戻入(れいにゅう)による報酬の事後調整に関するフリーランス法パブコメと下請法ティーガイア勧告との矛盾
フリーランス法のパブコメ2-3-34に、
「・一般的に、長期の継続的契約の締結を目的とする業務の委託を行う場合においては、〔携帯電話の獲得業務みたいなものですかね〕
受託者に対して、長期の契約継続が見込める顧客との契約の締結を促す観点から、
契約から一定の期間内に当該契約が解除された場合には、委託契約において、既払いの報酬を戻入れすることを定める場合がございます。
・この場合、契約当初からその契約の中で、報酬の戻入れが定められていることから、当該報酬の戻入れは「報酬の額を減ずること」(本法5 条1 項2 号)、すなわち、「一旦、決定された報酬の額を事後的に減ずること」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)P30(ア))には該当しないという理解でよろしいでしょうか。」
という質問と、2-3-35に、
「特定受託事業者が顧客に販売した商品・サービスの提供期間の途中で、当該商品・サービス(の提供に関する契約)が解約された場合に、商品・サービスの代金の一部を顧客に返還することがあります。
これに伴い、特定業務委託事業者から特定受託事業者に当初支払った報酬について、
その一部を戻し入れること、およびその戻し入れ金額の算定方法を委託契約書等であらかじめ定めている場合、
あらかじめ定められた報酬支払条件に則り、報酬額が調整されるものであり、
「一旦、決定された報酬の額を事後的に減ずること」とされている報酬の減額には該当せず、
特定業務委託事業者の禁止事項である「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」(本法第5 条1 項2 号)には該当しないと解釈することで宜しいでしょうか。」
という似たような質問があり、これらに対して、
「御指摘のような場合が本法上問題となるかについては、
取引の実態も踏まえて個別の事例ごとに判断されますが、
業務委託時に、特定受託事業者に対し、定められた報酬が戻入の対象であることが明確にされており、
その具体的な金額又は算定方法が明示されているときは、
戻入をした後の金額が、業務委託時に定めた報酬の額であると考えられるため、
特定受託事業者の責めに帰すべき事由の有無を問わず、戻入を行ったとしても、報酬の減額(本法第5条第1項第2号)に該当しないと考えられます。
ただし、戻入した後の金額が、「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い」といえる場合には、買いたたき(本法第5条第1項第4号)として本法上問題となるおそれがあります。」
と回答されています。
(立案担当者本107頁にも上記パブコメへの言及があります。)
他方で、下請法では、ティーガイアに対する2021(令和3)年6月23日勧告で、戻入金が違法な減額であるとされています。
この事件は、携帯電話の一次代理店であるティーガイアが、業務委託先である二次代理店に支払う報酬について、3か月ごとの評価で一定の水準に満たない場合に一定の算出方式で計算していた金額を事後的に減額していた、というものです。
でも、このフリーランスパブコメとティーガイアへの勧告って、矛盾するのではないでしょうか?
