外国独禁法

2016年5月 7日 (土)

トリンコ判決の位置づけ

滝川敏明「競争者排除行為の違法認定基準(上)」(公正取引671号・2006年)

という論文に、Trinko判決の評価として、

「最高裁も、『短期的犠牲テスト』を単独行為全体に適用することを示唆する意見をTrinko判決において表明した。

Trinko判決において最高裁は、それまでの代表的単独行為判決であるAspen判決を再解釈して、アスペン(スキーゲレンデ会社)の取引拒絶(隣接ゲレンデ企業との共通リフト券発行の停止)の違法性は、アスペンが『短期的利益を犠牲にして、反競争的目的を達成する意欲を示した」(540U.S. 398, 409)ので、認められると表明した。」

「従前の解釈では、それまで継続していた取引をアスペンが合理的理由なく停止した『行為変化』に不当性を認める見方が一般的であった。

これに対し、Trinko判決の見方では、行為変化の事実ではなく、それまで取引(共通リフト券発行)によって利益をあげていた(自由意思により取引したのだから利益になる取引である)ものを、取引停止によって『短期的利益を放棄した』場合に排他行為の不当性が認められる。

この論理によると、新規取引をすべて拒絶する場合であっても、短期的犠牲をこうむる場合には違法性を推定させる。」(25~26頁)

と論じられています。

たしかにアスペン事件では行為が変化したことがポイントだというのはよくいわれることなので、ひょっとしたら上記引用部分の評価が一般的なのかもしれませんが、判決原文をよむと、「再解釈」というほどのものなのか、私は疑問に思います。

つまり、上記論文がのべている、Trinko事件判決でAspen判決に触れた該当部分は、

「The unilateral termination of a voluntary (and thus presumably profitable) course of dealing suggested a willingness to forsake short-term profits to achieve an anticompetitive end. Ibid

のことと思われます(409頁)。

Ibidはここではアスペン判決の610~611頁を指しているので、アスペン判決のその部分をみると、たしかに、いままで自発的にやっていた行為をやめたことが縷々述べられているのですが、最後に、

「Thus the evidence supports an inference that Ski Co. was not motivated by efficiency concerns and that it was willing to sacrifice short-run benefits and consumer goodwill in exchange for a perceived long-run impact on its smaller rival.」

と締めくくられています。

ここでの、「short-run benefits」と、トリンコ判決の「short-term profits」は同じものでしょう。

つまり、短期利益の犠牲というのはトリンコ判決が言い始めたものではなくて、アスペン判決ですでに言われていたのです。

たしかに、どこに力点を置くかという点では、アスペン判決は短期利益の犠牲に力点を置いているようにはみえないので、そこに力点を置いたという意味では、トリンコ判決はアスペン判決を「再解釈」したといえるのかもしれません。

しかし、わたしがこの論文でもっと気になるのは、なんだか不当性の理由(なぜその行為が悪いのか)と、不当性の基準(どの行為を違法とするのか)が、ごっちゃに議論されていようにみえるところです。

つまり、同論文でも「短期的犠牲テスト」と呼ばれている、排他行為全般に関するテストは、「テスト」というくらいですから、違法と適法を分ける基準として議論されているはずです。

これに対して上記引用部分で、

「これに対し、Trinko判決の見方では、行為変化の事実ではなく、それまで取引(共通リフト券発行)によって利益をあげていた(自由意思により取引したのだから利益になる取引である)ものを、取引停止によって『短期的利益を放棄した』場合に排他行為の不当性が認められる。」

と述べている部分は、「違法性」ではなく「不当性」という言葉を使っているせいかもしれませんが、そのような排他行為が悪い理由(非難の根拠)を述べているように、私には思われて仕方ないのです。

その前の導入部分の、

「従前の解釈では、それまで継続していた取引をアスペンが合理的理由なく停止した『行為変化』に不当性を認める見方が一般的であった。」

という問題意識(問題設定)をみても、その行為が悪い理由(非難の根拠)が議論の土俵のようにみえます。

たとえば、高速道路の制限速度が100キロなのは、それを超えると事故の可能性が高まるからです。(非難の根拠)

これに対して、制限速度100キロの高速道路で、違法かどうかの基準は「時速100キロ」です。

どうも、上記論文ではこの2つの区別が明確に意識されずに論じられているような気がしてなりません。

とくに排除行為の違法性基準の議論は、薄皮を一枚ずつ剥いていくような、あるいは、遺跡を発掘するときに地表をすこしずつ剥いでいくような、とても繊細な論理操作が必要なような気がしています。

(経済学者の方はこのあたりが数式でズバッと分かるんだろうな、と想像するととてもうらやましいです。)

なので、ちょっとした論理展開のほころびが、とんでもない間違いにつながるような気がするのです。

トリンコ判決の読み方は私の理解不足かもしれませんが、排除行為の考えかたについては、じっくりと考えてみたいと思います。

2016年3月24日 (木)

【お知らせ】米国・EU等海外競争法講座

一昨年、昨年に引き続き、公益財団法人公正取引協会において、

「米国・EU等海外競争法講座」

の米国反トラスト法(応用編)を担当させていただくことになりました。

場所は港区赤坂の公正取引協会です。

5月からはじまる、全5回のシリーズです。

私の担当する米国応用編では、カルテルはもちろんなのですが、昨年も意外に企業結合に関するご質問が多く、みなさん、届出の要否(一度規則を読めばわかりますが、極めて複雑です)や、届出不要だけれども市場シェアが高くなる案件について、どうしようか悩まれているのだなあと実感しました。

今年も限られた時間ではありますが、実務のエッセンスをお伝えしたいと思います。

ご興味のある方は是非こちらの申し込み要領に従って、お申込みください。

2015年12月18日 (金)

Yates Memoについて

今年の9月9日に、司法副長官から反トラスト局長を含め各局長にあてて出されたメモ(Yatesメモ)が話題になっています。

内容は、企業犯罪では個人の責任を積極的に追及していく、という方針を表明したものです。

元々、反トラスト局は、ハードコアカルテルの場合に個人の責任を追及するのに積極的だったので、このメモで何がどう変わるということもないのだと思うのですが、1つ注目されるのは、同メモの6つのポイントうち4つめで、

特段の事情ないし司法省で承認されたポリシーによるのでない限り、司法省は、企業と司法取引をするときには、個人を免責することはしない

とされていることです。

この、「司法省で承認されたポリシー」(departmental approved policy)というのに、リニエンシーポリシーが含まれることは同メモに明記されているのですが、反トラスト局のカーブアウトについては、明記されていないのでよくわかりません。

