景表法

2024年6月 5日 (水)

2週間あけて将来価格二重価格表示をくり返す場合に関するガイドラインとパブコメの論理に関する若干の疑問

二重価格表示ガイドラインp7では、

「・・・比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がごく短期間であったか否かは、そもそも当該将来の販売価格での販売が、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として行われていたものではないかなどにも留意しつつ、具体的な事例に照らして個別に判断されるが、一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられない(注6)。」

と規定されています。

そして、これに関連して同ガイドラインパブコメp24では、2週間だけ売ったら値下げしてもいいのか、という質問に対して消費者庁は、

「一般的には、セール自体の期間にかかわらず、比較対照価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続されれば「ごく短期間」であったとは考えられませんが、本執行方針第2の1に記載のとおり、合理的かつ確実に実施される販売計画を有しているかどうかが問われることになります。将来の販売価格は、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものですので、長期間のセールを実施した後に、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができるかどうかの検討が必要となります。

なお、長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され、将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、当該将来の販売価格での販売が「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として」行われているとみられる可能性があることに注意する必要があります。」

と回答しています。

たしかに、

「長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、

そのことが消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、

当該将来の販売価格での販売が

「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として

行われているとみられる可能性がある」

という理屈は理解できるのですが、他方で、そのようなくり返しが行われることが

「消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況」

であれば、消費者が将来価格二重価格表示の有利性を誤認しているということもなく、そもそも、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(景表法5条2号)

に該当しなくなるのではないでしょうか?

パブコメを立てれば法律が立たず、ということろでしょうか。

こういう脱法的なくり返しがけしからんという価値判断は理解できるので、これを違法にする法律構成もありそうですが、私にはちょっとわかりません。

少し考えてみたいと思います。

2024年5月27日 (月)

キャンペーンのくり返し(同一性)に関するセドナエンタープライズに対する措置命令の担当官解説の疑問

(株)セドナエンタープライズがキャンペーンのくり返しをしたとして、2022年3月15日に有利誤認表示で消費者庁から措置命令を受け、その担当官解説が公正取引867号64頁に掲載されています(羽原広一「株式会社セドナエンタープライズに対する景品表示法に基づく措置命令について」公正取引867号64頁)。

この事件は、セドナエンタープライズが、その販売する脱毛器について、期間限定で、30%の値引きに加えレビューを投稿すればさらに15%のポイントを付与するキャンペーンと20%のポイントを付与するとのキャンペーンを交互に行っていたことが、有利誤認表示と認定されました。

つまり、同じ付与率で付与をくり返していたわけではないけれど、それでも有利誤認表示になるのかが問題となりました。

この点について前記担当官解説p65では、

「(1) 「乗り換え割」の期間限定表示

「乗り換え割」〔注・不要になった脱毛器と交換すると割引でセドナの脱毛器が購入できるキャンペーン〕の期間限定表示については、

1か月毎に期限を区切って月交代で5%違うポイント〔注・15%と20%〕を繰り返し付与していたことから、

ポイント数に着目すれば「期間限定」であったともいい得ることから、

毎月繰り返されるポイントの付与に変更があった場合でも、その前後のキャンベーンと同ーのキャンベーンであると評価できるのかという点が問題となる。」

「この点、ポイントの付与は、レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていたが、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。

したがって、本件乗り換え割の期間限定表示の取引に付随するポイントの付与については、

毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価されることから、乗り換え割の期間限定表示は、有利誤認表示に該当するとされたと考えられる。」

と解説されています。

しかし、私はこの解説はおかしいと思っています。

キャンペーンのくり返しが有利誤認表示になるのは、先行する第1キャンペーンと後続の第2キャンペーンが「同一のキャンペーン」だからではありません。

キャンペーン終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示が実際と異なるから、優良誤認表示になるのです。

たとえば、第1キャンペーンで「期間限定、通常価格より50%OFF」と表示していれば、その意味するところは、キャンペーン期間が終了したら「通常価格」に戻る、ということでしょう。

なので、キャンペーン期間が終了したら、通常価格に戻さないといけません。

当然のことだと思います。

たしかに、第1キャンペーンと第2キャンペーンが同一の内容であれば、第1キャンペーンの表示は有利誤認表示になるのでしょうけれど、同一内容である場合というのは、キャンペーン期間終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示内容が実際と異なる場合の一例に過ぎません。

セドナの事件での問題の表示は、

「・「乗り換え割って? 不要になった脱毛器 ※光脱毛器・レーザー脱毛器のみ 除毛マシーンやシェーバーは不可 or 脱毛サロ
ン会員証 ※脱毛ラボ以外 を送ることで・・・ 3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFFで脱毛ラボ Home Edition(新古品※3)を購入できる超おトクなサービスです!」

・「※2 レビュー投稿なしのお場合は30%お値引き、レビュー投稿ありの場合は30%お値引き+15%ポイント付与で実質45%お値引き価格で購入いただけます」

というものでしたが、このように、「3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFF」と表示すれば、3月15日以降は45%オフをしない、つまり、通常価格に戻す(0%オフにする)、という意味であると解するのが自然だと思います。

私見と軌を一にするといえるものとして、消費者庁の「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(将来価格ガイドライン)の第2-1では、

「事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画・・・を、セール期間を通じて有している必要がある」

とされており、有利誤認表示とならないためには「比較対照価格とされた将来の販売価格」で販売しなければならないことを当然の前提にしているものといえます。

ほかにも前記担当官解説にはいろいろと問題があって、まず、

「レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

という部分ですが、実際に15%または20%のポイントは付与されていたわけですから、「15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」というのはまずいと思います。

これではまるで、15%または20%のポイントを実際には付与していなかった(のに付与するかのように表示していた)かのようです。

ここは正しくは、

「レビューを投稿すれば、キャンペーン期間に限り、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

というべきでしょう。

また、仮に同一内容かどうかを基準にする消費者庁の見解に立っても、

「付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。」

という理由付けは荒っぽすぎると思います。

ここで言っていることを文字どおりに理解すれば、同一性(有利誤認表示の成否)は、ポイントキャンペーンか、そうでない(例えば、単純な値引き、抽選でハワイ旅行プレゼント、記念品進呈、など)か、で判断し、ポイントキャンペーンであるかぎりは付与率にかかわらず(「ポイントが付与されることに変わりはなく」)、一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識する、といっているのです。

