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2024年12月

2024年12月23日 (月)

Googleへの排除措置命令の問題点

今朝(12月23日)の日経朝刊によると、公取委がGoogleに対して不公正な取引方法で排除措置命令を出す方針だそうです。

記事によれば、

「米グーグルの検索サービスを巡り、公正取引委員会が独占禁止法違反(不公正な取引方法)を認定する方針であることが22日、分かった。スマートフォンメーカーに自社を優遇させる契約が不当に競争を制限していると判断した。」

のだそうです。

しかし、これは、マイナミ空港サービス事件と比べてバランスが悪すぎると思います。

マイナミ事件では、大阪の八尾空港という、きわめて小さな市場での排除行為が私的独占と認定されました。

そこでの売り上げは東京都内の平均的なガソリンスタンドに満たない程度の微々たるものでした。

それにもかかわらず、検索市場での独占行為が私的独占にあたらず、不公正な取引方法にとどまるというのは、どう考えてもおかしいと思います。

検索は無料なので売上がなく、私的独占にしても課徴金はかけられないのではないか、という問題はありますが、そういう問題ではないでしょう。

競争の実質的制限が認定できるなら、一般への威嚇効果にかんがみても、私的独占でいくべきでしょう。

むしろ、課徴金がかかると課徴金額で延々と最高裁まで争われるリスクが公取委側にあったことからすると、検索で売上が上がらないことは、私的独占を選択するハードルを大きく下げたはずです。

また、私的独占なのに課徴金ゼロという先例を残せば、売上を基準としない課徴金制度への法改正の、かっこうの立法事実にもなったでしょう。

それに、そもそも検索サービスは無料のサービスではないというのが、公取委の公式見解です。(裁判所がどう判断するかはさておき。)

すなわち、公取委の令和元年12月17日「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」では、

「消費者が,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に,その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然,消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当する。」

とされています。

つまり、消費者はグーグルに、検索の対価として個人情報を提供しているのだ、といっています。

ということは当然、対価としての個人情報を金銭的に評価して、課徴金の基礎となる売上を算定することになるというのが論理的です。

というわけで、無料のサービスだから課徴金がかけられないということは、このガイドラインを前提にするかぎり、ないはずです。

マイクロソフトの抱き合わせ事件も不公正な取引方法でしたが(ただし私的独占に課徴金はない時代でしたが)、これでは、日本の公取委は外国企業に甘いという評判が立ち、ますます外国企業になめられることでしょう。

最近の公取委は、価格転嫁を受けいれない企業の社名を公表したりと内弁慶ぶりがすさまじいのにくらべて、外国企業にはこの体たらくです。

たいへん由々しき事態だと思います。

2024年12月19日 (木)

米国反トラスト法の合併規制について公正取引に寄稿しました。


公正取引12月号(890号)に、

「最近の米国反トラスト法合併規制について」

という論文を寄稿しました。

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冒頭のサマリーを引用しておくと、

「大企業による資金提供にも支えられてシカゴ学派が隆盛となった米国では、歴史的に合併規制が過小執行である。近時の巨大ITに対する当局による積極的な反トラスト法の執行は、かつてのAT&T分割のような特定企業を狙った執行とは異質であり、合併規制の過小執行の流れを変える歴史的な転換点となりうるが、これに対して旧来の発想から抜けられない裁判所がブレーキをかけるおそれがある。本稿では、VisaによるPlaid買収、MetaによるWithin Unlimitedの買収、FacebookによるInstagramWhatsAppの買収解消の各事案の検討を通じて、米国反トラスト法合併規制の現状を俯瞰し、将来の展望を探る。」

という内容です。

私自身、書いていてとても楽しかったので、ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。

論文を執筆するといろいろと調べ物をするもので(あたりまえですが)、論文のなかで触れることができなかった材料で興味深いものが今回も多々ありました。

その中で、本題とは無関係ですがおもしろかったのが、

FILIPPO LANCIERI etc., THE POLITICAL ECONOMY OF THE DECLINE OF ANTITRUST ENFORCEMENT IN THE UNITED STATES, Antitrust Law Journal vol. 85, 442

という論文(これ自体は本稿でも引用しましたが)のp512の、米国パートナー弁護士の収入の推移のグラフでした。

(貼り付けを試みましたがうまくいかないので、上のリンクからご覧ください。)

アメリカの法律事務所のパートナーの平均年収って、200万ドルを超えているんですね。。。

しかもここ30年間の伸びがすごい!

