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2025年1月

2025年1月20日 (月)

No.1表示実態報告書について

消費者庁が2024年9月26日に公表した「No.1 表示に関する実態調査報告書」についてメモしておきます。

まず、「① 費用に関する説明」(p13)として、

「1フレーズ10 万円~数十万円とするものが多かった。

調査会社の中には、

「1度調査を行えばランニングコストはかからない。」、

「結果が悪ければ費用は発生しない・返金する。」、

「1位が獲れるまで追加費用なしで再調査する。」

等の文句で勧誘を行っているものも見られた。」

と記載されています。

「1位が獲れるまで追加費用なしで再調査する。」 というのはびっくりですね。

いい結果が出るまで何度でもアンケート(たいていウェブなので簡単)するというのは、1位にならなかった調査結果は隠すわけですから、これ自体が不当な調査であることはいうまでもありません。

機能性表示食品で有意差が出るのを保証するという調査サービスが一時非難を浴びていたことがありましたが、同じですね。

科学的に調査しても、100回に5回は効果がなくても効果がありと出てしまうわけですから(それが有意差5%の意味です)、主観的なアンケート調査なんて、何回もやればいくらでも欲しい結果が出るに決まっています。

こういうことをいう調査会社や広告会社には、ぜったいに依頼してはいけません。

次に、No.1表示における比較対象(競合他社)の選定について、

「① 「○○サービス 満足度No.1」等と表示する場合において、○○に属する同種商品等のうち市場における主要なものの一部又は全部を比較
対象に含めずに、調査を行っている場合」(p18)

が問題がある、とされていますが、逆に言うと「主要なもの」だけでいいとしているのは、業種によってはちょっと問題だと思います。

というのは、業種によっては、全国で知られていない優れた商品役務というのがいくらでもあるからです。

たとえば学習塾とか病院とかは、その地域でしかその良さが知られていないという事業者がいくらでもいると思います。

このように「主要なもの」にかぎっていいといえるのは、競争が全国で行われているもの、たとえば保険とか電気通信とか自動車とか、そういったものにかぎるべきだと思います。

同報告書でヒアリング対象になっている、

「学習塾・予備校、買取サービス、家具・寝具、結婚相談所、呉服・着物レンタル、食品、電子機器、ホテル・旅館、保険、ペット関連、不動産関連、美容エステ・サロン」

のうち、「主要なもの」に限定しても問題なさそうなのは、電子機器と保険くらいで、あとはだめでしょう。

あるいは、「主要なもの」の言葉の意味次第だとしても、相当広く、全国に存在する事業者数(売上や市場シェアではなく、事業者数です)の8割程度はカバーしていないといけないんじゃないでしょうか。

続けて、

「② インターネット検索により、単に検索結果で上位表示された同種商品等を比較対象として選定しているだけで、市場における主要な同種商品等の一部又は全部を比較対象に含めないまま、調査を行っている場合」

というのがだめだとされているのは、注意が必要ですね。

私が以前相談を受けた事例でも、競合他社をどのように選んでいるのかと確認したら、グーグル検索で探した、という例が少なからずありましたが、これも危ないわけですね。

これは、同報告書が主に対象にする「主観的評価によるNo.1 表示」だけでなく、「業界初」とかいう客観的No.1表示でも同じです。

というか、「業界初」とうたってもし初でなかったらどんなマイナーな競合でもアウトですから、かぎりなく100%調査すべきでしょう。

また、だめな打消しの例として、

「比較対象企業選定条件:「○○」で検索上位○社(検索エンジン名)」

というのが、

「また、サンプリング調査では、同種商品等について、〔上記の〕ような注記をしている例が見られた。このような注記をしていても、記載位置、文字の大きさ、文字の色等を踏まえ、一般消費者にとって明瞭でない方法により注記がされている場合は、表示内容と調査結果が適切に対応しているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがある。」

と評価されています。

いちおうここでは、「記載位置、文字の大きさ、文字の色等を踏まえ、一般消費者にとって明瞭でない方法により注記がされている場合」にはだめだと書かれていますが、私はこれはどんなに明瞭に打消ししてもだめだと思います。

やっぱり、主要なものは確実に全部ひろうか、それこそどこと比較したのか明示すべきでしょう(比較された側から刺される可能性大ですが)。

これに対して、イメージ調査(「アンケートの回答者に対して、対象商品等や、これと比較する商品等を提供する各事業者のウェブサイトのURLを示し、当該ウェブサイトの閲覧を促した上で、例えば、後記のとおり質問をする調査」p14)の打消し表示について、p19~20に、

