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2025年7月

2025年7月24日 (木)

定義告示運用基準の目次(と簡単なメモ)

よく使うので、定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)の目次をメモしておきます。

1 顧客誘引性

⑴ 親睦やアンケート回収目的でも、あたる

⑵ 取引増大・継続目的でも、あたる

2 事業者

⑴ 非営利の協同組合等も、あたる

⑵ 学校法人も、収益事業は、あたる

⑶ 地方公共団体も、経済活動をする場合は、あたる

⑷ 事業者団体が企画した景品企では、景品提供をした構成事業者に景表法が適用される。

3 商品供給主体性(「取引」)

⑴ 全流通段階の取引を含む

⑵ 賃貸、交換も「取引」

⑶ 銀行、クレジットも「取引」

⑷ 買取も、査定等の役務提供あれば「取引」

⑸ コーラの原液も、「取引」

4 取引附随性

⑴ 取引を条件としての提供は、あたる

⑵ 主たる対象とすれば、あたる

ア 容器包装での告知

イ 取引により獲得容易になる

ウ 小売業者の入店者への提供

エ ①過半出資、②フランチャイジー、③大部分が自己の商品(例、ガソリンスタンド)、の店舗入店者

⑶ 勧誘に際しての提供は、あたる

⑷ 本来の内容は、あたらない(宝くじ、パチンコ)

⑸ セット販売。ただし、懸賞や景品と認識される場合は、附随性あり

ア 明らかにセット(ハンバーガーとドリンクのセット)

イ 商慣習(スペアタイヤ)

ウ 独自の機能(パック旅行)

⑹ たまたま購入者がいても、附随性なし

5 経済上の利益

⑴ 対価支払って取得するものは、あたる。ただし、名誉を表すトロフィー等は、あたらない。

⑵ 安く購入できる利益も、あたる。

⑶ 仕事の報酬は、あたらない。

6 値引

⑴ 公正な競争秩序の観点から判断。

⑵ 公正競争規約を参酌。

⑶ 以下は、値引にあたる。

ア 対価の減額

イ 割戻し

ウ 同一商品の付加(増量値引)

⑷ 以下は、値引にあたらない。

ア 懸賞、使途制限、景品との併用、による対価減額、割戻し。

イ 懸賞、景品との併用、による増量値引

7 アフターサービス

⑴ 公正な競争秩序の観点から判断。

⑵ 公正競争規約を参酌。

8 附属品

⑴ 公正な競争秩序の観点から判断。

⑵ 公正競争規約を参酌。

⑶ 品質保全に必要な範囲の容器包装は、景品にあたらない。

2025年7月21日 (月)

中小受託法(現行下請法)運用基準案の一括決済方式または電子記録債権による支払に関する記述の疑問

2025年7月16日に、中小受託法(現行下請法)運用基準案が公表され、パブコメに付されました。

そのp12で、中小受託法5条1項2号(支払遅延)の、

「二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと

(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること

並びに

金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること

を含む。)。」

の、

当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの

の部分について、

「「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段をいう。」

と定義しなおしたあと、その具体例として、

「例えば、

①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、

中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、・・・

割引を受け・・・る必要があるもの

②一括決済方式又は電子記録債権を使用する場合に、

中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等

を負担する必要があるもの

がこれに該当する。」

と説明されています。

さらにそのあとにダメ押しのように、

「満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、

委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

として取り扱う。」

と述べています。

しかし、そもそも同法5条1項2号の、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

を、

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

と解釈するのは、明らかに文言上無理だと思います。

ここで、5条1項2号の、

「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」

というのは、いかにも長いので、

「当該製造委託等代金の支払期日」=X (例、2025年7月31日)

「当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」=Y (例、100万円)

と置くと、

「XまでにYと引き換えることが困難であるもの」

と書けます。

もっと短く書くと、

引換困難(X, Y)

でしょうか。

要は、違法かどうかは引換困難かどうかだけで決まります(引換困難性)。

これはどう読んでも、引換を要すること自体は認めたうえで、引換が困難なら違法で、困難でないなら適法、ということでしょう。

これに対して、

「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

というのは、ちょっと言葉足らずなので、言葉を足すと、

当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭による支払を受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

ということでしょう。

次にこれも簡単に書くと、

XまでにYを受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」

となるでしょう(非同等性)。

これもさらに短く書くと、

非同等(X, Y)

と書けます。

ここで、「同等の経済的効果」というのがいまいち不明確なので、運用基準案の具体例を見てみると、

「満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、・・・

支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、

金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない」

認められない、とされています。

つまり、Xまでに割引(≒引換)を要する支払手段は、それだけで(=引換が容易かどうかにかかわらず)違法だ、と言っています。

このような運用基準案の解釈(=「XまでにYを受けるのと同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」)が、5条1項2号の、

「XまでにYと引き換えることが困難であるもの」

という文言に反することは、あきらかです。

つまり、

非同等(X, Y)≠引換困難(X, Y)

