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2026年3月

2026年3月23日 (月)

中部電力フリーランス法勧告(弁護士への発注書面不交付)の衝撃

2月2日、中部電力がフリーランス法違反で勧告を受けました。

公取委のプレスリリースの違反事実の概要では、

「中部電力は、個人であって従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、総務・広報、人事・労務、経理・法務、研究・開発、設備の管理・評価等に関する支援業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。」

というだけで、具体的にどういう業務内容を委託していたのかはっきりしないのですが、こちらの読売新聞の、

「中部電力がフリーランス法違反、弁護士ら専門家に支払期日など条件の一部明示せず…公取委が勧告」

という記事によると、

「発表によると、中部電は2024年11月~昨年9月、弁護士や税理士、医師などの専門家ら39人に対し、自社の法務や経理に関する相談や助言、社員の健康管理といった業務を委託する際、支払期日など一部の条件を明示していなかったという。このうち14人に対する支払い遅延の違反も認定された。」

ということで、弁護士も相手方に含まれていたようです。

事務員のいない事務所や、事務員がいる事務所でもアソシエイト弁護士がフリーランスに該当することは、フリーランス法のガイドラインのパブコメのころからけっこうな話題になっていたので、結論自体はやむをえないのですが、ほんとうに勧告してしまうとは驚きです。

世の中にはいろいろな弁護士さんがいるのでいちがいにはいえないのかもしれませんが、フリーランス法で保護されたいと思っている弁護士さんなんて、世の中にほとんどいないのではないでしょうか?

中には、「毎月請求書出さないといけなくなって、めんどうだなぁ」という弁護士さんもいるかもしれません。

私は共同事務所のパートナーですし、事務員もアソシエイトも雇っていますので、フリーランスにはあたらないので、厳密には当事者とはいえないのですが、同じ弁護士として、いわば半ば当事者として、これは迷惑だなぁと思います。

しかも、依頼者の方にしてみたら、その弁護士さんがフリーランスかどうかなんて、本人に聞いてみないとわからないことも多いのではないでしょうか?

なので、こんな事件でお客さんが勧告を受けたとしたら、ふつうの弁護士の感覚としては、「自分がフリーランスであることをお伝えできておらず、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と平身低頭謝るのではないかと思います。

もっとシビアなことをいえば、フリーランスである弁護士は、発注書面等が交付されていなかったらフリーランス法違反であることはわかっているのですから、発注書面を交付しないとフリーランス法違反ですよとアドバイスしてあげないと、弁護過誤になるのではないでしょうか。

万が一弁護士会に懲戒請求されたら、反論のしようもないと思います。

弁護士は法律のプロなわけですから、「フリーランス法を知らなかったです」ではすまないでしょう。

「自分は発注書面なんて不要だったし、60日以内に報酬を払ってもらわなくても困らないので、フリーランス法のことを伝えませんでした。」というのも、気持ちとしてはわかりますが、今回のような勧告が出てしまうと、そうもいっていられません。

さらに、こういう規制がかかってくると、依頼者のかたにしてみたら、「あの先生はフリーランスでめんどうだから、ほかの先生に頼もう」ということが現実に起こるのではないか(少なくともフリーランスの弁護士さんは本気でそういう心配をしないといけないのではないか)、という気もします。

本件でも、発注書面の交付を受けられなかった弁護士さんが公正取引委員会に中部電力を申告しているとは考えにくいですから(もししていたら、もっと驚きですが)、きっと公取委が職権で調査したらフリーランスの弁護士もいることがわかったので勧告に加えた、ということではないかと想像されます。

でも、それが迷惑だと、半ば当事者として申し上げたいです。

法律ができてしまったのはどうしようもないとしても、公取委には、もうちょっと運用のところで何とかしてもらいたいものです。

先に引用した読売新聞の記事では、

「士業や医師などの専門家は、事務所や病院といった組織に所属していても、個人に仕事を依頼する場合はフリーランスの扱いになることがある。同法施行時に注意すべき点として、公取委が適切な対応を取るよう事業者に求めていた。」

とのことですが、少なくとも弁護士についてはそんな「適切な対応」は不要ですから、そういう「求め」はしないでほしいです。

というわけで、「フリーランス法の保護なんて迷惑だ。困っている」というフリーランスの弁護士さんは、声を上げられてはいかがでしょうか?

フリーランスではない私が言うのでは説得力がないかもしれませんが、本当にフリーランスの弁護士さんから多数のそういう声が寄せられたら、公取委も考え方を変えるかもしれません。

もちろん、「いや、自分は保護されたい」という人が声を上げれば、それはそれで議論が深まってよいとは思いますが。

2026年3月18日 (水)

松尾製作所に対する勧告は間違いです。

3月17日、松尾製作所が下請法違反で勧告を受けました。

日経新聞今朝(18日)の朝刊の記事によると、

「公正取引委員会は17日、原材料価格の高騰を受け、過去に下請け業者へ販売した原材料の費用をさかのぼって値上げし、差額分を支払わせたとして、自動車部品製造「松尾製作所」(愛知県)の下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)を認定し、再発防止を勧告した。

原材料費を遡及して値上げしたとする勧告は全国で初めてという。」

ということなのだそうです。

公取委のリリースによると、違反事実は、

「⑵ア 松尾製作所は、下請事業者に対して自社が所有する金型、治具及び機械設備(以下「金型等」という。)を貸与していたところ、遅くとも令和6年6月1日以降、当該金型等を用いて製造する本件製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計759個の金型等を自己のために無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者12名)。

イ 松尾製作所は、下請事業者に対して製品の原材料を販売している(以下この販売された原材料を「有償支給原材料」という。)ところ、

令和6年11月から令和7年7月までの間、「評価替え」として、有償支給原材料の単価改定を行い、

下請事業者に対し、

改定前後の単価の差額に、

下請事業者が在庫として保管している有償支給原材料

及び

有償支給原材料を使用して製造された製品

の重量を乗じて得た額の金銭を自己のために提供させることにより、

下請事業者の利益を不当に害していた。

提供させた金銭の額は、総額4495万7304円である(下請事業者6名)。」

ということだそうです。

日経の記事を最初に見たときは、「何でも不当な経済上の利益の提供要請になるんだなぁ」という印象で、私もそのようなアドバイスをしていたので、そのとおりだったと思ったのですが、日経の記事の中に、

「松尾製作所は公取委の調査に「購入時の製品単価を上げればいいという考えだった」と説明しているという。」

というのをみて、「あれ?」と思いました。

これって、下請事業者にはなにも不利益がないのではないでしょうか?

