消費者庁は2025年9月12日に、ジャパネットたかたのおせちに関する表示が、違法な将来価格の二重価格表示であるとして、措置命令を出しました。
私は、この措置命令は間違っていると思います。
理由を一言で言えば、おせちという商品の性質上、セール期間中に売り切れた場合には、セール中に買えた消費者はむしろ、「買えてラッキーだった。」と思うはずであって、「セール後に通常価格で売らなかったから損した。」とは思わないからです。
措置命令の問題の個所は、
「⑷ア ジャパネットたかたは、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、
令和6年10月8日から同年11月23日までの間、
自社ウェブサイト(別添写し)において、
「【2025】特大和洋おせち2段重」、「ジャパネット通常価格29,980円が」、
「1万円値引き 7/22~11/23」、「値引き後価格19,980円(税込)」
及び「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」
と表示することにより、
あたかも、
ジャパネット通常価格は、本件商品について同年7月22日から同年11月23日までのセール期間経過後に適用される将来の販売価格であり、
値引き後価格が当該将来の販売価格に比して安いかのように表示していた。
イ 実際には、本件商品について、当該将来の販売価格で販売される合理的かつ確実な販売計画はなかったものであり、
ジャパネット通常価格は将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められないものであった。」
という部分です。
この、「合理的かつ確実な販売計画はなかった」という部分は、将来価格ガイドライン(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)p2の、
「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、当該表示を見た一般消費者は、通常、比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実であると認識すると考えられる。
したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、このような消費者の認識と齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。〔中略)
また、事業者が「確実な予定」を有しているか否かについては、当該事業者が、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う際に有している販売計画の内容等に基づいて判断されるところ、
「確実な予定」を有していると認められるためには、
事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画(以下、単に「合理的かつ確実に実施される販売計画」という。)を、セール期間を通じて有している必要がある(注1)」
という部分です。
しかしながら、これは消費者庁のたんなる「執行方針」であり、法律上は何の根拠もありませんし、通常の意味でのガイドラインですらありません。
訴訟になると、裁判所は、この手のガイドラインがパブコメを経て制定されたものであるから合理的なのだとか、小手先の形式論で合理性を認めたりしがちですが、パブコメの内容が合理的でも当局は原案を修正する義務もなく、パブコメを経ているから合理的だというのは眉唾です。
実際、将来価格ガイドライン案のパブコメでも、数々の説得力のあるコメントが付されていますが、消費者庁は全部切り捨てています。
そもそも、将来価格ガイドラインの上記引用部分の、
「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、当該表示を見た一般消費者は、通常、比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実であると認識すると考えられる。」
という部分が、おせちのような商品の場合を考えると、極めて疑問です。
意識高い系の一部の消費者はそうなのかもしれませんが、はたしてふつうの一般消費者が、「セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である」なんて、認識するのでしょうか?
いかにも、頭のいいお役人さんが作った基準だといわざるをえません。
仮に「予定のとおり販売されることが確実である」というような認識をするとすれば、コンスタントに販売されてあたりまえの商品でしょう。
そのような商品が世の中には多いことは確かですが、それが当てはまらない商品もいくらでもあるでしょう。
たとえば、将来価格ガイドラインp7に、
「 I通信販売業者が、
「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」
との表示を5月から開始していたところ、
セール開始後の気温上昇による一般的な需要増の結果、売行きが増加して在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかったため、セール期間経過後の8月以降にエアコンを販売しなかったとき。」
という例があげられていますが、これなどは、エアコンなんていくらでも仕入れればいいので、通販業者が在庫が売り切れたのに追加仕入れをしなかったというのは、最初から追加仕入れするつもりがなかったんだろう、というニュアンスがにじみ出ています。
