景表法

2017年3月 7日 (火)

不実証広告規制ガイドラインの10・15モードの記載についての疑問

不実証広告ガイドライン第3-2では、提出資料が

「客観的に実証された内容のもの」

に該当するのは

① 試験・調査によって得られた結果

② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

のいずれかの場合であるとされ、さらに、(1)アでは、①について、

「試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。」

としたうえで、その例として、

「自動車の燃費効率試験の実施方法について、10・15モード法によって実施したもの。」

というものが挙げられています。

しかしこの例は、ガイドラインに載せるのはあまりふさわしくないと私は思います。

というのは、10・15(じゅう・じゅうご)モードと実際の燃費にはけっこうなかい離があるからです。

とくにハイブリッド車については、10・15モードでは電池をフル充電して試験してよいことになっているため、実際の燃費と10・15モードとの間に大きなかい離があるものもあるようです。

つまり電池容量を大きくすれば理論的にはいくらでも10・15モードはよくできるわけです。

なので、むしろ10・15モードで計測した燃費については、10・15モード燃費であることを明記しないと優良誤認表示になる可能性さえある、といえると思います。

少なくとも実際の表示では、10・15モードであることを明記したうえで、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

という断り書きまであるのが常ですので、実際に事件になることは今後もないでしょう。

また細かい解釈論を述べれば、

10・15モードが実燃費と違うことはドライバーにとっては常識なので誤認はない

とか、

10・15モードで表示することが社会的な慣習になっている、

とか、いろいろ反論もありえます。

ですが、ではそれがガイドラインに典型例として載せる例として適切か、といえばそうではないでしょう。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、

「実際の燃費は使用状況により異なります。」

というような表示はまったくナンセンスな記載、ということになるでしょうが(だってガイドラインが典型的にOKな場合と言っているのですから)、そんなふうに考えている関係者はまずいないでしょう。

実際、先日の三菱自動車の燃費偽装事件の消費者庁の命令をみると、実燃費より良い燃費を表示していたことが問題とされたのではなく、10・15モードで計測したように表示しながら10・15モードで定められた方法で計測していなかったことが問題とされています。

もしガイドラインを文字通り受け取るなら、そのような認定は本質を外している(本質は表示通りの「性能」があるかどうかであって、政府の定めた方法によるかどうかは関係ないはず)だからです。

(ただ、命令の考え方としては、

「実燃費とのかい離を問題にするとそのかい離が『著しく優良』であるほど大きいことを認定しないといけなくて大変なので、手堅く『10・15モードと表示しながら10・15モードではなかった』というところで違反を認定した」

という実務的な配慮があったのかもしれません。)

ともかく以上のような理由で、10・15モードはこのガイドラインにのせる典型例としては、ふさわしくないと思います。

ほかの例でも、JISを基準にすればいいとか、ちょっとお上の基準を重視しすぎに思われます。

「JIS基準で測れば良好な性能は出ないけれど、実際に近い使用状況で測れば良好な性能がでる」ということも、場合によってはあるのではないでしょうか。

政府のガイドラインなので政府の基準を重視するというのは役人のメンタリティとしてはやむを得ないのかもしれませんが、景表法の誤認は一般消費者を基準とすべきことからすると、お上の基準が絶対であるかのようなガイドラインは好ましくないと思います。

2017年2月16日 (木)

日産自動車の燃費不正問題の補償内容について

今朝の日経朝刊に日産の燃費不正問題の補償についての社告が出ていましたが、改正景表法のもとでの返金措置の観点からみると、何かと興味深い内容になっています。

参考までに同社のウェブサイトから補償内容を以下に引用します。

■対象となるお客さま

「デイズ」または「デイズ ルークス」を2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

(自動車検査証に記載の使用者さま)

■補償の内容

<お支払い金額(1台あたり)>

① 以下②③④以外のお客さま:10万円

② 残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

③ リースにてご利用のお客さま(2016年4月21日までにリース契約をご締結されたお客さま):契約年数に1万円を乗じた額。ただし、現契約満了時に車両買取権を行使される場合は、現契約満了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。

④ 過去(2016年4月20日以前)にご使用いただいていたお客さま:使用年数に1万円を乗じた額。

■お支払い金額の考え方

•新届出燃費値と旧届出燃費値との差による燃料代の差額

•今後の車検時等に想定される自動車関連諸税の増額分

■補償お支払い手続き期限

2017年3月31日(当日消印有効)

■その他

新届出燃費値と旧届出燃費値との差異により、ご購入時の減税ランクに差が生じ、追加納税義務が発生した場合は、三菱自動車工業株式会社が対応いたします。

まず、補償対象者が

2016年4月21日までにご使用いただいていたお客さま

に限られている点が、返金措置の要件を満たすのかは、検討を要します。

2016年4月21日は、三菱自動車と日産自動車が軽自動車(今回のデイズ、デイズルークスも含まれます)の燃費偽装について公表・記者会見をした日でしたが、そのあとに購入した人は分かって購入しているんだから補償の対象にしない、ということなのでしょう。

さて、これは景表法の返金計画の要件に照らしてどうでしょうか。

景表法上の返金措置は、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

でなければならず(景表法10条1項)、

「課徴金対象期間」

は、少々長いですが、

「課徴金対象行為をした期間

(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日

(同日前に、当該事業者が当該課徴金対象行為に係る表示が不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置として内閣府令で定める措置〔注・誤認解消措置〕をとつたときは、その日)

までの間に当該事業者が当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは、当該期間の末日から遡つて三年間とする。)」

と定義されています(景表法8条2項)。

なので、

「課徴金対象行為」(具体的には、テレビCMとか、チラシの配布とか、ウェブサイトの表示)

を4月21日にやめており、かつ、同日以降、日産自動車が対象車種をディーラーに販売(直営店の場合は一般消費者に販売)することをやめていれば、括弧書の

「取引をしたとき」

にも該当しないということで、「課徴金対象期間」は4月21日までということになり、

「課徴金対象期間において当該商品又は役務の取引を行つた一般消費者であつて政令で定めるところにより特定されているもの」

の要件は満たされることになります。

日産本体が「取引」をやめていれば足りるので、ディーラーが販売してしまったかどうかは関係ない(そんなことはなかったと思いますが)、というのがポイントです。

ともあれ、記者会見までしながら販売を続けることは考えがたいので、本件ではこの要件は満たされているのでしょう。

では次の「補償の内容」はどうでしょうか。

原則が①の10万円であるというのは景表法10条5項2号の、

「当該実施予定返金措置計画に係る実施予定返金措置の対象となる者

(当該実施予定返金措置計画に第三項に規定する事項が記載されている場合又は前項の規定による報告がされている場合にあつては、当該記載又は報告に係る返金措置が実施された者を含む。)

のうち特定の者について不当に差別的でないものであること。」

における、

「不当に差別的」

には該当しないのでOKでしょう。

②のうち、

「残価設定型クレジットをご利用のお客さま:契約年数に1万円を乗じた額。」

の部分は、使用年数に応じた返金ということで「不当に差別的」とはみられないのでしょうけれど、問題はただし書の、

「ただし、現契約終了時に買取(現金一括又は再分割)される場合は、現契約終了後に「10万円」から「契約年数に1万円を乗じた額」を差し引いた額をお支払いさせていただきます。」

の部分です。

というのは、景表法10条5項3号で、

「当該実施予定返金措置計画に記載されている第二項第一号に規定する実施期間が、当該課徴金対象行為による一般消費者の被害の回復を促進するため相当と認められる期間として内閣府令で定める期間内に終了するものであること」

とされており、これを受けた景表法施行規則13条では、

「法第十条第五項第三号に規定する内閣府令で定める期間は、

法第十五条第一項 の規定による通知〔注・課徴金納付命令の弁明の機会付与通知〕を受けた者が、

第十条第一項の申請書〔注・返金計画認定の申請書〕を消費者庁長官に提出した日から四月を経過する日・・・までの期間とする。」

とされているのです。

つまり、返金措置による返金は、返金計画認定申請書の提出日から4か月以内に終わらないといけないのです。

そして、残価設定型クレジットの契約終了後に返金するということは、少なくとも一部の顧客については、4か月は過ぎた後でしょうから、②はこの要件を満たさないことになります。

③も同様です。

怖いのは、ほんの一部でも法定の要件を満たさない返金対象者がいると、計画全部が認定拒絶になるとうことです(要件を満たさない顧客の部分だけが認定拒絶になるのではない)。

なお返金額は最低でも購入額の3%以上でなければなりませんが(景表法10条1項)、デイズのメーカー希望小売価格は高くても180万円くらいのようなので、最低返金額の要件は満たしそうです。

