掲題の相談事例について、以下、気になったことを記しておきます。
この事例は、
「事業者団体が、特定のガソリンスタンド過疎地において、会員が経営するガソリンスタンド間で休業日を調整する取組を行うことについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例」
です。
そして、本件での取り組みは、
「X組合〔相談者。ガソリンスタンドの組合〕は、同一のSS過疎地〔=市町村内のサービスステーションが3か所以下の自治体〕内に所在する複数の組合員を対象に、X組合が主導して、次のアからウまでの内容で当該組合員の休業日が重ならないように調整すること(以下「本件取組」という。)を検討している。
ア X組合は、同一のSS過疎地内に所在する組合員から休業日調整の希望の有無を聴取し、休業日調整の対象となる組合員を決定する。この際、X組合は同組合員に対し、休業日調整への参加を強制しない。
イ X組合は、休業日調整に任意で参加する組合員(以下「参加組合員」という。)の間で、休業日が重ならないように各参加組合員が休業できる日(以下「休業予定日」という。)を調整する。この調整過程に特定の事業者を差別的に取り扱う内容は含まれず、また、各参加組合員が休業予定日に営業することを妨げない。
ウ 休業予定日に休業する参加組合員は、事前に休業日を店頭で周知し、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者が、休業日前に給油等を行えるようにする。」
というものです。
そして、公取委回答では、問題ない理由として、
「⑵ 本件取組は、
ア SS過疎地におけるSSネットワークの維持のために必要な方策の一つと考えられる経営者を含めた働き手の身体的負担の軽減と、SS過疎地内における燃料供給体制の確保との両立を図るという取組の目的が正当であること
イ 次の点から、競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものとはいえないこと
(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと
(イ) 調整した休業予定日に休業する参加組合員は事前に休業日を店頭で周知するため、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者は休業日前に給油等を行えるほか、当該参加組合員の休業日に給油等を希望する需要者は、同一のSS過疎地内で休業していない他の参加組合員のSSで給油等ができることから、需要者の利益を不当に害するものではないこと
ウ 事業者間で不当に差別的な内容となっていないこと
から、独占禁止法上問題となるものではない。」
と述べられています。
でも、本件のような取り組みで一番問題になるのは、あるSSが休業している日に、競争がなくなるため、他のSSが価格を引き上げることが可能となり、カルテルなのではないか? という点ではないかと思います。
たとえば、ある市にSSが2つしかない場合、1つが休めば他方の独占になります。
(この際、もっと広い地理的市場が画定できるのではないか、といった論点は捨象します。)
でも、上記のとおり、公取委が、「競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものとはいえない」理由として挙げているのは、
「(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと
(イ) 調整した休業予定日に休業する参加組合員は事前に休業日を店頭で周知するため、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者は休業日前に給油等を行えるほか、当該参加組合員の休業日に給油等を希望する需要者は、同一のSS過疎地内で休業していない他の参加組合員のSSで給油等ができることから、需要者の利益を不当に害するものではないこと」
の2つだけで、一方が休みの日には他方が値段を上げられるという点については触れていません。
また、(ア)では、
「(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと」
とされていますが、本件取組では、
「ウ 休業予定日に休業する参加組合員は、事前に休業日を店頭で周知し、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者が、休業日前に給油等を行えるようにする。」
とされているので、そのような事前に休業日と告知した日に、ライバルが値段を上げようとしたから急遽開店営業することができるかというとかなり疑問です。
仮に急遽開店したとしても、事前に休業だと告知しているのですから、お客さんが来るのかも疑問です。
しかもこの相談事例では、何日休むのかといったことについて、何ら触れられていません。
おそらく週1回とか、2回とか、くらい休むのが常識的なのではないかと思われ、私もそういう頭で最初は読んでいたのですが、よく考えてみると、たとえば2つあるSSのうち1つが月水金休み、もう1つが火木土日休む、ということも、少なくともこの相談事例では禁止されていません。
でもそこまでいくと、かなりカルテルのにおいがするような気がします。
なので、本件取組では、