しかも、8月なんてまだ暑い盛りですから(昨今であれば、9月とか、ひょっとしたら10月でもまだエアコンが必要でしょう)、「8月以降48,000円」と表示しておきながら8月以降売らない、ということ自体、不自然です(まあ不自然な例をガイドラインに載せるのが適切なのかという問題はありますが、それは措きます)。
でも、おせちの場合は工業製品ではないわけですから、原材料の確保とかいろいろ大変なはずであり、予定よりも売れたからこまめに追加発注というわけにはいかないでしょう。
ジャパネットの9月12日付プレスリリースでも、
「当社は、⼀括⼤量仕⼊れによって在庫リスクを負い、メーカー様と共に企業努⼒を重ねることで、⾼品質な商品をお求めやすい価格でご提供することを基本⽅針としております。」
とされており、エアコンみたいにこまめに追加発注というわけにはいかないことがうかがえます。
ただ、同プレスリリースでは、
「上記の基本⽅針に沿った当社のビジネスモデルは、通常の店舗やECサイトと⼤きく異なるものであり、今回の消費者庁の指摘に関しては、本当にお客様のことを考えた判断であると到底思えません。」
ともされており、同社のビジネスモデルが通常とは異なるものであることが強調されていますが、私はこの点については、通常の店舗やECサイトでも、程度の差はあれど、おせちの場合はエアコンみたいに売切れたら追加発注というわけにはいかないんじゃないかと思っています。
いずれにせよ、ここでの景表法上の論点は、ジャパネットのビジネスモデルが本当に通常の店舗やECサイトと異なる特殊なものだったかということではなく(そんなことは消費者には見えませんから)、消費者からみておせちという商品がエアコンみたいに売切れたらこまめに追加発注できるものななかどうか(それによって消費者が、二重価格表示に対してどのような認識を抱くのか)、という点です。
そうすると、消費者は、おせちは売切れることもふつうにある、と認識していると思います。
また、売切れた場合、仮にその欠品が短期間であっても、おせちはお正月に届かないと意味がありませんから、欠品したら再補充というのは現実的ではなく、消費者もそのくらいは認識していると思います。
要は、「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準は、エアコンみたいな、いつでも補充がきく商品の場合にはありうる基準かもしれませんが、売り切れによる補充が容易ではないおせちのような商品の場合には、そもそも基準として妥当ではない、ということです。
別の切り口からいえば、「合理的かつ確実に実施される販売計画」の基準だと、将来価格の二重価格表示は、将来に確実に販売されることを保証する表示だ、という意味になりますが、それは行き過ぎだ、ということです。
将来価格の二重価格表示はむしろ、
「将来販売されるとしたら、この価格(比較対照価格)だ。」
という意味だととらえるほうが自然です。
そして、コンスタントに販売されて当たり前なエアコンのような工業製品の場合には、事実上、「としたら」の部分が、かぎりなく、「ときには」になる(と消費者は認識する)、というだけのことだと思います。
それに、エアコンのような工業商品なら、仮にお客さんがお店に行ったときに一時的に在庫切れであっても、遅くとも数週間後には手に入るのが通常でしょう。
でも、おせちだと数週間後に手に入っても意味がない可能性があるわけだし、そもそも消費者は売切れの可能性を十分認識しているはずです。
にもかかわらず、おせちのような商品の将来価格の二重価格表示に対して消費者が、
「将来確実のこの価格で販売されるはずだ。」
と認識するというのは、現実を無視した机上の空論だと言わざるを得ません。
消費者が認識するのは、せいぜい「この価格で」の部分であって(「販売されるとしたら、この価格で」)、「販売されるはず」の部分ではない(将来価格の二重価格表示に、将来確実に販売されることの期待までは抱かない)、ということです。
なので、消費者が、おせちは売切れるかもしれない(し、売切れたあとの追加はない)と認識しているのであれば、セール期間中に売り切れてセール期間後に販売がなかったとしても、怒るはずがありません。
だって、(繰り返しますが)売切れて補充がないこと(あるいは、補充をしていたらお正月に間に合わないこと)を予想できるからです。
むしろ、売切れた場合には、「買えてよかった。得した。」と感じるのが、通常ではないでしょうか。
つまり、エアコンの場合は、「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」という表示をすれば、「今だから1万円引きで買えるんだ。お得だな。」と思っていたのが、セール後も38,000円で買えたらだまされたと思うでしょう。
それが将来価格の二重価格表示の典型例です。
それに対して、セール期間後に「在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかった」なんていうのは、あったとしてもむしろ例外的でしょうし、その場合に消費者が「だまされた!」と思うかというと、ちょっと疑問です。
それでも、いくらでも追加で仕入れができるはずのエアコンをあえて追加仕入れしないところにうさん臭さがただようので、そんなうさん臭いやつを野放しにはできないという感情に訴えることで、なんとかガイドラインの事例として「もっている」のだと思います。
これに対しておせちの場合は、当然売り切れもありうるし、うさん臭くもなんともない、ということです。
もし街角を歩く消費者に、この事件を説明して、
「ジャパネットはセール期間後に販売する合理的かつ確実に実施される販売計画がなかったので、不当表示だと思いますか?」
というアンケートをしたら、大半が、
「は?(意味わかんない)」
となるのではないかと思います。
もう少しかみ砕いて、
「セール期間中に売り切れてしまったのですが、どう思いますか?」
