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2025年3月18日 (火)

フリーランスへの再委託における支払期日の例外(4条3項)の対価関連性要件について

フリーランス法4条3項では、

「3 前二項の規定〔注・フリーランスへの報酬支払は給付受領日から60日以内とする規定〕にかかわらず、

他の事業者

(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)

から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、

当該業務委託に係る業務

(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)

の全部又は一部について

特定受託事業者に再委託をした場合

(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日

(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)

その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)

には、

当該再委託に係る報酬の支払期日は、

元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」

と規定しています。

この、「再委託をした場合」の意味について、フリーランスFAQ問49に、

「「再委託をした場合」に該当するかはどのように判断されるのでしょうか。」

という設問があり、

「答 特定業務委託事業者が元委託者から受託した元委託業務と、特定受託事業者に委託した業務との間に業務の関連性及び対価の関連性が認められる場合には「再委託をした場合」に該当します。

業務の関連性については、特定業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が元委託業務に含まれる場合に認められます。

対価の関連性については、特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合に認められます。

なお、特定業務委託事業者が同一の特定受託事業者に委託している業務が複数ある場合には、それぞれの業務について業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。

また、特定業務委託事業者が一つの元委託業務を切り分けて、複数の特定受託事業者に委託する場合は、それぞれの特定受託事業者に委託されている業務について、業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。」

と回答されています。

では、ここでいう、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのは、具体的にはどういう場合なのでしょうか。

まず、このFAQはあくまでFAQであって、法律でもなければガイドラインでもありません。

ですので、このFAQにより、フリーランス法4条3項にあらたに「対価の関連性」(対価関連性要件)という要件を付け加えられたものと解釈することができないことは、いうまでもありません。

つまり、基本はあくまで「元委託業務・・・の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合」にあたるかどうかです。

そして、「再委託」という言葉にフリーランス法上の定義はありませんので(だからFAQがあるわけですが)、「再委託」という用語の常識的な意味で解釈すればよい、というのが基本でしょう。

とはいえ、「再委託」と広辞苑で引いても出てきませんから、もう少し近いところで下請法をあたってみると、下請法2条9項(トンネル会社規制)では、

「9 資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者〔=実質親事業者〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=トンネル会社〕が、

その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合

(第七項第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ前項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第七項第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ前項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)

において、

再委託を受ける事業者〔=トンネル会社〕が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、

かつ、

製造委託等をする当該事業者〔=実質親事業者〕から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、

この法律の適用については、再委託をする事業者〔=トンネル会社〕は親事業者と、再委託を受ける事業者〔=下請事業者〕は下請事業者とみなす。」

と規定されています。

ここでは、業務の関連性(業務関連性要件)は当然必要だと解されますが、対価関連性要件については要求されていないようにみえます。

実際、対価関連性がトンネル会社規制で要求されないのは当然です。

というのは、トンネル会社規制では、トンネル会社が受注する注文と、トンネル会社が発注する(下請事業者が受注する)注文との間には、1対1の対応関係がなくてもいいからです。

これに対して、フリーランス法における再委託は、元委託業務と再委託業務が1対1の関係にあるか、少なくとも、特定の再委託業務をさかのぼって特定の1つの元委託業務にたどりつけることが必要です。

このことは、上記FAQの49番に、

「なお、特定業務委託事業者が同一の特定受託事業者に委託している業務が複数ある場合には、それぞれの業務について業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。

また、特定業務委託事業者が一つの元委託業務を切り分けて、複数の特定受託事業者に委託する場合は、それぞれの特定受託事業者に委託されている業務について、業務の関連性及び対価の関連性が判断されます。」

とされていることからあきらかです。

このように、元委託業務と再委託業務との間の関連性を要求することは、フリーランス法4条3項の再委託の支払期日の例外が、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮する趣旨であることからも妥当な解釈といえます。

またフリーランス法4条3項の文言も、

「元委託者・・・から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る・・・元委託業務・・・の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合」

としていて、元委託業務が、フリーランスへの再委託者が元委託者から受託した、まさにその「当該業務委託に係る」ものであるという規定ぶりであることからも、すなおな解釈であるといえます。

これに対して下請法2条9項のトンネル会社規制は、

「〔実質親事業者〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、〔実質親事業者〕から製造委託等を受ける〔トンネル会社〕が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合」

