペーン期間後も、キャンペーン期間中に契約した契約者の誤認は続いていると考えるのが自然だと思います。

理屈の上では、キャンペーン期間後に同じキャンペーンを繰り返すと、実は前のキャンペーンがお得でなかったこともわかるのではないか、という、ほとんど屁理屈も考えられますが、繰り返したキャンペーンの表示を前のキャンペーン中に契約した人が見ている保証はどこにもないので、やはり誤認解消措置が必要でしょう。

以上のように考えると、8条2項かっこ書は本件の場合にも淡々と適用すれば妥当な結論に到達し、そのように考えていると思われる本件命令は妥当だと考える次第です。

(でもそうすると、課徴金を算定するときには課徴金対象の契約だけを取り出して計算しないといけないので、すぐに契約時期で特定して対象売上が出せるシステムならいいですが、そうでないと手作業で売上をより分けて消費者庁に報告しなければならないことになって、とっても大変そうですね。)

なおこの事件については、課徴金制度の立案担当者である古川先生の詳細な論考が公正取引819号(2019年1月号)33頁に掲載されています。

 

2019年9月10日 (火)

だいにち堂訴訟での消費者庁の主張について

通販新聞9月5日号(6面)が報じるところによると、消費者庁は、だいにち堂の取消訴訟において、同社が提出したアンケート調査で効果があると肯定的な評価をしたのが1割にとどまるということを前提としたとしても、

「広告が掲載された新聞の販売部数約658万部(1日あたり、推計)を前提とすると『60万人が改善効果が得られると認識する可能性を示すものであり、軽視できない』とも指摘」

しているそうです。

これは実務的には非常に重要な意味があると思います。

というのは、景表法の論点で、誤認はどのような消費者を基準にするのかというものがあり、大元編『景品表示法(第5版)』(緑本)p50では、

「当該商品役務についてさほど詳しい情報・知識を有していない、通常レベルの消費者、一般レベルの常識のみを有している消費者が基準となる。

したがって、・・・ごく一部の消費者のみが勘違いや無知により誤認を生じるようなものは含まれない・・・」

と説明されています。

これについて私は以前から、これだとごく一部でもだまされる消費者が保護されないことになり消費者保護法として不十分だと批判していました。

とくに不当表示はそれ自体たいしてコストがかからないので(いわゆるチープトーク)、ほんのわずかでもだまされる消費者がいればうそをつくのが事業者にとっては合理的ということになり、通常レベルの消費者を基準にしたのでは不当表示が防げないと考えています。

経済学的な比喩を用いれば、平均的あるいはinframarginalな需要者を基準にするのではなく、marginalな需要者を基準にすべき、ということです。

ですがだいにち堂訴訟での消費者庁の主張は、たった1割でも誤解するなら問題だ、あるいは絶対数が多いから問題だ、とするものであり、通常レベルの消費者を基準にするという従来の考えかたから大きく離れています。

実は以前からホンネのところでは消費者庁ないし公取委はこういう運用をしていて、ホンネとタテマエを使い分けているところがあったように思われます。

最近の特に厳しい運用(マクドナルドのローストビーフバーガー事件など)の時代もそうですが、かなり以前にも、たとえば、2008(平成20)年3月13日NTT東西に対する「DIAL104」に関する排除命令で、

DIAL104そのままおつなぎします

と表示しただけで、同サービスの利用には通話料もかからないかのような表示であって、実際には通話料がかかったので不当表示だとしました。

わたしはこの事件は行き過ぎであったと今でも思っていますが(「そのままおつなぎ」というだけで、無料だと理解する人がどれだけいるのか疑問)、それはともかく、ときどきこういう「外れ値」(outlier)的な事件は従来からあり、「通常レベル」というのを額面どおりに受け取ることはできませんでした。

それが今回、取消訴訟の主張という形で、消費者庁のホンネがはっきりと見えたわけです。

事業者としては、そんなホンネとタテマエの使い分けをされたのではたまったものではないわけで、きちんとタテマエを通して欲しいところですが、お役所というのは自分のまちがいはぜったいみとめないので、これからも緑本の「通常レベル」という記述は残るのだろうと思います。

