フリーランス法の域外適用?
先日、とある方から、公取委に、「海外のフリーランスに海外で仕事をしてもらう場合にもフリーランス法が適用されるのか。」と質問したところ、適用されると回答された、ということを聞きました。
私はこれは間違っていると思うので、今日はこの点について書いてみたいと思います。
まず、パブコメ(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)1-1-12(5頁)では、
「業務委託の相手方が海外に居住しており、委託する業務が主に海外で行われる場合、本法の適用はないと考えてよいか。」
という質問に対して、
「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」
と回答されています。
ぱっとみると、この回答は、わざわざ「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」といっているので、発注者は日本にいても、純粋に海外で(おそらく外国人の)フリーランスに仕事をしてもらう場合にはフリーランス法の適用がないといっているようにみえますが、これには注意が必要です。
問題になるのはまず、ここでいう「業務委託」とは何を意味するのか、です。
わざわざ法文と同じ文言を使って回答しているわけですから、これは、フリーランス法2条3項の「業務委託」の定義、つまり、
「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」
を指していると読むのが自然ですが、そうするとおかしなことになります。
というのは、2条3項では、「業務委託」というのは、「・・・委託すること」なので、委託するという発注者の行為のほうを指していて、受託業務をおこなうフリーランスの行為ではない、というように読むしかないからです。
実際、あたりまえですが、フリーランス法では、「業務委託」という用語は、発注者の行為として使われています。
たとえば3条1項本文では、
「第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。」
とされていて、「業務委託」は業務委託授業者(発注者)の行為(発注行為)であって、フリーランスの行為でないことがあきらかです。
ですがそうすると、上記パブコメ回答の、
「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」
というのは、日本企業が発注者であるかぎりは必然的に発注行為の全部が国内でおこなわれていることになるわけで、そうすると、発注者が日本から発注するかぎり常にフリーランス法が適用される、ということになってしまいます。
しかし、それはどう考えてもおかしいと思います。
(半面、冒頭でふれた公取委の回答は、パブコメに沿っているとはいえます。)
フリーランス法も、少なくとも公取委パートについては競争法のはしくれです。
そして、競争法の世界では、競争制限効果がおよぶ国の競争法が適用されるという、効果理論が一般的です。
これは、フリーランス法(の公取パート)の一般法である優越的地位の濫用であれば、被害を受ける取引相手方の所在地をさす、というのが一般的な考え方だと思います。
発注行為が日本でおこなわれただけで競争法やそのはしくれであるフリーランス法(の公取委パート)が適用されるというのは、競争法の常識に反します。
もしこんな解釈がされると、
「海外のフリーランスに発注するときには、従業員が海外(※フリーランスのいる国にかぎらない)に出張したときとかのついでに、海外からメールや電話で発注するようにしてくださいね。」
という、わけのわからないアドバイスをしないといけないことになってしまいます。
また、フリーランス法の目的規定からしても、海外のフリーランスに海外での業務を依頼するときにはフリーランス法は適用されないと考えるべきです。
つまり、フリーランス法1条の目的規定では、
「この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」
と規定されています。
このことからすると、フリーランス法はわが国のフリーランスを保護することが目的であることがあきらかです。
とすれば、同法がおよぶのはフリーランスが日本国内で商品役務の提供をおこなう場合であると解するのが当然です。
また、パブコメの別の個所(p203、3-5-1)にも引用されている政府国会答弁(第211 回国会参議院本会議第17 号2023 年4 月21日会議録15 番)では、「国務大臣(後藤茂之君)」の答弁として、
「越境取引への本法案の適用関係についてお尋ねがありました。
国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法案が適用されると考えています。
具体的には、日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合や、
海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合や、
業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合
には、本法案を適用されると考えています。」
と答弁されています。
このうち一般論の、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」というのは、公取委のパブコメ回答1-1-12と同じなのですが、その具体例としている、
①「日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合」
②「海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合」
③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」
というのは、およそ冒頭で述べた公取委の現在の考え方(発注行為が国内であればフリーランス法が適用される)とは異なるものです。
まず、この国会答弁で、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」の「業務委託」というのは、かならずしもフリーランス法(当時は法案)の2条3項の意味で使っていると読む必要はありません。
あくまで口頭での答弁なので、常識的な意味で、委託された業務の遂行もふくめ、「業務委託」という言葉を使っていても、何もおかしくはありません。
というわけで、重要なのは具体例のほうですが、今問題にしている海外フリーランスに海外で仕事をしてもらうケースについて参照すべきは、
③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」
でしょう。
つまり、フリーランスの「事業活動」が国内でおこなわれているかどうかを基準にする、ということです。
これによれば、国外でフリーランスの事業活動がおこなわれる場合には、フリーランス法は及ばないというのが政府答弁の立場だということはあきらかでしょう。
(もちろん、「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」というのは例示ですから、①~③以外にも適用される場合はありえますが、挙げられている具体例の正反対の場合に適用されるということはさすがにありえないでしょう。)
そうすると、公取委の立場は政府答弁にも違反することになります。
さらに問題は、パブコメ回答1-1-12では、
「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」
と回答されていて、公取委パート(2章)か厚労省パート(3章)かを区別していません。
いうまでもなくこのパブコメは公取委と厚労省の連名で出されています。
(ちなみに、一般論としては、同じ法律でも、異なる法条では域外適用の範囲が異なることは、当然ありえます。)
そうすると、海外のフリーランスに対しても妊娠や育児介護についての配慮が必要だ、という、わけのわからない解釈になってしまいかねません。
ちなみに、労働基準法(のうちの行政取締法規)については、厚生労働省労働基準局編『労働基準法(下)』1018頁で、
「行政法規として、日本国内にある事業にのみ適用がある(属地主義)ので、(国外にある)商社、銀行等の支店、出張所等であって事業としての実態を備えるものについては、本法の適用はない。」
としており、たとえば日本企業(またはその子会社)が海外で現地採用する従業員については労働基準法の適用はないと解されています。
フリーランスは労働者とちがって使用者に従属しているわけではありませんし(つながりが弱い)、また、より弱い立場にいて保護の必要性の高い労働者ですら海外には保護がおよばないのですから、まがりなりにも独立の事業者であるフリーランスについて海外で保護がおよばないのは当然というべきでしょう。
というわけで、公取委の解釈は間違いであり、海外のフリーランスに発注をして海外で業務をさせる場合には、フリーランス法は適用されないと考えます。