であることは、あきらかです。

しかも、長澤先生が指摘されているように、公取委は国会答弁(第217回国会 参議院 経済産業委員会 第7号 令和7年5月13日)で、

「今回の改正法におきましては、約束手形を禁止をするということとともに、例えば電子記録債権とかファクタリング、そういうものについては禁止をしないわけでございますが、これで払う場合には、その支払期日にその満額、支払期日まで代金の額に相当する額が満額支払われるような方法ではないと認めないというようなルールにするということでございます。

ということで、今後、電子債権とかファクタリングでもし払うということになりますと、支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になるというふうに考えておるところでございます。」

という答弁をしており、運用基準案はこれと真っ向から反します。

(この「手数料分」というのは、やや不明確ですが、

「支払期日に満額が得られるような満期を設定するとか、場合によってはその手数料分を発注者が負担をするというような取引になる」

と言っていることからすると、

「支払期日に満額が得られるような満期を設定するか、

支払期日よりも後に満期を設定するのであれば、支払期日に満額が得られない分の割引手数料分を発注者が負担をするというような取引になる」

という意味だと解されますし、質問者の藤巻議員がこの答弁の前後でもっぱら金利(割引料)の話をしていることからしても、ここでの「手数料」は割引料のこととしか解せません。)

こんなふうに、条文の文言にも明らかに反し、国会答弁にも明らかに反するような解釈を運用基準で出すなんて、公取委は国会を何だと思っているのでしょうか?

もしこんな解釈を取りたかったなら、法案段階から、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用すること」

というような、現行法の割引困難手形に引きずられたようなわけのわからない文言ではなく、端的に、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに満期が到来しないものを使用すること」

あるいは、もう少し正確に、

「金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該支払手段の支払期日が到来しないものを使用すること」

とでもすべきだったのです。

当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」の支払を受けられるものであることは、一部現金、一部電子記録債権等で支払う場合もありうることからすると、むしろ入れる必要はありません。

(ここで、改正法の文言では、「当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭」という文言があるために、一部現金、一部電子記録債権等の支払が、仮に電子記録債権等の支払期日が下請代金の支払期日より前であっても、一切認められなくなってしまうのではないか、という問題があることに気づきました。これくらいは解釈で何とかなりそうですが、面白いのでちょっと考えてみます。)

このままでは、国会軽視も甚だしいと思います。

運用基準案は、何としても修正されるべきでしょう。

2025年7月17日 (木)

手形割引料を下請事業者に負担させると不当な経済上の利益の提供要請になるのか?

親事業者が下請代金を手形で支払う場合に、割引料相当額を下請事業者に負担させることは、不当な経済上の利益の提供要請になるのでしょうか。

(※どのような場合に割引料を負担させたことになるのかは難しい問題ですが、ひとまず負担させたことを前提に、以下説明します。たとえば、従前現金で払っていたのに、同額の手形で支払うような場合を想定してください。)

この点については、長澤先生の『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕』p233では、

「割引料等のコストを実質的に供給者〔注・下請事業者〕に負担させることは、供給者が自由かつ自主的な判断によりそれを受けいれたと認められなければ、不当な経済上の利益の提供要請(または対価の減額)として濫用行為に該当する」

とされ、p290では、

「現金払を前提に設定された対価を手形の交付により支払う際に、手形払に伴う割引料等のコストを相手方に負担させることも、経済上の利益の提供要請に該当するものと考えられる。」

とされています。

結論的には違和感はなく、私も、「そりゃそうだろうなぁ。」と思うのですが、ちょっと立ち止まって冷静に考えてみると、少なくとも公取委事務を前提にするかぎり、あんがいそうでもないのではないか(不当な経済上の利益の提供要請にはあたらないのではないか)、と思い始めています。

一番の理由は、下請法運用基準第4の7(不当な経済上の利益の提供要請)⑵に、

「(2) 「金銭、役務その他の経済上の利益」とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず、下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含むものである。」

と書かれているからです。

手形による支払は、現行法上、現金による支払と同視されています。

とすると、実質的な下請代金(←割引料を上乗せしない下請代金、というくらいの意味です。)と同額の券面額の手形で支払うことは、

下請代金の支払(=手形の振出)とは独立

した「金銭の提供」の要請とはいえないのではないか、ということです。

逆に言うと、実質的な下請代金と同額の手形による下請代金の支払は、割引料相当額を下請事業者に負担させてはいるものの、「下請代金の〔手形による〕支払」と不可分一体で割引料を負担させているものであり、割引料を「下請代金の支払とは独立して」負担させているものとはいえないのではないか、ということです。

ただ、この解釈にはやや難点があって、まず、この「下請代金の支払とは独立して」というのは、代金減額と不当な経済上の利益の提供要請との区別を意図した記述であり、割引料の負担を意識した記述ではないと思われることです。