でもこういう記述が残るのは大きな誤解のもとなので、次回改定の際にはきちんとあらためるべきだと思います。

西川課長、よろしくおねがいします。

ところで、600万部の1割で60万人も誤認するから無視できないというのもやや暴論で、それだと、延べ6000万部の広告を出したら1%が誤認するだけでも優良誤認になってしまいます。

あるいは、消費者庁が6万人でも無視できないというなら、600万部の1%でも誤認したらアウトということになります。

しかし、それはそれでちょっとやりすぎではないでしょうか。

従前から、不注意な消費者も保護すべきと主張していたわたしですら、1%だと、さすがに事業者が何も広告できなくなってしまいそう(あるいは、延々と打消し表示をしなければならなさそう)で、行き過ぎな気がします。

(marginalだと最後の1人でも保護されるべきなのですが、それは言葉の綾ということでご了承下さい。)

独禁法での公取委もそうですが、訴訟になったらお役所というのはめいいっぱい自己に有利な(いわゆる高めの)主張をしてくるもので、そういう点では一般私人となんら異なりません。

わたしは消費者庁は最近少々行き過ぎはあるにしても基本的には消費者の味方だと思っているのですが、こういう、理屈をないがしろにしてなりふりかまわぬところを見ると、ちょっとげんなりします。

2019年8月26日 (月)

ビジネスロージャーナルに寄稿しました

ビジネスロージャーナル10月号に、

最近の消費者庁運用例にみる不当表示認定回避のための施策

という論文を寄稿しました。

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 編集部の方からは、こういうふうな表示をすれば不当表示にならないよというような、NGワード集的なものを期待されていたようなのですが、最近の消費者庁の運用に照らすと、そのような小手先の、あるいは、場当たり的な対策ではだめで、一段高いレベルから骨太のチェックしないといけないよ、という思いを込めながら書きました。

教科書的な説明としては、不当表示というのは、通常レベルの消費者を誤認させるかどうかできまるということなのですが、最近は、そういうレベルではなくて、よりより表示に改善できる余地があるなら措置命令で是正させているように思えてなりません。

及第点ではだめで、満点あるいは満点近くでなければならない、というイメージです。

よく依頼者の方からは、どのレベルなら注意止まりで、どのくらいから措置命令を受けるのか、という質問を受けますが、わたしが最近相談を受けた2つの事件でも、どうして一方が措置命令で他方が注意なのか、まったく理解に苦しくというほかないケースがあり、合理的に事前に予測するのはほとんど不可能ではないかと思っています。

(というわけでこの論文にも、注意ですませるノウハウみたいなものは書いていませんのでご了承下さい。)

表示対策課の課長が大元課長から西川課長にかわって、景表法の運用がどう変わるのか、大いに注目です。

ご興味のある方はご一読いただけるとうれしいです。

2019年5月22日 (水)

二重価格表示の「過去8週間の過半」の基準時

わたしは二重価格表示が適法となる要件について、

①比較対照に用いる価格(「通常価格」)での販売期間が通算2週間以上、かつ、

②セールの各時点において、その時点から遡る8 週間において、「通常価格」で販売されていた 期間が当該商品の販売期間の過半数を占めており、かつ、

③「通常価格」で販売された日からセール開始時 までに2週間経過していないこと

と説明することが多いのですが(たとえば公開されているものとして東京都のセミナーのスライドの39頁をご覧下さい)、これの②について、価格表示ガイドラインでは

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

とされているので、「セールの各時点」は「セール開始時点」の間違いではないか、という指摘をたびたび受けます。

セミナー等では時間の関係もあり、「とにかくこの3つの要件だけ、覚えてください」といって理屈を説明しないので、こういう質問が出てしまうのもしかたないなと常々反省しており、今日はこの点についてきちんと説明したいと思います。

実はこの点については、大元他『景品表示法〔第5版〕』(緑本)101頁では、

「・・・最近相当期間価格と認められるためには、

・ 当該商品の販売期間の過半を占めていること(要件a)

・ その価格での販売期間が2週間未満でないこと(要件b)

・ その価格で販売された最後の日から2週間以上経過していないこと(要件c)

の3つの要件を満たすことが必要であると整理できる。」

と整理されており、そのうえで、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

と問題提起されています。

そしてさらに続けて、

「例えば、過去8週間継続して同じ価格で販売してきた商品について、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合、

