« 2026年8月 | トップページ

2026年9月

2026年9月26日 (土)

フリーランス法における再委託の場合の支払期日の特則に関する注意点

フリーランス法4条3項では、

「3 前二項の規定にかかわらず、

他の事業者

(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)

から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、

当該業務委託に係る業務

(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)

の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合

(前条第一項の規定により

再委託である旨、

元委託者の氏名又は名称、

元委託業務の対価の支払期日

(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)

その他の公正取引委員会規則で定める事項を

特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)

には、

当該再委託に係る報酬の支払期日は、

元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」

と規定されています。

これは、フリーランス法では中小受託法とちがって発注者も中小企業であることがあるため、その資金繰りに配慮して、元委託者(発注者の顧客)から代金を受領したあとにフリーランスに支払うことをみとめた特則です。

条文の前提として、この特則の利益を発注者が享受することができるためには、発注者は、フリーランスに対して、再委託である旨など所定の事項を「明示」しなければなりません。

ここで注意すべきは、あくまで発注者は、

「元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」

とされており、原則どおりのフリーランスからの成果受領日から60日以内か、顧客からの代金受領日から30日以内かのうち、いずれかを選択できるというようにはなっていないことです。

これは、あえて条文上選択制であると明記しなくても、選択したら支払日が早まってしまうなら(つまり、顧客からの対価受領日から30日後の日が、フリーランスからの成果物受領日から60日後の日よりも前なら)、発注者は4条3項の「明示」をしなければいいだけなので、発注者の選択権は確保されており問題ない、と考えられたためではないかと推測されます。

(というのは私のまったくの推測ですが、論理的に考えると、そういう理屈なんだろうといえます。)

なのでここでの注意点は、4条3項の特則の利益を受けるつもりもないのに誤って再委託である旨など所定の事項を明示してしまわないようにしないといけない、ということです。

「まちがって明示してしまうことなんてあるのか?」と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、実務ではいろんなことが起こります。

たとえば、発注者の顧客と、発注者と、フリーランスの三者が、三者で一体となって作業内容の打ち合わせをしていたりして、三者の間で契約内容が筒抜け、ということも、ないとはかぎりません。

その場合、フリーランスに、「この業務は再委託なんだ」ということも、認識されてしまっているかもしれません。

ここでさらに念押ししておくと、フリーランス法4条3項では、発注者の、特則の利益を享受したいという意思表示は要求されていないことに注意が必要です。

つまり、必要な「明示」をしてしまうと、必然的に、顧客からの対価受領日から30日以内をフリーランスへの代金支払期日に定める義務が発注者に生じてしまう、ということです。

そこで確認しておくべきことは、4条3項にしたがって明示すべき事項は何か、です。

この明示事項については、4条3項に、

「再委託である旨、

元委託者の氏名又は名称、

元委託業務の対価の支払期日

(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)

その他の公正取引委員会規則で定める事項」

とされています。

そして、ここでの「その他の公正取引委員会規則で定める事項」というのは、フリーランス法施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)4条で、

「(法第四条第三項の事項)

第四条 法第四条第三項の公正取引委員会規則で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 再委託である旨

二 元委託者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの

三 元委託業務の対価の支払期日」

と規定されています。

しかも、これらの明示事項は、フリーランス法4条3項で、

「前条第一項の規定により‥‥明示した場合に限る。」

とされているので、3条書面(発注書)として明示しなければなりません。

つまり、再委託である旨(規則4条1号)と、元委託者の特定情報(同条2号)と、元委託者の対価支払期日(同条3号)を、通常の3条書面記載事項に加えて、3条書面に記載しなければならない、ということです。

ですので、仮に顧客と発注者とフリーランスの三者が雁首揃えて契約内容の打ち合わせをしていて三者とも、元委託業務の対価の支払期日をふくめ、契約内容を熟知しているとしても、それだけでは法4条3項の特則は適用されることはなく、発注者が3条書面に規則4条所定の事項を書いてはじめて、法4条3項の特則が適用される、ということになります。

しかも、3条書面(発注書)として明示しなければならないので、3条書面とは別に、規則4条所定の事項を書面で通知するのでは足りない(法4条3項の特則の適用は受けられない)、ということになります。

