景表法

2024年8月30日 (金)

チョコザップに対する措置命令について

チョコザップを運営するライザップに対して、2024年8月8日に、消費者庁から措置命令が出ました

気がついた点をいくつかコメントしておきます。

まず、命令書は有利誤認とステマの2通あります。

ふつう、優良誤認と有利誤認とかであれば1通の命令書にするのに、ステマだと2通にするのはなぜなのか、よくわかりません。

もし事情をご存じの方がいたら教えて下さい。

(まさか命令の件数を稼ぐためではないと思いますが。。。ひょっとしたら対象役務が微妙に違うためか?)

次に、有利誤認のほうをみると、

「あたかも、本件役務のうち同表「サービスの種類」欄記載の各サーピスについて、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるかのように示す表示をしていた。」

のに、


「イ 実際には、本件役務のうち別表2「サービスの種類」欄記載の各サービスについて、利用できる最大の合計時間数は同表「利用できる合計時間数」欄記載の時間数であって、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるものではなかった。」

と認定され、別表2「「利用できる合計時間数」欄記載の時間数」をみると、たとえば一番短いセルフホワイトニングでは24時間中5時間しか使えなかったと書かれています。

これだけみると、たとえば朝の10時から午後の3時までしか使えない、みたいなイメージがわいてきて、そりゃけしからん、と思いますが、実はそうではなくて、1時間1枠20分しか予約できなくて、それが1日15枠計5時間だった、ということみたいです。

ということが、RIZAPの報道発表をみるとわかります。

たしかに24時間使えるとうたいながら5時間だといえばそうなのですが、消費者庁はもうちょっとていねいに命令書に書くべきではないでしょうか。

報道をみてわたしのような誤解(24時間中たった5時間しか使えないのはけしからん!という誤解)をした人は少なくないと思います。

ちなみにRIZAPの上記報道発表は、違反がおきた経緯をていねいに説明していて、とても好感が持てます。

ありきたりの「お詫び」の社告を出すだけ(その多くは、「これからも一層コンプライアンスに努めてまいります」という、これまでも努めていたけどもっと努めます、みたいな往生際の悪いもの)の多くの企業とは大違いです。

そういうていねいなRIZAPの報道発表に比べると、消費者庁の措置命令のほうこそ印象操作ではないか、という気すらします。

ただ、もう少しまじめに考えると、「24時間いつでも」と表示するかぎりは、ほんとうに24時間いつでも、でないと違反になる、ということですね。

今回の命令でも、一番長時間使えた「ゴルフ」と「ワークスペース」では、1日16時間使えても違反だと認定されています。

そして上記報道発表をみると、この2つのサービスは、1日中どの時間帯(0時台から23時台)のどこでも、1時間あたり2枠(1日48枠)まで予約できるものであったことがわかり、1枠20分(=16×60÷48)であったのだろうと推測できます。

深夜をふくめ1日中使えるんだし、厳密に「24時間」でなくても、それくらい使えてればいいんじゃないかという気もしますが、消費者庁の判断では、それではだめなのだということなのでしょう。

きっとこの考え方(1日中まんべんなく使えるかではなく、合計利用可能時間のみをみる考え方)だと、24時間中20時間使えるのでも、違反になるのでしょう。

「24時間」をうたうサービスの場合には、気をつけましょう。

次に、有利誤認については、SNSへのインフルエンサーの投稿が違反表示と認定されています。

これはステマ告示が施行されたときにもいろいろなところで話しましたが、実はステマ規制の有無にかかわらず、企業は自社が依頼したインフルエンサーの投稿内容についても全面的に責任を負わされます。

今回の命令では、

「Instagram内の〔インフルエンサーの〕表示内容を自ら決定している」

と認定されているので、表示内容にまちがいがあったときに表示内容を自ら決定したRIZAPが責任を負うのは当然ですが、内容を自ら決定している場合だけでなく、内容の決定をインフルエンサーに委ねている場合も広告主の表示になるので、同様に広告主が全責任を負います。

このことが今回実際にほぼ明らかになったといえ、これはインフルエンサーを使っている企業にとってはおそろしいことだと思います。

というのは、商品を提供して「好きなように書いて下さい」というのが仮にステマと判断されてもステマ告示違反だけですので、最悪「広告」と書いておけばすみますが、もしインフルエンサーの投稿内容に間違いがあったら優良誤認や有利誤認が成立する、ということです。

「広告」と書いてあったら、広告でないと反論するのはむしろ難しくなります。

ということは、企業は「好きなように書いて」というわけにはいかず、投稿内容の正確性をチェックしないと危ない、ということになります。

別の角度からいえば、インフルエンサーに「広告」と表記してね、とお願いする場合は、それだけではだめで、投稿の内容もチェックしないといけない、ということになります。

何でもかんでも「広告」と書いておけばいいだろう、というわけではないのです。

次にステマの命令ですが、命令書では、

「RIZAP は、本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

第三者に対し、対価を提供することを条件に、本件役務についてInstagramに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を

RIZAPが依頼した投稿であることを明らかにせずに抜粋するなどして、・・・等と表示するなど、

別表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、

同表「表示内容」欄記載のとおり表示をしていたことから、

RIZAPは、本件役務に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示と認められる。

イ 前記アの表示は、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった。」

と認定されています。

そして、「同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所」というのは、別表をみると、すべてRIZAPの自社ウェブサイトであったことがわかります。

つまり、インフルエンサーにインスタに投稿させた内容を抜粋して自社ウェブサイトに載せたのが、「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない」と認定された、ということです。

これについては同社のプレスリリースで、

「これまで多くのインフルエンサーへSNSへの投稿依頼を行なっておりますが、全ての投稿に対して、一般消費者にとって広告であることが明確にわかるように適切な表示を行っております。(Instagramの投稿における、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」という表記等)

今回、それらの投稿内容の一部を抜粋し、自社媒体であるウェブサイトに表示をしました。弊社としては自社媒体であるウェブサイト上の表示であることから、一般消費者にとって当該表示内容が弊社の広告であることは判別できるものと考えていたため、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」等、自社広告であることを改めて明確に示す表記は抜粋せずに表示をしておりました。」

と、正直に書かれています。

でも、自社サイトとはいえ、あたかも第三者の口コミであるかのような体(てい)で表示したらやっぱりステマになるでしょう。

ちなみに、実際、ステマガイドラインp6には、「事業者の表示とならない場合」の例として、

「キ 事業者が自社のウェブサイトの一部において、

第三者が行う表示〔例、インスタ投稿〕を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく、また、

当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する場合。」

という例があげられていて、その注の中で、

「(注) ただし、上記キについては、客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部〔注・「当該」は「ウェブサイト」ではなく、「ウェブサイトの一部」にかかるようです〕のみをもって当該事業者の表示とされない〔当該ウェブサイトの当該一部が当該事業者の表示でないとされる、の意か?〕ことを示すものであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