とアンケートしても、せいぜい、
「売切れないようにちゃんと作れ。(買えない人がかわいそうじゃないか。)」
という反応だと思います。
でも、この、
「売切れないようにちゃんと作れ。(買えない人がかわいそうじゃないか。)」
という反応は、
「セール期間中に買った人を二重価格表示でだましてけしからん」
という答えとは、まったくことなります。
もちろん、二重価格表示が不当表示だと言えるために必要なのは、
「セール期間中に買った人を二重価格表示でだましてけしからん」
という一般消費者の反応のほうです。(でも、そんな反応は、まずありえなさそうです。)
つまり、将来価格ガイドラインの考え方は、少なくともジャパネットの事件に関するかぎり、まったく失当です。
不当表示において大事なのは、消費者著のガイドラインではありません。町ゆく一般消費者の、常識的な感覚です。
そもそも、景表法5条2号では、
「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」
と規定されているだけで、「合理的かつ確実に実施される販売計画」なんて、どこにも書いていません。
極論すれば、消費者庁が勝手に言っているだけです。
それぞれの事案をよく見て、「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」かどうかを考えないといけません。
そして、虚心坦懐に、将来価格ガイドラインはないものとして、5条2号を読めば、本件が「著しく有利」と誤認される事案だとは、誰も思わないと思います。
実は将来価格表示ガイドラインのパブコメp7にも、
「本執行方針案においては、消費者の認識は「セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である」、実態は「事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していない」と整理されている。
本執行方針案は、この消費者の認識と実態の違い(翻醐(そご))を捉えて、景晶表示法上の誤認と考えているものと解される。しかしながら、この「翻臨(そご)」は、景晶表示法の「取引条件についての誤認」とはいえないことから、事業者が、合理的かつ確実に奥施される販売計画がないことをもって有利誤認表示に該当するとすることは、行き過ぎである。
セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していないので、セール期聞が終了するまで、事業者の表示を有利誤認表示に当たると判断することはできない。仮に、本執行方針案のように、販売計画がないことをとらえて景晶表示法で規制しようとするのであれば、景晶表示法第5条第3号に基づき、新たな不当表示の類型を指定することを要する。
仮に、事業者がセール開始時に確実な販売計画を有していない場合であっても、(さらには、予告していたような債上げを実行することを全然予定していない場合であっても、)セール期間終了と同時に方針を変更し、予告していたとおりに値上げを実行すれば、消費者の誤認は生じない。このように考えれば、販売計画の有無で有利誤認表示への該当性を決することの誤りは明らかである。」
というコメントがついていて、今あたらめて読み直すと、消費者が騙されたと感じるのは、セール終了後にセール期間と同じ価格で売られていたことを認識したときである(「セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していない」)、ということを言っているのだと理解できます。
(ちなみにこのコメントをされた方と意見交換させていただく機会があり、本来出されたコメントをご本人から見せていただきましたが、上に引用した消費者庁の公表版では大事な部分がはしょられていて、わかりにくいコメントになっており、原コメントのほうが、ずっとわかりやすいです。わたしもかつで消費者庁のガイドラインにパブコメを出したことがありますが、いちばん言いたい肝心なところを勝手に書き換えられたことがありました。そのときは消費者庁のたんなる凡ミスかと思いましたが、こういう例をみると、消費者庁はパブコメの内容を、とくに痛いところを突かれていればいるほど、意図的に改変しているのではないかと疑いたくなります。もし意図的な改変ではなく、長文のパブコメを短くまとめただけなのだ、ということなのであれば、要点を理解してまとめる能力のある方にパブコメを担当してほしいと思います。)
私は上記パブコメを見たときは、
「そうはいっても、不当表示かどうかは不当表示の時点で確定してないといけないのだから、「事業者の表示を有利誤認表示に当たると判断することはできない 」というのは、さすがに無理じゃないかなぁ」
と思いました。
不当表示かどうかは、不当表示行為の時点で確定しているはずであるという、いわば、「要件同時充足のドグマ」とでもいうべき発想です。
でも、このジャパネットの事件を見ていて、まさに上記コメントの「セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していない 」というのと、実質的には自分も同じことを言っている(消費者が騙されたと思うのは、セール終了後にセール価格で売られていた時だ)ことに気づかされます。
それでも、刑法の197条2項(事前収賄罪)みたいに、
「2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処する。」
と、条文上「公務員となった場合」というのが客観的処罰条件として規定されているわけではない景表法5条2号の場合には、どうしても「要件同時充足のドグマ」を捨てるのは勇気が要ります。
