« 入札で競合他社に一部下請に出したり競合他社から一部部品を調達することの問題点 | トップページ | 買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問 »

2026年7月31日 (金)

下請法のやり直しの限界について(大阪シーリング印刷勧告)

大阪シーリング印刷が、2024年6月19日、やり直しで下請法の勧告を受けました

公取委のリリースによると、違反事実の概要は、

「⑴ 大阪シーリング印刷は、個人又は資本金の額が5000万円以下の法人たる事業者に対し、食品製造業者等から製造を請け負う食品容器に貼付するラベル、パッケージ等(以下「ラベル等」という。)のデザインの作成を委託している(これらの事業者を以下「下請事業者」という。)。

⑵ 大阪シーリング印刷は、下請事業者が作成したデザインについて、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず、

その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として、

令和4年4月から令和5年10月までの間、下請事業者に対し、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、合計24,600回のデザインのやり直しを無償でさせることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者36名)。

⑶ 大阪シーリング印刷は、令和6年5月20日、下請事業者に対し、デザインのやり直しをさせたことによる費用に相当する額として総額984万円を支払っている。」

とされています。

ただ、私はこの勧告はいろいろ問題があると思っています。

まず、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとした

という部分については、やり直しの成否とは関係がありません。

返品については、発注者が検査を省略すると一切返品ができない(いわゆる"裏金"世耕プランによる運用基準の変更)などと、細かいルールがありますが、やり直しには「受入検査して問題がないとしたらやり直しはさせられない」というルールはありません。

担当官解説(公正取引888号72頁)によると、

「大阪シーリング印刷は、下請事業者の給付の受領後直ちに受入検査を行い、下請事業者の作成したデザインに誤字や脱字等のミスがあった場合、下請事業者に修正を指示し再度納品させているが、これについては下請事業者の責めに帰すべき理由があるやり直しであり、親事業者が費用を負担せずにやり直しをさせることが認められる。

他方、本件で勧告対象となったやり直しは、大阪シーリング印刷が下請事業者の給付を受領した後、受入検査において問題がないとしたデザインについて、顧客からのやり直しの依頼を受けた場合、下請事業者にやり直しを指示していたものであり、下請事業者の責めに帰すべき理由のないやり直しである。」

とのことですが、もしそうなら、下請法テキストの記載どおり、瑕疵があるかどうかが問題なのであって、受入検査をして問題がないとしたかどうかを問題にすべきではありません。

これでは、受入検査で瑕疵が見つけられなかったらあとで瑕疵が見つかってもやり直しをさせられないかのような誤解をあたえます。

でも、そんなルールは下請法テキストにはなく、あくまで、下請事業者の責めに帰すべき理由があるかどうかは、瑕疵の有無で決まることになっています。

(これも、隠れた瑕疵かどうかで細かく要件が分かれている返品の場合と異なります。)

こういうのは細かいことにみえるかもしれませんが、こういう解釈、認定が大雑把なところから実務がぶれていくのであり、厳密にやらないといけないと思います。

さらに、

「その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として」

という認定からすると、発注者も受託者も、受入検査のあとに食品製造業者から変更の依頼があることは、当然想定されていたのではないかと思われます。

ということは、この受入検査は、そのあとにやり直しがないことを表明したものではなく、たんに瑕疵がないかとか、そういう趣旨の受入検査だったのではないかと思われます。

(上記担当官解説からも、この検査は誤字脱字のチェックの趣旨であったことがうかがわれます。)

また、やり直しの総数が非常に多いことも、やり直しがあることは双方合意の上であったことをうかがわせます。

これを裏付けるのが担当官解説で、公正取引888号73頁では、

「大阪シーリング印刷は・・・取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていた、とされています。

ということは、やり直しがあることは双方合意の上であったといえます。

つまり、この

「給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず」

という部分は、さも悪いように書いてありますが、公取委お得意の印象操作にすぎません。

次に、担当官解説によると、

「デザイン1点当たりのやり直しの回数は1回から3回が多かったが、10回以上やり直しをさせている例もあった。」(p71)

ということなので、実は、1回から3回の修正が多かったということで、たいしたことはないともいえます。

実際、担当官解説も、

「デザイン等の情報成果物は、何度か手直しを重ねていく中で最終的に完成する性質のものであるため、数回のやり直しがあることは一般的であると考えられる。」(p72)

と述べています。

ちなみに、ここでも、

「10回以上やり直しをさせている例もあった」

と、さも悪質な事業者であるかのように述べる、公取委お得意の印象操作が出てきますが、法的に問題なのは、10回以上やり直しをさせたものがあったかどうかではなく、1回でもやり直しをさせれば違反だという、極めて厳しい考え方を担当官解説が採っていることです。

