« 2026年7月 | トップページ | 2026年9月 »

2026年8月

2026年8月29日 (土)

外国法令に準拠するための仕様の指定は製造委託か

日本では規格品として売られているものを外国法令に適合するように製造することを注文することは、中小受託法の製造委託に該当するでしょうか。

該当しないと考えられます。

前提として、日本の法令に準拠する製品を作るように指定することは、製造委託には該当しません。

日本で売るためにはその法令に適合しなければならないわけですから、発注者が指定しようがしまいがその法令に適合するように作られるべきなのですから、製造委託に該当しないことは当然のことです。

そう考えると、外国法令に準拠することは、日本の法令に準拠することと同じに考えるべきです。

なので、外国法令に準拠した製品の製造を求めることは、製造委託にはあたらないというべきです。

それに、外国法令に準拠するためにした変更以外の点においては日本国内での規格品と何ら異ならない製品は、その外国ではまさに規格品というべきであり、その意味でも製造委託にはあたらないというべきです。

これに対して、発注者の顧客が独自に定めた規格に準拠するように発注者が受託者に依頼した場合には、もちろん、製造委託に該当します。

これは、あくまで顧客という一企業が定めた規格にすぎないからです。

その規格に合わないからといって、売れなくなるようなものでもありません。

そこのところが、主権国家が定める規格とは決定的に異なるところだと思います。

そう考えていくと、業界団体が定めた規格あたりになると、やや微妙です。

日本の業界団体が定めた日本国内の規格(もちろん法的拘束力無し)の場合には、その規格が業界標準的なものになっていれば、それに準拠するよう注文することは製造委託にはあたらないというべきでしょう。

これに対して、日本の業界団体が定めた日本国内の規格であっても、推奨規格くらいの位置付けて、あまり普及していない規格だったりすると、それに合った製品の製造を依頼することは製造委託にあたるかもしれません。

外国の業界団体の規格も、これと同じと考えていいと思います。

つまり、その国で事実上の標準的な扱いになっている規格なら製造委託にはあたらないし、あまり普及していない規格なら製造委託にあたると考えられます。

ここでは、日本であるか外国であるかを区別するべきではないと考えます。

つまり、「日本企業にとっては外国の規格(国の規格であれ、業界団体の規格であれ)に合わせること自体が特注品みたいなものなので、製造委託にあたる」という考え方はまちがっているということです。

今の時代に、外国の規格に合わせることが特注品だなんていったら、笑われると思います。

委託であることを中小受託法が要求するのは、転売不能な特注品だと発注者が強い立場に立ちがちだからですが、外国の規格に準拠することを要求することで発注者がそのような意味で強い立場に立つということはないというべきです。

つまり、「外国では転売できるかもしれないけれど、日本国内では外国規格準拠品なんて転売困難だ」というような、日本中心主義みたいな考え方はとるべきではない、ということです。

人によっては、「転売困難性など諸般の事情を総合考量すべきだ」というかもしれませんが、そんなあいまいな基準を中小受託法で用いるべきではありません。

中小受託法は、あくまで明確性を追求すべきです。

その意味で、国家が定めたルールに従うことを求めることは製造委託ではない、という基準は明確で合理的だと思います。

ただし、逆に、国家でない機関が定めた基準なら常に製造委託になるのかというと、そういうわけではもちろんありません。

たとえば通信規格に関する国際機関が定める通信規格なんかは、事実上の標準ですから、これに準拠する製品の製造を求めることは製造委託には該当しません。

また、実質的なことをいえば、日本国内の受託者に外国法令準拠の製品を発注したら中小受託法が適用されるなんていうことになると、日本の発注者はますます外国の受託者に発注するようになって、国内産業の空洞化が進みます。

ただし、製造委託にあたるかどうかを分ける際に、発注者が自分で決めた仕様かどうかを基準にすべきではありません。

発注者の顧客が決めた仕様でも、文句なく製造委託にあたるからです。

これに対して、国が決めたものは誰もが従わないといけないので、発注者の顧客が決めたのとはぜんぜん違います。

ちなみに、ここで国家が決めた規格というのは、違反した場合に罰則があるようなものには限られません。

たとえばJIS規格に適語していないからと言って日本で販売できないわけではないですが、JIS規格への適合を求めることは、規格品の製造であり、製造委託には該当しないと考えられます。

というわけで、外国法令に準拠する製品の発注は、製造委託には該当しない(たんなる売買である)と考えられます。

2026年8月20日 (木)

全ての独禁法関係者が民法を学ぶべき理由

私は、すべての独禁法関係者は民法を学ぶべきだと思っています。

それはなぜかというと、民法を学ぶと法律を体系的に考える力がつくからです。

日本の民法はパンデクテン体系でできていて、総則は財産法のすべてに適用があり、債権総論はすべての債権に適用があり、契約総論はすべての契約に適用があり、というように、総論がそれ以下の各論すべてに適用される仕組みになっています。

なので、法律のプロは、契約書をみているときに、どこか頭の中で、民法総則の、たとえば法人や代理に関する規定を意識しているわけです。

むかし、私が不動産流動化の契約書を作っていた時に、依頼者の担当者の方が、おそらくは先輩の仕事の見よう見まねで、えらく細かいところにいろいろと実務的なコメントや修正をつけてくるのに(それはそれで意味があったのですが)、「そもそもこの当事者って、法人格あるんだっけ?」というところで抜けてたりということが、よくありました。

ほかには、契約当事者でない人を拘束しようとする契約書なんていうのは、法律に詳しくない人にいきなり契約書を作らせるとよくあるまちがいです。

私は京都大学の法学部生時代に商法の森本滋先生のゼミ生でしたが、確かゼミの参考文献か何かで読んだ記憶なのですが、商法の学者さん複数との座談会の中で、森本先生が、「民法の社団法人に関する規定は会社にも適用されますよね」というところから解釈論を展開されていました。

それに対して、ほかの商法学者さんたちは「そういわれてみれば確かにそうですね」という感じで、なんだか狐につままれたみたいに、あっけにとられた様子の座談会でした。

これが私には強烈に印象に残っていて、いまでも、法律は体系的に解釈しなければならないという、私の原体験になっています。

そこで問題なのが、公取委の支払特殊指定です。

特殊指定も独禁法2条9項6号にもとづくものである以上、当然、同号の範囲内でしか指定できません。

2条9項6号には、

「六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」

と書いてあるので、公取委が指定できるのも、「公正な競争を阻害するおそれがあるもの」のうちから指定できるだけです(あたりまえです)。

逆に言うと、公取委が指定したから公正競争阻害性があることになるのではない、ということです。

別の言い方をすると、支払特殊指定で60日を超える弁済期が公正競争阻害性を有するというなら、指定前から公正競争阻害性を有していたのだといえなければならないわけです。

そして、この公正競争阻害性の解釈は、あくまで国会が定めた独禁法の文言の解釈であって、公取委が自由に広げて解釈していいわけではありません。

そこを勘違いしてはいけません。

そうすると、60日を超える支払期間が公正競争阻害性がないといけないはずですが、それは無理でしょう、ということです。

常識で考えてもそうですし、かつての一般指定の優越的地位の濫用(現在の2条9条5項)と比べても、60日の支払期限というのはあまりにかけはなれているからです。

そのことは、優越ガイドラインを見ても、支払特殊指定にかすりそうな記述すらないことからもあきらかです。

60日の根拠は中小受託法であることは容易に想像できますが、いうまでもなく、中小受託法は国会がさだめた法律であり、独禁法の不公正な取引方法とは別物です。

公取委が、中小受託法を根拠に、特殊指定をしてよいはずがありません。

特殊指定の根拠はあくまで独禁法であり、中小受託法ではありません。

(これも、体系的法解釈の一例と言えば、そうでしょう。)

さらにいえば、仮に支払特殊指定の中に公正競争阻害性に関する要件が書き込まれていないとしたら(実際、書き込まれていませんが)、告示の文言をさらに2条9項6号柱書とホの要件で絞って解釈しないといけない、ということです。

これは、会社法の会社(営利社団法人)に関する条文に書いていなくても、民法の社団法人に関する規定が適用されるのと同じことです。

司法試験に合格した裁判官なら、当然、そういう発想で告示を解釈します。

というわけで、そういう議論をすっ飛ばして支払特殊指定を指定した公取委は、民法をきちんと勉強すべきだと思います。

2026年8月16日 (日)

買いたたきに関する2024年下請法運用基準改正の問題点

2024年に下請法運用基準の買いたたきに関する第4の5⑴が、

「(1) 法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額

と改正されました。

私は、この改正は立法(ではないですが)技術的に大きな問題だと思っています。

というのは、下請法の条文上は、

①「通常支払われる対価」

と比べて、

②「下請代金の額」が「著しく低い」こと、

という2つの要素の認定が必要になっているのに、改正後の(つまり現行の)運用基準では「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」をひとまとめにしてしまっているからです。

別の言い方をすれば、

①「通常支払われる対価」

の認定を不要にしてしまっています。

これが改正前は、

「⑴法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」

という内容だったので、条文の要件に従って、「通常の対価」とは何なのかということを示す内容になっていました。

私は、こういう、複数の要件をあたかも別の1つの要件であるかのようにまとめてしまうのは、解釈の限界を超えていると思います。

このような解釈がまかりとおると、立法で緻密に定めた要件が骨抜きになって、"ガラガラポン"(総合考量)になってしまいます。

あきらかにこの改正は、イをねじ込むためになされたものです。

そのあおりを受けて、

「ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額

のほうまで、必要もないのにこれをぜんぶまとめて、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

として取り扱わざるをえなくなってしまいました。

改正前は、

「従前の給付に係る単価で計算された対価」

通常の対価」

として取り扱っていたのに比べて、不明確さが増したといわざるをえません。

まだ、アのほうは、アの中に、

に比し著しく低い下請代金の額

が手つかずで残っているので、実害がないと言えばそのとおりです。

問題はイで、イを無理矢理ねじ込んだために、イにおいては何が「通常の対価」なのかが、わからなくなってしまいました。

でも、「通常の対価」(条文上は「通常支払われる対価」)がわからないのに違反認定できるということは、条文に明記された要件を認定できなくても違反認定できるということです。

