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2026年5月

2026年5月 6日 (水)

従業員派遣費用を請求するよう求めていたのに無償派遣とされた事例(2025年9月5日ニシムタ確約)

掲題のニシムタ確約では、

「⑷ 新規開店又は改装開店(注7)に際し、これらを実施する店舗において、納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品の搬入、陳列等の作業を行わせるため、派遣のために通常必要な費用(以下「派遣費用」という。)を自社が負担することなく(注8)、当該納入業者の従業員等を派遣させている。」

と認定されていますが、(注8)には、

「(注8)ニシムタは、従業員等を派遣した納入業者に対して、派遣費用の請求を行うよう求めているものの、当該求めに応じず、派遣費用を請求しない意思表示をした納入業者の派遣費用については、負担をしていない。」

と記載されています。

逆に言うと、ニシムタは、納入業者に対して、派遣費用の請求をニシムタにするよう求めており、請求があった派遣費用については負担していた、ということです。

しかも、公取委リリースの4⑵では、

「⑵ 前記3⑷の行為は、納入業者に派遣費用を請求するよう求めていたものの、派遣費用を請求しない意思表示をした納入業者について、その派遣費用を負担することなく従業員を派遣させていたものである。」

とされているので、明確に「請求しません」という意思表示をした納入業者に対する不払いが違反認定(確約なので「おそれ」ですが、煩雑なので以下「おそれ」は省略)されたものといえます。

このような、明確に「請求しません」という意思表示をした納入業者に対する不払いを違反認定することについて、同じく公取委のリリースでは、

「取引上の地位が納入業者に優越している事業者が、当該納入業者に対して、従業員等を派遣させて本来自らが行うべき役務を行わせる場合、当該納入業者が派遣費用を請求しない意思表示をしたとしても、派遣費用を負担しない場合には、優越的地位の濫用として問題となるものと考えられる。」

というふうに、明確に述べられています。

これだけみるとずいぶん厳しいなぁと思われるかもしれませんが、他方で、優越的地位の濫用ガイドラインよりもとりたてて厳しいことを言っているわけでもないのかな、とも理解できます。

つまり、優越ガイドライン第4の2⑵では、

「⑵ 従業員等の派遣の要請

ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,従業員等(注11)の派遣を要請する場合であって,どのような場合に,どのような条件で従業員等を派遣するかについて,当該取引の相手方との間で明確になっておらず,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合・・・には,
正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる。」

とされており、これを読めば、「どのような場合に,どのような条件で従業員等を派遣するか」について、「あらかじめ」「当該取引の相手方との間で明確になって」いない場合には、それだけで濫用行為になる、ということだと理解できます。

ニシムタの場合は、そのような条件についてあらかめ明確にしていなかったので、違反認定されたのかな、と理解できるわけです。

ところが、担当官解説(公正取引903号45~46頁)を読むと、実はそうではなく、本件で公取委はガイドラインよりも厳しい立場をとっていることがわかります。

すなわち、担当官解説では、

「イ 従業員等の派遣の要請について前記第 1 の 2(2)の行為は、納入業者が従業員等を派遣することについてニシムタとの間で合意した上で実施されているものであり、

また、ニシムタは、納入業者に派遣費用を請求するよう求めていたものの、

派遣費用を請求しない意思表示をした納入業者に対してのみ、その派遣費用を支払わなかったものである。」

このように、端的に「ニシムタとの間で合意」したうえでの派遣だったと認定されていることからすると、担当官は、「あらかじめ」じゃないとか、「どのような場合に,どのような条件で従業員等を派遣するか」について合意があったかどうかを問題にしているのではない(むしろ、その点については問題なかった)と捉えている、あるいは、そのような点(ガイドラインの基準)についてはまったく無頓着であったことが、うかがわれます。

それを裏付けるように、続けて担当官解説では、

「しかし、従業員等の派遣の要請については、取引上の地位が劣位にある納入業者は、たとえ派遣費用を請求するよう求められたとしても、取引への悪影響を懸念して請求しないことも考えられる 9)。」

と、堂々と書かれています。

このように、将来への悪影響の懸念を持ち出されると、そもそも、「どのような場合に,どのような条件で従業員等を派遣するかについて,当該取引の相手方との間で明確になって」いたとしても、「取引への悪影響を懸念して請求しない」というだけで違反認定される、ということにならざるをえないと思われます。

これは、あからさまなガイドラインの無視ではないでしょうか?

