異なる販路間の二重価格表示
同じ事業者が、ある販路で売っている商品の価格を比較対照価格として、別の販路で売っている同じ商品について二重価格表示をすることは、その旨の何らの断り書き(打消し表示)もなしにすることは認められないのだろうと思います。
直感的にそう思う理由は、景表法では店舗ごとに考える発想が強いから(たとえばおとり販売告示)ですが、もう少し実質的な理由を考えると、消費者は二重価格表示をみれば比較対照価格はまさにその販路(例えばそのウェブサイト)での価格だと認識するだろうから、です。
逆に言うと、異なる販路(例えば、自社サイトとECサイト)であれば、価格が違うこともふつうにありうると消費者は思っているはずだ、ということです。
販路が違えば価格も違うのというのは、(商品によるかもしれませんが)実際にいくらでもありうることです。
以前仕事で、とあるLCCをECサイトで予約してオーストラリアに行ったことがありました。
当然、そのECサイトでは他のフルサービスキャリアより安かったからそうしたのですが、あとでそのFSCの自社サイトをみたら、なんとLCCよりも安かったのです。
当然、同じFSCでみたら、ECサイトより自社サイトのほうが、ずっと安かったわけです。
(ちなみにそのLCCでは荷物の重量オーバーで超過料金が取られるわ、サービスはLCCなので押して知るべしだわで、散々な目に遭いました。。。閑話休題。)
なぜ販路ごとに価格が異なるのかというのは場合によりけりでしょうが、単純に利益を最大化しているだけだという場合でも、ある販路(ECサイト)に集まる需要者は価格に敏感で、別の販路(自社サイト)に集まる需要者はそれほどでもなく、なので利益最大化価格が異なる、ということもあるでしょう。
あるいは、特にリアルの店舗の場合には、販路によって販売コストがちがう、ということもあるかもしれません。
あるいは、プロパー店舗とアウトレットみたいに、あえて顧客をセグメント化して価格差別をする、ということもあるかもしれません。
というわけで、販路が違えば価格も違って当たり前なわけで、それを前提にすると、二重価格表示がされると消費者は「同じ販路でこの比較対照価格なんだな」と思うわけで、何も断らず別の販路の価格を比較対照価格にしてはいけないわけです。
この点については、古川昌平『実務対当者のための景表法ガイドマップ』96頁(「アウトレット商品の二重価格表示」)で紹介されている、第54回規制改革会議資料3-2(平成27年12月4日)7~9頁というのがあります。
そこでは、消費者庁の回答として、
「 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)おいては(ママ)、提案主体が提案理由の中で述べるような「二重価格による表示を行う場合、『当該店舗』での『最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績』が必要となる」という考え方は示されていない。
すなわち、同考え方においては、「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。このため、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていたとはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」との考え方が示されている。
そして、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かについては、「当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることになるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる八週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が八週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して二週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から二週間以上経過している場合においては、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とはいえないものと考えられる。」との考え方が示されているところである。
一方で、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品の二重価格表示については、一般的なアウトレット等における販売形態を踏まえると、アウトレット等において比較対照価格での販売実績のない商品であっても、プロパー店舗において最近相当期間にわたって販売した実績のある商品について、「プロパー店舗での販売価格○○円のところ××円」といったように、比較対照価格を事実に基づいて適正に表示する場合には、景品表示法上問題とならず、二重価格表示を行うことが可能であると考えられる。
このようにアウトレット等においても二重価格表示を行うことは可能であるので、現時点で上記ガイドラインの見直しの必要はないと考えている。」
というように、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方が示されています。
これだけだとちょっと文脈がわかりにくいので、こちらの資料から経団連の意見も引用しておくと、