これは、条文の要件を解釈で勝手に書き換えたにひとしく、大きな問題だと思います。

実際、イでは、何が「通常の対価」かとまじめに問うと、直ちに行き詰まることになります。

あえて論理的な解釈をすれば、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」

=「イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

です。

短くすると、

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」=「据え置かれた下請代金の額」

です。

ここから条文上の要件である「通常支払われる対価」を導出するには、両辺から「に比し著しく低い下請代金の額 」を引いて、

「通常支払われる対価」

=「据え置かれた下請代金の額」ー「に比し著しく低い対価」

=「据え置かれた下請代金の額」+「に比し著しく高い対価」

=据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

となります。

ひらたくいえば、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

ということです。

でも、仮に、

「当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合」

であったとしても、

据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価が、通常支払われる対価だ

なんてことは、まったくいえないと思います。

もし改正前の、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・従前の給付に係る単価で計算された対価通常の対価として取り扱う。」

という、下請法の条文に忠実な枠組みの中にイを加えたとしたら、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、・・・

①従前の給付に係る単価で計算された対価

または、

②(コスト上昇時において)据え置かれた下請代金の額に比し著しく高い対価

を通常の対価として取り扱う。」

などと書かざるをえなかったでしょう。

そのようにすれば、イが、下請法の条文に合わないことが、一目瞭然だったはずです。

そういう難点を隠蔽するために、こういう小細工をしているわけです。

まことにけしからんことだと思います。

また、「通常支払われる対価」と「著しく低い」を、条文どおりきちんと分けて認定する方法であれば、たんに「通常支払われる対価」(たとえば、従前の対価)より低い対価を定めても、「著しく低くはない」という反論が可能でした。

ところが、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額

とみなしてしまうと、据え置いた額は通常の対価よりも低いけれども、「著しく」低くはない、という反論ができなくなってしまいます。

なぜなら、イの定め方は、

「『通常の対価』がいくらかとか、『著しく』がどれくらいかはさておき、ともかく据え置いたら違法だ」

という論理であり、理由(=条文上の根拠)はさておき(=条文上の要件を認定することなく)結論は違法だ、という理屈だからです。

これではまるで、優越的地位の濫用においては条文上「優越的地位」と「濫用」をそれぞれ認定しなければならないことになっているのに、公取委のガイドラインで、「優越的地位の濫用」とひとくくりにして両者を区別せずに違反認定しているようなものです。

それで結論が妥当かどうか(妥当な場合があるかどうか、とか、多くの場合妥当か、とか)が問題なのではありません。

仮に結論としては妥当であったとしても、法文上の要件を無視していることが、問題なのです。

実にけしからんことです。

アメリカでは、司法省とFTCが合併ガイドラインで「合併規制には市場画定は不要だ」という立場を打ち出しましたが、裁判所は条文どおり、市場画定が必要だという立場を維持しています。

日本の公取委も、アメリカの裁判所をみならうべきでしょう。

また改正運用基準では、

「ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。

〔ア省略〕

イ 当該給付に係る主なコスト・・・の著しい上昇を・・・公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」

というのにおける、1つめの「著しく」と2つめの「著しい」が異なる意味である(と解さざるをえない)ことも問題です。

同じ言葉は同じ意味に使うのが、法律の世界では常識です。

でも、このガイドラインにおいて、2つの「著しい」を同じ意味で使っていると解釈するのは無理です。

その1つめの理由は、上昇したコスト(人件費とか、エネルギーコストとか)が、コスト全体に占める割合はさまざまだからです。

たとえば、人件費が10%上がったとしても、人件費がコストに占める割合が3割だとしたら、価格はせいぜい3%上げればすむことになります。

そうすると、仮にコストの「著しい」上昇については10%で線を引いたとして、下請代金のほうは通常より3%低いだけで「著しく」低い下請代金と認定されることになってしまいます。

これが「著しい」を二重の意味で使っているという意味です。

公取委は「『著しい』というのは定性的な意味を持つにとどまり、定量的な意味を持つものではない」と反論するかもしれませんが、それがまさに「著しく」を多義的に解しているということなのであり、けしからんポイントであるわけです。

2つめの理由は、そもそもコストが上昇したらそれに比例して価格を上げないといけないというルール自体が現実を無視しています。

上記の例を使えば、人件費がコストに占める割合が3割のときに人件費が10%上がったからといって価格を3%上げなければならないというのは、現実を無視した議論だ、ということです。

なぜなら、企業はさまざまなコスト削減努力をしているからです。

たとえば、上記の人件費のコストに占める割合が3割であるという例において、人件費について、いままで人間の作業時間(価格で測るのではなく、物理量で測るのがポイントです。)が製造1単位あたり1時間必要だったのを、製造方法の合理化によって、40分ですむようにできたとします。

そうすると、人件費が10%上がったとしても、その商品に占める人件費の絶対額は、従来の約73%(≒1.1×40÷60)ですむことになります。

つまり、人件費は27%減っていることになります。

それなのに、運用基準の、

「イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合」

という表現をすなおに読めば、最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げなければならないように読めます(法令解釈の常識に従い、「著しい」を一義的に解した場合)。

仮に法令解釈の常識を無視して、「著しく」を多義的に(=公取委に都合よく)解したとしても、少なくともイでは、上のような数値例(絶対額では人件費が27%減っている場合)においてすら、下請代金は上げないといけないことになります(据え置くと違法になるので)。

また、人件費以外のコスト(上の例では、7割を占めるコスト)についても、コスト削減されているかもしれません。

なので、少なくとも運用基準は文字どおりに読む必要はなく、価格交渉をするなかで上記のようなコスト削減の程度などを確認したうえで、コスト削減がみとめられるのであれば、仮にイに文面上は該当する場合であったとしても、下請代金を据え置くことは買いたたきにはならない余地があると解すべきでしょう。

2026年8月15日 (土)

支払特殊指定は違法です。

私は、支払特殊指定(「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」)は、独禁法2条9項6号ホで公取委に与えられた権限を越えており、違法無効であると考えています。

これまでの優越的地位の濫用の執行例や優越ガイドラインと比べても、支払特殊指定の言っていることはきわめて異質です。

独禁法2条9項6号では、

「9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

とさだめられています。

ホの文言にははっきりと書かれていませんが、これは、優越的地位の濫用に類する行為を想定しています。

でも、60日を超える弁済期が濫用行為だというのは、どう考えても無理があります。

60日を超える弁済期なんて、世の中にいくらでもあるでしょう。

たとえば70日の弁済期が、濫用行為といわれるほど違法性の強いものであるかどうかは、きわめて疑問です。

現在の法定利率は3%ですが、そうすると、60日分の利息はざっくりいって代金の0.5%にすぎません。

そんなものはたいした問題ではありません。

当事者間の代金交渉に委ねれば済む話です。

条文になぞらえていえば、60日を超える弁済期をさだめることを「地位を不当に利用」したものと決めつけるのは無理がある、ということです。

あるいは2条9項6号柱書の「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)がない、といってもよいかもしれません。

濫用行為というのは、ほんらいの取引内容から外れたところで取引相手方に不利益をあたえるものにかぎるべきです。

でも弁済期というのは、ほんらいの取引条件にかなり近いところにあります。

こんなところにまで公取委が民間の取引に介入できるというのでは、自由競争とはいえません。

60日を超える弁済期の悪質性が低いことは、これが民事訴訟で争われた場合を想像してみれば、すぐにわかります。

取引上の地位が劣った取引相手方が、優越者に、支払特殊指定違反を理由に代金が60日を超えて支払われたことについての損害賠償請求(利息相当額)の支払いを求めたとしたら、まちがいなく原告は負けるでしょう。

しょせん、弁済期なんてその程度のものです。

60日の弁済期は中小受託法にも定められていますが、あちらは法律です。

国会が決めたことだから、60日が国家による不当な介入だとかどうとか、言うことはできないのです。

これに対して公取委はたんなる行政機関です。

いち行政機関が、私的な取引条件に対して、ここまで広範な介入をすることが、独禁法2条9項6号の予定していることだとは思えません。

もし60日を超える弁済期を定めることが、「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」にあたるのだとしたら、公取委は取引条件をどうにでも定めることができることになってしまうでしょう。

たとえば、オフィスやマンションの賃料を年1%を超えて上げることが不公正な取引方法として将来指定されるかもしれません。(私はむしろ歓迎しますが。)

ほかには、転売ヤーの行為を不公正な取引方法として指定することもできるでしょう(こちらのほうが、弁済期60日超よりよっぽど悪質だと思います。)

あるいは、AIがネットの情報を作成者に無許可で学習することも、不公正な取引方法に将来指定されるかもしれません。(これは、真剣に指定を検討してもいいと思います。)

さらには、携帯会社の4年縛りが不公正な取引方法に指定されるかもしれません。

もっと現実的なところでは、弁済期60日のルールを製造委託等以外のあらゆる商取引に拡大する、ということは、ほんとうにありうるかもしれません。

まさに、all mighty Godならぬ、all mighty JFTCです。

そもそも60日を超える弁済期が濫用行為だというなら、2条9項5号の法定優越で行けばいいだけでしょう。

そうしないということが何よりも60日超の弁済期が濫用行為に該当しないこと(そして、公取委もそれをわかっていること)を裏付けています。

新聞特殊指定も物流特殊指定も大規模小売業特殊指定もそうですが、特殊指定は法定優越の特定業種における具体化にとどまるべきであって、法定優越を大きく踏み出していいはずがありません。

