景表法

2018年10月12日 (金)

東京都の措置命令事件に消費者庁が課徴金を課した事例

ストッキングをはくだけで脚が細くなるなどの不当表示をして東京都から措置命令を受けていた(株)ギミックパターンという会社に対して、消費者庁から課徴金納付命令がなされました
 
都道府県知事には課徴金納付命令の権限がないので、都道府県が調査した案件に課徴金を課すべきことがわかったときにはどうするのか気になっていたのですが、この点については、2014(平成26)年8月26日第170回消費者委員会本会議において、白石座長代理から、
 
「都道府県知事には措置命令権限はあるが課徴金権限がないということは、その事件については消費者庁が受け取って課徴金の手続をするということになるのでしょうか。
 
非裁量制なので必ず手続に入るということなのか、どうなのか、その点を伺えればと思います。」
という質問があり(議事録p14)、これに対して、消費者庁松本課徴金制度検討室企画官から、
 
「・・・今、考えているのは、課徴金納付命令に関する手続については、消費者庁で行うということでございますので、仮に都道府県における措置命令において課徴金を課すべき対象があるとすれば、これは消費者庁のほうで対応していくことになるかと思います。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
さらに続けて河上消費者委員会委員長から、
 
「基本的には、措置命令と課徴金に関する手続というのは、別個に動いていると理解することになるのですか。」
 
という質問がなされ、これに対して消費者庁菅久審議官から、
 
「考えておりますのは、例えば都道府県が調査している場合。
 
1 つは、今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となりますので、そもそも規模基準とかいろいろ考えますと、課徴金の対象になるものが少ないのではないかと思っています。
 
ただ、都道府県が調査した途中の段階で、これが措置命令の後、課徴金納付命令の対象になり得ると判断した場合には、消費者庁にそこで通知ないし知らせてもらうと。
 
そこから先、消費者庁が調査する。つまり、措置命令を都道府県が出して、その後受け取って課徴金額を計算するというのは実務上、非常にやりにくいですので、むしろ途中の段階でわかった場合には、消費者庁のほうに移管なり連絡をしてもらうことを想定しています
 
ただ、実際上は県域内の違反行為にとどまりますので、都道府県の対象の事件で課徴金納付命令の対象になるものは少ないのではないかと思っております。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
こういう回答があったので、私はてっきり、都道府県が調査した案件で売り上げ規模が課徴金対象となるくらいに大きければ消費者庁に移管されるのだと思っていました。
 
でも今回のギミックパターンの処理をみると、東京都で措置命令まで出して、課徴金だけ消費者庁がかける、というようになっています。
 
法律上は、課徴金対象となるくらい違反売上が大きい事件に都道府県が措置命令を出していけない理由は何もないですし、大型事件は消費者庁に移管するあつかいにすると、かえって都道府県は小粒の事件しか扱えなくなってしまって、実質的には改正により権限が縮小してしまったようになり妥当ではありません。
 
なので今後は、本件のように、都道府県で措置命令を出して、消費者庁が課徴金納付命令を出す、という運用が定着するのではないかと思われます。
 
それから菅久審議官の
 
「今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となります」
 
という部分も、考えてみるとそのようなしばりは法律上なにもなくて、公表された東京都の措置命令概要をみても、ギミックパターンの不当表示は同社ウェブサイト上のものなので、違反行為が東京都内に限って行われたというわけではありません。
 
おそらく被害者が東京都に集中しているということもないでしょう。
 
同社の所在地は東京都ですが、それはどの都道府県が(あるいは消費者庁と都道府県のいずれが)処理すべきかという問題とは、あんまり関係ないでしょう(執行のしやすさという意味では関係ありそうですが)。 
 
この事件は課徴金額も8480万円と、けっこうな金額です(三菱自動車の4億8507万円、プラスワン・マーケティングの8824万円についで、歴代3位です)。
 
というわけで、この事件は都道府県でも大きな事件を摘発するんだという先例となるものであり、大変意義深いと思います。 
 
でも考えてみると、大型案件は消費者庁に移管、というのは、消費者庁の都合なのであって、都道府県にしてみらたら、せっかく内偵までして手間暇かけて調査したのに、課徴金がかかるとわかったとたんに手柄をぜんぶ消費者庁に取られてしまうわけで、そんな制度だと都道府県のやる気が萎えてしまうと思います。
 
また、都道府県が仮に消費者庁に移管しても、措置命令もまだ出ていないわけですから、消費者庁が握りつぶしてしまう(というと聞こえは悪いですが、注意にとどめる)ということも、可能性としてはありうるわけです。 
 
これに対して都道府県が措置命令まで出してしまえば、課徴金は義務的ですから、消費者庁はどうしたって課徴金を課さざるを得ないでしょう。
 
つまり、今回のような運用だと、都道府県が掘り起こした案件を消費者庁が握りつぶしてしまう(あるいは、注意にとどめてしまう)ということができないわけです。
 
というわけで、この、措置命令の権限を都道府県に与えつつ、課徴金は消費者庁でしかも義務的、という制度は、正式事件の掘り起こしという意味では、じわじわと効いてくる制度なのかもしれません。

2018年7月29日 (日)

