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2026年6月

2026年6月30日 (火)

受領拒否して代金減額ができる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵アの読み方

中小受託法運用基準第4の3⑵アでは、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由

〔注・1⑵ア瑕疵、イ納入遅れ〕

がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 当該理由があるとして、中小受託事業者の給付の受領を拒んだ場合

(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 当該理由がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその給付を受領した場合に、委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき

又は

委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき

(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。

〔返品の場合のイ省略〕」

とされています。

まず、返品の場合と異なり、ロット単位での検査云々という規定はないので、受領拒否の場合には、検査の有無や方法によって減額の要件に差はありません。

とはいえ、瑕疵の場合には通常は受け取ってみないと瑕疵があったかどうかわかりようがないので、(ア)の「拒んだ」が適用される場面はあまりないのではないかと思います。

これに対して、納入遅れなら、(ア)の「拒んだ」が適用される場面はいくらでもありそうです。

ここで、納入遅れで受領拒否した場合でも、「(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)」とされていますが、受領していないわけですから、納入遅れの分については代金をまったく支払わなくていい(いわば、全額の減額をしていい)、ということになります。

次に、(イ)の、受領しつつ減額をする場合については、前段の手直しによる減額は、「委託内容に合致させるため」ということなので、瑕疵の場合にしか適用されません。(納入遅れの場合には適用されません。)

その場合(瑕疵ある物を受領した場合)の減額が認められる限度である「客観的に相当と認められる額」というのは、手直し料と、手直ししてもなお戻らなかった価値減少分が、含まれるというべきでしょう。

もちろん、手直し料と、戻らなかった価値減少分の合計額が下請代金額を超えれば、下請代金全額を支払わないことも可能です。

全額減額しても足りない分は別途損害賠償請求すればよいでしょう。

やや問題なのが、減額をその製品Aの代金から減額するのでも、別途損害賠償請求するのでもなく、別の製品Bの下請代金と相殺することができるか、です。

このような、Bの代金から減額できるかという観点からあらためて中小受託法運用基準第4の3⑵をながめてみると、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金〔B〕の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 「1 受領拒否」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 当該理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕があるとして、中小受託事業者の給付の受領を拒んだ場合(減ずる額は、その〔Bの〕給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 当該理由〔Bの瑕疵・納入遅れ〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその〔Bの〕給付を受領した場合に、委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき又は委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔Bの瑕疵等〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔Bの瑕疵等〕があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

(イ) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔Bの瑕疵等〕がある旨を中小受託事業者にあらかじめ伝えた上でその〔Bの〕給付に係るものを引き取らせなかった場合に、〔Bを〕委託内容に合致させるために委託事業者が手直しをしたとき又は〔Bが〕委託内容と適合しないこと等若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかなとき(減ずる額は、客観的に相当と認められる額に限られる。)。」

というように〔 〕内のようにBを補足して読むべきように思われ、そうすると、どうも別の製品Bの代金から製品Aの瑕疵等による損害を相殺(減額)することはできなさそうです。

そんな堅苦しいこといわず異なる商品間で相殺を認めてもいいように思いますが、別の製品Bの代金についてまでは減額されないというのも下請事業者の利益だと言えばそういえなくもないので、ここは中小受託法運用基準のすなおな読み方にしたがい、別の製品Bの代金から相殺(減額)することはできない、と解しておきます。

そうするとさらに問題になるのが、たとえば1通の発注書で100個注文していて、1個に瑕疵があった場合、他の99個の代金から相殺(減額)することができるのか、ということです。

これについては、どうも中小受託法運用基準は(注文書単位ではなく)瑕疵のあった製品単位で考えているように見受けられます。

典型的には、第4の3⑵イをみると、

「イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由〔瑕疵〕がある場合であって、次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由〔瑕疵〕があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。) 」

とされていて、「その給付」というのは、100個の製品のうちの、瑕疵のあった1個の給付のことを言っていると読まざるをえないように思われます。

この点は、4⑵で、「責めに帰すべき理由」について、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして、中小受託事業者の給付を受領した後に中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、中小受託事業者の給付の内容が明示された委託内容と異なる等の場合であって、次のア又はイに該当するときに限られる。」

と述べており、「委託内容と異なる」給付が、ここでの「その給付」だと解さざるをえないことからも裏付けられると思われます。

民法の世界であれば、契約の趣旨からして100個ぜんぶ瑕疵のないものを納品するのが完全履行であり1個でも瑕疵があったら全部が不履行なのだ(給付の一体性)という議論がありえそうですが、公取委がそんな細かいことを考えているとはとうてい思えません。

というわけで、ここは反対説もあり得そうな気もしますが、ここは積極的に反対する理由もないので、私も運用基準の考え方に立っておきます(つまり、1個分の代金からしか減額できない)。

注文した製品全部に瑕疵があった場合は全額減額してもいいですが、一部にしか瑕疵がなかったというときには、注文金額全額を減額することはできない可能性があるので、気をつけましょう。

そのときには、別途損害賠償請求をしましょう。

2026年6月27日 (土)

返品して代金減額が認められる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵の矛盾

中小受託法第4の3⑵では、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔ア〔受領拒否の場合。実務であまり問題にならないので、省略〕

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合であって、

次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る代金の額に限られる。)

〔(イ)は、あまり問題にならいので省略。〕」

とされています。

ここで言及されている4⑵は、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして、中小受託事業者の給付を受領した後に中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、

中小受託事業者の給付の内容が明示された委託内容と異なる等の場合であって、

次のア又はイに該当するときに限られる。

ア 当該給付を受領速やかに引き取らせる場合

イ 給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な取引において、当該給付の受領後の当該給付に係る代金の最初の支払時までに引き取らせる場合。

(この場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がされ、その内容が明示され、かつ、当該明示と発注時の明示との関連付けがされていなければならない。)」

です。

なので、仮に発注者が検査をしていなくても、給付受領後速やかに返品(4⑵ア)するのであれば、減額はできる、ということになります。

でも、検査をしていないと、返品はできません。

というのは、第4の4⑶で、

「(3) なお、次のような場合には委託内容と異なること等があることを理由として中小受託事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。

〔ア~エ、カ省略〕

オ 給付に係る検査を省略する場合 」

と明記されているからです。

(ちなみに、この検査をしないと返品できないという規定は、"裏金"世耕プランにもとづく平成28年下請法運用基準で導入されたものです。)

このように、検査をしないと返品はできないのに、減額はできる、ということになります。

たしかに、「当該給付を受領速やかに引き取らせ」(第4の2⑵ア)ないといけないので、検査をしないと速やかに返品しにくくはなりますが、「速やかに」というのは「直ちに」とはちがって幅のある概念ですし(1か月くらいなら大丈夫でしょう)、部品を受領してラインで加工をはじめたら瑕疵が見つかったということもそれなりにありうるので、まったく返品できないのにくらべるとだいぶましだといえます。