「イ X組合は、休業日調整に任意で参加する組合員(以下「参加組合員」という。)の間で、休業日が重ならないように各参加組合員が休業できる日(以下「休業予定日」という。)を調整する。」
というのにとどめることが大事で、それ以上に、各会員の間で、「うちは月水金休むから、おたくは火木土日休んでね」みたいなやりとりをしてはいけない、という点が大事なのではないかと思います。
それでもさらに考えてみると、たんなる「調整」であってもカルテルっぽくなることはありうるわけで、たとえば2社あるSSの両方が日曜日に休みたいと希望すると、X組合が一方に、「あちらも日曜日休みたいといっているので、休みは土曜日にずらしてもらえませんかね。」という調整をするわけです。
そうすると、調整を依頼されたSSは、「ああ、あちらは日曜日には休むんだ」ということが必然的にわかるわけで、日曜日には値段を上げることが理屈のうえではできるわけです。
これに対して、休みの希望がかぶらず、具体的な調整がなされない場合には、一方のSSは他方がいつ休むか知りませんから、(そして、単独の判断で休んだ日に売り上げがあがらず市場への供給量が減ること自体は、独禁法上何の問題もありませんから)競争制限は起こらないことになります。
そして、この調整の効果として、SSは枕を高くして休業できる、ということになります。
というわけで、たんなる「調整」であっても、具体的な調整(一方の休業日をずらすこと)が行われるかぎりは、どうしても競争制限効果の発生は避けられないのではないかと思われます。
ちなみに、この相談事例をみて頭に浮かんだのが、拙著『米国反トラスト法実務講座』でも紹介した、
In re Detroit Auto Dealers Association, 117 F.T.C. 419 (1994)
という事件で、この事件では、デトロイトの複数の自動車ディーラー(被審人)が、ショールームの営業時間を制限し、夜間営業は月曜日と木曜日のみ、土曜日は休業とすることを合意していたところ(日曜日は法律により営業禁止であった)、FTCは、かかる合意がFTC法5条に違反するとして調査を開始し、同意審決で、被審人ディーラーは原則として週62時間以上営業することとされました。
つまり、競争者間で営業時間や営業日を調整することはカルテルなわけで、本相談事例も、事業者団体が間に入って調整するという違いこそあれ、見ようによってはそれと紙一重であるわけです。
そのように考えてみると、本件が問題ないとされる最大の理由は、やはり、
「ア SS過疎地におけるSSネットワークの維持のために必要な方策の一つと考えられる経営者を含めた働き手の身体的負担の軽減と、SS過疎地内における燃料供給体制の確保との両立を図るという取組の目的が正当であること」
という、いわば地域社会に不可欠なネットワークの維持と働き方改革の両立という、社会公共目的であることにあると考えるべきではないか、と思われます。
つまり、本相談事例は、こういう社会公共目的の事例意外には一般化はできない、ということです。
それと、SS過疎地では、各SSが地理的に差別化されていて(つまり、SS間の距離が遠くて)、そもそも価格競争があまりはたらいていないのではないか、ということも、実は結論に影響しているのではないかと思います。
もし、ガソリンのような商品差別化のない商品で、しかも地理的差別化もないとすると、休業日を調整したら価格への影響は避けられません。
ですが、地理的差別化がされているためにもともと価格競争がさほどはたらいていないのであれば、休業日を調整したとしても価格への悪影響は限定的だ、ということになりそうです。
(でも、SS過疎地だから地理的に差別化されている(=お互いの距離が多い)というのもかなり想像が入っていて、ひょっとしたら、高速のインターを降りたところに隣り合ってSSが2つあるSS過疎地というのも、あるかもしれません。そうすると、SS過疎地だから地理的に差別化されているというのも、かなり眉唾物です。)
このように、もろもろ想像力をはたらかせると、本相談事例の結論はこれでいいと思うのですが、理屈の分析としては、ちょっと甘いといわざるをえません。
それに、令和元年相談事例集事例6(「化学品メーカーの団体による会員保有工場の定期修理に関する日程調整」)では、
「定修会議においては,定期修理の実施日程に係る情報がX協会の会員間で共有されることのないよう,当該情報の遮断措置を講ずる」
と当事者が主張していることを踏まえて、
「(イ) X協会の会員間で情報が共有されないための措置を講じた上で定期修理の実施日程の調整のみを行うという取組は,前記(ア)の目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものである」
として独禁法上問題ないと回答していることからすると、本件(ガソリンスタンドの件)で、休業日を事前にSSで告知する(当然、ライバルSSも知り得るでしょう)からOK、と言っているのと矛盾するような気もします。
(ただ、この点は、事例集にも書いてある通り、SSの休業日は事前に告知しておいたほうが需要者が休業日を避けて給油できるので需要者に便宜であるのに対して、化学品の定期修繕については、需要者は買いだめをしにくいけれども、メーカー間の玉の融通によって従来から取引のあるメーカーから買い続けることができるので、需要者が定修の日程を事前に知らなくてもさほど困らない(買いだめする必要もない)、という違いがあるのかもしれません。)
相談事例を読むときは、こういう批判的な目で読むことが大事だと思います。