(カーブアウトというのは、特定の個人、典型的には違反の張本人を、免責の対象から除外(carve out)して、他の従業員・元従業員はまとめて会社との司法取引で免責する、という反トラスト局独自のポリシーです。)

でも、カーブアウトでも責任追及されるべき人は免責されないので、司法取引で明示的に免責対象に含められた人だけ免責される(カーブ・イン)と原則と例外が逆になるだけなので、(実質を問題にしていると思われる)Yatesメモにはカーブアウトポリシーは引っかからないのだろうと思います。

Arnold & Porterのウェブサイトの記事にも、カーブアウトはdepartmental approved policyに含まれるので今後も変わらないだろう、という論評がなされています。

2015年5月 7日 (木)

日豪独禁協定に関する日経記事(4月30日)と公取発表について

4月30日の日経朝刊に、

「公取委、豪当局と協定 証拠資料など相互提供 」

という見出しで、

「公正取引委員会は29日、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)との間で、独占禁止法違反事件の証拠を共有できる協力協定を結んだ。調査で入手した電子メールや文書を交換することで情報収集機能を高め、国際的なカルテルの摘発増加につなげる。」

と書いてありました。

日米や日EUの協定でも、証拠の交換まではできないので、「思い切ったことをするもんだなぁ」と思うとともに、「どうしてオーストラリアなんだろう?(ICNの年次大会がシドニーであったので、そのお土産か?)」、などと変な勘繰りもしたりしました。

(従来の協定で証拠の交換ができないことは、同記事でも、「公取委が証拠共有まで踏み込んだ協定を結ぶのは初めてで、世界でも米豪間など数例にとどまる。」と書いてあります。)

ところが公取委のホームページをみて、ちょっと意味が分からなくなりました。

「概要」のところで、関連部分では、

「イ 各競争当局は,審査過程において違反被疑事業者等から入手した情報の共有を検討。」

となっていて、あくまで、(将来の課題として?)「検討」するだけであるかのように読めます。

「あれ?」と思って、協定の英語の正文のサブパラグラフ4.3をみると、

「Each competition authority will, where practicable and to the extent consistent with the laws and regulations of its country, give due consideration to sharing information obtained during the course of an investigation.

Each competition authority retains full discretion when deciding whether to share such information or not. The terms of use and disclosure of such information will be decided in writing on a case-by-case basis」

となっており、審査の過程で得た情報(つまり証拠)を共有することについて「適切に考慮する」(give due consideration)となっています。

しかも、「will」なので、(英文契約でwillとshallをどう使い分けるのかという論点はありますが)基本的には考慮義務があるといってよいと思います。

ところが公取委の仮訳では、

「各競争当局は、実行可能な場合で、かつ、自国の法令によって許容される限りにおいて、審査過程において入手した情報を共有することについて相応の検討をする

各競争当局は、当該情報を共有するか否かを決定するに際し、完全な裁量を保持する。当該情報の使用及び開示の条件は、場合によっては書面で決定される。」

と、されています。

これが先の「イ」の、「共有を検討」の出どころなのですね。

でも、「give due considration」というのは、義務とまではいえないけれど十分に考慮する、ということを表す常套句なので、お互いに裁量はあるにせよ、実際に相当程度の証拠の共有が行われる趣旨であろうと読み取れます。

それを、「相応の検討」と翻訳するのは、誤訳とはいいませんが、あまり適切な訳とはいえないと思います。

たとえば、政府の英訳法令データベースで、森林病害虫等防除法(暫定版)の7条の2(防除実施基準)(Pest Control Implementation Standards)をみると、

「第七条の二 農林水産大臣は、薬剤による防除が自然環境及び生活環境の保全に適切な考慮を払いつつ安全かつ適正に行われることを確保するため、森林病害虫等の薬剤による防除の実施に関する基準(以下「防除実施基準」という。)を定めなければならない。」

というのを、

「Article 7-2 (1) In order to ensure that control through pesticide application is implemented safely and properly, while appropriately giving consideration to conservation of the natural and living environment, the Minister of Agriculture, Forestry and Fisheries shall set standards concerning implementation of control of Forest Pests, etc. through pesticide application (hereinafter referred to as "Pest Control Implementation Standards").」

と英訳しています。

appropriateはdueと同じ意味なので、やはり日豪協定の「give due consideration」は、「適切な考慮を払う」と訳すべきでしょう。

しかも公取委の仮訳だと、「will」が訳出されていません。これは法令の翻訳として、ちょっと問題だと思います。

法令データベースで「相応の検討」で検索してもヒットしないので、「相応の検討」という用語は日本の法令では用いられていないものと思われます。

一般論としては、「検討する」を「consider」と訳すのは、かまわないと思います。

たとえば信託法附則4項では、

「前項の別に法律で定める日については、受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討するものとし、その結果に基づいて定めるものとする。」

というのを、

「The date specified separately by law set forth in the preceding paragraph shall be considered in light of the status of the review of trusts with no provisions on their beneficiaries which are created for academic activities, art, charity, worship, religion, or other public interest, as well as other circumstances concerned, and shall be determined based on such consideration.」

と英訳しています。

ですが、逆に、「consider」を「検討する」と訳してよい場合は、かなり限られると思われます。

少なくとも日豪協定4.3条においては、適切ではありません。

「検討する」という日本語から浮かぶ英語としては、むしろ、「study」とか、「investigate」とかではないでしょうか。

なお、証拠の共有を念頭においた条文として面白いものとして、日豪協定パラグラフ4.1では、

「Each competition authority will endeavour to render assistance to the other competition authority in the other’s enforcement activities to the extent consistent with the laws and regulations of the country of the assisting competition authority and the important interests of the assisting competition authority, and within its reasonably available resources.

