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2025年9月

2025年9月26日 (金)

味の素のステマ確約に対する疑問

9月19日に味の素ほか1社がステマ告示違反で確約認定を受けました。

被疑事実は、

「2社は、「あえて、」と称する冷凍宅配食(以下「本件商品」という。)を共同して一般消費者に販売するに当たり、

第三者に対し、本件商品の無償提供を条件に、

本件商品に関して「Instagram」と称するSNSへの投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を、

例えば、令和6年5月10日から同年8月6日までの間、

本件商品の販売サイトの「使ってみた方の感想 Instagramでの投稿レビュー」との表示箇所等において抜粋するなどして表示していた。」

というものです。

確かに、商品を無償提供して投稿依頼をした投稿を自社サイトに「PR」等の表記をしないで引用したらステマになるというのは、法律論としてはいたしかたないと思いますが、摘発の優先度としていかがなものかと思います。

というのは、広告主の自社サイトに引用されているコメントであれば、広告主に有利なコメントだけが引用されていることは、誰の目から見てもあきらかだからです。

あえて自社に不利なコメントを自社サイトに載せるなんてことは、ありえないでしょう。

(似たようなことは、チョコザップの措置命令について以前も書きました。)

YoutubeとかSNSとかECサイトのレビュー欄では、きっと今でも、ステマ(サクラ)がいくらでもあると推測されます。

そういう、一見公平なレビューに見えるのに実はステマだ、というのが一番問題なわけです。

ところが、消費者庁の過去のステマの事件をみてみると、そういったステマの本丸のような事件がほとんどありません。

というか、こういう、SNS投稿の自社サイト引用のパターンばかりです。

2024年8⽉のチョコザップの事件、2024年11⽉の⼤正製薬の事件、2025年3月のロート製薬の事件、みんなそうです。

唯一、2024年6月の医療社団法人祐真会のグーグルマップ投稿依頼事件が、一見公平なレビューに見えるステマという意味では、ステマの本丸だと言えなくもないですが、クリニックというのは地理的市場が限定されており、ステマ規制がほんらい想定していたインターネットでのやらせレビューのような事例に比べると、かなり小粒です。

消費者庁にしてみたら、SNS投稿の自社サイト引用は、ステマであることが一見して明白で、かんたんに「一丁上がり」という感じで命令の数を稼げる「おいしい」事件なのだということでしょう。

そうではなくて、ステマかどうか、調査報道のように地道に調査して、ほんとうに悪い奴らを捕まえるのが、大事だと思います。

景表法は独禁法などと違って、違反であることが明々白々な事件が多く、密室で違反行為が行なわれるということはあまりありませんでした。

でも、ステマはそうはいきません。

一番問題の大きい、ほんらいのステマは、広告主が裏でこっそりインフルエンサーなどにお金を渡しているわけです。

消費者庁は今まで、そういう隠れた事件を掘り起こすノウハウはなかったと思いますが、ステマはそれではいけないと思います。

「隠れた事件」とはいっても、独禁法のカルテルなどに比べれば、まだ、怪しそうな表示のあたりは付けられるわけで、ほんとうに密室で完結しているわけでもありません。

なのに、これだけSNS投稿引用型ばかりだと、不健全な執行だと言わざるを得ません。

法律を作ったら思わぬところにスポットライトが当たってびっくりすることはときどきあり、同じような事象として、消費税転嫁法で自動販売機の販売手数料がなぜか集中的に摘発されたことがありました。

そういうのは往々にして、重箱の隅をつつくような事件になりがちです。

でも、そういう運用に甘んじていて委はいけないと思います。

今後は消費者庁も、「SNS投稿引用型を1件摘発したら、まともなステマも1件摘発する」くらいの内部基準を作って調査されてはいかがかと思います。

2025年9月14日 (日)

ジャパネットたかたのおせちに対する措置命令についての疑問

消費者庁は2025年9月12日に、ジャパネットたかたのおせちに関する表示が、違法な将来価格の二重価格表示であるとして、措置命令を出しました

私は、この措置命令は間違っていると思います。

理由を一言で言えば、おせちという商品の性質上、セール期間中に売り切れた場合には、セール中に買えた消費者はむしろ、「買えてラッキーだった。」と思うはずであって、「セール後に通常価格で売らなかったから損した。」とは思わないからです。

措置命令の問題の個所は、

「⑷ア ジャパネットたかたは、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、

令和6年10月8日から同年11月23日までの間、

自社ウェブサイト(別添写し)において、

「【2025】特大和洋おせち2段重」、「ジャパネット通常価格29,980円が」、

1万円値引き 7/22~11/23」、「値引き後価格19,980円(税込)

及び「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」

と表示することにより、

あたかも、

ジャパネット通常価格は、本件商品について同年7月22日から同年11月23日までのセール期間経過後に適用される将来の販売価格であり、

値引き後価格が当該将来の販売価格に比して安いかのように表示していた。

イ 実際には、本件商品について、当該将来の販売価格で販売される合理的かつ確実な販売計画はなかったものであり、

ジャパネット通常価格は将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められないものであった。」

という部分です。

この、「合理的かつ確実な販売計画はなかった」という部分は、将来価格ガイドライン(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)p2の、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、当該表示を見た一般消費者は、通常、比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実であると認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、このような消費者の認識と齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。〔中略)

