消費者庁景品FAQの115番では、
「Q115 当社は前払い式のキャッシュレス決済事業者です。当社の電子マネーに10,000円のチャージをしてくれた場合にもれなく景品を提供し、さらにこの電子マネーで3,000円の支払いをしてくれたらもれなく景品を提供したいと考えています。
この場合の取引の価額は10,000円と3,000円と考えて、それぞれ総付景品の規制の範囲で景品を提供してもよいでしょうか。」
という設問に対して、
「A 前払い式のキャッシュレス決済事業者が提供する取引とは決済手段の提供であり、この決済手段の中には「チャージ」のほか加盟店での「支払い」も含まれます。
したがって、チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合、新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、同一の取引とみられる可能性があります。
本件が同一の取引とみられることを前提とすれば、2つの景品類の価額の合計を10,000円のチャージで提供できる景品類の最高額2,000円(10,000円の10分の2)の範囲内にする必要があります。
したがって、3,000円の支払いで提供できる景品類の最高額は600円(3,000円の10分の2)ですが、10,000円のチャージで提供できる景品類の最高額は、2,000円から3,000円の支払いで提供する景品類の額を差し引いた額となります
(例えば、3,000円の支払いで提供する景品類の価額が500円であれば、10,000円のチャージで提供する景品類の価額の最高額は1,500円となります。)。」
という回答が示されています。
でも、これはおかしいと思います。
チャージと支払が「同一の取引」であるはずがありません。
まず前提として、ここで言っている「同一の取引」というのは、同Q&Aが総付運用基準1⑸アを引用していることからもわかるように、
「(5) 同一の取引に附随して二以上の景品類提供が行われる場合については、次による。
ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算した額の景品類を提供したことになる。」(総付運用基準1⑸ア)
の、「同一の取引」のことです。
しかし、ここでの「同一の取引」は、たとえば緑本第7版243頁によれば、
「例えば、本店が全国的な懸賞販売の企画を実施しているときに、支店が同一の商品について別個の懸賞販売の企画を自己の管内において実施したような場合」
を意味しています。
つまり、同じ商品や役務の取引について複数の景品を出すときに、「同一の取引」にあたるということです。
しかしながら、電子マネーのチャージと支払は、チャージという取引と、支払という取引という、それぞれ別の取引であることはあきらかだと思います。
したがって、Q&A115番は誤りですから、無視してかまいません。
それでも、いち弁護士の個人的見解にもとづいてお上の公式見解を無視するのははばかられる、という方もいらっしゃるかもしれませんので、以下、Q&Aの内容を少し細かくみていきます。
まず、Q&Aがこのような回答をする理由を想像するに、要は、たとえば1万円をチャージしてその1万円分の電子マネーで決済しただけで(2万円の20%の)4000円も景品をあげられるのは、実質1万円の取引を2回カウントすることになっておかしい、ということでしょう。
いわば、同じお金を右から左に流すだけなのに、という発想です。
このように、「お金を右から左に流すだけ」の場合に限定するために、Q&Aは、2つの景品提供を「同時に実施した場合」に限定したうえで、さらに同時に実施すると常に「同一の取引」になるのではなくその「可能性があります。」とお茶を濁して、かつそのような「可能性」に基づいて同一の取引とみなされることを「前提とすれば」2つの景品提供を合算しなければいけない、とか、実に回りくどい言い方をしているのだと思います。
ですが、「同一の取引」になる理由付けとして、
「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合、新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、同一の取引とみられる可能性があります。」
として、あたかも消費者(まさか、消費者庁が、ではないでしょう。)の認識を根拠にしているかのように読めるのは、まったく意味不明です。
仮に「同一の取引」かどうかが、客観的に「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」かどうかで決まる、というのであれば、そのような回答にすべきでしょう。
そこで議論のために、「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」場合にはチャージと支払が「同一の取引」になるのかを考えてみましょう。