Such assistance may include supporting the other competition authority in the application for approval of a separate governmental body of the country of the assisting competition authority if such approval is required to obtain information or evidence from enterprises or individuals of the country of the assisting competition authority.」

というのがあって、公取委の仮訳では、

「一方の競争当局は、自国の法令及び自己の重要な利益に適合する限り、かつ、自己の合理的に利用可能な資源の範囲内で、他方の競争当局に対してその執行活動について支援を提供するよう努力する。

そのような支援には、他方の競争当局が、支援を提供する競争当局の国内の企業又は個人から情報又は証拠を入手する際に、当該国の別の政府機関から同意を得ることが必要な場合において、当該政府機関から同意を得るための申請に係る支援が含まれ得る。」

とされています。

つまり、証拠の提供に自国の他の政府機関の承認が必要なら、その承認申請もする、ということですね。

2015年4月 3日 (金)

EUの企業結合届出基準

EUの企業結合の届出基準をまとめておきます。

届出が必要な場合(「共同体規模」(Community dimension)を満たす場合)は、以下の通りです(企業結合規則1条2項)。

①〔企業結合に参加する〕すべての関係企業(undertakings concerned)〔グループ単位。以下同じ〕の全世界総(aggregate)売上を合算した(combined)額が50億ユーロ超であり、

((a) the combined aggregate worldwide turnover of all the undertakings concerned is more than EUR 5000 million;)

かつ、

②関係企業の少なくとも2つの企業の域内における総売上が、それぞれ2億5000万ユーロ超であること。

((b) the aggregate Community-wide turnover of each of at least two of the undertakings concerned is more than EUR 250 million,)

ただし、関係企業のいずれもが、その共同体内売上合計額の3分の2超を、同一の1国内で上げている場合を除く

(unless each of the undertakings concerned achieves more than two-thirds of its aggregate Community-wide turnover within one and the same Member State.)

さらに、以上の要件を満たさない場合でも、以下の要件を満たす場合には、届出が必要です(企業結合規則1条3項。つまり、届出基準が2段構えになっています)。

すべての関係企業の全世界の総売上を合算した額が、25億ユーロ超であり、

((a) the combined aggregate worldwide turnover of all the undertakings concerned is more than EUR 2500 million;)

かつ、

②少なくとも〔任意の〕つの加盟国のそれぞれにおいて、すべての関係企業の総売上を合算した(combined)額が、1億ユーロ超であり、

((b) in each of at least three Member States, the combined aggregate turnover of all the undertakings concerned is more than EUR 100 million;)

かつ、

③②の少なくとも当該カ国のそれぞれにおいて、関係企業の少なくとも〔任意の〕つのそれぞれ(each of at least two)の総売上が2500万ユーロ超であり、

((c) in each of at least three Member States included for the purpose of point (b), the aggregate turnover of each of at least two of the undertakings concerned is more than EUR 25 million; )

かつ、

④関係企業のうち少なくとも〔任意の〕つの共同体内における総売上が、それぞれ1億ユーロ超であること。

((d) the aggregate Community-wide turnover of each of at least two of the undertakings concerned is more than EUR 100 million,)

ただし、関係企業のいずれもが、その域内売上合計額の3分の2超を、同一の1国内で上げている場合を除く

(unless each of the undertakings concerned achieves more than two-thirds of its aggregate Community-wide turnover within one and the same Member State)

原文を読むと、

combined(合算)というのは、複数の当事企業(グループ)の売上を合算する場合に用いられており、

aggregate(総)というのは、同一当事企業(グループ)の総売上の意味で用いられている

ということが分かります。

以上を、枝葉の部分を端折って、しかも通常の2者間の結合を前提にざっくり要約すれば、

① 2当事者の世界売上合算額が、まとめて50億ユーロ超、

かつ、

② 2当事者の域内売上が、2社いずれも、2億5000万ユーロ超、

または、

① 2当事者の世界売上合計額が、まとめて25億ユーロ超、

かつ、

〔②、③省略〕

④ 2当事者の域内売上が、2社いずれも、1億ユーロ超、

の場合に、基本的に届出を要することになります。

2015年1月11日 (日)

ハブアンドスポークに関する英国の判例

池田毅「直接の連絡によらない『非典型カルテル』の近時の発展と求められるコンプライアンス」(NBL1039号36頁)で紹介されていた、ハブアンドスポークに関する英国の裁判例が、なかなかよく練られていて興味深いので、ちょっと検討してみます。

CAT 31, Case No. 1188/1/1/11 Tesco Stores Ltd. etc v. OFT (20 Dec. 2012)

同判決では、

B (supplier)

↗       ↘

A (retailer)          C (retailer)

と価格情報が伝達されたという事実関係のもとでハブアンドスポークのカルテルが成立する十分条件として、次の5つを挙げています(57段落)。

(a) retailer A discloses to supplier B its future pricing intentions;

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

(c) B does, in fact, pass that information to C;

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B; and

(e) C does, in fact, use the information in determining its own future pricing intentions.

さて前記論文では、

① 小売店AがサプライヤーBに将来の価格の意向を伝達した。

② Aは、Bが、その情報を他の小売店に伝えることによって、市場の状況に影響を与えようとするであろうことを意図していた。

③ Bが実際に当該情報を別の小売店Cに伝達した。

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

⑤ Cが実際に当該情報を自己の将来価格の意向を決定するのに用いた。

と翻訳されていますので、これを取っ掛かりに検討してみましょう。

まず最初に細かいことですが、同論文では、

「CATは過去の先例と同様に、以下の要件が満たされる場合に違法な協調行為になるとの規範を示した。」

とされていますが、厳密にいえば、同判決57段落では、

「The parties agreed that, if the propositions set out by Lloyd LJ at paragraph 141 of Toys and Kits (set out in full at paragraph 67 below) were met, that would be sufficient to establish an infringement of the Chapter I prohibition.」

といっています。

つまり、「要件」というよりも、「十分条件」なのですね。(つまり、以上の5つの事実が満たされれば必ず違法だけれど、それ以外にも違法になる場合がある、ということです。)

たとえば判決353段落では、AやCの主観的要件が、もっと程度の低いもので足りるのかについては、先例は意図的に明言していないのだ、と述べています(つまり、5つの事実を満たさない場合にでも違法になり得るということです。)

日本の法律で「要件」という場合には、必要十分条件の意味で使うことが多いですし、通常の日本語としても、

「以下の要件が満たされる場合に違法な協調行為になる」

といえば、

「以下の要件が満たされない場合に違法な協調行為にならない

んだな、と理解しがちなので、前記論文の「以下の要件が満たされる場合には」という記述には若干の注意が必要です。

さて、上に引用した前記論文の翻訳は、だいたいそのとおりなのですが、判決のこの部分は縦の関係の情報伝達がカルテルになるか否かを分ける基準として練りに練られた上でドラフトされているので、実は読み込むにはかなりの集中力が必要です。