どうしてこういう、減額と返品での取扱いの差が起きるのかというと、検査省略すると返品できないという規定を4⑵とはわけて4⑶で規定しているからです。

ちなみに下請法運用基準の時代は、第4の3⑵は、返品の部分だけを抜き出すと、

「 (2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア ・・・「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして、・・・下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は、その給付に係る下請代金の額に限られる。)

〔イは、あまり起きないので省略〕」

とされていて、そこで引用されていた4⑵は、

「(2)「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして、下請事業者の給付を受領した後に下請事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、

下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合若しくは下請事業者の給付に瑕疵等がある場合において、

当該給付を受領速やかに引き取らせる場合

又は

給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合に限られる。

ただし、給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がなされ、その内容が書面化され、かつ、当該書面と発注書面との関連付けがなされていなければならない。

なお、次のような場合には委託内容と異なること又は瑕疵等があることを理由として下請事業者にその給付に係るものを引き取らせることは認められない。

〔ア~エ、カ省略〕

オ 給付に係る検査を省略する場合」

というように、検査省略に関する規定が4⑵の中にありました。

これが、中小受託法運用基準では4⑶に切り出されたのに、減額に関する3⑵ではあいかわらず4⑵だけを引用していたので、結果的に、返品できない(∵4⑵と⑶の両方が適用)のに減額はできる(∵4⑵のみ適用)、という場合が生じた、というわけです。

ですが、ここで問題は、検査を省略した場合にほんとうに「当該給付を受領速やかに引き取らせる場合」(4⑵ア)であれば減額しても大丈夫なのか?という点です。

減額についての3⑵を論理的に読むかぎり、「当該給付を受領速やかに引き取らせる」かぎりで、減額してもよい、ということになります。

ですが、ほんとうに検査省略して返品すると、返品の禁止には違反するといわざるをえません。

そうすると、どうしても減額したい発注者は、返品禁止違反のリスクを覚悟してでも、あえて速やかに返品して減額をする、という方法をとるしかなさそうです。

でも、私はそんなルールは矛盾していておかしいと思います。

ではどうしたらいいのかというと、返品請求権を放棄して代金下額請求権だけを行使すればいいと思います。

たしかに、3⑵には、

「(2) 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があるとして代金の額を減ずることが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

〔ア省略〕

イ 「4 返品」(2)にいう中小受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合であって、

次の(ア)又は(イ)に該当するとき。

(ア) 中小受託事業者の給付を受領した後、当該理由があるとして、その給付に係るものを引き取らせた場合〔以下省略〕」

と書いてあるので、返品を実行することが減額の要件であるかのように読めます。

しかし、返品ができるというのはあくまで発注者に返品の権利があるということなので、返品請求権を放棄することもできるというべきでしょう。

代金減額をするために返品を義務づけるとか、返品を要件にすることには、合理性はありません。

運用基準もそんな趣旨ではなくて、減額の要件を返品ややり直しから(やや無理矢理)引っ張ってきたことから生まれた言葉の綾に過ぎないというべきでしょう。

(要するに、立法技術的に稚拙なだけです。)

というわけで、受領後速やかに、代金減額請求権の前提となる運用基準第4の4⑵(ア)の返品請求権があることを中小受託事業者に通知して、速やかに減額の意思を伝える、ということでよいと思います。

そういうめんどうなことはいやだということであれば、下請代金から減額しなければいいだけのことで、損害賠償を別途すれば減額にはなりませんから、そのようにすればいいと思います。

振込手数料が余分にかかってしまいますし、下請事業者が倒産しそうなときには別途請求するというのは心もとないですが、多くの発注者はこの別途請求の方法を取るのではないかと思います。

なので、あくまで代金減額したい(たとえば下請事業者が倒産しそうなので)という場合には、上記の返品請求権を放棄する方法を使ったらいいと思います。

2026年6月22日 (月)

振興法の「役務提供委託」について(中小受託法とのちがい)

受託中小企業振興法2条1項5号では、

「(定義)
第二条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

〔1号から4号省略〕

五 その者が業として行う提供の目的たる役務を構成する行為の全部又は一部」

とされています。

この部分について、中小受託法テキストp153では、

「取適法では、他者に提供する情報成果物の作成に必要な役務である場合に、当該役務の提供を他者に委託することは対象とならないのに対し、

振興法では、例えば映画を作成するために俳優に出演を依頼する等の役務は、役務を構成する役務として、役務提供委託の対象となる。」

と説明されています。

ですが、私には、中小受託法テキストが言っている意味がよく理解できません。

素直に考えるなら、

「映画を作成するために俳優に出演を依頼する等の役務」

というのは、情報成果物(=映画)を親事業者(=映画作成者)みずからが作成するために自ら必要とする役務(=俳優の出演)なので、自己使用役務(よって中小受託法の対象にも振興法の対象にもならない)のではないでしょうか。

つまり、中小受託法テキストの、

「役務を構成する役務」

というのは、

「情報成果物を構成する役務」

となるのがせいぜいではないかと思います。

もし、

「映画を作成するために俳優に出演を依頼する等の役務」

が、

「役務を構成する役務

といえるとすれば、「映画の作成」というのを役務だと考えるしかないでしょう。

それは、論理的にはありうることです。

でもそれをやりだすと、あらゆる情報成果物の作成が、情報成果物の作成という「役務」だ、ということになってしまいます。

さらにいえば、製造委託だって、物品の製造という「役務」の委託をしているのだ、ということになってしまいます。

それでは、製造委託と修理委託と情報成果物作成委託と役務提供委託と特定運送委託をわけて規定している中小受託法の体系が崩壊してしまいます(全部、役務提供委託になってしまいます。)

振興法の体系も基本的に同じというべきでしょう。

ではどうしてこの中小受託法テキストのような解説が出てくるのでしょうか。

ここで、中小受託法の役務提供委託の定義をみてみると、同法2条4項では、建設業法に関する部分を端折ると、

「4 この法律で「役務提供委託」とは、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること・・・をいう。」

とされています。

振興法2条5号では、

「五 その者が業として行う提供の目的たる役務を構成する行為の全部又は一部」

とされているのと、微妙に違います。

つまり、中小受託法では、

「業として行う提供の目的たる役務の提供の行為」

であるのに対して、振興法では、

「業として行う提供の目的たる役務を構成する行為」

となっています。

でも、

「役務の提供の行為」(中小受託法)

というのと、

「役務を構成する行為」(振興法)

というのとでは、意味は何も変わらないと思います。

しいていえば、

「役務の提供の行為」(中小受託法)

のほうが、なんとなく、発注者が顧客に提供する役務が物理的に分割できて、そのように分割された役務の全部又は一部を下請事業者に委託するのだ、というニュアンスを感じるのに対して、

「役務を構成する行為」(振興法)

のほうは、発注者が顧客に提供する「役務」は全体が不可分一体で有機的に結合された役務であって、そのような有機的総合体を「構成」する行為(それ自体は必ずしも「役務」である必要すらない)の全部または一部を下請事業者に委託するのだ、というニュアンスを感じます。