そのためにはまず、「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」キャンペーンというのは、どのようなうたい文句のキャンペーンになるのかを考えてみる必要があるでしょう。
最もオーソドックスなのは、
「キャンペーン期間中に、1万円チャージして、その(the)1万円で1万円のお買い物をすると、〇〇プレゼント」
といったものでしょう。
でも、電子マネーに色は付けられませんから(※技術的には、電子マネー1円ごとにIDをふるなどして「色」をつけられるのかもしれませんが、さしあたりその可能性は無視しておきます。)、このキャンペーンは、実際には、たんにキャンペーン期間中に1万円のチャージと1万円の支払いの両方をしなければならない、という内容だということになるのでしょう。
つまり、実質的には、「キャンペーン期間中に、1万円チャージして、1万円のお買い物をすると、〇〇プレゼント」という企画と同じ、ということです。
消費者庁が、「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ」るとみているのは、きっとこのようなキャンペーンでしょう。
つまり、キャンペーン期間中に、1万円のチャージという取引と、1万円の支払いという取引の、2つの取引をおこなうことを条件として景品がもらえるキャンペーン、ということです。
でも、2つの取引をおこなうことを条件に景品類を提供したら、それら2つの取引が「同一の取引」になるというのは、理屈として無理があります。
2つの取引を行うことを条件にした景品は、それら2つの取引両方と取引付随性がある、ということになるだけでしょう。
もしチャージと支払を「同一の取引」だというなら、チャージと支払は実質的に全体で一つの取引だ(同じお金を右から左に動かしているだけだ)、とでも言わないと無理でしょう。
そして、この考え方には理由がないわけではないと思います。
というのは、電子マネーでの支払いには、同額の電子マネーのチャージが論理必然的に先行するからです。
(なおさしあたり、ここでは、電子マネーが別のキャンペーンでプレゼントされるとかいう、例外的な場合は無視しておきます。)
ですが、電子マネーの支払いにチャージが先行することが理由で両者が「同一の取引」になるというのであれば、チャージによる景品キャンペーンと支払による景品キャンペーンを「同時に実施」した場合に限って両者を「同一の取引」とみなす必要はなく、およそチャージと支払は常に「同一の取引」とみなすべきでしょう。
でも、Q&Aはそこまではいっていません。
なので、この点でもQ&Aは不徹底ないし矛盾しているといわざるをえまえん。
それに、およそチャージと支払が常に「同一の取引」だというのも、解釈論上無理があると思います。
(立法論としては、電子マネーのチャージと電子マネーでの支払については二重に景品提供できない、とすることは、ありえるとは思いますが。)
もし電子マネーのチャージと支払が常に「同一の取引」だということになると、定期預金への預金とその解約も「同一の取引」なのか、とか、投資信託の購入と売却も「同一の取引」なのか、とか、そもそも銀行預金の預け入れは「取引」なのか、とか、際限なく問題が出てくるように思われます。
このように、Q&Aの矛盾がまたあきらかになってしまいましたが、めげずにQ&Aの分析に話を戻すと、まず、この回答はその適用対象を明らかに、
「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合」
に限定しており、「同時に実施」していない場合には2つの景品提供を合算する必要がないことはあきらかです。
そこで、2つの景品提供を「同時に実施」するとはどのような意味かを検討すると、チャージの景品提供キャンペーンの時期と支払の景品提供キャンペーンの時期とが、「同時」である、という意味だと思われます。
何を言っているのかというと、「景品提供」が「同時」というのは、景品類を渡すタイミングが「同時」という意味ではない、ということです。
次に、チャージの景品提供キャンペーンの時期と支払の景品提供キャンペーンの時期が「同時」というのは、両キャンペーンの期間が完全に一致している場合に限られるのか、それとも、一部重なっている場合も含まれるのかが問題となります。
この点については、(その理屈が正しいかどうかはさておき)チャージの景品提供と支払の景品提供が「同時」だという事実が、チャージと支払が「同一の取引」だという帰結を導くのだ、というQ&Aの発想がなぜ出てくるのかを、いま一度考えてみる必要があるでしょう。
(消費者庁がわけのわからないことを言い出したら、そのようなわけのわからないことを言い出す消費者庁の頭の中はどうなっているのだろう、と、消費者庁になりきるのが分析のために有益です。)
