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2026年7月 9日 (木)

無償の委託にフリーランス法は適用されるか

フリーランスに無償で仕事を委託する場合、フリーランス法は適用されるのでしょうか。

結論としては、基本的には適用されないと考えますが、若干微妙な問題もあります。

まず、この問題に関係がありそうで実は関係ないのが、公取委ウェブサイトのフリーランス法Q&Aの問21で、同問には、

「問21 業務委託の定義について、事業者が「その事業のため」に委託するとは、どのような場合が該当するのでしょうか。」

という質問があり、その答えの中で、

「なお、発注事業者(法人であるか個人であるかを問いません。)が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

という回答があります。

ですが、これは、今問題にしている無料で仕事をさせるという場面のことではありません。

まず前提として条文を確認しておくと、「業務委託の定義」については、フリーランス法2条3項で、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

とされていて、問21はこの2条3項1号2号の「事業のため」の解釈の問題だ、ということを押さえましょう。

そして、上記引用した回答部分は、

「なお、発注事業者(法人であるか個人であるかを問いません。)が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

といっていて、「純粋に無償の行為」というのは、いわば委託業務(=フリーランスがする行為)が手段だとすれば、その手段行為(「のために」)により達成される目的行為が、「無償の行為」だ、ということです。

つまり、この回答部分が言っているのは、

委託者が行なう「純粋に無償の行為」(問21回答)、つまり、委託者が無償で行なう行為は、委託者の「事業」(フリーランス法2条3項1号2号)ではない、

よって、

純粋に無償の行為のために行う委託」は、「事業のために他の事業者に・・・委託すること」(フリーランス法2条3項1号2号)には該当しない、

ということです。

もっと短くすると、

純粋に無償の行為のために行う委託 ⊈ 事業のために委託

の両辺から「ために(行う)委託」を引いて、

純粋に無償の行為 ⊈ 事業

となり、要は、純粋に無償の行為は「事業」ではない、ということです。

同様の考え方は従来から下請法(現中小受託法)でも採られていたところで、中小受託法テキスト13頁の情報成果物の類型1の説明の中に、

「「業として行う提供」とは、反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている提供のことをいい、純粋に無償の提供(例:広告宣伝物、リクルートビデオ)であれば、これに当たらない。」

という記述があります。

たとえば、発注者が、顧客に無償で配るための企業カレンダー(「広告宣伝物」)のデザインの作成を発注することは、情報成果物作成委託の類型1には該当しません。

同様のことは中小受託法テキストp29のQ22でも製造委託に関して述べられていて、

「Q22: 景品の製造を委託した場合も本法の対象となるか。」

という質問に、

「A: 商品に添付されて提供される景品は、有償で提供している商品の一部として提供されているため、当該景品の製造を委託することは製造委託(類型1)に該当する。

また、自社が純粋に無償で提供している景品は、自家使用する物品であり、当該景品を自社で業として製造している場合に、当該景品の製造を委託することは製造委託(類型4)に該当する。」

と回答されています。

つまり、純粋に無償で提供する景品は、発注者自身が業として製造しているのでないかぎり、中小受託法の対象にはならない、ということです。

上記フリーランス法Q&A問21の、

「発注事業者・・・が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。」

というのも、純粋に無償で景品を配る行為(提供行為)のために景品の製造を委託することは、「事業のため」に(景品の提供を)委託する行為には該当しないので、フリーランス法2条3項の「業務委託」には該当しない、といっているわけです。

「純粋に無償で配る景品やカレンダーだって、広い意味では販促のためなので、事業のためじゃないのか?」という常識的な異論はありうるところでしょうが、ともかく、下請法(現中小受託法)は、そういう解釈でやってきたので、フリーランス法もそれを引き継いでいる、ということなのでしょう。