まず、①はとくに問題ないでしょう。

問題は次の

② Aは、Bが、その情報を他の小売店に伝えることによって、市場の状況に影響を与えようとするであろうことを意図していた。

です。

原文の(b)では、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

となっていて、直訳すると、

Bが当該情報を他の小売店ら(Cがそのうちの1つであるか、あるいは、1つであり得る)に伝えることによって市場の諸条件に影響を与えるために利用するであろうことを、Aが意図しているとみなされ得る

となります。

まず、前記論文翻訳の「与えようとする」というのは、「try to influence」的なニュアンスがありますが、原文は端的に、「Bが・・・与えるためにその情報を利用する」となっており、直接的です。

もっと根本的なことをいえば、原文では「B will make use of...」となっていて、この「will」というのは、英語のニュアンスでは、ほぼ確実にそうするであろうという感じで、mayと明確に対置されます。

実は判決の71段落ではこの点がまさに争点になっていて、Aの将来価格の意図がCに伝達される「かもしれない」(might)ことを予期していたこと(foresight)だけでもAの主観的要件としては十分であるというOFTの主張が裁判所により排斥されています。

なので、伝達されるであろう(would)と、伝達されるかもしれない(might)というのでは意味が異なるわけで、「与えようとするであろう」では、この辺りがあいまいになってしまいます。

それから、「may be taken to」(~とみなされ得る)というのもけっこうポイントで、(Aが)現に意図していた場合に限られない、という含みがあります。つまり、「意図していた」というのより幅広くカルテルの成立が認められることになります。

この点も判決では明確に意識されていて、66段落では、先例を引用しながら、Aの主観的要件は、

「retailer A may be taken to have intended, or actually foresaw, that its future intentions would be conveyed to its competitor, retainer C」

であると述べられていて、実際に予期していた場合以外に、「意図していたとみなされ得る」場合があると考えられていることがわかります。

次の③はよいでしょう。

問題は次の、

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

です。

「情報を開示したという状況」って何かと思って原文をみたら、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

なんですね。

直訳すると、

当該情報がAからBに開示された状況をCが知っているとみなされ得る(こと)

ですね。

「may be taken」(みなされ得る)は、前述のとおりです。

そして、前記論文の「Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた」というのでは、AからBへの情報開示があったことをCが知っていればこの要件は満たされそうに見えますが、その状況(the circumstances)を知ってないといけないのですね。

ただ、状況の詳細まで知らないといけないわけではもちろんないでしょうから、結果的には、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

でも良さそうなものです。

そうだとしたら、前記論文の翻訳も、細かい文法的なことはさておいて、結論的には大過ないということになるのでしょう。

しかし、私はこの部分を、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

と解釈するのは問題だと思います。

ポイントは、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

の中の、

「the circumstances」

です。

「circumstance」をOxford Advanced Lerners' Dictionaryで調べると、

「the conditions and facts that are connected with and affect a situation, an event or an action.」

(ある状況、出来事または行為に関係し、かつ影響を与える諸条件および諸事実)

と説明されています。

そして、今の文脈で大事なのは、

the circumstances in which the information was disclosed by A to B」

の「the circumstances」に、AがBに価格情報を伝えたという外形上の事実(要件(a))のみならず、開示したときの意図(要件(b))も含まれるのか、という問題です。

実質論からいえば、これは明らかに含まれるべきです。

なぜなら、CがAの意図を知らない場合にカルテルが成立するというのは、どう考えても無理だからです。

そして、circumstancesの、

「ある状況、出来事または行為に関係し、かつ影響を与える諸条件および諸事実

という意味からすれば、その「諸条件および諸事実」に、Aの意図が含まれないと考えるのは、言葉の意味からして無理でしょう。

というのは、主観的意図が何かの「条件」になることはいくらでもありますし、主観的意図も「事実」であることには変わらないからです。

実際、判決の85段落では、

「The key point is, in our view, that C must be shown to have appreciated the basis on which A provided the information to B, so that A, B and C can all be regarded as parties to a concerted practice.」

(当裁判所の見解によれば、キーポイントは、A、BおよびCが協調行為の当事者とみなされ得るためには、Aが当該情報をBに提供した理由をCが理解していたことが示されなければならない、ということである。)

と判示されており、Aの意図をCが理解していることが要件(d)のcircumstancesに読み込まれていることが明らかです。

というわけで、前記論文の、

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

という翻訳では、あたかも開示したという事実を認識していたと読める点で、問題があるわけです。

まして、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

と省略してしまうのは、もっと問題です。これでは開示という客観的事実を認識していたとしか読めません。

やっぱり日本語に直すなら、

当該情報がAからBに開示された状況をCが知っている(とみなされ得ること)

というのしかなく、その「状況」の中に、Aの開示の意図や理由も含まれると読んでもらうことを期待するしかないでしょう(「状況」に意図が含まれるというのは、そんなに不自然な解釈ではないでしょう)。

ところで(d)の要件で

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

と、情報の開示者がAであることをCが認識している必要があると思われること、いいかえれば、

C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by a competitor [of C] to B;

では足りない、というのは結構重要なポイントではないかと思います。(深読みかもしれませんが。)

というのは、ハブアンドスポークのような間接的な情報のやり取りでは、情報の受領者が情報の発信者を特定できていることがぜひとも必要だと思われるからです。

あと興味深いのは、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

の要件で、(Cへの情報伝達により)市場の諸条件に影響を与えるために当該情報を利用する主体はBである、と読めることですね。

この点について判決をよく読むと、

「The next limb of an infringement is that supplier B must be shown, as a matter of fact, to have transmitted retailer A’s future pricing intentions to retailer C.」

とされていて(75段落)、Bが市場競争に影響を与えるために情報を意図的に利用したことなどはまったく想定されておらず、たんに客観的に、「伝達」(transmit)したかどうかだけが問題にされているように見えるところもあります。

Bが藁人形でもAとCにカルテルが成立することは何ら問題ないわけですから、この判決の解釈で基本的には正しいのでしょう。

一見、AとCのカルテル成立の要件としてBの主体的関与が必要であるかのように見えますが、そうではありません。外国語って、やっぱり難しいですね。

ただし、Bの立場というのは、要件事実としてはさておき、事実認定の上での間接事実としては通常とても重要で、BがCに情報を伝達する何らかのインセンティブを有しない場合にはAとCの間のカルテルも否定されることが多いでしょう。

というのは、BがCに正確な情報を伝達するのにはそれなりにコストがかかるはずですし、何の理由もなくBがそのような伝達に協力することは通常考えにくいからです。(BがCと価格交渉するためには、Aの価格をあえて不正確にブラフで伝えることもあるので、通常の価格交渉があるだけの状況では、Bに十分な情報伝達のインセンティブがあるとはいいにくいと思います。)このあたりの考慮は判決の237段落にも表れています。

そういうことを考えると、

(b) A may be taken to intend that B will make use of...

