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2024年7月

2024年7月29日 (月)

ジュリスト1600号に事例速報を寄稿しました。

ジュリスト1600号の事例速報に、

「電力会社とガス会社の間のガス供給等に関するカルテルの事例(公取委令和6・3・4発表)」

という記事を書きました。

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執筆依頼を受けたときは、警告と排除措置命令の両方が出ていて、両者の限界を分析してみたらおもしろいかなぁというくらいに思っていたのですが、読んでみると排除措置命令の市場画定が興味深く、なかなかおもしろい事件だったと思います。

詳しくは記事を読んで頂ければと思いますが(といっても、事例速報なのであまり詳しくは書けていないのですが。笑)、似たような市場画定をしたニチイ学館に対する20221017日排除措置命令と比べるとおもしろいと思います。

つまり、似たような市場画定(=個別案件を束ねて1つの市場にしている)なのに、ニチイ学館に比べて本件は狭い市場になっています。

これは、事実関係が両事件で異なっただけなのかもしれませんし(ただ、いろいろ想像してみましたが、その可能性は低いと考えています)、ひょっとしたら、本件の代理人の先生がうまくやった、ということなのかもしれいと思いました。

ご一読頂けると幸いです。

なお、本号の特集の最初の記事を、当事務所(日比谷総合法律事務所)の代表である多田敏明弁護士が執筆しています。

2024年7月20日 (土)

商品買い取りサービスに関する定義告示運用基準の改正について

商品の買い取りに関する景品提供が景表法の対象となるのかに関する定義告示運用基準3⑷が、2024年4月18日に改正されました。

改正前は、

「⑷ ⾃⼰が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買⼊れ)は、「取引」に含まれない。」

とされていたのに対して、改正後は、

「(4) 自己が一般消費者から物品等を買い取る取引も、

当該取引が、

当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合には、

「自己の供給する役務の取引」に当たる。」

とされました。

この運用基準3⑷の規定は直接的には景品類に関する規定なのですが、表示規制についても同じに解さざるをえないところ、そうすると、商品買い取りサービスについては不当表示規制が適用されないということになり、けっこう大きな問題でした。

私は、商品買い取りサービスは買取という役務を提供しているのだから景表法の対象だと考えるべきだと考えていたのですが、今回運用基準が改正され、おおむねそのような方向になりました。

ですが、この運用基準は、すべての商品買い取りサービスが景表法の対象となるとまで割り切っているわけではなく、

「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合」

に限定しています。

しかし、理論的にも実質的にも、これはいかにも中途半端な感じがします。

私は、消費者から商品を買い取るサービスはすべて、

「物品等を金銭と引き換えるという役務

とみて、景表法の対象にできると考えています。

景表法の条文で「自己の供給する商品又は役務」とされているのは、「供給を受ける」ことを排除するという明確な意図に基づいて立法されたというよりは、なんとなく語呂がいいから、あるいは、物を売る場合しか頭に浮かばなかったから、そうなっているだけというだけで深い意味はないと思います。

こう言っては身も蓋もありませんが、昭和30年代の法律なんて、そんなもんだと思います。

なので、買取サービスを対象にしても必ずしも文言には反しないと思います。

実質的にも、消費者を相手にした買取業であるかぎり、保護する必要があるのは明らかです。

それに、「査定」を事業者が消費者に提供する役務だというのは、理屈のうえでも無理があります。

というのは、ここでの「役務」は、「役務の取引」を構成する概念であり、当該役務に対して消費者が対価を支払うことが当然に前提とされていると解するのが自然あるいは当然です。

でも、買取サービスにおいて、「査定」というサービスに対価を支払っているという認識の一般消費者はまずいないでしょうし、買取業者側も「査定」というサービスを提供しているとは考えていないと思います。

あくまで、消費者は、「買い取ってくれるというサービス」と認識しているのであって、「査定してくれるサービス」とは認識していない、ということです。

買取業者も、査定をサービスとして提供しているという認識ではなく、不良品をつかまされて自分が損をしないために査定しているのでしょう。

このように査定がサービスではないと考えることは、買取サービスにおいて通常、「査定料」が明示的に買取代金から控除されることがないこや、査定の結果買取金額で折り合いが付かず買取が成立しない場合でも査定料だけ別途請求されるわけではないこととも整合的です。

