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2025年10月14日 (火)

牡蛎販売イベントでの二重価格表示に対する措置命令について

2025年10月10日に、消費者庁は、LH株式会社に対して、二重価格表示で措置命令を出しました

消費者庁リリースによると、違反事実は、

「例えば、令和7年2月22日から同年5月13日までの間、「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の「出張カキ小屋『牡蠣奉行』inメガセンタートライアル店2025年3月7日~30日開催」と称するページに掲載したチラシにおいて、「旬の東北のカキを特別価格でご提供!!」、「復興支援価格!!」及び「宮城県産 カキ一盛り(約1kg) ※焼きガキ用 通常価格1,320円(税込)→880円(税込)」と表示するなど、別表2「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、

あたかも、「通常価格」と称する価額は、「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいて本件料理について通常提供している価格であり、実際の提供価格が当該通常提供している価格に比して安いかのように表示していた。」

のに、実際には、

「遅くとも令和6年9月13日以降に開催した「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいては

本件料理を880円又は660円で提供しており、「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。

ということです。

この事件では、「「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。」ということなので、二重価格表示の事例でよくみられる、「最近相当期間にわたって提供された実績のないものであった」(例、2024年12月17日デザインワードに対する措置命令)という認定にはなっていません。

それ自体は当然といえば当然なのですが、そこで気になるのが、この種の短期イベントで8週間ルールが適用されるのか、ということです。

この事件で問題になったイベントは、「2025年3月7日~30日開催」という、短期間のイベントであったことからすると、さすがに8週間ルールはその適用の前提を欠くように思われます。

かといって、命令に「「通常価格」と称する価額で提供した実績はなかった。」と書いてあるからと言って、その反対に、実績が(少しでも)あれば不当な二重価格表示にならないのかというと、そんなこともないでしょう。(当該事案において、実績がなかったので実績がないと認定しているだけであって、実績が少しでもあればOKとい意味ではないでしょう。)

でもそうすると、どれくらいの実績があればOKだったのかが、よくわかりません。

命令では、「令和6年9月13日以降に開催した「出張カキ小屋 牡蠣奉行」と称するイベントにおいて」実績がなかった認定されているので、同種の過去のイベントでの実績が問題になるような書きぶりに見えますが、イベントという売り方の性質上、消費者は、個々のイベントを別々のものと認識するように思われます。

そうだとすると、「通常価格」と言ったからといって、過去の同名称のイベントでの実績があった価格であるとは認識しないようにも思われ、そうすると、消費者庁の認定はおかしい気もします。

さらに言えば、「通常価格」が過去の同名称イベントの実績だと認識されないのであれば、はたして本件が有利誤認表示といえるものだったのか、根本的な疑問が生じます。

本件ではたまたま同名称イベントで実績がまったくなかったので、こういう粗い認定でも文面上あきらかにおかしいと見えるような命令にはなっていませんが、若干なりとも実績があったら、8週間ルールがない前提では、どのように判断するのか、興味深いものがあります。

仮に消費者庁が、8週間ルールの適用を念頭に本件を摘発していたとしたら(それもありえそうな話ですが)、それはおかしいと思います。

というのは、「2025年3月7日~30日開催」という表示だけで、2025年3月6日以前には価格云々以前の問題として、そもそも販売されていないことがほぼ明らかだからです。

もう1つ気になるのは、本件が確約になっていないことです。

日経新聞の10月11日の記事によれば、

「同社の担当者は取材に「市場の相場などと比較して表示していたが、不勉強だった。指摘を真摯に受け止め、再発防止を図る」とコメントした。」

とのことです。

もし「通常価格」が市場の相場だったとしたら、実質的には、ぜんぜん実害はないように思います。

そもそも消費者は、この種の短期イベントで、過去の同名称イベントでの価格での実績を気にしているとは考えにくいからです。

市場の相場よりも安ければ、それで十分でしょう。

少なくとも、確約1号案件のcaname(2025年2月26日確約認定)の、期間限定で入会金を値引きするかのように表示していたほうが、ずっと悪質だと思います。

措置命令になると課徴金も出るわけですし、その差は大きいと思います。

確約は建前からすると消費者庁の側から当事者に打診するものなので、仮に当事者が言ってこなくても、「確約がありますよ」くらいは、行ってあげても良かったのではないでしょうか。

代理人が付いていなかったらなおさら教えてあげるべきでしょうし、代理人が確約というものを知らなかったとしても、やっぱり、教えてあげるのが親切というものでしょう。

この事件で確約にならないというのが、どうも納得がいきません。

(ひよっとしたら、確約を申請するのが手間だとか、弁護士費用がよけいに掛かるとかいう理由で、かつ、課徴金も大したことないという判断で、あえてなりゆきにまかせたのかもしれません。それくらいしか、確約にならない理由が思い当たりません。)

あと、この種の短期イベントのような、典型的な小売店での販売でなく、8週間ルールの適用があるのか(ないとしたらどのようなルールが適用されるのか)よくわからない事例において、どう対応したらいいのかというと、要は、比較対照価格がどういう価格なのかを注記しておけばよいのです。

価格表示ガイドラインp6では、

「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、

当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り

一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある」

とされており、逆に言えば、比較対照価格が「当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示」していれば、有利誤認表示にはならない、ということです。

ですので、本件でも、「通常価格」のところに、「市場の相場を当社で調べた価格」などと表示しておけばよかったのです。

必ずしも、同名称のイベントでの実績が要求されるわけではありません。

というか、むしろ原則は、比較対照価格の「内容を正確に表示」することであり、8週間ルールはそのような表示がない場合にはじめて問題になるものであることを忘れてはいけません。

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