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2025年5月

2025年5月14日 (水)

長崎の医療用ヘリ墜落死亡事故について

2025年4月6日、エス・ジー・シー佐賀航空(佐賀市)が運航する医療用ヘリが長崎県壱岐沖合で墜落し、3人が死亡する事故がありました。

同社のヘリは2024年7月28日にも、福岡県柳川市で、2人が死亡する事故を起こしています。

さらに、東京地裁民事8部令和4年2月10日判決(令和3年(行ウ)第4号及び令和3年(行ウ)第124号、朝倉佳秀裁判長)では、

「(ア)佐賀航空の運航又は整備した機体について,平成12年から平成21年までの9年間に,以下のとおり, 4件の航空事故が発生した。(甲22)

a 平成12年,佐賀航空が運航する航空機について,機長の判断および操作が適切でなかったことにより搭乗者が軽傷を負う事故が発生した。

b 平成16年,佐賀航空が運航する航空機が墜落し搭乗者が死亡する事故が発生した。運輸安全委員会の報告において,この事故の原因は,機長が空間識失調に陥ったことにあったとされている。

c 平成20年,佐賀航空が整備を請け負っていた航空機が墜落し搭乗者が死傷する事故が発生した。この事故の原因について,搭乗者の遺族は航空機の排気管に亀裂が入っていた点にあり,佐賀航空が定期検査時にこの亀裂を見落としたと主張していた。

d 平成21年,佐賀航空が運航する航空機が離陸後エンジンの停止により不時着する事故が発生した。運輸安全委員会の報告において,この事故の原因は,航空機のアイドル調整ねじの脱落にあったとされている。

(イ) 国土交通大臣は,国土交通省大阪航空局が平成22年9月8日から17日の聞に実施した立入検査の結果,佐賀航空の所有する航空機4機について,エンジンのシリンダー等の部品を記録に残さないまま交換していたことなど,整備管理体制に不適切な点があったため,平成22年9月22日,佐賀航空に対し,航空輸送の安全確保に関する業務改善勧告を行った。(甲23)」

という事実が認定されています。

この事故については、こちらの4月8日付のNHKの記事(「長崎 3人死亡のヘリ事故 何が起きたのか【Q&A】で詳しく」)が、比較的詳しく報じており、上記の過去の事故の一部についても、

「Q. 今回の運航会社では以前にも事故が起きているのか

A. 「エス・ジー・シー佐賀航空」では過去にも運航する機体で死亡事故が起きています。

2004年12月、遊覧飛行を終えたヘリコプターが有明海の海上に墜落し、3人が死亡しました。

去年7月には遊覧飛行を終えたヘリコプターが福岡県柳川市の農地に墜落し、2人が死亡しました。」

と報じています。

これだけ過去に事故を起こしていて、今回の事故が防げなかったのか、悔やまれます。

2025年5月13日 (火)

ホテル15社に対する警告について

2025年5月8日、公取委がホテル15社に対して、不当な取引制限の疑いで警告を行いました

公取委から公表された警告の概要は、

「⑴ 15社がそれぞれ運営する別表の「対象ホテル」欄記載の各ホテルは、

相互に、毎月の客室稼働率、客室平均単価、販売可能な客室1室当たりの収益、将来の予約状況、将来の客室単価の設定方針等

の情報を交換していた。

⑵ 15社の前記の行為は、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し同法第3条の規定に違反するおそれがあることから、公正取引委員会は、15社に対し、今後、前記と同様の行為を行わないよう警告した。」

という、簡単なものです。

5月8日付のNHKウェブサイトの、

都内大手ホテル運営の15社 独禁法違反のおそれ 公取委が警告

という記事によると、

「公正取引委員会によりますと、15社の担当者らは毎月、ホテルの宴会場や会議室で持ち回りで開かれる「FR会=フロント・リザベーション会」と呼ばれる会合に参加し、

客室の稼働率や平均単価、予約状況や将来の客室単価の設定方針などの内部情報を交換していたということです。

「FR会」は数十年前から開かれていて、実際に宿泊料金を一斉に引き上げるなどの行為は確認されませんでしたが、情報共有のフォーマットを作って一覧表で情報交換し、他社の情報を参考にして宿泊料金を設定していたホテルもあったということです。」

