取引妨害の「取引」には無償の取引も含むか。
一般指定14項の取引妨害における取引には、無償の取引も含まれるでしょうか。
含まれると考えられます。
まず、条文上、有償のものに限ると明言はされていません。
一般指定14項では、
「14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」
と規定されており、たんに「取引」というだけであり、有償のものにかぎるとは明言されていません。
次に、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の2では、
「また,個人情報等は,消費者の属性,行動等,当該消費者個人と関係する全ての情報を含み,デジタル・プラットフォーム事業者の事業活動に利用されており,経済的価値を有する。
消費者が,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に,その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然,消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当する。」
というように、実質無償の取引に対して、個人情報が取引の対価であるという変則技を使いつつも、優越的地位の濫用を適用することを肯定しています。
(実際、無償の取引が公取委が取り上げるに値する場合というのはほぼネット関係ですから、個人情報を対価とする場合に限り「取引」に該当するという限定的な立場に立ったとしても、実質的には独禁法の適用範囲が狭くて困るということはありません。)
また、泉水『独占禁止法』74頁の注20では、
「価格のない商品、無料サービスは『取引』(一定の『取引』分野(10条1項)等)・・・に該当するのかという論点もある。」
としたうえで、結論としては、個人情報が対価として提供される場合(上記デジタル優越ガイドライン)、間接ネットワーク効果がある場合には非価格競争の制限があるので独禁法の適用を肯定すべきとの解釈が示唆されています(といいきると、まとめとして強すぎるかもしれませんが、気になる方は原文をお読みください。ともあれこの書籍の索引の充実ぶりはものすごいです)。
(ちなみに、同注20では、
「間接ネットワーク効果・・・が強く働く市場では、顧客を多く獲得すること(顧客ベースを大きくすること)が他の市場での効用を高める。そのため事業者は消費者に金銭を支払ってでも提供したいと考えているとすると、その場合に金銭を支払うのではなく無料にすることは対価を徴収しているともいえよう。」
という部分は、よく意味がわかりませんでした。この点はまた後日考えてみたいと思います。)
さらに独禁法を離れて景表法では、DMY就職に対する措置命令(2022年4月27日)で無償のサービスも取引に当たることが前提にされています(担当官解説は公正取引869号66頁)。
というわけで、独禁法一般に「取引」を厳密に有償のものにかぎるという解釈は採られておらず、取引妨害における取引も無償の取引を含むと考えてよいと思います。
個人情報の収集も間接ネットワーク効果もない、純粋に無償の場合にどうか、という問題も理屈上はありますが、そんなものが仮にあったとしても独禁法で取り上げるに値しないので、逆に言えば、独禁法で取り上げるに値するような事件では必ず個人情報の収集や間接ネットワーク効果があるので、そのようなものも(を?)無償というなら、あるいは純粋無償のものは埒外に置くなら、「無償」の取引は「取引」に含まれる、といって大過ないと思われます。
