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2026年8月15日 (土)

支払特殊指定は違法です。

私は、支払特殊指定(「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」)は、独禁法2条9項6号ホで公取委に与えられた権限を越えており、違法無効であると考えています。

これまでの優越的地位の濫用の執行例や優越ガイドラインと比べても、支払特殊指定の言っていることはきわめて異質です。

独禁法2条9項6号では、

「9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

とさだめられています。

ホの文言にははっきりと書かれていませんが、これは、優越的地位の濫用に類する行為を想定しています。

でも、60日を超える弁済期が濫用行為だというのは、どう考えても無理があります。

60日を超える弁済期なんて、世の中にいくらでもあるでしょう。

たとえば70日の弁済期が、濫用行為といわれるほど違法性の強いものであるかどうかは、きわめて疑問です。

現在の法定利率は3%ですが、そうすると、60日分の利息はざっくりいって代金の0.5%にすぎません。

そんなものはたいした問題ではありません。

当事者間の代金交渉に委ねれば済む話です。

条文になぞらえていえば、60日を超える弁済期をさだめることを「地位を不当に利用」したものと決めつけるのは無理がある、ということです。

あるいは2条9項6号柱書の「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)がない、といってもよいかもしれません。

濫用行為というのは、ほんらいの取引内容から外れたところで取引相手方に不利益をあたえるものにかぎるべきです。

でも弁済期というのは、ほんらいの取引条件にかなり近いところにあります。

こんなところにまで公取委が民間の取引に介入できるというのでは、自由競争とはいえません。

60日を超える弁済期の悪質性が低いことは、これが民事訴訟で争われた場合を想像してみれば、すぐにわかります。

取引上の地位が劣った取引相手方が、優越者に、支払特殊指定違反を理由に代金が60日を超えて支払われたことについての損害賠償請求(利息相当額)の支払いを求めたとしたら、まちがいなく原告は負けるでしょう。

しょせん、弁済期なんてその程度のものです。

60日の弁済期は中小受託法にも定められていますが、あちらは法律です。

国会が決めたことだから、60日が国家による不当な介入だとかどうとか、言うことはできないのです。

これに対して公取委はたんなる行政機関です。

いち行政機関が、私的な取引条件に対して、ここまで広範な介入をすることが、独禁法2条9項6号の予定していることだとは思えません。

もし60日を超える弁済期を定めることが、「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」にあたるのだとしたら、公取委は取引条件をどうにでも定めることができることになってしまうでしょう。

たとえば、オフィスやマンションの賃料を年1%を超えて上げることが不公正な取引方法として将来指定されるかもしれません。(私はむしろ歓迎しますが。)

ほかには、転売ヤーの行為を不公正な取引方法として指定することもできるでしょう(こちらのほうが、弁済期60日超よりよっぽど悪質だと思います。)

あるいは、AIがネットの情報を作成者に無許可で学習することも、不公正な取引方法に将来指定されるかもしれません。(これは、真剣に指定を検討してもいいと思います。)

さらには、携帯会社の4年縛りが不公正な取引方法に指定されるかもしれません。

もっと現実的なところでは、弁済期60日のルールを製造委託等以外のあらゆる商取引に拡大する、ということは、ほんとうにありうるかもしれません。

まさに、all mighty Godならぬ、all mighty JFTCです。

そもそも60日を超える弁済期が濫用行為だというなら、2条9項5号の法定優越で行けばいいだけでしょう。

そうしないということが何よりも60日超の弁済期が濫用行為に該当しないこと(そして、公取委もそれをわかっていること)を裏付けています。

新聞特殊指定も物流特殊指定も大規模小売業特殊指定もそうですが、特殊指定は法定優越の特定業種における具体化にとどまるべきであって、法定優越を大きく踏み出していいはずがありません。

アメリカでは、FTCが労働者との競業避止義務を全面的に無効とする規則をさだめたのが、裁判所によって違法無効とされましたが、支払特殊指定なんて、もっとひどいと思います。