(3%から逆算すると、10万円の返金で最低返金額の要件を満たす取引額は333万3333円以下でないといけない、ということになります。)

さらに気になるのは、リースと購入の顧客がいる場合に、購入の顧客は認定の要件を満たすけれど、リースの顧客は満たさない、という場合に、返金計画が全部無効になるのか、それとも、リースについてだけ無効になるのか、という問題です。

リースと購入とでは取引態様が違いますし、どちらかというと少数派と思われるリースのせいで全部の返金計画が不認定になるというのもいかにも据わりが悪いですから、リースと購入に分けて返金計画を提出することもでき、そのうちリースが認定拒絶でも購入の顧客については認定され得る、と考えるべきでしょう。

ともあれ、以上のように、自動車のような耐久消費財の場合には、今の景表法の返金計画の要件は、いかにも杓子定規だなあという気がします。

企業としては、べつに法定の返金措置の要件を必ず満たさないといけないわけではなく(課徴金からの減額が認められないだけ)、日産もわかってやっていることでしょうし、それ自体は何の問題もないのですが、将来的には、法改正するなり、もう少し柔軟な制度にしていただけたらと思います。

2017年1月30日 (月)

三菱自動車の課徴金納付命令について

1月27日、三菱自動車の燃費偽装に対する措置命令と課徴金納付命令が出ました

課徴金納付命令(と報道)を読んで気が付いたことを書き留めておきます。

■対象車種について

課徴金の対象になっているのはいわゆる普通車だけであり、軽自動車は対象になっていません。

同日日経記事によると、

「返金計画が未提出、または不十分と判断した三菱自の普通車など5車種の売上高の3%相当額とした。

軽自動車については両社の返金計画を認め、その実施状況を踏まえて判断する。」

ということです。

■表示媒体について

違反が認定されたのは、カタログとウェブサイトだけになっています。(これは三菱と日産の排除措置命令でも同様です。)

広告としてはほかにも、テレビCMや新聞広告、新聞チラシ、雑誌広告、などが考えられ、広い意味での表示には、自動車本体に貼られる

「平成30年燃費基準20%達成車」

などのステッカー(?)なども思いつきますが、これらは対象になっていません。

これらの媒体では燃費について表示していなかった、ということは考えにくいので、なぜカタログとウェブサイトだけが対象になったのかはわかりません。

■返金計画について

前記日経記事によれば、軽自動車については三菱と日産が消費者庁に返金計画を提出していることがわかります。

また、「未提出」なのは、各社それぞれの判断なのでよいのですが、「不十分」というのは、どのような点が不十分と判断されたのか、気になるところです。

■日産への課徴金について

日産も返金計画を提出しているということは、おそらく過失の有無は争わない立場なのであろう、とうかがえます。

不当表示であることを知らずに不当表示をしていた場合には、知ってから速やかに不当表示をやめれば課徴金はかからない、というのが消費者庁の見解です。

OEM先にだまされたという気の毒な場合にはまさに「速やかに」やめたかどうかが問われるわけですが、本件の日産のような場合でも課徴金がかかりうるということは、消費者庁に、「速やかに」やめたと認めてもらうのは、実際にはかなり大変なのだろうと想像されます。

とくに本件の場合には、日産も自動車メーカーなので、自社で検査をしたら表示どおりの燃費が出なかったと分かった時点で、「知った」ということになるのではないかと考えられます。

報道によれば2015年11月に日産は実測値と届出値との間に明らかな差があることに気づいたとされていますが、その時点で「知った」ことになるわけです。

その後三菱に原因を問い合わせたとか、その原因が三菱の偽装であることがわかったとかいう事実は、日産がいつ「知った」かとは関係のないことです。

というのは、不当表示は表示と実際が異なれば成立するのであり、その原因が納入業者の偽装であるか計測ミスであるかといったことは関係がないからです。

・・・と、理屈は以上のとおりなのですが、知ってから「速やかに」やめるのが本件では事実上きわめて困難であったであろうことは、容易に想像できます。

不当表示の原因がまだ分からないのに、ともかく公表して販売も中止する、というのは、かなり勇気がいるからです。

日産としては、記者会見なり、プレスリリースなりをするとしても、できれば、「わが社には責任はないんですよ(悪いのは三菱ですよ)」といった内容にしたいところでしょう。

それは人情としては非常によく理解できます。

このあたりは消費者庁による実態に即した柔軟な解釈を期待したいところです。

■課徴金対象行為について

課徴金対象期間については、カタログ上の不当表示について、始期はカタログをディーラーに最初に出荷した日、終期は最後に出荷した日、とされています。

カタログがディーラーに届いた日でもなければ、カタログが消費者の目に触れた日でもありません。

つまり、課徴金対象行為は「カタログの出荷」ということです。

課徴金ガイドラインでも同様のことが述べられていますので、それを確認した形になっています。

■誤認解消措置について

命令では、三菱自動車が平成28年9月11日に誤認解消措置をとったことが認定されています。

誤認解消措置をとったあとの売上には課徴金はかかりませんが、本件では、取引をした最後の日が8月12日と認定されているので、結果的には、誤認解消措置が課徴金の減額には結び付いていません。

■自主申告について

命令では、三菱自動車が平成28年8月31日午後に消費者庁に自主申告したことが認定されています。

ただ、それは調査開始の通知を受けた時(平成28年5月27日又は同年8月31日午前)よりもあとなので、課徴金納付命令があるべきことを予知してなされたものとして、課徴金の半額減額は認められていません。

「午前」「午後」とわざわざ明記していることからもわかるように、日付ではなく、時間的な前後で「予知」していたかどうかが認定されます。

当たり前にみえるかもしれませんが、類似の制度の独禁法上のリニエンシーでは、条文上、「調査開始日」の前には1位全額免除で同日以後は3割減額、というふうに、日を単位にしています。

それと比べると、景表法の条文に忠実な運用をしているといえます。

またそのような時間的前後関係が問題となりうることから、消費者庁では調査の開始の通知をして「予知」の有無を明確にしていることがうかがえます。

■調査開始の通知について

それと関連して、命令では、

「前記1の課徴金対象行為についての調査の開始」

を通知した、と記載されていますが、おそらく、「前記1の課徴金対象行為」とはいっても、命令の対象26車種を具体的に特定して通知したのではないのでしょう。

どの車種で不当表示がなされたかは調査をしてみてわかるのであり、調査開始時に通知することは不可能または困難だからです。

もし具体的に対象車種まで特定して通知していたら、後から分かった車種についてはさらに通知をされるまでは自主申告して半額免除されてしまい、不都合でしょう(でも場合によっては、そのような減額を認めることが「不都合」でない、という事案も、今後はあるかもしれません。)

それから、本件では調査開始の通知が平成28年5月27日と同年8月31日午前の2回なされているようですが、なぜ2回になったのかは不明です。

ちなみに、日経新聞電子版2016年5月25日では、

「三菱自動車の燃費データ不正問題で、消費者庁が不当表示を禁じた景品表示法に違反していないか調査を始めたことが25日、関係者への取材で分かった。」

と報じられているので、新聞報道があってすぐに消費者庁に駈け込めば、間に合う(調査開始前に消費者庁からリークされる?)可能性もありそうです。

なお、自主申告の減額の有無を判断するためだけであれば最初の調査開始通知よりも後に自主申告がなされたことさえ認定できればいいはずですが、なぜ5月27日の通知に加えて8月31日の通知にまで言及されているのかは定かではありません。

■不当表示期間について

全26商品(※普通の意味での車種ではなく、1グレードで1商品と数えています)のうち、「デリカD:5」の「CHAMONIX」についてだけは、不当表示期間が8月12日までと認定されています(他の25商品は8月30日)。

理由はわかりません。たぶん、事実がそのとおりだった、ということなのでしょう。

このように、課徴金が導入されたためにいままでにはない細かいところが気になってきます。今後、「公正取引」に載るであろう担当官解説に期待しましょう。

2017年1月23日 (月)

割引券は「値引」(定義告示1項柱書ただし書)か

割引券の提供については総付告示2項3号(価額の2割の制限が適用されない場合の1つ)で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

と言及されており(つまり、「割引券」には価額の2割という制限なし)、これを受けて総付運用基準4項では、

「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について

(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。

(2) 「証票」には、

金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と定められています。

さて、世の中で普通にある割引券は、そもそも景品類に該当するのでしょうか。

ここでの問題意識は、

割引券というのは要するに、それを持っていると値引きが受けられるということであり、たんなる値引と同じなのではないか、

それが、「券」(証票)が発行されるだけで、純粋な「値引」と違うものと評価されるのはおかしいのではないか、

ということです。

この点について、

公正取引委員会取引部長長谷川古編『新しい景品規制』(昭和52年国際商業出版)