しかし、ポイント付与率(≒値引率)に5%もの差(15%と20%の比を取れば33.3%の差)があれば、顧客誘引力もずいぶんと違うでしょうから、それなのに「同一のキャンペーン」というのは、ちょっと無理なんじゃないかと思います。

もちろん私見でも、ポイントキャンペーンとハワイ旅行プレゼントは別のキャンペーンと考えています。

しかしそれは、「期間限定でポイントを付与する」という表示が、キャンペン期間経過後はポイントを付与しないという意味に解されるにとどまり、およそいかなるキャンペーンも行わないとまでは読めないからです。

ほかには、担当官解説は、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはな(かった)」・・・①

と指摘する一方で、

「毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価される」・・・②

とも言っており、

①では、ポイント付与率の違いは意味がなく、ポイントが付与されることに変わりがなければ違反なのだ、

とも取れる説明をしながら、

②では、「若干の」変更を超える変更であれば、同一キャンペーンと評価されず違反にはならないのだ、

とも取れるような説明をしており、いったいどっちなんだと言いたくなります(たぶん、②でしょうけれど)。

こんな大事なところの説明は、もうちょっと気を遣ってほしいものです。

このように、担当官解説には理論的な問題があるのですが、実務的には、15%と20%くらいの差でも同一のキャンペーンとみなされてくり返しが有利誤認表示になるということがはっきりしたことが大きいと思います。

これは、ポイントキャンペーンだけでなく、値引きキャンペーンでも同じでしょう。

ですので、キャンペーンの内容を多少変えれば違反を免れられると考えるのは、危ないと思います。

2024年5月20日 (月)

JAROでの講演がReport JAROに載りました。

2月15日にJARO(日本広告審査機構)さんで「最近の措置命令から読み解く不当表示対応のポイント」というセミナーをオンラインでさせていただいたのですが、その講演要旨がReport JAROの5月号に掲載されました。

Jaro
Report JAROではこれまで何度かその時々の最新の景表法の措置命令の解説を書かせていただいているのですが、それをいちど講演の形で、ということで実現したもの(の講演録)です。

いつもReport JAROは実務上有益な情報が満載で、とくに巻頭特集はそうなのですが、今回私の講演録が巻頭を飾ってしまいました💦

講演を振り返ってみると、われながらなかなかマニアックな内容でしたが、JAROの会員さんには目が肥えた方が多いそうなので、そのあたりをかなり意識しました。

ふだんの原稿の場合と比べると、やはり講演ではパワーポイントを使いながらていねいに説明できるので、その点はよかったと思っています。

私は世の中は論理で成り立っていると思っているので、基本的に図やイラストで説明するのが嫌いで、文字以外の情報は常に不正確な部分が残るので文字情報しか信じないようにしているのですが、景表法は表示物(場合によっては動画なども)を評価するので文字だけというわけにも行かず、やっぱりパワポは便利ですね。

講演に参加いただいた方も、参加されなかった会員のみなさまも、ご一読頂けると幸いです。

2024年5月 5日 (日)

景表法の確約運用基準について

2024年4月18日に、「確約手続に関する運用基準」が定められました。

気になった点をいくつか指摘しておきます。

まず、「5 確約手続の対象」「(3) 確約手続の対象外となる場合」では、

「①違反被疑行為者が、違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、景品表示法第25 条第1項の規定による報告徴収等が行われた日又は景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日のうち最も早い日から遡り10 年以内に、法的措置〔注・措置命令または課徴金納付命令〕を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)、

及び

②違反被疑行為者が、違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合

には、・・・確約手続の対象としない。」

とされています。

①の10年以内はまあいいとして、②の「根拠がないことを当初から認識」していたというのは、かなり広い(そのため確約の適用範囲はかなり狭くなる)と思います。

たとえば、「飲めば痩せる」系の健康食品は、確約の対象にはならないでしょう。

私はよく講演で、不当表示の原因を、

⑴ 虚偽だと知りながら表示していたケース

⑵ 事業者が表示の意味を誤解・曲解していたケース

⑶ 「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れたケース(モデルチェンジ・製法変更)

⑷ 本来予定した「実際」が作れなかった(能力不足、材料不足)

に分けて説明するのですが、⑴は確約の対象外ということですね。

もともと⑴と⑵の限界は結構微妙でしたが、これまではいずれにせよ不当表示であるとの結論は変わらないため今まであんまり深く検討する必要もありませんでしたが、確約が導入されるとまさに⑴と⑵の区別が問われることになりそうです。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「ア 基本的な考え方」「(イ) 措置実施の確実性」では、

「例えば、確約措置として一般消費者への被害回復を行う場合には、

当該措置の内容、被害回復の対象となる一般消費者が当該措置の内容を把握するための周知の方法並びに当該措置の実施に必要な資金の額及びその調達方法が具体的に明らかにされていなければ、

原則として、措置実施の確実性を満たすと認めることはできない。」

とされており、確約計画には返金する場合の資金調達方法を具体的に書くよう求められています。

独禁法の確約対応方針では資金調達方法まで書けとはいわれていないので、ちょっと驚きです。

独禁法とちがって景表法の場合は零細企業も違反者となることが多いので、とくに資金調達について言及したのかもしれません。

とはいえ、手持ち資金で足りるなら、「自己資金」でよいのでしょう。

では、そもそも確約が認定されるために被害回復をする必要があるのかについては、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」「(オ) 一般消費者への被害回復」で、

「例えば、被通知事業者が違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、その購入額の全部又は一部について返金
(景品表示法第10 条第1項に定める「金銭」の交付をいう。)することは(注2)、

一般消費者の被害回復に資すること、及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、

措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする。」

とされています。

まず、この確約での被害回復は、景表法10条の返金措置とは何の関係もありません。

(運用基準の注2では、

「(注2)返金の手段、方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられるが、自主返金制度において定める内容が参考となる。」

とだけされています。)

ですので、景表法10条の返金計画の認定は受けずに、任意で被害回復をしつつ確約にしてもらう、ということは当然可能だと考えられます。

次に、「有益であり、重要な事情として考慮する」ということの意味ですが、景表法の確約運用基準では、確約措置の典型例を、

「必要な措置」(「(ア) 違反被疑行為を取りやめること」「(イ) 一般消費者への周知徹底」「(ウ) 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置」「(エ)履行状況の報告」)

「有益であり、重要な事情として考慮する」措置(「(オ) 一般消費者への被害回復」)

「有益」な措置(「(カ)契約変更」「(キ)取引条件の変更」)