ただ、これは両者を横に並べてためつすがめつ眺めてはじめて感じる違いであり、法令解釈としては邪道だと思います。

この点について、中企庁職員の論文である、髙橋諄「下請中小企業振興法の改正について」公正取引898号12頁では、

「提供の目的である役務を構成する役務の委託について、下請法では対象とならない(下請法第2条第4項参照)のに対し、振興法では、対象に含まれる(振興法第2条第2項第5号)。」

と説明されており、振興法の「役務を構成する行為」(振興法2条1項5号)という表現になにか中企庁としての思い入れがあることがうかがわれますが、やはり「役務を構成する行為」(振興法)と、「役務の提供の行為」のちがいは、具体例もないのでよくわかりません。

そこで推測するほかありませんが、中小受託法の役務提供委託では伝統的に、同法の役務提供委託とは役務の再委託であると言われてきました。

ということは、振興法の「役務を構成する行為」ないし「役務を構成する役務」というのは、役務の再委託よりも広い行為である、ということなのでしょう。

では、役務の再委託ではないけれど「役務を構成する役務」というのは何なのかというと・・・やっぱりよくわかりません😵

上述の中小受託法テキストp153の映画の例などもみると(映画は情報成果物ではないか、という難点にはひとまず目をつむり、映画の作成も役務だとして)、「構成する役務」というのは、最終役務(=映画)に溶け込んで不可分一体をなしている(構成している)役務(=演技)なのだろう、と想像できます。

中小受託法テキストp16における中小受託法の「(自ら用いる役務の委託に該当し、役務提供委託に該当しない例)」としてあげられている、

「○ ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。

○ 工作機械メーカーが、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。

○ カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である講師に委託するこ
と。

○ プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。 」

なども、振興法上は「役務を構成する役務」として、対象になるのかもしれません。

たとえば、

「○ ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。」

なんていうのは、「役務(=宿泊提供サービス)を構成する役務(=ベッドメイキング)」なので、振興法の対象なのでしょう。

これに対して、

「○ 工作機械メーカーが、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。」

は、さすがに「清掃作業」が「工作機械」の製造行為という「役務」(これを「役務」と呼ぶのは難があることはひとまず措きます)を「構成する」というのは無理ではないかと思います。

次の、

「○ カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である講師に委託すること。」

というのは、たしかに「役務(=講座提供サービス)を構成する役務(=講義)」とはいえるのかもしれません。

ですが私は、この例はそもそも、中小受託法の役務提供委託の「業として行う提供の目的たる役務の提供の行為」といってもよいのではないかと思っており、「構成する役務」の説明の根拠としてよいかは、なんとも微妙です。

次の、

「○ プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。」

というのは、前述の中小受託法テキストp153の映画作成の例と似ていて興味深いですが、これなんかは、「役務(=コンサート主催)を構成する役務(=歌唱)」といいやすいのではないかと思います(映画の場合のような、役務ではなく情報成果物ではないかといった難点もありませんし)。

というわけで、中小受託法テキストp153の映画作成の例はひとまず措いて、「役務を構成する行為」(振興法)と「役務の提供の行為」(中小受託法)のちがいは、このあたりにあるように思います。

2026年6月20日 (土)

下請法上の購入強制を否定した裁判例(東京地裁令和元年10月25日判決)について

掲題の判決は、下請事業者が親事業者から親事業者がスポンサーの女子プロゴルフトーナメントのチケットやカレンダーの購入を強制されたのが下請法違反だと主張したのを裁判所が退けた判決です。

公取委や中企庁と違って、とても常識的な判断をしており、実務上極めて重要です。

関連部分を引用しておくと、

「9 争点5(本件購入要請につき不当利得の有無)について

(1)被告は,本件購入要請が,購入強制として下請法4条1項6号に違反するほか,独禁法2条9項5号イに定める不公正な取引に該当して同法19条に違反し,本件購入要請によるカレンダーやゴルフチケットの売買契約は公序良俗違反として無効であると主張する。

(2)そこで検討すると,証拠(乙27)によれば,D〔注・原告の営業担当者〕から被告代表者に対して,平成18年(2006年)10月に,2007年カレンダーの購入のお願いと題するメールを送信して,原告の製品であるカレンダーの購入依頼をしており,前年度の購入部数が卓上カレンダー100部,玉カレンダー50部,エキスパートダイアリー50部であったことも付記していたことが,証拠(乙28)によれば,Oから被告代表者に対して,平成19年4月に,□□レディスゴルフのチケットの購入依頼をしたことがそれぞれ認められる。

そして,証拠(乙36)によれば,被告の原告からのカレンダー及びゴルフチケットの購入合計額は,

平成18年期(ただし,当該年の6月1日から翌年の5月31日までの1年間を対象期間とする。以下同じ。)が95万0925円〔注・下記同年期売上の約0.5%〕,

平成19年期が44万3145円〔同0.2%〕,

平成20年期が46万8345円〔同0.2%〕,

平成21年期が46万0155円〔同0.2%〕,

平成22年期が34万6405円〔同0.1%〕

平成23年期が34万9230円〔同0.3%〕,

平成24年期が13万2195円〔0.2%〕

平成25年期が9万9015円〔0.1%〕

であったこと,

他方,被告の売上金のうち原告から受注した案件に係るものについては,

平成18年期が1億8126万5638円,

平成19年期が2億0081万0558円,

平成20年期が1億9153万6446円,

平成21年期が2億7010万7543円,

平成22年期が3億2344万3873円

平成23年期が1億3584万4511円,

平成24年期が8136万5313円

平成25年期が1億4481万8402円

であったこと,以上の事実が認められる。

(3)上記認定事実によれば,原告は,下請業者である被告の代表者と直接やり取りをしていわば窓口の立場であった者から,原告のカレンダーやゴルフチケットの購入依頼をしており,依頼の中には,前年度の購入部数を示したこともあったのであり,被告にとって,上記の購入が意に沿わない面があったことは否定できない

もっとも,被告が設立されたのが平成14年であるところ(甲2),前記(2)で認定した購入履歴をみると,購入金額の規模が年を追うごとに徐々に減少しているが,一方では,原告から受注した案件による被告の売上金の規模は上記購入履歴と連動して増減しているわけではなく

例えば,平成21年期,平成22年期に被告の受注額が増額する一方で,この間の購入金額はむしろ減少し,

一方で,平成23年期,平成24年期には受注額の減少を踏まえて購入金額が大幅に減少していることが認められる。

このような経過に照らせば,被告による購入は,被告において,原告からの受注案件を伸ばしたり確保したりといった目的を一定程度果たした上で,購入規模を徐々に縮小させたものとみることができ,被告が原告に対する営業活動の一環として自発的に行なった側面があることは否定できず,また,ノルマ等を示して購入を強制したことはない旨をいうD及びOの供述の信用性は否定できない