ですので、たとえば、三者で協議内容を書面で議事録にまとめて共有したり、議事録を発注者からフリーランスに送付したとしても、それだけでは法4条3項の特則は適用されません。

最後に念のためですが、法4条3項の明示をするかどうかは発注者の自由です。

法4条3項のどこをみても、再委託の場合にはそのような明示をしなければならないとは規定されていません。

ただし、こんなことはないと思いますが、何かの勘違いをして(たとえば法4条3項の条文を誤解して)、再委託の場合には規則4条所定の事項を記載しなければならないと誤解して、実際に発注書に規則4条所定の事項を記載してしまったら、それにもかかわらず法4条3項の特則の利益を受ける意思はない(支払は成果物受領後60日以内でよい)と言ってみても(あるいはその旨3条書面に書いても)それは無駄で、顧客からの代金支払期日から30日以内の日をフリーランスへの代金支払期日とさだめないと違法になります。

2026年9月22日 (火)

HSR法における実質的所有権(beneficial ownership)の根拠条文

ハートスコットロディノ法(クレイトン法7A条)では、実質的所有権(beneficial ownership)の取得を待機期間満了前に行なってはいけないと言われます。

そこで、その条文上の根拠を整理しておきます。

クレイトン法7A条(15 U.S. Code § 18a - Premerger notification and waiting period)の(a)では、

「(a) FilingExcept as exempted pursuant to subsection (c),

no person shall acquire, directly or indirectly, any voting securities or assets of any other person,

unless both persons (or in the case of a tender offer, the acquiring person) file notification pursuant to rules under subsection (d)(1) and the waiting period described in subsection (b)(1) has expired,

if—

(1) the acquiring person, or the person whose voting securities or assets are being acquired, is engaged in commerce or in any activity affecting commerce; and

(2) as a result of such acquisition, the acquiring person would hold an aggregate total amount of the voting securities and assets of the acquired person—

(A) in excess of $200,000,000 (as adjusted and published for each fiscal year beginning after September 30, 2004, in the same manner as provided in section 19(a)(5) of this title to reflect the percentage change in the gross national product for such fiscal year compared to the gross national product for the year ending September 30, 2003); or

(B)

(i) in excess of $50,000,000 (as so adjusted and published) but not in excess of $200,000,000 (as so adjusted and published); and

(ii)

(I) any voting securities or assets of a person engaged in manufacturing which has annual net sales or total assets of $10,000,000 (as so adjusted and published) or more are being acquired by any person which has total assets or annual net sales of $100,000,000 (as so adjusted and published) or more;

(II) any voting securities or assets of a person not engaged in manufacturing which has total assets of $10,000,000 (as so adjusted and published) or more are being acquired by any person which has total assets or annual net sales of $100,000,000 (as so adjusted and published) or more; or

(III) any voting securities or assets of a person with annual net sales or total assets of $100,000,000 (as so adjusted and published) or more are being acquired by any person with total assets or annual net sales of $10,000,000 (as so adjusted and published) or more.

In the case of a tender offer, the person whose voting securities are sought to be acquired by a person required to file notification under this subsection shall file notification pursuant to rules under subsection (d).」

と規定されています。

ここで、acquireの定義がHSR法やHSR規則(16 CFR Part 801 - COVERAGE RULES)にあれば話は単純なのですが、残念ながらありません。

ではどうなっているのかというと、CFR§801.2(Acquiring and acquired persons.)の(a)で、

「(a) Any person which, as a result of an acquisition, will hold voting securities or assets, either directly or indirectly, or through fiduciaries, agents, or other entities acting on behalf of such person, is an acquiring person.」

というように、acquiring personの定義規定の中にholdという言葉が出てきます。

そして、holdの意味については、CFR801.1条(16 CFR § 801.1 - Definitions.)の(c)で、

「(c) Hold.