このように考えると、買取サービスではお金は消費者から買取業者に支払われるので、課徴金を課すことができませんが、それは景表法8条で課徴金が「売上額」にかかることになっているせいなので、しかたないでしょう。

(ちなみに、独禁法7条の2第1項では、2号で「購入額」にも課徴金がかかるようになっています。)

それを、「査定料」相当額を算定してそれを基準に課徴金を課すというような無理な解釈をする必要もないでしょう。

いずれにせよ、消費者からの買取サービスで何ら査定もしないものはほぼないでしょうから、改正定義告示運用基準のもとでは、おおむねすべての買取サービスに景表法が適用されると考えるべきでしょう。

2024年7月 3日 (水)

フリーランス適正化法の適用範囲の広さについて

今年11月に施行されるフリーランス適正化法は、個人事業者とのほぼすべての取引に適用され、その適用範囲が同法が下敷きにしている下請法よりもずっと広いので、注意が必要です。

すなわち、同法で保護の対象となっている「特定業務受託者」(2条1項)は、

「この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの

二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる
者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの」

ということで、要するに、従業員のいない個人事業主と、従業員のいない法人事業者です。

そして、保護される取引である「業務委託」(2条3項)は、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

と定義されていて、こちらもたいへん広いです。

2条3項2号(役務提供委託)の定義で、あえて、

「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」

とあえて明記しているのは、下請法で役務提供委託に自己使用役務は(たとえ「業として」行うものであっても)含まないのとは違うのだよ、ということを明確にするためです。

すなわち、下請法で役務提供委託は、

「事業者〔=親事業者〕が

業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること・・・」(下請法2条4項)

と定義されており、対象が「業として行う提供の目的たる役務」の委託、つまり役務の再委託に限られており、親事業者が自分のためにする(=他に提供するのではない)役務の委託は、役務提供委託の定義に入らないわけです。

(ですが、立法技術的、ないしは論理的には、フリーランス適正化2条3号2号の「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」という部分は、まったく余分だと思います。)

なので、例えば個人でやっている会議通訳者に会議通訳を頼むと、フリーランス適正化法の保護の対象になります。

(下請法では、自己使用役務なので、仮に社内に通訳者がいても、対象になりません。)

そのほか、たとえばオフィスのトイレの掃除の委託とかも役務提供委託になるので、ともかく個人事業者が相手方のときはフリーランス適正化法の適用を疑うべきです。

なので、フリーランス適正化法(正式名は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」ですが)、あるいはフリーランス保護法といいますが、「フリーランス」という色の着いた表現を使うより、「個人事業者保護法」とか、「個人事業者等保護法」とするほうが、実態に合っていると思います。

(私の感覚では、ウーバーの配達員は「フリーランス」という名に値しません。)

新たな法律ができたときには思わぬところに適用されることがあるもので、消費税転嫁法ができたときには、駐車場料金とか、自動販売機設置料とか、予想もしなかった事件が相次いで摘発されました。

なので、フリーランス適正化法も、思わぬ事件が出てくるかも知れません。

個人への業務委託で注意しないといけないのが、会社のOBに業務委託する場合です。

私もクライアントから相談を受けていて、会社を辞めて独立開業した人が社内で同じような仕事をしている、というような状況に出くわしたことがあります。

会社のほうも、OBで顔見知りだし、いろいろ気安く頼んだりする、ということもありえます。

もちろん、情報成果物作成委託にあたるようなものはこれまでも下請法の対象でしたから、新たに対応が必要ということはあまりありません(ただし、厚労省パートの、妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(13条)などは別です)。

ですが、これまでたんなる役務の依頼をしていただけの場合には、これまでなかった対応が必要、ということになります(新たな法律ができたのですから、あたりまえですが)。

そのほか、事業者の皆さんは社内で個人事業者に依頼していることがないか、いちどチェックされるのがよいと思います。

2024年7月 2日 (火)

やり直しに対する初の勧告(大阪シーリング印刷2024年6月19日)