と、あえて情報利用の主体としてBを登場させていることは、このあたりのBの立場の重要性を意識しているのかもしれません。

また、別の観点から見ると、

"... B will make use of that information to influence market conditions"

といっているのは、市場の諸条件に反競争的な影響を与えることが当然に含意されているとみることもできます。

なので、本件はハブが上に来ているので成り立ちませんが、ハブが下に来ている場合だと、たとえばBがAから伝達を受けた情報をCに伝えたけれど、それはCから値引きを引き出すためだった、というような場合ならこの要件を満たさないことになりそうです。

被害者になる需要者たるハブが競争制限目的で自分の首を絞めるようなことは通常そもそもないはずですが、官製談合とかだと現実的な想定なので、競わせるための情報伝達が官製談合だと言われないためにはこの要件は役立つかもしれません。

その他にも、Bが競争制限以外の目的でCに伝達するのであれば、この要件を満たさないということになりそうです。

そういうことも考えると、この部分は実に奥行きが深いことを言っているのかもしれません。

ともあれ、判決の英語というのは、冠詞とか助動詞とか、ちょっとしたところに実は深い意味が込められていて、わかりやすく誤解のないように翻訳するのは実はけっこう大変です。(紙面の制限もありますし。)

私もパワポのときとかは、けっこうはっしょってしまったりもします。

論文を書くときも、想定読者によって厳密さのレベル感を変えることもあるかもしれません(笑)。

なので、やっぱり法律の英語は、原文に当たるのが一番なのですね。

別の見方をすると、正確を期すなら逐語訳をするのが最も無難なわけで、わかりやすさを重視してはしょるのは、実はそちらのほうがずいぶん手間がかかりますし、気も遣います。

なので、上記論文の執筆者の名誉のために申し上げれば、きっと執筆者の方はわかりやすさを重視されたのだと思います。

なお蛇足ですが、同論文では、

「CATが用いた規範の下では必ずしも双方向の情報の授受が違法認定に必要となるわけではないと解される。」

との「見解」が示されており、それは正しいのですが、この点は判決の第70段落に、

「We note also that in Toys and Kits, Lloyd LJ said that a finding of an infringement would be all the stronger where there is reciprocity, in the sense that C, having already received A’s future pricing intentions, discloses to supplier B its future pricing intentions in circumstances where C may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to (amongst others) A, and B does so (paragraph 141). This, however, is not a necessary ingredient of an infringement.」

と、明示的に判断が示されています。

さて、以上を振り返って同判決の規範がハブアンドスポークの規範として適切でしょうか。

例えば、小売店がメーカーに働きかけて行う再販売価格維持とハブアンドスポークのカルテルを区別できるのでしょうか。

判決では、

(a) retailer A discloses to supplier B its future pricing intentions;

ということなので、再販の場合はBからAに小売価格を伝えるので向きが逆だ、というので区別するのでしょうか?

でも実際には、どっちが決めた価格なのか、微妙なこともあるのではないでしょうか。

ただ、結論の妥当性からさかのぼって考えると、この(a)の事実には、CではなくAが小売価格を決定することを当然の前提としているということを読み込む必要がありそうです。

もしそうだとすると、もっとも何気なさそうな(a)の事実が、実はこの規範の中で最も(あるいは案外)重要、ということになりそうです。

次の、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

は、(a)を前提としないとそもそも成り立たないので、これ単体では検討してもあまり意味がありませんが、それでも(b)だけ単体でみた場合、再販の場合はまさにBが反競争的目的で他の小売店に価格情報を伝えるので、(b)の要件では再販とハブアンドスポークは区別できなさそうです。

次の、

(c) B does, in fact, pass that information to C;

も、やっぱり再販と区別できませんね。

次の、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

は、再販と区別するのに役立ちそうですが、それでも、AとBが協議してAの小売価格を決めたような場合には、そのような状況も「the circumstances」に該当すると解するのであれば、再販と区別するのは難しそうです。

なお上述のように、「by A」の部分に着目して、Cが漠然と「他の小売店もこの価格に従うんだな」と認識しているのでは足りない、と考えると、再販と区別する重要な基準になりそうです。

「でも、再販の場合でも小売店にお互いの顔が見えているようなケースもあるのではないか。」といわれると確かにそうなのですが、再販は小売店多数の場合を想定していて、ハブアンドスポークは小売店が比較的少数であることを想定していることが多いのかもしれません。

最後の、

(e) C does, in fact, use the information in determining its own future pricing intentions.

も、再販の場合にはCはBに言われた小売価格に従うだけであって自ら「determine」していないのだ、と解釈すれば、再販と区別する基準になりそうです。

目の前にいかにもハブアンドスポークっぽい事実がある場合にそれをカルテルだといえるというだけでは規範として不適切で、ハブアンドスポークっぽくない(たとえば再販の)事例をカルテルにしてしまわない規範でもある必要があるわけです。

そういうことを考えてみると、英国の判例の基準は、細かいことを言い出すときりがないけれど、大きなところでは、やっぱりうまく練られているんだなあ、という気もします。

今回、この判例をやや詳しく検討するきっかけを与えていただいた各方面の方々と、前記論文とのご縁に感謝したいと思います。

2014年7月15日 (火)

効果的なコンプライアンスプログラムによる減刑(「米国法上のカルテル事案における対応実務」商事法務2036号)

商事法務2036号25頁の、森村佳奈「米国法上のカルテル事案における対応実務-企業・個人の防御の観点から-」という論文に、

「企業が効果的なコンプライアンスプログラムを備えていたにもかかわらず違反行為が生じた場合には3ポイントが減算される。」

との記述があります(p26)。

また、p34でも、

「・・・有効なコンプライアンスプログラムが存在することが認められれば、有責性スコアが3ポイント減算される可能性がある。」

と述べられています。

つまり、効果的なコンプライアンスプログラムを備えておけば、違反行為が生じても刑が減軽されるという説明です。

この説明は日米問わずいろいろなところでされるのですが、ガイドラインの文言の説明としては正しいものの、実務的には額面通り受け取ることはできません。

というのは、実際に効果的なコンプライアンスがあったという理由で減刑がなされた事例は存在しないからです。

それはDOJが摘発した企業の中にたまたま「効果的なコンプライアンスプログラム」を持っている企業がなかったからではなくて、そもそもDOJが、「違反が起こったという事実こそが、コンプライアンスプログラムが機能していなかった(有効でなかった)ことの何よりの証拠だ」というスタンスを取っているからです。