でも、本件のような事例に「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準を適用すると、この基準が、いかに「要件同時充足のドグマ」にとらわれていて(しかもある意味で、それにとらわれていることを認識できないほどに、深くとらわれていて)、将来価格の二重価格表示の実態(消費者が騙されたと思うのは、セール終了後もセール期間で売られている場合であって、合理的な計画の有無には無関心であるという実態)に目を向けていないのかが、よくわかります。
なので、あらためて、
「仮に、本執行方針案のように、販売計画がないことをとらえて景晶表示法で規制しようとするのであれば、景晶表示法第5条第3号に基づき、新たな不当表示の類型を指定することを要する 」
と言われると、「きちんと実態に目を向けていて、確かに正論だなぁ」という気がしてきます。
つまり、「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準は、「要件同時充足のドグマ」を所与の前提としたうえで、将来価格の二重価格表示を不当表示とするためにどうすればよいかと考えて立てられた、きわめて技巧的な基準だ、ということです。
こういう技巧的な基準であっても、立案担当者はどういう場合を想定して作った基準かを理解しているので、おせちみたいな「買えてラッキー」みたいな商品が出てくると、「さすがにおせちにこの事案を適用するのはまずいんじゃないか」という直感がはたらくので、措置命令を打つところまではいかないことが期待できるのですが、あとに続く人たちはそういう立案担当者の悩みも知らないでしゃくし定規に基準を適用してしまう、ということが容易に想像されます。
いったん基準ができてしまうと、それがしゃくし定規に適用される傾向があることは、似たような事件が将来価格ガイドラインの前にはどのように考えられていたのかをみるとわかります。
つまり、平成30(2018)年3月16日のジュピターショップチャンネルに対する措置命令では、テレビショッピングのあとで販売実績がないために、期間限定セールの表示が、不当表示とされました。
命令の関連部分を引用すると、
「⑷ア ジュピターショップチャンネルは、本件32型テレビを一般消費者に販売するに当たり
(ア)a 平成28年12月9日に、CS放送又はBS放送を通じて放送したショップチャンネルにおいて、同日に実施した「オールスター家電祭 2016冬」と称するセール企画として
(a) 「<49%OFF!> 明日以降 ¥192,240 ¥97,800」と、実際の販売価格に当該価格を上回る「明日以降」と称する価額を併記した映像(別添写し1)を放送することにより
(b) 別表2「表示内容」欄記載の音声を放送することにより
あたかも、「明日以降」と称する価額は、本件32型テレビについて当該セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって、
実際の販売価格が当該価格に比して安いものであり、
かつ、本件32型テレビに係るジュピターショップチャンネルの実際の販売価格は、同日時点において他の販売事業者では通常設定できない安いものであるかのように表示していた。
b 実際には、当該セール企画に係る本件32型テレビの販売は、平成28年12月9日に開始されたところ、
本件32型テレビが当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみであって、ごく短期間のみ「明日以降」と称する価額で販売するにすぎず、
当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないものであって、
将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められず、
かつ、同日時点において、本件32型テレビをジュピターショップチャンネルと同程度又は下回る価格で販売する他の販売事業者が複数存在していた。
(イ)a 平成29年1月2日から同月7日までの間、CS放送又はBS放送を通じて放送したショップチャンネルにおいて、平成28年12月30日から平成29年1月7日までの間に実施したセール企画として、
「期間限定:12/30~1/7 <48%OFF!> 期間以降 ¥192,240 ¥99,800」と、
実際の販売価格に当該価格を上回る「期間以降」と称する価額を併記した映像(別添写し2)を放送することにより、
あたかも、「期間以降」と称する価額は、
本件32型テレビについて当該セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって、
実際の販売価格が当該価格に比して安いかのように表示していた。
b 実際には、当該セール企画に係る本件32型テレビの販売は、平成28年12月30日に開始されたところ、
本件32型テレビが当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみであって、
ごく短期間のみ「期間以降」と称する価額で販売するにすぎず、
当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないものであって、
将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められない。」
というものでした。
このように、将来価格ガイドラインの前は、「当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみ」だったとか、「当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないもの」であったとか(その意味は今一つよくわかりませんが。。。)、「同日時点において、本件32型テレビをジュピターショップチャンネルと同程度又は下回る価格で販売する他の販売事業者が複数存在していた」とか、有利誤認を基礎づける事情を、その事例に即して、なんとかひねり出そうとしていたことがうかがえました。