次に、取適法テキストとの不整合です。

(便宜上、現在の取適法テキストを使います。)

取適法テキストQ129では、

「Q129: 委託事業者は、放送番組の制作を委託するに当たり、給付を充足する条件を4条明示することが不可能なため、

中小受託事業者と十分な協議をした上で、当初から何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している。

この場合においても、4条明示していない事項を充足させるためのやり直しについて、別途、その費用を負担せずにやり直しさせることは問題ないか。」

という質問に対して、

「A: 当初から中小受託事業者と十分な協議の上で何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している場合に、

当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ないが、

それを理由に4条明示されていない事項について無制限にやり直しをさせることができるものではないため、

代金の額の設定時に想定していないような費用が発生するやり直しの場合には、

中小受託事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担する必要がある。」

と回答されています。

つまり、十分な協議の上何度もやり直しをすることを見込んだ価格を設定している場合に想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ない、ということです。

そこで問題になるのは、担当官解説との整合性です。

つまり、担当官解説では、

「大阪シーリング印刷は・・・取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていた、ということなので、裏を返せば、大阪シーリング印刷の価格はやり直し込みの価格だった、ということです。

でもこれって、「やり直しすることを見込んだ価格」というのと、同じことなのではないでしょうか?

「やり直しは無料」というのと、「やり直し込みの価格」というのと、何が違うのか、ということです。

でも公取委の立場は、

「『やり直しは無料だ』、というのはだめだけれど、『やり直しは込みの価格だ』というのは問題ない。」

ということなのでしょう。

まったくもって支離滅裂です。

以前、公取委が、楽天の送料無料化を優越的地位の濫用だとして緊急停止命令を申し立てたことがありましたが、これなんかも私に言わせれば、

「8000円(送料無料)」

というか、

「7500円(+送料500)」

というか、という表現だけの問題だと思います。

なので、そういう頭があると、大阪シーリング印刷の勧告も、「ああ、またやってるな」という感じで、驚きはありません。

というわけで、発注者のみなさん、取引条件の交渉時に、

「やり直しは無料です。」

というのはNGです。ぜひ、

「やり直しは代金に込みです。」

といいましょう。

冗談ではありません。本気です。

担当官解説によると、

「上記Q&A〔当時のQ104、現在のQ129〕のように、当初から下請事業者と十分な協議の上で数回のやり直しを見込んだ価格を設定している場合において、当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ない」(p73)

が、

「大阪シーリング印刷は、デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず

また、取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し、実際にやり直しの費用を負担していなかったことから、

当該行為は下請事業者の利益を不当に害すると認められた。」

ということのようです。

しかし、

デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず

というのは、デザイン制作料の高い安いを認定して、十分高いからやり直し代もコミなんだとか、安いからやり直し代を見込んだ設定をしていないのだとかいう判断しているとは、とうてい思えません。

金額だけ見て、そんな判断を公取委ができるはずがないからです。

ということは、結局、交渉経緯だけから、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定しておらず」

と判断した、ということでしょう。

ということは、要は、交渉経緯として、

「取引開始時に、デザインのやり直しは無償であることを下請事業者に説明し」

ていたから、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定して(いなかった)」

と認定した、というだけのことでしょう。

ということは、

「当初から下請事業者と十分な協議の上で数回のやり直しを見込んだ価格を設定している」

かどうかも、協議でデザイン料とやり直し料をわけて交渉したかどうかを問題にしているわけではなく(そんなことできるわけないし、テキストQ129もそんなことはもとめていません)、やり直しは無料という説明をしていたのか、やり直しはデザイン料に込みという説明をしていたのか、というだけの問題だ、ということになりそうです。

というわけで、

「デザインのやり直しを見込んだデザイン制作料に設定」

したかどうかは、金額の多寡の問題ではないことがわかり、結局、

「やり直しは無料です。」

と伝えていたか、

「やり直しは代金に込みです。」

と伝えていたかに尽きる、ということになります。

合理的な頭からは信じられないことですが、これが、取適法の運用の実態です。

« 入札で競合他社に一部下請に出したり競合他社から一部部品を調達することの問題点 | トップページ | 買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問 »

下請法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 入札で競合他社に一部下請に出したり競合他社から一部部品を調達することの問題点 | トップページ | 買いたたきで最低賃金を参照するYKK下請法違反勧告の疑問 »

フォト
無料ブログはココログ