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2026年3月 4日 (水)

クーポン再発行と有利誤認表示(ソシエ・ワールド確約)

2026年3月3日、エステサロンを運営するソシエ・ワールドが、ウェブ上でのクーポンを再発行したことで有利誤認で確約認定を受けました。

消費者庁のプレスリリースの被疑事実によると、

「自社が運営する「エステティックサロン ソシエ」と称する店舗で供給する施術サービス(以下「本件役務」という。)を一般消費者に提供するに当たり、

令和3年9月23日から令和7年5月28日までの間、

「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、

例えば、「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」等

と表示することにより、

あたかも、当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるかのように表示していたが、

実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

ということのようです。

確約なので実際の表示物が公開されていない(それ自体問題だと思いますが、それはさておき)のでなんとも言いがたいところではあるのですが、私はこの確約認定はいろいろと問題があると思います。

少なくとも、この確約認定自体で、クーポンの連続発行自体が許されないことになるわけではないと思います。

まず、消費者庁のリリースでは、上記のとおり、

「実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

というだけで、無条件に「期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった」のかどうかが今一つよくわかりません。

しかし、この点については案の定といいますか、今朝(3月4日)の日経新聞朝刊で、

「消費者庁によると、同社は2021年9⽉〜25年5⽉、⼤⼿予約サイト「ホットペッパービューティー」に掲載したクーポンに有効期限を設定していた。実際には新たに別のクーポンを発⾏することで、期限が過ぎた後でも同等かそれ以上の割引でサービスを受けることができた。」

ということなのだそうです。

つまり、クーポンの連続発行の事案であり、値引を受けるためには後続のクーポンを使用することが条件であったことがわかります。

こんな大事な事実をリリースで書かないなんて、消費者庁はひどいと思います。(その理由はのちほど。)

実際の表示物がわからないので、たぶんこうだったんだろうという想像をするために、現在の同社のホットペッパービューティのクーポンページに表示されているクーポンを示すと、下のようなクーポンだったと想像されます。

20260304-094414

これの文字の部分が、消費者庁プレスリリースのような、

「「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」」

というものだったと想像しておきましょう。

ところで以前私はこのブログで、

同じクーポンを連続して配布するのは有利誤認表示か?」(2025年4月28日)

という記事を書いたことがあり、クーポンの連続配布は基本的には有利誤認にあたらないと説明していました。

この意見は、今も変わりません。

ではソシエの件はどうなのかといわれると、なかなか微妙です。

というのは、上記のようなクーポンの表示だったとすると、「クーポン」とはいいながら、ただの期間限定キャンペーンと異ならないようにもみえるからです。

もう少しかみ砕いていうと、不当表示とは、表示と実際の不一致です。

つまり、表示の意味が実際の取引条件と一致していない、ということです。

なので、まずは、表示の意味の確定をする必要があります。

では、本件で消費者庁は、表示の意味をどのように確定したのかというと、

「当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができる」

という意味だと確定したわけです。

実は、クーポンの場合、この「限り」といえるのかどうかが大問題です。

「限り」(英語でいえば、if and only if, 論理学の記号だとiff)だと、たった2文字なので読み流してしまいそうですが、きちんと文字で書き起こせば、

当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができ、

かつ、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

ということです。

スーパーのチラシに印刷されているクーポンの場合、クーポンに有効期限が記載されていても、それだけで有効期限後に同じクーポンが発行されないとまで読み取る人はいないでしょう。

たとえば、3月7日(土)の朝刊の折り込みチラシでスーパーが「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンを配った場合に、それを見た消費者が、

「3月14日(土)の朝刊に「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンが配られることはないんだ。」

と認識するのか、という問題です。

そんな認識は、ふつうしないでしょう。

というのは、消費者は、チラシのクーポンの有効期限は、その有効期限が過ぎたらそのチラシに印刷されているまさにそのクーポンが使えなくなるという意味であって、それ以上の意味はない(再度クーポンが発行されることはないという意味まではない)、と認識すると思われるからです。

つまり、紙のクーポンでは、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

という認識はしない、消費者庁のリリースの言葉で言えば、

限り

という認識はしない、ということです。

では、紙のクーポンではなくて、ソシエのケースみたいに、ウェブ上のクーポンなら、どうでしょうか。

まず、上で画像を示したところに行く一つ前のページの画像を示すと、こんな感じです。

20260304-100200

このように、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン」

という欄の下に、いくつかの「クーポン」が並んでおり、この1つをクリックすると、2つ上の画像のページに行くわけです。

これだとたしかに、「クーポン」とはいいながら、特定のコースを値引しているだけの、期間限定キャンペーンと何ら異ならないように見えます。

たとえば、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン

というタイトルを、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のキャンペーン

と書いてあったとしても、何の違和感もありません。

といいますか、むしろそのほうが言葉の意味として自然だと思います。

そもそもクーポンとは、広辞苑によると、

「①切取り式の券。回数券や債券の利札の類

②旅行者の便宜のために発行する、各種乗り物の通し切符や指定旅館の宿泊券などを一綴りにしたもの。

③一般に、割引券・優待券」

と説明されています。

本件では③が近いですが、いずれも、何らかの券であることが想定されています。

仮に電子的なクーポンであっても、リアルのクーポン券を模したようなものである必要があるでしょう。

なのにソシエの件は、表示を見てもそのような雰囲気がまったくありません。

なので、このような表示を「クーポン」と呼ぶのは、事実認定として誤りだと思います。

なので、消費者庁リリースの認定の、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、」

というのは、重要な点において事実認定を誤っており、ほんらいは、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで告知するキャンペーンにおいて、」

などと認定すべきだったと思います。

そうであれば、通常の期間限定キャンペーンのくりかえしと何ら異ならない、ありふれた事件だったということになります。

なぜこの点が重要かというと、ほんとうのクーポンであれば、そこ(=券)に書かれている有効期限は当該クーポン券の有効期限の意味だとしか解しようがないからです。

ここで、確約だと表示物が公開されないという問題が出てきます。

上記の画像はホットペッパービューティからスクショしたもので(なのでそれ自体は景表法違反でも何でもなく、たんなるサンプルです。)、たぶんこうだろうという想像でここまで考えてきましたが、こういう重要な点について想像を交えないと論評できないということ自体が、大問題だと思うのです。

現に日経記事では、本件はクーポンの連続発行が違反とされたというように報道されているわけです。

でもこれは日経新聞が悪いわけではなくって、消費者庁が記者会見でそういう説明をしたのでしょう。

実際、プレスリリースでも、クーポンでないものをクーポンだと認定しているわけですから、そういう説明になっているはずです。

私が上に述べたような問題意識には、気づくはずもないでしょう。

確約なら課徴金を免れるわけで、事業者としては消費者庁が確約にすると言えば喜んで応じるはずであり、争うインセンティブなんてまったくありません。

(まあ本件は、「クーポン」といいながら、実際には「キャンペーン」のくりかえしの事件なので、争っても勝てないとは思いますが。)

おそらく私一人がこのようなことを言っても、「クーポンの連続発行は不当表示」という誤解がどんどん拡散されていくことでしょう。

ほんとうに悲しむべきことだと思います。

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