アメリカでは、FTCが労働者との競業避止義務を全面的に無効とする規則をさだめたのが、裁判所によって違法無効とされましたが、支払特殊指定なんて、もっとひどいと思います。

「60日ルールなんて、守るのはむずかしくないんだから、守ったらいいじゃないか。」という人がいますが、そういう問題ではありません。

むかし、私があるクライアントの依頼で、中企庁に、ある取引に対する下請法の適用の有無について電話で質問したら、下請法の該否には答えずに、

「60日以内の支払とか、守れない理由があるんですか? 守れない理由がないんだったら、守ったらいいじゃないですか。」

というむちゃくちゃな回答をした課長補佐がいましたが、それと同じです。

そういうのは法律論ではありません。

遵守が容易だとか、容易でないとか、そういう話をしているのではありません。

要件が明確だからかまわないとか、下請が強く要望しているとか、そいういう話をしているのでも、ありません。

国家のガバナンスの話をしているのです。

それだけ望ましいものだったら、国会で法律を作ればいいだけのことです。

さらに細かいことを言えば、支払特殊指定では、代金を、

「六十日の期間経過後なお支払わないこと」

が不公正な取引方法だとしており、中小受託法のように、60日を超える弁済期を定めることを不公正な取引方法としているのではありません。

なので、たんなる代金債務の履行遅滞でも、不公正な取引方法になってしまいます。

でも、たんなる代金債務の履行遅滞が「自己の取引上の地位を不当に利用」したものだというのは、無理だと思います。

私のクライアントさんでも、請求から60日を超えて(ふつうはうっかりして)報酬を払ってこられることがときどきありますが、そんなのが不公正な取引方法になってしまうわけです(弁護士への依頼はふつう「製造委託等」ではなく支払特殊指定の対象外なので、たとえ話としてお聞きください)。

60日を超えて支払われても痛くもかゆくもない、ということはいくらでもあると思います。

さらに手続的な細かいことを言うと、支払特殊指定については独禁法71条の公聴会が開かれています。

この公聴会が同条にもとづくものであることは、「「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(案)」に関する公聴会報告書」にも、

「企業取引研究会における議論を踏まえて、前記課題に対応するため、公正取引委員会は、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案を作成し、同案について、独占禁止法第71条の規定に基づき公聴会を実施した。」

と明記されています。

でも、独禁法71条では、

「公正取引委員会は、

特定の事業分野における特定の取引方法を第二条第九項第六号の規定により指定しようとするときは、

当該特定の取引方法を用いる事業者と同種の事業を営む事業者の意見を聴き、かつ、公聴会を開いて一般の意見を求め、これらの意見を十分に考慮した上で、これをしなければならない。」

とさだめられていて、特殊指定は「特定の事業分野」についてのものでなければならない(そう考えているからこそ公取委も71条の公聴会を開いた)と読めます。

でも、支払特殊指定は「特定の事業分野」についての指定ではありません。

なので、その意味でも、支払特殊指定は独禁法の想定(授権)を超えた告示であるといえると思います。

ちなみに、特殊指定の略称については、ほかの特殊指定は「新聞業特殊指定」「大規模小売業特殊指定」「物流特殊指定」というふうに、ぜんぶ「特殊指定」という表現が入っているのに、支払特殊指定については、公取委のホームページでは、「支払告示」と略称されています。

これはおそらく、「支払特殊指定」と略すると、特定の事業分野に関するものである印象が正面に出てきて、71条違反じゃないかとかいろいろボロが出るので、「業界特殊に指定する特殊指定ではないのですよ。」という印象を公取委は持たせたいのだと思います。

あるいは、「取適法」(これも「中小受託法」と略すべきです。)みたいに、「取引一般の適法性に関する法律ですよ。」(本当は製造委託等だけなのに!)という印象操作をしたくて、「支払一般に対するルールですよ」(本当は製造委託等だけなのに!)と印象付けたいのかもしれません。

でも、誰が何と言おうと、支払特殊指定は特殊指定の1つです。

そのことは、71条の公聴会が開かれていることにも裏付けられています。

(なので、このブログでは、「支払特殊指定」で通したいと思います。)

というわけで、特定の事業分野にしか作れない特殊指定として、事業分野を問わない告示を出したという点で違法である、ということも言えると思います。

私は、支払特殊指定はおそらくあまり排除措置命令による執行はなされないのではないかと思います。

理由は、命令を打つにはいかにもしょぼいからです。

注意すればほとんどの企業は従うでしょうから、命令の必要もないでしょう。

それでもやはり、私のように、支払特殊指定はおかしいと思って争う人がいたら、おそらく主な争点は優越的地位の有無になりそうですが(弁済期や正当な理由は争うことはなさそうないので)、ぜひそれだけでなく、支払特殊指定の違法性から、争ってみたらいいと思います。

2026年8月11日 (火)

支払特殊指定の「受託事業者」の定義の立証責任

2027年4月1日に施行される支払特殊指定(「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」)では、「受託事業者」が、

「当該製造委託等〔注・中小受託法2条6項の製造委託等〕を受けた事業者(その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く

と定義されています。

この、「劣っていないと認められる者を除く」という、二重否定のような回りくどい表現が、何か立証責任を転換している(受託事業者が委託事業者に劣っていないことを委託事業者が主張立証する責任を負う)かのような印象を与えます。

では実際どうなのでしょうか。

この点については、パブコメでも意見が出ています。

すなわち、パブコメ10番では、

「・「取引上の地位が…劣っていない」に関して、相手方との間に取引上優越した地位があることの立証責任を、違反を主張する当局側ではなく、被疑行為者側に転換する旨の規定であるようにも読めるが、そのような趣旨か。

仮にそのような趣旨ではない場合には、このような規定ではなく、取引上優越した地位にある場合にのみ規制対象とすることを明確にする規定とすべきではないか。」

というコメントが出され、これに対して公取委は、

「「製造委託等」の取引では、委託が反復継続的となり受注者の発注者に対する取引依存度が高くなる傾向があるなど、取引先変更の可能性が低くなりやすい構造にあるため、類型的に発注者が優位に立ちやすい傾向が認められます。

ただし、対等又は対等以上の取引上の地位にある受注者と取引する場合にまで規制を及ぼす必要があるとまでは考えられないため、このような受注者が除外される旨を規定することとしています。」

と、「立証責任を転換する趣旨か」という質問には、正面から回答していません。

このあたりはほんとうにずるいというか、せこいと思います。

立証責任が転換されていると国民が誤解する(ひょっとしたら、同等の相手方にも60日以内に支払わないといけないとまで誤解する)ことを期待して印象操作をしているとしか思えません。

ただし、これだけはっきり質問されているのに答えないということは、立証責任を転換する趣旨ではないとみて間違いないでしょう。

つまり、立証責任を意図した規定なのかと質問されているのに立証責任について何ら触れないということは、立証責任を意図した規定ではない、ということです。

そもそも、この規定ぶりは大規模小売業告示の備考3の、

「この告示において「納入業者」とは、大規模小売業者又はその加盟者が自ら販売し、又は委託を受けて販売する商品を当該大規模小売業者又は当該加盟者に納入する事業者

(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)

をいう。」

というのと同じ規定ぶりであって、とくに目新しいものでもありません。

ちなみに、この大規模小売業告示については、立案担当者の解説(粕渕『大規模小売業告示の解説』38頁)で、

「納入業者の取引上の地位について、百貨店業告示では、納入業者を「その取引上の地位が当該百貨店業者に対して劣っているものをいう。」と積極的に規定していたが、本告示では「(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)」と消極要件にしている。」

と解説されています。

(参考までに百貨店業告示の備考二の全文をあげておくと、

「この告示において「納入業者」とは、百貨店業者が自ら販売し、または委託を受けて販売する商品を百貨店業者に納入する事業者であって、その取引上の地位が当該百貨店業者に対して劣っているものをいう。」

です。)

ただし、「消極要件」というのが何を意味するのかの説明はありませんし(たんに、「除く」なので消極だ、という意味でしょう。)、どうして積極的な規定から消極要件に変えたのかも、説明はありません。

ともかく、百貨店業告示から大規模小売業告示に変わって納入業者についての立証責任が転換されたという話は聞いたことがありませんし、支払特殊指定がとくに目新しいことをしようとしているわけでもありませんので、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く

というのは、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていと認められる者に限る

と読み替えて何の問題もないと考えられます。 

またそもそも、このような定義規定の中で用いられる「に限る」「を除く」という文言が、立証責任を左右するものであるとの議論もありません。

この点は、条文の本文は原告が、ただし書は被告が立証責任を負うという議論がなされているのと混同してはいけません。

定義規定は、その法令におけるある概念を定義する規定なわけですから、むしろ要件事実的には、その定義規定で定義された概念(「納入業者」)から生じる効果を主張する者が、その概念の存在を立証する責任を負うのは当然のことであると考えられます。

つまり、定義規定で定義された概念は1かたまりの概念であり、「除く」とか「限る」とかの些末な表現のためにその概念をさらに細分化して細分化された「サブ概念」のようなものの立証責任を云々すべきではない、ということです。

もし公取委が立証責任を転換したかったのであれば、たとえば、

「製造委託等・・・をした事業者・・・が、当該製造委託等を受けた事業者(以下「受託事業者」という。)に対し、当該製造委託等に係る給付・・・に対し支払うべき代金を、その給付を受領した日・・・から起算して六十日の期間経過後なお支払わないこと。