松尾製作所のプレスリリースでは、

「(2)また当社は取引先様に材料を有償で支給し、その材料を用いて製品を加工いただいております。

当社が加工後の製品を購入する際の購入価格は、

支給させていただいた材料の価格(以下「材料支給価格」といいます。)を、

購入時の材料支給価格と同額で考慮のうえ設定しております。

当社は昨今の材料単価高騰の影響から、2024年11月と2025年5月に材料支給価格及び加工後の製品の購入価格を改定しました。

この結果、すでに取引先様に支給済みだった材料について、支給時の材料支給価格と加工後の製品購入時に考慮される材料支給価格に差が生じたため

当社は、取引先様から、材料支給価格の改定に伴い生じた差額を、取引先様が改定前から保管中の材料及び支給済みの材料を使用して製造された製品の重量を基準に算出のうえ、当該差額をお支払いいただく形で精算をしました。

このような、材料支給価格の改定に伴い生じた差額を提供させた行為は、改正前の下請法第4条第2項第3号(改定法附則第2条第2項の規定によりなお従前例によることとされる場合を含む。)に掲げる行為(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)に該当すると判断されました。」

とされており、まさに原材料値上げ分はそれを使った完成品を買い取るときに買取価格を引き上げた、ということのようです。

旧下請法4条2項3号では、

「2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。

〔1項、2号省略〕

三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。」

公取委の考え方は、このような完成品の買取と原材料の販売を一体とは見ずに、原材料の販売価格を遡及的に引き上げたことだけを切り出して「経済上の利益を提供させること」に該当すると判断したものといえます。

しかしこれはいくらなんでもおかしいでしょう。

たとえば、原材料Ⅰ万円で、加工賃相当が2000円、完成品買取価格が1万2000円だったとします。

これを、原材料をⅠ万1000円に上げて、加工賃相当額が2000円、完成品買取価格が1万3000円に上げた、ということでしょう。

これなら、加工賃相当額(下請事業者の取り分)は2000円でなにも不利益がありません。

これのどこが、「経済上の利益を提供させる」にあたるのでしょうか?

きわめて疑問です。

ありうる公取委の反論としては、「いったん売ったものは下請事業者の既得権なのだから、それを奪うことは利益の提供要請にあたる」ということでしょう。

でもそれをいうなら、下請事業者には完成品をⅠ万2000円で買い取ってもらう権利なんてないわけです。

もし原材料費を1万円のまま据え置くというなら、その原材料を使った完成品の買取価格も1万2000円に据え置く、というだけのことでしょう。

いわば下請事業者の権利でもない買取価格の値上げをしてあげるということは、まさに恩恵であり、原材料費値上げの補填であるといえます。

なので、この反論は成り立たないと思います。

もしこんな場合に原材料費値上げ分を返さないといけなくて、しかも完成品の購入代金は引き下げられないとしたら、下請事業者が完成品値上げ分を丸儲け、ということになってしまいます。

上記の数値例では原材料費の引き上げが1000円、加工賃が2000円と、両者にあまり差がないのでまだ生ぬるいですが、これがたとえば、

原材料100万円で、加工賃相当が2000円、完成品買取価格が100万2000円だったのを、

原材料を110万円に上げて、加工賃相当額が2000円、完成品買取価格が110万2000円に上げた、

という場合だと、下請事業者はほんらいの利益が2000円のところ、10万2000円という、ほんらいの利益の51倍(=10万2000円÷2000円)というとんでもない利益になってしまいます!

こういう遡及的な価格改定をすることは、原価計算を単純化できるし、合理的な(簡単な)利益管理の方法だと思います。

(仮に経理上問題があるとしても、下請法とは別次元の問題でしょう。)

こういう処理ができないとなると、原材料の価格改定があると発注者は個々の発注ごとに原価と加工賃を計算しなければならず、利益の管理が複雑になるだけで、何のメリットもありません。

下請事業者にしても、加工賃2000円がもらえればいいわけで、不満のあろうはずがありません。

それにもかかわらず下請法を理由にこういう処理を認めないということは、誰の利益にもならないと思います。

こちらのヤフーニュース(日刊自動車新聞)の記事によると、

「公取委事務総局中部事務所の加瀬川晃啓総務監理官は、全国初となった評価替えによる勧告について、「決して多い事例ではないとみている。ただ、今回の公表で同様のケースが寄せられる可能性はある」と述べた。」

ということなので、下請事業者からバンバン不満が寄せられているということではなさそうです。

むしろ公取委への申告は1件もないのではないでしょうか。

可能性はある」なんて表現が、今までなかったことをいわば認めているようにもみえます。

もし原材料引上げ分の全額を完成品買取額の引き上げで100%吸収していなかったら、その時に初めて不当な利益提供要請にあたりうる、というべきであり、原材料引上げ分全額を不当な利益というのはあんまりです。

推測ですが、この原材料価格の遡及値上げの問題を、公取委は下請代金の遡及的引下げの話と同じようなものと考えた(少なくとも着想を得た)のではないかと勘繰られます。

「遡及値下げ」から「遡及値上げ」への連想です。

でも、法律は連想ゲームではありません。

それに、不当な経済上の利益の提供要請の場合には、仮に「経済上の利益」の提供の要請があったとしてもそれだけでは違反にはならず、「下請事業者の利益を不当に害して」(下請法4条2項柱書)はじめて違反になるのであり、当然違法の類型である4条1項の代金減額とはぜんぜん違います。

(そもそも原材料の値上げと完成品の値上げをセットにしているなら「経済上の利益を提供させ」に該当しないと思いますが。)

また別の勘繰りとしては、本件は金型の無償保管でも勧告されていますが、もしこの原材料費の遡及引上げだけだったら、そもそも公取委の目にも止まらなかったのではないか(金型の無償保管で勧告を打つために精緻に処理をしていたからこそ目についた)のではないか、という気もします。

また、優越的地位の濫用と比較すると、協賛金などが不当な利益になるのは、優越ガイドラインによれば、

「(1) 協賛金等の負担の要請

ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,協賛金等の名目による金銭の負担を要請する場合であって,当該協賛金等の負担額及びその算出根拠,使途等について,当該取引の相手方との間で明確になっておらず,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や,当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる。」(ガイドライン第4の2⑴)

というように、あらかじめ計算できない不利益があるか、直接の利益を超える場合です。

松尾製作所の場合は原材料を上げたぶん完成品の買取価格も上げるので、負担額等は明確なので「あらかじめ計算できない不利益」とはいえず、高く買い取ってくれるので「直接の利益」があることもあきらかで、濫用にはなりようがありません。

下請法も基本的な考え方は同じであるべきでしょう。

というわけで、この勧告はあきらかに誤りです。

そのうち出る担当官解説で担当官がどんな言い訳をするのか、心待ちにしたいと思います。

その際には、きちんと条文を読んで、どのように「下請事業者の利益を不当に害して」いたと認定したのかを、きちんと解説してもらいたいものです。

こんな事件(冤罪)が二度と起こらないことを望みます。

2026年3月17日 (火)

