« 取引妨害の警告事例 | トップページ | ホテル15社に対する警告について »

2025年5月 8日 (木)

量産期間中の金型保管費用について

下請法上、量産期間終了後相当期間(実務的には1年)経過後に下請事業者に金型を無償で保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。

(細かく言い出すときりがないのですが、さしあたり、金型の所有権は親事業者にある場合を想定してください。)

関連する規制が下請振興基準にもあり、パートナーシップ構築宣言をした企業はこちらにも目配りをしないといけません。

では、量産期間中の金型保管費用も親事業者が負担しないといけないのでしょうか。

結論としては、負担する必要はないと考えます。

なぜなら、下請事業者が量産期間中に金型を手元に置いておく行為は、金型を「保管」させているのではなく、発注対象製品の製造行為の一部そのものであるからです。

つまり、製造もさせないしその予定もしばらくないのに金型を下請事業者のところに置かせておくのが「保管」させる行為なのであって、まさに製造に使っている金型が下請事業者の手元にあることだけを切り出して金型を「保管」させているとはいわない、ということです。

このことは、「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月)17頁で、「1.基本的考え方 」として、

「型保管の主たる目的は、単にスペースを用意して型を置いておくことではなく、部品の生産需要に応じ型を取り出し生産を再スタートさせる状態を保つことにある。かかる観点から、型保管は、これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動を型保管とみなす。」

と記載されていることからもあきらかです。

(余談ですが、この部分は、「型保管は・・・型保管とみなす」となっていて、主語と述語がかみあっていませんね。最初の「型保管は、」は、いらないでしょう。)

つまり、

「型保管は、これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動を型保管とみなす。」

ということは、そのような「これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動」ではない活動は、そのような「谷間」の活動でない活動は、「型保管」ではない、といえます。

このように論理的にぶった切る読み方をすることに躊躇を覚える人がいるかもしれませんが、少なくとも同報告書が想定しているのは「谷間」の活動にかぎられることは読み取れます。

もう少し、量産期間中の金型保管について、親事業者が負担を要しない根拠を記しておくと(「量産期間中」で検索するといろいろと出てきます)、まず、調べた中で量産期間中の金型保管について最初に言及したと思われる公取および中企庁の関連文書は、平成28(2016)年改正振興基準で、その新旧対照表をみると、

「5) 型の保管・管理の適正化(主に物品の製造受託等の場合にあって、金型、木型などの型を使用する下請取引)

(1)親事業者は、下請事業者と次の事項について十分に協議した上で、できる限り、生産に着手するまでに双方が合意できるよう努めるものとし、それが困難な場合には、生産着手後であっても都度協議できるようにするものとする。そのため、予め、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 型を用いて製造する製品の生産数量や生産予定期間(いわゆる「量産期間」)

量産期間の後に型の保管義務が生じる期間

量産期間中に要する型の保守・メンテナンスや改造・改修費用が発生した場合の費用負担

④ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担

⑤ 試作型(追加発注分を含む)である場合にはその保管期間や保管費用の負担

(2)親事業者は、前項の量産期間の後、補給品や補修用の部品の支給等のために型保管を下請事業者に求める場合には、下請事業者と十分に協議した上で、双方合意の上で、次の事項について定めるものとする。なお、十分な協議ができるよう、予め、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 下請事業者に型の保管を求める場合の保管費用の負担

② 型の保管義務が生じる期間

③ 型保管の期間中又は期間終了後の型の返却又は廃棄についての基準や申請方法(責任者、窓口、その他手続き等)

④ 型保管の期間中に、生産に要する型のメンテナンスや改修・改造が発生した場合の費用負担

⑤ 再度型を製造する場合の費用負担」

というのがあります。

(同振興基準は、下請法テキスト平成29年版にも載っています。

参考までに、平成28年版あたりから毎年の下請法テキストから振興基準の改正経緯をひろっていくと、

昭和46年3月12日 通商産業省告示第 82号

(改正) 平成15年11月4日 経済産業省告示第370号

(改正) 平成25年9月19日 経済産業省告示第198号

(改正)平成28 年12 月14 日 経済産業省告示第290 号

(改正) 平成30 年12 月28 日 経済産業省告示第258 号

(一部改正) 令和2年1月31 日20200130 中第1号

※要旨公表 令和2年4月30 日経済産業省告示第102 号〔令和2年テキストより〕

(一部改正)令和3年3月31日20210324中第2号

(一部改正)令和3年7月30日20210715中第3号

令和4年7月29日20220722中第2号〔令和4年テキストより〕

令和6年3月25 日 20240312 中第5号〔令和6年テキストより〕)