ただし、受託事業者の取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる場合 または当該代金を当該期間内に支払わないことについて正当な理由がある場合を除く。」

とでもすればよかったのです。

(ただし、このような規定ぶりにしたからと言って、裁判所が立証責任の転換をみとめるとはかぎりません。きっと認めないでしょう。ということは、「正当な理由」についても、正当な理由の不存在を公取委が立証すべきということです。)

この「限る」と「除く」について論じている文献はあまり多くありませんが、平野敏彦「をいう・という・含む・除く・限る : 法令用語釈義 その6」58頁では、

「定義規定のうち,「を含む」で指示された結果は,元の被定義項を拡張解釈した場合の結果と同じものとなる。裁判官や学者などの解釈者は,用語の意義を把握するために,解釈という作業を行う。それに対して,立法者が,解釈者の差異により発生するおそれのある疑義を予め解消するために,解釈と同じ思考操作を指示をしたと見ることができる。

 同様に,「を除く」は縮小解釈,「限定する」〔注・「限る」の誤記?〕は限定解釈の指示だと言える。「にあっては」等は一定の場合についての読替えの指示だと解すれば,類推解釈の指示だと言えよう。(もっとも,条文の中での読替えが,立法者によって指示されている場合だとすれば,むしろ「準用」の指示と見てよい。)」

と述べられています。

つまり「除く」も「限る」も、ふつうに理解される用語の意味(ここでは「受託事業者」)を縮小ないし限定解釈せよとの指示だ、ということで、それ以上の意味はありません。

大島『法令起案マニュアル』199頁では、

「また、ある規定において特に用語の概念に変更を加える場合や、同じ法令内の用語であっても、ある規定ではその内容を拡大したり、逆に他の規定においてはその内容を限定・縮小したりする場合がある。

これも広い意味で定義規定ということができる。

このような規定では、(  )内で「含む」「限る」「除く」という語句が用いられる。」

と説明されています。

つまり、それ以上の、たとえば立証責任とか、深い意味はなさそうです。

なお、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く」・・・①

から、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていと認められる者に限る」・・・②

への読み替えは、純粋に論理的なものなので、「同等の者はどうなんだ?」という疑問は問題になりません。

つまり、①は、

委託事業者から製造委託を受けた者ーその取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていない者=受託事業者

であり、これを変形すると、

委託事業者から製造委託を受けた者ー(委託事業者から製造委託を受けた者ーその取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っている、委託事業者から製造委託を受けた者)=受託事業者

となり、さらに変形すると、

委託事業者から製造委託を受けた者ー(委託事業者から製造委託を受けた者ーその取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っている、委託事業者から製造委託を受けた者)=受託事業者

となり、簡単にすると、

その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っている、委託事業者から製造委託を受けた者=受託事業者

となり、これは結局、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていと認められる者に限る」・・・②

と同じ意味になります。

さらに念のためですが、

「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者」

には、文言上、同等の者が含まれます。

なぜなら、同等の者は、「劣っていない」からです(当たり前です)。

というわけで、「同等の者にも60日以内に支払わないといけないのか?」というのは、杞憂です。

さらにダメ押ししておくと、大規模小売業告示では、売上や店舗面積が一定の基準以上であることが「大規模小売業者」の要件になっています。

つまり、それだけで優越的地位を推認させる条件がビルトインされています。

これに対して支払特殊指定では、企業規模の縛りは何もなく、たんに「製造委託等」だというだけです。

上記パブコメ回答は、

「「製造委託等」の取引では、委託が反復継続的となり受注者の発注者に対する取引依存度が高くなる傾向があるなど、取引先変更の可能性が低くなりやすい構造にあるため、類型的に発注者が優位に立ちやすい傾向が認められます。」

といいますが、これだけで優越的地位を推認するというのは、かなり無理筋の理屈です。

中小受託法ですら、「製造委託等」であることにくわえて、資本金基準と従業員基準で縛りをかけているわけです。

それが、支払特殊指定では、「製造委託等」だけなわけですから、それだけで優越的地位を推認するのは無理があります。

(実はこれが支払特殊指定の一番の理論的な問題だと思います。)

少なくとも、大規模小売業告示においては、流通における日用品の大規模な小売業者の地位からすれば納入業者に対して優越的地位にありそうだ、ということがかなり言えそうです。

そのうえでの

3 この告示において「納入業者」とは、大規模小売業者又はその加盟者が自ら販売し、又は委託を受けて販売する商品を当該大規模小売業者又は当該加盟者に納入する事業者(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)をいう。」

という規定ですら、立証責任を転換するとは考えられていないわけです。

これに対して、何ら業種も絞っていない支払特殊指定において、たんに「製造委託等」だからというだけの理由で優越的地位を推認するというのは、もともと無理があります。

ということは、取引上劣った地位にあるかどうかの立証責任を企業側に負わせる前提が、大規模小売業告示以上に、まったくない、ということです。

よって、大規模小売業告示ですら立証責任の転換は行われていない以上、支払特殊指定において立証責任の転換が行なわれることはよりいっそう考えにくい、ということになります。

当たり前のことを当たり前に言うことも大事だと思うので、以上のとおりまとめておきました。

2026年8月 8日 (土)

支払特殊指定の根本的問題点

来年4月1日から施行される支払特殊指定(「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」)をあらためて見ていて思うのですが、公取委の特殊指定のプラクティスは平気で独禁法の授権を超えるのが常態化しており、大きな問題だと思います。

支払特殊指定の根拠規定である独禁法2条9項6号ホでは、

「9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

〔1~5号省略〕

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」

と定められています。

つまり、公取委が特殊指定をすることができる行為は、2条9項6号イ~ヘの「いずれかに該当する行為」にかぎられます。

イ~ヘのいずれかに該当する行為の中から、公取委が指定してはじめて、不公正な取引方法になるのです。

そして、独禁法2条9項6号ホでは、

「ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

と定められています。

ですでの、ホにもとづいて公取委が指定できる「行為」は、論理的に、自己の取引上の地位を不当に利用してする行為であることに限定されます。

なのに、支払特殊指定では、

「製造委託等

(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

(昭和三十一年法律第百二十号。以下「取適法」という。)

第二条第六項に規定する製造委託等をいう。)

をした事業者

(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律

(昭和二十四年法律第二百五十六号)

第十四条に規定する者を除く。

以下「委託事業者」という。)

が、

当該製造委託等を受けた事業者

(その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く。

以下「受託事業者」という。)

に対し、

当該製造委託等に係る給付

(役務提供委託

(取適法第二条第四項に規定する役務提供委託をいう。以下同じ。)

又は特定運送委託

(同条第五項に規定する特定運送委託をいう。以下同じ。)

の場合にあっては、役務の提供。以下同じ。)

に対し支払うべき代金を、

その給付を受領した日

(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた日)

から起算して六十日の期間経過後なお支払わないこと。

ただし、当該代金を当該期間内に支払わないことについて正当な理由がある場合は、この限りでない。」

と定められているだけであり、どこにも「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」という要件に相当する文言が出てきません。

どうも公取委(ひょっとしたら、ほとんどの独禁法関係者)は、

「ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」

という文言の背後に、何か優越的地位の濫用的な実体をイメージ(妄想)し、そのイメージから特殊指定を導いているような気がしてなりません。

それは、物流特殊指定も同じです。

でも、そういうイメージは、条文のどこにもかいてありません。

たんなる、集団的妄想です。

独禁法は公取委に特殊指定の権限を白紙委任しているわけではなくて、あくまで委任されているのは2条9項6号の文言の範囲内であることは、条文を読めばあきらかです。

なので、仮に支払特殊指定のような特殊指定を受け入れるとしても、論理の問題として(as a matter of logic)、指定されているのは取引上の地位を不当に利用してする行為にかぎられると(そうは書いていませんが)解釈すべきです。

どうも、独禁法界隈の人たちは、条文を読まないので、困ったものです。

こういう問題が支払特殊指定で特に目立つのは、同指定で指定されている行為は、優越的地位の濫用でいうところの濫用行為のような、いかのも悪そうな行為ではないことです。

ふつうに考えて、支払日が60日を超えたら正当な商慣習に違反するなんて、一般論としてはとうていいえないでしょう。

支払いまでの期間が60日を超えたら当然に取引上の地位を不当利用したとみなすというのは、それ以上に無理があると思います。

もう1つ支払特殊指定の問題点は、適用範囲が他の特殊指定(物流、大規模店舗、新聞)に比べて、きわめて広いことです。

これまでの特殊指定は、業界が限られていました。

ところが、支払特殊指定には業界の限定がありません。

あるのは、中小受託法の製造委託等にあたることという縛りだけですが、製造委託だけだったらまだしも、役務提供委託や情報成果物作成委託も入るのですから、適用範囲はかなり広くなります。

そもそも支払特殊指定はサプライチェーン全体での価格転嫁を後押しする目的でできたものです。

従来の下請法では、たとえば自動車メーカーとTier1のサプライヤーの間には、Tier1の資本金が大きいために下請法が適用されず、にもかかわらずその下のTier2との取引には下請法が適用される、ということで、間に挟まれたTier1のような会社が板挟みにあう、ということが問題だといわれていました。

ですが、もちろん支払特殊指定の対象は、そんな「板挟み」に会っているメーカーだけではありません。

しかも、自分より企業規模が小さな会社は原則として取引上の地位が劣っているという解釈をとると、同特殊指定の適用範囲はきわめて広くなります。

そういう、全産業にインパクトのある特殊指定なのに、従来の蛸壺的な特殊指定と同じ感度で作ってしまっている、ということです。

こういう、独禁法2条9項6号の文言からしたらかなり無理筋な特殊指定がなされてしまうのも、今まで条文の文言を軽視してきたつけが回ってきたのかな、と思います。

2026年8月 6日 (木)