と説明されていますが、この部分は第三者の投稿が「第三者の自主的な意思による」場合の例なので、そもそも対価を払っている本件の場合には関係ありません。

なおついでに、ですが、上記引用部分で、

「当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく」

とあえて断り書きをしていることからすると、逆に言えば、純粋に第三者の(=報酬の支払等のない)投稿の場合であっても、

「第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出」

した場合には、

「そのこと〔=恣意的に抽出していること〕が一般消費者に判別困難な方法で表示する」

とステマになることには注意が必要です。

というか、これはちょっと厳しすぎるのではないかと思います。

というのは、第三者の投稿を自社サイトで引用する場合には、自社に好意的なコメントだけを事業者が選んで掲載していることくらい、言われなくても消費者にはわかるはずだからです。

それなのに、

「これは当社に好意的な投稿だけを恣意的に選んだものです」

とか表示しないとステマになる、というのは常識的な感覚に反していると思います。

そこで私の意見をまとめると、

(チョコザップのように)報酬を支払った第三者の投稿を利害関係のない第三者の投稿のように自社サイトに転載するのはステマになるといわれても仕方ないけれど、

(ステマガイドラインのように)利害関係のない第三者の投稿から好意的な投稿だけを選んで自社サイトに転載するのをステマだというのは行き過ぎだ、

ということです。

こうやって両者ならべると、両者のちがいは案外微妙かもしれず、「自社サイトなんだから当然広告(≒好意的なものだけ選んでいる)とわかるでしょう」というライザップの認識も、あながち的外れではなかった(それだけに要注意)、ということなのかもしれません。

2024年8月24日 (土)

差止請求の公表に関する消費者契約法施行規則28条の「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」の解釈について

消費者契約法施行規則28条では、

「(公表する情報)

〔規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 〔①〕判決

確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は

裁判の和解

に当たらない事案であって、

〔②〕当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの

の概要

二 当該判決、裁判外の和解又は前号の事案

に関する改善措置情報の概要」

と規定されています。

ちなみに、元になっている消費者契約法39条1項というのは、

「(判決等に関する情報の公表)

第三十九条 内閣総理大臣は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、適格消費者団体から

第二十三条第四項第四号から第九号まで

〔4号判決言い渡し・仮処分決定告知、5号上訴提起、6号判決仮処分決定確定、7号裁判上の和解、8号その他の訴訟手続終了、9号差止請求の裁判外の和解〕

及び第十一号

〔その他差止請求に関し内閣府令で定める手続に係る行為がされたとき〕

の規定による報告を受けたときは、

インターネットの利用その他適切な方法により、速やかに、差止請求に係る判決

(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は裁判外の和解の概要、当該適格消費者団体の名称及び当該差止請求に係る相手方の氏名又は名称その他内閣府令で定める事項を公表するものとする。」

という規定です。

この消費者契約法28条施行規則は、平成28年に改正されたもので、その前は、

「(公表する情報)

〔改正前規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、当該判決又は裁判外の和解に関する改善措置情報の概要とする。」

という規定でした(もとの法39条1項には変更なし)。

つまり、平成28年改正前は、消費者庁が公表するのは、

①法39条1項で定められていた消費者契約法23条4項4~11号(10号を除く)の事由と、

②規則28条で定められていた改善措置情報

(差止請求に係る相手方から、法第二十三条第四項第四号から第九号まで及び第十一号に規定する行為に関連して当該差止請求に係る相手方の行為の停止若しくは予防又は当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとった旨の連絡を受けた場合におけるその内容及び実施時期に係る情報。規則14条)

の概要

だったのが、平成28年改正後は、

③裁判の和解に当たらない事案であっても相手方との間の協議が調ったと認められるもの(改善措置情報の概要も含む)

も公表の対象になった、ということです。

そこで、「協議が調った」とはどういう意味なのかが問題になりますが、まず、裁判外の和解は平成28年改正前から公表の対象でしたので、この「協議が整った」というのは、条文にもあるとおり、「裁判の和解に当たらない事案」であることが大前提です。

そしてこの点については、規則改正のパブコメ回答4番で、

「適格消費者団体が相手方事業者に対して改善の申入れを行い、事業者が改善を行う場合には、消費者契約法第41条に基づく請求及びこれに基づく改善のみならず、様々な段階、経緯、類型がある。

事案としても様々なケースが想定されるところ、「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」という規定は抽象的であり、どのようなケースが「協議が調った」こととなるのか不明確である。

また、「協議が調ったと」の認定主体が消費者庁であると考えられるところ、規定が抽象的であるため、適格消費者団体の判断と消費者庁との判断とが異なることが想定される。

そのため、適格消費者団体としては、どのようなケースが公表されるのか不明であり事業者との交渉時にも支障が生じる上、事業者にとっても想定外の事態となることも考えられる。

そのため、適格消費者団体が実際に行っている申入れと事業者の対応の状況等を十分に踏まえた上で、どのような場合、どのような内容を公表対象とするのか慎重に検討することが必要である。

今回の改正案についてはその検討を経ていないため、反対せざるを得ない。」

とのコメントが寄せられ、これに対して消費者庁が、

「消費者契約法第39条第1項の規定は、本来適格消費者団体による差止請求権の行使の成果といえるものを幅広く公表することを主眼としており、

適格消費者団体による差止請求権の行使の結果として相手方と協議が調った場合はその概要等を公表すべきと考えられることから、

原案の考え方を維持させていただきます。

なお、協議が調ったものと認められる事案とは、

適格消費者団体と相手方事業者との間で相互の譲歩なしに合意が成立したと認められる事案のことをいい、

相手方事業者との協議が続いている事案や

相手方事業者の対応を待っているような状況にある事案、

今後の差止請求権の行使の可能性は否定しきれないが一旦協議を終了した事案

などは、これには該当しません。」

と回答しています。

このパブコメの議論を理解するポイントは、消費者庁の回答が、裁判外の和解というのは、民法695条で規定されているとおり、

「(和解)

第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。 」

というものだ、という前提に立っていることです。

つまり、「互いに譲歩」しないものは、裁判外の和解に該当しない、ということです。

なので、平成28年改正であらたに公表の対象に加わった、

「判決・・・又は裁判外の和解に当たらない事案であって、当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの」

というのは、「互いに譲歩」なしに合意した事案だ、というわけです。

民法を知らない人にとっては、「和解」というものに、互いに譲歩しないで合意した場合が含まれないというのは奇異に思われるかもしれませんが、民法を勉強したことのある人にとっては常識です(条文に書いてありますので)。

つまり、平成28年改正前は、互いに譲歩して合意した場合は消費者庁の公表の対象になったけれど、互いに譲歩しないで合意した場合(一方が他方の言いぶんを丸呑みした場合)は公表の対象になっていなかったのを、平成28年改正で、そのような丸呑みの場合も公表することになった、ということです。

ところで、この点に関して、

玉置貴広「適格消費者団体からの要請に対する企業側の対応」(NBL1244号・2023年6月号、p56)

では、

「よって、上記〔パブコメ回答4番の〕見解に照らせば、〔適格消費者〕団体と企業が協議した上で、団体と企業の主張を調整した妥協案のような契約条項や表示内容は、『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえないため、公表対象外となろう。」

と解説されていますが、残念ながらそれは間違い、ということになります。

というのは、「『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえない」場合は、もろに裁判外の「和解」の定義にあたりますから、平成28年前からすで公表の対象になっていたからです。