朝日新聞デジタル3月14日「アマゾンから「重要なお知らせ」 報酬変更に嘆く配達員、法的問題は」という記事を読んで

掲題の朝日新聞の記事によると、アマゾンから配達員に対して配送料を4月5日から1個125円から100円(税抜き)に値下げするという通知が来たそうです。

また1週間あたりの稼働日数を4日以上とすることも求められていたそうです。

しかも、アマゾンからのメールには、変更に「同意する」「同意しない」という選択をする画面があって、「変更をのまないと契約を切られるという内容」なのだそうです。

これはかなり露骨な中小受託法(取適法)違反でしょう。

まず、アマゾンと配達員との契約は、特定運送委託(中小受託法2条5項)の、

「事業者〔=アマゾン〕が業として行う販売・・・の目的物たる物品・・・の当該販売・・・における取引の相手方〔=アマゾンの顧客〕・・・に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者〔=配達員〕に委託すること」

に該当します。

次に、このような一方的な価格の引き下げは、5条2項4号(協議に応じない一方的な代金決定の禁止)の、

「四 中小受託事業者〔=配達員〕の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、

中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、

当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、

一方的に製造委託等代金の額を決定すること。」

に該当すると考えられます。

解釈上問題となる論点としては、アマゾンのように、値下げに同意するか同意しないかの二択を取引相手方に与えて、結果として誰も「協議を求め」なかったとすれば、「協議を求めた」の要件を満たさないのではないか、ということが、一応問題にはなりそうです。

これはある意味で条文に忠実な解釈で、ある種の抜け穴になっているようにも思われ、もう少し立法の時に想像力がはたらかなぁったのかなぁと、あとから見ると思いますが、解釈論としては、最初から協議を受け付けないかのような二者択一を迫ることにより中小受託事業者から協議を求める機会を奪った場合には協議の求めがあったものとみなして5条2項4号に違反するという解釈も、十分に合理性があるように思います。

だって、協議を申し出たら(同意しなかったら)契約を打ち切ると脅して誰も協議を申し出られなかった違反にならないなんて、どう考えてもおかしいでしょう。

アマゾンは、上記の「同意する」「同意しない」のほかに、「協議を希望する」という選択肢を載せればよかっただけのことです。

仮に厳格に「協議を求めた」事実を要求するとしても、誰か1人が協議を求めればその人の関係では協議をしないかぎり違反になるわけですから、違反に転ぶのは容易です。

というわけで、配達員のみなさんは、アマゾンに協議を求めましょう。

もし公取委が、「協議を求めた」事実を厳格に要求して、誰も協議を求めた人を見つけられなくて本件を不問に付したとしたら、協議に応じない一方的な代金決定の禁止は画餅に帰するというべきでしょう。

ちなみに、フードデリバリーについて、これとちょっと似たような質問がパブコメ205番で出ていて、そこでは、

「「一方的に製造委託等代金の額を決定すること」とは、中小受託事業者の自由な意思による価格交渉を経ずに代金の額を設定することをいい、(略)協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、製造委託等代金の額が定められた場合が該当する。」とあるが、

フードデリバリー業界のように多数の受注候補者(中小受託事業者)が発注者から提示された報酬額を任意に選択する取引類型の場合、

すなわち、取引に際し、個々の配達案件についてその需給等を考慮して報酬額が提示され、提示を受けた受注候補者が、当該取引条件で取引決定する複数の同業の受注候補者が存在することを踏まえ、その報酬額で取引を受託するかどうかを判断する場合には、

「一方的に製造委託等代金の額を決定すること」には当たらないとの理解で良いか。 」

とのコメントに対して、

「「一方的に製造委託等代金の額を決定すること」とは、中小受託事業者の自由な意思による価格交渉を経ずに代金の額を設定することをいい、「協議」に応じない場合には、通常は、これに該当します。

もっとも、入札・せり上げ等の方式において、の事情をいずれも満たす場合には、代金決定に係るプロセスの過程で、その額で取引を行うか否かに関し中小受託事業者が自由な意思に基づき判断していると認められるため、「一方的に製造委託等代金の額を決定」することには該当しません。

代金の額の決定に際し、

① あらかじめ代金の額以外の主要な取引条件(給付の内容等)が確定していること

② 委託事業者が指名する者でない①の取引条件で取引し得る複数の同業者が代金の額を提示することのできる仕組みが整えられていること

③ ②の事業者において、代金の額の決定方法に関する考え方その他取引を行うか否かを判断するために必要な情報を認識し得る状態にあること」

と回答されています。(関連質問として222番も参照)

でもこれはアルゴリズムで価格が随時変更するタイプのフードデリバリー特有の例外であって、1件100円とか、ふつうに定額で委託している場合にはあてはまらないというべきでしょう。

というのは変動価格制のフードデリバリーの場合には、本気で協議しようとすると1件の配達の都度協議しないといけなくなる(か、アルゴリズムで価格を決めるというビジネスモデル自体をやめないといけなくなる)ので現実的ではない、という事情があります。

でもアマゾンの宅配は1件100円とかの定額なので、そういう事情はありません。

あるとしたら、相手方の数がきわめて多いので協議できない、という事情くらいですが、そんな言い訳を認めたら、通常きわめて多数の取引相手と取引をするプラットフォームに対しては中小受託法はザルになってしまいます。

条文の文言上も、そんな言い訳がみとめられる余地はありません。

もう1つフードデリバリーとアマゾンのちがいを挙げると、フードデリバリーはデリバリーの起点のレストランと終点の消費者の組み合わせがきわめて多様です。

これに対してアマゾンの宅配は、配達の起点はアマゾンの配送センターとかでしょうから、その点で多様性がありませんし、おそらく(地方にもよるでしょうが)さほど広くないエリア内で配達をしているでしょうから、終点の多様性もフードデリバリーと比べればずいぶんと小さいと思います。

おそらくそのような役務内容の多様性の差があるために、フードデリバリーでは都度料金が決まり、アマゾンの宅配は定額なのでしょう。

そのような事情の違いもあるので、フードデリバリーの上記パブコメの例外が、アマゾンに適用される余地はありません。

仮に上記パブコメの基準を無理に適用したとしても、アマゾンは、

「② 委託事業者が指名する者でない①の取引条件で取引し得る複数の同業者が代金の額を提示することのできる仕組みが整えられていること」

という要件は満たしようもありません。

なので、やっぱり違法です。

記事によると、

「男性が不当な商取引を監視する公正取引委員会に相談したところ、この件に関する相談が相次いでいる、と⾔われたという。」

ということなので、公取委も事実は把握しているようです。

公取委の本気度が試されます。

2026年3月16日 (月)

中小受託法における発注以前の代金減額合意の取扱いについて

中小受託法5条1項3号(代金減額)では、

「第五条 

委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為・・・をしてはならない。

三 中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること。」

と規定されています。

この代金減額は、一般的には、発注後に代金を減額することである(それが発注前に低い対価を定める買いたたきとの違いである)と理解されていますが、実はそうではありません。