「今回、大手ホテル業界のカルテルにつながるおそれがあるとされた価格や予約状況などの情報交換について、

公正取引委員会の幹部は

「自社とグレードや価格帯が近い他のホテルの予約状況が分かることになり、強気の価格設定にしても顧客がほかに流れにくいなどの予想が可能だった

と、情報を価格設定に利用できる状態だったと指摘しました。」

とのことです。

(ちなみにこの記事では当事務所の多田敏明代表弁護士のインタビューが紹介されています。あわせてご覧ください。)

さて、弁護士から見て興味深いのは、なぜこの事件が警告どまりで排除措置命令に至らなかったのか、という点です。

(ちなみに本件はカルテルなので、確約は使えません。)

公取委公表文では、上記引用のとおり、

「毎月の客室稼働率、客室平均単価、販売可能な客室1室当たりの収益、将来の予約状況、将来の客室単価の設定方針」

の情報交換をしていたということであり、上記公取委幹部の、

「自社とグレードや価格帯が近い他のホテルの予約状況が分かることになり、強気の価格設定にしても顧客がほかに流れにくいなどの予想が可能だった

というコメントをふまえれば、カルテルが成立していたといわれてもしかたない事案だったように思います。

少し細かく見ると、競合ホテルの

「毎月の客室稼働率」

を毎月交換していたということだと、いわばキャパシティ(生産余力)に関する情報交換をしていたということですから、当然、競合の稼働率が高ければ(たとえば満室が続いていれば)自分のところも高めに価格設定しても大丈夫だろうという判断につながりやすいですし、

「客室平均単価」

というのも、価格カルテルの一歩手前でしょう。

個別単価でなく平均単価でも、どのくくりでの平均かにもよりますが、十分価格安定効果はあるように思います。

次の、

「販売可能な客室1室当たりの収益」

というのは、ホテルの収益構造がよくわからないので想像ですが、平均単価と収益がわかればコストがわかり、コストは競争機微情報と考えられているので、やっぱり問題でしょう。

次の、

「将来の予約状況」

なんていうのは、まさに近い将来の生産余力ですから、強気に値上げできるのかそうでもないのかに、大いに参考にできそうです。

しかも、ホテルの空き室がどれくらいあるかって、あんがい外からはわからなくって、ホテル予約サイトを調べても、おそらく各サイトごとに割り当てている部屋があるみたいで、あるサイトでは満室でも別のサイトなら空いている、ということもあります。

ということは、消費者にはわからない情報を競争者間で共有していたということで、これはけっこう値付けの参考にできたのではないかと思います。

最後の、

「将来の客室単価の設定方針」

なんていうのは、設定方針の具体性にもよりますが、まさに近い将来の価格設定ですから、かぎりなく価格カルテルに近いように思います。

ではこれでなぜ排除措置命令にならなかったのかというと、結局、上記で引用した、

実際に宿泊料金を一斉に引き上げるなどの行為は確認されませんでした

というのがポイントなのでしょう。

つまり、これくらいの情報交換をして、「強気の価格設定にしても顧客がほかに流れにくいなどの予想が可能だった」というような、かなり協調的な効果がみとめられても、具体的な一斉値上げの合意がないかぎり、排除措置命令まではいかない、ということです。

(なお、上記公取委幹部のコメントは、

「強気の価格設定にしても顧客がほかに流れにくいなどの予想が可能だった

ということであって、

実際に、強気の価格設定にしても顧客がほかに流れにくかった

とまで認められたわけではない、という点には注意が必要です。)

