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2026年8月 8日 (土)

支払特殊指定の根本的問題点

来年4月1日から施行される支払特殊指定(「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」)をあらためて見ていて思うのですが、公取委の特殊指定のプラクティスは平気で独禁法の授権を超えるのが常態化しており、大きな問題だと思います。

支払特殊指定の根拠規定である独禁法2条9項6号ホでは、

「9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

〔1~5号省略〕

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」

と定められています。

つまり、公取委が特殊指定をすることができる行為は、2条9項6号イ~ヘの「いずれかに該当する行為」にかぎられます。

イ~ヘのいずれかに該当する行為の中から、公取委が指定してはじめて、不公正な取引方法になるのです。

そして、独禁法2条9項6号ホでは、

「ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

と定められています。

ですでの、ホにもとづいて公取委が指定できる「行為」は、論理的に、自己の取引上の地位を不当に利用してする行為であることに限定されます。

なのに、支払特殊指定では、

「製造委託等

(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

(昭和三十一年法律第百二十号。以下「取適法」という。)

第二条第六項に規定する製造委託等をいう。)

をした事業者

(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律

(昭和二十四年法律第二百五十六号)

第十四条に規定する者を除く。

以下「委託事業者」という。)

が、

当該製造委託等を受けた事業者

(その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く。

以下「受託事業者」という。)

に対し、

当該製造委託等に係る給付

(役務提供委託

(取適法第二条第四項に規定する役務提供委託をいう。以下同じ。)

又は特定運送委託

(同条第五項に規定する特定運送委託をいう。以下同じ。)

の場合にあっては、役務の提供。以下同じ。)

に対し支払うべき代金を、

その給付を受領した日

(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた日)

から起算して六十日の期間経過後なお支払わないこと。

ただし、当該代金を当該期間内に支払わないことについて正当な理由がある場合は、この限りでない。」

と定められているだけであり、どこにも「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」という要件に相当する文言が出てきません。

どうも公取委(ひょっとしたら、ほとんどの独禁法関係者)は、

「ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

という文言の背後に、何か優越的地位の濫用的な実体をイメージ(妄想)し、そのイメージから特殊指定を導いているような気がしてなりません。

それは、物流特殊指定も同じです。

でも、そういうイメージは、条文のどこにもかいてありません。

たんなる、集団的妄想です。

独禁法は公取委に特殊指定の権限を白紙委任しているわけではなくて、あくまで委任されているのは2条9項6号の文言の範囲内であることは、条文を読めばあきらかです。

なので、仮に支払特殊指定のような特殊指定を受け入れるとしても、論理の問題として(as a matter of logic)、指定されているのは取引上の地位を不当に利用してする行為にかぎられると(そうは書いていませんが)解釈すべきです。

どうも、独禁法界隈の人たちは、条文を読まないので、困ったものです。

こういう問題が支払特殊指定で特に目立つのは、同指定で指定されている行為は、優越的地位の濫用でいうところの濫用行為のような、いかのも悪そうな行為ではないことです。

ふつうに考えて、支払日が60日を超えたら正当な商慣習に違反するなんて、一般論としてはとうていいえないでしょう。

支払いまでの期間が60日を超えたら当然に取引上の地位を不当利用したとみなすというのは、それ以上に無理があると思います。

もう1つ支払特殊指定の問題点は、適用範囲が他の特殊指定(物流、大規模店舗、新聞)に比べて、きわめて広いことです。

これまでの特殊指定は、業界が限られていました。

ところが、支払特殊指定には業界の限定がありません。

あるのは、中小受託法の製造委託等にあたることという縛りだけですが、製造委託だけだったらまだしも、役務提供委託や情報成果物作成委託も入るのですから、適用範囲はかなり広くなります。

そもそも支払特殊指定はサプライチェーン全体での価格転嫁を後押しする目的でできたものです。

従来の下請法では、たとえば自動車メーカーとTier1のサプライヤーの間には、Tier1の資本金が大きいために下請法が適用されず、にもかかわらずその下のTier2との取引には下請法が適用される、ということで、間に挟まれたTier1のような会社が板挟みにあう、ということが問題だといわれていました。

ですが、もちろん支払特殊指定の対象は、そんな「板挟み」に会っているメーカーだけではありません。

しかも、自分より企業規模が小さな会社は原則として取引上の地位が劣っているという解釈をとると、同特殊指定の適用範囲はきわめて広くなります。

そういう、全産業にインパクトのある特殊指定なのに、従来の蛸壺的な特殊指定と同じ感度で作ってしまっている、ということです。

こういう、独禁法2条9項6号の文言からしたらかなり無理筋な特殊指定がなされてしまうのも、今まで条文の文言を軽視してきたつけが回ってきたのかな、と思います。

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