すなわち、この「額を減ずる」について、中小受託法テキストp72では、

「委託事業者が、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注に定めた代金の額を減ずることを禁止するものであり、「歩引き」や「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注いつの時点で減じても本法違反となる。」

とされており「発注に定めた代金の額」を「発注」に減じることが5条1項3号に該当するかのように読めます。

ところがテキストではそのあとのところに、

「また、仮に委託事業者と中小受託事業者との間で代金の減額等についてあらかじめ合意があったとしても、中小受託事業者の責めに帰すべき理由なく代金の額を減ずる場合は本法違反となる。」

と書いてあって、あらかじめの合意(発注前の合意)があっても5条1項3号に違反するとされています。

これをダメ押ししているのが、中小受託法テキストp74のQ96で、そこでは、

「Q96: 委託事業者と中小受託事業者との間で代金の額を減ずることについてあらかじめ合意があったとしても、中小受託事業者の責めに帰すべき理由なく、代金の額を減じている場合は本法違反となるとされているが、例えば、事前に契約書等の書面において、歩引きとして5%を代金の額から差し引く旨の合意を記載していても問題になるのか。」

との設問に対して、 

「A: 本法第5条第1項第3号は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、委託事業者が中小受託事業者の給付に対し支払うべき代金の額を減ずることを禁止しているものであり、委託事業者と中小受託事業者との間で、歩引きとして5%を代金の額から減ずることについてあらかじめ合意し契約書等で書面化していても、問題となる。」

とされています。

たしかに、5条1項3号では、

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること。」

としか言っておらず、減額するのが発注前か発注後かを区別していないようにも読めます。

しかし、このような公取委の発注以前の減額合意に関する解釈は、中小受託法5条1項3号の文言解釈としては間違っていると思います。

(まあ、公取委がこうだといえば何でも通ってしまうのが中小受託法なので、言っても詮無いことですが。)

まずそもそも、あらかじめの合意(発注前の合意)があるかどうかを「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の有無の問題だとする公取委の解釈は、文言上相当無理があります。

もし事前合意の有無が「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の有無の問題だとしたら、むしろ、ちゃんとした合意であればあるほど、「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」があることはあきらかです。

中小受託者自身がちゃんと合意したこと自体が、まさに「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」であるといわずして、何というのでしょう?

合意をした以上、責任をとれ(=責めに帰すべき理由あり)、という、至極当たり前のことです。

比ゆ的に言えば、過失(=うっかりミス)については損害賠償責任を負うのに、故意(=正々堂々と締結した合意)については負わない、みたいなものです。

このように、発注以前の減額合意を「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の有無として論じるのは誤りだと思います。

公取委の解釈では、どんなにまともな合意であっても、それが減額の合意であるかぎり(裏から言えば、増額の合意でないかぎり)、一切効力を認めないということになり、両当事者間の契約自由をまったく無視することになり、結論としても妥当ではありません。

まあそれはさておき、どうやったら公取委みたいな解釈が出てくるのかを考えてみると、おそらく公取委は、代金の合意(例えば、代金100万円と合意する)と代金の減額の合意(5%引くことを合意する)は全く別物だ、と考えているのだと思われます。

その上で、「代金の合意」は買いたたきに該当しないかぎり有効だけれど、「代金の減額の合意」は瑕疵等をのぞき例外なく無効である、と考えているものと思われます。

民法的な発想でいるかぎり、「代金の合意」と「代金の減額の合意」をわけることなんてできるはずがありません。

民法的な発想なら、「代金の合意」で代金100万円と合意し、「代金の減額の合意」で5%引くことに合意したなら、代金は95万円に合意したというほかないのであり、存在するのは両方まとめた95万円という最終合意だけのはずです。

なので、「代金の合意」と「代金の減額の合意」を分けて考える公取委の発想はかなり異様なのですが、中小受託法を理解するためにはその異様さを理屈抜きで呑みこむ必要があります。

ではこのような「代金の合意」と「代金の減額の合意」の区別を条文のどの文言の解釈に位置付けるべきかといえば、中小受託法2条11項の、

「この法律で「製造委託等代金」とは、委託事業者が製造委託等をした場合に中小受託事業者の給付(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、役務の提供。以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。」

という製造委託等代金の定義における、「べき」とはなんなのか、どう決まるのか、という問題だと位置づけるしかないでしょう。

(なお、このあたりの考え方は、横田直和「プライベート・ブランド商品の製造委託と下請法」p54以下に大いに触発されています。)

つまり、代金減額についての5条1項3号は、

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること。」

を禁止しており、「支払うべき代金」の「額を減ずること」が違反なので、結局、「べき」(2条11項)とはなにか、という問題になるのです。

この文言解釈の位置づけを前提にすると、「代金の合意」と「代金の減額の合意」とを分けて考える公取委の解釈は、要するに、

「支払うべき代金」は「代金の合意」のみで決まり、「代金の減額の合意」とは無関係である、

ということになるでしょう。

公取委がそういう考え方をしていることを印象付けるのが、2005年9月21日の竹田印刷への勧告です。

担当官解説(公正取引661号49頁)によると、この事件は、竹田印刷が、100%子会社の光風企画に下請取引の発注業務(発注書の作成等)を委託する対価として、下請代金から事務手数料名目で下請代金の5%を徴収することを下請事業者に通知して、事務手数料として5%を減額した、という事件です。

まあ、100%子会社に発注事務を委託したことはまったく本質的ではないので、竹田印刷自身が発注書作成事務手数料として5%減額した、と考えてもいいでしょう。

もちろん、発注書に発注金額10万円と記載しながら事務手数料として5%引いたらあきらかに減額ですが、この事件はそうではありません。

つまり、担当官解説50頁によると、

「竹田印刷は、下請法第3条に基づき下請事業者に交付する発注書面に、下請事業者との間で取り決めた下請代金の額(以下「合意金額」という。)を記載せず、「合意金額」から5%を差し引いた金額を記載し、発注書面どおりの金額を支払うという方法で下請代金を減額していた(下記イメージ図参照)。」

ということだったそうで、「下記イメージ図」では例として、合意金額10万円、発注書面記載金額9万5000円、という例があげられています。

つまり、発注書に9万5000円と書いてあって、9万5000円を支払ったのに、代金減額になった、ということです。

発注書に9万5000円と書いてあったとしても5000円の減額だ、という判断は、

「支払うべき代金」は10万円の「代金の合意」のみで決まる、

5000円の「代金の減額の合意」は無関係

という理屈にもとづいていると考えると、非常にすっきりとします。

実際、担当官解説p50では、

「本件では、外形上、発注書面どおりの金額が支払われているため、合意金額と発注書面上の金額のどちらが「下請代金」に該当するのかという点が問題となる。

発注書面に記載することが義務付けられている下請代金の額とは、親事業者と下請事業者とで発注前に交渉し、発注内容の対価として双方で合意された金額であることが前提とされている。