「く注記の例>

① サイトイメージ調査

② 本調査はサイトのイメージをもとにアンケートを実施しています。

③本ブランドの利用有無は聴取していません。」

という注記が、

「これらの注記があったとしても、「顧客満足度No.1」という表示内容と調査結果が適切に対応していないことに変わりはなく、景品表
示法上問題となるおそれがある。」

とされ、こちらでは「記載位置、文字の大きさ、文字の色等を踏まえ、一般消費者にとって明瞭でない方法により注記がされている場合」であるかどうかは問題にしていません。

ほんらいこうあるべきでしょう。

次に、不適切な調査方法の例として、

「① 自社に有利になるよう回答を誘導する場合

(例えば、複数の商品等の中から「おすすめしたいJ商品等を選択して回答させる場合に、自社の商品等を、選択肢の最上位に固定する等して、選択されやすくする場合を含む。)」(p21)

というのがあげられており、要注意ですね。

さほど悪意がなくてもいわば条件反射的に自社の商品をアンケート回答欄のトップに書くことは少なくないのではないでしょうか。

やはり一番上の選択肢が選ばれやすくなるというのが社会調査の定説らしいので、これはだめだということですね。

では2番とか3番に置けばよいのかというと、そうするとむしろ不利になってしまいますので、解決策としては、

「自社の商品等を、選択肢の最上位に固定する

のがいけないとされているので、アンケート用紙を複数パターン作って(例えば選択肢が10個なら10とおり作って・・・でなくてもいいですが)、あるいは選択肢の順位がランダムで画面に出るようにして、常に自社商品が1番にくるようにはしない、ということです。

続いて、

「② 自社の商品等が1位になるまで調査を繰り返している、1位になったタイミングで調査を終了するなど、結論ありきの調査が行われている場合」

というのもダメな例としてあげられていますが、当然でしょう。

さらにいえば、仮に一発勝負で1位が出たとしても、2位との間に統計的な有意差がなければ、私はだめだと思います。

大半の回答が自社を1位とする結果が出たら統計的処理を云々する必要もないのでしょうけれど、1位と2位の差が微妙な場合(たとえば1位が10%の支持で、2位が9.9%の支持)は、たまたま1位になった可能性も大いにあります。

なので、有意水準5%で有意差があるかどうかを確認することは必須だと思います。

機能性表示食品に関する事後チェック指針でも、

「・主要アウトカム評価項目における介入群と対照群の群間比較で統計的な有意差(有意水準5%)が認められていない場合」

が不適切だとされています。

この報告書もそうですが、No.1表示についてはどうも消費者庁にこのような統計学的発想がなくって、私は大いに不満です。

次に、「医師の〇%が高評価」みたいな、「高評価%表示」について、

「①調査回答者が医師かどうかを自己申告により確認するだけで、医師であることを客観的に担保できていない場合」

というのは、見ようによってはなかなか厳しいですね。

自分が医師であることを自己申告により確認するだけではだめだとすると、医師国家試験合格証でも出させるのでしょうか?

あるいは、その医師が病院での勤務実態があることをインターネットで調べればいいのでしょうか?

弁護士なら日弁連ホームページの弁護士検索で調べればすぐわかりますが、お医者さんって、どうやるんでしょうね。

続いて、

「②調査対象者である医師の専門分野(専門の診療科など)が、対象商品等を評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合」

というのもだめな例として挙げられていますが、判断に迷うケースもあるでしょうね。

皮膚のサプリなら皮膚科かな、くらいはわかりますが、肥満の場合は、どうなんでしょう?

最後に、

「業務マニュアル等を策定している事業者においては、本報告書を踏まえた具体的なチェックポイントを記載すること(②)等も有益と考えられる」(p25)

と書かれているので、事業者の皆さんは、そのような取り組みをされるとよいと思います。

2025年1月19日 (日)

流通取引ガイドラインの受動的販売の定義について

流通取引慣行ガイドラインでは、「地域外顧客への受動的販売の制限」を、

「事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること」

と定義しています。

(ちなみに、「積極的販売(の制限)」という用語はありませんが、第1部第2の3⑵に、

「[2] 供給業者が総代理店に対し許諾地域(総代理店に一手販売権が付与される地域をいう。以下同じ。)外において契約対象商品を自ら積極的に販売しない義務を課し,又は総代理店が供給業者をして許諾地域外における当該供給業者の直接の取引先が契約対象商品を許諾地域において自ら積極的に販売しないようにさせることは,原則として独占禁止法上問題とはならない。」

という形で出てきます。)

