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2026年8月 2日 (日)

買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問

YKKが2026年6月23日、買いたたきで下請法違反の勧告を受けました

ただ、その勧告書で、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

といっている部分には疑問があります。

その本題に入る前に、そもそもこの勧告書は定義語の使い方が論理的でなかったり循環していたりと、非常に出来が悪いのですが(下調、大丈夫か?)、まずはこれをこのなお書で示しておきましょう。

まず、「実際の発注単価」というのは、

本来の発注単価を下回る発注単価

と定義されていて(これがそもそもおかしいのですが、ひとまず措きます。)、「本来の発注単価」というのは、

YKK工賃を実態に即した作業可能回数で除して求めた発注単価

と定義されています。そして、「YKK工賃」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃」

と定義されており、「作業可能回数」というのは、

「1時間に行うことができる本件作業の回数」

と定義されており、「発注単価」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃(以下「YKK工賃」という。)を

1時間に行うことができる本件作業の回数(以下「作業可能回数」という。)で

除して得た額」

と定義されていています。

(つまり、発注単価〔円/個〕=1時間当たり工賃〔円/h〕÷1時間当たり作業可能回数〔個/h〕)

ということは、「実際の発注単価」(=「本来の発注単価を下回る発注単価」)というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

を下回る発注単価」

という意味になります。

以上より、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのは、

「なお、

YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

下回る発注単価

の中には、

委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

という意味になります。

要は、あるべき1時間当たり工賃(単価×1時間当たり個数)を下回る工賃が、最低賃金を下回った、ということです。

まったくもって、意味不明です。

そもそものボタンの掛け違えは、最初のほうにもちらっと触れましたが、「実際の発注単価」を「本来の発注単価を下回る発注単価」と定義してしまったことでしょう。

公取委が措置命令や勧告書でやたらとアドホックな定義語(その措置命令でしか通じない定義語)を使うようになってもうだいぶたちます。

かつては、そういう傾向に対して、読みにくいという論評もなされたものですが、最近はそういう声すら聞かなくなりました。

でも、そういうアドホックな定義語を使って書く前提として、きちんと論理的に定義語が定義されていないといけません。

はっきりいって、この勧告書は1年目のアソシエイトレベルです。

正しい論理操作ができないなら、かっこつけて定義語を使うよりも、ふつうの分かりやすい日本語で書くようにすべきだと思います。

というわけで、

「本来の発注単価を下回る発注単価(以下「実際の発注単価」という。)に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

なんていうふうに「実際の発注単価」 という定義語を導入するのではなくて、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

と書けばよく、ほかの場所で使うのでどうしても「実際の発注単価」という用語を定義したいなら、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた(以下、かかる代金の額の算定に用いられた発注単価を「実際の発注単価」という。)。」

とでもすればよかったでしょう。

そういう前提であれば、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのも、意味自体は理解可能です。

単純化のために、若干のアレンジをして式に書き直すと、

pを発注単価(円/個)、

nを実際の1時間あたり作業回数(個/h)、

wを最低賃金(円/h)

とすると、上記なお書は、

(∃p)(p<w/n)

あるいは、

(∃p)(np<w)

となります。

でも、ここで2つ疑問がわいてきます。

1つめは、上の式は、

(∃p)(p<w/n)

であって、

(∀p)(p<w/n)

ではない、ということです。

「下回るものがあった」というのと、「すべて下回っていた」というのとでは、ぜんぜん意味が違います。

もちろん、最低賃金への言及に法的基準としての意味があるとすれば、「すべて下回っていた」場合です。

ですので、これは公取委お得意の、たんなる印象操作です。

「最低賃金を下回るなんて、YKKはけしからん」と、公取委は印象付けたいわけです。

でも、一部下回っていただけでぜんぶ違反になるわけでもありませんので、「だからどうした」といいたくなります。

2つめの疑問は、工賃と最低賃金と比べることに何の意味があるのか、ということです。

たしかに、作業員1人が人力で(手作業で)作業をしていたのなら、

np<w

だと、安すぎるといえるでしょう。

でも、機械で自動的に作業ができて、その機械のコストc(電気代とか、減価償却費とか、もろもろ)が0.1w(円/h)だったら、

c=0.1w<np<w

でも、何の問題もありません。

逆に、この作業が作業員10人がかりで人手だけでやるものだったら、

np=10w

でも足りないかもしれません。

公取委は、「最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げろ」みたいな単純な発想でいるような気がしてならないのですが、下請事業者のコストは人件費だけではありません。

人件費がコストの半分だったら、上げるべき下請代金は5%でいいはずです。

この勧告のように、最低賃金と発注代金を同列にならべて比較する公取委の発想の根底には、どうも、こういう、「最低賃金が1割上がったら下請代金も1割上げるべき」という発想というか、誤解があるように思えてなりません。

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