さらにダメ押しするかのように、担当官解説では続けて、

「また、そもそも、事業者が本来自ら行うべき役務を、取引上の地位が劣位にある納入業者に従業員等を派遣させて行わせる以上、納入業者が派遣費用の請求をしない意思表示をしたとしても、当該派遣費用は、従業員等の派遣を要請した事業者が負担すべきものである。

と述べられています。

こんなふうに、「事業者が本来自ら行うべき役務」だという理由で違反認定されるとしたら、しかも、ガイドラインが求めるような、派遣条件があらかじめ明確になっているという要件を満たしたとしても違反認定されるとしたら、ガイドラインの無視もはなはだしいと思います。

最後に、続けて担当官解説では、

「このようなことから、本件では、公表文において、取引上の地位が納入業者に優越している事業者が、当該納入業者に対して、従業員等を派遣させて本来自らが行うべき役務を行わせる場合、当該納入業者が派遣費用を請求しない意思表示をしたとしても、派遣費用を負担しない場合には、優越的地位の濫用として問題となることを改めて明示したと考えられる。」

と締めくくっており、このことからは、この事件で公取委がいいたいののは、あらかじめとか派遣条件云々だとかではなくて、ともかく、納入業者が「派遣費用を請求しない意思表示をしたとしても」派遣費用は払え、という一点に尽きる、ということだったのだ、とわかります。

というわけで、この事件はガイドラインをまったく無視して処理されていたことがわかります。

担当官解説がガイドラインを無視する姿勢を貫いていることは、同解説の注9にもよく表れています。

すなわち、注9では、

「9)もっとも、従業員等の派遣が、それによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして、取引の相手方の自由な意思により行われる場合には、派遣費用を負担せずとも独占禁止法上、許容される場合がある。(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方 第4の2(1)イ)」

とされているのですが、ガイドラインの該当箇所は、正しくは、

「イ メーカーや卸売業者が百貨店,スーパー等の小売業者からの要請を受け,自己が製造した商品又は自己が納入した商品の販売等のためにその従業員等を派遣する場合がある。

こうした従業員等の派遣は,メーカーや卸売業者にとって消費者ニーズの動向を直接把握できる,小売業者にとって専門的な商品知識の不足が補われる等の利点を有している場合がある。

従業員等の派遣が,それによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして,取引の相手方の自由な意思により行われる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない。」

です。

ガイドラインでは「問題とならない」と断言しているのに、「許容される場合がある」というようにいうことは、ガイドラインで問題ないといっている場合でも問題がある場合があるといっているわけで、完全にガイドラインを無視しています。

こういう官僚の欺瞞には、われわれは厳しい目を向けなければなりません。

これに対しては、「ガイドラインは違反者からの派遣費用の請求の求めに対して請求しない意思を納入業者が明確にしたかどうかを問わずともかく派遣費用を負担しろといっているのだから、納入業者が辞退してもあくまで負担しろというのがガイドラインの文言解釈上正しいのではないか?」という異論があるかもしれませんが、それはあまりに形式的な解釈すぎて説得力はないと思います。

相手があくまでいらないのと言っているのに無理やり受け取らせることなんてできないからです。

ちょっと似たような問題として、確約で金銭的価値の回復を確約したのに相手が受け取ってくれないと確約違反になるのかという問題があります。

この問題について、公正取引の2021年の座談会(852号13頁)では、白石先生の、

「これまでに実務家の方からいただいた御質問で、公正取引委員会に認定された確約計画に盛り込まれたので金銭的価値の回復をしようとしても、納入業者が受け取ってくれないということがあるのではないか、そういう場合に確約計画不履行ということになってしまうのか、という御質問をいただいたことがあります。この点について何かお考えをお知らせいただければと思います。」

との質問に対して、小林前審査局長から、

「小林 例えば、確約措置として従業員派遣の費用を納入業者に払うというときに、支払者の方で派遣された人数などを全部把握できていればいいのですが、必ずしもそうでない場合もあると思います。そうすると、納入業者に確認したり、納入業者の方から手を挙げてもらうということも出てくるかもしれません。こういう場合、確約措置を行う事業者やその代理人の方から納入業者に対し、従業員派遣したことを申し出ても不利益はなく何も問題はないということを伝えて手を挙げるように丁寧に依頼することが考えられます。

