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2025年2月

2025年2月21日 (金)

フリーランス法の域外適用?

先日、とある方から、公取委に、「海外のフリーランスに海外で仕事をしてもらう場合にもフリーランス法が適用されるのか。」と質問したところ、適用されると回答された、ということを聞きました。

私はこれは間違っていると思うので、今日はこの点について書いてみたいと思います。

まず、パブコメ(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)1-1-12(5頁)では、

「業務委託の相手方が海外に居住しており、委託する業務が主に海外で行われる場合、本法の適用はないと考えてよいか。」

という質問に対して、

「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」

と回答されています。

ぱっとみると、この回答は、わざわざ「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」といっているので、発注者は日本にいても、純粋に海外で(おそらく外国人の)フリーランスに仕事をしてもらう場合にはフリーランス法の適用がないといっているようにみえますが、これには注意が必要です。

問題になるのはまず、ここでいう「業務委託」とは何を意味するのか、です。

わざわざ法文と同じ文言を使って回答しているわけですから、これは、フリーランス法2条3項の「業務委託」の定義、つまり、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

を指していると読むのが自然ですが、そうするとおかしなことになります。

というのは、2条3項では、「業務委託」というのは、「・・・委託すること」なので、委託するという発注者の行為のほうを指していて、受託業務をおこなうフリーランスの行為ではない、というように読むしかないからです。

実際、あたりまえですが、フリーランス法では、「業務委託」という用語は、発注者の行為として使われています。

たとえば3条1項本文では、

「第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。」

とされていて、「業務委託」は業務委託授業者(発注者)の行為(発注行為)であって、フリーランスの行為でないことがあきらかです。

ですがそうすると、上記パブコメ回答の、

「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われている」

というのは、日本企業が発注者であるかぎりは必然的に発注行為の全部が国内でおこなわれていることになるわけで、そうすると、発注者が日本から発注するかぎり常にフリーランス法が適用される、ということになってしまいます。

しかし、それはどう考えてもおかしいと思います。

(半面、冒頭でふれた公取委の回答は、パブコメに沿っているとはいえます。)

フリーランス法も、少なくとも公取委パートについては競争法のはしくれです。

そして、競争法の世界では、競争制限効果がおよぶ国の競争法が適用されるという、効果理論が一般的です。

これは、フリーランス法(の公取パート)の一般法である優越的地位の濫用であれば、被害を受ける取引相手方の所在地をさす、というのが一般的な考え方だと思います。

発注行為が日本でおこなわれただけで競争法やそのはしくれであるフリーランス法(の公取委パート)が適用されるというのは、競争法の常識に反します。

もしこんな解釈がされると、

「海外のフリーランスに発注するときには、従業員が海外(※フリーランスのいる国にかぎらない)に出張したときとかのついでに、海外からメールや電話で発注するようにしてくださいね。」

という、わけのわからないアドバイスをしないといけないことになってしまいます。

また、フリーランス法の目的規定からしても、海外のフリーランスに海外での業務を依頼するときにはフリーランス法は適用されないと考えるべきです。

つまり、フリーランス法1条の目的規定では、

「この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

と規定されています。

このことからすると、フリーランス法はわが国のフリーランスを保護することが目的であることがあきらかです。

とすれば、同法がおよぶのはフリーランスが日本国内で商品役務の提供をおこなう場合であると解するのが当然です。

また、パブコメの別の個所(p203、3-5-1)にも引用されている政府国会答弁(第211 回国会参議院本会議第17 号2023 年4 月21日会議録15 番)では、「国務大臣(後藤茂之君)」の答弁として、

「越境取引への本法案の適用関係についてお尋ねがありました。

国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法案が適用されると考えています。

具体的には、日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合や、

海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合や、

業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合

には、本法案を適用されると考えています。」

と答弁されています。

このうち一般論の、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」というのは、公取委のパブコメ回答1-1-12と同じなのですが、その具体例としている、