つまり、かつての公取委の見解では、

下請代金から控除するのは、代金減額で、

下請代金とは別途金銭を支払わせるのは、不当な経済上の利益の提供要請だ、

ということでした。

これが、しばらく前の解釈変更により、今では、別途支払わせるのも代金減額になりうる、ということになりました。

(このあたりの事情については、「別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理」(2019年2月1日)で書きました。)

なので、「下請代金の支払とは独立して」というのは、それ以上でもそれ以下でもなく、代金減額との区別のことだけを言っているだけだ、という解釈が、自然なような気もして、そのような背景を知ると、現金と同額の券面額の約束手形で支払うことによる割引料負担の要請とは何の関係もない、という気がしてきます。

じっさい、下請法運用基準の記述をよく読むと、

「下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含むものである。」

といっているだけで、下請代金の支払と一体で(独立しないで)行なわれる金銭の提供の要請(ここでは、割引料の負担の要請)が不当な経済上の利益の提供要請に該当しないとまでは言ってません。

ましてや、現在では、下請代金とは別途支払わせるのも代金減額にあたると解釈されていて(減額の守備範囲が広がっている)、両者の区別が相対化している以上、反対に、下請代金と一体で(下請代金から控除される形で)行なわれる金銭の提供要請も経済上の利益の提供要請に該当の利益の提供要請にあたりうる(不当な経済上の利益の提供要請の守備範囲が別のところで広がる)、という解釈も、ありえなくはないように思われます。

それでもやはり私は、手形割引料を下請事業者に負担させるのは不当な経済上の利益の提供要請にならない、といいたいのです。

そこで2つめの理由は、中小企業庁のウェブサイトの「下請代金の支払手段に関するよくある質問」のQ8で、

「Q8:現金により支払う場合の下請代金の額や割引料等のコストについては、発注書面に記載さえすれば問題ないのかどうか教えてください。」

という質問に対して、

「今回の要請〔=令和3年3月31日「下請代金の支払手段について」〕は、手形等により支払う下請代金の額を協議する際に、親事業者と下請事業者の双方が、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを具体的に検討できるよう、現金により支払う場合の下請代金の額や割引料等のコストを示すことを求めるものです。

そのため、発注書面には、手形等により支払う下請代金の額に加えて、当該協議の結果、下請事業者と合意した現金により支払う場合の下請代金の額及び割引料等のコストを併記することが望ましいと考えられます。

ただし、親事業者と下請事業者の双方が十分協議を行うことなく、親事業者が一方的に定めた事項を発注書面に記載して示すといった、現金により支払う場合の下請代金の額について、一方的に通常の対価より低い額を定めた場合は、下請法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」

と回答されていて、買いたたきだけが問題にされていて、不当な経済上の利益の提供要請が問題にされていないことです。

つまり、よりハードルの高い買いたたきだけについて触れているということは、よりハードルの低い不当な経済上の利益の提供要請については問題視しない趣旨だろう、ということです。

(ちなみに、上記令和3年3月31日「下請代金の支払手段について」の「記」の2項では、

「2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。

当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。」

とされています。)

同様に、古い文献ですが、

辻吉彦「実務家のための下請法基礎講座(第20回)」公正取引487号(1991年5月号)67頁

では、 

「〔問〕従来納品締切後30日に現金で支払っていたものについて、新規契約から手形支払に切り替えることは問題ないか(手形交付は、従前の支払日と同一とし手形期限は120日以内とする。)。

1 価格等については、そのままの場合はどうか。

2 実際の入金日までの利息相当額を価格に上乗せする場合はどうか。」

という質問に対して、

「〔答〕下請代金の支払は現金払が原則であり、従来現金払してきたものを新規契約から手形払に変更すること、とくに、下請単価をそのままにして手形払に変更することは、下請事業者の手取り額を割引料分だけ減少させることになるので、下請法違反(買叩き)となる。

(新規契約からではなく、継続的取引のもとであれば、下請代金の減額となる。)

なお、手形割引料分を下請単価に上乗せしたうえで手形払にした場合は(手形払にすること自体はあまり好ましくないが〉、直ちに下請法違反とはならない。」

と回答されています。

市場価格との差を問うことなく減額させただけで直ちに買いたたきとなるというのはさすがに無茶なので無視するとして(笑)、ともかくここでも、減額と買いたたきしか問題にされておらず、不当な経済上の利益の提供要請には触れられていません。

さらに古い文献ですが、

小倉正夫「わかりやすい下請法(11)-親事業者の義務」公正取引408号(1984年11月号)p18

では、

「コ 手形の割引料を下請事業者に負担させることは問題ないでしょうか。」

との質問に対して、

「手形の割引料の件については、値引きの項(第7回参照)でも説明しましたが、下請取引に際しての当初の約定が手形払であることが明確であれば、その割引料が金融慣行からみて妥当と思われる範囲にとどまるかぎり、下請事業者の利益を不当に害することになるとは認められないと思われます。」

