ブロードコムに対する審査打ち切りについて
公取委がブロードコムに対する審査を打ち切ったことを公表しました。
短いので引用しておくと、
「公正取引委員会は、ブロードコム・インコーポレイテッド(以下「ブロードコム」という。)が、令和6年4月頃から、仮想化 (注1) に関するソフトウェアを利用して構築したクラウドサービスを第三者に提供しているクラウド・サービス・プロバイダー(以下「CSP」という。)等に、物理的なサーバー等の仮想化に関するソフトウェアをライセンスするに当たり 、
① 自己の取引上の地位が取引先に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引先に不利益となるように当該ソフトウェアの取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施している
② 不当に他のソフトウェアを抱き合わせてライセンスを受けさせている
などの行為を行っている疑い(注2)があったことから、独占禁止法の規定に基づき審査を行ってきたところ、同法の規定に違反すると認定するに足る事実が認められなかったことから、本件審査を終了することとした。
なお、ブロードコムから、今後、契約条件の変更等によりCSPに重大な不利益が生ずる場合、CSPに対して当該変更等の内容を検討するために十分な予告期間をもって通知するとともに、各CSPと十分かつ誠実に交渉を行った上で当該変更等を実施する旨の申出があった。」
とのことです。
審査打ち切り自体はこれまでもいくつかったのですが、それらは、対象企業が自主的に問題行為をやめたので審査の必要がなくなった、というものでした。
立入検査までして、まったく違反事実なしで審査打ち切りというのは、きわめて異例です。
かつて、キヤノンが互換カートリッジの妨害で同じような調査を受けて違反事実なしとなった例があるくらいではないでしょうか。
というわけで、公取委の完敗です。
公表文では、
「なお、ブロードコムから、今後、契約条件の変更等によりCSPに重大な不利益が生ずる場合、CSPに対して当該変更等の内容を検討するために十分な予告期間をもって通知するとともに、各CSPと十分かつ誠実に交渉を行った上で当該変更等を実施する旨の申出があった。」
とされていますが、この事実で審査が打ち切られたのではなく、審査打ち切りとは無関係にこういう申し出があっただけなので、やっぱり完敗です。
申し出を理由に審査を打ち切ったなら、申し出違反があったら審査を再開することに大義名分が立ちますが、これでは申し出違反があったとしても、何の拘束力もありません。
この公表文だけでは、どんな事情で打ち切ったのか具体的なことはわからないので、この事件自体について論評するのはむずかしいですが(担当官解説を期待しましょう)、不満なのは、日本企業との対応のちがいです。
わたしが最近代理した日本の依頼者が警告を受けたケースでは、違反事実はまったく存在しないと主張して争ったのですが、公取委の審議官から面談で、
「近時の東京高裁の裁判例でも、公正競争阻害性の要件については、公正競争の確保を妨げる一般的抽象的な危険性があることで足りると認められている。」
「ましてや警告ではそのような一般的抽象的な危険の、さらに「疑い」があれば足りる。」
と、まるで水戸黄門の印籠でも見せんばかりのどや顔で説明されました。
(ちなみにこの東京高裁判決というのは、東京高裁令和元年 11 月 27 日判決〔土佐あき農協〕だと思われます。)
つまり、ブロードコムの件で、立入検査までやりながら警告や注意すら出さなかったということは、公取委が、一般的抽象的な危険がある「疑い」(警告)も、そのような危険に「つながるおそれ」(注意)もなかったと認めた、ということだと、私の目には映るのです。
被疑事実①の単純な値上げは、市場経済への露骨な介入になるので簡単に命令を出すのがためらわれるのは理解できますが(それでも、東京電力への注意とのアンバランスは指摘できるでしょう)、②の抱き合わせなんて、違反にしようと思えばいくらでもできる行為類型です。
なので、抱き合わせについて、一般的抽象的危険の疑いも、危険につながるおそれもなかった、という認定になったというのは、日本企業に対する態度とまったく異なり、私としては不満なわけです。
どうして公取委は、グーグルへの中途半端な排除措置命令しかり(これについては以前書きました)、外国企業に対してここまで甘いのでしょうか?
ただ、日本企業との不公平との点をひとまず措けば、私はむしろ警告を連発する運用のほうが問題で、命令を出すか、違反なしで打ち切るか、はっきりしたほうがいいと思っています。
そういう意味では、違反事実がなかったのであれば、すなおに打ち切るブロードコムへの対応が、あるべき姿だと思います。
「立入検査をした以上メンツにかけても命令や警告を出す」というような態度は、よろしくないと思います。
今後は、日本企業に対しても、同じ態度で臨んでほしいものです。
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