①「日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合」

②「海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合」

③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」

というのは、およそ冒頭で述べた公取委の現在の考え方(発注行為が国内であればフリーランス法が適用される)とは異なるものです。

まず、この国会答弁で、「その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合」の「業務委託」というのは、かならずしもフリーランス法(当時は法案)の2条3項の意味で使っていると読む必要はありません。

あくまで口頭での答弁なので、常識的な意味で、委託された業務の遂行もふくめ、「業務委託」という言葉を使っていても、何もおかしくはありません。

というわけで、重要なのは具体例のほうですが、今問題にしている海外フリーランスに海外で仕事をしてもらうケースについて参照すべきは、

③「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」

でしょう。

つまり、フリーランスの「事業活動」が国内でおこなわれているかどうかを基準にする、ということです。

これによれば、国外でフリーランスの事業活動がおこなわれる場合には、フリーランス法は及ばないというのが政府答弁の立場だということはあきらかでしょう。

(もちろん、「業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合」というのは例示ですから、①~③以外にも適用される場合はありえますが、挙げられている具体例の正反対の場合に適用されるということはさすがにありえないでしょう。)

そうすると、公取委の立場は政府答弁にも違反することになります。

さらに問題は、パブコメ回答1-1-12では、

「国又は地域をまたがる業務委託については、その業務委託の全部又は一部が日本国内で行われていると判断される場合には、本法が適用されます。」

と回答されていて、公取委パート(2章)か厚労省パート(3章)かを区別していません。

いうまでもなくこのパブコメは公取委と厚労省の連名で出されています。

(ちなみに、一般論としては、同じ法律でも、異なる法条では域外適用の範囲が異なることは、当然ありえます。)

そうすると、海外のフリーランスに対しても妊娠や育児介護についての配慮が必要だ、という、わけのわからない解釈になってしまいかねません。

ちなみに、労働基準法(のうちの行政取締法規)については、厚生労働省労働基準局編『労働基準法(下)』1018頁で、

「行政法規として、日本国内にある事業にのみ適用がある(属地主義)ので、(国外にある)商社、銀行等の支店、出張所等であって事業としての実態を備えるものについては、本法の適用はない。」

としており、たとえば日本企業(またはその子会社)が海外で現地採用する従業員については労働基準法の適用はないと解されています。

フリーランスは労働者とちがって使用者に従属しているわけではありませんし(つながりが弱い)、また、より弱い立場にいて保護の必要性の高い労働者ですら海外には保護がおよばないのですから、まがりなりにも独立の事業者であるフリーランスについて海外で保護がおよばないのは当然というべきでしょう。

というわけで、公取委の解釈は間違いであり、海外のフリーランスに発注をして海外で業務をさせる場合には、フリーランス法は適用されないと考えます。

2025年2月20日 (木)

募集情報の時点の表示に関する厚労省フリーランス指針の記載について

フリーランス法12条2項では、

「特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」

と規定されており、これについて、厚労省フリーランス指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」)第2の4(p8)では、

「4 募集情報に係る正確かつ最新の表示の義務

特定業務委託事業者は、特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つに当たっては、次に掲げる措置を講ずる適切に対応しなければならない。

〔中略】

・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」

とされています。

この点について、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-23(133頁)では、

「募集情報を正確かつ最新の内容に保つために講ずべき措置として、「特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」とされているが、情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく、時点の表示を必須義務化することは不適切(不要)ではないか。

また、短時間のCM などのように、時点の表示をわざわざ挿入することが困難である場合も有りうるが、時点の表示をしていなければ正確かつ最新の内容に保つべき義務の違反となるのか。」

との意見に対して、

「募集情報を正確かつ最新の内容に保つために講ずべき措置として挙げているものは、あくまで例示であり、これらの方法によらない措置を講じていただくことも可能です。

例えば、御指摘の短時間のCM のように時点の表示が困難である場合には、時点の表示がなかったことをもって的確表示義務違反となるわけではありませんが、募集情報が更新された場合にはCM の内容を更新する等、指針において例示されている措置以外の方法で、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。」