論理的な枝葉末節を端折ると、「受動的販売」は、

顧客からの求めに応じた販売」

である、ということです。

でも、この受動的販売の定義は、雑というか、ちょっと広すぎるように思います。

というのは、たとえば代理店がテリトリー外でも積極的に宣伝広告や営業活動を行なっても、その積極的な営業活動の結果、「顧客からの求め」があり、それに「応じた」のであれば、受動的販売の定義に該当してしまうようにみえるからです。

この点、受動的販売の定義の元ネタであるEUの垂直一括適用免除規則では、

「‘passive sales’ means sales made in response to unsolicited requests from individual customers, including delivery of goods or services to the customer,

without the sale having been initiated by actively targeting the particular customer, customer group or territory,

and including sales resulting from participating in public procurement or responding to private invitations to tender.」

というように、「求め」(requests)は「unsolicited」なものにかぎることが明確に規定されています。

しかもEUでは、垂直制限ガイドライン211~215段落で、passive salesが相当詳しく説明されています。

たとえば212段落では、

「For instance, setting up an online store is a form of passive selling, as it is a means to allow potential customers to reach the seller.

The operation of an online store may have effects that extend beyond the seller’s physical trading area, including by enabling online purchases by customers located in other territories or customer groups.

Nonetheless, such purchases (including the delivery of the products) are passive sales, provided that the seller does not actively target the specific customer or the specific territory or customer group to which the customer belongs.

The same applies where a customer opts to be kept automatically informed by the seller and such information leads to a sale.

Similarly, the use of search engine optimisation, namely tools or techniques intended to improve the visibility or ranking of the online store in search engine results, or offering an app in an app store, are, in principle, means to enable potential customers to reach the seller and are therefore forms of passive selling.」

とかなり具体的に説明されていますし、214段落では、オンラインなどのターゲット広告などについて、

「Pursuant to Article 1(1), point (l) of Regulation (EU) 2022/720, active sales mean sales resulting from actively targeting customers by visits, letters, emails, calls or other means of direct communication.

[1] Targeted advertising or promotions are a form of active selling. In particular, online advertising services often allow the seller to select the territories or customers for which the online advertisement will be displayed. This is the case, for example, for search engine advertising and other online advertising, for instance on websites, app stores, social media, provided that the advertising service allows the advertiser to target customers according to their particular characteristics, including their geographic location or personal profile.

[2] By contrast, where the seller addresses online advertising to customers in its own territory or customer group and it is not possible to prevent such advertising from being seen by customers in other territories or customer groups, this is a form of passive selling. Examples of such general advertising include sponsored content on the website of a local or national newspaper that may be accessed by any visitor to that website, or the use of price comparison services with generic and non-country-specific domain names.

[3] Conversely, if such general advertising is made in languages not commonly used in the seller’s territory or on websites with a top-level domain corresponding to territories outside the seller’s territory, this amounts to active selling into those other territories.」

というように、⑴ターゲット広告はactive selling、⑵テリトリー外の顧客がその広告を見ることを防げないだけでは、passive sales、⑶テリトリー内で通常使われない言語による広告は、その言語が使われるテリトリーへのactive selling、というように具体的に説明されています。

でも、元ネタがそうだからといって日本語の「求めに応じて」にそこまでの意味を読み込むのは無茶だと思います。

そんな解釈が許されるなら、日本のガイドラインを読む人にEUの知識を前提として求めることになり、不親切極まりありません。

さらにいえば、ラベルのほうの「受動的販売」という言葉から、「求めに応じて」を受動的に応じたものにかぎるというのも無茶だと思います。

そういうことは、法律や契約書のドラフティングで、けっしてやってはいけません。ラベルはあくまでラベルであり、ラベルから意味を導いてはいけません。

「私的独占」が「私的」でも「独占」でもないのと同じです。

やっぱり、「求めに応じて」の販売なのかどうかが問題なのではなくて、その「求め」(=注文)を、売主が自分から積極的に取りに行ったのかどうか、なのだというほかなく、その決定的な部分が日本の流通取引慣行ガイドラインでは表現されていないのです。

立案担当者解説(佐久間編著『流通・取引慣行ガイドライン』)p126では、

「厳格な地域制限は他地域への積極的な販売を制限するものであるが、地域外顧客への受動的販売の制限は他地域顧客の求めに応じた、いわば消極的な販売をも制限するものである。」

と説明されていますが、ほんとうは、この、「いわば消極的な」というのをきちんとガイドラインに書き込まないといけないのです。

またEUの定義は、

「without the sale having been initiated by actively targeting the particular customer」

