« 2025年10月 | トップページ | 2025年12月 »

2025年11月

2025年11月18日 (火)

勧告と同時に支払遅延等の既往の行為への指導が公表された事例(佐藤商事ほか)

最近、下請法の勧告とともに指導が公表されるケースが出てきています。

たとえば、2025年4月21日の佐藤商事への勧告では、返品とともに、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア 佐藤商事は、下請事業者に対し、令和5年3月から令和6年2月までの間、最長で納品締切から5か月後に下請代金を支払う支払制度を採っていたため、下請事業者から商品を受領した後60日以内に下請代金を支払っていなかった。

この支払遅延による遅延利息の額は、総額3277万3102円である(下請事業者81名)。

イ 佐藤商事は、令和7年1月31日、下請事業者に対し、当該遅延利息の額を支払っている。

⑵ 指導の概要

今後、前記⑴と同様の行為を行わないこと。

⑶ 佐藤商事は、前記⑵に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。」

という支払遅延への指導が公表されています。

この点について公正取引899号103頁の担当官解説では、

「本件の支払遅延を勧告ではなく指導の措置としたことは、下請法7条の勧告に係る規定から生じたものである。

支払遅延は、下請法第7条第1項の規定上、下請代金の支払を行っておらず遅延が継続している場合に勧告ができきるものであるところ、佐藤商事は遅延した下請代金の支払を行っており、遅延が継続している場合には該当しなかったことから、指導となったものである。

なお、通常は指導事案の公表をしていないが、今回は、下請事業者が受ける不利益の程度などを勘案するとともに、本件指導事案の内容を公表することにより、事業者の予見可能性を高め違反の未然防止に資すると考え、公表したものである。」

と解説されています。

支払遅延が下請法違反であることは明確なので、「事業者の予見可能性を高め違反の未然防止に資する」というのは建前だと思います。

このような指導が公表されたのは、きっと、改正下請法の施行を見据えてのものではないかと思います。

さらにいえば、既往の行為への勧告を出せる点で改正下請法を先取りしていたフリーランス法では、支払遅延で勧告が出ていますので、それに寄せたものともいえます。

ということは、改正下請法(中小受託法)施行後は、支払遅延も勧告がなされる可能性が高いと予想されます。

法律でできるようになったのだから、執行するのがあたりまえ、ということなのでしょう。

ちょっと調べたかぎりでは、過去に2024年3月15日のビッグモーターへの勧告で指導が勧告に合わせて公表されたことがありましたが、あれは、会社自体のコンプライアンスが無茶苦茶で山ほど違反行為があったからであり、かなり例外的だったと思います。

上記担当官解説でも、「通常は指導事案の公表をしていない」とされているとおりです。

ですが、今回の佐藤商事の指導の公表は今後原則化し、来年1月1日の中小受託法施行後は支払遅延も勧告が原則になると予想すべきでしょう。

実際、2025年10月31日のトヨタ自動車東日本への勧告では、金型の無償保管の勧告とともに、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア トヨタ自動車東日本は、下請事業者に対し、納期を定めずに一括生産部品の製造を委託していたところ、下請事業者から一括生産部品の製造が完了した旨の報告を受けた後、速やかに当該一括生産部品を受領すべきであったにもかかわらず、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、遅くとも令和5年8月1日から令和7年3月31日までの間、合計777個の一括生産部品について、それぞれ納品指示を行い下請事業者から納品されるまで受領していなかった(下請事業者7名)。

イ トヨタ自動車東日本は、前記アの一括生産部品を全て受領し、下請事業者に対し、遅くとも令和7年5月30日までに、一括生産部品777個の下請代金相当額として93万1032円を支払っている。

⑵ 指導の概要

所要の改善措置を採るとともに、今後、下請法の規定に違反する行為を行わないこと。

⑶ トヨタ自動車東日本は、前記⑵に基づいて採った改善措置について、速やかに、文書をもって公正取引委員会に報告すること。」

という、受領拒否(下請法4条1項)への指導が公表されています。

受領拒否も、現行法では7条1項で、

「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号・・・に掲げる行為をしていると認めるときは、その親事業者に対し、速やかにその下請事業者の給付を受領・・・〔す〕べきことを勧告するものとする。」

と、既往の行為には勧告は出せない内容になっていますので、指導は支払遅延にかぎらないということでしょう。

ちなみに、納期を定めずに受領しないことについては、下請法運用基準第4の1⑵で、

「(2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請事業者の給付の受領を拒むことが認められるのは、次のア及びイの場合に限られる。

ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合又は下請事業者の給付に瑕疵等がある場合

〔中略)

イ 下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合

なお、次のような場合には、納期遅れを理由として受領を拒むことは認められない。

(ア) 3条書面に納期が明確に記載されていない等のため、納期遅れであることが明らかでない場合」

とされており、納期を定めずにいつまでも受領しない(好きな時に納品させる)のも、受領拒否というべきでしょう(同旨・長澤『解説と分析』339頁)。

さらに、2025年11月13日の三菱ふそうトラック・バスへの勧告でも、金型の無償保管に加えて、

「3 指導の概要等

⑴ 違反事実の概要

ア 三菱ふそうトラック・バスは、下請事業者に対し、令和6年1月から同年12月までの間、下請事業者の給付を受領した日から起算して60日以内に下請代金を支払っていなかった。

この支払遅延による遅延利息の額は、総額3579万1671円である(下請事業者6社)。

イ 三菱ふそうトラック・バスは、下請事業者に対し、当該遅延利息の額を支払っている。

⑵ 指導の概要

ア 前記⑴アの行為について、所要の改善措置を採ること。

イ 今後、下請法の規定に違反する行為を行わないこと。

⑶ 三菱ふそうトラック・バスは、前記⑵の指導に基づいて採った措置について、速やかに、文書をもって公正取引委員会に報告すること。」

と、支払遅延への指導が公表されています。

というわけで、今年いっぱいは既往の受領拒否や支払遅延への指導の公表がスタンダードになるとみるべきでしょう。

また改正下請法(中小受託法)の経過措置については、改正法附則2条で、

「(下請代金支払遅延等防止法の一部改正に伴う経過措置)

第二条 第一条の規定による改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

(以下この条において「新支払遅延等防止法」という。)

の規定は、

この法律の施行前にした行為であって

新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者

(同項第一号から第四号まで〔注・資本金基準〕に該当する者に限る。)

による

同条第一項に規定する製造委託

(同項に規定する型

(金型を除く。)

又は

同項に規定する工具の製造に係るものに限る。)

及び同条第五項に規定する特定運送委託

並びに同条第八項に規定する委託事業者

(同項第五号及び第六号〔注・従業員基準)に該当する者に限る。)

による同条第六項に規定する製造委託等に該当するものについては、

適用しない

2 支払遅延等防止法第四条〔4条書面〕、第五条〔禁止行為〕、第六条第二項〔減額の遅延利息〕及び第十条〔勧告〕の規定は、

この法律の施行後にした新支払遅延等防止法第二条第六項に規定する製造委託等について適用し、

この法律の施行前にした第一条の規定による改正前の下請代金支払遅延等防止法

(次項において「旧支払遅延等防止法」という。)

第二条第五項に規定する製造委託等については、なお従前の例による。

3 この法律の施行前に旧支払遅延等防止法第七条の規定によりされた勧告

(この法律の施行後に前項の規定によりなお従前の例によりされた勧告を含む。)

は、新支払遅延等防止法第十条の規定によりされた勧告とみなす。」

とされていて、附則2条2項で勧告については施行前にした行為については従前の例による(旧法が適用される)とされているので、改正下請法(中小受託法)施行後もしばらくは現行の指導+公表の実務が続くものと思われます。

では、違反行為が改正法施行前後をまたいで行われた時はどうなるのかという問題が浮かびますが、おそらく、改正法施行前の行為については指導+公表がなされ、改正後の行為については既往の行為に対する勧告がなされるのではないか、と予想されます。

あと気になるのは、上記各事例は他の違反事実に対する勧告と合わせて指導が公表されていますが、新法下で既往の支払遅延単体、既往の受領拒否単体で勧告がなされるのかどうかです。

(現行法下では、さすがに、勧告もないのに既往の支払遅延単体への指導や既往の受領拒否単体への指導が公表されることはないのではないかと思います。実際にもありません。

ちなみに、公取委のプレスリリースの表題が「~勧告について」で終わるのは勧告だけで、「~勧告について」で終わるのは、勧告に指導とか申入れとかがくっついています。)

この点は、どっちもありえそうな気もしますが、実務的には、フリーランス法と同様、既往の支払遅延単体に対する勧告もありうると考えておくべきでしょう。

2025年11月17日 (月)

中小受託法運用基準パブコメ254番(割引を要する決済手段の適否)を出したのは私です。

中小受託法運用基準パブコメ254番で、

「運用基準改正案第4の2⑸で、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5条1項2号)