どのくらい値下げ要求をすると中小受託法の買いたたきになるのか(それとKADOKAWA担当官解説について)

最近、値下げを求めたら中小受託法(または旧下請法)の買いたたきで勧告が出るケースが増えています。

では、どれくらい値下げをさせたら買いたたきになるのでしょうか。

(なお、量産品前提の価格で補修部品を発注したパターンは全く前提が異なりますので、今回は値下げ前後で同じ取引である場合を前提にします。)

KADOKAWAに対する2024年11月12日勧告では、

「KADOKAWAは、令和5年1月、レタスクラブ事業における販売収入や広告収入が減少傾向にある中、資材費、輸送費等のコストも上昇しているとして、自社の収益改善を図るため、本件業務を下請事業者に委託する際の発注単価を改定する旨を記載した「原稿料改定のお知らせ」と題する文書を下請事業者に通知した上で、下請事業者と十分な協議を行うことなく、

当該発注単価を従前の単価から約6.3パーセントないし約39.4パーセント引き下げることを一方的に決定し、令和5年4月発売号以降のレタスクラブに係る本件業務を下請事業者(26名)に委託する際に、当該引下げ後の単価を適用した。」

という事実が買いたたきになっています。

というわけで、従前から6.3%くらいの値下げ要求で買いたたきになっています。

ではほかの事例はどうなのかというと、ホーチキメンテナンスセンターに対する2007年12月6日勧告の公取委プレスリリースでは、

「ア ホーチキメンテナンスセンターは,⾃社の経費削減を図るため,下請事業者に対して,「出精値引」と称して,下請代⾦の額に⼀定率(10.5パーセントから17.5パーセントの間の率をいう。以下同じ。)を乗じて得た額を負担するよう要請し,平成18年1⽉から同19年4⽉までの間,下請代⾦の額に⼀定率を乗じて得た額を当該下請事業者に⽀払うべき下請代⾦の額から差し引くことにより,下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,当該下請事業者に⽀払うべき下請代⾦の額を減じていた」

「イ ホーチキメンテナンスセンターは,本件について,当委員会が下請法の規定に基づき調査を開始したことから,前記アの⾏為を取りやめることとした上で,下請事業者に対して,それぞれの事業者と⼗分な協議を⾏うことなく⼀⽅的に,平成19年4⽉末⽇⽀払分まで下請代⾦の額から⼀定率を乗じて得た額を差し引いて⽀払っていた額を,⼀律に,そのまま同年5⽉末⽇以降に⽀払う下請代⾦の額とすることを定めた。

 当該下請代⾦の額は,下請事業者の給付の内容と同種⼜は類似の内容の給付に対し通常⽀払われる対価に⽐し著しく低いものであった。」

という事案で、10.5%の実質的な値下げ要求で買いたたきに認定されていますが、これは、代金減額の脱法的な行為についていわば公取委が見せしめ的に買いたたきを認定したものであり、あまり参考にはならないと思います(この事例の当時10.5%の値下げで買いたたきになるとは、誰も思っていなかったと思います。)

次に、大創産業に対する2014年7月15日勧告では、

「(2) 商品の売行きが悪いことを理由として,発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59パーセントから約67パーセント引き下げた単価を定めて発注した。」

とされており、59%の値引き要求で買いたたきになっています。

(「商品の売行きが悪いことを理由として」という記載からすると、取引実績はあって、それがあまり売れないので、値下げ要求に至った、ということでしょう。)

次に、工機ホールディングスに対する2023年3月27日勧告では、

「⑴ 工機ホールディングスは、子会社又は卸売業者に販売する電動工具向けホースカバーセット(以下「ホースカバーセット」という。)の製造を個人たる事業者(以下「本件下請事業者」という。)に委託していた。

⑵ア 本件下請事業者は、ホースカバーセットの原材料価格の上昇等を背景として、製造原価割れが生じることが明らかであると認識したことから、令和2年12月から令和3年1月までの間に、工機ホールディングスに対して、ホースカバーセットの単価の引上げを求める見積書を提出した。

 イ 工機ホールディングスは、本件下請事業者が提示した見積単価では自社の利益に与える影響が大きく、また、本件下請事業者から単価引上げが必要な理由が十分示されていないと考えていたが、価格交渉が長期化すると自社の生産活動に影響が生じかねないことを踏まえ、令和3年1月12日頃、本件下請事業者に対して、自社の利益を優先し、本件下請事業者の製造原価等を考慮することなく、単に区切りがよいとして設定した金額を提示した上、実際には具体的な単価引上げの計画などなかったにもかかわらず、今後、段階的に単価を引き上げる旨を伝えた。

   なお、このとき工機ホールディングスが提示した金額は、本件下請事業者によるホースカバーセットの見積単価よりも約46パーセント少ない金額であった。

 ウ 本件下請事業者は、前記イで工機ホールディングスから提示された金額では製造原価割れが継続すると認識していたものの、工機ホールディングスから伝えられた、段階的に単価を引き上げる旨の言動を信頼し、令和3年1月22日頃、前記イで工機ホールディングスから提示された金額を記載した見積書を再提出した。

 エ 工機ホールディングスは、前記ウで再提出された見積書を用いて単価改定の社内稟議を行い、令和3年1月29日から新単価を適用した。これにより、ホースカバーセットの単価は、従来と比較して約17パーセント上昇したが、当該新単価でも本件下請事業者の製造原価を下回っていた

⑶ 工機ホールディングスは、前記⑵イの言動に反して、令和3年1月29日以降、本件下請事業者に対するホースカバーセットの単価を引き上げることはなかった。

⑷ ホースカバーセットの製造は、本件下請事業者に生じた事由により、一定数量納品したところで、他の事業者に引き継がれることになった。工機ホールディングスが、令和4年5月18日に、当該他の事業者と価格協議を行って定めたホースカバーセットの単価は、前記⑵エの新単価の3倍を超える額であった。」

という、ちょっと変わった事例で買いたたきが認定されていて、従来よりも17%上昇したのに、それでも原価割れであったことから、買いたたきと認定されています。

元の価格が原価割れで、上げた後の価格も原価割れ、ということなら、従来から値上げした場合でも買いたたきになってしまうのはやむをえないところでしょうか。

次に、ビッグモーターに対する2024年3月15日勧告では、

「ア ビッグモーターは、創業者である前代表取締役社長が中心となって策定した「経営計画書」において、「借入金利、陸送費など事業活動に必要なあらゆる経費は、しつこいぐらい値切る」と定めていた。

また、ビッグモーターは、営業本部の一部の者と関西・北陸エリアの販売店の店長が業務上のやりとりを行うメッセージアプリのグループにおいて、令和3年3月10日、当時の営業本部次長から各店長に対し、コーティング加工の施工料金について「各店、施工料金がバラバラなので、形状ごとの最安値の金額に価格交渉して合わせてもらいましょう」と指示しているところ、

翌日には複数の店長から従来の施工料金よりも11.1パーセントから33.3パーセント引き下がった旨の報告が行われていた。このような状況の下、本件では次のイの事実が確認されている。

イ 単価の一方的な引下げ

   ビッグモーターは、令和3年12月頃、前記アにおいて営業本部次長であった当時の店長から、下請事業者に対し、営業本部等の意向を踏まえたコーティング加工の発注単価の引下げを要請し、従来単価から27.7パーセント引き下げた単価を設定した(下請事業者1名)。」

という事実で、買いたたきが認定されています。

なお、11.1%のほうは、そういう社内報告があったという認定にすぎないので、買いたたきが認定されたのは27.7%のほうだけです。

というわけで、工機ホールディングスの原価割れという特殊な場合をのぞけば、従来からの引き下げ幅が最も少なくて買いたたきになったのはKADOKAWAの6.3%引きということになります。

でも、ここで一言いいたいのが、KADOKAWAの担当官解説(公正取引892号69頁)です。

この担当官解説のp72では、

「本件の下落率は過去の買いたたき勧告事例(冒頭の要旨部分で紹介した4件〔注・ホーチキメンテナンスセンター、大創産業、工機ホールディングス、ビッグモーター〕)の引下率とほぼ同等の水準となっている。」

とされています。

どこがほぼ同等の水準なんですか?!

違法と認定したことを正当化するために過去の事例を持ってくるなら、違法認定された中で最も軽い(値段の高い)ものを比べるのが当然でしょう。

そうすると、ホーチキメンテナンスセンターは10.5%減、大創は予定価格の59%現、工機ホールディングスは見積単価の46%減、ビッグモーターは従来単価の27.7%減、です。

最も低いホーチキですらKADOKAWAの6.3%引きに比べたら67%(=10.5÷6.3ー1)も多く減額しています。

いわんや他の事例においておや、です。

サバを読むにもほどがあると思います。

というわけで、KADOKAWAの勧告は、これまでの先例を大きく踏み越えた事件と評価すべきでしょう。

2026年8月 5日 (水)

役務提供委託の限界

役務提供委託と自己使用役務の境界についてはさまざまな議論がされていて、中小受託法テキストの具体例をみても「どうして?」と思うことが少なくなく、ご相談も多いところです。

でも私は、錯綜した論点ほど条文に帰ってシンプルに解釈すべきだと考えています。

そこで、役務提供委託の定義規定である中小受託法2条4項をみると、

「この法律で「役務提供委託」とは、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

(建設業

(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。

以下この項において同じ。)

を営む者が業として請け負う建設工事

(同条第一項に規定する建設工事をいう。)

の全部又は一部を

他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)

をいう。」

と規定されています。

役務提供委託の限界を、ここでいう「役務の提供の行為」の解釈として考えよう、ということです。

(なので、このブログのいつものスタンスですが、公取委の解釈が常に正しいことを前提にはしません。)