そうすると,被告の購入については,原告が強いたものと認めるには足りず,下請法4条1項に違反し,または不公正な取引(独禁法2条9号イ)に該当するものとはいえないから,カレンダーやゴルフチケットの売買契約が公序良俗に違反するものとはいえない。被告の前記主張は理由がない。」

というものです。

この判決から読み取れることは、まず、親事業者の営業担当者から購入の要請をしても当然には購入強制にはならない、ということです。

あたりまえですが、重要です。

次に、「意に沿わない面があった」というだけでは、購入強制にはならない、ということです。

これも、とても重要です。

公取委や中企庁なら、「しぶしぶ買った」「できれば買いたくなかった」という下請事業者の供述があるだけで、購入強制を認定すると思います。

次に、発注が増えたら購入額が増えるというという関係から、「下請事業者の営業活動の一環として自発的に行った側面がある」と認定していることです。

公取委や中企庁なら、そういう、将来の取引の増加を期待しての購入(「営業活動の一環として」の購入)なので強制ではない(「自発的に行った側面がある」)という認定(社会常識にそった認定)は、まずしないでしょう。

というのは、優越的地位の濫用ガイドライン第4の1⑴では、

「(1) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって、

当該取引の相手方が、

それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり、

又は

その購入を希望していない

ときであったとしても、

今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。」

としているだけで、下請事業者の側から営業活動の一環として購入するというような発想がまったくないからです。

これはきわめて偏った発想です。

というのは、営業活動の一環というのと、今後の取引に与える影響を懸念してというのとは、表裏一体で区別できないからです。

あえて区別するとすれば、

カレンダーを購入すれば取引が増えると期待して購入するのが営業活動の一環で、・・・①

カレンダーを購入しなければ取引が減ると懸念して購入するのが「今後の取引に与える影響を懸念して」だ、・・・②

ということになりそうですが、両者は区別できないでしょう。

というのは、どちらも論理的には、

カレンダーを購入すれば、購入しない場合に比べて、取引が増える・・・③

という同じことを言っているだけだからです。

なのに、優越ガイドラインでは、③は必然的に②である(①の余地はない)という発想でできているのです。

(購入強制には出てこない要件ですが、不当な経済上の利益の提供要請に出てくる、

「(注9) 「直接の利益」とは、例えば、広告に取引の相手方の納入する商品を掲載するため、広告を作成・配布する費用の一部を協賛金として負担させることが、取引の相手方にとってその納入する商品の販売促進につながる場合など実際に生じる利益をいい、協賛金を負担することにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。」

というような説明をみると、「営業活動の一環」としての購入のような、将来の取引が有利になることを期待しての購入も、認められないことはほぼあきらかでしょう。)

それでもあえて優越ガイドラインを、「お付き合いで購入することは世情ふつうにあることだ」という世間の常識にそって解釈しようと試みるならば、

カレンダーを購入すれば、来年は取引が増えると期待して購入するが、購入しなくても取引が減ることはない、というのが営業活動の一環で、・・・①’

カレンダーを購入しなければ、来年は取引が減ると懸念して購入するが、購入しても取引が増えることはない、というのが「今後の取引に与える影響を懸念して」だ、・・・②’

ということなのかもしれません。

でも、①’と②’の区別だって、ほぼ不可能でしょう。

区別できるとすれば、下請事業者の気分だけの問題だけでしょう。

しかも、公取委や中企庁は、取引と関係ないもの(カレンダー)を下請が購入しているとすれば、それは②ないし②’だ、という色眼鏡で見ているというのが、多くの実務家の感覚でしょう。

過去の審決例をみても、公取委が、「購入しなくても取引が減ることはない」とか、「購入しても取引が増えることはない」といったことに着目している様子は皆無です。

つまり、公取委や中企庁には、「営業活動の一環」(「お付き合い」と言い換えてもいいでしょう)という発想が、そもそもないのです。

そういう公取委実務、中企庁実務にどっぷりつかっている私の目には、この東京地裁の判決はじつに清々しく映ります。

最後に、判決が、親事業者が「ノルマ等」を示していないことを強制」を否定する事情としていることも、重要です。

公取委と中企庁実務では、ノルマは、示していたら即強制で、示していなくても強制とは言えない、という片面的な(規制当局には実に都合のいい)要素として考慮されるだけでしょう。

このように、この東京地裁判決は実に常識に沿った内容であり、公取委や中企庁も、ぜひ見習ってほしいものです。

といいますか、法令の解釈権限は裁判所にあるわけですから、公取委と中企庁は、このような裁判例に従って、解釈・運用を改めるべきでしょう。

しかもこの判決が何か特殊なことを言っているわけではなく、同じような事実が裁判所で争われたら、100件が100件とも、下請法違反を否定するでしょう。

この判決は、たまたまその1件にすぎません。

「民事訴訟は行政には関係ない」なんていう理屈や発想は許されません。

自分に都合のいい判決(たとえば土佐あき東京高裁判決)が出たら鬼の首を取ったように宣伝するのに、不利な判決は無視する、というのもいただけません。

日本が真の法治国家になることを望みます。

2026年6月19日 (金)

振興法の「情報成果物作成委託」

振興法2条1項4号・5号では、

「(定義)
第二条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

〔1号から3号省略〕

四 その者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部若しくは一部

又は

その者が業として使用する情報成果物の作成の行為の全部若しくは一部」

とされています。

4号は情報成果物作成委託(という用語は振興法にはありませんが、そう呼んでおきます。)で、自ら業として作成するものでなくても後段の自己使用情報成果物の作成委託にあたるのが、中小受託法との違いです。

中小受託法2条3項の情報成果物作成委託の定義規定をあげておくと、

「3 この法律で「情報成果物作成委託」とは、

事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。」

です。

細かいことを言うと、中小受託法2条3項では、たんに「その使用する」なので、業として使用するかどうかを問わず、1回きりの使用でも(業として「作成」さえしていれば)対象になるのに対して、振興法2条1項4号後段では「その者が業として使用」なので、使用自体が業としてなされていないといけません。

ちなみに、中小受託法テキストp14では、情報成果物作成委託の類型3(自己使用情報成果物)について、

「事業者が、「その使用する情報成果物の作成を業として行う場合」、つまり、他者への提供を目的にするのではなく、自家使用する情報成果物の作成を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合に、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

例えば、自らの事業のために用いる広告宣伝物、社内で使用する会計用ソフトウェア、自社のホームページ等の作成を社内に部門を設けて行っている場合は、「その使用する情報成果物の作成を業として行う場合」に該当する。〔中略〕

一方、社内にシステム部門があったり、システム開発に詳しい従業員がいたとしても、他の事業者に作成を委託しているソフトウェアと同種のソフトウェアを作成していない場合は、「その使用する情報成果物の作成を業として行う場合」に該当しない。」

と説明されており、社内に作成部門があるかどうかが重要であるようです。

なお、以前には、社内に部門を設けず社員が必要に応じて修理を行なう場合は「業として」にあたらないとはっきり書いてあった時期もありましたが、このあたりのテキストの変遷は以前書いたこちらの記事をご覧ください。