のp95では、

「近年ミソも計り売りよりも容器包装入りで売られることが多くなりましたが、

顧客に対して計り増しにかえて、次にミソを購入する際の割引券を手渡しした場合、

この割引券は〔定義告示1項ただし書の〕値引ではなく、景品類として取り扱われます

と説明され、さらにp115では、

「前述のように、このようなサービス券〔注・次回購入時に使えるミソの割引券〕は景品類として扱われます(95頁参照)が、

これを他の物品や役務を景品にするのと同様に規制するのではなく、値引と同様に取り扱おうとするのが、この〔総付告示〕2項3号の考え方なのです。」

と説明されています。

つまり割引券は、定義告示上の「値引」には該当せず、景品類の定義上は景品類なんだけれど、値引と同様に景品規制の枠外に置こうというのが総付告示の趣旨なのだ、ということです。

ある意味で素朴な、また、ある意味で定義告示と総付告示の論理的な体系に忠実な解釈だといえます。

ところが、これに対して、

真渕『景品表示法〔第4版〕』(緑本)

のp207では、総付運用基準4の解説として、

「自己の供給する商品または役務の取引において用いられる割引券その他割引を証する証票については、

それが自己との取引に用いられ、

取引通念上妥当と認められる基準に従っているもの

である場合は、

『正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」となり、

そもそも景品類に該当しない(定義告示運用基準6(3)ア・・・)。」

と、オーソドックスな割引券については、定義上そもそも景品類に該当しない(値引なので)、と整理したうえで、

(なお定義告示運用基準6(3)アでは、

「原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる」

場合の具体例の1つとして、

「ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)

(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、

「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、

「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という例があげられています。)

さらに、自他共通割引券について、

「他方、自己だけでなく他の事業者との取引においても共通して用いることができる割引券等(自他共通割引券等)については、

景品類に該当し得る場合もあるものと考えられるが、

仮に該当する場合場合であっても

自己との取引について値引と同様の効果がもたらされる可能性があることから、それが正常な商慣習に照らして適当と認められるのであれば、総付景品の規制の適用除外とされている」

つまり、自他共通割引券については定義上は景品類に該当しうるけれど、特別に総付景品規制の適用除外にしているんだ、と説明しています。

まとめると、

①長谷川編では、割引券は「値引」に該当しない(「景品類」に該当する)

②緑本では、割引券は、

(ア)自社割引券→「値引」に該当する(「景品類」に該当しない)

(イ)自他共通割引券→

①「値引」に該当するもの(「景品類」に該当しないもの)

②{値引」に該当しないもの(「景品類」に該当するもの)

があるが、

①→「景品類」には該当しない

②→総付運用基準4の条件(=自他同額の値引き)をみたせば総付規制が適用されない、

というように整理できます。

さて、長谷川編と緑本と、どちらが妥当でしょうか。

わかりやすさという点では、券(証票)が発行されてれば景品っぽいので景品類だ、という長谷川編の考え方も魅力的です。

割引券が発行されると、事実上、譲渡されてしまうことは防げないので、その意味でも、独立した経済上の利益っぽい感じがして、景品類っぽくみえる、ともいえます。

他方、景品規制の趣旨にかんがみれば、「券」が発行されているだけで自店割引券まで「値引」ではない、というのは形式的すぎる(紙になっただけで一般消費者がウキウキして自由な選択が害されるというのは素朴すぎる)と思われ、その点では、少なくとも自店割引券については潔く「値引」だと言い切る緑本のほうに魅力を感じます。

ただ緑本の、自社割引券と自他共通割引券で理論上の位置づけまで変えるという考え方は複雑でわかりにくいのが難点です。

このようにいろいろ考えると、結局、長谷川編のように、ともかくも「券」が発行されている場合には定義上は景品類と扱い(「値引」とは扱わない)、その景表法上の制限をどうするかは総付告示と懸賞告示で処理する、というのがすっきりしていてよいと思います。

(結局どんな値引きであっても、くじで値引きが与えられるかどうか決まる場合には景品類とみなされるのですし。)

いずれにしてもどのような場合に景表法違反になるかという結論は変わらず、あくまで理論的な問題(説明の仕方の問題)に過ぎないのですから、緑本の説明はちょっと複雑すぎます。

なお総付告示2項3号は「証票」という言葉を使っていますが、今では、この言葉にはあまり意味はないというべきでしょう。

たしかに、たとえば内閣法制局法令用語研究会『法律用語辞典』では、「証票」は、

「一定の事項が記載、表示されている紙片」

と定義されていますが、まさか今の時代に総付告示2項3号の「証票」が紙に限るという人はいないでしょう。

さらに、ミソを計り売りしていた昭和50年代ならいざしらず、現在では電子的なものもあるわけですから、プラスチックの「ポイントカード」すら発行されないようなポイントサービス(純粋に電子的なもの)も、ここでいう「証票」に該当すると考えて差し支えないと思われます。

このように細かい論点をいろいろ考えるにつけ、景品規制の告示は細かいところまで書き過ぎではないか、細かいところまで書いてボロがでるくらいならいっそ全部運用基準のほうで処理したほうがすっきりしていいのではないか、という気がしてなりません。

2017年1月21日 (土)

ショッピングモールが提供する景品

ショッピングモール運営者が、モールへの来訪者に景品を提供する場合、景品規制の適用はあるでしょうか。

なんとなく、適用がないとするのは据わりが悪いような気がしますが、条文をみるとなかなか微妙です。

定義告示で景品類は、

「顧客を誘引するための手段として・・・

事業者が

自己の供給する商品又は役務の 

取引に附随して

相手方に

提供する物品、金銭その他の経済上の利益」

と定義されています。

(そのあとにある「次に掲げるもの」は、ほとんど限定になっていないので省略します。)

ここで、モールはテナントに場所を貸しているだけで、商品の仕入れなどには一切タッチしておらず、モールで買い物をするためにモールの会員になる必要もない、とします。

もちろん、モールとテナント(店舗)との間には資本関係もないとします。

とすると、モールはモール来訪者に対して供給する

「自己の供給する商品又は役務」

というものがないんではないか、ということが問題になることが分かります。

ちなみに、小売店が来店者に景品をつける場合には取引付随性あり(定義告示運用基準4(2)ウ)とされれていますが、これはあくまで小売店自身が商品を販売していることが前提です。

つまり、「自己の供給する商品」の要件は難なく満たします。

よって、みずからは商品の販売をしないモール運営者の場合には、やはり「自己の供給する商品」の要件を正面から考えないといけません。

ところで、懸賞の場合には、地域の商店街なんかが行ういわゆる共同懸賞というものがありますが(懸賞告示4項)、これは参加者自体が小売業者であるか、(一般消費者に役務を提供する)サービス業者であることが前提になっており、いずれでもないモール運営者の場合には適用されません。

(ちなみに、インターネット上の電子モールについては、地域的に結びついた商店の集合とはいえないので共同懸賞は実施できない、というのが当局担当者の見解です(澤田明朗 公正取引委員会事務総局経済取引局取引部消費者取引課長補佐「景品表示法相談コーナー」公正取引610号(2001年8月号)76頁)。)

このモール運営者による景品提供の問題を考えるのに参考になる記述として、真渕編著『景品表示法〔第4版〕』(通称、緑本)p187では、

「(2)景品提供の相手方の問題」

として、

「取引の相手方ではない第三者に対して経済上の利益を提供することにより、

取引の相手方にいかなる形であれ経済上の利益がもたらされると客観的に認められるならば、

当該取引の相手方に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」

と説明されています。

これをモールのケースにあてはめると、

「取引の相手方ではない第三者〔=テナントへの来店者〕に対して経済上の利益〔=景品〕を提供することにより、

取引の相手方〔=テナント〕にいかなる形であれ経済上の利益〔=来店者の増加など?〕がもたらされると客観的に認められるならば、

当該取引の相手方〔=テナント〕に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」

ということになりそうです。

(モール運営者とテナントとの間の出店契約を「取引」と解しています。)

