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2025年10月 2日 (木)

SNS自社サイト引用に関するステマガイドラインの記述について

ステマガイドライン第2・2⑴キ(p6)では、

「キ 事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく、

また、当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSNSの投稿には

事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載しであるにもかかわらず、

その一方のみの意見を取り上げ、

もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する場合。」

が、

「事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば、事業者の表示には当たらない。」

ことの例としてあげられています。

そして、キの(注)では、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

とされていますが、この注は何回読んでも意味がわかりません(苦笑)。

そこで、その謎を解こうというのが、今回のお題です。

まず、直感的にわかりやすくするために、上記(注)において、

「当該事業者の表示」→「当該事業者の広告」、

「当該ウェブサイトの一部」→「『SNSで話題』欄」、

と置き換えると、上記注は、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

『SNSで話題』欄について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄のみをもって当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

となります。

まず、上記(注)がわかりにくい理由は、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部のみをもって当該事業者の表示とされないことを示すものであって・・・」

という部分に主語がないからでしょう。

「表示とされ」という受動態を用いていることからすると、その前に主語があってもよさそうなものですが、それが(明示的には)ないのです。

日本語の文章の主語は、ふつう、助詞「は」または「が」(ときどき「も」)の前にあります。

お役所の公文書なら、なおさらです。

でも、上記引用部分の「表示され」より前の部分には、「は」も「が」も「も」もありません。

そこで、「のみをもって」が助詞「は」「が」「も」の代わりを担っているのではないかと疑われます。

そして、ガイドラインパブコメ104番(p67)回答では、

「御指摘については、事業者が第三者の表示をそのまま加工することなく利用する場合に限って、

当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを記載したものです。

そのため、当該箇所以外の事業者のウェフサイトの表示について、当該事業者の表示主体性が否定されるものではありません。

ただし、御指摘について、文意を明確化するために修正いたします。」

とされており、「当該第三者の表示の箇所についてのみ(≒が)」「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」であるとの説明がされていて、「当該第三者の表示の箇所」が、「・・・認められる」の主語であろうことがわかります。

「について」を助詞「は」「が」の代わりに用いて主語を作ることは、インフォーマルな日本語としては許されるレベルかと思いますが、いずれにせよこれも、ゆるい日本語の書き方だと思います。

そして、ガイドラインの起草者が、このようなゆるい日本語を使う人であることを想定すると、「のみをもって」を「が」の代わりに使うかもしれない、ということも、十分想定されるように思われます。

これを踏まえて上記注(言いかえ版)を書き換えると、

「(注) ただし、上記キについては、

客観的な状況に基づき、

『SNSで話題』欄第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

となります。

これでだいぶすっきりしたように思いますが、それでも何がいいたいのか、(これだけでは、ある意味当たり前すぎて)よくわかりません。

そこでやはりパブコメに戻ってみると、コメント104番は、

「第2の2(1)ア(力)〔注・原案では、「第2・2⑴キ」は、「第2・2⑴ア(カ)」でした。〕

「事業者が自社のウェブサイトにおいて、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該表示を恣意的に抽出(略)せず、

また、第ー者の表示内容に変更を加えること(略)なく、

そのまま引用する(略)場合」

には、当該事業者が「表示の肉容の決定に関与した」とは言えないとのことです。

その場合に、当該ウェブサイト上で、当該事業者の供給する商品について、第三者が、一般消費者に著しく優良であると誤認される表示や著しく有利であると誤認される表示をした場合にも、当該事業者は「表示の内容の決定に関与した」とは言えず、優良誤認表示や有利誤認表示をしているとは判断されないのでしょうか。

仮に優良誤認表示や有利誤認表示に該当する可能性がある場合は、追記してはいかがでしょうか。おとり広告運用基準でも、おとり広告該当性のみならず有利誤認表示該当性について触れられていますし、形式的には可能と考えますがいかがでしょうか。」

というコメントでした。

要は、「第三者のコメントをありのまま自社サイトに引用するのが広告にあたらないとすると、そのコメントに優良誤認の内容が含まれていても事業者は責任を負わないことになり、不当ではないか。」というコメントです。

あきらかにプロの手によると思われる、きわめて鋭い指摘です。

そこで、上記(注)がこのようなコメント(第三者のコメントの引用であっても内容が虚偽であれば優良誤認になるべきというコメント)に対する対応であるとすると、上記(注)は、第三者のコメントの引用の内容が虚偽であれば優良誤認表示になる、という趣旨だ、と読むのが自然でしょう。

(ただし、パブコメ回答者が104番のコメントを正しく理解できていて、かつ、コメントに正面から答えようとしたことを前提とします。)

そういう目線でもう一度104番の、

「御指摘については、事業者が第三者の表示をそのまま加工することなく利用する場合に限って、

当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを配載したものです。

そのため、当該箇所以外の事業者のウェフサイトの表示について、当該事業者の表示主体性が否定されるものではありません。

ただし、御指摘について、文意を明確化するために修正いたします。」

という回答を読みでみたのですが、やっぱり、この回答自体が104番のコメントの疑問に答えていません。

というか、104番のコメントを理解していません。

というのは104番のコメントは、前述のとおり、「第三者のコメントをありのまま自社サイトに引用するのが広告にあたらないとすると、そのコメントに優良誤認の内容が含まれていても事業者は責任を負わないことになり、不当ではないか。」というものです。

