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2026年6月20日 (土)

下請法上の購入強制を否定した裁判例(東京地裁令和元年10月25日判決)について

掲題の判決は、下請事業者が親事業者から親事業者がスポンサーの女子プロゴルフトーナメントのチケットやカレンダーの購入を強制されたのが下請法違反だと主張したのを裁判所が退けた判決です。

公取委や中企庁と違って、とても常識的な判断をしており、実務上極めて重要です。

関連部分を引用しておくと、

「9 争点5(本件購入要請につき不当利得の有無)について

(1)被告は,本件購入要請が,購入強制として下請法4条1項6号に違反するほか,独禁法2条9項5号イに定める不公正な取引に該当して同法19条に違反し,本件購入要請によるカレンダーやゴルフチケットの売買契約は公序良俗違反として無効であると主張する。

(2)そこで検討すると,証拠(乙27)によれば,D〔注・原告の営業担当者〕から被告代表者に対して,平成18年(2006年)10月に,2007年カレンダーの購入のお願いと題するメールを送信して,原告の製品であるカレンダーの購入依頼をしており,前年度の購入部数が卓上カレンダー100部,玉カレンダー50部,エキスパートダイアリー50部であったことも付記していたことが,証拠(乙28)によれば,Oから被告代表者に対して,平成19年4月に,□□レディスゴルフのチケットの購入依頼をしたことがそれぞれ認められる。

そして,証拠(乙36)によれば,被告の原告からのカレンダー及びゴルフチケットの購入合計額は,

平成18年期(ただし,当該年の6月1日から翌年の5月31日までの1年間を対象期間とする。以下同じ。)が95万0925円〔注・下記同年期売上の約0.5%〕,

平成19年期が44万3145円〔同0.2%〕,

平成20年期が46万8345円〔同0.2%〕,

平成21年期が46万0155円〔同0.2%〕,

平成22年期が34万6405円〔同0.1%〕

平成23年期が34万9230円〔同0.3%〕,

平成24年期が13万2195円〔0.2%〕

平成25年期が9万9015円〔0.1%〕

であったこと,

他方,被告の売上金のうち原告から受注した案件に係るものについては,

平成18年期が1億8126万5638円,

平成19年期が2億0081万0558円,

平成20年期が1億9153万6446円,

平成21年期が2億7010万7543円,

平成22年期が3億2344万3873円

平成23年期が1億3584万4511円,

平成24年期が8136万5313円

平成25年期が1億4481万8402円

であったこと,以上の事実が認められる。

(3)上記認定事実によれば,原告は,下請業者である被告の代表者と直接やり取りをしていわば窓口の立場であった者から,原告のカレンダーやゴルフチケットの購入依頼をしており,依頼の中には,前年度の購入部数を示したこともあったのであり,被告にとって,上記の購入が意に沿わない面があったことは否定できない

もっとも,被告が設立されたのが平成14年であるところ(甲2),前記(2)で認定した購入履歴をみると,購入金額の規模が年を追うごとに徐々に減少しているが,一方では,原告から受注した案件による被告の売上金の規模は上記購入履歴と連動して増減しているわけではなく

例えば,平成21年期,平成22年期に被告の受注額が増額する一方で,この間の購入金額はむしろ減少し,

一方で,平成23年期,平成24年期には受注額の減少を踏まえて購入金額が大幅に減少していることが認められる。

このような経過に照らせば,被告による購入は,被告において,原告からの受注案件を伸ばしたり確保したりといった目的を一定程度果たした上で,購入規模を徐々に縮小させたものとみることができ,被告が原告に対する営業活動の一環として自発的に行なった側面があることは否定できず,また,ノルマ等を示して購入を強制したことはない旨をいうD及びOの供述の信用性は否定できない

そうすると,被告の購入については,原告が強いたものと認めるには足りず,下請法4条1項に違反し,または不公正な取引(独禁法2条9号イ)に該当するものとはいえないから,カレンダーやゴルフチケットの売買契約が公序良俗に違反するものとはいえない。被告の前記主張は理由がない。」