と回答されています。

どうして「例示」といえるのかというと、上記指針引用部分で「等」とされているから、のようです。

私は、こういう、具体例をあげたうえで「等」を使う場合には、具体例の場合は少なくとも必須であって、でもそれ以外にもあるんだよ、というように読むのだ(論理的にはさておき、少なくとも実務的にはそのように読んでおくべき)と思っていましたが、厚労省はそうではない(具体例も全部、必須ではなく単なる例示だ)というのですね。

しかしながら、そう割り切ってしまうと、上記指針引用部分で省略した、

「・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。

・ 広告等により募集することを他の事業者に委託した場合には、当該事業者に対して当該情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼するとともに、他の事業者が当該情報の提供を終了し、又は当該情報の内容を変更したかどうか確認を行わなければならない。なお、情報の変更等を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が変更等をしなかった場合、特定業務委託事業者は法第12条違反となるものではない。」

というのも全部たんなる例示ということになってしまい、問題ではないでしょうか?

とくに、

「・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。」

というのをやらないと、さすがに、12条2項の「正確かつ最新の内容に保たなければならない」という義務にもろに違反していると思います。

理屈の上ではやはり、パブコメの意見のほうで、

「情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく、時点の表示を必須義務化することは不適切(不要)ではないか。」

というのがまさに正しい、というべきでしょう。

もっと踏み込んでいうならば、「情報の時点と、最新であるかどうかは必ずしも整合するものではなく」というのは生ぬるくて、

「情報の時点〔の表記の有無〕と、最新であるかどうかは無関係である。」

というのが正確でしょう。

12条2項で義務付けられているのは、あくまで、「正確かつ最新の内容に保たなければならない」という義務だけであって、これをどう読んでも、情報の時点を表示しなければならないというようには読めません。

文言的には、「最新の」というのが時点を想起させますが、「最新の内容」であれば、時点の表記は関係がありません。

そもそも厚労省フリーランス指針の根拠はフリーランス法15条にあり、同条では、

「(指針)

第十五条 厚生労働大臣は、前三条に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。」

と規定されています。

ですので、厚労省フリーランス指針は12条「に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要」な内容でなければならないわけです。

ですから、12条に定める事項に「適切に対処するために必要」とはいえない(「適切に対処するため」とは無関係な)情報の時点の明示は、15条の委任の範囲を超えて無効であるというべきでしょう。

それを「例示」といってみても、何の反論にもなっていません。

12条に定める事項に「適切に対処するために必要」とはいえない事項を例示する権限は、15条では厚生労働大臣に与えられていないからです。

さらに細かいことをいうならば、厚労省フリーランス指針の、

「・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。」

の「当該情報の時点」というのが、何を意味するのか、いまひとつあきらかではありません。

まず、常識的に(ぼやーっと)考えると、これは、たとえばインターネットに募集広告を出すのであれば、広告開始日を書け、ということのように見えます。

そすると、募集日から1か月過ぎたら、「当該情報の時点」として表記される「時点」は、すでに1か月前の日付になっていることになりますが、それでもいい、ということだ、と読むほかないように思われます。

でも、1か月も前の日付を表記することと、「最新の内容」であることの間には、何も関係がないように思います。

そこで、別の読み方として、「当該情報の時点」というのを、文字どおり、当該情報がいつの時点の事実を記述する情報なのか、という「時点」である、という読み方が考えられます。

つまり、広告を2月12日に開始したとして、そこに含まれる情報が1月31日時点の事実について述べたものである場合には、「当該情報の時点」は、1月31日ということになります。

しかしながら、そのような「時点」を記載しても、応募者にとっては何の役にも立たず、無意味でしょう。

まとめると、

①募集情報が正確かつ最新の内容に保たれていれば、情報の時点の表示をしなくても適法、

②募集情報が正確かつ最新の内容に保たれていないのであれば、情報の時点の表示をしていても、違法、

③情報の時点の表示が、「募集情報を正確かつ最新の内容に保つため」に役立つこともない(同じ内容の情報が、情報の時点を記載していれば「正確かつ最新の内容」になるが、規定していないと「正確かつ最新の内容」にならない、ということはありえない)、