の3段階に分けています。

これは、独禁法の確約ガイドラインが「必要」と「有益」(優越の返金措置だけですが)に分けているのと比べると、被害回復を「有益」から「重要」に格上げしたのだな、と理解できます。

独禁法の優越の確約でも、返金が求められる場合と求められない場合があり、結論をみるとそれなりに穏当な処理になっている(お金の問題じゃないものは返金は求められない)ように思われるのですが、景表法でも、きっとそういう処理がされるものの、あえて「重要」といているので、基本、被害回復は求められるんじゃないかと思います。

景表法違反でも、返金が納得感のある事例と、そうでないものがあると思います。

たとえば、「食べたら痩せる」系の健康食品は、全額返金でもいいでしょう。

これに対して、メルセデスベンツの事件の、オプションがカタログどおり付いていなかった、というのは、どちらかというとカタログの誤記だと思いますので、何十万円もするオプションを無料で付けろ(オプション代返金)というのは、ちょっと行き過ぎに思います。

近頃流行りのNo.1表示(優良誤認)は、一体何を返金したらいいのか見当が付きません。

キャンペーンの繰り返しも、返金という話ではないように思います。

さらにいえば、全般的に、有利誤認は被害回復に不向きでしょう。

というわけで、きっと景表法の確約では、返金に納得感がある事例では原則返金が必要で、上記のように返金に納得感がないものだけが例外的に返金不要となるのでしょう。

このように、任意の被害回復が確約の事実上の要件となると、これと景表法10条の返金措置との関係が気になるところです。

というのは、景表法10条の返金措置は手続がめんどうなわりに、むしろ課徴金を満額払ったほうが安く付くことがわかり、ほとんど利用されていません。

これが、確約をめざすためには被害回復が必要だということになると、どっちにせよ面倒な手続をするなら(確約の条件としての被害回復は、確約という正式な制度の中で行われる以上、優越の被害回復みたいに、被害者の特定などそれなりに厳密に行うことを要求されそうな気がします。)返金措置(10条)もやってしまえ、という判断に傾くこともありえなくはないように思われます。

というわけで、事実上死に体だった自主返金制度を亡霊のように生き返らせる可能性が、確約制度にはあるように思われます。

次に、細かいことですが、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」に、

「(イ) 一般消費者への周知徹底」

とありますが、一般消費者へは「周知徹底」ではなく「周知」ではないでしょうか。

景表法の措置命令は昔からそうなのですが、従業員なら「周知徹底」でしょうけれど、消費者に「徹底」するというのは、いったい何様だという感じがします。

ちなみに独禁法では、たとえばクーパービジョンの確約では、

「前記(1)に基づいて採った措置を,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ等の小売業者及び販売代理店に通知するとともに,一般消費者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底すること。」

というように、「周知」と「周知徹底」を使い分けています。これが正しい日本語でしょう。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」の「(エ)履行状況の報告」では、

「確約措置が措置内容の十分性を満たす場合であっても、実際に確約措置が履行されないのであれば、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保することができない。

このため、確約措置の履行状況について、被通知事業者又は被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者消費者庁が認める者に限る。)が消費者庁に対して報告することは、

措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つである。

なお、報告の時期及び回数は、確約措置の内容に応じて設定する必要がある。」

とされています。

米国の反トラスト法などで有名な、いわゆる外部モニター(external monitor)ですね。

しかも、「必要な措置」になっているので、確約をすると全件外部モニターに監視を委託することになりそうです。

外部モニターといってもそんなに毛嫌いする必要もなく、私は入れたらいいんじゃないかと思いますが、企業によっては確約のハードルになるかもしれません。

零細企業の場合にはモニターのコストもばかにならないかも知れません。

というわけで、全体としてはなかなか内容の濃い、読み応えのあるガイドラインでした。

2024年5月 4日 (土)

同一取引に対する複数事業者の企画の競合(暫定版)

掲題の件について以下のとおりまとめておきます。誤りや追加があれば随時修正します。

【前提】

事業者1と事業者2は、いずれも商品A,B,Cの供給者

A, B, Cは相互に排他的(お互いを含まない)

pa: 商品Aの取引の価額(以下同様)

Max(pa): paに基づく(=商品Aに附随する)景品法定上限(以下同様)

Max(pa+pb): 商品AとB両方の購入者に提供可能な景品法定上限(以下同様)

Kactual1: 事業者1が現実に提供する景品額(2も同様)

Kmax1: 事業者1が提供しうる景品上限(2も同様)

懸賞においては事業者1と2は重複当選を排除しない。

事業者1と2が各々単独でするい場合、2が1に景品類を追加するとする(1が先)。

事業者2の景品対象取引に「たまたま」事業者1の景品対象取引が含まれる場合、「同一取引」への複数景品提供とはみない(消費者庁景品Q&A95-1)。

事業者は、消費者がキャンペーン対象者かどうかはわかるが、どの商品を購入したか(対象商品の内訳)はわからない(知る必要がない仕組みとする)。

【パターン①-1】事業者1と2が共同で、商品A購入者に景品提供する場合

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa)

Kmax1 = Max(pa) ー Kactual2

Kmax2 = Max(pa) - Kactual1

【パターン①-2】事業者1と2が各々単独で、商品A購入者に景品提供

Kmax1 = Max(pa)

Kmax2 = Max(pa) ー Kactual1

【パターン②-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) - Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン②-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) =Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン③-1】事業者1と2が共同で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

【パターン③-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

(※パターン③-1に同じ。)

【パターン④-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kacutual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) ー Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pa+pb) ー Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン④-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pa+pb) - Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン⑤-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) + Max(pb+pc) - Max(pb) = Max(pa) + Max(pb) + Max(pc)

Kmax1 = Max(pa+pb) - (Kactual2 - Max(pc)), if Kactual2 ≧ Max(pc)

           = Max(pa+pb), if Kactual2 < Max(pc)

Kmax2 = Max(pb+bc) - (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン⑤-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb+pc)- (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

2024年3月15日 (金)