マクドナルドへの措置命令について

マクドナルドに対して7月24日、優良誤認で措置命令が出ました
 
「東京ローストビーフバーガー」などの商品に成形肉を使っていた、ということです。
 
しかしこの事件、なんとも評価がむずかしい事件です。
 
措置命令を読むと、
 
「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像を放送」
 
するなどした表示が、
 
「あたかも、本件料理に使用されている「ローストビーフ」と称する料理には、牛のブロック肉を使用しているかのように示す表示」
 
であるとして、不当表示だと認定されています。
 
たしかに命令書の別表をみると、肉の塊を包丁で切っている写真が載っています。
 
ところが措置命令をよくみると、肉の塊を包丁で切る映像だけでなく、商品(「東京ローストビーフバーガー」)の写真そのものも、不当表示としてあげられています。
 
ではこの事件、いったい何がいけなかったのでしょう。
 
わたしはこの事件を最初に報道でみたとき、フォルクスが成形肉を「ステーキ」として提供していた事件を思い出しました(2005年11月15日排除命令)。
 
このフォルクス事件では、「ビーフステーキ」などのメニュー名が、
 
「あたかも,当該料理に使用している肉は,牛の生肉の切り身であるかのよう」
 
な表示であり、
 
「実際には,牛の成型肉(牛の生肉,脂身等を人工的に結着し,形状を整えたもの)であった。」
 
ので不当表示だ、とされました。
 
つまり、「ステーキ」という言葉は牛の生肉の切り身を焼いた料理を意味するのだから、成形肉を焼いた料理は「ステーキ」と呼んではいけない、という理屈です。
 
あくまで、「ステーキ」という言葉の意味の問題であることが、ポイントです。
 
わたしはこのフォルクスの事件が報道されたとき、まあ確かにステーキって、肉の塊を切って焼いたものっていうイメージがあるから、そういう解釈もあるのかな、と思いました。
 
といった過去の経緯も考えると、今回のマクドナルドの事件でも、「ローストビーフ」という言葉の意味が問題とされた可能性は大いにあります。
 
でも、「ローストビーフ」の意味からして、これはやや微妙です。
 
たとえば『広辞苑』では、「ローストビーフ」は、
 
「蒸焼にした牛肉」
 
とだけ説明してあり、固まり肉でなければならないとはされていません。
 
次に『新明解国語辞典』では、「ロースト」の説明として、
 
「牛肉や鶏肉などを焼くか蒸焼きにすること(した料理)。「-ビーフ5⃣・-チキン5⃣4⃣」
 
と説明されており、固まり肉であることを要求していません。
 
これに対して『大辞林』では、「ローストビーフ」を、
 
「牛のかたまり肉を天火で焼いた料理。」
 
と説明されています。
 
まあ確かに、ローストビーフのイメージは固まり肉を焼くか蒸すかしたもの、というイメージはわからなくもありません。
 
なので、もし今回の措置命令が「ローストビーフ」をそのような意味だと解釈して(いわばフォルクス事件で「ステーキ」は一枚肉を焼いたものに限ると解釈したのと同様に)、成形肉を使ってはいけない、と考えたのなら、先例にしたがった判断ということもできそうです。
 
問題は、措置命令が違反だと明示している「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像」です。
 
こういった映像一般が不当表示になるとすると、かなり広告実務への影響が大きいのではないでしょうか。
 
こういう、大きな塊肉を豪快にスライスするような映像って、広告宣伝では普通にイメージ映像として使われそうですよね。
 
今回の命令は、そういうイメージ映像もだめだ、とはっきり言っています。
 
「肉汁のしたたる大ぶりの塊肉を豪快にナイフでカットする映像を流すんだから、実際の商品もそうやって作れ!」
 
というのは、表示と実際を厳密に一致させるという意味では間違っていないのかもしれません。
 
でも、それってちょっと、広告の表現の幅を狭めてしまいすぎないでしょうか。
 
たとえばレストランのメニューの写真や食品サンプル(蠟でできた本物そっくりのサンプル)をみて、大きくて立派なエビフライだったので注文したら実物はずいぶん小さかった、というような経験って、誰でも一度や二度はしているのではないでしょうか。
 
インターネットの広告でも、こういうイメージ的な表現はいくらでもありそうです。
 
それも不当表示だというのも一つの見解ですが、法律で取り締まらないといけないものなのかなあという気がします。
 
ともあれ、どこまでのイメージ映像が広告上一般に許される誇張なのか、今後は厳しく問われることになりそうです。

2018年7月11日 (水)