④よって、情報の時点の表示は無意味で不要(フリーランス法15条の委任の範囲外)、

⑤パブコメ回答も、例示にすぎないという形ではあるが、時点の表示はしなくていいとみとめている、

ということになろうかと思われます。

パブコメで指摘を受けてすなおに誤りを認めればよかったものを、意地を張って原案を維持したのはいかがなものかと思います。

それでもあえて厚労省の立場を弁護すると、情報の時点の表示をさせることで、古い情報であることが一目瞭然となって違反を摘発しやすくなる、ということはあるかもしれません。

あるいは、一目見て古い情報だとわかるので、応募者がだまされなくなる(応募しなくなるか、仮に応募するにしても古い情報であるので条件が変わっているかもしれないと覚悟したうえで応募できる)、ということも、実際問題としてあるのかもしれません。

それで、応募者に無駄な手間をわずらわせることが減らせるのかもしれません。

あるいは、日付が書いてあって古い情報であることが一目でわかると当局が摘発しやすい(?)ということもあるかもしれません。

ですので、情報の時点を記載させること自体は悪いことではないと思うのですが、やはりフリーランス法12条2項には、その根拠はないといわざるをえないと思います。

2025年2月12日 (水)

合意による契約条件変更は虚偽の表示にあたらないとする厚労省フリーランス法指針の疑問

フリーランス法12条1項では、

「(募集情報の的確な表示)

第十二条 特定業務委託事業者は、

新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法

(次項において「広告等」という。)

により、

その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

を提供するときは、

当該情報について

虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。」

と規定されています。

これについて、厚労省フリーランス法指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」)第2の2⑵では、

「⑵ 当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない。」

と規定されています。

しかし、私はこの指針における厚労省の考え方は、おかしいと思います。

これではまるで、事後的に当事者間で合意があったのであれば、さかのぼって虚偽の表示ではなかったことになるといっているようなものです。

表示規制の基本的な考え方からすれば、虚偽の表示に該当するかどうかは表示行為の時点で確定していなければならないはずです。

指針の原文をできるだけ生かしても、せいぜいいえるのは、

「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなったとしても、それだけで常に虚偽の表示に該当することになるわけではない。」

くらいまででしょう。

そもそも、虚偽の表示(不当表示)というのは、事実と表示の不一致です。

この事実と表示の不一致は、表示行為の時点で一義的に定まっているはずです。

(この「表示行為の時点」というのは、表示行為が新聞チラシの配布のような1回きりの行為ならその配布の時点ですし、ウェブサイトへの掲載のような継続的な行為ならその行為の間中です。)

表示行為のあとで起こったことは、この事実と表示の不一致の有無を判断する間接事実に過ぎません。

たとえば、消費者庁の将来価格ガイドラインでは、

「事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、このような消費者の認識と 齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされており、表示の時点で「将来の販売価格で販売する確実な予定」を有していることが、「事実」であると整理されているといえます。

そこで、12条で問題にしている、「業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報」についての「事実」と「表示」が何なのかを考えると、まず、「表示」は、かかる情報の表示であって、一義的にあきらかです。

では、「事実」とは何なのかというと、募集者が募集条件について当該情報記載の内容で募集をすること、ないし募集をする意思があること、でしょう。

将来価格ガイドラインの表現にならえば、「募集者が募集条件について当該情報記載の内容で募集をする確実な予定があること」でしょうか。

いずれにせよ、フリーランスの募集の場合には、広告された条件で採用する意図が募集者にないといけません。

もしそのような募集意図がないのであれば、仮に両者で「合意」があったとしても、虚偽の表示であることはまぬがれないというべきでしょう。

表示規制をあつかう消費者庁や、消費者庁に職員を出向させて消費者庁の実務を間接的に取り仕切る公取委なら、厚労省ガイドラインのような解釈はありえないでしょう。

いかにも表示規制に疎い厚労省が作ったガイドラインという感じで、理論的裏付けがなく場当たり的であり、平成1ケタくらいまでの公取を彷彿とさせます(笑)。

この点、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-8(130頁)では、指針の考え方がやや後退させられていて、

「指針第2 の2⑵は、「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない」と記載する。契約自由の原則からすれば、この規制を正面から否定することはできない。