と回答されています。

「当初の約定が手形払であることが明確であれば、その割引料が金融慣行からみて妥当と思われる範囲にとどまるかぎり」割引料を下請事業者に負担させても問題ないというのは、とても素直な解釈で、公取委も昔はずいぶんとまともな解釈をしていたんだなぁとため息が出ますが(笑)、ともかくここでも、割引料を下請事業者に負担させることが直ちに不当な経済上の利益の提供要請に該当するとはされていないということは指摘できると思います。

というわけで、やはり、割引料を下請事業者に負担させることは、不当な経済上の利益の提供要請にはあたらないと考えます。

でも、これがあたるという解釈も直観的には違和感ないですし、公取委に正面きって聞いたらあたると言われそうな気もしますし(逆に、この手の論点では、いち担当者があたらないといっても、あてにできないですが)、最近の公取委は下請法の解釈をコロコロ変えるので、クライアントへのアドバイスとしては、「あたりうる」というふうに言っておくのが無難だと思います。

とはいえ、最近はパートナーシップ構築宣言をしている会社が多く、宣言のひな型(2025年6月版)では、

「下請代金は可能な限り現金で支払います。手形等で支払う場合には、割引料等を下請事業者の負担とせず、また、支払サイトを60日以内とします。」

とされていますので、不当な経済上の利益の提供要請に当たるかどうかにかかわらず、宣言企業は割引料を下請事業者に負担させてはいけないことに変わりはありません。

それに、改正下請法ではそもそも手形での支払いができなくなります。

よって、今回の論点はほとんど理論的なものに過ぎないのですが、記録のために残しておく次第です。

2025年7月15日 (火)

ガソリンスタンド過疎地における休業日の調整(令和6年度相談事例集事例6)についての疑問

掲題の相談事例について、以下、気になったことを記しておきます。

この事例は、

「事業者団体が、特定のガソリンスタンド過疎地において、会員が経営するガソリンスタンド間で休業日を調整する取組を行うことについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例」

です。

そして、本件での取り組みは、

「X組合〔相談者。ガソリンスタンドの組合〕は、同一のSS過疎地〔=市町村内のサービスステーションが3か所以下の自治体〕内に所在する複数の組合員を対象に、X組合が主導して、次のアからウまでの内容で当該組合員の休業日が重ならないように調整すること(以下「本件取組」という。)を検討している。

ア X組合は、同一のSS過疎地内に所在する組合員から休業日調整の希望の有無を聴取し、休業日調整の対象となる組合員を決定する。この際、X組合は同組合員に対し、休業日調整への参加を強制しない。

イ X組合は、休業日調整に任意で参加する組合員(以下「参加組合員」という。)の間で、休業日が重ならないように各参加組合員が休業できる日(以下「休業予定日」という。)を調整する。この調整過程に特定の事業者を差別的に取り扱う内容は含まれず、また、各参加組合員が休業予定日に営業することを妨げない。

ウ 休業予定日に休業する参加組合員は、事前に休業日を店頭で周知し、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者が、休業日前に給油等を行えるようにする。」

というものです。

そして、公取委回答では、問題ない理由として、

「⑵ 本件取組は、

ア SS過疎地におけるSSネットワークの維持のために必要な方策の一つと考えられる経営者を含めた働き手の身体的負担の軽減と、SS過疎地内における燃料供給体制の確保との両立を図るという取組の目的が正当であること

イ 次の点から、競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものとはいえないこと

(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと

(イ) 調整した休業予定日に休業する参加組合員は事前に休業日を店頭で周知するため、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者は休業日前に給油等を行えるほか、当該参加組合員の休業日に給油等を希望する需要者は、同一のSS過疎地内で休業していない他の参加組合員のSSで給油等ができることから、需要者の利益を不当に害するものではないこと

ウ 事業者間で不当に差別的な内容となっていないこと

から、独占禁止法上問題となるものではない。」

と述べられています。

でも、本件のような取り組みで一番問題になるのは、あるSSが休業している日に、競争がなくなるため、他のSSが価格を引き上げることが可能となり、カルテルなのではないか? という点ではないかと思います。

たとえば、ある市にSSが2つしかない場合、1つが休めば他方の独占になります。

(この際、もっと広い地理的市場が画定できるのではないか、といった論点は捨象します。)

でも、上記のとおり、公取委が、「競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものとはいえない」理由として挙げているのは、

「(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと

(イ) 調整した休業予定日に休業する参加組合員は事前に休業日を店頭で周知するため、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者は休業日前に給油等を行えるほか、当該参加組合員の休業日に給油等を希望する需要者は、同一のSS過疎地内で休業していない他の参加組合員のSSで給油等ができることから、需要者の利益を不当に害するものではないこと」

の2つだけで、一方が休みの日には他方が値段を上げられるという点については触れていません。

また、(ア)では、

「(ア) 各参加組合員の休業予定日を調整するにすぎず、各参加組合員が自己の休業予定日とされた日に営業することは妨げられず、各参加組合員の営業日や休業日の設定の自由を拘束するものではないことから、参加組合員の競争手段を制限するものではないこと」