「消費者庁は、景品表示法のガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、プロパー店舗からアウトレット店・アウトレットサイトに移管した商品については、当該店舗での販売実績がないことから二重価格が不可能となっている。【アウトレット店・アウトレットサイト等におい
て、限定した要件の下、】二重価格を容易にする規制緩和を要望する。
【提案理由】消費者による消費行動の多様化により、近年はアウトレット店舗およびオンライン上でのアウトレットサイトが増加している。その結果、プロパー店からアウトレット店舗・サイト(以下、アウトレット等)への移管在庫は従来に増して頻繁になっている状況で
ある。
消費者庁は、そのガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。この点、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品については、それぞれの要件を満たせず、二重価格表記が不可能となっている。また、過去の販売価格を比較対象価格に用いる場合の要件については、値札のスペース上の制約から、小売の現場で活用することが難しい。
現状、アウトレット価格が記されたシールを従来価格の上に貼る以外にガイドラインに沿う方法がなく、その場合、プロパー価格からどの程度安くなった商品かがわかりにくい表示となる。アウトレットでお値打ち品を求める消費者にとっては、不便な状況となっており、改善が必要な状況と考えている。また、とりわけアウトレットにおける主力製品であるファッション小売品については、季節ごとに商品が変わるため、6カ月~1年前に正規店舗で販売した商品を販売することが多い。しかし、上記の規制が、このような流通実態と整合的ではないため、実際に二重価格表記を活用することができなくなっている。
消費者にとってアウトレットは割安感を求めるチャネルであることを踏まえれば、アウトレットにおいては、より消費者がプロパー販売価格からの割引額が把握しやすい二重価格表記を可能とする要件を緩和することが、消費者の利益に適うと考える。販売業者の立場からは、規制緩和により公平な競争環境が整備される。
よって、現行のガイドラインについて、①「当該店舗」、「最近相当期間」の定義を見直す、②「過去の販売価格」の表示の要件を緩和する、③アウトレットの類型について、流通実態に即し、新たに二重価格の表示を可能とする要件を設定する、など所要の見直しを検討すべきと考える。」
というのが、経団連の意見の内容です。
ちなみに、経団連の意見では、
「このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。」
とはっきり言っていて、「当該店舗」なんてはっきり価格表示ガイドラインで言ってたかなあと思いガイドラインを確認すると、ガイドライン第4の2⑴ア(ウ)には、
「(ウ) 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準
比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、
当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、
個々の事案 ごとに検討されることとなるが、
一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるも のとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期 間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期 間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当 期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。」
というところで「当該店舗」という表現が用いられていますが、そのすぐあとに「等を考慮しつつ」とあることからもあきらかなように、あくまでこれは例示(最近相当価格該当性認定の考慮要素の1つに過ぎない)ということなので、これだけをもって当該店舗の価格しか比較対照価格にすることができないと読むのは、論理的にはちょっと厳しいんじゃないかなという気がします。
(反面、比較対照価格の最近相当価格該当性の考慮要素として「当該店舗における販売形態」というのをあげていることからすると、これは、そのお店でどれくらい頻繁に価格が変更されるのかということを意味しているようにも読め、そうすると、「当該店舗」という記載は、当該店舗での販売価格しかガイドラインは比較対照価格として想定していないのだ、というようにも見えてきて、正直よくわからないです。)
ともあれ、このような、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方を裏返すと、何も断らずに異なる販路の価格を比較対照価格としてはいけない、という考え方が読み取れます。
ただ、これに対しては、
原一弘(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課長補佐・前消費者取引課長補佐。執筆当時)「『不当な価格表示についての景品表示法上の考え方』について」(公正取引599号12頁・2000年)
では、