でないといけないので、特定顧客を積極的に狙い撃ちしたことに起因する販売はpassive salesにはふくまれないことが明確です。

でも日本の定義では、テリトリー外に新聞チラシを撒いて、そのチラシを見た消費者が注文して(「求め」て)きた場合、その注文に「応じ」て販売することは、「顧客からの求めに応じた販売」だというのが自然な日本語の意味のように思います。

消費税転嫁法の買いたたきのときも、条文とはぜんぜん違う意味がガイドラインに書かれたりとか、公取委はこういうことを平気でやります。

いま議論されている下請法の改正でも、同じことが起きないことを望みたいと思います。

2025年1月15日 (水)

中小企業庁「知的財産取引に関するガイドライン」の重要性(パートナーシップ構築宣言の落とし穴・その3)

パートナーシップ構築宣言をしている企業は、「知的財産取引に関するガイドライン」(令和6年10月版。以下「知財取引ガイドライン」)を守る必要があります。

というのは、パートナーシップ構築宣言には、

「2. 「振興基準」の遵守

親事業者と下請事業者と の望ましい取引慣行 下請中小企業振興法に基づく「振興基準」 を遵守し 、取引先とのパートナーシップ 構築の妨げとなる 取引慣行や商慣行の是正に積極的に取り組みます。」

という宣言が入っており(続けて、オプションで、「また、下請取引以外の企業間取引についても、取引上の立場に優劣がある企業間での取引の適正化を図るという下記項目の趣旨に留意します。」という文言が入ることもあります)、振興基準には、

「第8 下請取引の機会の創出の促進その他下請中小企業の振興のため必要な事項」

の、

「5 知的財産の保護及び取引の適正化」

の⑴で、

「⑴ 親事業者及び下請事業者は、「知的財産取引の適正化について」(令和3年3月31 日 20210319 中庁第6号)を踏まえ、「知的財産取引に関するガイドライン」に掲げられている「基本的な考え方」に基づき、知的財産権等(知的財産権及び技術上又は営業上の秘密等(ノウハウを含む。)をいう。以下同じ。)に係る取引を行うものとする。その際、知的財産権等の取扱いに係る取引条件の明確化のため、同通達附属資料「契約書ひな形」の活用を推奨する。」

とされているからです。

そして、この知財取引ガイドラインには、親事業者に厳しい(まあ、見ようによっては公平な)内容が多々含まれています。

詳しくは同ガイドラインをご覧いただければと思いますが、たとえば、

「技術情報等の提供を受ける場合には、当該技術情報を作出するにあたり必要となった費用や工数に応じた人件費等を含む相当な対価を支払わなければならない。」(p12。技術情報等の市場価値ではなく、しかも「人件費等」は「含む」なので、最低限であることに注意)

「取引とは直接関係のない又は中小企業が独自に開発した発明その他これに係る独自の改良発明等の出願、登録等について、事前報告や出願等の内容の修正を求めるなど、企業が単独で行うべき出願等に干渉してはならない。」(p14)

「発注者の指示に基づく業務について、第三者との間に生じる知的財産権上の責任や負担を、受注者に例外なく一方的に転嫁し、又はその旨を契約に定めてはならない。」(p15。「発注者の指示に基づく業務」であれば(ふつうは、あり)一方的転嫁ができないのであって、「指示に基づいて…第三者との間に生じる知的財産権上の責任や負担」が生じた場合ではないことに注意)

「発注者が希望する目的物において第三者が有する知的財産権を侵害しないことの保証に係る責任の所在については、発注者、受注者間の明示的な協議の上で決定するものとし、受注者に例外なく一方的に保証責任を転嫁し、又はその旨を契約に定めてはならない。

発注者が希望する目的物の製造等に当たり、第三者が有する知的財産権を使用する必要があるときは、その使用に要する費用その他の負担を受注者に例外なく一方的に転嫁し、又はその旨を契約に定めてはならない。」(p16)

と、いったところです。

全国58,564社(2025年1月15日現在。パートナーシップ構築宣言ポータルサイトより)の宣言社のみなさん、気を付けましょう。

2025年1月10日 (金)

著作者人格権の不行使を求める条項と下請法

下請契約に、下請事業者が著作者人格権を行使しないことを求める条項が規定されることがあります。

このような著作者人格権の不行使を無償で求めることが、不当な経済上の利益の提供要請(下請法4条2項3号)に該当しないかが問題となりますが、該当しないと考えます。

著作者人格権はあくまで人格権であって、経済上の利益ではないからです。

ただ、下請振興法の振興基準第8の5⑶には、

「⑶ 知的財産権の譲渡等の適正化

親事業者は、下請事業者から著作権の譲渡を受ける場合であっても、著作者人格権は一身専属的な権利であり、下請事業者に対し譲渡を求めることはできないことに留意するとともに、十分な協議を行うことなく、著作者人格権の不行使を求めないものとする。」

