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2025年4月

2025年4月28日 (月)

同じクーポンを連続して配布するのは有利誤認表示か?

同じような質問をたびたび受けるので、掲題の件について私の考え方を記しておきます。

最近は、インターネットやアプリでクーポンを配布するということがよくあるようで、そのようなクーポンを期間を空けずに繰り返し発行してもいいのか、という質問です。

たとえば、4月5日(土)に、「100円引きクーポン。有効期間4月5日から11日まで」というクーポンを発行して、4月12日(土)に、「100円引きクーポン。有効期間4月12日から18日まで」というクーポンを発行して、4月19日(土)に、「100円引きクーポン。有効期間4月19日から25日まで」というクーポンを発行して・・・ということを繰り返してもかまわないか、という質問です。

キャンペーンのくりかえしのアナロジーで、これもダメなんじゃないか、と思う人が多いようです。

実際、こちらのBuyee Connectというサイトでは、

「全く同じクーポンを連続して発行することは景品表示法違反にあたるため、クーポン種別や金額などを変えたクーポンにする必要があります。」

というルールになっているようです。

ですが、私は、同じクーポンのくりかえしの発行は、基本的には問題ないと考えています。

(「基本的には」と断るのは、景表法の常ですが、常に実際の表示をみないと断定できないからです。)

この点を理解するためには、基本にもどって、不当表示とは表示と実際の不一致だ、という点をよく理解する必要があります。

そもそも同じ期間限定キャンペーンのくりかえしが不当表示になるのは、

「4月末まで期間限定。5割引き」

という表示をみた消費者は、

「5月になったら、通常価格に戻るのだな。」

と認識するのに(表示の意味の確定)、実際には5月になっても5割引きだったら、表示の意味(5月には通常価格に戻る)と実際(5月も5割引き)との間に不一致があるからです。

では、クーポンの場合、

「100円引きクーポン。有効期間4月5日から11日まで」

という表示に、4月12日になっても同じクーポンは配らない、という意味が含まれると読み取れるのか、というと、読み取れないでしょう。

スーパーが毎週土曜日にチラシを配って、チラシに同じようなクーポンを印刷しても(そのクーポンを切り取って持参したら100円引きしてもらえる)、翌週に同じようなクーポン付チラシが配られるはずがないと考える消費者がいるでしょうか?

そんなこと、誰も考えないと思います。

なぜ誰も考えないかというと、

「100円引きクーポン。有効期間4月5日から11日まで」

という表示には、その当該クーポンの有効期限が4月11日までだということだけしか書いていないのであって、翌週のチラシのことなんて何も読み取れないからです。

「同じことを繰り返したら不当表示なんだ」と、ぼーっと考えていたら、このような違いには気づかないだろうし、チコちゃんにも叱られると思います。

ほかに、クーポンの繰り返し発行とキャンペーンのくりかえしの違いをあげると、クーポンは、そのクーポン1枚をつかったら、ふつうはそれで終わりです。

もう1回割引を受けたかったら、ご近所さんにチラシをもらうしかありません。

つまり、クーポンの場合、そのクーポンに記載されている利益を受けられるのは、通常、そのクーポンを使う1回だけの取引だけなのです。

オンラインで発行するクーポンも、基本的には同じようなものでしょう。

また別の切り口からいうと、

「100円引きクーポン。有効期間4月5日から11日まで」

という表示が不当表示にならないために、たとえば、

「※4月12日以降に同じ内容のクーポンを発行することがあります。」

と打消し表示をすることを求めることが、合理的でしょうか?