有効なプログラムがあっても違反をする従業員は存在するでしょうから、このDOJの考えは理屈としていかがなものかという気もしますが、ともかくそういうことなのだから仕方がありません。

DOJも折に触れてスピーチなどでそのことを述べていたはずですし、今まで会った何人もの元DOJの方々や米国弁護士も同じことを言っていました。

ですので、「有効なコンプライアンスプログラムを作ればカルテルで罰金が安くなります。」という売り文句で法律事務所が売り込みをかけてきた場合には、割り引いて聞く必要があります。

(なお上記論文の趣旨は、そういうことでないのだろうと私は理解していますし、論文自体は大変ためになるので一読をお勧めします。)

以前経験したところでは、ある米国法律事務所が、DOJの調査を受けた日本企業に対して、「コンプライアンスプログラムを作れば罰金が安くなる」といってプログラムの作成を勧めてきたことがありましたが、捜査が始まった後に作っても、なおさら意味はありません。

ただし、私はコンプライアンスプログラムが無意味だと言っているわけではありません。

むしろその逆で、有効なコンプライアンスプログラム(その後の継続的な社内教育も含む)は、カルテルを防ぐ上で極めて有効だと思います。

ただ、そういうと少々コンプライアンスプログラムを持ち上げ過ぎで、もうちょっと現実に即した言い方をすれば、「コンプライアンスプログラムがない会社はズブズブでカルテルをやっている傾向がある(しかも長期間、担当者間で引き継がれながらやっている)」というのが適切かもしれません。ともあれ、言いたいことは同じです。

「有効なコンプライアンスプログラムがあったおかげでカルテルを防げた実例があるのか」、と問われると、完全に防げてしまうとそもそもDOJの目にも弁護士の目にも触れないので正直よくわからないのですが(笑)、一部カルテルをやってしまっていても、コンプライアンスプログラムのおかげで被害の拡大を防げた、と実感できるケースは結構あります。

要は、量刑ガイドラインでコンプライアンスプログラムが有利に斟酌されるという説明をする場合には、併せて、実際に減刑された例はない(し、今後もないであろう)ことも一緒に伝えないと、事実の片面しか伝えていないことになるのではないか、ということです。

2014年5月15日 (木)

日米犯罪人引渡条約の国外犯の規定

日米犯罪人引渡条約6条1項は、

「引渡しの請求に係る犯罪が請求国の領域の外において行われたものである場合には、

被請求国は、

自国の法令が自国の領域の外において行われたそのような犯罪を罰することとしているとき

又は

当該犯罪が請求国の国民によつて行われたものであるとき

に限り、引渡しを行う。」

としています。いわゆる国外犯に関する規定です。

昨今話題の、日本人がカルテル(シャーマン法1条)違反で米国に引き渡されるのか、という観点からこの条文を眺めると、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき

又は

カルテルが米国民によつて行われたものであるとき

に限り、引渡しを行う。」

となります。

「カルテルが米国民によって行われた・・・」というのはひとまず関心の対象外なので端折ると、結局、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき・・・に限り、

引渡しを行う。」

ということになります。

ただし、日本人が米国に引き渡されてしまうのか、という観点からは、自国民不引渡しの原則(5条)と併せて読むことが必要です。

つまり5条は、

「被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」

とされており、今の文脈で読み直すと、

「日本は、日本国民を引き渡す義務を負わない。ただし、日本は、その裁量により日本国民を引き渡すことができる。」

ということです。

つまり、6条の国外犯の規定以前の問題として(=米国内の犯罪か米国内の犯罪かを問わず)、日本人を引き渡すかどうかは日本国の裁量だ、ということです。

さて、カルテルの場合には、そもそも6条の「国外犯」なのか?という問題があります。

つまり、刑法1条(国内犯)では、

「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」

とされているものの、ここでいう、

「日本国内において罪を犯した」

というのは、実行行為(例えばカルテルの会合)が日本国内で行われたというだけでなく、犯罪の結果(カルテルによる価格の上昇)が日本国内で生じた場合でもよいと解されているのです。

(ただし、カルテルについて日本国外で会合が行われて日本に影響が及んだというケースを日本の刑法で処罰した事例はありません。)

そうすると、一般にカルテルの国外犯という場合にイメージされるような、「会合は米国外だったけど米国内の顧客に影響が及んだ」というケースは、実は(米国から見た場合の)「国外犯」ではなく、国内犯の問題なのです。

ということで、国際カルテルの場合は、6条1項はそもそも適用されないことになります。

確かに、刑法1条の

「日本国内において罪を犯した」

というのと、条約6条1項の、

「犯罪が請求国の領域の外において行われた」

というのは意味が違うのだ(条約の「犯罪が・・・行われた」というのは、実行行為だけを指すのだ)、という議論もありえなくはないですが、あんまり根拠がないんじゃないかと思います。

もともと国外犯の処罰について教科書事例的に挙げられるのは、「米国とメキシコの国境付近で、メキシコ側から銃を発砲して米国側にいる人を殺害する」というようなものであり、この例は典型的な(米国からみた)国内犯の例です。

国境付近のメキシコ側で、米国市場を狙ったカルテルの会合をしたら、米国の国内犯でしょう。

というわけで、例えばNBL1010号27頁の論文では慎重な物言いがなされていますが、私は、上述のような国際カルテルにおける犯罪人の引き渡しの場面では、6条は無視してよいと思います。

(ところで、同論文では、6条の解説として、

「・・・わが国国民が米国外でシャーマン法1条違反を犯した場合に引き渡しの対象とできるかについては、わが国において、外国人が外国で不当な取引制限該当行為を行った場合にこれを処罰するとされていなければならない。」

とされていますが、仮に、「米国外でシャーマン法1条違反を犯した場合」という言葉の意味を、「行為も結果も米国外だった場合」と無理やり読むとしても、「わが国において、外国人が外国で不当な取引制限該当行為を行った場合にこれを処罰するとされていなければならない。」という部分は若干不正確で、主体は外国人かどうかは問いません。)