そうすると、すくなくともこの記述の枠内で考えるかぎり、テナントは事業者なので、総付景品の適用はないことになります。

(懸賞の場合には、相手方が事業者でも景品規制が適用されます。ただし消費者庁の管轄外である可能性が高いです)。

たしかに、モールがこういう企画を随時行うことによりテナントを誘引するという側面もないことはないので、論理的にはこういう理解もありえますが、こういう企画はやっぱりお客さんに来てもらいたいからやっているのであって、ちょっと実態とかけはなれた切り口になっていることは否めません。

そこで、緑本の続ぎをみると、

「例えば、学校の生徒(取引の相手方)がある商品を買うと、学校(第三者)にピアノが提供されるような場合である。

この場合、第三者に提供された経済上の利益(ピアノという物)と、生徒が受け取る経済上の利益(ピアノが使えるという利益)との形態が異なっていても、景品類を間接的に提供したと認める妨げにはならない。」

と説明されています。

つまり、ピアノを生徒に間接的に提供している、という整理ですね。

しかし、これをモールのケースに置き換えると、

「例えば、テナント(取引の相手方)が出店契約をすると、来店者(第三者)におまけが提供されるような場合である。

この場合、第三者〔=来店者〕に提供された経済上の利益(おまけという物)と、テナントが受け取る経済上の利益(来店者の増加?)との形態が異なっていても、景品類を間接的に提供したと認める妨げにはならない。」

となります。

これはかなり変ですね。

ピアノとピアノを利用できる利益なら、「モノ」と「モノを使用できる利益」なので、かなり近い感じはしますが、おまけと来店者増の利益というのは、因果関係はあるのでしょうけれど、かなり遠い気がします。(この程度の因果関係なら、新聞広告と来店者増との間にも認められ、およそ景品とは関係のなさそうな場合まで景品といわざるをえない場合が出てきそうです。)

それに、繰り返しますが、この整理だとテナントが事業者のため総付の対象外とならざるをえません。

やはり緑本の記述は、モールのような場面を想定していないといわざるをえないでしょう。

なので、緑本の、

「取引の相手方ではない第三者に対して経済上の利益を提供することにより、

取引の相手方にいかなる形であれ経済上の利益がもたらされると客観的に認められるならば、

当該取引の相手方に対し景品類を間接的に提供したとみてよい。」

という記述は、一般論としてはやや疑問であり、かなり割り引いて読む(ピアノとピアノ利用権のように、かなり近い場合に限定して読む)必要がありそうです。

少なくとも、モール運営者が来店者におまけをあげることがテナントの売り上げ増につながるとして、それを、「いかなる形であれ」利益がもたらされてるのだからテナントにおまけを間接的に提供したというのは、相当無理があります。

というわけで、緑本の記述はモールが提供する景品のような場合を想定していない、というほかないでしょう。

ところで、モール運営者がテナントに企画を持ちかけ、テナントに費用の一部負担を求める場合のように、モール運営者とテナントが共同で企画を行っていると認められる場合には、テナントが景品類提供の主体になることは明らかですが、やはり、モール運営者のほうは、自己の供給する商品役務の要件がクリアできません。

(この共同企画の論点自体、たとえば、

その企画のために特にテナントに費用を出させた場合とか、

企画は特定せずに一般的な広告宣伝費として普段テナントから徴収していた資金から企画費用をねん出する場合とか、

そういう広告宣伝費名目でもテナントからは徴収せず普段の賃料から企画費用をねん出する場合とか、

さまざまなバリエーションがあり、なかなか難しい問題です。)

さて、どう考えればいいでしょうか。

やはり私は、現行景表法の解釈としては、一般消費者と取引関係のないショッピングモール運営者が単独で行う一般消費者への景品提供企画には、景品規制は適用されないと解するほかないと思います。

ショッピングモール運営者は、モールという「場」(サービス)を一般消費者に対して提供しているのだ、といってみても、入場料でも取るのでないかぎり、そのような無償のサービスは「取引」には該当しないので、やはり景品提供者とするのは無理でしょう。

あるいは、ショッピングモール運営者とテナントは一般消費者の目から見たら一体なので、テナントの販売する商品もモール運営者の「自己の供給する商品」だ、という理屈も考えられますが、かなり乱暴な理屈であるといわざるをえません。

(ちなみにまったくの別分野ですが、インターネットショッピングモールの運営者である楽天が同ショッピングモールの出店者が行った商品の販売のための展示や販売に関して、商標法2条3項2号や不競法2条1項1号および2号の「譲渡のために展示」や「譲渡」の主体には当たらない、とした事例として、東京地裁平成22年8月31日判決・判タ1396号312頁があります(チュッパチャップス事件)。

控訴審の知財高裁(平成24年2月14日判決・判例時報2163号179頁)は、一定の場合にはウェブページの運営者も責任を負うとしつつ、本件においては、被控訴人は、商標権侵害の事実を知り又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときから合理的期間内にこれを是正しているから、差止め・損害賠償責任を負うものではないとして、商標権者による控訴を棄却しました。)

緑本p171では、フランチャイズの場合には、

「フランチャイズチェーンの加盟店が供給する商品または役務の取引も、フランチャイズチェーンの本部にとって『自己の』供給する商品または役務の取引に該当する。」

と説明されていますが、フランチャイズくらいザーとジーの間に一体感がある(と一般消費者が認識する)場合だからこそこの解釈が成り立つのであって、ショッピングモールとテナントの場合は同列には論じられないでしょう。

以上のことは、リアルのショッピングモールのみならず、インターネットのショッピングモール運営者でも同様でしょう。

(ただしネットの世界には「来店者」という概念がなく、商品の購入を応募の条件としたり購入により応募が容易になったりするのでなければ取引付随性なしとされる、という違いがあります(「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」。)

とくにネットの世界では、一般消費者から直接売上を上げるのではなくて、とにかく集客して、その顧客基盤を活用して別の側面でもうける、という多面市場的なプラットフォームビジネスが、今後ますます盛んになることが予想されますが、そのようなビジネスに、現在の景品規制では対応できないのではないでしょうか。

しかも、景品提供主体の問題がクリアできても、次に、取引価額や売上予定額(懸賞の場合)が何なのか、という問題もあります。

ついでにいえば、不当表示規制については、自ら商品を供給しないショッピングモール運営者の責任は問えない(だから問題だ)、という指摘はいろんなところでなされており、反対に、現行法でも不当表示の責任を問えるという説は見たことがないので、そのこととのバランスからいっても、景品規制でだけ行為主体を広げるというのはかなりはばかられるように思います。

実に悩ましい問題だと思います。

まあ消費者庁は、景品規制を積極的に運用するつもりはさらさらないでしょうし(消費者庁になってから景品規制の正式事件はゼロです)、そういうことからすると、もし聞けば、このケースも何ら悩みなく、

「商品役務を一般消費者に提供していないモール運営者は、「取引」をしていないので、景品類の提供主体にはなりません。」

と、あっさり回答される可能性が高いと思います。

2017年1月19日 (木)

景表法の課徴金の経過措置に関する立案担当者解説の疑問

課徴金の1号案件が待たれる改正景表法ですが、課徴金に関する規定は平成26(2014)年11月改正の施行日である2016年4月1日以後に行われた課徴金対象行為(優良・有利誤認表示行為)について適用されることになっています。

したがって、施行日前に行われた課徴金対象行為については、課徴金は課せられません。

そこで、施行日前に行われた優良・有利誤認表示行為によって一般消費者の誤認が残存していたとしても、かかる誤認が残存していた期間の事業者の売上額に対して課徴金が課されるのか、ということが問題となります。

ここで、立案担当者解説である、

黒田他編著『逐条解説平成26年11月改正景品表示法 課徴金制度の解説』

では、施行日の前後にまたがって継続的に優良・有利誤認表示行為が行われていた場合には、

「施行日(または、施行日から課徴金対象行為が開始することを前提とした課徴金対象期間の終期から3年間遡った日のいずれか遅い日)が課徴金対象期間の始期となる。」

と説明されています(125頁)。

つまり、施行日前後をまたぐ不当表示の場合には施行日が課徴金の起算日だ、ということです。

この解説は、毎日不当表示行為が行われている場合にはいいのかもしれませんが、一般論としては、疑問があります。

つまり、改正法附則2条(経過措置)の規定に照らすと、優良・有利誤認表示行為が毎日ではなく、たとえば1か月に1回ずつなど断続的に行われていたような場合には、施行日後最初に優良・有利誤認表示行為がなされた日が課徴金算定期間の始期であると考えざるをえないと思います。