そんな打消し表示をしなくても、同じクーポンが発行されるかもしれないことは、あたりまえだと思います。

逆に言えば、クーポンの繰り返し発行でも不当表示になり得るのは、暗に、このクーポンを発行するのは今回限り、とほのめかすような場合です。

たとえば、期間中何度でも使えるクーポンのようなものがあるとすれば、それは、期間限定キャンペーン(期間中なら何度買い物をしてもキャンペーン価格で買える)とかなり似てくるので、一つ間違うと、有効期限が過ぎれば本来の取引条件に戻るのだ(=同じクーポンの追加発行はないのだ)、という印象をあたえるようなものになるかもしれません。

(そんなクーポンがあるのかどうか知りませんが。)

というわけで、ふつうのクーポンは、繰り返し発行しても、あるいは、有効期間中に同じクーポンを追加発行しても(追加で新聞チラシを配るのと同じ)、基本的には問題ないと思います。

2025年4月24日 (木)

電子マネーのチャージと支払いは「同一の取引」か(消費者庁景品FAQ115番)

消費者庁景品FAQの115番では、

「Q115 当社は前払い式のキャッシュレス決済事業者です。当社の電子マネーに10,000円のチャージをしてくれた場合にもれなく景品を提供し、さらにこの電子マネーで3,000円の支払いをしてくれたらもれなく景品を提供したいと考えています。

この場合の取引の価額は10,000円と3,000円と考えて、それぞれ総付景品の規制の範囲で景品を提供してもよいでしょうか。」

という設問に対して、

「A 前払い式のキャッシュレス決済事業者が提供する取引とは決済手段の提供であり、この決済手段の中には「チャージ」のほか加盟店での「支払い」も含まれます。

したがって、チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合、新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、同一の取引とみられる可能性があります

本件が同一の取引とみられることを前提とすれば、2つの景品類の価額の合計を10,000円のチャージで提供できる景品類の最高額2,000円(10,000円の10分の2)の範囲内にする必要があります。

したがって、3,000円の支払いで提供できる景品類の最高額は600円(3,000円の10分の2)ですが、10,000円のチャージで提供できる景品類の最高額は、2,000円から3,000円の支払いで提供する景品類の額を差し引いた額となります

(例えば、3,000円の支払いで提供する景品類の価額が500円であれば、10,000円のチャージで提供する景品類の価額の最高額は1,500円となります。)。」

という回答が示されています。

でも、これはおかしいと思います。

チャージと支払が「同一の取引」であるはずがありません。

まず前提として、ここで言っている「同一の取引」というのは、同Q&Aが総付運用基準1⑸アを引用していることからもわかるように、

「(5) 同一の取引に附随して二以上の景品類提供が行われる場合については、次による。

ア 同一の事業者が行う場合は、別々の企画によるときであっても、これらを合算した額の景品類を提供したことになる。」(総付運用基準1⑸ア)

の、「同一の取引」のことです。

しかし、ここでの「同一の取引」は、たとえば緑本第7版243頁によれば、

「例えば、本店が全国的な懸賞販売の企画を実施しているときに、支店が同一の商品について別個の懸賞販売の企画を自己の管内において実施したような場合」

を意味しています。

つまり、同じ商品や役務の取引について複数の景品を出すときに、「同一の取引」にあたるということです。

しかしながら、電子マネーのチャージと支払は、チャージという取引と、支払という取引という、それぞれ別の取引であることはあきらかだと思います。

したがって、Q&A115番は誤りですから、無視してかまいません。

それでも、いち弁護士の個人的見解にもとづいてお上の公式見解を無視するのははばかられる、という方もいらっしゃるかもしれませんので、以下、Q&Aの内容を少し細かくみていきます。

まず、Q&Aがこのような回答をする理由を想像するに、要は、たとえば1万円をチャージしてその1万円分の電子マネーで決済しただけで(2万円の20%の)4000円も景品をあげられるのは、実質1万円の取引を2回カウントすることになっておかしい、ということでしょう。

いわば、同じお金を右から左に流すだけなのに、という発想です。

このように、「お金を右から左に流すだけ」の場合に限定するために、Q&Aは、2つの景品提供を「同時に実施した場合」に限定したうえで、さらに同時に実施すると常に「同一の取引」になるのではなくその「可能性があります。」とお茶を濁して、かつそのような「可能性」に基づいて同一の取引とみなされることを「前提とすれば」2つの景品提供を合算しなければいけない、とか、実に回りくどい言い方をしているのだと思います。

ですが、「同一の取引」になる理由付けとして、

「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合、新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、同一の取引とみられる可能性があります。」

