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2024年8月24日 (土)

差止請求の公表に関する消費者契約法施行規則28条の「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」の解釈について

消費者契約法施行規則28条では、

「(公表する情報)

〔規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 〔①〕判決

確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は

裁判の和解

に当たらない事案であって、

〔②〕当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの

の概要

二 当該判決、裁判外の和解又は前号の事案

に関する改善措置情報の概要」

と規定されています。

ちなみに、元になっている消費者契約法39条1項というのは、

「(判決等に関する情報の公表)

第三十九条 内閣総理大臣は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、適格消費者団体から

第二十三条第四項第四号から第九号まで

〔4号判決言い渡し・仮処分決定告知、5号上訴提起、6号判決仮処分決定確定、7号裁判上の和解、8号その他の訴訟手続終了、9号差止請求の裁判外の和解〕

及び第十一号

〔その他差止請求に関し内閣府令で定める手続に係る行為がされたとき〕

の規定による報告を受けたときは、

インターネットの利用その他適切な方法により、速やかに、差止請求に係る判決

(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は裁判外の和解の概要、当該適格消費者団体の名称及び当該差止請求に係る相手方の氏名又は名称その他内閣府令で定める事項を公表するものとする。」

という規定です。

この消費者契約法28条施行規則は、平成28年に改正されたもので、その前は、

「(公表する情報)

〔改正前規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、当該判決又は裁判外の和解に関する改善措置情報の概要とする。」

という規定でした(もとの法39条1項には変更なし)。

つまり、平成28年改正前は、消費者庁が公表するのは、

①法39条1項で定められていた消費者契約法23条4項4~11号(10号を除く)の事由と、

②規則28条で定められていた改善措置情報

(差止請求に係る相手方から、法第二十三条第四項第四号から第九号まで及び第十一号に規定する行為に関連して当該差止請求に係る相手方の行為の停止若しくは予防又は当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとった旨の連絡を受けた場合におけるその内容及び実施時期に係る情報。規則14条)

の概要

だったのが、平成28年改正後は、

③裁判の和解に当たらない事案であっても相手方との間の協議が調ったと認められるもの(改善措置情報の概要も含む)

も公表の対象になった、ということです。

そこで、「協議が調った」とはどういう意味なのかが問題になりますが、まず、裁判外の和解は平成28年改正前から公表の対象でしたので、この「協議が整った」というのは、条文にもあるとおり、「裁判の和解に当たらない事案」であることが大前提です。

そしてこの点については、規則改正のパブコメ回答4番で、

「適格消費者団体が相手方事業者に対して改善の申入れを行い、事業者が改善を行う場合には、消費者契約法第41条に基づく請求及びこれに基づく改善のみならず、様々な段階、経緯、類型がある。

事案としても様々なケースが想定されるところ、「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」という規定は抽象的であり、どのようなケースが「協議が調った」こととなるのか不明確である。

また、「協議が調ったと」の認定主体が消費者庁であると考えられるところ、規定が抽象的であるため、適格消費者団体の判断と消費者庁との判断とが異なることが想定される。

そのため、適格消費者団体としては、どのようなケースが公表されるのか不明であり事業者との交渉時にも支障が生じる上、事業者にとっても想定外の事態となることも考えられる。

そのため、適格消費者団体が実際に行っている申入れと事業者の対応の状況等を十分に踏まえた上で、どのような場合、どのような内容を公表対象とするのか慎重に検討することが必要である。

今回の改正案についてはその検討を経ていないため、反対せざるを得ない。」

とのコメントが寄せられ、これに対して消費者庁が、

「消費者契約法第39条第1項の規定は、本来適格消費者団体による差止請求権の行使の成果といえるものを幅広く公表することを主眼としており、

適格消費者団体による差止請求権の行使の結果として相手方と協議が調った場合はその概要等を公表すべきと考えられることから、

原案の考え方を維持させていただきます。

なお、協議が調ったものと認められる事案とは、

適格消費者団体と相手方事業者との間で相互の譲歩なしに合意が成立したと認められる事案のことをいい、

相手方事業者との協議が続いている事案や

相手方事業者の対応を待っているような状況にある事案、

今後の差止請求権の行使の可能性は否定しきれないが一旦協議を終了した事案

などは、これには該当しません。」

と回答しています。

このパブコメの議論を理解するポイントは、消費者庁の回答が、裁判外の和解というのは、民法695条で規定されているとおり、

「(和解)

第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。 」

というものだ、という前提に立っていることです。

つまり、「互いに譲歩」しないものは、裁判外の和解に該当しない、ということです。

なので、平成28年改正であらたに公表の対象に加わった、

「判決・・・又は裁判外の和解に当たらない事案であって、当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの」

というのは、「互いに譲歩」なしに合意した事案だ、というわけです。

民法を知らない人にとっては、「和解」というものに、互いに譲歩しないで合意した場合が含まれないというのは奇異に思われるかもしれませんが、民法を勉強したことのある人にとっては常識です(条文に書いてありますので)。

つまり、平成28年改正前は、互いに譲歩して合意した場合は消費者庁の公表の対象になったけれど、互いに譲歩しないで合意した場合(一方が他方の言いぶんを丸呑みした場合)は公表の対象になっていなかったのを、平成28年改正で、そのような丸呑みの場合も公表することになった、ということです。

ところで、この点に関して、

玉置貴広「適格消費者団体からの要請に対する企業側の対応」(NBL1244号・2023年6月号、p56)

では、

「よって、上記〔パブコメ回答4番の〕見解に照らせば、〔適格消費者〕団体と企業が協議した上で、団体と企業の主張を調整した妥協案のような契約条項や表示内容は、『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえないため、公表対象外となろう。」

と解説されていますが、残念ながらそれは間違い、ということになります。

というのは、「『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえない」場合は、もろに裁判外の「和解」の定義にあたりますから、平成28年前からすで公表の対象になっていたからです。

もちろん、平成28年改正後から現在も、公表の対象です。

というわけで、企業のみなさまは、譲歩してもしなくても、協議が整えば消費者庁の公表の対象になる、と理解しておきましょう。

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コメント

記事の内容は正しいと思いますが、差止請求への対応として「妥協案のような契約条項や表示内容」に修正をすることと、裁判外の和解が成立しているかどうかは別問題ではないかと思いました。
差止請求を受けて、譲歩なく修正する場合には、同意と評価されやすく、39条の公表に繋がりやすいということでしょう。
実際、裁判外の和解と評価されて、39条の公表がされている事例は多くないと思います。

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