ここではあくまで、量産期間中の保守費用等を「協議できるようにする」としているだけであって、親事業者が負担すべきとはされていません。

これが、令和2年改正振興基準新旧対照表によると、

「(1)親事業者は、下請事業者と次の事項について十分に協議した上で、生産に着手するまでに双方が合意するよう努めるものとし、それが困難な場合には、生産着手後であっても都度協議するものとする。そのため、あらかじめ協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 型を用いて製造する製品の生産数量や生産予定期間(いわゆる「量産期間」)

② 量産期間の後に型の保管義務が生じる期間

量産期間中に要する型の保守・メンテナンスや改造・改修費用が発生した場合の費用負担

④ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担

⑤ 試作型(追加発注分を含む)である場合にはその保管期間や保管費用の負担」

の部分がごっそり削られて、代わりに、

「5) 型取引の適正化(主に製品の製造委託等の場合にあって、金型、樹脂型、木型などの型や治具を使用する取引)

親事業者及び下請事業者は、型取引の適正化のため、次号から第3号のほか、型取引の適正化について(令和2年1月17日付け20200110中第2号)に基づき、型取引を行うものとする。その際、型に係る取引条件の明確化のため、取り決め事項の書面化を進める参考例として示している同通達附属資料「型の取扱いに関する覚書」を活用するものとする。

また、国及び業界団体等は、実態把握やフォローアップ調査を行い、親事業者及び下請事業者がサプライチェーン全体で行う型取引の適正化の取組を推進していくものとする。

(1)取引内容別に実施する型取引の適正化の取組

親事業者及び下請事業者は、型取引の内容に応じて類型化した次のアからウの取引のうち、ア及びイの取引について、次表に基づき、型取引を行うものとする。なお、ウの取引にあっては、親事業者は、下請事業者に対し、型に対する指示や廃棄に関する制限等を行わないものとする。

ア 型のみ又は製品と型の双方を取引対象(請負等)とする取引

イ 取引の対象は製品であるものの、型についても、製品に付随する取引として型製作相当費の支払いや製作・保管等の事実上の指示を行う
取引

ウ 親事業者が、型そのものを取引対象としないで、かつ、型に関して、型製作相当費の支払いや製作・保管等の指示を全く行わず、下請事業者の判断で型管理を行う取引

〔以下、「次表」省略。〕」

という規定になっています。

ちなみに、上で省略した「次表」(令和2年改正振興基準)のうち、「型の保管に要する費用の支払い」の項目では、上記ア、イいずれの類型であっても、

「親事業者は、量産終了後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合は、型の保管に要する費用(土地・建物費、メンテナンス費、労務費等)を下請事業者に支払うものとする。

また、親事業者は、型を廃棄するに当たり、製品の残置生産の指示を行う場合には、必要な費用を下請事業者に支払うものとする(製品代金、製品の保管費用等)。」

とされており、親事業者が型の保管費用を負担すべきなのは「量産終了後」だとされています。

この点、下請法では、量産期間終了後相当期間(実務的には1年)経過後に無償保管させると不当な経済上の利益の提供要請にあたるとされており、振興基準では「量産終了後」であって相当期間経過の有無を問わないというようにも読めますが、そこまで厳しい読み方をする必要はなく、振興基準上も相当期間経過後に保管費用を払えばいいんじゃないかと思います。

さらに、同改正(令和2年改正)振興基準では、同改正前振興基準第4の5)(2)の、

「(2)親事業者は、前項の量産期間の後、補給品や補修用の部品の支給等のために型保管を下請事業者に求める場合には、下請事業者と十分に協議した上で、双方合意の上で、次の事項について定めるものとする。なお、十分な協議ができるよう、あらかじめ、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 下請事業者に型の保管を求める場合の保管費用の負担