『はじめて学ぶ景品表示法』(オレンジ本)の期間限定表示に関する解説の疑問

掲題の書籍のp66に、ハピリィに対する措置命令(3914)の解説の一部として、

「期間限定表示については、表示と実際のものとの間に乖離が生じるのは、表示された『期間限定』の期間が終了した後である。」

という記述があります。

でも、これはかなり問題のある解説だと思います。

結論からいえば、表示と実際の乖離は、「期間限定」の期間中に既に生じています。

例えば、同書で解説されているハピリィの事件では、通常38,700円のところが、

「対象期間:6月1日(月)~7月31日(金)」

に限って19,800円になる、と表示されていましたが、ここでの「表示」の意味をかみ砕いていうと、

5月31日以前(の最近相当期間)は38,700円であったけれど、6月1日から7月31日までに限って19,800円になり、8月1日以降は再び38,700円になる

という意味になるところ、「実際のもの」は、

5月31日以前(の最近相当期間)も19,800円であったし、6月1日から7月31日までも19,800円であったし、8月1日以降も19,800円であった

ということになり、上記「表示」の意味のうち、期間前(過去の実績)と期間後(将来の予定)の価格について、表示期間中(6月1日~7月31日)に、既に表示と実際の乖離が生じています。

決して、「『期間限定』の期間が終了した後」にだけ、乖離が生じているわけではありません。

また、もし同書のように考えると、不当表示の期間中には表示と実際の不一致が生じていないことになり、そもそも不当表示ではないということになりかねません。

この点は、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」ではきちんと整理されていて、同指針第2(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について消費者庁が景品表示法を適用する際の考慮事項等」)の1(「景品表示法上の考え方」)では、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

当該表示を見た一般消費者は、通常、

比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある

すなわち、

セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である

と認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、

当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

このような消費者の認識と齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされています。

ここでは、表示の意味(=消費者の認識)は、「将来は確実に比較対照価格で販売される」ということであるのに、実際は、そのような確実な計画は(表示期間中において)なかった、という齟齬があるために有利誤認表示になるのだ、という考え方で一貫しています。

期間限定の期間後に表示どおりの価格で販売しなかった事実は、

「事業者が、・・・将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在しないにもかかわらず、当該将来の販売価格で販売していない場合・・・には、通常、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認される」(第2,2⑴)

という形で、期間限定の期間後に表示どおりの比較対照価格で販売していなかったことは、表示期間中に「合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったこと」の推認材料である、と位置付けることを明らかにしています。

つまり、どこまでも、不当表示は期間限定表示であり、不当表示期間は期間限定表示をした期間です。

当たり前です。

同書の解説はこの指針にも真っ向から反しており、ちょっと筆が滑ったというレベルではすまないのではないかと思います。

2024年3月14日 (木)

『はじめて学ぶ景品表示法』(オレンジ本)の有利誤認表示に関する解説の疑問

掲題書籍の61頁に、有利誤認表示(景表法5条2号)の解説として、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」

という記述があります。

でも、これはすごく誤解を招くのではないでしょうか。

これをぼーっと読むと、「取引の相手方」というのは実は「特定の相手方」という意味であり、「あなただけ」というのだけが有利誤認表示に該当すると勘違いされそうな気がします。

特に、同書が想定する、景表法を「はじめて学ぶ」読者にとってはそうだと思いますし、何を隠そう私も初めて読んだときはびっくりしました。

確かに、注意深く読むと、

「・・・場合など

と、「など」が入っているので、「あなただけ」は例示に過ぎない、ということが読み取れます。

でも、いくら例示で挙げるにしても、一般的な解説における例示はできるだけ典型例とすべきであって、「あなただけ」なんていうのは典型例でも何でもないと思います。

それに、文章の読みやすさという点からいえば、例示を表す「など」の前の部分(例示部分)は、短ければ短いほど誤解を招かなくていいです。

(「当該」の後ろが短ければ短いほど誤解を招かないのと同じです。)

ところが上記引用部分では、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」

のうち、実に、

「取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合」

が全部例示ということになって、たいへん読みにくいです。

しかも、上記解説部分は、「など」より前の例示部分を例示なので論理的には無意味と考えて削ると、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、・・・を規制するためのものである。」

となり、論理的には何も言っていないことになりかねません。

(「・・・」の部分を、「何らかの場合」と置き換えてみて下さい。)

さらに、有利誤認表示には、

①表示された取引条件自体が実際の取引条件と異なる場合と、

②表示された取引条件自体(例、価格5,000円)は実際の取引条件(5,000円)と一致するけれども、取引条件の有利さを基礎付ける事実(例、通常1万円のところ、今だけ5,000円)が実際(例、いつも5,000円)と異なる場合、

の2とおりがありますが、上記解説では①が想定されていない(∵「取引条件自体は事実であっても」とあるため)と読まれかねません。

ほかにも、同書の有利誤認表示の解説はやや疑問な(見方によっては、おもしろい)ことを言っていて、同じくp61には、

「『取引条件』〔注・景表法5条2号〕とは、商品または役務の内容以外のものを指す。」

と解説されています。

でも、「取引条件」と条文にはっきり書いてあるのに、「商品または役務の内容以外のもの」と読み替えるのは、さすがに無理ではないでしょうか。

優良誤認で商品の内容をカバーし、有利誤認で商品の内容以外のものをカバーすることで、不当表示をもれなくカバーしたい、という気持ちはわかりますが、条文の文言を無視するのはやりすぎだと思います。

それから、同じく61頁にで、「著しく有利である」というのを「ものすごくお得である」と言い換えています。

大事なので正確に引用すると、

「『著しく有利である』(ものすごくお得である)」

とあり、5条2号の文言を引用しつつ直後に括弧で「ものすごくお得である」と書いてあります。

この部分は「著しく有利」自体の解説の部分ではなくて、「価格その他の取引条件」に関する解説の一部なので、きっと筆が滑ったのでしょう。

けれども、こういう書き方をされては、例示でも典型例でもなくて、定義あるいは言い換えであると言わざるを得ません。

とすると、「ものすごくお得である」とは言えないくらいの、多少お得であるというくらいの表示なら、有利誤認には該当しないと誤解されかねません。

実際私も、「『著しく』に該当しないので不当表示にならないと言えませんかね?」というご相談をよく受けますが、事実と異なるけれど「著しく」に当たらないので大丈夫、と答えたことはほとんどありません。

消費者庁の方が書かれた書籍だけに、「『ものすごくお得である』とまでは誤認させていないので不当表示ではない」という主張が事業者側から出てこないか、ちょっと心配になります。

2024年3月13日 (水)

不実証広告ガイドラインの商品役務とは無関係の学術文献に関する記述とその担当官解説の疑問

不実証広告ガイドラインの第3(「「合理的な根拠」の判断基準」)の2(「提出資料が客観的に実証された内容のものであること」)の⑵(「専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献」)のアでは、