ともあれ、中小受託法の自己使用製造委託等の業として製造・作成・修理の場面では、社内に部門があるかどうかが重要なようですが、振興法の自己使用の情報成果物作成委託の場合の「業として使用」というのは、使用するための部門があることが重要なのか(意味があるのか)は、ちょっと微妙です。

中小受託法と振興法は別の法律だということもありますが、製造、作成、修理というのはそれなりに組織的な行為であるようように思われ、部門の存在を要求するのが比較的しっくりきますが、情報成果物の「使用」なんて、ものによっては誰でも簡単にできる(ただ使うだけ)ので、部門とかおおげさな要件を課すことに違和感があるからです。

でも同じ「業として」という文言を使っているわけですから、いちおう製造等の場合と同様に、使用の場合も、社内に使用部門があるかどうかが1つのポイントだと解しておきます。

なお、ここでの「使用部門」というのは、製造部門が製造がほんらいの(メインの、といってもいいかもしれません)業務である部門であるのと同じイメージで、使うことがほんらいの業務である部門のことであり、経営企画部門がM&Aのプレゼン資料の作成をコンサルに外注しても、経営企画部門はプレゼン資料を使うことがほんらいの(メインの)業務ではないでしょうから(メインの業務は企画をすることでしょう)、ここでの「使用部門」にはあたらない、というイメージです。

もし部品の使用なら、その部品を使用して自ら製造装置を作っている部門のようなイメージです。

そうしないと、「使用」というのは誰でもどこでもやりうる行為ですから、「業として使用」という文言にほとんど意味がなくなってしまうと思います。

振興法の自己使用の情報成果物作成委託は自ら業として作成している必要がない点で中小受託法よりもものすごく広いので、これくらいの縛りがあったほうが、結論的にも妥当なように思います。

2026年6月17日 (水)

振興法の「修理委託」について

修理の委託について、振興法2条1項では、

「第二条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

〔1号省略〕

二 その者が業として行う販売又は業として請け負う製造の目的物たる物品

又は

その半製品、部品、附属品若しくは原材料

の製造のための設備又はこれに類する器具の・・・修理

三 その者が業として請け負う物品の修理の行為の全部若しくは一部

又は

その者がその使用する物品の修理を業として行う場合におけるその修理の行為の一部(前号に掲げるものを除く。)」

と規定されています。

ざっくりいうと、

2号は自己販売物品等製造設備の修理の委託

3号前段は受託修理の再委託

3号後段は自己使用物の修理の委託

です。

詳しく見ていくと、2号は、発注者が販売する物品等の製造設備・器具(発注者が自己使用するものにかぎりません。設備が製造するのは販売目的の物品やその部品等です)の修理です。

あくまで「設備又はこれに類する器具」の修理なので、発注者が販売する物品やその部品等の修理は、2号にはふくまれません。

「その者が業として行う販売又は業として請け負う製造の目的物たる物品又はその半製品、部品、附属品若しくは原材料の製造のため」の設備(自己販売物品等製造設備)の修理が対象なので、たとえば、自己が販売する物品を製造するための金型の製造設備の修理は、ふくまれません。

自己販売物品等製造製設備の修理であればいいので、その製造設備を発注者みずからが使用している必要はなく、他人が使用している製造設備でもかまいません。

3号前段(「又は」よりも前)は、発注者が請け負う物品の修理の再委託です。

修理対象の「物品」は、発注者みずから販売した物品でもいいですが、それにかぎりません。

たとえば、自動車ディーラーが、みずから顧客に販売した自動車の修理を顧客から請け負った場合に、その修理を提携先の修理工場に委託する場合が典型ですが、そのような場合にかぎらず、たとえば、自動車ディーラーから修理を請け負った修理工場(発注者)が、提携先の板金屋さんに修理を再委託する、という場合も3号前段にあたります。

3号後段(「又は」よりも後)は、発注者が自己使用する「物品」の修理行為の委託です。ただし、発注者が業として修理をしている場合にかぎります。

3号後段の「物品」は、発注者が「使用」する物であればいいので、発注者の工場に設置された製造設備も含まれますし、生産活動とは関係のないような、従業員向けの給茶機のようなものでもかまいません(ただし、給茶機の修理を発注者自身が業として行なっていないといけない、ということです)。

いちおう、中小受託法の修理委託と比較しておくと、中小受託法2条2項では、

「この法律で「修理委託」とは、

事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること

及び

事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託すること

をいう。」

とされています。

前段が受託修理の再委託で、振興法でいえば2条1項3号前段に相当し、後段が自己使用物品の修理委託で、振興法でいえば2条1項3号後段にあたります。

というわけで、中小受託法には、振興法の2条1項2号のような、(自己販売物品等)製造設備の修理の委託のような独自の類型はありません。

ただ、(自己販売物品等)製造設備のうち自己使用の製造設備の修理委託だけは、自ら業として修理している場合にかぎり、中小受託法2条2項後段の自己使用物品の修理委託でカバーされます。

逆に言うと、他社使用の自己販売物品等製造設備の修理委託(振興法2条2項前段でカバーされる)は、中小受託法2条2項後段の自己使用物品の修理委託ではカバーされず、そのような製造設備の修理を受託して再委託する場合にかぎり、中小受託法2条2項前段の受託修理の再委託でカバーされます。

ということは、結局、他社使用の自己販売物品等製造設備の修理委託(振興法2条2項前段)のうち、中小受託法2条2項後段の自己使用物品の修理委託でもカバーされず、中小受託法2条2項前段の受託修理の再委託でもカバーされないものが、振興法独自の規制対象だということになります。

ここで気になるのが、振興法2条2項3号後段の

「三 その者が業として請け負う物品の修理の行為の全部若しくは一部

又は

その者がその使用する物品の修理を業として行う場合におけるその修理の行為の一部(前号に掲げるものを除く。)」

における、「(前号〔=2号〕に掲げるものを除く。)」というのはどのような場合が想定されるのか、ということです。

端的にいえば、2号は自己販売物品等製造設備の修理の委託なので、

3号前段(受託修理の再委託)との関係では、自己販売物品等製造設備の修理を受託している場合の受託修理の再委託については3号前段ではなく2号が適用され、

3号後段(自己使用物品の修理の委託)との関係では、自己販売物品等製造設備を自ら使用しかつ業として修理している場合には、3号後段ではなく2号が適用される、

ということになります。

逆に言うと、もし2号(自己販売物品等製造設備修理委託)がない場合に困る場面というのは、自己使用販売物品等製造設備の修理の委託だけれど、発注者が業としてその修理の受託もしておらず(3号前段不適用)、かつ、業として自ら修理していない場合(3号後段不適用)、ということになりそうです。

でも、発注者が自己販売物品等製造設備の修理を受託するという場面はあまりなさそうですから(製造設備は自分で使用している可能性が高いため)、2号に最も意味があるのは、業として自ら修理していない自己販売物品等製造設備の修理委託の場合であり、そういう場面はかなりありそうに思います。