これだけの情報交換をしても排除措置命令にならない、なにかホテル業界独特の理由があるのかなぁと考えてみると、たとえば、

客室はサイズやアメニティ、ホテルの立地などで個性があるので、コモディティ的な商品とちがって具体的な価格の合意が認定しにくいのかな、

とか、

客室の値段は予約時点での残り部屋数や宿泊日までの日数や宿泊日数などで変わりがちなので、具体的な合意はしにくいのかな、

とか、いろいろ想像できますが、どれもあまり決定的ではないように思います。

あるいは、参加者が15社とそれなりに多かったことも影響しているかもしれません。

3~4社だったら、また違ったかもしれません。

あと、手続的なことを言えば、本件は立入検査がなされたという報道がないので、公取委が最初から警告狙いだった可能性もあります。

(ただし、立入検査がなされても報道されないこともありますし(かつて活発だった地方の土建屋さんの談合とか)、断定はできません。)

警告というのは、きちんと調査を尽くしたけれど排除措置命令には至るだけの証拠がなかった場合に出すのが筋だと思いますが、実際には、公取委が最初から警告狙いで、排除措置命令狙いであれば当然したであろう調査をしないことも、ままあります。

まあ実務の感覚的には、結論的にはこんなもんだろう(情報交換だけでは排除措置命令にはならず、警告どまり)、というところですが、外国と比べると、なんとも甘いなあという印象です。

たとえば、コーンスターチカルテル審決で加藤化学が違反なしになりましたが(これについては過去にも書いたことがあるので、ご覧ください)、やはり具体的な合意に参加しないと違反にはならない、というのが日本の相場観かなと思います。

別に、なんでも外国をまねればいいというものでもないのでしょうけれど、例えばアメリカだったら、これくらいやれば十分刑事罰の対象になりえたのではないかと思います。

最近のホテルのカルテルといえば思い出すのがアルゴリズムカルテルで、米国では民事訴訟にもなっており、FTCが意見書を出しています。

米国では、明確な合意のない、アルゴリズムによるカルテルですら問題になっているのに、日本では昔ながらの情報交換をやっても警告どまりということで、彼我の差は大きいと思われます。

ちなみに、このFTC意見書については公取委職員の方が、

寺西直子「アルゴリズムとカルテル -米国司法省・連邦取引委員会の意見書を基にー」公正取引884号(2024年6月号)19頁

という論文を書かれています。

同論文では、日本についての検討として、

「合意価格の拘束性について、・・・アルゴリズムによるカルテルか否かにかかわらず、最終価格が合意価格とは異なっていたとしても、競争事業者間で価格の合意をすることによって価格の目安が形成されれば、市場において各事業者が独立して価格設定するという競争の機能が失われるのであるから、最終価格が合意価格と異なるというだけでは違法となることに変わりはないと考えられる。」(22頁)

と述べられています。

つまり、単に「価格の目安が形成」されるだけでは違法にはならず、どこまで行っても「価格の合意をすること」が必要、ということなのでしょう。

価格の合意は黙示でもよいことになっていますが、本件では、黙示の合意も認められなかったということなのでしょう。

ともあれ、日本企業では警告なら受けてもかまわないと割り切っているところはあまりないでしょうから(マスコミの報道は「警告」といえば限りなく黒に近いですから。)、競合他社との情報交換には細心の注意をはらうべきことはまちがいありません。

2025年5月 8日 (木)

量産期間中の金型保管費用について

下請法上、量産期間終了後相当期間(実務的には1年)経過後に下請事業者に金型を無償で保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。

(細かく言い出すときりがないのですが、さしあたり、金型の所有権は親事業者にある場合を想定してください。)

関連する規制が下請振興基準にもあり、パートナーシップ構築宣言をした企業はこちらにも目配りをしないといけません。

では、量産期間中の金型保管費用も親事業者が負担しないといけないのでしょうか。

結論としては、負担する必要はないと考えます。

なぜなら、下請事業者が量産期間中に金型を手元に置いておく行為は、金型を「保管」させているのではなく、発注対象製品の製造行為の一部そのものであるからです。

つまり、製造もさせないしその予定もしばらくないのに金型を下請事業者のところに置かせておくのが「保管」させる行為なのであって、まさに製造に使っている金型が下請事業者の手元にあることだけを切り出して金型を「保管」させているとはいわない、ということです。

このことは、「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月)17頁で、「1.基本的考え方 」として、