とされていますが、本件取組では、

「ウ 休業予定日に休業する参加組合員は、事前に休業日を店頭で周知し、当該参加組合員のSSでの給油等を希望する需要者が、休業日前に給油等を行えるようにする。」

とされているので、そのような事前に休業日と告知した日に、ライバルが値段を上げようとしたから急遽開店営業することができるかというとかなり疑問です。

仮に急遽開店したとしても、事前に休業だと告知しているのですから、お客さんが来るのかも疑問です。

しかもこの相談事例では、何日休むのかといったことについて、何ら触れられていません。

おそらく週1回とか、2回とか、くらい休むのが常識的なのではないかと思われ、私もそういう頭で最初は読んでいたのですが、よく考えてみると、たとえば2つあるSSのうち1つが月水金休み、もう1つが火木土日休む、ということも、少なくともこの相談事例では禁止されていません。

でもそこまでいくと、かなりカルテルのにおいがするような気がします。

なので、本件取組では、

「イ X組合は、休業日調整に任意で参加する組合員(以下「参加組合員」という。)の間で、休業日が重ならないように各参加組合員が休業できる日(以下「休業予定日」という。)を調整する。」

というのにとどめることが大事で、それ以上に、各会員の間で、「うちは月水金休むから、おたくは火木土日休んでね」みたいなやりとりをしてはいけない、という点が大事なのではないかと思います。

それでもさらに考えてみると、たんなる「調整」であってもカルテルっぽくなることはありうるわけで、たとえば2社あるSSの両方が日曜日に休みたいと希望すると、X組合が一方に、「あちらも日曜日休みたいといっているので、休みは土曜日にずらしてもらえませんかね。」という調整をするわけです。

そうすると、調整を依頼されたSSは、「ああ、あちらは日曜日には休むんだ」ということが必然的にわかるわけで、日曜日には値段を上げることが理屈のうえではできるわけです。

これに対して、休みの希望がかぶらず、具体的な調整がなされない場合には、一方のSSは他方がいつ休むか知りませんから、(そして、単独の判断で休んだ日に売り上げがあがらず市場への供給量が減ること自体は、独禁法上何の問題もありませんから)競争制限は起こらないことになります。

そして、この調整の効果として、SSは枕を高くして休業できる、ということになります。

というわけで、たんなる「調整」であっても、具体的な調整(一方の休業日をずらすこと)が行われるかぎりは、どうしても競争制限効果の発生は避けられないのではないかと思われます。

ちなみに、この相談事例をみて頭に浮かんだのが、拙著『米国反トラスト法実務講座』でも紹介した、

In re Detroit Auto Dealers Association, 117 F.T.C. 419 (1994)

という事件で、この事件では、デトロイトの複数の自動車ディーラー(被審人)が、ショールームの営業時間を制限し、夜間営業は月曜日と木曜日のみ、土曜日は休業とすることを合意していたところ(日曜日は法律により営業禁止であった)、FTCは、かかる合意がFTC法5条に違反するとして調査を開始し、同意審決で、被審人ディーラーは原則として週62時間以上営業することとされました。

つまり、競争者間で営業時間や営業日を調整することはカルテルなわけで、本相談事例も、事業者団体が間に入って調整するという違いこそあれ、見ようによってはそれと紙一重であるわけです。

そのように考えてみると、本件が問題ないとされる最大の理由は、やはり、

「ア SS過疎地におけるSSネットワークの維持のために必要な方策の一つと考えられる経営者を含めた働き手の身体的負担の軽減と、SS過疎地内における燃料供給体制の確保との両立を図るという取組の目的が正当であること」

という、いわば地域社会に不可欠なネットワークの維持と働き方改革の両立という、社会公共目的であることにあると考えるべきではないか、と思われます。

つまり、本相談事例は、こういう社会公共目的の事例意外には一般化はできない、ということです。

それと、SS過疎地では、各SSが地理的に差別化されていて(つまり、SS間の距離が遠くて)、そもそも価格競争があまりはたらいていないのではないか、ということも、実は結論に影響しているのではないかと思います。

もし、ガソリンのような商品差別化のない商品で、しかも地理的差別化もないとすると、休業日を調整したら価格への影響は避けられません。

ですが、地理的差別化がされているためにもともと価格競争がさほどはたらいていないのであれば、休業日を調整したとしても価格への悪影響は限定的だ、ということになりそうです。

(でも、SS過疎地だから地理的に差別化されている(=お互いの距離が多い)というのもかなり想像が入っていて、ひょっとしたら、高速のインターを降りたところに隣り合ってSSが2つあるSS過疎地というのも、あるかもしれません。そうすると、SS過疎地だから地理的に差別化されているというのも、かなり眉唾物です。)