もちろん、平成28年改正後から現在も、公表の対象です。

というわけで、企業のみなさまは、譲歩してもしなくても、協議が整えば消費者庁の公表の対象になる、と理解しておきましょう。

2024年8月11日 (日)

景表法の確約手続ガイドラインについて

2024年4月18日に、「確約手続に関する運用基準」が出ました

独禁法の確約のガイドラインと瓜二つで、既視感のある記述がくり返されていますが、注目は確約の対象事件です。

すなわち、景表法の確約ガイドライン5(「5 確約手続の対象」の⑶(「(3) 確約手続の対象外となる場合」)では、

「①違反被疑行為者が、

違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、

景品表示法第25 条第1項の規定による報告徴収等が行われた日

又は

景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日

のうち最も早い日

から遡り10 年以内に、法的措置〔注・措置命令又は課徴金納付命令〕を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)、

及び

②違反被疑行為者が、

違反被疑行為とされた表示について

根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、

悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合には、

違反被疑行為等の迅速な是正を期待することができず、

違反行為を認定して法的措置をとることにより厳正に対処する必要があることから、

一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めることができないため、

確約手続の対象としない。」

とされています。

ちなみに独禁法の確約ガイドラインの5(「5 確約手続の対象」)では、

「他方,

[1]入札談合,受注調整,価格カルテル,数量カルテル等のように,独占禁止法第3条,第6条又は第8条第1号若しくは第2号に関する違反被疑行為であって,

かつ,

独占禁止法第7条の2第1項

(独占禁止法第8条の3において準用する場合を含む。)

に掲げるものに関する違反被疑行為

〔注・不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの〕

である場合,

[2]事業者が違反被疑行為に係る事件について独占禁止法第47条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り10年以内に,違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けたことがある場合

(法的措置が確定している場合に限る。)

及び

[3]「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(平成17年10月7日公正取引委員会)に記載のとおり,

一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な違反被疑行為である場合

には,違反行為を認定して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めることができないため,確約手続の対象としない。」

とされています。

独禁法の確約ガイドラインの[2]のさかのぼって10年以内の違反については、以下の経緯から、確約手続施行前に違反した場合も含む(一種の遡及効)が明らかです。

すなわち、独禁法の確約ガイドラインの原案では、該当箇所は、

「他方,【中略】

②事業者が違反被疑行為に係る事件について独占禁止法第 47 条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り 10 年以内に,

違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為を行ったことがある場合

法的措置が確定している場合に 限る。

【中略】 には,

違反行為を認定 して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認める
ことができないため,

確約手続の対象としない。」

とされていたのが、パブコメ(16番)で、

「法的措置後に違反行為を繰り返した者でない場合は,

確約制度の対象とすべきと考えられるため,

確約手続の対象としない場合のうち②については,

「(法的措置が確定している場合に限る。)」

という文言を,

「(法的措置が確定している場合であって違反被疑行為が当該法的措置後に行われた場合

(当該法的措置前から継続する場合を含む。)

に限る。)」

と変更すべきである。 (学者等)」

というコメントがなされ、これに対して公取委が、

「御指摘の記載は,

繰り返し違反行為に対する課徴金制度の制度の独占禁止法の関係関係規定〔注・現行独禁法7条の3〕と同様の記載としたものです。

そのことが明確になるように修正を行いました。」

と回答しました。

ここで参照されている独禁法7条の3第1項(くり返し違反による課徴金の加重規定)では、

「第七条の三

前条第一項の規定により課徴金の納付を命ずる場合において、

当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、

同項(同条第二項において読み替えて適用する場合を含む。)中「合算額」とあるのは、

「合算額に一・五を乗じて得た額」とする。

ただし、当該事業者が、第三項の規定の適用を受ける者であるときは、この限りでない。

一 当該違反行為に係る事件についての調査開始日から遡り十年以内に、

前条第一項又は第七条の九第一項若しくは第二項の規定による命令〔注・課徴金の納付命令〕

当該命令が確定している場合に限る。)、

次条第七項〔リニエンシーにより課徴金を命じないこととした旨の通知に関する規定〕

若しくは

第七条の七第三項〔罰金刑またはすそ切りにより課徴金納付を命じない旨の通知に関する規定〕の規定による通知

又は

第六十三条第二項の規定による決定

(以下この項において「納付命令等」という。)

を受けたことがある者(当該納付命令等の日以後において当該違反行為をしていた場合に限る。)」

とされており、公取委回答は、「原案はこれと同様なのだ。」と回答したわけです。

その結果、独禁法の確約手続ガイドラインの成案では、

「他方,【中略】

②事業者が違反被疑行為に係る事件について

独占禁止法第 47 条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り 10 年以内に,

違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けた ことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)

【中略】 には,

違反行為を認定して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めることができないため,確約手続の対象としない。」

と修正されました。

つまり、過去10年以内に起こった事実が、原案では、

「・・・違反する行為を行ったことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)」

だったのが、成案では、

「・・・違反する行為〔注・前回の違反行為〕について法的措置を受けた ことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)」

に変更されたわけです。

変更後の成案が、独禁法7条の3第1項の、

「〔課徴金の納付命令〕

当該命令が確定している場合に限る。)、

・・・を受けたことがある者

当該納付命令等の日以後において

当該違反行為〔注・今回の違反行為〕をしていた場合に限る。)」

に沿った内容になっているのか(むしろ、学者コメントのほうが7条の3第1項に沿っているのではないか)、という疑問はありますがそれはさておき、ここで大事なのは独禁法の確約ガイドラインの10年以内のくり返しが独禁法の10年以内のくり返しによる加重規定を参考にしているということです。

そして、独禁法の10年以内のくり返しによる加重規定は、加重規定が導入される前の違反行為も含むと解されています(文言に反しないし、過去の行為を加重して罰するのではなく今回の行為を加重するだけなので、「遡及効」というわけでもないため)。

ということは、独禁法の確約ガイドラインのさかのぼって10年の違反は確約手続導入前の違反も含まれる(つまり、確約導入前で10年前に違反していると、確約の対象にならない)、ということです。

そうすると、独禁法の確約ガイドラインと瓜二つの景表法の確約ガイドラインでも同様に解される(確約導入前の違反もカウントされ、10年前なら確約の対象にならない)、ということになります。

次に、確約の対象から、

「②違反被疑行為者が、

違反被疑行為とされた表示について

根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、

悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合」

が除外されています。

この、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」というのが何を意味するのかが問題です。

まず、痩せるはずのない健康食品を痩せると謳って販売するのが、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている
」に該当することは、
争いないでしょう。

私はよく講演で、不当表示を、

①虚偽だと知りながら表示していた(痩せないダイエット食品)

②表示の意味を誤解・曲解していた(「芝エビ」を小さなエビと曲解するケース)

③「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れた

④本来予定した「実際」を作れなかった(能力不足、材料不足)

⑤「実際」の証拠がなかった(不実証広告規制で争って負けるケース)

に分類して説明しますが、この分類にしたがえば、①ですね。

これに対して、「②表示の意味を誤解・曲解していた(「芝エビ」を小さなエビと曲解するケース)」が、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている 」にあたるのかというと、かなり微妙で、ケースバイケースでしょう。

