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2025年8月

2025年8月21日 (木)

アマゾン偽パルスオキシメーター事件東京地裁判決について

既に報じられているとおり、2025年4月25日、偽造パルスオキシメーターの販売を巡り医療機器販売会社らがアマゾンジャパンを訴えた事件で、東京地裁が3500万円の賠償をアマゾンに命じる判決を出しました。

Amazonに3500万円賠償命令 偽造品対応巡る不備を認定」(日経新聞電子版2025年4月25日

こちらのNHKの記事

アマゾンに賠償命令 “偽造品調査せず正規品も削除” 東京地裁」(2025年4月25日

では、原告医療機器メーカー「トライアンドイー」と医療機器販売会社「エクセルプラン」の代理人の染谷先生が、

「相乗り出品される商品が同一でないと公正な競争とはいえず、アマゾンは偽造品を排除しなければならないと判断していて評価できる。適正なシステムを構築する義務がアマゾンにあることを前提に、今回は重い過失にあたるので免責条項は無効だと判断した点も画期的だ」

と話されていますが、まったくそのとおりで、プラットフォームの責任を認めた画期的な判決だと思います。

ただ、実は判決は請求額(約2億8000万円)の大半を棄却しており、(報道ベースでの評価ですが)棄却の理由には大いに疑問があります。

判決の概要は、

偽造「パルスオキシメーター」出品を放置 アマゾンジャパンに3500万円の損害賠償支払い命じる 東京地裁」(弁護士JPニュース)

の記事に載っていますが、同記事では、

「〔原告らは〕、以下四つの義務に違反していることを訴えた。

①「相乗り出品の際、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務」

②「申告等によって違法な相乗り出品を知り得た時は、合理的期間内に、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務」

③「原告が出品した商品を合理的理由なく出品停⽌・削除しない義務」

④「事実誤認に基づくレビューを適時かつ適切に削除する義務」

〔中略)東京地裁は判決で、

②「申告等によって異なる品の出品を知り得た時は、合理的期間内に、相乗り出品者の商品が異なる商品かどうかを確認し、異なる商品を排除する義務」と

③「原告が出品した商品を合理的理由なく出品停⽌・削除しない義務」の⼆つの義務が被告にあることを肯定。被告に対し、3500
万円の損害賠償⽀払いを命じる判決を⾔い渡した。」

と紹介されています。

でも、相乗り出品という形態の販売を採用している以上、①の「相乗り出品の際、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務」は、当然負うべきだと思います。

相乗り出品というのは、アマゾンのマーケットプレイスで、同じ商品を複数の業者が出品すると、同⼀のページに集約される仕組みです。

ということは、アマゾンは、相乗り出品されている商品は同じ商品だと表示していることにほかなりません。

これは、不正競争防止法2条1項20号の品質誤認惹起行為に該当すると考えられます(傍目八目ですね)。

つまり、同号では、

「二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信に

その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくは

その役務の質、内容、用途若しくは数量

について誤認させるような表示・・・する行為」

を不正競争の1つと定義し、不競法4条本文では、

「故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。」

と規定されています。

ちなみに不競法4条の損害賠償請求では、被告は原告の競争者であることが多いですが、条文上は、たんに「他人」であって「競争者」ではないので、本件のように原告の競争者ではないアマゾンも、賠償義務を負いうると考えられます。

上記日経記事によると、

「⼀⽅、アマゾン側が調査したとしても偽造品と⾒抜けたとまでは認められず、⾃動停⽌措置そのものにも価格を誤って設定した出品を防⽌するために合理性があるとした。この2点については賠償責任を認めなかった。」

ということですが、この判断は、(「アマゾン側が調査したとしても偽造品と⾒抜けたとまでは認められず」という事実認定についても疑問に思いますが、それはさておき)そもそも相乗り出品という仕組みが、アマゾンが相乗り商品を同じ商品だと積極的に表示する販売方法である(ので注意義務のレベルも格段に上がるべき)という点(注意義務の程度という法律論)を、まったく見落としていると思います。