これに対して、中小受託法テキストでは、役務提供委託の限界の問題は「自己使用役務なら役務提供委託にあたらない」という理屈で説明されています。

いわば、「他者提供役務・自己使用役務二分論」です。

つまり、テキストp15では、

「「(業として行う)提供の目的たる役務」とは、

事業者が他者に提供する役務のことであり、

事業者が自ら用いる役務は含まれない

(自ら用いる役務について他の事業者に委託することは、本法上の「役務提供委託」には該当しない。)。

他の事業者に役務の提供を委託する場合に、

その役務が他者に提供する役務の全部又は一部であるか、又は自ら用いる役務であるかは、

取引当事者間の契約や取引慣行に基づき判断する。」

とされています。

でも私は、この「他者提供役務・自己使用役務二分論」には条文上の根拠もないし、論理的でもないし、さらにいえば、中小受託法テキスト自体の具体例すら統一的に説明できていないと思います。

まず公取委の少なくとも伝統的な考え方の前提には、役務提供委託で受託者(C)から役務の提供を受けるのは発注者(B)であって発注者の顧客(A)ではない、という考え方がありました。

このことについては、公取委と厚労省のフリーランス法解説本(『フリーランス・事業者間取引適正化等法』)44頁でも、

「下請法における役務提供委託の場合には、下請負という取引の性質上、役務の提供を受けるのは親事業者と契約した元の発注者〔=顧客A〕であり、親事業者〔=B〕ではな(い)」

というように説明されていました。

この伝統的な考え方を裏付けるように、令和6年版の下請法テキストp14の役務提供委託の図は、下のようになっていました。

20260805-093941

この図を見るとわかるように、下請事業者が顧客Aに提供する役務の矢印は、下請事業者から、親事業者を通り越して、顧客に直接提供されるものである、というように考えられていました。

ところが、取適法テキストp15では、以下のような図になりました。

20260805-094316

この図をみると、中小受託者(C)の矢印は、委託事業者(B)にも届いていますし、顧客Aにも届いています。

しかも地味なことですが、下請法テキストでは下請事業者Cから顧客Aへの矢印は親事業者Bを素通りしていたのが、中小受託法テキストでは中小受託者Cから顧客Aに直接届く一番右の矢印も委託事業者Bを通るようにかき改められました。

この地味な図の変更をどう解釈するかは、図であるだけに、なかなかの難問ですが、少なくとも現在の公取委は、役務提供委託における受託者の役務が下請事業者Cから顧客Aに直接提供されるのだという考え方をあらため、下請事業者Cから顧客Aに提供される場合もあくまで発注者Bをとおして提供されているのだという考えを採っていると思われます(一番右の矢印)。

さらにいえば、現在の公取委は、役務提供委託における受託者Cの役務は、委託事業者Bに対して提供されるものであってもかまわない、と解釈しているであろうことが読み取れます(右から二番目の矢印)。

この解釈(というか、考え方)の変更は、妥当なものだと思います。

というのは、前記フリーランス本のように、「役務の提供を受けるのは親事業者と契約した元の発注者〔=顧客A〕であり、親事業者〔=B〕ではな(い)」というように、役務の提供を受けるのが誰かなんて、一義的には決まらないからです。

受託者Cが荷物を顧客Aの自宅に届けたからといって、役務の提供を受けたのが顧客Aだといえるとはかぎりません。

発注者Bが荷物の配達を顧客Aから受託していたら、受託者Cから役務の提供を受けたのは(自分Bの荷物を運んでもらった)発注者Bである、といってもぜんぜんおかしくありません。

まさか、受託者Cが内心で顧客Aのために荷物を運んでいると思っていれば役務の提供を受けたのは顧客Aで、内心で発注者Bのために荷物を運んでいると思っていれば役務の提供を受けたのは発注者Bだ、なんてことはないでしょうが、役務の提供を受けたのは誰かと問うと、役務を提供した受託者Cが(内心で)誰のために役務を提供したのかということにまで立ち入らないと答えが決まらないことも少なくないように思われます。

さらにいえば、役務提供委託の限界を決めるという本稿の目的のためには、「役務の提供を受ける」のが誰かなんて、詮索する必要はありません。

というのは、条文上はあくまで、「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為」が受託者Cに委託されているかどうで役務提供委託該当性の有無が決まるのであって、誰が「役務の提供を受ける」かは、条文の要件には出てこないからです。

つまり、誰が「役務の提供を受ける」かは、役務提供委託の成否には無関係です。

この解釈変更により、他者提供役務・自己使用役務二分論も、ゆらいでいるといえると思います。

左から2本目の矢印で、発注者にとどく役務(発注者に提供される役務)も役務提供委託の対象になることが示されていると言えるからです。

ここで、

「役務の提供受ける」

における目的語は

「役務の提供」

であるのに対して、

「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部他の事業者に委託する」

における目的語は、

「役務の提供の行為」(「の全部又は一部」は、おまけ)

である、という違いを見落としてはいけません。

(条文を読むときは常に、主語を表わす助詞の「は」や、目的語を表す助詞の「を」の直前の言葉に、細心の注意を払いましょう。)

法律の議論の混乱は多くの場合、主語や目的語に、似てはいるけれど異なるレベルの概念(「役務の提供」と「役務の提供の行為」)を、あたかも同レベルの概念であるかのように無造作に並べて比較することから生じますが、これもその例です。

つまり、「役務の提供」が誰に対して(誰のために)行なわれているのかを詮索しても、役務提供委託該当性は判断できず、あくまで「提供の行為」が委託されているのかどうかを判定しなければならないのです。

条文にはない、「役務の提供を受ける」という概念を持ち出したところが、つまづきの始まりであったように思います。

というわけで、上記の中小受託法テキストの新しい図では、「役務の提供を受ける」のは誰かということは役務提供委託該当性の判断に無関係であるという公取委の考え方が示されているといえ、評価できる変更だと思います。

(最近このブログでも触れることが多いですが、最近の公取委の中小受託法の運用はむちゃくちゃなので、こういうポジティブな動きがあると、ほっとします。)

もう少し掘り下げると、役務提供委託該当性の判断にあたっては、誰が受益者であるか(「役務の提供を受ける」)を詮索する必要はなく、受託者Cに「役務の提供の行為」が委託されているかどうかだけを見ればいい、ということです。

そこで最初の問題点に戻って、「役務の提供の行為」とは何かを検討するのですが、その前提として、「役務」とは何かを検討します。

この点について、中小受託法テキスト15頁では、

「役務とは、運送、ビルメンテナンス、情報処理等、いわゆるサービス全般である」

とされています。

これではよくわからないので、有斐閣の『法律用語辞典』を見ると、「役務」とは、

「英語のserviceに当たる語で、他人のために行う種々の労務又は便益の提供をいう。」

と定義され、役務とはサービス(service)であるという点で同じです。

これだけでは解決の糸口がないので、役務の「提供の行為」のほうに注目したほうがいいと思います。

つまり、「役務」は労務や便益の提供という、やや抽象的な概念ですが、「役務の提供の行為」のほうは、行為という、もう少し具体的な概念だといえそうです。

ここで再び有斐閣『法律用語辞典』をみると、「行為」とは、

「人間の意思に基づく身体の動又は静をいう。」

と定義されています。

「静」まで入れると議論が抽象的になるので、さしあたり、具体的にイメージしやすい「身体の動」を考えておけばよいでしょう。

ここまで来て、あらためて役務提供委託の定義(中小受託法2条4項)を見てみると、「役務提供委託」とは、

「事業者〔=発注者B〕が業として行う〔顧客Aへの〕提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者〔=受託者C〕に委託すること」

と定義されています。

ここで、「行為」は何の行為か(行為の内容)と問うと、「事業者〔=発注者B〕が業として行う〔顧客Aへの〕提供の目的たる役務の提供の行為」だ、というのが答えになります。

そして、そのような意味での「行為」(の全部または一部)を、受託者Cに委託するのが、役務提供委託だ、ということになります。

なので、受託者Cが発注者Bから受託して行なう「行為」は、当該「行為」(=受託者Cの身体の動静)自体が顧客Aに提供される役務の提供になっていると評価できるものである必要があると考えられます。

逆に言えば、受託者Cの「行為」(=受託者Cの身体の動静)が、何らかの意味で顧客Aに便益をあたえているというだけでは足りませんし、発注者Bの顧客Aに対する義務の履行に役立っているというだけでも足りません。

あくまで、受託者Cの「行為」(身体の動静)そのものが、顧客Aに対する役務の提供の行為(の全部または一部)である必要があります。

そういう観点から中小受託法テキストp15以下の例をみてみると、まず「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ 貨物利用運送事業者が、請け負った貨物運送のうちの一部を他の運送事業者に委託すること。」

については、他の運送事業者Cが受託する行為は、貨物を運ぶという他の運送業者Cの「身体の動」であり、かつ、そのCの身体の動はBがAに業として提供する役務の「提供の行為」の一部を構成するので、たしかに役務提供委託にあたります。

 次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンスの一部たるビルの清掃を清掃業者に委託すること。」

は、 清掃業者Cがビルメンテナンス業者から受託する行為は、清掃というCの「身体の動」です。

そして、この例では、「メンテナンス」のなかに、ビルの掃除も含まれているのでしょう。

そうであれば、このCの身体の動(清掃行為)は、ビルメンテナンス業者Bが顧客(ビルのオーナー?)Aに業として提供する役務の「提供の行為」の一部を構成するので、確かに役務提供委託にあたるといってよさそうです。

次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ 広告会社が、広告主から請け負った商品の総合的な販売促進業務の一部の行為である商品の店頭配布をイベント会社に委託すること。」