でも、ジャパネットのおせちの事件では、そんな悩みは微塵もなく、ガイドラインどおりの「実際には、本件商品について、当該将来の販売価格で販売される合理的かつ確実な販売計画はなかった」というだけの理由しか書いてありません。
その意味するところは、ガイドラインどおりで、要は、「天変地異でもない限り、絶対表示通りの価格で売れ(欠品なんて許さない)」ということでしょう。
また、あらためてジュピターショップチャンネルの事件とジャパネットたかたの事件を比較すると、ジュピターの悪かったところは、もともと売る気もないのにセール後に通常価格で販売するかのように表示していたことだということがわかります。
もし売る気があったら、もちろん売れたでしょう。
だって、ただのテレビですから。
これに対して、ジャパネットたかたの場合、「売る気もないのにセール後に通常価格で販売するかのように表示していた」なんてことは、およそありえなさそうです。
実際、NHKのウェブサイトの9月12日付の、
「おせち料理販売で不当表⽰かジャパネットに措置命令消費者庁」
という記事によると、
「グループ会社の「ジャパネットホールディングス」は、コメントを発表し、「2022年と2023年は、キャンペーンの終了後に通常価格で販売していて、去年については、キャンペーン期間内に完売したもので、不当な『⼆重価格表⽰』には当たらない」などと反論しました。」
ということのようです。
つまり、「売る気もないのに・・・」ということでは全然なくて、2022年と2023年よりも2024年はちょっと順調に売れた、というだけのことでしょう。
ちなみにこの点についてはジャパネットのプレスリリースの該当部分も引用しておくと、
「2022年、2023年は同キャンペーン終了後に通常価格で販売をしております。
2024年も同様の販売計画でしたが、期間内に完売した時点で販売を終了しております。
お客様に安くご購⼊いただける機会を公平に設けており、表⽰の正当性を失うものではないと考えております。
また、早期予約キャンペーンの企画において、キャンペーン終了後に購⼊できなかったという事実は企画の趣旨に沿ったもので、お客様に誤解を与えてはいないと考えております。」
とされています。
この、
「早期予約キャンペーンの企画において、キャンペーン終了後に購⼊できなかったという事実は企画の趣旨に沿ったもの」
という部分は、早期キャンペーン企画ではキャンペーン期間中に売り切れてしまうことがむしろ企画の望ましい、あるいはほんらいの姿だ、ということで、この点も、本件の本質を突いていると思います。
つまり、将来価格ガイドラインが想定しているのは、「今だから安くなるよ。セールが終わったら高くなるから、今買わないと損だよ。」という表示をして顧客を誘引するものでしょう。
ジャパネットが言うのは、本件おせちのキャンペーンでは、「今買わないと損だよ」という訴求はしていない、ということでしょう。
そうではなくて、「今、キャンペーンやってるから、今買わないと、売切れるかもしれないよ。」ということでしょう。
またその前提として、同社のプレスリリースでは、
「消費者庁のガイドラインでは「過去に販売した価格」を⽐較対照に⽤いることが認められています。
当社はこれに則り、キャンペーン直前まで「通常価格29,980円」で販売しており、表⽰に適切な根拠があったと認識しております。」
とされています。
つまり、29,980円は、将来の比較対照価格ではなく、過去の比較対照価格だ、ということです。
比較対照価格が過去の価格なのか将来の価格なのかは微妙な問題です。
この点はパブコメ回答1頁でまさに、
「ここにいう「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」とは、各事例にあるように「〇月〇日からは△円になります」と将来の販売価格を明示した場合に限るのか。
「当店通常販売価格〇〇円、10月31日まで△△円」と表示したとき、
消費者は、11月1日以降は通常販売価格である〇〇円に戻ると認識することから、
このような場合も将来の販売価格を比較対照価格とするこ重価格表示になるのではないか。
また、このような表示をして、セール期間を過ぎても価格を戻さない場合は、将来の販売価格を明示して比較対照価格とするこ震価格表示と同棟の問題が生じるのではないか。」
という質問が出ていて、これに対して消費者庁は、
「御指摘のような表示は、一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えられますが、
当該表示が行われている具体的な状況によっては、将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示でもあるとみられる可能性もあります。
したがって、不当な価格表示についての景晶表示法上の考え方(以下「価格表示ガイドライン」といいます。)及び本執行方針に基づき個別に判断・取り扱われることとなります。」
と回答しています。
私はこの回答をみたときは、「こんなこと言って、大丈夫かぁ?」と、正直びっくりしました。
このパブコメ回答を前提にすると、本件の表示は、
「ジャパネット通常価格29,980円が」「1万円値引き 7/22~11/23」
ということなので、まさにパブコメの、
「当店通常販売価格〇〇円、10月31日まで△△円」
というのと同じで、「一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えら」れるのではないのでしょうか?
