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2026年8月16日 (日)

買いたたきに関する2024年下請法運用基準改正の問題点

2024年に下請法運用基準の買いたたきに関する第4の5⑴が、

「(1) 法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額

と改正されました。

私は、この改正は立法(ではないですが)技術的に大きな問題だと思っています。

というのは、下請法の条文上は、

①「通常支払われる対価」

と比べて、

②「下請代金の額」が「著しく低い」こと、

という2つの要素の認定が必要になっているのに、改正後の(つまり現行の)運用基準では「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」をひとまとめにしてしまっているからです。

別の言い方をすれば、

①「通常支払われる対価」

の認定を不要にしてしまっています。

これが改正前は、

「⑴法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」

という内容だったので、条文の要件に従って、「通常の対価」とは何なのかということを示す内容になっていました。

私は、こういう、複数の要件をあたかも別の1つの要件であるかのようにまとめてしまうのは、解釈の限界を超えていると思います。

このような解釈がまかりとおると、立法で緻密に定めた要件が骨抜きになって、"ガラガラポン"(総合考量)になってしまいます。

あきらかにこの改正は、イをねじ込むためになされたものです。

そのあおりを受けて、

「ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

のほうまで、必要もないのにこれをぜんぶまとめて、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

として取り扱わざるをえなくなってしまいました。

改正前は、

「従前の給付に係る単価で計算された対価」

通常の対価」

として取り扱っていたのに比べて、不明確さが増したといわざるをえません。

まだ、アのほうは、アの中に、

に比し著しく低い下請代金の額

が手つかずで残っているので、実害がないと言えばそのとおりです。

問題はイで、イを無理矢理ねじ込んだために、イにおいては何が「通常の対価」なのかが、わからなくなってしまいました。

でも、「通常の対価」(条文上は「通常支払われる対価」)がわからないのに違反認定できるということは、条文に明記された要件を認定できなくても違反認定できるということです。

これは、条文の要件を解釈で勝手に書き換えたにひとしく、大きな問題だと思います。

実際、イでは、何が「通常の対価」かとまじめに問うと、直ちに行き詰まることになります。

あえて論理的な解釈をすれば、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」

=「イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

です。

短くすると、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」=「据え置かれた下請代金の額」

です。

ここから条文上の要件である「通常支払われる対価」を導出するには、両辺から「に比し著しく低い下請代金の額 」を引いて、

「通常支払われる対価」

=「据え置かれた下請代金の額」ー「に比し著しく低い対価」

=「据え置かれた下請代金の額」+「に比し著しく高い対価」

=据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

となります。

ひらたくいえば、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

ということです。

でも、仮に、

「当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合」

であったとしても、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

なんてことは、まったくいえないと思います。

もし改正前の、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・従前の給付に係る単価で計算された対価通常の対価として取り扱う。」

という、下請法の条文に忠実な枠組みの中にイを加えたとしたら、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・

①従前の給付に係る単価で計算された対価

または、

②(コスト上昇時において)据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

を通常の対価として取り扱う。」

などと書かざるをえなかったでしょう。

そのようにすれば、イが、下請法の条文に合わないことが、一目瞭然だったはずです。

そういう難点を隠蔽するために、こういう小細工をしているわけです。

まことにけしからんことだと思います。

また、「通常支払われる対価」と「著しく低い」を、条文どおりきちんと分けて認定する方法であれば、たんに「通常支払われる対価」(たとえば、従前の対価)より低い対価を定めても、「著しく低くはない」という反論が可能でした。

ところが、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

とみなしてしまうと、据え置いた額は通常の対価よりも低いけれども、「著しく」低くはない、という反論ができなくなってしまいます。

なぜなら、イの定め方は、

「『通常の対価』がいくらかとか、『著しく』がどれくらいかはさておき、ともかく据え置いたら違法だ」

という論理であり、理由(=条文上の根拠)はさておき(=条文上の要件を認定することなく)結論は違法だ、という理屈だからです。

これではまるで、優越的地位の濫用においては条文上「優越的地位」と「濫用」をそれぞれ認定しなければならないことになっているのに、公取委のガイドラインで、「優越的地位の濫用」とひとくくりにして両者を区別せずに違反認定しているようなものです。

それで結論が妥当かどうか(妥当な場合があるかどうか、とか、多くの場合妥当か、とか)が問題なのではありません。

仮に結論としては妥当であったとしても、法文上の要件を無視していることが、問題なのです。

実にけしからんことです。

アメリカでは、司法省とFTCが合併ガイドラインで「合併規制には市場画定は不要だ」という立場を打ち出しましたが、裁判所は条文どおり、市場画定が必要だという立場を維持しています。

日本の公取委も、アメリカの裁判所をみならうべきでしょう。

また改正運用基準では、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

〔ア省略〕

イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

というのにおける、1つめの「著しく」と2つめの「著しい」が異なる意味である(と解さざるをえない)ことも問題です。

同じ言葉は同じ意味に使うのが、法律の世界では常識です。

でも、このガイドラインにおいて、2つの「著しい」を同じ意味で使っていると解釈するのは無理です。

その1つめの理由は、上昇したコスト(人件費とか、エネルギーコストとか)が、コスト全体に占める割合はさまざまだからです。

たとえば、人件費が10%上がったとしても、人件費がコストに占める割合が3割だとしたら、価格はせいぜい3%上げればすむことになります。

そうすると、仮にコストの「著しい」上昇については10%で線を引いたとして、下請代金のほうは通常より3%低いだけで「著しく」低い下請代金と認定されることになってしまいます。

これが「著しい」を二重の意味で使っているという意味です。

公取委は「『著しい』というのは定性的な意味を持つにとどまり、定量的な意味を持つものではない」と反論するかもしれませんが、それがまさに「著しく」を多義的に解しているということなのであり、けしからんポイントであるわけです。

2つめの理由は、そもそもコストが上昇したらそれに比例して価格を上げないといけないというルール自体が現実を無視しています。

上記の例を使えば、人件費がコストに占める割合が3割のときに人件費が10%上がったからといって価格を3%上げなければならないというのは、現実を無視した議論だ、ということです。

なぜなら、企業はさまざまなコスト削減努力をしているからです。

たとえば、上記の人件費のコストに占める割合が3割であるという例において、人件費について、いままで人間の作業時間(価格で測るのではなく、物理量で測るのがポイントです。)が製造1単位あたり1時間必要だったのを、製造方法の合理化によって、40分ですむようにできたとします。

そうすると、人件費が10%上がったとしても、その商品に占める人件費の絶対額は、従来の約73%(≒1.1×40÷60)ですむことになります。

つまり、人件費は27%減っていることになります。

それなのに、運用基準の、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合」

という表現をすなおに読めば、最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げなければならないように読めます(法令解釈の常識に従い、「著しい」を一義的に解した場合)。

仮に法令解釈の常識を無視して、「著しく」を多義的に(=公取委に都合よく)解したとしても、少なくともイでは、上のような数値例(絶対額では人件費が27%減っている場合)においてすら、下請代金は上げないといけないことになります(据え置くと違法になるので)。

また、人件費以外のコスト(上の例では、7割を占めるコスト)についても、コスト削減されているかもしれません。

なので、少なくとも運用基準は文字どおりに読む必要はなく、価格交渉をするなかで上記のようなコスト削減の程度などを確認したうえで、コスト削減がみとめられるのであれば、仮にイに文面上は該当する場合であったとしても、下請代金を据え置くことは買いたたきにはならない余地があると解すべきでしょう。

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