セールの開始時点では当該比較対照価格は要件aからcを全て満たしているが、

セール期間が2週間となった時点で要件c〔最後の日から2週間以上経過していないこと〕を満たさなくなり、

さらに、セール期間が4週間となった時点で要件a〔過半の要件〕も満たさなくなる(セールが始まった4週間の時点で過去8週間をみると、比較対照価格での販売期間が4週間、セール価格での販売期間が4週間となって、前者〔比較対照価格での販売期間〕が「過半を占める」状況が失われてしまう)が、

このような場合〔要件cについてはセール期間が2週間を超えた場合、要件aについてはセール期間が4週間を超えた場合〕に二重価格表示を継続することが景品表示法上問題とならないのであろうか。」

という形で問題提起がなされ、これに答える形で、

「この点については、原則として、要件c〔最後の日から2週間経過していないこと〕についてはセール開始時点で成立していれば足りると考えられるが、

要件a〔過半の要件〕についてはセールが終わるまで常に成立している必要があり

要件a〔過半の要件〕が満たされなくなった後〔セール開始後4週間を経過した後〕は、セールを継続すること〔例えば、「通常100円のところ、60円!」というセールをしている場合に、二重価格表示をせずに60円で売り続けること〕自体は何の問題もないものの、

当初の二重価格表示を継続することは景品表示法上問題となるおそれがある。」

と、過去8週の過半の要件(要件a)はセール各時点で満たす必要があり、セール開始後4週間で過去8週中過半の要件(要件a)は満たさなくなる、と明記されています。

つまり、「過半」の要件は各時点において判断され、セール開始後4週間を経過すると「過半」の要件を満たさなくなる(各時点で過去8週間をさかのぼると、セール開始後4週間経過するとセール後の販売が過去8週の過半になってしまうから)、ということです。

なお、過去8週の過半の要件がセールの各時点で満たす必要があることは、大元100頁で、より端的に、

「この要件〔当該商品の販売期間の過半を占めていること〕は、・・・セール実施期間を通じて満たされている必要がある。」

とまとめられています。これだけ見ると少しわかりにくいですが、前述のように104頁以下の詳しい説明をみると、「セール実施期間を通じて満たされている必要がある」というのは、「セールの各時点で過去8週の過半を満たしている必要がある」という意味だとわかります。

これを短くまとめると、②の「セールの各時点において、その時点から遡る8週間において、通常価格で販売されていた期間が当該商品の販売期間の過半数を占める」という結論になります。

これは、少し考えてみれば当然のことで、たとえば「通常100円のところ、60円!」という表示をした場合、消費者はセールがいつ始まったかなど(開始時を明記しない限り)知るよしもありませんから、それを見た消費者は、その表示を見た時点において「通常は100円なのだな」と認識するわけです。

「通常」は、過去8週間の過半とされているので、消費者が表示を見る各時点(=セールの各時点)において、各時点からさかのぼる8週の過半でなければ、消費者の上記認識とずれてしまいます。

また、セール開始時に「過去8週の過半」を満たせばいいのだとすると、二重価格表示を何年も続けてよいことになり、これはあきらかに不合理です(2年も3年も前の価格を「通常価格」というのはむりです)。

では二重価格表示を4週間を超えて行いたい場合にはどうすればいいのかというと、比較対照価格がいつの時点かわかるように表示すればいいのです。

たとえば「通常100円のところ、60円! 2019年4月1日よりセール開始」と表示すれば、100円は2019年3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるので、4週間を超えても問題ないと思われます。

この点については、前掲大元104頁では、前記同書引用箇所に続けて、

「ただし、二重価格表示が行われる時点で、セールの期間が明示されている場合には、一般消費者にとって価格の変化の過程が明かであり、セール期間中に要件a〔過半の要件〕が満たされなくなったとしても、直ちに問題とはならないと考えられる。」

と解説されています。

これも考え方は同じで、「通常100円のところ、60円」という二重価格表示とともに、「セール期間2019年4月1日~5月31日」と表示しておけば、比較対照価格は3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるから問題ない、ということです。

なお、このように理解しているのは私と緑本だけでなく、たとえば加藤他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』229頁でも、