という規定がありますので、パートナーシップ構築宣言をしている親事業者は、十分に協議を行う必要があります。

(パートナー構築宣言をしている企業は振興基準を守る義務があるため。)

下請法にまったく違反しない(人格権であって財産権ではないため)行為を振興法で保護するのはどうなのか、という政策論はあるかと思いますし、「十分な協議」という、他の下請法の規定や優越的地位の濫用でも用いられる高いハードルの基準を要求するのもいかがなものかという気はします。

田村善之『著作権法概説〔第2版〕』では、

「一口に人格権といっても種々のものがあるのであって、著作者人格権のように特定の著作物に関する人格的な利益が問題となっている場合には、侵害となるべき行為も限定されているのであるから、著作者人格権の不行使契約を有効とする法理を採用しても、当事者にとっては酷とはいえず、契約の相手方に比して弱い立場にある著作者の保護は一般的な公序良俗や意思表示の瑕疵の規定による処理に委ねておけば十分であろう。」(411頁)

と解説されており、まったくそのとおりだと思います。

さらにいえば、下請法の対象になるような著作物は、小説とかではなくて(一部のラノベとかでは発注者がかなり「仕様」をしていして情報成果物にあたりそうなものもあるようですし、小説の映画化や漫画化なども同様の問題がありえますが)、設計図とかコンサルティングレポートとかですから、人格権を保護する必要はいっそう低いと思います。

ですが、振興基準にはっきり書いてある以上、しかたありません。

とくにパートナーシップ構築宣言をしている企業の方々は、気を付けましょう。

2025年1月 7日 (火)

中協法の団体協約について

中協法(中小企業等協同組合法)9条の2では、

「(事業協同組合及び事業協同小組合)
第九条の二

事業協同組合及び事業協同小組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。

六 組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」

と規定されています。

さらに同条12項では、

「12 事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者(小規模の事業者を除く。)は、その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者(これらの組合が会員となつている協同組合連合会の代表者を含む。)が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする。」

とされ、13項では、

「13 第一項第六号の団体協約は、あらかじめ総会の承認を得て、同号の団体協約であることを明記した書面をもつてすることによつて、その効力を生ずる。

とされ、同条14項では、

「14 第一項第六号の団体協約は、直接に組合員に対してその効力を生ずる。」

とされ、15項では、

「15 組合員の締結する契約であつて、その内容が第一項第六号の団体協約に定める基準に違反するものについては、その基準に違反する契約の部分は、その基準によつて契約したものとみなす。」

とされています。

この団体協約というのは、ようするに、組合が、組合員に代わって、組合員と取引先との間の取引条件について、その取引先と交渉して、取引先との間で締結するもので、いわば、労働組合法が使用者との間で労働者の労働条件に付いて定める労働協約(労働組合法14条)みたいなものです。

組合員が取引先と団体協約よりも有利な契約を締結するのは、もちろん自由です(中協法9条の2第15項参照)。

団体協約は、「組合員の経済的地位の改善のためにする」(9条の2第1項6号)ものでなければならないので、あくまで、組合員にとっての最低限の条件を定めるものでなければならず、最上限の条件を定めてはいけません。

この点、農業協同組合法10条1項14号についての解説ですが、明田作『農業協同組合法〔第2版〕』156頁では、

「団体協約は、組合員の経済的地位の改善のために締結するものであるから、その規範的部分に定める基準は、組合員の利益となる事項についてはその最低限を、組合員の負担となる事項についてはその最高限を定めるものでなければならない。」

とされています。

ですので、組合員の取引先が、組合員に対して、「団体協約を締結したのだからそれ以上の条件は出せない」というのは、法律的には根拠がありません。

(単独でそのような交渉をすること自体は、独禁法には違反しませんが。)

また、もし取引先の組合とか事業者団体とかがあって、それと中小企業の協同組合で「団体協約」を締結しても、それは中協法上の団体協約ですらありません。

というのは、中協法上の団体協約は、組合と、組合員の取引先との間で(個別に)締結するものであって、取引先の団体と締結するものではないからです。

さらに、もし中協法上の組合と組合員の取引先の事業者団体とで特定の料率を決めたりすると、取引先の事業者団体は、カルテル(独禁法8条1号)になりかねません。

組合の取引先が、当該取引先の事業者団体に団体協約の交渉窓口を一本化するのも、カルテルにあたる可能性があるでしょう。

この点、くれぐれも勘違いのないようにご注意ください。

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