このデータの趣旨としては、政府の役人が、将来民間に高給で再就職することを期待して法執行に手心を加えている可能性があり、反トラスト法の過小執行の一因となっているのではないか、ということで、なかなか考えさせられるものがあります。

拙稿よりもこの論文のほうがはるかに面白いと思いますので(笑)、こちらもぜひご一読ください。

面白いのは、この論文の、同じ巻のすぐあとに、

JONATHAN B. BAKER, NOT A SIMPLE STORY OF BIG BUSINESS CAPTURE: AN ESSAY ON THE POLITICAL ECONOMY OF
ANTITRUST

という批判論文が載っていて、いかにもアメリカっぽいと感心したのですが、こちらのBaker教授の論文はタイトルどおりエッセーレベルで、上記LANCIERI論文にくらべると大したことなかったです。

でもBaker教授の名誉のために申し上げておきますと、

Jonathan B. Baker, The Antitrust Paradigm: Restoring a Competitive Economy

は、(全部は読んでませんが)政治経済学的観点から巨大IT規制を考えるうえでとてもためになり、今回も参考にさせていただきました。

あとは、これも拙稿で引用した、Hovenkamp教授とWu教授の対談の、

Herbert Hovenkamp, Tim Wu & James Keyte, The 2023 Merger Guidelines: An Assessment, Antitrust, Vol. 38, No. 3, Summer 2024

も秀逸でした。

いろいろ面白かったですが、Wu教授ほど巨大ITに強硬姿勢でないHovenkamp教授でも、FacebookとInstagramを一つのプラットフォームに統合するなら巨大なネットワーク効果で効率性が向上するのにそうならないのはどういうことなんだ、と疑問を呈されているのが、すごい目の付け所だなぁと思いました。

たぶん、メタにしてみると、FacebookとInstagramを統合してもメリットが何もなく、かえってユーザー離れを招きかねないので、うまいこと差別化ないしセグメント化を維持していこう、ということなんだと思います。

以前どこかで、Facebookの一番のライバルはInstagramだというような記事を読んだ記憶がありますが、Hovenkamp教授のようなコメントをみると、なるほどそういうことかと納得できるものがあります。

あと、今回は企業結合規制の特集だったので拙稿も企業結合に絞って書きましたが、もしお題が違えばグーグルの分割とかも触れてみたかったところです。

2024年12月 9日 (月)

下請法のボリュームディスカウントの利益増加要件について

下請法上ボリュームディスカウントが代金減額にならないための要件として、下請法テキスト(令和6年11月版)p56では、

「特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)〔リベート対象期間〕における発注予定数量が、

基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)〔基準期間〕において実際に発注した実績を上回るとともに、

それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。」

と解説されています。

以下これを「利益増加要件」といいます。

また議論の単純化のために、さしあたり、発注単価や原材料費(変動費)は、基準期間とリベート対象期間とで同じとしておきます。

さて、この利益増加要件からはいろいろなことが読み取れます。

まず、

「特定の品目の〔リベート対象期間〕・・・における発注予定数量が、

〔基準期間〕・・・において実際に発注した実績を上回るとともに、

それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、〔リベート対象期間〕において得る利益が〔基準期間〕における利益を上回ることとなる必要がある。」

とされており、リベート対象期間の「利益」が基準期間の「利益」よりも大きければよい、とされています。

逆に言うと、あくまで総利益が増えればいいということなので(「利益」といえば、総利益のことに決まっています。)、1個あたりの純利益や、1個あたりの粗利は、減ってもかまわない、ということです。

なので、基準期間よりいくら多く発注しても、それによる増収分を全額リベートで払い戻させることも可能、ということになります。

(あまり極端なことをすると買いたたきになりそうですが、さしあたり慮外に置きます。)

たとえば、基準期間に、製造原価が1個あたり30円の商品を、1個100円で、100個発注したとすると、下請事業者の利益は、7,000円です。

そこで、リベート対象期間に、1個100円で200個注文予定とすると、下請事業者の予定利益は14,000円となるので、200個注文することを条件に払い戻すリベートの額は最大7,000円まで許される、ということになります。