の例として、

「①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、・・・割引を受け・・・る必要があるもの」

が挙げられ、さらに、

「他方、満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、

委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、

『当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの』

として取り扱う。」

としているのは、改正法5 条1項2号の明文に反すると考える。

すなわち、改正法5 条1 項2 号において、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」による支払が禁じられているのは、「金銭と引き換える」(=割引をする)ことを要する支払手段であること自体は許容しつつ、その引き換え(=割引)が「困難であるもの」に限りこれを禁じるという意味にしか読めない。

例えば、金銭と引き換えることが容易なものが「金銭と引き換えることが困難であるもの」に該当しないことは、文言上明らかである。

それにもかかわらず、改正運用基準案のように、「割引を受け・・・る必要がある〔支払手段〕」が当然に「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」に該当すると解してしまうと、そもそも「割引を受け・・・る必要がある」(=金銭と引き換える必要がある)だけで当然に「金銭と引き換えることが困難である」ということになってしまい、明らかに文言解釈の範囲を超えている。

同様に、改正運用基準案が採用する、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」(改正法5 条1 項2 号)

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

であるとする解釈は、「金銭と引き換えることが困難である〔支払手段〕」を「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」と読み替えており、文言解釈の範囲を超えている。

そもそも、第217 回国会参議院経済産業委員会令和7 年5 月13 日において、貴委員会向井康二参考人は、

「今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、〔①〕支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によっては〔②〕その手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」

という答弁をしており、①下請代金の支払期日に満額が得られる支払手段(=決済日が下請代金の支払期日以前の支払手段)が認められることに加えて、さらに、②下請代金の支払期日に満額が得られるような決済日を設定しない支払手段であっても、割引手数料を発注者が負担するものであれば認められる、という趣旨の答弁をしている。運用基準案はかかる国会答弁に反する。

よって、運用基準案第4の2⑸は全部削除されるべきと考える。」

というコメントを出しました。

これに対する公取の回答は、

「No.253 の御意見に対する考え方を御参照ください。」

とあり、253番への回答は、

「本規定の趣旨は、国会でも御審議いただいたとおり

中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにするものであり、

本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。

運用基準の内容は、本規定の趣旨に従い、当委員会で運用していく上での考え方を検討し、お示ししたものであるため、原案どおりとします。」

というものです。

でも、

国会でも御審議いただいたとおり

とおっしゃいますが、国会答弁では運用基準と正反対の答弁をしていたのですから、国会で審議したことは運用基準を正当化する理由にはならず、むしろ運用基準を否定する理由になるというべきでしょう。

それから、「本規定の趣旨」が「中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を確実に受領しているようにする」ものであるということから、

「本法第5条第1項第2号は、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段を使用することを禁止しています。」

という解釈を導くのも、まったく論理的ではありません。

支払期日に・・・現金を確実に受領」できることが5条1項2号の趣旨なら、むしろ割引という行為を要したって(「割引」という行為のためにその支払手段が金銭と「同等の経済的効果」を有すると評価できなくなったって)、支払期日に現金を確実に受領できるならOKだ、という結論になるべきでしょう。

ちなみに、パブコメで引用した部分の少し前で向井参考人は、

「まず、この法律では、支払期日というものが定める義務があります。支払期日につきましては、例えば部品を納めまして相手方が受領いたしますと、それから六十日以内の期間におきまして代金の支払期日が定められるということでございます。この支払期日におきまして、例えば百万円の取引をしたといたしますと、百万円を支払わないと、この法律上は違反になるということでございます。

一方で、割引困難な手形ということで、手形で払う場合によりますと、その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということでございまして、これは受注者にとりましては不利益になるのではないかというふうに考えておるところでございます。

今回の改正法におきましては、約束手形を禁止をするということとともに、例えば電子記録債権とかファクタリング、そういうものについては禁止をしないわけでございますが、これで払う場合には、その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めないというようなルールにするということでございます。」

という答弁をしており、改正で問題視したのは、

その金利分につきまして、支払期日に現金化しようといたしますと、例えば百万円の金額につきまして全額が得られないということ」

であり、それへの対応として改正法では、

「その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めない」

ルールとした、ということであり、満期までの金利だけを問題視していることがあきらかです。

そんな国会答弁をしておきながら、突如として運用基準で満期までの金利ではなくて、割引という行為を要することが問題なんだと言い出すなんて、国会軽視も甚だしいと思います。

国民としては、公正取引委員会がこのような国会無視の役所であることは、十分記憶にとどめておくべきでしょう。

« 2025年10月 | トップページ | 2025年12月 »

フォト
無料ブログはココログ