このように、もろもろ想像力をはたらかせると、本相談事例の結論はこれでいいと思うのですが、理屈の分析としては、ちょっと甘いといわざるをえません。

それに、令和元年相談事例集事例6(「化学品メーカーの団体による会員保有工場の定期修理に関する日程調整」)では、

「定修会議においては,定期修理の実施日程に係る情報がX協会の会員間で共有されることのないよう,当該情報の遮断措置を講ずる」

と当事者が主張していることを踏まえて、

「(イ) X協会の会員間で情報が共有されないための措置を講じた上で定期修理の実施日程の調整のみを行うという取組は,前記(ア)の目的に照らして合理的に必要とされる範囲内のものである」

として独禁法上問題ないと回答していることからすると、本件(ガソリンスタンドの件)で、休業日を事前にSSで告知する(当然、ライバルSSも知り得るでしょう)からOK、と言っているのと矛盾するような気もします。

(ただ、この点は、事例集にも書いてある通り、SSの休業日は事前に告知しておいたほうが需要者が休業日を避けて給油できるので需要者に便宜であるのに対して、化学品の定期修繕については、需要者は買いだめをしにくいけれども、メーカー間の玉の融通によって従来から取引のあるメーカーから買い続けることができるので、需要者が定修の日程を事前に知らなくてもさほど困らない(買いだめする必要もない)、という違いがあるのかもしれません。)

相談事例を読むときは、こういう批判的な目で読むことが大事だと思います。

2025年7月 3日 (木)

100円のクーポンの価額は100円か(消費者庁景品類Q&A46番と「景品類の価額の算定基準について」との矛盾)

消費者庁の景品類Q&A46番(「抽選で値引券を提供する場合」)では、

「当店では、一定期間に500円以上購入した者を対象に、次回以降当店で使用できる値引券を抽選で提供したいと考えています。自身の店舗で使用できる値引券は景品類ではないので、景品規制の対象とはなりませんか。」

という設問に対して、

「自己の供給する商品又は役務の取引において、取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)は、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益に該当し、景品類に含まれず、景品規制の対象とはなりません。ただし、対価の減額であっても、懸賞による場合は値引とは認められず景品類に含まれることとなり、一般懸賞の規制の対象となります。

本件は、500円が取引の価額となりますので、提供できる値引券の最高額は20倍の10,000円となり、また、提供する値引券の総額を懸賞に係る売上予定総額の2%以内に収める必要があります

なお、値引券が割引率表示(〇%値引券)の場合、割引額の上限額を設定しないと、一般懸賞の規制の範囲を超える可能性があります。

(参照)

と回答されています。

今回注目したいのは、設問の本題である景品規制の対象となるかどうかではなく、

「本件は、500円が取引の価額となりますので、提供できる値引券の最高額は20倍の10,000円となり、また、提供する値引券の総額を懸賞に係る売上予定総額の2%以内に収める必要があります。」

の部分です。

(なお、上記Q&Aのとおり、割引券は総付の場合総付規制の対象外なので、実際に問題になるのは懸賞で割引券を提供する場合です。)

この回答は、割引券を景品類として提供する場合の割引券の「価額」は、割引券の券面額、つまり、100円の割引券であれば100円、ということを、当然の前提にしているといえます。

しかし、果たしてそれで正しいのでしょうか。

この点については、「景品類の価額の算定基準について」の1項では、

「1 景品類の価額の算定は、次による。

(1) 景品類と同じものが市販されている場合は、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入するときの価格による。

(2) 景品類と同じものが市販されていない場合は、景品類を提供する者がそれを入手した価格、類似品の市価等を勘案して、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入することとしたときの価格を算定し、その価格による。」

とされています。

つまり、景品類の価額は、「それを通常購入するときの価格」または「それを通常購入することとしたときの価格」です。

なので、クーポンを景品類として提供する場合は、クーポンを「通常購入するときの価格」が、景品類の価額になるはずです。

少なくとも、「景品類の価額の算定基準について」では、景品類の提供が受ける者が得られる便益や満足度(経済学でいえば「効用」)を基準にしていないことは、明らかなように思われます。

それなのに、100円のクーポンの景品類としての価額を100円だとすることは、まさに、クーポンから得られる効用(=値引額)を景品類の価額にしてしまっている、という間違いを犯しているといえます。

ただ、クーポンが景品の場合に、「景品類〔=クーポン〕と同じものが市販されている場合は、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入するときの価格による」といわれても、「クーポンなんて通常購入できるのか?」「できるとしていくらなの?」という疑問が沸きます。

ですが、世の中には、クーポンおまとめサイトなるものがあり、例えば「クーポンサイト.com」というサイトでは、Uberとかアマゾンとか、いろいろなサイトで使えるクーポンを無料で配っています。