また、事業者が「確実な予定」を有しているか否かについては、当該事業者が、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う際に有している販売計画の内容等に基づいて判断されるところ、

「確実な予定」を有していると認められるためには、

事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画(以下、単に「合理的かつ確実に実施される販売計画」という。)を、セール期間を通じて有している必要がある(注1)」

という部分です。

しかしながら、これは消費者庁のたんなる「執行方針」であり、法律上は何の根拠もありませんし、通常の意味でのガイドラインですらありません。

訴訟になると、裁判所は、この手のガイドラインがパブコメを経て制定されたものであるから合理的なのだとか、小手先の形式論で合理性を認めたりしがちですが、パブコメの内容が合理的でも当局は原案を修正する義務もなく、パブコメを経ているから合理的だというのは眉唾です。

実際、将来価格ガイドライン案のパブコメでも、数々の説得力のあるコメントが付されていますが、消費者庁は全部切り捨てています。

そもそも、将来価格ガイドラインの上記引用部分の、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、当該表示を見た一般消費者は、通常、比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実であると認識すると考えられる。」

という部分が、おせちのような商品の場合を考えると、極めて疑問です。

意識高い系の一部の消費者はそうなのかもしれませんが、はたしてふつうの一般消費者が、「セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である」なんて、認識するのでしょうか?

いかにも、頭のいいお役人さんが作った基準だといわざるをえません。

仮に「予定のとおり販売されることが確実である」というような認識をするとすれば、コンスタントに販売されてあたりまえの商品でしょう。

そのような商品が世の中には多いことは確かですが、それが当てはまらない商品もいくらでもあるでしょう。

たとえば、将来価格ガイドラインp7に、

「 I通信販売業者が、

「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」

との表示を5月から開始していたところ、

セール開始後の気温上昇による一般的な需要増の結果、売行きが増加して在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかったため、セール期間経過後の8月以降にエアコンを販売しなかったとき。」

という例があげられていますが、これなどは、エアコンなんていくらでも仕入れればいいので、通販業者が在庫が売り切れたのに追加仕入れをしなかったというのは、最初から追加仕入れするつもりがなかったんだろう、というニュアンスがにじみ出ています。

しかも、8月なんてまだ暑い盛りですから(昨今であれば、9月とか、ひょっとしたら10月でもまだエアコンが必要でしょう)、「8月以降48,000円」と表示しておきながら8月以降売らない、ということ自体、不自然です(まあ不自然な例をガイドラインに載せるのが適切なのかという問題はありますが、それは措きます)。

でも、おせちの場合は工業製品ではないわけですから、原材料の確保とかいろいろ大変なはずであり、予定よりも売れたからこまめに追加発注というわけにはいかないでしょう。

ジャパネットの9月12日付プレスリリースでも、

「当社は、⼀括⼤量仕⼊れによって在庫リスクを負い、メーカー様と共に企業努⼒を重ねることで、⾼品質な商品をお求めやすい価格でご提供することを基本⽅針としております。」

とされており、エアコンみたいにこまめに追加発注というわけにはいかないことがうかがえます。

ただ、同プレスリリースでは、

「上記の基本⽅針に沿った当社のビジネスモデルは、通常の店舗やECサイトと⼤きく異なるものであり、今回の消費者庁の指摘に関しては、本当にお客様のことを考えた判断であると到底思えません。」

ともされており、同社のビジネスモデルが通常とは異なるものであることが強調されていますが、私はこの点については、通常の店舗やECサイトでも、程度の差はあれど、おせちの場合はエアコンみたいに売切れたら追加発注というわけにはいかないんじゃないかと思っています。

いずれにせよ、ここでの景表法上の論点は、ジャパネットのビジネスモデルが本当に通常の店舗やECサイトと異なる特殊なものだったかということではなく(そんなことは消費者には見えませんから)、消費者からみておせちという商品がエアコンみたいに売切れたらこまめに追加発注できるものななかどうか(それによって消費者が、二重価格表示に対してどのような認識を抱くのか)、という点です。

そうすると、消費者は、おせちは売切れることもふつうにある、と認識していると思います。

また、売切れた場合、仮にその欠品が短期間であっても、おせちはお正月に届かないと意味がありませんから、欠品したら再補充というのは現実的ではなく、消費者もそのくらいは認識していると思います。

要は、「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準は、エアコンみたいな、いつでも補充がきく商品の場合にはありうる基準かもしれませんが、売り切れによる補充が容易ではないおせちのような商品の場合には、そもそも基準として妥当ではない、ということです。

別の切り口からいえば、「合理的かつ確実に実施される販売計画」の基準だと、将来価格の二重価格表示は、将来に確実に販売されることを保証する表示だ、という意味になりますが、それは行き過ぎだ、ということです。