しかし、当職らのフリーランス・トラブル110 番におけるフリーランスの無料相談の実務経験からすると、募集情報と実際の契約内容が異
なるものであったというケースが散見されるところ、その場合、相談者から「他の特定受託事業者も同じ状況にある」と報告を受けること
がほとんどであり、このような契約が常態化している特定業務委託事業者が存すると考えられる。そうすると、当事者の合意のみを根拠に
「虚偽の表示」から除外することは、不的確な募集情報を防止することにつながらない可能性があると考えられる。

そこで、指針第2 の2⑵に、「ただし、当該特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化していると
認められる場合には、この限りではない。」といった記載を追加すべきである。」

とのコメントに対して、

「「当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しない」とは、

両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合までも本法第12 条違反とするものではないという趣旨です。

御指摘の

「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」

場合は、募集情報が的確に表示されていない可能性が高いと考えられます。」

と回答されていますが、これでも不十分だと思います。

まず、一般規範部分の「通常の契約交渉過程」というのが、何を指すのかよくわかりません。

きっと、とくに大きな意味はないのでしょう。

なので、「両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合までも本法第12 条違反とするものではないという趣旨」だといってみても、中身は空虚です。

それでも、具体例の1つとして、

「「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」場合は、募集情報が的確に表示されていない可能性が高い

といっているところから逆算して厚労省の言わんとするところを忖度すると、たとえば、募集者が望むようなスキルを応募者が持っていないけれど、若干安めの代金なら発注してもいいかな、ということで「契約交渉」をするのであれば、「通常の契約交渉過程」だといっていい、と考えられているのではないかと想像します。

(しかしそれでも、そもそも発注価格を募集情報に記載しなければならないわけではなく、「応談」などの表示も許されるわけですから、価格を表示していながらそれより安くするのは問題があるかもしれません。厚労省フリーランス指針でも「報酬額を表示しながら実際にはその金額よりも低額の報酬を予定している場合」(6頁)というのが、虚偽の表示の例とされています。)

あるいは、発注の募集をかけて、複数の応募があり、その双方を競わせるような交渉をした結果、募集情報と異なる条件になった、というのも、「通常の交渉」にあたるのかもしれません。

たしかに、労働者の募集と違ってフリーランスには個別性が大きい(ものもある)ように思われ、それにもかかわらず募集情報からの変更を一切認めないとすると、たしかに募集者に酷であるようにも思われます。

ですが、募集情報と異なる条件で発注する合理的な理由もないのに条件を変えて変更するのは、はじめから募集情報の条件で発注する意図はなかったのだといわざるをえず、たとえ応募者の「合意」があったとしても、「虚偽の表示」にあたるというべきでしょう。

その意味で、「特定業務委託事業者において募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している」場合というのは、募集情報で発注する意図が募集者になかったことを裏付ける強力な間接事実だと整理すべきでしょう。

しかしそうすると、どうしても、「両当事者が通常の契約交渉過程を経て、実際の契約条件を変更する場合」という一般規範の部分には、何の意味もないといわざるをえないように思われます。

というわけで、募集者の方は、厚労省指針を読んで、「『合意』さえあれば募集情報と異なる条件で発注してもいいんだ」などと誤解しないようにしてください。

2025年2月 7日 (金)

フリーランス法Q&A89番の的確表示義務違反(12条)についての改訂の疑問

令和6年12月18日時点での「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」の89番では、「(12月18日改訂)」としたうえで、

「問89 特定受託事業者を募集するに当たって、募集情報の中で特定の事項を明示しなければ、本法第12条の的確表示義務違反となるのでしょうか。」

との質問に対して、

「答 本法第12条の的確表示義務は、広告等により特定受託事業者の募集を行うに当たって、的確表示の対象となる募集情報の事項を提供する場合に虚偽の表示や誤解を生じさせる表示の禁止等を求めるものです。