したがって、合意金額(注・「下請事業者との間で取り決めた下請代金の額」p50)と発注書面の金額が異なっているとしても、本来、下請事業者の給付に対して支払うべき下請代金は、竹田印刷と下請事業者との間で発注内容の対価として取り決めた合意金額であるため、本件では合意金額を下請代金と認め、下請代金を減額したという認定をしたものである。」

と解説されています。

もちろん、これは民法的な観点からいうと、かなりめちゃくちゃなことを言っています。

まず、担当官は、

「発注書面に記載することが義務付けられている下請代金の額とは、親事業者と下請事業者とで発注前に交渉し、発注内容の対価として双方で合意された金額であることが前提とされている。」

といいますが、発注書面は発注者の意思表示なのですから、あくまで申し込みの意思表示にすぎません。

双方の合意は、下請事業者からの承諾の意思表示で成立するはずです。

下請事業者の承諾の意思表示は、請書でもいいでしょうし、黙示の意思表示でもいいでしょうし、商法509条の、

「(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

第五百九条 

商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。」

の2項による承諾の擬制でもいいでしょう。

なので、竹田印刷の件で下請事業者が減額分の支払を求めて訴訟提起しても、間違いなく負けます。

ですがここで言いたいのはそういう細かい理屈ではなくて、公取委は「代金の合意・代金の減額の合意」区別説に立っているとみられる、ということです。

さらに担当官解説では、「代金の合意・代金の減額の合意」区別説の実質的な根拠についても、

「竹田印刷が下請事業者に対して事務手数料の徴収についての要請をした上で減額をしていることから、下請事業者がこれを了解していた場合にも下請法違反に問われるのかという疑問が生じるかもしれない。

下請法は、親事業者による優越的な地位の濫用を簡易迅速に処理し、下請事業者の利益保護を図るために制定された法律であり、その根底には、下請事業者は優越的な地位にある親事業者からの要請に従わざるをえない立場にあるという考えがある。

そのため、本件のように、下請事業者に納品の瑕疵や納期遅れなどの帰責事由がないにもかかわらずあらかじめ定めた合意金額から事務手数料を差し引く行為は、仮に下請事業者の「合意」や「了解」を得ているとしても下請代金の減額に該当し、下請法違反となることに注意する必要がある。」

と解説しています。

(ここでは事案に即して「事務手数料の徴収」と述べられていますが、一般的に「減額」と読み替えてよいでしょう。)

つまり、下請事業者は弱い立場にいるので、親事業者の代金の減額の要請に「要請に従わざるをえない」ので、「代金の減額の合意」は一律に(正確には、帰責事由がないかぎり)無効である、と述べているのです。

というわけで、公取委は「代金の合意・代金の減額の合意」区別説に立っているように思われます。

それはおかしいと個人的には思いますし、批判も強いところですが(前掲横田論文をご覧ください。)、公取委がそういう以上、仕方ありません。

実務上の関心は、では公取委の解釈を前提に、実務上どこまでのことができるのか、ということでしょう。

まず、竹田印刷のように一方的な要請をするのではなく、5%引きの価格で合意しなおして価格合意書を作成しておくのはどうでしょう。

きっとだめでしょうね。

中小受託者は委託者の「要請に従わざるをえない」からです。

ただしこれだと、年次の価格改定すら認められないことになりかねません。

でもそれはきっとそういうことではなくて、2025年に1個10万円で合意したのを、2026年には1個9万5000円で合意しなおすのは、2025年からの「代金の減額の合意」ではなく、2026年のあらたな「代金の合意」だとみるのでしょう。

どうしてそういえるのかというと、”感覚”あるいは”常識”ですかね(笑)。

もうすこしまじめに考えると、取引の実態などから、2025年の価格は2025年中だけ有効だと当事者は認識していて、翌年はまた別に価格交渉するつもりだったから、ということでしょうか。

逆に言うと、当事者が1年間有効と期待していた(あるいは契約書に明記していた)のに2025年中に価格改定すると、「代金の減額の合意」だといわれかねないと思います。

「それでは期中の価格交渉ができなくなって発注者に酷ではないか」という疑問がありうるところですが、事務手数料の徴収の要請がだめなのに代金自体を下げる要請ならいい、という理屈はないように思います。

まあ、事務手数料みたいな姑息な手段ならだめで、正々堂々と価格改定するならいい、という浪花節のような解釈もあるかもしれませんが、私は怖くてそんな解釈はとれません。😖

それでも、やむにやまれぬ事情で期中に価格引下げをしたい、ということであれば、竹田印刷のような一方的な通知で要請するのではなく、ていねいに交渉して合意するしかないでしょう。

少なくとも、「竹田印刷は一方的な要請だったからだめなのであって、合意書を巻いておけば良かったのではないか?」と安易に考えるのは危険です。

民法および商法の考え方でいけば、発注書に値引後の金額が書いてある以上、そして、それに下請が異議をとどめなかった以上、合意は成立するのであるにもかかわらず、「要請に従わざるをえない」という一言で公取委はだめだと竹田印刷事件で言っているからです。

2026年3月12日 (木)

昨日日経夕刊の「BYD、トヨタとEV補助金差95万円 日本法人社長『勝負にならぬ』」という記事について

昨日(3月11日)日経夕刊に掲題の記事が載っていました。 

見出しにあるとおり、トヨタとBYDでEV購入時に支給される補助金が1台あたりで95万円も違う、という記事です。

こんな不公平な補助金があるなんて、びっくりです。

どうしてこのブログで取り上げようと思ったかというと、こういう補助金は競争をゆがめるからです。

競争法の観点からすると、1台当たりの補助金の差というのは、そのまま、消費者にとっての限界費用(1台あたりの購入費用)の差になります。

限界費用にこれだけの差があったら、勝負にならないのは当然です。

補助金の出し方としては、最も競争をゆがめる出し方だといえるでしょう。

この記事によると、EV補助金は、

「補助金を決める基準は車両性能などの「車種評価」、充電インフラの整備や整備人材の育成などの「企業評価」の大きく2つで構成される。合計200点のうちの獲得点数で金額が決まる仕組みだ。

東福寺社長は「うちは会社の評価が低い、というか評価してもらえない」と落胆する。」

ということなんだそうです。

補助金が、たとえば電費とかの車両性能で決まるならまだわかるのですが、「充電インフラの整備や整備人材の育成などの「企業評価」」で車両価格に実質的に差が出るという理屈が、よくわかりません。

そんなことしたら上述のとおり競争をゆがめるのがあきらかなので、どうせ補助するなら「充電インフラの整備や整備人材の育成など」そのものに対して、所定の基準で算定した定額とか、インフラ整備費用の一定割合とかで補助金を出すべきでしょう。

そうすれば車の販売価格への影響はかなり間接的ですから、競争への影響もこれほどは大きくないでしょう。

それを、1台当たりの補助金として出すなんて、競争をゆがめるのがあきらかです。

補助金が少ない企業が競争上不利になるということもさりながら、補助金をたくさんもらっている企業のコスト削減のインセンティブを削いでしまう、という問題もあるように思います。