② 型の保管義務が生じる期間

③ 型保管の期間中又は期間終了後の型の返却又は廃棄についての基準や申請方法(責任者、窓口、その他手続等)

④ 型保管の期間中に、生産に要する型のメンテナンスや改修・改造が発生した場合の費用負担

⑤ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担」

という部分もごっそり削除され、

「(2)各類型共通で実施する型取引の適正化の取組

① 型の廃棄・返却、保管に関する諸手続き

親事業者及び下請事業者は、型管理の適正化のため、次のイからハの手続きを行うものとする。その際、各産業によって、製品のバラエティや補給期間の長短など大きく特性が異なるため、実効的な取組とするために、当該実態に即していくことが重要であることに留意する。なお、下記における「量産終了」には、量産終了に類似する状況(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合など)も含むものとする。

イ.親事業者は、下請事業者に対し、量産期間から補給期間への移行が明確となるよう量産終了に係る連絡を遅滞なく行うものとする。

ロ.親事業者及び下請事業者は、型の廃棄・保管に関する諸条件の明確化と定期的な協議・連絡を行うものとする。

ハ.量産終了から一定年数経過した場合には、親事業者及び下請事業者は、廃棄を前提にした型の取扱いの協議を行うものとする。

② サプライチェーン全体への取組の浸透

親事業者は、下請事業者に対して自らの型取引の適正化の取組を行うとともに、自らの取組の効果をサプライチェーンの末端まで浸透さ
せるため、下請事業者に対し、取引先に対して型取引の適正化に取り組むよう働きかけを行うものとする。サプライチェーン各層の企業は、それぞれ不要な型の廃棄など型取引の合理化を図るものとする。

③ 知的財産・ノウハウの保護

イ.下請事業者の意図せざる型の図面やデータ流出の防止のため、親事業者及び下請事業者は、秘密保持契約を含めた型の図面やデータ
に関する取り決めを書面化するものとする。

ロ.親事業者が、下請事業者の型の図面やデータを利用する場合には、下請事業者に対して、型の製作技術・ノウハウに対する対価を支払
うものとする。」

という規定に置き換わっています。

(これは愚痴ですが、最近の振興基準って、ころころ変わりすぎですね。パートナーシップ構築宣言をしている企業は、これを毎年チェックしないといけないので、さぞかし大変でしょう。これで儲かるのは独禁法弁護士だけだと、皮肉の一つも言いたくなります。)

ここでも、量産期間中の保管費用については特段ふれられていないことがわかります。

ところで、この令和4年改正振興基準(令和4年7月29日20220722中第2号)は令和4年版下請法テキストにも載っていますが、第4の5⑴の表の「型の保管等に要する費用の支払い」という項目では、

「親事業者は、下請事業者に型を保管させる場合には、型管理の方法について当事者間で協議するとともに、当該結果を踏まえ、以下に掲げる項目を目安として、根拠資料に基づき実際に必要となる費用を算定した上で、保管に要する費用を支払うものとする

〔主要項目〕

①型の保管に係る土地・建物費及び外部倉庫費

②公租公課(固定資産税等)

③外部倉庫等からの運送費

④サビ取り、磨き、油差し、表面処理、メッキ処理等のメンテナンス費

⑤型の保管に使用する設備費(パレット、棚等)

⑥型の保管に使用する備品費(雨除けシート、ビニール等)

⑦型の保管、移動及び管理に係る労務費

〔補足項目〕

①インフラ整備費(重量のある金型を保管する場合において、一定の耐荷重が必要となるときに床の強化等を行うもの)

②耐震工事費(地震に備え、棚からの落下を防止するもの)

③型の移動に必要な設備(クレーン、フォークリフト等)の点検費及び維持費

④型管理に必要となるデータベース、情報システム等の構築費及び維持関連費

なお、上記の保管に関する費用の支払いは、量産期間中はもとより、量産終了(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況を含む。以下同じ。)後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。