ティーガイア事件の担当官解説(公正取引851号86頁)では、
「当該戻入金は、発注時の条件表に明確に定められた本件業務の種類及び量当たりの単価に基づいて具体的に定められる手数料等の額を、その支払後、事後的に「減額」するものである。
これにより、例えば、平成30年9月に提供した本件業務の手数料等であれば、条件表に基づいて具体的に定められた額が同年10月末に支払われた後、その4か月後の平成31年2月末日に「減額」が行われ、いわば遡及適用された。
戻入金が差し引かれる可能性がある旨はティーガイアが下請事業者に対し発注時に交付した条件表に記載されていたものの、
当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者が運営する販売店の業務実績のみで決まるのではなく、
向こう3か月の間における他の二次代理店及び一次代理店が運営する販売店の業務実績も踏まえて電気通信事業者が判定する評価結果が一定未満であったか否かという基準によって事後的に決定されていた。
このため、発注時点において、当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者及びティーガイアの双方にとって予測不可能であった。
したがって、下請代金の額は戻入金を差し引く前の額であると認定された。」
「ティーガイアは、戻入金の条件については、あらかじめ自社と二次代理店との間で合意の上、定めたものであるとして、公正取引委員会による本件の公表に併せて同社のウェブサイトにおいて、
「代理店様との合意に従った手数料を期間中お支払することに加え、当該期間における代理店様の評価が一定の水準に満たないことが後刻判明した場合に、算式に従って戻入金の支払いをお受けすることをあらかじめ東海地区の代理店様との契約で合意していたことがあったものです。」
とプレスリリースしている。
しかし、仮にティーガイアと下請事業者との間に当該合意があったとしても、下請事業者の責めに帰すべき理由なく下請代金の額を減ずることは下請法に違反するものである。」
と解説されています。
下請法テキスト(令和6年11月版)p62にも、違法な減額の例として、
「㉕ 業務実績の評価結果を理由とした減額
親事業者L社は、電気通信事業者から受託する携帯電話の移動体通信サービス等に係る契約内容の説明、申込みの勧誘等の業務を下請事業者に委託しているところ、
下請事業者の業務実績に対する評価結果が一定の水準に満たなかった場合、
「戻入金」とする金額を下請代金の額から差し引くことにより、評価期間中の下請代金の額を減じていた。」
というのが挙げられています。
この例は、令和3年版から加わったものなので、ティーガイア事件を念頭に置いているものと思われます。
ティーガイア担当官解説は、
「これにより、例えば、平成30年9月に提供した本件業務の手数料等であれば、条件表に基づいて具体的に定められた額が同年10月末に支払われた後、その4か月後の平成31年2月末日に「減額」が行われ、いわば遡及適用された。」
といいますが、フリーランスパブコメのケースも、
「契約から一定の期間内に当該契約が解除された場合には、委託契約において、既払いの報酬を戻入れすることを定める場合がございます。」
ということなので、遡及適用である点は同じでしょう。
次に、ティーガイア担当官解説は、
「当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者が運営する販売店の業務実績のみで決まるのではなく、」
ともいいますが、フリーランスパブコメの事例も、契約を途中解除するのは顧客のほうですから、戻入の有無はフリーランスの「業務実績」のみで決まるのではないといえ、この点も両者同じでしょう。
次に、ティーガイア担当官解説は、
「発注時点において、当該下請事業者が戻入金を差し引かれる対象となるか否かは、当該下請事業者及びティーガイアの双方にとって予測不可能であった。」
ともいいますが、顧客が途中解約するかどうかが「予測不可能」であることは、フリーランスパブコメの場合でも同じでしょう。
唯一違う点としては、ティーガイアでは、
「向こう3か月の間における他の二次代理店及び一次代理店が運営する販売店の業務実績も踏まえて電気通信事業者が判定する評価結果が一定未満であったか否かという基準によって事後的に決定されていた。」
というのがあり、ティーガイアでも二次代理店(下請事業者)でもない電気通信事業者(キャリア)の評価で戻入の有無が決まっていた、という点がありますが、担当官解説も、この事実は戻入が当事者双方にとって予測不可能であったこと(←この点はフリーランスパブコメも同じ)の理由として述べているだけであり、かかる電気通信事業者の判定が恣意的だとか、裁量があるとか、そいういったことを問題にしているのではなさそうです。
