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2025年7月17日 (木)

手形割引料を下請事業者に負担させると不当な経済上の利益の提供要請になるのか?

親事業者が下請代金を手形で支払う場合に、割引料相当額を下請事業者に負担させることは、不当な経済上の利益の提供要請になるのでしょうか。

(※どのような場合に割引料を負担させたことになるのかは難しい問題ですが、ひとまず負担させたことを前提に、以下説明します。たとえば、従前現金で払っていたのに、同額の手形で支払うような場合を想定してください。)

この点については、長澤先生の『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕』p233では、

「割引料等のコストを実質的に供給者〔注・下請事業者〕に負担させることは、供給者が自由かつ自主的な判断によりそれを受けいれたと認められなければ、不当な経済上の利益の提供要請(または対価の減額)として濫用行為に該当する」

とされ、p290では、

「現金払を前提に設定された対価を手形の交付により支払う際に、手形払に伴う割引料等のコストを相手方に負担させることも、経済上の利益の提供要請に該当するものと考えられる。」

とされています。

結論的には違和感はなく、私も、「そりゃそうだろうなぁ。」と思うのですが、ちょっと立ち止まって冷静に考えてみると、少なくとも公取委事務を前提にするかぎり、あんがいそうでもないのではないか(不当な経済上の利益の提供要請にはあたらないのではないか)、と思い始めています。

一番の理由は、下請法運用基準第4の7(不当な経済上の利益の提供要請)⑵に、

「(2) 「金銭、役務その他の経済上の利益」とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず、下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含むものである。」

と書かれているからです。

手形による支払は、現行法上、現金による支払と同視されています。

とすると、実質的な下請代金(←割引料を上乗せしない下請代金、というくらいの意味です。)と同額の券面額の手形で支払うことは、

下請代金の支払(=手形の振出)とは独立

した「金銭の提供」の要請とはいえないのではないか、ということです。

逆に言うと、実質的な下請代金と同額の手形による下請代金の支払は、割引料相当額を下請事業者に負担させてはいるものの、「下請代金の〔手形による〕支払」と不可分一体で割引料を負担させているものであり、割引料を「下請代金の支払とは独立して」負担させているものとはいえないのではないか、ということです。

ただ、この解釈にはやや難点があって、まず、この「下請代金の支払とは独立して」というのは、代金減額と不当な経済上の利益の提供要請との区別を意図した記述であり、割引料の負担を意識した記述ではないと思われることです。

つまり、かつての公取委の見解では、

下請代金から控除するのは、代金減額で、

下請代金とは別途金銭を支払わせるのは、不当な経済上の利益の提供要請だ、

ということでした。

これが、しばらく前の解釈変更により、今では、別途支払わせるのも代金減額になりうる、ということになりました。

(このあたりの事情については、「別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理」(2019年2月1日)で書きました。)

なので、「下請代金の支払とは独立して」というのは、それ以上でもそれ以下でもなく、代金減額との区別のことだけを言っているだけだ、という解釈が、自然なような気もして、そのような背景を知ると、現金と同額の券面額の約束手形で支払うことによる割引料負担の要請とは何の関係もない、という気がしてきます。

じっさい、下請法運用基準の記述をよく読むと、

「下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含むものである。」

といっているだけで、下請代金の支払と一体で(独立しないで)行なわれる金銭の提供の要請(ここでは、割引料の負担の要請)が不当な経済上の利益の提供要請に該当しないとまでは言ってません。

ましてや、現在では、下請代金とは別途支払わせるのも代金減額にあたると解釈されていて(減額の守備範囲が広がっている)、両者の区別が相対化している以上、反対に、下請代金と一体で(下請代金から控除される形で)行なわれる金銭の提供要請も経済上の利益の提供要請に該当の利益の提供要請にあたりうる(不当な経済上の利益の提供要請の守備範囲が別のところで広がる)、という解釈も、ありえなくはないように思われます。

それでもやはり私は、手形割引料を下請事業者に負担させるのは不当な経済上の利益の提供要請にならない、といいたいのです。

そこで2つめの理由は、中小企業庁のウェブサイトの「下請代金の支払手段に関するよくある質問」のQ8で、

「Q8:現金により支払う場合の下請代金の額や割引料等のコストについては、発注書面に記載さえすれば問題ないのかどうか教えてください。」

という質問に対して、

「今回の要請〔=令和3年3月31日「下請代金の支払手段について」〕は、手形等により支払う下請代金の額を協議する際に、親事業者と下請事業者の双方が、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを具体的に検討できるよう、現金により支払う場合の下請代金の額や割引料等のコストを示すことを求めるものです。