老人ホーム「イリーゼ」に対する措置命令について

HITOWAケアサービス(株)という、老人ホーム運営会社が、7月3日、老人ホーム告示違反で措置命令を受けました
 
違反の内容は、パンフレットに、
 
「終の棲家として暮らせる重介護度の方へのケア」
 
「寝たきりなど要介護度が思い方もお過ごしいただくことができます。」
 
「ご希望の方には、医療機関と連携しご家族様のお気持ちに寄り添いながら看取り介護にも対応しております。」
 
と記載していたのに、実際には、
 
「入居者の行動が、
 
他の入居者又は自社の従業員の生命若しくは身体に危害を及ぼし
 
又は
 
その切迫したおそれがある場合であって、
 
イリーゼにおける通常の介護方法又は接遇方法ではこれを防止することができないときは、
 
当該入居者との入居契約を解除すること」
 
があった、というのが、老人ホーム告示6項違反とされました。
 
老人ホーム告示6項では、
 
「有料老人ホームにおいて、
 
終身にわたって入居者が居住し、
 
又は
 
介護サービスの提供を受けられるかのような表示であって、
 
入居者の状態によっては、
 
当該入居者が当該有料老人ホームにおいて終身にわたって居住し、又は介護サービスの提供を受けられない場合があるにもかかわらず、
 
そのことが明りょうに記載されていないもの」
 
が、不当表示として指定されています。
 
しかし、これって、事業者に厳しすぎないでしょうか。
 
告示6項の、
 
「入居者の状態によっては」
 
というところからイメージされるのは、要介護度が重くなったとか、本人の健康状態の悪化とか、そういうことなんじゃないでしょうか。
 
これに対して、本件の「実際のところ」は、
 
「入居者の行動が、他の入居者又は自社の従業員の生命若しくは身体に危害を及ぼし」
 
というようなことだった、ということです。
 
でも入居者の行動が人の生命身体に危害を及ぼす場合に退去させられることがあるなんて、あたりまえのことのような気がします。
 
それをいちいち明確に表示しないと不当表示というのは、告示6項の読み方として、ちょっと厳しすぎるように思うのです。
 
そして措置命令の「実際には」の認定は、その書き方からあきらかに、入居契約の文言のようにみえます。
 
でも、本件でいちばん大事なのは、入居契約の文言ではなくて、実際にどうだったか、ということなんじゃないでしょうか。
 
つまり、実際に解除した事例があったのか、あったとして、ほんとうに周りの人に危害を加えるおそれがあったのか、ということが大事なははずです。
 
わたしは常々、
 
「契約書で消費者に不利な条項はきちんと広告で表示しておかないと不当表示になりますよ」
 
と説明していますし、その意味で、本件措置命令は、ありうる判断だとは思います。
 
たとえば、入院保険の約款で、入院給付金の条件に、パンフレットに記載がないような条件があるような場合です。
 
事例としては、日本生命のがん保険のパンフレットが公取委の排除命令の対象になったものがあります(2003年)。
 
でも、人に危害を加えるおそれがある場合には退去させることがあるというのはあたりまえのことであり、それを表示しておかないと不当表示になる、というのはちょっと厳しすぎるように思うのです。
 
本件は指定告示の事件で(なので課徴金もかかりません)、老人ホーム以外には理屈の上では関係ない事件ですが、告示6項自体は景表法の一般論からそれほどはずれた規定ぶりではないので、考え方としては、優良誤認表示や有利誤認表示にも適用があったとしてもおかしくないと思います。
 
たとえばアパートの賃貸借契約で、退去時に敷金から床面積に応じた清掃費を控除する、なんていうのも、不動産屋さんの広告に明示しないといけないんでしょうか?
 
重要事項説明書に記載するのでは不十分なのでしょうか?
 
というわけで、約款や契約書を使って消費者と取引をしている事業者の方は、いま一度、広告で表示すべきような条項がないか、きびしい目で点検することをお勧めします。

2018年7月 2日 (月)

景品Q&A57番の疑問(ポイント充当額は「取引価額」か)

消費者庁ホームページの景品に関するよくある質問の57番に、
 
「当店ではポイントカードを発行しており、100円お買上げごとに1ポイント提供しています。
 
貯まったポイントは次回以降の買い物の際に1ポイントを10円として支払に充当することができます。
 
この度、2,000円のA商品の購入者を対象とする懸賞企画を実施しようと考えているところ、
 
A商品を購入する際に、貯まったポイントを使用した場合であっても懸賞企画に参加することは可能とします。
 
このように貯まったポイントを対価の支払に充当することにより商品を購入することが可能な場合の取引価額はどのように考えるのでしょうか。」
 
という設問があり、その回答として、
 
「本件の場合、貯まったポイントをA商品の購入の際に使用するか否かは購入者の判断によるものであり、
 
貯まったポイント分を対価の一部に充当することによりA商品を購入することは、
 
現金とポイントによって2,000円という対価の支払が行われたものと考えられるので、
 
本件における取引価額は2,000円となります。」
 
と回答されています。
 
まあ消費者庁がこれでいいというんだし、景品規制で措置命令が出ることはまず考えられないのでとやかくいう必要はないのかもしれません。
 
しかも、このような解釈でないとこの手の企画は回っていかないのだろうとも想像されます(ポイント充当者には懸賞参加資格を与えないとお客さんが怒りそうだし、ポイント充当額(の裏返しの、現金支払い額)で参加資格を判断するのはめんどう)。
 
しかしそれでも、このQ&Aは、理屈としてはおかしいと思います。
 
というのは、景表法上、ポイント制というのは、複数の取引を条件とする値引きと整理されており、値引きされた部分をふくめ「取引価額」というのは矛盾があるからです。
 
つまり、定義告示運用基準6(3)アで、
 
「取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減 額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)」
 
とされていますが、この中の、
 
「複数回の取引を条件として対価を減額する場合」
 
という部分が、割引券やポイント制を想定しているものです。
 
つまり、最初の1000円の取引でポイントが10%(=100円)ついて、次の取引(たとえば2000円)にポイントを充当すると1900円で買える(100円値引きされる)、ということです。
 
この場合、2つめの取引の取引価額が1900円であることは、あきらかだと思います。
 
もしQ&A57番のように、ポイント充当分も取引価額を構成するという立場をとるなら、ポイントは値引きではない(ポイントという独自の財貨による支払充当である)と整理しないといけないでしょう。
 
でも、現行の告示や運用基準のどこをみても、そのような整理(ポイントが独自の財貨であるとの整理)が出てくるのか、わたしにはわかりません。
 
もしポイントが独自の財貨だという整理をしてしまうと、「値引」の3類型、つまり、
 
①減額(定義告示運用基準6(3)ア)
 
②割り戻し(同イ)
 
③増量値引(同ウ)
 
のどれにも当たらないことになり、そもそも値引と整理できなくなり、ひいては、ポイントは景品類なので取引価額の2割までしか提供できない、という困ったことになりかねないように思います。
 
それに、Q&A57番の、
 
「貯まったポイントをA商品の購入の際に使用するか否かは購入者の判断によるものであり」
 
という部分も、なぜそれが「値引」でない理由になるのか、さっぱりわかりません。
 
それはたんに、購入者が、今回の商品Aの取引で値引きを受けるか、それとも値引きを受けないか(将来の取引のためにポイントをとっておくか)を選択できるというだけで、今回の商品Aの取引で値引きを受けることを決めた以上、値引き以外の何物でもないのではないでしょうか。
 
Q&A57番のような解釈でないとこの手の企画は回っていかないんじゃないかということを上に述べましたが、これも考えようで、現金で2000円払った人にだけキャンペーン参加資格を与える、というのは何もおかしくないような気がします。
 