2024年6月19日、大阪シーリング印刷(株)に対して、やり直しで勧告が出ました

公取委報道発表によると、違反事実は、

「大阪シーリング印刷は、下請事業者が作成したデザインについて、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず、

その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として、

令和4年4月から令和5年10月までの間、

下請事業者に対し、

下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、

合計24,600回のデザインのやり直しを無償でさせることにより、

下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者36名)。」

とのことです。

NHKの報道(2024年6月19日「下請けに無償でやり直し2万4600回で印刷会社に公取委勧告 ⼤阪」)によると、

「公正取引委員会の調査に対して会社側は「これまで、やり直しを無償で依頼することは、事前に説明して了解を得ていたので、問題はないと考えていた」と話しているということです。」

とのことです。

このように、下請法ではやりなおしがありうることを事前に下請事業者との間で合意していても違反になります。

商品の納入を受けた後にクライアントから修正の指示があるというのは、この手のデザインのかかわる商品ではありがちなことと想像されますが、ではこのような場合、発注者である親事業者はどうすればいいのでしょうか。

まず前提として、下請法では、やり直しの要求が一切認められないわけではありません。

というのは、下請法4条2項4号では、

「 2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号・・・に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。〔1~3号省略〕

四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。」

とされており、2項に規定されているやり直しは下請事業者の利益を不当に害さなければ違反にならないのです。

(なお、目的物の瑕疵など、下請事業者の責に帰すべき理由があればやりなおしが認められるのは当然です。)

なので、やり直しについての費用を全額発注者が負担するのであれば、基本的には問題ありません。

この問題に関しては、下請法講習テキスト(令和5年11月版)p85に、

「●  放送番組等の情報成果物作成委託における「給付内容の変更」「やり直し」

放送番組等の情報成果物作成委託において、

下請事業者が作成した情報成果物が親事業者の当初委託した内容を満たしているかどうかは、

親事業者の価値判断等により評価される部分があり

事前に給付を充足する条件を明確に3条書面に記載することが不可能な場合がある。

このような場合において、親事業者が、給付の受領の前後を問わず、

3条書面上は必ずしも明確ではないが下請事業者の給付の内容が当初委託した内容と異なる又は瑕疵等があるとし、

やり直し等をさせることは、

親事業者がやり直し等をさせるに至った経緯等を踏まえ、

やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば

本法違反とならない。

ただし、親事業者が一方的に負担割合を決定することにより下請事業者の利益を不当に害する場合には、本法違反となる。」

とされています。

これだけみると、3条書面に給付内容の詳細を記載することが困難な場合であっても十分協議して合理的な負担割合を負担する必要がある(逆に言えば、費用負担をしないと責任を免れない)かのようにも読めますが、この点に関してはさらに、同テキストp87のQ104があり、

「Q:親事業者は、放送番組の制作を委託するに当たり、給付を充足する条件を明確に書面に記載することが不可能なため、

下請事業者と十分な協議をした上で、当初から何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している。

この場合においても、3条書面に記載していない事項を充足させるためのやり直しについて、別途、その費用を負担せずにやり直しさせることは問題ないか。」

との質問に対して、

「A:当初から下請事業者と十分な協議の上で何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している場合に、

当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ないが、

それを理由に3条書面に記載されていない事項について無制限にやり直しをさせることができるものではないので、

下請代金の額の設定時に想定していないような費用が発生するやり直しの場合には、

下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、

それを負担する必要がある。」

と回答されています。

つまり、テキスト本文(p86)の、

「やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば、」

というのは、発注者も常に何らかの負担をしなければならないという意味ではなくて、十分協議をした結果下請事業者が全部の割合を負担する(追加支払はなし)ことも認める、という趣旨であると考えられます。

(同じテキストなのですから、記述は統一してほしいものです。)

結局、やり直し(3条書面に記載されていないもの)が認められるためには、

①給付の条件を3条書面に明確に記載することが不可能であること、

②やり直しを見込んだ価格を設定すること、

③当初想定を超えるやり直しの場合は、十分協議して合理的な負担割合を決定すること(想定の範囲内なら追加支払不要)、

という3つの要件を満たすことが必要、ということになります。

シールのデザインは①を満たしそうですから、あとは、それを見込んだ価格を設定すれば(②)、当初想定を超えるようなやり直しでない限り、当初価格のままでやり直しをさせても構わない(追加支払は不要)、ということになるのでしょう。