(厳密には、「上回る必要がある」ので、最大6,999円ですが。以下、同様。)

2倍も仕事をしたのに利益が変わらないというのはいかがなものかという気もしますが、下請法テキストがそれでよいといっているのですから、それでよいのだと思います。

ちなみに、このようなリベートにしても一見するほど下請事業者に酷ではないのは、注文が200個を超えればその分は下請事業者の増収になります。

しかも、親事業者がリベート獲得をめざしてがんばって発注したけれど199個しか発注できなかった、という場合には、下請事業者はリベートを払わなくていいので、増えた発注分はまるまる下請事業者の増収になります。

もちろん、200個をこえて発注があった場合は、リベートを払ってもなお、基準期間よりもリベート対象期間のほうが増益になります。

そもそもこのボリュームディスカウントの定めは、代金減額に該当するかどうかという、非常に深刻な場面での議論なので(下請事業者がよろこんで引き受けても違反になる)、これくらいゆるやかにボリュームディスカウントをみとめるほうがむしろ妥当であり、極端な場合は買いたたきで処理すればたりると思われます。

もちろん、そういうボリュームディスカウントに下請事業者が同意してくれるかどうかは別問題です。

次に、以上では固定費は考慮しませんでしたが、もし固定費を考慮するなら、「利益」は減価償却を控除した利益だというのが常識的な解釈でしょう。

そうすると、基準期間には減価償却があったので「利益」が少なめだった、という場合には、リベート対象期間は同じ数量の発注があっても増益になりますから、かかる減価償却がないことによる増益分もボリュームディスカウントに上乗せすることができると考えられます。

たとえば、基準期間が減価償却の最後の年で減価償却額が2,000円だったとして、変動費(材料費等)が1個あたり30円の商品を、1個100円で、100個発注したとすると、下請事業者の利益は、(100ー30)×100ー2,000=5,000円です。

そこで、リベート対象期間(減価償却はすでに終了)に、1個100円で200個注文予定とすると、下請事業者の予定利益は14,000円となるので、200個注文することを条件に払い戻すリベートの額は最大9,000円まで許される、ということになります。(下請事業者の利益は基準期間と同じ5,000円)

次に、下請法テキストでは、

「特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)〔リベート対象期間〕における発注予定数量が、

基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)〔基準期間〕において実際に発注した実績を上回るとともに、

それに伴い、下請事業者が、割戻金を支払ったとしても、期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。」

とされていて、「新年度」と「前年度」はあくまで例示(「例えば」)なので、基準期間とリベート対象期間が離れていても問題ありません。

たとえば、基準期間が2022年度で、リベート対象期間が2024年度でも、何の問題もありません。

ただ、あんまり古いと「合理的理由」に該当しなくなるかもしれません。

また、期間が1年でなければならない理由もないので、基準期間とリベート対象期間がそれぞれ1か月間、というのでも問題ないと思います。

ですので、たとえば基準期間が2024年1月で、リベート対象期間がその後1か月ずつ来る(同年2月、3月、4月・・・)、というパターンでもかまわないと思います。

ただ、「基準となる過去の対応する一定期間B」とされているので、基準期間とリベート対象期間は同じ長さであるべきでしょう。

たとえば、基準期間を2024年1月として、リベート対象期間を2024年4月~2025年3月の1年間とする(利益は12倍して算定する)のは、認められないと思います。

利益増加要件をみたすために実務上問題になるのは、下請事業者に当該品目からの利益の額を開示してもらわないとボリュームディスカウントの額を決められない、ということでしょう。

でも、ボリュームディスカウントはその条件と金額の定め方しだいではウィン・ウィンになりうることなので、そのあたりはお互い商売人としてうまく交渉するのだと思います。

なお、ここでのボリュームディスカウントの議論は、あくまで、発注金額を事後的に差し引く場合のものです。

ですので、たくさん発注したら発注金額を値引きすることをあらかじめ合意することは、ここでのボリュームディスカウントの話ではなく、何の問題もありません。

(もしかしたら、世の中で「ボリュームディスカウント」と呼ばれるものは、こちらがけっこう多いかもしれません。)

たとえば、1年契約をして、発注価格を、最初の100個までは1個1万円、次の200個までは1個9,000円、次の300個までは1個8,000円・・・というのは、何の問題もありません。

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