というのは、この②には、ほとんど故意で①に近いものもあるからです。

でも、「芝エビ」を小さいエビの意味で使っていた、というケースなら、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」とまではいえないと思います

「③「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れた」というのは、メーカー希望小売価格が廃止されたのを知らずに小売店が「メーカー希望小売価格」と表示して二重価格表示をしていたサンドラッグ事件のようなケースですが、これも通常はうっかりミスですから、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にはあたらないでしょう。

「④本来予定した「実際」を作れなかった(能力不足、材料不足)」というのは、最初は作れると思って作り始めているわけですから、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」の「当初から」の要件をみたさず、確約の対象となるとみていいでしょう。

「⑤「実際」の証拠がなかった(不実証広告規制で争って負けるケース)」は、これまたケースバイケースで、たとえば翠光トップラインのシーグフィルムや大幸薬品のクレベリンのケースは、裁判で負けはしたもののそこそこ証拠はあったので、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にはあたらないでしょう。

でもそういうケースは取消訴訟で争うので、そもそも確約にはならない、というジレンマもあります。

(もちろん、裁判になったら勝てる可能性があると思っているけれど確約で終わらす、というケースもないわけではないでしょうから、そういうケースなら、確約になる可能性はあるでしょう。)

これに対して、タバクール(ニコチンがビタミンに変わるとうたっっていた商品)の事件や、「バリ5」(携帯に貼ると電波が強くなることをうたっていた商品)の事件は、訴訟で争ったもののほとんどまともな証拠がなかったので、もし当事者が確約を希望しても「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にあたるとして、確約の対象外になるかもしれません。

反面、消費者庁としては、ややこしい事件を訴訟で争われるより確約にしてしまおう、というインセンティブがはたらくかもしれず、理屈ではわりきれない面もありそうです。

さて、以上は確約の対象についての注目点でしたが、もう1つ注目すべき点として、返金の取扱いがあります。

すなわち、確約ガイドラインの「6 確約計画」の「(3) 確約措置」の「イ 確約措置の典型例」の「(オ) 一般消費者への被害回復」では、

「例えば、被通知事業者が違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、

その購入額の全部又は一部について返金

(景品表示法第10 条第1項に定める「金銭」の交付をいう。)

することは(注2)、

一般消費者の被害回復に資すること、及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、

措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする。

(注2)返金の手段、方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられるが、

自主返金制度において定める内容が参考となる。」

とされています。

まず、注2の記載から、ここでの「返金」は、景表法10条の返金措置にかぎられないことはあきらかです。

では、その他の返金もみとめられるとして、このガイドラインの規定により、確約が認められるためには返金が必須になるのでしょうか。

この点については、独禁法の確約ガイドラインでは、「6 確約計画」の「(3) 確約措置」の「イ 確約措置の典型例」の「(カ) 取引先等に提供させた金銭的価値の回復」で、

「例えば,被通知事業者が取引先に対して,

商品又は役務を購入した後に契約で定めた対価を減額することや,

当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させることが違反被疑行為に該当する場合には,

被通知事業者が収受した利得額や当該取引先の実費損害額を当該取引先に返金することが

措置内容の十分性を満たすために有益である。」

とされています。

これはあきらかに優越的地位の濫用を念頭に置いた規定ですが、優越の事件では、被害回復がされる確約とそうでない確約があります。

はっきりした基準はわかりませんが、お金で被害が測りやすいものが「金銭的価値の回復」の対象になっているように思われます。

そうすると、景表法でも、お金で被害が測りやすいもの(たとえば、レストランが仕入先にだまされてA4ランクの牛肉を「A5ランク」と表示して売ったような場合)は返金が事実上要求され、そうでないものは要求されない、ということになりそうです。

痩せる健康食品の場合は商品が無価値なので全額返金でいいように思いますが、そういうケースは「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている 」に該当し、上述のとおりそもそも確約の対象外です。

場合によっては、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」場合であっても確約をエサにして返金をさせるという方法もあったのかな、と思いましたが、そういう業者(=社会的信用を重んじない業者)は、全額返金するくらいなら3%の課徴金を払う方を選ぶのでしょう。

というわけで、実際の運用がどうなるのかいろいろと興味が湧いてくるガイドラインでした。

2024年7月20日 (土)

商品買い取りサービスに関する定義告示運用基準の改正について

商品の買い取りに関する景品提供が景表法の対象となるのかに関する定義告示運用基準3⑷が、2024年4月18日に改正されました。

改正前は、

「⑷ ⾃⼰が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買⼊れ)は、「取引」に含まれない。」

とされていたのに対して、改正後は、

「(4) 自己が一般消費者から物品等を買い取る取引も、

当該取引が、

当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合には、

「自己の供給する役務の取引」に当たる。」

とされました。

この運用基準3⑷の規定は直接的には景品類に関する規定なのですが、表示規制についても同じに解さざるをえないところ、そうすると、商品買い取りサービスについては不当表示規制が適用されないということになり、けっこう大きな問題でした。

私は、商品買い取りサービスは買取という役務を提供しているのだから景表法の対象だと考えるべきだと考えていたのですが、今回運用基準が改正され、おおむねそのような方向になりました。

ですが、この運用基準は、すべての商品買い取りサービスが景表法の対象となるとまで割り切っているわけではなく、

「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合」

に限定しています。

しかし、理論的にも実質的にも、これはいかにも中途半端な感じがします。

私は、消費者から商品を買い取るサービスはすべて、

「物品等を金銭と引き換えるという役務

とみて、景表法の対象にできると考えています。

景表法の条文で「自己の供給する商品又は役務」とされているのは、「供給を受ける」ことを排除するという明確な意図に基づいて立法されたというよりは、なんとなく語呂がいいから、あるいは、物を売る場合しか頭に浮かばなかったから、そうなっているだけというだけで深い意味はないと思います。

こう言っては身も蓋もありませんが、昭和30年代の法律なんて、そんなもんだと思います。

なので、買取サービスを対象にしても必ずしも文言には反しないと思います。

実質的にも、消費者を相手にした買取業であるかぎり、保護する必要があるのは明らかです。

それに、「査定」を事業者が消費者に提供する役務だというのは、理屈のうえでも無理があります。

というのは、ここでの「役務」は、「役務の取引」を構成する概念であり、当該役務に対して消費者が対価を支払うことが当然に前提とされていると解するのが自然あるいは当然です。

でも、買取サービスにおいて、「査定」というサービスに対価を支払っているという認識の一般消費者はまずいないでしょうし、買取業者側も「査定」というサービスを提供しているとは考えていないと思います。

あくまで、消費者は、「買い取ってくれるというサービス」と認識しているのであって、「査定してくれるサービス」とは認識していない、ということです。

買取業者も、査定をサービスとして提供しているという認識ではなく、不良品をつかまされて自分が損をしないために査定しているのでしょう。

このように査定がサービスではないと考えることは、買取サービスにおいて通常、「査定料」が明示的に買取代金から控除されることがないこや、査定の結果買取金額で折り合いが付かず買取が成立しない場合でも査定料だけ別途請求されるわけではないこととも整合的です。

このように考えると、買取サービスではお金は消費者から買取業者に支払われるので、課徴金を課すことができませんが、それは景表法8条で課徴金が「売上額」にかかることになっているせいなので、しかたないでしょう。