「型保管の主たる目的は、単にスペースを用意して型を置いておくことではなく、部品の生産需要に応じ型を取り出し生産を再スタートさせる状態を保つことにある。かかる観点から、型保管は、これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動を型保管とみなす。」

と記載されていることからもあきらかです。

(余談ですが、この部分は、「型保管は・・・型保管とみなす」となっていて、主語と述語がかみあっていませんね。最初の「型保管は、」は、いらないでしょう。)

つまり、

「型保管は、これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動を型保管とみなす。」

ということは、そのような「これまでの生産と今後の生産予定の谷間に発生する一連の活動」ではない活動は、そのような「谷間」の活動でない活動は、「型保管」ではない、といえます。

このように論理的にぶった切る読み方をすることに躊躇を覚える人がいるかもしれませんが、少なくとも同報告書が想定しているのは「谷間」の活動にかぎられることは読み取れます。

もう少し、量産期間中の金型保管について、親事業者が負担を要しない根拠を記しておくと(「量産期間中」で検索するといろいろと出てきます)、まず、調べた中で量産期間中の金型保管について最初に言及したと思われる公取および中企庁の関連文書は、平成28(2016)年改正振興基準で、その新旧対照表をみると、

「5) 型の保管・管理の適正化(主に物品の製造受託等の場合にあって、金型、木型などの型を使用する下請取引)

(1)親事業者は、下請事業者と次の事項について十分に協議した上で、できる限り、生産に着手するまでに双方が合意できるよう努めるものとし、それが困難な場合には、生産着手後であっても都度協議できるようにするものとする。そのため、予め、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 型を用いて製造する製品の生産数量や生産予定期間(いわゆる「量産期間」)

量産期間の後に型の保管義務が生じる期間

量産期間中に要する型の保守・メンテナンスや改造・改修費用が発生した場合の費用負担

④ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担

⑤ 試作型(追加発注分を含む)である場合にはその保管期間や保管費用の負担

(2)親事業者は、前項の量産期間の後、補給品や補修用の部品の支給等のために型保管を下請事業者に求める場合には、下請事業者と十分に協議した上で、双方合意の上で、次の事項について定めるものとする。なお、十分な協議ができるよう、予め、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 下請事業者に型の保管を求める場合の保管費用の負担

② 型の保管義務が生じる期間

③ 型保管の期間中又は期間終了後の型の返却又は廃棄についての基準や申請方法(責任者、窓口、その他手続き等)

④ 型保管の期間中に、生産に要する型のメンテナンスや改修・改造が発生した場合の費用負担

⑤ 再度型を製造する場合の費用負担」

というのがあります。

(同振興基準は、下請法テキスト平成29年版にも載っています。

参考までに、平成28年版あたりから毎年の下請法テキストから振興基準の改正経緯をひろっていくと、

昭和46年3月12日 通商産業省告示第 82号

(改正) 平成15年11月4日 経済産業省告示第370号

(改正) 平成25年9月19日 経済産業省告示第198号

(改正)平成28 年12 月14 日 経済産業省告示第290 号

(改正) 平成30 年12 月28 日 経済産業省告示第258 号

(一部改正) 令和2年1月31 日20200130 中第1号

※要旨公表 令和2年4月30 日経済産業省告示第102 号〔令和2年テキストより〕

(一部改正)令和3年3月31日20210324中第2号

(一部改正)令和3年7月30日20210715中第3号

令和4年7月29日20220722中第2号〔令和4年テキストより〕

令和6年3月25 日 20240312 中第5号〔令和6年テキストより〕)

ここではあくまで、量産期間中の保守費用等を「協議できるようにする」としているだけであって、親事業者が負担すべきとはされていません。

これが、令和2年改正振興基準新旧対照表によると、

「(1)親事業者は、下請事業者と次の事項について十分に協議した上で、生産に着手するまでに双方が合意するよう努めるものとし、それが困難な場合には、生産着手後であっても都度協議するものとする。そのため、あらかじめ協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 型を用いて製造する製品の生産数量や生産予定期間(いわゆる「量産期間」)