ということは、クーポンは、物によっては無料だ、ということも、ありえないことはないように思われます。

少なくとも、消費者庁Q&A46番の、割引券の券面額を景品類としての割引券の価額とするのは、理論的には誤りであると言わざるを得ないと思います。

とはいえ、似たようなクーポンが無料で配られているから、これから配ろうとしているクーポンの景品類としての価額は0円だ、というのも、なかなか勇気がいると思われます。

他方で、100円のクーポン券をメルカリで100円で買う人もいないでしょうから、クーポンの券面額がクーポンの景品類の価額だ、というのも、割り切りすぎに思われます。

そこで、今メルカリで、「クーポン」で検索したら、「オンワード ファミリーセール 東京 クーポン 300円×3枚 2025年夏」が、600円で出品されていました。

つまり、額面900円のクーポンを600円で出品しているわけです。

あくまで出品価格なので、取引成立価格はもっと低くなるかもしれません。

私はクーポンが嫌い(面倒、要らない買い物をしそう、ちまちまクーポンをためるのは男らしくない、等々)なので(Sex and the Cityのファンの方なら、Season 2のEpisode 10「The Caste System」で、高級レストランでクーポン券を使おうとしたスティーブを、ミランダが冷たい目で見つめるシーンを思い出すかもしれません。)、300円の利益を得るためにメルカリでクーポンを買う人の心理はよく理解できないのですが、ともかく、一定の手間はかかるわけですから、券面額から割り引かないと取引が成立しないのは当然でしょう。

ということから考えても、Q&A46番は「景品類の価額の算定基準について」と矛盾しており、間違っていると言わざるを得ないと思います。

 と、ここまで書いておきながらなんですが、では実際に、懸賞でクーポンを配るキャンペーンにおいて、Q&Aにはっきり書いてあることを無視して、このクーポンの市場価格はいくらだと決めて配って大丈夫なのか、というと、実に悩ましいところです。

100円のクーポンは100円、という考え方は、わかりやすく、かつ、ある意味で常識的でもあり(私も最近までまったくこの論点に気づきませんでした)、絶対におかしいとまでは言えないようにも思えるからです。

これまでこのブログで、消費者庁のQ&Aが間違っていることは何度も指摘してきましたが、Q46のこの部分については、絶対間違っているとまでは断言しにくい、というレベル感です。

あと、割引券の景品類としての価額は、Q46の本題ではないですから、たぶん書いた人も、そもそも論点として意識していなかった可能性はあります。

正面からこの点を尋ねれば、違った答えが返ってきたかもしれません。

ただ私の推測では、その可能性にはあまり期待できないように感じています。

つまり、消費者庁に事前相談したら、きっと「100円のクーポンの景品類としての価額は100円」と言われてしまいそうな気がします。

それでも、ぜひトライしたいという方は、この記事を参考にトライしてみていただければと思います。

2025年7月 2日 (水)

2025(令和7)年下請法改正の経過措置

令和7年改正下請法附則(令和七年五月二三日法律第四一号)2条1項では、

「(下請代金支払遅延等防止法の一部改正に伴う経過措置)

第二条 第一条の規定による改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

(以下この条において「支払遅延等防止法」という。)

の規定は、

この法律〔「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」〕の施行にした行為であって

〔①〕新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者

(同項第一号〔3億超製造委託〕

〔2号 3億以下製造委託、3号 5000万超情報成果物・役務〕

から第四号〔5000万円以下情報成果物・役務〕

までに該当する者に限る。)

による

同条第一項に規定する製造委託

(同項に規定する型

(金型を除く。)

又は同項に規定する工具の製造に係るものに限る。)

及び

〔②〕同条第五項に規定する特定運送委託

並びに

〔③〕同条第八項に規定する委託事業者

(同項第五号〔300人超〕

及び

第六号〔100人超〕

に該当する者に限る。)

による

同条第六項に規定する製造委託等

に該当するものについては、

適用しない。」

と規定されています。

ここで、「この法律の施行にした行為」の「行為」というのが何を指すのかというと、附則2条1項は、

「施行にした行為であって」・・・①「製造委託」、②「特定運送委託」、③「製造委託等」「に該当するもの」

という構造になっていますので、「行為」は「製造委託」等に該当しうるものである、と理解できます。

そして、例えば新法2条1項では「製造委託」は、

「事業者が・・・製造を他の事業者に委託すること

というふうに、「委託すること」と定義されています。

ということは、附則2条1項の「行為」は「委託すること」、つまり発注行為を意味することになります。

「委託すること」が発注行為を意味すると解することは、例えば新法4条で、

「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、・・・明示しなければならない。」

とされていること(つまり、「製造委託等をした場合は、直ちに」というのは、発注後直ちに、としか読めないこと)とも整合します。

なので、附則2条1項の、

支払遅延等防止法・・・の規定は、この法律の施行にした行為であって・・・①「製造委託」、②「特定運送委託」、並びに③「製造委託等に該当するものについては、適用しない。」

というのは、新法施行前に発注された製造委託等には適用されない、という意味になります。

つまり、新法施行前に発注されたかどうかが問題なのであって、新法施行前に遵守事項違反行為(例えば受領拒否)がなされたかどうかが問題なのではありません。

なので、新法施行前に発注していた①の「製造委託」、②の「特定運送委託」、③の「製造委託等」については、新法施行後に遵守事項違反行為がなされても、新法の規定は適用されない、ということになります。