今般、インターネット等で犯罪実行者の募集(いわゆる「闇バイト」の募集)が行われる事案が見られ、

その中には、通常の募集情報と誤解を生じさせるような広告等も見受けられる状況が発生しています。

これを踏まえ、募集情報の中でも、①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。〔以下省略〕」

と回答されています。

しかし、私には、12条の条文からどうしてこういう解釈が出てくるのか、何回読んでもわかりません。

まず、フリーランス適正化法12条1項では、

「第十二条 特定業務委託事業者は、

新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法

(次項において「広告等」という。)

により、

その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

提供するときは

当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。」

と規定されており、「政令で定める事項」については特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令2条で、

「第二条 法第十二条第一項の政令で定める事項は、次のとおりとする。

一 業務の内容

二 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項

三 報酬に関する事項

四 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項

五 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」

と規定されています。

ということは、上記政令指定事項に係る情報を提供するときは、虚偽や誤解を招く表示をしてはいけないというだけであり、そもそも政令指定事項に係る情報を提供しないときは、12条に違反するはずがありません。

実際、2024年12月18日改訂前の89番では、

「答 本法第12条の的確表示義務は、広告等により特定受託事業者の募集を行うに当たって、的確表示の対象となる募集情報の事項(※)を提供する場合に虚偽の表示の禁止等を求めるものであり、これらの事項を明示することを求めるものではありません

そのため、対象となる募集情報の事項を明示しないことによって本法違反となるものではありませんが、取引上のトラブル防止の観点から、これらの事項を可能な限り含めて提供することが望まれます。」

と回答されており、これを変更したわけです。

さらに加えるならば、パブコメ回答(「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)3-1-11でも、

「本法第12 条は、広告等により広く特定受託事業者の募集に関する情報を提供する場合に、虚偽の表示を禁止する等の的確表示を求めるものであり、対象となる募集情報のうち特定の事項を表示「しない」ことが、的確表示義務違反となるものではありません。」

と明記されています。

改訂後のQ&A89番回答の理由は上記で引用したとおり、

「今般、インターネット等で犯罪実行者の募集(いわゆる「闇バイト」の募集)が行われる事案が見られ、

その中には、通常の募集情報と誤解を生じさせるような広告等も見受けられる状況が発生しています。

これを踏まえ、募集情報の中でも、①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。〔以下省略〕」

というのも、理屈が理解できません。

「「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして、本法第12条違反となります。」

の「誤解を生じさせる表示」というのは、12条の「誤解を生じさせる表示」のことですが、仮に、

「①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くもの」

が、12条の「誤解を生じさせる表示」にあたるとしても、12条では違反になる前提として、

「その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報

(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)

提供するとき

であることが前提であることは、動かしようがありません。

また、

「①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当する」

といっても、何について誤解を生じさせるのかが大事で、12条では明確に、「当該情報について」誤解を生じさせるものが対象だ、といっています。

そして、ここでの「当該情報」というのは、

「業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)」

であることもあきらかです。

つまり、何について「誤解を生じさせる表示」がいけないのかというと、政令指定事項、つまり、

「一 業務の内容

二 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項

三 報酬に関する事項

四 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項

五 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」

について誤解を生じさせる表示はいけない、ということです。

ところが、改訂後の89番回答では、

通常の募集情報と誤解を生じさせる」

ことを問題にしているようです。

このように、「何について」の部分が、完全にくいちがっています。

闇バイトの広告は、政令指定事項のうちでは、

「業務の内容」(虚偽の表示の例、「物を運ぶバイトです」)

「業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項」(虚偽の表示の例、東京での仕事だと思ったら群馬にいかされた)

「報酬に関する事項」(虚偽の表示の例、「高額バイト」との広告だったのに報酬を払ってもらえなかった)

「特定受託事業者の募集を行う者に関する事項」(闇バイトの首謀者は、通常、素性を偽っていそう。)

について虚偽の表示をしている可能性が濃厚ですので、それらの虚偽の表示を根拠に12条違反に問うのが筋でしょう。

(闇バイトの首謀者がフリーランス法を気にするかはさておき。)

それでもやっぱり、「業務の内容」を何も表示しなければそれだけで12条違反になるという解釈は、12条の文言からは出てこないと思います。

このように、問題とすべきは(条文どおり)政令指定事項について虚偽または誤解を招く表示があったかどうかであって、「通常の募集情報と誤解を生じさせる」かどうかではありません。