改正法附則2条(経過措置)では、

「この法律による改正後の不当景品類及び不当表示防止法(以下「新法」という。)第2章第3節〔注・課徴金〕の規定は、

この法律の施行の日(附則第7条において「施行日」という。)以後に行われた新法第8条第1項に規定する課徴金対象行為について適用する。」

というように、施行日以後に行われた優良・有利誤認表示行為についてのみ課徴金の規定が適用されると明記されています。

まず前提として、

「課徴金対象期間」

の始期は、

「課徴金対象行為をした期間」

の始期であり(3年の上限は単純化のため無視します)、

「課徴金対象行為をした期間」

とは、

「事業者が課徴金対象行為(優良・有利誤認表示をする行為)を始めた日からやめた日までの期間」(課徴金ガイドライン第4-1(2))

なのですから、

「課徴金対象期間」

の始期は優良・有利誤認表示行為を始めた日です。

以上の理解を前提に、改正附則2条を論理的に読めば、同条における

課徴金対象行為

とは、

「施行日以後に行われた課徴金対象行為」

という意味であると解さざるをえないと思われます。

立案担当者解説のように、施行日前の優良・有利誤認表示行為と施行日後の優良・有利誤認表示行為との間に連続性が認められるかぎり全体を一つの違反行為とみて、施行日後最初に優良・有利誤認表示行為が行われた日よりも前に施行日までさかのぼって課徴金対象期間とするのであれば、その旨の明文の規定が必要でしょう。

ところが前述のとおり、改正附則2条ではむしろ、課徴金の規定は施行日以後に行われた課徴金対象行為のみに適用される、という正反対のことが明示されてしまっています。

経過措置とはまさにこのような「針の穴に糸を通すような」問題に対処するためのものであるはずで、立案担当者解説のような、文言上の根拠がない常識的感覚にもとづく解釈はすべきでない思います。

(経過措置に関する管轄官庁の解釈が裁判所でくつがえされた有名な事例として、映画の著作物に関する著作権の延長の有無が問題となったシェーン事件判決(最高裁平成19年12月18日判決)があります。

同判決は、立法者には1953年作品を保護しようとする意思があったとのパラマウント側の主張を、

「そのような立法者意思が、国会審議や附帯決議等によって明らかにされたということはできず、法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者において、映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していたというにすぎない」

として退けました。当然のことでしょう。)

ちなみに、排除型私的独占に対して課徴金が導入された2009(平成21)年改正独占禁止法(2010年1月1日から施行)の課徴金に関する経過措置である同改正附則5条は、同改正により課徴金が導入された排除型私的独占等について、

「課徴金の納付を命ずる場合において、当該違反行為が施行日前に開始され、施行日以後になくなったものであるときは、当該違反行為のうち施行日前に係るものについては、課徴金の納付を命ずることができない。」

という定め方をしています。

この定め方であれば、

「当該違反行為」

という形で、連続した違反行為は1つの違反行為と認めることが明らかにされているので、施行日から課徴金を課すことができることに何の問題もありません。

景品表示法の改正附則でも同様の定め方をしておけば施行日の売上額から調金の対象とすることは何ら問題なくできたはずです。

なお、課徴金ガイドラインでは、課徴金対象期間に関する各想定例の説明において、

「『課徴金対象行為をした期間』は、各事業者が課徴金対象行為を毎日行っていない場合(例えば、週に1回行っていた場合、月に1回行っていた場合)であっても、異なるものではない。」(第4-1(5)・8頁)

としており、これ自体は妥当な解釈だと思いますが、だからといって、施行日以後いまだ優良・有利誤認表示行為が行われていない期間について、施行日前の優良・有利誤認表示行為に基づく誤認を根拠に課徴金を課すことは、改正附則2条の明文の規定に反すると言わざるをえないと思います。

2017年1月13日 (金)

無償の供給行為は景表法上の「取引」か?

景表法上の「景品類」は、

「顧客を誘引するための手段として、

その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して

相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、

内閣総理大臣が指定するもの」

と定義されていますが(2条3項)、ここでの「取引」に、無償の取引は含まれるでしょうか。

そもそも「無償の取引なんて問題になることあるの?」という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえば平成14年3月29日のtoto特別会員に関する公取委の事前相談回答では、入会金が1000円の場合懸賞で提供できるのは2万円まで、との回答がなされています。

そうすると、入会無料の会員権の場合は、何を基準にするのか(0円だとすると景品はまたっく付けられないのか?)、さらに考えると、そもそも無料でも「取引」なのか?という疑問がわいてくるわけです。

文言上でヒントになりそうなのは、定義告示運用基準3(2)の、

「販売のほか、賃貸、交換も『取引』に含まれる。」

という部分です。

ここでの問題は、

「等」

に何が含まれるか(贈与などの無償行為が含まれるか)ということです。

具体例の、「販売」「賃貸」「交換」はいずれも有償行為なので、そのことからすると、まずは「取引」は無償行為にかぎると考えてよさそうです。

さらにこの点についてはより具体的に、

公正取引委員会取引部長相場照美編『わかりやすい景品表示法』

のp53に、

「民間放送会社とラジオ・テレビの視聴者、広告代理店と新聞・雑誌の読者との間には商品・役務の売買の関係がないので『取引』がありません。」

と説明されています。

まず、ここで「民間放送会社」といっているのは、受信料を取っているNHKをのぞく趣旨でしょう。

そういったことから考えると、

「売買の関係がないので」

というのも、民法上の売買契約かどうかを問題にしているのではなくて(その証拠に対象に「役務」が含まれていますし)、有償かどうかを問題にしていると考えるのが自然でしょう。

(ちなみに同じページでは、指定告示運用基準に明記されている「販売」「賃貸」「交換」「銀行と預金者との関係」「クレジット会社とカードを利用する消費者との関係」のほか、「委託」というのも挙げられていますが、「売買」を有償行為の代名詞として使っている同書の文脈からすれば、「委託」も有償の「委託」に限る趣旨と思われます。)

つまり、「取引」は有償の行為に限られる、ということです。

当たり前のことかもしれませんが、当たり前のことでもちゃんと書いてあると、実務ではとても助かります。

ちなみに、

内閣法制局法令用語研究会『法律用語辞典』

では、「取引」は、

「商人間又は商人と一般人との間において営利目的で行われる売買行為。実質的な意味での商行為と同義に用いられることが多い。例、『不当な対価をもって取引すること』(独禁2⑨2)」

と定義されており、ここでも「売買行為」というのは、商品役務の有償提供行為のことでしょうから、やはり有償行為に限られます。

普通の日本語としても「取引する」といえば、何らかの対価を交換することでしょうから、やはり有償なのでしょう。

たぶんtotoのケースもそうですが、最近は、企業のキャンペーンもどんどん複雑になっていて、直接本体取引に結び付くのかどうか明らかでない(取引付随性があるのか明らかでない)行為に対して、おまけ的なものを提供することが多くなってきているように思います。

そして、本体取引に結び付くのかどうか明らかでない(少なくとも結びつかないという議論も相当説得力のある)行為におまけをつける場面では、そのような行為が無償であればそもそも「取引」に該当しない、と議論できることも、けっこうありがたかったりします。

totoのケースも、ほんらいはtotoを買ってもらうことが目的なのはあきらかですが、公取委回答では、将来購入されるであろうtotoとの取引付随性を問題にするという発想がまったくなく、会員権自体を、スポーツ施設優待などの特典のついた役務であると考えているフシがあり、それでいいのかよくわからないところがあります。

・・・と、通常の(←何をもって「通常」というかはさておき)取引の場合には、取引は有償行為に限る、といっていいと思うのですが、悩ましいのが、定義告示運用基準で、

「銀行と預金者との関係」(つまり預金取引)

も、「取引」に該当する、と明記されていることです。

一部の外国銀行の中には預金額が少ないと手数料を取られるというところも少なくともかつてはありましたが、日本の銀行では、預金者から手数料をとるというところは、おそらくないと思います(もちろん引き出しや振り込みに手数料がかかるのは別で、純粋に預金をするだけの場合の手数料のことです)。

そうすると、預金取引は「無償」ということになってしまわないでしょうか。

この問題については、預金取引については、全国銀行公正取引協議会のホームページのQ&Aで、

「<照会事例20> 普通預金口座開設時の取引価額

 普通預金口座開設者を対象として景品類の提供を行う場合の取引価額はどのように考えればいいのか。

<回答>

 預金残高の条件を設けなければ、基本的には、取引を条件とするが取引価額が確定しない場合にあたるため、取引価額は100円となる。

したがって、クローズド懸賞であれば2,000円までの景品、総付景品であれば、景品規約施行規則第2条により、1回につき1,500円以内の景品を提供することができる。