しかも、「取引価額」の考え方については、総付告示運用基準1(1)(懸賞告示運用基準でも準用)で、
 
「 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。 」
 
と、はっきり書いてあるので、ポイント充当額も「購入額」を構成するのだと解釈しないかぎり、この規定と矛盾してしまいます。
 
(でも、ポイント充当額はあくまで「値引」であり、「購入額」にはふくまれようがないことは、先に述べたとおりです。)
 
というわけで、このQ&Aは、理屈の上ではおかしいのですが、消費者庁が実務の必要性に配慮して理屈を曲げてくれたと好意的に取るべきなのでしょう。
 
それでも、景表法のアドバイスをする弁護士としては、理屈だけで答えると消費者庁の解釈とはちがう解釈になることがあることを印象づけられるものであり、つくづく、景品規制のアドバイスはむずかしいと思わされます。

2018年6月10日 (日)

自他共通割引券の「他の事業者の供給する商品又は役務」の意味

総付運用基準4(2)では、
「自己の供給する商品又は役務の取引
 
及び
 
他の事業者の供給する商品又は役務の取引
 
において共通して用いられるものであって、
 
同額の割引を約する証票」
が割引券に該当し、総付の金額規制の適用除外とされています。
 
いわゆる自他共通割引券の総付適用除外です。
 
さて、ここで、
「自己の供給する商品又は役務の取引」
の意味については、総付運用基準には定義はありませんが、定義告示運用基準3(1)で、
「「自己の供給する商品又は役務の取引」には、
 
自己が製造し、又は販売する商品についての、
 
最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引が含まれる。」
と明記されています。
 
つまり、メーカー(自己)にとっての「自己の供給する商品又は役務の取引」には、当該メーカーの商品を販売する小売店と消費者との取引も含まれる、ということです。
 
これは、「自己の販売する」ではなく、「自己の供給する」とされていることからも明らかといえます。
 
(小売店から買った商品もメーカーの「供給」する商品であることに変わりはない、という意味。)
 
では、
「他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
についてはどうでしょうか。
 
これについては、定義告示運用基準はもちろん、他の景品関係の告示や運用基準のどこをみても定義はありません。
 
では、
自己の供給する商品又は役務の取引」
自己が製造し、又は販売する商品についての、最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引(も含まれる)」
と定義したのと同様に、
他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
他の事業者が製造し、又は販売する商品についての、最終需要者に至るまでのすべての流通段階における取引」
と定義してよいか、というと、ちょっと問題があります。
 
というのは、もしそのように定義してしまうと、メーカーAが製造する商品Aを小売店Bが販売する場合において、メーカーAが商品Aの割引券を(小売店Bから商品Aを購入する消費者に)提供すると、自他共通割引券の定義に該当してしまいかねず、そうすると、一定率の割引券が「割引券」に該当しなくなってしまうからです。
 
つまり、そのような割引券は、
「メーカーAの供給する商品・・・の取引
 
及び
 
小売店Bの供給する商品・・・の取引
 
において共通して用いられるもの」
に該当するので、
「同額の割引を約する証票」
でないかぎり、総付の適用除外にならないことになってしまうのです。
 
ただ、よく考えてみるとこれは
「他の事業者の供給する商品又は役務の取引」
をどう定義しても出てくる不都合であり、この不都合を回避するには、自他共通割引券を、
「自己の供給する商品又は役務の取引
 
及び
 
他の事業者の供給する商品又は役務の取引(自己の供給する商品又は役務の取引を除く)
 
において共通して用いられるものであって、
 
同額の割引を約する証票」
とでも定義するしかないように思われます。
 
ただ、そのような定義は論理的には正しいかもしれませんが、一見しただけではその意図すら測りかねるような、複雑怪奇な定義だと言わざるをえないでしょう。
 
大事なことは、メーカーAが自社製商品Aを小売店Bを通じて購入する消費者に提供する割引券は、自他共通割引券ではなく、たんなる自社割引券である(よって、値引きなので、そもそも景品類に該当しない)、ということです。 
 
なので、一定額だけでなく、一定率の割引券(2割引券など)も、たんなる値引きとして問題なく提供できます。

2018年5月17日 (木)

フリーテルへの課徴金の算定方法について

倒産したフリーテルが「業界最速」などと不当表示をしていたことに対して、課徴金納付命令が2018年3月23日に出ています
 
その課徴金の算定方法が、同種事案で参考になると思われるので説明しておきます。
 
課徴金導入前、とある研究会で、携帯電話サービスの不当表示について課徴金を課すときに、算定基礎の売上はどれをとるのかなぁと、考えたことがあって、そのときには、「KDDI(株)に対する件(2013年5月21日)」を題材に考えました。
 
この事件は、KDDIが、「au 4G LTE」なる移動体通信サービスを提供するに当たり、あたかも、iPhone 5を使用した場合、2013年3月末日までに全国のほとんどで受信時の最大通信速度が75Mbpsとなるかのように表示していたが、実際には、75Mbpsで利用できるのは人口カバー率14%の地域であった。」という事件だったのですが、では課徴金額の基礎は、 
①不当表示期間中のiPhone 5の全ての通信料収入か、それとも、不当表示期間中に新規契約した加入者からのiPhone 5の通信料収入か、
 
②iPhone 5(端末)の売上も含まれるのか(そもそも端末は「商品」であり、通信サービス(役務)とは別物か) 
という2つの論点がありうるのかなぁ、という発表をしました。
 
そのときの私見は、①については全通信料収入だろう、②については端末は含まれないのだろう、というものでした。
 
条文をよむとそうとしかよめないと考えたからです。
 
でも実質的に考えると、①については、そうすると不当表示前に契約している人への売上にまで課徴金がかかることになり、売上と不当表示との間に因果関係がないのではないか?というのが問題意識でした。
 