そういうことを尽くした上で、それでもどうしても手を上げない、派遣費用を受け取らないという場合には、それで直ちに確約計画の不履行になるわけではないと思います。」

と回答されています。

公取委の監視下の確約よりも通常の取引のほうが納入業者が手を上げにくいのではないか(よって、より手厚い配慮が必要なのではないか)、という議論はありうると思いますが、根本的なところでは、「請求せよといっているのに請求しない以上、払わなくていい」という点で共通しており、少なくとも、ガイドラインは派遣費用請求の求めを納入業者が拒否したかどうかにかかわらず違反者は派遣費用を負担しなければならないというほど杓子定規なことは言っていない、という根拠としては十分だと思います。

別の切り口からいえば、ニシムタの確約でも、金銭回復措置として、

「⑷ 前記3⑴、⑶及び⑷の行為に関する納入業者における金銭的価値を回復すること。」

と命じられていますが、前記座談会の小林審査局長の回答によれば、「回復する」ことが必要であるとされているにもかかわらず、

「確約措置を行う事業者やその代理人の方から納入業者に対し、従業員派遣したことを申し出ても不利益はなく何も問題はないということを伝えて手を挙げるように丁寧に依頼

すれば「回復」しなくてもいいといわれているわけですから、通常の取引の中でも、

「ニシムタから納入業者に対し、従業員派遣したことを申し出ても不利益はなく何も問題はないということを伝えて請求するようにるように丁寧に依頼」

していれば濫用行為にはあたらないといえるのではないか、ということです。

なお、この、請求するよう求めたけれども断られた、というのは、ガイドライン第4の2⑵イの、

「従業員等の派遣の条件についてあらかじめ当該取引の相手方と合意(注14)し,かつ,派遣のために通常必要な費用を自己が負担する場合」

というのとは別の話です。

この、あらかじめの条件合意+費用負担、という例外は、請求の求め+請求拒否、というのと、論理的に両立する(無関係)だからです。

さらにいえば、担当官の、「請求を求めて拒否されても払わないといけない」という立場(というより、ホンネは、そもそも派遣を求めてはいけない、ということなのでしょうけれど)は、裁判になったらたぶん負けると思います。

というのは、従業員派遣が問題になったラルズ事件の2021年3月3日東京高裁判決では、

「イ そこで,原告による従業員派遣の要請に不利益⾏為に該当しない特段の事情があるか否かについて検討するに,認定事実2⑴によれば,

原告は,第2商品部等⼜は室蘭の商品部を通じて従業員等派遣の要請をしており,具体的には,第2商品部等のバイヤーが,各GMの指⽰により,事前に,納⼊業者に対し,商談の際や電⼦メール⼜は電話により従業員等を派遣するよう要請し,⼜は,特定の納⼊業者に対し,従業員等を派遣する他の納⼊業者の取りまとめを⾏わせるなどし(認定事実2⑴イ),平成19年3⽉の改装開店以降の従業員等派遣を要請する際には,「店舗応援のお願い」「応援回答書」「請求書」等の「応援依頼書類⼀式」を使⽤していたが(認定事実2⑴ウ),

ほとんどの商品部では,対象となる店舗名及び住所のみを記載し,期間,集合時間及び応援⼈数の各欄を空欄にしたままこれを納⼊業者に配布し,応援回答書も,全部の納⼊業者から回収していたものでもなければ,回答内容が実際と齟齬する場合もあり(認定事実2⑴エ),

このように,原告は,納⼊業者に対し,作業の具体的な内容,労働時間,派遣のために通常必要な費⽤を原告が負担するか否か等の条件について事前に伝えておらず,納⼊業者と条件について事前に合意することもなかったもので(認定事実2⑴エ),

従業員等派遣に係る費⽤の負担についても,納⼊業者が請求することはほとんどなく

原告においても,《A1》専務の指⽰により費⽤⽀払の実績を作るために,納⼊業者に費⽤を請求するよう働きかけ,これに応じた請求に対して⽀払った11件の費⽤を除き,納⼊業者に対して費⽤を請求するよう働きかけることも⽀払うこともなく,前記の⽀払った費⽤の額も,従業員等の作業全てに相当する額ではなかったものであり(認定事実2⑴カ),

作業内容についても,本件開店準備作業等のうち,商品の陳列,補充に関する作業では,原告があらかじめ定めた棚割表に従って商品を置くだけで,納⼊業者の従業員等が⾃らの判断で⾃社の商品を置くことはできず,また,販売作業では,原告は,派遣された従業員等に⾃社商品と他社商品の区別なく作業を⾏わせていたため,派遣された従業員等において,⾃社商品の説明を⾏ったり,宣伝をしたりすることはできず,さらに,改装開店の場合の閉店時の作業においても,⾃社商品と他社商品の区別なく商品の撤去及び他店舗への振替作業等を⾏わせており,