これに対して、

「当該第三者の表示の箇所についてのみ

『第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合』〔=非広告〕

となることを配載したものです。」

と答えてしまったのでは、

「当該第三者の表示の箇所についてのみ、非広告となることを配載したものです。」

ということになってしまい、「当該第三者の表示の箇所」(=「SNSで話題」欄)は広告ではない、つまり、優良誤認表示にならない、ということを正面から認めてしまったことになるからです。

さすがに消費者庁も、そんなばかな解釈は採らないと思いますが、それでも、パブコメ104番回答は、そのようにしか読めません。

では、104番回答はパブコメ質問をどのように理解してキの修正と(注)の追加をしたのでしょうか。

そのカギは、キの修正箇所を見るとわかります。

キの原案は、

(カ) 事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なくせず

また、当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSN Sの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載しであるにもかかわらず、

その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する

(例えば、第三者の表示であることが判別できる方法で表示する。)

場合。」

というものでした。

ちょっとわかりにくいですが、太線が原案オリジナル部分(つまり成案では消された部分)、見え消しが成案追加部分(原案にはなかった部分)です。

そうすると、原案から成案への実質的な変更は、冒頭の「事業者が自社のウェブサイトの一部」のところの、「の一部」を追加しただけだ、ということがわかります。

(「(例えば、第三者の表示であることが判別できる方法で表示する。)」は、あくまで例示なので、論理的にはあってもなくてもいいので、本質的な変更ではありません。)

そこから逆算すると、消費者庁回答は、104番コメントを、キが、「事業者のウェブサイトの全部」について表示主体性を否定しているように読めるのではないかというコメントだと理解(誤解)して、そのような疑義(以下「一部・全部問題」といいます。)を解消するために、「自社のウェブサイトの一部」という文言を追加したもだろうと推測できます。

そのような理解に立てば、(注)(改変版)の、

「(注) ただし、上記キについては、・・・

『SNSで話題』欄が第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

『SNSで話題』欄は当該事業者の広告とされないことを示すものであって、

『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」

というのも、たんにこの「一部・全部問題」に対応しただけ(104番のコメントには対応していない)だということがわかります。

しかも、そもそも、

「『SNSで話題』欄は当該事業者の広告とされない」・・・①

というのと、

「『SNSで話題』欄を含めたウェブサイト全体が当該事業者の広告とされることは当然にあり得る。」・・・②

というのと、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

との関係も、よくわかりません。

一見すると、①と②は広告該当性、③は認識困難性のことを言っているように見えます。

でも、そうすると、①(「SNSで話題欄」は広告非該当)と②(ウェブサイト全体は広告該当の可能性あり)というのが、矛盾しているようにみえます。

これを矛盾なく説明するとすれば、「ウェブサイト全体」というのを、

「広義のウェブサイト全体(『SNSで話題』欄を含む。)」

「狭義のウェブサイト全体(『SNSで話題』欄を含まない。)」

の2とおりに理解して、

①(「SNSで話題欄」は広告非該当)では狭義のウェブサイトを想定し、

②(ウェブサイト全体は広告該当の可能性あり)では広義のウェブサイトを想定している、

という解釈が思い浮かびますが、結局、「SNSで話題」欄が広告に該当しない(①)と言い切っているわけですから、②とは両立しないように思われます。

しかも、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

というのが、これを文字どおりに読むと、「SNSで話題」欄には、「PR」表記は不要、ということになってしまいかねません。

なぜなら、「当該事業者の広告であることが明らか」である場合は、「PR」表記がなくても認識困難性の要件をみたさず、ステマにならないからです。

ただし、104番のコメントの質問の問題意識に③が答えているものだとすると、③が言いたいのは、「SNSで話題」欄に虚偽の内容があれば優良誤認表示が成立するのはあきらか(なぜなら、当該ウェブサイト全体が「当該事業者の広告であることが明らか」なので)、ということなのかな、という気もします。

でもそのような読み方は、控えめに言って③とまったく合致していません。

というわけで、キの(注)は、どのように考えてみても理解不能です。

以上のとおり、本日のミッションは失敗に終わりました(苦笑)。

こんな失敗記事をブログに載せてどうするんだという気もしますが、ほかの人が同じ轍を踏まないようにする、という意義はあるように思われます。

実務的な意義としては、キの注にはこういうわけのわからんことが書いてあるだけだということを踏まえて、無視するほかないと割り切るべき、ということでしょう。

少なくとも、

「この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の広告であることが明らかであるといえる。」・・・③

というのを真に受けて、インフルエンサーにお金を払って書いてもらった記事を自社サイトに転載しない(転載するときは「PR」と表記する)、という対応が必要と思われます。

(真に受けない、というのは要するに、無視する、ということです。)

あるいは、キを文字どおりに受け取って、第三者のコメントを自社サイトにそのまま転載した場合には「事業者の表示には当たらない」のだから優良誤認表示にはあたらないのだ(だから内容のチェックは不要なのだ)などと、間違っても考えてはならない、ということだと思います。

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