「ア 当該商品・サービス

又は

表示された効果、性能

に関連する分野を専門として実務、研究、調査等を行う専門家、専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による

見解

又は

学術文献

を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、

その見解又は学術文献は、次のいずれかであれば、客観的に実証されたものと認められる。

① 専門家等が、

専門的知見に基づいて

当該商品・サービス表示された効果、性能について

客観的に評価した見解又は学術文献であって、

当該専門分野において一般的に認められているもの

② 専門家等が、

当該商品・サービスとは関わりなく

表示された効果、性能について

客観的に評価した

見解

又は

学術文献

であって、

当該専門分野において一般的に認められているもの」

とされています。

しかし、②は、何を言っているのか、今ひとつよく分かりません。

②は、①が「当該商品・サービス表示された効果、性能について 」、つまり、対象商品役務効果性能に関する見解や学術文献であることであることとの対比であることからすると、あるいは、「当該商品・サービスとは関わりなく」とされていることからすると、これをぼーっと読むと、②は商品とは無関係に効果性能に関して評価した見解や学術文献でも合理的根拠資料と認められる、と言っているように見えます。

たとえば、あるサプリメントが「ビタミンDはコロナに効く」と表示した場合、そのサプリメント自体のコロナ予防効果についての学術文献ではなく、そのサプリメントとは無関係の、ビタミンD一般のコロナ予防効果に関する論文が、②にあたりそうに読めます。

でもそうすると、山田養蜂場の事件(2022年9月9日措置命令)が、合理的根拠ありになりかねず、それはさすがにまずいでしょう。

そこで、①と②の文章をもう一度きちんと読んでみましょう。

①は、ここでの関心をもとに要約すれば、

当該商品効果について評価した学術文献

ということなので(いわば商品そのものを評価した学術文献)、まあ合理的根拠資料となるだろうなと納得できます(そんなものが世の中に存在するのかはさておき)。

これに対して、②は要約すると、

当該商品とは関わりなく、表示された効果について評価した文献

となり、ここで「表示された効果」というのが出てきます。

「表示された効果」というのは、言葉を補うと、「当該商品の広告で表示された効果」という意味でしょう。

たとえば、「コロナに効く!」という広告をするビタミンD入りサプリの場合なら、「当該商品の広告で表示された効果」というのは、「コロナに効く」という「効果」であり、合理的根拠資料と認められる学術論文とは、ビタミンDにコロナに効くという効果があるという学術論文、ということになります。

というわけで、文章をきちんと読んでも前述と同じ、受け容れがたい結論になってしまいます。

どうすればいいのでしょうか。

この点に関して、立案担当者解説(公正取引638号7頁)では、

「②の場合について、

提出された見解又は学術文献が

当該専門分野において一般的に認められているものであるとしても、

当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケースが想定される。

この場合には、当該見解又は学術文献は、

当該商品・サービスの効果、性能について客観的に実証された内容のものとは認められないことはいうまでもない。」

とされています。

大事なところだけ要約しつつ言葉を補うと、

②の学術文献において客観的な評価の対象となった効果が、

当該商品の効果とは異なるものであるというケースでは、

当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない

となります。

しかし、これまた何が言いたいのか、私にはよくわかりません。

たとえば、ここでの「効果」を「コロナ予防効果」としてみましょう。

すると、上記の担当官解説要約は、

②の学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、

当該商品のコロナ予防効果とは異なるものであるというケースでは、

当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない

となります。

でも、

学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

と、

当該商品のコロナ予防効果

が、

「異なる」

というのが、何を言っているのか、私には理解できません。

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」も、「当該商品のコロナ予防効果」も、同じ「コロナ予防効果」なのではないでしょうか? (少なくとも担当官解説を論理的に読む限り)

もっと言えば、「②の学術文献」というのは、

「② 専門家等が、

当該商品・サービスとは関わりなく

表示された効果、性能について

客観的に評価した・・・学術文献〔以下省略〕」

であり、これを上記担当官解説要約に代入(かつ一部加工)すると、

専門家等が、当該サプリとは関わりなくコロナ予防効果について客観的に評価した学術文献において

客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、

当該商品のコロナ予防効果とは異なるものである場合、

当該学術文献は合理的根拠資料とは認められない

となります。

ここで、

「コロナ予防効果」≠「コロナ予防効果」

という式は論理的に成り立たない(矛盾)のではないか、というのが上述したところですが、これを何とか成り立たせようとするならば、「コロナ予防効果」と「コロナ予防効果」を比べるのではなく、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

「当該商品のコロナ予防効果

とを比べた上で、上記担当官解説は、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

「当該商品のコロナ予防効果

と異なる場合、つまり、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」≠「当該商品のコロナ予防効果

の場合には合理的根拠資料とは認めないと読むのだ、という読み方が考えられます。

しかし、こう読んでしまうのも問題です。

というのは、②の「学術文献」は、

「当該サプリとは関わりな〔い〕・・・学術文献」

ですから、そのような

「〔当該サプリとは関わりない〕学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」(たとえば、当該サプリとは直接関係ないけれど、当該サプリに含まれるところの、ビタミンD一般のコロナ予防効果)

が、

「当該サプリのコロナ予防効果

と異なるというのは、②からは(ほぼ)論理必然です(∵当該論文は当該サプリとは無関係なので)。

そうすると、担当官解説は、②から論理必然に導かれる命題が偽であることは「いうまでもない」といっていることになり、ひいては、②は常に偽である(矛盾)といっていることになるからです。

というわけで、担当官解説が正しいとするならば、②はほぼ空文である(ほぼ矛盾である)ということになりそうであり、実際、そのような結論が妥当だと思われます。

しかしそれでも、担当官解説が言っていることは理解不能です。

具体的には、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

というのが、どのような「ケース」を「想定」しているのかがわかりません。

このケースにあてはまるものとして、たとえば、「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能」というのが、亜鉛がコロナに効くとする学術文献であり、「当該商品」には亜鉛は含まれずビタミンDだけが含まれていた、というケースが、理屈の上ではありえます。

しかし、そんなケースが合理的根拠資料にならないのは当たり前すぎるくらい当たり前です。

そうすると、このような、亜鉛≠ビタミンDみたいなケースだけが合理的根拠資料にならないことが「いうまでもない」といわれても、「だからどうした」(So what?)という感じで、②を否定していることにはほとんどならないと思われます。

