フリーランス法初の勧告の衝撃(小学館・光文社)
小学館と光文社とが2025年6月17日にフリーランス法で勧告を受けました。
同法初の勧告です。
この勧告は、下請法の感覚からすると、かなり衝撃です。
まず、勧告が出てあらためて実感したのが、下請法と異なりフリーランス法では、発注書の交付義務違反(3条)で勧告が出る、ということです。
つまり、下請法で勧告が出るのは4条の禁止行為に違反したときだけで、3条書面交付義務違反は指導だけです。
そもそもフリーランス法と下請法でこのような違いが出る理由は、両法の体系的な位置づけの違いにあります。
下請法は、基本的に独禁法の特別法です。
なので勧告の効果は、勧告に従うかぎり独禁法の優越的地位の濫用で排除措置命令を受けることがない、というものです。
つまり、下請法8条(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)では、
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条及び第二十条の六の規定は、公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、親事業者がその勧告に従つたときに限り、親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
と規定されています。
これに対して下請法の3条書面交付義務は、独禁法とは直接関係がありません。
発注書を交付しないことが優越的地位の濫用にあたるというのは、さすがに無理です。
なので、3条書面の交付義務違反は、勧告の対象になっていないのです(勧告に従わず3条書面を出さないからという理由だけで独禁法の調査に移行するわけがないので)。
これに対してフリーランス法は、それ自体が独自の法律です。
フリーランス法の勧告は、それに従えば独禁法で命令を受けないという形で独禁法とつながっているわけではないのです。
なので、フリーランス法では、発注書の不交付が優越的地位の濫用に該当するかどうかなど気にする必要もなく、勧告の対象にすることができたのです。
勧告の効果も、勧告に正当な理由なく従わないと命令に移行するというだけで(フリーランス法9条)、独禁法とはつながっていません。
こういう、勧告→命令、という流れは他の多くの行政法規にもあり、きわめてオーソドックスなものです。
下請法が異端なのです。
というわけで、フリーランス法では発注書の交付義務違反だけで勧告が出ます。
フリーランス法8条1項にも、
「公正取引委員会は、業務委託事業者が第三条の規定〔特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等〕に違反したと認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに同条第一項の規定による明示又は同条第二項の規定による書面の交付をすべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」
と、はっきり書いてあります。
でも、発注書の交付義務なんて世の中にはいくらでもあるでしょうから、それだけで勧告が出てしかも公表までされるというのは、事業者にとっては脅威です。
下請法では指導(非公開)ですむのと比べると、天と地ほどの差があります。
なので、フリーランスに対する発注書の交付については、下請法の場合よりもはるかに徹底しないといけない、ということになります。
・・・というのが理屈のうえでのアドバイスですし、そんなに間違ってはいないと思うのですが、もう少し現実的になると、書面の交付義務違反だけでフリーランス法の勧告が出るのかというと、きっと出ないのではないか、という気もします。
書面の交付義務って、要は形式的な違反であって、それだけで勧告まで出すのはいかにも厳しすぎるからです。
下請法とのバランスを考えると、なおさらです。
実際、今回の小学館と光文社も、発注書交付義務違反という手続規定違反だけでなく、支払遅延(フリーランス法4条5項)という実体規定違反をしています。
・・・と、以上のように考えると、「まあ実体規定違反もしたのだから、勧告も仕方がないか。」という思いが一瞬頭をよぎります。
ですが、そのように考えるのは甘いと思います。
というのは、両社とも、発注書を交付していないために、フリーランス法4条2項の、
「2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。」
という規定に基づき、成果受領日が支払期日とみなされ、その結果当然のように支払遅延が認定されているからです。
つまり、発注書の不交付、即支払遅延、即勧告、というように一直線につながっています。
そもそも下請法では、支払遅延の勧告というのはほとんど例がありません。
令和元年以降をみると、令和2年2月14日のレリアンに対する勧告しかありません。
(「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」28頁以下に、「直近5年分」の勧告一覧があります。)
これにはわけがあって、下請法では勧告時点で支払い遅延の状態にないと勧告ができず、支払ってしまえば勧告ができないからです。
それは、下請法7条〔勧告〕1項で、
「公正取引委員会は,親事業者が第4条第1項・・・第2号〔支払遅延〕・・・に掲げる行為をしていると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の給付を受領し,その下請代金若しくはその下請代金及び第4条の2の規定による遅延利息を支払い,又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。」
と規定されていて、支払遅延を「している」ときにしか勧告できない(支払ってしまったら勧告できない)と規定されているからです。
なので、レリアンが支払遅延で勧告を受けたのは、最後までレリアンが違反事実を争っていたという特殊な事情によります。
ふつうは、公取委が調査に入った時点で支払遅延を指摘されたら、さっさと払ってしまうのです。
ところが、フリーランス法8条(勧告)2項では、
「2 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第四条第五項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに報酬を支払うべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」
とされ、「違反した」と過去形になっているので、弁済して遅延が解消したとしても、勧告が出ることになります。
まとめると、フリーランス法では発注書を交付しないとほぼ自動的に支払遅延になり勧告が出る可能性がある(さすがに全件ではないでしょうけれど)、ということです。
したがって、勧告が出る潜在的リスクは、フリーランス法のほうが下請法よりもはるかに高く、あとは公取のさじかげん次第、というところです。
少なくとも、たかが発注書の不交付だと、甘く見てはいけません。
1号案件をどれにするかは当局もいろいろと考えるでしょうから、下請法のような代金減額の事案ではなく、あえてたんなる支払遅延で勧告を出したということは、「今後もやるぞ」というメッセージだと受け取っていいと思います。
それに、発注書不交付による自動的な支払遅延なら、掘ればいくらでも出てくるでしょうから、選ぶに困らない、という事情もあったかもしれません。
しかも、下請法なら、勧告は代金減額が大半で、その減額が1000万円というのが勧告が出る一つの目安なのですが、小学館と光文社のフリーランス法の勧告では、遅延額が認定されていません。
ということは、遅延額が1000万円以下なら(それでも、減額幅ではなく遅延額なら、極めて低いバーですが)勧告にはならない、というようなこともない、といえます。
(かたや、遅延額や遅延期間が大きかったからこの2社が選ばれたのかもしれませんし、出版業界で問題が多いからこの2社が選ばれたのかもしれず、そのあたりはよくわかりません。)
フリーランス法の公取委パートの多くは下請法のコピペですが、支払遅延を解消しても勧告を出せるとか、細かいバグ取りのような修正がいくつかなされています。
今回、それがモロに利いてきた形です。
それから、冷静に考えてみると、個人相手のフリーランスに協賛金の支払いを求めるとかは、下請法に比べればあんまりなさそうだし、買いたたきは(少なくとも代金減額よりははるかに)たくさんありそうでも摘発が難しいですから、結果的に、フリーランス法では支払遅延の勧告が大半、ということになるかもしれません。
あともう1つ、2つの勧告に共通な内容として、小学館のほうを例にとると、
「イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者191名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、
フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項及び第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、
問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること」
という、調査とその是正が命じられています。
これは、下請法にはなかったことで、注目されます。
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