いずれも特別な技術⼜は能⼒を必要とするものではなく,原告の従業員による対応も可能であったというべきであり(認定事実2⑴オ),

そして,原告は,従業員等派遣を受けるに当たり,購⼊商品を増やす等の⾒返りを約束することはなく,

《A1》専務においても,納⼊業者には従業員等派遣による直接の利益はなく,同業他社が従業員派遣をしている中で,これに応じないと商品選定の際に不利になると思い応じていたものと考えていたこと(認定事実2⑴キ)が,

それぞれ認められるところである。

 そうすると,本件において,

①原告は,従業員等派遣を要請する際,事前に,店舗名や住所に加えて,作業期間,作業内容,応援⼈数,従業員等の派遣に要する費⽤の負担等の条件を明らかにしたり,納⼊業者との間で条件について合意したりすることはなく,

例外的な場合を除き,従業員派遣等に要した費⽤を請求するよう働きかけることも⽀払うこともなかったものであり,

③派遣された従業員等が従事した作業の内容も,納⼊業者の従業員等が,⾃⾝の判断で⾃社商品を陳列したり,⾃社商品を説明,宣伝したりすることはできず,⾃社商品と他社商品の区別なく作業を⾏っていたものであり,

④原告は,従業員派遣等を受けることによる⾒返りの約束をすることもなかった

というのであるから,原告による従業員派遣等の要請については,不利益⾏為に該当しない特段の事情があるとは認め難く,本件においては,従業員等派遣の要請に関して従業員等を派遣する条件が不明確で,納⼊業者にあらかじめ計算できない不利益を負わせており,派遣等を通じて納⼊業者が得る直接の利益等が仮にあったとしても,合理的な範囲を超えた負担となり,相⼿⽅に不利益を与えることとなる場合に当たるというべきである。

 よって,原告の53社に対する本件従業員等派遣の要請⾏為は,法2条9項5号ロ所定の不利益⾏為に該当するものと認めるのが相当である。」

とされており、こういう「実績作り」のためのいわば名目的な請求の求めではなく、ちゃんとした請求の求めがあれば(最も徹底しているケースとして「従業員派遣したことを申し出ても不利益はなく何も問題はないということを伝えて請求するよう丁寧に依頼」していたのであれば)、濫用行為に当たらない特段の事情といえる余地があるからです。

(ただ、この判決の論理自体にはいろいろと問題があり、そのあたりは以前、ジュリスト1560号6頁に書きましたので、ご興味があればご覧いただければと思います。)

というわけで、担当官解説のように、ガイドラインも判決も無視するような一刀両断の解釈を何の根拠もなく示されるのは、たいへん迷惑です。

というのは、弁護士はガイドラインや判例にしたがってアドバイスするからです。

おそらく担当官は、弁護士にとってのガイドラインや判決の重要性を、十分理解されていないのだと思います。

私は、このブログや論文では、ガイドラインがおかしいとか、判決がおかしいとか書きますが、クライアントにアドバイスするときには、よほどのことがないかぎり、そういうアドバイスはしないようにしています。

(とはいえ、「よほどのこと」はそれなりに起きますが。笑)

それなのに、いち担当官解説でガイドラインも判決もちゃぶ台返しするようなことを書かれると、たいへん困るのです。

ニシムタの担当官解説でもしっかりと、「本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解である 。」(42頁)と書いてありますが、これを文字どおりにとる実務家がいないことは公取委も百も承知でしょう。

というわけで、ニシムタの確約は、結論はガイドラインに従ってもおなじだったのかもしれませんが、説明の論理がガイドラインを無視しています。

たいへんけしからんことだと思います。

2026年5月 5日 (火)

Google確約認定公取委報道発表(2024年4月22日)の注6について

掲題のGoogle確約の報道発表の注6には、「モバイル・シンジケーション取引」への注釈として、

「(注6)検索連動型広告の配信を行う事業者が、ウェブサイト運営者等から広告枠の提供を受け、検索連動型広告を配信するとともに、当該広告枠に配信した検索連動型広告により生じた収益の一部を当該事業者に分配する取引をいう。」