(まあ自動車は世界で競争しているので、日本の補助金だけで世界で販売される自動車のコスト削減意欲にあたえる影響は限定的でしょうから、あくまで理屈のうえで、ということですが。)

補助金をたくさんもらっている企業の値引きのインセンティブが小さくなることは、言うまでもありません。

こんなに露骨に競争をゆがめる補助金を、公正取引委員会はOKしたのですかね。

とっても疑問です。

2026年3月 4日 (水)

クーポン再発行と有利誤認表示(ソシエ・ワールド確約)

2026年3月3日、エステサロンを運営するソシエ・ワールドが、ウェブ上でのクーポンを再発行したことで有利誤認で確約認定を受けました。

消費者庁のプレスリリースの被疑事実によると、

「自社が運営する「エステティックサロン ソシエ」と称する店舗で供給する施術サービス(以下「本件役務」という。)を一般消費者に提供するに当たり、

令和3年9月23日から令和7年5月28日までの間、

「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、

例えば、「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」等

と表示することにより、

あたかも、当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるかのように表示していたが、

実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

ということのようです。

確約なので実際の表示物が公開されていない(それ自体問題だと思いますが、それはさておき)のでなんとも言いがたいところではあるのですが、私はこの確約認定はいろいろと問題があると思います。

少なくとも、この確約認定自体で、クーポンの連続発行自体が許されないことになるわけではないと思います。

まず、消費者庁のリリースでは、上記のとおり、

「実際には、当該クーポン記載の期限後に申し込んだ場合であっても、期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった。」

というだけで、無条件に「期限内と同額又はそれ以上の金額の割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるものであった」のかどうかが今一つよくわかりません。

しかし、この点については案の定といいますか、今朝(3月4日)の日経新聞朝刊で、

「消費者庁によると、同社は2021年9⽉〜25年5⽉、⼤⼿予約サイト「ホットペッパービューティー」に掲載したクーポンに有効期限を設定していた。実際には新たに別のクーポンを発⾏することで、期限が過ぎた後でも同等かそれ以上の割引でサービスを受けることができた。」

ということなのだそうです。

つまり、クーポンの連続発行の事案であり、値引を受けるためには後続のクーポンを使用することが条件であったことがわかります。

こんな大事な事実をリリースで書かないなんて、消費者庁はひどいと思います。(その理由はのちほど。)

実際の表示物がわからないので、たぶんこうだったんだろうという想像をするために、現在の同社のホットペッパービューティのクーポンページに表示されているクーポンを示すと、下のようなクーポンだったと想像されます。

20260304-094414

これの文字の部分が、消費者庁プレスリリースのような、

「「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限:2025年05月末日まで」」

というものだったと想像しておきましょう。

ところで以前私はこのブログで、

同じクーポンを連続して配布するのは有利誤認表示か?」(2025年4月28日)

という記事を書いたことがあり、クーポンの連続配布は基本的には有利誤認にあたらないと説明していました。

この意見は、今も変わりません。

ではソシエの件はどうなのかといわれると、なかなか微妙です。

というのは、上記のようなクーポンの表示だったとすると、「クーポン」とはいいながら、ただの期間限定キャンペーンと異ならないようにもみえるからです。

もう少しかみ砕いていうと、不当表示とは、表示と実際の不一致です。

つまり、表示の意味が実際の取引条件と一致していない、ということです。

なので、まずは、表示の意味の確定をする必要があります。

では、本件で消費者庁は、表示の意味をどのように確定したのかというと、

「当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができる」

という意味だと確定したわけです。

実は、クーポンの場合、この「限り」といえるのかどうかが大問題です。

「限り」(英語でいえば、if and only if, 論理学の記号だとiff)だと、たった2文字なので読み流してしまいそうですが、きちんと文字で書き起こせば、

当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができ、

かつ、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

ということです。

スーパーのチラシに印刷されているクーポンの場合、クーポンに有効期限が記載されていても、それだけで有効期限後に同じクーポンが発行されないとまで読み取る人はいないでしょう。

たとえば、3月7日(土)の朝刊の折り込みチラシでスーパーが「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンを配った場合に、それを見た消費者が、

「3月14日(土)の朝刊に「100円引き。有効期限3月13日(金)まで」というクーポンが配られることはないんだ。」

と認識するのか、という問題です。

そんな認識は、ふつうしないでしょう。

というのは、消費者は、チラシのクーポンの有効期限は、その有効期限が過ぎたらそのチラシに印刷されているまさにそのクーポンが使えなくなるという意味であって、それ以上の意味はない(再度クーポンが発行されることはないという意味まではない)、と認識すると思われるからです。

つまり、紙のクーポンでは、

当該クーポン記載の期限後には、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができない

という認識はしない、消費者庁のリリースの言葉で言えば、

限り

という認識はしない、ということです。

では、紙のクーポンではなくて、ソシエのケースみたいに、ウェブ上のクーポンなら、どうでしょうか。

まず、上で画像を示したところに行く一つ前のページの画像を示すと、こんな感じです。

20260304-100200

このように、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン」

という欄の下に、いくつかの「クーポン」が並んでおり、この1つをクリックすると、2つ上の画像のページに行くわけです。

これだとたしかに、「クーポン」とはいいながら、特定のコースを値引しているだけの、期間限定キャンペーンと何ら異ならないように見えます。

たとえば、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のクーポン

というタイトルを、

「SOCIE esthetic 豊田店【ソシエ エステティック】のキャンペーン

と書いてあったとしても、何の違和感もありません。

といいますか、むしろそのほうが言葉の意味として自然だと思います。

そもそもクーポンとは、広辞苑によると、

「①切取り式の券。回数券や債券の利札の類

②旅行者の便宜のために発行する、各種乗り物の通し切符や指定旅館の宿泊券などを一綴りにしたもの。

③一般に、割引券・優待券」

と説明されています。

本件では③が近いですが、いずれも、何らかの券であることが想定されています。

仮に電子的なクーポンであっても、リアルのクーポン券を模したようなものである必要があるでしょう。

なのにソシエの件は、表示を見てもそのような雰囲気がまったくありません。

なので、このような表示を「クーポン」と呼ぶのは、事実認定として誤りだと思います。

なので、消費者庁リリースの認定の、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、」

というのは、重要な点において事実認定を誤っており、ほんらいは、

「「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで告知するキャンペーンにおいて、」

などと認定すべきだったと思います。

そうであれば、通常の期間限定キャンペーンのくりかえしと何ら異ならない、ありふれた事件だったということになります。

なぜこの点が重要かというと、ほんとうのクーポンであれば、そこ(=券)に書かれている有効期限は当該クーポン券の有効期限の意味だとしか解しようがないからです。

ここで、確約だと表示物が公開されないという問題が出てきます。

上記の画像はホットペッパービューティからスクショしたもので(なのでそれ自体は景表法違反でも何でもなく、たんなるサンプルです。)、たぶんこうだろうという想像でここまで考えてきましたが、こういう重要な点について想像を交えないと論評できないということ自体が、大問題だと思うのです。

