中小受託法運用基準パブコメ254番(割引を要する決済手段の適否)を出したのは私です。
中小受託法運用基準パブコメ254番で、
「運用基準改正案第4の2⑸で、
「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5条1項2号)
の例として、
「①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、・・・割引を受け・・・る必要があるもの」
が挙げられ、さらに、
「他方、満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、
委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、
支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、
金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、
『当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの』
として取り扱う。」
としているのは、改正法5 条1項2号の明文に反すると考える。
すなわち、改正法5 条1 項2 号において、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」による支払が禁じられているのは、「金銭と引き換える」(=割引をする)ことを要する支払手段であること自体は許容しつつ、その引き換え(=割引)が「困難であるもの」に限りこれを禁じるという意味にしか読めない。
例えば、金銭と引き換えることが容易なものが「金銭と引き換えることが困難であるもの」に該当しないことは、文言上明らかである。
それにもかかわらず、改正運用基準案のように、「割引を受け・・・る必要がある〔支払手段〕」が当然に「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」に該当すると解してしまうと、そもそも「割引を受け・・・る必要がある」(=金銭と引き換える必要がある)だけで当然に「金銭と引き換えることが困難である」ということになってしまい、明らかに文言解釈の範囲を超えている。
同様に、改正運用基準案が採用する、
「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5 条1 項2 号)
を
「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」
であるとする解釈は、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」を「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」と読み替えており、文言解釈の範囲を超えている。
そもそも、第217 回国会参議院経済産業委員会令和7 年5 月13 日において、貴委員会向井康二参考人は、
「今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、〔①〕支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によっては〔②〕その手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」
という答弁をしており、①下請代金の支払期日に満額が得られる支払手段(=決済日が下請代金の支払期日以前の支払手段)が認められることに加えて、さらに、②下請代金の支払期日に満額が得られるような決済日を設定しない支払手段であっても、割引手数料を発注者が負担するものであれば認められる、という趣旨の答弁をしている。運用基準案はかかる国会答弁に反する。
よって、運用基準案第4の2⑸は全部削除されるべきと考える。」
というコメントを出しました。
これに対する公取の回答は、
「No.253 の御意見に対する考え方を御参照ください。」
とあり、253番への回答は、
「本規定の趣旨は、国会でも御審議いただいたとおり、
中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにするものであり、
本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。
運用基準の内容は、本規定の趣旨に従い、当委員会で運用していく上での考え方を検討し、お示ししたものであるため、原案どおりとします。」
というものです。
でも、
「国会でも御審議いただいたとおり」
とおっしゃいますが、国会答弁では運用基準と正反対の答弁をしていたのですから、国会で審議したことは運用基準を正当化する理由にはならず、むしろ運用基準を否定する理由になるというべきでしょう。
それから、「本規定の趣旨」が「中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにする」ものであるということから、
「本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。」
という解釈を導くのも、まったく論理的ではありません。
「支払期日に・・・現金を確実に受領」できることが5条1項2号の趣旨なら、むしろ割引という行為を要したって(「割引」という行為のためにその支払手段が金銭と「同等の経済的効果」を有すると評価できなくなったって)、支払期日に現金を確実に受領できるならOKだ、という結論になるべきでしょう。
ちなみに、パブコメで引用した部分の少し前で向井参考人は、
「まず、この法律では、支払期日というものが定める義務があります。支払期日につきましては、例えば部品を納めまして相手方が受領いたしますと、それから六十日以内の期間におきまして代金の支払期日が定められるということでございます。この支払期日におきまして、例えば百万円の取引をしたといたしますと、百万円を支払わないと、この法律上は違反になるということでございます。
一方で、割引困難な手形ということで、手形で払う場合によりますと、その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということでございまして、これは受注者にとりましては不利益になるのではないかというふうに考えておるところでございます。
今回の改正法におきましては、約束手形を禁止をするということとともに、例えば電子記録債権とかファクタリング、そういうものについては禁止をしないわけでございますが、これで払う場合には、その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めないというようなルールにするということでございます。」
という答弁をしており、改正で問題視したのは、
「その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということ」
であり、それへの対応として改正法では、
「その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めない」
ルールとした、ということであり、満期までの金利だけを問題視していることがあきらかです。
そんな国会答弁をしておきながら、突如として運用基準で満期までの金利ではなくて、割引という行為を要することが問題なんだと言い出すなんて、国会軽視も甚だしいと思います。
国民としては、公正取引委員会がこのような国会無視の役所であることは、十分記憶にとどめておくべきでしょう。
« 牡蛎販売イベントでの二重価格表示に対する措置命令について | トップページ | 勧告と同時に支払遅延等の既往の行為への指導が公表された事例(佐藤商事ほか) »
「下請法」カテゴリの記事
- 下請法は、法律ではありません。(2026.07.11)
- 電磁的記録を保管させることが不当な経済上の利益の提供要請とされた事例(矢崎部品)(2026.07.10)
- 受領拒否も返品もしないで(履行として認容して)減額する場合についての中小受託法運用基準の定めの矛盾(2026.07.01)
- 受領拒否して代金減額ができる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵アの読み方(2026.06.30)
- 返品して代金減額が認められる場合についての中小受託法運用基準第4の3⑵の矛盾(2026.06.27)
« 牡蛎販売イベントでの二重価格表示に対する措置命令について | トップページ | 勧告と同時に支払遅延等の既往の行為への指導が公表された事例(佐藤商事ほか) »

コメント