そうすると、担当官解説のいう、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

としてほかにどのようなものが考えられるのかというと、当該学術文献が、男性を被験者としたところビタミンDがコロナに効くことがわかったという学術文献なのに、男女を問わず効くかのように表示した、というケースでしょうか。

しかし、それを言い出すと、学術文献ではイタリア人を被験者にしたのに、それをこの商品は日本人にも効くかのような表示をしたら不当表示になるといってしまっていいのか、という別の問題が出てくるように思います。

たぶん上記担当官解説が言いたいのは、仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ、ということなのだろうと思われますが、それを、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

という形にまとめてしまったのが間違いだった(言いたいことと言ったことが噛み合っていない)、ということなのだろうと思います。

(そもそも、不実証広告ガイドラインが、合理的根拠と、表示と根拠の適切な対応という2段階に分けたことに問題の根っこがある(本来は表示に根拠があるかの1段階で判断すべき)のですが、この点についてはまた改めて論じたいと思います。)

しかも、

仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ

と言ってしまうと、②を正面から否定することになりかねません(私は否定してもいいと思いますし、消費者庁の実務では実際否定していますが)。

「性能」と「性能」を比べる論理構造なら、論理的には、結論は両者が同じか違うかの二択しかなく、上記担当官解説の、

「効果・・・が・・・効果とは異なる」

という記述はまさにそのような論理構造になっているわけですが、そのような論理構造に乗せて説明しようとしたのがそもそも間違いだった、ということなのだろうと思います。

あるいは、「異なる」という言葉にいろいろな意味を込めようとしすぎなのだと思います。

というわけで、②は担当官解説ですら上手く説明できていないし、②が合理的根拠資料になる場合が想定できないので、無視するほかない(①で行くしかない)と思います。

②に依拠して広告した事業者が不当表示で措置命令を受けて取消訴訟で争って、「だってガイドラインでも②はOKっていっているじゃないか。」と主張しても、おそらく裁判所には無視されるだけだと思われます。

2024年2月23日 (金)

キャンペーンを繰り返した場合の課徴金について(ファクトリージャパン)

カラダファクトリーの屋号で整体サロンを経営するファクトリージャパンに対して、2020年3月18日に、392万円の課徴金支払いを命じる課徴金納付命令が出ています。

この事件は、いわゆるキャンペーンの繰り返しに対して措置命令が出ていた事件ですが、キャンペーンの繰り返しをした場合の課徴金額算定という観点からは、ちょっと興味深い内容になっています。

すなわち、命令書を読むと、

①2018年1月1日から2月28日までの間に、”今なら通常8,964円が3,980円”といった趣旨の表示をした行為

②2018年3月1日から4月30日までの間に、同様の表示をした行為

が、課徴金の対象になっています。

そして、同じく命令書では、

①の行為の期間中の売上額は62,714,800円、課徴金額は1,880,000円

②の行為の期間中の売上額は68,311,900円、課徴金額は2,040,000円

と認定されています。

ここでまず気になるのが、どうして課徴金の対象になったのが①と②の行為だけなのか、ということです。

というのは、措置命令では、これ以外にも、2016年6月あたりから連続して、同じようなキャンペーンの繰り返し行為を何回も続けていたことが認定されていたからです。

どうしてそれらの行為が課徴金の対象にならず、上記①②だけが対象になったのかを想像してみると、おそらく、①②の行為以外は売上額が課徴金の裾切額である5,000万円に届かなかったからではないか、と思われます。

というのは、①②の期間の売上は、いずれも6,000万円台で、そうすると、この整体サロンの1カ月間の売上は3,000万円少々だったのではないか、ということがうかがわれるからです。

つまり、1か月ごとにキャンペーンをさんざん繰り返していた時期は、1か月の売上が5,000万円に届かなかったので課徴金の対象にならず、上記①②の行為だけは2か月単位のキャンペーンの表示だったので売上額が裾切額を超えてしまった、ということのようです。

この課徴金納付命令の考え方だと、さんざん繰り返していた時期の違反行為は課徴金の対象にならず、たった1回繰り返した行為だけが対象になるということになり、いかにもバランスが悪いような気がします。

何より、同じキャンペーンを繰り返す場合には1回のキャンペーン中の売上額が5,000万円を超えないようにキャンペーン期間を短めに設定しておけば何回繰り返しても課徴金は免れる、ということになってしまい、なんだかなぁ、という感じがします。

でも、課徴金は法律の規定に従って形式的に算定されるものなので、仕方ありません。

このような結論になる前提として、キャンペーンの繰り返しをした場合には、毎回の表示は別の表示行為だ、ということが当然の前提になっています。

なぜそうなるのかというと、キャンペーンの期間が異なるからです。

上記①では、「1月1日から2月28日まで」となっており、上記②では「3月1日から4月30日まで」となっているので、①②は異なる期間に提供される異なる役務だ、ということです。

この考え方は、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)にも表れていて、同ガイドライン第4、2⑴では、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

とされていて、そこでの「想定例」として、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について

○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等

と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

という例では、

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

とされています。

つまり、表示自体で店舗を限定していれば、当該店舗での売上だけが課徴金の対象になる、ということです。

ガイドライン本文の、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容・・・から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

のほうでいえば、

「(1) 常時供給する役務であっても、

表示されている役務提供期間・・・から、

一部の期間において供給した当該役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

ということになる、ということでしょう。

つまり、

①の表示は「2018年1月1日から2月28日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務であり、

②の表示は「2018年3月1日から4月30日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務である、

ということです。

同じキャンペーンの繰り返しでも、表示としては別々で、行為としても別々だ、ということですね。

ほかにもこの課徴金納付命令はいろいろと興味深くて、この命令では、②の行為のあと、2018年5月1日から31日までの間キャンペーンが行われていたことをもってして、②の行為にも課徴金がかかっています。

(ちなみに、2018年5月1日から31日もキャンペーンを行っていたということは、宣伝もしないでキャンペーンをすることはあり得ないですから、当然、5月1日から31日も同様の表示をしていたはずですが、それは違反行為にはなっていません。きっと、キャンペーンを延長せず5月31日で終わったからでしょう。措置命令を見ても、6月はキャンペーンがなかったようです。ですが、7月と8月には、1か月ずつキャンペーンを行っていたようです。)

つまり、1回の延長でも課徴金がかかる、ということです。

(①の行為は、2回延長されていることになります。)