現に日経記事では、本件はクーポンの連続発行が違反とされたというように報道されているわけです。

でもこれは日経新聞が悪いわけではなくって、消費者庁が記者会見でそういう説明をしたのでしょう。

実際、プレスリリースでも、クーポンでないものをクーポンだと認定しているわけですから、そういう説明になっているはずです。

私が上に述べたような問題意識には、気づくはずもないでしょう。

確約なら課徴金を免れるわけで、事業者としては消費者庁が確約にすると言えば喜んで応じるはずであり、争うインセンティブなんてまったくありません。

(まあ本件は、「クーポン」といいながら、実際には「キャンペーン」のくりかえしの事件なので、争っても勝てないとは思いますが。)

おそらく私一人がこのようなことを言っても、「クーポンの連続発行は不当表示」という誤解がどんどん拡散されていくことでしょう。

ほんとうに悲しむべきことだと思います。

2026年3月 3日 (火)

異なる販路間の二重価格表示

同じ事業者が、ある販路で売っている商品の価格を比較対照価格として、別の販路で売っている同じ商品について二重価格表示をすることは、その旨の何らの断り書き(打消し表示)もなしにすることは認められないのだろうと思います。

直感的にそう思う理由は、景表法では店舗ごとに考える発想が強いから(たとえばおとり販売告示)ですが、もう少し実質的な理由を考えると、消費者は二重価格表示をみれば比較対照価格はまさにその販路(例えばそのウェブサイト)での価格だと認識するだろうから、です。

逆に言うと、異なる販路(例えば、自社サイトとECサイト)であれば、価格が違うこともふつうにありうると消費者は思っているはずだ、ということです。

販路が違えば価格も違うのというのは、(商品によるかもしれませんが)実際にいくらでもありうることです。

以前仕事で、とあるLCCをECサイトで予約してオーストラリアに行ったことがありました。

当然、そのECサイトでは他のフルサービスキャリアより安かったからそうしたのですが、あとでそのFSCの自社サイトをみたら、なんとLCCよりも安かったのです。

当然、同じFSCでみたら、ECサイトより自社サイトのほうが、ずっと安かったわけです。

(ちなみにそのLCCでは荷物の重量オーバーで超過料金が取られるわ、サービスはLCCなので押して知るべしだわで、散々な目に遭いました。。。閑話休題。)

なぜ販路ごとに価格が異なるのかというのは場合によりけりでしょうが、単純に利益を最大化しているだけだという場合でも、ある販路(ECサイト)に集まる需要者は価格に敏感で、別の販路(自社サイト)に集まる需要者はそれほどでもなく、なので利益最大化価格が異なる、ということもあるでしょう。

あるいは、特にリアルの店舗の場合には、販路によって販売コストがちがう、ということもあるかもしれません。

あるいは、プロパー店舗とアウトレットみたいに、あえて顧客をセグメント化して価格差別をする、ということもあるかもしれません。

というわけで、販路が違えば価格も違って当たり前なわけで、それを前提にすると、二重価格表示がされると消費者は「同じ販路でこの比較対照価格なんだな」と思うわけで、何も断らず別の販路の価格を比較対照価格にしてはいけないわけです。

この点については、古川昌平『実務対当者のための景表法ガイドマップ』96頁(「アウトレット商品の二重価格表示」)で紹介されている、第54回規制改革会議資料3-2(平成27年12月4日)7~9頁というのがあります。

そこでは、消費者庁の回答として、

「 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)おいては(ママ)、提案主体が提案理由の中で述べるような「二重価格による表示を行う場合、『当該店舗』での『最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績』が必要となる」という考え方は示されていない。

 すなわち、同考え方においては、「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。このため、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていたとはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」との考え方が示されている。

 そして、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かについては、「当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることになるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる八週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が八週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して二週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から二週間以上経過している場合においては、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とはいえないものと考えられる。」との考え方が示されているところである。

 一方で、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品の二重価格表示については、一般的なアウトレット等における販売形態を踏まえると、アウトレット等において比較対照価格での販売実績のない商品であっても、プロパー店舗において最近相当期間にわたって販売した実績のある商品について、「プロパー店舗での販売価格○○円のところ××円」といったように、比較対照価格を事実に基づいて適正に表示する場合には、景品表示法上問題とならず、二重価格表示を行うことが可能であると考えられる。

 このようにアウトレット等においても二重価格表示を行うことは可能であるので、現時点で上記ガイドラインの見直しの必要はないと考えている。」

というように、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方が示されています。

これだけだとちょっと文脈がわかりにくいので、こちらの資料から経団連の意見も引用しておくと、

「消費者庁は、景品表示法のガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、プロパー店舗からアウトレット店・アウトレットサイトに移管した商品については、当該店舗での販売実績がないことから二重価格が不可能となっている。【アウトレット店・アウトレットサイト等におい
て、限定した要件の下、】二重価格を容易にする規制緩和を要望する。

【提案理由】消費者による消費行動の多様化により、近年はアウトレット店舗およびオンライン上でのアウトレットサイトが増加している。その結果、プロパー店からアウトレット店舗・サイト(以下、アウトレット等)への移管在庫は従来に増して頻繁になっている状況で
ある。

 消費者庁は、そのガイドライン(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_35.pdf)において、不当な二重価格になるケースを例示しており、このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。この点、プロパー店舗からアウトレット等に移管した商品については、それぞれの要件を満たせず、二重価格表記が不可能となっている。また、過去の販売価格を比較対象価格に用いる場合の要件については、値札のスペース上の制約から、小売の現場で活用することが難しい。

 現状、アウトレット価格が記されたシールを従来価格の上に貼る以外にガイドラインに沿う方法がなく、その場合、プロパー価格からどの程度安くなった商品かがわかりにくい表示となる。アウトレットでお値打ち品を求める消費者にとっては、不便な状況となっており、改善が必要な状況と考えている。また、とりわけアウトレットにおける主力製品であるファッション小売品については、季節ごとに商品が変わるため、6カ月~1年前に正規店舗で販売した商品を販売することが多い。しかし、上記の規制が、このような流通実態と整合的ではないため、実際に二重価格表記を活用することができなくなっている。

 消費者にとってアウトレットは割安感を求めるチャネルであることを踏まえれば、アウトレットにおいては、より消費者がプロパー販売価格からの割引額が把握しやすい二重価格表記を可能とする要件を緩和することが、消費者の利益に適うと考える。販売業者の立場からは、規制緩和により公平な競争環境が整備される。

 よって、現行のガイドラインについて、①「当該店舗」、「最近相当期間」の定義を見直す、②「過去の販売価格」の表示の要件を緩和する、③アウトレットの類型について、流通実態に即し、新たに二重価格の表示を可能とする要件を設定する、など所要の見直しを検討すべきと考える。」