将来価格の二重価格表示はむしろ、

「将来販売されるとしたら、この価格(比較対照価格)だ。」

という意味だととらえるほうが自然です。

そして、コンスタントに販売されて当たり前なエアコンのような工業製品の場合には、事実上、「としたら」の部分が、かぎりなく、「ときには」になる(と消費者は認識する)、というだけのことだと思います。

それに、エアコンのような工業商品なら、仮にお客さんがお店に行ったときに一時的に在庫切れであっても、遅くとも数週間後には手に入るのが通常でしょう。

でも、おせちだと数週間後に手に入っても意味がない可能性があるわけだし、そもそも消費者は売切れの可能性を十分認識しているはずです。

にもかかわらず、おせちのような商品の将来価格の二重価格表示に対して消費者が、

「将来確実のこの価格で販売されるはずだ。」

と認識するというのは、現実を無視した机上の空論だと言わざるを得ません。

消費者が認識するのは、せいぜい「この価格で」の部分であって(「販売されるとしたら、この価格で」)、「販売されるはず」の部分ではない(将来価格の二重価格表示に、将来確実に販売されることの期待までは抱かない)、ということです。

なので、消費者が、おせちは売切れるかもしれない(し、売切れたあとの追加はない)と認識しているのであれば、セール期間中に売り切れてセール期間後に販売がなかったとしても、怒るはずがありません。

だって、(繰り返しますが)売切れて補充がないこと(あるいは、補充をしていたらお正月に間に合わないこと)を予想できるからです。

むしろ、売切れた場合には、「買えてよかった。得した。」と感じるのが、通常ではないでしょうか。

つまり、エアコンの場合は、「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」という表示をすれば、「今だから1万円引きで買えるんだ。お得だな。」と思っていたのが、セール後も38,000円で買えたらだまされたと思うでしょう。

それが将来価格の二重価格表示の典型例です。

それに対して、セール期間後に「在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかった」なんていうのは、あったとしてもむしろ例外的でしょうし、その場合に消費者が「だまされた!」と思うかというと、ちょっと疑問です。

それでも、いくらでも追加で仕入れができるはずのエアコンをあえて追加仕入れしないところにうさん臭さがただようので、そんなうさん臭いやつを野放しにはできないという感情に訴えることで、なんとかガイドラインの事例として「もっている」のだと思います。

これに対しておせちの場合は、当然売り切れもありうるし、うさん臭くもなんともない、ということです。

もし街角を歩く消費者に、この事件を説明して、

「ジャパネットはセール期間後に販売する合理的かつ確実に実施される販売計画がなかったので、不当表示だと思いますか?」

というアンケートをしたら、大半が、

「は?(意味わかんない)」

となるのではないかと思います。

もう少しかみ砕いて、

「セール期間中に売り切れてしまったのですが、どう思いますか?」

とアンケートしても、せいぜい、

「売切れないようにちゃんと作れ。(買えない人がかわいそうじゃないか。)」

という反応だと思います。

でも、この、

「売切れないようにちゃんと作れ。(買えない人がかわいそうじゃないか。)」

という反応は、

「セール期間中に買った人を二重価格表示でだましてけしからん」

という答えとは、まったくことなります。

もちろん、二重価格表示が不当表示だと言えるために必要なのは、

「セール期間中に買った人を二重価格表示でだましてけしからん」

という一般消費者の反応のほうです。(でも、そんな反応は、まずありえなさそうです。)

つまり、将来価格ガイドラインの考え方は、少なくともジャパネットの事件に関するかぎり、まったく失当です。

不当表示において大事なのは、消費者著のガイドラインではありません。町ゆく一般消費者の、常識的な感覚です。

そもそも、景表法5条2号では、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

と規定されているだけで、「合理的かつ確実に実施される販売計画」なんて、どこにも書いていません。

極論すれば、消費者庁が勝手に言っているだけです。

それぞれの事案をよく見て、「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」かどうかを考えないといけません。

そして、虚心坦懐に、将来価格ガイドラインはないものとして、5条2号を読めば、本件が「著しく有利」と誤認される事案だとは、誰も思わないと思います。

実は将来価格表示ガイドラインのパブコメp7にも、

「本執行方針案においては、消費者の認識は「セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である」、実態は「事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していない」と整理されている。

本執行方針案は、この消費者の認識と実態の違い(翻醐(そご))を捉えて、景晶表示法上の誤認と考えているものと解される。しかしながら、この「翻臨(そご)」は、景晶表示法の「取引条件についての誤認」とはいえないことから、事業者が、合理的かつ確実に奥施される販売計画がないことをもって有利誤認表示に該当するとすることは、行き過ぎである。

セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していないので、セール期聞が終了するまで、事業者の表示を有利誤認表示に当たると判断することはできない仮に、本執行方針案のように、販売計画がないことをとらえて景晶表示法で規制しようとするのであれば、景晶表示法第5条第3号に基づき、新たな不当表示の類型を指定することを要する