理屈の上では、不当表示のために既存の契約者も他社に乗り換えなかった、ということがありえますが、正直、かなり苦しい理屈だと思います。
 
フリーテルの事件も、全通信料収入でした。
 
条文どおりとはいえ、これはけっこうたいへんなことです。
 
たとえば、不当表示前に既存契約者が10万人いて、不当表示中に不当表示をみて1万人が新規に契約した場合、その1万人分に課徴金がかかるのではなく、11万人分にかかる、というわけですから。
 
②の、端末代にはかからない、というのも、不当表示の対象が通信サービスという役務なのだから、条文からいえば通信サービスだけにかかるのだろう、考えました。
 
でも、フリーテル事件をみると、「本件役務」を、
「「FREETEL SIM」と称する移動体通信役務(スマートフォン端末と一体的に供給する場合は、当該スマートフォン端末を含む。」
と定義しているので、端末も含んでますね。
 
研究会での問題意識はまさに、KDDIでiPhone 5を買った人は表示通りの性能が出ると思ったから買ったわけで、もしそうでなかったらドコモやソフトバンクと契約した可能性があるわけで、それなのに端末には課徴金をかけなくていいのか?ということでした。
 
(KDDI事件の当時はSIMフリーのiPhoneは、まだありませんでした。)
 
なので、フリーテル事件では、この論点については、実質的に、端末と通信役務を一体ととらえる運用がなされたことがわかります。
 
あらためて考えてみると、条文上もそのように解することに大きな問題はないように思われますので、この処理が妥当なのかな、と思います。
 
今後は、どこまでが一体的な商品役務なのか、争いがありうるケースも出てくるかもしれません。
 
たとえば、スキューバダイビングスクールで授業料の二重価格表示があった場合に、一緒に売ったダイビングセット(ほかで買うことも可能)も対象になるのか?とかですね。
 
SIMフリーでは端末は自分で調達できるのにフリーテル事件では一体に評価されているので、ダイビングセットも課徴金の対象になる、という意見もあるかもしれません。
 
でも授業料の二重価格表示はダイビングセットの性能とは何の関係もないのだと考えれば、ダイビングセットには課徴金はかからないのでしょう。
 
それに対して携帯電話の場合には、通信速度はサービス(通信網)の性能でもあり、かつ、端末の性能でもある、といえるかもしれません。
 
でもSIMフリーなんだから端末は関係ないじゃないか、と考えれば、ダイビングセットと同じで、端末には課徴金はかけるべきではなかった、というのも一理あるような気もします。
 
なかなか難しいですねcoldsweats01
 
第一印象では、消費者庁の処理が正しいように感じていますが、もうちょっと考えてみたいです。
 
あと、フリーテルの事件では、課徴金対象行為の期間が2016年11月30日から12月22日までの約1か月間で、誤認解消措置をとったのが2017年5月31日です。
 
そのため課徴金対象期間は約6か月間になっています。
 
この事件で措置命令が出たのが2017年4月21日ですから、措置命令が出たのに誤認解消措置まで約1か月かかっていることになります。
 
もし不当表示をやめた(2016年12月22日)のが、消費者庁の調査を受けたためだったとすると、調査を受けてから誤認解消措置まで5カ月もかかっていることになります。
 
そういうわけで、本件では約6か月の課徴金対象期間で約9000万円の課徴金がかかっているので、もし不当表示をやめてすぐ誤認解消措置をやっていれば、9000÷6=1500万円くらいですんだことになります。
 
というわけで、こういう継続的取引の事件で不当表示をしたときには、さっさと誤認解消措置をしないとどんどん課徴金が積みあがっていく、という見本のような事件です。
 
でも考えてみると、継続的取引の場合には、誤認解消措置をとったらそのあとの売上に課徴金がかからないというのも、なんだか釈然としませんね。
 
不当表示につられて契約した人がそのまま契約し続けることもけっこうあるように思われるからです。
 
理屈としては、不当表示でだまされたと思った人は他社に乗り換えるからそれでいいんだ、ということでしょうか。
 
でもそうすると、今問題になっている、2年縛りとかがあると、そう簡単に乗り換えられない、という問題もありそうです。
 
というように、細かく考えていくと、課徴金の算定はこれでいいのか?という疑問がわいてくるのですが、非裁量型課徴金というのは(独禁法でもそうですが)単純に計算できないと制度として回っていかないところがあるので、やむをえないのでしょう。
 
 

2018年5月 9日 (水)

値引と割引券の関係

値引と割引券はどのような関係にあるのでしょうか。

(なお、議論を簡単にするために、割引券は取引付随性があるもののみ考慮し(なので、新聞広告でクーポン券を提供するようなものは考慮しない)、一定率を割り引く割引券と一定額を割り引く割引券(金額証ともいいます)とは区別しないことにします。)

背景として、平成8(1996)年4月に定義告示運用基準が改正されています。

(くわしくは、深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」公正取引587号40頁をごらんください。)

つまり、改正前の定義告示運用基準では、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額し、又は受け取った代金を割り戻すこと」(6(3)ア)

は景品類の提供に当たらないとされる一方で、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」(6(4)ウ)

は、、景品類の提供に当たるとされていました。

これはどういうことかというと、

「Aの取引に付随して割引券を『提供する行為』と、

Bの取引において割引券を『使用する行為』

を分離して捉え、

後者については景品表示法上の景品類に当たらないが、

前者についてはAの取引に付随した景品類に当たると捉えていた。」

ということだったんだそうです(深町前掲p42)。

つまり、改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(値引きではない)

割引券の使用→いずれの取引に附随する景品類の提供でもない(取引Bの値引き)

という整理だったわけです。

ただし、これは今も同じですが、総付による割引券の提供については、総付告示で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