つまり、担当官解説に出ている理由付けをみるかぎり、ティーガイア勧告とフリーランスパブコメは、矛盾しているといわざるをえないと思います。
ちなみに、フリーランス法5条(遵守事項)は下請法のコピペですから、両法律で公取委が異なる解釈をとることは、お役所的発想からはまず考えられません。
では、もう少し冷静になって(冷静ですが。笑)、ティーガイア担当官解説を離れて、客観的に両者を区別する理由がないかを想像してみると、たとえば、
フリーランスパブコメの事例のほうは、個々の報酬債権ごとに減額の有無が短期解約の有無という客観的かつ一対一対応の理由で判定されるものであった、
のに対して、
ティーガイアのほうは、個々の債権の減額ではなくて、3か月まとめての報酬額の減額であり、しかも、減額理由が成績一般なので、減額理由と減額が一対一対応ではなかった、
ということがあるのかなぁ、と想像されます。
このように想像される理由の1つは、フリーランスパブコメ回答が、
「戻入をした後の金額が、業務委託時に定めた報酬の額である」
という解釈論を採用しているようにみえることです。
このようにいえるのは、3条書面(3条通知)に記載された個々の下請代金(業務委託料)が、戻入金の合意により書き換えられているからだ、と考えるのが素直なような気がします(われながらあまり説得力はないように思いますが、あくまで公取委の心中を忖度すると、ということです)。
あるいは、もっと根源的で野性的な(アニマルスピリット的で直感的な)価値判断として、
ティーガーアのように、成績全般を理由に、実際やった仕事の分まで減額されるのは、時代遅れのノルマ至上主義のようで、下請事業者がかわいそうだ、
というのに対して、
フリーランスパブコメのように、「受託者に対して、長期の契約継続が見込める顧客との契約の締結を促す」とい理由は納得できる、
というのがあるかもしれません。
長期契約を獲得するインセンティブを与えるのはOKだけど、成績を上げる(お尻をたたく)インセンティブを押し付けるのはだめだ(?)というところでしょうか。
私が弁護士1年目のとき、事務所のクライアントであった保険会社の担当者から、
「今、キャンペーンをやっているので、保険に入ってくれませんか。すぐに解約してもらってもいいので。」
という勧誘を受けたことがあります。
きっと担当者ごとにノルマのようなものがあって、ぺーぺーの弁護士である私にまで(ぺーぺーだからこそ?)勧誘してたのでしょうけれど、すぐに解約してもノルマにはカウントされる仕組みだったのでしょう。
「すぐ解約してもらってもいいから」という勧誘は、クレジットカードでも受けたことがあります(クライアントではありませんが)。
まだおぼこかった私は、世の中の裏側を見せられたようで、ある意味新鮮でしたが、もちろんこういう勧誘がされると、委託者としては困るわけです。
でも、仮にティーガイア事件における公取委の心中が上記の想像のとおりであったとしても、やはり、私はそのような理屈は筋が通らないと思います。
というわけで、やはりティーガイア事件は間違いであったと考えます。(フリーランスパブコメの考えが正しい。)
少なくとも、ティーガイアの事件が優越的地位の濫用になることは、絶対にないと思われます。
(もちろん、戻入の結果、買いたたきレベルになったら別ですが。)
さはさりながら、下請法で現にティーガイアのような事件があるわけですから、下請法で今後同じような戻入金に対する勧告事件があるかもしれないことは十分予想できますし、フリーランス法でも同様の事件がないとはかぎらないと思います。
フリーランス法では、詳細なパブコメやQ&Aが出ているので、これからも下請法に響いてくる見解が公取委からいろいろと出てくるのではないかと期待しています。
最後に、これはティーガイア事件担当官解説を書いた上瀧さんと、同解説を承認した上司の方の名誉のために言っておきたいのですが、この担当官解説はとても詳細で、公取委の考えていることがよくわかります。
だからこそ、私もこれだけ詳細に批判できるわけで、詳細な説明をしてもらえることの社会的意義というのは大きいと思います。
もしこれが、下請法テキストをなぞっただけの、とおりいっぺんの解説だったら、私も批判のしようがなかったでしょう。
実際、担当官解説とフリーランスパブコメを読み比べて、お尻を叩くノルマ至上主義は下請がかわいそうだけれど、短期解約をそそのかして手数料をかせぐ下請はけしからん、という価値判断は、わからないではありません。
でもそれは、2つの事案を比べて初めてわかることであり、私だってティーガイアの事件だけをみたら、こんなもんだろうと思ったかもしれません。
というわけで、法的な議論が発展していくためには、公取委の側からの積極的な情報発信が不可欠だと思います。
ティーガイア事件のような詳細な解説を書かれたことに、敬意を表したいと思います。
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