ちなみに、長澤先生の取適本(『取引適正化法制の解説と分析』)184頁では、このフリーランス法Q&A問21を引用して、

寄付やそれに類する純粋に無償の行為のために行われる委託は、発注者の「事業のために」行うものとは認められず、フリーランス法の適用対象とはならない。」

と解説されており、景品や企業カレンダーではなく「寄付」という例が挙げられています。

ちなみに立案担当者解説(『フリーランス・事業者間取引適正化等法』(商事法務)37頁では、「その事業のために」(フリーランス法2条3項1号2号)の解説として、

「法人である業務委託者については、法人が自身の事業の用に供するために行う委託行為については「事業のために」委託する行為に該当する。」

とされていて、問21ほどはっきりとは書いてありませんが、ここの「事業」を有償のものにかぎると読めば、つまり、

「法人である業務委託者については、法人が自身の事業(純粋に無償のものを除く。)の用に供するために行う委託行為については「事業のために」委託する行為に該当する。」

と読めば、問21と辻褄があうので、そう読むのでしょう。

これと関連して、また別の観点として、フリーランス法Q&A問6では、

「問6 「事業者」とはどのようなものでしょうか。」

との質問に対して、

「答 「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行うものをいいます。純粋に無償の活動のみを行っているものは「事業者」に該当しません。」

という回答がなされています。 

ここでは、

純粋に無償の活動のみを行っているもの ⊈ 事業者

といっています。

なのでまとめると、

純粋に無償の行為は、「事業」ではない(問21)

純粋に無償の活動のみを行なっているものは、「事業者」ではない(問6)

という、似ているけれども少し違うことを言っていることがわかります。

ではここでようやく本題に戻って、無償の委託にフリーランス法が適用されるのかを考えると、中小受託法については、長澤先生の取適本119頁で、

「取適法上、その対象となる委託業務は、有償でなされるものであることが前提とされており、委託業務が無償でなされる場合には、取適法の対象とはならないものと考えられる。」

と明言されています。

このように、中小受託法だと、これでぜんぜん違和感がないのが不思議です。

というのは、いわゆる下請取引(典型的には、メーカー間の製造委託)で無償のものなんておよそありえないわけで、もし無償のものがあったとしたら、それはいわゆる下請取引ではないのだろう、といってよいように思われるからです。

でも、フリーランスの場合には、その対象がさまざまであるだけに、もともと非常に低価格のフリーランスもあったはずで、非常に低価格だと買いたたきになりかねないのにその極端な場合の無償だとまったく規制がなくなる、というので、ほんとうに大丈夫かな、という気もします。

でもここは、大丈夫だ(無償の委託はフリーランス法の適用対象外だ)といっていいと思います。

1つの理由は、発注書の記載事項に委託料をフリーランス法が、中小受託法と同様、明示事項の3条や報酬の支払期日に関する4条なんかをみても、有償の委託を当然の前提にしているとしか読めないからです。

もう1つの理由は、フリーランス法は中小受託法とちがって委託の種類に何の限定もないので、適用範囲が非常に広く、こんなものにすべて発注書の発行を要求したらたいへんなことになりそうだからです。

たとえば、個人経営のコンサルタントが見込み客の企業に対して、営業目的で無料でセミナーを開くことを提案してきたときに、セミナーの内容について指定したら「委託」になって、無料だけれど発注書が必要だ、なんていうことになりかねないのがフリーランス法です。

それでは、世の中あまりに窮屈です。

それから、前述のとおり、あれだけ「無償の行為は事業ではない」とか、「無償の活動だけする者は事業者ではない」とか言っておいて、そういう無償の行為のための有償の委託や、無償の活動だけする者がする有償の委託をフリーランス法の対象にしておきながら、無償の委託がいきなりフリーランス法の対象になるというのも、なんともバランスがわるいと思います。

そして、こちらのウェブサイトでも、大東先生が無償の委託はフリーランス法の対象外だと説明されています。

なので、無償の委託にはフリーランス法は適用されないと解してよいと思います。

ただ、ふつうに有償で発注しているフリーランスに対して、ときどき無償で発注したりすると、さすがに買いたたきになるおそれはあるので、フリーランス法が適用されないと解釈するのは危ないと思います。

(ただし、1か月以上の期間行なうものにかぎります。5条柱書、施行令1条)

また、発注そのものを無償でするのでなくても、附随的な行為(たとえば体験講座)をフリーランスに無償でさせると、不当な経済上の利益の提供要請になります。

でもそれは、ふだんから1か月以上の期間行なう業務委託がフリーランス法の対象になるからそうなるのであって、無償の委託自体がフリーランス法上の「業務委託」になったわけではありません。

たぶん、公取委のQ&Aでも、この無償行為についてのことが触れられていないのは、フリーランスについてはこういう微妙な問題があるから公取委も言いたくないからじゃないかな、と想像します。

(中小受託法については、逆にあたりまえすぎて中小受託法テキストにも載っていないのだと思います。長澤先生の取適本p119でも根拠文献は挙げられていません。)

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