として、あたかも消費者(まさか、消費者庁が、ではないでしょう。)の認識を根拠にしているかのように読めるのは、まったく意味不明です。

仮に「同一の取引」かどうかが、客観的に「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」かどうかで決まる、というのであれば、そのような回答にすべきでしょう。

そこで議論のために、「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」場合にはチャージと支払が「同一の取引」になるのかを考えてみましょう。

そのためにはまず、「新たにチャージした金額での支払いを〔景品提供の〕条件としている」キャンペーンというのは、どのようなうたい文句のキャンペーンになるのかを考えてみる必要があるでしょう。

最もオーソドックスなのは、

「キャンペーン期間中に、1万円チャージして、その(the)1万円で1万円のお買い物をすると、〇〇プレゼント」

といったものでしょう。

でも、電子マネーに色は付けられませんから(※技術的には、電子マネー1円ごとにIDをふるなどして「色」をつけられるのかもしれませんが、さしあたりその可能性は無視しておきます。)、このキャンペーンは、実際には、たんにキャンペーン期間中に1万円のチャージと1万円の支払いの両方をしなければならない、という内容だということになるのでしょう。

つまり、実質的には、「キャンペーン期間中に、1万円チャージして、1万円のお買い物をすると、〇〇プレゼント」という企画と同じ、ということです。

消費者庁が、「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ」るとみているのは、きっとこのようなキャンペーンでしょう。

つまり、キャンペーン期間中に、1万円のチャージという取引と、1万円の支払いという取引の、2つの取引をおこなうことを条件として景品がもらえるキャンペーン、ということです。

でも、2つの取引をおこなうことを条件に景品類を提供したら、それら2つの取引が「同一の取引」になるというのは、理屈として無理があります。

2つの取引を行うことを条件にした景品は、それら2つの取引両方と取引付随性がある、ということになるだけでしょう。

もしチャージと支払を「同一の取引」だというなら、チャージと支払は実質的に全体で一つの取引だ(同じお金を右から左に動かしているだけだ)、とでも言わないと無理でしょう。

そして、この考え方には理由がないわけではないと思います。

というのは、電子マネーでの支払いには、同額の電子マネーのチャージが論理必然的に先行するからです。

(なおさしあたり、ここでは、電子マネーが別のキャンペーンでプレゼントされるとかいう、例外的な場合は無視しておきます。)

ですが、電子マネーの支払いにチャージが先行することが理由で両者が「同一の取引」になるというのであれば、チャージによる景品キャンペーンと支払による景品キャンペーンを「同時に実施」した場合に限って両者を「同一の取引」とみなす必要はなく、およそチャージと支払は常に「同一の取引」とみなすべきでしょう。

でも、Q&Aはそこまではいっていません。

なので、この点でもQ&Aは不徹底ないし矛盾しているといわざるをえまえん。

それに、およそチャージと支払が常に「同一の取引」だというのも、解釈論上無理があると思います。

(立法論としては、電子マネーのチャージと電子マネーでの支払については二重に景品提供できない、とすることは、ありえるとは思いますが。)

もし電子マネーのチャージと支払が常に「同一の取引」だということになると、定期預金への預金とその解約も「同一の取引」なのか、とか、投資信託の購入と売却も「同一の取引」なのか、とか、そもそも銀行預金の預け入れは「取引」なのか、とか、際限なく問題が出てくるように思われます。

このように、Q&Aの矛盾がまたあきらかになってしまいましたが、めげずにQ&Aの分析に話を戻すと、まず、この回答はその適用対象を明らかに、

「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合」

に限定しており、「同時に実施」していない場合には2つの景品提供を合算する必要がないことはあきらかです。

そこで、2つの景品提供を「同時に実施」するとはどのような意味かを検討すると、チャージの景品提供キャンペーンの時期と支払の景品提供キャンペーンの時期とが、「同時」である、という意味だと思われます。

何を言っているのかというと、「景品提供」が「同時」というのは、景品類を渡すタイミングが「同時」という意味ではない、ということです。

次に、チャージの景品提供キャンペーンの時期と支払の景品提供キャンペーンの時期が「同時」というのは、両キャンペーンの期間が完全に一致している場合に限られるのか、それとも、一部重なっている場合も含まれるのかが問題となります。