(ちなみに、独禁法7条の2第1項では、2号で「購入額」にも課徴金がかかるようになっています。)

それを、「査定料」相当額を算定してそれを基準に課徴金を課すというような無理な解釈をする必要もないでしょう。

いずれにせよ、消費者からの買取サービスで何ら査定もしないものはほぼないでしょうから、改正定義告示運用基準のもとでは、おおむねすべての買取サービスに景表法が適用されると考えるべきでしょう。

2024年7月 1日 (月)

ステマ1号案件について(医療法人社団祐真会)

2024年6月6日、消費者庁はステマをしていた医療法人社団祐真会に対して措置命令を出しました

昨年10月のステマ告示施行から約8か月ですから、まずまず早かったのではないでしょうか。

医療行為という人の生命や健康に関わる役務で違法行為が行われたことが重要視されたのかもしれませんが、ともかく、優良誤認との抱き合わせではない純粋なステマでいきなり命令を出したことに、悪質なステマは見逃さないという消費者庁の本気度を感じます。

以下、措置命令を読んで気づいたことを記しておきます。

まず、本件措置命令では、違反対象役務(「本件役務」)を、「『マチノマ大森内科クリニック』と称する診療所・・・において供給する診療サービスに係る役務」としています。

この事件では、Googleマップに星5つか4つの投稿をしてくれた患者にインフルエンザワクチン接種代金を割り引いていたのですが、違反対象役務はインフルエンザワクチン接種ではなく、診療サービス全般になっています。

これは、割引を受けるための投稿の宣伝対象がインフルエンザワクチン接種だけでなく同診療所での診療サービス全般だったことから、当然であると考えられます。

インフルエンザワクチン接種はあくまでステマの対価として割引提供された役務に過ぎません。

同命令では、

「インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者・・・に対し」

依頼をした、と認定されているので、素朴に考えれば投稿対象はインフルエンザワクチン接種である可能性が高いように思われますが(「インフルワクチン安かった」とか、「インフルワクチン待ち時間なくスムーズに打てた」とか)、ステマの依頼の内容(あるいは内容)が、Googleマップの口コミに、

クリニックの評価として『★★★★★」・・・又は『★★★★』の投稿をすること」

を条件にインフルエンザワクチン接種費用を割り引くということだったので、あくまでクリニックの評価全体が宣伝対象だった、ということなのでしょう。

現在は指定告示違反には課徴金がかからないので違反対象商品役務が何なのかはあまり大きな問題にはなりませんが、もし将来課徴金の対象になったら大きな争点になりそうですし、他の指定告示違反と違ってステマは広告を実際に書くのが第三者なので、宣伝対象があいまいだということもありえそうで、そうするとなおさら大きな争いになりそうです。

それに、命令では、そもそも違反表示とされたのは、別表1と2をみると、「星5」という部分だけです。

つまり、投稿者のコメントの文章の部分は違反表示ではなく、「★★★★★」という表示だけが違反表示だ、ということです。

これは、違反者祐真会の指示が、星5つか4つで割引、というものだったので、その関与した「内容」は星の数だけ、ということなのでしょう。

ここで頭の体操ですが、NHKの報道(2024年6月7日「「☆星4以上のクチコミで割引」はステマ 消費者庁が措置命令」)によると、本件では、違反者が違反行為をするまえは星1つが大半だったのに、違反行為をはじめてから星5つが急増したとされています。

もし、これではいかにもステマっぽいと危惧した違反者が、星1つとか2つとか3つをそれぞれ目標数を定めて個別に患者に依頼して適当にばらけさせたとした場合、星1つとか2つもステマになるでしょうか?

答えは、ステマになります。

ステマは優良誤認表示や有利誤認表示と異なり広告の内容は問わないので、広告主にとって不利な内容もステマに該当するからです。

不利な表示に顧客誘引性があるのか、という疑問が生じるかも知れませんが、ステマであることを見抜かれないために2や3も付けさせている、という実態を全体的に見れば、全体として顧客誘引性はあるといえるでしょう。

同じNHKの報道で興味深いのは、

「NHKがクリニックへのクチコミを調べたところ、「『星5のレビューを投稿すればさらに550円OFF』と案内があったので、(5の評価を)投稿しました」とか、「口コミを登録したらさらに500円引きになりお得でした」といった投稿がみられました。」

という部分です。

措置命令では明らかにされていませんが、もしこれらのコメントを付けた投稿があったとしたら、この部分に限っては違反にはならなかったと思われます。(これが、ステマ発覚の端緒にはなるとしても。)

というのは、ステマガイドライン第3ー2⑴イでは、

「イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。」

が、広告であることが明瞭な例として挙げられているからです。

ここで思いつく問題が、もし違反者が「PR」という表示を付けて投稿するように投稿者に指示していたにもかかわらず投稿者がこれに反して「PR」という表記をしなかったとしたら、ステマになるのでしょうか?

この点、本件措置命令が、「星5つ」という指示をしていたことから、

「同表「表示内容」欄記載〔「星5」〕のとおり投稿している又は投稿していたことから、

祐真会は、本件役務に係る別表1及び別表2 「表示内容」欄記載の表示内容〔「星5」〕の決定に関与しているものであり」

と認定していることからすれば、表示の内容を具体的に指示している(本件では星5か4の投稿をする)場合には、その具体的指示に対応する部分だけが違反表示と認定されているともいえそうです。

そうすると、反対に、広告主が「PR」と表記するように指示していたのに表示行為者がこれに反して(場合によっては、忘れて)「PR」の表示をしなかった場合には、表示行為者の表示は広告主の指示の範囲を超えており、「事業者の表示」にはあたらず、ステマにはならないと考えるべきと思われます。

・・・と、言って早々何なのですが、Googleマップの星の場合、それではまずいような気もします。

というのは、Googleマップの星は集計されて星の数の(おそらく)平均値だけがトップにくるようにできているので、個別のコメント欄に「PR」と書いてあっても、平均の星の数のところには「PR」とは表示されないからです。

というわけで、このあたりは具体的な表示態様に照らして個別に考える、ということになるのでしょう。

次に、違反行為を認定している「別表1」と「別表2」をみると、

別表1では、

表示期間(依頼期間ではありません)が「令和5年12月8日以降」の表示が34件(別添写し1~34)

表示期間が「令和6年5月8日以降」の表示が1件(別添写し35)

つまり命令時点で表示が続いているものが合計35件、

別表2では、

表示期間の始期が「令和5年12月8日」で、終期もそれぞれ認定されている表示が10件(枝番を別と数えれば11件。別添写し36~45)

つまり命令時点で終了しているものが合計10件(または11件)

の違反表示が認定されていることがわかります。

別表1と2を、命令時に続いているものと既に終わっているものに分けたのですね。

次に、ステマに措置命令が出るときに個人的に注目していたのが主文(「1 命令の内容」)の記載でしたが、こちらは案外あっさりしたものでした。

まず、1⑴では、違反表示の取りやめとして、

「(1) 貴法人は、本件役務の取引に関し、次に掲げる表示をしている行為を速やかに取りやめなければならない

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者(以下「第三者」という。)に対し、・・・

Googleマップ・・・内の貴法人が開設し運営するクリニックの・・・プロフィール・・・における・・・口コミ投稿欄・・・のクリニックの評価として「★★★★★」・・・又は「★★★★」の投稿をすること・・・を条件に