そして、条文どおり、「業務の内容」を誤解させるものであったとしても(つまり、たとえば「物を運ぶ仕事です」という表示があったとしても)、かかる「誤解」を避けるためにすべきことは、業務の内容をきちんと(?)、「仕事の内容は闇バイトの受け子です」書くべきということでしょう。

フリーランス法12条で闇バイトが減るとは思いませんが、もし12条で闇バイトを取り締まりたいなら、12条1項各号について虚偽又は誤解を招く表示があったことを根拠にするので十分だと思います。

闇バイトとは何の関係もない発注者に、法律の根拠もなく、よけいな負担を負わせるべきではありません。

さらにいえば、「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(厚労省的確表示等指針)第2の5では、積極的に表示をしなければならないのかという点については、

「5 特定業務委託事業者が、広告等により、募集情報を提供するときに望ましい措置

特定業務委託事業者が広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当事者間の募集情報に関する認識の齟齬ごを可能な限りなくすことで、当該募集情報に適する特定受託事業者が応募しやすくなり、業務委託後の取引上のトラブルを未然に防ぐことができることから、1⑷の「的確表示の対象となる募集情報」に掲げている事項を可能な限り含めて提供することが望ましいこと。あわせて、募集に応じた者に対しても1⑷に掲げている事項を明示するとともに、当該事項を変更する場合には変更内容を明示することが望ましいこと。」

というように、あくまで情報提供が「望ましい」というにとどまるという整理です。

同指針は正式な告示なのに、その内容をホームページのQ&Aで書き換えてしまうなんて、いったいどういう了見なのでしょうか?

この89番は厚労省パートですが、厚労省ではこんな条文無視の解釈がまかりとおっているのですね。

実に恐ろしいことです。

わたしがふだんお仕事でかかわることが多い公取委や消費者庁が、かわいく見えてきます(笑)。

このように、89番回答の(厚労省の)解釈は間違いなので、無視してかまわないと私は思いますが、どうしても厚労省の言うことを聞きたい、厚労省には逆らいたくない、という人は、フリーランスを広告で募集するときには、必ず、

①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、

②特定受託事業者の募集を行う者の住所(所在地)、

③特定受託事業者の募集を行う者の連絡先、

④委託する業務の内容、

⑤委託業務に従事する場所、

⑥業務の報酬

を書くようにすればよろしいかと思います。

なお、上記では筆が滑って、というか、わかりやすさ重視で

「フリーランスを広告で募集するときには」

と書きましたが、

(実際、Q&Aの88番でも「問88 フリーランスの募集を行うに当たって、労働者の募集であるかのような誤解を生じさせる表示をした場合は、本法第12条の的確表示義務の違反となりますか。」というように、12条はフリーランスを募集する場合にだけ適用があるかのように誤解を与えかねない記載もあるのですが)、

厳密には、12条の的確表示義務はフリーランスを狙い撃ちして募集する場合だけではなくて、フリーランスが応募してくることが想定される場合には広く適用されるので、注意してください。

つまり、厚労省的確表示等指針第2の1⑵では、

「⑵ 「業務委託に係る特定受託事業者の募集」とは、特定受託事業者に業務委託をしようとする者が自ら又は他の事業者に委託して、特定受託事業者になろうとする者に対して広告等により広く勧誘することをいうものである。

結果として募集に応じて業務委託をした相手方が特定受託事業者であったか否かにかかわらず、募集情報の提供時点において特定受託事業者に業務委託をすることが想定される募集をいう。」

とされているのです。

なので、およそフリーランスが応募しそうにない募集なら12条の適用はありませんが、ひょっとしたらフリーランスも応募してくるかも、というときには、べつにこちらはフリーラスを積極的に望んでいなくても、12条が適用される、ということです。

ご注意ください。

それを避けたければ、「フリーランス適正化法のフリーランスに該当する個人または法人は応募できません。」とか、注意書きをしておくべきでしょう。

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