については、

「景品類に該当する場合であつても、前項の規定〔総付の金額規制〕を適用しない。」(総付規制の適用除外)

とされていました。

これに対して定義告示運用基準の改正は、前述の、

「ある取引に付随して、他の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票を提供する場合」

は景品類の提供に当たるとの規定(改定前6(4)ウ)が、削除されました。

また併せて、改定後定義告示運用基準で、

「取引通念上妥当と認められる基準に従い、

取引の相手方に対し、

支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)」(6(3)ア

は、

「原則として、

〔景品類にあたらないとされる定義告示1項柱書ただし書の〕「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」

に当たる。」(6(3)柱書)

とされました。(これは現在もほぼ同じです。)

これはつまり、

「この改正により、複数回の取引を条件として対価を減額する場合でも景品規制の対象とならないと整理された」

ということのようです(p42)。

まとめると、運用基準の改正前は、

割引券の提供→取引Aに附随する景品類の提供(ただし総付規制の適用除外

という整理だったのが、改正後は、

割引券の提供→取引Aの値引(景品類の提供ではない)

と変わった、ということです。

なので、改正後は、割引券の提供と使用を分ける必要もなく、値引であると整理されました。

以上を踏まえて、現行の割引券に関する規定を検討します。

割引券の提供については総付告示2項3号(価額の2割の制限が適用されない場合の1つ)で、

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

と言及されており、これを受けて総付運用基準4項では、

「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について

(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。

(2) 「証票」には、

金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と定められています。

では、世の中で普通にある割引券は、どう考えればいいのでしょうか。そもそも景品類に該当するのでしょうか。

ここでの問題意識は、

割引券というのは要するに、それを持っていると値引きが受けられるということであり、たんなる値引と同じなのではないか、

それが、「券」(証票)が発行されるだけで、純粋な「値引」と違うものと評価されるのはおかしいのではないか、

ということです。

この点について、

大元『景品表示法〔第5版〕』(緑本)

のp209では、総付運用基準4の解説として、

「自己の供給する商品または役務の取引において用いられる割引券その他割引を証する証票については、

それが自己との取引に用いられ、

取引通念上妥当と認められる基準に従っているもの

である場合は、

『正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」となり、

そもそも景品類に該当しない(定義告示運用基準6(3)ア・・・)。」

と、オーソドックスな割引券については、定義上そもそも景品類に該当しない(値引なので)、と整理しています。

わたしも、この整理が正しいと思います。

そして、上記引用の緑本p209でも引用されている定義告示運用基準6(3)アでは、

「原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる」

場合の具体例の1つとして、

「ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)

(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、

「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、

「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という例があげられていますので、緑本も、ここで挙げられている例、たとえば、

「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」

に当たる(複数回取引を条件とする点を除き)と考えてよい、「コート〇〇%引券」を背広購入者に提供するのは、値引に該当し、そもそも景品類には該当しないと考えているものと思われます。

この点も、正しいと思います。

さらに続けて緑本では、自他共通割引券について、

「他方、自己だけでなく他の事業者との取引においても共通して用いることができる割引券等(自他共通割引券等)については、

景品類に該当し得る場合もあるものと考えられるが、

仮に該当する場合場合であっても

自己との取引について値引と同様の効果がもたらされる可能性があることから、それが正常な商慣習に照らして適当と認められるのであれば、総付景品の規制の適用除外とされている」

つまり、自他共通割引券については定義上は景品類に該当しうるけれど、特別に総付景品規制の適用除外にしているんだ、と説明しています。

まとめると、割引券は、

①自社割引券→「値引」に該当する(「景品類」に該当しない)

②自他共通割引券→

A 「値引」に該当するもの(「景品類」に該当しないもの)

 

 

B 「値引」に該当しないもの(「景品類」に該当するもの)

 

があり、

 

A→「景品類」には該当しない(定義告示運用基準6(3))

 

B→総付運用基準4の条件(=自他同額の値引き)をみたせば総付規制が適用されない(総付運用基準4)、

というように整理できます。

とすると、総付告示2項3号の「割引券」には、Aの割引券(「値引」に該当するもの)は、論理的に含まれない(あるいは空振り)ということになります。

具体的には、

①自社割引券→値引(景品規制対象外。総付告示2項3号は空振り)
 
②自他共通割引券
(ア)自他同額のもの→景品類だが総付金額規制適用除外
 
(イ)自他同額でないもの→景品類
③他社割引券→景品類
ということになります。
 
このように、かなりの部分で空振り(①)になるにもかかわらず総付告示の
「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」
については総付金額規制を適用しないという総付告示2項の規定が残された理由については、前記深町p42で、
「この規定〔総付告示2項3号〕を置いておく意味は、
 
指定告示上『正常な商慣習に照らして値引』に該当するとは認められないが、製造な商慣習に照らして提供を認めても価格と品質による競争を阻害しないと認められるもの
 
(自他共通割引券(デパート共通〇〇券のようなもの)
 
 
商品とも引き換えられる可能性のある金額証等)
 
について、総付告示の当該規定〔2項3号〕により提供を認める必要があったためと考えられる。」
と解説されています。
 
つまり、シンプルな割引券は総付告示2項3号を待つまでもなく「値引」なので景品類には該当せず(もちろん、総付規制も適用されない)、総付告示2項3号が必要になるのは自他共通割引券や商品とも引き換えられる可能性のある(つまり、一部減額ではなく)金額証などの場合だ、ということです。

2018年5月 7日 (月)

緑本の資料脱落

いつものように
大元編『景品表示法〔第5版〕』(緑本)
で調べ物をしていて気づいたのですが、なぜか巻末資料に、総付告示(p432)に続けて載っているはずの総付告示運用基準(「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について 」)が載ってませんね。
 
