下請法上ボリュームディスカウントが代金減額にならないための要件として、下請法テキスト(令和6年11月版)p56では、
「特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)〔リベート対象期間〕における発注予定数量が、
基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)〔基準期間〕において実際に発注した実績を上回るとともに、
それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。」
と解説されています。
以下これを「利益増加要件」といいます。
また議論の単純化のために、さしあたり、発注単価や原材料費(変動費)は、基準期間とリベート対象期間とで同じとしておきます。
さて、この利益増加要件からはいろいろなことが読み取れます。
まず、
「特定の品目の〔リベート対象期間〕・・・における発注予定数量が、
〔基準期間〕・・・において実際に発注した実績を上回るとともに、
それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、〔リベート対象期間〕において得る利益が〔基準期間〕における利益を上回ることとなる必要がある。」
とされており、リベート対象期間の「利益」が基準期間の「利益」よりも大きければよい、とされています。
逆に言うと、あくまで総利益が増えればいいということなので(「利益」といえば、総利益のことに決まっています。)、1個あたりの純利益や、1個あたりの粗利は、減ってもかまわない、ということです。
なので、基準期間よりいくら多く発注しても、それによる増収分を全額リベートで払い戻させることも可能、ということになります。
(あまり極端なことをすると買いたたきになりそうですが、さしあたり慮外に置きます。)
たとえば、基準期間に、製造原価が1個あたり30円の商品を、1個100円で、100個発注したとすると、下請事業者の利益は、7,000円です。
そこで、リベート対象期間に、1個100円で200個注文予定とすると、下請事業者の予定利益は14,000円となるので、200個注文することを条件に払い戻すリベートの額は最大7,000円まで許される、ということになります。
(厳密には、「上回る必要がある」ので、最大6,999円ですが。以下、同様。)
2倍も仕事をしたのに利益が変わらないというのはいかがなものかという気もしますが、下請法テキストがそれでよいといっているのですから、それでよいのだと思います。
ちなみに、このようなリベートにしても一見するほど下請事業者に酷ではないのは、注文が200個を超えればその分は下請事業者の増収になります。
しかも、親事業者がリベート獲得をめざしてがんばって発注したけれど199個しか発注できなかった、という場合には、下請事業者はリベートを払わなくていいので、増えた発注分はまるまる下請事業者の増収になります。
もちろん、200個をこえて発注があった場合は、リベートを払ってもなお、基準期間よりもリベート対象期間のほうが増益になります。
そもそもこのボリュームディスカウントの定めは、代金減額に該当するかどうかという、非常に深刻な場面での議論なので(下請事業者がよろこんで引き受けても違反になる)、これくらいゆるやかにボリュームディスカウントをみとめるほうがむしろ妥当であり、極端な場合は買いたたきで処理すればたりると思われます。
もちろん、そういうボリュームディスカウントに下請事業者が同意してくれるかどうかは別問題です。
次に、以上では固定費は考慮しませんでしたが、もし固定費を考慮するなら、「利益」は減価償却を控除した利益だというのが常識的な解釈でしょう。
そうすると、基準期間には減価償却があったので「利益」が少なめだった、という場合には、リベート対象期間は同じ数量の発注があっても増益になりますから、かかる減価償却がないことによる増益分もボリュームディスカウントに上乗せすることができると考えられます。
たとえば、基準期間が減価償却の最後の年で減価償却額が2,000円だったとして、変動費(材料費等)が1個あたり30円の商品を、1個100円で、100個発注したとすると、下請事業者の利益は、(100ー30)×100ー2,000=5,000円です。
そこで、リベート対象期間(減価償却はすでに終了)に、1個100円で200個注文予定とすると、下請事業者の予定利益は14,000円となるので、200個注文することを条件に払い戻すリベートの額は最大9,000円まで許される、ということになります。(下請事業者の利益は基準期間と同じ5,000円)
次に、下請法テキストでは、
「特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)〔リベート対象期間〕における発注予定数量が、
基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)〔基準期間〕において実際に発注した実績を上回るとともに、
それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。」
とされていて、「新年度」と「前年度」はあくまで例示(「例えば」)なので、基準期間とリベート対象期間が離れていても問題ありません。
たとえば、基準期間が2022年度で、リベート対象期間が2024年度でも、何の問題もありません。
ただ、あんまり古いと「合理的理由」に該当しなくなるかもしれません。
また、期間が1年でなければならない理由もないので、基準期間とリベート対象期間がそれぞれ1か月間、というのでも問題ないと思います。
ですので、たとえば基準期間が2024年1月で、リベート対象期間がその後1か月ずつ来る(同年2月、3月、4月・・・)、というパターンでもかまわないと思います。
ただ、「基準となる過去の対応する一定期間B」とされているので、基準期間とリベート対象期間は同じ長さであるべきでしょう。
たとえば、基準期間を2024年1月として、リベート対象期間を2024年4月~2025年3月の1年間とする(利益は12倍して算定する)のは、認められないと思います。
利益増加要件をみたすために実務上問題になるのは、下請事業者に当該品目からの利益の額を開示してもらわないとボリュームディスカウントの額を決められない、ということでしょう。
でも、ボリュームディスカウントはその条件と金額の定め方しだいではウィン・ウィンになりうることなので、そのあたりはお互い商売人としてうまく交渉するのだと思います。
なお、ここでのボリュームディスカウントの議論は、あくまで、発注金額を事後的に差し引く場合のものです。
ですので、たくさん発注したら発注金額を値引きすることをあらかじめ合意することは、ここでのボリュームディスカウントの話ではなく、何の問題もありません。
(もしかしたら、世の中で「ボリュームディスカウント」と呼ばれるものは、こちらがけっこう多いかもしれません。)
たとえば、1年契約をして、発注価格を、最初の100個までは1個1万円、次の200個までは1個9,000円、次の300個までは1個8,000円・・・というのは、何の問題もありません。