上記のNHK報道に対する大阪シーリング印刷のコメントからすると、②も③も満たした可能性があるような気もしますが、勧告が出たのですから、公取委は満たさないと判断したのでしょう。

(その判断が正しかったのかどうかは、報道発表からは読み取れません。)

逆に言うと、やり直しが通常の業務の過程で当然のように行われているビジネス(本件でも、やり直しが24,600回あったと認定されており、やり直しが常態化していたことがうかがえますが、数が多いから悪いというものでもないでしょう)では①~③を満たす可能性が高く、それが、これまでやり直しの勧告がなかった理由ではないかと推測します。

また、下請法運用基準第4-2では、支払遅延に関する解説ではありますが、

「⑶ また、情報成果物作成委託においては、親事業者が作成の過程で、委託内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために、情報成果物を一時的に自己の支配下に置くことがある。

親事業者が情報成果物を支配下に置いた時点では、当該情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、

あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、

親事業者が支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、

当該情報成果物を支配下に置いたとしても直ちに「受領」したものとは取り扱わず、

支配下に置いた日を「支払期日」の起算日とはしない。

ただし、3条書面に明記された納期日において、親事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該期日に給付を受領したものとして、「支払期日」の起算日とする。」

と解説されています。

そして、やり直しというのはいったん受領した物についてさせることなので(受領前は給付内容の変更)、「受領」が成立しない以上、やり直しも成立しないと考えられます。

また、そのような運用がテレビ業界で行われている実態について、

上原伸一「テレビ関係における情報成果物作成委託を中心とした下請法対応 スタート事情から現状と問題まで(特集 下請法の今日的課題)」公正取引689号18頁

では、

「心配された不当な給付内容の変更・やり直しの禁止であるが、既に述べてきたように、この業界では制作をしながら内容を練り上げていくという作業が行われているので、制作作業中の「手直し」や「変更」は日常的なものである。

給付内容にある企画内容の範囲で、支払金額に影響を与えない「手直し」等については長い歴史の中で培われてきたやり方であり、少なくとも表立って問題にはなっていない。

下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準においても、第4-2-⑶で、給付内容確認のための情報成果物を一時的に自己の支配下に入れることは、下請事業者との間で事前の合意がある限りは、「受領」したものとは扱わないことが認められており、

この規定の趣旨を柔軟に生かすことにより現場のトラブルを回避している。」

と解説されており参考になります。

ですので、このような一時的に支配下に置く合意をすることも検討に値するでしょう。

2024年7月 1日 (月)

ステマ1号案件について(医療法人社団祐真会)

2024年6月6日、消費者庁はステマをしていた医療法人社団祐真会に対して措置命令を出しました

昨年10月のステマ告示施行から約8か月ですから、まずまず早かったのではないでしょうか。

医療行為という人の生命や健康に関わる役務で違法行為が行われたことが重要視されたのかもしれませんが、ともかく、優良誤認との抱き合わせではない純粋なステマでいきなり命令を出したことに、悪質なステマは見逃さないという消費者庁の本気度を感じます。

以下、措置命令を読んで気づいたことを記しておきます。

まず、本件措置命令では、違反対象役務(「本件役務」)を、「『マチノマ大森内科クリニック』と称する診療所・・・において供給する診療サービスに係る役務」としています。

この事件では、Googleマップに星5つか4つの投稿をしてくれた患者にインフルエンザワクチン接種代金を割り引いていたのですが、違反対象役務はインフルエンザワクチン接種ではなく、診療サービス全般になっています。

これは、割引を受けるための投稿の宣伝対象がインフルエンザワクチン接種だけでなく同診療所での診療サービス全般だったことから、当然であると考えられます。

インフルエンザワクチン接種はあくまでステマの対価として割引提供された役務に過ぎません。

同命令では、

「インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者・・・に対し」

依頼をした、と認定されているので、素朴に考えれば投稿対象はインフルエンザワクチン接種である可能性が高いように思われますが(「インフルワクチン安かった」とか、「インフルワクチン待ち時間なくスムーズに打てた」とか)、ステマの依頼の内容(あるいは内容)が、Googleマップの口コミに、