「①の要件〔注・比較対照価格で販売された全期間が直近8週間において過半を占めること〕に関しては二重価格表示を継続している期間中は継続して充足していることが必要であるとされています。」

「そうすると、8週間連続して比較対照価格で販売した後、より安い販売価格でセールするとともに二重価格表示を行っていた場合において、セール期間が4週間を超えた時点で①の要件を満たさなくなるという事態が生じ、比較対照価格は最近相当期間価格といえなくなります。」

というように、同趣旨の解説がなされています。

というわけで、正解はあきらかなのですが、価格表示ガイドラインの記載が、

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

というように、これ以上ないくらい非常に明確に書いてあるので、誤解を招くのも当然だと思います。

緑本の解説をみても、なぜガイドラインの「セール開始時点から」という文言にもかかわらず、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

のか、さっぱりわかりません。

ガイドラインをみたら誰だって、文字どおり「セール開始時点から」という意味だと理解するだろうからです。

なので、このガイドラインの文言は、私はまちがいだと思います。

(しょせんガイドラインはガイドラインですから、法律の解釈として間違っていても、論理的にはなんらおかしくありません。)

あるいは、ガイドライン制定時は過去8週の過半をいつの時点でみるのかをあまり意識せず、漠然と、「セール開始時点から」とドラフトしてしまって、あとになって、まずい(これでは何年でもセールができてしまう)ことに気づいて、ガイドラインの解釈修正(緑本)という形でしのごうとしているのかもしれません。

(そんなばかなドラフトをすることなんてありうるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも当時の公正取引委員会のレベルはそんなもんです。)

というわけで、ここは非常に誤解を招きやすいところなので(というか、どうみてもガイドラインの文言がおかしいので)、ガイドラインを早急に改正すべきだと思います。

間違いを認めるのはけっして恥ずかしいことではありません。

明かな間違いでもけっして認めないのは、政治家だけで充分です。

わたしも今後のセミナー等では、「ガイドラインの文言は違う説明になっているけど、解釈でこのように(上記①~③のように)修正されています」と一言説明しようと思います。

2019年4月 3日 (水)

不当表示の再発防止策を実施済みの事業者に出す措置命令

不当表示については、事業者がすでに不当表示をやめていても、措置命令を出すことができます(既往の行為に対する措置命令)。

このことは、景表法7条1項で、

「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる

一 当該違反行為をした事業者

〔以下省略〕」

と明記されています。

ちなみに独禁法の不当な取引制限に対する排除措置命令は、独禁法7条2項で、

「公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

一 当該行為をした事業者

〔以下省略〕」

とされていて、「特に必要があると認めるとき」という条件付ではありますが、やはり既往の行為に対しても出すことができます。

つまり景表法の場合は、「特に必要があると認めるとき」でなくても、措置命令を出すことができるのです。

では不当表示をやめた事業者が再発防止策を実施して、措置命令で命じられそうな措置をすべて先回りして講じておけば措置命令はでないのかというと、そんなことはありません。

まず、上述のとおり、景表法には「特に必要があると認めるとき」という要件がありません。

それに、事業者が任意で措置を講じたのと、命令の強制力のもとで実施するのとでは、意味がちがいます。

つまり措置命令の場合には、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)の対象になりますが(景表法36条)、任意の措置ではそのような担保がありません。

措置命令ではたとえば、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し、前記の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない」

というような、将来の行為の禁止も命じられるので、これを刑事罰で担保するのかしないのかは大違いです。

したがって、仮に事業者がすでに任意でとった措置を超える措置を命じない場合であっても、措置命令の必要がないことにはなりません。

ましてや、一般消費者への周知が不十分である(たとえばホームページの見えにくいところにこっそり公表する)場合には、措置命令がでても何らおかしくありません。

というわけで、措置命令を避けるためには、公表もしっかりやるし、再発防止策も万全を期する必要があります。

それでも将来の禁止を刑事罰で担保する必要があると消費者庁が考えれば、やはり、措置命令が出る可能性はあると思われます。

平等原則違反だとか、裁量の逸脱だとかいっても、たぶん無理でしょう。

いちど違反をしてしまっている以上、刑事罰などの法的な担保が何もなくても再発しない、というのはかなりしんどいと思います。

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