もう1つの6条の読み方としては、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき・・・に限り、

引渡しを行う。」

というもののうち、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合」

というのを、文言に素直に、

「カルテルの実行行為が米国の外において行われたものである場合」

と読んだうえで、だけれども、

日本では刑法1条で結果さえ国内に生じていれば国内犯になると解釈されているので、日本の外でカルテルの実行行為が行われても処罰されるから、

「日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき」

の要件は満たすのだ、という解釈ですね。

こちらの方が、6条の文言には素直ですね。立案担当者はこっちの趣旨だったかもしれません。(まあ、カルテルを念頭に置いてドラフトしたとは思えませんが。)

結論は変わらないので、どちらの読み方でもよいと思います。

2014年3月29日 (土)

ABA Antitrust Spring Meeting 2014

今週ワシントンDCで恒例のABAのSpring Meetingに参加してきましたので、以下メモしておきます。

◆合理の原則は合理的に適用可能か

JVでも立証責任の転換のアプローチ。最終ステップまで行くのは2~4%。

スポーツリーグの集団的ライセンス。「そのJVがなければ商品が存在しないか。」(例、プロ野球のテレビゲームでは各チームのロゴを使う必要あり。)

クイックルック(被告に有利)。市場画定不要。

①競争への現実の害があるか(NCAA事件)

②競争促進的利益があるか(それがなければ商品が存在しないか、さもなくばスライディングスケールで判断。フリーライドは起こるか。相互依存関係にあるか。証明度は訴訟の段階による)

③より非制限的な方法はあるか(後知恵はだめ)

トランケットルールオブリーズン

行為の性質上競争を抑制するか。市場画定は不要

直接証拠はあるか。

ポリグラム事件(←マサチューセッツボード事件と対比)、ノーステキサス事件、デトロイトオート事件(週末の夜間販売を禁止)、インディアナデンティスト事件、

no cold call事件(JVの一部としてなされた)→DOJは当然違法と判断。

抱き合わせ

明示的な抱き合わせ(ジェファーソンパリッシュ事件)、経済的抱き合わせ、アフターマーケットの抱き合わせ

抱き合わせは強制されたものか?

再販売価格維持

Activas事件

小売段階でのダイナミズム、グローバリゼーション、インターネットなどのためRPMは以前ほど必要にされない。

IPと再販(消尽、タイの教科書の事件)

経済学では性質の異なるプラスとマイナスを比較することはできない。

◆クラス認証

コムキャスト事件は先例を変更したのか?変更はしていないが変更したと受け止められている。

MCI対AT&T(1982)

擬陽性の問題。

帰納的方法と演繹的方法。

集積と平均には意味がない。ノイズの除去。

問題が原告団への影響なのか損害なのか(ポズナー判事の意見)

ドゥベア事件のゲートキーパーとしての役割(要求水準が高い)

裁判官を助けてあげるつもりで。弁護士はますます多くのことについて少しずつ知り、ついに全てについて何も知らなくなる。専門家証人(経済学者)は、ますます少ないことについてますます多くを知り、ついに、全てについて知っていることが何もなくなる。

◆アップル電子書籍判決

アップルは出版社1社ずつにコンタクトしたに過ぎないが共謀を知っていたといえるのか?(モンサント事件参照)

アマゾンという巨像が部屋にいるのに、触れないわけにはいかない。

川上市場への影響は?二面市場

MFNの経済学

必ずしも有害とは限らない。あまりに内容が違うので、ケースバイケースで判断せざるを得ない。

平均価格を見るだけでは十分ではない(DOJの調査でベストセラーは値下がりしたが、全体的には値上がりしたという話もある)。厚生は価格だけで測れるものではない。

MFNがある場合とない場合を比べるべき。実証研究の重要性(ベストバイ、天然ガス、オービッツなど)。

反競争効果はレントのextractionか、参入の阻害か。

アップルは新規参入者である。アマゾンがMFNをするのとはわけが違う。

アップルは電子書籍市場に参入する必要があり、そのためにはコンテンツを集める必要があり、そのためにはエージェンシーモデルが必要であり、その最低限のプロテクションとしてMFNが必要だっただけではないのか。

リージン事件の議論の活用(アマゾンは低サービス低価格の競争者か、アマゾンはフリーライドしているのか)。

参入にはクリティカルマスが必要。

アップルは価格競争を阻害するもう1つのプラットホームを提供したに過ぎないのか?

◆反トラスト法とデュープロセス

擬陽性の問題。反トラスト法事件は市場へのシグナルとなる。

最大の競争が競争法の目的ではない。最適な競争が目的である。

適正手続は他の価値とトレードオフの関係にない。

特定の制度が他の制度に対して優れている、あるいは劣っている、ということはない。

第三者へのアクセスの保証、独立した判断者。

①不当に遅延しないこと、②意思決定者が直接聴聞すること(FTCは?)、③提出された証拠のみに基くこと、④反対尋問の保証

EUのマリンホース事件では裁判所が暗に制裁金額を増額した。

適正手続には、品質管理(ガイドラインの必要性、意義ある開示、ステートオブプレイ)、コスト最小化(規律ある情報要求、スピード、予見可能性)、正統性が必要。

2011年KNE事件。

confrontation biasの問題。

◆ホットトピック

ドイツは合併でSIECテストを放棄しドミナンステストへ。RPM、最善価格保証(アマゾン、price parityなど。水平合意の要素)、selective distribution。

米国では、電子書籍、セントルークス病院の合併、IP(PAE、トロール、SEP)、リバースペイメント、Activas事件、LIBORカルテル。

中国では、合併審査の簡易手続、合併でのIPへの注目(グーグル・モトローラ、Thermo Fisher Scientific/Life Technology)、SAICの知財ガイドライン(13条)。

ブラジルでは、カルテルの新たな和解手続、エアカーゴ(最初の国際事件のリニエンシー)

→ブラジル当局は国際事件でリニエンシーの申し立てがないので、過去の事件を掘り返している模様。ただし人手が足りないので処理は停滞気味(ブラジル弁護士の弁)。

◆パテントトロール

(クロスライセンスをしていた4社のうち1社が特許権をトロールに譲渡した設例に基づくディベート)

パテントトロールの経済学。ex post substituteか?典型的なRRCか?