クリニックの評価として『★★★★★」・・・又は『★★★★』の投稿をすること」

を条件にインフルエンザワクチン接種費用を割り引くということだったので、あくまでクリニックの評価全体が宣伝対象だった、ということなのでしょう。

現在は指定告示違反には課徴金がかからないので違反対象商品役務が何なのかはあまり大きな問題にはなりませんが、もし将来課徴金の対象になったら大きな争点になりそうですし、他の指定告示違反と違ってステマは広告を実際に書くのが第三者なので、宣伝対象があいまいだということもありえそうで、そうするとなおさら大きな争いになりそうです。

それに、命令では、そもそも違反表示とされたのは、別表1と2をみると、「星5」という部分だけです。

つまり、投稿者のコメントの文章の部分は違反表示ではなく、「★★★★★」という表示だけが違反表示だ、ということです。

これは、違反者祐真会の指示が、星5つか4つで割引、というものだったので、その関与した「内容」は星の数だけ、ということなのでしょう。

ここで頭の体操ですが、NHKの報道(2024年6月7日「「☆星4以上のクチコミで割引」はステマ 消費者庁が措置命令」)によると、本件では、違反者が違反行為をするまえは星1つが大半だったのに、違反行為をはじめてから星5つが急増したとされています。

もし、これではいかにもステマっぽいと危惧した違反者が、星1つとか2つとか3つをそれぞれ目標数を定めて個別に患者に依頼して適当にばらけさせたとした場合、星1つとか2つもステマになるでしょうか?

答えは、ステマになります。

ステマは優良誤認表示や有利誤認表示と異なり広告の内容は問わないので、広告主にとって不利な内容もステマに該当するからです。

不利な表示に顧客誘引性があるのか、という疑問が生じるかも知れませんが、ステマであることを見抜かれないために2や3も付けさせている、という実態を全体的に見れば、全体として顧客誘引性はあるといえるでしょう。

同じNHKの報道で興味深いのは、

「NHKがクリニックへのクチコミを調べたところ、「『星5のレビューを投稿すればさらに550円OFF』と案内があったので、(5の評価を)投稿しました」とか、「口コミを登録したらさらに500円引きになりお得でした」といった投稿がみられました。」

という部分です。

措置命令では明らかにされていませんが、もしこれらのコメントを付けた投稿があったとしたら、この部分に限っては違反にはならなかったと思われます。(これが、ステマ発覚の端緒にはなるとしても。)

というのは、ステマガイドライン第3ー2⑴イでは、

「イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。」

が、広告であることが明瞭な例として挙げられているからです。

ここで思いつく問題が、もし違反者が「PR」という表示を付けて投稿するように投稿者に指示していたにもかかわらず投稿者がこれに反して「PR」という表記をしなかったとしたら、ステマになるのでしょうか?

この点、本件措置命令が、「星5つ」という指示をしていたことから、

「同表「表示内容」欄記載〔「星5」〕のとおり投稿している又は投稿していたことから、

祐真会は、本件役務に係る別表1及び別表2 「表示内容」欄記載の表示内容〔「星5」〕の決定に関与しているものであり」

と認定していることからすれば、表示の内容を具体的に指示している(本件では星5か4の投稿をする)場合には、その具体的指示に対応する部分だけが違反表示と認定されているともいえそうです。

そうすると、反対に、広告主が「PR」と表記するように指示していたのに表示行為者がこれに反して(場合によっては、忘れて)「PR」の表示をしなかった場合には、表示行為者の表示は広告主の指示の範囲を超えており、「事業者の表示」にはあたらず、ステマにはならないと考えるべきと思われます。

・・・と、言って早々何なのですが、Googleマップの星の場合、それではまずいような気もします。

というのは、Googleマップの星は集計されて星の数の(おそらく)平均値だけがトップにくるようにできているので、個別のコメント欄に「PR」と書いてあっても、平均の星の数のところには「PR」とは表示されないからです。