第4版までは載っていたのに、編集のときに漏れてしまったんでしょうか。。。
 
すごく探してしまいましたbearing
 
ちなみに、第5版にも総付告示と懸賞告示と懸賞運用基準は載っています。

2018年3月29日 (木)

パズドラの課徴金について

ガンホーに対して3月28日、課徴金納付命令がでました。気が付いたことをメモします。
 
まず対象役務が、
「特別レアガチャ『魔法石10個!フェス限ヒロインガチャ』
とされています(本件役務)。
 
この「ガチャ」は、モンスターを提供する役務なのだそうです。
 
わたしはパズドラはやったことがないので、いつどういうふうにお金を払うのか命令をみてもわかりませんが、「ガチャ」という名前からすると、ガチャ(くじ)を1回引くごとに課金されるものだと思われます。
 
課徴金対象期間は平成28年11月30日から平成29年2月26日までの約3か月と認定されています。
 
そうすると、課徴金が約5000万円(自主申告による減額がなければ1億円)であることからすると、この3か月の売上は、1億円÷0.03≒33億円となります。
 
1か月に10億円も売上があったんですね。。。
 
それはさておき手続面ではまず、上述のとおり、自主申告による減額が認められていることが注目されます。
 
それから、課徴金の算定方法は、
「本件役務〔本件ガチャ〕の売上額に100分の3を乗じて得た額・・・」
とされているので、本件ガチャの売上額全額が基準になっていることがわかります。
 
そもそもこの不当表示はモンスター13体全部について「究極進化」すると表示していたのに2体しか「究極進化」せず、残りの11体はたんなる「進化」だった、というものでした。
 
なので、ガチャで「究極進化」するモンスターを引き当てた取引の売上については課徴金対象売上から除くという考え方もありそうですが、おそらくそれは結果論だということでそのような考え方はとられておらず、すべての売上が課徴金の対象になっています。
 
法律の解釈としてはそれで正しいと思いますが、課徴金のガイドラインでは、「全品半額セール」で一部にセール対象外のものがあった場合には、実際にセール対象であった商品は課徴金の対象にならないとれている(p12、2(3)想定例②)こととの整合性が、やや気になります。
 
つまり、
全品半額と表示した場合に、半額でなかった商品(例、2万円未満のスーツ)の売上のみが課徴金の対象になる
なら、
全アイテム「究極進化」と表示した場合に、「究極進化」でなかった商品(13体中、11体)のみが課徴金の対象になる
という考えもありえます。
 
おそらく両者が異なるのは、
全品半額セールの場合は、消費者が半額の商品を選べる
のに対して、
全アイテム「究極進化」と表示したガチャの場合、ガチャであるがゆえに消費者が「究極進化」のアイテムを選べない
というのが実質的な理由かな、と想像しますが、やや釈然としないものが残るのもたしかです。
 
ひょっとしたら、むしろ両者を区別する隠れた理由は、
全品半額セールの場合は半額でない(表示違反)ものが、ごく一部にすぎない(とガイドラインはかってに想像している)
のに対して
本件ガチャでは究極進化でない(表示違反の)アイテムがほとんどだった(13体中11体)
ということなのかもしれません。
 
たとえば本件ガチャでもし、13体中12体は究極進化で、1体だけたんなる進化だったら、それでも全体に課徴金がかかったんでしょうか?
 
違反が100体中、1体に過ぎない場合でも、全体に課徴金がかかるのでしょうか?
 
それとも、違反が100体中1体のときは、「著しく優良」とまではいえないとするのでしょうか?
 
と考えると、本件では大半が違反だったから違和感がないものの、もし違反がほんの一部だったら、全体に課徴金をかけるのはかなり違和感があっただろうと思います。
 
(似たような同じ問題は、秋田書店みたに景品の数を間引いた、という事件でも起きるのですが、景品の間引きでは景品と商品の売り上げは直結していないので表示に適合しない売上と適合する売上を区別できないのに対して、本件では、購入対象アイテム自体が表示に適合するかどうかを観念できるので、表示に適合しないアイテムの売上だけに課徴金をかけるという考えに、まだなじみます。)
 
念のため確認しておくと、条文上は、景表法8条1項の、
「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の・・・売上額」
の解釈の問題であり、
本件では本件ガチャが「役務」なのでガチャ全体の売上に課徴金がかかる
のに対して
半額セールでは個々の商品が「商品」なので個々の商品ごとに課徴金がかかるかどうかを判断する
ということなのでしょう。
 
つぎに、課徴金対象期間については、平成28年11月30日から平成29年2月26日となっています。
 
ただ、課徴金対象行為(不当表示)をした期間は平成28年11月30日から平成29年2月20日までと認定されていますので、課徴金対象行為が終わったあとも課徴金対象期間が続いています(平成29年2月21日から26日まで。26日は最後の取引日です)。
 
(なお誤認解消措置が平成29年2月28日にとられています。)
 
つまり、課徴金対象行為をやめた日(2月20日)のあとも、21日から26日までの間、表示違反のガチャを続けていたことになりそうです。
 
理想をいえば、不当表示がわかった時点で13体全部を究極進化に変えればよかったのでしょうけれど、たんなるプログラムとはいえ、わかったからといってただちに究極進化に変えるというのはできなかったのかもしれません。
 
あるいは、不当表示をやめた時点(2月20日)で、同時に販売を中止する(本件ガチャの購入をできなくする)、という手もあったでしょうが、それも間に合わなかったのかもしれません。
 