② 量産期間の後に型の保管義務が生じる期間

量産期間中に要する型の保守・メンテナンスや改造・改修費用が発生した場合の費用負担

④ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担

⑤ 試作型(追加発注分を含む)である場合にはその保管期間や保管費用の負担」

の部分がごっそり削られて、代わりに、

「5) 型取引の適正化(主に製品の製造委託等の場合にあって、金型、樹脂型、木型などの型や治具を使用する取引)

親事業者及び下請事業者は、型取引の適正化のため、次号から第3号のほか、型取引の適正化について(令和2年1月17日付け20200110中第2号)に基づき、型取引を行うものとする。その際、型に係る取引条件の明確化のため、取り決め事項の書面化を進める参考例として示している同通達附属資料「型の取扱いに関する覚書」を活用するものとする。

また、国及び業界団体等は、実態把握やフォローアップ調査を行い、親事業者及び下請事業者がサプライチェーン全体で行う型取引の適正化の取組を推進していくものとする。

(1)取引内容別に実施する型取引の適正化の取組

親事業者及び下請事業者は、型取引の内容に応じて類型化した次のアからウの取引のうち、ア及びイの取引について、次表に基づき、型取引を行うものとする。なお、ウの取引にあっては、親事業者は、下請事業者に対し、型に対する指示や廃棄に関する制限等を行わないものとする。

ア 型のみ又は製品と型の双方を取引対象(請負等)とする取引

イ 取引の対象は製品であるものの、型についても、製品に付随する取引として型製作相当費の支払いや製作・保管等の事実上の指示を行う
取引

ウ 親事業者が、型そのものを取引対象としないで、かつ、型に関して、型製作相当費の支払いや製作・保管等の指示を全く行わず、下請事業者の判断で型管理を行う取引

〔以下、「次表」省略。〕」

という規定になっています。

ちなみに、上で省略した「次表」(令和2年改正振興基準)のうち、「型の保管に要する費用の支払い」の項目では、上記ア、イいずれの類型であっても、

「親事業者は、量産終了後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合は、型の保管に要する費用(土地・建物費、メンテナンス費、労務費等)を下請事業者に支払うものとする。

また、親事業者は、型を廃棄するに当たり、製品の残置生産の指示を行う場合には、必要な費用を下請事業者に支払うものとする(製品代金、製品の保管費用等)。」

とされており、親事業者が型の保管費用を負担すべきなのは「量産終了後」だとされています。

この点、下請法では、量産期間終了後相当期間(実務的には1年)経過後に無償保管させると不当な経済上の利益の提供要請にあたるとされており、振興基準では「量産終了後」であって相当期間経過の有無を問わないというようにも読めますが、そこまで厳しい読み方をする必要はなく、振興基準上も相当期間経過後に保管費用を払えばいいんじゃないかと思います。

さらに、同改正(令和2年改正)振興基準では、同改正前振興基準第4の5)(2)の、

「(2)親事業者は、前項の量産期間の後、補給品や補修用の部品の支給等のために型保管を下請事業者に求める場合には、下請事業者と十分に協議した上で、双方合意の上で、次の事項について定めるものとする。なお、十分な協議ができるよう、あらかじめ、協議方法を作成・整備し、下請事業者に共有するものとする。

① 下請事業者に型の保管を求める場合の保管費用の負担

② 型の保管義務が生じる期間

③ 型保管の期間中又は期間終了後の型の返却又は廃棄についての基準や申請方法(責任者、窓口、その他手続等)

④ 型保管の期間中に、生産に要する型のメンテナンスや改修・改造が発生した場合の費用負担

⑤ 再度型を製造する必要が生じた場合の費用負担」

という部分もごっそり削除され、

「(2)各類型共通で実施する型取引の適正化の取組

① 型の廃棄・返却、保管に関する諸手続き

親事業者及び下請事業者は、型管理の適正化のため、次のイからハの手続きを行うものとする。その際、各産業によって、製品のバラエティや補給期間の長短など大きく特性が異なるため、実効的な取組とするために、当該実態に即していくことが重要であることに留意する。なお、下記における「量産終了」には、量産終了に類似する状況(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合など)も含むものとする。

