米国反トラスト法の合併規制について公正取引に寄稿しました。
公正取引12月号(890号)に、
「最近の米国反トラスト法合併規制について」
という論文を寄稿しました。

冒頭のサマリーを引用しておくと、
「大企業による資金提供にも支えられてシカゴ学派が隆盛となった米国では、歴史的に合併規制が過小執行である。近時の巨大ITに対する当局による積極的な反トラスト法の執行は、かつてのAT&T分割のような特定企業を狙った執行とは異質であり、合併規制の過小執行の流れを変える歴史的な転換点となりうるが、これに対して旧来の発想から抜けられない裁判所がブレーキをかけるおそれがある。本稿では、VisaによるPlaid買収、MetaによるWithin Unlimitedの買収、FacebookによるInstagramとWhatsAppの買収解消の各事案の検討を通じて、米国反トラスト法合併規制の現状を俯瞰し、将来の展望を探る。」
という内容です。
私自身、書いていてとても楽しかったので、ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。
論文を執筆するといろいろと調べ物をするもので(あたりまえですが)、論文のなかで触れることができなかった材料で興味深いものが今回も多々ありました。
その中で、本題とは無関係ですがおもしろかったのが、
FILIPPO LANCIERI etc., THE POLITICAL ECONOMY OF THE DECLINE OF ANTITRUST ENFORCEMENT IN THE UNITED STATES, Antitrust Law Journal vol. 85, 442
という論文(これ自体は本稿でも引用しましたが)のp512の、米国パートナー弁護士の収入の推移のグラフでした。
(貼り付けを試みましたがうまくいかないので、上のリンクからご覧ください。)
アメリカの法律事務所のパートナーの平均年収って、200万ドルを超えているんですね。。。
しかもここ30年間の伸びがすごい!
このデータの趣旨としては、政府の役人が、将来民間に高給で再就職することを期待して法執行に手心を加えている可能性があり、反トラスト法の過小執行の一因となっているのではないか、ということで、なかなか考えさせられるものがあります。
拙稿よりもこの論文のほうがはるかに面白いと思いますので(笑)、こちらもぜひご一読ください。
面白いのは、この論文の、同じ巻のすぐあとに、
JONATHAN B. BAKER, NOT A SIMPLE STORY OF BIG BUSINESS CAPTURE: AN ESSAY ON THE POLITICAL ECONOMY OF
ANTITRUST
という批判論文が載っていて、いかにもアメリカっぽいと感心したのですが、こちらのBaker教授の論文はタイトルどおりエッセーレベルで、上記LANCIERI論文にくらべると大したことなかったです。
でもBaker教授の名誉のために申し上げておきますと、
Jonathan B. Baker, The Antitrust Paradigm: Restoring a Competitive Economy
は、(全部は読んでませんが)政治経済学的観点から巨大IT規制を考えるうえでとてもためになり、今回も参考にさせていただきました。
あとは、これも拙稿で引用した、Hovenkamp教授とWu教授の対談の、
Herbert Hovenkamp, Tim Wu & James Keyte, The 2023 Merger Guidelines: An Assessment, Antitrust, Vol. 38, No. 3, Summer 2024
も秀逸でした。
いろいろ面白かったですが、Wu教授ほど巨大ITに強硬姿勢でないHovenkamp教授でも、FacebookとInstagramを一つのプラットフォームに統合するなら巨大なネットワーク効果で効率性が向上するのにそうならないのはどういうことなんだ、と疑問を呈されているのが、すごい目の付け所だなぁと思いました。
たぶん、メタにしてみると、FacebookとInstagramを統合してもメリットが何もなく、かえってユーザー離れを招きかねないので、うまいこと差別化ないしセグメント化を維持していこう、ということなんだと思います。
以前どこかで、Facebookの一番のライバルはInstagramだというような記事を読んだ記憶がありますが、Hovenkamp教授のようなコメントをみると、なるほどそういうことかと納得できるものがあります。
あと、今回は企業結合規制の特集だったので拙稿も企業結合に絞って書きましたが、もしお題が違えばグーグルの分割とかも触れてみたかったところです。
« 下請法のボリュームディスカウントの利益増加要件について | トップページ | Googleへの排除措置命令の問題点 »
「外国独禁法」カテゴリの記事
- ABA Antitrust Spring Meeting 2025に行ってきました。(2025.04.07)
- 米国反トラスト法の合併規制について公正取引に寄稿しました。(2024.12.19)
- 公正取引に米国反トラスト法コンプライアンスについて寄稿しました。(2024.04.21)
- ABA Antitrust Spring Meeting 2024 に行ってきました。(2024.04.15)
« 下請法のボリュームディスカウントの利益増加要件について | トップページ | Googleへの排除措置命令の問題点 »

コメント