知るべき事実→どのようにトロールは権利を取得したのか?オークションか?

技術市場における排除が起こる可能性は低い。問題は商品市場。

トロールは評判を気にしない?反訴がないので不均衡が生じる?

(妨害をする)インセンティブと能力の両方が必要なはず。その脅しはクレディブルか(市場価格の60倍の請求はクレディブルではない)。

トロールはアウトソース(あるいは仲介者)と同じではないか。

しかし技術市場の不完全性に注意すべき(市場の信頼性は高いか?)

トロールの怖さは、ポートフォリオが明らかでない点にある(「当方の1000の特許の1つを侵害しています」という警告だけ)

patent equilibrium

特許調査をしない不注意な特許権者は保護されるべきか(特許制度に問題があり、調査すると藪蛇なのでみな調査しないという現実)

陪審のリスク

大数の法則。宝くじもたくさん買えば、1つは当たる。トロールは1つ当たれば十分。代替的とか補完的とかは関係ない。

◆エンフォーサーズラウンドテーブル

DOJ

電子書籍、自動車部品、不動産入札カルテル(オークショニアは無罪)、Bazzarvoice事件、金融市場(差し押さえの談合)

FTC

今年100周年(ちなみに現在5名の委員のうち、なんと委員長を含む4名が女性です。)

プロパンガス事件、ヘルスケア(セントルークス病院、ワークショップ)、オフィスデポ事件(97年ステイプル事件からの市場の変化)、Activas事件(IPO)、PAEの問題(欺瞞的警告状)

プライバシーとデータセキュリティ(EU-USセーフハーバー)、アップルのアプリ事件、mobile cramming。

企業のデータセキュリティに対する投資は過小。

EU

アルムニア委員は今年退任。

任期を振り返り、集団訴訟、適正手続、金融分野などに注力。

国家補助(金融部門)、コントローラー、新たなガイドライン(2,3カ月中)

エネルギー(power exchange、ルーマニアでの調査、ガスプロム)

LIBORその他のベンチマーク

SEP(サムスン・アップル事件)

自動車部品、電気通信(デジタル時代)、Visa Master、

州政府

ヘルスケア(病院の合併、ジェネリック)

ソフトウェアのパイラシーの問題(不正ソフトを用いて安いコストで競争することを州不正競争法で規制。州内企業が被害を受けており、国際事件として問題)

NAAGの活動として、AUO事件、CAFA

カナダの石油会社との採掘テリトリー分割をカルテルで調査(ミシシッビー州)

Q&A

民事救済の有効性

中国の適正手続は注視する。

DOJは国際事件だけでなく国内事件にも注力。半分は国内事件(地方債事件)、スタッフの3割は国内担当。フィールドオフィスを7つから3つに。

EUでは企業結合がナショナルチャンピオンの誕生を阻害しているとの批判があるが、当たらない(アルムニア委員)。

多額の投資(周波数など)が必要だから規模が必要であるとの議論には説得力がない(アルムニア委員)。

価格差などを踏まえると、無線通信の市場は国ごとである。

EUは目的による当然違法があるが、Pay-for-delayで効果は問題か?

J&J事件、TEVA事件、合意の届け出制度

【ランチでの出来事】

会場でのオフィシャルのランチのときにたまたま席が隣になった女性が、実は元ポーランドの競争当局のトップの方で、最近やめたというので理由を聞くと、「私の場合は政府にやめさせられたのよね。」とおっしゃっていました。

なんでも、政府が推進する合併に反対したからだということでした。

さて、そのランチでのスピーチ(この手のランチでは、ゲストがスピーチをするのが恒例)で、まさにその話題が触れられ、スピーカーの方が私の隣のその女性を見つけると、起立を促され、会場中に拍手が巻き起こりました。

自分の地位をかけてでも信念を貫いた、ということで、欧州では大変有名な事件なんだそうです。

すごい方にお目にかかることができました。

【その他】

ベンチマークをとりあげた別のセッションでは、経済分析で共謀が証明できることに衝撃を受けたと、あるオーストラリアの弁護士さんがおっしゃっていました。

DOJが、司法取引の成立した企業にも外部コンプライアンスモニターの設置をする方針を発表したそうです。

どのセッションか忘れてしまいましたが、パネリストの1人が、「FTCは自身の5年前の審決のことも忘れてしまう。」と、裁判所のように厳密に判例法に従うわけではないことを指して言っておられたのが、(行政機関なので裁判所と違うのは当然かもしれませんが)興味深かったです。

2013年10月 3日 (木)

連邦通信委員会(FCC)のウェブサイト

今、調べ物をしようと思ってFCCのウェブサイトを見たら、例の米国政府機関の閉鎖の影響で、同サイトも閉鎖されていました。。。

記念に(?)メッセージを張り付けておきます。

"Federal Communications Commission

We regret the disruption, but during the Federal Government-wide shutdown, the FCC is limited to performing duties that are immediately necessary for the safety of life or the protection of property. FCC online systems will not be available until further notice.

If you need to contact the FCC to address an emergency situation, please call: (202) 418-1122 or email: FCCOPCenter@fcc.gov.

Telecommunications companies must continue to use the Network Outage Reporting System (NORS), which will remain available during the shutdown, to file reports of telecommunication service disruptions pursuant to Part 4 of the FCC's rules. NORS allows companies to file Notifications, Initial Reports and Final Reports. The information on service disruptions is essential to maintain and improve the reliability and security of the telecommunications infrastructure.

Vacancy announcements for positions that were open for receipt of applications have been closed and will re-open when the Government is operational.

During this time, the FCC is not accepting any deliveries of supplies, or services that have not been identified as necessary for the safety of life or the protection of property.

The Commission has issued a Public Notice concerning procedures for submissions that would be due to the FCC during the shutdown.

last reviewed/updated on 10/1/2013"

もしやと思い、FTCのサイトを見たら、こちらも閉鎖されていました。。

"Unfortunately, the Federal Trade Commission is closed due to the government shutdown.

The FTC Premerger Notification Office will be open to accept HSR filings.
Consumers may file FOlA requests, but they will not be processed.
Consumers cannot file complaints or register for Do Not Call.
All public workshops, roundtables, hearings and conferences are postponed until further notice.
We hope to be open soon. "

上記通知によると、さすがに合併の届け出は受け付けているみたいですね。

DOJのサイトはまだ開いているみたいですが、これもいつ閉じられるか分かりませんね。

本当に困ったものです。

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