イ.親事業者は、下請事業者に対し、量産期間から補給期間への移行が明確となるよう量産終了に係る連絡を遅滞なく行うものとする。

ロ.親事業者及び下請事業者は、型の廃棄・保管に関する諸条件の明確化と定期的な協議・連絡を行うものとする。

ハ.量産終了から一定年数経過した場合には、親事業者及び下請事業者は、廃棄を前提にした型の取扱いの協議を行うものとする。

② サプライチェーン全体への取組の浸透

親事業者は、下請事業者に対して自らの型取引の適正化の取組を行うとともに、自らの取組の効果をサプライチェーンの末端まで浸透さ
せるため、下請事業者に対し、取引先に対して型取引の適正化に取り組むよう働きかけを行うものとする。サプライチェーン各層の企業は、それぞれ不要な型の廃棄など型取引の合理化を図るものとする。

③ 知的財産・ノウハウの保護

イ.下請事業者の意図せざる型の図面やデータ流出の防止のため、親事業者及び下請事業者は、秘密保持契約を含めた型の図面やデータ
に関する取り決めを書面化するものとする。

ロ.親事業者が、下請事業者の型の図面やデータを利用する場合には、下請事業者に対して、型の製作技術・ノウハウに対する対価を支払
うものとする。」

という規定に置き換わっています。

(これは愚痴ですが、最近の振興基準って、ころころ変わりすぎですね。パートナーシップ構築宣言をしている企業は、これを毎年チェックしないといけないので、さぞかし大変でしょう。これで儲かるのは独禁法弁護士だけだと、皮肉の一つも言いたくなります。)

ここでも、量産期間中の保管費用については特段ふれられていないことがわかります。

ところで、この令和4年改正振興基準(令和4年7月29日20220722中第2号)は令和4年版下請法テキストにも載っていますが、第4の5⑴の表の「型の保管等に要する費用の支払い」という項目では、

「親事業者は、下請事業者に型を保管させる場合には、型管理の方法について当事者間で協議するとともに、当該結果を踏まえ、以下に掲げる項目を目安として、根拠資料に基づき実際に必要となる費用を算定した上で、保管に要する費用を支払うものとする

〔主要項目〕

①型の保管に係る土地・建物費及び外部倉庫費

②公租公課(固定資産税等)

③外部倉庫等からの運送費

④サビ取り、磨き、油差し、表面処理、メッキ処理等のメンテナンス費

⑤型の保管に使用する設備費(パレット、棚等)

⑥型の保管に使用する備品費(雨除けシート、ビニール等)

⑦型の保管、移動及び管理に係る労務費

〔補足項目〕

①インフラ整備費(重量のある金型を保管する場合において、一定の耐荷重が必要となるときに床の強化等を行うもの)

②耐震工事費(地震に備え、棚からの落下を防止するもの)

③型の移動に必要な設備(クレーン、フォークリフト等)の点検費及び維持費

④型管理に必要となるデータベース、情報システム等の構築費及び維持関連費

なお、上記の保管に関する費用の支払いは、量産期間中はもとより、量産終了(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況を含む。以下同じ。)後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。

また、親事業者は、型を廃棄するに当たり、製品の残置生産の指示を行う場合には、製品代金、製品の保管費用等の必要な費用を下請事業者に支払うものとする。」

と記載されていて、「量産期間中」も保管費用を支払うべきかのような規定になっていて、びっくりします。

この改正については、パブコメ61番に、

「・意見内容

「なお、上記の保管に関する費用の支払いは、量産期間中はもとより、量産終了(生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況を含む。以下同じ。)後、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。」を

「なお、上記の保管に関する費用の支払いは、 ・・・量産終了後はもとより、・・・生産量が中長期的に継続して一定程度以上減少する場合その他の量産終了に類似する状況において、引き続き下請事業者に型を保管させる場合においても必要であることに留意するものとする。」

へと変更いただきたい。

・理由

量産期間中の保管に関する費用は量産単価に含まれる性格のものでああるため、量産期間中の保管料について規定する必要は無いものと考える。」

という、たいへんまともな意見が出されていて、これに対して中企庁から、

「「型取引の適正化推進協議会報告書においては、「型の型保管の主たる目的は、単にスペースを用意して型を置いておくことではなく、部品の生産需要に応じ型を取り出し生産を再スタートさせる状態を保つことにある。」としております。