(1) Subject to the provisions of paragraphs (c) (2) through (8) of this section,

the term hold (as used in the terms hold(s), holding, holder and held) means beneficial ownership, whether direct, or indirect through fiduciaries, agents, controlled entities or other means.」

というように規定されていて、holdの定義にbeneficial ownershipという用語が出てきます。

801.1条(c)のholdは名詞なので("hold(s)"は動詞)、beneficial ownership(実質的所有権)も名詞で、辻褄はあっています。

なので、holdが動詞(保有する)の場合、その意味は、実質的に所有する(beneficially own)というように読み替えればよいわけです。

これをふまえて、上述の、

「(a) Any person which, as a result of an acquisition, will hold voting securities or assets, either directly or indirectly, or through fiduciaries, agents, or other entities acting on behalf of such person, is an acquiring person.」

の意味を読み替えておくと、

「(a) 議決権付証券、資産を…買収の結果実質的に所有することとなる者は、取得者である。」

となります。

ほんとうは、acquireの直接的な定義があればよいのですが、前述のようにそれはなく、HSR規則の具体例で、たとえば、CFR§801.32で、

「§ 801.32 Conversion and acquisition.

A conversion is an acquisition within the meaning of the act.」

という例が示されていたり、§801.33(16 CFR § 801.33 - Consummation of an acquisition by acceptance of tendered shares of payment.)で、

「The acceptance for payment of any shares tendered in a tender offer is the consummation of an acquisition of those shares within the meaning of the act.」

と具体例で示されているだけです。

HSR規則を読んでもわかるのはここまでですが、この点については、HSR規則制定時の告示(the Statement of Basis and Purpose Implementing Title II of the Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act of 1976, 43 Fed. Reg. 33, 450(1978))に、

「SECTION 801.1(c) HOLD

Section 801.1(c) defines the term “hold,” which is central to the structure of the rules.

If the commerce test of section 7A(a)(l) and the size-of-person test of section 7A(a)(2) are met, the act applies to an acquistion if “as a result of such acquisition, the acquiring person would hold” 15 percent or $15 million worth of the voting securi­ties or assets of the acquired person.

Section 7A(a)(3) (emphasis supplied). The treatment of an acquisition thus depends upon what the acquiring person will hold as a result of the acquisition. See sections 801.13 and 801.15.

Section 801.1(c)(1) states the basic rule that a person “holds” voting securities or assets if that person is the beneficial owner of such securities or assets.

The rules do not contain a definition of “beneficial ownership.” Instead, the existence of beneficial ownership is to be determined in the context of particular cases with reference to the person or persons that enjoy the indicia of beneficial ownership, which include

〔①〕the right to obtain the benefit of any increase in value or dividends,

〔②〕the risk of loss of value,

〔③〕the right to vote the stock or to determine who may vote the stock,

〔④〕the investment discretion (including the power to dispose of the stock).」

と説明されているのが重要です。

つまり、これら、

①価値増加または配当、の利益を獲得する権利

②価値損失のリスク

③議決権または投票者決定権

④投資裁量(株式処分権を含む)

といった実質所有権の兆候(the indicia of beneficial ownership)を参考にして、実質所有権が誰に帰属するのかを決める。ということです。

以上の論理を逆にたどると、

⑴実質所有権の兆候から、実質所有者を決める

⑵実質所有者が決まったら、誰が資産をholdしているのかが決まる

⑶資産をholdした者が資産をacquireした者である

⑷待機期間満了前にacquireすると、ガンジャンピングになる

という理屈です。

ちなみに、上記告示(43 Fed. Reg. 33, 459(1978))では、

「BACKGROUND INFORMATION TO SECTION 801.1(C)」

として、

「Original section 801.05(c) defined the term “hold” in terms of the pos­session of either direct or indirect “ownership” or "control.”

Revised sec­tion 801.1(c) deleted the reference to “control” and defined the term “hold” as “record or beneficial ownership.”」

と説明しています。

結局、record ownership(名義上の所有権)は成案からは削除されたのですが、holdの概念からcontrolが削除されたことは重要でしょう。

というのは、もしcontrolからholdが認定されるとすると、契約上のcontrolまでHSR法の届出の対象になってしまうからです。

(この点、日本の独禁法でも、「三 他の会社の事業の全部又は重要部分の賃借」(16条1項3号)、「四 他の会社の事業の全部又は重要部分についての経営の受任」(同項4号)、「五 他の会社と事業上の損益全部を共通にする契約の締結」(同項5号)といった契約上のアレンジは、16条1項の禁止の対象にはなっていますが2項の届け出の対象にはなっていません。)