という規定ぶりであり、この「相当部分」は、トンネル会社が実質親事業者から受託する業務全体について(たとえば過半数とか)判断されることになっているので、トンネル会社の個々の受託業務とトンネル会社から下請事業者への個々の委託業務との対応関係はあまり問題にする必要がありません。

というわけで、同じ「再委託」という文言を使う下請法のトンネル会社規制での解釈を手がかりにフリーランス法の「再委託」の意味を探る(対価関連性要件の意義ないし是非を問う)道はあきらめるほかなさそうです。

そのほか、政府の法令検索データベースで「再委託」で検索すると、たくさん例が出てきますが、対価関連性要件が必要になりそうな文脈で「再委託」という文言が使われているのは、ざっとみたかぎり、ありませんでした。

ちなみに建設業法24条の3第1項には、

「(下請代金の支払)
第二十四条の三 

元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けときは、

当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、

当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、

当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。」

という、フリーランス法4条3項と似たような規定があります(支払いを早める方向の規定なので、フリーランス法4条3項とは逆ですが)。

このように、他の法令にはなかなか手がかりがないので、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮するというフリーランス法4条3項の趣旨に立ち返って実質論一本で考えてみると、「再委託」に対価関連性要件を要求するのは、あながち不合理なことではないように思います。

というのは、特定業務委託者(発注者)の資金繰りに配慮する必要があるのは、特定業務委託者(発注者)が、特定業務受託者(フリーランス)への支払を、元委託事業者からの報酬の中から支払おうとしている場合であると考えられるからです。

ひらたくいえば、「受け取ったものから支払う」という関係です。

でもそうすると、FAQ49番の、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのを、あまり厳格に解釈するのは疑問です。

たとえば、特定業務委託者(発注者)が、元委託者から受注した業務をフリーランスに丸投げする場合に、フリーランスへの報酬を元委託者から受け取る報酬の8割と定めるような場合は、あきらかに「元委託業務に係る報酬に関連して定められている」に該当するといってよいでしょう。

(なお説明の便宜上、あるいは社会的実態にかんがみて、フリーランスへの発注額は特定業務委託者が決めると考えておきます。)

つまり、発注者が、受領報酬額の何%と明確に意識して、フリーランスに再委託する場合です。

ですが、発注者が、明確に受領報酬の何%と意識して再委託の報酬を算定していなくても、自分の手元にのこる利益を意識しながらフリーランスには世間相場で発注する、ということもありうると思います。

そして、このように結果的に世間相場で発注していても、発注者が、自分が持ち出しにならないように意識しながらフリーランスへの発注額を決めている場合もまた、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

に該当すると考えてよいように思います。

というのは、フリーランスへの発注者の資金繰りへの配慮という趣旨からすれば、受領報酬額を代入すれば自動的にフリーランスへの報酬が決まるような明確な算定式にもとづくものでなくても、赤字にならないように配慮しながらフリーランスへの発注額を決めているという場合であれば、発注者は保護されるべきと考えられるからです。

逆に、フリーランスへの発注者にフリーランスへの発注料金の「料金表」みたいなものがあって、その料金表にしたがって再委託されていて、個々の受託業務についてはフリーランスへの発注者は赤字になることもある、というような場合だと、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

には該当しないように思われます。

逆に言えば、それくらい対価関連性が薄い場合をのぞけば、対価関連性要件は原則として認められると解するのが妥当だと思います。

なお、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

というのを素直に読むと、まず、

「元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬」

というのが決まっていて、それに

関連して」、

あとから

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬」

が「定められている場合」、というのが思い浮かびますが、この順番は逆でもよくて、まずフリーランスへの発注者がフリーランスから見積もりをとって、その見積額に自分の利益を上乗せして元委託者に見積もりを出す、というのでも、

「特定業務委託事業者から特定受託事業者に支払われる報酬が、元委託者から特定業務委託事業者に対して支払われる元委託業務に係る報酬に関連して定められている場合」

に該当すると考えてよいと思います。

少なくとも、そのような場合もフリーランス法4条3項が想定している再委託の典型例の1つであることはあきらかでしょう。

しょせん、FAQはFAQなのです。

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