量産期間中であっても、型を取り出し、再び、型を取り付けて生産を行う、ということはあり得るものです。

このため、ご意見の理由にあるように、量産期間中の保管に関する費用を量産単価に含めている取引もあるとは思いますが、量産期間中の保管料について規定する必要が無いと言い切ることはできないことから、原案のとおりといたします。」

という、なんとも支離滅裂な回答がなされています。

「量産期間中」におこなわれる、「型を取り出し、再び、型を取り付けて生産を行う」なんていう行為は、どうみても「量産単価に含めている」ものの典型ではないでしょうか?

というわけで、この、「量産期間中はもとより」という令和4年改正で入った文言は、不可解極まりないといわざるをえませんが、あろうことか最新版の振興基準(令和6年3月25 日 20240312 中第5号〔令和6年テキストより〕)では、第4の5(「5 金型、樹脂型、木型等の型又は治具に係る取引条件の改善」)⑴は、

「⑴ 親事業者及び下請事業者は、「型取引の適正化について」(令和2年1月17日 20200110中第2号)を踏まえ、「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月 型取引の適正化推進協議会)に掲げられている「型取引の基本的な考え方・基本原則について」に基づき、型(金型、樹脂型、木型等の型又は治具をいう。以下同じ。)に係る取引を行うものとする。その際、型に係る取引条件の明確化のため、取り決め事項の書面化を進める参考例として示している同通達附属資料「型の取扱いに関する覚書」の活用を推奨する。」

というように、ごっそり(こっそり?)と差し替えられています。

もちろん、「「型取引の適正化推進協議会報告書」(令和元年12月 型取引の適正化推進協議会)の、

「3.型取引の基本的な考え方・基本原則について」

には、量産期間中の保管費用も負担すべきなどとは、ひとことも述べられていません。

具体的には、報告書p11の、

「○基本原則③-A-2:発注側企業による型の保管に要する費用の支払い」

では、

「発注側企業は、受注側企業に自己が所有する型を保管させる場合には、保管に要する費用を支払う。

量産終了後、製造する部品が補給部品となり、発注側企業が部品の発注数を減少させた後などに、発注側企業が型の廃棄の決定を行わない場合や受注側企業に型の保管を指示する場合は、あらかじめ定めた型に係る保管の取扱いに従い、型の保管に要する費用を支払う。

また、型を廃棄するに当たり、部品の残置生産の指示を行う場合には、そのために必要な費用を支払う(部品代金、部品の保管費用等)。」

とされており、保管料の支払いは量産終了後にかぎっています。

この報告書は令和元年12月のものなので、その後令和4年振興基準で突然出てきた「量産期間中はもとより」なんていう考え方が出てこないのは、当然と言えば当然です。

というわけで、令和4年改正の「量産期間中はもとより 」という記載は、たいへんはた迷惑でしたが、いまはそれも気にする必要はありません。

公権力は監視していないとこういうことを平気でする(パブコメで指摘されてもごり押しする)ということがわかる好例でした。

2025年5月 3日 (土)

取引妨害の警告事例

公取委の実務上、どの違反行為類型にもあたらないときに便利に使えるので、「困ったときの取引妨害」といわれる取引妨害(競争者に対する取引妨害。一般指定14項)ですが、少ないながらも、過去に取引妨害の警告事例というのがあります。