と記載されています。

しかしこれでは、モバイル・シンジケーション取引が、広告配信業者が広告配信業者に収益を分配する、という、わけのわからない内容になってしまいます。

法律の文章やお役所の文章のお約束では、「当該〇〇」といえば、その直前の「〇〇」を指すことに決まっているからです。

こういう杓子定規なルールがあるから、たとえばステマ告示が、

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

という表現がわかりにくとパブコメで山ほど意見が出ても、消費者庁は意に介さず原案維持で平気だったわけです。

つまり、「当該表示」は「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」を意味するので、ていねいに書き下すと、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

と読める、というわけです。

こういう鉄の掟が公文書にはあるわけですから、公取委だけがそのルールから外れると、かえって読みにくくなってしまいます。

もちろん、上記注6だって、常識的に考えれば、「配信業者が自分に収益分配するわけがないので、この『当該事業者』というのはウェブサイト運営事業者のことをいうんだろうな」と理解はできるわけですが、意味内容に頼らないと内容が理解できない文章なんて、法律の文章としては失格だと思います。

ちなみに担当官解説(中島菜子他「Google LLCから申請があった確約計画の認定について」公正取引885号59頁)では、

「シンジケーション取引とは、Google LLCやヤフー等の検索連動型広告の配信を行う事業者が、ウェブサイト運営者等から広告枠の提供を受け、検索連動型広告を配信するとともに、当該広告枠に配信した検索連動型広告により生じた収益の一部を当該ウェブサイト運営者等に分配する取引をいう。」

というふうに、正しく解説されています。

どうも最近公取委の文章が変なことが目につきます。(消費者庁は前からそんな感じです。ステマガイドライン参照)

少し前も、とある事件で、報道発表文のドラフトの文章の主語と述語がかみあってないと公取委に指摘したのですが、無視されました😖

細かいことですが、こういうところからびしっとやっておかないと、行政の信用にかかわると思います。

2026年5月 3日 (日)

千葉ロッテマリーンズに対する景表法の確約認定(2025年12月23日)を読んで

千葉ロッテマリーンズが去年の12月23日に景表法上の確約認定を受けました

一言でいうと、かなりびっくりな、ものすごく厳しい確約認定だと思います。

違反被疑行為の概要は、

「千葉ロッテマリーンズは、「千葉ロッテマリーンズ公式ファンクラブ TEAM26」と称する有料会員制ファンクラブ(以下「本件ファンクラブ」という。)の令和7年度会員向けサービスを一般消費者に提供するに当たり、

令和7年1月17日付けで郵送したダイレクトメール(以下「本件ダイレクトメール」という。)において、

例えば、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース いずれか1点の特典をお渡しします」、

選手のサイン入りのボールの画像と共に、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」、

選手はお選びいただけません」、

「受け取り方法本ハガキを球場外周 TEAM26 ブースで提示」

等と表示することにより、

あたかも、本件ファンクラブに入会し、球場外周に設置されたファンクラブブース(以下「ファンクラブブース」という。)において本件ダイレクトメールを提示すれば、いずれかの選手の直筆サイン入りのボール(以下「直筆サインボール」という。)が必ず提供されるかのように表示していたが、

実際には、直筆サインボールが提供されるのは、本件ファンクラブに入会し、ファンクラブブースにおいて本件ダイレクトメールを提示した者の一部に限られるものであった。」

ということです。

こちらが確約認定に添付されているハガキです。

20260503-192318

ポイントは、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

という表現です。

私などは「ランダムで」というと、景品規制が頭に浮かぶせいか、当然、(総付ではなく)懸賞のことだろう、というように感じます。

ところが消費者庁はこれを、直筆サインボールが「必ず提供されるかのよう」な表示だった、と認定したわけです。

その認定のよすがになっていると思われるのが、

選手はお選びいただけません」

という注意書きです。

「ランダム」というのを、もらえるのがランダム(懸賞)ではなく、「選手を選べない」という意味でのランダムだ、というふうに認定したわけですね。

この点、確約認定の書き方だと、

選手はお選びいただけません」

という部分の「」は、同じ「※」ということで、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース

の注釈なのかなぁ、と一瞬思いますが、添付の写真をみるとそうではなくて、

「有料会員への入会で折りたたみシートクッションまたはマルチパスケース

の注釈は、シートクッションとマルチパスケースの絵の直下に、「※」付きで書かれている、

「※2024年ファンクラブデー来場特典と同一です。」

「※アイテムはランダムでのお渡しとなります。」

のほうだとわかります。

これに対して、確約認定の、

選手はお選びいただけません」

という注記は直筆サイン入りボールの写真の直下にあるので、やはり確約認定のとおり、直筆サインボールへの注記だ、ということがわかります。

でもそれでもなお私には、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

というのに、

選手はお選びいただけません」

という注記があると、サインボール自体が懸賞(「ランダム」)であるうえに、さらに輪をかけて、懸賞に当たっても選手が選べるわけではない、というように読んでしまいそうな気がします。