それはつまり、前述のとおり、チャージのキャンペーンと支払のキャンペーンが「同時」だと、その「同時」のキャンペーン期間中に消費者はチャージと支払をおこない、同じお金を右から左に流しているだけから、という発想でしょう。
そういう発想を前提にすると、
「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合」
というのは、2つのキャンペーンの期間が完全に一致している(というか、2つのキャンペーンを1つのキャンペーンとして表示している)場合のみを指すと考えるのが、Q&Aの読み方としては自然だと思います。
でも、そもそもキャンペーン期間が同時期であることから、同じ原資が「右から左に」流れるだけだといえるのかというと、そんなことはまったくありません。
たとえば、チャージのキャンペーン期間も、支払のキャンペーン期間も、1月1日の1日だけだったとします。
しかしながら、このような場合を想定しても、お金を「右から左に」流すことになるわけでは必ずしもありません。
確かに、ある人が、その電子マネーの取引を1月1日に開始して、1月1日午前10時に1万円チャージして、1月1日午前10時1分に1万円の買い物をしたら、同じ1万円を「右から左に」流しただけだといえるかもしれません。
ですが、たとえばある人が前年の6月30日に10万円チャージしていて、(その後その電子マネーを使わず)1月1日午前10時にその電子マネーで1万円の買い物をし、1月1日午後3時に5万円チャージした場合、1万円の買い物と5万円のチャージは、どうみても同じ取引にはなりそうもありません。
さらに前提を変えて、2つのキャンペーンの期間がいずれも1月1日から1月31日までであったとして、1月1日に(すでにチャージ済みの電子マネーを使って)1万円の買い物をし、1月31日に3万円のチャージをした場合、この買い物とチャージは、やはり別々の取引だといわざるをえないように思われます。
このように、チャージの景品提供キャンペーンと支払の景品提供キャンペーンが「同時」というのが、両キャンペーンの期間が完全に一致している場合に限られると考えてすら、すでに消費者庁の論理は破綻しているのに、さらに一部重なっている場合も含まれると解すると、その論理の破綻はいっそうあきらかです。
たとえば、支払のキャンペーンが1月1日から31日までとして、チャージのキャンペーンが1月31日から2月28日までだとすると、両キャンペーンは一部1月31日がかぶっていますが、それだけのために1月1日にした(先の)支払と2月28日にした(後の)チャージとが「同一の取引」だというのは、どう考えても無理があります。
このようなこともあって、Q&Aでは、「同一の取引とみられる可能性があります」という表現を用いることによって、2つのキャンペーンが「同時」であっても、常に「同一の取引」とみなされるわけではない、と予防線が張られているのではないか、と想像します。
そして、「同一の取引とみられる可能性があります」という場合に、「同一の取引」とみらるためには、上述のとおり、最低限、2つのキャンペーンの期間が完全に一致している必要がある、と読むのがQ&Aの自然な読み方だと思われます。
次に、「同一の取引とみられる可能性があります」というにとどめて、常に同一の取引とは言っていないことから、実務上どのような対応策が考えられるのかというと、同一の取引とみられないような打消し表示をすることが考えられます。
つまり、Q&Aが、
「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、」
るがゆえに、
「同一の取引とみられる可能性があります。」
といっているのですから、
「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ」
ないように、たとえば、支払を条件としたキャンペーンの告知に、
「キャンペーン期間前にチャージした電子マネーで支払をしてもらっても、キャンペーンの対象です。
新たにチャージした金額で支払いをする必要はありません。」
といったことを書くことが考えられます。
(いかにも弁護士の思いつきそうな浅知恵ですね。自分で書いていて気恥ずかしくなります😵)
あるいは、Q&Aが、
「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ」
ることを問題視していることからすると、先に支払をしてからチャージしてもいいことを明らかにする趣旨で、
「チャージと支払の順番は問いません。先に支払をして、あとでチャージをした場合でも、支払とチャージの景品の両方をさしあげます。」
などと表示することも考えられます。
そして、このような打消し表示をしておけば、2つのキャンペーンの期間が完全に一致する場合(実質1つのキャンペーンに見える場合)でも、チャージと支払が「同一の取引」とみられることはないのだろうと思います。
このように、いろいろと考えてみましたが、やっぱり端的な結論としては、115番の考え方は間違っているというほかないと思います。