この点については、(その理屈が正しいかどうかはさておき)チャージの景品提供と支払の景品提供が「同時」だという事実が、チャージと支払が「同一の取引」だという帰結を導くのだ、というQ&Aの発想がなぜ出てくるのかを、いま一度考えてみる必要があるでしょう。

(消費者庁がわけのわからないことを言い出したら、そのようなわけのわからないことを言い出す消費者庁の頭の中はどうなっているのだろう、と、消費者庁になりきるのが分析のために有益です。)

それはつまり、前述のとおり、チャージのキャンペーンと支払のキャンペーンが「同時」だと、その「同時」のキャンペーン期間中に消費者はチャージと支払をおこない、同じお金を右から左に流しているだけから、という発想でしょう。

そういう発想を前提にすると、

「チャージでの景品提供と支払いを条件とした景品提供とを同時に実施した場合」

というのは、2つのキャンペーンの期間が完全に一致している(というか、2つのキャンペーンを1つのキャンペーンとして表示している)場合のみを指すと考えるのが、Q&Aの読み方としては自然だと思います。

でも、そもそもキャンペーン期間が同時期であることから、同じ原資が「右から左に」流れるだけだといえるのかというと、そんなことはまったくありません。

たとえば、チャージのキャンペーン期間も、支払のキャンペーン期間も、1月1日の1日だけだったとします。

しかしながら、このような場合を想定しても、お金を「右から左に」流すことになるわけでは必ずしもありません。

確かに、ある人が、その電子マネーの取引を1月1日に開始して、1月1日午前10時に1万円チャージして、1月1日午前10時1分に1万円の買い物をしたら、同じ1万円を「右から左に」流しただけだといえるかもしれません。

ですが、たとえばある人が前年の6月30日に10万円チャージしていて、(その後その電子マネーを使わず)1月1日午前10時にその電子マネーで1万円の買い物をし、1月1日午後3時に5万円チャージした場合、1万円の買い物と5万円のチャージは、どうみても同じ取引にはなりそうもありません。

さらに前提を変えて、2つのキャンペーンの期間がいずれも1月1日から1月31日までであったとして、1月1日に(すでにチャージ済みの電子マネーを使って)1万円の買い物をし、1月31日に3万円のチャージをした場合、この買い物とチャージは、やはり別々の取引だといわざるをえないように思われます。

このように、チャージの景品提供キャンペーンと支払の景品提供キャンペーンが「同時」というのが、両キャンペーンの期間が完全に一致している場合に限られると考えてすら、すでに消費者庁の論理は破綻しているのに、さらに一部重なっている場合も含まれると解すると、その論理の破綻はいっそうあきらかです。

たとえば、支払のキャンペーンが1月1日から31日までとして、チャージのキャンペーンが1月31日から2月28日までだとすると、両キャンペーンは一部1月31日がかぶっていますが、それだけのために1月1日にした(先の)支払と2月28日にした(後の)チャージとが「同一の取引」だというのは、どう考えても無理があります。

このようなこともあって、Q&Aでは、「同一の取引とみられる可能性があります」という表現を用いることによって、2つのキャンペーンが「同時」であっても、常に「同一の取引」とみなされるわけではない、と予防線が張られているのではないか、と想像します。

そして、「同一の取引とみられる可能性があります」という場合に、「同一の取引」とみらるためには、上述のとおり、最低限、2つのキャンペーンの期間が完全に一致している必要がある、と読むのがQ&Aの自然な読み方だと思われます。

次に、「同一の取引とみられる可能性があります」というにとどめて、常に同一の取引とは言っていないことから、実務上どのような対応策が考えられるのかというと、同一の取引とみられないような打消し表示をすることが考えられます。

つまり、Q&Aが、

「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ、」

るがゆえに、

「同一の取引とみられる可能性があります。」

といっているのですから、

「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ

ないように、たとえば、支払を条件としたキャンペーンの告知に、

「キャンペーン期間前にチャージした電子マネーで支払をしてもらっても、キャンペーンの対象です。

新たにチャージした金額で支払いをする必要はありません。」

といったことを書くことが考えられます。

(いかにも弁護士の思いつきそうな浅知恵ですね。自分で書いていて気恥ずかしくなります😵)