つまり、製造設備の修理委託については発注者が業として修理しているかどうかを問わず振興法が適用される、ということです。

2026年6月15日 (月)

振興法の「製造委託」の定義

パートナーシップ構築宣言をする企業が増えてきたため、受託中小企業振興法(振興法)の実務的な重要性が一気に高まってきました。

そこで、振興法の製造委託の定義について整理しておきます。

(ただ、振興法には、「製造委託等」(2条1項)という用語はありますが、「製造委託」という用語はありません。なので、「製造委託」というのは、製造委託等のうち製造に関係するもの、くらいにとらえておいてください。)

振興法2条1項1号では、

「第2条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

一 その者〔=柱書の1つめの「事業者」=発注者〕が

業として行う販売若しくは業として請け負う製造

(加工を含む。以下同じ。)

の目的物たる物品若しくはその〔=物品の〕半製品、部品、附属品若しくは原材料

若しくは

業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料

の製造

又は

その者が

業として使用し若しくは消費する物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料の製造

と規定されています。

前段(「又は」より前)は、発注者が業として販売する、または業として製造受託する、物品(完成品)や、その部品等が委託の対象物であり、中小受託法の製造委託の類型1(業として販売する物品等の製造委託)と類型2(業として製造受託する物品等の製造委託)と、おおむね同じです。

振興法と中小受託法は別の法律ですし、一方が他方を前提にしているという論理的な関係もないので、両者を比べることにあまり意味はないのですが、参考までに中小受託法2条1項の製造委託の定義の関連部分を引用すると、

「(定義)
第二条 

この法律で「製造委託」とは、

事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造

(加工を含む。以下同じ。)

の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくは専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の若しくは工作物保持具その他の特殊な工具

・・・の製造を他の事業者に委託すること・・・をいう。」

とされていて、確かによく似ています。

違いは、

中小受託法2条1項前段(「特殊な工具」より前)の製造委託では対象が物品等

(顧客の手に渡る商品に物理的に含まれる、いわゆる直接材)

のみならず、型と保持具と特殊工具

(下請法では金型だけだったのが、中小受託法に改正される際に広げられました。)

もふくまれます

が、

振興法2条1項前段では、「・・・原材料」で終わっているので、あくまで直接材にかぎらる、

ということです。

いわば、振興法2条1項前段は、販売(受託含む)目的物品とその直接材の、製造委託です。

次に、振興法2条1項後段(「又は」以下)をいま一度みてみると、

「第2条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

一 ・・・

その者〔=柱書の1つめの「事業者」=発注者〕が

業として使用し若しくは消費する物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料の製造

とされています。

「消費」も「使用」の一種だとみれば、振興法2条1項後段は要するに、自己使用物品とその直接材の、製造委託です。

ここでも、型や保持具、特殊工具までは委託の対象が広げられていないので、対象はあくまで直接材です。

ただ、中小受託法の自己使用物の製造委託では、発注者自身が業として同じものを作っている必要がありますが、振興法2条1項後段の自己使用物の場合は、発注者が自分で作っている必要はありません(条文にそのような要件がないので、当然です)。

なので、自己が業として製造している必要がないという点だけで、自己使用物の製造委託については、振興法のほうが中小受託法よりも圧倒的に適用範囲が広い、ということになります。

以上をまとめると、振興法2条1項1号は、販売目的および自己使用物品とそれらの直接材の製造委託ということになります。

次に、振興法2項1項2号では、

「第2条 この法律において「製造委託等」とは、事業者が他の事業者に対し次の各号のいずれかに掲げる行為を委託することをいう。

〔1号省略〕

二 その者〔=柱書の1つめの「事業者」=発注者〕が

業として行う販売

又は業として請け負う製造

の目的物たる物品又はその半製品、部品、附属品若しくは原材料

の製造のための設備又はこれに類する器具の製造(前号に掲げるものを除く。)

又は修理」

とされています。

つまり、販売目的物品とその直接材の製造設備・製造器具の製造・修理の委託です。

念のため書き下しておくと、

振興法2条1項2号

=(販売目的物品の製造設備の製造の委託+販売目的物品の製造設備の修理の委託)

+(販売目的物品の製造器具の製造の委託+販売目的物品の製造器具の修理の委託)

+(販売目的物品の半製品の製造設備の製造の委託+販売目的物品の半製品の製造設備の修理の委託)

+(販売目的物品の半製品の製造器具の製造の委託+販売目的物品の半製品の製造器具の修理の委託)

+(販売目的物品の部品の製造設備の製造の委託+販売目的物品の部品の製造設備の修理の委託)

+(販売目的物品の部品の製造器具の製造の委託+販売目的物品の部品の製造器具の修理の委託)

+(販売目的物品の附属品の製造設備の製造の委託+販売目的物品の附属品の製造設備の修理の委託)

+(販売目的物品の附属品の製造器具の製造の委託+販売目的物品の附属品の製造器具の修理の委託)

+(販売目的物品の原材料の製造設備の製造の委託+販売目的物品の原材料の製造設備の修理の委託)

+(販売目的物品の原材料の製造器具の製造の委託+販売目的物品の原材料の製造器具の修理の委託)

という感じです。

これをみるとわかるのは、振興法2条1項2号で製造・修理委託の対象となっているのは、あくまで製造設備か、それに類する製造器具であって、物品(直接材を含む)そのものではありません。

つまり、

振興法2条1項1号→販売目的物品・自己使用物品とそれらの半製品等の製造委託

振興法2条1項2号→販売目的物品とその直接材の製造設備・製造器具の製造・修理委託

という棲み分けです。

ここで少し気になるのが、2号の

「二 その者が業として行う販売又は業として請け負う製造の目的物たる物品又はその半製品、部品、附属品若しくは原材料の製造のための設備又はこれに類する器具の製造(前号に掲げるものを除く。)

の、「前号に掲げるものを除く。」という文言です。

というのは、ここで「除く」とされているもの(除かれるのが部分集合だとしたら、部分集合を含む全体集合)は、

「・・・原材料の製造のための設備又はこれに類する器具製造」、

つまり、設備や器具の製造だからです。

これに対して「前号に掲げるもの」というのは、「販売目的物品・自己使用物品とそれらの半製品等の製造」です。

なので、2号の製造の対象(目的語)は設備・器具で、1号の製造の対象(目的語)は物品等であり、そもそも両者は重ならないのではないか(つまり、「前号に掲げるものを除く。」という文言は空振りではないか)、という疑問がわいてきます。

しかし、これは空振りではないというべきでしょう。

というのは、発注者が、販売目的物の製造設備を自己使用している場合(自社工場でその製造設備を使って製造している場合)があるからです。

この場合、その製造設備は、「その者が業として使用・・・する物品」(振興法2条1項1号)にあたります。

(ちなみに、この「その者が業として使用・・・する物品」というのは、販売目的物品の製造設備や販売目的物の供給ラインを構成する物である必要はまったくなく、たとえば、オフィスに置いてある従業員用のコーヒー自販機などでも、これにあたると考えられます。)