というわけで、このあたりは具体的な表示態様に照らして個別に考える、ということになるのでしょう。

次に、違反行為を認定している「別表1」と「別表2」をみると、

別表1では、

表示期間(依頼期間ではありません)が「令和5年12月8日以降」の表示が34件(別添写し1~34)

表示期間が「令和6年5月8日以降」の表示が1件(別添写し35)

つまり命令時点で表示が続いているものが合計35件、

別表2では、

表示期間の始期が「令和5年12月8日」で、終期もそれぞれ認定されている表示が10件(枝番を別と数えれば11件。別添写し36~45)

つまり命令時点で終了しているものが合計10件(または11件)

の違反表示が認定されていることがわかります。

別表1と2を、命令時に続いているものと既に終わっているものに分けたのですね。

次に、ステマに措置命令が出るときに個人的に注目していたのが主文(「1 命令の内容」)の記載でしたが、こちらは案外あっさりしたものでした。

まず、1⑴では、違反表示の取りやめとして、

「(1) 貴法人は、本件役務の取引に関し、次に掲げる表示をしている行為を速やかに取りやめなければならない

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者(以下「第三者」という。)に対し、・・・

Googleマップ・・・内の貴法人が開設し運営するクリニックの・・・プロフィール・・・における・・・口コミ投稿欄・・・のクリニックの評価として「★★★★★」・・・又は「★★★★」の投稿をすること・・・を条件に

当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたこと

によって当該第三者が投稿した、別表・・・記載のとおりの表示」

と命じられていますが、何をしたら「取りやめ」たことになるのかは書かれていません。

理論的には、口コミを消さないと取りやめたことにはならないでしょうから、きっと消費者庁からはそう指示されたのでしょう。

つまり、投稿者に「投稿を消してくれ」と依頼するだけでは足りないということです。

そうすると、投稿をクリニック側で勝手に削除することはできませんから、Googleに削除を請求したのではないかと思われますが、削除請求は昨今数多くの裁判で話題になっていることからもうかがわれるようにけっこう大変そうなので、どうやったのか(するのか)、気になります。

ご存じの方がいたら教えて下さい。

次に、1⑵では、一般消費者への周知として、

「(2) 貴法人は、

貴法人が一般消費者に提供する本件役務に係る表示に関して、

に掲げる事項を

速やかに一般消費者に周知徹底しなければならない。

この周知徹底の方法については、あらかじめ、消費者庁長官の承認を受けなければならない。

ア(ア) 貴法人は、

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

第三者に対し、

本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことによって、

第三者が、別表・・・記載のとおり投稿したことから、

当該投稿による表示は、

貴法人が供給する本件役務の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)であると認められること

(イ)前記(ア)の表示は、

表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、

当該表示は、

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであったこと。」

と命じられています。

これは、原産国告示の措置命令と比べるとなかなか興味深いです。

というのは、原産国告示2項では、

「外国で生産された商品についての次に掲げる表示であって、その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なので、それに合わせて措置命令では、「その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであること」を周知することが命じられます。

これとパラレルに考えると、ステマ告示では、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なわけですから、問題の表示が「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であったこと、つまり、事業者自身の広告であったこと、を周知することでも足りそうなものです。

しかし本件措置命令は、ステマの具体的な手口まで周知するよう命じました。

これは妥当な命令だと思います。

というのは、これくらいきちんと背景事情を開示しないと、消費者には一体何が問題だったのかわけがわからないし、悪質さも伝わらないからです。

ちなみに、本件で、投稿者に頼むなりして、Googleマップへの投稿に「PR」との表記をさせたからといって、過去の表示が広告であると判別困難なものであったことの周知をしなくてよくなるわけではありません。

というのは、(わかりやすさ重視で割り切って説明すると)過去の表示は過去の診療に対する表示であり、現在の表示は現在の診療に対する表示ですから、両者は別物だからです。

あるいは、現在の表示に「PR」とつけたからといって、過去の表示にさかのぼって「PR」と付けたことになるわけではない、とも説明できます。

この点は、原産国告示でも同様です。

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