あるいは、Q&Aが、

「新たにチャージした金額での支払いを条件としているととらえられ」

ることを問題視していることからすると、先に支払をしてからチャージしてもいいことを明らかにする趣旨で、

「チャージと支払の順番は問いません。先に支払をして、あとでチャージをした場合でも、支払とチャージの景品の両方をさしあげます。」

などと表示することも考えられます。

そして、このような打消し表示をしておけば、2つのキャンペーンの期間が完全に一致する場合(実質1つのキャンペーンに見える場合)でも、チャージと支払が「同一の取引」とみられることはないのだろうと思います。

このように、いろいろと考えてみましたが、やっぱり端的な結論としては、115番の考え方は間違っているというほかないと思います。

2025年4月23日 (水)

読売新聞にGoogle排除措置命令についてのインタビュー記事を載せていただきました。

今朝(4月23日)の読売新聞6面(解説欄)に、

「論点スペシャル グーグルに初の排除命令」

というインタビュー記事を、土田和博先生と伊永大輔先生のインタビューとともに載せていただきました。

Google

今回のグーグルへの排除措置命令については、公取はほんとうによくがんばったなぁというのが率直な感想なのですが、記事でも少しふれたとおり、排除措置の内容に疑問があります。

問題の個所は、

「4 Google LLCは、今後、

アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者に対し、

検索機能の実装に係る取引に当たり、

次の⑴又は⑵を行ってはならない。

〔(1) 省略〕

(2) 金銭その他の経済上の利益を提供する条件として

次のア又はイを求めること

〔ア 省略〕

イ 第1項⑴イ

〔「イ クローム・ブラウザを初期搭載すること、そのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期
ホーム画面に配置すること及びクローム・ブラウザの設定をGo ogle LLCの検索機能が選択された状態から
変更しないこと」= クロム初期搭載+初期画面配置+クロム検索不変更〕、

〔「ウ Google LLCの検索ウィジェットを初期ホーム画面に配置すること」=グーグル検ウィジット初期画面配置〕、

〔「既定のブラウザをクローム・ブラウザとし、クローム・ブラウザのアイコンをドックに配置するとともに、
のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと

(ア) クローム・ブラウザの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更すること

(イ) 前記(ア)の設定の変更を利用者に促し又は提案すること」

クロム既定+アイコンドック配置+クロム検索設定変更禁止〕

、下記(ア)、同(イ)又は同(ウ)と同様の事項を複数併せて実施すること

(ア) グーグル検索アプリを初期搭載すること及びそのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること〔=グーグル検索アプリ初期搭載+アイコン初期画面配置〕

(イ) クローム・ブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること〔=クロム検索グーグル設定〕

(ウ) クローム・ブラウザ以外のブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること〔=非クロムブラウザ検索グーグル設定〕」

の、「複数併せて」の部分です。

このように、

「第1項⑴イ、同項⑵ウ、同エ、下記(ア)、同(イ)又は同(ウ)と同様の事項を複数併せて実施すること」

を金銭支払いの条件とすることが禁じられていることから、裏を返せば、

第1項⑴イ〔=クロム初期搭載+初期画面配置+クロム検索不変更〕、

同項⑵ウ〔=グーグル検ウィジット初期画面配置〕、

同エ〔=クロム既定+アイコンドック配置+クロム検索設定変更禁止〕、

下記(ア)〔=グーグル検索アプリ初期搭載+アイコン初期画面配置〕、

同(イ)〔=クロム検索グーグル設定〕又は

同(ウ)〔=非クロムブラウザ検索グーグル設定

のどれかを単一で実施することは、金銭支払いの条件にしてよい、ということです。

でも、これら(「第1項⑴イ、同項⑵ウ、同エ、下記(ア)、同(イ)又は同(ウ)」)のうち1つでも条件にしたら、十分排除効果はあるのではないでしょうか?