というものです。

この判決から読み取れることは、まず、親事業者の営業担当者から購入の要請をしても当然には購入強制にはならない、ということです。

あたりまえですが、重要です。

次に、「意に沿わない面があった」というだけでは、購入強制にはならない、ということです。

これも、とても重要です。

公取委や中企庁なら、「しぶしぶ買った」「できれば買いたくなかった」という下請事業者の供述があるだけで、購入強制を認定すると思います。

次に、発注が増えたら購入額が増えるというという関係から、「下請事業者の営業活動の一環として自発的に行った側面がある」と認定していることです。

公取委や中企庁なら、そういう、将来の取引の増加を期待しての購入(「営業活動の一環として」の購入)なので強制ではない(「自発的に行った側面がある」)という認定(社会常識にそった認定)は、まずしないでしょう。

というのは、優越的地位の濫用ガイドライン第4の1⑴では、

「(1) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって、

当該取引の相手方が、

それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり、

又は

その購入を希望していない

ときであったとしても、

今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。」

としているだけで、下請事業者の側から営業活動の一環として購入するというような発想がまったくないからです。

これはきわめて偏った発想です。

というのは、営業活動の一環というのと、今後の取引に与える影響を懸念してというのとは、表裏一体で区別できないからです。

あえて区別するとすれば、

カレンダーを購入すれば取引が増えると期待して購入するのが営業活動の一環で、・・・①

カレンダーを購入しなければ取引が減ると懸念して購入するのが「今後の取引に与える影響を懸念して」だ、・・・②

ということになりそうですが、両者は区別できないでしょう。

というのは、どちらも論理的には、

カレンダーを購入すれば、購入しない場合に比べて、取引が増える・・・③

という同じことを言っているだけだからです。

なのに、優越ガイドラインでは、③は必然的に②である(①の余地はない)という発想でできているのです。

(購入強制には出てこない要件ですが、不当な経済上の利益の提供要請に出てくる、

「(注9) 「直接の利益」とは、例えば、広告に取引の相手方の納入する商品を掲載するため、広告を作成・配布する費用の一部を協賛金として負担させることが、取引の相手方にとってその納入する商品の販売促進につながる場合など実際に生じる利益をいい、協賛金を負担することにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。」

というような説明をみると、「営業活動の一環」としての購入のような、将来の取引が有利になることを期待しての購入も、認められないことはほぼあきらかでしょう。)

それでもあえて優越ガイドラインを、「お付き合いで購入することは世情ふつうにあることだ」という世間の常識にそって解釈しようと試みるならば、

カレンダーを購入すれば、来年は取引が増えると期待して購入するが、購入しなくても取引が減ることはない、というのが営業活動の一環で、・・・①’

カレンダーを購入しなければ、来年は取引が減ると懸念して購入するが、購入しても取引が増えることはない、というのが「今後の取引に与える影響を懸念して」だ、・・・②’

ということなのかもしれません。

でも、①’と②’の区別だって、ほぼ不可能でしょう。

区別できるとすれば、下請事業者の気分だけの問題だけでしょう。

しかも、公取委や中企庁は、取引と関係ないもの(カレンダー)を下請が購入しているとすれば、それは②ないし②’だ、という色眼鏡で見ているというのが、多くの実務家の感覚でしょう。

過去の審決例をみても、公取委が、「購入しなくても取引が減ることはない」とか、「購入しても取引が増えることはない」といったことに着目している様子は皆無です。

つまり、公取委や中企庁には、「営業活動の一環」(「お付き合い」と言い換えてもいいでしょう)という発想が、そもそもないのです。

そういう公取委実務、中企庁実務にどっぷりつかっている私の目には、この東京地裁の判決はじつに清々しく映ります。

最後に、判決が、親事業者が「ノルマ等」を示していないことを強制」を否定する事情としていることも、重要です。

公取委と中企庁実務では、ノルマは、示していたら即強制で、示していなくても強制とは言えない、という片面的な(規制当局には実に都合のいい)要素として考慮されるだけでしょう。

このように、この東京地裁判決は実に常識に沿った内容であり、公取委や中企庁も、ぜひ見習ってほしいものです。

といいますか、法令の解釈権限は裁判所にあるわけですから、公取委と中企庁は、このような裁判例に従って、解釈・運用を改めるべきでしょう。

しかもこの判決が何か特殊なことを言っているわけではなく、同じような事実が裁判所で争われたら、100件が100件とも、下請法違反を否定するでしょう。

この判決は、たまたまその1件にすぎません。

「民事訴訟は行政には関係ない」なんていう理屈や発想は許されません。

自分に都合のいい判決(たとえば土佐あき東京高裁判決)が出たら鬼の首を取ったように宣伝するのに、不利な判決は無視する、というのもいただけません。

日本が真の法治国家になることを望みます。

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