占有改定で中小受託事業者から引渡しを受けることの注意点
中小受託法適用対象取引において、占有改定により受領しても受領拒絶の「受領」(5条1項1号)にあたるのか、という問題があります。
占有改定による占有の移転も、もちろん、「受領」にあたります。
長澤先生の取引適正本(『取引適正化法制の解説と分析』)485頁にも、そう書いてあります。
実際、実務では、たとえばサプライヤーに部品とその金型の両方の製造を委託して、金型はサプライヤーの元に物理的にとどめて(占有改定)そのまま部品の製造に利用させる、というように、占有改定で引渡し(その反面の受領)とするケースがいくらでもあります。
そういうケースに、発注者が物理的に金型を受け取らないと受領拒否だ、なんてことになったらたいへんです。
ですが、ここで注意すべきは、こういう金型の占有改定みたいなケースは、当然、発注時点で占有改定の合意になっている、ということです。
なので、発注時点の4条明示には発注者の工場にもってくるように通知していたのに、あとから、「いま置き場所がないから占有改定にしといて。」というのはみとめられません。
念のため条文の根拠を確認しておくと、中小受託法4条1項本文では、
「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない。」
とさだめられていて、これを受けた4条明示規則1条1項2号では、明示事項として、
「二 ・・・給付を受領する・・・場所」
がさだめられています。
なので、4条通知に給付の受領場所として発注者の工場をさだめていた場合には、受領の方法を占有改定に変更することはできません。
もし4条明示した事項を勝手に変えることができるとすると、4条明示をする意味がありません。
発注者が一方的に変更することはもちろんできませんし、受託者との合意で変更することもできません。
受託者の同意があっても曲げることができないのが中小受託法です。
以上のことは中小受託法の解釈としてはあきらかだと思われますが、中企庁の「中小受託取引適正化法(取適法)禁止事項ガイド」には、やや誤解を招く記載があります。
同ガイドの1頁では、「〈要注意!〉チェックポイント」として、
「☑受け入れ態勢が整わないことを理由に、納期どおり持ち込まれた商品を持ち帰らせたり、納期より遅く納品するよう指示していませんか。」
としたうえで、その対応策の位置づけで、「こんな取引を目指しませんか?」として、
「●製品の納入日について、委託事業者と中小受託事業者が日程について十分な協議を行い、確実に受領できる日を書面で定め、委託事業者は製品を受領できる態勢を確保する。
●委託事業者側の都合で納品指定日に商品を受領することができない場合でも、受領したものとして扱い 、指示する納品日までの 保管費用などの経費を委託事業者側が負担する。」
としています。
この2つめの●をみると、まるで、保管費用を払えばいい(受領拒絶にはならない)、みたいにも読めます。
(なお、「受領したものとして扱い」というのは、受領したものとして扱って、そこから所定の期間内(最大でも60日以内)に代金を支払うことも意味しているものと考えられます。)
ですが、それはさすがにおかしいでしょう。
これは1つめの●とあわせて読むべきです。
つまり、1つめの●では、「よく話し合って確実に受領できる日を定めなさいね」といっています。
これを踏まえたうえで2つめの●で、「受領することができない場合でも」といっているということは、その言わんとするところは、それくらい事前に十分話し合ってもどうしても受領することが不可能な事態が発生したら、せめてこれくらいのことはしましょうね、ということなんだろう、と理解できます。
4条通知で決めたことは必ず守れというのが中小受託法であり、これは不可抗力であっても変わりません。
たとえ、地球に巨大隕石が衝突して人類が滅亡しても、それは変わりません。
(ただし、これについては、「人類が滅亡した世界に法律は存在するのか?」という、「人類が(あるいは生命が)この世から滅亡しても、「夕焼け」は存在するのか」という哲学的問題に類似した問題がありますが(野矢茂樹『哲学の謎』参照)、それは哲学の問題であって法律学の問題ではないので、措いておきます。)
というわけで、受領できようができまいが、受領するのが発注者の義務なのです。
なので、受領拒否の違反は免れないのだけれど、せめて保管費用を負担することで不当な経済上の利益の提供要請にならないようにして、代金も受領したとみなして当初の予定どおり払いましょうね、ということです。
ただ、以上の議論に対しては、
「4条通知のすべてを守らなくても禁止行為の違反にならないこともあるのではないか」
「たとえばちょっと受け取り場所を変えるくらいはいいのではないか」
という反論もあるかもしれません。
たしかに、4条明示事項の中には、
「三 中小受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日」(検査完了期日。4条明示規則1条1項3号)
のような、禁止事項とどう結びついているのかよくわからないものもあります。
(検査するかどうかで「受領」の時期は左右されませんし、検査の有無により返品可能時期が変わるというのは公取委が勝手にそのように解釈しているだけであって、法令上の根拠はありません。)
ですがやはり、明示事項の大半は禁止事項と直接結びついているというべきであり、そうすると、禁止事項は4条明示を基準に判断するというのが当然の4条明示の立法趣旨だというべきでしょう。
もちろん、具体的な明示事項が公取委規則にさだめられているからといって、その規則の根拠が法律にある以上、規則は法律と同じ効力を持つのは当然のことです。
というわけで、4条明示に反したら当然にそれに対応する禁止行為に該当するというべきでしょう。
たとえば代金減額が典型例で、4条明示の金額から減額したら違反になるというべきでしょう。
(ただ、4条明示に記載された金額ではなく実質的な合意がなされた金額を基準にすべき場合があるなど、減額については細かい例外もありますが。)
ですので、「ちょっとくらい受領場所を変えてもいいのではないか。」というのもやっぱりだめで、ちょっとくらい場所を変えるのでもだめなのだとすれば、物理的受領するはずだったのを占有改定に変えるなど、なおさら無理でしょう。
実務では、発注したあとに事情があって受領できなくなったので占有改定ですませたい、ということがまま起こるのですが、それはだめですから、注意してください。
別の切り口からいうと、
①占有改定でも受領とみとめられるか
ということと、
②発注後に受領方法を変更できるか
ということは別の問題で、①だけに注目して調べているとOKみたいな回答がみつかるからといって、②を見落とさないでくださいね、ということです。
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