つまり、相乗り出品でなく、マーケットプレイスに出品されるすべての商品について、偽造かどうかを確かめないといけない義務があるかというと、それは確かに争いがあるかもしれませんし、出品される商品についてすべて偽造かどうか確認しなければいけないというのも、アマゾンにとって酷かもしれません。

アマゾンは、たんに場所を貸しているだけ、という議論もあるかもしれません。

(それでも、当時、出品者の医療機器の販売許可すらアマゾンは確認していなかったというのは、驚きです。厚労省は何をしていたんでしょう? 水面下で動いていたのかもしれませんが。)

ですが、相乗り出品の場合は、アマゾンが積極的に同じ商品だと表示しているわけですから、同じ商品であることを確認してから相乗り出品ページに載せるのが当然でしょう。

別の切り口から説明すると、たんに(相乗り出品ではなく)複数の同じような商品をマーケットプレイスで出品させていた、というだけなら、オンラインモールとリアルのモールで、モール運営者の責任に差を設ける理由はあまりないように思います。

でも、オンラインモールが相乗り出品という、リアルのモールではありえないような販売方法をあえて取る(そのような表示を積極的にする)以上、リアルのモールよりも重い注意義務が負わされるのは当然だと思います。

なぜなら、そのような、内容や表示に責任を負えないような販売方法は、そもそも取るべきではないし、取らないことが可能だからです。

仮に判決のように、故意または重過失の場合に限り免責条項は無効だとの立場に立つとしても(私は、軽過失免責ですら優越的地位の濫用で無効ではないかと思いますが。)、相乗り出品という積極的な表示をしているのにろくに調査もせずに同じ商品だと表示して販売するのは、ほとんど故意に近い重過失ではないでしょうか。

「たくさん出品しているからいちいちチェックできない」という反論はまったく筋違いで、そうなら、たくさん売らずに、チェックできる範囲で売ればいいだけのことです。

アマゾンからは、もし相乗り出品により高度の義務を認められると相乗り出品が阻害されて消費者の利益に反する、という反論が聞こえてきそうですが、楽天には相乗り出品のようなものはありませんがそれでも痛痒なく使えていますし、そもそも本件のような事例で2億、3億の損害賠償が認められたからといってアマゾンが相乗り出品をやめるとは思えません。

しかも、不競法4条に基づく損害賠償請求で難しいのは、不正競争(品質誤認惹起行為)と損害との因果関係ですが、相乗り出品なら、因果関係は極めて簡単に認められると思います(同じページに表示しているわけですから)。

そのように考えると、欧州のデジタルサービス法のような特別の規制がなくても、不競法とか、一般不法行為とか、契約上の義務違反とかいう一般的な構成のもとでも、原告の請求はすべて認められてしかるべきだと思います。

アマゾンが巨大プラットフォームであり、高度な注意義務を負うべきことからすれば、なおさらです。

しかも、食べログ事件もそうですが、アマゾンのようなプラットフォームを訴えるのは、並大抵の覚悟ではできません。

それなのに、覚悟を決めて訴訟してもこの程度の損害賠償しか得られないなら、ますます訴える企業がいなくなります。

前掲弁護士JPの中でも、、

「会⾒に出席した『トライアンドイー』の藤井敬博社⻑も、偽造品が使⽤者に健康被害を及ぼしかねないことへの憤りと不安を語り、アマゾンに対しこれまでに販売した偽造品の回収を求めた。

『今でも医療機器と偽ったパルスオキシメーターが流通している。(偽造品を)医療機器と信じて購⼊し、命のよりどころとして使⽤している消費者に対し、会社(アマゾンジャパン)が商品を回収するなどの措置を取ることを切に願う』(藤井社⻑)」

と、原告社長のコメントが紹介されています。

まさに、そういう、お金の問題ではないんだという、義憤に駆られての決断でないと、訴訟は起こせないでしょう。

思い起こせば私の知り合いにも、パルスオキシメーターで90ちょっとみたいな、かなりやばい数値が出て、それである意味適切な対応につながったわけですが、そういう意味で、あのころのパルスオキシメーターは命にかかわるものでした。

偽造のパルスオキシメーターがふつうに出回っていたなんて、怖すぎます。

染谷先生、控訴審もがんばってください。

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