以下、平成3年版以降の独禁白書からひろった事例を紹介します。

(株)レイズに対する警告(平成8年8月9日)では、

「同社はベータ社製トライアルバイクの総代理店であるところ、

同製品の並行輸入を行なっている輸入販売業者と

その取引の相手方である外国に所在する同製品の取扱業者との

取引を不当に妨害している疑い。」

で警告がされました。

並行輸入の不当阻害の事例なので、取引妨害の典型例ですが、白書の上記記載をみても、なぜ排除措置命令でなかったのかは、わかりません。

(株)ホビージャパンに対する警告(平成9年10月22日)も、

「「マジック:ザ・ギャザリング」と称するトレーディングカードゲームの販売に関し、

並行輸入業者と

その仕入先である外国に所在する「マジック:ザ・ギャザリング」の販売業者との

取引を不当に妨害している疑い。」

という、並行輸入の不当阻害の事件です。

次の、ダスキンに対する警告(平成13年8月7日)は、

「自社の加盟店が

独自にダストコントロール事業を開始して競争者となったことから、

①当該加盟店の顧客に対してのみ

マット類及びモップ類を

標準レンタル料金から大幅に値引きした価格で賃貸し、また、

②当該加盟店の営業区域所在の自らの加盟店をして

特定のマットを

その供給に要する費用を著しく下回る価格で

賃貸させ、さらに、

③当該加盟店からマット類、モップ類等の洗濯加工を受託した事業者が

〔ダスキンから〕購入しょうとした洗濯加工機械の納入取引を

制限させることによって

当該加盟店と当該事業者との間の取引の履行を不当に妨害した疑い。」

という事例です。

①と②は不当廉売か私的独占にあたりそうですが、全部ひっくるめて取引妨害で、しかも警告という、なんともおおざっぱな処理がなされています。

次の東日本電信電話に対する警告(平成13年12月15日。同日で西日本電信電話も同じ内容で警告)は、

「ADSLサービスの提供に際し、

保安器の取替工事及びメタルケーブルへの収容替工事について、

自社のユーザーからの要求があった場合、無料で取替え又は収容替えを行っていたにもかかわらず、

競争事業者のユーザーに係るものについては有料で取替え又は収容替えを行っていた疑い。」

という事案です。

こんなのが取引妨害になるなんて驚きです。

競合他社のお客さんには有料にして、自分のお客さんには無料にするのが、競合他社とその顧客の「取引を不当に妨害すること」に該当することになるなんて、無茶じゃないでしょうか?

むしろ有料ででもやってあげているわけですから、競合他社とその顧客の取引を支援しているとすら、いえると思います。

競合他社の顧客のためにも

「保安器の取替工事及びメタルケーブルへの収容替工事」

を無償でやってあげないといけないなんて、私的独占でも出てこない解釈ではないでしょうか。

なんで競合他社とADSLの契約を結ぶ消費者のために、ADSLのための工事を無償でしてあげないといけないのでしょうか。わけがわかりません。

もし私的独占なら、

「保安器の取替工事及びメタルケーブルへの収容替工事」

というのが不可欠施設にあたるのかどうかという議論になったはずですが、なにせ「困ったときの取引妨害」ですから、そのような配慮はみじんもありません。

あるいは、NTTなので自他を平等にあつかう義務でもあるというのでしょうか?

そもそも取引妨害というのは、通常の競争との限界があいまいです。

それをさらに「警告」に落としたのでは、さらにあいまいになってしまいます。

そのような恐ろしさが出ているのが、この東日本電信電話の警告事件ではないかと思います。

また、警告というのは、世間からみると排除措置命令と同じ(黒に限りなく近い灰色)と見えますから、こんなあいまいな運用で警告を出すなんて、とんでもないことです。

しかも警告は行政指導ですから、取消訴訟で争うことすらできません。

国家賠償は可能ですが、取消訴訟では排除措置命令の対象行為が違法でなければ命令は取り消される(原告勝訴)のに対して、国家賠償の場合は、排除措置命令の場合ですら公取委に、間違った命令を出したことについての過失があることを立証しなければならず、ましてや警告の場合には、違法の「おそれ」を認定したことの過失を立証しなければなりませんから、限りなくハードルは高いです。

なので、警告に対して国家賠償を起こして原告が勝訴したケースはありません。

ですので、間違った警告を受けると、当事者には救済の手段が事実上ありません。

公取委は、取引妨害で警告を出すなどという姑息な手段は使わず、正々堂々と、排除措置命令を出すべきでしょう。

逆に実務家としては、こんなものまで取引妨害で警告がでるのだ(ましてや注意は推して知るべし)、ということを知っておく必要があるでしょう。

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