といったようなことが、

Blumenthal, The Scope of Permissible Coordination between Merging Entities Prior to Consummation, p47

で分析されているので、ご興味のある方はご覧ください。

なお、上記のthe indicia of beneficial ownershipの

①価値増加または配当、の利益を獲得する権利

②価値損失のリスク

③議決権または投票者決定権

④投資裁量(株式処分権を含む)

のうち、①②が経済的利益で、③④が支配を表すもののようにも見えますが、③④の存在から一般的に、支配からbeneficial ownershipを認定できるということはできないでしょう。

というのは、③④はあくまで議決権による支配の話であり、議決権とは関係のない一般的な(たとえば契約による)支配については触れていないからです。

2026年9月12日 (土)

競争を恐れる日本人

いま、

ルース・ベネディクト『菊と刀』(長谷川松治訳・社会思想社)

という日本人論の古典を読んでいるのですが、その中で(私にとっては)衝撃の事実が書いてありました。

それは、

Landislas Farago, The Japanese: Character and Morale

を引用する形なのですが、要するに、アメリカ人は競争があったほうが作業能率が上がるけれども、日本人は競争があるとむしろ作業能率が下がる、というのです(同書178頁以下)。

とくに、心理テストを日本人に受けさせたところ、

「日本人の子供たちは競争を遊び半分に考えており、大して気にかけない。ところが、青年や成人の場合には、競争があると作業能率がぐんと低下した。」

というのです。

その理由は、

「彼ら〔心理テストを行なった心理学者〕の説明によれば、問題を競争でやらせるようになると、〔日本人の〕被験者たちは負けるかもしれないという危険にすっかり心を奪われ、仕事のほうがおるすになってしまう」

からだ、というのです。

衝撃であるとともに、日本人として、そりゃそうだろうなぁ、と納得するところもあります。

そこで今たまたま毎日新聞のサイトを見ていたら、

「「比べるのは昨日の自分」 元阪神監督・矢野さんが語った指導論」(2026年9月12日)

という記事が出ていて、

「矢野さんは「できない、無理だと思うのではなく、『できるかも』と思うことが未来につながる」とアドバイス。

出番が少なかった阪神・木浪聖也選手を「比べるのは(他人ではなく)昨日の自分だ」と励ましたところ、努力した木浪選手が数少ないチャンスを生かして活躍したエピソードなどを明かした。」

と書いてあって驚きました。

というのは、『菊と刀』にも、

「彼ら〔=日本人被験者〕は彼らの進歩を、彼ら自身の成績と比較しつつ測定するときに、最も良好な成績を挙げた。ところが、他人と比較測定する場合にはそうはゆかなかった。」

という、まったく同じことが書いてあったからです!

私が司法修習生だったころ、当時大手だった東京のとあるファイナンス系の法律事務所を就職活動で事務所訪問したときに、その事務所のパートナーの先生が、

「競争がない組織は衰退する。うちではアソシエイトをどんどん競争させる。」

というようなことをおっしゃってて、「へぇ~、そうなんだ」と思いました。

しばらくしてその事務所は、突然解散しました。

アメリカの法律事務所はパートナーになれるのが一握りで、アソシエイト間の熾烈な競争があるようですが、アメリカではそのやり方が事務所の競争力につながるからといって、日本で同じだとはかぎりません。

まあ標準的な経済学の考え方でも、組織の中で競争ばかりしていては組織としての競争力が落ちるのは必然で、協力することも必要なわけですし、この金融系事務所が解散した理由とこのパートナーの考え方が関係しているのかどうかもよくわかりませんが、上記の『菊と刀』の記述に照らすと、なかなか感慨深いものがあります。

話を競争法に戻すと、こういう日本人論を読むと、日本の競争法は競争一辺倒でいいのか、という疑問が沸いてきます。

少なくとも、アメリカの反トラスト法の考え方をそのまま日本に受け入れるのは、よくないような気がします。

なんでもグローバルスタンダードがいいわけではなく、これだけ国民性が違うのであれば、法律もその解釈も違って当然であるように思います。

少なくとも、競争が万能であるというお題目に対して批判的な目を向ける余地があることは、認識しておくべきでしょう。

そういう余地を認めないのを、「競争原理主義」といいます。

2026年9月 8日 (火)