なお、普通預金取引において通常行われる「最低」の取引額が100円を超えるのであれば、その額を取引価額とすることができるが、既存預金者の「平均」取引額を取引価額とすることはできない。 」

という回答がなされています。

この、

普通預金取引において通常行われる「最低」の取引額が100円を超えるのであれば、その額を取引価額とすることができる

という部分は、預金額を取引額と整理していると考えられます。

たんに預けているだけとはいえ、ともかく100万円預金するなら100万円の現金を銀行に提供しなきゃいけないということです。

(ここでは、厳密には、「取引」の有償性の要件(仮にそのようなものがあるとして)、の問題(景品類の定義の問題)と、景品額算定基準の「取引価額」の問題(提供できる景品額の問題)をごちゃまぜにしている点で理屈のごまかしがあるのですが、両者を分ける積極的な理由もないので、ごちゃまぜにしていいと思います。)

そうすると、100万円の預金取引の取引額は100万円であって、無償ではない、ということになります。

ただ、理屈をこねだすとよくわからなくなるのが、定義告示運用基準3(4)で、

「自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、「取引」に含まれない。」

とされていることからして、

「賃貸」が「取引」に含まれると明記されている(3(2))ことからすれば、その裏返しの「賃借」は「取引」に含まれないのではないか、

そうすると、

銀行が預金者からお金を借りるという点で「賃借」と似たようなところのある預金契約も、「取引」に含まれないと解するのが論理的ではないか、

さらにストレートにいえば、

預金取引は民法上の消費寄託契約(民法666条)なのだから、無償での消費寄託は無償行為であり「取引」には該当しないというのが論理的ではないか、

といった疑問が次々にわいてきます。

運用基準に書いてある以上、どんなに理屈をこねても結論は変わらないのですが、以上のような検討から何が分かるかというと、「取引」にはおそらく、

①消費者が景品類提供者に金銭等を提供する(=有償の)「取引」

と、

②消費者は何ら金銭的負担をさせないけれど、景品提供事業者が何らかの利益(預金取引であれば運用益)を得ることができる取引

の2種類があるのではないか、ということです。

そして、全国銀行公正取引協議会の整理は、預金取引は①だ(預金分の負担をさせているので)、ということと思われますが、前述のような購入取引は「取引」に含まれない問うこととの整合性も説明しやすいように思うのです。

それに、取引の実態をみれば、銀行は預金者から何らかの経済的利益を得ようと思っているのではなくて、預金された金銭をさらに貸し出して利益を得ようとしているのですから、銀行が景品をつけてでも預金を集めたいのは運用益を得るための原資を得たいからにほかならないわけです。

そうすると、②のカテゴリーも「取引」に含まれると整理するのがすっきりすると思われます。

おそらく全国銀行公正取引協議会(と、おそらく消費者庁も)の整理と思われる、預金分の現金を預けておく必要があるのでその分が取引価額なのだ(なので預金額があることを根拠に有償取引とするのだ)、という整理だと、まだ銀行預金の場合には引き出そうとするとATMまで行かなきゃいけないとか、それなりに拘束されている負担感があるので、それほど不都合や違和感はないのかもしれません。

しかし、これがたとえばPASMO(東京の地下鉄用プリペイドカード。今はコンビニとかいろんな場所で使える)へのチャージだったりすると、チャージした分現金を拘束されている、といわれると、かなり違和感があります(感覚的にはPASMOへのチャージは現金の代わりそのものです)。

ただそう考えると、銀行預金の場合には(手数料を取らないので)取引額がゼロになり、運用益を得られるというメリットがあるのに景品をつけて預金を集めることができなくなってしまうので、どちらかというと結論の妥当性から逆算して、預金額を取引額としている、ということなのではないか、という気がします。

たとえば金塊1キロ(時価にして480万円くらい)を1か月1000円で預かってくれるサービスの場合、取引価格は1000円でしょう。

これを、

「480万円の金塊を準備しなけりゃいけないので、取引価格は480万円だ(なので総付なら96万円まで景品をつけていい)」

という人は、きっといないんじゃないでしょうか?

あるいは、赤ちゃんを1日5000円で預かってくれるベビーシッターの場合、取引価格は5000円でしょう。

これを、

「赤ちゃんはプライスレス(値段はつけられない)なので、取引価格は無限大であり、よって総付けは無限につけられる」

という人はいないと思います。

(あんまりいい例ではないですが、頭の体操とお考えください。)

すると預金の場合も、480万円の預金をしたから取引額は480万円だというのは、理屈の上ではちょっとおかしいように思われます。

と、いろいろと考えてみると、景品規制は理屈では一筋縄にはいかない、ということがよくわかります。

この問題にどう理屈上決着をつけるかといえば、結局、一般消費者がどのように認識するか、というところに行きつかざるをえない、と個人的には考えています。

つまり、

480万円の預金をするときには480万円を提供しているので480万円が取引価額と考えるのが一般消費者の感覚だ、

というのに対して、

480万円の金塊を1000円で預けるときには1000円が取引価額と考えるのが一般消費者の感覚だ、

というしか説明のしようがないと思います。

また、景品規制の趣旨からすれば、一般消費者の認識を基準にするのは、それほどおかしなことではない、ともいえます。

なお景品規制は当局の判断も少なく、そのわりに悩むことが多いのですが、最近、大江橋法律事務所の同僚である古川昌平弁護士(元消費者庁)の執筆した、

「景品規制の最新動向(上)(下)――ノーアクションレター制度に基づく照会・回答の紹介と若干の検討」NBL 1087号(2016年12月1日号)・1088号(同月15日号)

で分析されているノーアクションレターなども、なかなか参考になります。

2017年1月12日 (木)

倒産品処分セール(ないし閉店セール)に関する緑本の記述について

真渕博編著『景品表示法〔第4版〕』(通称、緑本)のp295で、

「Q9 倒産処分品、工場渡し価格等の安さを強調する用語を用いた表示は問題があるか。」

という設問に対して、

「・・・実際には倒産品の処分のための販売でなかったり、

倒産品処分ではあるが通常の販売価格で商品が販売されている場合、

・・・このような表示を行い、一般消費者に著しく有利な価格で販売していると誤認あsれるときは、不当表示となるおそれがある。」

と回答されています。

しかし、

倒産品処分ではあるが通常の販売価格で商品が販売されている場合

も不当表示というのはおかしいと思います。

なぜなら、倒産処分品であるという表示自体は事実だからです。

それ以上に、通常より安くなきゃいけないということはないでしょう。

事実をありのままに書いているのに不当表示になるというのは、景表法がぜったいに超えてはいけない一線です。

もちろん、その場合の表示の意味は消費者の視点から考える必要がありますが、事実をありのままに書いたものが不当表示というのはよっぽどの場合でしょう。

たとえば、「倒産処分品!」という表示と併せて「激安!」とか書いていれば、不当表示になるかもしれませんが(それでも私は、抽象的な「激安!」程度の表示では、不当表示とすべきではないと思います)、「倒産処分品」という表示だけで不当表示となるというのはありえないと思います。

以前、消費税増税前は、駆け込み需要のために実は家電は割高だった(税込みでも増税後のほうが安かった)、ということを書きましたが、たとえばそういう場合に、

「消費税増税直前セール」

という表示をしただけで、「セール」という文言のために、不当表示になるのでしょうか?

私はそれは行き過ぎだと考えます。

緑本では上記回答の理由として、

「一般消費者は、倒産品処分という表示から、通常、事業者の倒産に伴い、採算を度外視した安い価格で販売されている商品との認識を・・・持つと考えられる。」

と述べていますが、これも決めつけすぎではないでしょうか。

ちなみに倒産品処分セール(ないしは類似の閉店セール)については消費者庁の考えも揺れていて、たとえば二重価格表示ガイドラインでは、

「・ A寝具店が、「製造業者倒産品処分」と強調して表示しているが、実際には、表示された商品は製造業者が倒産したことによる処分品ではなく、当該小売店が継続的に取引のある製造業者から仕入れたものであり、表示された商品の販売価格は従来と変わっていないとき。」

というように、価格が従来と変わっていないことが要件とされていたり、消費者庁ホームページのQ&Aでは反対に、

「Q42

当店は,販売価格の安さを一般消費者に対してアピールするために,閉店時期は未定ですが,「閉店セール」と称したセールを長期間実施しようと考えていますが問題ないでしょうか。