「新規 開店の店舗については、販売実績が全くないので過去の販売 価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うことはできない。ただし、チェーンストア等が既存の店舗に加えて新たな店舗を開く場合については、各店舗で統一的な価格設定が行われていることを前提に、「当社通常価格 (この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。)」等、その比較対照価格の内容を明確にすることで、自社の他の店舗の過去の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは可能である」
とされています。
これは、前記規制改革会議の消費者庁回答と似ているようで、重要な点で異なります。
というのは、異なる店舗での価格であることを注意書きすることに加えて、「各店舗で統一的な価格設定が行われていること」まで要求しているからです。
この考え方に従えば、プロパー店舗とアウトレットでは統一的な価格設定はしていないでしょうから、断り書きをしてもダメだ、ということになると思われます。
しかし、それはいくらなんでも厳しすぎるというべきでしょう。
不当表示は表示と実際の不一致なのですから、実際に合うように表示すれば不当表示にはならないはずであり、「統一的な価格設定」みたいな、客観的事実を不当表示該当性(あるいは非該当性)の要件にするのは、理論的に誤りだと思います。
別の言い方をすると、景表法は表示と実際の不一致を問題にする純粋な表示規制(表示のみの規制)なのであり、一定のビジネスモデル(例、統一的価格設定)をとるかとらないかでそもそも一定の表示ができるとかできなくなるとかいうことはありえない、ということです。
また、原論文の考え方は、前記規制改革会議の消費者庁回答にも反します。
というわけで、原論文はあきらかに厳しすぎ、規制改革会議の消費者庁回答の考え方(販路の違いを明示すれば問題ない)が基本的な方向性としては正しいというべきでしょう。
では、異なる販路であることさえ断れば、どんな場合でも二重価格表示をしていいかというと、それもちょっと微妙です。
チェーンストアであれば、何も言われなくてもどの店もだいたい同じような販売条件で、同じような価格設定でしょうから、厳密に「統一的な価格設定」でなくても、他店舗の価格を比較対照価格としてもいいでしょう。
アウトレットの場合は逆に、アウトレットはプロパー店舗よりも安いものだという認識が消費者にあるでしょうから、そういうものだというかぎりでは、プロパー店舗の価格は消費者の参考になるといえるでしょう。
でも中には、果たして参考にしていいのかどうか消費者にもわからない(消費者は参考にできると思っているけれど、ふたを開けてよく見てみたら、全然参考にならない)販路というのも、ありうるのではないかと思います。
そういう場合には、こういう販路の価格ですと断るだけでも足りず、その販路とこの販路にはこういう販売条件や市場環境などの諸々の差があります、ということまで言わないと、変に有利だと誤解を招く、ということもあるような気がします。
というか、そんなことを断らないといけない二重価格表示なんて、そもそもどれだけ断り書きをしても誤解を招きかねないので、やるべきではないのではないか、という気もしてきます。
では具体的に比較対照価格にしては絶対いけないような販路としてどのようなものがあるのかというと、例が思いつかないのですが、やはり、消費者が参考にして誤解を招くような別販路の価格は用いてはいけない、ということだと思います。
むしろ実務的に気になるのは、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合にも、「この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。」なんていう断り書き(打消し表示)をしないといけないのか?ということでしょう。
「他店」であることを明示しなくて、例えば、「通常価格〇〇円」だけだと、絶対にだめなのでしょうか?
私は、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合であれば、特に「他店」であることを明記せず、「通常価格〇〇円」というのでもいいような気がします。
これをサポートしてくれる文献に、
笠原宏「初めての景品表示法(第6回)ー不当表示規制(有利誤認表示)-」公正取引863号(2022年)59頁
があり、そこでは、
「Q:この基準〔8週間ルール〕によると、スーパーなどが新店舗を開店した場合、その店舗での回転売り出しに二重価格表示を行うことはできませんか。
A:チェーンストア等で、各店舗が統一的な価格設定をしているような場合には、既存店が扱っているのと同一の商品については、他の要件を満たす限り、既存店の最近相当期間価格を比較対照価格として、新規店舗の安い実売価格との間で二重価格表示を行うことは可能だとされています。」
と解説されており、文字どおりに読めば、他店の価格であることは断る必要はない、と読めます。
というか、そうとしか読めません。
というわけで、元消費者庁表示対策課長の笠原氏もそうおっしゃるわけですから、ここは「他店であることの明示は不要」と解しておきましょう。
規制改革会議での消費者庁回答は、アウトレットという、あきらかにプロパー店舗と価格設定が異なる販路だから明示を要するのだ、と解すれば説明はつきます。
少なくとも、「新規開店の場合には過去の販売実績がないので、『通常価格』という表記は当然に違反だ」というのは、言い過ぎだと思います。
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