外国通貨のキャッシュバックは値引か(と、外国通貨建て自他共通同額割引券は成り立つか)

キャッシュバックが値引とみとめられることは、定義告示運用基準6⑶イに、

「(3) 次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる。

イ 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払った代金について割戻しをすること(複数回の取引を条件として割り戻す場合を含む。)(例 「レシート合計金額の○%割戻し」、「商品シール○枚ためて送付すれば○○円キャッシュバック」)。」

と書いてあるとおりです。

では外国通貨(例えば米ドル)をキャッシュバックするのは、値引きに該当するでしょうか。

該当しないと考えられます。

外国通貨は日本では通貨ではないので、当然だと思います。

とりわけ日本は変動相場制の国なので、外国通貨の価値は日々変わるのであり、外国通貨を現金(日本円)と同等にあつかうことはできないと考えられます。

同様の理由で、外国通貨建ての金額証(たとえば、「1ドル割引券」)は、たとえ自他共通に使えるものであっても、自他共通同額割引券には該当せず、総付規制の対象になると考えられます。

というのは、「1ドル」をいくらと換算して値引きをするかは、共通して使える各事業者ごとに異なる可能性があり、「同額」の割引とはいえないからです。

ただし、そういう理由だとすると、逆に言えば、共通に使える各事業者間で換算する為替レートも、たとえば「1ドル=150円」とか合意すれば、自他共通同額割引券といっていいように思います。

つまり、「1ドル割引券」とは書いてあっても、実質的には150円割引券と同じだ、ということです。

ただ、そういうことをやろうとするならちゃんと表示しておかないと、不当表示の問題になるかもしれません。

つまり、「1ドル券差し上げます。」みたいなキャンペーンをして、「1ドル券」と書いた金券をあげるキャンペーンをして、もらった人がほんとうに1ドル相当の割引(たとえば使う日の為替レートが160円なら160円の割引)が受けられると思っていたら、150円の値引しか受けられなかったら、不当表示だと言って怒り出すかもしれません。

というわけで、目新しいことをしようとするときにはいろいろと見落としがあるかもしれませんので(私もまだ見落としている論点があるかもしれません)、よく頭を使いましょう。

2026年9月 5日 (土)

占有改定で中小受託事業者から引渡しを受けることの注意点

中小受託法適用対象取引において、占有改定により受領しても受領拒絶の「受領」(5条1項1号)にあたるのか、という問題があります。

占有改定による占有の移転も、もちろん、「受領」にあたります。

長澤先生の取引適正本(『取引適正化法制の解説と分析』)485頁にも、そう書いてあります。

実際、実務では、たとえばサプライヤーに部品とその金型の両方の製造を委託して、金型はサプライヤーの元に物理的にとどめて(占有改定)そのまま部品の製造に利用させる、というように、占有改定で引渡し(その反面の受領)とするケースがいくらでもあります。

そういうケースに、発注者が物理的に金型を受け取らないと受領拒否だ、なんてことになったらたいへんです。

ですが、ここで注意すべきは、こういう金型の占有改定みたいなケースは、当然、発注時点で占有改定の合意になっている、ということです。

なので、発注時点の4条明示には発注者の工場にもってくるように通知していたのに、あとから、「いま置き場所がないから占有改定にしといて。」というのはみとめられません。

念のため条文の根拠を確認しておくと、中小受託法4条1項本文では、

「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない。」

とさだめられていて、これを受けた4条明示規則1条1項2号では、明示事項として、

「二 ・・・給付を受領する・・・場所」

がさだめられています。

なので、4条通知に給付の受領場所として発注者の工場をさだめていた場合には、受領の方法を占有改定に変更することはできません。

もし4条明示した事項を勝手に変えることができるとすると、4条明示をする意味がありません。

発注者が一方的に変更することはもちろんできませんし、受託者との合意で変更することもできません。

受託者の同意があっても曲げることができないのが中小受託法です。

以上のことは中小受託法の解釈としてはあきらかだと思われますが、中企庁の「中小受託取引適正化法(取適法)禁止事項ガイド」には、やや誤解を招く記載があります。

同ガイドの1頁では、「〈要注意!〉チェックポイント」として、

「☑受け入れ態勢が整わないことを理由に、納期どおり持ち込まれた商品を持ち帰らせたり、納期より遅く納品するよう指示していませんか。」

としたうえで、その対応策の位置づけで、「こんな取引を目指しませんか?」として、

「●製品の納入日について、委託事業者と中小受託事業者が日程について十分な協議を行い、確実に受領できる日を書面で定め、委託事業者は製品を受領できる態勢を確保する。

●委託事業者側の都合で納品指定日に商品を受領することができない場合でも、受領したものとして扱い 、指示する納品日までの 保管費用などの経費を委託事業者側が負担する。」