は、イベント会社Cが広告会社Bから受託する行為は、商品の店頭配布というイベント会社Cの「身体の動」であるといえます。

ここで気になるのは、「商品の総合的な販売促進業務」という部分です。

広告業界に知見のある方ならわかると思いますが、広告主が広告会社に総合的なプロモーションを一定の予算の範囲内で委託し、広告会社がテレビやネットや雑誌などさまざまな媒体を効率的に組み合わせえて最大限の広告効果を得ようとすることがあります。

「商品の総合的な販売促進業務」というのは、そういうものを想起させます。

そうすると、この設例での広告会社Bにも、そのような意味でのかなりの裁量があるような気がします。

そうすると、そもそも広告主Aは広告会社Bに対して具体的に商品店頭配布を委託していない可能性があります。

少なくとも広告主Aと広告会社Bとの間の契約書には、商品店頭配布について何の定めもない可能性があります。

でも、そういう裁量が広告会社Bにあるからといって、役務委託該当性は否定されないというのが、中小受託法テキストの考え方なのでしょう。

つまり、イベント会社Cの商品の店頭配布という「身体の動」が、広告会社Bが広告主Aに対して業として提供する「役務の提供の行為」であれば、役務提供委託にあたる、ということでしょう。

そしてこの設例では、まさに、イベント会社Cの商品の店頭配布という「身体の動」は、広告会社Bが広告主Aに対して業として提供する「役務の提供の行為」そのものである(広告主が具体的に「商品の総合的な販売促進業務」の中身を指定していたかどうかにかかわらず)、という判断なのだと思います。

次に、同じく「(役務提供委託に該当する例)」としてあげられている、

「○ ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託すること。」

では、サポート業者Cが受託する行為は、ソフトウェアのサポートサービスという、Cの「身体の動」です。

そして、このCの「身体の動」は、ソフトウェア販売業者Bがその顧客Bに対して提供している顧客サポートサービスの「提供の行為」そのものです。

よって、この例も、Cが受託したCの行為(身体の動)が、BがAに業として提供する役務の提供の行為の一部であるという基準で説明できます。

次に、中小受託法テキスト16頁に「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」としてあげている1つめの、

「○ ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。」

は、 リネンサプライ業者Cが受託した行為は、ベッドメイキングというCの「身体の動」です。

では、かかるCの身体の動は、ホテルBが宿泊客Aに対して業として提供する役務の提供の行為の一部だといえるでしょうか。

いえない、というのが公取委の考え方だということになります。

なぜいえないのか、というと、ホテルBが宿泊客Aに対して業として提供する役務は、ホテルの一室に宿泊客Aを宿泊させるという役務です。

これに対して、CがBから受託したベッドメイキングというCの「身体の動」(行為)は、BがAに提供する宿泊サービスの提供の行為の一部とは言えない、ということです。

別の言い方をすれば、宿泊サービスを提供する行為の提供を宿泊客Aに対して行なうことができるのはホテルBだけであって、リネンサプライ業者Cはどうがんばっても宿泊サービスを提供する行為の一部ですら提供することはできない、ということです。

短く言えば、ベッドメイキングは宿泊サービス提供行為の一部ではない、ということですが、ここまで短くすると「宿泊をさせるサービスを提供する行為は、部屋を空けることから、部屋の掃除、ベッドメイク、タオルの交換とか、もろもろの行為の束でできているのではないか」という反論が起きそうなので、上述のとおり、「リネンサプライ業者Cはどうがんばっても宿泊サービスを提供する行為の一部ですら提供することはできないから」と整理しておくのが、条文に忠実でよいと思います。

次の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」の、

「○ 工作機械メーカーが、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。」

では、清掃業者Cが工作機械メーカーBから受託したのは、清掃作業というCの「身体の動」(行為)であるといえます。

では工作機械メーカーBが顧客Aに対して業として提供している役務は何なのかといえば、そんな役務はない、ということでしょう。

BがAにしているのは工作機械の販売ないしその一歩手前の製造だ、というのが設例の前提でしょう。

というわけで、この例ではそもそもBが業としてAに提供する役務がないので、役務提供委託にあたるはずがありません。

次の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」の例は、

「○ カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である講師に委託すること。

です。

ここでは、講師CがカルチャーセンターBから受託したのは、教養講座の講義をすることという、Cの身体の動(行為)です。

ではBが業として受講生Aに提供する役務は何かといえば、教養講座を開いて来てもらう、というサービスです。

そうすると、「教養講座の講義をするというCの身体の動(行為)」はBがAに業として提供する教養講座開設役務の一部だと言ってもよさそうに思いますが、そうではないというのが中小受託法テキストの考え方ということになります。

その理屈を考えると、教養講座の開設というのは、教養講座のテーマを決めたり、会場を決めて借りたり、その会場への受講生の入室および滞在を許したり、会場にモニターやマイクや座席や演台を準備したり(会場設営)、オンラインの教養講座であればZOOMの設定をしたり、受講生用の講義資料を印刷したり、という一切のサービスからなります。

これに対して講師Cの講演するという身体の(口の?)動(行為)は、教養講座を企画運営するBの行為の一部ではない、ということなのでしょう。

ホテルの宿泊に対するベッドメイキングのようなものだ、ということでしょうか。

こういう細かい事を言い出すときりがないのですが、教養講座では部屋代や機材代のほうが講師への謝礼よりもはるかに高額だということはいくらでもあると思います。

そう考えると、講師の役割はベッドメイキング程度だといっても、大きな間違いはないように思います。

あるいは、公取委が持っている教養講座のイメージが、たぶん講座主催者のほうに重みがあって(たとえば朝日カルチャーセンターとか、有名どころで)、講師は著名人ではない(ベンゴシウエムラコウヤとか)、というような感じだったのかもしれません。

これが、登壇者が五木寛之とか堺正章とかのイメージだったら、ひょっとしたら違う結論になっていたかもしれません(でもそんな教養講座(?)はごく一部ですから、著名人でないイメージのほうが正しいと思います)。

逆に言うと、教養講座の開設者Bが、別の会社Cに、会場の設営から当日の運営から講師の手配から一切合切を委託すれば、役務提供委託にあたります。

以前受けた質問で、自治体(A)から自社(B)が、地域おこしイベントの運営を受託したが、そのイベントのトークショーへの登壇を芸能人(C)に委託するのは役務提供委託か、というのがありました。

これは自治体Aが主催するイベントなので、その一切合切をイベント会社Bに委託すれば、役務提供委託っぽいですが、自治体は資本金要件をみたさないので親事業者にはなれません。

なので、自治体Aからイベント会社Bへの発注が(自治体Aの上にさらにイベント参加者がいるにせよ)役務提供委託にあたらないことはあきらかなのですが、ではトークショーへの登壇依頼はどうなのか、という問題です。

結論としては、役務提供委託にはあたりません。

理由は、教養講座の講師が役務提供委託に当たらないのと同じです。

最後の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」は、

「○ プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。」

では、歌手CがプロダクションBから受託する「身体の動」(行為)は、歌唱(歌うこと)です。

ではこのようなCの身体の動が、Bが業としてファンAに提供する役務の提供の行為の一部なのかというと、違う、というのが中小受託法テキストの考え方だということになります。

その理由は教養講座と同じで、コンサートを主催するためには、会場を借りたり、照明機材や音響機材を持ち込んだり、当日ファンを会場に誘導したり、歌手を呼んだり、とさまざまな行為からなるので、歌唱とコンサート開催・運営・提供は別物であり、Cの歌唱という身体の動(行為)は、Bが業としてファンAに提供する役務(コンサートの開催行為)の提供の行為の一部とはいえない、ということなのでしょう。

これらの微妙な判断の背景には、役務提供委託を広げると際限がなくなるので謙抑的に解釈している、ということがあるかもしれません。

たとえば、コンサートでの歌唱が役務提供委託にあたるとすると、プロ野球の球団が選手にプレーさせるのも役務提供委託なのか?という疑問が沸いてきますが、そのような問題が際限なく生じるのを防ぐため、役務提供委託はせまめに解釈するので良いと思います。

以上の、

CがBから受託するCの行為が、Bが業としてAに提供する役務の提供の行為の一部か、

という基準を、少し別の角度から敷衍すると、

CがBから受託するCの行為

が、

Bが業としてAに提供する役務の提供の行為

の「一部」といえるためには、前者と後者が同レベルの概念である必要がある、ということです。

異なるレベルの概念について、全部だとか、一部だとかいうことは、なりたたないからです。

クジラが魚類であるというのは「偽」ですが、ナンセンスではありません。

これに対して、(数字の)2が魚類である、というのは、真偽以前の問題として、ナンセンスです。

「Bが業としてAに提供する役務の提供の行為」と「CがBから受託するCの行為」が全体と一部の関係にあるといえるためにも、両者が同レベルの概念(たとえば生物であること)が必要であると思います。

あるいは、「同じ視点から記述して有意味である」という意味における共通点が必要だ、といってもいいかもしれません。

世の中には、AとBのどちらが主体的に役務の内容を決めているかが関係するのではないか(Aが決めているほうが役務の再委託、つまり役務提供委託になりやすい)、とか、Aが役務の内容を具体的に指定できる必要があるとか、さまざまな見解があります。

公取委が内心そのように考えている可能性は大いにありますし、それで中小受託法テキストと整合的な説明ができることが多いのも確かなのですが、私は、条文にない要件があるのではと公取委の内心を忖度するよりも、できるだけ条文の文言にもとづいて分析するほうが、議論の共通の土台があってよいと考えています。

ここまで考えてみてあらためてテキストの図を見直して気づいたのですが、令和6年下請法テキストではAからBへの「委託」という下向きの矢印があったのが、中小受託法テキストではなくなっています!