当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたこと

によって当該第三者が投稿した、別表・・・記載のとおりの表示」

と命じられていますが、何をしたら「取りやめ」たことになるのかは書かれていません。

理論的には、口コミを消さないと取りやめたことにはならないでしょうから、きっと消費者庁からはそう指示されたのでしょう。

つまり、投稿者に「投稿を消してくれ」と依頼するだけでは足りないということです。

そうすると、投稿をクリニック側で勝手に削除することはできませんから、Googleに削除を請求したのではないかと思われますが、削除請求は昨今数多くの裁判で話題になっていることからもうかがわれるようにけっこう大変そうなので、どうやったのか(するのか)、気になります。

ご存じの方がいたら教えて下さい。

次に、1⑵では、一般消費者への周知として、

「(2) 貴法人は、

貴法人が一般消費者に提供する本件役務に係る表示に関して、

に掲げる事項を

速やかに一般消費者に周知徹底しなければならない。

この周知徹底の方法については、あらかじめ、消費者庁長官の承認を受けなければならない。

ア(ア) 貴法人は、

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

第三者に対し、

本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことによって、

第三者が、別表・・・記載のとおり投稿したことから、

当該投稿による表示は、

貴法人が供給する本件役務の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)であると認められること

(イ)前記(ア)の表示は、

表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、

当該表示は、

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであったこと。」

と命じられています。

これは、原産国告示の措置命令と比べるとなかなか興味深いです。

というのは、原産国告示2項では、

「外国で生産された商品についての次に掲げる表示であって、その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なので、それに合わせて措置命令では、「その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであること」を周知することが命じられます。

これとパラレルに考えると、ステマ告示では、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なわけですから、問題の表示が「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であったこと、つまり、事業者自身の広告であったこと、を周知することでも足りそうなものです。

しかし本件措置命令は、ステマの具体的な手口まで周知するよう命じました。

これは妥当な命令だと思います。

というのは、これくらいきちんと背景事情を開示しないと、消費者には一体何が問題だったのかわけがわからないし、悪質さも伝わらないからです。

ちなみに、本件で、投稿者に頼むなりして、Googleマップへの投稿に「PR」との表記をさせたからといって、過去の表示が広告であると判別困難なものであったことの周知をしなくてよくなるわけではありません。

というのは、(わかりやすさ重視で割り切って説明すると)過去の表示は過去の診療に対する表示であり、現在の表示は現在の診療に対する表示ですから、両者は別物だからです。

あるいは、現在の表示に「PR」とつけたからといって、過去の表示にさかのぼって「PR」と付けたことになるわけではない、とも説明できます。

この点は、原産国告示でも同様です。

2024年6月 5日 (水)

2週間あけて将来価格二重価格表示をくり返す場合に関するガイドラインとパブコメの論理に関する若干の疑問

二重価格表示ガイドラインp7では、

「・・・比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がごく短期間であったか否かは、そもそも当該将来の販売価格での販売が、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として行われていたものではないかなどにも留意しつつ、具体的な事例に照らして個別に判断されるが、一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられない(注6)。」

と規定されています。

そして、これに関連して同ガイドラインパブコメp24では、2週間だけ売ったら値下げしてもいいのか、という質問に対して消費者庁は、

「一般的には、セール自体の期間にかかわらず、比較対照価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続されれば「ごく短期間」であったとは考えられませんが、本執行方針第2の1に記載のとおり、合理的かつ確実に実施される販売計画を有しているかどうかが問われることになります。将来の販売価格は、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものですので、長期間のセールを実施した後に、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができるかどうかの検討が必要となります。

なお、長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され、将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、当該将来の販売価格での販売が「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として」行われているとみられる可能性があることに注意する必要があります。」

と回答しています。

たしかに、

「長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、

そのことが消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、

当該将来の販売価格での販売が

「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として

行われているとみられる可能性がある」

という理屈は理解できるのですが、他方で、そのようなくり返しが行われることが

「消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況」

であれば、消費者が将来価格二重価格表示の有利性を誤認しているということもなく、そもそも、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(景表法5条2号)

に該当しなくなるのではないでしょうか?

パブコメを立てれば法律が立たず、ということろでしょうか。

こういう脱法的なくり返しがけしからんという価値判断は理解できるので、これを違法にする法律構成もありそうですが、私にはちょっとわかりません。

少し考えてみたいと思います。

2024年5月27日 (月)

キャンペーンのくり返し(同一性)に関するセドナエンタープライズに対する措置命令の担当官解説の疑問

(株)セドナエンタープライズがキャンペーンのくり返しをしたとして、2022年3月15日に有利誤認表示で消費者庁から措置命令を受け、その担当官解説が公正取引867号64頁に掲載されています(羽原広一「株式会社セドナエンタープライズに対する景品表示法に基づく措置命令について」公正取引867号64頁)。

この事件は、セドナエンタープライズが、その販売する脱毛器について、期間限定で、30%の値引きに加えレビューを投稿すればさらに15%のポイントを付与するキャンペーンと20%のポイントを付与するとのキャンペーンを交互に行っていたことが、有利誤認表示と認定されました。

つまり、同じ付与率で付与をくり返していたわけではないけれど、それでも有利誤認表示になるのかが問題となりました。

この点について前記担当官解説p65では、

「(1) 「乗り換え割」の期間限定表示

「乗り換え割」〔注・不要になった脱毛器と交換すると割引でセドナの脱毛器が購入できるキャンペーン〕の期間限定表示については、

1か月毎に期限を区切って月交代で5%違うポイント〔注・15%と20%〕を繰り返し付与していたことから、

ポイント数に着目すれば「期間限定」であったともいい得ることから、

毎月繰り返されるポイントの付与に変更があった場合でも、その前後のキャンベーンと同ーのキャンベーンであると評価できるのかという点が問題となる。」

「この点、ポイントの付与は、レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていたが、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。

したがって、本件乗り換え割の期間限定表示の取引に付随するポイントの付与については、

毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価されることから、乗り換え割の期間限定表示は、有利誤認表示に該当するとされたと考えられる。」

と解説されています。

しかし、私はこの解説はおかしいと思っています。

キャンペーンのくり返しが有利誤認表示になるのは、先行する第1キャンペーンと後続の第2キャンペーンが「同一のキャンペーン」だからではありません。

キャンペーン終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示が実際と異なるから、優良誤認表示になるのです。

たとえば、第1キャンペーンで「期間限定、通常価格より50%OFF」と表示していれば、その意味するところは、キャンペーン期間が終了したら「通常価格」に戻る、ということでしょう。

なので、キャンペーン期間が終了したら、通常価格に戻さないといけません。

当然のことだと思います。

たしかに、第1キャンペーンと第2キャンペーンが同一の内容であれば、第1キャンペーンの表示は有利誤認表示になるのでしょうけれど、同一内容である場合というのは、キャンペーン期間終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示内容が実際と異なる場合の一例に過ぎません。