たとえば、第1項⑴イ〔=クロム初期搭載+初期画面配置+クロム検索不変更〕だけを条件にして金銭を支払う場合でも、端末メーカーや通信キャリアは、クロム以外のブラウザを初期搭載するインセンティブをかなり失うように思います。(よって、クロムが初期搭載され、その検索はグーグルのままになる。)

というのは、命令書の理由第1の1⑹アで認定されているとおり、

「ア アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者は、

一のアンドロイド・スマートフォンに複数の検索アプリ又はブラウザを初期搭載することや、

複数の検索アプリのアイコン若しくはウィジェット又はブラウザのアイコンを初期ホーム画面等に配置することは、

利用すべきアプリ又はウィジェットについて利用者を迷わせることなどから、

利用者の利便性の低下につながる可能性があると認識しており、

原則として避けることとしている。」

からです。

つまり、グーグルからお金をもらってクロムをホーム画面に搭載した端末メーカーは、エッジやファイヤーフォックスを搭載することはしない、ということです。

しかも、本件は不公正な取引方法の事案です。

ということは、公取委は上記複数条件の1つを条件として金銭を払うなら、公正競争阻害性はない、と認めていることになります。

ということは、私的独占はさらに成立しにくい、ということです。

ふつうは、ある契約条項が独禁法違反だとなれば、ぜんぶやめさせるでしょう。

その一部だけやめさせるというのは、理屈のうえでは正しいことはありうるものの、聞いたことがありません。

たとえば、NTT東日本事件の勧告書の主文では、

「1 東日本電信電話株式会社は,

Bフレッツと称する光ファイバを用いてインターネット接続回線サービスを行うFTTHサービスのうち,ニューファミリータイプと称するサービスについて,

実際には使用していない光ファイバ1芯を複数ユーザーが共用する分岐方式により他の電気通信事業者に対する接続料金及び前記ニューファミリータイプのユーザー料金を設定しながら,光ファイバ1芯を1ユーザーが使用する芯線直結方式を使用して同サービスを販売することにより,

同社の加入者光ファイバに接続してFTTHサービスを販売する他の電気通信事業者の戸建て住宅向けFTTHサービスへの新規参入を阻害している行為を取りやめること。」

と命じられており、行われていた行為を完全にやめることが命じられています。

マイクロソフト事件の勧告審決の主文でも、

「⼀ マイクロソフト株式会社は、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者に対し、

同製造販売業者が「エクセル」と称する表計算⽤ソフトウェアをパーソナルコンピュータ本体に搭載⼜は同梱して出荷する権利を許諾する際に、「ワード」と称するワードプロセッサ⽤ソフトウェアを併せて搭載⼜は同梱させている⾏為、

さらに、「エクセル」及び「ワード」をパーソナルコンピュータ本体に搭載⼜は同梱して出荷する権利を許諾する際に、「アウトルック」と称するスケジュール管理⽤ソフトウェアを併せて搭載⼜は同梱させている⾏為

を取りやめなければならない。」

と、行われていた行為の全部の禁止が命じられています。

もう少し微妙なのがJASRAC事件排除措置命令書で、その主文1項では、

「1 社団法人日本音楽著作権協会は,

放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者であって,音楽の著作物(以下主文において「音楽著作物」という。)の著作権に係る著作権等管理事業を営む者(以下主文において「管理事業者」という。)から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用(放送又は放送のための複製その他放送に伴う音楽著作物の利用をいう。以下主文において同じ。)を行う者(以下主文において「放送事業者」という。)から徴収する放送等利用に係る使用料(以下主文において「放送等使用料」という。)の算定において,

放送等利用割合(当該放送事業者が放送番組(放送事業者が自らの放送のために制作したコマーシャルを含む。)において利用した音楽著作物の総数に占める社団法人日本音楽著作権協会が著作権を管理する音楽著作物の割合をいう。)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,

当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がの分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめなければならない。」

と命じられており、「当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合に」、「当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額が」、「他の管理事業者にも放送等使用料を支払う」「分だけ増加する」のでなければよい(つまり、JASRAC以外に10万円払う場合に、放送投資要領の総額が9万9000円増えるのはかまわない)、と読めますが、そこまで細かい読み方をしなければ、ともかく包括徴収がいかんのだと読めなくもないですし、少なくとも、9万9000円の増額になるのはかまわないとはっきり言っているわけではありません。

ところが今回のグーグルの排除措置命令では、1つずつを条件にするのはかまわない、と明示的に言っています。

どうしてこんな命令になっちゃったんでしょう?