では、「①の「製造委託」、②の「特定運送委託」、③の「製造委託等」」の具体的内容をみていきましょう。

「①の「製造委託」」というのは、

「〔①〕新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者

(同項第一号〔3億超製造委託〕

〔2号 3億以下製造委託、3号 5000万超情報成果物・役務〕

から第四号〔5000万円以下情報成果物・役務〕

までに該当する者に限る。)

による

同条第一項に規定する製造委託

(同項に規定する型

(金型を除く。)

又は同項に規定する工具の製造に係るものに限る。)」

です。

つまり、資本金基準の委託事業者が新法施行前にした、金型を除く型および工具の製造委託には、新法は適用されません。

金型以外の型と工具については、新法で初めて規制対象になったので、発注時点ではこれらは規制対象外だったので、新法が適用されないとするこの経過措置は当然でしょう。

次に、「②の「特定運送委託」」というのは、①のところから主語を借りてきて補うと、

「新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者

(同項第一号〔3億超製造委託〕

〔2号 3億以下製造委託、3号 5000万超情報成果物・役務〕

から第四号〔5000万円以下情報成果物・役務〕

までに該当する者に限る。)

による

・・・

〔②〕同条第五項に規定する特定運送委託

です。

つまり、資本金基準の委託事業者が新法施行前に発注した特定運送委託には、新法は適用されません。

資本金基準の委託事業者は旧法(現行法)でも規制対象だったわけですが、発注時(新法施行前)にはそもそも特定運送委託は規制対象ではなかったのですから、新法が適用されないとするこの経過措置も当然です。

最後に、「③の「製造委託等」」というのは、

「〔③〕同条第八項に規定する委託事業者

(同項第五号〔300人超〕

及び

第六号〔100人超〕

に該当する者に限る。)

による同条第六項に規定する製造委託等

ですから、従業員数基準の委託事業者が新法施行前に発注した製造委託等(=「製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託及び特定運送委託」)には、新法は適用されません。

つまり、従業員数基準の委託事業者が新法施行前にした発注には、新法は一切適用されません。

旧法(現行法)下では、従業員数基準の親事業者なるものはそもそも存在しなかったので、これも当然の経過措置といえます。

次に、附則2条2項では、

「2 支払遅延等防止法第四条〔旧3条書面〕、第五条〔受領拒否等遵守事項〕、第六条第二項〔減額の遅延利息〕及び第十条〔勧告〕の規定は、

この法律の施行にした

新支払遅延等防止法第二条第六項に規定する製造委託等について適用し

この法律の施行にした

〔「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」〕第一条の規定による改正前の下請代金支払遅延等防止法

(次項において「旧支払遅延等防止法」という。)

第二条第五項に規定する製造委託等については、なお従前の例による。」

と規定されています。

このうち、前段では、

「2 支払遅延等防止法第四条〔旧3条書面〕、第五条〔受領拒否等遵守事項〕、第六条第二項〔減額の遅延利息〕及び第十条〔勧告〕の規定は、

この法律の施行にした

新支払遅延等防止法第二条第六項に規定する製造委託等について適用し、」

と規定されています。

つまり、新法の4条書面(旧3条書面)、遵守事項(新法5条)、減額の遅延利息(新法6条2項)、勧告(新法10条)の規定は、新法施行後に発注された製造委託等に適用され、新法施行前に発注した製造委託等には適用されない、ということです。

では新法施行前に発注した製造委託等についてはどうなるのかというと、附則2条2条後段では、主語を前段から借りると、

支払遅延等防止法第四条〔旧3条書面〕、第五条〔受領拒否等遵守事項〕、第六条第二項〔減額の遅延利息〕及び第十条〔勧告〕の規定は・・・

この法律の施行にした

・・・旧支払遅延等防止法・・・

第二条第五項に規定する製造委託等については、なお従前の例による。」

とされています。

つまり、新法の4条書面(旧3条書面)、遵守事項(新法5条)、減額の遅延利息(新法6条2項)、勧告(新法10条)の規定は、施行に発注した製造委託等には適用されず、旧法(現行法)3条(3条書面)、4条(遵守事項)、7条(勧告)が適用される(「なお従前の例による」)、ということです。

最後に、附則2条3項では、

「3 この法律の施行

旧支払遅延等防止法第七条の規定によりされた勧告

(この法律の施行

前項の規定によりなお従前の例によりされた勧告を含む。)

は、

支払遅延等防止法第十条の規定によりされた勧告とみなす。」

と規定されています。

なので、旧法(現行法)下でなされた勧告は、新法下でも効力を失うことはなく、勧告の効果は新法11条(内容は旧法8条と同じ)に従うことになります。
というわけで、改正下請法の経過措置は、まずまず、常識的な内容なのではないかと思います。

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