A. 「閉店」する場合に,「閉店セール」と称して,在庫商品を処分するために通常販売価格(もしくは自店旧価格)よりも安い価格で販売を行うことがあります。

このような処分セールに係る表示は,社会通念上,一般的には閉店までの「一定期間のみ特別に値引きが行われている」という認識を一般消費者に与えます。

しかし,実際には閉店し,廃業する予定がなかったり,閉店する時期が確定していないにもかかわらず,「閉店セール」と称したセールを長期間行っているような場合には,

一般消費者に対し,あたかも「今だけ特別に値引きが行われている(購入価格という取引条件が著しく有利である)のではないか」という誤認を与え,不当表示に該当するおそれがあります。 」

というように、価格が安いか高いかは問題にしていません。

私はホームページのQ&Aの立場が正しいと考えています。

倒産品でなくても実際に格安になっているなら事件化しない、というのはたんに消費者庁の執行方針の問題で、法律解釈論ではありません。

もちろん緑本は建前の上では執筆者の個人的見解であると、4版はしがきにも明記されてはいるのですが、いずれにせよ、これだけ結論が割れるというのはいかがなものかと思います。

ただこれをみても、景表法が「ウソさえ書かなければいいんだろ?」というほど単純な法律ではないことがうかがえます。

2016年12月27日 (火)

景品類と本体商品の境目

景表法2条3項では、景品類を、

「顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

と定義しています。

内閣総理大臣の指定はほとんどしばりになっていないので、枝葉末節をはしょると、

「顧客を誘引するための手段として・・・事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する・・・経済上の利益」

です。

ぼーっとよむと何の変哲もない定義ですが、実は、これだけで何が景品類かを語りつくせているかというと、そういうわけでもありません。

よく問題になるわりに案外明確な答えがない(考えてみるとよくわからない)問題に、どこまでが本体商品でどこからが景品類か、という両者の境目に関する問題があります。

条文に即していえば、

本体商品=「自己の供給する商品」

景品類=「(本体商品の取引に付随して相手方に提供する)経済上の利益」

なのですが、どこまでが「商品」で、どこからがそれの取引に付随する「経済上の利益」なのかは、一義的にはあきらかではありません。

まず、景表法には、「商品」の定義はないので、広辞苑で「商品」をひくと、

「商売の品物。売買の目的物たる財貨」

と定義されています。

(ちなみに「役務」のほうは、広辞苑では、

「労働などによるつとめ」

と定義されていて、「商売」の要素がないのは、「役務」という日本語の限界ですね。当然景表法では、「役務」も「商品」とパラレルに、

「商売として提供される労働などによるつとめ」

という意味で使われている、と解されます。)

そこで、

「商品」と「景品類」

の区別は、

「売買の目的物たる財貨」と「売買の目的物たる財貨の取引に付随して提供される経済上の利益」

の区別、ということになります。

しかし、何が「(ほんらいの)売買の目的物」で、何が「付随する経済上の利益」なのかは、景表法の定義をどう眺めても出てこないといわざるをえません。

たとえば、ある衣料品店でカリスマ店員が、売り物の帽子に、ちょっとおしゃれなアクセントとして、バッジをつけて販売したとします。(値段は変わらないとします。)

この場合、「商品」は、「帽子」だけでしょうか、それとも、「帽子+バッジ」でしょうか。

この場合にはなんとなく、バッジも、「売買の目的物たる財貨」のような気がするので、きっと、「帽子+バッジ」で、「商品」なのでしょう。

なので、バッジは景品類ではなく、「帽子の価格の20%まで」なんていうしばりもかかってきません。

これに対して、よくコンビニなどで、ペットボトルのドリンクにミニカーがついていたりするのがありますが、あれは、

「ペットボトル」

が商品なのでしょうか、それとも、

「ペットボトル+ミニカー」

が商品なのでしょうか。

こちらはおそらく、「ペットボトル」が商品で、「ミニカー」がそれに付随する景品類、ということになるのでしょう。

では、帽子のケースとペットボトルのケースのちがいは何でしょう。

これを、売手の側の認識で区別する(売手が、「両者一体で一つの商品だ」と整理すれば全体で一つの商品とあつかう)のは、おそらく間違いでしょう。

そこは、景表法の定義には出てこないのですが、やはり景品規制の趣旨に遡って、消費者の選択をゆがめるかどうか、という観点から、何がほんらいの「商品」で、何が客寄せの「景品類」なのかを区別すべきでしょう。

その際に、消費者は、おまけで判断がゆがんでしまうような不合理な存在なのだ、という視点が重要です(合理的な主体なら、商品と景品類のトータルの価値を合理的に判断して価格と照らして買うかどうかを判断するので、判断がゆがめられず、景品規制の前提と合致しません。)

そうすると、帽子のケースでは、きっとふつうの消費者は、

帽子にめずらしいバッジがついているから判断がゆがめられて帽子を買ってしまう(←不合理な判断)、

というのではなく、

その帽子とバッジの組み合わせなりが全体としておしゃれなので買う(←合理的な判断)、

ということなのでしょう。

というわけで、「帽子+バッジ」で「商品」と判断されます。

「帽子+バッジ」で新たな一つの商品だ、という言い方をしてもかまいませんが、「一つの商品」かどうかは、商品の客観的な効用できまるわけではなく、あくまで世間なみに不合理な(おまけで判断がゆがんでしまう)消費者の目からみて一つに見えるかどうか、という視点が重要です。

この結論は、従来の帽子だけの値段と同じ値段で「帽子+バッジ」を販売しても、基本的には異ならないと思われます(もちろん、限界事例では、バッジ分の価格を上乗せした方が全体で「商品」だといいやすい、ということはあるかもしれませんが)。

これに対してペットボトルのケースでは、ミニカーにひかれるひとは、ミニカーのためにペットボトルの飲料の魅力が増すと考えているわけではなく、ペットボトルはそっちのけで、ミニカー自体にひかれているのでしょう。

(なかには、バッジ付の帽子をかっこいいと思うのと同じように、「ミニカーを眺めながらペットボトルのドリンクを飲むとおいしく感じる」というフェチな人がいるかもしれませんがbleah、きっと少数派でしょう。)

というわけで、ペットボトルのケースでは、ペットボトルが「商品」で、ミニカーがそれに付随する「景品類」だと考えるほかないと思います。

そして、この結論は、ミニカー分の代金を上乗せ(ふつうはしませんが)して販売しても、基本的には変わらないと思います。

・・・と断言するのはちょっとためらわれますが、代金を上乗せしたことによって消費者のとらえ方が変わる(消費者が、おまけも含めて「商品」だと認識し、判断がゆがまなくなる)、という事情でもないかぎり、やはり単純に代金上乗せしたら常にOK(全体で1つの商品になる)、というのは無理じゃないかと思います。

このあたりを定義告示にしたがって説明すれば、

「帽子+バッジ」の「バッジ」は、

「正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品〔=帽子〕に附属すると認められる経済上の利益〔=バッジ〕」

ということになります。

ただ、「附属」というのは、広辞苑によると、

「主たるものに付いていること」

という意味で、これだけではバッジもミニカーも区別できないので、やはりポイントは、

「正常な商慣習に照らして」

の部分なのでしょう。

つまり、ペットボトルにミニカーを付けることは、

「正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品〔=ペットボトル〕に附属すると認められる経済上の利益」

とは認められない、ということです。

ただ、「正常な商慣習」というと非常に漠然としていて、判断の基準として心もとないので、ここでの実質的な基準は、消費者の判断をゆがめるかどうか、という点に求めるべきだと思うのです。

素直な文言解釈にしたがえば、「正常な商慣習」というのは、商慣習の中でさらに正常なもの、という意味であり(「商慣習」>「正常な商慣習」)、「商慣習」は、

「取引上の慣行。法としての性質を有するに至らないもの。」(広辞苑)

であり、「慣行」とは、

「従来からのならわしとして行われること」(広辞苑)

なので、たとえば、売り物の帽子にカリスマ店員がインスピレーションでシックなバッジを付けて売るような行為は、「正常」かどうか以前の問題として、そもそも「商慣習」といえるほど一般的な(従来からのならわしとして行われている)といえるか、といえば、きっといえないと思います。

なので、定義告示の「正常な商慣習に照らして」という基準はそれを眺めても事案の正しい解決にはつながらないと思われます。

ちなみに定義告示運用基準にしたがって説明しようとすると、この部分は、

「この「商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」に当たるか否かについては、当該商品又は役務の特徴、その経済上の利益の内容等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。」

という基準にしたがって判断することになりますが、

「当該商品又は役務の特徴、その経済上の利益の内容等」

というのも、焦点がまったく絞れてませんし、

「公正な競争秩序の観点から判断」

というのもよくわかりません(現在では、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれの有無の観点から判断」とでも読みかえるのでしょうか?)。