仮に、事業者がセール開始時に確実な販売計画を有していない場合であっても、(さらには、予告していたような債上げを実行することを全然予定していない場合であっても、)セール期間終了と同時に方針を変更し、予告していたとおりに値上げを実行すれば、消費者の誤認は生じない。このように考えれば、販売計画の有無で有利誤認表示への該当性を決することの誤りは明らかである。」

というコメントがついていて、今あたらめて読み直すと、消費者が騙されたと感じるのは、セール終了後にセール期間と同じ価格で売られていたことを認識したときである(「セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していない」)、ということを言っているのだと理解できます。

(ちなみにこのコメントをされた方と意見交換させていただく機会があり、本来出されたコメントをご本人から見せていただきましたが、上に引用した消費者庁の公表版では大事な部分がはしょられていて、わかりにくいコメントになっており、原コメントのほうが、ずっとわかりやすいです。わたしもかつで消費者庁のガイドラインにパブコメを出したことがありますが、いちばん言いたい肝心なところを勝手に書き換えられたことがありました。そのときは消費者庁のたんなる凡ミスかと思いましたが、こういう例をみると、消費者庁はパブコメの内容を、とくに痛いところを突かれていればいるほど、意図的に改変しているのではないかと疑いたくなります。もし意図的な改変ではなく、長文のパブコメを短くまとめただけなのだ、ということなのであれば、要点を理解してまとめる能力のある方にパブコメを担当してほしいと思います。)

私は上記パブコメを見たときは、

「そうはいっても、不当表示かどうかは不当表示の時点で確定してないといけないのだから、「事業者の表示を有利誤認表示に当たると判断することはできない 」というのは、さすがに無理じゃないかなぁ」

と思いました。

不当表示かどうかは、不当表示行為の時点で確定しているはずであるという、いわば、「要件同時充足のドグマ」とでもいうべき発想です。

でも、このジャパネットの事件を見ていて、まさに上記コメントの「セール期間が終わるまでは取引条件に係る消費者の誤認は発生していない 」というのと、実質的には自分も同じことを言っている(消費者が騙されたと思うのは、セール終了後にセール価格で売られていた時だ)ことに気づかされます。

それでも、刑法の197条2項(事前収賄罪)みたいに、

「2  公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処する。」

と、条文上「公務員となった場合」というのが客観的処罰条件として規定されているわけではない景表法5条2号の場合には、どうしても「要件同時充足のドグマ」を捨てるのは勇気が要ります。

でも、本件のような事例に「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準を適用すると、この基準が、いかに「要件同時充足のドグマ」にとらわれていて(しかもある意味で、それにとらわれていることを認識できないほどに、深くとらわれていて)、将来価格の二重価格表示の実態(消費者が騙されたと思うのは、セール終了後もセール期間で売られている場合であって、合理的な計画の有無には無関心であるという実態)に目を向けていないのかが、よくわかります。

なので、あらためて、

仮に、本執行方針案のように、販売計画がないことをとらえて景晶表示法で規制しようとするのであれば、景晶表示法第5条第3号に基づき、新たな不当表示の類型を指定することを要する 」

と言われると、「きちんと実態に目を向けていて、確かに正論だなぁ」という気がしてきます。

つまり、「合理的かつ確実に実施される販売計画」という基準は、「要件同時充足のドグマ」を所与の前提としたうえで、将来価格の二重価格表示を不当表示とするためにどうすればよいかと考えて立てられた、きわめて技巧的な基準だ、ということです。

こういう技巧的な基準であっても、立案担当者はどういう場合を想定して作った基準かを理解しているので、おせちみたいな「買えてラッキー」みたいな商品が出てくると、「さすがにおせちにこの事案を適用するのはまずいんじゃないか」という直感がはたらくので、措置命令を打つところまではいかないことが期待できるのですが、あとに続く人たちはそういう立案担当者の悩みも知らないでしゃくし定規に基準を適用してしまう、ということが容易に想像されます。

いったん基準ができてしまうと、それがしゃくし定規に適用される傾向があることは、似たような事件が将来価格ガイドラインの前にはどのように考えられていたのかをみるとわかります。

つまり、平成30(2018)年3月16日のジュピターショップチャンネルに対する措置命令では、テレビショッピングのあとで販売実績がないために、期間限定セールの表示が、不当表示とされました。

命令の関連部分を引用すると、

「⑷ア ジュピターショップチャンネルは、本件32型テレビを一般消費者に販売するに当たり

(ア)a 平成28年12月9日に、CS放送又はBS放送を通じて放送したショップチャンネルにおいて、同日に実施した「オールスター家電祭 2016冬」と称するセール企画として

(a) 「<49%OFF!> 明日以降 ¥192,240  ¥97,800」と、実際の販売価格に当該価格を上回る「明日以降」と称する価額を併記した映像(別添写し1)を放送することにより

(b) 別表2「表示内容」欄記載の音声を放送することにより

あたかも、「明日以降」と称する価額は、本件32型テレビについて当該セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって

実際の販売価格が当該価格に比して安いものであり、

かつ、本件32型テレビに係るジュピターショップチャンネルの実際の販売価格は、同日時点において他の販売事業者では通常設定できない安いものであるかのように表示していた。

b 実際には、当該セール企画に係る本件32型テレビの販売は、平成28年12月9日に開始されたところ、

本件32型テレビが当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみであって、ごく短期間のみ「明日以降」と称する価額で販売するにすぎず、

当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないものであって、

将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められず、

かつ、同日時点において、本件32型テレビをジュピターショップチャンネルと同程度又は下回る価格で販売する他の販売事業者が複数存在していた。

(イ)a 平成29年1月2日から同月7日までの間、CS放送又はBS放送を通じて放送したショップチャンネルにおいて、平成28年12月30日から平成29年1月7日までの間に実施したセール企画として、

「期間限定:12/30~1/7 <48%OFF!> 期間以降 ¥192,240 ¥99,800」と、

実際の販売価格に当該価格を上回る「期間以降」と称する価額を併記した映像(別添写し2)を放送することにより、

あたかも、「期間以降」と称する価額は、

本件32型テレビについて当該セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって、

実際の販売価格が当該価格に比して安いかのように表示していた。

b 実際には、当該セール企画に係る本件32型テレビの販売は、平成28年12月30日に開始されたところ、

本件32型テレビが当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみであって、

ごく短期間のみ「期間以降」と称する価額で販売するにすぎず、

当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないものであって、

将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められない。」

というものでした。

このように、将来価格ガイドラインの前は、「当該セール企画終了後に販売される期間は3日間のみ」だったとか、「当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないもの」であったとか(その意味は今一つよくわかりませんが。。。)、「同日時点において、本件32型テレビをジュピターショップチャンネルと同程度又は下回る価格で販売する他の販売事業者が複数存在していた」とか、有利誤認を基礎づける事情を、その事例に即して、なんとかひねり出そうとしていたことがうかがえました。

でも、ジャパネットのおせちの事件では、そんな悩みは微塵もなく、ガイドラインどおりの「実際には、本件商品について、当該将来の販売価格で販売される合理的かつ確実な販売計画はなかった」というだけの理由しか書いてありません。

その意味するところは、ガイドラインどおりで、要は、「天変地異でもない限り、絶対表示通りの価格で売れ(欠品なんて許さない)」ということでしょう。

また、あらためてジュピターショップチャンネルの事件とジャパネットたかたの事件を比較すると、ジュピターの悪かったところは、もともと売る気もないのにセール後に通常価格で販売するかのように表示していたことだということがわかります。

もし売る気があったら、もちろん売れたでしょう。

だって、ただのテレビですから。

これに対して、ジャパネットたかたの場合、「売る気もないのにセール後に通常価格で販売するかのように表示していた」なんてことは、およそありえなさそうです。

実際、NHKのウェブサイトの9月12日付の、

おせち料理販売で不当表⽰かジャパネットに措置命令消費者庁

という記事によると、

「グループ会社の「ジャパネットホールディングス」は、コメントを発表し、「2022年と2023年は、キャンペーンの終了後に通常価格で販売していて、去年については、キャンペーン期間内に完売したもので、不当な『⼆重価格表⽰』には当たらない」などと反論しました。」

ということのようです。

つまり、「売る気もないのに・・・」ということでは全然なくて、2022年と2023年よりも2024年はちょっと順調に売れた、というだけのことでしょう。

ちなみにこの点についてはジャパネットのプレスリリースの該当部分も引用しておくと、

「2022年、2023年は同キャンペーン終了後に通常価格で販売をしております。

2024年も同様の販売計画でしたが、期間内に完売した時点で販売を終了しております。

お客様に安くご購⼊いただける機会を公平に設けており、表⽰の正当性を失うものではないと考えております。

また、早期予約キャンペーンの企画において、キャンペーン終了後に購⼊できなかったという事実は企画の趣旨に沿ったもので、お客様に誤解を与えてはいないと考えております。」

とされています。

この、

早期予約キャンペーンの企画において、キャンペーン終了後に購⼊できなかったという事実は企画の趣旨に沿ったもの

という部分は、早期キャンペーン企画ではキャンペーン期間中に売り切れてしまうことがむしろ企画の望ましい、あるいはほんらいの姿だ、ということで、この点も、本件の本質を突いていると思います。

つまり、将来価格ガイドラインが想定しているのは、「今だから安くなるよ。セールが終わったら高くなるから、今買わないと損だよ。」という表示をして顧客を誘引するものでしょう。