さらに、前記のとおり1回のキャンペーン中の売上が裾切額未満なら課徴金がかからないことの裏返し(?)として、1回あたりのキャンペーン期間を長く設定すると、延長した場合には、その期間全体の売上に課徴金がかかってきます。

たとえば、キャンペーン期間を6か月とすると、これを繰り返したら、6か月分の売上に丸々課徴金がかかってくる、ということになります。

さらに、本件では延長は1か月でしたが、1か月でなければ課徴金がかからないという理由はありません。

したがって、たとえば、1日だけ延長しても、課徴金がかかるおそれがあります。

なので、最悪の場合、キャンペーン期間を6か月に設定していて、何かの手違いで1日だけキャンペーン価格で商品役務を提供してしまったりすると、6か月の売上に丸々課徴金がかかる、ということになります。

(もちろん、それくらいの手違いは、消費者庁も大目に見てくれるとは思いますが。)

考えられる反論として、

「1日延びたくらいでは、キャンペーン期間中に購入した人も、それほど損をしたとは思わないのではないか」

とか、

「特に6か月のキャンペーンの最初のほうに購入した人は、1日延びたって何も感じないのではないか」

とか、いろいろ考えられますが、不当表示に当たらないとはなかなか言いにくいように思います。

ただし、本当に「何かの手違いで」間違って1日延長してしまっただけなら、そもそも不当表示にはあたらない、という理屈も充分ありうると思われます。

というのは、ある意味で当然のことなのですが、キャンペーンの繰り返しの場合でも、違反になる表示は、その違反行為の時点で違反であることが確定するのであり、現に繰り返した時点ではじめて違反になるのではないからです。

このことは、将来価格ガイドライン(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)にも表れていて、同ガイドライン第2の1では、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

当該表示を見た一般消費者は、通常、

比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある

すなわち、

セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である

と認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、

当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

このような消費者の認識と齟齬が生じ、

景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされています。

つまり、表示の時点で、キャンペーン終了後には表示していた将来価格で販売する「確実な予定」があったかどうかが問題なわけです。

実際に、表示していた将来価格で販売したかどうかは、あくまで、そのような「確実な予定」の存在(または不存在)を立証する間接事実でしかありません。

この理屈は、将来価格の二重価格表示だけではなく、広くキャンペーンの繰り返しにも当てはまると考えられます。

ちなみに、この事件については公正取引843号に担当官解説がありますが、以上で述べたようなことはなにも書いてありません。

せっかく興味深い論点がてんこ盛りで、こんなに面白い事件だったのですから、もっといろいろ書いたら良かったのに、と思います。

2023年12月28日 (木)

過去に取引をした者を対象に⾏う企画に関する消費者庁Q&A10番に対する疑問(旧13番)

消費者庁ウェブサイトの景品類Q&Aの10番(「過去に取引をした者を対象に⾏う企画」)では、

「Q10 当店では「お客様感謝デー」として、昨年1年間に、当店で合計10万円以上購⼊してくれた顧客を対象に、抽選で景品を提供する企画を実施しようと考えています。この場合、取引の価額を10万円とみてよいでしょうか。

なお、当店で通常販売している商品等のうち最も安いものは100円です。」

との設問に対して、

「A 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるときは、「取引に付随」する提供に当たります。

過去に取引をしたことのある顧客に対して景品類を提供する場合は、原則として、景品企画を告知した後の取引につながる蓋然性が⾼いことから、取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるものとして、告知をした後に発⽣し得る今後の取引に付随する提供にあたると認められます。

したがって、取引の価額は、景品企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものとなり、過去の購⼊額を取引の価額とすることはできません。

本件は、このお店で通常販売している商品等のうち最も安いものが100円ですので、取引の価額は100円となります。

(参照)

「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)1(2)、4

「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準」(平成24年消費者庁⻑官通達第1号)5(1)

「『⼀般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第6号)1(2)」

との回答がなされています。

ですが、私はこの回答は取引附随性の認定を誤っており、間違いだと思います。

これは、改訂前の旧13番と比べてみるとよくわかります。

旧13番では、

「Q13 昨年1年間に,当店で10万円分以上の商品を購入してくれたお客様を対象として,今後の取引を期待して「お客様感謝デー」を実施し,来店してくれたお客様にもれなく景品を提供する旨をダイレクトメールで告知しようと考えています。

この場合,取引の価額を10万円とみてよいでしょうか。」

との設問に対して、

「A 既存の顧客に対して景品類を提供する場合の取引の価額については,原則として,当該企画が,同企画を告知した後の取引を期待して行われるものであると認められることから,取引の価額は,当該企画を告知した後に発生する通常の取引のうち最低のものということになり,過去の購入額を取引の価額とすることはできません。  

御質問のケースは,来店を条件として景品類を提供するものと認められますので,取引の価額は100円又は当該店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のものとなり,提供できる景品類の価額は取引の価額に応じたものとなります。

(参照)
「景品類等の指定の告示の運用基準」(昭和52年事務局長通達第7号)1(2)」

との回答がなされていました。

つまり、旧13番の企画は、来店を条件とするものであることが明示されており、だからこそ、告知後の取引との取引附随性が認められる、という理屈でした。

これに対して、現10番の企画は、どこにも来店を条件とするとは書かれていません。

(「お客様感謝デー」という響きがスーパーの企画っぽくって、来店を匂わせないではないですが、最近はネットショップの「お客様感謝デー」もふつうにあるでしょうし、書いてないものはないものだと扱うのが当然でしょう。)

なので、現10番においては、取引附随性が認められる要素がありません。

現10番の回答では、それでも取引附随性が認められる理由として、

「過去に取引をしたことのある顧客に対して景品類を提供する場合は、

原則として、景品企画を告知した後の取引につながる蓋然性が⾼いことから、

取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるものとして、

告知をした後に発⽣し得る今後の取引に付随する提供にあたると認められます。」

という説明がなされていますが、この手の企画で「取引につながる蓋然性が高い」などとは到底言えないと思われます。

もしこの手の企画で「取引につながる蓋然性が高い」といえるなら、そんな楽な商売はありません。

もう少しちゃんと説明しますと、「取引につながる蓋然性」を議論する場合には、その経済上の利益(≒景品)の提供があることによって、提供がない場合に比べてどれくらい取引の蓋然性が上がるのかを考えないといけません。

この点、10番の回答は、「過去に取引をしたことのある顧客」であることによる、将来の取引をする蓋然性と、景品を提供することによる、将来の取引をする蓋然性とを、混同しています。