しかも運用基準では、「商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」の説明はしていますが、少なくとも明示的には、「正常な商慣習に照らして」の説明が抜けています(あるいは、運用基準の「この」の部分が「正常な商慣習に照らして」を指しているのかもしれませんが、もしそうだとすると、「正常」とか「商慣習」を「公正な競争秩序」でまとめてしまっていて、かえって内容がぼやけてしまっているように思われます)。

ちなみに定義告示運用基準4(5)では、

「(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。

ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)

イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合(例 乗用車とスペアタイヤ)

ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合(例 玩菓、パック旅行)」

とされていますが、「明らか」(ア)とか、「商慣習」(イ)とか、「独自の機能」(ウ)とかいわれても、やっぱりあいまいですし、論理的には、この部分の記述は組み合わされる従たる物品も「商品」(=売買の目的物たる財貨)であることが前提にされているようにも読めるので、帽子のケースはウにあたりそうにみえつつも、そもそもバッジは「商品」(=売買の目的物たる財貨)ではないのでウに該当しない、という解釈すら可能であるように思われます。

(そこであげられている「ゴルフのクラブ」などの具体例をみると、ますます従たる物品も

「商品」(=売買の目的物たる財貨。つまり、「売り物」)

であることを想定している記述のようにみえてきます。)

やっぱり、法律で「商品」と「経済上の利益」という言葉を分けて使っているのに、運用基準で両者をごちゃまぜに使うのは、ちょっと問題があると思います。

とくに、ペットボトルのケースが、

「ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」

に入ってきそうなのは問題で(ペットボトルとミニカーを組み合わせて販売していることは、少なくとも物理的には明らかでしょう)、そうすると、ペットボトルのケースがアに該当しないというためにはやっぱりミニカーはおまけであって「商品」ではないと説明するほかないのではないでしょうか。

でもそんな解釈がとおるなら、運用基準4(5)は、今回検討した景品類と本体商品の境目の判断には何の役にもたたない(適用の前提を欠くため、空振り)、ということになります。(まさに、何が「商品」で、何が「付随する経済上の利益」なのかの区別が問題なので。)

(あるいは、半分以上冗談ですが、ペットボトルの肩にミニカーがぶら下がっていかにもおまけっぽくくっついていることをもって、

「取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合」

にあたる、とでも解釈するのでしょうか?)

ここまでいろいろ考えてみて、おまけに惹かれる消費者は、少なくとも主観的にはきわめて合理的なのではないか(判断がゆがんでいるとか消費者庁がいうのは大きなお世話ではないか)、結局、景品規制は(表示規制と異なり)公正な競争秩序の観点からしか説明できないのではないか、ということをふと思いつきましたが、大きなテーマになりそうなので、またの機会に考えてみたいと思います。

2016年9月 7日 (水)

懸賞の総額制限における取引予定総額の意味

懸賞により提供する景品類については、その総額について、

「当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を超えてはならない。」

という制限があります(懸賞制限告示3項)。

そして、懸賞運用基準7項では、

「告示3項・・・の『懸賞に係る取引の予定総額』について

懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とする。」

とされています。

つまり、景品類の総額は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額の2%を超えてはいけない、ということになります。

では、メーカーが懸賞により景品類を提供する場合、運用基準7項の、

「対象商品の売上」

というのは、メーカーの売上(卸売価格が基準)でしょうか、それとも、小売店の売上(小売価格が基準)でしょうか。

たとえば、缶コーヒーのメーカーが、メーカー→卸→小売→消費者、という商流で、小売価格1個120円(卸への販売価格1個50円)の缶コーヒーを販売している状況において、その購入者(消費者)に懸賞により景品類を提供する場合、基準になるのは小売価格の120円なのか、卸売価格の50円なのか、という問題です。

結論としては、小売価格の120円が基準になります。したがって、キャンペーン期間中に10万個の販売を見込んでいるのであれば、「懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額」は、120円×10万個=1200万円となり、景品類の総額は、1200万円×0.02=24万円、となります。

この点については消費者庁のホームページのQ&Aも小売価格を基準とすることを当然の前提にしている設問があり、Q16では、

「Q16

メーカーが実施する景品提供企画なのですが,取引先小売店における販売価格がまちまちである状況において,取引の価額をどのように算定すべきでしょうか。」

というように、小売店における販売価格(小売価格)を基準にすることを当然の前提にした質問がなされており、それに対して、

「A.景品類の提供者がメーカー又は卸売業者である場合の取引の価額は,景品類提供の実施地域における対象商品の通常の取引価格を基準とします。

したがって,本件については,例えば特売セールでの販売価格など通常の販売価格とはいえない価格を除き,景品提供企画を実施する地域における対象商品の通常の販売価格を取引の価額とすることになります。」

と回答されており、回答でも、小売価格を基準にすることを当然の前提に、それは通常の取引価格なのであって、特売セールでの販売価格ではないと、あくまで小売価格を基準にすることは当然の前提として回答されています。

つまり、懸賞制限告示3項の

「当該懸賞に係る取引の予定総額」

というのは、懸賞の対象になっている取引(くじを引くのは消費者なので、当然、消費者が当事者となっている取引)のことをさし、運用基準7項の、「・・・対象商品の売上予定総額」にいうところの、

「売上」

というのは、消費者に対する売上(裏から言えば、消費者の購入額)を意味することになります。

告示3項の「当該懸賞に係る取引」という文言からは、くじが付いてくる取引を指すことが比較的明らかですが、運用基準の「対象商品の売上」という文言だけをみると、メーカー自身の売上と読めなくもないので、やや注意が必要です。

実質的に考えても、2%という基準は消費者の射幸心をあおらないように定めているわけですから、消費者の購入額を基準にすることは自然なことであり、消費者庁のQ&Aの立場が妥当だと思います。

もう1つの問題として、景品類が当たる対象取引を取引額などを基準に制限した場合、「当該懸賞に係る取引」(告示3項)はどう考えればいいのか、という問題もあります。

たとえば、コンビニが700円以上の購入者に対してくじを引かせるような場合です。

これも当然のことですが、この場合、「当該懸賞に係る取引」は、700円以上の購入取引に限られます。

キャンペーン期間中の全売上ではありません。

懸賞の対象にならない取引(700円未満の取引)が「当該懸賞に係る取引」に含まれないことは、当然のことです。

なので、取引予定総額を見積もる際には、店舗の全売上ではなく、1回あたり700円以上購入するお客さんへの売上がいくらくらいになるのかを見積もる必要があります。

では、メーカーが、小売価格1個120円の缶コーヒーを2個購入した人を対象にくじを引かせるキャンペーンを行う場合はどうでしょうか。

これは場合によると思います。

まず、(あまりないと思いますが)1つ目のパターンとして、同時に(1回の買い物で)2個購入した人に対してだけくじを引かせる、というキャンペーンの場合は、同時に2個以上まとめ買いをする人への販売価格が基準になると考えられます。(前記コンビニの例と同じ考え方です。)

これに対して、別々の機会に購入するのでもよくて、ともかく2個購入した人に対してくじを引かせる(あるいはより一般的に、応募資格を与える)、というキャンペーンなのであれば(たとえば缶コーヒーに貼られたシール2枚をはがきに貼って応募するなど)、キャンペーン期間中の当該缶コーヒーの予定売上を基準にしてよいでしょう。

キャンペーン期間中に1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して、1個しか買わない人への売上は除外する、という考え方もありえますが、1個しか買わない人と2個以上買う人を区別して見積もるのは不可能なので、そこまでの細かい議論は不可能を強いるもので妥当でないと思われます。

理屈で考えても、2個以上で応募できるキャンペーンに、

「2個で応募できるのか。いまは1個でいいけど、そのうち2個目を買ったら応募しよう」

と思っていながら結局2個目を買わなかった(たとえば、2個目を買うのを忘れてキャンペーン期間を過ぎてしまった)、というような消費者でも、1個目の取引ですでに誘引されているのは間違いないので、やはり、1個だけ買う人も取引予定総額に算入すべきでしょう。

ちなみに、実際にキャンペーンに応募する人の数は予想できるかもしれませんが、実際に応募しなくても2個以上購入した人には応募資格はあるので対象売上に含むべきことがあきらかであり、予想応募人数も正しい基準にはなりえません。

(1個で応募できる場合と2個で応募できる場合の違いは、景品類の最高額(取引価額の20倍)のところで出てきます。)

以上のように、景品規制というのは、細かく見ていくと、実にいろいろな隠れた論点に溢れているように思われます。

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