もしパブコメ回答の、
「将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示」
にあたることをうかがわせる事情があるとすれば、
「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」
という、「早期」という部分でしょうか。
(「今なら」は、過去の価格を比較対照としても使うでしょうから、さすがにこれだけで「将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示」だというのは無茶でしょう。)
でも、この「早期」というのですら、論理的に意味するところは、「〇〇より早い」ということですから、「~11/23」の部分に加えて何か情報を付け足しているわけでもないように思え、「一般的には ・・・」を打ち消すには弱い気がします。
確かに、「1万円値引き 7/22~11/23」と「早期予約キャンペーン」という表示を併せてみれば、11月24日以降は通常価格に戻るのだと暗示していることになるのかもしれませんが、この程度の記載で「暗示」だと認定するなら、やっぱり、「一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えられます」というのは、大ぶろしきを広げすぎたのではないかと思います。
というのは、それくらい、役人が使う「一般的には・・・」という表現は、例外が極めて限定的であることを想起させるからです。
「早期予約キャンペーン」というと、英語のearly birdを想起させ、そうでなくても(普通の日本語でも)「早期」に申し込まなかった場合には通常価格に戻る、という意味に取られるような気がしますが、ともかく「一般的には・・・」とか、消費者庁はちょっと言い過ぎたと思います。
いずれにせよ、この消費者庁パブコメ回答にしたがえば、ジャパネットの件が、過去の価格を比較対象価格とする二重価格表示であったと解するほうが自然だと思います。
そうすると、前述のとおりジャパネットのプレスリリースによれば、29,980円は過去の実績のある価格だったということなので、消費者庁パブコメに従えば、何の問題もない、ということになりそうです。
最後に、ジャパネットのプレスリリースでは、
「また、おせちは時期を過ぎると廃棄につながりやすい特性があります。
早期にご予約いただくことで需要を正確に予測し、売れ残りによる廃棄をなくすことは、⾷品ロス削減に向けた企業の社会的責任であると考えております。」
とも述べられています。
これは、けっこう本質を突いた主張だと思います。
というのは、廃棄ロスの出やすいおせちという商品の性質上、今回の「早期予約キャンペーン」のような売り方が合理的だ、ということを強くうかがわせるからです。
「きちんと売り切るためにはこういう表示が必要なんだ」というと、消費者庁はきっと、「需要喚起のためなら、たんに値下げをすればいいのであって、二重価格表示をする必要はない(将来価格を基準にする必要なんて、なおさらない)」と言いそうな気がします。
でも、おせちの価値なんてなかなか素人目にはわからないですから、値段で品質を判断するということが、実際にはあるのではないかと思います。
なので、過去の通常価格と比較してこそ本来の価値がわかるのであって、たんに値引後価格だけを表示していたら、それなりの価格しかないと誤解されるおそれは、大いにあると思います。
廃棄ロス問題が景表法の解釈に直結するとは思いませんが(法律論としては、直結させるべきではないと思いますが)、法律は論理だけで回っているわけではないことも事実ですし、少なくとも、マクドナルドのポケモンカード・ハッピーセット事件のような、(恵方巻とかに比べれば)大して廃棄ロスもないだろうと思われるような案件にまで廃棄ロスを防止しろと行政指導をしてくる消費者庁なわけですから、こういう当事者の主張にはていねいに耳を傾けるべきではないかと思います。