例えば、去年このお店で10万円以上の買物をした人が1000人いたとして、そのうち、この企画がなくても今年このお店で何らかの買物をするであろう人が600人いるとします。

(なお、イメージとしては、スポーツジムのような継続的取引ではなく、単発(かつ複数)の取引を念頭におくほうが、分析にノイズが入らなくてよいと思います。)

このような場合に、景品が「取引につながる蓋然性が高い」といえるためには、当該企画がなければ取引をしなかったであろう400人のうちの相当数(=「蓋然性が高い」と評価できるほどの数)が、取引をするといえなければなりません。

しかし、実際には、この手の企画で囲い込める(10万円以上の取引をしてくれる)顧客の数は、400人のうち1割(=40人)でもいれば大成功、といったところが相場ではないかと思われます。

(1円以上10万円未満の取引をする人は、分析が複雑になるので無視します。それでも、問題の本質には関係ないでしょう。)

というのは、400人の人が10万円の取引をしてくれるとしたら、粗利が5割として、2000万円の増益になるからです。

Q10の企画は抽選(懸賞)ですから、ふつうは賞品をもらえない人のほうが多いはずであり、なおさら顧客を囲い込む効果は小さいと思われます。

(懸賞か総付かで取引附随性の解釈が変わるわけではないので、この点は問題の本質ではありませんが。)

もし3割(=120人)もいたら、ほとんど奇蹟でしょう。

なぜそのように言えるのかというと、どんなに高額の景品をもらっても、400人の大半は、(懸賞であれ総付であれ)「もらい逃げ」をするのが合理的なはずだからです。

(なので、この手の企画では、景品の額も総付ではそんなに高額にはならないか、懸賞なら当選確率が低くなるか、のいずれかでしょう。)

まして、Q10の企画は懸賞が前提ですから、外れた人はなおさら、企画を理由に取引を続ける理由がありません。

当たった人だって、当たったことを恩義に感じて取引を継続するという殊勝な(あるいは、効用を最大化しないという意味で不合理な)人でもないかぎり、企画ゆえに取引を継続するということはないはずです。

「今回こういう企画があったのだから、来年も同じ企画があるだろう。」と期待して取引を継続するということは、理屈の上ではなくはないですが(それでも、そんな人は400人中2割もいないでしょうが)、Q10ではそのような同種企画の常態化をうかがわせる事情はありませんので、そのような常態化はないという前提で分析すべきでしょう。

このように、1000人の顧客のうち40人(=400人×0.1)にも満たない(それでも企画としては異例の大成功)人が、この企画ゆえに取引をしたに過ぎないのを、「取引につながる蓋然性が高い」と評価するのは、どう考えてもおかしいですし、定義告示運用基準の他の取引附随性の例(ラベルでの告知、入店者、取引勧誘)と比べても、まったく異質です。

ラベルで抽選企画の告知をした場合(定義告示4⑵ア)、その企画に参加したい人は、ふつうはその商品を買うでしょう(企画の内容をメモだけして買わない人は、少数派でしょう)。

購入するとクイズへの解答が容易になる場合(定義告示4⑵イ)も、応募するなら、がんばってクイズの解答を調べるより、その商品を買ってしまったほうが早いと考える人のほうが多数でしょう。

入店者(定義告示4⑵ウ)についても、お店まで来ない人に比べれば、購入する確率はぐっと上がるでしょう。

取引の勧誘(たんなる広告を超える積極的な勧誘)にあたって提供する場合(定義告示4⑶)も、勧誘を伴わない場合に比べれば、商品購入の可能性は相当上がると思われます。

少なくとも、景品をもらい逃げ(勧誘を受けて、景品だけもらって、商品は買わない)する罪悪感は、Q10の場合に比べれば、はるかに高く、景品をもらった人のかなりの割合が購入するでしょう。(もちろん、景品ももらわないし、商品も買わない、という人が一番多いのでしょうけれど。)

もしQ10のようなレベルで「取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われる」ものとして取引附随性が認められてしまうと、取引誘引性以外に取引附随性を要求した意味がなくなります。

どうも最近の消費者庁は、取引誘引性と取引附随性を混同しているフシがあり、困ったものです。

もちろん、今まで取引をしたことがない人に対して同様の企画をした場合に比べれば、去年取引をした人に対してしたほうが、「取引につながる蓋然性が(相対的に)高い」とは言えるかも知れません。

例えば、今まで取引をしたことのない人1000人に同様の企画を行っても、今年10万円以上の取引をしてくれる人は10人もいない(よって、既存顧客に絞った場合の40人と比べてかなり少ない)かもしれません。

しかし、このように「アットランダムにやれば10人のところ、既存顧客に絞ったので40人に増えたのだから、『取引につながる蓋然性が高い』と言えるのだ」という理屈は、前述のとおり、完全に誤りです。

(10番の回答は、このような誤りを犯している可能性が濃厚です。)

百歩譲って取引附随性を認めるとしても、取引の価額が100円となる根拠が全く不明です。

このようなケースにおける取引の価額については、懸賞運用基準やそれが準用する総付運用基準には規定がありません。

なので、この100円というのは、完全に、旧13番の来店者の場合に引きずられただけだと考えざるを得ません。

あるいは、取引を条件とするけれども額は問わない場合の取引の価額は原則100円(総付の場合、総付運用基準1⑵)なのに、Q10のように取引を条件としない(Q10の立場ですら、蓋然性が高いだけ)場合の取引の価額が100円だというのも、いかにもバランスが悪いです。

そこで、運用基準にはないけれどいくらと考えるのが妥当か、かなり無理矢理考えてみると、過去10万円以上の取引をした人を対象にしているのですから、「また10万円の取引をしたら来年も同じような懸賞があるかも。」と期待するということで、せめて10万円でしょう。

10万円購入しないと参加できない企画で、なぜ100円の取引が誘引されるのか、理解できません。

あるいは、懸賞運用基準5⑴で準用する総付運用基準1⑴の、

「(1) 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。」

における「購入者」を、過去の購入者も含むと無理矢理読み替えて(換骨奪胎して)、10万円だ、というのなら、まだ条文の根拠はあるといえなくもありません(そんな読み替えをしても過去の取引に取引附随性が生じるわけはないので、いずれにせよかなり無理矢理ですが)。

というわけで、10番は誤りですから、実務上は無視して差し支えないと思われます。

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