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2026年1月23日 (金)

景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じか?

景表法上の景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は、同じものでしょうか。

この問題は、無償の取引が「取引」に含まれるのか、という論点において最も問題となります。

まず、景品規制の「取引」は、景表法2条3項の、

「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「景品類」の定義の中に出てきます。

これに対して、表示規制の「取引」は、景表法2条4項の、

「この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

という、「表示」の定義の中に出てきます。

この点、通常は、同じ法律に出てくる同じ言葉は同じ意味に解するという暗黙の了解のようなものがあり、実際、緑本第7版p51でも、表示規制の解説の中で、

「事業者と一般消費者との間にどのような関係があれば「取引」が存在するといえるのかについては、後記第3章2の景品類の定義に関する説明の中で主として記載する」

と、あたかも表示規制における「取引」は景品規制における「取引」と同じ意味であることを前提にするかのような記述がなされています。

しかしながら、景表法の「取引」がそう単純に割り切れないのは、上に条文を引用したとおり、同じ「取引」という言葉が、片や「景品類」の定義、片や「表示」の定義の中で用いられており、これら「景品類」と「表示」が別々に内閣総理大臣によって指定されることになっていることです。

結果的にいずれも同じ定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」)で定義されていますが、これはほんとうにたまたまそうしただけであって、

”不当景品類及び不当表示防止法第二条三項の規定により景品類を指定する件”

”不当景品類及び不当表示防止法第二条四項の規定により表示を指定する件”

という2つの告示で指定したとしても、景表法の規定上はぜんぜんおかしくありません。

こういう景表法2条の建付けと、その中での「取引」の位置づけという形式面だけからしても、景表法においては同じ「取引」を景品規制と表示規制で異なる意味に解する余地は十分にあるといえます。

というより、異なる告示で指定しうる建付けである以上、景品規制と表示規制で「取引」が同じ意味になったときには、たまたまそうなっただけなんだ、というべきでしょう。

たしかに、運用基準レベルでは、景品規制と表示規制を区別せずに、定義告示運用基準3項が、「「自己の供給する商品又は役務の取引」について」の解釈を示していて、この「自己の供給する商品又は役務の取引」というのは、定義告示1項(景品類)の、

「不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第二条第三項に規定する景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」と、定義告示2項(表示)の、

「2 法第二条第四項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、次に掲げるものをいう。」

における「自己の供給する商品又は役務の取引」の両方をひとまとめにして説明したものだと解されます。

というわけで、運用基準上は景品規制の「取引」と表示規制の「取引」は同じ意味であるとされているというほかありません。

でも、運用基準はあくまで運用基準であって、景表法自体に根拠があるものではありません。

なので、論理的には、景品規制の「取引」と表示規制の「取引」が違ってもかまわないことになると思います。

とはいえ、運用基準の権威は実務では絶大ですし、これまでは緑本で上記のとおり両者が同じである前提での解説もあったので、あまり両者を区別して論ずべきという議論もなかったように思います。

これが、そういうわけにもいかないんじゃないかという話になってきたのが、無償の取引も「取引」なのかという論点が着目されてきたためです。

緑本p53のコラムでも紹介されていますが、この点を正面から取り上げたのが、「DYM就職」に関する措置命令(2022年4月27日)です。

この事件は、利用者(求職者)が利用するのは無料のサービスについての不当表示が、景表法の表示規制の対象となったものです。

この事件の担当官解説(公正取引869号66頁)では、無償取引も取引かの論点について、

「(2) 「無料Jの就職支援サービスに対する法適用の可否(「事業者」該当性)

景品表示法の対象となる表示は「事業者」が「自己の供給する商品又は役務の取引について」行う「表示」である (5条柱書き。) 商品又は役務を供給する主体が相手方から、金銭を受け取っていない場合に、かかる要件を満たすかが論点となる。

この点、サービス提供主体から、相手方である消費者が「無料」で、すなわち金銭的負担なくサービスの供給「(なんらかの経済的利益の供給」)を受けられる場合であっても、消費者が経済的価値を有する個人情報などを反対給付としてサービス提供主体に提供している (「反対給付を反覆継続して受ける」)場合には、サービス提供主体の行為は、「事業」に当たり、 「事業者」性が肯定されると解される。

この点、特に、本件のような就職支援サーピスは、求人側の企業と求職者の両サイドをマッチングするサービスであるという特性上(いわゆる二面市場に該当する)、どちらか一方のみでは、サービスとして成り立たず、両者が一体となって初めて成り立つものである。

このため、サービス提供主体が一般消費者から金銭を受け取っていない場合でも、一般消費者が経済的価値を有する個人情報など何らかの反対給付をサービス提供主体に提供しており、両サイドのマッチングを含めたサービスが一体として初めて成り立つものといえる場合には、サービス提供主体の行為は 「事業」に当たり、景品表示法が適用される 「事業者」 に該当することとなるものと解される。

本件において、 D Y Mが提供している役務は、①電話や面談による就職カウンセリング、 ②就職カウンセラーによる就職・転職活動支援、 ③求人情報の提供、 ④応募手続の代行等であった。同社の就職支援サービスを利用した求職者(消費者) は、これらの役務を利用するに当たり D Y Mに対して金銭を支払っていなかった。つまり、D Y Mは、求職者に対して就職支援サービスを提供しているものの、反対給付としての金銭は受けておらず、就職をあっせんした求人企業から成功報酬としての手数料を収受することにより、収益を上げていた。D Y Mは、求職者から、住所、学歴・職歴、免許・資格、アピールポイント、希望業種、勤務地、雇用形態等の詳細な個人情報の提供を受けていた。D Y Mは、求職者から得たこれらの個人情報を元に求人先企業をマッチングして、当該企業に個人情報を提供して採用面接をセッティングし、求職者が当該企業に採用されると、成功報酬としての手数料を得ていた。