考えられる点としては、グーグルのRevenue Share Agreementによって端末メーカーが安く端末を提供できる効果があるのだ、ということです。

これは、グーグルが自社のブログで、排除措置命令に対する反論として、

「もしGoogle のサービスを搭載することに同意した場合、メーカーはAndroid 以外のスマートフォンに対する競争⼒を⾼めるだけでなく、コストを削減し、幅広い価格帯での Android 端末を提供することができます。Android に関する契約は、競争を阻害するものではなく、むしろ競争を促進するものです。」

と投稿している点です。

なので、グーグルが公取委に同様の主張を行い、公取委がその主張を一部認めた(Revenue Shareを完全にやめさせることで端末の値段が上がることを避けたかった)、という可能性が考えられます。

むしろ、グーグルが何も主張しないのに公取委のほうからのイニシアティブで部分的な禁止にとどめた、というのはちょっと考えにくいと思います。

ですが、この公取委の論理(と私が想像するもの)には、いくつもの大きな問題があります。

まず、独禁法では、1つの市場(例、検索市場)での競争制限効果を他の市場(例、端末市場)での競争促進効果で相殺するということは、基本的に認められていません。

このような複数市場を総合的にみて競争制限効果の有無を判断する解釈は、理論的には十分ありうるものの、いろいろと収拾がつかなくなるし、少なくとも日本の私的独占では

一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(独禁法2条5項)

とはっきり条文に書いてあるので、複数の取引分野を「一定の取引分野」といわなければならず、なかなかこの解釈は採りにくいものがあります。

そのような解釈を今回、(違反を争う当事者ではなく!)公取委の側が積極的に認めた可能性がある、ということです。

以上は法律的な議論ですが、もう1つの問題はやや経済学的な議論です。

つまり、独占者は独占の利益に見合うだけの対価を支払うものだ、ということです。

Revenue Shareによる支払額をいくらにするかを考えるとき、グーグルには、いくつかの考慮要素があるように思われます。

1つは、アンドロイド携帯において、グーグル検索やクロムの独占を守る、ということです。

この独占が維持される利益が10億円だとすると、グーグルは最大10億円までRevenue Shareをするインセンティブがあります。

もし上記6個の条件の1つだけで十分排除効果が生じるとグーグルが考えるなら、グーグルは従前と同額を支払うでしょう。

逆に、もし上記6個の条件の1つだけでは排除効果がまったく生じないとグーグルが考えるなら、グーグルはレベニューシェアをしないでしょう。

もし両方の中間で、ある程度の(弱い)排除効果生じるとするとグーグルが考えるなら、グーグルは少ししか支払わないでしょう。

いずれにせよRevenue Shareの金額と排除効果は二律背反の関係にあり、単一条件だけ認めることでバランスをとることにはもともと無理があるように思われます。

グーグルが考慮するであろうもう1つの考慮要素は、iPhoneとの競争です。

もしRevenue Shareをやめたために、グーグルがいうとおり、アンドロイド端末の値段が上がるとすれば、アンドロイド携帯のシェアが下がる可能性があります。

そんなことをグーグルが許すのか?という問題です。

さらにいえば、iPhoneとの競争があるのに、アンドロイド端末メーカーがほんとうに端末の価格を上げるのか?という問題もあります。

反対に、このiPhoneとの競争については、「そもそもスイッチングコストのためにiPhoneとアンドロイドには競争関係はないのではないか。」とか、「アンドロイドの端末が値上がりしてもアンドロイドの中古品に流れたり、買い替え頻度が下がったりするだけで、アンドロイドの稼働台数は変わらず、グーグルには影響はないのではないか。」とか、いろいろな可能性が思い浮かびます。

このように、条件付のRevenue Shareは一切認めないのか(無条件のRevenue Shareのみ許すのか)、単一条件のみなら認めるのか、という判断の前提としては、関係者の利益構造をふくめ、さまざまな事情を考慮すべきです。