これが何を意味するのかというと、公取委は、役務提供委託が成立するためにはAからBへの「委託」は必要ではない、というように見解をあらためた、ということです。

これは条文に忠実な解釈で、中小受託法2条4項では、

「この法律で「役務提供委託」とは、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

とされていて、AからBへの「委託」など、どこにもありません。

あるのは、BがAに対して役務の「提供」が必要だ、というだけです。

これが、中小受託法テキストの図では、右から2番目のBからAへの上向きの矢印で「提供」とされている部分です。

さらに、下請法テキストの図では、AからBへの矢印が「委託」、BからCへの矢印が「再委託」とされていたのに、中小受託法ではBからCへの矢印は「委託」になっています。

従前は、この下請法テキストの図のせいもあり、また、役務提供委託は役務の委託だ、というスローガン(?)のもと、

「BからCへの委託が委託というからには、AからBへの発注も「委託」だろう。」

という暗黙の了解があったように思います。

でも、条文には、AからBへの発注が仕様や内容等の指定をともなう「委託」でなければならないという根拠はどこにもないのです。

前述の、AとBのどちらが主体的に役務の内容を決めているかを重視する見解も、Aに対するBへの発注は「委託」のはずだ、という前提というか、先入観のもとに、出てきたのではないかと想像されます。

ですが今や、本家本元の中小受託法テキストが見解を変えてしまいました。

というわけで、誰が主体的に役務の内容を決めたかを重視する見解は、前提を失ったともいえそうです。

こんな地味なところに気が付いて図を修正するなんて、先例にとらわれずちゃんと条文を読む人が公取委にもいたのかと、うれしくなります。

公取委、ナイスです!

久しぶりにほめることができて、なんだか清々しい気分です。

(私も公取委をけなしたくてけなしているわけではありませんので。)

 

 

2026年8月 3日 (月)

「取適法」という略称について

「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和三十一年法律第百二十号)の略称として、「取適法」というのが定着してきている感があります。

政府の法令検索でも、「取適法」でヒットします。

でも、上述のとおり、法律の正式名の中には、「取引」とか、「適正」とかいう言葉は、一言も出てきません。

どうしてこの正式名が「取適法」になるのかというと、まず正式名を、「中小受託取引適正化法」と略して、それをさらに「取適法」と略したのだそうです。

でも、「中小受託取引適正化法」のうち、「中小受託」は正式名に出てきますが、やはり、「取引」も「適正化」も出てきません。

というわけで、間に「中小受託取引適正化法」をはさむことによって、正式名には全く出てこない「取適法」になったということです。

ですが、私は、略称に正式名の漢字が一文字も出てこないというのは異常だと思います。

似た例としてはたしかに、官製談合防止法(現在の正式名は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」)というのがありますが、あれは世の中で先に広まったのであって、政府が進めたのではありません。

しかも、「官製談合」というのがまさにイメージにぴったりで、名が体を表しています。

でも、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(長いので、「中小受託法」といいます。)を「取適法」(取引適正化のための法律)というのは、大ぶろしきを広げすぎだと思います。

中小受託法の対象は、主体や対象取引で、かなり限定的に規定されています。

改正前の「下請法」というのは、それなりに実態に合っていました。

というか、世の中にある下請取引というのをどうやって法律に落とし込むかを考えて作られたのが、下請法でした。

これに対して、「中小」でもなんでもなく、たんに「取適」(取引適正)では、実態に合っているとはとうていいえません。

これでは、スマホアプリ競争促進法(正式名は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」)を「デジタルプラットフォーム法」と呼ぶようなものです。

これがたんなる名前の問題ならまだいいのですが、どうも最近の公取を見ていると、不当な経済上の利益の提供要請や買いたたきの適用の拡大など、中小受託法の適用範囲をどんどん広げていきたがっているように見えます。

なので、「取適法」というのも、あらゆる取引のあらゆる適正化をめざす法律なのだという誤解を国民に広げたい、という目論見があるように思えるのです。

つまり、プロパガンダです。

私もお客さんがメールや資料で「取適法」と呼んでいるときは、「取適法」を使います。

でもそれは、相手と同じ言葉を使ったほうがコミュニケーションがスムーズになるからです。

でも、このブログをはじめ、自分のイニシアティブで書く時には、「中小受託法」に統一しています。

というわけで、みなさん、略称としては「中小受託法」を使いましょう。

2026年8月 2日 (日)

買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問

YKKが2026年6月23日、買いたたきで下請法違反の勧告を受けました

ただ、その勧告書で、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

といっている部分には疑問があります。

その本題に入る前に、そもそもこの勧告書は定義語の使い方が論理的でなかったり循環していたりと、非常に出来が悪いのですが(下調、大丈夫か?)、まずはこれをこのなお書で示しておきましょう。

まず、「実際の発注単価」というのは、

本来の発注単価を下回る発注単価

と定義されていて(これがそもそもおかしいのですが、ひとまず措きます。)、「本来の発注単価」というのは、

YKK工賃を実態に即した作業可能回数で除して求めた発注単価

と定義されています。そして、「YKK工賃」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃」

と定義されており、「作業可能回数」というのは、

「1時間に行うことができる本件作業の回数」

と定義されており、「発注単価」というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃(以下「YKK工賃」という。)を

1時間に行うことができる本件作業の回数(以下「作業可能回数」という。)で

除して得た額」

と定義されていています。

(つまり、発注単価〔円/個〕=1時間当たり工賃〔円/h〕÷1時間当たり作業可能回数〔個/h〕)

ということは、「実際の発注単価」(=「本来の発注単価を下回る発注単価」)というのは、

「YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

を下回る発注単価」

という意味になります。

以上より、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのは、

「なお、

YKKが設定した1時間当たりの工賃を

実態に即した1時間に行うことができる本件作業の回数

で除して求めた

〈YKKが設定した1時間当たりの工賃を1時間に行うことができる本件作業の回数で除して得た額〉

下回る発注単価

の中には、

委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

という意味になります。

要は、あるべき1時間当たり工賃(単価×1時間当たり個数)を下回る工賃が、最低賃金を下回った、ということです。

まったくもって、意味不明です。

そもそものボタンの掛け違えは、最初のほうにもちらっと触れましたが、「実際の発注単価」を「本来の発注単価を下回る発注単価」と定義してしまったことでしょう。

公取委が措置命令や勧告書でやたらとアドホックな定義語(その措置命令でしか通じない定義語)を使うようになってもうだいぶたちます。

かつては、そういう傾向に対して、読みにくいという論評もなされたものですが、最近はそういう声すら聞かなくなりました。

でも、そういうアドホックな定義語を使って書く前提として、きちんと論理的に定義語が定義されていないといけません。

はっきりいって、この勧告書は1年目のアソシエイトレベルです。

正しい論理操作ができないなら、かっこつけて定義語を使うよりも、ふつうの分かりやすい日本語で書くようにすべきだと思います。

というわけで、

「本来の発注単価を下回る発注単価(以下「実際の発注単価」という。)に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

なんていうふうに「実際の発注単価」 という定義語を導入するのではなくて、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた。」

と書けばよく、ほかの場所で使うのでどうしても「実際の発注単価」という用語を定義したいなら、

「本来の発注単価を下回る発注単価に発注数量を乗じて得た額を49作業の委託に係る代金の額として一方的に定めた(以下、かかる代金の額の算定に用いられた発注単価を「実際の発注単価」という。)。」

とでもすればよかったでしょう。

そういう前提であれば、

「なお、実際の発注単価の中には、委託当時の富山県の地域別最低賃金を後記3の引上げ後の発注単価の前提となる作業可能回数で除した金額を下回るものがあった。」

というのも、意味自体は理解可能です。

単純化のために、若干のアレンジをして式に書き直すと、

pを発注単価(円/個)、

nを実際の1時間あたり作業回数(個/h)、

wを最低賃金(円/h)

とすると、上記なお書は、

(∃p)(p<w/n)

あるいは、

(∃p)(np<w)

となります。

でも、ここで2つ疑問がわいてきます。

1つめは、上の式は、

(∃p)(p<w/n)

であって、

(∀p)(p<w/n)

ではない、ということです。

「下回るものがあった」というのと、「すべて下回っていた」というのとでは、ぜんぜん意味が違います。

もちろん、最低賃金への言及に法的基準としての意味があるとすれば、「すべて下回っていた」場合です。

ですので、これは公取委お得意の、たんなる印象操作です。

「最低賃金を下回るなんて、YKKはけしからん」と、公取委は印象付けたいわけです。

でも、一部下回っていただけでぜんぶ違反になるわけでもありませんので、「だからどうした」といいたくなります。

2つめの疑問は、工賃と最低賃金と比べることに何の意味があるのか、ということです。

たしかに、作業員1人が人力で(手作業で)作業をしていたのなら、

np<w

だと、安すぎるといえるでしょう。

でも、機械で自動的に作業ができて、その機械のコストc(電気代とか、減価償却費とか、もろもろ)が0.1w(円/h)だったら、

c=0.1w<np<w

でも、何の問題もありません。

逆に、この作業が作業員10人がかりで人手だけでやるものだったら、

np=10w

でも足りないかもしれません。

公取委は、「最低賃金が10%上がったら下請代金も10%上げろ」みたいな単純な発想でいるような気がしてならないのですが、下請事業者のコストは人件費だけではありません。

人件費がコストの半分だったら、上げるべき下請代金は5%でいいはずです。

この勧告のように、最低賃金と発注代金を同列にならべて比較する公取委の発想の根底には、どうも、こういう、「最低賃金が1割上がったら下請代金も1割上げるべき」という発想というか、誤解があるように思えてなりません。

« 2026年7月 | トップページ | 2026年9月 »

フォト
無料ブログはココログ