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2024年6月28日 (金)

フリーランス適正化法の3条通知の時期に関する疑問

今年11月に施行予定のフリーランス適正化法3条1項では、

「(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。〔以下項省略〕」

と規定されています。

そして驚くべきことに、この通知(3条通知)の起算点について、公取委・厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等関す法律の考え方」p8では、

「「業務委託をした場合」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で 、業務委託をすることについて合意した場合をいう。」

とされています。

これがなぜ驚くべきことなのかというと、下請法の3条書面では、発注後直ちに、という意味だと解されているからです。

すなわち、3条書面に関する下請法3条1項本文では、

「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」

と規定されており、この「製造委託等をした」というのは、発注をした、という意味だと解されているからです。

例えば、令和5年11月版下請法テキストp30では、

「Q31: 電話で注文をして、後日3条書面を交付する方法は問題ないか。」

という設問に対して、

「A: 緊急やむを得ない事情により電話で注文内容を伝える場合であっても、電話連絡後直ちに3条書面を交付しなければならない。」

と回答されています。

つまり、下請法の3条書面は注文後直ちに交付しないといけないということです。

そのことは、下請法テキストに載っている3条書面のひな形のタイトルが「注文書」となっていることにも表れています。

ですので、下請法上は、

発注書→発注請書

で契約が成立する場合に、発注請書が出てから3条書面を出すのでは遅いわけです。

これに対して、フリーランス適正化法では、「業務委託をすることについて合意した」場合に直ちに3条通知をすればいいということになるので、3条通知を出すのは発注請書が出てからでいい、ということになります。

細かいことをいえば、民法97条1項では、

「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」

とされているので、契約の成立は請書が発注者に届いた時点ということなので、そこから「直ちに」3条通知をすればよいことになります。

これは、下請法の3条書面とは大違いです。

そもそも下請法の3条書面が、契約の申込みに過ぎない発注書があたかも契約内容を確定するかのような建て付けになっているのが理屈上はおかしいのであり、そのために下請法をやっているといろいろなところで理論的な矛盾が生じたりします。

でも、そこは、「下請法では細かいことは言わないもんだよぉ~」という、おおらかな解釈で実務が回ってきた、という実態があります。

また、下請取引では、発注書から契約内容が変更されたりすることがあまりないので、実用上も大きな不都合がなかった、ということもあると思います。

それが今回、フリーランス適正化法については、はっきりと、「合意」から直ちに、という意味であるとの解釈が示されました。

これはこれで理屈上はすっきりしますし、理論的には正しい方向なので、これでもよいのかなと思うのですが、下請法3条と同じ条文の文言なのにこんなに解釈が変わっていいものか、という疑問もあります。

それに、条文の文言解釈という観点からいえば、下請法の3条書面の解釈の方が、私は正しい(フリーランス適正化法の解釈は間違っている)と思います。

もう一度条文をみると、フリーランス適正化法3条1項では、

「業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。」

とされています。

そして、「業務委託」とは、フ適法2条3項で、

「一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

と定義されており、「委託すること」というのは、作業を頼むこと、であり、これはつまり、委託の申込をすることだと解釈するほうが素直だと思います。

例えば、民法643条(委任)では、

「第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

という用例があり、この場合の「委託し」は、委任契約の申込の意味であることが明らかです。

しかも、フ適法の3条通知が合意後「直ちに」であることは、発注者(特定業務委託事業者)にとってよいことばかりではありません。

というのは、合意後直ちに、という解釈だと、合意成立前には3条通知は出せないからです。

たとえば、食品宅配のウーバー・イーツの場合、案件の依頼がウーバーから配達員のスマホに届いた段階ではまだ「申込」ですから、この案件依頼を3条通知だとみなすことはできません。

そうすると、配達員が案件の「承諾」をクリックしたあとに、ウーバーはあらためて3条通知を出さないといけないことになります。

これはいかにも無駄なように思います。

果たしてこんな不合理なことに、本当になるのでしょうか?

私は、きっとならないと思います。

というのは、条文の解釈としては前述のとおり発注後直ちにと読むのが正しいのと、確かに上記「考え方」には「合意」と明記してありますが、きっと実務では下請法の運用に引きずられて、発注後直ちに(あるいは、発注と同時に)、と解釈されるように思われるからです。

それくらい、実務の慣行というのは大きく、ちょっと指針に「合意」と書いたくらいでは変わらないと思います。

ともあれ、フ適法施行後どのような運用になるのか、注目です。

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