私には、そのへんの細かい事情はもちろんわかりません。

ですが、直感的には、グーグルのアンドロイドでの独占は変わらないだろなぁと思います。

(なお念のためですが、ここで「独占が変わらない」といっているのは、グーグルのシェアだけを問題にしているのではありません。仮にシェアが変わらなくても、今回の排除措置命令でイノベーションが活発化したり、グーグルのプライバシーポリシーが厳格になるという品質競争が活発化したりすれば、それはそれで競争へのポジティブな影響があったといえると思いますが、そのようなポジティブな影響もないだろう、ということです。)

というわけで、公取の存在感を示した点では大いに評価できる命令でしたが、法解釈論的には問題のある命令だと思いました。

2025年4月 7日 (月)

ABA Antitrust Spring Meeting 2025に行ってきました。

4月2日から4日の3日間、ワシントンDCで開かれたAntitrust Spring Meetingについて、感想を書き留めておきます。

まず今回は、DOJがSpring Meetingをボイコットするという、前代未聞の大会でした。

理由は、ABAがトランプ政権によるUSAIDの閉鎖にともなう外国への資金援助停止について米国政府を提訴したからなのだそうです。

こちらをご参照ください。)

FTCのほうはいちいちチェックしていませんが、毎年最終日のハイライトであるEnforcers’ RoundtableにもFTCからは誰も出席していませんでした。

なので、アメリカの反トラスト法の大会なのにアメリカ当局のどちらからも誰もround tableに出ないという、異常事態でした。

去年おととしはリナ・カーン見たさに来た人もいるのではないかと思われる(勝手な想像です)のと比べると、ガラッと雰囲気は変わった感じがしました。

ちなみに欧州委の競争法担当委員を長らく務めたベステアーさんがおやめになり、後任のリベラさんが来られていました。

個人的には、めちゃくちゃ華のあってカリスマ性のあったベステアーさんや、その前任のアルムニアさんと比べて、「ふつうの人」という印象でした。

DOJのボイコットが引き金になったと思われるのが、ビル・ベアーさん、トム・バーネットさん、デボラ・ガーザさん、ダグラス・メラメッドさんという、元DOJ反トラスト局とFTCのトップを集めた、

DOJ: Past, Present, and Future

というセッションでした。

事前のスケジュールにはなく、急遽招集されたものと思われ、ABAが意地を見せた形でしょう。

みなさんおおむね意見が一致していたのは、トランプ政権になったからといって大きな方針変更はなさそう、ということでした。

それでも、ところどころ積極的な執行はあるかもしれず、だけれどそれがどの分野なのか予測ができない、というコメントも興味深かったです。

要は、反トラスト法はトランプ大統領にとってそれほど関心が高い事項ではない、ということなのでしょう。

ほかには、カール・シャピーロさんとダニエル・ソコールさんが登壇した

Has Competition in the US Been Declinng? 

という経済学のセッションがおもしろかったです。

Tim WuのCurse of Bignessなんかを読んでも、米国では近時反トラスト法が過小執行であるために寡占が進んでイノベーションが阻害されているというのが当然の前提のように言われることが多くて、私もそう思っていたのですが、話はそう単純ではない、ということでした。

少し見解を改めないといけないなと思いました。

あとは、個人的な興味から、

Countervailing Monopsony Power with Joint Action?

というのを聞いてきましたが、パネリストの間で大きく意見がわかれていて、おもしろかったです。

ところで今年は日本からの出席者が32名と、(おそらく)例年よりかなり少なく、いつも会場で顔を合わせる人たちが来ていない印象でした。

(それでも大会全体では3000名超と、大盛況ではありました。)

最近国際カルテル事件がないからかなぁとか、円安のせいかなぁとか、理由をいろいろと考えたりしますが、残念なことです。

今年は米国当局の人が出ないという異常事態ではありましたが、それでも、内容の濃い議論が聞けますし、いろいろなレセプションなどでたくさんの人にも会えます。

日本からの参加者、とくに若い人たちが、もっと増えてほしいなと思いました。

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