同時に、このような自己使用の製造設備は、振興法2条1項2号の、

「その者が業として行う販売又は業として請け負う製造の目的物たる物品・・・の製造のための設備」

に、言葉のうえではあたってしまいます。

要は、自社製造設備は、自己使用物品(1号)でもあり、製造設備(2号)でもある、ということです。

このように、自社製造設備は1号でカバーされるとすると、2号の「製造のための設備」というのは、自社では使わない(つまり、他社に使わせる)製造設備だ、ということになります。

製造委託先に使用させる製造設備のようなイメージでしょうか。

でも、このように1号と2号を分けると、

「〔物品〕の半製品、部品、附属品若しくは原材料」(1号)

の取扱いに難があるように思われます。

(まあ、法律がそういう法律なわけですから、どうこういってもしかたないのですが。)

というのは、自社製造設備の場合は1号が適用される結果、

「その者が業として使用し若しくは消費する物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料の製造」(1号)

の委託が、ぜんぶ振興法の対象になります。

なので、自社製造設備の場合、たとえば、自動車メーカー(発注者)が、自社で用いる自動車製造設備で使う、塗料の塗り具合のチェック装置に使われている画像センサーも、自己使用物品の「部品」ないしは「附属品」ということになり、そのような画像センサーを中小受託者に発注すると、1号の対象になります。

これに対して、他社の製造設備の場合、たとえば、自動車メーカーA(発注者)が、その下請シートメーカーBにシートを製造させていて、そのシートメーカーBが自社でシート製造設備をつかってシートを製造している場合に、自動車メーカーAが、そのシート製造装置で使用される針を中小受託者Cに発注した場合、その針は、

「その者〔A〕が業として行う販売・・・の目的物たる物品〔=自動車〕又はその・・・部品〔=シート〕・・・の製造のための設備〔=シート製造装置〕又はこれに類する器具の製造(前号に掲げるものを除く。)」(2号)

にはあたらなさそうです。

針を「製造のための設備」というのは無理そうでしょうし、「これに類する器具」も、無理でしょう。

というわけで、自社製造設備のほうが、他社製造設備の場合よりも、微妙に適用範囲が広い、ということになりそうです。

このように考えていくと、振興法2条1号2号の適用場面は、自己使用していない(=他社に使用させている)製造設備の製造委託の場合なので(←このことは、製造設備の所有権や使用態様が何ら条文上規定されていないことからあきらかです。)、そもそもかなり適用場面が狭いことがわかります。

ただ逆に、製造設備の「修理」については、1号には規定がないので(1号は「製造」だけ)、自社製造設備の修理については3号で、他社製造設備の修理については2号でいくしかありません。

振興法上「修理」をどうあつかうかについてはいろいろと細かい議論ができそうですが、また後日考えてみたいと思います。

2026年6月11日 (木)

中小受託法のボリュームディスカウントの実務的な難点

中小受託法運用基準第4の3⑴では、ボリュームディスカウントについて、

「ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金

(例えば、委託事業者が、一の中小受託事業者に対し、一定期間内に一定数量を超える発注を達成した場合に、当該中小受託事業者が委託事業者に支払うこととなる割戻金)

であって、

あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がされ、その内容について書面又は電磁的記録の作成がされており、当該書面又は電磁的記録における記載又は記録と明示されている代金の額とを合わせて実際の代金の額とすることが合意されており、かつ、当該明示と割戻金の内容が記載されている書面又は電磁的記録との関連付けがされている場合には、

当該割戻金は代金の減額には当たらない。」

とされています。

さらに、「合理的理由」の意味について、中小受託法テキストQ95 (p74)では、

「運用基準にいう「合理的理由」とは、

ボリューム及び割戻金の設定に合理性があるものであって、

具体的には発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、

当該品目の取引において中小受託事業者の得られる利益が、割戻金を支払ってもなお従来よりも増加することを意味する。」

とされています。

でも、ここで問題なのは、

「当該品目の取引において中小受託事業者の得られる利益が、割戻金を支払ってもなお従来よりも増加する」

かどうかなんて、コスト構造が丸見えになっている商品でもないかぎり、ふつう発注者にはわからないことです。

もしこれをわかろうとすると、発注者は、中小受託事業者者に、利益の額を聞くしかありません。

売上の額は発注者はわかりますから(自分で発注しているのだから当然です)、問題は、中小受託事業者のコストの額(固定費と変動費の区別を含め)です。

でも、相手方のコスト構造を明らかにさせることについては、それ自体が優越的地位の濫用にあたるのではないか、という懸念が実務にはあります。

それに、もし中小受託事業者にコストを聞いて教えてくれたとしても、それが正しいという保証はありません。

それが正しいかどうかを確認するために詳細に資料を出させたら、ますます優越的地位の濫用といわれかねません。

そのような事情から、ボリュームディスカウントの導入をためらう発注者がいても、おかしくないと思います。

それを避けようと思えば、ボリュームディスカウントされたあとの金額を基準に発注単価を定めることですが、そんなことをしたら、ボリュームディスカウントの閾値に売上が届かなかったときにはむしろ中小受託事業者が不利益を被ってしまいます。

それを避けるためには、代金減額ではなく、「代金増額」にする、ということが、理屈のうえでは考えられます。

つまり、ボリュームディスカウントの閾値に発注数量が足りなかったときには、発注者から中小受託事業者に対して追加で金銭を支払う(代金を増額する)、ということです。

でも、これだと、発注数が少なかった場合には発注者にペナルティが課されたみたいで、ビジネスの現場ではなかなか受け入れがたいのではないかという気がします。

(これに対して、たくさん売れたから値引きする、というのは双方にとって納得感がある。)

というわけで、中小受託法の規制があるために、双方にメリットのある合理的な価格設定ができない、ということが起こりかねません。

というか、実際に起こっています。

最悪の場合、ボリュームディスカウントがみとめられないために、最初から安い価格が設定され、ボリュームディスカウントの閾値に達しなときのリスクを中小受託事業者が負う、ということにもなりかねません。

あるいは、同じ立場にあるのに、中小受託事業者でない受託者よりも、中小受託事業者である受託者のほうが、競争上不利になることも考えられます。

というわけで、現在の中小受託法テキストのボリュームディスカウントの要件は厳しすぎて合理性がないので、私は廃止すべきだと思います。

運用基準の「合理的理由」という文言のすなおな解釈としても、中小受託法のような解釈は出てこないはずで(「合理的理由」の意味として狭すぎる)、できるだけ早期に中小受託法テキストの記載は改めるべきであろうと考えます。

2026年6月 8日 (月)