セドナの事件での問題の表示は、

「・「乗り換え割って? 不要になった脱毛器 ※光脱毛器・レーザー脱毛器のみ 除毛マシーンやシェーバーは不可 or 脱毛サロ
ン会員証 ※脱毛ラボ以外 を送ることで・・・ 3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFFで脱毛ラボ Home Edition(新古品※3)を購入できる超おトクなサービスです!」

・「※2 レビュー投稿なしのお場合は30%お値引き、レビュー投稿ありの場合は30%お値引き+15%ポイント付与で実質45%お値引き価格で購入いただけます」

というものでしたが、このように、「3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFF」と表示すれば、3月15日以降は45%オフをしない、つまり、通常価格に戻す(0%オフにする)、という意味であると解するのが自然だと思います。

私見と軌を一にするといえるものとして、消費者庁の「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(将来価格ガイドライン)の第2-1では、

「事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画・・・を、セール期間を通じて有している必要がある」

とされており、有利誤認表示とならないためには「比較対照価格とされた将来の販売価格」で販売しなければならないことを当然の前提にしているものといえます。

ほかにも前記担当官解説にはいろいろと問題があって、まず、

「レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

という部分ですが、実際に15%または20%のポイントは付与されていたわけですから、「15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」というのはまずいと思います。

これではまるで、15%または20%のポイントを実際には付与していなかった(のに付与するかのように表示していた)かのようです。

ここは正しくは、

「レビューを投稿すれば、キャンペーン期間に限り、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

というべきでしょう。

また、仮に同一内容かどうかを基準にする消費者庁の見解に立っても、

「付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。」

という理由付けは荒っぽすぎると思います。

ここで言っていることを文字どおりに理解すれば、同一性(有利誤認表示の成否)は、ポイントキャンペーンか、そうでない(例えば、単純な値引き、抽選でハワイ旅行プレゼント、記念品進呈、など)か、で判断し、ポイントキャンペーンであるかぎりは付与率にかかわらず(「ポイントが付与されることに変わりはなく」)、一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識する、といっているのです。

しかし、ポイント付与率(≒値引率)に5%もの差(15%と20%の比を取れば33.3%の差)があれば、顧客誘引力もずいぶんと違うでしょうから、それなのに「同一のキャンペーン」というのは、ちょっと無理なんじゃないかと思います。

もちろん私見でも、ポイントキャンペーンとハワイ旅行プレゼントは別のキャンペーンと考えています。

しかしそれは、「期間限定でポイントを付与する」という表示が、キャンペン期間経過後はポイントを付与しないという意味に解されるにとどまり、およそいかなるキャンペーンも行わないとまでは読めないからです。

ほかには、担当官解説は、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはな(かった)」・・・①

と指摘する一方で、

「毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価される」・・・②

とも言っており、

①では、ポイント付与率の違いは意味がなく、ポイントが付与されることに変わりがなければ違反なのだ、

とも取れる説明をしながら、

②では、「若干の」変更を超える変更であれば、同一キャンペーンと評価されず違反にはならないのだ、

とも取れるような説明をしており、いったいどっちなんだと言いたくなります(たぶん、②でしょうけれど)。

こんな大事なところの説明は、もうちょっと気を遣ってほしいものです。

このように、担当官解説には理論的な問題があるのですが、実務的には、15%と20%くらいの差でも同一のキャンペーンとみなされてくり返しが有利誤認表示になるということがはっきりしたことが大きいと思います。

これは、ポイントキャンペーンだけでなく、値引きキャンペーンでも同じでしょう。

ですので、キャンペーンの内容を多少変えれば違反を免れられると考えるのは、危ないと思います。

2024年5月20日 (月)

JAROでの講演がReport JAROに載りました。

2月15日にJARO(日本広告審査機構)さんで「最近の措置命令から読み解く不当表示対応のポイント」というセミナーをオンラインでさせていただいたのですが、その講演要旨がReport JAROの5月号に掲載されました。

Jaro
Report JAROではこれまで何度かその時々の最新の景表法の措置命令の解説を書かせていただいているのですが、それをいちど講演の形で、ということで実現したもの(の講演録)です。

いつもReport JAROは実務上有益な情報が満載で、とくに巻頭特集はそうなのですが、今回私の講演録が巻頭を飾ってしまいました💦

講演を振り返ってみると、われながらなかなかマニアックな内容でしたが、JAROの会員さんには目が肥えた方が多いそうなので、そのあたりをかなり意識しました。

ふだんの原稿の場合と比べると、やはり講演ではパワーポイントを使いながらていねいに説明できるので、その点はよかったと思っています。

私は世の中は論理で成り立っていると思っているので、基本的に図やイラストで説明するのが嫌いで、文字以外の情報は常に不正確な部分が残るので文字情報しか信じないようにしているのですが、景表法は表示物(場合によっては動画なども)を評価するので文字だけというわけにも行かず、やっぱりパワポは便利ですね。

講演に参加いただいた方も、参加されなかった会員のみなさまも、ご一読頂けると幸いです。

2024年5月 5日 (日)

景表法の確約運用基準について

2024年4月18日に、「確約手続に関する運用基準」が定められました。

気になった点をいくつか指摘しておきます。

まず、「5 確約手続の対象」「(3) 確約手続の対象外となる場合」では、

「①違反被疑行為者が、違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、景品表示法第25 条第1項の規定による報告徴収等が行われた日又は景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日のうち最も早い日から遡り10 年以内に、法的措置〔注・措置命令または課徴金納付命令〕を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)、

及び

②違反被疑行為者が、違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合

には、・・・確約手続の対象としない。」

とされています。

①の10年以内はまあいいとして、②の「根拠がないことを当初から認識」していたというのは、かなり広い(そのため確約の適用範囲はかなり狭くなる)と思います。

たとえば、「飲めば痩せる」系の健康食品は、確約の対象にはならないでしょう。

私はよく講演で、不当表示の原因を、

⑴ 虚偽だと知りながら表示していたケース

⑵ 事業者が表示の意味を誤解・曲解していたケース

⑶ 「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れたケース(モデルチェンジ・製法変更)

⑷ 本来予定した「実際」が作れなかった(能力不足、材料不足)

に分けて説明するのですが、⑴は確約の対象外ということですね。

もともと⑴と⑵の限界は結構微妙でしたが、これまではいずれにせよ不当表示であるとの結論は変わらないため今まであんまり深く検討する必要もありませんでしたが、確約が導入されるとまさに⑴と⑵の区別が問われることになりそうです。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「ア 基本的な考え方」「(イ) 措置実施の確実性」では、

「例えば、確約措置として一般消費者への被害回復を行う場合には、

当該措置の内容、被害回復の対象となる一般消費者が当該措置の内容を把握するための周知の方法並びに当該措置の実施に必要な資金の額及びその調達方法が具体的に明らかにされていなければ、

原則として、措置実施の確実性を満たすと認めることはできない。」

とされており、確約計画には返金する場合の資金調達方法を具体的に書くよう求められています。

独禁法の確約対応方針では資金調達方法まで書けとはいわれていないので、ちょっと驚きです。

独禁法とちがって景表法の場合は零細企業も違反者となることが多いので、とくに資金調達について言及したのかもしれません。

とはいえ、手持ち資金で足りるなら、「自己資金」でよいのでしょう。

では、そもそも確約が認定されるために被害回復をする必要があるのかについては、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」「(オ) 一般消費者への被害回復」で、