これらのことから、 D Y Mが、本件役務①及び本件役務②において、求人先企業から手数料を得るためには、求職者の上記のような個人情報が不可欠なものであるといえる。このため、求人先企業から手数料を得ることと求職者から個人情報の提供を受けることは、本件役務①及び本件役務②が成り立つために不可欠な関係にあるといえることから、求職者が提供する個人情報は、 D Y Mにとって経済的な価値を有する反対給付といえ、 D Y Mが本件役務①及び本件役務②を供給する行為は「事業」に当たり、 D Y Mは、景品表示法上の「事業者」に該当すると考えられる。」

と解説されています。

(この解説では、「事業」の解釈と位置付けていますが、それは公取委の時代からそうだったからそうなっているだけで、「取引」の解釈と位置付けても結論は同じでしょう。ただ、条文上は「事業者」という用語はあっても「事業」という用語はないので、論理的にはちょと難があります。)

この事件の処理自体は、まあこういう就職率の水増し(同社主催のイベントに参加した者の就職率が95.8%以上と表示したが、実際にはそれは一時点における最も高い数値に過ぎなかった)が野放しになるのはいかにも消費者(求職者)の保護に欠けるので、妥当だったとは思います。

(でも、その理由付けとして、サービスに不可欠な「経済的価値のある個人情報」をサービスの反対給付として消費者が提供していることを挙げるのは、だったらそういう個人情報の提供がなくて消費者をだますような不当表示が将来出てきたときに対応できないように思われ、また、いかにも「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」から無理矢理引っ張ってきた感があり、いろいろ言いたいことはありますが、それはまた後日にしたいと思います。)

では、もしDYMがサービス利用に付随して求職者(消費者)に経済上の利益(景品)を提供していた場合、個人情報が不可欠な二面市場であることを理由に景品規制がおよぶと考えてよいものでしょうか、というのがここでの問題です。

この事件独自の問題点として、就職率の虚偽表示があった場合にはさすがに求職者の合理的なサービス選択を阻害しているので放置はできないのに対して、景品が法定の上限を超えていたくらいで合理的な選択を阻害していたといえるのか、という素朴な疑問があります。

まして二面市場の場合には、両サイドの需給関係やネットワーク効果の大小・方向しだいで、一方の利用料が無料(DYMのケース)とか、極端な場合になるとマイナス価格になることすらありえます。

医師の男性限定の婚活パーティの場合、女性のほうが参加料が高いのもその類です(通常は男性のほうが高い)。

それなのに、本来的に無料のDYMのようなサービスで求職者にDYMが何らかのインセンティブを提供していたら、本来無料なので値引ともいいにくく、そうすると即座に景品類だということになりかねません。

そうすると、合理的な商品選択の阻害がなく経済的には完全に合理的な経済上の利益の提供を、景品規制が禁止してしまう、ということになりかねません。

さらに、DYMを超えてより一般的な問題は、仮に無料の取引も「取引」にあたるとして、では景品規制上の「取引の価額」をどう算定するのか、ということです。

たとえばDYMのような無料の取引の場合に関係しそうなのが総付運用基準1⑷ですが、そこでは、

「(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、製造業者又は卸売業者である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格を基準とする。」

とされています。

この「実際の取引価額」を、個人情報の価値と読むのは、文言解釈として無理でしょう。

実は似たような問題がデジタル優越ガイドラインにもあって、ガイドライン案のパブコメの221番で、

「○デジタル・プラットフォーム事業者への課徴金適用の可否を明確にしてほしい。無料でサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者の場合にはどのように考えるのか。(団体,弁護士)

○本考え方案(例えば2)における「対価」は,独占禁止法施行令第30条の「対価」と同義と理解してよいか。ひいては,個人情報等が対価として提供されている取引においてはかかる個人情報等の価値を金銭評価して課徴金が算定されると理解してよいか。(弁護士)

○課徴金を課す場合,個々の消費者ごとに「対価」を算定する,という立場であると理解してよいか。(弁護士)」

という質問が出たのに対して、公取委の回答は、

「優越的地位の濫用行為に係る課徴金については,個別具体的な事案に応じて,独占禁止法第20条の6の規定に基づき,算定します。」

という、事実上の回答拒否でした。

このように、景品の運用基準では無償の取引は想定されていないとうかがわれることからすると、どうも「取引」を表示規制と景品規制で別異に解釈する余地もあるのではないか、景品規制では無料の取引は「取引」にあたらないと解する余地もあるのではないか、と思われてならないのです。

ちなみに、私は取引の対価は金銭に限るべきと言っているわけではありません。

金銭に限ると言ってしまうと、物々交換が景表法の対象外になってしまいます。

そうではなくて、そもそも個人情報はサービスの反対給付とはいえない、ということです。

ほんとうの物々交換なら、サービスの反対給付としての物を金銭評価して「取引の価額」を算定するのが理論的には妥当ですし、それで何の問題もないと思います。

でも、同じように個人情報の価値を金銭評価して「取引の価額」だとするのは、そもそも理屈として間違っている(個人情報はサービスを受けるのに必要だから提供するけれど、サービスの対価ではないから)、ということです。

もし、個人情報がサービスの対価だとすると(※ちなみに上記DYMの担当官解説も、個人情報がサービスの対価だとは言っていません。「事業」性認定の一要素にしているだけです。)、たとえば個人情報をDYM自身は見れないようにして、求人企業だけが見れるようにすれば、取引当事者間での対価(個人情報)の提供はないので「取引」ではない、とか、よけいな反論(ないしはそのような(屁)理屈を盾にした脱法行為)が出てきそうな気もします。

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