としています。

この2つめの●をみると、まるで、保管費用を払えばいい(受領拒絶にはならない)、みたいにも読めます。

(なお、「受領したものとして扱い」というのは、受領したものとして扱って、そこから所定の期間内(最大でも60日以内)に代金を支払うことも意味しているものと考えられます。)

ですが、それはさすがにおかしいでしょう。

これは1つめの●とあわせて読むべきです。

つまり、1つめの●では、「よく話し合って確実に受領できる日を定めなさいね」といっています。

これを踏まえたうえで2つめの●で、「受領することができない場合でも」といっているということは、その言わんとするところは、それくらい事前に十分話し合ってもどうしても受領することが不可能な事態が発生したら、せめてこれくらいのことはしましょうね、ということなんだろう、と理解できます。

4条通知で決めたことは必ず守れというのが中小受託法であり、これは不可抗力であっても変わりません。

たとえ、地球に巨大隕石が衝突して人類が滅亡しても、それは変わりません。

(ただし、これについては、「人類が滅亡した世界に法律は存在するのか?」という、「人類が(あるいは生命が)この世から滅亡しても、「夕焼け」は存在するのか」という哲学的問題に類似した問題がありますが(野矢茂樹『哲学の謎』参照)、それは哲学の問題であって法律学の問題ではないので、措いておきます。)

というわけで、受領できようができまいが、受領するのが発注者の義務なのです。

なので、受領拒否の違反は免れないのだけれど、せめて保管費用を負担することで不当な経済上の利益の提供要請にならないようにして、代金も受領したとみなして当初の予定どおり払いましょうね、ということです。

ただ、以上の議論に対しては、

「4条通知のすべてを守らなくても禁止行為の違反にならないこともあるのではないか」

「たとえばちょっと受け取り場所を変えるくらいはいいのではないか」

という反論もあるかもしれません。

たしかに、4条明示事項の中には、

「三 中小受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日」(検査完了期日。4条明示規則1条1項3号)

のような、禁止事項とどう結びついているのかよくわからないものもあります。

(検査するかどうかで「受領」の時期は左右されませんし、検査の有無により返品可能時期が変わるというのは公取委が勝手にそのように解釈しているだけであって、法令上の根拠はありません。)

ですがやはり、明示事項の大半は禁止事項と直接結びついているというべきであり、そうすると、禁止事項は4条明示を基準に判断するというのが当然の4条明示の立法趣旨だというべきでしょう。

もちろん、具体的な明示事項が公取委規則にさだめられているからといって、その規則の根拠が法律にある以上、規則は法律と同じ効力を持つのは当然のことです。

というわけで、4条明示に反したら当然にそれに対応する禁止行為に該当するというべきでしょう。

たとえば代金減額が典型例で、4条明示の金額から減額したら違反になるというべきでしょう。

(ただ、4条明示に記載された金額ではなく実質的な合意がなされた金額を基準にすべき場合があるなど、減額については細かい例外もありますが。)

ですので、「ちょっとくらい受領場所を変えてもいいのではないか。」というのもやっぱりだめで、ちょっとくらい場所を変えるのでもだめなのだとすれば、物理的受領するはずだったのを占有改定に変えるなど、なおさら無理でしょう。

実務では、発注したあとに事情があって受領できなくなったので占有改定ですませたい、ということがまま起こるのですが、それはだめですから、注意してください。

別の切り口からいうと、

①占有改定でも受領とみとめられるか

ということと、

②発注後に受領方法を変更できるか

ということは別の問題で、①だけに注目して調べているとOKみたいな回答がみつかるからといって、②を見落とさないでくださいね、ということです。

« 2026年8月 | トップページ

フォト
無料ブログはココログ