全ての独禁法関係者が民法を学ぶべき理由
私は、すべての独禁法関係者は民法を学ぶべきだと思っています。
それはなぜかというと、民法を学ぶと法律を体系的に考える力がつくからです。
日本の民法はパンデクテン体系でできていて、総則は財産法のすべてに適用があり、債権総論はすべての債権に適用があり、契約総論はすべての契約に適用があり、というように、総論がそれ以下の各論すべてに適用される仕組みになっています。
なので、法律のプロは、契約書をみているときに、どこか頭の中で、民法総則の、たとえば法人や代理に関する規定を意識しているわけです。
むかし、私が不動産流動化の契約書を作っていた時に、依頼者の担当者の方が、おそらくは先輩の仕事の見よう見まねで、えらく細かいところにいろいろと実務的なコメントや修正をつけてくるのに(それはそれで意味があったのですが)、「そもそもこの当事者って、法人格あるんだっけ?」というところで抜けてたりということが、よくありました。
ほかには、契約当事者でない人を拘束しようとする契約書なんていうのは、法律に詳しくない人にいきなり契約書を作らせるとよくあるまちがいです。
私は京都大学の法学部生時代に商法の森本滋先生のゼミ生でしたが、確かゼミの参考文献か何かで読んだ記憶なのですが、商法の学者さん複数との座談会の中で、森本先生が、「民法の社団法人に関する規定は会社にも適用されますよね」というところから解釈論を展開されていました。
それに対して、ほかの商法学者さんたちは「そういわれてみれば確かにそうですね」という感じで、なんだか狐につままれたみたいに、あっけにとられた様子の座談会でした。
これが私には強烈に印象に残っていて、いまでも、法律は体系的に解釈しなければならないという、私の原体験になっています。
そこで問題なのが、公取委の支払特殊指定です。
特殊指定も独禁法2条9項6号にもとづくものである以上、当然、同号の範囲内でしか指定できません。
2条9項6号には、
「六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」
と書いてあるので、公取委が指定できるのも、「公正な競争を阻害するおそれがあるもの」のうちから指定できるだけです(あたりまえです)。
逆に言うと、公取委が指定したから公正競争阻害性があることになるのではない、ということです。
別の言い方をすると、支払特殊指定で60日を超える弁済期が公正競争阻害性を有するというなら、指定前から公正競争阻害性を有していたのだといえなければならないわけです。
そして、この公正競争阻害性の解釈は、あくまで国会が定めた独禁法の文言の解釈であって、公取委が自由に広げて解釈していいわけではありません。
そこを勘違いしてはいけません。
そうすると、60日を超える支払期間が公正競争阻害性がないといけないはずですが、それは無理でしょう、ということです。
常識で考えてもそうですし、かつての一般指定の優越的地位の濫用(現在の2条9条5項)と比べても、60日の支払期限というのはあまりにかけはなれているからです。
そのことは、優越ガイドラインを見ても、支払特殊指定にかすりそうな記述すらないことからもあきらかです。
60日の根拠は中小受託法であることは容易に想像できますが、いうまでもなく、中小受託法は国会がさだめた法律であり、独禁法の不公正な取引方法とは別物です。
公取委が、中小受託法を根拠に、特殊指定をしてよいはずがありません。
特殊指定の根拠はあくまで独禁法であり、中小受託法ではありません。
(これも、体系的法解釈の一例と言えば、そうでしょう。)
さらにいえば、仮に支払特殊指定の中に公正競争阻害性に関する要件が書き込まれていないとしたら(実際、書き込まれていませんが)、告示の文言をさらに2条9項6号柱書とホの要件で絞って解釈しないといけない、ということです。
これは、会社法の会社(営利社団法人)に関する条文に書いていなくても、民法の社団法人に関する規定が適用されるのと同じことです。
司法試験に合格した裁判官なら、当然、そういう発想で告示を解釈します。
というわけで、そういう議論をすっ飛ばして支払特殊指定を指定した公取委は、民法をきちんと勉強すべきだと思います。
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