そのため、発注書面には、手形等により支払う下請代金の額に加えて、当該協議の結果、下請事業者と合意した現金により支払う場合の下請代金の額及び割引料等のコストを併記することが望ましいと考えられます。

ただし、親事業者と下請事業者の双方が十分協議を行うことなく、親事業者が一方的に定めた事項を発注書面に記載して示すといった、現金により支払う場合の下請代金の額について、一方的に通常の対価より低い額を定めた場合は、下請法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」

と回答されていて、買いたたきだけが問題にされていて、不当な経済上の利益の提供要請が問題にされていないことです。

つまり、よりハードルの高い買いたたきだけについて触れているということは、よりハードルの低い不当な経済上の利益の提供要請については問題視しない趣旨だろう、ということです。

(ちなみに、上記令和3年3月31日「下請代金の支払手段について」の「記」の2項では、

「2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。

当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。」

とされています。)

同様に、古い文献ですが、

辻吉彦「実務家のための下請法基礎講座(第20回)」公正取引487号(1991年5月号)67頁

では、 

「〔問〕従来納品締切後30日に現金で支払っていたものについて、新規契約から手形支払に切り替えることは問題ないか(手形交付は、従前の支払日と同一とし手形期限は120日以内とする。)。

1 価格等については、そのままの場合はどうか。

2 実際の入金日までの利息相当額を価格に上乗せする場合はどうか。」

という質問に対して、

「〔答〕下請代金の支払は現金払が原則であり、従来現金払してきたものを新規契約から手形払に変更すること、とくに、下請単価をそのままにして手形払に変更することは、下請事業者の手取り額を割引料分だけ減少させることになるので、下請法違反(買叩き)となる。

(新規契約からではなく、継続的取引のもとであれば、下請代金の減額となる。)

なお、手形割引料分を下請単価に上乗せしたうえで手形払にした場合は(手形払にすること自体はあまり好ましくないが〉、直ちに下請法違反とはならない。」

と回答されています。

市場価格との差を問うことなく減額させただけで直ちに買いたたきとなるというのはさすがに無茶なので無視するとして(笑)、ともかくここでも、減額と買いたたきしか問題にされておらず、不当な経済上の利益の提供要請には触れられていません。

さらに古い文献ですが、

小倉正夫「わかりやすい下請法(11)-親事業者の義務」公正取引408号(1984年11月号)p18

では、

「コ 手形の割引料を下請事業者に負担させることは問題ないでしょうか。」

との質問に対して、

「手形の割引料の件については、値引きの項(第7回参照)でも説明しましたが、下請取引に際しての当初の約定が手形払であることが明確であれば、その割引料が金融慣行からみて妥当と思われる範囲にとどまるかぎり、下請事業者の利益を不当に害することになるとは認められないと思われます。」

と回答されています。

「当初の約定が手形払であることが明確であれば、その割引料が金融慣行からみて妥当と思われる範囲にとどまるかぎり」割引料を下請事業者に負担させても問題ないというのは、とても素直な解釈で、公取委も昔はずいぶんとまともな解釈をしていたんだなぁとため息が出ますが(笑)、ともかくここでも、割引料を下請事業者に負担させることが直ちに不当な経済上の利益の提供要請に該当するとはされていないということは指摘できると思います。

というわけで、やはり、割引料を下請事業者に負担させることは、不当な経済上の利益の提供要請にはあたらないと考えます。

でも、これがあたるという解釈も直観的には違和感ないですし、公取委に正面きって聞いたらあたると言われそうな気もしますし(逆に、この手の論点では、いち担当者があたらないといっても、あてにできないですが)、最近の公取委は下請法の解釈をコロコロ変えるので、クライアントへのアドバイスとしては、「あたりうる」というふうに言っておくのが無難だと思います。

とはいえ、最近はパートナーシップ構築宣言をしている会社が多く、宣言のひな型(2025年6月版)では、

「下請代金は可能な限り現金で支払います。手形等で支払う場合には、割引料等を下請事業者の負担とせず、また、支払サイトを60日以内とします。」

とされていますので、不当な経済上の利益の提供要請に当たるかどうかにかかわらず、宣言企業は割引料を下請事業者に負担させてはいけないことに変わりはありません。

それに、改正下請法ではそもそも手形での支払いができなくなります。

よって、今回の論点はほとんど理論的なものに過ぎないのですが、記録のために残しておく次第です。

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