ジャパネットが言うのは、本件おせちのキャンペーンでは、「今買わないと損だよ」という訴求はしていない、ということでしょう。

そうではなくて、「今、キャンペーンやってるから、今買わないと、売切れるかもしれないよ。」ということでしょう。

またその前提として、同社のプレスリリースでは、

「消費者庁のガイドラインでは「過去に販売した価格」を⽐較対照に⽤いることが認められています。

当社はこれに則り、キャンペーン直前まで「通常価格29,980円」で販売しており、表⽰に適切な根拠があったと認識しております。」

とされています。

つまり、29,980円は、将来の比較対照価格ではなく、過去の比較対照価格だ、ということです。

比較対照価格が過去の価格なのか将来の価格なのかは微妙な問題です。

この点はパブコメ回答1頁でまさに、

「ここにいう「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」とは、各事例にあるように「〇月〇日からは△円になります」と将来の販売価格を明示した場合に限るのか。

当店通常販売価格〇〇円、10月31日まで△△円」と表示したとき、

消費者は、11月1日以降は通常販売価格である〇〇円に戻ると認識することから、

このような場合も将来の販売価格を比較対照価格とするこ重価格表示になるのではないか。

また、このような表示をして、セール期間を過ぎても価格を戻さない場合は、将来の販売価格を明示して比較対照価格とするこ震価格表示と同棟の問題が生じるのではないか。」

という質問が出ていて、これに対して消費者庁は、

「御指摘のような表示は、一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えられますが、

当該表示が行われている具体的な状況によっては、将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示でもあるとみられる可能性もあります。

したがって、不当な価格表示についての景晶表示法上の考え方(以下「価格表示ガイドライン」といいます。)及び本執行方針に基づき個別に判断・取り扱われることとなります。」

と回答しています。

私はこの回答をみたときは、「こんなこと言って、大丈夫かぁ?」と、正直びっくりしました。

このパブコメ回答を前提にすると、本件の表示は、

ジャパネット通常価格29,980円が」「1万円値引き 7/22~11/23

ということなので、まさにパブコメの、

当店通常販売価格〇〇円、10月31日まで△△円

というのと同じで、「一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えら」れるのではないのでしょうか?

もしパブコメ回答の、

「将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示」

にあたることをうかがわせる事情があるとすれば、

「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」

という、「早期」という部分でしょうか。

(「今なら」は、過去の価格を比較対照としても使うでしょうから、さすがにこれだけで「将来の販売価格を比較対照価格として暗示した二重価格表示」だというのは無茶でしょう。)

でも、この「早期」というのですら、論理的に意味するところは、「〇〇より早い」ということですから、「~11/23」の部分に加えて何か情報を付け足しているわけでもないように思え、「一般的には ・・・」を打ち消すには弱い気がします。

確かに、「1万円値引き 7/22~11/23」と「早期予約キャンペーン」という表示を併せてみれば、11月24日以降は通常価格に戻るのだと暗示していることになるのかもしれませんが、この程度の記載で「暗示」だと認定するなら、やっぱり、「一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えられます」というのは、大ぶろしきを広げすぎたのではないかと思います。

というのは、それくらい、役人が使う「一般的には・・・」という表現は、例外が極めて限定的であることを想起させるからです。

「早期予約キャンペーン」というと、英語のearly birdを想起させ、そうでなくても(普通の日本語でも)「早期」に申し込まなかった場合には通常価格に戻る、という意味に取られるような気がしますが、ともかく「一般的には・・・」とか、消費者庁はちょっと言い過ぎたと思います。

いずれにせよ、この消費者庁パブコメ回答にしたがえば、ジャパネットの件が、過去の価格を比較対象価格とする二重価格表示であったと解するほうが自然だと思います。

そうすると、前述のとおりジャパネットのプレスリリースによれば、29,980円は過去の実績のある価格だったということなので、消費者庁パブコメに従えば、何の問題もない、ということになりそうです。

最後に、ジャパネットのプレスリリースでは、

「また、おせちは時期を過ぎると廃棄につながりやすい特性があります。

早期にご予約いただくことで需要を正確に予測し、売れ残りによる廃棄をなくすことは、⾷品ロス削減に向けた企業の社会的責任であると考えております。」

とも述べられています。

これは、けっこう本質を突いた主張だと思います。

というのは、廃棄ロスの出やすいおせちという商品の性質上、今回の「早期予約キャンペーン」のような売り方が合理的だ、ということを強くうかがわせるからです。

「きちんと売り切るためにはこういう表示が必要なんだ」というと、消費者庁はきっと、「需要喚起のためなら、たんに値下げをすればいいのであって、二重価格表示をする必要はない(将来価格を基準にする必要なんて、なおさらない)」と言いそうな気がします。

でも、おせちの価値なんてなかなか素人目にはわからないですから、値段で品質を判断するということが、実際にはあるのではないかと思います。

なので、過去の通常価格と比較してこそ本来の価値がわかるのであって、たんに値引後価格だけを表示していたら、それなりの価格しかないと誤解されるおそれは、大いにあると思います。

廃棄ロス問題が景表法の解釈に直結するとは思いませんが(法律論としては、直結させるべきではないと思いますが)、法律は論理だけで回っているわけではないことも事実ですし、少なくとも、マクドナルドのポケモンカード・ハッピーセット事件のような、(恵方巻とかに比べれば)大して廃棄ロスもないだろうと思われるような案件にまで廃棄ロスを防止しろと行政指導をしてくる消費者庁なわけですから、こういう当事者の主張にはていねいに耳を傾けるべきではないかと思います。

