流取ガイドラインの価格維持効果の「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」の意味
流通取引慣行ガイドラインでは、
「「価格維持効果が生じる場合」とは,
非価格制限行為により,
当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,
当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。」(第1部3⑵イ)
とされています。
ここで注意すべきなのは、
「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」
という部分です。
つまり、価格維持効果が生じるのは、たんに値段が上がる状態になるだけでなく、取引相手間の競争がさまたげられることがその値上がりの原因になっていることが必要なのです。
ですので、価格維持効果という略語は少々不親切で、ほんとうは、「取引先間の競争減殺による価格維持効果」とでも呼ぶべきものです。
たとえば、メーカーが意図的に供給数量を絞ると、市場の需給関係から、当然、価格は上がります。
ですが、メーカーが、テリトリー制など、販売店間の競争を制限する行為をしていない場合には、
「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」
の要件を満たしません。
よって、
「価格維持効果が生じる場合」(価格維持効果)
という要件を満たしません。
つまり、メーカーは、小売業者間の競争を制限しない限り、供給数量を減らして価格を上げることを、何ら禁止されません。
何個売るかを決めるのはメーカーの自由ですから、これは当然のことです。
この、数量を決める自由をメーカーに認めないと、小売業者が要求するだけの数量をメーカーは供給しなければならないことになり、明らかに不当です。
取引相手が欲しがるだけ供給しないといけない、とか、そのようなことは、競争法に関係がありません。
ほかには、メーカーが、商品の販売先を個人に限る(法人には売らない)という制限を小売店に課したとしても、やはり、
「当該行為の相手方〔=小売業者〕とその競争者〔=他の小売業者〕間の競争が妨げられ」
ていないので、価格維持効果はありません。
ここで、
「小売業者は、『法人に売る競争』を制限されているのだから、『当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ』ているのではないか?」
という疑問を持つ人がいるかもしれませんが、そうではありません。
というのは、メーカーは、自分の商品を個人に販売するのか法人に販売するのかを、自由に決めることができてしかるべきだからです。
そして、メーカーが、その商品は法人には売らないと決めたら、小売業者間にはそもそも法人に販売するという競争がありません。
もともと小売業者間の競争がないわけですから、「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」ることも、ありません。
「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」るというのはどういう場合かを、テリトリー制を例に説明します。
厳格なテリトリー制では、テリトリーAを担当する小売業者aは、テリトリーA内に所在する需要者にしか販売できず、テリトリーBを担当する小売業者bは、テリトリーB内に所在する需要者にしか販売できません(そのようにメーカーが指定します)。
そのため、テリトリーA内に所在する需要者に対する小売業者aと小売業者bの間の販売競争が起こりません。
つまり、
「当該行為の相手方〔=小売業者a〕とその競争者〔=小売業者b〕間の競争が妨げられ 」
ていることになります。
これが、「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ 」の意味です。
ですので、「転売ヤーに販売しないこと」という制限も、「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ 」という要件を満たしません。
メーカーが自らの権利として転売ヤーへの販売をしないと決めている以上、小売御者間に「転売ヤーに販売する競争」というものがはじめから存在しないからです。
価格への影響という観点から考えても、一部の需要者層に供給しないという条件は、市場への供給数量が一定であれば、むしろ価格を引き下げることになります。
というのは、かかる条件によって買えない需要者がいるということは、市場での当該商品に対する総需要が減るので、供給量が一定なら、需給バランスにより価格は下がるからです。
実際には、かかる需要量の減少を見越してメーカーは(かかる制限がない場合に比べて)供給数量を減らすでしょうから、価格は下がらないこともありえます。
価格が上がるか下がるかは、全需要者の需要の弾力性と、条件を満たす需要者だけの需要の弾力性を比べて、条件を満たす需要者だけのグルーブの需要の弾力性のほうが大きければ当該条件により価格は下がるでしょうし、小さければ価格は上がるでしょう。つまり、価格が上がるか下がるかは、一概にはいえません。
いずれにせよ、条件を付けること自体でで価格が上がるとはいえない、ということは変わりません。
ここで一点、注意事項は、特定の需要者に売らないと決めたからには、メーカーは、自分も売ってはいけない、ということです。
たとえば、法人には売らない、という条件を付ける場合、メーカー自身が法人に売っていると、少なくとも以上のような理屈は成り立ちません。
法人に対するメーカーと販売業者間の販売競争を制限していることになるからです。
(ただし、メーカー自身が特定の顧客に対する販売は自分が担当(留保)して、それ以外の需要者は販売店に任せる、ということはよくあり、その場合はケースバイケースでの判断となりますが、肌感覚としては、問題にならないことが多いです。)
ガイドラインの、
「当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」
という文言でいえば、「その競争者」がメーカーであってもいい、ということです。
この価格維持効果の言い回しは、競争の実質的制限の表現をそのまま持ってきているので、立案担当者が「その競争者」に行為者自身も含まれることを意識していたかというと、おそらく意識していなかったんではないかと思いますが、ともあれ、文言上は「その競争者」にメーカー自身を含ませることに何の問題もありません。
もちろん、メーカーが、自らの判断で、すべて直販に切り替えて、販売業者との取引をやめる、ということをしても、何の問題もありません。
メーカーが、販売店を1社に絞る、というのも、同様に問題ありません。
(ただ、たとえば、2つある販売店のうち安売りをしているほうの契約を切る、となると、再販売価格拘束っぽくなるので別論です。)
独禁法ではよくある理屈なのですが、今ある状態(例えば、複数の販売店の存在)を前提にして、起こるべき競争を妨げてはいけない、というレベルで独禁法は介入するのであり、そもそも競争を起こさない(例えば、もっぱら直販にすることにより販売店間競争を起こさせない)、ということが独禁法上問題になることはありません。
まとめると、価格維持効果というのは、あくまで取引先間の競争を制限することによる価格維持効果なのであって(何度も言いますが、流取ガイドラインにもそう書いてあります)、そのことを忘れてはいけません。
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