また、親事業者は、型を廃棄するに当たり、製品の残置生産の指示を行う場合には、製品代金、製品の保管費用等の必要な費用を下請事業者に支払うものとする。」

と記載されていて、「量産期間中」も保管費用を支払うべきかのような規定になっていて、びっくりします。

この改正については、パブコメ61番に、

「・意見内容

「なお、上記の保管に関する費用の支払いは、量産期間中はもとより、量産終了(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況を含む。以下同じ。)後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。」を

「なお、上記の保管に関する費用の支払いは、 ・・・量産終了後はもとより、・・・生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況において、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。」

へと変更いただきたい。

・理由

量産期間中の保管に関する費用は量産単価に含まれる性格のものでああるため、量産期間中の保管料について規定する必要は無いものと考える。」

という、たいへんまともな意見が出されていて、これに対して中企庁から、

「「型取引の適正化推進協議会報告書においては、「型の型保管の主たる目的は、単にスペースを用意して型を置いておくことではなく、部品の生産需要に応じ型を取り出し生産を再スタートさせる状態を保つことにある。」としております。

量産期間中であっても、型を取り出し、再び、型を取り付けて生産を行う、ということはあり得るものです。

このため、ご意見の理由にあるように、量産期間中の保管に関する費用を量産単価に含めている取引もあるとは思いますが、量産期間中の保管料について規定する必要が無いと言い切ることはできないことから、原案のとおりといたします。」

という、なんとも支離滅裂な回答がなされています。

「量産期間中」におこなわれる、「型を取り出し、再び、型を取り付けて生産を行う」なんていう行為は、どうみても「量産単価に含めている」ものの典型ではないでしょうか?

というわけで、この、「量産期間中はもとより」という令和4年改正で入った文言は、不可解極まりないといわざるをえませんが、あろうことか最新版の振興基準(令和6年3月25 日 20240312 中第5号〔令和6年テキストより〕)では、第4の5(「5 金型、樹脂型、木型等の型又は治具に係る取引条件の改善」)⑴は、

「⑴ 親事業者及び下請事業者は、「型取引の適正化について」(令和2年1月17日 20200110中第2号)を踏まえ、「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月 型取引の適正化推進協議会)に掲げられている「型取引の基本的な考え方・基本原則について」に基づき、型(金型、樹脂型、木型等の型又は治具をいう。以下同じ。)に係る取引を行うものとする。その際、型に係る取引条件の明確化のため、取り決め事項の書面化を進める参考例として示している同通達附属資料「型の取扱いに関する覚書」の活用を推奨する。」

というように、ごっそり(こっそり?)と差し替えられています。

もちろん、「「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月 型取引の適正化推進協議会)の、

「3.型取引の基本的な考え方・基本原則について」

には、量産期間中の保管費用も負担すべきなどとは、ひとことも述べられていません。

具体的には、報告書p11の、

「○基本原則③-A-2:発注側企業による型の保管に要する費用の支払い」

では、

「発注側企業は、受注側企業に自己が所有する型を保管させる場合には、保管に要する費用を支払う。

量産終了後、製造する部品が補給部品となり、発注側企業が部品の発注数を減少させた後などに、発注側企業が型の廃棄の決定を行わない場合や受注側企業に型の保管を指示する場合は、あらかじめ定めた型に係る保管の取扱いに従い、型の保管に要する費用を支払う。

また、型を廃棄するに当たり、部品の残置生産の指示を行う場合には、そのために必要な費用を支払う(部品代金、部品の保管費用等)。」

とされており、保管料の支払いは量産終了後にかぎっています。

この報告書は令和元年12月のものなので、その後令和4年振興基準で突然出てきた「量産期間中はもとより」なんていう考え方が出てこないのは、当然と言えば当然です。

というわけで、令和4年改正の「量産期間中はもとより 」という記載は、たいへんはた迷惑でしたが、いまはそれも気にする必要はありません。

公権力は監視していないとこういうことを平気でする(パブコメで指摘されてもごり押しする)ということがわかる好例でした。

« 取引妨害の警告事例 | トップページ | ホテル15社に対する警告について »

下請法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 取引妨害の警告事例 | トップページ | ホテル15社に対する警告について »

フォト
無料ブログはココログ