2025年9月 8日 (月)

今朝の日経法務面「偽造品、アマゾンの責任は」の記事のカライスコス教授のコメントについて

今朝(2025年9月8日)の日経朝刊の法務面の掲題記事で、

「巨⼤プラットフォームの対応の限界を指摘する声もある。

訴訟でアマゾンは「年間250万件を超える苦情・問い合わせに対応しており、⼀つ⼀つの申告について吟味、検証することは難しい」と主張した。

「責任放棄だ」との⾒⽅もあるが、欧州連合(EU)や⽇本の消費者保護に詳しい⿓⾕⼤のカライスコス・アントニオス教授は「250万件すべてに対応するのは酷だ」とみる。

そのうえでカライスコス教授は「EUがデジタルサービス法に基づき導⼊している『トラステッドフラッガー(信頼できる通報者)』の仕組みを⽇本でも取り⼊れるのが有効ではないか」と話す。」

と、カライスコス教授のコメントが紹介されています。

(電子版はこちら。)

ですが、少なくともこのアマゾンのパルスオキシメーターの事件については、「250万件すべてに対応するのは酷だ」という論評は、まったくあてはまらないと思います。

欧州でtrusted flaggerが問題になる文脈は、あくまで、違反が具体的に発覚する前に、プラットフォーム運営者としてどこまで対応しておくべきか、ということです。

つまり、EUのデジタルサービス法22条(Trusted flaggers)の1項では、

「Providers of online platforms shall take the necessary technical and organisational measures

to ensure that notices submitted by trusted flaggers,

acting within their designated area of expertise,

through the mechanisms referred to in Article 16,

are given priority and

are processed and decided upon without undue delay.」

と定められています。

和訳すると、

「オンラインプラットフォーム提供者は、

指定された専門分野の範囲内で行動するtrusted flaggerが第16条に規定する仕組みを通じて提出した通知が、

優先的に扱われ、

不当な遅滞なく処理され、

〔当該通知に基づきオンラインプラットフォーム提供者の〕意思決定がなされることを

確保するために必要な技術的及び組織的措置を講じなければならない。」

ということです。

ちなみに、22条で言及されている16条(Notice and action mechanisms)の1項では、

「Providers of hosting services shall put mechanisms in place

to allow any individual or entity to notify them

of the presence on their service of specific items of information

that the individual or entity considers to be illegal content.

Those mechanisms shall be easy to access and user-friendly, and shall allow for the submission of notices exclusively by electronic means.」

と規定されていて、和訳すると、

「ホスティングサービス提供者は、

個人または団体が自らのサービス上に存在する特定の情報を違法コンテンツとみなす場合、

その旨を通知できる仕組みを設けるものとする。

当該仕組みは、アクセスが容易で、かつユーザーフレンドリーであるとともに、電子的手段による通知の提出のみを可能とするものとする。」

です。

つまり、DSA16条では、違法コンテンツの通報を受ける仕組みを構築する義務が課され、22条では、その仕組みの中でtrusted flaggerからの通知を優先的に扱う措置を講じましょうね、ということです。

さらに言えば、DSAの規定に違反すると最大売上の6%の制裁金が課される(52条)わけで、要は、16条の仕組みを設けず、22条のtrusted flaggerの優先扱いの「技術的及び組織的措置」を設けないと、それだけで巨額の制裁金を受けますよ、という、たいへん厳しい内容なわけです。

むしろ本件のような、私人からの損害賠償請求については、54条(Compensation)で、

「Recipients of the service shall have the right to seek, in accordance with Union and national law, compensation from providers of intermediary services, in respect of any damage or loss suffered due to an infringement by those providers of their obligations under this Regulation.」

「本サービスの受益者は、本規則に基づく義務の違反により被ったいかなる損害または損失について、EU法および加盟国法に従い、仲介サービス提供者に対し賠償を求める権利を有する。」

ということで、損害賠償についてはEU法および加盟国法に従って請求できるとしているだけで、DSA上、なんら損害賠償請求を制限する建付けにはなっていません。

つまり、DSAのもとですら、損害賠償についてはEU法と加盟国法にしたがうのであって、trusted flaggerとは無関係です。

(推測ですが、54条のような規定が設けられたのは、16条とか22条の義務を果たせばプラットフォームは免責されるのだというプラットフォームからの抗弁をふさぐためではないかと思われ、そうだとしたら、その想像力には背筋が凍る思いがします。)

なので、「250万件すべてに対応するのは酷だ」という同教授のコメントは、DSAのもとでも成り立たないと思います。

(ただ、これはEU法に詳しい同教授が、EU法と加盟国法も踏まえて「酷だ」とコメントされているのかもしれず、そのあたりはEU法と加盟国法の損害賠償法に疎い私には、わかりません。)