「同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合」(定義告示運用基準6⑷ア)の意味について

定義告示運用基準6⑷では、

「(4) 次のような場合は、「値引と認められる経済上の利益」に当たらない。

ア 対価の減額・・・であっても、・・・同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合)」

とされています。

ここで、具体例は、

「取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合」

というように、対価の減額(「金銭」)と景品類(「招待旅行」)を選択的に(「又は」)で適用される場合があげられています。

では、対価の減額と景品類の両方を重畳的に提供する場合にも、「対価の減額」は「値引」にはならなくなる(景品類になる)のでしょうか。

この問題について、高居他編著『景品表示法〔第7版〕』234頁では、

「③同一の企画において景品類の提供と〔対価の減額〕を併せて行う場合(取引の相手方に金銭と招待旅行の両方を提供する場合と、これらのうちいずれかを選択させる場合の両方が〔対価の減額が〕景品類の提供にあたる)」

とされており、選択させる場合だけでなく両方を提供する場合も対価の減額は値引にあたらない、としています。

まあ確かに、定義告示運用基準の「併せて行う」という文言からすると、むしろ両方提供する場合を指しているとすら読めます(むしろ選択させる場合が「併せて」といえるのかのほうに疑問が沸いてくる)。

また、緑本にこう書いてある以上は実務的にはこれにしたがわざるをえないとは思います。

でも、これには異説もあり、古川昌平『実務担当者のための景表法ガイドマップ』226頁では、

「(c)同一の企画において景品類の提供を併せて行う場合の例は、値引・キャッシュバックか景品類のいずれかを選択させる、というものである

1つの取引に付随して、値引と景品類提供を両方行う場合には、上記(c)〔注・定義告示運用基準6⑷アの、対価の減額と景品類の提供を併せて行う場合〕には当たらない)。」

とされています。

実際、少なくとも同一の取引に付随して(「同一の企画において」ではないことにご注意ください。同一の企画の対象となる取引は通常複数あるからです。)対価の減額と景品類の提供をする場合には、その取引の、対価減額後の取引価額を基準にして景品類が法定の限度内であれば、過度な景品類が提供されるおそれもなさそうで、対価の減額自体を景品類だといわなくてもいいような気がします。

それに、過去の公取委職員の論考をみると、どうもこの「併せて行う」というのは、対価の減額と景品類の提供が選択的な場合だけを想定していたように思えてならないのです。

たとえば、鈴木満他「『事業者に対する景品類の提供に関する景品表示法上の考え方』について」公正取引456号(1988年)9頁)では、当時あった事業者景品ガイドラインの、

「③同一の企画において金銭の提供とを併せて行う場合

(例えば、相手方事業者に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合、

1位のものには金銭を、2位以下のものには景品類をそれぞれ提供する場合)」

という文言についての説明の中で、

「減額若しくは割り戻すか、又は、その分例えば商品券を提供するかを相手方事業者に選択させる場合

(この場合、景品類を提供したのと変わらない。)

は、取引通念上妥当と認められる基準に従い、対価の減額又は代金の割戻しをしたものとは認められないので、『値引と認められる経済上の利益』に当たらない。」

とされていて、選択させる場合であることを明言しています。

ただここで、「選択させる場合」だと、なぜ減額が「景品類を提供したのと変わらない」ことになるのかという理屈は、今一つよくわかりません。

当選者に減額と景品の選択肢を与えたうえで当選者が減額を選んだ場合には、当選者は景品の資格を放棄して減額を選んだのだから、景品を提供したのとかわない、ということなのでしょうか・・・?

また、利部修二「実務家のための景品表示法基礎講座6」公正取引471号〔1990年〕54頁では、

「購入額10万円の人には1万円の値引、5万円の人には5千円の商品券を提供する場合」

を定義告示運用基準6⑷アの例として例示しています。

この例などをみると、消費者に「選択」させることが本質なのではなくて(消費者は5万円の商品ではなく10万円の商品を購入することにより、5千円の商品券ではなくⅠ万円の値引を「選択」しているといえなくもないですが、ちょっと技巧的でしょう)、ともかく1つの企画の中で値引と景品類の両方が提供されていることが重要である(1つの取引で両方もらえるのか片方しかもらえないのかはどうでもいい)、という発想がうかがえます。

このように、対価の減額と景品類を、1つの取引に対して選択的に(どちらかだけ)提供するのか重畳的に(両方とも)提供するのかはどうでもいいのだとすると、にわかに注目すべきなのが、「同一の企画」という縛りです。

つまり、この「同一の企画」という文言や、上記のような公取委関係者の解説などを踏まえると、同一の取引が2つの企画の対象になっていて、一方の企画では対価の減額を提供し、他方の企画では景品類を提供する、という場合には、この定義告示運用基準6⑷アの規定は適用される余地がない、ということです。

(この点、同一取引に複数の景品類が提供される場合の懸賞運用基準5⑵は、

「同一の取引に付随して二以上の懸賞による景品類提供が行われる場合」

と規定しているので、2以上行なわれるのは「景品類提供」であって、企画が2以上行なわれるかどうかは関係がないのと混同しないようにする必要があります。)

たとえば、値引きのキャンペーンが行なわれている期間中に、その値引対象商品を対象にする景品企画を別途行なったとしても、2つの企画は「同一の企画」ではないので、値引きキャンペーンの値引を景品類とみる必要はない、ということです。

こういう、1つの企画か2つの企画かという基準を導入すると、1つの企画をあえて2つに分割して行なうという脱法的な行為が行なわれるのではないかとか、企画の同一性みたいなあらたな論点が出てくるのではないかとか、厳密に考えてみるといろいろと問題はあるのですが、定義告示運用基準が現に「同一の企画」という文言を使っている以上、同運用基準は企画の同一性なるものを概念していると考えるほかないように思います。

そして、上記の鈴木解説および利部解説はまさに、そういう、ゆる~い観点から「企画の同一性」を考えているように思えてなりません。

つまり、同一の企画にみえる企画の中で(同一取引か別の取引かにかかわらず)景品類と対価の減額を提供していたら、消費者はどっちが景品でどっちが値引かなんて気にしない(ぜんぶひっくるめて景品であるかのように誘引される)のではないか、ということです。

そういう、ゆる~い観点から定義告示運用基準6⑷アをながめてみると、同一取引に対して対価の減額と景品類を選択的に提供する場合でも重畳的に提供する場合でも、定義告示運用基準6⑷アは適用される(対価減額は値引ではない)、という緑本の解説も、納得できます。

逆に言うと、値引きキャンペーンAをやっていて、あとから景品提供キャンペーンBを同時期にやる、というように、あきらかに別々の企画である場合には、同一の取引にAの値引とBの景品の両方が提供されたとしても、Aの値引きを景品類とみなす必要はなく、Aで値引かれた対価を基準にBの景品類が法定の限度を超えないようにすればいい、ということだと思います。

1つの企画をあえてAとBに分けたと認定されるとこういうわけにはいかないかもしれませんが、そういう脱法の意図もなくほんとうにAとBを別々にやっていたのなら、「同一の企画」(定義告示運用基準6⑷ア)にはあたらないというほかないと思います。

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