やり直しに対する初の勧告(大阪シーリング印刷2024年6月19日)
2024年6月19日、大阪シーリング印刷(株)に対して、やり直しで勧告が出ました。
公取委報道発表によると、違反事実は、
「大阪シーリング印刷は、下請事業者が作成したデザインについて、
給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず、
その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として、
令和4年4月から令和5年10月までの間、
下請事業者に対し、
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
合計24,600回のデザインのやり直しを無償でさせることにより、
下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者36名)。」
とのことです。
NHKの報道(2024年6月19日「下請けに無償でやり直し2万4600回で印刷会社に公取委勧告 ⼤阪」)によると、
「公正取引委員会の調査に対して会社側は「これまで、やり直しを無償で依頼することは、事前に説明して了解を得ていたので、問題はないと考えていた」と話しているということです。」
とのことです。
このように、下請法ではやりなおしがありうることを事前に下請事業者との間で合意していても違反になります。
商品の納入を受けた後にクライアントから修正の指示があるというのは、この手のデザインのかかわる商品ではありがちなことと想像されますが、ではこのような場合、発注者である親事業者はどうすればいいのでしょうか。
まず前提として、下請法では、やり直しの要求が一切認められないわけではありません。
というのは、下請法4条2項4号では、
「 2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号・・・に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。〔1~3号省略〕
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。」
とされており、2項に規定されているやり直しは下請事業者の利益を不当に害さなければ違反にならないのです。
(なお、目的物の瑕疵など、下請事業者の責に帰すべき理由があればやりなおしが認められるのは当然です。)
なので、やり直しについての費用を全額発注者が負担するのであれば、基本的には問題ありません。
この問題に関しては、下請法講習テキスト(令和5年11月版)p85に、
「● 放送番組等の情報成果物作成委託における「給付内容の変更」「やり直し」
放送番組等の情報成果物作成委託において、
下請事業者が作成した情報成果物が親事業者の当初委託した内容を満たしているかどうかは、
親事業者の価値判断等により評価される部分があり、
事前に給付を充足する条件を明確に3条書面に記載することが不可能な場合がある。
このような場合において、親事業者が、給付の受領の前後を問わず、
3条書面上は必ずしも明確ではないが下請事業者の給付の内容が当初委託した内容と異なる又は瑕疵等があるとし、
やり直し等をさせることは、
親事業者がやり直し等をさせるに至った経緯等を踏まえ、
やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば、
本法違反とならない。
ただし、親事業者が一方的に負担割合を決定することにより下請事業者の利益を不当に害する場合には、本法違反となる。」
とされています。
これだけみると、3条書面に給付内容の詳細を記載することが困難な場合であっても十分協議して合理的な負担割合を負担する必要がある(逆に言えば、費用負担をしないと責任を免れない)かのようにも読めますが、この点に関してはさらに、同テキストp87のQ104があり、
「Q:親事業者は、放送番組の制作を委託するに当たり、給付を充足する条件を明確に書面に記載することが不可能なため、
下請事業者と十分な協議をした上で、当初から何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している。
この場合においても、3条書面に記載していない事項を充足させるためのやり直しについて、別途、その費用を負担せずにやり直しさせることは問題ないか。」
との質問に対して、
「A:当初から下請事業者と十分な協議の上で何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している場合に、
当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ないが、
それを理由に3条書面に記載されていない事項について無制限にやり直しをさせることができるものではないので、
下請代金の額の設定時に想定していないような費用が発生するやり直しの場合には、
下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、
それを負担する必要がある。」
と回答されています。
つまり、テキスト本文(p86)の、
「やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば、」
というのは、発注者も常に何らかの負担をしなければならないという意味ではなくて、十分協議をした結果下請事業者が全部の割合を負担する(追加支払はなし)ことも認める、という趣旨であると考えられます。
(同じテキストなのですから、記述は統一してほしいものです。)
結局、やり直し(3条書面に記載されていないもの)が認められるためには、
①給付の条件を3条書面に明確に記載することが不可能であること、
②やり直しを見込んだ価格を設定すること、
③当初想定を超えるやり直しの場合は、十分協議して合理的な負担割合を決定すること(想定の範囲内なら追加支払不要)、
という3つの要件を満たすことが必要、ということになります。
シールのデザインは①を満たしそうですから、あとは、それを見込んだ価格を設定すれば(②)、当初想定を超えるようなやり直しでない限り、当初価格のままでやり直しをさせても構わない(追加支払は不要)、ということになるのでしょう。
上記のNHK報道に対する大阪シーリング印刷のコメントからすると、②も③も満たした可能性があるような気もしますが、勧告が出たのですから、公取委は満たさないと判断したのでしょう。
(その判断が正しかったのかどうかは、報道発表からは読み取れません。)
逆に言うと、やり直しが通常の業務の過程で当然のように行われているビジネス(本件でも、やり直しが24,600回あったと認定されており、やり直しが常態化していたことがうかがえますが、数が多いから悪いというものでもないでしょう)では①~③を満たす可能性が高く、それが、これまでやり直しの勧告がなかった理由ではないかと推測します。
また、下請法運用基準第4-2では、支払遅延に関する解説ではありますが、
「⑶ また、情報成果物作成委託においては、親事業者が作成の過程で、委託内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために、情報成果物を一時的に自己の支配下に置くことがある。
親事業者が情報成果物を支配下に置いた時点では、当該情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、
あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、
親事業者が支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、
当該情報成果物を支配下に置いたとしても直ちに「受領」したものとは取り扱わず、
支配下に置いた日を「支払期日」の起算日とはしない。
ただし、3条書面に明記された納期日において、親事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該期日に給付を受領したものとして、「支払期日」の起算日とする。」
と解説されています。
そして、やり直しというのはいったん受領した物についてさせることなので(受領前は給付内容の変更)、「受領」が成立しない以上、やり直しも成立しないと考えられます。
また、そのような運用がテレビ業界で行われている実態について、
上原伸一「テレビ関係における情報成果物作成委託を中心とした下請法対応 スタート事情から現状と問題まで(特集 下請法の今日的課題)」公正取引689号18頁
では、
「心配された不当な給付内容の変更・やり直しの禁止であるが、既に述べてきたように、この業界では制作をしながら内容を練り上げていくという作業が行われているので、制作作業中の「手直し」や「変更」は日常的なものである。
給付内容にある企画内容の範囲で、支払金額に影響を与えない「手直し」等については長い歴史の中で培われてきたやり方であり、少なくとも表立って問題にはなっていない。
下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準においても、第4-2-⑶で、給付内容確認のための情報成果物を一時的に自己の支配下に入れることは、下請事業者との間で事前の合意がある限りは、「受領」したものとは扱わないことが認められており、
この規定の趣旨を柔軟に生かすことにより現場のトラブルを回避している。」
と解説されており参考になります。
ですので、このような一時的に支配下に置く合意をすることも検討に値するでしょう。
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