むしろDSAのtrusted flaggerの制度は、単に通知を受ける仕組みの整備義務(16条)に加えて、さらにtrusted flaggerを優先する義務(22条)を課しており、義務を軽減しているのではなく、加重しているのだとみるべきでしょう。

まとめると、DSAのtrusted flaggerの制度は、あくまで問題が起きる前の事前の義務であり、問題が起きた後の事後の義務(補償義務)については、DSAはEU法および加盟国法に委ねている、ということです。

まして日本法では、知財高裁平成24年2月14日判決(チュッパチャプス対楽天)があります。

この事件では、楽天市場で商標侵害品が売られていたので、チュッパチャプスが楽天に差止を求めたのですが、知財高裁は、

「本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,

上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,

商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,

そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,

その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは

その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,

上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。

けだし,(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,

ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,

本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,

(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,

出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,

上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,

(3)しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,

(4)ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,

(5)さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること

等の事情があり,これらを併せ考えれば,

ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり

これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,

これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。」

と判示しました。

(長い引用で恐縮です。でも、とても大事ですし、紙面の制限のないネットなのでご理解ください。正確に要約するが大変だ、という事情も、もちろんあります😵)

というわけで、知った以上はちゃんと対応しろというのが知財高裁の判決であり、「250万件すべてに対応するのは酷だ」という発想は微塵もありませんし、楽天も、そんな主張はしていません。

当然だと思います。

この点は、日経記事で、

「「責任放棄だ」との⾒⽅もある」

とされてますが、こちらこそが当然の見方だと思います。

250万件もクレームが来るくらいビジネスを広げたなら、それに対応するのが当然であって、対応できないなら、そこまでビジネスを広げなければいいだけです。

身の丈に合ったビジネスをすればいいだけのことです。

欧州のDSAでは、ヘイトスピーチとか、児童ポルノとか、違法コンテンツとはいえ確かに全責任をプラットフォームに負わせるのは酷だ(昔よく言われた、「インターネットの掲示板は便所の落書きみたいなものだから、掲示板の運営者に落書きの責任を負わせるのは酷だ。」という発想)、という場面も想定して議論がされていますが、本件では、人の命に係わるパルスオキシメーターを売っている(売らせている)わけですから、その意味でも、DSAの事前の措置に関する一般論とは前提が異なります。

ちなみに、知財高裁が楽天の責任を否定した部分を引用すると、

「イ そこで以上の見地に立って本件をみるに,一審被告は,前記(1)のようなシステムを有するインターネットショッピングモールを運営しており,出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが,

前記(2)イの番号1,2の展示については,展示日から削除日まで18日を要しているが,

一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり,

〔注・原審事実認定によると、原告から被告への最初の通知の電子メールは、4月3日です。〕

同日に削除されたことになる。

また,前記(2)イの番号3~8の展示については,展示日から削除日まで約80日を要しているが,

一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり,

同日から削除日までの日数は8日である。

さらに,前記(2)ウの番号9~12の展示については,

展示から削除までに要した日数は6日である。

以上によれば,ウェブサイトを運営する一審被告としては,商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。」

となっています。

このように、楽天は知ってから最大8日以内には対応しており、アマゾンとは雲泥の差です!

ちなみに、「250万件すべてに対応するのは酷だ」というのは、日本のアマゾンの取引の実態としても、ちょっと疑問です。

私もかつてはアマゾンをよく使っていましたが、主に配送のことで、何度かクレームというか、問い合わせをアマゾンにしたことがあります。

アマゾンのサイトから問い合わせ方法の選択があり、その中で「今すぐ電話がほしい」という選択肢をクリックすると、ほんの数秒で、指定した自分の携帯にアマゾンのカスタマーサービスから電話がかかってきたのです!

しかもその対応もとても丁寧で、ちょっと中国語っぽいアクセントのある男性でしたが流ちょうな日本語で、クレームにもきちんと対応していただきました。

さらに、こちらが求めもしないのに、

「お詫びにアマゾンプライムの1ヶ月無料クーポンをさしあげます。」

という対応までしていただきました(笑)。

このときは、「ほんとうに、アマゾンすげぇなぁ~。むしろ日本企業のほうが負けてるな。」と、心底感心しました。

「250万件」に、消費者からのクレームが含まれるのかどうかわかりませんが、ともかく、私の知るかぎり、アマゾンは消費者に対する対応は徹底的にやっていると思います。

なので、出品者に対する対応も、同じようにできないことはないんじゃないか、という気がします。

というわけで、「250万件すべてに対応するのは酷だ」という専門家のコメントが独り歩きしないことを、切に願います。

カライスコス先生の真意は別のところにあったかもしれず、今度お目にかかる機会があったらお尋ねしてみたいと思いますし、もしこのブログをご覧になっていたら、コメント欄ででも、ダイレクトメール(このブログ画面の左上、「メールを送信」にリンクがあります。)でも、コメントいただけると大変幸甚です。

(ちなみに最後になりましたが、この記事では私のコメントも引用していただいています。)

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