つまり、

ともかくサインボールが当たるかどうか ・・・①

というレベルと、

当たったとして選手を選べるか ・・・②

というレベルの2段階を観念して、①は「ランダム」、②は「選手はお選びいただけません」が表している、という理解です。

これに対して消費者庁の認定は、

「ランダムで」

というのは、

「選手は選べない」

ということの言いかえに過ぎないので、どの選手のボールかは選べないけれど少なくとも誰かのボールは必ずもらえる、ということです。

別の言い方をすると、消費者庁は、

「さらに選手の直筆サイン入りボールをランダムでお渡しします」

というのを、

「さらに選手の直筆サイン入りボールを、どの選手か選べないけれどお渡しします」

と読んだ、ということです。

まあ、そういうふうに誤解する消費者もいるかもしれませんが、だからといって、これを有利誤認表示だというのは、大いに疑問です。

だいたい、直筆サイン入りボールがもれなくもらえるなんて、ちょっと虫が良すぎないでしょうか?

(あるいは、千葉ロッテマリーンズはふだんからそんなに気前がいいのでしょうか?)

こんなんで全員サインボールがもらえるはずがないし、もらえると消費者が思うわけがないという先入観があればあるほど、告知文のチェックは甘くなりがちです。

気を付けましょう。

実務では、キャンペーンの条件を一部の消費者が誤解してクレームを言ってくるということは、さほど珍しいことではありません。

しかも、多くの場合それは、「ふつうはそんなふうには読まないよね」というレベルのものです。

(大半の人が誤解するような告知文なら、不当表示だといわれても仕方ないでしょう。)

本件も、そんなレベル(「ふつうはそんなふうには読まないよね」というレベル)ではないかと思います。

むしろ実務では、第三者がみると一体何を言いたいのかよくわからない、ということも、ままあります。

それは、意図的に消費者を誤解させようというよりは、たんに、企画担当者の日本語のレベルの問題なのだと思います。

そういう肌感覚が私にあるためか、このマリーンズのケースなんて、まずまずちゃんと書けているほうなんじゃないか、と思ってしまいます。

少なくとも裁判所は消費者庁より消費者に厳しいですから(裁判所は、「ふつうの消費者はこれくらいは正しく理解できてあたりまえ」というレベルが消費者庁よりずっと高い)、本件が措置命令になって取消訴訟で争われたら、まずまちがいなく消費者庁は負けると思います。

とはいえ本件は確約で、そのことは消費者庁もわかってやっているわけですから、とやかく言うべきことではないかもしれません。

でも実務的な感覚でいえば、こんな事件は、確約導入前だったら、せいぜい注意で終わっていたのではないかと思います。

確約が導入されると消費者庁がギリギリ攻めた運用をしてくるのではないか(∵措置命令が難しければ確約に落とせばいいし、確約なら当事者も争わないので)、ということはよく言われていたことだと思いますが(私だけでしょうか?)、まさに、本件はギリギリ攻めてきた案件のように思います。

さらにいえば、実務では、これよりひどい案件が注意やおとがめなしで終わっているケースも、ふつうにあるという感覚です。

ということは、本件でも、マリーンズが本気でがんばれば(=争う姿勢を見せれば)、注意で終わって、非公表ですんだのではないか、という気がします。

そういうことが頭にあると、どうも確約というのは、「正直者がバカを見る」制度に思えて仕方がありません。

逆に企業や弁護士としては、確約を選ぶのか、あくまで注意を目指すのか、という見極めが大事になってくるでしょう。

あともう一つ、実務への教訓としては、こんなケースまで確約になるとしたら、広告審査はかなり日本語の感覚の鋭い人にやらせる必要があるでしょう。

正直、このケースなら、私ですら見落としていたかもしれません。

いや、きっと見落としていたでしょう。

でも、これを「見落とし」というのは不正確でで、要は、消費者庁のほうがまちがっている、というのが正しいと思います。

というわけで、いろいろと考えさせられる事件でした。

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