「例えば、被通知事業者が違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、その購入額の全部又は一部について返金
(景品表示法第10 条第1項に定める「金銭」の交付をいう。)することは(注2)、

一般消費者の被害回復に資すること、及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、

措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする。」

とされています。

まず、この確約での被害回復は、景表法10条の返金措置とは何の関係もありません。

(運用基準の注2では、

「(注2)返金の手段、方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられるが、自主返金制度において定める内容が参考となる。」

とだけされています。)

ですので、景表法10条の返金計画の認定は受けずに、任意で被害回復をしつつ確約にしてもらう、ということは当然可能だと考えられます。

次に、「有益であり、重要な事情として考慮する」ということの意味ですが、景表法の確約運用基準では、確約措置の典型例を、

「必要な措置」(「(ア) 違反被疑行為を取りやめること」「(イ) 一般消費者への周知徹底」「(ウ) 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置」「(エ)履行状況の報告」)

「有益であり、重要な事情として考慮する」措置(「(オ) 一般消費者への被害回復」)

「有益」な措置(「(カ)契約変更」「(キ)取引条件の変更」)

の3段階に分けています。

これは、独禁法の確約ガイドラインが「必要」と「有益」(優越の返金措置だけですが)に分けているのと比べると、被害回復を「有益」から「重要」に格上げしたのだな、と理解できます。

独禁法の優越の確約でも、返金が求められる場合と求められない場合があり、結論をみるとそれなりに穏当な処理になっている(お金の問題じゃないものは返金は求められない)ように思われるのですが、景表法でも、きっとそういう処理がされるものの、あえて「重要」といているので、基本、被害回復は求められるんじゃないかと思います。

景表法違反でも、返金が納得感のある事例と、そうでないものがあると思います。

たとえば、「食べたら痩せる」系の健康食品は、全額返金でもいいでしょう。

これに対して、メルセデスベンツの事件の、オプションがカタログどおり付いていなかった、というのは、どちらかというとカタログの誤記だと思いますので、何十万円もするオプションを無料で付けろ(オプション代返金)というのは、ちょっと行き過ぎに思います。

近頃流行りのNo.1表示(優良誤認)は、一体何を返金したらいいのか見当が付きません。

キャンペーンの繰り返しも、返金という話ではないように思います。

さらにいえば、全般的に、有利誤認は被害回復に不向きでしょう。

というわけで、きっと景表法の確約では、返金に納得感がある事例では原則返金が必要で、上記のように返金に納得感がないものだけが例外的に返金不要となるのでしょう。

このように、任意の被害回復が確約の事実上の要件となると、これと景表法10条の返金措置との関係が気になるところです。

というのは、景表法10条の返金措置は手続がめんどうなわりに、むしろ課徴金を満額払ったほうが安く付くことがわかり、ほとんど利用されていません。

これが、確約をめざすためには被害回復が必要だということになると、どっちにせよ面倒な手続をするなら(確約の条件としての被害回復は、確約という正式な制度の中で行われる以上、優越の被害回復みたいに、被害者の特定などそれなりに厳密に行うことを要求されそうな気がします。)返金措置(10条)もやってしまえ、という判断に傾くこともありえなくはないように思われます。

というわけで、事実上死に体だった自主返金制度を亡霊のように生き返らせる可能性が、確約制度にはあるように思われます。

次に、細かいことですが、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」に、

「(イ) 一般消費者への周知徹底」

とありますが、一般消費者へは「周知徹底」ではなく「周知」ではないでしょうか。

景表法の措置命令は昔からそうなのですが、従業員なら「周知徹底」でしょうけれど、消費者に「徹底」するというのは、いったい何様だという感じがします。

ちなみに独禁法では、たとえばクーパービジョンの確約では、

「前記(1)に基づいて採った措置を,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ等の小売業者及び販売代理店に通知するとともに,一般消費者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底すること。」

というように、「周知」と「周知徹底」を使い分けています。これが正しい日本語でしょう。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」の「(エ)履行状況の報告」では、

「確約措置が措置内容の十分性を満たす場合であっても、実際に確約措置が履行されないのであれば、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保することができない。

このため、確約措置の履行状況について、被通知事業者又は被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者消費者庁が認める者に限る。)が消費者庁に対して報告することは、

措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つである。

なお、報告の時期及び回数は、確約措置の内容に応じて設定する必要がある。」

とされています。

米国の反トラスト法などで有名な、いわゆる外部モニター(external monitor)ですね。

しかも、「必要な措置」になっているので、確約をすると全件外部モニターに監視を委託することになりそうです。

外部モニターといってもそんなに毛嫌いする必要もなく、私は入れたらいいんじゃないかと思いますが、企業によっては確約のハードルになるかもしれません。

零細企業の場合にはモニターのコストもばかにならないかも知れません。

というわけで、全体としてはなかなか内容の濃い、読み応えのあるガイドラインでした。

2024年5月 4日 (土)

同一取引に対する複数事業者の企画の競合(暫定版)

掲題の件について以下のとおりまとめておきます。誤りや追加があれば随時修正します。

【前提】

事業者1と事業者2は、いずれも商品A,B,Cの供給者

A, B, Cは相互に排他的(お互いを含まない)

pa: 商品Aの取引の価額(以下同様)

Max(pa): paに基づく(=商品Aに附随する)景品法定上限(以下同様)

Max(pa+pb): 商品AとB両方の購入者に提供可能な景品法定上限(以下同様)

Kactual1: 事業者1が現実に提供する景品額(2も同様)

Kmax1: 事業者1が提供しうる景品上限(2も同様)

懸賞においては事業者1と2は重複当選を排除しない。

事業者1と2が各々単独でするい場合、2が1に景品類を追加するとする(1が先)。

事業者2の景品対象取引に「たまたま」事業者1の景品対象取引が含まれる場合、「同一取引」への複数景品提供とはみない(消費者庁景品Q&A95-1)。

事業者は、消費者がキャンペーン対象者かどうかはわかるが、どの商品を購入したか(対象商品の内訳)はわからない(知る必要がない仕組みとする)。

【パターン①-1】事業者1と2が共同で、商品A購入者に景品提供する場合

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa)

Kmax1 = Max(pa) ー Kactual2

Kmax2 = Max(pa) - Kactual1

【パターン①-2】事業者1と2が各々単独で、商品A購入者に景品提供

Kmax1 = Max(pa)

Kmax2 = Max(pa) ー Kactual1

【パターン②-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) - Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン②-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) =Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン③-1】事業者1と2が共同で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

【パターン③-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

(※パターン③-1に同じ。)

【パターン④-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kacutual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) ー Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pa+pb) ー Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン④-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pa+pb) - Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン⑤-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) + Max(pb+pc) - Max(pb) = Max(pa) + Max(pb) + Max(pc)

Kmax1 = Max(pa+pb) - (Kactual2 - Max(pc)), if Kactual2 ≧ Max(pc)

           = Max(pa+pb), if Kactual2 < Max(pc)

Kmax2 = Max(pb+bc) - (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン⑤-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb+pc)- (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

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