「60日ルールなんて、守るのはむずかしくないんだから、守ったらいいじゃないか。」という人がいますが、そういう問題ではありません。

むかし、私があるクライアントの依頼で、中企庁に、ある取引に対する下請法の適用の有無について電話で質問したら、下請法の該否には答えずに、

「60日以内の支払とか、守れない理由があるんですか? 守れない理由がないんだったら、守ったらいいじゃないですか。」

というむちゃくちゃな回答をした課長補佐がいましたが、それと同じです。

そういうのは法律論ではありません。

遵守が容易だとか、容易でないとか、そういう話をしているのではありません。

要件が明確だからかまわないとか、下請が強く要望しているとか、そいういう話をしているのでも、ありません。

国家のガバナンスの話をしているのです。

それだけ望ましいものだったら、国会で法律を作ればいいだけのことです。

さらに細かいことを言えば、支払特殊指定では、代金を、

「六十日の期間経過後なお支払わないこと」

が不公正な取引方法だとしており、中小受託法のように、60日を超える弁済期を定めることを不公正な取引方法としているのではありません。

なので、たんなる代金債務の履行遅滞でも、不公正な取引方法になってしまいます。

でも、たんなる代金債務の履行遅滞が「自己の取引上の地位を不当に利用」したものだというのは、無理だと思います。

私のクライアントさんでも、請求から60日を超えて(ふつうはうっかりして)報酬を払ってこられることがときどきありますが、そんなのが不公正な取引方法になってしまうわけです(弁護士への依頼はふつう「製造委託等」ではなく支払特殊指定の対象外なので、たとえ話としてお聞きください)。

60日を超えて支払われても痛くもかゆくもない、ということはいくらでもあると思います。

さらに手続的な細かいことを言うと、支払特殊指定については独禁法71条の公聴会が開かれています。

この公聴会が同条にもとづくものであることは、「「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(案)」に関する公聴会報告書」にも、

「企業取引研究会における議論を踏まえて、前記課題に対応するため、公正取引委員会は、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案を作成し、同案について、独占禁止法第71条の規定に基づき公聴会を実施した。」

と明記されています。

でも、独禁法71条では、

「公正取引委員会は、

特定の事業分野における特定の取引方法を第二条第九項第六号の規定により指定しようとするときは、

当該特定の取引方法を用いる事業者と同種の事業を営む事業者の意見を聴き、かつ、公聴会を開いて一般の意見を求め、これらの意見を十分に考慮した上で、これをしなければならない。」

とさだめられていて、特殊指定は「特定の事業分野」についてのものでなければならない(そう考えているからこそ公取委も71条の公聴会を開いた)と読めます。

でも、支払特殊指定は「特定の事業分野」についての指定ではありません。

なので、その意味でも、支払特殊指定は独禁法の想定(授権)を超えた告示であるといえると思います。

ちなみに、特殊指定の略称については、ほかの特殊指定は「新聞業特殊指定」「大規模小売業特殊指定」「物流特殊指定」というふうに、ぜんぶ「特殊指定」という表現が入っているのに、支払特殊指定については、公取委のホームページでは、「支払告示」と略称されています。

これはおそらく、「支払特殊指定」と略すると、特定の事業分野に関するものである印象が正面に出てきて、71条違反じゃないかとかいろいろボロが出るので、「業界特殊に指定する特殊指定ではないのですよ。」という印象を公取委は持たせたいのだと思います。

あるいは、「取適法」(これも「中小受託法」と略すべきです。)みたいに、「取引一般の適法性に関する法律ですよ。」(本当は製造委託等だけなのに!)という印象操作をしたくて、「支払一般に対するルールですよ」(本当は製造委託等だけなのに!)と印象付けたいのかもしれません。

でも、誰が何と言おうと、支払特殊指定は特殊指定の1つです。

そのことは、71条の公聴会が開かれていることにも裏付けられています。

(なので、このブログでは、「支払特殊指定」で通したいと思います。)

というわけで、特定の事業分野にしか作れない特殊指定として、事業分野を問わない告示を出したという点で違法である、ということも言えると思います。

私は、支払特殊指定はおそらくあまり排除措置命令による執行はなされないのではないかと思います。

理由は、命令を打つにはいかにもしょぼいからです。

注意すればほとんどの企業は従うでしょうから、命令の必要もないでしょう。

それでもやはり、私のように、支払特殊指定はおかしいと思って争う人がいたら、おそらく主な争点は優越的地位の有無になりそうですが(弁済期や正当な理由は争うことはなさそうないので)、ぜひそれだけでなく、支払特殊指定の違法性から、争ってみたらいいと思います。

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