NBL2025年9月号(1297号)の中小受託法上の一括決済方式に関する向井審議官のインタビューQ9について
掲題のインタビューのQ9において、一括決済方式等で下請事業者が割引を受ける必要があるものは金銭による支払と同等の経済上の効果を生じさせるとはいえないと改正下請法ガイドラインで規定されていることに関して、インタビュアーの長澤先生が、
「改正法の国会審議においては、『手数料分を発注者が負担をする』 ことによって、違反とはならない余地があるように答弁がなされておりました。このご答弁と先ほどの解釈〔注・割引を要する一括決済方式はそれだけで違法であるとの解釈〕との関係は、どのように理解すればよろしいでしょうか?」
と質問されたのに対して、 向井審議官が、
「本規定の趣旨は、国会でもご審議いただいたとおり、支払期日に、受注者の負担なく、代金の満額を現金で受領できるようにするものであり、本規定の趣旨に従い、当委員会で運用していく上での考え方を改めて検討した結果、今回の運用法準(案)をお示しするに至りました。」
と回答されています。
意訳すると、
「国会ではああいう答弁をしたけれど、あとでよく考えたらまずかったので、国会答弁とは違う解釈に変えた。」
ということのようです。
長澤先生は上品なのでそういう言い方はされていませんが、私に言わせれば、これはあんまりにもひどいんじゃないでしょうか?
(まあ、素直に開き直っているという意味では、見苦しい言い訳をするよりは潔くてよいとは思いますが。)
この論点については以前もこのブログで書きましたので、向井審議官の国会答弁等の背景についてはそちらをご覧いただければと思いますが、向井審議官の問題の答弁の個所は、
「今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」
という部分です。
これだけはっきり答弁していながら、運用基準では真逆のことを書いて、いったいどう(言い訳)するんだろうと思っていたら、こういうことなんだそうです。
向井審議官は、「国会でもご審議いただいたとおり」とおっしゃいますが、その審議は審議官ご自身の答弁を前提になされていたわけです。
なので、「国会でもご審議いただいたとおり」というのは、何の言い訳にもなりません。
国会答弁と正反対のことを役所がやるなんて、私は聞いたことがありません。
国会での政府答弁解釈を裁判所が覆した例としては、映画の著作物に関する著作権の延長の有無が問題となったシェーン事件判決(最高裁平成19年12月18日判決)が有名ですが、法令解釈は裁判所の専権ですから(憲法76条1項)、これはあたりまえのことです。
これに対して、法律を誠実に執行すべき内閣(憲法73条1号)のもとで行政をおこなう行政機関が、国会答弁と異なる運用基準を定めるなんて、国権の最高機関(憲法41条)である国会を、あまりに軽視しすぎではないでしょうか?
この問題は、日本国家のガバナンスの根幹にかかわる重大な問題だと思います。決して看過してはなりません。
公取委は、中小受託法ガイドライン成案では、一括決済方式に関する上記解釈を撤回すべきです。
最後になりますが、このQ9を質問していただいた長澤先生には感謝の意を表しますとともに、それに回答して雑誌に掲載することに同意いただいた向井審議官にも、その半分くらいは、感謝しております。
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