というのが、経団連の意見の内容です。

ちなみに、経団連の意見では、

「このガイドラインに従えば、二重価格による表示を行う場合、「当該店舗」での「最近相当期間(過去8週間の過半、かつ少なくとも直近2週間以内の)販売実績」が必要となる。」

とはっきり言っていて、「当該店舗」なんてはっきり価格表示ガイドラインで言ってたかなあと思いガイドラインを確認すると、ガイドライン第4の2⑴ア(ウ)には、

「(ウ) 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準 

比較対照価格「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、

当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態を考慮しつつ、

個々の事案 ごとに検討されることとなるが、

一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるも のとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期 間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期 間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当 期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。」

というところで「当該店舗」という表現が用いられていますが、そのすぐあとに「を考慮しつつ」とあることからもあきらかなように、あくまでこれは例示(最近相当価格該当性認定の考慮要素の1つに過ぎない)ということなので、これだけをもって当該店舗の価格しか比較対照価格にすることができないと読むのは、論理的にはちょっと厳しいんじゃないかなという気がします。

(反面、比較対照価格の最近相当価格該当性の考慮要素として「当該店舗における販売形態」というのをあげていることからすると、これは、そのお店でどれくらい頻繁に価格が変更されるのかということを意味しているようにも読め、そうすると、「当該店舗」という記載は、当該店舗での販売価格しかガイドラインは比較対照価格として想定していないのだ、というようにも見えてきて、正直よくわからないです。)

ともあれ、このような、異なる販路であることを断れば、異なる販路の価格を比較対照価格にしてよい、という考え方を裏返すと、何も断らずに異なる販路の価格を比較対照価格としてはいけない、という考え方が読み取れます。

ただ、これに対しては、

原一弘(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課長補佐・前消費者取引課長補佐。執筆当時)「『不当な価格表示についての景品表示法上の考え方』について」(公正取引59912頁・2000年)

では、

「新規 開店の店舗については、販売実績が全くないので過去の販売 価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うことはできない。ただし、チェーンストア等が既存の店舗に加えて新たな店舗を開く場合については、各店舗で統一的な価格設定が行われていることを前提に、「当社通常価格 (この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。)」等、その比較対照価格の内容を明確にすることで、自社の他の店舗の過去の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは可能である」

とされています。

これは、前記規制改革会議の消費者庁回答と似ているようで、重要な点で異なります。

というのは、異なる店舗での価格であることを注意書きすることに加えて、「各店舗で統一的な価格設定が行われていること」まで要求しているからです。

この考え方に従えば、プロパー店舗とアウトレットでは統一的な価格設定はしていないでしょうから、断り書きをしてもダメだ、ということになると思われます。

しかし、それはいくらなんでも厳しすぎるというべきでしょう。

不当表示は表示と実際の不一致なのですから、実際に合うように表示すれば不当表示にはならないはずであり、「統一的な価格設定」みたいな、客観的事実を不当表示該当性(あるいは非該当性)の要件にするのは、理論的に誤りだと思います。

別の言い方をすると、景表法は表示と実際の不一致を問題にする純粋な表示規制(表示のみの規制)なのであり、一定のビジネスモデル(例、統一的価格設定)をとるかとらないかでそもそも一定の表示ができるとかできなくなるとかいうことはありえない、ということです。

また、原論文の考え方は、前記規制改革会議の消費者庁回答にも反します。

というわけで、原論文はあきらかに厳しすぎ、規制改革会議の消費者庁回答の考え方(販路の違いを明示すれば問題ない)が基本的な方向性としては正しいというべきでしょう。

では、異なる販路であることさえ断れば、どんな場合でも二重価格表示をしていいかというと、それもちょっと微妙です。

チェーンストアであれば、何も言われなくてもどの店もだいたい同じような販売条件で、同じような価格設定でしょうから、厳密に「統一的な価格設定」でなくても、他店舗の価格を比較対照価格としてもいいでしょう。

アウトレットの場合は逆に、アウトレットはプロパー店舗よりも安いものだという認識が消費者にあるでしょうから、そういうものだというかぎりでは、プロパー店舗の価格は消費者の参考になるといえるでしょう。

でも中には、果たして参考にしていいのかどうか消費者にもわからない(消費者は参考にできると思っているけれど、ふたを開けてよく見てみたら、全然参考にならない)販路というのも、ありうるのではないかと思います。

そういう場合には、こういう販路の価格ですと断るだけでも足りず、その販路とこの販路にはこういう販売条件や市場環境などの諸々の差があります、ということまで言わないと、変に有利だと誤解を招く、ということもあるような気がします。

というか、そんなことを断らないといけない二重価格表示なんて、そもそもどれだけ断り書きをしても誤解を招きかねないので、やるべきではないのではないか、という気もしてきます。

では具体的に比較対照価格にしては絶対いけないような販路としてどのようなものがあるのかというと、例が思いつかないのですが、やはり、消費者が参考にして誤解を招くような別販路の価格は用いてはいけない、ということだと思います。

むしろ実務的に気になるのは、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合にも、「この価格は当チェー ンの他店における通常価格です。」なんていう断り書き(打消し表示)をしないといけないのか?ということでしょう。

「他店」であることを明示しなくて、例えば、「通常価格〇〇円」だけだと、絶対にだめなのでしょうか?

私は、統一的な価格設定をしているチェーン店であって、消費者にも常識的にそのチェーン店ではそういうものだと理解されている場合であれば、特に「他店」であることを明記せず、「通常価格〇〇円」というのでもいいような気がします。

これをサポートしてくれる文献に、

笠原宏「初めての景品表示法(第6回)ー不当表示規制(有利誤認表示)-」公正取引863号(2022年)59頁

があり、そこでは、

「Q:この基準〔8週間ルール〕によると、スーパーなどが新店舗を開店した場合、その店舗での回転売り出しに二重価格表示を行うことはできませんか。

A:チェーンストア等で、各店舗が統一的な価格設定をしているような場合には、既存店が扱っているのと同一の商品については、他の要件を満たす限り、既存店の最近相当期間価格を比較対照価格として、新規店舗の安い実売価格との間で二重価格表示を行うことは可能だとされています。」

と解説されており、文字どおりに読めば、他店の価格であることは断る必要はない、と読めます。

というか、そうとしか読めません。

というわけで、元消費者庁表示対策課長の笠原氏もそうおっしゃるわけですから、ここは「他店であることの明示は不要」と解しておきましょう。

規制改革会議での消費者庁回答は、アウトレットという、あきらかにプロパー店舗と価格設定が異なる販路だから明示を要するのだ、と解すれば説明はつきます。

少なくとも、「新規開店の場合には過去の販売実績がないので、『通常価格』という表記は当然に違反だ」というのは、言い過ぎだと思います。

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