前述のように誤認解消措置が取られていることからすると、本件ガチャは引き続き(つまり13体中2体のみ究極進化する形で)販売され続けていたのかもしれません。
 
つぎに、前述のとおり本件では消費者庁への自主申告がなされていますが、自主申告の日付はあきらかにされていません。
 
これは、以前このブログでも紹介した三菱と日産に対する課徴金のケースと同じです。
 
自主申告を失格させる場合はともかく、認めるなら日付までは不要ということなのでしょう。
 
つぎに、本件ではガンホーは返金措置を実施していません。
 
返金は義務ではないので別にかまわないのですが、このあたりに企業の姿勢というものが現れると思います。
 
ところでガンホーに対しては、この課徴金の本案について措置命令が平成29年7月19日に出ていますが、この「究極進化」の優良誤認とは別に、同日、セットでお得だと表示していたのにバラで買うのと値段が変わらなかったという有利誤認についても措置命令が出ています。
 
おそらく「究極進化」の件と「セットでお得」の件は、消費者庁は並行して調査していたでしょうから、 「セットでお得」の件に課徴金納付命令が出ていないのは、売上5000万円の裾きりに満たなかったのではないか、と想像されます。
 
表示期間も、商品により最短1日から最長でも15日間と、比較的短いですから、(誤認解消措置をとらなければ最長6ヶ月延長される余地はあるものの)違反対象売り上げが少なかったということはえりえます。
 
というわけで、課徴金納付命令は、上っ面をなめただけでもこれくらいのことはすぐにいえてしまいます。
 
ということは、出す側の消費者庁もそれなりにいろいろ考えないといけなかっただろうし、ガンホーも、表示をやめるのか、商品の販売までやめるのか、自主申告するのか、返金措置はとるのか、など短期間でいろいろ考えないといけなかっただろうと推測されます。
 
双方のご苦労がしのばれます。

2018年3月28日 (水)

体験談のねつ造と不実証広告規制の功罪

ミーロードに対する措置命令(平成29年3月30日)をみていて感じたのですが、不実証広告規制を適用する場合にも、消費者庁はきちんと広告の真偽を調べた方がよいのではないでしょうか。
 
この事件は、いわゆる豊胸効果をうたう「B-UP」というサプリに不実証広告規制が使われたものです。
 
命令に添付された広告の例をみると、たとえばグラビアアイドルの「ももゆいさん(27歳)」の証言として、
「モデルの仕事は不規則で、食事もカロリーの高いお弁当が多いため、デビュー当時と比べて10kg近く太ってしまいました。
 
そこで毎食キャベツときゅうりだけという過酷な食事制限を決行。
 
体重を戻したのですが、ついでに胸も2カップほど縮んでしまい、かえって仕事がなくなっちゃって(泣)
 
そんな時、同じグラビア仕事をしている先輩に薦めてもらったのが『B-UP』。
 
もう無理はしないと心に決め、毎晩の1粒とバストアップ体操を日課にした結果・・・、わずか2ヵ月で元のスタイルに戻すことができました~。」
というコメントが載っています。
 
同様の例として、平成29年9月29日のティーライフ(株)に対する「ダイエットプーアール茶」に関する措置命令でも、
「2年半で-43kg」
とか、
「6ヶ月で-10kg」
とか、
「8ヶ月で-12kg」
とか、お茶を飲んだだけでそんなに痩せるわけないだろうという体験談が並んでいます。
 
(ちなみにティーライフの措置命令では、わざわざ、
「なお、ティーライフは、自社ウェブサイトにおける〔違反の〕表示内容を記載したウェブページにおいて、例えば、『個人の感想であり、実感には個人差がございます。』と記載するなど・・・していたが、当該記載は、一般消費者が〔違反の〕表示から受ける効果に関する認識を打ち消すものではない。」
と、体験談であるとの注記が打消し表示とは認められないと明記しており、消費者庁の強い姿勢が出ていて注目されます。)
 
ですが、これらの体験談はねつ造である可能性が濃厚です。
 
こういう効果は事実としてありえなさそうだ、というのが一つと、私が以前かかわった不当表示の事件で似たような「体験談」を載せた広告があったのですが、消費者庁から「この証言は本当に本人のものか?」といったことは一切聞かれなかったからです。
 
でもそれでいいんでしょうか?
 
たしかに不実証広告規制は消費者庁の労力を省くという点で非常に有益な制度だと思います。
 
でもその陰で、こういうあきらかに虚偽あるいはやらせの「体験談」については、明示的に虚偽あるいはやらせであると認定されることもなくなってしまいます。
 
いちおう措置命令別表1では、これらの体験談も不当表示を構成するものとして(全文ではないもの)掲示はされていますが、それだけでは問題の本質がみえてきません。
 
つまり極論すれば、体験談のねつ造は、仮にその商品に効果があったとしても、それ自体不当表示になりうべきもののはずです。
 
もし体験談がねつ造であることまで措置命令で認定できれば、命じる社告の中にも、「体験談はねつ造でした」という一文を入れさせられるはずです。
 
社告でたんに、
「実際のものよりも著しく優良であることを示すものであり、景品表示法に違反するものでした。」
といわせるだけよりも、
「広告の体験談はねつ造でした」
と認めさせるほうが、消費者にとってインパクトはずっと大きいと思います。
 
調べるのも、事業者にねつ造かを確認すれば多くの場合簡単に片が付くでしょうし、タレントであればタレント本人を呼びつけて「あなたが本当にそういったのか」と聞くこともできるはずであり、そんなに手間はかからないでしょう。
 
そうすることで、タレントも「ありもしない体験談を載せることに同意したら大変なことになる」ということを認識できるのではないでしょうか。
 
もちろん、事業者が体験談をねつ造する抑止力になるでしょう。
 
載っている体験談の全部ではなくても、そのうち一つでもねつ造があれば、それを措置命令で明記する(そして社告でも明示させる)インパクトはとても大きいと思われます。
 
現行の、新聞折込チラシの配布日や配布地域までこまごま認定することに手間をかけるくらいなら、こちらのほうに手間をかける方がずっと費用対効果も高いと思います。
 
消費者庁にはぜひ、ご検討いただければと思います。

より以前の記事一覧